(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086190
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ヒートシール性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20240620BHJP
B29C 35/08 20060101ALI20240620BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240620BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C08J7/00 302
C08J7/00 CFD
B29C35/08
B32B27/36
B32B15/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201200
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤羽根 敬弘
(72)【発明者】
【氏名】湯淺 義之
【テーマコード(参考)】
4F073
4F100
4F203
【Fターム(参考)】
4F073AA01
4F073BA24
4F073BB01
4F073BB08
4F073CA53
4F073HA07
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4F073HA12
4F100AB01
4F100AB01B
4F100AK01
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4F100AK41A
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4F203DB02
4F203DC07
4F203DD06
4F203DE06
4F203DK07
4F203DL01
(57)【要約】
【課題】延伸ポリエステルフィルムを用いてヒートシール性フィルムを製造する製造方法において、ヒートシール前駆部の形成が不良となることなく、その形成処理の処理速度を向上させる。
【解決手段】延伸ポリエステルフィルム表面を有するフィルム体を用いてヒートシール性フィルムを製造する製造方法において、延伸ポリエステルフィルム表面のヒートシール前駆部形成予定領域に赤外域波長のレーザー光を走査して照射し、ヒートシール前駆部を形成する形成工程を有する。形成工程では、レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルにおいて、エネルギー強度が処理閾値であるプロファイル断面の面積が拡大するように、光学的変換手段によってプロファイルを変換する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸ポリエステルフィルム表面を有するフィルム体を用いてヒートシール性フィルムを製造する製造方法において、
延伸ポリエステルフィルム表面のヒートシール前駆部形成予定領域に赤外域波長のレーザー光を走査して照射し、ヒートシール前駆部を形成する形成工程を有し、
前記形成工程では、前記レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルにおいて、エネルギー強度が処理閾値であるプロファイル断面の面積が拡大するように、光学的変換手段によって前記プロファイルを変換する
ことを特徴とするヒートシール性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記処理閾値をIc[W/cm2]、
前記ヒートシール前駆部におけるレーザー処理領域の形成に必要なエネルギー密度をFc[J/cm3]、
前記レーザー光の走査速度をv[cm/sec]とすると、
Ic[W/cm2]=Fc[J/cm3]×v[cm/sec]
であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記形成工程では、前記光学的変換手段によって前記エネルギー強度分布のプロファイルをガウシアン型からフラットトップ型又はガウスリバース型に変換することを特徴とする請求項1に記載のヒートシール性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記光学的変換手段は、前記レーザー光の性質を利用した光学素子であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記光学素子は、ビームシェイパー又はビームホモジナイザーであることを特徴とする請求項4に記載のヒートシール性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記形成工程に先立つ工程として、前記延伸ポリエステルフィルム表面における前記ヒートシール前駆部形成予定領域がその融点未満の昇温状態となるように、前記ヒートシール前駆部形成予定領域を補助加熱する補助加熱工程を有し、
前記形成工程では、前記ヒートシール前駆部形成予定領域がその融点未満の昇温状態に保持されている状態で、前記ヒートシール前駆部形成予定領域に前記レーザー光を走査して照射する
ことを特徴とする請求項1に記載のヒートシール性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記形成工程の後に、前記ヒートシール前駆部を急冷する冷却工程を有することを特徴とする請求項6に記載のヒートシール性フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記フィルム体は、延伸ポリエステルフィルムと金属層との積層体であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記フィルム体は、延伸ポリエステルフィルムの単体であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール性フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記フィルム体における延伸ポリエステルフィルムは、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール性フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記レーザー光は、炭酸ガスレーザー光であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール性フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記形成工程では、前記エネルギー強度分布のプロファイルにおいて、エネルギー強度が処理閾値であるプロファイル断面の面積が拡大し、且つ、前記ヒートシール前駆部におけるレーザー処理領域の走査方向に直交する方向の幅が拡大するように、前記光学的変換手段によって前記プロファイルを変換する
ことを特徴とする請求項1に記載のヒートシール性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシール性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
延伸ポリエステルフィルムは、強度、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、保香性等に優れるため、包装用フィルムとして有用である。一方で、延伸ポリエステルフィルムは、ヒートシール性に乏しいことから、包装用容器の内面フィルムとして利用することが難しかった。
【0003】
このため、延伸ポリエステルフィルムをヒートシール性フィルムとして利用するために、予めその所望の領域にヒートシール性を付与する必要があった。延伸ポリエステルフィルムを用いてヒートシール性フィルムを製造する方法では、一般的に、延伸ポリエステルフィルムのヒートシール領域とする所望の領域に赤外線レーザー光を走査照射し、これにより結晶性を低下させてヒートシール性を付与することが行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒートシール領域における赤外線レーザー光照射側の最表面層であるヒートシール前駆部は、赤外線レーザー光照射により結晶性が低下したレーザー処理領域を有している。従来、このようなヒートシール前駆部を形成する処理では、その処理速度を向上させることが課題となっていた。この処理速度を向上させるためには、赤外線レーザー光の走査速度を向上させることや、赤外線レーザー光の走査間隔を大きくして走査回数を減少させることが考えられる。
【0006】
しかしながら、赤外線レーザー光の走査速度を高めると、単位時間当たりの照射量が減少して実質的にレーザー処理領域の走査方向に直交する幅(処理幅)が小さくなる。走査間隔は、所望のヒートシール強度を得るために、処理幅と未処理幅の割合によって決められることから、結果として、走査速度と走査間隔によっては、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度を効果的に向上させることができない。
【0007】
また、赤外線レーザー光の出力を上げることでレーザー処理領域の処理幅を大きくしようとしても、その最大出力は、レーザー装置によって異なる。その上、赤外線レーザー光の出力を大きくしすぎると、そのエネルギー強度分布のプロファイルが一般的なガウシアン型である場合、レーザー光の中心部分が過剰な処理となり、ヒートシール前駆部の形成が不良となる問題が生じる。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題点を解決することを課題の一例とする。すなわち、本発明の課題の一例は、延伸ポリエステルフィルムを用いてヒートシール性フィルムを製造する製造方法において、ヒートシール前駆部の形成が不良となることなく、その形成処理の処理速度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のヒートシール性フィルムの製造方法は、延伸ポリエステルフィルム表面を有するフィルム体を用いてヒートシール性フィルムを製造する製造方法において、延伸ポリエステルフィルム表面のヒートシール前駆部形成予定領域に赤外域波長のレーザー光を走査して照射し、ヒートシール前駆部を形成する形成工程を有し、前記形成工程では、前記レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルにおいて、エネルギー強度が処理閾値であるプロファイル断面の面積が拡大するように、光学的変換手段によって前記プロファイルを変換することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、延伸ポリエステルフィルムを用いてヒートシール性フィルムを製造する製造方法において、ヒートシール前駆部の形成が不良となることなく、その形成処理の処理速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の製造方法で用いるレーザー装置及びフィルム体の概略図である。
【
図2】(a)はフィルム体の概略斜視図であり、(b)はフィルム体の概略上面図である。
【
図3】ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度を説明するための説明図である。
【
図4】照射する赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルがガウシアン型である場合のレーザー処理幅L1について説明するための説明図である。
【
図5】赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルとして、ガウシアン型のプロファイルPF1とフラットトップ型のプロファイルPF2とを重ねて示す図である。
【
図6】赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルとして、(a)はフラットトップ型のプロファイルPF2を示す図であり、(b)はガウスリバース型のプロファイルPF3を示す図である。
【
図7】走査速度[mm/秒]に対するレーザー処理幅[mm]の測定結果を示す図である。
【
図8】走査速度[cm/秒]に対する処理閾値Ic以上のスポット部分領域の面積[mm
2]の算出結果を示す図である。
【
図9A】ガウシアン型、フラットトップ型の赤外線レーザー光により行ったヒートシール前駆部の形成処理の各フィルム表面温度におけるレーザー処理条件を示す図(表)である。
【
図9B】ガウシアン型、フラットトップ型の赤外線レーザー光により行ったヒートシール前駆部の形成処理の各フィルム表面温度における処理速度[m/分]の算出結果を示す図(表)である。
【
図10A】ガウシアン型、フラットトップ型の赤外線レーザー光により行ったヒートシール前駆部の形成処理の各フィルム表面温度におけるレーザー処理条件を示す図(表)である。
【
図10B】ガウシアン型、フラットトップ型の赤外線レーザー光により行ったヒートシール前駆部の形成処理の各フィルム表面温度における処理速度[m/分]の算出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)に係るヒートシール性フィルムの製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
[概要]
本実施形態の製造方法は、
図1及び
図2に示すように、延伸ポリエステルフィルム表面を有するフィルム体10を用いてヒートシール性フィルム1を製造するものであり、ヒートシール前駆部14を形成する形成工程を有するものである。ヒートシール前駆部14の形成工程では、フィルム体10の延伸ポリエステルフィルム12Bの表面の周縁に位置する、ヒートシール前駆部14を形成するための領域(ヒートシール前駆部形成予定領域)13に、レーザー装置20により赤外域波長のレーザー光(赤外線レーザー光)を走査して照射する(
図1)。これにより、ヒートシール前駆部形成予定領域13は、延伸ポリエステルの結晶性が低下してヒートシール性が発現したレーザー処理領域14aを有するヒートシール前駆部14となる(
図2(a)、(b))。
【0014】
ヒートシール前駆部14の形成工程では、赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルにおいて、エネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面の面積が拡大するように、プロファイル変換素子23(光学的変換手段)によってこのプロファイルを変換する。レーザー処理領域14aは、赤外線レーザー光が照射された領域の内、赤外線レーザー光のエネルギー強度が処理閾値Ic以上となる領域である。このプロファイル変換では、プロファイルにおけるエネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面の面積を拡大させることで、レーザー処理領域14aの走査方向に直交する方向の幅を拡大させる。
【0015】
本実施形態の製造方法は、ヒートシール前駆部14の形成工程に先立つ工程として、必要に応じて、補助加熱工程を付加することができる。この補助加熱工程では、延伸ポリエステルフィルム12Bの表面におけるヒートシール前駆部形成予定領域13がその融点未満の昇温状態に保持されるように、ヒートシール前駆部形成予定領域13を補助加熱する。ヒートシール前駆部14の形成工程では、ヒートシール前駆部形成予定領域13がその融点未満の昇温状態に保持されている状態で、ヒートシール前駆部形成予定領域13に赤外線レーザー光を走査して照射する。
【0016】
本実施形態の製造方法は、必要に応じて、ヒートシール前駆部14の形成工程の後に、ヒートシール前駆部14を急冷する冷却工程を付加することができる。これにより、レーザー処理領域14aの低結晶化が画定する。
【0017】
[フィルム体]
図1に示すように、本実施形態で使用するフィルム体10の一例は、アルミニウム箔11の両面に接着剤(図示せず)を介して延伸ポリエステルフィルム12A、12Bがラミネートされてなる積層体である。接着剤は特に限定されないが、例えばポリウレタン接着剤であってよい。なお、アルミニウム箔11に替えて、他の何れの金属層を用いてもよい。また、フィルム体10は、これに替えて、延伸ポリエステルフィルム12A、12Bが接着剤を介してラミネートされてなる積層体であってもよい。又は、フィルム体10は、延伸ポリエステルフィルム12Bと他の樹脂フィルムとが接着剤を介してラミネートされてなる積層体であってもよい。他の樹脂フィルムとしては、例えば、延伸ナイロンフィルム等の延伸ポリアミド系フィルムや、延伸ポリプロピレン(PP)フィルム等の延伸ポリオレフィン系フィルムが挙げられる。また、フィルム体10は、このような積層体でなく、例えば延伸ポリエステルフィルム12Bの単体であってもよい。
【0018】
本実施形態において、フィルム体10の形状は、一例として略正方形であるが、これに限定されない。フィルム体10の形状は、例えば長方形、円形等、製造されるヒートシール性フィルム1の用途に応じて、何れの形状であってもよい。
【0019】
延伸ポリエステルフィルム12A、12Bは、一例として2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。2軸延伸PETフィルム等の2軸延伸ポリエステルフィルムは公知であり、その製造方法についても公知である。一例としては、2軸延伸ポリエステルフィルムは、例えば、ポリエステルを含む原料からなる未延伸原反フィルムに対して、流れ方向(MD)及び垂直方向(TD)のそれぞれの延伸倍率が2.0~6.0倍となる条件で2軸延伸した後、210~230℃で熱処理することによって得ることができる。2軸延伸方法としては、チューブラー方式やテンター方式による同時2軸延伸又は逐次2軸延伸を採用することができる。
【0020】
なお、延伸ポリエステルフィルム12A、12Bは、これに限定されず、例えば2軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム又は2軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等であってもよい。
【0021】
また、延伸ポリエステルは、その性質を損なわない程度に他の成分、例えば、イソフタル酸、アジピン酸、デカンカルベン酸、コハク酸等の二塩基酸や、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンタンジオール等のジオール類を含有してもよい。
【0022】
延伸ポリエステルの分子量は、特に限定されず、延伸される範囲の分子量であればよく、例えば30,000~70,000、特に40,000~60,000の範囲にあればよい。また、延伸ポリエステルのガラス転移点は、特に限定されないが、延伸成形等の観点から、例えば30~85℃ 、好ましくは65~85℃である。延伸ポリエステルの融点は、特に限定されないが、例えば220~270℃、好ましくは250~270℃である。
【0023】
フィルム体10において、延伸ポリエステルフィルム12A、12Bの厚みは、一例として12μm程度であるが、何れも、特に限定されない。
【0024】
また、フィルム体10において、アルミニウム箔の厚みは、例えば7μm程度であるが、特に限定されない。
【0025】
なお、フィルム体10が、例えば延伸ポリエステルフィルム12Bの単体である場合、その厚みは、特に限定されないが、例えば3~1000μmであってよい。
【0026】
[レーザー装置]
図1に示すレーザー装置20は、フィルム体10に赤外線波長レーザー光を走査して照射するものである。このレーザー装置20は、レーザー発振器21と、走査装置22と、プロファイル変換素子23と、集光レンズ24とを備える。
【0027】
レーザー発振器21は、発振口21Aから赤外域波長のレーザー光(赤外線レーザー光)を発振するレーザー光源である。赤外線レーザー光の波長は、780nm~16μmの内の何れの波長であってよく、例えば9.3μm、10.2μm、又は10.6μmであってよい。レーザー発振器21は、例えば気体の二酸化炭素(CO2ガス)を媒質とする炭酸ガスレーザー(CO2ガスレーザー)を用いることができるが、これに限定されず、YAGレーザー、ファイバーレーザー、半導体レーザー等、他の種類のレーザー光源であってもよい。
【0028】
レーザー発振器21は、赤外線レーザー光を連続照射してもよいが、パルス照射を重ねるようにしてもよい。この場合、各パルスの照射エネルギーは、例えば0.1~1Jが好ましい。あるいは、パルス速度(頻度)は、例えば1,000~500,000パルス/秒が好ましい。このような範囲内であれば、一般的な炭酸ガスレーザー光による安定的かつ充分なエネルギー照射を行うことができる。
【0029】
走査装置22は、一対の可動ミラー22A、22Bを含むガルバノスキャナである。可動ミラー22A、22Bは、一定の可動範囲で回転駆動されることで、赤外線レーザー光を走査する。レーザー発振器21から走査装置22に入射した赤外線レーザー光は、可動ミラー22A、22Bで反射し、プロファイル変換素子23に適正な角度で入射する。
【0030】
プロファイル変換素子23は、レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルを変換する光学的変換手段である。この光学的変換手段は、例えば、光の屈折、反射、散乱等の光学的性質を利用した光学素子であってよい。後述するように、プロファイル変換素子23は、レーザー発振器21から出射された赤外線レーザー光が走査装置22を介して入射されると、この赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルをガウシアン型のプロファイルから例えばフラットトップ型のプロファイルに変換する。プロファイル変換素子23においてプロファイルが変換された赤外線レーザー光は、集光レンズ24に向けて出射される。
【0031】
本実施形態での光学的変換手段は、赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルを変換することができるものであればよいが、例えば、赤外線レーザー光の出力量を上げるもの、複数のレーザー発振器により赤外線レーザー光を同時に照射するものは、光学的変換手段から除かれる。
【0032】
プロファイル変換素子23(光学的変換手段)である光学素子は、例えばビームシェイパー又はビームホモジナイザーであるが、これに限定されず、他の光学素子であってもよい。
【0033】
集光レンズ24は、プロファイル変換素子23によってプロファイル変換後の赤外線レーザー光が入射されると、その赤外線レーザー光をフィルム体10の延伸ポリエステルフィルム12Bの表面に対して所定の照射領域で照射させるレンズであり、公知のものであってよい。
【0034】
レーザー装置20は、予め定められた制御プログラムに基づいて、赤外線レーザー光の出力強度及び走査速度、照射位置及び角度を調整しながら、赤外域波長のレーザー光(赤外線レーザー光)を走査して照射する。レーザー装置20は、フィルム体10における延伸ポリエステルフィルム12Bの表面のヒートシール前駆部形成予定領域13において、このような赤外線レーザー光の走査照射を行うことで、ヒートシール前駆部形成予定領域13にヒートシール前駆部14を形成する。
【0035】
[ヒートシール性フィルム]
ヒートシール性フィルム1は、
図2(a)に示すように、フィルム体10の延伸ポリエステルフィルム12Bの表面にヒートシール前駆部14が形成されている。延伸ポリエステルフィルム12Bの表面におけるヒートシール前駆部14以外の部分は、赤外線レーザー光の未照射領域(未処理領域)15となっている。
【0036】
ヒートシール前駆部14は、レーザー装置20によって赤外線レーザー光が走査照射されることで形成される。このヒートシール前駆部14は、
図2(b)の拡大図に示すように、赤外線レーザー光が走査照射され結晶性が低下したレーザー処理領域14aが走査方向に伸びている。ヒートシール前駆部14におけるレーザー処理領域14a以外の箇所は、結晶性が低下していないレーザー未処理領域14bである。このように、ヒートシール前駆部14は、走査方向に伸びるレーザー処理領域14aがレーザー未処理領域14bを介して隣接し、互いに略平行に並んでいる。レーザー未処理領域14bは、これによってヒートシール強度を調整することができる。
【0037】
なお、ヒートシール前駆部14は、レーザー処理領域14aがこのように間隔を空けて形成されていてもよいが、これに限定されず、レーザー処理領域14aが間隔を空けずに形成されていてもよい。すなわち、ヒートシール前駆部14は、レーザー処理領域14aのみからなりレーザー未処理領域14bを有しないものであってもよい。
【0038】
ヒートシール前駆部14の表面は、赤外線レーザー光の走査軌跡に応じて加熱に起因する凹凸や気泡の生成のために陰影が生じていたり、白化が生じていたりする。そのため、ヒートシール前駆部14が形成されているか否かは、通常、ヒートシール性フィルム1の表面の外観の変化を目視で観察することによって判断することができる。
【0039】
ヒートシール前駆部14は、レーザー処理領域14aが他の領域よりも結晶性が低いことから、これによりヒートシール性を発揮することができる。ヒートシール前駆部14の結晶化度は、ヒートシール性が発揮できる程度に低ければよく、通常、ラマン法による結晶化度が10%以下である。
【0040】
この結晶化度は、ラマン顕微鏡を用いて測定される。ラマン顕微鏡を用いて測定した延伸ポリエステルフィルム12Bの樹脂のラマンシフトスペクトルでは、延伸ポリエステルフィルム12Bが2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの場合、1060cm-1~1105cm-1の範囲に結晶性に依存する成分のピークhが表れる。また、1105cm-1~1160cm-1の範囲に非晶性に依存する成分のピークgが表れる。そのため、結晶性に依存する成分のピークhの高さをH、非晶性に依存する成分のピークgの高さをGとしたとき、HをGで除した値H/Gを結晶化度として算出する。
【0041】
ヒートシール前駆部14の厚みは、ヒートシール性と耐熱性のバランスを考慮すると、延伸ポリエステルフィルム12Bのヒートシール前駆部14が形成されていない部分の厚みの1~95%が好ましく、10~70%がより好ましく、30~50%が特に好ましい。
【0042】
ヒートシール前駆部14の幅は任意に変化させてよいが、通常、1~10mmであることが好ましい。
【0043】
[処理速度の向上]
図2(b)中の拡大図に示すレーザー処理領域14aの幅(レーザー処理幅)L1は、赤外線レーザー光の走査方向に直交する。赤外線レーザー光の走査間隔L2は、レーザー未処理領域14bを介して隣接するレーザー処理領域14aの中心間距離である。
【0044】
ヒートシール前駆部14においては、十分なヒートシール性を確保するために、レーザー処理幅L1は、走査間隔L2の50%以上の大きさを有することが好ましい。走査間隔L2が例えば1mmである場合、レーザー処理幅L1は、0.5mm以上であることが好ましい。
【0045】
この
図2(b)のように、ヒートシール前駆部14がレーザー処理領域14aとレーザー未処理領域14bとからなる場合、レーザー処理幅L1を拡大させると、これに応じて赤外線レーザー光の走査間隔(レーザー処理領域14aの中心間距離)L2も拡大する。例えばレーザー処理幅L1と走査間隔L2との比は、一定値であってもよい。赤外線レーザー光の走査照射において、レーザー処理幅L1と走査間隔L2とが拡大することで、ヒートシール前駆部14の形成に必要な走査回数が減少する。その結果、ヒートシール前駆部14の形成処理(形成工程)の処理速度が向上する。
【0046】
なお、ヒートシール前駆部14が、レーザー未処理領域14bを有さずレーザー処理領域14aのみからなる場合、赤外線レーザー光の走査照射において、レーザー処理幅L1が拡大することで、ヒートシール前駆部14の形成に必要な走査回数が減少する。これにより、ヒートシール前駆部14の形成処理の処理速度が向上する。
【0047】
ここで、ヒートシール前駆部14の形成処理(形成工程)の処理速度について簡単に説明する。例えば
図3(a)に示すように、ヒートシール性フィルム1を工業的に製造する際に使用される搬送フィルム体として、長尺状の搬送フィルム体100を用意する。この搬送フィルム体100は、アルミニウム箔11の両面に接着剤(図示せず)を介して延伸ポリエステルフィルム12A、12Bがラミネートされてなる積層体である(すなわち、上述のフィルム体10の面積を増大させたものである)。搬送フィルム体100は、矢印Mに示す搬送方向に搬送される。この
図3の例では、搬送フィルム体100は、フィルム体10の部分が2つ接触して並列したものを処理単位101としている。
【0048】
この処理単位101において、
フィルム体10の搬送方向の辺の長さを長さk、
処理単位101の処理時間を処理時間tとすると、
図3に示す処理単位101中の2つのヒートシール前駆部形成予定領域13にヒートシール前駆部14を形成する形成処理の処理速度Vは、
V=k/t (式1)
である。
【0049】
このとき、フィルム体10のヒートシール前駆部形成予定領域13の幅を幅j、
赤外線レーザー光の走査速度を走査速度v、
赤外線レーザー光の走査間隔(L2)を走査間隔dとし、
(j/d)以上の最小の整数をX(一辺当たりの走査回数)とすると、
上述の処理単位101の処理時間tは、
t=X×k×4×2/v (式2)
である。
なお、式2においてX×k/vは長さk(一辺)分の処理時間であり、これを4×2倍して処理単位101の処理時間tとなる。
【0050】
式1に示す処理速度Vは、搬送フィルム体100に対して赤外線レーザー光を走査照射する処理(レーザー処理)を行う場合に、赤外線レーザー光の照射位置がずれることなく永続的な処理が可能となる搬送速度の最大値(最大搬送速度)である。つまり、この処理速度Vは、
図3(b)に示すように、搬送フィルム体100が矢印Mに示す搬送方向に長さk分だけ移動する間に、処理単位101のレーザー処理を行うことで、赤外線レーザー光の照射位置がずれることなく永続的な処理が行える、と仮定して算出した速度である。
【0051】
この
図3(a)、(b)の例では、矢印Mに示す搬送方向に処理単位101が長さk分だけ移動する間に、ヒートシール前駆部形成予定領域13にヒートシール前駆部14が形成されたヒートシール性フィルム1が2つ形成される。
【0052】
次に、照射する赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルについて述べる。仮に、ヒートシール前駆部形成予定領域13に照射される赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルが、
図4に示すような一般的なガウシアン型のプロファイルPF1であるとする。プロファイルPF1は、実際には3次元形状を有しており、照射する赤外線レーザー光の略円形のレーザースポット(径D、面積W)に相当するプロファイル断面として、略円形のプロファイル断面PAを有する。このプロファイル断面PAは、ヒートシール前駆部形成予定領域13におけるこのレーザースポットの照射領域SAに相当する。そのため、照射領域SAも、プロファイル断面PAと同じく、径D及び面積Wの略円形である。
【0053】
また、プロファイルPF1は、照射する赤外線レーザー光のレーザースポットにおけるより中心部分であって処理閾値Ic以上のエネルギー強度を有する部分(径D1、面積W1の略円形)に相当するプロファイル断面PA1を有する。このプロファイル断面PA1は、プロファイルPF1におけるエネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面であり、径D1及び面積W1の略円形である。このプロファイル断面PA1は、ヒートシール前駆部形成予定領域13における照射領域SAの内、赤外線レーザー光のエネルギー強度が処理閾値Ic以上となる処理領域SA1に相当する。そのため、処理領域SA1も、プロファイル断面PA1と同じく径D1及び面積W1の略円形である。
【0054】
赤外線レーザー光の走査照射では、ヒートシール前駆部形成予定領域13において、赤外線レーザー光が照射された領域である照射領域SA(径D、面積W)が矢印Nに示す走査方向に連続的に移動していく。レーザー処理領域14aは、赤外線レーザー光のエネルギー強度が処理閾値Ic以上となる処理領域SA1が矢印Nに示す走査方向に連続的に形成されてなる領域である。そのため、レーザー処理領域14aのこの走査方向に直交する方向の幅(レーザー処理幅)L1は、処理領域SA1の径D1に相当する(L1=D1)。
【0055】
エネルギー強度の処理閾値Icは、レーザー処理領域14aを有するヒートシール前駆部14の形成処理の処理条件に応じて定められ、レーザー処理領域14aの形成に必要なエネルギー強度の最小値である。
【0056】
ここで、赤外線レーザー光のエネルギー強度の処理閾値をIc[W/cm2]、
レーザー処理領域14aの形成に必要なエネルギー密度をFc[J/cm3]、
赤外線レーザー光の走査速度をv[cm/sec]とすると、
Ic[W/cm2]=Fc[J/cm3]×v[cm/sec] (式3)
である。
【0057】
例えば、処理閾値Ic[W/cm2]は、次のようにして設定することができる。2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに対し、レーザー装置20における条件を変更して赤外線レーザー光を照射する。そして、2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム表面におけるレーザー処理幅L1を偏光顕微鏡で測定する。レーザー装置20の条件毎に算出されるエネルギー密度分布F(r)(rはビーム半径)とレーザー処理幅L1の実測値とから、レーザー処理領域14aの形成に必要なエネルギー密度Fcを設定する(例えば、Fc=3J/cm3に設定される)。このように設定されたエネルギー密度Fcと走査速度vとを用いて、上記の式3により処理閾値Icが算出される。
【0058】
レーザー装置20は、プロファイル変換素子23によって、ヒートシール前駆部14の形成処理の処理速度を向上させるための処理を行う。具体的に、レーザー装置20は、プロファイル変換素子23によって、プロファイルPF1におけるエネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面PA1の面積W1を拡大させるように、ガウシアン型のプロファイルPF1を例えばフラットトップ型のプロファイルに変換する。この際、レーザー装置20は、プロファイル変換素子23によって、ヒートシール前駆部形成予定領域13において、赤外線レーザー光のエネルギー強度が処理閾値Ic以上となるレーザー処理領域14aのレーザー処理幅L1が拡大するようにプロファイル断面PA1の面積W1を拡大させる。
【0059】
プロファイル変換素子23は、例えば
図5に示すように、照射する赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルをガウシアン型のプロファイルPF1から、フラットトップ型のプロファイルPF2に変換する。この際、赤外線レーザー光のエネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面の面積が、ガウシアン型のプロファイル断面PF1におけるプロファイル断面PA1の面積W1(径D1)から、フラットトップ型のプロファイル断面PF2におけるプロファイル断面PA2の面積W1’(径D1’)にまで拡大する。
【0060】
これにより、ヒートシール前駆部形成予定領域13では、赤外線レーザー光のエネルギー強度が処理閾値Ic以上となる処理領域が、処理領域SA1の面積W1(径D1)から処理領域SA2の面積W1’(径D1’)まで拡大する。その結果、レーザー処理領域14aのレーザー処理幅が、処理領域SA1が走査方向に連続してなるレーザー処理幅L1(=D1)から、処理領域SA2が走査方向に連続してなるレーザー処理幅L1’(=D1’)にまで拡大する。また、これに伴い、赤外線レーザー光の走査間隔L2を拡大させることができ、その結果、ヒートシール前駆部14の形成処理の処理速度が向上する。
【0061】
なお、この例では、照射する赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルの断面(プロファイル断面)の形状(すなわち、レーザースポットの形状、照射領域の形状)は略円形であるが、これに限定されず、何れの形状であってもよく、例えば略楕円形や略矩形等であってもよい。
【0062】
プロファイルの断面(プロファイル断面)の形状が略楕円形や略矩形等の他の形状である場合も、この略円形の例と同様に、ヒートシール前駆部形成予定領域13におけるレーザー処理領域の走査方向に直交する方向の幅(レーザー処理幅)が拡大するように、プロファイル変換素子23によってプロファイル変換を行い、エネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面の面積を拡大させる。
【0063】
すなわち、照射する赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルをプロファイル変換素子23によって変換する際には、赤外線レーザー光のエネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面が何れの形状であっても、その処理閾値Icでのプロファイル断面の面積が拡大し、且つ、レーザー処理幅が拡大するようにプロファイル変換を行うことが好ましい。
【0064】
但し、プロファイル断面の特に好ましい形状について述べると、
図3に示すような搬送フィルム体100に対し、赤外線レーザー光をその搬送方向や幅方向に走査して連続的に処理する際、特に、照射する赤外線レーザー光のエネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面の形状が略円形である場合には、ヒートシール前駆部14の形成処理の処理速度をより向上させることができるため好ましい。
【0065】
ガウシアン型のプロファイルPF1の赤外線レーザー光を照射する場合、そのレーザースポットの中心及び中心付近のエネルギー強度が必要以上に大きい。そのため、ヒートシール前駆部形成予定領域13では、このレーザースポットの中心及び中心付近が照射された部分が過剰な処理となり、レーザー処理領域14aを有するヒートシール前駆部14の形成が不良となる虞がある。
【0066】
赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルがガウシアン型のプロファイルPF1からフラットトップ型のプロファイルPF2に変換されると、その赤外線レーザー光のレーザースポットの中心及び中心付近のエネルギー強度が大幅に低下する。これにより、ヒートシール前駆部形成予定領域13において過剰な処理が生じず、レーザー処理領域14aを有するヒートシール前駆部14が良好に形成される。
【0067】
なお、本実施形態は、プロファイル変換素子23が、赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルを
図4、
図5に示すガウシアン型のプロファイルPF1から
図5、
図6(a)に示すフラットトップ型のプロファイルPF2に変換する例に限定されず、他の型のプロファイルに変換してもよい。例えば、プロファイル変換素子23は、赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルをガウシアン型のプロファイルPF1から
図6(b)に示すようなガウスリバース型のプロファイルPF3に変換してもよい。
【0068】
ガウシアン型のプロファイルPF1からガウスリバース型のプロファイルPF3(
図6(b))に変換する場合も、ガウシアン型のプロファイルPF1からフラットトップ型のプロファイルPF2(
図6(a))に変換する場合と同様の効果を得ることができる。このガウスリバース型のプロファイルPF3の赤外線レーザー光も、ガウシアン型のプロファイルPF1の赤外線レーザー光に比べ、レーザースポット中心及び中心付近のエネルギー強度が低下している。これにより、ヒートシール前駆部形成予定領域13において過剰な処理が生じることを防止することができる。
【0069】
このように、本実施形態のヒートシール前駆部14の形成工程では、プロファイル変換素子23(光学的変換手段)によって、赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルを変換し、エネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面の面積を拡大させる。上述したように、この形成工程では、プロファイル変換素子23によって、特に、エネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面の面積が拡大し、且つ、レーザー処理領域14aの走査方向に直交する方向の幅(レーザー処理幅L1)が拡大するようにこのプロファイル変換を行うことで、ヒートシール前駆部14の形成処理の処理速度を向上させることができる。
【0070】
[補助加熱]
ヒートシール前駆部14の形成工程に先立つ補助加熱工程では、延伸ポリエステルフィルム12Bの表面におけるヒートシール前駆部形成予定領域13を補助加熱する。この補助加熱では、ヒートシール前駆部形成予定領域13がその融点未満の昇温状態に保持されるように加熱する。
【0071】
ここで、「融点未満の昇温状態」とは、ヒートシール前駆部形成予定領域13が延伸ポリエステルフィルム12Bの融点よりも低い昇温温度となる状態であって、その昇温温度は特に限定されず、例えば60~160℃であってよい。ヒートシール前駆部形成予定領域13がこのような昇温状態に保持されることで、低結晶化を確保しつつ、赤外レーザー光の走査速度を向上させることができる。
【0072】
補助加熱は、公知の手段によって行ってよい。例えば、エレクトロヒート応用ハンドブック(日本電熱協会編集、オーム社、1990年)に記載されているように、高温熱源及び直接ジュール熱を利用した、間接抵抗加熱手段(例えば加熱炉、熱風乾燥等)、直接抵抗加熱手段、近赤外線加熱手段、遠赤外線加熱手段、電磁誘導作用を利用した誘導加熱手段、高周波電界を利用した誘電加熱手段、電磁波を利用したマイクロ波加熱手段、レーザー加熱手段等を採用することができる。
【0073】
なお、工業的に実施する際は、通常、ロール・ツー・ロール方式で、ローラに巻回保持された搬送フィルム体100を、連続的或いは間欠的に巻き取りローラにより巻き取る際に、補助加熱、赤外レーザー光の走査照射、及び急冷が行われることから、上記の手段の中でも、非接触加熱により補助加熱を行うことが好ましい。接触加熱では、擦れ等によりフィルム表面が荒れる虞がある。
【0074】
このような補助加熱は、少なくともヒートシール前駆部形成予定領域13がその融点未満の昇温状態に保持されればよく、例えばヒートシール前駆部形成予定領域13を含む延伸ポリエステルフィルム12Bの表面全体がこの昇温状態に保持されるように補助加熱してもよい。
【0075】
また、補助加熱の加熱方向は、少なくともヒートシール前駆部形成予定領域13がその融点未満の昇温状態に保持されれば、何れの方向から加熱してもよい。例えば、延伸ポリエステルフィルム12Bの赤外線レーザー光照射側の表面から加熱してもよいし、延伸ポリエステルフィルム12Bの赤外線レーザー光照射側とは反対側の表面から加熱してもよい。
【0076】
ヒートシール前駆部14の形成工程では、ヒートシール前駆部形成予定領域13がその融点未満の昇温状態に保持されている状態で、ヒートシール前駆部形成予定領域13に赤外線レーザー光を走査して照射する。これにより、低結晶化を確保しつつ、赤外レーザー光による走査照射速度を向上させることができる。
【0077】
[急冷]
ヒートシール前駆部14の形成工程の後の冷却工程では、ヒートシール前駆部14を急冷する。これにより、ヒートシール前駆部14におけるレーザー処理領域14aの低結晶化が画定する。仮に、この急冷を行わないと、レーザー処理領域14aが再結晶化し、低結晶化が不十分となり、ヒートシール前駆部14におけるヒートシール性が不均質となる虞がある。この問題は、特に補助加熱を行った場合に顕著である。
【0078】
急冷を行う冷却手段は、特に限定されないが、例えば冷却ロール、エアカーテン等を挙げることができる。急冷の際の冷却温度及び冷却時間は、特に限定されないが、例えばラマン分光法による結晶化度が10%以下、特に5%以下となるように、適宜設定するようにしてよい。
【0079】
[実施例]
以下、本実施形態における実施例を説明する。なお、実施例は、これに限定されるものではない。
【0080】
<実施例1>
(1-1.フィルム体)
フィルム体として、厚み7μmのアルミニウム箔の一方の面にポリウレタン接着剤を介して厚み12μmの延伸ポリエステルフィルムがラミネートされ、このアルミニウム箔のもう一方の面にもポリウレタン接着剤を介して厚み12μmの延伸ポリエステルフィルムがラミネートされている積層体を用意した。
【0081】
(1-2.レーザー装置による走査照射)
赤外域の波長9.3μmの炭酸ガスレーザー光(CO2ガスレーザー光)を発振するレーザー発振器と、走査装置(走査装置22に相当)と、プロファイル変換素子(ビームシェイパー)と、集光レンズとを備えるレーザー装置Aを用意した。フィルム体の搬送速度は20m/分とした。レーザー装置Aの出力は100W、レーザースポットの断面径(レーザースポット径)は1.4mm、走査間隔は1mmとした。
【0082】
走査速度[mm/秒]を変更して、フィルム体の一方の延伸ポリエステルフィルム表面の周縁に位置するヒートシール前駆部形成予定領域に、レーザー装置Aにより赤外線レーザー光を走査して照射し、ヒートシール前駆部を形成した。このレーザー装置Aでは、赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルにおいて、エネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面の面積が拡大するように、プロファイル変換素子(ビームシェイパー)によって、赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルをガウシアン型からフラットトップ型に変換した。このプロファイル変換では、赤外線レーザー光のエネルギー強度が処理閾値Ic以上となるレーザー処理領域の走査方向に直交する方向の幅(レーザー処理幅)が拡大するように、エネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面の面積を拡大させた。
【0083】
また、このレーザー装置Aから上述のプロファイル変換素子(ビームシェイパー)を除いたレーザー装置Bを用意した。このレーザー装置Bを用いて同様に、走査速度[mm/秒]を変更して、ヒートシール前駆部形成予定領域に赤外線レーザー光を走査して照射し、ヒートシール前駆部を形成した。このレーザー装置Bでは、プロファイル変換素子(ビームシェイパー)を備えないことから、照射される赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルは、ガウシアン型であった。
【0084】
(1-3.レーザー処理幅の測定)
レーザー装置A、Bにより、「1-2.レーザー装置による走査照射」で述べたようにして、走査速度[mm/秒]を変更して赤外線レーザー光を走査照射したときのヒートシール前駆部におけるレーザー処理領域の走査方向に直交する方向の幅(レーザー処理幅)[mm]を測定した。このレーザー処理幅は、偏光顕微鏡を用い、ラマン法による結晶化度が10%以下の領域を測定した。
【0085】
走査速度[mm/秒]に対するレーザー処理幅[mm]の測定結果を
図7に示す。
図7において、レーザー装置Aを用いてフラットトップ型のエネルギー強度分布のプロファイルを有する赤外線レーザー光を照射した場合の測定結果のプロットは、白丸のプロットA(フラットトップ型)で示している。また、レーザー装置Bを用いてガウシアン型のエネルギー強度分布のプロファイルを有する赤外線レーザー光を照射した場合の測定結果のプロットは、黒丸のプロットB(ガウシアン型)で示している。
【0086】
この
図7に示すように、走査速度[mm/秒]を同一とした場合、レーザー装置Bを用いて走査照射した赤外線レーザー光(ガウシアン型)に比べ、レーザー装置Aを用いて走査照射した赤外線レーザー光(フラットトップ型)の方が、そのヒートシール前駆部におけるレーザー処理幅[mm]が大きかった。
【0087】
(1-4.処理速度の算出)
実施例1では、走査間隔を1mmとしているため、レーザー処理幅は0.5mm以上であることが好ましい。この点を踏まえ、
図7において、レーザー処理幅が0.5mm以上である、プロットa1(フラットトップ型)の場合とプロットb1(ガウシアン型)の場合とで、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度[m/分]を上述の式1、式2から算出して比較した。この処理速度[m/分]は、最も大きい速度(最高処理速度)[m/分]を算出結果とした。
【0088】
プロットb1での処理速度は21.6m/分であるのに対し、プロットa1での処理速度は24.3m/分であった。この点から、ガウシアン型から変換されたフラットトップ型の赤外線レーザー光による走査照射では、ヒートシール前駆部の形成処理をより迅速に行えることがわかった。
【0089】
(1-5.スポット部分領域の面積の算出)
レーザー装置A、Bにより、「1-2.レーザー装置による走査照射」で述べたようにして、走査速度(ここでは、単位を[cm/秒]とする)を変更して赤外線レーザー光を走査照射したときの、そのレーザースポットにおける赤外線レーザー光のエネルギー強度が処理閾値Ic以上に相当する部分(「処理閾値Ic以上のスポット部分領域」ともいう)の断面積S[mm2]を下記の式4から算出した。式4において、Lは、処理閾値Ic以上のスポット部分領域(略円形)の径(レーザー処理幅に相当)である。
S=(L/2)2×π (式4)
【0090】
走査速度[cm/秒]に対する処理閾値Ic以上のスポット部分領域の面積[mm
2]の算出結果を
図8に示す。
図8において、レーザー装置Aを用いてフラットトップ型のエネルギー強度分布のプロファイルを有する赤外線レーザー光を照射した場合の算出結果のプロットは、白四角のプロットAR(フラットトップ型)で示している。また、レーザー装置Bを用いてガウシアン型のエネルギー強度分布のプロファイルを有する赤外線レーザー光を照射した場合の算出結果のプロットは、黒四角のプロットBR(ガウシアン型)で示している。
【0091】
この
図8に示すように、走査速度[cm/秒]を同一とした場合、レーザー装置Bを用いて走査照射した赤外線レーザー光(ガウシアン型)に比べ、レーザー装置Aを用いて走査照射した赤外線レーザー光(フラットトップ型)の方が、この処理閾値Ic以上のスポット部分領域[mm
2]の面積は、大きかった。
【0092】
実施例1のこれらの結果によれば、エネルギー強度が処理閾値Icであるプロファイル断面の面積が拡大するように赤外線レーザー光のエネルギー強度分布のプロファイルをガウシアン型からフラットトップ型に変換したことで、処理閾値Ic以上のスポット部分領域の面積が拡大したといえる。また、スポット部分領域の径に相当するレーザー処理幅が拡大したことで、結果として、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度が向上したといえる。
【0093】
<実施例2>
(2-1.補助加熱)
実施例1と同様に、レーザー装置A、Bを用いて、フィルム体のヒートシール前駆部形成予定領域に赤外線レーザー光を走査して照射し、ヒートシール前駆部を形成した。但し、この実施例2では、このようなヒートシール前駆部の形成処理に先立って、フィルム体のヒートシール前駆部形成予定領域を補助加熱した。
【0094】
この補助加熱処理では、延伸ポリエステルフィルム表面におけるヒートシール前駆部形成予定領域がその融点未満の120℃の昇温状態に保持されるように、ヒートシール前駆部形成予定領域を補助加熱した。補助加熱を行う加熱手段として、高周波誘導加熱装置を使用し、延伸ポリエステルフィルムの赤外線レーザー光が照射される側の表面から補助加熱を行った。
【0095】
この補助加熱処理に続くヒートシール前駆部の形成処理では、ヒートシール前駆部形成予定領域(フィルム表面)がその融点未満の昇温状態である120℃に保持されている状態で、ヒートシール前駆部形成予定領域に、レーザー装置A、Bにより赤外線レーザー光を走査して照射した。
【0096】
(2-2.処理速度の算出)
レーザー装置Bによりガウシアン型のプロファイルを有する赤外線レーザー光(レーザースポット径:1.4mm)を走査照射した場合、レーザー装置Aによりフラットトップ型のプロファイルを有する赤外線レーザー光(レーザースポット径:1.4mm)を走査照射した場合のそれぞれにおいて、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度[m/分]を算出し、処理速度の内の最も大きい速度(最高処理速度)を算出結果とした。ここでのレーザー装置A、Bにおけるレーザー処理条件を
図9Aの表に示す。この表に示すように、レーザー装置Bによりガウシアン型の赤外線レーザー光を走査照射する場合(表中、「ガウシアン型」と記載)、レーザー装置Aによりフラットトップ型の赤外線レーザー光を走査照射する場合(表中、「フラットトップ型」と記載)のそれぞれにおいて、補助加熱を行わずにヒートシール前駆部形成予定領域の温度(フィルム表面温度)が室温(25℃)に保持されている状態のフィルム体を用いる場合と、補助加熱を行いヒートシール前駆部形成予定領域の温度(フィルム表面温度)が120℃に保持されている状態のフィルムを用いる場合とで、走査速度[mm/s]、走査間隔[mm]を設定し、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度(最高処理速度)[m/分]を算出した。
【0097】
この算出結果を
図9Bの表に示す。この表に示すように、照射する赤外線レーザー光(レーザースポット径:1.4mm)のプロファイルがガウシアン型である場合(表中、「ガウシアン型」と記載)、フラットトップ型である場合(表中、「フラットトップ型」と記載)の何れも、ヒートシール前駆部形成予定領域(フィルム表面)が室温(25℃)に保持されている場合よりも、補助加熱により120℃に保持されている場合の方が、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度[m/分]は大きかった。
【0098】
また、ヒートシール前駆部形成予定領域が室温(25℃)に保持されている場合、補助加熱により120℃に保持されている場合の何れも、照射する赤外線レーザー光のプロファイルがガウシアン型である場合よりもフラットトップ型である場合の方が、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度[m/分]は大きかった。
【0099】
この点から、走査照射する赤外線レーザー光のプロファイルをガウシアン型からフラットトップ型に変換すると共に、この赤外線レーザーの走査照射によるヒートシール前駆部の形成処理に先立って補助加熱処理を行うことで、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度をより一層向上できることがわかった。
【0100】
<実施例3>
(3-1.補助加熱時の温度変更)
実施例3では、実施例2と同様の実験を行った。但し、実施例3での補助加熱は、複数のフィルム体を使用し、各フィルム体を異なる加熱温度で補助加熱した。
【0101】
(3-2.温度毎の処理速度算出)
続くヒートシール前駆部の形成処理では、補助加熱を行わないフィルム体と、補助加熱によりヒートシール前駆部形成予定領域(フィルム表面)が各温度に保持されたフィルム体のそれぞれのヒートシール前駆部形成予定領域に対し、レーザー装置A(フラットトップ型)、レーザー装置B(ガウシアン型)を用いて赤外線レーザー光を走査照射することで、ヒートシール前駆部を形成した。
【0102】
ここでのレーザー装置A、Bにおけるレーザー処理条件を
図10Aの表に示す。この表に示すように、レーザー装置Aによりフラットトップ型の赤外線レーザー光を走査照射する場合(表中、「フラットトップ型」と記載)、レーザー装置Bによりガウシアン型の赤外線レーザー光を走査照射する場合(表中、「ガウシアン型」と記載)のそれぞれにおいて、補助加熱を行わずにヒートシール前駆部形成予定領域の温度(フィルム表面温度)が室温(25℃)に保持されている状態のフィルム体を用いる場合と、補助加熱を行いヒートシール前駆部形成予定領域の温度(フィルム表面温度)が、60℃、80℃、100℃、120℃に保持されている状態の各フィルム体を用いる場合とで、走査速度[mm/s]、走査間隔[mm]を設定し、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度(最高処理速度)[m/分]を算出した。なお、フィルム体の搬送速度は20m/分とした。
【0103】
このフィルム表面温度が各温度に保持されたフィルム体のそれぞれにおける、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度(最高処理速度)[m/分]の算出結果を
図10Bに示す。
図10Bにおいて、レーザー装置Aを用いてフラットトップ型のエネルギー強度分布のプロファイルを有する赤外線レーザー光を照射した場合の算出結果のプロットは、白三角のプロットAS(フラットトップ型)で示している。また、レーザー装置Bを用いてガウシアン型のエネルギー強度分布のプロファイルを有する赤外線レーザー光を照射した場合の算出結果のプロットは、黒三角のプロットBS(ガウシアン型)で示している。
【0104】
この
図10Bに示すように、照射する赤外線レーザー光のプロファイルが、ガウシアン型である場合、フラットトップ型である場合の何れも、保持されるフィルム表面温度[℃]が高いほど、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度[m/分]は大きかった。
【0105】
また、この
図10Bに示すように、保持されるフィルム表面温度[℃]が、25℃(室温)、60℃、80℃、100℃、120℃の何れであっても、照射する赤外線レーザー光のプロファイルが、ガウシアン型である場合よりもフラットトップ型である場合の方が、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度[m/分]は大きかった。
【0106】
この点から、走査照射する赤外線レーザー光のプロファイルをガウシアン型からフラットトップ型に変換すると共に、保持されるフィルム表面温度をより高くすることで、ヒートシール前駆部の形成処理の処理速度をより一層向上できることがわかった。
【符号の説明】
【0107】
1:ヒートシール性フィルム、10:フィルム体、11:アルミニウム箔、12A、12B:延伸ポリエステルフィルム、13:ヒートシール前駆部形成予定領域、14:ヒートシール前駆部、14a:レーザー処理領域、14b:レーザー未処理領域、15:未照射領域、20:レーザー装置、21:レーザー発振器、21A:発振口、22:走査装置、22A、22B:可動ミラー、23:プロファイル変換素子、24:集光レンズ、100:搬送フィルム体、101:処理単位、PF1~PF3:プロファイル、PA、PA1、PA2:プロファイル断面、SA:照射領域、SA1、SA2:処理領域