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特開2024-86211ヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086211
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/14 303
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201231
(22)【出願日】2022-12-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】中山 仁
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AG12
2C057AG41
2C057AG42
2C057AG45
2C057AG91
2C057AN01
(57)【要約】
【課題】製造効率や歩留まりの向上を図った上で、発生圧力を向上させることができるヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置を提供する。
【解決手段】本開示の一態様に係るヘッドチップは、液体が収容される圧力室が形成された流路部材と、圧力室に対して第1方向に向かい合った状態で流路部材上に配置されたアクチュエータプレートと、アクチュエータプレートを第1方向に変形させて圧力室の容積を変化させる駆動電極と、を備えている。アクチュエータプレートのうち第1方向から見て圧力室と重なり合う部分には、第1方向で流路部材を向く第1面に対して凹部が形成されている。駆動電極は、凹部の内面に形成された第1電極と、アクチュエータプレートの上面において第1電極と向かい合って形成され、第1電極との間で電位差を生じさせる第1対向電極と、を備えている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が収容される圧力室が形成された流路部材と、
前記圧力室に対して第1方向に向かい合った状態で前記流路部材上に配置されるとともに、前記第1方向を分極方向とするアクチュエータプレートと、
前記アクチュエータプレートに形成され、前記アクチュエータプレートを前記第1方向に変形させて前記圧力室の容積を変化させる駆動電極と、を備え、
前記アクチュエータプレートのうち前記第1方向から見て前記圧力室と重なり合う部分には、前記第1方向で前記流路部材を向く第1面に対して突出する凸部、又は前記第1面に対して窪んだ凹部からなる形状変化部が形成され、
前記駆動電極は、
前記形状変化部の表面に形成された第1電極と、
前記アクチュエータプレートのうち前記第1方向で前記第1面と反対側を向く第2面において前記第1電極と向かい合って形成され、前記第1電極との間で電位差を生じさせる第1対向電極と、を備えているヘッドチップ。
【請求項2】
前記形状変化部は、
前記第1方向を向く端面と、
前記端面の外周縁及び前記第1面間を接続するとともに、前記第1方向に交差する第2方向を向く側面と、を備え、
前記第1電極は、前記端面及び前記側面に亘って形成されている請求項1に記載のヘッドチップ。
【請求項3】
前記駆動電極は、前記第1面において前記第1電極と隣り合って形成されるとともに、前記第1電極との間で電位差を生じさせる第2電極を備えている請求項1又は請求項2に記載のヘッドチップ。
【請求項4】
前記駆動電極は、前記第2面において前記第2電極と向かい合って形成され、かつ前記第1対向電極に隣り合って形成された第2対向電極を備え、
前記第2対向電極は、前記第2電極との間で前記第1方向に電位差を生じさせるとともに、前記第1対向電極との間で前記第1方向に交差する第2方向に電位差を生じさせる請求項3に記載のヘッドチップ。
【請求項5】
前記アクチュエータプレートには、前記第2面に対して前記第1方向に窪む溝部が形成されている請求項1又は請求項2に記載のヘッドチップ。
【請求項6】
前記溝部は、前記アクチュエータプレートを前記第1方向に貫通している請求項5に記載のヘッドチップ。
【請求項7】
前記溝部の内面には、前記第1電極との間で電位差を発生させる溝内電極が形成されている請求項5に記載のヘッドチップ。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載のヘッドチップを備えている液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載の液体噴射ヘッドを備えている液体噴射記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタに搭載されるヘッドチップでは、圧電材料により形成されたアクチュエータプレートに電界を発生させ、アクチュエータプレートを変形させることで、圧力室内に圧力変動を生じさせる。これにより、圧力室内に収容されたインクが、ノズル孔を通じて吐出される。
【0003】
アクチュエータプレートの変形モードとして、アクチュエータプレートに発生する電界によってアクチュエータプレートをせん断変形(厚み滑り変形)させる、いわゆるシェアモードがある。シェアモードには、いわゆるウォールベンド型やルーフシュート型が含まれる。
ウォールベンド型のヘッドチップは、アクチュエータプレート自体に圧力室が形成された構成である。ウォールベンド型のヘッドチップでは、圧力室を挟んで向かい合う仕切壁同士が接近又は離間する方向に変形することで、圧力室内に圧力変動を生じさせる。
一方、ルーフシュート型のヘッドチップは、流路部材に形成された圧力室に対し、アクチュエータプレートが向かい合って配置された構成である。ルーフシュート型のヘッドチップでは、アクチュエータプレートが厚さ方向に変形することで、圧力室内に圧力変動を生じさせる。
【0004】
ところで、ルーフシュート型のヘッドチップでは、アクチュエータプレートが圧力室の一面のみにしか面していないことから、ウォールベンド型のヘッドチップに比べ圧力室内での発生圧力(弾性エネルギー)を確保し難いという課題があった。
ルーフシュート型のヘッドチップにおいて、発生圧力の向上を図る構成としては、アクチュエータプレートを積層させることが考えられる(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-58674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術にあっては、アクチュエータプレートを積層させたとしても、積層数通りに発生圧力を増加させることが難しかった。また、アクチュエータプレートを積層する場合には、各層毎に電極を配置する必要がある等から、製造効率や歩留まりの低下に繋がる。
【0007】
本開示は、製造効率や歩留まりの向上を図った上で、発生圧力を向上させることができるヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は以下の態様を採用した。
(1)本開示の一態様に係るヘッドチップは、液体が収容される圧力室が形成された流路部材と、前記圧力室に対して第1方向に向かい合った状態で前記流路部材上に配置されるとともに、前記第1方向を分極方向とするアクチュエータプレートと、前記アクチュエータプレートに形成され、前記アクチュエータプレートを前記第1方向に変形させて前記圧力室の容積を変化させる駆動電極と、を備え、前記アクチュエータプレートのうち前記第1方向から見て前記圧力室と重なり合う部分には、前記第1方向で前記流路部材を向く第1面に対して突出する凸部、又は前記第1面に対して窪んだ凹部からなる形状変化部が形成され、前記駆動電極は、前記形状変化部の表面に形成された第1電極と、前記アクチュエータプレートのうち前記第1方向で前記第1面と反対側を向く第2面において前記第1電極と向かい合って形成され、前記第1電極との間で電位差を生じさせる第1対向電極と、を備えている。
【0009】
本態様によれば、第1電極及び第1対向電極間に電位差を発生させることで、アクチュエータプレートの分極方向に電界を発生させることができる。これにより、アクチュエータプレートをベンドモード(バイモルフ型)でZ方向に変形させることで、圧力室内の容積を変化させることができる。
特に、本態様では、凹部又は凸部からなる形状変化部の表面に第1電極を形成することで、第1電極の表面積を確保できる。そのため、第1電極及び第1対向電極間で発生する電位差を確保し易い。その結果、アクチュエータプレートに生じる電界を大きくすることができ、液体噴射時における圧力室内の発生圧力を向上させることができる。また、形状変化部の表面に第1電極を形成するだけで発生圧力を向上させることができるので、従来のようにアクチュエータプレートを複数枚重ねる構成に比べ、製造効率や歩留まりの向上を図ることができる。しかも、アクチュエータプレートに形状変化部を形成することで、アクチュエータプレートの第1方向での剛性を高めることができる。
【0010】
(2)上記(1)の態様に係るヘッドチップにおいて、前記形状変化部は、前記第1方向を向く端面と、前記端面の外周縁及び前記第1面間を接続するとともに、前記第1方向に交差する第2方向を向く側面と、を備え、前記第1電極は、前記端面及び前記側面に亘って形成されていることが好ましい。
本態様によれば、第1電極の表面積を確保できるので、液体噴射時における圧力室内の発生圧力を向上させることができる。
しかも、形状変化部の端面に第1電極を形成することで、第1電極と第1対向電極との距離を近付けることができる。これにより、アクチュエータプレートに発生する電界を大きくし易くなり、圧力室内の発生圧力を効果的に向上させることができる。
【0011】
(3)上記(1)又は(2)の態様に係るヘッドチップにおいて、前記駆動電極は、前記第1面において前記第1電極と隣り合って形成されるとともに、前記第1電極との間で電位差を生じさせる第2電極を備えていることが好ましい。
本態様によれば、第1電極及び第2電極間に電位差を発生させることで、アクチュエータプレートの分極方向に交差する方向に電界を発生させることができる。これにより、アクチュエータプレートをシェアモード(ルーフシュート型)で第1方向に変形させることで、圧力室の容積を変化させることができる。この場合、シェアモード及びベンドモードの双方の駆動モードによってアクチュエータプレートを第1方向に変形させることができ、圧力室の発生圧力を向上させることができる。
【0012】
(4)上記(2)の態様に係るヘッドチップにおいて、前記駆動電極は、前記第2面において前記第2電極と向かい合って形成され、かつ前記第1対向電極に隣り合って形成された第2対向電極を備え、前記第2対向電極は、前記第2電極との間で前記第1方向に電位差を生じさせるとともに、前記第1対向電極との間で前記第1方向に交差する第2方向に電位差を生じさせることが好ましい。
本態様によれば、アクチュエータプレートの第2面において、第1対向電極と第2対向電極とが隣り合って形成されるので、第1対向電極と第2対向電極との間に発生する電位差によってアクチュエータプレートをシェアモード(ルーフシュート型)により変形させることができる。
【0013】
(5)上記(1)から(4)の何れかの態様に係るヘッドチップにおいて、前記アクチュエータプレートには、前記第2面に対して前記第1方向に窪む溝部が形成されていることが好ましい。
本態様によれば、アクチュエータプレートが第1方向に変形する際に、溝部がアクチュエータプレートの変形を許容する逃げ部として機能する。これにより、アクチュエータプレートの変形量を確保し易くなる。
【0014】
(6)上記(5)の態様に係るヘッドチップにおいて、前記溝部は、前記アクチュエータプレートを前記第1方向に貫通していることが好ましい。
本態様によれば、溝部がアクチュエータプレートを貫通しているので、液体噴射時におけるアクチュエータプレートの変形を許容し易い。そのため、圧力室の発生圧力を向上させることができる。
【0015】
(7)上記(5)又は(6)の態様に係るヘッドチップにおいて、前記溝部の内面には、前記第1電極との間で電位差を発生させる溝内電極が形成されていることが好ましい。
本態様によれば、第1電極と溝内電極との間に生じる電位差によって、アクチュエータプレートには分極方向に交差する方向に電界が生じる。その結果、アクチュエータプレートのうち、形状変化部におけると溝部とで区画された部分(以下、区画部という。)は、シェアモードにより溝部内に倒れ込むように厚み滑り変形する。これにより、液体噴射時において、溝部の容積が拡大又は縮小するように区画部が変形する。この際、溝部が区画部の変形を許容する逃げ部として機能することから、アクチュエータプレートの変形量を確保し易くなり、圧力室の発生圧力を向上させることができる。
【0016】
(8)本開示に係る液体噴射ヘッドは、上記(1)から(7)の何れかの態様に係るヘッドチップを備えている。
本態様によれば、上記態様に係るヘッドチップを備えているので、所望の噴射性能が発揮できる高品質な液体噴射ヘッドを提供できる。
【0017】
(9)本開示の一態様に係る液体噴射記録装置は、上記(8)の態様に係る液体噴射ヘッドを備えている。
本態様によれば、上記態様に係る液体噴射ヘッドを備えているので、所望の噴射性能が発揮できる高品質な液体噴射記録装置を提供できる。
【発明の効果】
【0018】
本開示の一態様によれば、製造効率や歩留まりの向上を図った上で、発生圧力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
図2】第1実施形態に係るインクジェットヘッド及びインク循環機構の概略構成図である。
図3】第1実施形態に係るヘッドチップの分解斜視図である。
図4図3のIV-IV線に対応するヘッドチップの断面図である。
図5図4のV-V線に対応するヘッドチップの断面図である。
図6】第1実施形態に係る流路部材の平面図である。
図7】第1実施形態に係るアクチュエータプレートの底面図である。
図8】第1実施形態に係るアクチュエータプレートの平面図である。
図9】第1実施形態に係るカバープレートの平面図である。
図10】第1実施形態に係るヘッドチップについて、インク吐出時における変形の挙動を説明するための説明図である。
図11】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図12】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図5に対応する断面図である。
図13】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図4に対応する断面図である。
図14】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図5に対応する断面図である。
図15】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図5に対応する断面図である。
図16】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図4に対応する断面図である。
図17】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図4に対応する断面図である。
図18】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図4に対応する断面図である。
図19】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図4に対応する断面図である。
図20】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図5に対応する断面図である。
図21】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図5に対応する断面図である。
図22】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図4に対応する断面図である。
図23】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図4に対応する断面図である。
図24】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、図4に対応する断面図である。
図25】第2実施形態に係るヘッドチップの断面図である。
図26】第3実施形態に係るヘッドチップの断面図である。
図27】第4実施形態に係るヘッドチップの断面図である。
図28】第4実施形態の変形例に係るヘッドチップの断面図である。
図29】第5実施形態に係るヘッドチップの断面図である。
図30】第6実施形態に係るヘッドチップの断面図である。
図31】変形例に係るヘッドチップの断面図である。
図32】変形例に係るヘッドチップの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照して説明する。以下で説明する実施形態や変形例において、対応する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。以下の説明において、例えば「平行」や「直交」、「中心」、「同軸」等の相対的又は絶対的な配置を示す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差や同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。以下の実施形態では、インク(液体)を利用して被記録媒体に記録を行うインクジェットプリンタ(以下、単にプリンタという)を例に挙げて説明する。以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0021】
(第1実施形態)
[プリンタ1]
図1はプリンタ1の概略構成図である。
図1に示すプリンタ(液体噴射記録装置)1は、一対の搬送機構2,3と、インクタンク4と、インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)5と、インク循環機構6と、走査機構7と、を備えている。
【0022】
以下の説明では、必要に応じてX,Y,Zの直交座標系を用いて説明する。この場合、X方向は被記録媒体P(例えば、紙等)の搬送方向(副走査方向)に一致している。Y方向は走査機構7の走査方向(主走査方向)に一致している。Z方向は、X方向及びY方向に直交する高さ方向(重力方向)を示している。以下の説明では、X方向、Y方向及びZ方向のうち、図中矢印側をプラス(+)側とし、矢印とは反対側をマイナス(-)側として説明する。本明細書において、+Z側は重力方向の上方に相当し、-Z側は重力方向の下方に相当する。
【0023】
搬送機構2,3は、被記録媒体Pを+X側に搬送する。搬送機構2,3は、例えばY方向に延びる一対のローラ11,12をそれぞれ含んでいる。
インクタンク4には、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクが各別に収容されている。各インクジェットヘッド5は、接続されたインクタンク4に応じてイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクをそれぞれ吐出可能に構成されている。
【0024】
図2は、インクジェットヘッド5及びインク循環機構6の概略構成図である。
図1図2に示すように、インク循環機構6は、インクタンク4とインクジェットヘッド5との間でインクを循環させる。具体的に、インク循環機構6は、インク供給管21及びインク排出管22を有する循環流路23と、インク供給管21に接続された加圧ポンプ24と、インク排出管22に接続された吸引ポンプ25と、を備えている。
【0025】
加圧ポンプ24は、インク供給管21内を加圧し、インク供給管21を通してインクジェットヘッド5にインクを送り出している。これにより、インクジェットヘッド5に対してインク供給管21側は正圧となっている。
吸引ポンプ25は、インク排出管22内を減圧し、インク排出管22内を通してインクジェットヘッド5からインクを吸引している。これにより、インクジェットヘッド5に対してインク排出管22側は負圧となっている。インクは、加圧ポンプ24及び吸引ポンプ25の駆動により、インクジェットヘッド5とインクタンク4との間を、循環流路23を通して循環可能となっている。
【0026】
図1に示すように、走査機構7は、インクジェットヘッド5をY方向に往復走査させる。走査機構7は、Y方向に延びるガイドレール28と、ガイドレール28に移動可能に支持されたキャリッジ29と、を備えている。
【0027】
<インクジェットヘッド5>
インクジェットヘッド5は、キャリッジ29に搭載されている。図示の例では、複数のインクジェットヘッド5が、一つのキャリッジ29にY方向に並んで搭載されている。インクジェットヘッド5は、ヘッドチップ50(図3参照)と、インク循環機構6及びヘッドチップ50間を接続するインク供給部(不図示)と、ヘッドチップ50に駆動電圧を印加する制御部(不図示)と、を備えている。
【0028】
<ヘッドチップ50>
図3は、ヘッドチップ50の分解斜視図である。図4は、図3のIV-IV線に対応するヘッドチップ50の断面図である。図5は、図4のV-V線に対応するヘッドチップ50の断面図である。
図3図5に示すヘッドチップ50は、インクタンク4との間でインクを循環させるとともに、後述する圧力室61における延在方向(Y方向)の中央部からインクを吐出する、いわゆる循環式サイドシュートタイプのヘッドチップ50である。ヘッドチップ50は、ノズルプレート51と、流路部材52と、第1フィルム53と、アクチュエータプレート54と、第2フィルム55と、カバープレート56と、を備えている。以下の説明では、Z方向のうち、ノズルプレート51からカバープレート56に向かう方向(+Z側)を上側とし、カバープレート56からノズルプレート51に向かう方向(-Z側)を下側として説明する場合がある。
【0029】
流路部材52は、Z方向を厚さ方向とした板状である。流路部材52は、インク耐性を有する材料により形成されている。このような材料として、例えば金属や金属酸化物、ガラス、樹脂、セラミックス等が採用可能である。流路部材52には、インクが流通する流路60と、流路60に連通するとともにインクが収容される複数の圧力室61と、が形成されている。流路60及び圧力室61は、流路部材52をZ方向に貫通している。
【0030】
図6は、流路部材52の平面図である。
図6に示すように、各圧力室61は、X方向に間隔をあけて並んでいる。各圧力室61は、Y方向に直線状に延びる溝状に形成されている。各圧力室61は、Y方向の全域に亘って流路部材52を貫通している。但し、圧力室61は、Y方向の一部において流路部材52を貫通していてもよい。なお、第1実施形態では、チャネル延在方向がY方向に一致する構成について説明するが、チャネル延在方向がY方向に交差していてもよい。
【0031】
平面視において、各圧力室61は、それぞれ区画壁62によって区画されている。区画壁62は、圧力室61に対してX方向の両側に位置する一対の側壁62a,62bと、圧力室61に対して+Y側に位置する+Y側端壁62cと、圧力室61に対して-Y側に位置する-Y側端壁62dと、を備えている。側壁62a,62bは、流路部材52のうち隣り合う圧力室61間に位置する部分であって、隣り合う圧力室61間をX方向に仕切っている。なお、圧力室61の平面視形状は、長方形状(X方向及びY方向のうち、何れか一方を長手方向とし、他方を短手方向とする形状)に限られない。圧力室61の平面視形状は、正方形状や三角形状等の多角形状、円形状、楕円形状等であってもよい。
【0032】
流路60は、入口側共通流路64と、入口側連通路65と、出口側共通流路66と、出口側連通路67と、バイパス路68と、を含んでいる。
入口側共通流路64は、流路部材52のうち各圧力室61に対して+Y側に位置する部分をX方向に延びている。入口側共通流路64と各圧力室61とは、各圧力室61の+Y側端壁62cによって仕切られている。入口側共通流路64における-X側端部は、入口ポート(不図示)に接続される。入口ポートは、インク供給管21(図2参照)に直接的又は間接的に接続されている。すなわち、インク供給管21内を流れるインクは、入口ポートを通じて入口側共通流路64に供給される。
入口側連通路65は、入口側共通流路64のうち各X方向から見て各圧力室61と重なり合う部分から-Y側に向けてそれぞれ分岐することで、入口側共通流路64と各圧力室61との間をそれぞれ接続している。具体的に、各入口側連通路65は、各圧力室61の+Y側端壁62cをY方向に貫通している。本実施形態において、各入口側連通路65は、各+Y側端壁62cにおけるX方向の中央部に、Y方向の全長に亘って一様な深さで形成されている。
【0033】
出口側共通流路66は、流路部材52のうち各圧力室61に対して-Y側に位置する部分をX方向に延びている。出口側共通流路66と各圧力室61とは、各圧力室61の-Y側端壁62dによって仕切られている。出口側共通流路66における+X側端部は、出口ポート(不図示)に接続される。出口ポートは、インク排出管22(図2参照)に直接的又は間接的に接続されている。すなわち、出口側共通流路66内を流れるインクは、出口ポートを通じてインク排出管22に供給される。
出口側連通路67は、出口側共通流路66のうちX方向から見て各圧力室61と重なり合う部分から+Y側に向けてそれぞれ分岐することで、出口側共通流路66と各圧力室61との間をそれぞれ接続している。具体的に、各出口側連通路67は、各圧力室61の-Y側端壁62dをY方向に貫通している。本実施形態において、各出口側連通路67は、各-Y側端壁62dにおけるX方向の中央部に、Y方向の全長に亘って一様な深さで形成されている。第1実施形態において、各連通路65,67におけるX方向の幅は、圧力室61におけるX方向の幅に比べて狭い。これにより、隣り合う圧力室61間において、共通流路64,66を通じた圧力室61間の距離を確保できる。そのため、一の圧力室61での圧力変動が共通流路64,66及び連通路65,67を通じて他の圧力室61に伝播される、いわゆるクロストークを抑制できる。しかも、連通路65,67の流路断面積が、圧力室61の流路断面積よりも小さくなるので、連通路65,67を通じて共通流路64,66から圧力室61に圧力変動が伝播することを抑制し易い。但し、連通路65,67の寸法は適宜変更が可能である。
【0034】
バイパス路68は、入口側共通流路64及び出口側共通流路66の+X側端部同士及び-X側端部同士を各別に接続している。
【0035】
図4図5に示すように、ノズルプレート51は、流路部材52の下面に接着等によって固定されている。ノズルプレート51は、流路60及び圧力室61の下端開口部を閉塞している。第1実施形態において、ノズルプレート51は、SUSやNi-Pd等の金属材料により形成されている。但し、ノズルプレート51は、金属材料の他、樹脂材料(例えば、ポリイミド等)、ガラス、シリコン等による単層構造、又は積層構造であってもよい。
【0036】
ノズルプレート51には、ノズルプレート51をZ方向に貫通する複数のノズル孔71が形成されている。各ノズル孔71は、X方向に間隔をあけて配置されている。各ノズル孔71は、対応する圧力室61それぞれに対し、X方向及びY方向の中央部で連通している。第1実施形態において、各ノズル孔71は、例えば上方から下方に向かうに従い内径が漸次縮小するテーパ状に形成されている。第1実施形態では、複数の圧力室61及び複数のノズル孔71がX方向に一列に並んだ構成について説明したが、この構成に限られない。X方向に並んだ複数の圧力室61及び複数のノズル孔71をノズル列とすると、ノズル列がY方向に間隔をあけて複数列設けられていてもよい。
【0037】
第1フィルム53は、流路部材52の上面に接着等によって固定されている。第1フィルム53は、流路部材52の上面全域に亘って配置されている。これにより、第1フィルム53は、流路60及び各圧力室61の上端開口部を閉塞している。第1フィルム53は、絶縁性及びインク耐性を有し、弾性変形可能な材料により形成されている。このような材料として、第1フィルム53は、例えば樹脂材料(ポリイミド系やエポキシ系、ポリプロピレン系等)により形成されている。
【0038】
アクチュエータプレート54は、Z方向を厚さ方向として、第1フィルム53の上面に接着等により固定されている。アクチュエータプレート54は、第1フィルム53を間に挟んで各圧力室61とZ方向で向かい合っている。なお、アクチュエータプレート54は、各圧力室61をまとめて覆う構成に限らず、各圧力室61毎に個別に設けられていてもよい。
【0039】
アクチュエータプレート54は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料で形成されている。アクチュエータプレート54は、分極方向が+Z側の一方向を向くように設定されている。アクチュエータプレート54の両面には、駆動配線75が形成されている。アクチュエータプレート54は、駆動配線75により印加される電圧によって電界が発生することで、Z方向に変形可能に構成されている。アクチュエータプレート54は、Z方向の変形によって圧力室61内の容積を拡大又は縮小させることで、圧力室61内からインクを吐出させる。なお、駆動配線75の構成については後述する。
【0040】
アクチュエータプレート54のうち、各圧力室61に面する部分には、凹部(形状変化部)76が形成されている。凹部76は、アクチュエータプレート54の下面(第1面)に対して上方に窪んでいる。具体的に、凹部76は、平面視において、圧力室61におけるX方向の中央に位置する部分に形成されている。凹部76は、Y方向から見て矩形状に形成されている。なお、図示の例において、上述した第1フィルム53のうち、凹部76に対応する部分は、凹部76の内面に倣って延びている。
【0041】
凹部76の開口幅(アクチュエータプレート54の下面上でのX方向の寸法)は、Y方向の全体に亘って一様になっている。本実施形態において、凹部76の開口幅は、圧力室61におけるX方向の幅に対して20%以上80%以下に設定されていることが好ましい。20%以上に設定することで、製造ばらつきに関わらず、所望の効果を得るために必要な幅の凹部76を形成することができる。80%以下に設定することで、凹部76と側壁62a,62bとの距離を確保してヘッドチップ50の剛性低下を抑制できる。なお、凹部76の開口幅は、Y方向の位置に応じて変化させてもよい。
【0042】
凹部76の最大深さは、アクチュエータプレート54の厚さに対して20%以上80%以下に設定されていることが好ましく、50%以上70%以下に設定されていることがより好ましい。これにより、製造ばらつきに関わらず、所望の効果を得るために必要な深さの凹部76を形成できる。凹部76におけるY方向の長さは、圧力室61におけるY方向の長さよりも短い(図5参照)。図示の例において、凹部76の深さは、Y方向の全体に亘って一様である。但し、凹部76におけるY方向の両端部は、Y方向の外側に向かうに従い漸次浅くなっていてもよい。また、凹部76におけるY方向の長さは、圧力室61におけるY方向の長さ以上であってもよい。
【0043】
第2フィルム55は、アクチュエータプレート54の上面に接着等によって固定されている。第1実施形態において、第2フィルム55は、アクチュエータプレート54の上面全域を覆っている。第2フィルム55は、絶縁性を有し、弾性変形可能な材料により形成されている。このような材料として、第1フィルム53と同様の材料を採用することができる。なお、第2フィルム55は、必須の構成ではない。例えばエポキシ系接着剤やアクリル系接着剤を含む接着剤層を介してアクチュエータプレート54とカバープレート56とが接合されていてもよい。
【0044】
カバープレート56は、Z方向を厚さ方向として、第2フィルム55の上面に接着等により固定されている。カバープレート56におけるZ方向の厚さは、アクチュエータプレート54や流路部材52、各フィルム53,55よりも厚い。第1実施形態において、カバープレート56は、絶縁性を有する材料(例えば、金属酸化物、ガラス、樹脂、セラミックス等)により形成されている。
【0045】
続いて、駆動配線75の構造について説明する。図7は、アクチュエータプレート54の底面図である。図8は、アクチュエータプレート54の平面図である。駆動配線75は、各圧力室61に対応して設けられている。隣り合う圧力室61に対応する駆動配線75同士は、互いに同様の構成になっている。以下の説明では、複数の圧力室61のうち一の圧力室61に対応して設けられた駆動配線75を例にして説明し、他の圧力室61に対応する駆動配線75については説明を適宜省略する。
図7図8に示すように、駆動配線75は、共通配線81と、個別配線82と、を備えている。
共通配線81は、第1共通電極81aと、第2共通電極81bと、下面引き回し配線81cと、上面引き回し配線81dと、共通パッド81eと、貫通配線81fと、を備えている。
【0046】
図4図7に示すように、第1共通電極81aは、アクチュエータプレート54の下面において、各側壁62a,62bとZ方向から見て重なり合う位置にそれぞれ形成されている。具体的に、各第1共通電極81aのうち+X側に位置する第1共通電極81a(以下、+X側共通電極81a1という。)の全体は、側壁62aとZ方向から見て重なり合っている。一方、各第1共通電極81aのうち-X側に位置する第1共通電極81a(以下、-X側共通電極81a2という。)の全体は、側壁62bとZ方向から見て重なり合っている。各第1共通電極81aは、圧力室61と同等の長さでY方向に直線状に延びている。本実施形態において、一の圧力室61に対応する+X側共通電極81a1は、一の圧力室61に対して+X側に隣り合う他の圧力室61の-X側共通電極81a2と共用している。一方、一の圧力室61に対応する-X側共通電極81a2は、一の圧力室61に対して-X側に隣り合う他の圧力室61の+X側共通電極81a1と共用している。なお、各圧力室61間において、共通電極81a1,81a2同士は、互いに分離していてもよい。
【0047】
図4図8に示すように、第2共通電極81bは、アクチュエータプレート54の上面(第2面)において、対応する圧力室61とZ方向から見て重なり合い、かつZ方向から見て第1共通電極81aと重なり合わない位置に配置されている。図示の例において、第2共通電極81bは、圧力室61におけるX方向の中央部を含む領域に形成されている。第2共通電極81bは、圧力室61と同等の長さでY方向に直線状に延びている。
【0048】
図4図7に示すように、下面引き回し配線81cは、アクチュエータプレート54の下面において、各第1共通電極81aにまとめて接続されている。下面引き回し配線81cは、各第1共通電極81aにおける-Y側端部に接続された状態でX方向に延びている。
【0049】
図4図8に示すように、上面引き回し配線81dは、アクチュエータプレート54の上面において、第2共通電極81bに接続されている。上面引き回し配線81dは、第2共通電極81bにおける-Y側端部に接続された状態でX方向に延びている。
【0050】
図5図9に示すように、共通パッド81eは、カバープレート56の上面に形成されている。共通パッド81eは、カバープレート56の上面のうち、Z方向から見て圧力室61と重なり合う部分をY方向に延びている。
【0051】
貫通配線81fは、下面引き回し配線81c、上面引き回し配線81d及び共通パッド81e間を接続している。貫通配線81fは、アクチュエータプレート54、第2フィルム55及びカバープレート56をZ方向に貫通して設けられている。具体的に、アクチュエータプレート54、第2フィルム55及びカバープレート56のうち引き回し配線81c,81dに対して-Y側に位置する部分には、共通配線用孔91が形成されている。共通配線用孔91は、各圧力室61毎に個別に形成されている。下面引き回し配線81c、上面引き回し配線81d及び共通パッド81eにおける-Y側端縁は、共通配線用孔91の開口縁において、貫通配線81fに接続されている。なお、貫通配線81f及び共通配線用孔91は、各圧力室61に対して一括で設けられていてもよい。この場合、共通配線用孔91は、各圧力室61を跨る長さでX方向に延びる。
【0052】
図7図8に示すように、個別配線82は、第1個別電極82aと、第2個別電極82bと、下面引き回し配線82cと、上面引き回し配線82dと、個別パッド82eと、貫通配線82fと、を備えている。
【0053】
図4図7に示すように、第1個別電極82aは、第1共通電極81aとの間で電位差を生じさせるとともに、第2共通電極81bとの間で電位差を生じさせる。第1個別電極82aの少なくとも一部は、第2共通電極81bとZ方向から見て重なり合っている。第1個別電極82aは、各第1共通電極81aに対してX方向に間隔をあけた状態でY方向に延びている。
【0054】
第1個別電極82aは、少なくとも凹部76の内面に形成されている。具体的に、第1個別電極82aは、底面電極82a1と、側面電極82a2と、を備えている。
底面電極82a1は、凹部76の底面76a(下方を向く面)の全域に亘って形成されている。
側面電極82a2は、凹部76の内面のうちX方向で向かい合う一対の内側面76bそれぞれに、全域に亘って形成されている。側面電極82a2の上端縁は、底面電極82a1に接続されている。なお、第1個別電極82aは、凹部76の内面のうち少なくとも一部に形成されていればよい。また、第1個別電極82aは、凹部76の内面に加え、アクチュエータプレート54の下面のうち凹部76の周囲に位置する部分に連なっていてもよい。
【0055】
図4図8に示すように、第2個別電極82bは、第2共通電極81bとの間で電位差を生じさせるとともに、第1共通電極81aとの間で電位差を生じさせる。第2個別電極82bは、アクチュエータプレート54の上面において、第2共通電極81bに対してX方向の両側に位置する部分にそれぞれ形成されている。各第2個別電極82bは、第2共通電極81bに対してX方向に間隔をあけた状態でY方向に延びている。第2個別電極82bにおけるX方向の幅は、第1共通電極81aにおけるX方向の幅よりも狭い。
【0056】
図4図8に示すように、各第2個別電極82bのうち+X側に位置する第2個別電極82b(以下、+X側個別電極82b1という。)は、+X側共通電極81a1との間で電位差を生じさせる。+X側個別電極82b1の一部は、Z方向から見て側壁62aと重なり合っている。+X側個別電極82b1は、側壁62a上において+X側共通電極81a1とZ方向で向かい合っている。
【0057】
各第2個別電極82bのうち-X側に位置する第2個別電極82b(以下、-X側個別電極82b2という。)は、-X側共通電極81a2との間で電位差を生じさせる。-X側個別電極82b1の一部は、Z方向から見て側壁62bと重なり合っている。-X側個別電極82b2は、側壁62b上において-X側共通電極81a2とZ方向で向かい合っている。-X側個別電極82b2の残りの一部は、側壁62bに対して+X側にはみ出している。なお、隣り合う圧力室61間において、一の圧力室61における+X側個別電極82b1と、他の圧力室61における-X側個別電極82b2と、は側壁62a,62b上においてX方向に離間している。
【0058】
図7に示すように、下面引き回し配線82cは、アクチュエータプレート54の下面において、第1個別電極82aに接続されている。下面引き回し配線82cは、第1個別電極82aにおける+Y側端部からX方向の両側に延びている。隣り合う圧力室61に対応する下面引き回し配線82c同士は、互いに分離されている。
図8に示すように、上面引き回し配線82dは、アクチュエータプレート54の上面において、各第2個別電極82bの+Y側端部同士を接続している。
【0059】
図9に示すように、個別パッド82eは、カバープレート56の上面に形成されている。個別パッド82eは、カバープレート56の上面のうち、Z方向から見て圧力室61と重なり合う部分をY方向に延びている。
【0060】
図4図7図8に示すように、貫通配線82fは、対応する下面引き回し配線82c、上面引き回し配線82d及び個別パッド82e間を接続している。貫通配線82fは、アクチュエータプレート54をZ方向に貫通して設けられている。具体的に、アクチュエータプレート54、第2フィルム55及びカバープレート56のうち第1個別電極82aに対して+Y側に位置する部分には、個別配線用孔93が形成されている。個別配線用孔93は、各圧力室61毎に個別に形成されている。対応する下面引き回し配線82c、上面引き回し配線82d及び個別パッド82eにおける+Y側端縁は、個別配線用孔93の開口縁において、貫通配線82fに接続されている。なお、個別配線用孔93は、各圧力室61に対して一括で設けられていてもよい。この場合、個別配線用孔93は、各圧力室61を跨る長さでX方向に延びる。
【0061】
図4に示すように、駆動配線75のうち流路部材52と向かい合う部分は、第1フィルム53に覆われている。具体的に、駆動配線75のうち、第1共通電極81a、第1個別電極82a、下面引き回し配線81c,82c及び貫通配線81f,82fは、第1フィルム53に覆われている。一方、駆動配線75のうちアクチュエータプレート54の上面に形成された部分は、第2フィルム55に覆われている。具体的に、駆動配線75のうち、第2共通電極81b、第2個別電極82b、上面引き回し配線81d,82d及び貫通配線81f,82fは、第2フィルム55に覆われている。
【0062】
カバープレート56の上面には、フレキシブルプリント基板(不図示)が圧着されている。フレキシブルプリント基板は、カバープレート56の上面において、共通パッド81e及び個別パッド82eに実装されている。
【0063】
[プリンタ1の動作方法]
次に、上述したように構成されたプリンタ1を利用して、被記録媒体Pに文字や図形等を記録する場合について以下に説明する。
なお、初期状態として、図1に示す4つのインクタンク4にはそれぞれ異なる色のインクが十分に封入されているものとする。また、インクタンク4内のインクがインク循環機構6を介してインクジェットヘッド5内に充填された状態となっている。
【0064】
このような初期状態のもと、プリンタ1を作動させると、被記録媒体Pが搬送機構2,3のローラ11,12に挟み込まれながら+X側に搬送される。また、これと同時にキャリッジ29がY方向に移動することで、キャリッジ29に搭載されたインクジェットヘッド5がY方向に往復移動する。
インクジェットヘッド5が往復移動する間に、各インクジェットヘッド5よりインクを被記録媒体Pに適宜吐出させる。これにより、被記録媒体Pに対して文字や画像等の記録を行うことができる。
【0065】
ここで、各インクジェットヘッド5の動きについて、以下に詳細に説明する。
第1実施形態のような循環式サイドシュートタイプのインクジェットヘッド5では、まず図2に示す加圧ポンプ24及び吸引ポンプ25を作動させることで、循環流路23内にインクを流通させる。この場合、インク供給管21を流通するインクは、入口側共通流路64及び入口側連通路65を通して各圧力室61内に供給される。各圧力室61内に供給されたインクは、各圧力室61をY方向に流通する。その後、インクは、出口側連通路67を通じて出口側共通流路66に排出された後、インク排出管22を通してインクタンク4に戻される。これにより、インクジェットヘッド5とインクタンク4との間でインクを循環させることができる。
【0066】
そして、キャリッジ29(図1参照)の移動によってインクジェットヘッド5の往復移動が開始されると、フレキシブルプリント基板を介して共通電極81a,81b及び個別電極82a,82b間に駆動電圧が印加される。この際、共通電極81a,81bを基準電位GNDとし、個別電極82a,82bを駆動電位Vddとして駆動電圧を印加する。
【0067】
図10は、ヘッドチップ50について、インク吐出時における変形の挙動を説明するための説明図である。
図10に示すように、駆動電圧の印加により、第1共通電極81a及び第1個別電極82a間、並びに第2共通電極81b及び第2個別電極82b間には、X方向で電位差が生じる。X方向に生じた電位差により、アクチュエータプレート54は、シェアモードによりZ方向に厚み滑り変形する。具体的に、第1共通電極81a及び第1個別電極82a間には、X方向で互いに離れる向きに電界が生じる(矢印E1参照)。また、アクチュエータプレート54の上面において、第2共通電極81b及び第2個別電極82b間には、X方向で互いに接近する向きに電界が生じる(矢印E2参照)。その結果、アクチュエータプレート54のうち、各圧力室61に対応する部分は、X方向の両端部から中央部に向かうに従い上方に向けてせん断変形する。特に、本実施形態では、凹部76の内側面76bに側面電極82a2が形成されているため、側面電極82a2と第1共通電極81aとの間に発生する電位差によってX方向の外側に向かうに従い下方に向いた状態で電界が発生する。そのため、アクチュエータプレート54のうち凹部76に対してX方向の外側に位置する部分(以下、変形助長部54aという。)が各側壁62a,62bを起点に上方に立ち上がるように変形し易い。
【0068】
一方、第1共通電極81a及び第2個別電極82b間、並びに第1個別電極82a及び第2共通電極81b間には、Z方向で電位差が生じる。Z方向に生じた電位差により、アクチュエータプレート54には分極方向(Z方向)に平行な方向に電界が生じる(矢印E0参照)。その結果、アクチュエータプレート54は、ベンドモードによりZ方向に伸縮変形する。すなわち、第1実施形態のヘッドチップ50では、アクチュエータプレート54のシェアモード及びベンドモードに起因する変形が、何れもZ方向に及ぶことになる。具体的に、駆動電圧の印加により、アクチュエータプレート54は、圧力室61から離間する向きに変形する。これにより、圧力室61内の容積が拡大する。その後、駆動電圧をゼロにすると、アクチュエータプレート54が復元することで、圧力室61内の容積が元に戻ろうとする。アクチュエータプレート54が復元する過程で、圧力室61内の圧力が増加し、圧力室61内のインクがノズル孔71を通じて外部に吐出される。外部に吐出されたインクが被記録媒体Pに着弾することで、被記録媒体Pに印刷情報が記録される。
【0069】
<ヘッドチップ50の製造方法>
次に、上述したヘッドチップ50の製造方法について説明する。図11は、ヘッドチップ50の製造方法を説明するためのフローチャートである。図12図24は、ヘッドチップ50の製造方法を説明するための工程図であって、図4図5に対応する断面図である。以下の説明では、便宜上、ヘッドチップ50をチップレベルで製造する場合を例にして説明する。
図11に示すように、ヘッドチップ50の製造方法は、アクチュエータ第1加工工程S01と、カバー第1加工工程S02と、第1接合工程S03と、フィルム加工工程S04と、第2接合工程S05と、アクチュエータ第2加工工程S06と、カバー第2加工工程S07と、第3接合工程S08と、流路部材第1加工工程S09と、第4接合工程S10と、流路部材第2加工工程S11と、第5接合工程S11と、を備えている。
【0070】
図12に示すように、アクチュエータ第1加工工程S01では、まず共通配線用孔91及び個別配線用孔93の一部となる凹部100,101を形成する(凹部形成工程)。具体的に、アクチュエータプレート54の上面に対し、共通配線用孔91及び個別配線用孔93の形成領域が開口したマスクパターンを形成する。続いて、マスクパターンを通してアクチュエータプレート54の上面に対してサンドブラスト等を行う。これにより、アクチュエータプレート54には、上面に対して窪んだ凹部100,101が形成される。なお、凹部100,101はダイサー加工や精密ドリル加工、エッチング加工等によって形成してもよい。
【0071】
次に、図13に示すように、アクチュエータ第1加工工程S01では、駆動配線75のうち、アクチュエータプレート54の上面に位置する部分を形成する(第1配線形成工程)。第1配線形成工程では、まずアクチュエータプレート54の上面に対し、駆動配線75の形成領域が開口したマスクパターンを形成する。次に、アクチュエータプレート54に対し、例えば蒸着等により電極材料を成膜する。電極材料は、マスクパターンの開口部を通してアクチュエータプレート54に成膜される。これにより、アクチュエータプレート54の上面、及び凹部100,101の内面に駆動配線75が形成される。
【0072】
図14に示すように、カバー第1加工工程S02では、カバープレート56に対し、共通配線用孔91及び個別配線用孔93の一部となる貫通孔102,103を形成する。貫通孔102,103は、アクチュエータプレート54に凹部100,101を形成する方法と同様に、サンドブラストやダイサー加工等によって形成することができる。
【0073】
図15に示すように、第1接合工程S03では、アクチュエータプレート54の上面に、接着剤等によって第2フィルム55を貼り付ける。
フィルム加工工程S04では、共通配線用孔91及び個別配線用孔93の一部となる貫通孔107,108を形成する。貫通孔107,108は、第2フィルム55のうち対応する凹部100,101とZ方向から見て重なり合う部分に対し、例えばレーザ加工等を行うことで形成できる。これにより、凹部100及び貫通孔107同士、並びに凹部101及び貫通孔108同士が互いに連通する。
【0074】
図16に示すように、第2接合工程S05では、第2フィルム55の上面に、接着剤等によってカバープレート56を貼り付ける。これにより、凹部100及び貫通孔102,107同士、並びに凹部101及び貫通孔103,108同士が互いに連通する。
【0075】
図17に示すように、アクチュエータ第2加工工程S06では、アクチュエータプレート54の下面に対してグラインド加工を施す(グラインド工程)。この際、アクチュエータプレート54の下面において、凹部100,101が開口する位置までアクチュエータプレート54をグラインドすることで、共通配線用孔91及び個別配線用孔93が形成される。
【0076】
次に、図18に示すように、アクチュエータ第2加工工程S06では、アクチュエータプレート54の下面に凹部76を形成する(凹部形成工程)。凹部76は、例えばアクチュエータプレート54の下面に対してダイサー加工を施すことで形成される。
図19に示すように、駆動配線75のうち、アクチュエータプレート54の下面、凹部76の内面及び配線用孔91,93の内面に位置する部分を形成する(第2配線形成工程)。第2配線形成工程では、まずアクチュエータプレート54の下面に対し、駆動配線75の形成領域が開口したマスクパターンを形成する。続いて、アクチュエータプレート54に対し、例えば蒸着等により電極材料を成膜する。電極材料は、マスクパターンの開口部を通してアクチュエータプレート54に成膜される。これにより、アクチュエータプレート54の下面、凹部76の内面及び配線用孔91,93の内面に駆動配線75が形成される。
【0077】
図20に示すように、カバー第2加工工程S07では、パッド81e,82e及び貫通配線81f,82fをカバープレート56に形成する。具体的には、まずカバープレート56の上面に対し、パッド81e,82e及び貫通配線81f,82fの形成領域が開口するマスクパターンを形成する。次に、カバープレート56に対し、例えば蒸着等により電極材料を成膜する。電極材料は、マスクパターンの開口部を通してカバープレート56に成膜される。これにより、パッド81e,82e及び貫通配線81f,82fが形成される。
【0078】
図21に示すように、第3接合工程S08では、アクチュエータプレート54の下面に、接着剤等によって第1フィルム53を貼り付ける。
図22に示すように、流路部材第1加工工程S09では、流路部材52に対して流路60(図6参照)や圧力室61を形成する。流路60や圧力室61は、流路部材52に対して例えばダイサーによる切削加工やサンドブラスト等を行うことで形成される。そして、流路部材52のうち、隣り合う圧力室61を仕切る部分が区画壁62として残存する。
【0079】
図23に示すように、第4接合工程S10では、第1フィルム53の下面に、接着剤等によって流路部材52を貼り付ける。
【0080】
図24に示すように、流路部材第2加工工程S11では、流路部材52の下面に対してグラインド加工を施す(グラインド工程)。この際、流路部材52の下面において、流路60や圧力室61が開口する位置まで流路部材52をグラインドする。
【0081】
第5接合工程S12では、ノズル孔71と圧力室61とを位置合わせした状態で、流路部材52の下面にノズルプレート51を貼り付ける。
以上により、ヘッドチップ50が完成する。
【0082】
ここで、第1実施形態のヘッドチップ50は、アクチュエータプレート54の下面において凹部(形状変化部)76の内面に形成された第1個別電極(第1電極)82aと、アクチュエータプレート54の上面において第1個別電極82aと向き合って配置された第2共通電極(第1対向電極)81bと、を備えている構成とした。
この構成によれば、第1個別電極82a及び第2共通電極81b間に電位差を発生させることで、アクチュエータプレート54の分極方向に電界を発生させることができる。これにより、アクチュエータプレート54をベンドモード(バイモルフ型)でZ方向に変形させることで、圧力室61内の容積を変化させることができる。
特に、本実施形態では、凹部76の内面に第1個別電極82aを形成することで、第1個別電極82aの表面積を確保できる。そのため、第1個別電極82a及び第2共通電極81b間で発生する電位差を確保し易い。その結果、アクチュエータプレート54に生じる電界を大きくすることができ、インク吐出時における圧力室61内の発生圧力を向上させることができる。また、凹部76の内面に第1個別電極82aを形成するだけで発生圧力を向上させることができるので、従来のようにアクチュエータプレートを複数枚重ねる構成に比べ、製造効率や歩留まりの向上を図ることができる。しかも、アクチュエータプレート54に凹部76を形成することで、アクチュエータプレート54のZ方向での剛性を高めることができる。
【0083】
第1実施形態のヘッドチップ50において、第1個別電極82aは、凹部76の底面(第1方向を向く端面)76aに形成された底面電極82a1と、凹部76の内側面(側面)76bに形成された側面電極82a2と、を備える構成とした。
この構成によれば、第1個別電極82aの表面積を確保できるので、インク吐出時における圧力室61内の発生圧力を向上させることができる。
しかも、凹部76の底面76aに底面電極82a1を形成することで、第2共通電極81bと第1個別電極82aとの距離を近付けることができる。これにより、アクチュエータプレート54に発生する電界を大きくし易くなり、圧力室61内の発生圧力を効果的に向上させることができる。
【0084】
第1実施形態のヘッドチップ50は、アクチュエータプレート54の下面において第1個別電極82aと隣り合って形成された第1共通電極(第2電極)81aを備えている構成とした。
この構成によれば、第1個別電極82a及び第1共通電極81a間に電位差を発生させることで、アクチュエータプレート54の分極方向に交差する方向に電界を発生させることができる。これにより、アクチュエータプレート54をシェアモード(ルーフシュート型)でZ方向に変形させることで、圧力室61の容積を変化させることができる。この場合、シェアモード及びベンドモードの双方の駆動モードによってアクチュエータプレート54をZ方向に変形させることができ、圧力室61の発生圧力を向上させることができる。
しかも、本実施形態では、凹部76の内側面76bに側面電極82a2が形成されているため、側面電極82a2と第1共通電極81aとの間に発生する電位差によってX方向の外側に向かうに従い下方に向いた状態で電界が発生する。そのため、アクチュエータプレート54の変形助長部54aが各側壁62a,62bを起点に上方に立ち上がるように変形し易い。つまり、アクチュエータプレート54が復元する際に、変形助長部54aが下方に向かうに従いX方向の内側に向けて変形することで、圧力室61内を効果的に加圧することができる。その結果、圧力室61内の発生圧力を効果的に向上させることができる。
【0085】
第1実施形態のヘッドチップ50において、アクチュエータプレート54の上面には、第1共通電極81aと向かい合うとともに、第2共通電極81bと隣り合う第2個別電極(第2対向電極)82bが形成された構成とした。
この構成によれば、アクチュエータプレート54の上面において、第2共通電極81bと第2個別電極82bとが隣り合って形成されるので、第2共通電極81bと第2個別電極82bとの間に発生する電位差によってアクチュエータプレート54をシェアモード(ルーフシュート型)により変形させることができる。
また、第1共通電極81a及び第2個別電極82b間に発生する電位差によってアクチュエータプレート54をベンドモードにより変形させることができる。その結果、発生圧力の更なる向上及び、省電力化を図ることができる。
【0086】
第1実施形態のインクジェットヘッド5及びプリンタ1では、上述したヘッドチップ50を備えているので、所望の吐出性能が発揮できる高品質なインクジェットヘッド5及びプリンタ1を提供できる。
【0087】
(第2実施形態)
図25は、第2実施形態に係るヘッドチップ50の断面図である。
図25に示すように、第2実施形態に係るヘッドチップ50は、第1実施形態に係るヘッドチップ50に対し、第2個別電極82b(図4参照)を除いた構成である。したがって、アクチュエータプレート54の上面には、第2共通電極81bのみしか形成されていない。
【0088】
第2実施形態によれば、第2個別電極82bを除くことで、電極の面積を削減でき、アクチュエータプレート54の静電容量を小さくすることができる。そのため、アクチュエータプレート54の応答性を向上させることができるとともに、アクチュエータプレート54での発熱も抑制できる。
【0089】
(第3実施形態)
図26は、第3実施形態に係るヘッドチップ50の断面図である。
図26に示すヘッドチップ50において、アクチュエータプレート54の上面のうち、第1共通電極81aと向かい合う位置には、第3共通電極300が形成されている。第3共通電極300は、第2共通電極81bに対してX方向の両側に位置する部分にそれぞれ形成されている。第3共通電極300は、第2共通電極81bに対してX方向に間隔をあけた状態でY方向に延びている。
【0090】
各第3共通電極300のうち+X側に位置する第3共通電極300aの一部は、Z方向から見て側壁62aと重なり合っている。第3共通電極300aは、側壁62a上において+X側共通電極81a1とZ方向で向かい合っている。
【0091】
各第3共通電極300のうち-X側に位置する第3共通電極300bの一部は、Z方向から見て側壁62bと重なり合っている。第3共通電極300bは、側壁62b上において-X側共通電極81a2とZ方向で向かい合っている。なお、隣り合う圧力室61間において、一の圧力室61における第3共通電極300aと、他の圧力室61における第3共通電極300bと、は側壁62a,62b上においてX方向に離間している。
【0092】
第3実施形態のヘッドチップ50では、アクチュエータプレート54の上面に共通電極(第2共通電極81b及び第3共通電極300)のみが配置されるので、アクチュエータプレート54の上面での短絡のリスクを抑制できる。なお、第2共通電極81b及び第3共通電極300を一体化してもよい。
【0093】
(第4実施形態)
図27は、第4実施形態に係るヘッドチップ50の断面図である。
図27に示すヘッドチップ50において、アクチュエータプレート54の上面には、溝部400が形成されている。溝部400は、アクチュエータプレート54の上面のうち、第2共通電極81bに対してX方向の両側にそれぞれ設けられている。図示の例において、溝部400は、側壁62a,62bとZ方向で向かい合う位置に設けられている。なお、溝部400は、対応する圧力室61とZ方向で向かい合う位置に設けられていてもよい。
【0094】
溝部400におけるZ方向の深さは、凹部76におけるZ方向の深さよりも深い。溝部400におけるX方向の幅は、凹部76におけるX方向の幅よりも狭い。なお、溝部400におけるY方向の長さは、凹部76におけるY方向の長さと同等になっている。但し、溝部400の各種寸法は、適宜変更が可能である。
【0095】
溝部400の内面には、第3共通電極(溝内電極)401が形成されている。本実施形態において、第3共通電極401は、溝部400の内面全域に亘って形成されている。但し、第3共通電極401は、溝部400の内面のうち、少なくとも一部に形成されていればよい。
【0096】
第4実施形態のヘッドチップ50では、第1個別電極82aと第3共通電極401との間に生じる電位差によって、アクチュエータプレート54には分極方向に交差する方向に電界が生じる。その結果、アクチュエータプレート54の変形助長部54a(凹部76と溝部400とで区画された部分)は、シェアモードにより上方に向かうに従いX方向の外側に倒れ込むように厚み滑り変形する。これにより、インク吐出時において、溝部400の容積が拡大又は縮小するように変形助長部54aが変形する。すなわち、溝部400が変形助長部54aの変形を許容する逃げ部として機能することから、アクチュエータプレート54の変形量を確保し易くなり、圧力室61の発生圧力を向上させることができる。
【0097】
なお、第4実施形態では、溝部400に第3共通電極401が形成された構成について説明したが、この構成に限られない。例えば図28に示すように、アクチュエータプレート54のうち凹部76に対してX方向の両側に溝部400のみが設けられていてもよい。このような構成においても、アクチュエータプレート54のうち、各圧力室61に対応する部分が上方に向けて変形する際に、溝部400がアクチュエータプレート54の変形を許容する逃げ部として機能する。これにより、アクチュエータプレート54の変形量を確保し易くなる。
【0098】
(第5実施形態)
図29に示すヘッドチップ50において、アクチュエータプレート54の上面のうち、溝部400に対してX方向の内側に位置する部分には、第2個別電極82bが設けられている。第2個別電極82bは、第2共通電極81bと第3共通電極401との間に間隔をあけた状態でY方向に延びている。
【0099】
第5実施形態において、インク吐出時には、第2共通電極81b及び第2個別電極82b間に生じた電位差により、アクチュエータプレート54をシェアモードによってZ方向に厚み滑り変形させることができる。これにより、圧力室61内の発生圧力を向上させることができる。
【0100】
(第6実施形態)
図30に示すヘッドチップ50において、溝部400はアクチュエータプレート54を貫通している。図示の例において、第3共通電極401と第1共通電極81aとは一体に連なっている。但し、第3共通電極401と第1共通電極81aとは、離間していてもよい。
【0101】
第6実施形態では、溝部400がアクチュエータプレート54を貫通しているので、インク吐出時における変形助長部54aの変形を許容し易い。そのため、圧力室61の発生圧力を向上させることができる。
【0102】
(その他の変形例)
なお、本開示の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述した実施形態では、液体噴射記録装置の一例として、インクジェットプリンタ1を例に挙げて説明したが、プリンタに限られるものではない。例えば、ファックスやオンデマンド印刷機等であってもよい。
上述した実施形態では、印刷時にインクジェットヘッドが被記録媒体に対して移動する構成(いわゆる、シャトル機)を例にして説明をしたが、この構成に限られない。本開示に係る構成は、インクジェットヘッドを固定した状態で、インクジェットヘッドに対して被記録媒体を移動させる構成(いわゆる、固定ヘッド機)に採用してもよい。
上述した実施形態では、被記録媒体Pが紙の場合について説明したが、この構成に限られない。被記録媒体Pは、紙に限らず、金属材料や樹脂材料であってもよく、食品等であってもよい。
上述した実施形態では、液体噴射ヘッドが液体噴射記録装置に搭載された構成について説明したが、この構成に限られない。すなわち、液体噴射ヘッドから噴射される液体は、被記録媒体に着弾させるものに限らず、例えば調剤中に配合する薬液や、食品に添加する調味料や香料等の食品添加物、空気中に噴射する芳香剤等であってもよい。
【0103】
上述した実施形態では、Z方向が重力方向に一致する構成について説明したが、この構成のみに限らず、Z方向を水平方向に沿わせてもよい。
上述した実施形態では、循環式サイドシュートタイプのヘッドチップ50を例にして説明したが、この構成に限られない。ヘッドチップは、圧力室61における延在方向(Y方向)の端部からインクを吐出する、いわゆるエッジシュートタイプであってもよい。
【0104】
上述した実施形態では、シェアモード及びベンドモードの双方の変形モードに起因してアクチュエータプレート54を変形させる構成について説明したが、この構成に限られない。本開示のヘッドチップ50は、少なくともベンドモードによってアクチュエータプレート54を変形させてもよい。ベンドモードのみを採用する場合には、少なくとも凹部76とZ方向から見て重なり合う位置で、共通電極及び個別電極がアクチュエータプレート54の両面で向かい合って配置されていればよい。
上述した実施形態では、凹部76の内面に第1個別電極82aが形成され、アクチュエータプレート54の上面に第2共通電極81bが形成された構成について説明したが、この構成に限られない。凹部76の内面に共通電極が形成され、アクチュエータプレート54の上面のうち凹部76と向かい合う部分に個別電極が形成されていてもよい。
【0105】
上述した実施形態では、電圧の印加によって圧力室61の容積が拡大する方向にアクチュエータプレート54を変形させた後、アクチュエータプレート54を復元させることで、インクを吐出させる構成(いわゆる、引き打ち)について説明したが、この構成に限られない。本開示に係るヘッドチップは、電圧の印加によって圧力室61の容積が縮小する方向にアクチュエータプレート54を変形させることで、インクを吐出させる構成(いわゆる、押し打ち)であってもよい。押し打ちを行う場合、駆動電圧の印加により、アクチュエータプレート54は、圧力室61内に向けて膨出するように変形する。これにより、圧力室61内の容積が減少することで、圧力室61内の圧力が増加し、圧力室61内のインクがノズル孔71を通じて外部に吐出される。駆動電圧をゼロにすると、アクチュエータプレート54が復元する。その結果、圧力室61内の容積が元に戻る。なお、押し打ちのヘッドチップは、アクチュエータプレート54の分極方向、及び電界の向き(共通電極及び個別電極のレイアウト)の何れかを、引き打ちのヘッドチップに対して逆に設定することで実現可能である。
【0106】
上述した実施形態では、アクチュエータプレート54の下面に凹部76を一つ設けた場合について説明したが、この構成に限られない。例えば図31に示すヘッドチップ50のように、凹部76を複数設けてもよい。この場合、例えば第1個別電極82aは、複数の凹部76を跨るように設けてもよく、各凹部76間で別々に設けてもよい。また、凹部76は、X方向及びY方向の何れかに複数設けることが可能である。この場合、各凹部76の寸法は、適宜変更が可能である。
上述した実施形態では、形状変化部としての凹部76をY方向から見て矩形状に形成した場合について説明したが、この構成に限られない。凹部76は、Y方向から見て台形状や三角形状、半円形状等に形成されていてもよい。
【0107】
上述した実施形態では、形状変化部の一例として、アクチュエータプレート54の下面に凹部76を設けた場合について説明したが、この構成に限られない。形状変化部は、図32に示すように、アクチュエータプレート54の下面に対して下方に突出する凸部500を採用してもよい。この場合、例えば第1個別電極82aは、凸部500の頂面(第1方向を向く端面)500a及び外側面(側面)500bのうち、少なくとも一部に形成されていればよい。図示の例において、第1個別電極82aは、頂面500a及び外側面500bの全域に亘って形成されている。
【0108】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0109】
1:プリンタ(液体噴射記録装置)
5:インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)
50:ヘッドチップ
52:流路部材
54:アクチュエータプレート
60:流路
61:圧力室
76:凹部(形状変化部)
76a:底面(端面)
76b:内側面(側面)
81a:第1共通電極(第2電極、駆動電極)
81b:第2共通電極(第1対向電極、駆動電極)
82a:第1個別電極(第1電極、駆動電極)
82b:第2個別電極(第2対向電極、駆動電極)
400:溝部
401:第3共通電極(溝内電極)
500:凸部(形状変化部)
500a:頂面(端面)
500b:外側面(側面)
図1
図2
図3
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