(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086222
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240620BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B41J2/14 303
B41J2/14 611
B41J2/14 607
B41J2/16 303
B41J2/16 503
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201245
(22)【出願日】2022-12-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】中山 仁
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AG12
2C057AG31
2C057AG45
2C057AG91
2C057AN01
2C057AP13
2C057AP14
2C057AP24
2C057BA03
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】圧力室内のインクに対して効果的に弾性エネルギーを伝え、圧力室の発生圧力を向上させることができるヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置を提供する。
【解決手段】本開示の一態様に係るヘッドチップは、第1方向に貫通する圧力室が第1方向に交差する第2方向に複数配列された流路部材と、第1方向に変形可能なアクチュエータプレートを含み、圧力室を第1方向の第1側から閉塞した状態で流路部材上に接合された第1部材と、圧力室に連通する噴射孔が形成された噴射孔プレートを含み、圧力室を第1方向のうち第1側と反対側である第2側から閉塞した状態で流路部材上に接合された第2部材と、を備えている。流路部材は、隣り合う圧力室同士を区画する区画壁を備えている。区画壁と第2部材との接合面積は、区画壁と第1部材との接合面積よりも大きい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に貫通する圧力室が前記第1方向に交差する第2方向に複数配列された流路部材と、
前記第1方向に変形可能なアクチュエータプレートを含み、前記圧力室を前記第1方向の第1側から閉塞した状態で前記流路部材上に接合された第1部材と、
前記圧力室に連通する噴射孔が形成された噴射孔プレートを含み、前記圧力室を前記第1方向のうち第1側と反対側である第2側から閉塞した状態で前記流路部材上に接合された第2部材と、を備え、
前記流路部材は、隣り合う前記圧力室同士を区画する区画壁を備え、
前記区画壁と前記第2部材との接合面積は、前記区画壁と前記第1部材との接合面積よりも大きいヘッドチップ。
【請求項2】
前記区画壁のうち、隣り合う前記圧力室間を前記第2方向に区画する部分は、前記第1方向の第1側に位置するものほど、前記第2方向の寸法が小さくなる段付き形状に形成されている請求項1に記載のヘッドチップ。
【請求項3】
前記流路部材のうち、前記第1方向から見て前記第2方向に交差する第3方向で前記圧力室に対して一方側に位置する部分には、共通流路が形成され、
前記区画壁には、前記第3方向に延びるとともに、前記共通流路と複数の前記圧力室とを各別に接続する複数の連通路が形成され、
前記連通路の前記第3方向に直交する流路断面積は、前記圧力室の前記第3方向に直交する流路断面積よりも小さい請求項1又は請求項2に記載のヘッドチップ。
【請求項4】
前記圧力室は、前記第3方向で前記連通路から離れるに従い前記第3方向に直交する流路断面積が漸次大きくなっている請求項3に記載のヘッドチップ。
【請求項5】
前記流路部材は、前記圧力室に面する部分であって、前記第1方向から見て前記噴射孔と重なり合わない位置に、前記区画壁のうち前記第1方向に交差する方向で向かい合う部分同士を接続する接続部を備えている請求項1又は請求項2に記載のヘッドチップ。
【請求項6】
前記アクチュエータプレートは、前記第1方向を分極方向に設定されており、
前記アクチュエータプレートのうち、前記第1方向の第1側を向く第1面に形成された第1電極と、
前記アクチュエータプレートのうち、前記第1方向の第2側を向く第2面において、前記第1電極に向かい合って形成され、前記第1電極との間で電位差を生じさせる第1対向電極と、
前記アクチュエータプレートのうち、前記第2面において前記第1対向電極と隣り合って形成されるとともに、前記第1対向電極との間で電位差を生じさせる第2電極と、を備えている請求項1又は請求項2に記載のヘッドチップ。
【請求項7】
前記噴射孔プレートは、金属製である請求項1又は請求項2に記載のヘッドチップ。
【請求項8】
前記噴射孔プレートは、前記流路部材に直接接合されている請求項1又は請求項2に記載のヘッドチップ。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のヘッドチップを備えている液体噴射ヘッド。
【請求項10】
請求項9に記載の液体噴射ヘッドを備えている液体噴射記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタに搭載されるヘッドチップは、圧力室が形成された流路部材と、圧力室の一面を閉塞する圧電材料からなるアクチュエータプレートと、を備えている(例えば、下記特許文献1参照)。この種のヘッドチップでは、アクチュエータプレートに発生させた電界によってアクチュエータプレートを変形させることで、圧力室の容積を拡大又は縮小させる。これにより、圧力室内に圧力変動が生じることで、圧力室内のインクが、ノズル孔を通じて吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近時では、ノズル密度の向上等を目的として、流路部材のうち隣り合う圧力室間を仕切る部分(区画壁)の幅が狭くなる傾向にある。区画壁の幅が狭くなると、区画壁の剛性が低下する。この場合、インク吐出時において、アクチュエータプレートの変形により発生する弾性エネルギーが、区画壁の変形によって吸収されるおそれがあった。すなわち、従来のヘッドチップにあっては、圧力室内のインクに対して効果的に弾性エネルギーを伝えることが難しく、圧力室の発生圧力を向上させる点で改善の余地があった。
【0005】
本開示は、圧力室内のインクに対して効果的に弾性エネルギーを伝え、圧力室の発生圧力を向上させることができるヘッドチップ、液体噴射ヘッド及び液体噴射記録装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は以下の態様を採用した。
(1)本開示の一態様に係るヘッドチップは、第1方向に貫通する圧力室が前記第1方向に交差する第2方向に複数配列された流路部材と、前記第1方向に変形可能なアクチュエータプレートを含み、前記圧力室を前記第1方向の第1側から閉塞した状態で前記流路部材上に接合された第1部材と、前記圧力室に連通する噴射孔が形成された噴射孔プレートを含み、前記圧力室を前記第1方向のうち第1側と反対側である第2側から閉塞した状態で前記流路部材上に接合された第2部材と、を備え、前記流路部材は、隣り合う前記圧力室同士を区画する区画壁を備え、前記区画壁と前記第2部材との接合面積は、前記区画壁と前記第1部材との接合面積よりも大きい。
本態様によれば、区画壁と第2部材との接合面積を、区画壁と第1部材との接合面積と同等にする場合に比べ、圧力室の容積を確保した上で、区画壁の剛性を確保できる。これにより、アクチュエータプレートの変形に伴う圧力室内の圧力変動時において、区画壁の変形を抑制できるので、圧力室内の液体に対して効果的に弾性エネルギーを伝えることができる。その結果、圧力室の発生圧力を向上させることができる。
【0007】
(2)上記(1)の態様に係るヘッドチップにおいて、前記区画壁のうち、隣り合う前記圧力室間を前記第2方向に区画する部分は、前記第1方向の第1側に位置するものほど、前記第2方向の寸法が小さくなる段付き形状に形成されていることが好ましい。
本態様によれば、圧力室の容積を確保した上で、所望の発生圧力を得ることができる。また、例えば区画壁をテーパ状に形成する場合に比べ、加工性を向上させることができる。
【0008】
(3)上記(1)又は(2))の態様に係るヘッドチップにおいて、前記流路部材のうち、前記第1方向から見て前記第2方向に交差する第3方向で前記圧力室に対して一方側に位置する部分には、共通流路が形成され、前記区画壁には、前記第3方向に延びるとともに、前記共通流路と複数の前記圧力室とを各別に接続する複数の連通路が形成され、前記連通路の前記第3方向に直交する流路断面積は、前記圧力室の前記第3方向に直交する流路断面積よりも小さいことが好ましい。
本態様によれば、隣り合う圧力室間の距離に比べて、隣り合う連通路間の距離を長くすることができる。これにより、隣り合う圧力室間において、共通流路を通じた圧力室間の距離を確保できる。そのため、一の圧力室での圧力変動が共通流路及び入口側連通路を通じて他の圧力室に伝播される、いわゆるクロストークを抑制できる。しかも、連通路の流路断面積が、圧力室の流路断面積よりも小さいため、連通路を通じて共通流路から圧力室に圧力変動が伝播することを抑制し易い。
【0009】
(4)上記(1)から(3)の何れかの態様に係るヘッドチップにおいて、前記圧力室は、前記第3方向で前記連通路から離れるに従い前記第3方向に直交する流路断面積が漸次大きくなっていることが好ましい。
本態様によれば、連通路から圧力室内に流入する液体を、圧力室内でスムーズに流通させることができる。
【0010】
(5)上記(1)から(4)の何れかの態様に係るヘッドチップにおいて、前記流路部材は、前記圧力室に面する部分であって、前記第1方向から見て前記噴射孔と重なり合わない位置に、前記区画壁のうち前記第1方向に交差する方向で向かい合う部分同士を接続する接続部を備えていることが好ましい。
本態様によれば、区画壁のうち向かい合う部分同士が接続部によって接続されているため、区画壁の剛性を向上させることができる。その結果、アクチュエータプレートの変形に伴う圧力室内の圧力変動時において、区画壁の変形を抑制できるので、圧力室内の液チアに対して効果的に弾性エネルギーを伝えることができる。よって、圧力室の発生圧力を向上させることができる。
しかも、流路部材の下面を加工して圧力室を貫通させる際に、区画壁のうち向かい合う部分同士が分離しないので、製造効率や歩留まりの向上を図ることができる。
【0011】
(6)上記(1)から(5)の何れかの態様に係るヘッドチップにおいて、前記アクチュエータプレートは、前記第1方向を分極方向に設定されており、前記アクチュエータプレートのうち、前記第1方向の第1側を向く第1面に形成された第1電極と、前記アクチュエータプレートのうち、前記第1方向の第2側を向く第2面において、前記第1電極に向かい合って形成され、前記第1電極との間で電位差を生じさせる第1対向電極と、前記アクチュエータプレートのうち、前記第2面において前記第1対向電極と隣り合って形成されるとともに、前記第1対向電極との間で電位差を生じさせる第2電極と、を備えていることが好ましい。
本態様によれば、第1電極及び第2電極間に電位差を発生させることで、アクチュエータプレートの分極方向に交差する方向に電界を発生させることができる。これにより、アクチュエータプレートをシェアモード(ルーフシュート型)で第1方向に変形させることで、圧力室の容積を変化させることができる。また、第1電極及び第1対向電極間に電位差を発生させることで、アクチュエータプレートの分極方向にも電界を発生させることができる。これにより、アクチュエータプレートをベンドモード(バイモルフ型)で第1方向に変形させることで、圧力室の容積を変化させることができる。すなわち、シェアモード及びベンドモードの双方でアクチュエータプレートを第1方向に変形させることで、液体吐出時における圧力室内の発生圧力を向上させることができる。
【0012】
(7)上記(1)から(6)の何れかの態様に係るヘッドチップにおいて、前記噴射孔プレートは、金属製であることが好ましい。
本態様によれば、噴射孔プレートの剛性を確保し易くなるので、アクチュエータプレートの変形に伴う圧力室内の圧力変動時において、噴射孔プレートが変形し難くなる。そのため、アクチュエータプレートの変形が液体に伝播し易くなり、所望の発生圧力を得やすい。
【0013】
(8)上記(1)から(7)の何れかの態様に係るヘッドチップにおいて、前記噴射孔プレートは、前記流路部材に直接接合されていることが好ましい。
本態様によれば、第2部材を噴射孔プレートの単一部材により構成できる。これにより、流路部材への第2部材の接合工程を簡略化することができ、低コスト化や歩留まりの向上を図ることができる。また、接合工程を簡略化することで、ヘッドチップの組立後において、接合部分に起因したヘッドチップの不具合等の発生を抑制できる。
【0014】
(9)本開示に係る液体噴射ヘッドは、上記(1)から(8)の何れかの態様に係るヘッドチップを備えている。
本態様によれば、上記態様に係るヘッドチップを備えているので、所望の噴射性能が発揮できる高品質な液体噴射ヘッドを提供できる。
【0015】
(10)本開示の一態様に係る液体噴射記録装置は、上記(8)の態様に係る液体噴射ヘッドを備えている。
本態様によれば、上記態様に係る液体噴射ヘッドを備えているので、所望の噴射性能が発揮できる高品質な液体噴射記録装置を提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本開示の一態様によれば、圧力室内のインクに対して効果的に弾性エネルギーを伝え、圧力室の発生圧力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
【
図2】第1実施形態に係るインクジェットヘッド及びインク循環機構の概略構成図である。
【
図3】第1実施形態に係るヘッドチップの分解斜視図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に対応するヘッドチップの断面図である。
【
図5】
図4のV-V線に対応するヘッドチップの断面図である。
【
図6】第1実施形態に係る流路部材の平面図である。
【
図7】第1実施形態に係る流路部材の拡大斜視図である。
【
図8】第1実施形態に係るアクチュエータプレートの底面図である。
【
図9】第1実施形態に係るアクチュエータプレートの平面図である。
【
図10】第1実施形態に係るカバープレートの平面図である。
【
図11】第1実施形態に係るヘッドチップについて、インク吐出時における変形の挙動を説明するための説明図である。
【
図12】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図13】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、
図5に対応する断面図である。
【
図14】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、
図4に対応する断面図である。
【
図15】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、
図5に対応する断面図である。
【
図16】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、
図5に対応する断面図である。
【
図17】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、
図4に対応する断面図である。
【
図18】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、
図4に対応する断面図である。
【
図19】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、
図4に対応する断面図である。
【
図20】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、
図5に対応する断面図である。
【
図21】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、
図5に対応する断面図である。
【
図22】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、
図4に対応する断面図である。
【
図23】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、
図4に対応する断面図である。
【
図24】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を説明するための工程図であって、
図4に対応する断面図である。
【
図25】第2実施形態に係るヘッドチップにおいて、
図4に対応する断面図である。
【
図26】第2実施形態に係るヘッドチップにおいて、
図5に対応する断面図である。
【
図27】第2実施形態に係るヘッドチップにおいて、
図7に対応する斜視図である。
【
図28】第3実施形態に係るヘッドチップにおいて、
図4に対応する断面図である。
【
図29】第3実施形態に係るヘッドチップにおいて、
図5に対応する断面図である。
【
図30】第3実施形態に係るヘッドチップにおいて、
図7に対応する斜視図である。
【
図31】第4実施形態に係るヘッドチップにおいて、
図4に対応する断面図である。
【
図32】第4実施形態に係るヘッドチップにおいて、
図5に対応する断面図である。
【
図33】第4実施形態に係るヘッドチップにおいて、
図7に対応する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照して説明する。以下で説明する実施形態や変形例において、対応する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。以下の説明において、例えば「平行」や「直交」、「中心」、「同軸」等の相対的又は絶対的な配置を示す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差や同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。以下の実施形態では、インク(液体)を利用して被記録媒体に記録を行うインクジェットプリンタ(以下、単にプリンタという)を例に挙げて説明する。以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
(第1実施形態)
[プリンタ1]
図1はプリンタ1の概略構成図である。
図1に示すプリンタ(液体噴射記録装置)1は、一対の搬送機構2,3と、インクタンク4と、インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)5と、インク循環機構6と、走査機構7と、を備えている。
【0020】
以下の説明では、必要に応じてX,Y,Zの直交座標系を用いて説明する。この場合、X方向は被記録媒体P(例えば、紙等)の搬送方向(副走査方向)に一致している。Y方向は走査機構7の走査方向(主走査方向)に一致している。Z方向は、X方向及びY方向に直交する高さ方向(重力方向)を示している。以下の説明では、X方向、Y方向及びZ方向のうち、図中矢印側をプラス(+)側とし、矢印とは反対側をマイナス(-)側として説明する。本明細書において、+Z側は重力方向の上方に相当し、-Z側は重力方向の下方に相当する。
【0021】
搬送機構2,3は、被記録媒体Pを+X側に搬送する。搬送機構2,3は、例えばY方向に延びる一対のローラ11,12をそれぞれ含んでいる。
インクタンク4には、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクが各別に収容されている。各インクジェットヘッド5は、接続されたインクタンク4に応じてイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクをそれぞれ吐出可能に構成されている。
【0022】
図2は、インクジェットヘッド5及びインク循環機構6の概略構成図である。
図1、
図2に示すように、インク循環機構6は、インクタンク4とインクジェットヘッド5との間でインクを循環させる。具体的に、インク循環機構6は、インク供給管21及びインク排出管22を有する循環流路23と、インク供給管21に接続された加圧ポンプ24と、インク排出管22に接続された吸引ポンプ25と、を備えている。
【0023】
加圧ポンプ24は、インク供給管21内を加圧し、インク供給管21を通してインクジェットヘッド5にインクを送り出している。これにより、インクジェットヘッド5に対してインク供給管21側は正圧となっている。
吸引ポンプ25は、インク排出管22内を減圧し、インク排出管22内を通してインクジェットヘッド5からインクを吸引している。これにより、インクジェットヘッド5に対してインク排出管22側は負圧となっている。インクは、加圧ポンプ24及び吸引ポンプ25の駆動により、インクジェットヘッド5とインクタンク4との間を、循環流路23を通して循環可能となっている。
【0024】
図1に示すように、走査機構7は、インクジェットヘッド5をY方向に往復走査させる。走査機構7は、Y方向に延びるガイドレール28と、ガイドレール28に移動可能に支持されたキャリッジ29と、を備えている。
【0025】
<インクジェットヘッド5>
インクジェットヘッド5は、キャリッジ29に搭載されている。図示の例では、複数のインクジェットヘッド5が、一つのキャリッジ29にY方向に並んで搭載されている。インクジェットヘッド5は、ヘッドチップ50(
図3参照)と、インク循環機構6及びヘッドチップ50間を接続するインク供給部(不図示)と、ヘッドチップ50に駆動電圧を印加する制御部(不図示)と、を備えている。
【0026】
<ヘッドチップ50>
図3は、ヘッドチップ50の分解斜視図である。
図4は、
図3のIV-IV線に対応するヘッドチップ50の断面図である。
図5は、
図3のV-V線に対応するヘッドチップ50の断面図である。
図3~
図5に示すヘッドチップ50は、インクタンク4との間でインクを循環させるとともに、後述する圧力室61における延在方向(Y方向)の中央部からインクを吐出する、いわゆる循環式サイドシュートタイプのヘッドチップ50である。ヘッドチップ50は、ノズルプレート51と、流路部材52と、第1フィルム53と、アクチュエータプレート54と、第2フィルム55と、カバープレート56と、を備えている。以下の説明では、Z方向のうち、ノズルプレート51からカバープレート56に向かう方向(+Z側)を上側とし、カバープレート56からノズルプレート51に向かう方向(-Z側)を下側として説明する場合がある。
【0027】
流路部材52は、Z方向を厚さ方向とした板状である。流路部材52は、インク耐性を有する材料により形成されている。このような材料として、例えば金属や金属酸化物、ガラス、樹脂、セラミックス等が採用可能である。流路部材52には、インクが流通する流路60と、流路60に連通するとともにインクが収容される複数の圧力室61と、が形成されている。
【0028】
図6は、流路部材52の平面図である。
図6に示すように、各圧力室61は、X方向に間隔をあけて並んでいる。各圧力室61は、Y方向に直線状に延びる溝状に形成されている。各圧力室61は、Y方向の全域に亘って流路部材52を貫通している。但し、圧力室61は、Y方向の一部において流路部材52を貫通していてもよい。なお、第1実施形態では、チャネル延在方向がY方向に一致する構成について説明するが、チャネル延在方向がY方向に交差していてもよい。また、圧力室61の平面視形状は、長方形状(X方向及びY方向のうち、何れか一方を長手方向とし、他方を短手方向とする形状)に限られない。圧力室61の平面視形状は、正方形状や三角形状等の多角形状、円形状、楕円形状等であってもよい。
【0029】
平面視において、X方向で隣り合う圧力室61同士は、それぞれ区画壁62によって区画されている。区画壁62は、平面視において、圧力室61の周囲を取り囲んでいる。具体的に、区画壁62は、圧力室61に対して+X側に位置する+X側側壁62aと、圧力室61に対して-X側に位置する-X側側壁62bと、圧力室61に対して+Y側に位置する+Y側端壁62cと、圧力室61に対して-Y側に位置する-Y側端壁62dと、を備えている。
【0030】
側壁62a,62bは、流路部材52のうち隣り合う圧力室61間に位置する部分であって、隣り合う圧力室61間をX方向に仕切っている。第1実施形態において、一の圧力室61に対応する+X側側壁62aは、一の圧力室61に+X側で隣り合う他の圧力室61に対応する-X側側壁62bと共用している。また、一の圧力室61に対応する-X側側壁62bは、一の圧力室61に-X側で隣り合う他の圧力室61に対応する+X側側壁62aと共用している。また、各側壁62a,62bは、何れも同様の構成をなしている。したがって、以下の説明では、各側壁62a,62bのうち+X側側壁62aを例にして説明する。
【0031】
図7は、流路部材52の拡大斜視図である。
図4、
図5、
図7に示すように、+X側側壁62aは、Y方向から見て、上方に位置するものほどX方向の幅が狭い段付き形状に形成されている。+X側側壁62aは、幅広部63と、幅狭部64と、を備えている。
幅広部63は、+X側側壁62aの下部を構成している。幅広部63は、X方向の幅がY方向及びZ方向で一様に形成されている。但し、幅広部63は、X方向の幅をY方向又はZ方向の位置に応じて異ならせてもよい。
【0032】
幅広部63は、幅広部63におけるY方向の中央部に位置する中央幅広部63aと、中央幅広部63aに対して+Y側に連なる+Y側幅広部63bと、中央幅広部63aに対して-Y側に連なる-Y側幅広部63cと、を備えている。
中央幅広部63aは、Z方向の高さがY方向で一様に形成されている。すなわち、中央幅広部63aの上下面は、XY平面に沿って配置されている。但し、圧力室61の深さに対する中央幅広部63aの高さは、適宜変更が可能である。
【0033】
+Y側幅広部63bは、+Y側に向かうに従いZ方向の高さが漸次高くなっている。具体的に、+Y側幅広部63bの下面は、中央幅広部63aの下面と面一に配置されている。+Y側幅広部63bの上面は、+Y側に向かうに従い上方に延びる湾曲面(傾斜面)に形成されている。+Y側幅広部63bの最大高さ(+Y側端縁での高さ)は、+Y側端壁62cの高さと同等になっている。但し、+Y側幅広部63bの最大高さは、+Y側端壁62cよりも低くてもよい。+Y側幅広部63bにおけるY方向の長さは、中央幅広部63aの長さよりも短い。
【0034】
-Y側幅広部63cは、X方向から見て+Y側幅広部63bに対して対称に形成されている。具体的に、-Y側幅広部63cは、-Y側に向かうに従いZ方向の高さが漸次高くなっている。具体的に、-Y側幅広部63cの下面は、中央幅広部63aの下面と面一に配置されている。-Y側幅広部63cの上面は、+Y側に向かうに従い上方に延びる湾曲面(傾斜面)に形成されている。-Y側幅広部63cの最大高さ(-Y側端縁での高さ)は、-Y側端壁62dの高さと同等になっている。但し、-Y側幅広部63cの最大高さは、-Y側端壁62dよりも低くてもよい。なお、+Y側幅広部63bと-Y側幅広部63cとは、互いに異なっていてもよい。
【0035】
幅狭部64は、幅広部63におけるX方向の中央部から上方に突出している。幅狭部64は、X方向の幅がY方向で一様に形成されている。但し、幅狭部64の幅は、Y方向の位置に応じて異ならせてもよい。
【0036】
幅狭部64は、幅狭部64におけるY方向の中央部に位置する中央幅狭部64aと、中央幅狭部64aに対して+Y側に連なる+Y側幅狭部64bと、中央幅狭部64aに対して-Y側に連なる-Y側幅狭部64cと、を備えている。
中央幅狭部64aは、中央幅広部63aにおけるX方向の中央部から上方に突出している。中央幅狭部64aは、Z方向の高さがY方向で一様に形成されている。すなわち、中央幅狭部64aの上下面は、XY平面に沿って配置されている。
【0037】
+Y側幅狭部64bは、+Y側幅広部63bにおけるX方向の中央部から上方に突出している。+Y側幅狭部64bの上面は、中央幅狭部64aの上面と面一に配置されている。したがって、+Y側幅狭部64bは、+Y側に向かうに従いZ方向の高さが漸次低くなっている。
-Y側幅狭部64cは、-Y側幅広部63cにおけるX方向の中央部から上方に突出している。-Y側幅狭部64cの上面は、中央幅狭部64aの上面と面一に配置されている。したがって、-Y側幅狭部64cは、-Y側に向かうに従いZ方向の高さが漸次低くなっている。
【0038】
第1実施形態において、圧力室61におけるY方向に直交する流路断面積は、Y方向の両端部から中央部に向かうに従い漸次大きくなっている。具体的に、圧力室61内のうち+Y側幅狭部64b及び+Y側幅狭部64bの領域は、Y方向の内側に向かうに従い流路断面積が大きくなっている。圧力室61内のうち、-Y側幅広部63c及び-Y側幅狭部64cの領域は、Y方向の内側に向かうに従い流路断面積が大きくなっている。一方、圧力室61内のうち、中央幅広部63a及び中央幅狭部64aの領域は、流路断面積が一様になっている。
【0039】
図3、
図5、
図7に示すように、+Y側端壁62cは、一の圧力室61を形成する側壁62a,62bの+Y側端部同士の間を架け渡している。+Y側端壁62cの下面は、側壁62a,62b(幅広部63)の下面と面一に配置されている。+Y側端壁62cの上面は、側壁62a,62b(幅狭部64)の上面と面一に配置されている。
-Y側端壁62dは、一の圧力室61を形成する側壁62a,62bの-Y側端部同士の間を架け渡している。-Y側端壁62dの下面は、側壁62a,62b(幅広部63)の下面と面一に配置されている。-Y側端壁62dの上面は、側壁62a,62b(幅狭部64)の上面と面一に配置されている。
【0040】
図3、
図6に示すように、流路60は、入口側共通流路65と、入口側連通路66と、出口側共通流路67と、出口側連通路68と、バイパス路69と、を含んでいる。
入口側共通流路65は、流路部材52のうち各圧力室61に対して+Y側に位置する部分をX方向に延びている。入口側共通流路65と各圧力室61とは、各圧力室61の+Y側端壁62cによって仕切られている。入口側共通流路65における-X側端部は、入口ポート(不図示)に接続される。入口ポートは、インク供給管21(
図2参照)に直接的又は間接的に接続されている。すなわち、インク供給管21内を流れるインクは、入口ポートを通じて入口側共通流路65に供給される。
【0041】
入口側連通路66は、入口側共通流路65のうち各X方向から見て各圧力室61と重なり合う部分から-Y側に向けてそれぞれ分岐することで、入口側共通流路65と各圧力室61との間をそれぞれ接続している。具体的に、各入口側連通路66は、各圧力室61の+Y側端壁62cをY方向及びZ方向に貫通している。各入口側連通路66は、各+Y側端壁62cにおけるX方向の中央部に、Y方向の全長に亘って一様な深さで形成されている。すなわち、各入口側連通路66におけるY方向に直交する流路断面積は、Y方向の全長に亘って一様になっている。
【0042】
入口側連通路66におけるX方向の幅は、隣り合う幅広部63間の距離と同等であって、隣り合う幅狭部64間の距離よりも小さくなっている。したがって、入口側連通路66の流路断面積は、圧力室61の最大流路断面積よりも小さくなっている。
【0043】
出口側共通流路67は、流路部材52のうち各圧力室61に対して-Y側に位置する部分をX方向に延びている。出口側共通流路67と各圧力室61とは、各圧力室61の-Y側端壁62dによって仕切られている。出口側共通流路67における+X側端部は、出口ポート(不図示)に接続される。出口ポートは、インク排出管22(
図2参照)に直接的又は間接的に接続されている。すなわち、出口側共通流路67内を流れるインクは、出口ポートを通じてインク排出管22に供給される。
【0044】
出口側連通路68は、出口側共通流路67のうちX方向から見て各圧力室61と重なり合う部分から+Y側に向けてそれぞれ分岐することで、出口側共通流路67と各圧力室61との間をそれぞれ接続している。具体的に、各圧力室61の-Y側端壁62dをY方向及びZ方向に貫通している。第1実施形態において、各出口側連通路68は、各-Y側端壁62dにおけるX方向の中央部に、Y方向の全長に亘って一様な深さで形成されている。すなわち、各出口側連通路68におけるY方向に直交する流路断面積は、Y方向の全長に亘って一様になっている。
【0045】
出口側連通路68におけるX方向の幅は、隣り合う幅広部63間の距離と同等であって、隣り合う幅狭部64間の距離よりも小さくなっている。したがって、出口側連通路68の流路断面積は、圧力室61の最大流路断面積よりも小さくなっている。但し、圧力室61や連通路66,68の寸法は適宜変更が可能である。
【0046】
バイパス路69は、入口側共通流路65及び出口側共通流路67の+X側端部同士及び-X側端部同士を各別に接続している。
【0047】
図4、
図5に示すように、ノズルプレート51は、流路部材52の下面に接着等によって固定されている。すなわち、ノズルプレート51は、流路部材52のうち区画壁62(幅広部63及び端壁62c,62d)の下面を含む部分に接合されている。ノズルプレート51は、流路60及び圧力室61の下端開口部を閉塞している。第1実施形態において、ノズルプレート51は、SUSやNi-Pd等の金属材料により形成されている。但し、ノズルプレート51は、金属材料の他、樹脂材料(例えば、ポリイミド等)、ガラス、シリコン等による単層構造、又は積層構造であってもよい。
【0048】
ノズルプレート51には、ノズルプレート51をZ方向に貫通する複数のノズル孔71が形成されている。各ノズル孔71は、X方向に間隔をあけて配置されている。各ノズル孔71は、対応する圧力室61それぞれに対し、X方向及びY方向の中央部で連通している。第1実施形態において、各ノズル孔71は、例えば上方から下方に向かうに従い内径が漸次縮小するテーパ状に形成されている。第1実施形態では、複数の圧力室61及び複数のノズル孔71がX方向に一列に並んだ構成について説明したが、この構成に限られない。X方向に並んだ複数の圧力室61及び複数のノズル孔71をノズル列とすると、ノズル列がY方向に間隔をあけて複数列設けられていてもよい。
【0049】
第1フィルム53は、流路部材52の上面に接着等によって固定されている。第1フィルム53は、流路部材52の上面全域に亘って配置されている。すなわち、第1フィルム53は、流路部材52のうち区画壁62(幅狭部64及び端壁62c,62d)の上面を含む部分に接合されている。このように、流路部材52のうち、幅広部63を含む下面がノズルプレート51に接合される一方、幅狭部64を含む上面が第1フィルム53に接合されている。したがって、区画壁62とノズルプレート51との接合面積は、区画壁62と第1フィルム53との接合面積よりも大きくなっている。
【0050】
第1フィルム53は、流路60及び各圧力室61の上端開口部を閉塞している。第1フィルム53は、絶縁性及びインク耐性を有し、弾性変形可能な材料により形成されている。このような材料として、第1フィルム53は、例えば樹脂材料(ポリイミド系やエポキシ系、ポリプロピレン系等)により形成されている。
【0051】
アクチュエータプレート54は、Z方向を厚さ方向として、第1フィルム53の上面に接着等により固定されている。アクチュエータプレート54は、第1フィルム53を間に挟んで各圧力室61とZ方向で向かい合っている。なお、アクチュエータプレート54は、各圧力室61をまとめて覆う構成に限らず、各圧力室61毎に個別に設けられていてもよい。
【0052】
アクチュエータプレート54は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料で形成されている。アクチュエータプレート54は、分極方向が+Z側の一方向を向くように設定されている。アクチュエータプレート54の両面には、駆動配線75が形成されている。アクチュエータプレート54は、駆動配線75により印加される電圧によって電界が発生することで、Z方向に変形可能に構成されている。アクチュエータプレート54は、Z方向の変形によって圧力室61内の容積を拡大又は縮小させることで、圧力室61内からインクを吐出させる。なお、駆動配線75の構成については後述する。
【0053】
第2フィルム55は、アクチュエータプレート54の上面に接着等によって固定されている。第1実施形態において、第2フィルム55は、アクチュエータプレート54の上面全域を覆っている。第2フィルム55は、絶縁性を有し、弾性変形可能な材料により形成されている。このような材料として、第1フィルム53と同様の材料を採用することができる。なお、第2フィルム55は、必須の構成ではない。例えばエポキシ系接着剤やアクリル系接着剤を含む接着剤層を介してアクチュエータプレート54とカバープレート56とが接合されていてもよい。
【0054】
カバープレート56は、Z方向を厚さ方向として、第2フィルム55の上面に接着等により固定されている。カバープレート56におけるZ方向の厚さは、アクチュエータプレート54や流路部材52、各フィルム53,55よりも厚い。第1実施形態において、カバープレート56は、絶縁性を有する材料(例えば、金属酸化物、ガラス、樹脂、セラミックス等)により形成されている。
【0055】
続いて、駆動配線75の構造について説明する。
図8は、アクチュエータプレート54の底面図である。
図9は、アクチュエータプレート54の平面図である。
図10は、カバープレート56の平面図である。駆動配線75は、各圧力室61に対応して設けられている。隣り合う圧力室61に対応する駆動配線75同士は、互いに同様の構成になっている。以下の説明では、複数の圧力室61のうち一の圧力室61に対応して設けられた駆動配線75を例にして説明し、他の圧力室61に対応する駆動配線75については説明を適宜省略する。
図8、
図9に示すように、駆動配線75は、共通配線81と、個別配線82と、を備えている。
共通配線81は、第1共通電極81aと、第2共通電極81bと、下面引き回し配線81cと、上面引き回し配線81dと、共通パッド81eと、貫通配線81fと、を備えている。
【0056】
図4、
図8に示すように、第1共通電極81aは、アクチュエータプレート54の下面において、各側壁62a,62bとZ方向から見て重なり合う位置にそれぞれ形成されている。具体的に、各第1共通電極81aのうち+X側に位置する第1共通電極81a(以下、+X側共通電極81a1という。)の全体は、側壁62a(少なくとも幅狭部64)とZ方向から見て重なり合っている。一方、各第1共通電極81aのうち-X側に位置する第1共通電極81a(以下、-X側共通電極81a2という。)の全体は、側壁62b(少なくとも幅狭部64)とZ方向から見て重なり合っている。各第1共通電極81aは、圧力室61と同等の長さでY方向に直線状に延びている。第1実施形態において、一の圧力室61に対応する+X側共通電極81a1は、一の圧力室61に対して+X側に隣り合う他の圧力室61の-X側共通電極81a2と共用している。一方、一の圧力室61に対応する-X側共通電極81a2は、一の圧力室61に対して-X側に隣り合う他の圧力室61の+X側共通電極81a1と共用している。なお、各圧力室61間において、共通電極81a1,81a2同士は、互いに分離していてもよい。
【0057】
図4、
図9に示すように、第2共通電極81bは、アクチュエータプレート54の上面において、対応する圧力室61とZ方向から見て重なり合い、かつZ方向から見て第1共通電極81aと重なり合わない位置に配置されている。図示の例において、第2共通電極81bは、圧力室61におけるX方向の中央部を含む領域に形成されている。第2共通電極81bは、圧力室61と同等の長さでY方向に直線状に延びている。
【0058】
図4、
図8に示すように、下面引き回し配線81cは、アクチュエータプレート54の下面において、各第1共通電極81aにまとめて接続されている。下面引き回し配線81cは、各第1共通電極81aにおける-Y側端部に接続された状態でX方向に延びている。
【0059】
図4、
図9に示すように、上面引き回し配線81dは、アクチュエータプレート54の上面において、第2共通電極81bに接続されている。上面引き回し配線81dは、第2共通電極81bにおける-Y側端部に接続された状態でX方向に延びている。
【0060】
図10に示すように、共通パッド81eは、カバープレート56の上面に形成されている。共通パッド81eは、カバープレート56の上面のうち、Z方向から見て圧力室61と重なり合う部分をY方向に延びている。
【0061】
貫通配線81fは、下面引き回し配線81c、上面引き回し配線81d及び共通パッド81e間を接続している。貫通配線81fは、アクチュエータプレート54、第2フィルム55及びカバープレート56をZ方向に貫通して設けられている。具体的に、アクチュエータプレート54、第2フィルム55及びカバープレート56のうち引き回し配線81c,81dに対して-Y側に位置する部分には、共通配線用孔91が形成されている。共通配線用孔91は、各圧力室61毎に個別に形成されている。下面引き回し配線81c、上面引き回し配線81d及び共通パッド81eにおける-Y側端縁は、共通配線用孔91の開口縁において、貫通配線81fに接続されている。なお、貫通配線81f及び共通配線用孔91は、各圧力室61に対して一括で設けられていてもよい。この場合、共通配線用孔91は、各圧力室61を跨る長さでX方向に延びる。
【0062】
図8、
図9に示すように、個別配線82は、第1個別電極82aと、第2個別電極82bと、下面引き回し配線82cと、上面引き回し配線82dと、個別パッド82eと、貫通配線82fと、を備えている。
【0063】
図4、
図8に示すように、第1個別電極82aは、第1共通電極81aとの間で電位差を生じさせるとともに、第2共通電極81bとの間で電位差を生じさせる。第1個別電極82aの少なくとも一部は、第2共通電極81bとZ方向から見て重なり合っている。第1個別電極82aは、アクチュエータプレート54の下面において、各第1共通電極81aの間に形成されている。第1個別電極82aは、各第1共通電極81aに対してX方向に間隔をあけた状態でY方向に延びている。
【0064】
図4、
図9に示すように、第2個別電極82bは、第2共通電極81bとの間で電位差を生じさせるとともに、第1共通電極81aとの間で電位差を生じさせる。第2個別電極82bは、アクチュエータプレート54の上面において、第2共通電極81bに対してX方向の両側に位置する部分にそれぞれ形成されている。各第2個別電極82bは、第2共通電極81bに対してX方向に間隔をあけた状態でY方向に延びている。第2個別電極82bにおけるX方向の幅は、第1共通電極81aにおけるX方向の幅よりも狭い。
【0065】
図4、
図9に示すように、各第2個別電極82bのうち+X側に位置する第2個別電極82b(以下、+X側個別電極82b1という。)は、+X側共通電極81a1との間で電位差を生じさせる。+X側個別電極82b1の一部は、Z方向から見て側壁62aと重なり合っている。+X側個別電極82b1は、側壁62a上において+X側共通電極81a1とZ方向で向かい合っている。
【0066】
各第2個別電極82bのうち-X側に位置する第2個別電極82b(以下、-X側個別電極82b2という。)は、-X側共通電極81a2との間で電位差を生じさせる。-X側個別電極82b1の一部は、Z方向から見て側壁62bと重なり合っている。-X側個別電極82b2は、側壁62b上において-X側共通電極81a2とZ方向で向かい合っている。なお、隣り合う圧力室61間において、一の圧力室61における+X側個別電極82b1と、他の圧力室61における-X側個別電極82b2と、は側壁62a,62b上においてX方向に離間している。
【0067】
図8に示すように、下面引き回し配線82cは、アクチュエータプレート54の下面において、第1個別電極82aに接続されている。下面引き回し配線82cは、第1個別電極82aにおける+Y側端部からX方向の両側に延びている。隣り合う圧力室61に対応する下面引き回し配線82c同士は、互いに分離されている。
図9に示すように、上面引き回し配線82dは、アクチュエータプレート54の上面において、各第2個別電極82bの+Y側端部同士を接続している。
【0068】
個別パッド82eは、カバープレート56の上面に形成されている。個別パッド82eは、カバープレート56の上面のうち、Z方向から見て圧力室61と重なり合う部分をY方向に延びている。
【0069】
図4、
図8、
図9に示すように、貫通配線82fは、対応する下面引き回し配線82c、上面引き回し配線82d及び個別パッド82e間を接続している。貫通配線82fは、アクチュエータプレート54をZ方向に貫通して設けられている。具体的に、アクチュエータプレート54、第2フィルム55及びカバープレート56のうち第1個別電極82aに対して+Y側に位置する部分には、個別配線用孔93が形成されている。個別配線用孔93は、各圧力室61毎に個別に形成されている。対応する下面引き回し配線82c、上面引き回し配線82d及び個別パッド82eにおける+Y側端縁は、個別配線用孔93の開口縁において、貫通配線82fに接続されている。なお、個別配線用孔93は、各圧力室61に対して一括で設けられていてもよい。この場合、個別配線用孔93は、各圧力室61を跨る長さでX方向に延びる。
【0070】
図4に示すように、駆動配線75のうち流路部材52と向かい合う部分は、第1フィルム53に覆われている。具体的に、駆動配線75のうち、第1共通電極81a、第1個別電極82a、下面引き回し配線81c,82c及び貫通配線81f,82fは、第1フィルム53に覆われている。一方、駆動配線75のうちアクチュエータプレート54の上面に形成された部分は、第2フィルム55に覆われている。具体的に、駆動配線75のうち、第2共通電極81b、第2個別電極82b、上面引き回し配線81d,82d及び貫通配線81f,82fは、第2フィルム55に覆われている。
【0071】
カバープレート56の上面には、フレキシブルプリント基板(不図示)が圧着されている。フレキシブルプリント基板は、カバープレート56の上面において、共通パッド81e及び個別パッド82eに実装されている。
【0072】
[プリンタ1の動作方法]
次に、上述したように構成されたプリンタ1を利用して、被記録媒体Pに文字や図形等を記録する場合について以下に説明する。
なお、初期状態として、
図1に示す4つのインクタンク4にはそれぞれ異なる色のインクが十分に封入されているものとする。また、インクタンク4内のインクがインク循環機構6を介してインクジェットヘッド5内に充填された状態となっている。
【0073】
このような初期状態のもと、プリンタ1を作動させると、被記録媒体Pが搬送機構2,3のローラ11,12に挟み込まれながら+X側に搬送される。また、これと同時にキャリッジ29がY方向に移動することで、キャリッジ29に搭載されたインクジェットヘッド5がY方向に往復移動する。
インクジェットヘッド5が往復移動する間に、各インクジェットヘッド5よりインクを被記録媒体Pに適宜吐出させる。これにより、被記録媒体Pに対して文字や画像等の記録を行うことができる。
【0074】
ここで、各インクジェットヘッド5の動きについて、以下に詳細に説明する。
第1実施形態のような循環式サイドシュートタイプのインクジェットヘッド5では、まず
図2に示す加圧ポンプ24及び吸引ポンプ25を作動させることで、循環流路23内にインクを流通させる。この場合、インク供給管21を流通するインクは、入口側共通流路65及び入口側連通路66を通して各圧力室61内に供給される。各圧力室61内に供給されたインクは、各圧力室61をY方向に流通する。その後、インクは、出口側連通路68を通じて出口側共通流路67に排出された後、インク排出管22を通してインクタンク4に戻される。これにより、インクジェットヘッド5とインクタンク4との間でインクを循環させることができる。
【0075】
そして、キャリッジ29(
図1参照)の移動によってインクジェットヘッド5の往復移動が開始されると、フレキシブルプリント基板を介して共通電極81a,81b及び個別電極82a,82b間に駆動電圧が印加される。この際、共通電極81a,81bを基準電位GNDとし、個別電極82a,82bを駆動電位Vddとして駆動電圧を印加する。
【0076】
図11は、ヘッドチップ50について、インク吐出時における変形の挙動を説明するための説明図である。
図11に示すように、駆動電圧の印加により、第1共通電極81a及び第1個別電極82a間、並びに第2共通電極81b及び第2個別電極82b間には、X方向で電位差が生じる。X方向に生じた電位差により、アクチュエータプレート54には分極方向(Z方向)に直交する方向に電界が生じる。その結果、アクチュエータプレート54は、シェアモードによりZ方向に厚み滑り変形する。具体的に、アクチュエータプレート54の下面において、第1共通電極81a及び第1個別電極82a間には、X方向で互いに離れる向きに電界が生じる(矢印E1参照)。アクチュエータプレート54の上面において、第2共通電極81b及び第2個別電極82b間には、X方向で互いに接近する向きに電界が生じる(矢印E2参照)。その結果、アクチュエータプレート54のうち、各圧力室61に対応する部分は、X方向の両端部から中央部に向かうに従い上方に向けてせん断変形する。
【0077】
一方、第1共通電極81a及び第2個別電極82b間、並びに第1個別電極82a及び第2共通電極81b間には、Z方向で電位差が生じる。Z方向に生じた電位差により、アクチュエータプレート54には分極方向(Z方向)に平行な方向に電界が生じる(矢印E0参照)。その結果、アクチュエータプレート54は、ベンドモードによりZ方向に伸縮変形する。すなわち、第1実施形態のヘッドチップ50では、アクチュエータプレート54のシェアモード及びベンドモードに起因する変形が、何れもZ方向に及ぶことになる。具体的に、駆動電圧の印加により、アクチュエータプレート54は、圧力室61から離間する向きに変形する。これにより、圧力室61内の容積が拡大する。その後、駆動電圧をゼロにすると、アクチュエータプレート54が復元することで、圧力室61内の容積が元に戻ろうとする。アクチュエータプレート54が復元する過程で、圧力室61内の圧力が増加し、圧力室61内のインクがノズル孔71を通じて外部に吐出される。外部に吐出されたインクが被記録媒体Pに着弾することで、被記録媒体Pに印刷情報が記録される。
【0078】
<ヘッドチップ50の製造方法>
次に、上述したヘッドチップ50の製造方法について説明する。
図12は、ヘッドチップ50の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図13~
図24は、ヘッドチップ50の製造方法を説明するための工程図であって、
図4や
図5に対応する断面図である。以下の説明では、便宜上、ヘッドチップ50をチップレベルで製造する場合を例にして説明する。
図12に示すように、ヘッドチップ50の製造方法は、アクチュエータ第1加工工程S01と、カバー第1加工工程S02と、第1接合工程S03と、フィルム加工工程S04と、第2接合工程S05と、アクチュエータ第2加工工程S06と、カバー第2加工工程S07と、第3接合工程S08と、流路部材第1加工工程S09と、第4接合工程S10と、流路部材第2加工工程S11と、第5接合工程S12と、を備えている。
【0079】
図13に示すように、アクチュエータ第1加工工程S01では、まず共通配線用孔91及び個別配線用孔93の一部となる凹部100,101を形成する(凹部形成工程)。具体的に、アクチュエータプレート54の上面に対し、共通配線用孔91及び個別配線用孔93の形成領域が開口したマスクパターンを形成する。続いて、マスクパターンを通してアクチュエータプレート54の上面に対してサンドブラスト等を行う。これにより、アクチュエータプレート54には、上面に対して窪んだ凹部100,101が形成される。なお、凹部100,101はダイサー加工や精密ドリル加工、エッチング加工等によって形成してもよい。
【0080】
次に、
図14に示すように、アクチュエータ第1加工工程S01では、駆動配線75のうち、アクチュエータプレート54の上面に位置する部分を形成する(第1配線形成工程)。第1配線形成工程では、まずアクチュエータプレート54の上面に対し、駆動配線75の形成領域が開口したマスクパターンを形成する。次に、アクチュエータプレート54に対し、例えば蒸着等により電極材料を成膜する。電極材料は、マスクパターンの開口部を通してアクチュエータプレート54に成膜される。これにより、アクチュエータプレート54の上面、及び凹部100,101の内面に駆動配線75が形成される。
【0081】
図15に示すように、カバー第1加工工程S02では、カバープレート56に対し、共通配線用孔91及び個別配線用孔93の一部となる貫通孔102,103を形成する。貫通孔102,103は、アクチュエータプレート54に凹部100,101を形成する方法と同様に、サンドブラストやダイサー加工等によって形成することができる。
【0082】
図16に示すように、第1接合工程S03では、アクチュエータプレート54の上面に、接着剤等によって第2フィルム55を貼り付ける。
フィルム加工工程S04では、共通配線用孔91及び個別配線用孔93の一部となる貫通孔107,108を形成する。貫通孔107,108は、第2フィルム55のうち対応する凹部100,101とZ方向から見て重なり合う部分に対し、例えばレーザ加工等を行うことで形成できる。これにより、凹部100及び貫通孔107同士、並びに凹部101及び貫通孔108同士が互いに連通する。
【0083】
図17に示すように、第2接合工程S05では、第2フィルム55の上面に、接着剤等によってカバープレート56を貼り付ける。これにより、凹部100及び貫通孔102,107同士、並びに凹部101及び貫通孔103,108同士が互いに連通する。
【0084】
図18に示すように、アクチュエータ第2加工工程S06では、アクチュエータプレート54の下面に対してグラインド加工を施す(グラインド工程)。この際、アクチュエータプレート54の下面において、凹部100,101が開口する位置までアクチュエータプレート54をグラインドすることで、共通配線用孔91及び個別配線用孔93が形成される。
【0085】
次に、
図19に示すように、アクチュエータ第2加工工程S06では、駆動配線75のうち、アクチュエータプレート54の下面及び配線用孔91,93の内面に位置する部分を形成する(第2配線形成工程)。第2配線形成工程では、まずアクチュエータプレート54の下面に対し、駆動配線75の形成領域が開口したマスクパターンを形成する。続いて、アクチュエータプレート54に対し、例えば蒸着等により電極材料を成膜する。電極材料は、マスクパターンの開口部を通してアクチュエータプレート54に成膜される。これにより、アクチュエータプレート54の下面及び配線用孔91,93の内面に駆動配線75が形成される。
【0086】
図20に示すように、カバー第2加工工程S07では、パッド81e,82e及び貫通配線81f,82fをカバープレート56に形成する。具体的には、まずカバープレート56の上面に対し、パッド81e,82e及び貫通配線81f,82fの形成領域が開口するマスクパターンを形成する。次に、カバープレート56に対し、例えば蒸着等により電極材料を成膜する。電極材料は、マスクパターンの開口部を通してカバープレート56に成膜される。これにより、パッド81e,82e及び貫通配線81f,82fが形成される。
【0087】
図21に示すように、第3接合工程S08では、アクチュエータプレート54の下面に、接着剤等によって第1フィルム53を貼り付ける。
図22に示すように、流路部材第1加工工程S09では、流路部材52に対して流路60(
図6参照)や圧力室61を形成する。流路60や圧力室61は、流路部材52に対して例えばダイサーによる切削加工やサンドブラスト等を行うことで形成される。そして、流路部材52のうち、隣り合う圧力室61を仕切る部分が区画壁62として残存する。
【0088】
図23に示すように、第4接合工程S10では、第1フィルム53の下面に、接着剤等によって流路部材52を貼り付ける。
【0089】
図24に示すように、流路部材第2加工工程S11では、流路部材52の下面に対してグラインド加工を施す(グラインド工程)。この際、流路部材52の下面において、流路60や圧力室61が開口する位置まで流路部材52をグラインドする。
【0090】
第5接合工程S12では、ノズル孔71と圧力室61とを位置合わせした状態で、流路部材52の下面にノズルプレート51を貼り付ける。
以上により、ヘッドチップ50が完成する。
【0091】
このように、第1実施形態のヘッドチップ50は、圧力室61を上方(第1方向の第1側)から閉塞した状態で流路部材52上に接合された第1部材(例えば、第1フィルム53やアクチュエータプレート54、カバープレート56)と、圧力室61を下方(第1方向の第2側)から閉塞した状態で流路部材52上に接合された第2部材(例えば、ノズルプレート51)と、を備える。その上で、ヘッドチップ50において、区画壁62とノズルプレート51との接合面積は、区画壁62と第1フィルム53との接合面積よりも大きい構成とした。
この構成によれば、区画壁62とノズルプレート51との接合面積を、区画壁62と第1フィルム53との接合面積と同等にする場合に比べ、圧力室61の容積を確保した上で、区画壁62の剛性を確保できる。これにより、アクチュエータプレート54の変形に伴う圧力室61内の圧力変動時において、区画壁62の変形を抑制できるので、圧力室61内のインクに対して効果的に弾性エネルギーを伝えることができる。その結果、圧力室61の発生圧力を向上させることができる。
【0092】
第1実施形態のヘッドチップ50において、区画壁62のうち、隣り合う圧力室61間をX方向(第2方向)に区画する部分(側壁62a,62b)は、上方に位置するものほど、X方向の寸法が小さくなる段付き形状に形成されている構成とした。
この構成によれば、圧力室61の容積を確保した上で、所望の発生圧力を得ることができる。また、例えば側壁62a,62bをテーパ状に形成する場合に比べ、加工性を向上させることができる。
【0093】
第1実施形態のヘッドチップ50において、Y方向(第3方向)で圧力室61に対して一方側に位置する部分には、共通流路(例えば、入口側共通流路65)が形成され、端壁(例えば、+側端壁62c)には、入口側共通流路65と各圧力室61との間を各別に接続する連通路(例えば、入口側連通路66)が形成されている。その上で、連通路の流路断面積は、圧力室61の流路断面積よりも小さい構成とした。
この構成によれば、隣り合う圧力室61間の距離に比べて、隣り合う入口側連通路66間の距離を長くすることができる。これにより、隣り合う圧力室61間において、共通流路(例えば、入口側共通流路65)を通じた圧力室61間の距離を確保できる。そのため、一の圧力室61での圧力変動が入口側共通流路65及び入口側連通路66を通じて他の圧力室61に伝播される、いわゆるクロストークを抑制できる。しかも、入口側連通路66の流路断面積が、圧力室61の流路断面積よりも小さいため、入口側連通路66を通じて入口側共通流路65から圧力室61に圧力変動が伝播することを抑制し易い。
【0094】
第1実施形態のヘッドチップ50において、圧力室61の流路断面積は、Y方向の内側に向かうに従い漸次大きくなっている構成とした。
この構成によれば、例えば入口側連通路66から圧力室61内に流入するインクを、圧力室61内でスムーズに流通させることができる。
【0095】
第1実施形態のヘッドチップ50は、アクチュエータプレート54の下面(第1面)に形成された第1個別電極(第1電極)87aと、アクチュエータプレート54の上面(第2面)に形成された第2共通電極(第1対向電極)81bと、アクチュエータプレート54の上面において第1共通電極81aと隣り合って形成された第2個別電極(第2電極)82bと、を備える構成とした。
この構成によれば、第2個別電極87b及び第2共通電極81b間に電位差を発生させることで、アクチュエータプレート54の分極方向に交差する方向に電界を発生させることができる。これにより、アクチュエータプレート54をシェアモード(ルーフシュート型)でZ方向に変形させることで、圧力室61の容積を変化させることができる。また、第1個別電極87a及び第1共通電極81a間に電位差を発生させることで、アクチュエータプレート54の分極方向にも電界を発生させることができる。これにより、アクチュエータプレート54をベンドモード(バイモルフ型)でZ方向に変形させることで、圧力室61の容積を変化させることができる。すなわち、シェアモード及びベンドモードの双方でアクチュエータプレート54をZ方向に変形させることで、インク吐出時における圧力室61内の発生圧力を向上させることができる。
【0096】
第1実施形態のヘッドチップ50において、ノズルプレート51は金属製である構成とした。
この構成によれば、ノズルプレート51の剛性を確保し易くなるので、アクチュエータプレート54の変形に伴う圧力室61内の圧力変動時において、ノズルプレート51が変形し難くなる。そのため、アクチュエータプレート54の変形がインクに伝播し易くなり、所望の発生圧力を得やすい。
【0097】
第1実施形態のヘッドチップ50において、ノズルプレート(噴射孔プレート)51は、流路部材52の下面に直接接合されている構成とした。
この構成によれば、第2部材をノズルプレート51の単一部材により構成できる。これにより、流路部材52への第2部材の接合工程(第5接合工程)を簡略化することができ、低コスト化や歩留まりの向上を図ることができる。また、第5接合工程を簡略化することで、ヘッドチップ50の組立後において、接合部分に起因したヘッドチップ50の不具合等の発生を抑制できる。
【0098】
第1実施形態のインクジェットヘッド5及びプリンタ1では、上述したヘッドチップ50を備えているので、所望の吐出性能が発揮できる高品質なインクジェットヘッド5及びプリンタ1を提供できる。
【0099】
(第2実施形態)
図25は、第2実施形態に係るヘッドチップ50において、
図4に対応する断面図である。
図26は、第2実施形態に係るヘッドチップ50において、
図5に対応する断面図である。
図27は、第2実施形態に係るヘッドチップ50において、
図6に対応する斜視図である。
図25~
図27に示すヘッドチップ50において、圧力室61は、Y方向の全長に亘ってX方向から見てT字状に形成されている。したがって、圧力室61の流路断面積は、全体に亘って一様になっている。
【0100】
隣り合う圧力室61間は、側壁62a,62bによってX方向に仕切られている。側壁62a,62bは、上方に位置するものほどX方向の幅が小さい段付き形状に形成されている。具体的に、側壁62a,62bのうち、幅広部63は、Y方向の全長に亘って、X方向の幅及びZ方向の高さが一様に形成されている。側壁62a,62bのうち、幅狭部64は、Y方向の全長に亘って、X方向の幅及びZ方向の高さが一様に形成されている。
【0101】
入口側連通路66は、+Y側端壁62cをY方向に貫通している。出口側連通路68は、-Y側端壁62dをY方向に貫通している。入口側連通路66及び出口側連通路68は、X方向から見て圧力室61と同等の形状に形成されている。すなわち、端壁62c,62dは、Y方向から見た外形が側壁62a,62bと同等に形成されている。具体的に、端壁62c,62dは、上方に位置するものほどX方向の幅が小さい段付き形状に形成されている。端壁62c,62dは、それぞれ端壁幅広部201と端壁幅狭部202とを備えている。なお、第2実施形態において、+Y側端壁62cは、個別配線用孔93に対してY方向の外側に位置する部分である。-Y側端壁62dは、共通配線用孔91に対してY方向の外側に位置する部分である。
【0102】
端壁幅広部201は、側壁62a,62bの幅広部63に対してY方向に連なっている。端壁幅広部201は、側壁62a,62bの幅広部63とX方向の幅及びZ方向の高さが同等になっている。
端壁幅狭部202は、各側壁62a,62bそれぞれについて、端壁幅広部201のX方向の中央部から上方に突出している。端壁幅狭部202は、側壁62a,62bの幅狭部64に対してY方向に連なっている。端壁幅狭部202は、側壁62a,62bの幅狭部64とX方向の幅及びZ方向の高さが同等になっている。
【0103】
第2実施形態においても、区画壁62とノズルプレート51との接合面積を、区画壁62と第1フィルム53との接合面積よりも大きくすることができるので、圧力室61の容積を確保した上で、区画壁62の剛性を確保できる。これにより、アクチュエータプレート54の変形に伴う圧力室61内の圧力変動時において、区画壁62の変形を抑制できるので、圧力室61内のインクに対して効果的に弾性エネルギーを伝えることができる。その結果、圧力室61の発生圧力を向上させることができる。
【0104】
(第3実施形態)
図28は、第3実施形態に係るヘッドチップ50において、
図4に対応する断面図である。
図29は、第3実施形態に係るヘッドチップ50において、
図5に対応する断面図である。
図30は、第3実施形態に係るヘッドチップ50において、
図6に対応する斜視図である。
図28~
図30に示すヘッドチップ50において、区画壁62は、向かい合う側壁62a,62bにおける+Y側端部同士を接続する+Y側接続部301と、向かい合う側壁62a,62bにおける-Y側端部同士を接続する+Y側接続部302と、を備えている。
【0105】
+Y側接続部301は、圧力室61内に面している。+Y側接続部301は、+Y側に向かうに従いZ方向の高さが漸次高くなっている。具体的に、+Y側接続部301の下面は、幅広部63の下面と面一に配置されている。+Y側接続部301の上面は、+Y側に向かうに従い上方に延びる湾曲面(傾斜面)に形成されている。+Y側接続部301の最大高さは、側壁62a,62bの+Y側端縁において幅広部63と同等になっている。
-Y側接続部302は、圧力室61内に面している。-Y側接続部302は、-Y側に向かうに従いZ方向の高さが漸次高くなっている。具体的に、-Y側接続部302の下面は、幅広部63の下面と面一に配置されている。-Y側接続部302の上面は、-Y側に向かうに従い上方に延びる湾曲面(傾斜面)に形成されている。-Y側接続部301の最大高さは、側壁62a,62bの+Y側端縁において幅広部63と同等になっている。
【0106】
各接続部301,302は、Y方向で互いに離間している。したがって、圧力室61は、Y方向の中央部において、流路部材52を貫通している。そして、ノズル孔71は、平面視で各接続部301,302と重ならない位置で圧力室61内に連通している。なお、圧力室61の流路断面積は、Y方向の中央部に向かうに従い漸次大きくなっている。
【0107】
入口側連通路66は、+Y側端壁62cの上部をY方向に貫通している。出口側連通路68は、-Y側端壁62dの上部をY方向に貫通している。入口側連通路66及び出口側連通路68のZ方向の深さは、幅狭部64のZ方向の高さと同等になっている。入口側連通路66及び出口側連通路68のX方向の寸法は、隣り合う幅狭部64間の距離と同等になっている。したがって、入口側連通路66及び出口側連通路68の流路断面積は、圧力室61の最大流路面積よりも小さくなっている。
【0108】
第3実施形態では、上述した各実施形態と同様の作用効果を奏することに加え、以下の作用効果を奏する。
すなわち、向かい合う側壁62a,62b同士が接続部301,302によって接続されているため、区画壁62の剛性を向上させることができる。その結果、アクチュエータプレート54の変形に伴う圧力室61内の圧力変動時において、区画壁62の変形を抑制できるので、圧力室61内のインクに対して効果的に弾性エネルギーを伝えることができる。よって、圧力室61の発生圧力を向上させることができる。
しかも、流路部材第2加工工程S11において、流路部材52の下面を加工する際に、向かい合う側壁62a,62b同士が分離しないので、製造効率や歩留まりの向上を図ることができる。
【0109】
(第4実施形態)
図31は、第4実施形態に係るヘッドチップ50において、
図4に対応する断面図である。
図32は、第4実施形態に係るヘッドチップ50において、
図5に対応する断面図である。
図33は、第4実施形態に係るヘッドチップ50において、
図6に対応する斜視図である。
図31~
図33に示すヘッドチップ50において、側壁62a,62bは、X方向の幅がY方向及びZ方向の全体に亘って一様に形成されている。
【0110】
+Y側接続部301は、向かい合う側壁62a,62b同士の+Y側端部を接続している。+Y側接続部301は、+Y側に向かうに従いZ方向の高さが漸次高くなっている。+Y側接続部301の最大高さは、側壁62a,62bの+Y側端縁において側壁62a,62bと同等になっている。
-Y側接続部302は、向かい合う側壁62a,62b同士の-Y側端部を接続している。-Y側接続部302は、-Y側に向かうに従いZ方向の高さが漸次高くなっている。-Y側接続部302の最大高さは、側壁62a,62bの-Y側端縁において側壁62a,62bと同等になっている。
【0111】
入口側連通路66は、+Y側端壁62cの上部及び+Y側接続部301の上部において、X方向の中央部をY方向に貫通している。出口側連通路68は、-Y側端壁62dの上部及び-Y側接続部302の上部において、X方向の中央部をY方向に貫通している。入口側連通路66及び出口側連通路68のZ方向の深さは、側壁62a,62bの高さよりも浅くなっている。入口側連通路66及び出口側連通路68のX方向の寸法は、隣り合う側壁62a,62b間の距離よりも小さくなっている。したがって、入口側連通路66及び出口側連通路68の流路断面積は、圧力室61の最大流路面積よりも小さくなっている。
【0112】
(その他の変形例)
なお、本開示の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述した実施形態では、液体噴射記録装置の一例として、インクジェットプリンタ1を例に挙げて説明したが、プリンタに限られるものではない。例えば、ファックスやオンデマンド印刷機等であってもよい。
上述した実施形態では、印刷時にインクジェットヘッドが被記録媒体に対して移動する構成(いわゆる、シャトル機)を例にして説明をしたが、この構成に限られない。本開示に係る構成は、インクジェットヘッドを固定した状態で、インクジェットヘッドに対して被記録媒体を移動させる構成(いわゆる、固定ヘッド機)に採用してもよい。
上述した実施形態では、被記録媒体Pが紙の場合について説明したが、この構成に限られない。被記録媒体Pは、紙に限らず、金属材料や樹脂材料であってもよく、食品等であってもよい。
上述した実施形態では、液体噴射ヘッドが液体噴射記録装置に搭載された構成について説明したが、この構成に限られない。すなわち、液体噴射ヘッドから噴射される液体は、被記録媒体に着弾させるものに限らず、例えば調剤中に配合する薬液や、食品に添加する調味料や香料等の食品添加物、空気中に噴射する芳香剤等であってもよい。
【0113】
上述した実施形態では、Z方向が重力方向に一致する構成について説明したが、この構成のみに限らず、Z方向を水平方向に沿わせてもよい。
上述した実施形態では、シェアモード及びベンドモードの双方の変形モードに起因してアクチュエータプレート54を変形させる構成について説明したが、この構成に限られない。本開示のヘッドチップ50は、少なくともアクチュエータプレート54がZ方向に変形する構成であればよい。
【0114】
上述した実施形態では、電圧の印加によって圧力室61の容積が拡大する方向にアクチュエータプレート54を変形させた後、アクチュエータプレート54を復元させることで、インクを吐出させる構成(いわゆる、引き打ち)について説明したが、この構成に限られない。本開示に係るヘッドチップは、電圧の印加によって圧力室61の容積が縮小する方向にアクチュエータプレート54を変形させることで、インクを吐出させる構成(いわゆる、押し打ち)であってもよい。押し打ちを行う場合、駆動電圧の印加により、アクチュエータプレート54は、圧力室61内に向けて膨出するように変形する。これにより、圧力室61内の容積が減少することで、圧力室61内の圧力が増加し、圧力室61内のインクがノズル孔71を通じて外部に吐出される。駆動電圧をゼロにすると、アクチュエータプレート54が復元する。その結果、圧力室61内の容積が元に戻る。なお、押し打ちのヘッドチップは、アクチュエータプレート54の分極方向、及び電場の向き(共通電極及び個別電極のレイアウト)の何れかを、引き打ちのヘッドチップに対して逆に設定することで実現可能である。
【0115】
上述した実施形態では、共通流路65,67が圧力室61に対してY方向の両側に配置された構成について説明したが、この構成に限られない。共通流路65,67は、圧力室61に対して上方等に配置されていてもよい。
上述した実施形態では、流路部材52の上方に第1フィルム53を介してアクチュエータプレート54が接合された構成について説明したが、この構成に限られない。アクチュエータプレート54は、流路部材52の上方に直接接合してもよい。
上述した実施形態では、流路部材52の下方にノズルプレート51を直接接合された構成について説明したが、この構成に限られない。ノズルプレート51は、流路部材52の下方に中間プレートを介して接合してもよい。
【0116】
上述した第1実施形態等では、側壁62a,62bが段付き形状に形成された構成について説明したが、この構成に限られない。側壁62a,62bは、テーパ状等に形成されていてもよい。
【0117】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0118】
1:プリンタ(液体噴射記録装置)
5:インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)
50:ヘッドチップ
51:ノズルプレート(噴射孔プレート、第2部材)
52:流路部材
53:第1フィルム(第1部材)
54:アクチュエータプレート(第1部材)
61:圧力室
62:区画壁
65:入口側共通流路(共通流路)
66:入口側連通路(連通路)
67:出口側共通流路(共通流路)
68:出口側連通路(連通路)
71:ノズル孔(噴射孔)
81b:第2共通電極(第1対向電極)
82a:第1個別電極(第1電極)
82b:第2個別電極(第2電極)
301:接続部
302:接続部