(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086229
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】紡糸延伸装置
(51)【国際特許分類】
D01D 5/098 20060101AFI20240620BHJP
D02J 1/22 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
D01D5/098
D02J1/22 302D
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201253
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳平
(72)【発明者】
【氏名】辻 崇紘
【テーマコード(参考)】
4L036
4L045
【Fターム(参考)】
4L036AA01
4L036MA05
4L036PA12
4L036PA49
4L036UA25
4L045AA05
4L045BA03
4L045DA14
4L045DA17
4L045DB07
4L045DC01
(57)【要約】
【課題】紡糸延伸装置において、糸揺れを抑制しつつ消費電力の増大を抑制する。
【解決手段】紡糸延伸装置3は、3つ以上の加熱ローラ31と、加熱ローラ31を収容する保温箱13とを備える。3つ以上の加熱ローラ31は、糸Yが360度未満の巻掛角度でそれぞれ巻き掛けられ、糸Yを加熱しつつ糸走行方向における下流側へ送るように構成されている。3つ以上の加熱ローラ31は、第1加熱ローラ32と、第2加熱ローラ33と、第3加熱ローラ34とを有する。保温箱13は、第2加熱ローラ33の周りに配置され、第2加熱ローラ33の回転によって生じるローラ随伴流を第2加熱ローラ33の全周に亘って循環させるように構成された循環部50を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸装置から紡出された走行中の糸を延伸する紡糸延伸装置であって、
前記糸が360度未満の巻掛角度でそれぞれ巻き掛けられ、前記糸を加熱しつつ糸走行方向における下流側へ送るように構成された3つ以上の加熱ローラと、
前記3つ以上の加熱ローラを収容する保温箱と、を備え、
前記3つ以上の加熱ローラは、
前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も上流側に配置された最上流加熱ローラと、
前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も下流側に配置された最下流加熱ローラと、
前記糸走行方向において前記最上流加熱ローラよりも下流側且つ前記最下流加熱ローラよりも上流側に配置された1以上の中間加熱ローラと、を有し、
前記保温箱は、
前記最上流加熱ローラと前記1以上の中間加熱ローラとを含む2以上の上流加熱ローラのうち、1以上の所定上流加熱ローラの周りにそれぞれ配置され、前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の回転によって生じる随伴流であるローラ随伴流を前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の全周に亘って循環させるように構成された1以上の循環部、を有することを特徴とする紡糸延伸装置。
【請求項2】
前記1以上の循環部は、前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の周りで前記ローラ随伴流を循環させることにより、前記糸走行方向に沿った層流を前記1以上の所定上流加熱ローラの周りにそれぞれ発生させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の紡糸延伸装置。
【請求項3】
前記1以上の循環部の任意の1つである所定循環部は、
前記1以上の所定上流加熱ローラのうち前記所定循環部に対応する所定加熱ローラの回転軸方向と直交する断面において、
前記所定加熱ローラの外周面のうち前記糸が接触している接触面の前記糸走行方向における最も上流側の点を接触開始点と定義し、且つ、前記接触面の前記糸走行方向における最も下流側の点を接触終了点と定義したとき、
前記外周面のうち前記糸が接触していない非接触面と対向するように配置され、且つ、前記所定加熱ローラの周方向において、前記接触開始点よりも前記糸走行方向における上流側の糸道である上流糸道と、前記接触終了点よりも前記糸走行方向における下流側の糸道である下流糸道との間に挟まれるように配置され、前記周方向において前記接触終了点に最も近い端点である第1の点と、前記周方向において前記接触開始点に最も近い端点である第2の点と、を含む随伴流回収面、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の紡糸延伸装置。
【請求項4】
前記断面において、
前記接触開始点を含み前記上流糸道と部分的に重なる仮想上流直線と、前記接触終了点を含み前記下流糸道と部分的に重なる仮想下流直線とは、所定の対称軸に関して線対称であり、
前記第1の点は、前記対称軸と前記仮想下流直線との間に挟まれるように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の紡糸延伸装置。
【請求項5】
前記断面において、前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ仮想線分である第1仮想線分と、前記所定加熱ローラの径方向における中心と前記第1の点とを結ぶ仮想線分である第2仮想線分と、のなす角が鋭角であることを特徴とする請求項3又は4に記載の紡糸延伸装置。
【請求項6】
前記断面において、
前記随伴流回収面は、
前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ線分を形成し、又は、前記線分よりも前記所定加熱ローラの径方向における外側へ膨らむように、湾曲し、若しくは鈍角を形成するように屈曲していることを特徴とする請求項3~5のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項7】
前記随伴流回収面は、前記断面において、前記線分を形成していることを特徴とする請求項6に記載の紡糸延伸装置。
【請求項8】
前記所定循環部は、前記周方向において前記接触面を囲うように配置された随伴流規制面を有することを特徴とする請求項3~7のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項9】
前記断面において、前記第1の点を端点として前記第2の点を通る仮想半直線が、前記随伴流規制面と交わることを特徴とする請求項8に記載の紡糸延伸装置。
【請求項10】
前記断面において、前記第1の点を端点として前記第2の点を通る仮想半直線と、前記接触開始点に向かって走行している前記糸の糸道との交点を第3の点と定義したとき、
前記断面において、前記第2の点と前記第3の点とを結ぶ仮想線分である第3仮想線分と、前記第3の点と前記接触開始点とを結ぶ仮想線分である第4仮想線分とのなす角が鈍角であることを特徴とする請求項3~9のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項11】
前記断面において、前記外周面と前記随伴流回収面との最短距離は、11mm以上88mm以下であることを特徴とする請求項3~10のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項12】
前記保温箱は、
前記最下流加熱ローラ及び前記1以上の中間加熱ローラのうち所定の1つである下流加熱ローラと前記最上流加熱ローラとの間に配置された仕切部と、
前記仕切部を隔てて前記仕切部よりも前記下流加熱ローラ側の下流空間と、前記仕切部を隔てて前記仕切部よりも前記最上流加熱ローラ側の上流空間と、を連通させる戻り流路と、を有することを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項13】
前記1以上の所定上流加熱ローラは、前記1以上の中間加熱ローラを含むことを特徴とする請求項1~12のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項14】
前記1以上の循環部は、前記1以上の中間加熱ローラの全てに対応して設けられていることを特徴とする請求項13に記載の紡糸延伸装置。
【請求項15】
前記1以上の所定上流加熱ローラは、前記最上流加熱ローラを含むことを特徴とする請求項1~14のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項16】
前記保温箱は、
前記糸の出口と、
前記最下流加熱ローラの外周面のうち前記糸が巻き掛けられている最下流接触面に向かって延びた、前記出口に向かう前記糸の走行によって生じる糸随伴流を遮断する遮断部と、を有することを特徴とする請求項1~15のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項17】
前記保温箱は、
前記最下流加熱ローラの回転軸方向と直交する断面において、
前記最下流加熱ローラの前記外周面のうち前記糸が巻き掛けられていない最下流非接触面と対向するように配置され、且つ、前記最下流接触面よりも前記糸走行方向における上流側の糸道と、前記最下流接触面よりも前記糸走行方向における下流側の糸道との間に挟まれるように配置された最下流随伴流回収面、を有することを特徴とする請求項16に記載の紡糸延伸装置。
【請求項18】
前記糸走行方向において前記最上流加熱ローラよりも上流側で前記糸が延伸されることを特徴とする請求項1~17のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項19】
前記保温箱の外側且つ前記3つ以上の加熱ローラの前記糸走行方向における上流側に配置され、延伸される前の前記糸が巻き掛けられる外側ローラを備え、
前記糸は、前記糸走行方向において、前記外側ローラと前記最上流加熱ローラとの間で延伸されることを特徴とする請求項18に記載の紡糸延伸装置。
【請求項20】
前記外側ローラは、前記糸を加熱しない非加熱ローラであることを特徴とする請求項19に記載の紡糸延伸装置。
【請求項21】
前記3つ以上の加熱ローラの各々は、延伸された前記糸を熱固定するための熱固定ローラであることを特徴とする請求項1~20のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項22】
前記糸は、ナイロンからなることを特徴とする請求項1~21のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、紡糸装置から紡出されたポリエステル製の糸を延伸する紡糸延伸装置が開示されている。より具体的には、紡糸延伸装置は、走行する糸が巻き掛けられる複数のゴデットローラと、複数のゴデットローラを収容する保温箱とを有する。複数のゴデットローラは、糸を予熱する複数の予熱ローラと、予熱ローラよりも糸走行方向における下流側に設けられ、予熱ローラよりも表面温度が高い複数の調質ローラとを有する。このような紡糸延伸装置において、予熱ローラと調質ローラとの間で糸が延伸される。また、調質ローラの近傍には、調質ローラの回転に伴って発生する随伴流が保温箱から逃げてしまうことを防ぐための遮断部材が設けられている。これにより、保温効果を向上させ、ゴデットローラを加熱するヒータの消費電力の増大を抑制することが図られている。
【0003】
また、特許文献1には開示されていないが、ナイロン製の糸を延伸する紡糸延伸装置も従来から知られている。従来のナイロン用の紡糸延伸装置は、公知の複数のネルソンローラを有する。ナイロン用の紡糸延伸装置の多くにおいて、複数のネルソンローラは、加熱されない非加熱ローラと、非加熱ローラよりも糸走行方向における下流側に配置された熱セット用の加熱ローラとを含む。このような紡糸延伸装置において、非加熱ローラと加熱ローラとの間で糸が延伸される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナイロン製の糸を延伸する従来の紡糸延伸装置においては、ネルソンローラによる加熱効果を高めるために、糸が、ネルソンローラの軸方向における位置をずらされつつ、何周にも亘ってネルソンローラに巻き掛けられる。このため、ネルソンローラに巻き掛けられた糸に軸方向の力が加わることとなり、糸揺れの問題が生じやすい。また、ナイロン製の糸を延伸させることが可能な紡糸延伸装置においても、ヒータの消費電力の抑制が求められる。
【0006】
本発明の目的は、紡糸延伸装置において、糸揺れを抑制しつつ消費電力の増大を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明の紡糸延伸装置は、紡糸装置から紡出された走行中の糸を延伸する紡糸延伸装置であって、前記糸が360度未満の巻掛角度でそれぞれ巻き掛けられ、前記糸を加熱しつつ糸走行方向における下流側へ送るように構成された3つ以上の加熱ローラと、前記3つ以上の加熱ローラを収容する保温箱と、を備え、前記3つ以上の加熱ローラは、前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も上流側に配置された最上流加熱ローラと、前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も下流側に配置された最下流加熱ローラと、前記糸走行方向において前記最上流加熱ローラよりも下流側且つ前記最下流加熱ローラよりも上流側に配置された1以上の中間加熱ローラと、を有し、前記保温箱は、前記最上流加熱ローラと前記1以上の中間加熱ローラとを含む2以上の上流加熱ローラのうち、1以上の所定上流加熱ローラの周りにそれぞれ配置され、前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の回転によって生じる随伴流であるローラ随伴流を前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の全周に亘って循環させるように構成された1以上の循環部、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明では、3つ以上の加熱ローラが設けられているので、糸揺れが生じる懸念が大きいネルソンローラを用いなくても、糸を十分に加熱できる。したがって、ネルソンローラが設けられた構成と比べて糸揺れを抑制できる。さらに、本発明では、ローラ随伴流を循環部によって所定上流加熱ローラの周りで循環させることにより、所定上流加熱ローラによって熱せられた気体が糸の出口を通って保温箱から逃げてしまうことを抑制できる。これにより、保温箱内の保温効果を向上できる。また、ローラ随伴流を循環部によって循環させることにより、ローラ随伴流を形成する気体を所定上流加熱ローラによって加熱し続けることができる。これにより、所定上流加熱ローラの近傍の保温効果を向上でき、結果として所定上流加熱ローラそのものの保温効果を向上できる。したがって、紡糸延伸装置において、糸揺れを抑制しつつ消費電力の増大を抑制できる。
【0009】
第2の発明の紡糸延伸装置は、前記第1の発明において、前記1以上の循環部は、前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の周りで前記ローラ随伴流を循環させることにより、前記糸走行方向に沿った層流を前記1以上の所定上流加熱ローラの周りにそれぞれ発生させるように構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明では、所定上流加熱ローラの周りを循環するローラ随伴流によって、安定した層流を形成できる。このため、循環する気体の流量が多くても、糸揺れを抑制できる。
【0011】
第3の発明の紡糸延伸装置は、前記第1又は第2の発明において、前記1以上の循環部の任意の1つである所定循環部は、前記1以上の所定上流加熱ローラのうち前記所定循環部に対応する所定加熱ローラの回転軸方向と直交する断面において、前記所定加熱ローラの外周面のうち前記糸が接触している接触面の前記糸走行方向における最も上流側の点を接触開始点と定義し、且つ、前記接触面の前記糸走行方向における最も下流側の点を接触終了点と定義したとき、前記外周面のうち前記糸が接触していない非接触面と対向するように配置され、且つ、前記所定加熱ローラの周方向において、前記接触開始点よりも前記糸走行方向における上流側の糸道である上流糸道と、前記接触終了点よりも前記糸走行方向における下流側の糸道である下流糸道との間に挟まれるように配置され、前記周方向において前記接触終了点に最も近い端点である第1の点と、前記周方向において前記接触開始点に最も近い端点である第2の点と、を含む随伴流回収面、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明では、随伴流回収面によって、ローラ随伴流が遠心力によって外周面の径方向における外側へ逃げてしまうことを抑制できる。したがって、簡易的な構成で、ローラ随伴流を効果的に循環させることができる。
【0013】
第4の発明の紡糸延伸装置は、前記第3の発明において、前記断面において、前記接触開始点を含み前記上流糸道と部分的に重なる仮想上流直線と、前記接触終了点を含み前記下流糸道と部分的に重なる仮想下流直線とは、所定の対称軸に関して線対称であり、前記第1の点は、前記対称軸と前記仮想下流直線との間に挟まれるように配置されていることを特徴とする。
【0014】
本発明では、第1の点が接触終了点に近い位置に配置されている。これにより、接触終了点の近傍を流れる随伴流を随伴流回収面によって取り込みやすい(回収しやすい)。したがって、ローラ随伴流を効果的に循環させることができる。
【0015】
第5の発明の紡糸延伸装置は、前記第3又は第4の発明において、前記断面において、前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ仮想線分である第1仮想線分と、前記所定加熱ローラの径方向における中心と前記第1の点とを結ぶ仮想線分である第2仮想線分と、のなす角が鋭角であることを特徴とする。
【0016】
本発明では、第1の点の近傍を流れるローラ随伴流を、随伴流回収面によって周方向に受け流しつつ径方向における内側へ案内できる。これにより、ローラ随伴流を随伴流回収面に沿ってスムーズに流れさせることができる。
【0017】
第6の発明の紡糸延伸装置は、前記第3~第5のいずれかの発明において、前記断面において、前記随伴流回収面は、前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ線分を形成し、又は、前記線分よりも前記所定加熱ローラの径方向における外側へ膨らむように、湾曲し、若しくは鈍角を形成するように屈曲していることを特徴とする。
【0018】
本発明では、随伴流回収面に沿ってローラ随伴流をスムーズに流れさせることができる。
【0019】
第7の発明の紡糸延伸装置は、前記第6の発明において、前記随伴流回収面は、前記断面において、前記線分を形成していることを特徴とする。
【0020】
本発明では、随伴流回収面が平面状である。したがって、随伴流回収面が湾曲又は屈曲している場合と比べて、簡単な加工によって随伴流回収面を形成できる。
【0021】
第8の発明の紡糸延伸装置は、前記第3~第7のいずれかの発明において、前記所定循環部は、前記周方向において前記接触面を囲うように配置された随伴流規制面を有することを特徴とする。
【0022】
本発明では、随伴流規制面によって、ローラ随伴流が遠心力によって外周面の径方向における外側へ逃げてしまうことをさらに抑制できる。
【0023】
第9の発明の紡糸延伸装置は、前記第8の発明において、前記断面において、前記第1の点を端点として前記第2の点を通る仮想半直線が、前記随伴流規制面と交わることを特徴とする。
【0024】
本発明では、随伴流回収面に沿って案内されたローラ随伴流を随伴流規制面に向けて供給できる。これにより、ローラ随伴流をより効果的に循環させることができる。
【0025】
第10の発明の紡糸延伸装置は、前記第3~第9のいずれかの発明において、前記断面において、前記第1の点を端点として前記第2の点を通る仮想半直線と、前記接触開始点に向かって走行している前記糸の糸道との交点を第3の点と定義したとき、前記断面において、前記第2の点と前記第3の点とを結ぶ仮想線分である第3仮想線分と、前記第3の点と前記接触開始点とを結ぶ仮想線分である第4仮想線分とのなす角が鈍角であることを特徴とする。
【0026】
本発明では、随伴流回収面に沿って案内されたローラ随伴流が糸の進行方向に逆らうように流れることを防止できる。したがって、糸揺れを抑制できる。
【0027】
第11の発明の紡糸延伸装置は、前記第3~第10のいずれかの発明において、前記断面において、前記外周面と前記随伴流回収面との最短距離は、11mm以上88mm以下であることを特徴とする。
【0028】
外周面と随伴流回収面との間隔が狭すぎると、循環できるローラ随伴流の流量が少なくなってしまう。一方、外周面と随伴流回収面との間隔が広すぎると、ローラ随伴流が遠心力によって径方向における外側へ逃げることが抑制されにくくなり、これによって気流の乱れが生じやすくなってしまう。気流の乱れは、糸切れの原因になりうる。本発明では、外周面と随伴流回収面との最短距離を11mm以上88mm以下にすることにより、これらの問題をさらに抑制できる。
【0029】
第12の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第11のいずれかの発明において、前記保温箱は、前記最下流加熱ローラ及び前記1以上の中間加熱ローラのうち所定の1つである下流加熱ローラと前記最上流加熱ローラとの間に配置された仕切部と、前記仕切部を隔てて前記仕切部よりも前記下流加熱ローラ側の下流空間と、前記仕切部を隔てて前記仕切部よりも前記最上流加熱ローラ側の上流空間と、を連通させる戻り流路と、を有することを特徴とする。
【0030】
最上流加熱ローラは、保温箱に形成された糸の入口から流入する冷気によって冷やされてしまいやすい。本発明では、戻り流路を介して、下流空間内の高温の気体を上流空間に供給できる。これにより、最上流加熱ローラの温度の保温効果を効果的に向上できる。
【0031】
第13の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第12のいずれかの発明において、前記1以上の所定上流加熱ローラは、前記1以上の中間加熱ローラを含むことを特徴とする。
【0032】
糸が保温箱に形成された入口を通って保温箱内に進入する際、糸の走行によって発生する随伴流(以下、糸随伴流)も保温箱内に流入する。最上流加熱ローラは、保温箱の外側から流入するこのような冷気によって冷やされてしまいやすい。中間加熱ローラは、最上流加熱ローラに比較的近いので、中間加熱ローラの保温効果を向上させることにより、中間加熱ローラから発せられる熱を最上流加熱ローラ側に伝えることができる。これにより、最上流加熱ローラの保温効果も向上させることができる。
【0033】
第14の発明の紡糸延伸装置は、前記第13の発明において、前記1以上の循環部は、前記1以上の中間加熱ローラの全てに対応して設けられていることを特徴とする。
【0034】
本発明では、保温箱内の保温効果を効果的に向上させることができる。
【0035】
第15の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第14のいずれかの発明において、前記1以上の所定上流加熱ローラは、前記最上流加熱ローラを含むことを特徴とする。
【0036】
本発明では、最上流加熱ローラの保温効果を向上させることができる。したがって、消費電力を効果的に低減できる。
【0037】
第16の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第15のいずれかの発明において、前記保温箱は、前記糸の出口と、前記最下流加熱ローラの外周面のうち前記糸が巻き掛けられている最下流接触面に向かって延びた、前記出口に向かう前記糸の走行によって生じる糸随伴流を遮断する遮断部と、を有することを特徴とする。
【0038】
本発明では、遮断部によって、糸随伴流が出口を通って保温箱から流出することを抑制できる。したがって、保温箱内の保温効果を向上させることができる。
【0039】
第17の発明の紡糸延伸装置は、前記第18の発明において、前記保温箱は、前記最下流加熱ローラの回転軸方向と直交する断面において、前記最下流加熱ローラの前記外周面のうち前記糸が巻き掛けられていない最下流非接触面と対向するように配置され、且つ、前記最下流接触面よりも前記糸走行方向における上流側の糸道と、前記最下流接触面よりも前記糸走行方向における下流側の糸道との間に挟まれるように配置された最下流随伴流回収面、を有することを特徴とする。
【0040】
本発明では、最下流加熱ローラのローラ随伴流の一部を最下流随伴流回収面によって糸走行方向における上流側へ戻すことができる。これにより、ローラ随伴流が出口を通って保温箱から流出することを抑制できる。したがって、保温箱内の保温効果を向上させることができる。
【0041】
第18の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第17のいずれかの発明において、前記糸走行方向において前記最上流加熱ローラよりも上流側で前記糸が延伸されることを特徴とする。
【0042】
本発明では、糸が延伸される領域よりも糸走行方向における下流側に3つ以上の加熱ローラが設けられているので、糸をしっかり把持できる。このため、延伸されている糸に加わる張力によって加熱ローラ上の糸がスリップすることを抑制できる。これにより、糸揺れをさらに抑制できる。
【0043】
第19の発明の紡糸延伸装置は、前記第18の発明において、前記保温箱の外側且つ前記3つ以上の加熱ローラの前記糸走行方向における上流側に配置され、延伸される前の前記糸が巻き掛けられる外側ローラを備え、前記糸は、前記糸走行方向において、前記外側ローラと前記最上流加熱ローラとの間で延伸されることを特徴とする。
【0044】
本発明では、保温箱によって外側ローラと最上流加熱ローラとの間で熱の移動を抑制できる。したがって、外側ローラと最上流加熱ローラとの間で加熱温度が大きく異なっている場合でも、温度差による影響を抑制できる。
【0045】
第20の発明の紡糸延伸装置は、前記第19の発明において、前記外側ローラは、前記糸を加熱しない非加熱ローラであることを特徴とする。
【0046】
本発明では、外側ローラは非加熱ローラであり、温められる必要がない。このため、外側ローラを前記保温箱内に収容する必要は生じない。したがって、例えば前記3つ以上の加熱ローラと設定温度が異なる加熱ローラが保温箱内に収容されうる構成と比べて、保温箱内を自由に設計できる。
【0047】
第21の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第20のいずれかの発明において、前記3つ以上の加熱ローラの各々は、延伸された前記糸を熱固定するための熱固定ローラであることを特徴とする。
【0048】
本発明では、3つ以上の熱固定ローラが設けられているので、糸揺れが生じる懸念が大きいネルソンローラを用いなくても、糸を十分に熱固定できる。
【0049】
第22の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第21のいずれかの発明において、前記糸は、ナイロンからなることを特徴とする。
【0050】
本発明は、ナイロン製の糸を延伸する上で特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本実施形態の紡糸延伸装置を備える紡糸引取機を示す模式図である。
【
図3】(a)、(b)の各々は、第2加熱ローラ及びその近傍の拡大図である。
【
図4】保温箱内の流体の流量のシミュレーション結果を示す図である。
【
図5】実施例及び比較例における流体解析の条件と、各条件における流体解析の結果とを示すテーブルである。
【
図6】
図5に示すテーブルから、実施例1~6における流体解析の条件及び解析結果を抜粋して並べ替えたものである。
【
図7】
図5に示すテーブルから、戻り流路の有無に関する実施例及び比較例の条件及び解析結果を抜粋したものである。
【
図8】(a)、(b)の各々は、比較例に係る説明図である。
【
図9】変形例に係る、紡糸延伸装置の断面図である。
【
図10】別の変形例に係る、紡糸延伸装置の断面図である。
【
図11】複数の変形例における流体解析の条件と、各条件における流体解析の結果とを含むテーブルである。
【
図12】(a)、(b)の各々は、さらに別の変形例に係る第2加熱ローラ及びその近傍の拡大図である。
【
図13】(a)、(b)の各々は、さらに別の変形例に係る紡糸延伸装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
次に、本発明の実施形態について説明する。
図1に示す上下方向、左右方向及び前後方向を、紡糸引取機1の上下方向、左右方向及び前後方向とそれぞれ定義する。上下方向(
図1の紙面上下方向)は、重力が作用する鉛直方向と平行な方向である。左右方向(
図1の紙面左右方向)は、上下方向と直交する所定の方向である。前後方向(
図1の紙面垂直方向)は、上下方向及び左右方向の両方と直交する方向である。また、後述の糸Yが走行する方向を糸走行方向と定義する。
【0053】
(紡糸引取機)
本実施形態に係る紡糸延伸装置3を備える紡糸引取機1の構成について、
図1を参照しつつ説明する。
図1は、紡糸引取機1の模式図である。紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出された複数の糸Yを、紡糸延伸装置3で延伸した後、糸巻取装置4で巻き取るように構成されている。
【0054】
紡糸装置2は、ナイロン(例えばナイロン6又はナイロン66)からなる溶融ポリマーを連続的に紡出することで、ナイロンからなる複数の糸Yを生成するように構成されている。なお、
図1には、糸Yが1本のみ図示されている。各糸Yは、例えば、複数のフィラメントfを有するマルチフィラメント糸である。或いは、各糸Yは1本のフィラメントfによって構成されていても良い。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、油剤ガイド10によって油剤が付与された後、紡糸延伸装置3に送られる。
【0055】
紡糸延伸装置3は、複数の糸Yを延伸する装置である。紡糸延伸装置3は、例えば紡糸装置2の下方に配置されている。
図1に示すように、紡糸延伸装置3は、例えば、非加熱ローラ群11と、加熱ローラ群12と、保温箱13とを有する。非加熱ローラ群11が有する複数の非加熱ローラ21と、加熱ローラ群12が有する複数の加熱ローラ31との間で糸Yが延伸される。複数の加熱ローラ31の各々は、延伸された糸Yを熱固定するための熱固定ローラである。複数の加熱ローラ31は、保温箱13内に収容されている。
【0056】
保温箱13は、入口13aと出口13bとを有する。入口13aは、複数の糸Yを保温箱13の内部に導入するために形成された開口である。複数の糸Yの走行によって生じる随伴流(以下、糸随伴流)の一部は、入口13aを通って保温箱13内に流入する。出口13bは、延伸され且つ加熱された複数の糸Yを保温箱13の外部に導出するために形成された開口である。糸随伴流の一部は、出口13bを通って保温箱13の外に流出する。紡糸延伸装置3の更なる詳細については後述する。
【0057】
紡糸延伸装置3で延伸された複数の糸Yは、案内ローラ14を経て糸巻取装置4に送られる。糸巻取装置4は、複数の糸Yを複数の巻取ボビンBwにそれぞれ巻き取って、複数のパッケージPを形成するように構成されている。
【0058】
以上の構成を備える紡糸引取機1によって、複数の糸Yの紡出、延伸及び巻取りの一連の処理が行われる。
【0059】
(紡糸延伸装置)
次に、紡糸延伸装置3のより具体的な構成について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。
図2は、紡糸延伸装置3の前後方向と直交する断面図である。
【0060】
上述したように、紡糸延伸装置3は、例えば、非加熱ローラ群11と、加熱ローラ群12と、保温箱13とを有する。非加熱ローラ群11は、油剤が付与された複数の糸Yを引き取って、複数の糸Yを加熱せずに加熱ローラ群12へ送るように構成されている。或いは、糸走行方向において、油剤ガイド10と非加熱ローラ群11との間に、不図示の引取ローラが配置されていても良い。
図1及び
図2に示すように、非加熱ローラ群11は、例えば複数の非加熱ローラ21を有する。複数の非加熱ローラ21は、保温箱13の外側に配置されている。複数の非加熱ローラ21は、保温箱13とは別の保温箱(不図示)に収容されていても良い。各非加熱ローラ21は、例えば公知のゴデットローラである。各非加熱ローラ21は、不図示のモータによって回転駆動される。複数の非加熱ローラ21の回転軸方向は、例えば、前後方向と略平行である。つまり、複数の非加熱ローラ21の回転軸方向は、互いに略平行である。各非加熱ローラ21は、複数の糸Yが巻き掛けられる外周面21a(
図1参照)を有する。複数の糸Yは、各非加熱ローラ21の回転軸方向において、外周面21aに並べて巻きかけられる。複数の糸Yは、糸走行方向における上流側から順に、複数の非加熱ローラ21に360度未満の巻掛角度で巻き掛けられている。本実施形態では、複数の非加熱ローラ21として3つの非加熱ローラ21が設けられている(
図1参照)。3つの非加熱ローラ21として、糸走行方向における上流側から順に、第1非加熱ローラ22、第2非加熱ローラ23及び第3非加熱ローラ24(本発明の外側ローラ)が配置されている。非加熱ローラ21の数はこれに限られない。
【0061】
加熱ローラ群12は、複数の糸Yを非加熱ローラ群11との間で延伸し、且つ、延伸された複数の糸Yを熱セットするように構成されている。
図1及び
図2に示すように、加熱ローラ群12は、例えば複数の加熱ローラ31を有する。複数の加熱ローラ31は、保温箱13内に収容されている。各加熱ローラ31は、非加熱ローラ21と同様、例えば公知のゴデットローラである。各加熱ローラ31は、不図示のモータによって回転駆動される。複数の加熱ローラ31の回転軸方向は、例えば、前後方向と略平行である。つまり、複数の加熱ローラ31の回転軸方向は、互いに略平行であり、且つ、複数の非加熱ローラ21の回転軸方向と略平行である。各加熱ローラ31は、複数の糸Yが巻き掛けられる外周面31a(
図2参照)を有する。複数の糸Yは、各加熱ローラ31の回転軸方向において、外周面31aに並べて巻きかけられる。各加熱ローラ31は、不図示のヒータを有する。ヒータは、例えば不図示のコイルを有する。ヒータは、コイルに電力が供給されているときに、ジュール熱によって加熱ローラ31の外周面31aを加熱するように構成されている。各加熱ローラ31の加熱温度(すなわち、各加熱ローラ31の外周面31aの設定温度)は、互いに略等しい。各加熱ローラ31の加熱温度は、例えば50~250℃である。複数の糸Yは、糸走行方向における上流側から順に、複数の加熱ローラ31に360度未満の巻掛角度で巻き掛けられている。本実施形態では、複数の加熱ローラ31として3つの加熱ローラ31が設けられている。3つの加熱ローラ31として、糸走行方向における上流側から順に、第1加熱ローラ32、第2加熱ローラ33及び第3加熱ローラ34が配置されている。
【0062】
第1加熱ローラ32(本発明の最上流加熱ローラ及び上流加熱ローラ)は、複数の加熱ローラ31のうち糸走行方向において最も上流側に配置されている。第1加熱ローラ32は、例えば、複数の加熱ローラ31のうち最も下側に配置されている。第1加熱ローラ32は、糸走行方向において、複数の非加熱ローラ21のうち最も下流側に配置された第3非加熱ローラ24のすぐ下流側に配置されている。第1加熱ローラ32は、第3非加熱ローラ24との間で糸Yを延伸するように構成されている。すなわち、第1加熱ローラ32による糸送り速度は、第3非加熱ローラ24による糸送り速度よりも速くなるように設定される。第1加熱ローラ32による糸送り速度と第3非加熱ローラ24による糸送り速度との差によって、糸Yが延伸される。つまり、本実施形態では、糸走行方向において第1加熱ローラ32よりも上流側で糸Yが延伸される。
【0063】
第2加熱ローラ33(本発明の上流加熱ローラ、所定上流加熱ローラ、所定加熱ローラ及び中間加熱ローラ)は、糸走行方向において第1加熱ローラ32の下流側且つ第3加熱ローラ34の上流側に配置されている。第2加熱ローラ33は、例えば、第1加熱ローラ32よりも上側且つ右側に配置されている。第2加熱ローラ33は、例えば、第3加熱ローラ34よりも右側且つわずかに下側に配置されている。第2加熱ローラ33による糸送り速度は、第1加熱ローラ32による糸送り速度と略等しい。
【0064】
第3加熱ローラ34(本発明の下流加熱ローラ及び最下流加熱ローラ)は、複数の加熱ローラ31のうち糸走行方向において最も下流側に配置されている。第3加熱ローラ34は、例えば、第1加熱ローラ32の真上に配置されている。第3加熱ローラ34は、例えば、第2加熱ローラ33よりも左側且つわずかに上側に配置されている。第3加熱ローラ34による糸送り速度は、例えば第1加熱ローラ32による糸送り速度及び第2加熱ローラ33による糸送り速度と略等しい。但し、第3加熱ローラ34による糸送り速度はこれには限られない。
【0065】
第1加熱ローラ32、第2加熱ローラ33及び第3加熱ローラ34の回転方向は、例えば
図2の矢印に示すとおりである。より具体的には、前後方向と直交する断面において、第1加熱ローラ32の回転方向は、例えば時計回りである。当該断面において、第2加熱ローラ33の回転方向は、第1加熱ローラ32の回転方向と逆(すなわち、反時計回り)である。当該断面において、第3加熱ローラ34の回転方向は、第2加熱ローラ33の回転方向と逆であり、且つ第1加熱ローラ32の回転方向と同じ(すなわち、時計回り)である。
【0066】
保温箱13は、複数の加熱ローラ31の熱が外部に逃げることを抑制するための箱である。
図2に示すように、保温箱13は、周壁41と、背面壁42と、整流部材43~46と、遮断部材47、48と、戻り流路49と、前面扉(不図示)とを有する。保温箱13の内部空間には、保温箱13の外部空間の気体(空気)の圧力と概ね等しい圧力の気体(空気)が入っている。
【0067】
周壁41は、前後方向と直交する断面(
図2参照)において、複数の加熱ローラ31を囲うように設けられた壁状の部材である。周壁41は、複数の加熱ローラ31を囲うように配置された内壁面41a~41hを有する。内壁面41a~41hは、例えば、前後方向(
図2の紙面垂直方向)に沿って延びている。
【0068】
内壁面41a~41hのより具体的な配置の例は、以下のとおりである。
図2に示すように、内壁面41aは、第1加熱ローラ32の右側に配置され、左側を向き、上下方向に沿って延びている。内壁面41aは、入口13aのすぐ上側に配置されている。内壁面41bは、第1加熱ローラ32の右側に配置され、左側を向き、上下方向に沿って延びている。内壁面41bは、入口13aのすぐ下側に配置されている。内壁面41cは、第1加熱ローラ32の下側に配置され、上側を向き、左右方向に沿って延びている。内壁面41cの右端は、内壁面41bの下端と接続されている。内壁面41dは、第1加熱ローラ32及び第3加熱ローラ34の左側に配置され、右側を向き、上下方向に沿って延びている。内壁面41dの下端は、内壁面41cの左端と接続されている。内壁面41eは、第1加熱ローラ32の右側且つ第2加熱ローラ33の下側に配置され、上側を向き、左右方向に沿って延びている。内壁面41eの左端は、内壁面41aの上端と接続されている。内壁面41fは、第2加熱ローラ33の右側に配置され、左側を向き、上下方向に沿って延びている。内壁面41fの下端は、内壁面41eの右端と接続されている。内壁面41gは、第2加熱ローラ33及び第3加熱ローラ34の上側に配置され、下側を向き、左右方向に沿って延びている。内壁面41gの左端は、内壁面41dの上端と接続されている。内壁面41hは、第2加熱ローラ33の右側に配置され、左側を向き、上下方向に沿って延びている。内壁面41hは、出口13bのすぐ上側に配置されている。内壁面41hの上端は、内壁面41gの右端と接続されている。内壁面41a~41hの配置は、上述したものに限られない。
【0069】
背面壁42(
図2参照)は、周壁41の後側に配置された壁である。背面壁42は、例えば、前後方向と略垂直に配置された板状の部材である。背面壁42は、内壁面41a~41hの後端と接続されている。各加熱ローラ31を回転駆動するモータ(不図示)は、例えば背面壁42に対して位置が固定されている。
【0070】
整流部材43~46(
図2参照)は、保温箱13内の空気を整流するための部材である。より詳細には、整流部材43~46は、主に、上述した糸随伴流、及び各加熱ローラ31の回転によって生じる随伴流(以下、ローラ随伴流)を整流するための部材である。整流部材43~46は、例えば板状の部材が板金加工されることによって形成されている。或いは、整流部材43~46のうち少なくとも1つが、例えばブロック状の部材が切削加工されることによって形成されていても良い。整流部材43~46は、例えば前後方向(
図2の紙面垂直方向)に沿って延びている。整流部材43~46は、例えば背面壁42に固定されている。
【0071】
図2に示すように、整流部材43は、第1加熱ローラ32の左側部分を囲うように配置されている。整流部材43は、概ね上下方向に延びている。整流部材43は、例えば、内壁面41cの上側に配置され、上下方向において内壁面41cと離隔している。整流部材43は、例えば、内壁面41dの右側に配置され、左右方向において内壁面41dと離隔している。これにより、整流部材43と内壁面41dとの間に戻り流路49が形成されている。
【0072】
図2に示すように、整流部材44は、主に、第2加熱ローラ33の下側部分を囲うように配置されている。整流部材44は、概ね左右方向に延びている。整流部材44は、例えば、ほぼ全体が内壁面41eの上側に配置されている。整流部材44の左端部には、例えば、第1加熱ローラ32の外周面32aの近傍まで延びた遮断部44aが設けられている。遮断部44aは、外周面32aのうち糸Yが巻き掛けられていない部分に向かって延びている。遮断部44aは、第1加熱ローラ32のローラ随伴流を遮断することにより、当該ローラ随伴流が入口13a側に戻ることを抑制するように構成されている。整流部材44の右端は、例えば、内壁面41fの下側部分と接続されている。整流部材44は、内壁面41fとともに、後述の随伴流規制面51を形成している。
【0073】
図2に示すように、整流部材45は、主に、第2加熱ローラ33の上側部分を囲うように配置されている。整流部材45は、概ね左右方向に延びている。整流部材45は、例えば、上下方向において第2加熱ローラ33の上側且つ内壁面41gの下側に配置されている。整流部材45の左端部には、例えば、第3加熱ローラ34の外周面34aの近傍まで延びた遮断部45aが設けられている。遮断部45aは、第3加熱ローラ34のローラ随伴流を遮断することにより、当該ローラ随伴流が第2加熱ローラ33側に戻ることを抑制するように構成されている。整流部材45の右端は、例えば、内壁面41fの上端部と接続されている。整流部材45は、内壁面41f及び整流部材44とともに、後述の随伴流規制面51を形成している。
【0074】
図2に示すように、整流部材46(本発明の仕切部)は、上下方向において第1加熱ローラ32と第3加熱ローラ34とを隔てるように配置されている。整流部材46は、概ね左右方向に延びている。整流部材46は、例えば、ほぼ全体が、上下方向において第1加熱ローラ32の上側且つ第3加熱ローラ34の下側(すなわち、第1加熱ローラ32と第3加熱ローラ34との間)に配置されている。整流部材46は、例えば、内壁面41dの右側に配置され、左右方向において内壁面41dと離隔している。
【0075】
遮断部材47は、入口13aを通って保温箱13に進入する糸Yの走行によって生じる糸随伴流を遮断するように構成されている。遮断部材47は、例えば板状の部材である。遮断部材47は、例えば、内壁面41c及び背面壁42に固定されている。遮断部材47は、第1加熱ローラ32の外周面32aの周方向において、外周面32aのうち糸Yが巻き掛けられている部分に向かって延びている。
【0076】
遮断部材48(本発明の遮断部)は、糸随伴流及び第3加熱ローラ34のローラ随伴流を遮断することにより、糸随伴流及び当該ローラ随伴流が出口13bから流出することを抑制するように構成されている。遮断部材48は、例えば板状の部材である。遮断部材48は、例えば、内壁面41d及び背面壁42に固定されている。遮断部材48は、内壁面41dの上側部分から、第3加熱ローラ34の外周面34aのうち糸Yが巻き掛けられている部分(最下流接触面34b)に向かって延びている。
【0077】
戻り流路49は、例えば、第3加熱ローラ34の近傍の空気を第1加熱ローラ32の近傍に戻すための流路である。戻り流路49は、整流部材46を隔てて整流部材46よりも第3加熱ローラ34側の空間(本発明の下流空間)と、整流部材46を隔てて整流部材46よりも第1加熱ローラ32側の空間(本発明の上流空間)とを連通させている。内壁面41dと整流部材46の左端との間に、戻り流路49の入口49aが形成されている。整流部材43の下端と内壁面41c、41dとの間に、戻り流路49の出口49bが形成されている。
【0078】
前面扉(不図示)は、保温箱13の前面を閉止するための扉である。前面扉は、周壁41の前端面と接触するように構成されている。前面扉と複数の加熱ローラ31との間にはわずかな隙間が形成されている。
【0079】
その他に、保温箱13は、糸Yに付与された油剤のミストが含まれた気体を排出するための排出口(不図示)を有する。なお、排出口から排出される気体の流量は、入口13aから流入する気体の流量及び出口13bから流出する気体の流量と比べて十分小さい。排出口に関するさらなる説明は省略する。
【0080】
以上のような紡糸延伸装置3において、糸揺れの抑制及びヒータの消費電力の増大の抑制が求められる。糸揺れについては、上述したように、紡糸延伸装置3は、3つの加熱ローラ31(例えばゴデットローラ)を有する。このため、糸揺れが生じる懸念が大きい公知のネルソンローラを用いなくても、ナイロン製の糸Yを十分に加熱できる。したがって、糸揺れを抑制できる。また、ヒータの消費電力は、例えば保温箱13内の保温効果及び複数の加熱ローラ31の保温効果を向上させることにより低減可能である。保温箱13内の保温効果及び複数の加熱ローラ31の保温効果は、例えば保温箱13内の熱の流出及び/又は保温箱13の外部からの冷気の侵入を抑制することで向上可能である。消費電力を低減するために、紡糸延伸装置3は以下の構成を有する。
【0081】
(紡糸延伸装置の詳細構成)
紡糸延伸装置3の詳細構成について、
図3(a)及び
図3(b)を参照しつつ説明する。
図3(a)及び
図3(b)は、第2加熱ローラ33及びその近傍の拡大図である。以下、第2加熱ローラ33の回転軸方向を単に回転軸方向と呼ぶ。第2加熱ローラ33の径方向を単に径方向と呼ぶ。第2加熱ローラ33の周方向を単に周方向と呼ぶ。第2加熱ローラ33の外周面33aのうち、回転軸方向と直交する断面(
図3(a)及び
図3(b)参照。以下、上記断面)において糸Yが接触している部分を接触面33b(
図3(a)の太線参照)と呼ぶ。断面において、外周面33aのうち糸Yが接触していない部分を非接触面33c(
図3(b)の太線参照)と呼ぶ。上記断面において、接触面33bのうち糸走行方向における最も上流側の点を接触開始点PS(
図3(b)参照)と呼ぶ。上記断面において、接触面33bのうち糸走行方向における最も下流側の点を接触終了点PE(
図3(b)参照)と呼ぶ。糸Yの通り道を糸道と呼ぶ。
【0082】
次に、保温箱13内の保温効果を向上させるための構成について説明する。
図3(a)に示すように、第2加熱ローラ33の近傍には、第2加熱ローラ33のローラ随伴流を第2加熱ローラ33の周りで循環させるための循環部50(本発明の所定循環部)が設けられている。循環部50は、例えば、上述した周壁41の内壁面41f、整流部材44、45及び46によって形成されている。循環部50は、例えば、随伴流規制面51(
図3(a)の太線参照)と、随伴流回収面52(
図3(b)の太線参照)とを有する。
【0083】
随伴流規制面51は、接触面33bの近傍を流れるローラ随伴流が径方向における外側へ流出することを抑制するための面である。随伴流規制面51は、例えば内壁面41f、整流部材44及び45によって形成されている。随伴流規制面51は、例えば、接触面33bの径方向における外側に配置され、且つ、周方向において接触面33bを囲うように配置されている。「接触面33bを囲う」とは、周方向において接触面33bと同じ範囲又は接触面33bよりも広い範囲に亘って延びていることを意味する。言い換えると、随伴流規制面51は、周方向において、少なくとも接触面33bの一端の位置から他端の位置に亘って延びている。随伴流規制面51により、例えばローラ随伴流が出口13b(
図2参照)に向かって流れることが防止される。
【0084】
随伴流回収面52は、非接触面33cの近傍を流れるローラ随伴流を周方向に案内し、ローラ随伴流を糸走行方向における上流側へ帰還させる(言い換えると、回収する)ための面である。随伴流回収面52は、例えば整流部材46によって形成されている。より具体的には、整流部材46の右端部には、上記断面において例えば略三角形状の案内部46aが形成されている。随伴流回収面52は、案内部46aのうち径方向において最も非接触面33cに近い面である。随伴流回収面52は、上記断面において非接触面33cと対向している。随伴流回収面52は、周方向において随伴流規制面51と離隔して配置されている。より詳しくは、非接触面33cは、接触開始点PSよりも糸走行方向における上流側の糸道(以下、上流糸道と呼ぶ)と、接触終了点PEよりも糸走行方向における下流側の糸道(以下、下流糸道と呼ぶ)との間に挟まれるように配置されている。随伴流回収面52は、上記断面において真っ直ぐ(略直線状)である。
【0085】
随伴流回収面52のより詳細な例について、
図3(a)及び
図3(b)を参照しつつ説明する。上記断面において、随伴流回収面52の、周方向において接触終了点PEに最も近い点を第1の点P1と定義する。同じく、随伴流回収面52の、周方向において接触開始点PSに最も近い点を第2の点P2と定義する。上記断面において、随伴流回収面52は、第1の点P1と第2の点P2とを結ぶ略直線状の線分L1(
図3(b)の太線参照)を形成している。一般的に、線分は、両端を有する真っ直ぐな線である。
【0086】
以下、部材によって形成される面に含まれる線分等を単に「線分」等と呼び、部材とは独立的に仮想的に描かれることが可能な線分等を「仮想線分」等と呼ぶ。
【0087】
図3(a)に示すように、上記断面において、接触開始点PSを含み上流糸道と部分的に重なる仮想的な直線を、仮想上流直線VLuと定義する。上記断面において、接触終了点PEを含み下流糸道と部分的に重なる仮想的な直線を、仮想下流直線VLdと定義する。上記断面において、第2加熱ローラ33の径方向における中心を中心点PCと呼ぶ。上記断面において、仮想上流直線VLuと仮想下流直線VLdは、例えば中心点PCを通る所定の対称軸VLsに関して互いに線対称である。第1の点P1は、上記断面において、対称軸VLsと仮想下流直線VLdとの間に挟まれるように配置されている。
【0088】
また、
図3(b)に示すように、上記断面において、第1の点P1と第2の点P2とを結ぶ仮想線分を第1仮想線分VL1と定義する。なお、本実施形態において、第1仮想線分VL1は線分L1と重なる。上述した中心点PCと第1の点P1とを結ぶ仮想線分を第2仮想線分VL2と定義する。このとき、例えば、第1仮想線分VL1と第2仮想線分VL2とのなす角θ1は鋭角である。
【0089】
上記断面において、第1の点P1を端点とし且つ第2の点P2を通る仮想半直線VHLは、例えば随伴流規制面51と交わる。一般的に、半直線とは、端点を1つのみ有する真っ直ぐな線である。
【0090】
上記断面において、仮想半直線VHLと、接触開始点PSに向かって走行している糸Yの糸道の交点を第3の点P3と定義する。第2の点P2と第3の点P3とを結ぶ仮想線分を第3仮想線分VL3と定義する。第3の点P3と接触開始点PSとを結ぶ仮想線分を第4仮想線分VL4と定義する。第3仮想線分VL3と第4仮想線分VL4とのなす角θ2は、例えば鈍角である。
【0091】
以上のように構成された循環部50によって、ローラ随伴流は、第2加熱ローラ33の周りを全周に亘って循環することが可能である(
図3(a)の破線矢印A1を参照)。これによって、第2加熱ローラ33の周りで生じるローラ随伴流が、遠心力によって第2加熱ローラ33から離れること、及び出口13bから流出することが抑制される。当該ローラ随伴流は、第2加熱ローラ33によって加熱された空気を含む。すなわち、加熱された空気の出口13bからの流出が、循環部50によって抑制される。さらに、加熱された空気の出口13bからの流出が抑制されることにより、保温箱13内の圧力の低下が抑制される。これによって、保温箱13の外部空間の冷気が入口13aから流入することが抑制される。また、ローラ随伴流は、循環することによって、第2加熱ローラ33によって加熱され続けるため、第2加熱ローラ33及びその近傍の温度低下が効果的に抑制される。これらの結果として、保温箱13内の保温効果が向上する。
【0092】
また、循環部50によって、ローラ随伴流は、途中で遮断されずにスムーズに循環することが可能である。すなわち、循環部50は、第2加熱ローラ33の周りでローラ随伴流を循環させることにより、糸走行方向に沿った層流を第2加熱ローラ33の周りに発生させるように構成されている。これにより、糸揺れをさらに抑制できる。
【0093】
(流体解析及び消費電力の評価)
本願発明者は、循環部50による保温箱13内の保温効果に関する流体解析を行った。また、当該保温効果によって、複数の加熱ローラ31のヒータの消費電力がどの程度低減するか評価した。以下、より具体的に説明する。
【0094】
まず、流体解析(以下、単に解析ともいう)の内容、条件振り及び解析結果について、主に
図4~
図8(b)を参照しつつ説明する。
図4は、流体の流量のシミュレーション結果を示す図である。
図5は、後述の実施例1~7及び比較例1~3の条件と、各条件における流体解析の結果を示すテーブルである。
図6は、
図5に示すテーブルから、実施例1~6における流体解析の結果のみを抜粋して、後述する距離Dが小さい順に並べ替えたものである。
図7は、
図5に示すテーブルから、戻り流路49の有無に関する実施例及び比較例の条件及び解析結果を抜粋したものである。
図8(a)は、比較例1を示す説明図である。
図8(b)は、比較例2を示す説明図である。
【0095】
本願発明者は、流体解析用の一般的なソフトウェアを用いて、上述した紡糸延伸装置3(すなわち、非加熱ローラ群11、加熱ローラ群12及び保温箱13)のモデルを作成した。そして、本願発明者は、主に保温箱13内における流体の流量等のシミュレーションを行った(
図4参照)。本願発明者は、非加熱ローラ群11に属する非加熱ローラ21の数、大きさ、配置位置及び周速度、並びに、加熱ローラ群12に属する加熱ローラ31の数、大きさ、配置位置及び周速度の条件を一定とした。参考として、加熱ローラ31の数は3つに設定された。各加熱ローラ31の直径は300mmに設定された。各加熱ローラ31の配置は、上述した配置(
図2参照)と同様である。各加熱ローラ31の周速度は、いずれも4690m/minに設定された。また、保温箱13の(ミストを含む気体を排出するための)排出口は塞がれているものとした。但し、これらの条件は、あくまで解析の便宜のために定められたものであり、保温箱13の保温効果及び各加熱ローラ31の保温効果がこれらの条件に大きく影響されるものではないことに留意されたい。
【0096】
図5に示すように、実施例1~7及び比較例1~3における流体解析の条件振りの項目は、循環部50の有無、後述する距離Dの大きさ及び戻り流路49の有無である。まず、本願発明者は、保温箱13の内部の構造に関する条件振りを行った。より詳細には、実施例1~6において、上記断面における随伴流回収面52と外周面33aとの最短距離(
図3(b)に示す距離D)を互いに異ならせた。距離Dの定義は、上記断面において、随伴流回収面52上の任意の点と外周面33aの任意の点との距離のうち最小の距離である。より具体的な例として、
図3(b)に示すにように、外周面33aの任意の接線のうち随伴流回収面52に平行な仮想接線VL5と、随伴流回収面52との最短距離が距離Dである。距離Dの条件振りに際し、本願発明者は、解析の便宜上、上記断面における案内部46aの三角形の角度を一定に維持しつつ三辺の長さを変更した。実施例1~6、比較例1及び2において、紡糸延伸装置3とのさらなる違いは無いものとする。
【0097】
各実施例における距離Dの具体的な値を述べる。より具体的には、実施例1において、距離Dは44mmである。実施例2において、距離Dは11mmである。実施例3において、距離Dは16.5mmである。実施例4において、距離Dは19mmである。実施例5において、距離Dは22mmである。実施例6において、距離Dは88mmである。つまり、距離Dが11mm以上88mm以下の実施例において解析結果を得た。
【0098】
また、本願発明者は、実施例1~6と比較するための比較例1、2として、以下の条件での解析を行った。本願発明者は、比較例1として、第2加熱ローラ33の近傍において循環部50が設けられていない条件で解析を行った。より具体的には、比較例1は、
図8(a)に示すように、随伴流回収面52から外周面33aに向かって延びる遮断部材53が設けられている条件である。この場合、ローラ随伴流は第2加熱ローラ33の周りをあまり循環できない。比較例1の解析条件は、循環部50が設けられていないことを除いて、実施例1と同じ解析条件である(
図5参照)。また、本願発明者は、比較例2として、距離Dがゼロである条件で解析を行った。より具体的には、比較例2は、
図8(b)に示すように、案内部46aの代わりに案内部46a1が設けられた条件である。案内部46a1は、距離Dが実質的にゼロである随伴流回収面52aを有する。この場合、ローラ随伴流は第2加熱ローラ33の周りをほとんど循環できない。つまり、比較例2において、循環部50は形式的には「有」である(
図5においては括弧書きされている)が、実質的には循環部50は形成されていない。
【0099】
また、本願発明者は、保温箱13内に戻り流路49が設けられていなくても良いかどうかどうか確認するための解析を行った。すなわち、保温箱13内に戻り流路49が設けられているか否かにかかわらず、循環部50が設けられていることにより、循環部50が設けられていない構成と比べて改善が見られるかどうか解析した。本願発明者は、戻り流路49が設けられていない構成(より具体的には、入口49aが塞がれている構成)として、以下の実施例7及び比較例3について解析を行った。実施例7の解析条件は、戻り流路49が設けられていないことを除いて、実施例1と同じ解析条件である(
図5及び
図7参照)。比較例3の解析条件は、戻り流路49が設けられていないことを除いて、比較例1と同じ解析条件である(
図5及び
図7参照)。
【0100】
本願発明者は、保温箱13内での流体(空気)の流量のシミュレーション結果(
図4参照)を評価の対象とした。
図4には、代表として、実施例1のシミュレーション結果が示されている。シミュレーション結果の図において、色が黒いほど空気の流速が遅く(すなわち、空気の流量が少なく)、色が白いほど空気の流速が速い(すなわち、空気の流量が多い)。本願発明者は、シミュレーション結果において保温箱13内の渦の発生状況を確認し、各条件において気流が乱れるか否か判断した。気流の乱れは、糸切れの原因となりうるためである。本願発明者は、気流の乱れに関する評価を、「無し」「やや有」「有」の三段階に分けた(
図5及び
図6参照)。気流の乱れが「無し」又は「やや有」の場合、本願発明者は、後述する保温効果をさらに考慮に入れて、最終的な判定を行った。一方、本願発明者は、気流の乱れが「有」の場合、保温効果の大小によらず、判定を「NG」とした。
【0101】
本願発明者は、保温箱13の保温効果の指標として、保温箱13内の三箇所における空気の流速(以下、単に流速)のシミュレーション値を取得した(
図5~
図7参照)。三箇所とは、入口13aの近傍、出口13bの近傍及び上述した第2の点P2(
図3(b)参照)の近傍である。流速の単位はm/sである。入口13aの近傍における流速の符号がマイナスであることは、冷たい気体が入口13aを通って保温箱13内に流入していることを意味する。出口13bの近傍における流速の符号がプラスであることは、温かい気体が出口13bを通って保温箱13から流出していることを意味する。入口13aの近傍における流速がゼロに近いほど、入口13aからの冷たい気体の流入量(流量)が少ない。出口13bの近傍における流速がゼロに近いほど、出口13bからの温かい気体の流出量(流量)が少ない。第2の点P2の近傍における流速が大きいほど、循環部50によって循環している気体の流量が多い。
【0102】
本願発明者は、上記三箇所の各々における流速の評価基準を以下のとおり設定した。入口13aの近傍における流速が-0.50m/s以上であるときに、当該流速が良好である(流量が少ない)ものとした。出口13bの近傍における流速が0.50m/s以下であるときに、当該流速が良好である(流量が少ない)ものとした。第2の点P2の近傍における流速が2.00m/s以上であるときに、当該流速が良好である(流量が多い)ものとした。これらの流速が良好であることは、保温箱13内における保温効果が高いことを意味する。全ての箇所で流速が良好であり、且つ気流の乱れが「無し」又は「やや有」の場合に、判定を少なくとも「OK」とした。また、本願発明者は、入口13aの近傍における流速が-0.35m/s以上、出口13bの近傍における流速が0.35m/s以下、第2の点P2の近傍における流速が2.50m/s以上であり、且つ気流の乱れが「無し」の場合、判定を「VG(とても良い)」とした。「VG」は、「OK」よりも良い結果を示す判定である。
【0103】
解析結果及び評価結果について説明する。
図5及び
図6に示すように、例えば実施例1において、入口13aの近傍における流速が-0.35m/s以上、出口13bの近傍における流速が0.35m/s以下、第2の点P2の近傍における流速が2.50m/s以上となった。また、気流の乱れは「無し」となった。本願発明者は、実施例1における判定を「VG」とした。同様に、本願発明者は、実施例2、3、4及び6における判定を「OK」とし、実施例5における判定を「VG」とした。以上より、循環部50が設けられ且つ戻り流路49が設けられた実施例1~6においては、いずれも判定が「OK」又は「VG」となった。
【0104】
また、保温箱13に循環部50が設けられ且つ戻り流路49が設けられていない実施例7においては以下の解析結果が得られた。すなわち、実施例7において、入口13aの近傍における流速が-0.50m/s、出口13bの近傍における流速が-0.49m/s、第2の点P2の近傍における流速が4.50m/sとなった。また、気流の乱れは「無し」となった。本願発明者は、実施例7における判定を「OK」とした。
【0105】
一方、比較例1(
図5参照)において、第2の点P2の近傍における流速が2.00m/s未満となった。また、気流の乱れが「有」だった。本願発明者は、比較例1における判定を「NG」とした。比較例2(
図5参照)において、第2の点P2の近傍における流速が算出されなかった。また、気流の乱れが「有」だった。本願発明者は、比較例2における判定を「NG」とした。また、比較例3においては、入口13aの近傍における流速が-0.70m/s、出口13bの近傍における流速が0.72m/sとなった。また、第2の点P2の近傍における流速が算出されなかった。また、気流の乱れが「有」だった。本願発明者は、比較例3における判定を「NG」とした。
【0106】
以上の結果より、保温箱13に循環部50及び戻り流路49の両方が設けられていることにより、糸揺れを抑制しつつ非常に良好な流速(流量)が得られることが分かった。また、保温箱13に戻り流路49が設けられていない場合でも、循環部50が設けられていることにより、糸揺れを抑制しつつ良好な流速(流量)が得られることが分かった。
【0107】
次に、ヒータの消費電力の評価内容及びその結果について説明する。本願発明者は、実施例1に相当する装置及び比較例1に相当する装置をそれぞれ作成し、各装置において解析条件と同様に複数のローラを動作させた上で、3つの加熱ローラのヒータの消費電力を実測及び合算した。各加熱ローラの表面温度は170℃に設定された。実施例4において、合算された消費電力の値は1.4kWとなった。比較例1において、合算された消費電力は2.1kWとなった。したがって、少なくとも実施例1において、比較例1と比べて消費電力が低減されたことが分かった。ここで、上述したように、比較例1の条件は、循環部50が設けられていないことを除いて、実施例1と同じ条件である。したがって、他の実施例においても、循環部50が設けられていることにより消費電力が低減されると類推される。
【0108】
以上のように、本実施形態では、3つの加熱ローラ31が設けられているので、糸揺れが生じる懸念が大きいネルソンローラを用いなくても、糸Yを十分に加熱できる。したがって、ネルソンローラが設けられた構成と比べて糸揺れを抑制できる。さらに、本実施形態では、ローラ随伴流を循環部50によって第2加熱ローラ33の周りで循環させることにより、第2加熱ローラ33によって熱せられた気体が糸Yの出口13bを通って保温箱13から逃げてしまうことを抑制できる。これにより、保温箱13内の保温効果を向上できる。また、ローラ随伴流を循環部50によって循環させることにより、ローラ随伴流を形成する空気を第2加熱ローラ33によって加熱し続けることができる。これにより、第2加熱ローラ33の近傍における保温効果を向上でき、結果として第2加熱ローラ33そのものの保温効果を向上できる。したがって、紡糸延伸装置3において、糸揺れを抑制しつつ消費電力の増大を抑制できる。
【0109】
また、3つの加熱ローラ31間で、糸送り速度を互いに異ならせても良い。これによって、糸Yに付与される張力を意図的に増大させ、又は糸Yを意図的に弛緩させることができる。このようにして、糸品質をコントロールできる。
【0110】
また、第2加熱ローラ33の周りを循環するローラ随伴流によって、安定した層流を形成できる。このため、循環する気体の流量が多くても、糸揺れを抑制できる。
【0111】
また、随伴流回収面52によって、ローラ随伴流が遠心力によって外周面33aの径方向における外側へ逃げてしまうことを抑制できる。したがって、簡易的な構成で、ローラ随伴流を効果的に循環させることができる。
【0112】
また、第1の点P1が接触終了点PEに近い位置に配置されている。これにより、接触終了点PEの近傍を流れる随伴流を随伴流回収面52によって取り込みやすい(回収しやすい)。したがって、ローラ随伴流を効果的に循環させることができる。
【0113】
また、第1仮想線分VL1と第2仮想線分VL2とのなす角θ1が鋭角である。これにより、第1の点P1の近傍を流れるローラ随伴流を、随伴流回収面52によって周方向に受け流しつつ径方向における内側へ案内できる。したがって、ローラ随伴流を随伴流回収面52に沿ってスムーズに流れさせることができる。
【0114】
また、随伴流回収面52は、第1の点P1と第2の点P2とを結ぶ線分L1を形成している。したがって、随伴流回収面52に沿ってローラ随伴流をスムーズに流れさせることができる。また、随伴流回収面52が湾曲又は屈曲している場合と比べて、簡単な加工によって随伴流回収面52を形成できる。
【0115】
また、循環部50が随伴流規制面51を有する。これによって、ローラ随伴流が遠心力によって外周面33aの径方向における外側へ逃げてしまうことをさらに抑制できる。
【0116】
また、仮想半直線VHLが、随伴流規制面51と交わる。これにより、随伴流回収面52に沿って案内されたローラ随伴流を随伴流規制面51に向けて供給できる。これにより、ローラ随伴流をより効果的に循環させることができる。
【0117】
また、第3仮想線分VL3と第4仮想線分VL4とのなす角θ2が鈍角である。これにより、随伴流回収面52に沿って案内されたローラ随伴流が糸Yの進行方向に逆らうように流れることを防止できる。したがって、糸揺れを抑制できる。
【0118】
また、外周面33aと随伴流回収面52との最短距離(距離D)は、11mm以上88mm以下であると好ましい。これにより、多くのローラ随伴流を循環させることができる。
【0119】
また、糸走行方向における最も上流側の加熱ローラ31(すなわち、第1加熱ローラ32)は、保温箱13に形成された入口13aから流入する冷気によって冷やされてしまいやすい。この点、保温箱13は戻り流路49を有していると好ましい。これにより、戻り流路49を介して、第3加熱ローラ34の近傍の高温の気体を第1加熱ローラ32の近傍に供給できる。これにより、第1加熱ローラ32の保温効果を効果的に向上できる。但し、保温箱13に戻り流路49が設けられていなくても、循環部50が設けられていることにより、糸揺れを抑制しつつ消費電力の増大を抑制できる。
【0120】
また、第2加熱ローラ33に循環部50が設けられている。糸Yが入口13aを通って保温箱13内に進入する際、糸随伴流も保温箱13内に流入する。3つの加熱ローラのうち糸走行方向における最も上流側の第1加熱ローラ32は、保温箱13の外側から流入するこのような冷気によって冷やされてしまいやすい。第2加熱ローラ33は、第1加熱ローラ32に比較的近いので、第2加熱ローラ33の保温効果を向上させることにより、第2加熱ローラ33から発せられる熱を第1加熱ローラ32側に伝えることができる。これにより、第1加熱ローラ32の保温効果も向上させることができる。
【0121】
また、遮断部材48によって、糸随伴流が出口13bを通って保温箱13から流出することを抑制できる。したがって、保温箱13内の保温効果を向上させることができる。
【0122】
また、糸走行方向において第1加熱ローラ32よりも上流側で糸Yが延伸される。糸Yが延伸される領域よりも糸走行方向における下流側に3つ以上の加熱ローラ31が設けられているので、糸Yをしっかり把持できる。このため、延伸されている糸Yに加わる張力によって加熱ローラ31上の糸Yがスリップすることを抑制できる。これにより、糸揺れをさらに抑制できる。
【0123】
また、保温箱13によって第3非加熱ローラ24と第1加熱ローラ32との間で熱の移動を抑制できる。したがって、第3非加熱ローラ24と第1加熱ローラ32との間で加熱温度が大きく異なっている場合でも、温度差による影響を抑制できる。
【0124】
また、非加熱ローラ21は温められる必要がないため、保温箱13内に収容される必要が生じない。したがって、例えば非加熱ローラ21の代わりに加熱ローラ31と設定温度が異なる加熱ローラ(不図示)が保温箱13内に収容されうる構成と比べて、保温箱13内を自由に設計できる。
【0125】
また、3つ以上の熱固定ローラ(加熱ローラ31)が設けられている。したがって、糸揺れが生じる懸念が大きいネルソンローラを用いなくても、糸Yを十分に熱固定できる。
【0126】
また、本実施形態の構成は、ナイロン製の糸Yを延伸する上で特に有効である。
【0127】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0128】
(1)前記実施形態において、第2加熱ローラ33に対応して循環部50が設けられているものとした。さらに、第3加熱ローラ34に対応して、随伴流回収面45b(
図9参照。本発明の最下流随伴流回収面)が設けられていても良い。随伴流回収面45bは、例えば前後方向(第3加熱ローラ34の軸方向)から見たときに、第3加熱ローラ34の中心よりも出口13bの近くに配置されている。随伴流回収面45bは、第3加熱ローラ34の外周面34aのうち、糸Yが巻き掛けられていない部分(最下流非接触面34c)と対向するように配置されている。また、随伴流回収面45bは、外周面34aのうち糸Yが巻き掛けられている部分(最下流接触面34b)よりも糸走行方向における上流側の糸道と、最下流接触面34bよりも糸走行方向における下流側の糸道との間に挟まれるように配置されている。この変形例を「変形例1」(
図11参照)とする。変形例1において、上述した距離Dは、実施例1と同じく44mmである。変形例1において、保温箱13に戻り流路49が設けられている。変形例1において、
図11に示す解析結果のテーブルに記載された「その他」の欄には、随伴流回収面45bの設置を示す条件として「条件A」が記載されている。変形例1において、入口13aの近傍における気体の流速は-0.23m/s、出口13bの近傍における気体の流速は0.21m/sと、非常に良い解析結果が得られた。本願発明者は、変形例1における判定を「VG」とした。このように、第3加熱ローラ34のローラ随伴流の一部を随伴流回収面45bによって糸走行方向における上流側へ戻すことができる。これにより、ローラ随伴流が出口13bを通って保温箱から流出することを抑制できる。
【0129】
また、保温箱13に戻り流路49が設けられていないことを除いて変形例1と同じ構成を有する変形例を、「変形例2」とする。変形例2において、入口13aの近傍における気体の流速は-0.49m/s、出口13bの近傍における気体の流速は0.48m/sと、良好な解析結果が得られた。本願発明者は、変形例2における判定を「OK」とした。
【0130】
(2)前記までの実施形態において、第2加熱ローラ33に対応して循環部50が設けられているものとした。これに加えて、第1加熱ローラ32に対応して循環部が設けられていても良い。この場合、第2加熱ローラ33に加えて、第1加熱ローラ32も本発明の所定上流加熱ローラに相当する。より具体的には、
図10に示すように、内壁面41cと、整流部材43の第1加熱ローラ32側の壁面43aとが、本発明の随伴流規制面に含まれる。整流部材44の代わりに設けられた整流部材44Mの左端部において、遮断部44aの代わりに、第1加熱ローラ32の外周面32aに沿うように湾曲した随伴流回収面44Maが形成されている。また、この変形例において、入口13aの近傍には、例えば空気が保温箱13内を逆流して入口13aから流出することを防ぐための逆流防止壁54が設けられていても良い。逆流防止壁54において、随伴流回収面44Maと同様の機能を有する随伴流回収面54aが設けられていても良い。また、上述した遮断部材47(
図2参照)は設けられていない。この変形例を「変形例3」(
図11参照)とする。変形例3において、距離Dは、実施例1と同じく44mmである。変形例3において、保温箱13に戻り流路49が設けられている。変形例3において、
図11に示す解析結果のテーブルに記載された「その他」の欄には、第1加熱ローラ32に対応した循環部の設置を示す条件として「条件B」が記載されている。変形例3において、入口13aの近傍における気体の流速は-0.28m/s、出口13bの近傍における気体の流速は0.28m/sと、非常に良い解析結果が得られた。本願発明者は、変形例3における判定を「VG」とした。この変形例では、最も上流側の第1加熱ローラ32の保温効果を向上させることができる。したがって、消費電力を効果的に低減できる。なお、変形例1及び2の解析結果より、保温箱13に戻り流路49が設けられていない構成においても、良好な解析結果が得られると類推できる。
【0131】
この変形例では、第2加熱ローラ33に対応する循環部50が設けられていなくても良い。すなわち、例えば、第1加熱ローラ32に対応する循環部のみが設けられていても良い。
【0132】
或いは、保温箱13は、上述した条件A及び条件Bの両方が満たされるように構成されていても良い。この場合も、第2加熱ローラ33に対応する循環部50は設けられていなくても良い。
【0133】
(3)前記までの実施形態において、随伴流回収面52は、第1の点P1と第2の点P2とを結ぶ線分L1を形成しているものとした。しかしながら、これには限られない。例えば
図12(a)、
図12(b)に示すように、循環部50の代わりに設けられた循環部50Cにおいて、随伴流回収面52の代わりに随伴流回収面52Cが設けられていても良い。随伴流回収面52Cは、案内部46aの代わりに設けられた案内部46Cに形成されていても良い。随伴流回収面52Cは、上述した線分L1よりも径方向における外側へ膨らむように湾曲していても良い。或いは、随伴流回収面52Cの代わりに、線分L1よりも径方向における外側へ膨らむように屈曲した屈曲面(不図示)が設けられていても良い。この場合、前後方向に直交する断面において、屈曲面の屈曲角は鈍角であると好ましい。
【0134】
(4)前記までの実施形態において、紡糸延伸装置3は、非加熱ローラ群11を有するものとした。しかしながら、これには限られない。非加熱ローラ群11の代わりに、或いは非加熱ローラ群11に加えて、加熱ローラ31よりも設定温度が低い加熱ローラ(不図示。本発明の外側ローラ)が設けられていても良い。このような加熱ローラと第1加熱ローラ32との間で糸Yが延伸されても良い。或いは、第1加熱ローラ32の糸走行方向における上流側にローラが設けられていなくても良い。
【0135】
(5)前記までの実施形態において、上記断面において、外周面33aと随伴流回収面52との最短距離(距離D)は、11mm以上88mm以下であるものとした。しかしながら、これには限られない。すなわち、本発明の所定上流加熱ローラにおいて距離Dが11mmより小さく又は88mmより大きい構成においても、所定上流加熱ローラの周りでローラ随伴流が循環させられれば良い。
【0136】
(6)前記までの実施形態において、第1の点P1は、上記断面において、対称軸VLsと仮想下流直線VLdとの間に挟まれるように配置されているものとした。しかしながら、これには限られない。第1の点P1は、対称軸VLsと仮想下流直線VLdとの間に挟まれるように配置されていなくても良い。
【0137】
(7)前記までの実施形態において、上記断面において、角θ1が鋭角であるものとした。しかしながら、これには限られない。角θ1は鈍角であっても良い。また、上記断面において、角θ2が鈍角であるものとした。しかしながら、これには限られない。角θ2は鋭角であっても良い。
【0138】
(8)前記までの実施形態において、上記断面において、仮想半直線VHLが随伴流規制面51と交わるものとした。しかしながら、これには限られない。仮想半直線VHLは随伴流規制面51と交わらなくても良い。
【0139】
(9)前記までの実施形態において、循環部50が随伴流規制面51と随伴流回収面52とを有するものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、循環部50の一部は、背面壁42又は前面扉(不図示)に形成されていても良い。すなわち、背面壁42の一部が後側へ突出し、又は前面壁の一部が前側へ突出していることにより、ローラ随伴流が上流加熱ローラの周りで循環できるような空気の経路が形成されていても良い。
【0140】
(10)前記までの実施形態において、循環部50が層流を発生させるものとした。しかしながら、これには限られない。循環部50によって必ずしも層流が生成されなくても良い。
【0141】
(11)前記までの実施形態において、加熱ローラ群12に3つの加熱ローラ31が含まれるものとした。しかしながら、加熱ローラ31の数はこれに限られない。
図13(a)、
図13(b)を参照して具体例を説明する。紡糸延伸装置3A(
図13(a)参照)は、3つの加熱ローラ31の代わりに、例えば4つの加熱ローラ61を有していても良い。すなわち、紡糸延伸装置(符号省略)は、3つ以上の加熱ローラ(符号省略)を備えていても良い。紡糸延伸装置3Aは、保温箱13の代わりに横長の保温箱70を有していても良い。保温箱70は、糸Yの入口70a及び出口70bを有している。保温箱70の中に、4つの加熱ローラ61として、糸走行方向における上流側から順に第1加熱ローラ62、第2加熱ローラ63、第3加熱ローラ64及び第4加熱ローラ65が収容されていても良い。第1加熱ローラ62は、本発明の最上流加熱ローラ及び上流加熱ローラに相当する。第2加熱ローラ63及び第3加熱ローラ64の各々は、本発明の上流加熱ローラ、所定上流加熱ローラ及び中間加熱ローラに相当する。第4加熱ローラ65は、本発明の最下流加熱ローラに相当する。すなわち、中間加熱ローラの数は、1つに限られず、2つでも良い(あるいは、2つよりも多くても良い)。第1加熱ローラ62、第2加熱ローラ63、第3加熱ローラ64及び第4加熱ローラ65は、例えば左右方向に並べられ、ジグザグ状に配置されていても良い。第1加熱ローラ62に対応して、随伴流規制面71aが設けられていても良い。第2加熱ローラ63に対応して、循環部72が設けられていても良い。循環部72は、随伴流規制面72aと随伴流回収面72bとを有していても良い。第3加熱ローラ74に対応して、循環部73が設けられていても良い。循環部73は、随伴流規制面73aと随伴流回収面73bとを有していても良い。つまり、中間ローラの全てに対応して循環部が設けられていても良い。これにより、保温箱70内の保温効果を効果的に向上できる。第4加熱ローラ35に対応して、随伴流規制面74aが設けられていても良い。或いは、紡糸延伸装置3B(
図13(b)参照)は、保温箱70の代わりに縦長の保温箱80を有していても良い。保温箱80の中において、第1加熱ローラ62、第2加熱ローラ63、第3加熱ローラ64及び第4加熱ローラ65は、例えば上下方向に並べられ、ジグザグ状に配置されていても良い。つまり、加熱ローラ61の配置はどのようなものでも良い。また、加熱ローラ61の数はもっと多くても良い。5つ以上の加熱ローラ61が設けられていても良い(図示省略)。
【0142】
(12)本発明は、熱固定ローラ以外の加熱ローラ(不図示)に適用されても良い。
【0143】
(13)前記までの実施形態において、糸Yは、ナイロンからなるものとした。しかしながら、これには限られない。紡糸延伸装置3は、ナイロンからなる糸Yの他にも延伸可能な糸(不図示)を延伸しても良い。
【符号の説明】
【0144】
3 紡糸延伸装置
13 保温箱
13b 出口
24 第3非加熱ローラ(外側ローラ)
31 加熱ローラ
32 第1加熱ローラ(最上流加熱ローラ、上流加熱ローラ、所定上流加熱ローラ)
33 第2加熱ローラ(上流加熱ローラ、所定上流加熱ローラ、所定加熱ローラ、中間加熱ローラ)
33a 外周面
33b 接触面
33c 非接触面
34 第3加熱ローラ(下流加熱ローラ、最下流加熱ローラ)
34a 外周面
34b 最下流接触面
34c 最下流非接触面
41c 内壁面(随伴流規制面)
43a 壁面(随伴流規制面)
46 整流部材(仕切部)
48 遮断部材(遮断部)
49 戻り流路
50 循環部(所定循環部)
51 随伴流規制面
52 随伴流回収面
61 加熱ローラ
62 第1加熱ローラ(最上流加熱ローラ、上流加熱ローラ)
63 第2加熱ローラ(上流加熱ローラ、所定上流加熱ローラ、中間加熱ローラ)
64 第3加熱ローラ(上流加熱ローラ、所定上流加熱ローラ、中間加熱ローラ)
65 第4加熱ローラ(最下流加熱ローラ)
70 保温箱
70b 出口
72 循環部
72a 随伴流規制面
72b 随伴流回収面
73 循環部
73a 随伴流規制面
73b 随伴流回収面
L1 線分
P1 第1の点
P2 第2の点
P3 第3の点
VHL 仮想半直線
VL1 第1仮想線分
VL2 第2仮想線分
VL3 第3仮想線分
VL4 第4仮想線分
VLd 仮想下流直線
VLs 対称軸
VLu 仮想上流直線
Y 糸
θ1 角
θ2 角
【手続補正書】
【提出日】2023-11-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸装置から紡出された走行中の糸を延伸する紡糸延伸装置であって、
前記糸が360度未満の巻掛角度でそれぞれ巻き掛けられ、前記糸を加熱しつつ糸走行方向における下流側へ送るように構成された3つ以上の加熱ローラと、
前記3つ以上の加熱ローラを収容する保温箱と、を備え、
前記3つ以上の加熱ローラは、
前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も上流側に配置された最上流加熱ローラと、
前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も下流側に配置された最下流加熱ローラと、
前記糸走行方向において前記最上流加熱ローラよりも下流側且つ前記最下流加熱ローラよりも上流側に配置された1以上の中間加熱ローラと、を有し、
前記保温箱は、
前記最上流加熱ローラと前記1以上の中間加熱ローラとを含む2以上の上流加熱ローラのうち、1以上の所定上流加熱ローラの周りにそれぞれ配置され、前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の回転によって生じる随伴流であるローラ随伴流を前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の全周に亘って循環させるように構成された1以上の循環部、を有し、
前記1以上の所定上流加熱ローラは、前記1以上の中間加熱ローラを含み、
前記1以上の循環部は、前記1以上の中間加熱ローラの全てに対応して設けられていることを特徴とする紡糸延伸装置。
【請求項2】
前記1以上の循環部の任意の1つである所定循環部は、
前記1以上の所定上流加熱ローラのうち前記所定循環部に対応する所定加熱ローラの回転軸方向と直交する断面において、
前記所定加熱ローラの外周面のうち前記糸が接触している接触面の前記糸走行方向における最も上流側の点を接触開始点と定義し、且つ、前記接触面の前記糸走行方向における最も下流側の点を接触終了点と定義したとき、
前記外周面のうち前記糸が接触していない非接触面と対向するように配置され、且つ、前記所定加熱ローラの周方向において、前記接触開始点よりも前記糸走行方向における上流側の糸道である上流糸道と、前記接触終了点よりも前記糸走行方向における下流側の糸道である下流糸道との間に挟まれるように配置され、前記周方向において前記接触終了点に最も近い端点である第1の点と、前記周方向において前記接触開始点に最も近い端点である第2の点と、を含む随伴流回収面、を有することを特徴とする請求項1に記載の紡糸延伸装置。
【請求項3】
前記断面において、前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ仮想線分である第1仮想線分と、前記所定加熱ローラの径方向における中心と前記第1の点とを結ぶ仮想線分である第2仮想線分と、のなす角が鋭角であることを特徴とする請求項2に記載の紡糸延伸装置。
【請求項4】
前記断面において、前記外周面と前記随伴流回収面との最短距離は、11mm以上88mm以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の紡糸延伸装置。
【請求項5】
紡糸装置から紡出された走行中の糸を延伸する紡糸延伸装置であって、
前記糸が360度未満の巻掛角度でそれぞれ巻き掛けられ、前記糸を加熱しつつ糸走行方向における下流側へ送るように構成された3つ以上の加熱ローラと、
前記3つ以上の加熱ローラを収容する保温箱と、を備え、
前記3つ以上の加熱ローラは、
前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も上流側に配置された最上流加熱ローラと、
前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も下流側に配置された最下流加熱ローラと、
前記糸走行方向において前記最上流加熱ローラよりも下流側且つ前記最下流加熱ローラよりも上流側に配置された1以上の中間加熱ローラと、を有し、
前記保温箱は、
前記最上流加熱ローラと前記1以上の中間加熱ローラとを含む2以上の上流加熱ローラのうち、1以上の所定上流加熱ローラの周りにそれぞれ配置され、前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の回転によって生じる随伴流であるローラ随伴流を前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の全周に亘って循環させるように構成された1以上の循環部、を有し、
前記1以上の循環部の任意の1つである所定循環部は、
前記1以上の所定上流加熱ローラのうち前記所定循環部に対応する所定加熱ローラの回転軸方向と直交する断面において、
前記所定加熱ローラの外周面のうち前記糸が接触している接触面の前記糸走行方向における最も上流側の点を接触開始点と定義し、且つ、前記接触面の前記糸走行方向における最も下流側の点を接触終了点と定義したとき、
前記外周面のうち前記糸が接触していない非接触面と対向するように配置され、且つ、前記所定加熱ローラの周方向において、前記接触開始点よりも前記糸走行方向における上流側の糸道である上流糸道と、前記接触終了点よりも前記糸走行方向における下流側の糸道である下流糸道との間に挟まれるように配置され、前記周方向において前記接触終了点に最も近い端点である第1の点と、前記周方向において前記接触開始点に最も近い端点である第2の点と、を含む随伴流回収面、を有し、
前記断面において、前記外周面と前記随伴流回収面との最短距離は、11mm以上88mm以下であることを特徴とする紡糸延伸装置。
【請求項6】
前記断面において、前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ仮想線分である第1仮想線分と、前記所定加熱ローラの径方向における中心と前記第1の点とを結ぶ仮想線分である第2仮想線分と、のなす角が鋭角であることを特徴とする請求項5に記載の紡糸延伸装置。
【請求項7】
前記1以上の所定上流加熱ローラは、前記1以上の中間加熱ローラを含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の紡糸延伸装置。
【請求項8】
紡糸装置から紡出された走行中の糸を延伸する紡糸延伸装置であって、
前記糸が360度未満の巻掛角度でそれぞれ巻き掛けられ、前記糸を加熱しつつ糸走行方向における下流側へ送るように構成された3つ以上の加熱ローラと、
前記3つ以上の加熱ローラを収容する保温箱と、を備え、
前記3つ以上の加熱ローラは、
前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も上流側に配置された最上流加熱ローラと、
前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も下流側に配置された最下流加熱ローラと、
前記糸走行方向において前記最上流加熱ローラよりも下流側且つ前記最下流加熱ローラよりも上流側に配置された1以上の中間加熱ローラと、を有し、
前記保温箱は、
前記最上流加熱ローラと前記1以上の中間加熱ローラとを含む2以上の上流加熱ローラのうち、1以上の所定上流加熱ローラの周りにそれぞれ配置され、前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の回転によって生じる随伴流であるローラ随伴流を前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の全周に亘って循環させるように構成された1以上の循環部、を有し、
前記1以上の循環部の任意の1つである所定循環部は、
前記1以上の所定上流加熱ローラのうち前記所定循環部に対応する所定加熱ローラの回転軸方向と直交する断面において、
前記所定加熱ローラの外周面のうち前記糸が接触している接触面の前記糸走行方向における最も上流側の点を接触開始点と定義し、且つ、前記接触面の前記糸走行方向における最も下流側の点を接触終了点と定義したとき、
前記外周面のうち前記糸が接触していない非接触面と対向するように配置され、且つ、前記所定加熱ローラの周方向において、前記接触開始点よりも前記糸走行方向における上流側の糸道である上流糸道と、前記接触終了点よりも前記糸走行方向における下流側の糸道である下流糸道との間に挟まれるように配置され、前記周方向において前記接触終了点に最も近い端点である第1の点と、前記周方向において前記接触開始点に最も近い端点である第2の点と、を含む随伴流回収面、を有し、
前記断面において、前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ仮想線分である第1仮想線分と、前記所定加熱ローラの径方向における中心と前記第1の点とを結ぶ仮想線分である第2仮想線分と、のなす角が鋭角であることを特徴とする紡糸延伸装置。
【請求項9】
前記1以上の所定上流加熱ローラは、前記1以上の中間加熱ローラを含むことを特徴とする請求項8に記載の紡糸延伸装置。
【請求項10】
前記断面において、
前記接触開始点を含み前記上流糸道と部分的に重なる仮想上流直線と、前記接触終了点を含み前記下流糸道と部分的に重なる仮想下流直線とは、所定の対称軸に関して線対称であり、
前記第1の点は、前記対称軸と前記仮想下流直線との間に挟まれるように配置されていることを特徴とする請求項2~9のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項11】
前記断面において、
前記随伴流回収面は、
前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ線分を形成し、又は、前記線分よりも前記所定加熱ローラの径方向における外側へ膨らむように、湾曲し、若しくは鈍角を形成するように屈曲していることを特徴とする請求項2~10のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項12】
前記随伴流回収面は、前記断面において、前記線分を形成していることを特徴とする請求項11に記載の紡糸延伸装置。
【請求項13】
前記所定循環部は、前記周方向において前記接触面を囲うように配置された随伴流規制面を有することを特徴とする請求項2~12のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項14】
前記断面において、前記第1の点を端点として前記第2の点を通る仮想半直線が、前記随伴流規制面と交わることを特徴とする請求項13に記載の紡糸延伸装置。
【請求項15】
前記断面において、前記第1の点を端点として前記第2の点を通る仮想半直線と、前記接触開始点に向かって走行している前記糸の糸道との交点を第3の点と定義したとき、
前記断面において、前記第2の点と前記第3の点とを結ぶ仮想線分である第3仮想線分と、前記第3の点と前記接触開始点とを結ぶ仮想線分である第4仮想線分とのなす角が鈍角であることを特徴とする請求項2~14のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項16】
前記1以上の循環部は、前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の周りで前記ローラ随伴流を循環させることにより、前記糸走行方向に沿った層流を前記1以上の所定上流加熱ローラの周りにそれぞれ発生させるように構成されていることを特徴とする請求項1~15のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項17】
前記保温箱は、
前記最下流加熱ローラ及び前記1以上の中間加熱ローラのうち所定の1つである下流加熱ローラと前記最上流加熱ローラとの間に配置された仕切部と、
前記仕切部よりも前記下流加熱ローラ側の下流空間と、前記仕切部よりも前記最上流加熱ローラ側の上流空間と、を連通させる戻り流路と、を有することを特徴とする請求項1~16のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項18】
前記1以上の所定上流加熱ローラは、前記最上流加熱ローラを含むことを特徴とする請求項1~17のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項19】
前記保温箱は、
前記糸の出口と、
前記最下流加熱ローラの外周面のうち前記糸が巻き掛けられている最下流接触面に向かって延びた、前記出口に向かう前記糸の走行によって生じる糸随伴流を遮断する遮断部と、を有することを特徴とする請求項1~18のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項20】
前記保温箱は、
前記最下流加熱ローラの回転軸方向と直交する断面において、
前記最下流加熱ローラの前記外周面のうち前記糸が巻き掛けられていない最下流非接触面と対向するように配置され、且つ、前記最下流接触面よりも前記糸走行方向における上流側の糸道と、前記最下流接触面よりも前記糸走行方向における下流側の糸道との間に挟まれるように配置された最下流随伴流回収面、を有することを特徴とする請求項19に記載の紡糸延伸装置。
【請求項21】
前記糸走行方向において前記最上流加熱ローラよりも上流側で前記糸が延伸されることを特徴とする請求項1~20のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項22】
前記保温箱の外側且つ前記3つ以上の加熱ローラの前記糸走行方向における上流側に配置され、延伸される前の前記糸が巻き掛けられる外側ローラを備え、
前記糸は、前記糸走行方向において、前記外側ローラと前記最上流加熱ローラとの間で延伸されることを特徴とする請求項21に記載の紡糸延伸装置。
【請求項23】
前記外側ローラは、前記糸を加熱しない非加熱ローラであることを特徴とする請求項22に記載の紡糸延伸装置。
【請求項24】
前記3つ以上の加熱ローラの各々は、延伸された前記糸を熱固定するための熱固定ローラであることを特徴とする請求項1~23のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【請求項25】
前記糸は、ナイロンからなることを特徴とする請求項1~24のいずれかに記載の紡糸延伸装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、紡糸装置から紡出されたポリエステル製の糸を延伸する紡糸延伸装置が開示されている。より具体的には、紡糸延伸装置は、走行する糸が巻き掛けられる複数のゴデットローラと、複数のゴデットローラを収容する保温箱とを有する。複数のゴデットローラは、糸を予熱する複数の予熱ローラと、予熱ローラよりも糸走行方向における下流側に設けられ、予熱ローラよりも表面温度が高い複数の調質ローラとを有する。このような紡糸延伸装置において、予熱ローラと調質ローラとの間で糸が延伸される。また、調質ローラの近傍には、調質ローラの回転に伴って発生する随伴流が保温箱から逃げてしまうことを防ぐための遮断部材が設けられている。これにより、保温効果を向上させ、ゴデットローラを加熱するヒータの消費電力の増大を抑制することが図られている。
【0003】
また、特許文献1には開示されていないが、ナイロン製の糸を延伸する紡糸延伸装置も従来から知られている。従来のナイロン用の紡糸延伸装置は、公知の複数のネルソンローラを有する。ナイロン用の紡糸延伸装置の多くにおいて、複数のネルソンローラは、加熱されない非加熱ローラと、非加熱ローラよりも糸走行方向における下流側に配置された熱セット用の加熱ローラとを含む。このような紡糸延伸装置において、非加熱ローラと加熱ローラとの間で糸が延伸される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナイロン製の糸を延伸する従来の紡糸延伸装置においては、ネルソンローラによる加熱効果を高めるために、糸が、ネルソンローラの軸方向における位置をずらされつつ、何周にも亘ってネルソンローラに巻き掛けられる。このため、ネルソンローラに巻き掛けられた糸に軸方向の力が加わることとなり、糸揺れの問題が生じやすい。また、ナイロン製の糸を延伸させることが可能な紡糸延伸装置においても、ヒータの消費電力の抑制が求められる。
【0006】
本発明の目的は、紡糸延伸装置において、糸揺れを抑制しつつ消費電力の増大を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明の紡糸延伸装置は、紡糸装置から紡出された走行中の糸を延伸する紡糸延伸装置であって、前記糸が360度未満の巻掛角度でそれぞれ巻き掛けられ、前記糸を加熱しつつ糸走行方向における下流側へ送るように構成された3つ以上の加熱ローラと、前記3つ以上の加熱ローラを収容する保温箱と、を備え、前記3つ以上の加熱ローラは、前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も上流側に配置された最上流加熱ローラと、前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も下流側に配置された最下流加熱ローラと、前記糸走行方向において前記最上流加熱ローラよりも下流側且つ前記最下流加熱ローラよりも上流側に配置された1以上の中間加熱ローラと、を有し、前記保温箱は、前記最上流加熱ローラと前記1以上の中間加熱ローラとを含む2以上の上流加熱ローラのうち、1以上の所定上流加熱ローラの周りにそれぞれ配置され、前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の回転によって生じる随伴流であるローラ随伴流を前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の全周に亘って循環させるように構成された1以上の循環部、を有し、前記1以上の所定上流加熱ローラは、前記1以上の中間加熱ローラを含み、前記1以上の循環部は、前記1以上の中間加熱ローラの全てに対応して設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、3つ以上の加熱ローラが設けられているので、糸揺れが生じる懸念が大きいネルソンローラを用いなくても、糸を十分に加熱できる。したがって、ネルソンローラが設けられた構成と比べて糸揺れを抑制できる。さらに、本発明では、ローラ随伴流を循環部によって所定上流加熱ローラの周りで循環させることにより、所定上流加熱ローラによって熱せられた気体が糸の出口を通って保温箱から逃げてしまうことを抑制できる。これにより、保温箱内の保温効果を向上できる。また、ローラ随伴流を循環部によって循環させることにより、ローラ随伴流を形成する気体を所定上流加熱ローラによって加熱し続けることができる。これにより、所定上流加熱ローラの近傍の保温効果を向上でき、結果として所定上流加熱ローラそのものの保温効果を向上できる。したがって、紡糸延伸装置において、糸揺れを抑制しつつ消費電力の増大を抑制できる。
【0009】
また、糸が保温箱に形成された入口を通って保温箱内に進入する際、糸の走行によって発生する随伴流(以下、糸随伴流)も保温箱内に流入する。最上流加熱ローラは、保温箱の外側から流入するこのような冷気によって冷やされてしまいやすい。中間加熱ローラは、最上流加熱ローラに比較的近いので、中間加熱ローラの保温効果を向上させることにより、中間加熱ローラから発せられる熱を最上流加熱ローラ側に伝えることができる。これにより、最上流加熱ローラの保温効果も向上させることができる。
【0010】
また、本発明では、保温箱内の保温効果を効果的に向上させることができる。
【0011】
第2の発明の紡糸延伸装置は、前記第1の発明において、前記1以上の循環部の任意の1つである所定循環部は、前記1以上の所定上流加熱ローラのうち前記所定循環部に対応する所定加熱ローラの回転軸方向と直交する断面において、前記所定加熱ローラの外周面のうち前記糸が接触している接触面の前記糸走行方向における最も上流側の点を接触開始点と定義し、且つ、前記接触面の前記糸走行方向における最も下流側の点を接触終了点と定義したとき、前記外周面のうち前記糸が接触していない非接触面と対向するように配置され、且つ、前記所定加熱ローラの周方向において、前記接触開始点よりも前記糸走行方向における上流側の糸道である上流糸道と、前記接触終了点よりも前記糸走行方向における下流側の糸道である下流糸道との間に挟まれるように配置され、前記周方向において前記接触終了点に最も近い端点である第1の点と、前記周方向において前記接触開始点に最も近い端点である第2の点と、を含む随伴流回収面、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明では、随伴流回収面によって、ローラ随伴流が遠心力によって外周面の径方向における外側へ逃げてしまうことを抑制できる。したがって、簡易的な構成で、ローラ随伴流を効果的に循環させることができる。
【0013】
第3の発明の紡糸延伸装置は、前記第2の発明において、前記断面において、前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ仮想線分である第1仮想線分と、前記所定加熱ローラの径方向における中心と前記第1の点とを結ぶ仮想線分である第2仮想線分と、のなす角が鋭角であることを特徴とする。
【0014】
本発明では、第1の点の近傍を流れるローラ随伴流を、随伴流回収面によって周方向に受け流しつつ径方向における内側へ案内できる。これにより、ローラ随伴流を随伴流回収面に沿ってスムーズに流れさせることができる。
【0015】
第4の発明の紡糸延伸装置は、前記第2又は第3の発明において、前記断面において、前記外周面と前記随伴流回収面との最短距離は、11mm以上88mm以下であることを特徴とする。
【0016】
外周面と随伴流回収面との間隔が狭すぎると、循環できるローラ随伴流の流量が少なくなってしまう。一方、外周面と随伴流回収面との間隔が広すぎると、ローラ随伴流が遠心力によって径方向における外側へ逃げることが抑制されにくくなり、これによって気流の乱れが生じやすくなってしまう。気流の乱れは、糸切れの原因になりうる。本発明では、外周面と随伴流回収面との最短距離を11mm以上88mm以下にすることにより、これらの問題をさらに抑制できる。
【0017】
第5の発明の紡糸延伸装置は、紡糸装置から紡出された走行中の糸を延伸する紡糸延伸装置であって、前記糸が360度未満の巻掛角度でそれぞれ巻き掛けられ、前記糸を加熱しつつ糸走行方向における下流側へ送るように構成された3つ以上の加熱ローラと、前記3つ以上の加熱ローラを収容する保温箱と、を備え、前記3つ以上の加熱ローラは、前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も上流側に配置された最上流加熱ローラと、前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も下流側に配置された最下流加熱ローラと、前記糸走行方向において前記最上流加熱ローラよりも下流側且つ前記最下流加熱ローラよりも上流側に配置された1以上の中間加熱ローラと、を有し、前記保温箱は、前記最上流加熱ローラと前記1以上の中間加熱ローラとを含む2以上の上流加熱ローラのうち、1以上の所定上流加熱ローラの周りにそれぞれ配置され、前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の回転によって生じる随伴流であるローラ随伴流を前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の全周に亘って循環させるように構成された1以上の循環部、を有し、前記1以上の循環部の任意の1つである所定循環部は、前記1以上の所定上流加熱ローラのうち前記所定循環部に対応する所定加熱ローラの回転軸方向と直交する断面において、前記所定加熱ローラの外周面のうち前記糸が接触している接触面の前記糸走行方向における最も上流側の点を接触開始点と定義し、且つ、前記接触面の前記糸走行方向における最も下流側の点を接触終了点と定義したとき、前記外周面のうち前記糸が接触していない非接触面と対向するように配置され、且つ、前記所定加熱ローラの周方向において、前記接触開始点よりも前記糸走行方向における上流側の糸道である上流糸道と、前記接触終了点よりも前記糸走行方向における下流側の糸道である下流糸道との間に挟まれるように配置され、前記周方向において前記接触終了点に最も近い端点である第1の点と、前記周方向において前記接触開始点に最も近い端点である第2の点と、を含む随伴流回収面、を有し、前記断面において、前記外周面と前記随伴流回収面との最短距離は、11mm以上88mm以下であることを特徴とする。
【0018】
外周面と随伴流回収面との間隔が狭すぎると、循環できるローラ随伴流の流量が少なくなってしまう。一方、外周面と随伴流回収面との間隔が広すぎると、ローラ随伴流が遠心力によって径方向における外側へ逃げることが抑制されにくくなり、これによって気流の乱れが生じやすくなってしまう。気流の乱れは、糸切れの原因になりうる。本発明では、外周面と随伴流回収面との最短距離を11mm以上88mm以下にすることにより、これらの問題をさらに抑制できる。
【0019】
第6の発明の紡糸延伸装置は、前記第5の発明において、前記断面において、前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ仮想線分である第1仮想線分と、前記所定加熱ローラの径方向における中心と前記第1の点とを結ぶ仮想線分である第2仮想線分と、のなす角が鋭角であることを特徴とする。
【0020】
本発明では、第1の点の近傍を流れるローラ随伴流を、随伴流回収面によって周方向に受け流しつつ径方向における内側へ案内できる。これにより、ローラ随伴流を随伴流回収面に沿ってスムーズに流れさせることができる。
【0021】
第7の発明の紡糸延伸装置は、前記第5又は第6の発明において、前記1以上の所定上流加熱ローラは、前記1以上の中間加熱ローラを含むことを特徴とする。
【0022】
糸が保温箱に形成された入口を通って保温箱内に進入する際、糸の走行によって発生する随伴流(以下、糸随伴流)も保温箱内に流入する。最上流加熱ローラは、保温箱の外側から流入するこのような冷気によって冷やされてしまいやすい。中間加熱ローラは、最上流加熱ローラに比較的近いので、中間加熱ローラの保温効果を向上させることにより、中間加熱ローラから発せられる熱を最上流加熱ローラ側に伝えることができる。これにより、最上流加熱ローラの保温効果も向上させることができる。
【0023】
第8の発明の紡糸延伸装置は、紡糸装置から紡出された走行中の糸を延伸する紡糸延伸装置であって、前記糸が360度未満の巻掛角度でそれぞれ巻き掛けられ、前記糸を加熱しつつ糸走行方向における下流側へ送るように構成された3つ以上の加熱ローラと、前記3つ以上の加熱ローラを収容する保温箱と、を備え、前記3つ以上の加熱ローラは、前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も上流側に配置された最上流加熱ローラと、前記3つ以上の加熱ローラのうち前記糸走行方向において最も下流側に配置された最下流加熱ローラと、前記糸走行方向において前記最上流加熱ローラよりも下流側且つ前記最下流加熱ローラよりも上流側に配置された1以上の中間加熱ローラと、を有し、前記保温箱は、前記最上流加熱ローラと前記1以上の中間加熱ローラとを含む2以上の上流加熱ローラのうち、1以上の所定上流加熱ローラの周りにそれぞれ配置され、前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の回転によって生じる随伴流であるローラ随伴流を前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の全周に亘って循環させるように構成された1以上の循環部、を有し、前記1以上の循環部の任意の1つである所定循環部は、前記1以上の所定上流加熱ローラのうち前記所定循環部に対応する所定加熱ローラの回転軸方向と直交する断面において、前記所定加熱ローラの外周面のうち前記糸が接触している接触面の前記糸走行方向における最も上流側の点を接触開始点と定義し、且つ、前記接触面の前記糸走行方向における最も下流側の点を接触終了点と定義したとき、前記外周面のうち前記糸が接触していない非接触面と対向するように配置され、且つ、前記所定加熱ローラの周方向において、前記接触開始点よりも前記糸走行方向における上流側の糸道である上流糸道と、前記接触終了点よりも前記糸走行方向における下流側の糸道である下流糸道との間に挟まれるように配置され、前記周方向において前記接触終了点に最も近い端点である第1の点と、前記周方向において前記接触開始点に最も近い端点である第2の点と、を含む随伴流回収面、を有し、前記断面において、前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ仮想線分である第1仮想線分と、前記所定加熱ローラの径方向における中心と前記第1の点とを結ぶ仮想線分である第2仮想線分と、のなす角が鋭角であることを特徴とする。
【0024】
本発明では、第1の点の近傍を流れるローラ随伴流を、随伴流回収面によって周方向に受け流しつつ径方向における内側へ案内できる。これにより、ローラ随伴流を随伴流回収面に沿ってスムーズに流れさせることができる。
【0025】
第9の発明の紡糸延伸装置は、前記第8の発明において、前記1以上の所定上流加熱ローラは、前記1以上の中間加熱ローラを含むことを特徴とする。
【0026】
糸が保温箱に形成された入口を通って保温箱内に進入する際、糸の走行によって発生する随伴流(以下、糸随伴流)も保温箱内に流入する。最上流加熱ローラは、保温箱の外側から流入するこのような冷気によって冷やされてしまいやすい。中間加熱ローラは、最上流加熱ローラに比較的近いので、中間加熱ローラの保温効果を向上させることにより、中間加熱ローラから発せられる熱を最上流加熱ローラ側に伝えることができる。これにより、最上流加熱ローラの保温効果も向上させることができる。
【0027】
第10の発明の紡糸延伸装置は、前記第2~第9のいずれかの発明において、前記断面において、前記接触開始点を含み前記上流糸道と部分的に重なる仮想上流直線と、前記接触終了点を含み前記下流糸道と部分的に重なる仮想下流直線とは、所定の対称軸に関して線対称であり、前記第1の点は、前記対称軸と前記仮想下流直線との間に挟まれるように配置されていることを特徴とする。
【0028】
本発明では、第1の点が接触終了点に近い位置に配置されている。これにより、接触終了点の近傍を流れる随伴流を随伴流回収面によって取り込みやすい(回収しやすい)。したがって、ローラ随伴流を効果的に循環させることができる。
【0029】
第11の発明の紡糸延伸装置は、前記第2~第10のいずれかの発明において、前記断面において、前記随伴流回収面は、前記第1の点と前記第2の点とを結ぶ線分を形成し、又は、前記線分よりも前記所定加熱ローラの径方向における外側へ膨らむように、湾曲し、若しくは鈍角を形成するように屈曲していることを特徴とする。
【0030】
本発明では、随伴流回収面に沿ってローラ随伴流をスムーズに流れさせることができる。
【0031】
第12の発明の紡糸延伸装置は、前記第11の発明において、前記随伴流回収面は、前記断面において、前記線分を形成していることを特徴とする。
【0032】
本発明では、随伴流回収面が平面状である。したがって、随伴流回収面が湾曲又は屈曲している場合と比べて、簡単な加工によって随伴流回収面を形成できる。
【0033】
第13の発明の紡糸延伸装置は、前記第2~第12のいずれかの発明において、前記所定循環部は、前記周方向において前記接触面を囲うように配置された随伴流規制面を有することを特徴とする。
【0034】
本発明では、随伴流規制面によって、ローラ随伴流が遠心力によって外周面の径方向における外側へ逃げてしまうことをさらに抑制できる。
【0035】
第14の発明の紡糸延伸装置は、前記第13の発明において、前記断面において、前記第1の点を端点として前記第2の点を通る仮想半直線が、前記随伴流規制面と交わることを特徴とする。
【0036】
本発明では、随伴流回収面に沿って案内されたローラ随伴流を随伴流規制面に向けて供給できる。これにより、ローラ随伴流をより効果的に循環させることができる。
【0037】
第15の発明の紡糸延伸装置は、前記第2~第14のいずれかの発明において、前記断面において、前記第1の点を端点として前記第2の点を通る仮想半直線と、前記接触開始点に向かって走行している前記糸の糸道との交点を第3の点と定義したとき、前記断面において、前記第2の点と前記第3の点とを結ぶ仮想線分である第3仮想線分と、前記第3の点と前記接触開始点とを結ぶ仮想線分である第4仮想線分とのなす角が鈍角であることを特徴とする。
【0038】
本発明では、随伴流回収面に沿って案内されたローラ随伴流が糸の進行方向に逆らうように流れることを防止できる。したがって、糸揺れを抑制できる。
【0039】
第16の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第15のいずれかの発明において、前記1以上の循環部は、前記1以上の所定上流加熱ローラの各々の周りで前記ローラ随伴流を循環させることにより、前記糸走行方向に沿った層流を前記1以上の所定上流加熱ローラの周りにそれぞれ発生させるように構成されていることを特徴とする。
【0040】
本発明では、所定上流加熱ローラの周りを循環するローラ随伴流によって、安定した層流を形成できる。このため、循環する気体の流量が多くても、糸揺れを抑制できる。
【0041】
第17の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第16のいずれかの発明において、前記保温箱は、前記最下流加熱ローラ及び前記1以上の中間加熱ローラのうち所定の1つである下流加熱ローラと前記最上流加熱ローラとの間に配置された仕切部と、前記仕切部よりも前記下流加熱ローラ側の下流空間と、前記仕切部よりも前記最上流加熱ローラ側の上流空間と、を連通させる戻り流路と、を有することを特徴とする。
【0042】
最上流加熱ローラは、保温箱に形成された糸の入口から流入する冷気によって冷やされてしまいやすい。本発明では、戻り流路を介して、下流空間内の高温の気体を上流空間に供給できる。これにより、最上流加熱ローラの保温効果を効果的に向上できる。
【0043】
第18の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第17のいずれかの発明において、前記1以上の所定上流加熱ローラは、前記最上流加熱ローラを含むことを特徴とする。
【0044】
本発明では、最上流加熱ローラの保温効果を向上させることができる。したがって、消費電力を効果的に低減できる。
【0045】
第19の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第18のいずれかの発明において、前記保温箱は、前記糸の出口と、前記最下流加熱ローラの外周面のうち前記糸が巻き掛けられている最下流接触面に向かって延びた、前記出口に向かう前記糸の走行によって生じる糸随伴流を遮断する遮断部と、を有することを特徴とする。
【0046】
本発明では、遮断部によって、糸随伴流が出口を通って保温箱から流出することを抑制できる。したがって、保温箱内の保温効果を向上させることができる。
【0047】
第20の発明の紡糸延伸装置は、前記第19の発明において、前記保温箱は、前記最下流加熱ローラの回転軸方向と直交する断面において、前記最下流加熱ローラの前記外周面のうち前記糸が巻き掛けられていない最下流非接触面と対向するように配置され、且つ、前記最下流接触面よりも前記糸走行方向における上流側の糸道と、前記最下流接触面よりも前記糸走行方向における下流側の糸道との間に挟まれるように配置された最下流随伴流回収面、を有することを特徴とする。
【0048】
本発明では、最下流加熱ローラのローラ随伴流の一部を最下流随伴流回収面によって糸走行方向における上流側へ戻すことができる。これにより、ローラ随伴流が出口を通って保温箱から流出することを抑制できる。したがって、保温箱内の保温効果を向上させることができる。
【0049】
第21の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第20のいずれかの発明において、前記糸走行方向において前記最上流加熱ローラよりも上流側で前記糸が延伸されることを特徴とする。
【0050】
本発明では、糸が延伸される領域よりも糸走行方向における下流側に3つ以上の加熱ローラが設けられているので、糸をしっかり把持できる。このため、延伸されている糸に加わる張力によって加熱ローラ上の糸がスリップすることを抑制できる。これにより、糸揺れをさらに抑制できる。
【0051】
第22の発明の紡糸延伸装置は、前記第21の発明において、前記保温箱の外側且つ前記3つ以上の加熱ローラの前記糸走行方向における上流側に配置され、延伸される前の前記糸が巻き掛けられる外側ローラを備え、前記糸は、前記糸走行方向において、前記外側ローラと前記最上流加熱ローラとの間で延伸されることを特徴とする。
【0052】
本発明では、保温箱によって外側ローラと最上流加熱ローラとの間で熱の移動を抑制できる。したがって、外側ローラと最上流加熱ローラとの間で加熱温度が大きく異なっている場合でも、温度差による影響を抑制できる。
【0053】
第23の発明の紡糸延伸装置は、前記第22の発明において、前記外側ローラは、前記糸を加熱しない非加熱ローラであることを特徴とする。
【0054】
本発明では、外側ローラは非加熱ローラであり、温められる必要がない。このため、外側ローラを前記保温箱内に収容する必要は生じない。したがって、例えば前記3つ以上の加熱ローラと設定温度が異なる加熱ローラが保温箱内に収容されうる構成と比べて、保温箱内を自由に設計できる。
【0055】
第24の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第23のいずれかの発明において、前記3つ以上の加熱ローラの各々は、延伸された前記糸を熱固定するための熱固定ローラであることを特徴とする。
【0056】
本発明では、3つ以上の熱固定ローラが設けられているので、糸揺れが生じる懸念が大きいネルソンローラを用いなくても、糸を十分に熱固定できる。
【0057】
第25の発明の紡糸延伸装置は、前記第1~第24のいずれかの発明において、前記糸は、ナイロンからなることを特徴とする。
【0058】
本発明は、ナイロン製の糸を延伸する上で特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】本実施形態の紡糸延伸装置を備える紡糸引取機を示す模式図である。
【
図3】(a)、(b)の各々は、第2加熱ローラ及びその近傍の拡大図である。
【
図4】保温箱内の流体の流量のシミュレーション結果を示す図である。
【
図5】実施例及び比較例における流体解析の条件と、各条件における流体解析の結果とを示すテーブルである。
【
図6】
図5に示すテーブルから、実施例1~6における流体解析の条件及び解析結果を抜粋して並べ替えたものである。
【
図7】
図5に示すテーブルから、戻り流路の有無に関する実施例及び比較例の条件及び解析結果を抜粋したものである。
【
図8】(a)、(b)の各々は、比較例に係る説明図である。
【
図9】変形例に係る、紡糸延伸装置の断面図である。
【
図10】別の変形例に係る、紡糸延伸装置の断面図である。
【
図11】複数の変形例における流体解析の条件と、各条件における流体解析の結果とを含むテーブルである。
【
図12】(a)、(b)の各々は、さらに別の変形例に係る第2加熱ローラ及びその近傍の拡大図である。
【
図13】(a)、(b)の各々は、さらに別の変形例に係る紡糸延伸装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
次に、本発明の実施形態について説明する。
図1に示す上下方向、左右方向及び前後方向を、紡糸引取機1の上下方向、左右方向及び前後方向とそれぞれ定義する。上下方向(
図1の紙面上下方向)は、重力が作用する鉛直方向と平行な方向である。左右方向(
図1の紙面左右方向)は、上下方向と直交する所定の方向である。前後方向(
図1の紙面垂直方向)は、上下方向及び左右方向の両方と直交する方向である。また、後述の糸Yが走行する方向を糸走行方向と定義する。
【0061】
(紡糸引取機)
本実施形態に係る紡糸延伸装置3を備える紡糸引取機1の構成について、
図1を参照しつつ説明する。
図1は、紡糸引取機1の模式図である。紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出された複数の糸Yを、紡糸延伸装置3で延伸した後、糸巻取装置4で巻き取るように構成されている。
【0062】
紡糸装置2は、ナイロン(例えばナイロン6又はナイロン66)からなる溶融ポリマーを連続的に紡出することで、ナイロンからなる複数の糸Yを生成するように構成されている。なお、
図1には、糸Yが1本のみ図示されている。各糸Yは、例えば、複数のフィラメントfを有するマルチフィラメント糸である。或いは、各糸Yは1本のフィラメントfによって構成されていても良い。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、油剤ガイド10によって油剤が付与された後、紡糸延伸装置3に送られる。
【0063】
紡糸延伸装置3は、複数の糸Yを延伸する装置である。紡糸延伸装置3は、例えば紡糸装置2の下方に配置されている。
図1に示すように、紡糸延伸装置3は、例えば、非加熱ローラ群11と、加熱ローラ群12と、保温箱13とを有する。非加熱ローラ群11が有する複数の非加熱ローラ21と、加熱ローラ群12が有する複数の加熱ローラ31との間で糸Yが延伸される。複数の加熱ローラ31の各々は、延伸された糸Yを熱固定するための熱固定ローラである。複数の加熱ローラ31は、保温箱13内に収容されている。
【0064】
保温箱13は、入口13aと出口13bとを有する。入口13aは、複数の糸Yを保温箱13の内部に導入するために形成された開口である。複数の糸Yの走行によって生じる随伴流(以下、糸随伴流)の一部は、入口13aを通って保温箱13内に流入する。出口13bは、延伸され且つ加熱された複数の糸Yを保温箱13の外部に導出するために形成された開口である。糸随伴流の一部は、出口13bを通って保温箱13の外に流出する。紡糸延伸装置3の更なる詳細については後述する。
【0065】
紡糸延伸装置3で延伸された複数の糸Yは、案内ローラ14を経て糸巻取装置4に送られる。糸巻取装置4は、複数の糸Yを複数の巻取ボビンBwにそれぞれ巻き取って、複数のパッケージPを形成するように構成されている。
【0066】
以上の構成を備える紡糸引取機1によって、複数の糸Yの紡出、延伸及び巻取りの一連の処理が行われる。
【0067】
(紡糸延伸装置)
次に、紡糸延伸装置3のより具体的な構成について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。
図2は、紡糸延伸装置3の前後方向と直交する断面図である。
【0068】
上述したように、紡糸延伸装置3は、例えば、非加熱ローラ群11と、加熱ローラ群12と、保温箱13とを有する。非加熱ローラ群11は、油剤が付与された複数の糸Yを引き取って、複数の糸Yを加熱せずに加熱ローラ群12へ送るように構成されている。或いは、糸走行方向において、油剤ガイド10と非加熱ローラ群11との間に、不図示の引取ローラが配置されていても良い。
図1及び
図2に示すように、非加熱ローラ群11は、例えば複数の非加熱ローラ21を有する。複数の非加熱ローラ21は、保温箱13の外側に配置されている。複数の非加熱ローラ21は、保温箱13とは別の保温箱(不図示)に収容されていても良い。各非加熱ローラ21は、例えば公知のゴデットローラである。各非加熱ローラ21は、不図示のモータによって回転駆動される。複数の非加熱ローラ21の回転軸方向は、例えば、前後方向と略平行である。つまり、複数の非加熱ローラ21の回転軸方向は、互いに略平行である。各非加熱ローラ21は、複数の糸Yが巻き掛けられる外周面21a(
図1参照)を有する。複数の糸Yは、各非加熱ローラ21の回転軸方向において、外周面21aに並べて巻きかけられる。複数の糸Yは、糸走行方向における上流側から順に、複数の非加熱ローラ21に360度未満の巻掛角度で巻き掛けられている。本実施形態では、複数の非加熱ローラ21として3つの非加熱ローラ21が設けられている(
図1参照)。3つの非加熱ローラ21として、糸走行方向における上流側から順に、第1非加熱ローラ22、第2非加熱ローラ23及び第3非加熱ローラ24(本発明の外側ローラ)が配置されている。非加熱ローラ21の数はこれに限られない。
【0069】
加熱ローラ群12は、複数の糸Yを非加熱ローラ群11との間で延伸し、且つ、延伸された複数の糸Yを熱セットするように構成されている。
図1及び
図2に示すように、加熱ローラ群12は、例えば複数の加熱ローラ31を有する。複数の加熱ローラ31は、保温箱13内に収容されている。各加熱ローラ31は、非加熱ローラ21と同様、例えば公知のゴデットローラである。各加熱ローラ31は、不図示のモータによって回転駆動される。複数の加熱ローラ31の回転軸方向は、例えば、前後方向と略平行である。つまり、複数の加熱ローラ31の回転軸方向は、互いに略平行であり、且つ、複数の非加熱ローラ21の回転軸方向と略平行である。各加熱ローラ31は、複数の糸Yが巻き掛けられる外周面31a(
図2参照)を有する。複数の糸Yは、各加熱ローラ31の回転軸方向において、外周面31aに並べて巻きかけられる。各加熱ローラ31は、不図示のヒータを有する。ヒータは、例えば不図示のコイルを有する。ヒータは、コイルに電力が供給されているときに、ジュール熱によって加熱ローラ31の外周面31aを加熱するように構成されている。各加熱ローラ31の加熱温度(すなわち、各加熱ローラ31の外周面31aの設定温度)は、互いに略等しい。各加熱ローラ31の加熱温度は、例えば50~250℃である。複数の糸Yは、糸走行方向における上流側から順に、複数の加熱ローラ31に360度未満の巻掛角度で巻き掛けられている。本実施形態では、複数の加熱ローラ31として3つの加熱ローラ31が設けられている。3つの加熱ローラ31として、糸走行方向における上流側から順に、第1加熱ローラ32、第2加熱ローラ33及び第3加熱ローラ34が配置されている。
【0070】
第1加熱ローラ32(本発明の最上流加熱ローラ及び上流加熱ローラ)は、複数の加熱ローラ31のうち糸走行方向において最も上流側に配置されている。第1加熱ローラ32は、例えば、複数の加熱ローラ31のうち最も下側に配置されている。第1加熱ローラ32は、糸走行方向において、複数の非加熱ローラ21のうち最も下流側に配置された第3非加熱ローラ24のすぐ下流側に配置されている。第1加熱ローラ32は、第3非加熱ローラ24との間で糸Yを延伸するように構成されている。すなわち、第1加熱ローラ32による糸送り速度は、第3非加熱ローラ24による糸送り速度よりも速くなるように設定される。第1加熱ローラ32による糸送り速度と第3非加熱ローラ24による糸送り速度との差によって、糸Yが延伸される。つまり、本実施形態では、糸走行方向において第1加熱ローラ32よりも上流側で糸Yが延伸される。
【0071】
第2加熱ローラ33(本発明の上流加熱ローラ、所定上流加熱ローラ、所定加熱ローラ及び中間加熱ローラ)は、糸走行方向において第1加熱ローラ32の下流側且つ第3加熱ローラ34の上流側に配置されている。第2加熱ローラ33は、例えば、第1加熱ローラ32よりも上側且つ右側に配置されている。第2加熱ローラ33は、例えば、第3加熱ローラ34よりも右側且つわずかに下側に配置されている。第2加熱ローラ33による糸送り速度は、第1加熱ローラ32による糸送り速度と略等しい。
【0072】
第3加熱ローラ34(本発明の下流加熱ローラ及び最下流加熱ローラ)は、複数の加熱ローラ31のうち糸走行方向において最も下流側に配置されている。第3加熱ローラ34は、例えば、第1加熱ローラ32の真上に配置されている。第3加熱ローラ34は、例えば、第2加熱ローラ33よりも左側且つわずかに上側に配置されている。第3加熱ローラ34による糸送り速度は、例えば第1加熱ローラ32による糸送り速度及び第2加熱ローラ33による糸送り速度と略等しい。但し、第3加熱ローラ34による糸送り速度はこれには限られない。
【0073】
第1加熱ローラ32、第2加熱ローラ33及び第3加熱ローラ34の回転方向は、例えば
図2の矢印に示すとおりである。より具体的には、前後方向と直交する断面において、第1加熱ローラ32の回転方向は、例えば時計回りである。当該断面において、第2加熱ローラ33の回転方向は、第1加熱ローラ32の回転方向と逆(すなわち、反時計回り)である。当該断面において、第3加熱ローラ34の回転方向は、第2加熱ローラ33の回転方向と逆であり、且つ第1加熱ローラ32の回転方向と同じ(すなわち、時計回り)である。
【0074】
保温箱13は、複数の加熱ローラ31の熱が外部に逃げることを抑制するための箱である。
図2に示すように、保温箱13は、周壁41と、背面壁42と、整流部材43~46と、遮断部材47、48と、戻り流路49と、前面扉(不図示)とを有する。保温箱13の内部空間には、保温箱13の外部空間の気体(空気)の圧力と概ね等しい圧力の気体(空気)が入っている。
【0075】
周壁41は、前後方向と直交する断面(
図2参照)において、複数の加熱ローラ31を囲うように設けられた壁状の部材である。周壁41は、複数の加熱ローラ31を囲うように配置された内壁面41a~41hを有する。内壁面41a~41hは、例えば、前後方向(
図2の紙面垂直方向)に沿って延びている。
【0076】
内壁面41a~41hのより具体的な配置の例は、以下のとおりである。
図2に示すように、内壁面41aは、第1加熱ローラ32の右側に配置され、左側を向き、上下方向に沿って延びている。内壁面41aは、入口13aのすぐ上側に配置されている。内壁面41bは、第1加熱ローラ32の右側に配置され、左側を向き、上下方向に沿って延びている。内壁面41bは、入口13aのすぐ下側に配置されている。内壁面41cは、第1加熱ローラ32の下側に配置され、上側を向き、左右方向に沿って延びている。内壁面41cの右端は、内壁面41bの下端と接続されている。内壁面41dは、第1加熱ローラ32及び第3加熱ローラ34の左側に配置され、右側を向き、上下方向に沿って延びている。内壁面41dの下端は、内壁面41cの左端と接続されている。内壁面41eは、第1加熱ローラ32の右側且つ第2加熱ローラ33の下側に配置され、上側を向き、左右方向に沿って延びている。内壁面41eの左端は、内壁面41aの上端と接続されている。内壁面41fは、第2加熱ローラ33の右側に配置され、左側を向き、上下方向に沿って延びている。内壁面41fの下端は、内壁面41eの右端と接続されている。内壁面41gは、第2加熱ローラ33及び第3加熱ローラ34の上側に配置され、下側を向き、左右方向に沿って延びている。内壁面41gの左端は、内壁面41dの上端と接続されている。内壁面41hは、第2加熱ローラ33の右側に配置され、左側を向き、上下方向に沿って延びている。内壁面41hは、出口13bのすぐ上側に配置されている。内壁面41hの上端は、内壁面41gの右端と接続されている。内壁面41a~41hの配置は、上述したものに限られない。
【0077】
背面壁42(
図2参照)は、周壁41の後側に配置された壁である。背面壁42は、例えば、前後方向と略垂直に配置された板状の部材である。背面壁42は、内壁面41a~41hの後端と接続されている。各加熱ローラ31を回転駆動するモータ(不図示)は、例えば背面壁42に対して位置が固定されている。
【0078】
整流部材43~46(
図2参照)は、保温箱13内の空気を整流するための部材である。より詳細には、整流部材43~46は、主に、上述した糸随伴流、及び各加熱ローラ31の回転によって生じる随伴流(以下、ローラ随伴流)を整流するための部材である。整流部材43~46は、例えば板状の部材が板金加工されることによって形成されている。或いは、整流部材43~46のうち少なくとも1つが、例えばブロック状の部材が切削加工されることによって形成されていても良い。整流部材43~46は、例えば前後方向(
図2の紙面垂直方向)に沿って延びている。整流部材43~46は、例えば背面壁42に固定されている。
【0079】
図2に示すように、整流部材43は、第1加熱ローラ32の左側部分を囲うように配置されている。整流部材43は、概ね上下方向に延びている。整流部材43は、例えば、内壁面41cの上側に配置され、上下方向において内壁面41cと離隔している。整流部材43は、例えば、内壁面41dの右側に配置され、左右方向において内壁面41dと離隔している。これにより、整流部材43と内壁面41dとの間に戻り流路49が形成されている。
【0080】
図2に示すように、整流部材44は、主に、第2加熱ローラ33の下側部分を囲うように配置されている。整流部材44は、概ね左右方向に延びている。整流部材44は、例えば、ほぼ全体が内壁面41eの上側に配置されている。整流部材44の左端部には、例えば、第1加熱ローラ32の外周面32aの近傍まで延びた遮断部44aが設けられている。遮断部44aは、外周面32aのうち糸Yが巻き掛けられていない部分に向かって延びている。遮断部44aは、第1加熱ローラ32のローラ随伴流を遮断することにより、当該ローラ随伴流が入口13a側に戻ることを抑制するように構成されている。整流部材44の右端は、例えば、内壁面41fの下側部分と接続されている。整流部材44は、内壁面41fとともに、後述の随伴流規制面51を形成している。
【0081】
図2に示すように、整流部材45は、主に、第2加熱ローラ33の上側部分を囲うように配置されている。整流部材45は、概ね左右方向に延びている。整流部材45は、例えば、上下方向において第2加熱ローラ33の上側且つ内壁面41gの下側に配置されている。整流部材45の左端部には、例えば、第3加熱ローラ34の外周面34aの近傍まで延びた遮断部45aが設けられている。遮断部45aは、第3加熱ローラ34のローラ随伴流を遮断することにより、当該ローラ随伴流が第2加熱ローラ33側に戻ることを抑制するように構成されている。整流部材45の右端は、例えば、内壁面41fの上端部と接続されている。整流部材45は、内壁面41f及び整流部材44とともに、後述の随伴流規制面51を形成している。
【0082】
図2に示すように、整流部材46(本発明の仕切部)は、上下方向において第1加熱ローラ32と第3加熱ローラ34とを隔てるように配置されている。整流部材46は、概ね左右方向に延びている。整流部材46は、例えば、ほぼ全体が、上下方向において第1加熱ローラ32の上側且つ第3加熱ローラ34の下側(すなわち、第1加熱ローラ32と第3加熱ローラ34との間)に配置されている。整流部材46は、例えば、内壁面41dの右側に配置され、左右方向において内壁面41dと離隔している。
【0083】
遮断部材47は、入口13aを通って保温箱13に進入する糸Yの走行によって生じる糸随伴流を遮断するように構成されている。遮断部材47は、例えば板状の部材である。遮断部材47は、例えば、内壁面41c及び背面壁42に固定されている。遮断部材47は、第1加熱ローラ32の外周面32aの周方向において、外周面32aのうち糸Yが巻き掛けられている部分に向かって延びている。
【0084】
遮断部材48(本発明の遮断部)は、糸随伴流及び第3加熱ローラ34のローラ随伴流を遮断することにより、糸随伴流及び当該ローラ随伴流が出口13bから流出することを抑制するように構成されている。遮断部材48は、例えば板状の部材である。遮断部材48は、例えば、内壁面41d及び背面壁42に固定されている。遮断部材48は、内壁面41dの上側部分から、第3加熱ローラ34の外周面34aのうち糸Yが巻き掛けられている部分(最下流接触面34b)に向かって延びている。
【0085】
戻り流路49は、例えば、第3加熱ローラ34の近傍の空気を第1加熱ローラ32の近傍に戻すための流路である。戻り流路49は、整流部材46よりも第3加熱ローラ34側の空間(本発明の下流空間)と、整流部材46よりも第1加熱ローラ32側の空間(本発明の上流空間)とを連通させている。内壁面41dと整流部材46の左端との間に、戻り流路49の入口49aが形成されている。整流部材43の下端と内壁面41c、41dとの間に、戻り流路49の出口49bが形成されている。
【0086】
前面扉(不図示)は、保温箱13の前面を閉止するための扉である。前面扉は、周壁41の前端面と接触するように構成されている。前面扉と複数の加熱ローラ31との間にはわずかな隙間が形成されている。
【0087】
その他に、保温箱13は、糸Yに付与された油剤のミストが含まれた気体を排出するための排出口(不図示)を有する。なお、排出口から排出される気体の流量は、入口13aから流入する気体の流量及び出口13bから流出する気体の流量と比べて十分小さい。排出口に関するさらなる説明は省略する。
【0088】
以上のような紡糸延伸装置3において、糸揺れの抑制及びヒータの消費電力の増大の抑制が求められる。糸揺れについては、上述したように、紡糸延伸装置3は、3つの加熱ローラ31(例えばゴデットローラ)を有する。このため、糸揺れが生じる懸念が大きい公知のネルソンローラを用いなくても、ナイロン製の糸Yを十分に加熱できる。したがって、糸揺れを抑制できる。また、ヒータの消費電力は、例えば保温箱13内の保温効果及び複数の加熱ローラ31の保温効果を向上させることにより低減可能である。保温箱13内の保温効果及び複数の加熱ローラ31の保温効果は、例えば保温箱13内の熱の流出及び/又は保温箱13の外部からの冷気の侵入を抑制することで向上可能である。消費電力を低減するために、紡糸延伸装置3は以下の構成を有する。
【0089】
(紡糸延伸装置の詳細構成)
紡糸延伸装置3の詳細構成について、
図3(a)及び
図3(b)を参照しつつ説明する。
図3(a)及び
図3(b)は、第2加熱ローラ33及びその近傍の拡大図である。以下、第2加熱ローラ33の回転軸方向を単に回転軸方向と呼ぶ。第2加熱ローラ33の径方向を単に径方向と呼ぶ。第2加熱ローラ33の周方向を単に周方向と呼ぶ。第2加熱ローラ33の外周面33aのうち、回転軸方向と直交する断面(
図3(a)及び
図3(b)参照。以下、上記断面)において糸Yが接触している部分を接触面33b(
図3(a)の太線参照)と呼ぶ。断面において、外周面33aのうち糸Yが接触していない部分を非接触面33c(
図3(b)の太線参照)と呼ぶ。上記断面において、接触面33bのうち糸走行方向における最も上流側の点を接触開始点PS(
図3(
a)参照)と呼ぶ。上記断面において、接触面33bのうち糸走行方向における最も下流側の点を接触終了点PE(
図3(
a)参照)と呼ぶ。糸Yの通り道を糸道と呼ぶ。
【0090】
次に、保温箱13内の保温効果を向上させるための構成について説明する。
図3(a)に示すように、第2加熱ローラ33の近傍には、第2加熱ローラ33のローラ随伴流を第2加熱ローラ33の周りで循環させるための循環部50(本発明の所定循環部)が設けられている。循環部50は、例えば、上述した周壁41の内壁面41f、整流部材44、45及び46によって形成されている。循環部50は、例えば、随伴流規制面51(
図3(a)の太線参照)と、随伴流回収面52(
図3(b)の太線参照)とを有する。
【0091】
随伴流規制面51は、接触面33bの近傍を流れるローラ随伴流が径方向における外側へ流出することを抑制するための面である。随伴流規制面51は、例えば内壁面41f、整流部材44及び45によって形成されている。随伴流規制面51は、例えば、接触面33bの径方向における外側に配置され、且つ、周方向において接触面33bを囲うように配置されている。「接触面33bを囲う」とは、周方向において接触面33bと同じ範囲又は接触面33bよりも広い範囲に亘って延びていることを意味する。言い換えると、随伴流規制面51は、周方向において、少なくとも接触面33bの一端の位置から他端の位置に亘って延びている。随伴流規制面51により、例えばローラ随伴流が出口13b(
図2参照)に向かって流れることが防止される。
【0092】
随伴流回収面52は、非接触面33cの近傍を流れるローラ随伴流を周方向に案内し、ローラ随伴流を糸走行方向における上流側へ帰還させる(言い換えると、回収する)ための面である。随伴流回収面52は、例えば整流部材46によって形成されている。より具体的には、整流部材46の右端部には、上記断面において例えば略三角形状の案内部46aが形成されている。随伴流回収面52は、案内部46aのうち径方向において最も非接触面33cに近い面である。随伴流回収面52は、上記断面において非接触面33cと対向している。随伴流回収面52は、周方向において随伴流規制面51と離隔して配置されている。より詳しくは、非接触面33cは、接触開始点PSよりも糸走行方向における上流側の糸道(以下、上流糸道と呼ぶ)と、接触終了点PEよりも糸走行方向における下流側の糸道(以下、下流糸道と呼ぶ)との間に挟まれるように配置されている。随伴流回収面52は、上記断面において真っ直ぐ(略直線状)である。
【0093】
随伴流回収面52のより詳細な例について、
図3(a)及び
図3(b)を参照しつつ説明する。上記断面において、随伴流回収面52の、周方向において接触終了点PEに最も近い点を第1の点P1と定義する。同じく、随伴流回収面52の、周方向において接触開始点PSに最も近い点を第2の点P2と定義する。上記断面において、随伴流回収面52は、第1の点P1と第2の点P2とを結ぶ略直線状の線分L1(
図3(b)の太線参照)を形成している。一般的に、線分は、両端を有する真っ直ぐな線である。
【0094】
以下、部材によって形成される面に含まれる線分等を単に「線分」等と呼び、部材とは独立的に仮想的に描かれることが可能な線分等を「仮想線分」等と呼ぶ。
【0095】
図3(a)に示すように、上記断面において、接触開始点PSを含み上流糸道と部分的に重なる仮想的な直線を、仮想上流直線VLuと定義する。上記断面において、接触終了点PEを含み下流糸道と部分的に重なる仮想的な直線を、仮想下流直線VLdと定義する。上記断面において、第2加熱ローラ33の径方向における中心を中心点PCと呼ぶ。上記断面において、仮想上流直線VLuと仮想下流直線VLdは、例えば中心点PCを通る所定の対称軸VLsに関して互いに線対称である。第1の点P1は、上記断面において、対称軸VLsと仮想下流直線VLdとの間に挟まれるように配置されている。
【0096】
また、
図3(b)に示すように、上記断面において、第1の点P1と第2の点P2とを結ぶ仮想線分を第1仮想線分VL1と定義する。なお、本実施形態において、第1仮想線分VL1は線分L1と重なる。上述した中心点PCと第1の点P1とを結ぶ仮想線分を第2仮想線分VL2と定義する。このとき、例えば、第1仮想線分VL1と第2仮想線分VL2とのなす角θ1は鋭角である。
【0097】
上記断面において、第1の点P1を端点とし且つ第2の点P2を通る仮想半直線VHLは、例えば随伴流規制面51と交わる。一般的に、半直線とは、端点を1つのみ有する真っ直ぐな線である。
【0098】
上記断面において、仮想半直線VHLと、接触開始点PSに向かって走行している糸Yの糸道の交点を第3の点P3
(図3(b)参照)と定義する。第2の点P2と第3の点P3とを結ぶ仮想線分を第3仮想線分VL3と定義する。第3の点P3と接触開始点PSとを結ぶ仮想線分を第4仮想線分VL4と定義する。第3仮想線分VL3と第4仮想線分VL4とのなす角θ2は、例えば鈍角である。
【0099】
以上のように構成された循環部50によって、ローラ随伴流は、第2加熱ローラ33の周りを全周に亘って循環することが可能である(
図3(a)の破線矢印A1を参照)。これによって、第2加熱ローラ33の周りで生じるローラ随伴流が、遠心力によって第2加熱ローラ33から離れること、及び出口13bから流出することが抑制される。当該ローラ随伴流は、第2加熱ローラ33によって加熱された空気を含む。すなわち、加熱された空気の出口13bからの流出が、循環部50によって抑制される。さらに、加熱された空気の出口13bからの流出が抑制されることにより、保温箱13内の圧力の低下が抑制される。これによって、保温箱13の外部空間の冷気が入口13aから流入することが抑制される。また、ローラ随伴流は、循環することによって、第2加熱ローラ33によって加熱され続けるため、第2加熱ローラ33及びその近傍の温度低下が効果的に抑制される。これらの結果として、保温箱13内の保温効果が向上する。
【0100】
また、循環部50によって、ローラ随伴流は、途中で遮断されずにスムーズに循環することが可能である。すなわち、循環部50は、第2加熱ローラ33の周りでローラ随伴流を循環させることにより、糸走行方向に沿った層流を第2加熱ローラ33の周りに発生させるように構成されている。これにより、糸揺れをさらに抑制できる。
【0101】
(流体解析及び消費電力の評価)
本願発明者は、循環部50による保温箱13内の保温効果に関する流体解析を行った。また、本願発明者は、当該保温効果によって、複数の加熱ローラ31のヒータの消費電力がどの程度低減するか評価した。以下、より具体的に説明する。
【0102】
まず、流体解析(以下、単に解析ともいう)の内容、条件振り及び解析結果について、主に
図4~
図8(b)を参照しつつ説明する。
図4は、流体の流量のシミュレーション結果を示す図である。
図5は、後述の実施例1~7及び比較例1~3の条件と、各条件における流体解析の結果を示すテーブルである。
図6は、
図5に示すテーブルから、実施例1~6における流体解析の結果のみを抜粋して、後述する距離Dが小さい順に並べ替えたものである。
図7は、
図5に示すテーブルから、戻り流路49の有無に関する実施例及び比較例の条件及び解析結果を抜粋したものである。
図8(a)は、比較例1を示す説明図である。
図8(b)は、比較例2を示す説明図である。
【0103】
本願発明者は、流体解析用の一般的なソフトウェアを用いて、上述した紡糸延伸装置3(すなわち、非加熱ローラ群11、加熱ローラ群12及び保温箱13)のモデルを作成した。そして、本願発明者は、主に保温箱13内における流体の流量等のシミュレーションを行った(
図4参照)。本願発明者は、非加熱ローラ群11に属する非加熱ローラ21の数、大きさ、配置位置及び周速度、並びに、加熱ローラ群12に属する加熱ローラ31の数、大きさ、配置位置及び周速度の条件を一定とした。参考として、加熱ローラ31の数は3つに設定された。各加熱ローラ31の直径は300mmに設定された。各加熱ローラ31の配置は、上述した配置(
図2参照)と同様である。各加熱ローラ31の周速度は、いずれも4690m/minに設定された。また、保温箱13の(ミストを含む気体を排出するための)排出口は塞がれているものとした。但し、これらの条件は、あくまで解析の便宜のために定められたものであり、保温箱13の保温効果及び各加熱ローラ31の保温効果がこれらの条件に大きく影響されるものではないことに留意されたい。
【0104】
図5に示すように、実施例1~7及び比較例1~3における流体解析の条件振りの項目は、循環部50の有無、後述する距離Dの大きさ及び戻り流路49の有無である。まず、本願発明者は、保温箱13の内部の構造に関する条件振りを行った。より詳細には、実施例1~6において、上記断面における随伴流回収面52と外周面33aとの最短距離(
図3(b)に示す距離D)を互いに異ならせた。距離Dの定義は、上記断面において、随伴流回収面52上の任意の点と外周面33aの任意の点との距離のうち最小の距離である。より具体的な例として、
図3(b)に示すにように、外周面33aの任意の接線のうち随伴流回収面52に平行な仮想接線VL5と、随伴流回収面52との最短距離が距離Dである。距離Dの条件振りに際し、本願発明者は、解析の便宜上、上記断面における案内部46aの三角形の角度を一定に維持しつつ三辺の長さを変更した。実施例1~6、比較例1及び2において、紡糸延伸装置3とのさらなる違いは無いものとする。
【0105】
各実施例における距離Dの具体的な値を述べる。より具体的には、実施例1において、距離Dは44mmである。実施例2において、距離Dは11mmである。実施例3において、距離Dは16.5mmである。実施例4において、距離Dは19mmである。実施例5において、距離Dは22mmである。実施例6において、距離Dは88mmである。つまり、距離Dが11mm以上88mm以下の実施例において解析結果を得た。
【0106】
また、本願発明者は、実施例1~6と比較するための比較例1、2として、以下の条件での解析を行った。本願発明者は、比較例1として、第2加熱ローラ33の近傍において循環部50が設けられていない条件で解析を行った。より具体的には、比較例1は、
図8(a)に示すように、随伴流回収面52から外周面33aに向かって延びる遮断部材53が設けられている条件である。この場合、ローラ随伴流は第2加熱ローラ33の周りをあまり循環できない。比較例1の解析条件は、循環部50が設けられていないことを除いて、実施例1と同じ解析条件である(
図5参照)。また、本願発明者は、比較例2として、距離Dがゼロである条件で解析を行った。より具体的には、比較例2は、
図8(b)に示すように、案内部46aの代わりに案内部46a1が設けられた条件である。案内部46a1は、距離Dが実質的にゼロである随伴流回収面52aを有する。この場合、ローラ随伴流は第2加熱ローラ33の周りをほとんど循環できない。つまり、比較例2において、循環部50は形式的には「有」である(
図5においては括弧書きされている)が、実質的には循環部50は形成されていない。
【0107】
また、本願発明者は、保温箱13内に戻り流路49が設けられていなくても良いかどうかどうか確認するための解析を行った。すなわち、保温箱13内に戻り流路49が設けられているか否かにかかわらず、循環部50が設けられていることにより、循環部50が設けられていない構成と比べて改善が見られるかどうか解析した。本願発明者は、戻り流路49が設けられていない構成(より具体的には、入口49aが塞がれている構成)として、以下の実施例7及び比較例3について解析を行った。実施例7の解析条件は、戻り流路49が設けられていないことを除いて、実施例1と同じ解析条件である(
図5及び
図7参照)。比較例3の解析条件は、戻り流路49が設けられていないことを除いて、比較例1と同じ解析条件である(
図5及び
図7参照)。
【0108】
本願発明者は、保温箱13内での流体(空気)の流量のシミュレーション結果(
図4参照)を評価の対象とした。
図4には、代表として、実施例1のシミュレーション結果が示されている。シミュレーション結果の図において、色が黒いほど空気の流速が遅く(すなわち、空気の流量が少なく)、色が白いほど空気の流速が速い(すなわち、空気の流量が多い)。本願発明者は、シミュレーション結果において保温箱13内の渦の発生状況を確認し、各条件において気流が乱れるか否か判断した。気流の乱れは、糸切れの原因となりうるためである。本願発明者は、気流の乱れに関する評価を、「無し」「やや有」「有」の三段階に分けた(
図5及び
図6参照)。気流の乱れが「無し」又は「やや有」の場合、本願発明者は、後述する保温効果をさらに考慮に入れて、最終的な判定を行った。一方、本願発明者は、気流の乱れが「有」の場合、保温効果の大小によらず、判定を「NG」とした。
【0109】
本願発明者は、保温箱13の保温効果の指標として、保温箱13内の三箇所における空気の流速(以下、単に流速)のシミュレーション値を取得した(
図5~
図7参照)。三箇所とは、入口13aの近傍、出口13bの近傍及び上述した第2の点P2(
図3(b)参照)の近傍である。流速の単位はm/sである。入口13aの近傍における流速の符号がマイナスであることは、冷たい気体が入口13aを通って保温箱13内に流入していることを意味する。出口13bの近傍における流速の符号がプラスであることは、温かい気体が出口13bを通って保温箱13から流出していることを意味する。入口13aの近傍における流速がゼロに近いほど、入口13aからの冷たい気体の流入量(流量)が少ない。出口13bの近傍における流速がゼロに近いほど、出口13bからの温かい気体の流出量(流量)が少ない。第2の点P2の近傍における流速が大きいほど、循環部50によって循環している気体の流量が多い。
【0110】
本願発明者は、上記三箇所の各々における流速の評価基準を以下のとおり設定した。入口13aの近傍における流速が-0.50m/s以上であるときに、当該流速が良好である(流量が少ない)ものとした。出口13bの近傍における流速が0.50m/s以下であるときに、当該流速が良好である(流量が少ない)ものとした。第2の点P2の近傍における流速が2.00m/s以上であるときに、当該流速が良好である(流量が多い)ものとした。これらの流速が良好であることは、保温箱13内における保温効果が高いことを意味する。全ての箇所で流速が良好であり、且つ気流の乱れが「無し」又は「やや有」の場合に、判定を少なくとも「OK」とした。また、本願発明者は、入口13aの近傍における流速が-0.35m/s以上、出口13bの近傍における流速が0.35m/s以下、第2の点P2の近傍における流速が2.50m/s以上であり、且つ気流の乱れが「無し」の場合、判定を「VG(とても良い)」とした。「VG」は、「OK」よりも良い結果を示す判定である。
【0111】
解析結果及び評価結果について説明する。
図5及び
図6に示すように、例えば実施例1において、入口13aの近傍における流速が-0.35m/s以上、出口13bの近傍における流速が0.35m/s以下、第2の点P2の近傍における流速が2.50m/s以上となった。また、気流の乱れは「無し」となった。本願発明者は、実施例1における判定を「VG」とした。同様に、本願発明者は、実施例2、3、4及び6における判定を「OK」とし、実施例5における判定を「VG」とした。以上より、循環部50が設けられ且つ戻り流路49が設けられた実施例1~6においては、いずれも判定が「OK」又は「VG」となった。
【0112】
また、保温箱13に循環部50が設けられ且つ戻り流路49が設けられていない実施例7においては以下の解析結果が得られた。すなわち、実施例7において、入口13aの近傍における流速が-0.50m/s、出口13bの近傍における流速が-0.49m/s、第2の点P2の近傍における流速が4.50m/sとなった。また、気流の乱れは「無し」となった。本願発明者は、実施例7における判定を「OK」とした。
【0113】
一方、比較例1(
図5参照)において、第2の点P2の近傍における流速が2.00m/s未満となった。また、気流の乱れが「有」だった。本願発明者は、比較例1における判定を「NG」とした。比較例2(
図5参照)において、第2の点P2の近傍における流速が算出されなかった。また、気流の乱れが「有」だった。本願発明者は、比較例2における判定を「NG」とした。また、比較例3においては、入口13aの近傍における流速が-0.70m/s、出口13bの近傍における流速が0.72m/sとなった。また、第2の点P2の近傍における流速が算出されなかった。また、気流の乱れが「有」だった。本願発明者は、比較例3における判定を「NG」とした。
【0114】
以上の結果より、保温箱13に循環部50及び戻り流路49の両方が設けられていることにより、糸揺れを抑制しつつ非常に良好な流速(流量)が得られることが分かった。また、保温箱13に戻り流路49が設けられていない場合でも、循環部50が設けられていることにより、糸揺れを抑制しつつ良好な流速(流量)が得られることが分かった。
【0115】
次に、ヒータの消費電力の評価内容及びその結果について説明する。本願発明者は、実施例1に相当する装置及び比較例1に相当する装置をそれぞれ作成し、各装置において解析条件と同様に複数のローラを動作させた上で、3つの加熱ローラのヒータの消費電力を実測及び合算した。各加熱ローラの表面温度は170℃に設定された。実施例1において、合算された消費電力の値は1.4kWとなった。比較例1において、合算された消費電力は2.1kWとなった。したがって、少なくとも実施例1において、比較例1と比べて消費電力が低減されたことが分かった。ここで、上述したように、比較例1の条件は、循環部50が設けられていないことを除いて、実施例1と同じ条件である。したがって、他の実施例においても、循環部50が設けられていることにより消費電力が低減されると類推される。
【0116】
以上のように、本実施形態では、3つの加熱ローラ31が設けられているので、糸揺れが生じる懸念が大きいネルソンローラを用いなくても、糸Yを十分に加熱できる。したがって、ネルソンローラが設けられた構成と比べて糸揺れを抑制できる。さらに、本実施形態では、ローラ随伴流を循環部50によって第2加熱ローラ33の周りで循環させることにより、第2加熱ローラ33によって熱せられた気体が糸Yの出口13bを通って保温箱13から逃げてしまうことを抑制できる。これにより、保温箱13内の保温効果を向上できる。また、ローラ随伴流を循環部50によって循環させることにより、ローラ随伴流を形成する空気を第2加熱ローラ33によって加熱し続けることができる。これにより、第2加熱ローラ33の近傍における保温効果を向上でき、結果として第2加熱ローラ33そのものの保温効果を向上できる。したがって、紡糸延伸装置3において、糸揺れを抑制しつつ消費電力の増大を抑制できる。
【0117】
また、3つの加熱ローラ31間で、糸送り速度を互いに異ならせても良い。これによって、糸Yに付与される張力を意図的に増大させ、又は糸Yを意図的に弛緩させることができる。このようにして、糸品質をコントロールできる。
【0118】
また、第2加熱ローラ33の周りを循環するローラ随伴流によって、安定した層流を形成できる。このため、循環する気体の流量が多くても、糸揺れを抑制できる。
【0119】
また、随伴流回収面52によって、ローラ随伴流が遠心力によって外周面33aの径方向における外側へ逃げてしまうことを抑制できる。したがって、簡易的な構成で、ローラ随伴流を効果的に循環させることができる。
【0120】
また、第1の点P1が接触終了点PEに近い位置に配置されている。これにより、接触終了点PEの近傍を流れる随伴流を随伴流回収面52によって取り込みやすい(回収しやすい)。したがって、ローラ随伴流を効果的に循環させることができる。
【0121】
また、第1仮想線分VL1と第2仮想線分VL2とのなす角θ1が鋭角である。これにより、第1の点P1の近傍を流れるローラ随伴流を、随伴流回収面52によって周方向に受け流しつつ径方向における内側へ案内できる。したがって、ローラ随伴流を随伴流回収面52に沿ってスムーズに流れさせることができる。
【0122】
また、随伴流回収面52は、第1の点P1と第2の点P2とを結ぶ線分L1を形成している。したがって、随伴流回収面52に沿ってローラ随伴流をスムーズに流れさせることができる。また、随伴流回収面52が湾曲又は屈曲している場合と比べて、簡単な加工によって随伴流回収面52を形成できる。
【0123】
また、循環部50が随伴流規制面51を有する。これによって、ローラ随伴流が遠心力によって外周面33aの径方向における外側へ逃げてしまうことをさらに抑制できる。
【0124】
また、仮想半直線VHLが、随伴流規制面51と交わる。これにより、随伴流回収面52に沿って案内されたローラ随伴流を随伴流規制面51に向けて供給できる。これにより、ローラ随伴流をより効果的に循環させることができる。
【0125】
また、第3仮想線分VL3と第4仮想線分VL4とのなす角θ2が鈍角である。これにより、随伴流回収面52に沿って案内されたローラ随伴流が糸Yの進行方向に逆らうように流れることを防止できる。したがって、糸揺れを抑制できる。
【0126】
また、外周面33aと随伴流回収面52との最短距離(距離D)は、11mm以上88mm以下であると好ましい。これにより、多くのローラ随伴流を循環させることができる。
【0127】
また、糸走行方向における最も上流側の加熱ローラ31(すなわち、第1加熱ローラ32)は、保温箱13に形成された入口13aから流入する冷気によって冷やされてしまいやすい。この点、保温箱13は戻り流路49を有していると好ましい。これにより、戻り流路49を介して、第3加熱ローラ34の近傍の高温の気体を第1加熱ローラ32の近傍に供給できる。これにより、第1加熱ローラ32の保温効果を効果的に向上できる。但し、保温箱13に戻り流路49が設けられていなくても、循環部50が設けられていることにより、糸揺れを抑制しつつ消費電力の増大を抑制できる。
【0128】
また、第2加熱ローラ33の周りに循環部50が設けられている。糸Yが入口13aを通って保温箱13内に進入する際、糸随伴流も保温箱13内に流入する。3つの加熱ローラ31のうち糸走行方向における最も上流側の第1加熱ローラ32は、保温箱13の外側から流入するこのような冷気によって冷やされてしまいやすい。第2加熱ローラ33は、第1加熱ローラ32に比較的近いので、第2加熱ローラ33の保温効果を向上させることにより、第2加熱ローラ33から発せられる熱を第1加熱ローラ32側に伝えることができる。これにより、第1加熱ローラ32の保温効果も向上させることができる。
【0129】
また、遮断部材48によって、糸随伴流が出口13bを通って保温箱13から流出することを抑制できる。したがって、保温箱13内の保温効果を向上させることができる。
【0130】
また、糸走行方向において第1加熱ローラ32よりも上流側で糸Yが延伸される。糸Yが延伸される領域よりも糸走行方向における下流側に3つ以上の加熱ローラ31が設けられているので、糸Yをしっかり把持できる。このため、延伸されている糸Yに加わる張力によって加熱ローラ31上の糸Yがスリップすることを抑制できる。これにより、糸揺れをさらに抑制できる。
【0131】
また、保温箱13によって第3非加熱ローラ24と第1加熱ローラ32との間で熱の移動を抑制できる。したがって、第3非加熱ローラ24と第1加熱ローラ32との間で加熱温度が大きく異なっている場合でも、温度差による影響を抑制できる。
【0132】
また、非加熱ローラ21は温められる必要がないため、保温箱13内に収容される必要が生じない。したがって、例えば非加熱ローラ21の代わりに加熱ローラ31と設定温度が異なる加熱ローラ(不図示)が保温箱13内に収容されうる構成と比べて、保温箱13内を自由に設計できる。
【0133】
また、3つ以上の熱固定ローラ(加熱ローラ31)が設けられている。したがって、糸揺れが生じる懸念が大きいネルソンローラを用いなくても、糸Yを十分に熱固定できる。
【0134】
また、本実施形態の構成は、ナイロン製の糸Yを延伸する上で特に有効である。
【0135】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0136】
(1)前記実施形態において、第2加熱ローラ33に対応して循環部50が設けられているものとした。さらに、第3加熱ローラ34に対応して、随伴流回収面45b(
図9参照。本発明の最下流随伴流回収面)が設けられていても良い。随伴流回収面45bは、例えば前後方向(第3加熱ローラ34の軸方向)から見たときに、第3加熱ローラ34の中心よりも出口13bの近くに配置されている。随伴流回収面45bは、第3加熱ローラ34の外周面34aのうち、糸Yが巻き掛けられていない部分(最下流非接触面34c)と対向するように配置されている。また、随伴流回収面45bは、外周面34aのうち糸Yが巻き掛けられている部分(最下流接触面34b)よりも糸走行方向における上流側の糸道と、最下流接触面34bよりも糸走行方向における下流側の糸道との間に挟まれるように配置されている。この変形例を「変形例1」(
図11参照)とする。変形例1において、上述した距離Dは、実施例1と同じく44mmである。変形例1において、保温箱13に戻り流路49が設けられている。変形例1において、
図11に示す解析結果のテーブルに記載された「その他」の欄には、随伴流回収面45bの設置を示す条件として「条件A」が記載されている。変形例1において、入口13aの近傍における気体の流速は-0.23m/s、出口13bの近傍における気体の流速は0.21m/sと、非常に良い解析結果が得られた。本願発明者は、変形例1における判定を「VG」とした。このように、第3加熱ローラ34のローラ随伴流の一部を随伴流回収面45bによって糸走行方向における上流側へ戻すことができる。これにより、ローラ随伴流が出口13bを通って保温箱
13から流出することを抑制できる。
【0137】
また、保温箱13に戻り流路49が設けられていないことを除いて変形例1と同じ構成を有する変形例を、「変形例2」とする。変形例2において、入口13aの近傍における気体の流速は-0.49m/s、出口13bの近傍における気体の流速は0.48m/sと、良好な解析結果が得られた。本願発明者は、変形例2における判定を「OK」とした。
【0138】
(2)前記までの実施形態において、第2加熱ローラ33に対応して循環部50が設けられているものとした。これに加えて、第1加熱ローラ32に対応して循環部が設けられていても良い。この場合、第2加熱ローラ33に加えて、第1加熱ローラ32も本発明の所定上流加熱ローラに相当する。より具体的には、
図10に示すように、内壁面41cと、整流部材43の第1加熱ローラ32側の壁面43aとが、本発明の随伴流規制面に含まれる。整流部材44の代わりに設けられた整流部材44Mの左端部において、遮断部44aの代わりに、第1加熱ローラ32の外周面32aに沿うように湾曲した随伴流回収面44Maが形成されている。また、この変形例において、入口13aの近傍には、例えば空気が保温箱13内を逆流して入口13aから流出することを防ぐための逆流防止壁54が設けられていても良い。逆流防止壁54において、随伴流回収面44Maと同様の機能を有する随伴流回収面54aが設けられていても良い。また、上述した遮断部材47(
図2参照)は設けられていない。この変形例を「変形例3」(
図11参照)とする。変形例3において、距離Dは、実施例1と同じく44mmである。変形例3において、保温箱13に戻り流路49が設けられている。変形例3において、
図11に示す解析結果のテーブルに記載された「その他」の欄には、第1加熱ローラ32に対応した循環部の設置を示す条件として「条件B」が記載されている。変形例3において、入口13aの近傍における気体の流速は-0.28m/s、出口13bの近傍における気体の流速は0.28m/sと、非常に良い解析結果が得られた。本願発明者は、変形例3における判定を「VG」とした。この変形例では、最も上流側の第1加熱ローラ32の保温効果を向上させることができる。したがって、消費電力を効果的に低減できる。なお、変形例1及び2の解析結果より、保温箱13に戻り流路49が設けられていない構成においても、良好な解析結果が得られると類推できる。
【0139】
この変形例では、第2加熱ローラ33に対応する循環部50が設けられていなくても良い。すなわち、例えば、第1加熱ローラ32に対応する循環部のみが設けられていても良い。
【0140】
或いは、保温箱13は、上述した条件A及び条件Bの両方が満たされるように構成されていても良い。この場合も、第2加熱ローラ33に対応する循環部50は設けられていなくても良い。
【0141】
(3)前記までの実施形態において、随伴流回収面52は、第1の点P1と第2の点P2とを結ぶ線分L1を形成しているものとした。しかしながら、これには限られない。例えば
図12(a)、
図12(b)に示すように、循環部50の代わりに設けられた循環部50Cにおいて、随伴流回収面52の代わりに随伴流回収面52Cが設けられていても良い。随伴流回収面52Cは、案内部46aの代わりに設けられた案内部46Cに形成されていても良い。随伴流回収面52Cは、上述した線分L1よりも径方向における外側へ膨らむように湾曲していても良い。或いは、随伴流回収面52Cの代わりに、線分L1よりも径方向における外側へ膨らむように屈曲した屈曲面(不図示)が設けられていても良い。この場合、前後方向に直交する断面において、屈曲面の屈曲角は鈍角であると好ましい。
【0142】
(4)前記までの実施形態において、紡糸延伸装置3は、非加熱ローラ群11を有するものとした。しかしながら、これには限られない。非加熱ローラ群11の代わりに、或いは非加熱ローラ群11に加えて、加熱ローラ31よりも設定温度が低い加熱ローラ(不図示。本発明の外側ローラ)が設けられていても良い。このような加熱ローラと第1加熱ローラ32との間で糸Yが延伸されても良い。或いは、第1加熱ローラ32の糸走行方向における上流側にローラが設けられていなくても良い。
【0143】
(5)前記までの実施形態において、上記断面において、外周面33aと随伴流回収面52との最短距離(距離D)は、11mm以上88mm以下であるものとした。しかしながら、これには限られない。すなわち、本発明の所定上流加熱ローラにおいて距離Dが11mmより小さく又は88mmより大きい構成においても、所定上流加熱ローラの周りでローラ随伴流が循環させられれば良い。
【0144】
(6)前記までの実施形態において、第1の点P1は、上記断面において、対称軸VLsと仮想下流直線VLdとの間に挟まれるように配置されているものとした。しかしながら、これには限られない。第1の点P1は、対称軸VLsと仮想下流直線VLdとの間に挟まれるように配置されていなくても良い。
【0145】
(7)前記までの実施形態において、上記断面において、角θ1が鋭角であるものとした。しかしながら、これには限られない。角θ1は鈍角であっても良い。また、上記断面において、角θ2が鈍角であるものとした。しかしながら、これには限られない。角θ2は鋭角であっても良い。
【0146】
(8)前記までの実施形態において、上記断面において、仮想半直線VHLが随伴流規制面51と交わるものとした。しかしながら、これには限られない。仮想半直線VHLは随伴流規制面51と交わらなくても良い。
【0147】
(9)前記までの実施形態において、循環部50が随伴流規制面51と随伴流回収面52とを有するものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、循環部50の一部は、背面壁42又は前面扉(不図示)に形成されていても良い。すなわち、背面壁42の一部が後側へ突出し、又は前面壁の一部が前側へ突出していることにより、ローラ随伴流が上流加熱ローラの周りで循環できるような空気の経路が形成されていても良い。
【0148】
(10)前記までの実施形態において、循環部50が層流を発生させるものとした。しかしながら、これには限られない。循環部50によって必ずしも層流が生成されなくても良い。
【0149】
(11)前記までの実施形態において、加熱ローラ群12に3つの加熱ローラ31が含まれるものとした。しかしながら、加熱ローラ31の数はこれに限られない。
図13(a)、
図13(b)を参照して具体例を説明する。紡糸延伸装置3A(
図13(a)参照)は、3つの加熱ローラ31の代わりに、例えば4つの加熱ローラ61を有していても良い。すなわち、紡糸延伸装置(符号省略)は、3つ以上の加熱ローラ(符号省略)を備えていても良い。紡糸延伸装置3Aは、保温箱13の代わりに横長の保温箱70を有していても良い。保温箱70は、糸Yの入口70a及び出口70bを有している。保温箱70の中に、4つの加熱ローラ61として、糸走行方向における上流側から順に第1加熱ローラ62、第2加熱ローラ63、第3加熱ローラ64及び第4加熱ローラ65が収容されていても良い。第1加熱ローラ62は、本発明の最上流加熱ローラ及び上流加熱ローラに相当する。第2加熱ローラ63及び第3加熱ローラ64の各々は、本発明の上流加熱ローラ、所定上流加熱ローラ及び中間加熱ローラに相当する。第4加熱ローラ65は、本発明の最下流加熱ローラに相当する。すなわち、中間加熱ローラの数は、1つに限られず、2つでも良い(あるいは、2つよりも多くても良い)。第1加熱ローラ62、第2加熱ローラ63、第3加熱ローラ64及び第4加熱ローラ65は、例えば左右方向に並べられ、ジグザグ状に配置されていても良い。第1加熱ローラ62に対応して、随伴流規制面71aが設けられていても良い。第2加熱ローラ63に対応して、循環部72が設けられていても良い。循環部72は、随伴流規制面72aと随伴流回収面72bとを有していても良い。第3加熱ローラ
64に対応して、循環部73が設けられていても良い。循環部73は、随伴流規制面73aと随伴流回収面73bとを有していても良い。つまり、中間ローラの全てに対応して循環部が設けられていても良い。これにより、保温箱70内の保温効果を効果的に向上できる。第4加熱ローラ
65に対応して、随伴流規制面74aが設けられていても良い。或いは、紡糸延伸装置3B(
図13(b)参照)は、保温箱70の代わりに縦長の保温箱80を有していても良い。保温箱80の中において、第1加熱ローラ62、第2加熱ローラ63、第3加熱ローラ64及び第4加熱ローラ65は、例えば上下方向に並べられ、ジグザグ状に配置されていても良い。つまり、加熱ローラ61の配置はどのようなものでも良い。また、加熱ローラ61の数はもっと多くても良い。5つ以上の加熱ローラ61が設けられていても良い(図示省略)。
【0150】
(12)本発明は、熱固定ローラ以外の加熱ローラ(不図示)に適用されても良い。
【0151】
(13)前記までの実施形態において、糸Yは、ナイロンからなるものとした。しかしながら、これには限られない。紡糸延伸装置3は、ナイロンからなる糸Yの他にも延伸可能な糸(不図示)を延伸しても良い。
【符号の説明】
【0152】
3 紡糸延伸装置
13 保温箱
13b 出口
24 第3非加熱ローラ(外側ローラ)
31 加熱ローラ
32 第1加熱ローラ(最上流加熱ローラ、上流加熱ローラ、所定上流加熱ローラ)
33 第2加熱ローラ(上流加熱ローラ、所定上流加熱ローラ、所定加熱ローラ、中間加熱ローラ)
33a 外周面
33b 接触面
33c 非接触面
34 第3加熱ローラ(下流加熱ローラ、最下流加熱ローラ)
34a 外周面
34b 最下流接触面
34c 最下流非接触面
41c 内壁面(随伴流規制面)
43a 壁面(随伴流規制面)
46 整流部材(仕切部)
48 遮断部材(遮断部)
49 戻り流路
50 循環部(所定循環部)
51 随伴流規制面
52 随伴流回収面
61 加熱ローラ
62 第1加熱ローラ(最上流加熱ローラ、上流加熱ローラ)
63 第2加熱ローラ(上流加熱ローラ、所定上流加熱ローラ、中間加熱ローラ)
64 第3加熱ローラ(上流加熱ローラ、所定上流加熱ローラ、中間加熱ローラ)
65 第4加熱ローラ(最下流加熱ローラ)
70 保温箱
70b 出口
72 循環部
72a 随伴流規制面
72b 随伴流回収面
73 循環部
73a 随伴流規制面
73b 随伴流回収面
L1 線分
P1 第1の点
P2 第2の点
P3 第3の点
VHL 仮想半直線
VL1 第1仮想線分
VL2 第2仮想線分
VL3 第3仮想線分
VL4 第4仮想線分
VLd 仮想下流直線
VLs 対称軸
VLu 仮想上流直線
Y 糸
θ1 角
θ2 角