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特開2024-86236ヘモグロビンA1c値の推定方法、情報処理装置、推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086236
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】ヘモグロビンA1c値の推定方法、情報処理装置、推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20240620BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20240620BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
G01N30/88 Q
G01N30/86 J
G01N30/02 Z
G01N30/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201260
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 一輝
(57)【要約】
【課題】変異Hbを有する血液検体であっても、血糖値の指標であるHbA1c値を推定することである。
【解決手段】ヘモグロビンAと変異ヘモグロビンとを有する血液検体のクロマトグラムから、ヘモグロビンAに関するピークのピーク値の全合計値に対するヘモグロビンA1cを含むヘモグロビンA1cピークのピーク値の割合に基づく値であるヘモグロビンA1c値と、変異ヘモグロビンを含むピークのピーク値と変異ヘモグロビンが糖化した糖化変異ヘモグロビンを含む糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の合計値に対する糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の割合に基づく値である糖化変異ヘモグロビン値との相関関係を予め取得し、測定対象である血液検体のクロマトグラムから、糖化変異ヘモグロビン値を導出し、導出した糖化変異ヘモグロビン値と相関関係に基づいてヘモグロビンA1c値を推定する、ヘモグロビンA1c値の推定方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被験者から夫々採取したヘモグロビンAと変異ヘモグロビンとを有する血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンAに関するピークのピーク値の全合計値に対するヘモグロビンA1cを含むヘモグロビンA1cピークのピーク値の割合に基づく値であるヘモグロビンA1c値と、変異ヘモグロビンを含むピークのピーク値と前記変異ヘモグロビンが糖化した糖化変異ヘモグロビンを含む糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の合計値に対する前記糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の割合に基づく値である糖化変異ヘモグロビン値との相関関係を予め取得し、
変異ヘモグロビンを有する被験者から採取した測定対象である血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、糖化変異ヘモグロビン値を導出し、
導出した前記糖化変異ヘモグロビン値と前記相関関係に基づいてヘモグロビンA1c値を推定する、
ヘモグロビンA1c値の推定方法。
【請求項2】
前記変異ヘモグロビンは、ヘモグロビンCである、
請求項1に記載のヘモグロビンA1c値の推定方法。
【請求項3】
糖化ヘモグロビンC値は、前記クロマトグラムのヘモグロビンA0を含むピークとヘモグロビンCを含むヘモグロビンCピークの間に表れるピークXのピーク値と前記ヘモグロビンCピークのピーク値の合計値に対する前記ピークXのピーク値の割合に基づく値を求めて前記糖化変異ヘモグロビンC値とする、
請求項2に記載のヘモグロビンA1c値の推定方法。
【請求項4】
前記液体クロマトグラフィーは陽イオン交換クロマトグラフィーである、
請求項3に記載のヘモグロビンA1c値の推定方法。
【請求項5】
複数の被験者から夫々採取したヘモグロビンAと変異ヘモグロビンとを有する血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンAに関するピークのピーク値の全合計値に対するヘモグロビンA1cを含むヘモグロビンA1cピークのピーク値の割合に基づく値であるヘモグロビンA1c値と、変異ヘモグロビンを含むピークのピーク値と前記変異ヘモグロビンが糖化した糖化変異ヘモグロビンを含む糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の合計値に対する前記糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の割合に基づく値である糖化変異ヘモグロビン値との相関関係を記憶した記憶部と、
変異ヘモグロビンを有する被験者から採取した測定対象である血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから得た糖化変異ヘモグロビン値を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記糖化変異ヘモグロビン値と前記記憶部が記憶した前記相関関係に基づいてヘモグロビンA1c値の推定値を算出する算出部と、
前記推定値を出力する出力部と、
を備える情報処理装置。
【請求項6】
複数の被験者から夫々採取したヘモグロビンAと変異ヘモグロビンとを有する血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンAに関するピークのピーク値の全合計値に対するヘモグロビンA1cを含むヘモグロビンA1cピークのピーク値の割合に基づく値であるヘモグロビンA1c値と、変異ヘモグロビンを含むピークのピーク値と前記変異ヘモグロビンが糖化した糖化変異ヘモグロビンを含む糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の合計値に対する前記糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の割合に基づく値である糖化変異ヘモグロビン値との相関関係を記憶したコンピュータに、
変異ヘモグロビンを有する被験者から採取した測定対象である血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから得た糖化変異ヘモグロビン値を取得させ、
取得した前記糖化変異ヘモグロビン値と記憶した前記相関関係に基づいてヘモグロビンA1c値の推定値を算出させ、
前記推定値を出力させる処理を実行させる推定プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘモグロビンA1c値の推定方法、情報処理装置、及び推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、異常ヘモグロビンEに由来するピークが同定された場合に、そのピークの面積を計算し、その計算結果を用いて安定型ヘモグロビンA1cのピーク面積又は全ヘモグロビンのピーク面積を補正して安定型ヘモグロビンA1cの割合(%)を測定することが記載されている。
【特許文献1】特開2012-215470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
変異ヘモグロビン(以下「変異Hb」)を有する血液検体では、血糖値の指標といえる安定型ヘモグロビンA1c値(以下「HbA1c値」)を測定することが困難である。例えば、変異Hbを有する血液検体では糖化された糖化変異Hbが測定されることがあり、アフィニティ法、免疫法、又は酵素法では、HbA1cと同時に糖化変異Hbも測定される。
【0004】
具体的には、変異Hbヘテロ接合体の血液検体では、HbA1cと糖化変異Hbの合算値が測定されてしまう。また、変異Hbホモ接合体の血液検体では、糖化変異Hbの割合が測定されてしまう。しかし、測定された糖化変異Hbの値とHbA1cの値とは必ずしも一致しているとはいえず、変異Hbを有する血液検体を用いて測定された値は、血糖値の指標とはいいきれない。
【0005】
本開示の課題は、変異Hbを有する血液検体であっても、血糖値の指標であるHbA1c値を推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様のヘモグロビンA1c値の推定方法は、複数の被験者から夫々採取したヘモグロビンAと変異ヘモグロビンとを有する血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンAに関するピークのピーク値の全合計値に対するヘモグロビンA1cを含むヘモグロビンA1cピークのピーク値の割合に基づく値であるヘモグロビンA1c値と、変異ヘモグロビンを含むピークのピーク値と前記変異ヘモグロビンが糖化した糖化変異ヘモグロビンを含む糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の合計値に対する前記糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の割合に基づく値である糖化変異ヘモグロビン値との相関関係を予め取得し、変異ヘモグロビンを有する被験者から採取した測定対象である血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、糖化変異ヘモグロビン値を導出し、導出した前記糖化変異ヘモグロビン値と前記相関関係に基づいてヘモグロビンA1c値を推定する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、変異Hbを有する血液検体であっても、血糖値の指標であるHbA1c値を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるヘモグロビンのクロマトグラムの一例を示した図面である。
図1B】血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるヘモグロビンのクロマトグラムの一例を示した図面である。
図1C】血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるヘモグロビンのクロマトグラムの一例を示した図面である。
図2】液体クロマトグラフィーを用いて血液検体の分析するときに用いる溶離液の成分を表で示した図面である。
図3】液体クロマトグラフィーのクロマトグラムから導出された糖化HbC値及びHbA1c値を表で示した図面である。
図4】血液検体の糖化HbC値とHbA1c値とから得た相関をグラフで示した図面である。
図5】液体クロマトグラフィーのクロマトグラムから導出された糖化HbC値と、相関式から導出されたHbA1c値と、既知のHbA1c値とを表で示した図面である。
図6】相関式から導出されたHbA1c値と、既知のHbA1c値とから得た相関をグラフで示した図面である。
図7】情報処理装置のハードウェア構成を示したブロック図である。
図8】情報処理装置の機能構成を示したブロック図である。
図9】情報処理装置による制御フローを示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示のヘモグロビンA1c値の推定方法、情報処理装置、及推定プログラムの実施形態を、図1図9を用いて説明する。各図において共通する符号は、特段の説明がなくとも同一の部分を指し示す。なお、本開示に記載する「ピーク値」とは、クロマトグラムで認められる各ピークの高さ又は面積であり、相対値を用いることができ、絶対値を用いることもできる。この相対値は、クロマトグラムの面積の全体に対する比率であってもよいし、クロマトグラムに占めるヘモグロビンに関するピーク面積の全体に対する比率であってもよいし、あるいは、特定のピーク(たとえば、HbA0ピーク)の面積に対する比率であってもよい。
【0010】
先ず、複数の被験者から夫々採取したヘモグロビンAとヘモグロビンC(以下「HbC」と記載する)とを有する血液検体を液体クロマトグラフィーに供する。これにより、図1A図1Cに示されるようなヘモグロビンのクロマトグラムが得られる。HbCは、変異ヘモグロビンの一例である。なお、各図に示されたクロマトグラムの縦軸は、ヘモグロビンの濃度を検出する光学検出器から検出された吸光度であり、横軸は、測定開始時点からの経過時間である。
【0011】
各図のクロマトグラムでは、以下のピークが、カラムからの溶出速度の速いヘモグロビン順に認められる。具体的には、ヘモグロビンA1a及びヘモグロビンA1bを含むピーク12(12a、12b、12cはピーク高さに当たる)、不安定型ヘモグロビンA1cを含むピーク14(14a、14b、14cはピーク高さに当たる)、安定型ヘモグロビンA1cを含むピーク16(16a、16b、16cはピーク高さに当たる)、ヘモグロビンA0を含むピーク18(18a、18b、18cはピーク高さに当たる)、後述するピーク20(20a、20b、20cはピーク高さに当たる)、及びHbCを含むピーク22(22a、22b、22cはピーク高さに当たる)が順に認められる。なお、以下の説明では、ヘモグロビンA1aをHbA1aと記載し、ヘモグロビンA1bをHbA1bと記載し、不安定型ヘモグロビンA1cをL-A1cと記載し、安定型ヘモグロビンA1cをHbA1cと記載し、ヘモグロビンA0をHbA0と記載する。
【0012】
ここで、HbA0のピーク18とHbCのピーク22との間にもピーク20が認められる。このピーク20のピーク値(例えばピーク高さである20a、20b、20c)は、HbA1cのピーク値(例えばピーク高さである16a、16b、16c)の増減に対応して増減している。これにより、ピーク20は、HbCの糖化物を含むピークであると判断することができる。つまり、ピーク20は、糖化HbCを含むピークである。ピーク20は、ピークXの一例である。
【0013】
このように、糖化HbCのピーク値(例えばピーク高さである20a、20b、20c)は、HbA1cのピーク値(例えばピーク高さである16a、16b、16c)と相関する。なお、符号の末尾に付するa、b、cについては、a、b、cを特に区別しない場合は、省略することがある。
【0014】
そうすると、HbC全体のピーク値(HbCを含むピークのピーク値およびHbCが糖化された糖化HbCを含むピークのピーク値の合計ピーク値)に対する糖化HbCを含むピークのピーク値の割合に基づく値(以下「糖化HbC値」と記載する)と、HbA全体のピーク値(HbAを含むピークのピーク値およびHbAが修飾された修飾HbAを含むピークのピーク値の全合計ピーク値)に対するHbA1cを含むピークのピーク値の割合に基づく値(以下「HbA1c値」と記載する)との間に強い相関があると考えられる。
【0015】
糖化HbC値については、例えば、糖化HbCのピーク面積(糖化HbCピーク面積)と、HbCのピーク面積(HbCピーク面積)との和をHbC全体面積とすると、下記式(1)より糖化HbC%として導出される。
糖化HbC%(糖化HbC値)=糖化HbCピーク面積÷HbC全体面積×100・・・・(1)
【0016】
なお、糖化HbCのピーク面積については、各図の範囲R20における面積であり、HbCのピーク面積については、各図の範囲R22における面積である。
【0017】
一方、HbA1c値については、HbA1a及びHbA1bのピーク面積と、L-A1cのピーク面積と、HbA1cのピーク面積と、HbA0のピーク面積との和をHbA全体面積(ヘモグロビンAに関するピークのピーク値の全合計値)とすると、下記式(2)よりHbA1c%として導出される。
HbA1c%(HbA1c値)=HbA1cピーク面積÷HbA全体面積×100・・・・・(2)
【0018】
なお、HbA1a及びHbA1bのピーク面積(HbA1aのピーク面積+HbA1bのピーク面積)については、各図の範囲R12における面積であり、L-A1cのピーク面積については、各図の範囲R14における面積であり、HbA1cのピーク面積については、各図の範囲R16における面積であり、HbA0のピーク面積については、各図の範囲R18における面積である。また、各範囲の境界については、クロマトグラムの曲線を2回微分することで得られる変曲点または各ピーク間で吸光度が極小値を示す点を境界としている。
【0019】
そして、HbA1cのピーク16(16a、16b、16cはピーク高さに当たる)が、糖化HbCのピーク20のピーク値の増減に対応して増減することから、HbA1c値と糖化HbC値とは、比例関係にあると考えられる。そうすると、HbCを有する血液検体について、血糖値の指標であるHbA1c値と、糖化HbC値との間に下記相関式(3)が成り立つと考えられる。
【0020】
HbA1c値=a×糖化HbC値+b ・・・(3)
:傾き(定数)
:切片(定数)
【0021】
このように、HbA1c値と糖化HbC値との相関式(3)を導出することで、血液検体が、HbCヘテロ接合体であっても、HbAを有さないHbCホモ接合体であっても、式(3)に糖化HbC値を代入することで、血糖値の指標といえるHbA1c値が推定される。
【0022】
なお、健常な成人のヘモグロビンには、大多数のHbA並びに僅かなHbF及びHbA2が含まれる。ヘモグロビンは四量体であり、たとえばHbAは二つのα鎖と二つのβ鎖から構成される。このα鎖又はβ鎖の産生を支配する遺伝子配列に何らかの変異が生じると、アミノ酸配列が通常とは異なる鎖が産生されたり、その鎖の産生が抑制されたりした結果、通常とは異なるヘモグロビン種が生じる。一般的に、このようなヘモグロビン種を変異ヘモグロビンと呼ぶ。健常人のヘモグロビンの遺伝子型はHbA/HbAのホモ接合体であるが、変異ヘモグロビン保有者の遺伝子型は、HbA/HbVのヘテロ接合体(HbVは変異ヘモグロビン)、又は、HbV/HbVのホモ接合体(HbV同士が異なる場合は、ヘテロ接合体)である。
【0023】
(実施例)
次に、本開示に係るHbA1c値の推定方法の実施例について、複数の被験者から夫々採取したHbAとHbCとを有する合計20個の血液検体を用いて説明する。
【0024】
(a)液体クロマトグラフィー装置
市販の高速液体クロマトグラフィーの装置に、メタクリル酸エステル共重合体からなる親水性ポリマーを充填した市販の陽イオン交換クロマトカラムを接続した。陽イオン交換クロマトカラムの下流の流路の所定の位置に、流路を流れるヘモグロビンの濃度を検出する光学検出器(具体的には吸光度計)を取り付けた。
【0025】
(b)溶離液
溶離液A、B、Cとして、図2に示す表に記載した組成の水溶液を用いた。なお、溶離液AはpH5.08に調整し、溶離液BはpH8.0に調整し、溶離液CはpH6.82に調整した。これらの溶離液のヘモグロビンの溶出力は、溶離液Aが最も小さく、溶離液Bが最も大きかった。
【0026】
(c)クロマトグラム
上記(a)の液体クロマトグラフィー装置に溶離液Aを流してカラムを平衡化した。その後、希釈した所定量の血液検体をカラムに導入した。次に、溶離液Aを所定時間(例えば、13秒)流して、HbFやHbA1cを溶出した。次に、溶離液Aと溶離液Cを所定割合(例えば、1:9)で混合した液を所定時間(例えば、5秒)流し、次に溶離液Cを所定時間(例えば、17秒)流してHbA0を溶出した。次に、溶離液Bを所定時間(例えば、2秒)流して分析カラムに残ったヘモグロビンを全て溶出した。その後、溶離液Aを所定時間(例えば、5秒)流した。この溶出の間、検出波長420nmで光学検出器より得られた吸光度からクロマトグラムを作成した。これにより、複数の被験者から夫々採取したHbAとHbCとを有する10個の血液検体から合計10個のクロマトグラムを得た。
【0027】
得られたクロマトグラムについては、HbCのピーク22の前に溶出されるピーク20のピーク値については、HbA1cのピーク16のピーク値の増減に対応して増減していた。
【0028】
そして、夫々のクロマトグラムから前述した式(1)を用いて導出された糖化HbC%と、式(2)を用いて導出されたHbA1c%とを図3に示す表に記載する。
【0029】
さらに、図3に示す糖化HbC%とHbA1c%とについて、相関式(3)のaとbとを求めた。この結果、aについては、1.2365となり、bについては、-4.3522となった。つまり、10個の血液検体を用いることで、下記相関式(4)を得た。
【0030】
HbA1c%=1.2365×糖化HbC%-4.3522・・・(4)
【0031】
また、図4に示すグラフには、図3の表に示す糖化HbC%の値とHbA1c%の値とをプロットした点と、相関式(4)を示す回帰直線とが示されている。図4に示すグラフの縦軸は、HbA1c%であり、横軸は、糖化HbC%である。この回帰直線の決定係数(R)は0.9096と、1に近い高い値であることから、糖化HbC%とHbA1c%との間には強い相関関係があることが分かる。
【0032】
(d)検証
次に、相関式(4)について検証する。複数の被験者から夫々採取したHbAとHbCとを有する新たな10個の血液検体を用いて説明する。この新たな10個の血液検体については、前述した相関式(4)を導出するために用いた10個の血液検体とは異なり、かつ、HbA1c値については既知である。
【0033】
この新たな10個の血液検体について、前述した(a)、(b)、(c)と同様の方法によって、糖化HbC%およびHbA1c%(実測値)を導出した。さらに導出された糖化HbC%を相関式(4)に代入してHbA1c%の推定値を導出した。
【0034】
図5に示す表には、クロマトグラムから得た糖化HbC%及びHbA1c%(実測値)と、相関式(4)から得たHbA1c%(推定値)が記載されている。また、図6に示すグラフには、相関式から得たHbA1c%(推定値)とHbA1c%(実測値)との相関を示した回帰直線と、図5の表に示す相関式から得たHbA1c%の推定値とHbA1c%の実測値とをプロットした点とが示されている。図6に示すグラフの縦軸は、HbA1c%(実測値)であり、横軸は、HbA1c%(推定値)である。この回帰直線の決定係数(R)は0.8878と、1に近い高い値であることから、相関式(4)を用いることで、クロマトグラムから導出された糖化HbC%からHbA1c%を推定可能であることが分かる。
【0035】
(情報処理装置100)
次に、前述したHbA1c値の推定方法に用いられるHbA1c値の推定プログラムが実行される情報処理装置100について説明する。
【0036】
-情報処理装置100のハードウェア構成-
情報処理装置100は、図7に示されるように、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、ストレージ104、及び通信インターフェース(I/F)105を有する。そして、各構成は、バス109を介して相互に通信可能に接続されている。
【0037】
CPU101は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU101は、ROM102またはストレージ104からプログラムを読み出し、RAM103を作業領域としてプログラムを実行する。CPU101は、ROM102またはストレージ104に記録されているプログラムにしたがって、各構成の制御および各種の演算処理を行う。
【0038】
ROM102は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM103は、作業領域として一時的にプログラムまたはデータを記憶する。ストレージ104は、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、および各種データを格納する。通信インターフェース105は、情報処理装置100が液体クロマトグラフィー装置等と通信するためのインターフェースであり、たとえば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0039】
そして、HbA1c値の推定ログラムを実行する際に、情報処理装置100は、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。
【0040】
-情報処理装置100の機能構成-
情報処理装置100は、図8に示されるように、記憶部120と、取得部122と、算出部124と、出力部126とを備えている。各機能構成は、CPU101がROM102またはストレージ104に記憶された推定プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0041】
記憶部120は、血糖値の指標であるHbA1c値と、糖化HbC値との間の相関関係である前述した相関式(3)を記憶している。つまり、情報処理装置100の記憶部120は、予め相関式(3)を記憶している。
【0042】
取得部122は、HbCを有する被験者から採取した測定対象である血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから求められた糖化HbC値を取得する。なお、糖化ヘモグロビンC値は、HbCを有する被験者から採取した測定対象である血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムのヘモグロビンA0を含むピークとヘモグロビンCを含むヘモグロビンCピークの間に表れるピークXのピーク値とヘモグロビンCピークのピーク値の合計値に対するピークXのピーク値の割合に基づく値を糖化ヘモグロビンC値として取得してもよい。
【0043】
算出部124は、取得部122が取得した糖化HbC値を、記憶部120が記憶した相関式(3)に代入し、HbA1c値の推定値を算出する。
【0044】
出力部126は、算出部124が算出したHbA1c値の推定値を図示せぬディスプレイに出力する。
【0045】
-情報処理装置100の作用-
次に、情報処理装置100の作用について、図9に示すフロー図を用いて説明する。
【0046】
情報処理装置100の記憶部120に予め相関式(3)が記憶部120に記憶している情報処理装置100に対して、図9に示すステップS100では、取得部122が、HbCを有する被験者から採取した測定対象である血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから求められた糖化HbC値を取得する。
【0047】
さらに、ステップS200では、算出部124が、取得部122が取得した糖化HbC値を、記憶部120が記憶した相関式(3)に代入し、HbA1c値の推定値を算出する。
【0048】
また、ステップS300では、出力部126が、算出部124が算出したHbA1c値の推定値を図示せぬディスプレイに出力する。これにより、一連の工程が終了する。
【0049】
(まとめ)
以上説明したように、HbAとHbCとを有する複数の血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、HbA1c値と糖化HbC値との相関式(3)を予め取得することで、HbCを有する血液検体であっても、血糖値の指標であるHbA1c値を推定することができる。
【0050】
さらに、上記実施形態では、血糖値の指標であるHbA1c値を推定したが、血糖値を直接測定することも考えられる。しかし、血糖値は、体調によってばらつきが生じるため、HbA1c値を推定することで体調によって生じるばらつきが抑制される。
【0051】
なお、本開示を特定の実施形態について詳細に説明したが、本開示は係る実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲内にて他の種々の実施形態をとることが可能であることは当業者にとって明らかである。上記実施形態では、変異ヘモグロビンとしてHbCを用いて説明したが、変異ヘモグロビンが、例えば、ヘモグロビンS、ヘモグロビンE、又はヘモグロビンD等であってもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、HbAと変異ヘモグロビンとのヘテロ接合体を分析して導出された糖化変異ヘモグロビン値と、相関式(3)とから血糖値の指標であるHbA1c値を推定したが、変異ヘモグロビンと変異ヘモグロビンとのホモ接合体を分析して導出された糖化変異ヘモグロビン値と、相関式(3)とから血糖値の指標であるHbA1c値を推定してもよい。換言すれば、HbAを有さない血液検体から血糖値の指標であるHbA1c値を推定してもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、糖化HbC値を導出するために、分母をHbC全体面積としたが、分母にクロマトグラムの全ピーク面積を用いてもよい。
【0054】
(((1)))
複数の被験者から夫々採取したヘモグロビンAと変異ヘモグロビンとを有する血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンAに関するピークのピーク値の全合計値に対するヘモグロビンA1cを含むヘモグロビンA1cピークのピーク値の割合に基づく値であるヘモグロビンA1c値と、変異ヘモグロビンを含むピークのピーク値と前記変異ヘモグロビンが糖化した糖化変異ヘモグロビンを含む糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の合計値に対する前記糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の割合に基づく値である糖化変異ヘモグロビン値との相関関係を予め取得し、
変異ヘモグロビンを有する被験者から採取した測定対象である血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、糖化変異ヘモグロビン値を導出し、
導出した前記糖化変異ヘモグロビン値と前記相関関係に基づいてヘモグロビンA1c値を推定する、
ヘモグロビンA1c値の推定方法。
【0055】
(((2)))
前記変異ヘモグロビンは、ヘモグロビンCである、
(((1)))に記載のヘモグロビンA1c値の推定方法。
【0056】
(((3)))
糖化ヘモグロビンC値は、前記クロマトグラムのヘモグロビンA0を含むピークとヘモグロビンCを含むヘモグロビンCピークの間に表れるピークXのピーク値と前記ヘモグロビンCピークのピーク値の合計値に対する前記ピークXのピーク値の割合に基づく値を求めて前記糖化変異ヘモグロビンC値とする、
(((2)))に記載のヘモグロビンA1c値の推定方法。
【0057】
(((4)))
前記液体クロマトグラフィーは陽イオン交換クロマトグラフィーである、
(((1)))~(((3)))何れか1に記載のヘモグロビンA1c値の推定方法。
【0058】
(((5)))
複数の被験者から夫々採取したヘモグロビンAと変異ヘモグロビンとを有する血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンAに関するピークのピーク値の全合計値に対するヘモグロビンA1cを含むヘモグロビンA1cピークのピーク値の割合に基づく値であるヘモグロビンA1c値と、変異ヘモグロビンを含むピークのピーク値と前記変異ヘモグロビンが糖化した糖化変異ヘモグロビンを含む糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の合計値に対する前記糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の割合に基づく値である糖化変異ヘモグロビン値との相関関係を記憶した記憶部と、
変異ヘモグロビンを有する被験者から採取した測定対象である血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから得た糖化変異ヘモグロビン値を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記糖化変異ヘモグロビン値と前記記憶部が記憶した前記相関関係に基づいてヘモグロビンA1c値の推定値を算出する算出部と、
前記推定値を出力する出力部と、
を備える情報処理装置。
【0059】
(((6)))
複数の被験者から夫々採取したヘモグロビンAと変異ヘモグロビンとを有する血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンAに関するピークのピーク値の全合計値に対するヘモグロビンA1cを含むヘモグロビンA1cピークのピーク値の割合に基づく値であるヘモグロビンA1c値と、変異ヘモグロビンを含むピークのピーク値と前記変異ヘモグロビンが糖化した糖化変異ヘモグロビンを含む糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の合計値に対する前記糖化変異ヘモグロビンピークのピーク値の割合に基づく値である糖化変異ヘモグロビン値との相関関係を記憶したコンピュータに、
変異ヘモグロビンを有する被験者から採取した測定対象である血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから得た糖化変異ヘモグロビン値を取得させ、
取得した前記糖化変異ヘモグロビン値と記憶した前記相関関係に基づいてヘモグロビンA1c値の推定値を算出させ、
前記推定値を出力させる処理を実行させる推定プログラム。
【符号の説明】
【0060】
12 HbA1a及びHbA1bのピーク
14 L-A1cのピーク
16 HbA1cのピーク
18 HbA0のピーク
20 糖化HbCのピーク
22 HbCのピーク
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9