(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086260
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】電極、蓄電デバイス及び電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20240620BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240620BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240620BHJP
H01G 11/32 20130101ALI20240620BHJP
H01G 11/28 20130101ALI20240620BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01G11/32
H01G11/28
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201296
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 彩夏
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA03
5E078AB01
5E078BA14
5E078BA52
5E078BB03
5E078BB16
5E078BB37
5E078FA11
5E078LA08
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA00
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA08
5H050HA12
5H050HA17
5H050HA18
(57)【要約】
【課題】蓄電デバイスの電極の抵抗をより低減する。
【解決手段】本開示の電極は、蓄電デバイスに用いられる電極であって、集電体と、集電体上に形成され活物質と結着材と繊維径Dが1μm以上20μm以下であり繊維長さLが5μm以上500μm以下の範囲の炭素繊維とを含む電極合材層と、を備え、電極合材層は、電極表面に露出している炭素繊維に基づいて求められた電極の厚さ方向に配向した炭素繊維の配向度が50%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスに用いられる電極であって、
集電体と、
集電体上に形成され活物質と結着材と繊維径Dが1μm以上20μm以下であり繊維長さLが5μm以上500μm以下の範囲の炭素繊維とを含む電極合材層と、を備え、
前記電極合材層は、電極表面に露出している前記炭素繊維に基づいて求められた電極の厚さ方向に配向した炭素繊維の配向度が50%以上である、電極。
【請求項2】
前記配向度は、60%以上である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記配向度は、前記電極表面に露出している全ての前記炭素繊維の個数Nと、前記電極合材層に含まれる炭素繊維のメディアン長さLmと、前記電極表面に露出している長さが3/7×Lm以下である炭素繊維の個数nとしたとき、配向度(%)=n/N×100で求められる、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記電極は、(1)~(4)のいずれか1以上を満たす、請求項1又は2に記載の電極。
(1)面積抵抗が32Ωcm2以下である。
(2)体積抵抗率が3.0×103Ωcm以下である。
(3)厚さが10μm以上500μm以下の範囲である。
(4)電極密度が2.0(g/cm3)以上3.5(g/cm3)以下の範囲である。
【請求項5】
前記活物質は、リチウム及び遷移金属を含む複合酸化物である、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の電極、を備えた蓄電デバイス。
【請求項7】
蓄電デバイスに用いられる電極の製造方法であって、
集電体の表面との間へ静電場を発生させ、活物質と結着材と繊維径Dが1μm以上20μm以下であり繊維長さLが5μm以上500μm以下の範囲の炭素繊維とを含む原料を前記集電体の表面へ塗布する塗布工程と、
前記原料が塗布された集電体を加熱し電極合材層として固定化する固定化工程と、
を含む電極の製造方法。
【請求項8】
前記塗布工程では、前記原料に溶媒を加えない、請求項7に記載の電極の製造方法。
【請求項9】
前記塗布工程では、静電場の強度が1kV/cm以上10kV/cm以下の範囲で前記原料を塗布する、請求項7又は8に記載の電極の製造方法。
【請求項10】
前記塗布工程では、静電場の強度が2kV/cm以上4kV/cm以下の範囲で前記原料を塗布する、請求項7又は8に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、電極、蓄電デバイス及び電極の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスの電極としては、例えば、集電体と、集電体の表面に形成された活物質と、カーボンナノファイバを含む導電助剤と、バインダとを含む活物質層を備え、電極の表面をX線回折法で測定し、カーボンナノファイバの各結晶面に由来する回折ピークの強度の和と、カーボンナノファイバの(002)結晶面に由来する回折ピークの強度から求められる配向比率が所定範囲であるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この電極では、電気抵抗の低い電極や蓄電装置を提供できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1の電極では、カーボンナノファイバを含むスラリーを用いて製造しているが、カーボンナノファイバは凝集性が高く、スラリーの管理が難しく、均一に分散させること、また、その状態を維持することが容易でなかった。このように、蓄電デバイスに用いられる電極の電気抵抗を低減することは、まだ十分でなく、電気抵抗の低い電極を作製することが求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、電極の抵抗をより低減することができる電極、蓄電デバイス及び電極の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、カーボンナノファイバのようなナノ粒子ではない炭素繊維を用い、静電場によりこの炭素繊維を配向させることによって、電極の抵抗をより低減することを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する電極は、
蓄電デバイスに用いられる電極であって、
集電体と、
集電体上に形成され活物質と結着材と繊維径Dが1μm以上20μm以下繊維長さLが5μm以上500μm以下の範囲の炭素繊維とを含む電極合材層と、を備え、
前記電極合材層は、電極表面に露出している前記炭素繊維に基づいて求められた電極の厚さ方向に配向した炭素繊維の配向度が50%以上であるものである。
【0008】
本明細書で開示する蓄電デバイスは、上述した電極を備えたものである。
【0009】
本明細書で開示する電極の製造方法は、
蓄電デバイスに用いられる電極の製造方法であって、
集電体の表面との間へ静電場を発生させ、活物質と結着材と繊維径Dが1μm以上20μm以下であり繊維長さLが5μm以上500μm以下の範囲の炭素繊維とを含む原料を前記集電体の表面へ塗布する塗布工程と、
前記原料が塗布された集電体を加熱し電極合材層として固定化する固定化工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示では、蓄電デバイスの電極の抵抗をより低減することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、炭素繊維は、導電材として機能し、さらに炭素繊維の長軸方向を電極の厚さ方向に配向させることによって、効率的に電子を伝導させる経路を形成することができるためであると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】蓄電デバイス10の構成の一例を示す模式図。
【
図2】蓄電デバイス10に用いられる電極の製造方法の一例を示す説明図。
【
図3】炭素繊維の繊維径D及び繊維長Lの測定結果。
【
図4】実験例1、3、5の電極表面の光学顕微鏡像及び断面の概念図。
【
図5】X線ラミノグラフィ測定より取得した炭素繊維の3次元像。
【
図6】X線ラミノグラフィ測定での膜厚方向に対する偏差角度θのヒストグラム。
【
図7】実験例1~5の静電印刷時の電場に対する面積抵抗との関係図。
【
図8】実験例1~5の配向度に対する面積抵抗との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(蓄電デバイス用電極)
本実施形態の電極は、蓄電デバイスに用いられるものであって、集電体と電極合材層とを備えている。蓄電デバイスは、リチウム二次電池やリチウムイオン二次電池、キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。電極は、活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなる。活物質は、蓄電デバイスのキャリアイオンを吸蔵放出する。キャリアイオンは、蓄電デバイスに用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、アルカリ金属イオンや第2族元素イオンなどが挙げられる。アルカリ金属イオンとしては、例えば、リチウムイオンやナトリウムイオン、カリウムイオンなどが挙げられる。第2族元素イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオンなどが挙げられる。ここでは、リチウムイオンをキャリアとするリチウムイオン二次電池を主たる一例として以下説明する。
【0013】
集電体は、電極合材層に隣接し、充放電時の集電を行う導電性の部材である。集電体は、活物質の電位などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。活物質複合体の形成量は、蓄電デバイスに求められる所望の性能に応じて適宜設定すればよい。
【0014】
電極合材層は、集電体上に形成され活物質と結着材と炭素繊維とを含む。この電極合材層は、炭素繊維のほかに導電材を含むものとしてもよい。活物質は、正極活物質としてもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)やLi(1-x)NiaCobMncO4(a+b+c=2)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、正極活物質は、リン酸鉄リチウムなどとしてもよい。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。
【0015】
また、正極活物質としては、例えば、キャリアイオンを吸着脱離するキャパシタに用いるものとしてもよい。この正極活物質は、例えば、炭素材料を含むものとしてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であるものとしてもよい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着・脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入・脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0016】
活物質は、負極活物質としてもよい。負極活物質としては、例えば、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な炭素材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能でありキャリアイオンをリチウムイオンとした場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、容量の観点から炭素材料が好ましく、安全性の観点からは、複合酸化物が好ましい。
【0017】
結着材は、活物質や炭素繊維を固定する材料である。この結着材としては、例えば、加熱により固着する樹脂としてもよい。結着材は、例えば、電解液中でイオン伝導性を有するものであることが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、及びポリメタクリル酸メチルとアクリルポリマーとの共重合体のうち1以上などが挙げられる。特に、電極に用いるものであるため、この樹脂は、電位安定性の面からフッ素含有樹脂であることがより好ましい。この樹脂としては、PVdFが好ましい。
【0018】
炭素繊維は、繊維径Dが1μm以上20μm以下の範囲である。また、炭素繊維は、繊維長さLが5μm以上500μm以下の範囲である。この炭素繊維は、カーボンナノファイバやカーボンナノチューブのように、サブミクロンサイズのものは含まない。電極合材層には、カーボンナノファイバやカーボンナノチューブが含まれるものとしてもよいが、これらの材料は炭素繊維の配向度には関与しないものとする。炭素繊維の繊維長さLは、電極合材層の厚さよりも短い長さであることが好ましい。炭素繊維のサイズは、画像式粒度分布測定装置を用いて測定した値とする。
【0019】
炭素繊維以外に添加される導電材は、例えば、粒子状、鱗片状、繊維状及びチューブ状の形状を有するものとしてもよい。この導電材としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、鱗片状黒鉛及びカーボンナノチューブのうち1以上が挙げられる。このうち、アセチレンブラックが好ましい。この導電材は、炭素粒子である場合、一次粒子の粒径dが10nm以上100nm以下の範囲であるものとしてもよい。粒径dが10nm以上では、導電パスを形成しやすく、好ましい。この粒径dは、20nm以上であることが好ましく、50nm以下であることが好ましい。また、炭素材料が鱗片状炭素である場合、長さaと幅bとは同じであってもよいし、異なっていてもよいし、厚さcは長さaや幅bと異なっているものとしてもよい。長さaや幅bは、10nm以上100nm以下の範囲であるものとしてもよい。厚さcは、長さaや幅bも短いことが好ましく、5nm以上50nm以下の範囲であるものとしてもよい。また、導電材料が繊維状やチューブ状である場合、炭素繊維よりも1/10以下のサイズとしてもよい。
【0020】
電極合材層は、電極表面に露出している前記炭素繊維に基づいて求められた電極の厚さ方向に配向した炭素繊維の配向度が50%以上である。この配向度は、より高いことが好ましく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることが更に好ましい。この配向度は、100%以下であり、90%以下としてもよい。配向度がより高いものとすれば、炭素繊維がより電極の厚さ方向に配向するためより抵抗を低減することができ好ましい。ここで、この配向度は、電極表面に露出している全ての炭素繊維の個数Nと、電極合材層に含まれる炭素繊維のメディアン長さLmと、電極表面に露出している長さが3/7×Lm以下である炭素繊維の個数nとしたとき、配向度(%)=n/N×100で求めるものとする。
【0021】
この電極は、例えば、電極合材層の面積抵抗が32Ωcm2以下であることが好ましい。この面積抵抗は、より低いことが好ましく、20Ωcm2以下がより好ましく、10Ωcm2以下が更に好ましく、5Ωcm2以下としてもよい。また、この電極は、電極合材層の体積抵抗率が3.0×103Ωcm以下であることが好ましい。この体積抵抗率は、より低いことが好ましく、1.0×103Ωcm以下がより好ましく、5×102Ωcm以下が更に好ましく、1.0×102Ωcm以下としてもよい。また、この電極は、電極合材層の厚さが10μm以上500μm以下の範囲であるものとしてもよい。電極合材層の厚さがより厚膜になると、炭素繊維の配向度による抵抗の減少の影響が大きくなる。この電極の厚さは、20μm以上や50μm以上であるものとしてもよいし、100μm以上、150μm以上、200μm以上としてもよい。また、この電極は、電極合材層の電極密度が2.0(g/cm3)以上の範囲であることが好ましく、2.2(g/cm3)以上の範囲であることがより好ましく、2.4(g/cm3)以上の範囲であることが更に好ましい。また、この電極は、電極合材層の電極密度が3.5(g/cm3)以下の範囲であることが好ましく、3.0(g/cm3)以下の範囲であることがより好ましく、2.6(g/cm3)以下の範囲であることが更に好ましい。
【0022】
電極合材層は、活物質と結着材と炭素繊維との全体に対して活物質が、70質量%以上95質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。活物質の含有量は、70質量%以上では容量を十分確保することができ、95質量%以下では結着材や炭素繊維の相対的な量を確保できるため強度や導電性を確保でき好ましい。また、電極合材層は、活物質と結着材と炭素繊維との全体に対して結着材が、0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。結着材の含有量は、0.5質量%以上では強度を十分確保することができ、5質量%以下では活物質量を相対的に確保できるため容量を確保でき好ましい。また、電極合材層は、活物質と結着材と炭素繊維との全体に対し炭素繊維が0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。炭素繊維の含有量は、0.5質量%以上では抵抗を十分低減することができ、5質量%以下では活物質量を相対的に確保できるため容量を確保でき好ましい。また、電極合材層に炭素繊維以外の導電材を含む場合、活物質と結着材と炭素繊維と導電材との全体に対し導電材が0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。導電材の含有量が0.5質量%以上では導電性をより向上することができ、5質量%以下では活物質量の相対的な低下をより抑制できるため容量低下をより抑制することができ好ましい。
【0023】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した電極を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極とを備え、正極及び負極のうち1以上が上述した電極であるものとしてもよい。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体とを備えるものとしてもよい。
【0024】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。
【0025】
支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0026】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0027】
本開示の蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0028】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図1は、蓄電デバイス10の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体19とを有する。正極12は、正極活物質層13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質層16と、集電体17とを有する。イオン伝導媒体19は、キャリアイオンを伝導するものであり、電解液や固体電解質としてもよい。上述した電極は、正極12としてもよいし、負極15としてもよい。正極12が上述した電極であるときには、正極合材層13には、活物質21と、炭素繊維22と、結着材23とを含む。炭素繊維22は、繊維径Dが1μm以上20μm以下の範囲であり、繊維長さLが5μm以上500μm以下の範囲である。また、正極合材層13は、電極表面に露出している炭素繊維22に基づいて求められた電極の厚さ方向に配向した炭素繊維22の配向度が50%以上である。
【0029】
(電極の製造方法)
本開示の蓄電デバイスに用いられる電極の製造方法は、上述した電極を製造する方法であるものとしてもよい。この製造方法において、上述した電極で説明した内容、例えば、各部材の材質や配合比の範囲などを適宜適用するものとして、その詳細な説明を省略するものとする。この製造方法は、塗布工程と、固定化工程とを含む。
図2は、蓄電デバイス10に用いられる電極の製造方法の一例を示す説明図であり、
図2Aが混合処理、
図2Bが塗布処理、
図2Cが固定化処理の一例を示す説明図である。
【0030】
塗布工程では、集電体の表面との間へ静電場を発生させ、活物質と結着材と炭素繊維とを含む原料を集電体の表面へ塗布する。炭素繊維は、繊維径Dが1μm以上20μm以下の範囲であり、繊維長さLが5μm以上500μm以下の範囲のものを用いるものとする。原料には、炭素繊維以外の炭素材料を導電材として添加するものとしてもよい。塗布工程では、溶媒を用いないことが好ましい。即ち、塗布工程は、原料に溶媒を加えない乾式処理で行うことが好ましく、静電スクリーン印刷処理としてもよい(
図2B)。この塗布工程では、原料の塗布前に原料粉体を乾式で混合する混合処理を行うものとしてもよい(
図2A)。混合処理は、ミキサーを用いることができる。混合処理では、粒状の活物質、結着材、必要に応じて粒状の導電材を混合したのち、炭素繊維を加えて更に混合するものとしてもよい。塗布処理では、静電場の強度が1kV/cm以上10kV/cm以下の範囲で原料を塗布することが好ましい。電場が1kV/cm以上では炭素繊維をより厚さ方向に沿って配向させることができ、好ましい。また、電場が10kV/cm以下では、処理効率がよい。この塗布工程では、静電場の強度が2kV/cm以上4kV/cm以下の範囲で原料を塗布することがより好ましい。原料は、スクリーンメッシュ上に収容し、このスクリーンメッシュから集電体へ塗布するものとしてもよい。スクリーンメッシュの目開きサイズは、原料の粒径などに応じて適宜選択する。原料の塗布時において、スクリーンメッシュ上に収容した原料をスキージなどの部材を摺動させ、原料を集電体側へ押圧してもよい。塗布時間は、例えば、電極合材層の厚さが所望の厚さになるまでこの塗布処理を実行するものとすればよい。
【0031】
固定化工程では、原料が塗布された集電体を加熱し、電極合材層として固定化する処理を行う。固定化工程では、例えば、原料が形成された集電体を加熱プレスして固定化するものとしてもよい(
図2C)。加熱温度は、結着材の種別に応じて適宜設定すればよいが、例えば、100℃以上や120℃以上、150℃以上としてもよいし、200℃以下や180℃以下、160℃以下などとしてもよい。また、プレス圧は、炭素繊維の配向方向が塗布処理後に変わらないように適宜調節した値を用いることが好ましい。
【0032】
以上詳述した本実施形態の電極、蓄電デバイス及び電極の製造方法では、蓄電デバイスの電極の抵抗をより低減することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、炭素繊維は、導電材として機能し、さらに炭素繊維の長軸方向を電極の厚さ方向に配向させることによって、効率的に電子を伝導させる経路を形成することができるためである。
【0033】
一般的に、リチウムイオン電池やニッケル水素電池といった蓄電デバイスの電極において、活物質を含む電極合材層を厚膜化することで、集電体やセパレータの相対的な使用量を減らし、電池の体積当たりのエネルギー量であるエネルギー密度を高める試みがなされている。しかし、電極を厚膜化すると、電子の移動距離が長くなることで内部抵抗が大きくなり、電池容量が大幅に低下することが問題となる。上述した従来技術(特開2013-122883)では、カーボンナノファイバを含む電極スラリーを集電体上に塗工する際、あるいは、塗工後溶媒を乾燥させる前に、電極の膜厚方向に静電場を印加することで膜厚方向にカーボンナノファイバを配向させている。しかし、カーボンナノファイバは一般的に凝集性が高く、均一に分散させること、また、その状態を維持することが容易でなく、スラリーの管理が難しいことが課題である。また、電極スラリーを塗工して電極膜を得るスラリー成膜プロセスでは、乾燥炉を用いて高温で溶媒を揮発させる必要があるためエネルギー消費量が大きいことも課題である。特に、正極スラリーの溶媒として用いられているN-メチル-2-ピロリドン(NMP)は、回収し、処理するシステムが必要となる。さらに、溶媒の乾燥工程において、一度膜厚方向に配向したカーボンナノファイバが再び面内に配向してしまう課題もある。本開示の電極及びその製造方法では、凝集性の低い炭素繊維を用い、更に溶媒を用いずに、乾式で電極合材層を塗布するものであるため、消費エネルギーをより低減しつつ、簡便に炭素繊維を電極厚さ方向に配向させることができる。
【0034】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0035】
例えば、上述した実施形態では、電極の製造方法において、原料粉体を溶媒無しで集電体上に塗布するものとしたが、特にこれに限定されず、原料粉体に溶媒を加えて集電体上に塗布してもよい。炭素繊維を電極の厚さ方向にならって配向させることができれば、特に乾式、湿式に関係せず、電極を作製することができる。
【0036】
本開示は、以下の[1]~[10]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 蓄電デバイスに用いられる電極であって、
集電体と、
集電体上に形成され活物質と結着材と繊維径Dが1μm以上20μm以下であり繊維長さLが5μm以上500μm以下の範囲の炭素繊維とを含む電極合材層と、を備え、
前記電極合材層は、電極表面に露出している前記炭素繊維に基づいて求められた電極の厚さ方向に配向した炭素繊維の配向度が50%以上である、電極。
[2] 前記配向度は、60%以上である、[1]に記載の電極。
[3] 前記配向度は、前記電極表面に露出している全ての前記炭素繊維の個数Nと、前記電極合材層に含まれる炭素繊維のメディアン長さLmと、前記電極表面に露出している長さが3/7×Lm以下である炭素繊維の個数nとしたとき、配向度(%)=n/N×100で求められる、[1]又は[2]に記載の電極。
[4] 前記電極は、(1)~(4)のいずれか1以上を満たす、[1]~[3]のいずれか1つに記載の電極。
(1)面積抵抗が32Ωcm2以下である。
(2)体積抵抗率が3.0×103Ωcm以下である。
(3)厚さが10μm以上500μm以下の範囲である。
(4)電極密度が2.0(g/cm3)以上3.5(g/cm3)以下の範囲である。
[5] 前記活物質は、リチウム及び遷移金属を含む複合酸化物である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の電極。
[6] [1]~[5]のいずれか1つに記載の電極、を備えた蓄電デバイス。
[7] 蓄電デバイスに用いられる電極の製造方法であって、
集電体の表面との間へ静電場を発生させ、活物質と結着材と繊維径Dが1μm以上20μm以下であり繊維長さLが5μm以上500μm以下の範囲の炭素繊維とを含む原料を前記集電体の表面へ塗布する塗布工程と、
前記原料が塗布された集電体を加熱し電極合材層として固定化する固定化工程と、
を含む電極の製造方法。
[8] 前記塗布工程では、溶媒を用いない、[7]に記載の電極の製造方法。
[9] 前記塗布工程では、静電場の強度が1kV/cm以上10kV/cm以下の範囲で前記原料を塗布する、[7]又は[8]に記載の電極の製造方法。
[10] 前記塗布工程では、静電場の強度が2kV/cm以上4kV/cm以下の範囲で前記原料を塗布する、[7]又は[8]に記載の電極の製造方法。
【実施例0037】
以下には、本開示の電極及び蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。なお、実験例1が比較例に相当し、実験例2~5が実施例に相当する。
【0038】
(電極作製)
(1)電極粉末の混合処理
活物質としてニッケルコバルトマンガン酸リチウムを91g、導電材としてアセチレンブラック(デンカ工業製HS100)を3gと、炭素繊維(三菱ケミカル製K223HM(50μ))を3g、結着材としてポリフッ化ビニリデン(アルケマ製HSV900)を3g、乾式混合して正極用の電極粉末を得た。電極粉末の混合にはラボミル(大阪ケミカル製OML-1)を用い、活物質、導電材、結着材を5分間混合したあと、炭素繊維を加え、さらに1分間混合した。
【0039】
(炭素繊維の物性)
使用した炭素繊維の繊維径、繊維長の分布を測定した。炭素繊維の長さに関する分布は、画像式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル製、CamseizerX2)を用いて、炭素繊維の繊維径D及び繊維長Lの分布を測定した。繊維径Dの分布は計測した粒子の最小径Xminを繊維径Dとして算出した。繊維長Xlengthの分布は計測した粒子の最小径Xminと最大フェレ径XFe maxを用いて次式(1)より算出した。
図3は、炭素繊維の繊維径D及び繊維長Lの測定結果であり、
図3Aが繊維径Dの分布図、
図3Bが繊維長Lの分布図、
図3Cが炭素繊維の撮像写真である。
図3に示すように、用いた炭素繊維は、その繊維のメディアン径D50が12μmでありメディアン長さLmが70μmであった。
【0040】
【0041】
(2)電極の成膜(実験例1~5)
静電スクリーン印刷装置(ベルク工業製TS-1)を用いて、集電体であるアルミニウム箔(厚さ15μm)の上に電極粉末を塗布した。150線-60μm(目開き109μm)のスクリーンメッシュを用いた。スクリーン板と塗布面の間に0、0.6、1.3、2.5、3.8kV/cmの電場を印加した。得られた電極のそれぞれを実験例1~5とした。さらに、加熱ロールプレス機(タクミ技研SA6202)により集電体上に電極粉末を固定化させ、目付量30mg/cm2、厚さ約130μmの正極合材層が集電体の上に積層されてなる正極を得た。プレス温度は200℃、ロールの送り速度は0.2m/分、線圧は286kg/cmとした。
【0042】
(電子抵抗測定)
電極の電子抵抗を四端子法により測定した。二枚の電極を、銅箔を介して対抗させて圧子とロードセルで挟み、一方の電極にプラスの電圧線と電流線、他方の電極にマイナスの電圧線と電流線を接続した。銅箔は、電極-電極間の接触抵抗の影響を低減して電極の電子抵抗を測定するために配置した。面積2cm2の圧子に50kg(25kg/cm2)の荷重を印加したときの直流抵抗の値を電子抵抗とした。また、体積抵抗率Rv[Ωcm]、電極の電子抵抗Re[Ω]、測定面積S[cm2]、電極の厚さt[cm]としたときに、式(2)から電極の体積抵抗率を算出した。ここで測定面積は圧子の面積2cm2とした。
Rv[Ωcm]=(Re[Ω]×S[cm2])/t[cm] …式(2)
【0043】
(光学顕微鏡による電極表面の観察と解析)
成膜した電極の表面の光学顕微鏡像をデジタルマイクロスコープ(キーエンス製VHX-7000)を用いて取得した。画素サイズは1μm/pixelとした。画像解析ソフトImage Jを用いて、得られた観察画像の輝度値から二値化処理により電極表面に露出している炭素繊維を抽出した。さらに、Image Jの粒子解析機能により、抽出した炭素繊維の長手方向の長さ(長径)のヒストグラムを取得した。表面に露出している炭素繊維のうち、その長径が30μm以下の炭素繊維は膜厚方向に配向しているとし、表面に露出している炭素繊維の全個数に対する長径が30μm以下の炭素繊維の個数の割合を、配向した炭素繊維の割合として算出した。即ち、電極表面に露出している全ての炭素繊維の個数N[個]と、電極合材層に含まれる炭素繊維のメディアン長さLm[μm]と、電極表面に露出している長さが3/7×Lm[μm]以下である炭素繊維の個数n[個]としたとき、配向度(%)は、次式(3)により求めた値とした。
配向度[%]=n[個]/N[個]×100 …式(3)
【0044】
(X線ラミノグラフィ測定・配向解析)
電極の透過3次元像から、配向度の妥当性について検討した。X線ラミノグラフィ測定により電極の3次元像を取得した。X線ラミノグラフィ測定は、大型放射光施設SPring-8BL33XU(豊田ビームライン)にて実施した。X線のエネルギーは16keVとし、回転軸の傾斜角は30°とした。検出器は、X線CMOSカメラ(浜松ホトニクス製ORCA-flush4.0)を用い、画素サイズ0.325μm/pixelで撮影した。回転角度0.1°ごとに露光時間100msecで撮影し、360°(3601枚)の透過像を得た。JASRI提供の再構成ソフトを用い、透過像から3次元像に再構成した。X線トモグラフィ用の解析ソフト(ボリュームグラフィックス社製VGSTUDIO MAX)により得られた電極の3次元像から炭素繊維部分を抽出し、配向解析を行い、電極の膜厚方向に対する偏差角度θのヒストグラムを取得した。実験例1、5を測定した。
【0045】
(炭素繊維の配向評価)
図4は、実験例1、3、5の電極表面の光学顕微鏡像及び断面の概念図であり、
図4Aが実験例1、
図4Bが実験例3、
図4Cが実験例5である。
図5は、X線ラミノグラフィ測定より取得した炭素繊維の3次元像である。
図6は、X線ラミノグラフィ測定より取得した実験例1、5の膜厚方向に対する偏差角度θのヒストグラムである。
図4に示すように、静電スクリーン印刷において、電場を印加しなかった実験例1では、繊維の長手方向が露出した炭素繊維が多く観察されたのに対し、印加電場を1.3kV/cmとした実験例3、3.8kV/cmとした実験例5のように、印加電場を大きくするに従い、繊維の長手方向が露出した炭素繊維の数が減少し、点状に見える炭素繊維が多く観察された。また、
図6に示すように、電場を印加しなかった実験例1と比較して、電場を3.8kV/cm印加して成膜した実験例5の電極では、偏差角度θが80°~90°である、面方向に沿って配向した炭素繊維が減少し、偏差角度θが80°以下である、厚さ方向に沿って配向した炭素繊維が増加した。このことより、光学顕微鏡像において、印加電場を大きくするほど長手方向が露出した炭素繊維の数が減少し、点状に見える炭素繊維が増加したのは、原料粉末を集電体へ塗布する際の電場により炭素繊維が厚さ方向に配向し、電極表面に露出する面積が減少したためであることがわかった。表面に露出している炭素繊維の長径が3/7Lm、即ち30μm以下のものは膜厚方向に配向しているものと定義し、表面に露出している炭素繊維の全個数Nに対する長さLが30μm以下の炭素繊維の個数nの割合を、配向した炭素繊維の割合として算出することとした。
【0046】
(結果と考察)
図7は、実験例1~5の静電印刷時の電場に対する面積抵抗との関係図である。
図8は、実験例1~5の配向度に対する面積抵抗との関係図である。また、実験例1~5の静電印刷時の電場[kV/cm]、電極厚さ[μm]、電極合材の目付量[mg/cm
2]、電極密度[g/cm
3]、配向繊維の割合[%]、面積抵抗[Ωcm
2]、体積抵抗率[Ωcm]をまとめて表1に示した。
図7、8、表1に示すように、実験例1~5において、静電印刷時の電場が大きくなるに従い、配向度がより向上する、即ち、炭素繊維が電極厚さ方向に沿って並ぶことがわかった。また、この配向度がより高くなると、面積抵抗や体積抵抗率などがより低減することがわかった。また、この理由は、例えば、導電材としての炭素繊維が電極の厚さ方向に配向させると、電極厚さ方向に効率的に電子を伝導させる経路を形成することができるため、蓄電デバイス用の電極の電子抵抗をより低減することができるものと推察された。静電印刷時の電場は、1.0[kV/cm]以上が好ましく、2.0[kV/cm]以上がより好ましいことがわかった。また、この電場は、10[kV/cm]以下の範囲が好ましいものと推察された。また、電極表面に露出している炭素繊維に基づいて求められた電極の厚さ方向に配向した炭素繊維の配向度は、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましいことがわかった。また、この配向度は、100%以下、90%以下でもよいものと推察された。
【0047】
【0048】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質層、14 集電体、15 負極、16 負極活物質層、17 集電体、18 セパレータ、19 イオン伝導媒体、21 活物質、22 炭素繊維、23 結着材。