(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086265
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】射出成形機とその運転方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20240620BHJP
B29C 45/64 20060101ALI20240620BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/64
B29C45/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201304
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】須佐 圭呉
(72)【発明者】
【氏名】古本 求
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AM04
4F202AM09
4F202AP01
4F202AQ03
4F202AR01
4F202CA11
4F202CL42
4F202CL50
4F202CR03
4F202CS07
4F206AM04
4F206AM09
4F206AP20
4F206AQ03
4F206AR014
4F206JA07
4F206JL07
4F206JM03
4F206JM06
4F206JP13
4F206JP14
4F206JQ06
4F206JQ82
4F206JT03
4F206JT05
4F206JT06
(57)【要約】
【課題】射出成形機において電磁式の金型固定具を使用できる可能性を高める。
【解決手段】射出成形機1は、電磁力を発生し、電磁力に基づく吸着力で可動金型M1と固定金型M2のいずれかを固定する金型固定具9と、可動金型M1または固定金型M2に作用する離型力を、吸着力より小さくなるように制御する制御装置4と、を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁力を発生し、前記電磁力に基づく吸着力で可動金型と固定金型のいずれかを固定する金型固定具と、
前記可動金型または前記固定金型に作用する離型力を、前記吸着力より小さくなるように制御する制御装置と、を有する射出成形機。
【請求項2】
前記可動金型を駆動する型締機構を有し、
前記離型力は、前記可動金型または前記固定金型に型開時に発生する型開力であり、
前記制御装置は、前記型開力が前記吸着力より小さくなるように前記型締機構を制御する、請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記型開力が前記吸着力より小さくなるように前記可動金型の型開速度を制御する、請求項2に記載の射出成形機。
【請求項4】
前記可動金型は、前記固定金型と摺動して前記型開力を発生させる摺動部を有し、
前記制御装置は、前記可動金型の本体が前記固定金型から離れた後、前記摺動部が前記固定金型から離れるまでの間、前記型開力が前記吸着力より小さくなるように前記可動金型の前記型開速度を制御する、請求項3に記載の射出成形機。
【請求項5】
前記可動金型と前記固定金型の3次元形状データの入力部と、
前記3次元形状データに基づき前記型開力を推定する推定部と、
を有し、
前記制御装置は前記推定部で推定された前記型開力が前記吸着力より小さくなるように前記可動金型の型開速度を制御する、請求項3に記載の射出成形機。
【請求項6】
前記可動金型から成形品を押し出すためのエジェクタピンを駆動するエジェクタピン駆動機構を有し、
前記離型力は、前記エジェクタピンの作動時に前記可動金型に発生するエジェクタピン反力であり、
前記制御装置は、前記エジェクタピン反力が前記吸着力より小さくなるように前記エジェクタピン駆動機構を制御する、請求項1に記載の射出成形機。
【請求項7】
前記可動金型を駆動する型締機構と、
前記可動金型から成形品を押し出すためのエジェクタピンを駆動するエジェクタピン駆動機構と、を有し、
前記離型力は、前記可動金型に型開時に発生する型開力と、前記エジェクタピンの作動時に前記可動金型に発生するエジェクタピン反力との合力であり、
前記制御装置は、前記合力が前記吸着力より小さくなるように、前記型締機構と前記エジェクタピン駆動機構を制御する、請求項1に記載の射出成形機。
【請求項8】
前記制御装置は前記エジェクタピンの速度を制御する、請求項6に記載の射出成形機。
【請求項9】
前記可動金型と前記固定金型とで形成されるキャビティに射出材料を供給する射出ノズルと、
前記射出ノズルを駆動するノズルタッチ装置と、を有し、
前記離型力は、前記射出ノズルによって前記固定金型に発生するノズルタッチ力であり、
前記制御装置は、前記ノズルタッチ力が前記吸着力より小さくなるように、ノズルタッチ装置を制御する、請求項1に記載の射出成形機。
【請求項10】
前記可動金型を駆動する型締機構と、
前記可動金型と前記固定金型とで形成されるキャビティに射出材料を供給する射出ノズルと、
前記射出ノズルを駆動するノズルタッチ装置と、を有し、
前記離型力は、前記固定金型に型開時に発生する型開力と、前記射出ノズルによって前記固定金型に発生するノズルタッチ力との合力であり、
前記制御装置は、前記合力が前記吸着力より小さくなるように前記型締機構とノズルタッチ装置を制御する、請求項1に記載の射出成形機。
【請求項11】
前記制御装置は、前記吸着力を、前記離型力を前記吸着力より小さくするための前記離型力の制御が不要なクラスと、必要なクラスと、不能なクラスとに分類し、前記制御が必要と判断された場合に、前記離型力を前記吸着力より小さくなるように制御する、請求項1から10のいずれか1項に記載の射出成形機。
【請求項12】
前記制御装置は前記制御が必要と判断された場合に、前記離型力の制御を行う旨の情報を発信する、請求項11に記載の射出成形機。
【請求項13】
前記制御装置は前記制御が不能と判断された場合にアラームを発信する、請求項11に記載の射出成形機。
【請求項14】
前記金型固定具は、前記固定金型または前記可動金型を吸着するための磁束を各々が発生させる複数のマグネットブロックを有し、
前記マグネットブロック毎に前記磁束を検出する測定装置を有し、
前記制御装置は、前記測定装置で測定された磁束に基づき前記吸着力を算出する、請求項1から10のいずれか1項に記載の射出成形機。
【請求項15】
電磁力を発生する金型固定具と、制御装置とを備え、前記金型固定具が前記電磁力に基づく吸着力で金型を固定する射出成形機の運転方法であって、
前記制御装置によって、前記金型に作用する離型力を前記吸着力より小さくなるように制御することを有する射出成形機の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機とその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の多品種少量生産のニーズの増加に伴い、射出成形機の金型の交換時間の短縮が望まれている。特許文献1には電磁式の金型固定具が開示されている。金型固定具は、極性の固定された磁石と、コイルへの通電によって極性を反転可能な磁石と、を有している。コイルへの通電によって金型を吸着することができるため、金型の交換時間の短縮が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金型の吸着力は、金型と金型固定具との接触面積など金型固有の特性に依存する。吸着力が不足している場合、電磁式の金型固定具を使用できず機械式の金型固定具を使用しなければならないことがある。
【0005】
本開示は、電磁式の金型固定具を使用できる可能性が高められた射出成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の射出成形機は、電磁力に基づく吸着力と反対方向に作用する離型力を、吸着力より小さくなるように制御する制御装置を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電磁式の金型固定具を使用できる可能性が高められた射出成形機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る射出成形機の概略正面図である。
【
図2A】可動金型と固定金型の一例を示す、型閉時の断面図である。
【
図2B】可動金型と固定金型の一例を示す、型開時の断面図である。
【
図4A】金型固定具の作動原理を示す概念図である。
【
図4B】金型固定具の作動原理を示す概念図である。
【
図5A】成形工程中に可動金型に作用する力を示す概念図である。
【
図5B】成形工程中に固定金型に作用する力を示す概念図である。
【
図6】制御装置の制御の流れを示すフロー図である。
【
図7】可動盤位置及び型締モータのモータトルクの時間変化を示すグラフである。
【
図8】制御部の、機械学習に関連する部分の概略構成図である。
【
図9A】型開速度と型開力の関係を示すグラフである。
【
図9B】型盤位置と型開力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<全体構成>
図1は本実施形態に係る射出成形機1の概略正面図を示している。
図1を参照すると、射出成形機1は、金型を型締めする型締装置2と、射出される材料を加熱溶融して射出する射出装置3と、制御装置4と、から概略構成されている。制御装置4は射出成形機1の作動全般を制御するために設けられているが、ここでは本実施形態に関連する機能を中心に説明する。以下の説明で、スクリュ33の移動方向あるいは可動金型M1の移動方向を方向Xという。方向Xは水平方向と平行である。可動金型M1と固定金型M2を合わせて金型Mという場合がある。
【0010】
<型締装置2>
型締装置2は、ベッド21上に固定され固定金型M2が取り付けられる固定盤22と、ベッド21上をスライド可能な型締ハウジング23と、ベッド21上をスライド可能で可動金型M1が取り付けられる可動盤24と、を備えている。固定盤22と型締ハウジング23は複数本のタイバー25によって連結されている。可動盤24と型締ハウジング23の間には、金型Mを開閉するための型締機構26が設けられている。型締機構26は、トグル機構27とトグル機構27を駆動する型締モータ28と、を有している。図示は省略するが、型締機構26は直圧式の型締機構、つまり油圧式の型締シリンダから構成してもよい。
【0011】
<射出装置3>
射出装置3は基台31上に設けられている。射出装置3は、シリンダ32と、シリンダ32に収容されたスクリュ33と、スクリュ33を駆動する駆動機構34と、を備えている。スクリュ33は駆動機構34によって回転駆動されるとともに方向Xに駆動される。駆動機構34はカバー35で覆われている。シリンダ32の後端部近傍に、射出される材料を供給するホッパ36が設けられている。ホッパは射出される材料が供給される材料供給開口36Aを備えている。シリンダ32の先端には、固定金型M2に突き当たって、固定金型M2と可動金型M1とで形成されるキャビティC(
図2A参照)に射出材料を供給する射出ノズル37が設けられている。
【0012】
射出装置3はノズルタッチ装置38を備えている。ノズルタッチ装置38は射出装置3を前進させ、それによって射出ノズル37が金型MのスプルーブッシュM3にタッチする。ノズルタッチ装置38は駆動機構34と固定盤22とを連結している。ノズルタッチ装置38は、ボールねじを用いたトグル機構によって構成されるが、油圧シリンダを用いた機構を用いてもよい。
【0013】
<金型Mの構成>
図2A,2Bは可動金型M1と固定金型M2の一例をより詳細に示す断面図である。
図2Aは可動金型M1と固定金型M2が型締めされた状態を、
図2Bは可動金型M1と固定金型M2が型開きした状態を示している。可動金型M1はキャビティCに面する内面M4と、内面M4の反対面である外面M5とを有している。固定金型M2はキャビティCに面する内面M6と、内面M6の反対面である外面M7とを有している。可動金型M1と固定金型M2の内面M4,M6同士が対向して、これらの間に射出材料(例えば樹脂)が充填されるキャビティCが形成されている。固定金型M2にはキャビティCに射出材料を供給する射出ノズル37が押し当てられている。後述するように、射出ノズル37はノズルタッチ力を発生させる。
【0014】
可動金型M1は、固定金型M2との接触面(パーティングライン)を構成する本体M8と、本体M8に支持され、本体M8から固定金型M2に向けて突き出すガイドピンM9と、を有している。ガイドピンM9は、可動金型M1と固定金型M2の位置決めのために設けられている。固定金型M2にはガイドピンM9を受け入れる受け孔M10が設けられている。可動金型M1の移動中、ガイドピンM9は受け孔M10と摺動する。従って、ガイドピンM9は固定金型M2と摺動する摺動部の一例である。ガイドピンM9は可動金型M1の内面M4の、キャビティCを避けた部分に設けられている。後述するように、ガイドピンM9は型開力を発生させる。
【0015】
可動金型M1には、可動金型M1から成形品を押し出すためのエジェクタピンM11が内蔵されている。エジェクタピンM11は可動金型M1の本体M8を貫通している。可動金型M1の本体M8には、外面M5に開口する空洞M14が設けられ、エジェクタプレートM12が空洞M14に収容されている。射出成形機1はエジェクタピンM11を駆動するエジェクタピン駆動機構29を有している。すなわち、エジェクタピン駆動機構29は射出成形機1のエジェクタロッド30に接続され、エジェクタロッド30は可動金型固定具5と可動盤24とを貫通してエジェクタプレートM12を押しつける。エジェクタプレートM12がエジェクタピンM11を押すことによって、エジェクタピンM11が駆動される。後述するように、エジェクタピンM11はエジェクタピン反力を発生させる。
【0016】
<金型固定具の構成>
可動金型M1は可動金型固定具5に固定され、可動金型固定具5はボルトなどの固定具(図示せず)で可動盤24に直接取り付けられている。固定金型M2は固定金型固定具6に固定され、固定金型固定具6はボルトなどの固定具(図示せず)で固定盤22に直接取り付けられている。以下の説明で可動金型固定具5と固定金型固定具6を区別する必要のない場合、これらを金型固定具9という。金型固定具9と可動盤24または固定盤22との間に中間プレートが介在していてもよい。
【0017】
金型固定具9は電磁力を発生し、電磁力に基づく吸着力で可動金型M1または固定金型M2を固定する。可動金型M1と可動金型固定具5にはエジェクタピンM11が挿通される貫通孔7が設けられ、固定金型M2と固定金型固定具6には射出ノズル37が侵入するための貫通孔8が設けられている。
【0018】
図3は金型固定具9の平面図を示している。可動金型固定具5と固定金型固定具6の構造はほぼ同じである。金型固定具9は、電磁力による吸着力を発生する複数のマグネットブロック10を備えている。マグネットブロック10は金型Mと接することで吸着力を発生する。このため、吸着力を発生するマグネットブロック10の数は、金型Mの大きさや金型Mの搭載位置によって異なる。破線MXは最大搭載寸法の金型Mを示し、破線MNは最小搭載寸法の金型Mを示している。
【0019】
<金型固定具9の作動原理>
図4A,4Bは金型固定具9の作動原理を示している。
図4Aは、マグネットブロック10の吸着力が発生していない状態(以下、非着磁状態ということがある)を示している。
図4Bは、マグネットブロック10の吸着力が発生している状態(以下、着磁状態ということがある)を示している。作動原理は可動金型固定具5と固定金型固定具6で共通である。
【0020】
マグネットブロック10は、磁化方向(磁極)が固定された磁化固定磁石11と、コイル13の通電方向によって磁化方向(磁極)を変える磁化可変磁石12と、支持プレート14と、ヨーク15と、を有している。
図4A,4Bでは、一つの磁化固定磁石11の2つの断面と、一つのコイル13の2つの断面と、が示されている。磁化固定磁石11はリング形状を有し、内周がS極、外周がN極に磁化されている。磁化固定磁石11は支持プレート14の溝17に嵌められている。磁化可変磁石12は円板の形状を有し、互いに対向する2つの主面を有している。磁化可変磁石12の周りにリング状のコイル13が配置されている。コイル13の通電方向に応じて、磁化可変磁石12は2つの主面の一方がN極、他方がS極(またはその反対)となるように磁化される。
【0021】
図4Aを参照すると、非着磁状態では磁化固定磁石11と磁化可変磁石12の互いに隣接する磁極が異なる極性となっている。磁化可変磁石12、支持プレート14、磁化固定磁石11、支持プレート14、ヨーク15の順に通る磁束J1が金型固定具9の内部に生じる。磁束J1は金型固定具9の外部にはほとんど漏れないため、金型Mに対する吸着力は発生しない。金型Mの取付け、取外しはこの状態で行われる。
【0022】
図4Bを参照すると、着磁状態ではコイル13に通電され、磁化固定磁石11と磁化可変磁石12の互いに隣接する磁極が同じ極性となる。
図4Bの場合は、磁化可変磁石12の磁化固定磁石11と対向する磁極がN極からS極になる。磁化可変磁石12の作る磁束J2が磁化固定磁石11の作る磁束J3の外側を通り、磁束J2,J3が金型固定具9の外部に漏れる。このようにして、電磁力に基づく吸着力が発生し、金型Mは金型固定具9に固定される。成形品の作成はこの状態で行われる。
【0023】
コイル13の通電は、コイル13で発生する磁場強度が磁化固定磁石11の保磁力より小さく、且つ磁化可変磁石12の保磁力より大きくなるように行われる。このため、磁化固定磁石11の磁化方向はコイル13の通電によらず固定されている。一方、磁化可変磁石12は一旦磁化が反転すると保磁力でその磁化状態を保つ。従って、通電は磁化を反転させるために短時間行えばよい。磁化の反転後、通電は停止される。磁化固定磁石11と磁化可変磁石12の構成はこの例に限定されない。コイル13の通電により磁化可変磁石12の磁極が反転し、磁束が金型固定具9の外部に漏れる状態と外部に漏れない状態とを切り替えることができれば、どのような構成を用いてもよい。
【0024】
<磁束の測定装置>
金型Mは、個々のマグネットブロック10に内蔵された磁束の測定装置16を有している。測定装置16はサーチコイル(図示せず)を有している。サーチコイルはその周辺の磁束を検出し、磁束によって誘起された誘導電流または誘導電流を出力する。上述のように、着磁状態と非着磁状態では磁束が異なるため、磁束をサーチコイルで検出することで、各サーチコイルと組み合わせられたマグネットブロック10が着磁状態であるか非着磁状態を判定することができる。
【0025】
制御装置4(
図1参照)は各サーチコイルの出力を受け取り、出力を分析して各マグネットブロック10が着磁状態であるか非着磁状態を判定する。個々のマグネットブロック10の吸着力は既知であるので、着磁状態にあるマグネットブロック10の吸着力の合計を算出して金型固定具9の吸着力を算出する。全てのマグネットブロック10の吸着力が同じである場合は、マグネットブロック10の吸着力に着磁状態にあるマグネットブロック10の数を乗じて金型固定具9の吸着力を算出してもよい。
【0026】
<金型Mが受ける力>
次に、主に
図2A,2B,5A,5Bを参照して、成形工程中に金型Mが受ける力について説明する。まず、用語を以下のように定義する。離型力は金型Mを金型固定具9から離す方向に掛かる力であり、吸着力と逆方向を向いている。吸着力は電磁力により金型Mを吸着する力である。
・可動金型離型力:可動金型M1を可動金型固定具5から離す方向に掛かる力
・固定金型離型力:固定金型M2を固定金型固定具6から離す方向に掛かる力
・可動金型吸着力:可動金型M1を可動金型固定具5に吸着する力
・固定金型吸着力:固定金型M2を固定金型固定具6に吸着する力
・保持力:金型を可動盤24または固定盤22に押し付ける力(吸着力、離型力、相手の金型から受ける押し付け力などの合力)
【0027】
図5Aは、1回の成形工程中に可動金型M1に作用する保持力を概念的に示している。1回の成形工程は、型締状態(金型Mが完全に閉まった状態)の解除を開始してから次の型締が完了するまでの期間である。型締状態では可動金型M1は固定金型M2を押しつけており、可動金型M1は固定金型M2から同じ大きさの反力を受ける。この反力は可動金型M1を可動金型固定具5に押し付ける方向に作用する。可動金型M1は可動金型固定具5から可動金型吸着力を受けているので、保持力はこの反力と可動金型吸着力の合計となる。
【0028】
まず、型締状態で型締モータ28を起動する。トグル機構27のロックが解除され、型締状態が若干緩む。これによって固定金型M2から受ける反力が減少し、保持力が減少する。保持力の減少量は反力の減少量と同じである。この段階では可動金型M1は十分な保持力で可動金型固定具5に保持されているので、可動金型M1が可動金型固定具5から離脱する可能性は低い。
【0029】
可動金型M1の本体M8が固定金型M2から離れると、本体M8が可動金型M1から受ける反力(押し付け力)は消失する。しかし、ガイドピンM9と受け孔M10との間の摺動による摩擦のため、可動金型M1は固定金型M2から引張力を受ける。摺動部(ガイドピンM9)によって可動金型M1に発生する離型力、ないしこの引張力を型開力F1(
図2B参照)という。型開力F1は可動金型M1を可動金型固定具5から引き離す向きに作用する。型開力F1により可動金型M1の保持力は大きく低下する。
【0030】
次に、成形品(図示せず)を取り出すためエジェクタピンM11が作動する。成形品が可動金型M1の内面M4から剥離する際に可動金型M1は成形品から引張力を受ける。この引張力も可動金型M1を可動金型固定具5から引き離す向きに作用する。エジェクタピンM11の作動時にエジェクタピンM11によって可動金型M1に発生する離型力、ないしこの引張力をエジェクタピン反力F2(
図2B参照)という。なお、
図5Aではエジェクタピン反力F2を一定値で示しているが、実際は時間とともに変動することが多い。
【0031】
図5Aに示すように、型開力F1とエジェクタピン反力F2が同時に掛かる場合、保持力はさらに低下する。エジェクタピン反力F2の掛かるタイミングは図示のものに限定されず、例えば、型開力F1が掛かっていないときにエジェクタピン反力F2が掛かる可能性もある。
【0032】
図5Bは、1回の成形工程中に固定金型M2に作用する保持力を概念的に示している。固定金型M2の保持力も可動金型M1と概ね同じである。型締状態では固定金型M2は可動金型M1に押しつけられており、トグル機構27のロックが解除されると保持力は若干減少する。その後可動金型M1の本体M8が固定金型M2から離れると、押し付け力は消失する。
【0033】
また、ガイドピンM9と受け孔M10との間の摺動による摩擦のため、固定金型M2は可動金型M1から引張力(型開力F1)を受ける。さらに、固定金型M2は射出ノズル37によって発生する離型力を受ける。この様な離型力をノズルタッチ力F3(
図2B参照)という。ノズルタッチ力F3は射出ノズル37が固定金型M2に押し付けられることによる直接的な力だけでなく、射出ノズル37から漏れ出る樹脂が固定金型M2に及ぼす力も含む。
【0034】
ノズルタッチ力F3の発生原理はノズルタッチ装置38の駆動方式によって異なる。モータ駆動のノズルタッチ装置38では、ノズルタッチ力F3は射出ノズル37を押しつけるバネ(図示せず)の弾性力によって生じる。あるいは、ノズルタッチ装置38の駆動モータ(図示せず)を駆動しながら(モータトルクを掛けながら)ノズルタッチ装置38にブレーキを掛けることによっても、ノズルタッチ力F3は生じる。油圧駆動のノズルタッチ装置38では、シリンダ圧によってノズルタッチ力F3が生じる。
【0035】
<制御装置4による金型の保持力の制御について>
次に、
図1、
図2A,2Bを参照して、制御装置4の作動原理について説明する。可動金型M1の保持力が失われると、可動金型M1が可動金型固定具5から離脱する可能性が高くなる。また、固定金型M2の保持力が失われると、固定金型M2が固定金型固定具6から離脱する可能性が高くなる。従って、制御装置4は可動金型離型力が可動金型吸着力を下回るように、また、固定金型離型力が固定金型吸着力を下回るように射出成形機1を制御する。上述の通り、可動金型M1が受ける主な離型力は型開力F1とエジェクタピン反力F2であり、固定金型M2が受ける主な離型力は型開力F1とノズルタッチ力F3である。従って、制御装置4は、これらの力F1~F3を制御する。
【0036】
図6には制御装置4の具体的な制御の流れを示す。金型Mが取り付けられると、制御装置4は測定装置16で測定された誘電電圧または誘電電流に基づき金型Mの吸着力を算出し(ステップS1)、算出された吸着力を以下の3クラスに分類する(ステップS2)。
クラス1:離型力を吸着力より小さくするための離型力の制御が不要
クラス2:離型力を吸着力より小さくするための離型力の制御が必要
クラス3:離型力を吸着力より小さくするための離型力の制御が不能
【0037】
クラス1は吸着力が十分に高く、型締機構26、エジェクタピン駆動機構29、ノズルタッチ装置38の制御が不要であることを意味する。従って、この場合、制御装置4は特段の制御は行わず、従来通り射出成形機1を制御する。
【0038】
クラス2は型締機構26、エジェクタピン駆動機構29、ノズルタッチ装置38の少なくともいずれかを制御することで、金型Mの離脱の可能性を低下させつつ成形工程が実行可能であることを意味する。制御装置4は離型力が吸着力より小さくなるよう、型締機構26、エジェクタピン駆動機構29、ノズルタッチ装置38の少なくともいずれかを制御する。さらに、制御装置4はこのようにして金型Mの離脱の可能性を低下させつつ、成形工程を行うように射出成形機1を制御する(ステップS3)。この際、制御装置4は、離型力の制御を行う旨の情報を発信してもよい。情報の発信方法は制御装置4の画面での表示、音声、信号などが考えられるが、特に限定されない。
【0039】
制御装置4は、型開力F1が吸着力より小さくなるように可動金型M1の型締機構26を制御する。好ましくは、制御装置4は、型開力F1とエジェクタピン反力F2の合計が吸着力より小さくなるように可動金型M1の型締機構26とエジェクタピン駆動機構29を制御する。また好ましくは、制御装置4は、型開力F1とノズルタッチ力F3の合計が吸着力より小さくなるように型締機構26とノズルタッチ装置38を制御する。
【0040】
より具体的には、制御装置4は可動金型M1の型開速度を制御する。これは、型開力F1を決定するガイドピンM9と受け孔M10との摩擦力がガイドピンM9と受け孔M10との相対速度と相関すると考えられるためである。また、制御装置4はエジェクタピンM11の速度を制御する。これは、エジェクタピン反力F2を決定する成形品と可動金型M1の内壁との間に生じる剥離力が、エジェクタピンM11と可動金型M1との相対速度と相関すると考えられるためである。
【0041】
ノズルタッチ力F3を制御するには、射出ノズル37の方向Xにおける固定金型M2に対する相対位置を制御する。ノズルタッチ力F3を減少させる場合は、型開動作開始時か開始前に射出ノズル37を固定金型M2に対して数秒間程度後退させる。ノズルタッチ力F3を増加させる場合は、射出ノズル37を固定金型M2に対して前進させる。ノズルタッチ力F3をゼロにする場合は、射出ノズル37を固定金型M2から切り離す。再びノズルタッチ力F3を発生させる場合は、型閉後に射出ノズル37を固定金型M2に対して再前進させ、射出ノズル37を固定金型M2にタッチさせる。
【0042】
クラス3は吸着力が小さすぎて、型締機構26、エジェクタピン駆動機構29、ノズルタッチ装置38の制御を行っても金型Mの離脱の可能性を十分に低下させることができないことを意味する。従って、この場合、制御装置4は金型Mの装着ができない旨のアラームを発信する(ステップS4)。
【0043】
(機械学習)
図8には、制御装置4の、機械学習に関連する部分を示す。上述したように、金型Mが受ける離型力には型開力F1が含まれる。型開力F1は金型Mの形状にも依存する。このため、型開力F1は、金型Mの形状に基づいて求めるようにしてもよい。制御装置4は、可動金型M1と固定金型M2の3次元形状データの入力部41と、3次元形状データに基づき型開力F1を推定する推定部42と、を有していることが好ましい。推定部42は学習済みの学習モデル43を有する。
【0044】
この学習モデル43の学習方法は限定されないが、例えば、教師あり学習により行う。具体的には、金型M(可動金型M1及び固定金型M2)の3次元形状データと、当該金型Mに対応する型締モータ28のモータトルクの測定値とのセットを、3次元形状の異なる複数の金型Mに対し予め取得し、これらの複数のセットを学習モデル43に教師データとして学習させる。推定部42は学習済みの学習モデル43を用いて、入力部41が取得した可動金型M1と固定金型M2の3次元形状データより型開力F1を推定することができる。制御装置4は推定部42で推定された型開力F1が吸着力より小さくなるように、可動金型M1の型開速度を制御する。
【0045】
(実施例)
以下、
図7、
図9A、
図9Bを参照して実施例について説明する。なお、以下の実施例の説明では、
図1、
図2A、
図2Bについても適宜参照する。
図7に示すように、実機の射出成形機を用いて型開動作を行い、型締モータ28のモータトルクと可動盤24の位置から型開力F1を算出した。エジェクタピン反力F2とノズルタッチ力F3は掛かっていない。可動盤24は型開直後は徐々に移動し、その後ほぼ一定速度で移動し、その後可動盤24の全開位置に向けて徐々に移動した。
【0046】
型締モータ28のモータトルクは型締機構26のロックを解除する際に増加し、可動盤24が移動を始めると急激に増加し、可動盤24が一定速度で移動を始めるとほぼゼロとなった。モータトルクの最大値は可動盤24が移動を始めて少し経過した時点で観測された。このことは、可動金型M1の本体M8が固定金型M2から離れた後に、型開力F1が生じていることを示している。
【0047】
従って、制御装置4は、可動金型M1の本体M8が固定金型M2から離れた後、摺動部(ガイドピンM9)が固定金型M2から離れるまでの間、型開力F1が吸着力より小さくなるように可動金型M1の速度を制御することが好ましい。逆に言えば、摺動部が固定金型M2から離れた後は、可動金型M1の速度を制限する必要性は小さい。また、この試験では、型開力F1が吸着力よりも小さいことが確認された。ただし、射出成形機の機種によっては、型開力F1が吸着力より大きくなる可能性があることに留意が必要である。
【0048】
次に、いくつかの金型を用いて型開速度と型開力F1との関係、及び可動盤24の位置と型開力F1との関係を求めた。
図9Aに型開工程の初期段階での型開速度と型開力F1との関係を、
図9Bに型開工程の初期段階での可動盤24の位置と型開力F1との関係を示す。これらのグラフの横軸は時間と相関関係にある。金型Aは試験に用いた射出成形機の最大搭載金型、金型Cは試験に用いた射出成形機の最小搭載金型、金型Bは金型AとCの中間サイズの金型である。
【0049】
型開力F1は金型Bでは最大型開速度の10%程度、金型Cでは最大型開速度の30%程度、金型Aでは最大型開速度の40%程度からそれぞれ増加し、一旦減少した後再び増加している。試験に用いた金型A~Cは射出成形機に搭載可能は金型のサイズをほぼ代表していると考えられるので、金型のサイズによらず、型開速度が最大型開速度の10%未満では型開力F1は発生しないことが分かった。また、
図9Bを参照すると最大の型開力F1は可動盤24の位置0~2.0mmの範囲で発生した。
【0050】
(付記)本明細書は以下の開示を含む。
[構成1]
電磁力を発生し、前記電磁力に基づく吸着力で可動金型と固定金型のいずれかを固定する金型固定具と、
前記可動金型または前記固定金型に作用する離型力を、前記吸着力より小さくなるように制御する制御装置と、を有する射出成形機。
[構成2]
前記可動金型を駆動する型締機構を有し、
前記離型力は、前記可動金型または前記固定金型に型開時に発生する型開力であり、
前記制御装置は、前記型開力が前記吸着力より小さくなるように前記型締機構を制御する、構成1に記載の射出成形機。
[構成3]
前記制御装置は、前記型開力が前記吸着力より小さくなるように前記可動金型の型開速度を制御する、構成2に記載の射出成形機。
[構成4]
前記可動金型は、前記固定金型と摺動して前記型開力を発生させる摺動部を有し、
前記制御装置は、前記可動金型の本体が前記固定金型から離れた後、前記摺動部が前記固定金型から離れるまでの間、前記型開力が前記吸着力より小さくなるように前記可動金型の前記型開速度を制御する、構成3に記載の射出成形機。
[構成5]
前記可動金型と前記固定金型の3次元形状データの入力部と、
前記3次元形状データに基づき前記型開力を推定する推定部と、
を有し、
前記制御装置は前記推定部で推定された前記型開力が前記吸着力より小さくなるように前記可動金型の型開速度を制御する、構成3または4に記載の射出成形機。
[構成6]
前記可動金型から成形品を押し出すためのエジェクタピンを駆動するエジェクタピン駆動機構を有し、
前記離型力は、前記エジェクタピンの作動時に前記可動金型に発生するエジェクタピン反力であり、
前記制御装置は、前記エジェクタピン反力が前記吸着力より小さくなるように前記エジェクタピン駆動機構を制御する、構成1に記載の射出成形機。
[構成7]
前記可動金型を駆動する型締機構と、
前記可動金型から成形品を押し出すためのエジェクタピンを駆動するエジェクタピン駆動機構と、を有し、
前記離型力は、前記可動金型に型開時に発生する型開力と、前記エジェクタピンの作動時に前記可動金型に発生するエジェクタピン反力との合力であり、
前記制御装置は、前記合力が前記吸着力より小さくなるように、前記型締機構と前記エジェクタピン駆動機構を制御する、構成1に記載の射出成形機。
[構成8]
前記制御装置は前記エジェクタピンの速度を制御する、構成6または7に記載の射出成形機。
[構成9]
前記可動金型と前記固定金型とで形成されるキャビティに射出材料を供給する射出ノズルと、
前記射出ノズルを駆動するノズルタッチ装置と、を有し、
前記離型力は、前記射出ノズルによって前記固定金型に発生するノズルタッチ力であり、
前記制御装置は、前記ノズルタッチ力が前記吸着力より小さくなるように、ノズルタッチ装置を制御する、構成1に記載の射出成形機。
[構成10]
前記可動金型を駆動する型締機構と、
前記可動金型と前記固定金型とで形成されるキャビティに射出材料を供給する射出ノズルと、
前記射出ノズルを駆動するノズルタッチ装置と、を有し、
前記離型力は、前記固定金型に型開時に発生する型開力と、前記射出ノズルによって前記固定金型に発生するノズルタッチ力との合力であり、
前記制御装置は、前記合力が前記吸着力より小さくなるように前記型締機構とノズルタッチ装置を制御する、構成1に記載の射出成形機。
[構成11]
前記制御装置は、前記吸着力を、前記離型力を前記吸着力より小さくするための前記離型力の制御が不要なクラスと、必要なクラスと、不能なクラスとに分類し、前記制御が必要と判断された場合に、前記離型力を前記吸着力より小さくなるように制御する、構成1から10のいずれか1項に記載の射出成形機。
[構成12]
前記制御装置は前記制御が必要と判断された場合に、前記離型力の制御を行う旨の情報を発信する、構成11に記載の射出成形機。
[構成13]
前記制御装置は前記制御が不能と判断された場合にアラームを発信する、構成11または12に記載の射出成形機。
[構成14]
前記金型固定具は、前記固定金型または前記可動金型を吸着するための磁束を各々が発生させる複数のマグネットブロックを有し、
前記マグネットブロック毎に前記磁束を検出する測定装置を有し、
前記制御装置は、前記測定装置で測定された磁束に基づき前記吸着力を算出する、構成1から13のいずれか1項に記載の射出成形機。
[方法1]
電磁力を発生する金型固定具と、制御装置とを備え、前記金型固定具が前記電磁力に基づく吸着力で金型を固定する射出成形機の運転方法であって、
前記制御装置によって、前記金型に作用する離型力を前記吸着力より小さくなるように制御することを有する射出成形機の運転方法。
【符号の説明】
【0051】
1 射出成形機
3 射出装置
4 制御装置
9 金型固定具
16 測定装置
26 型締機構
29 エジェクタピン駆動機構
37 射出ノズル
C キャビティ
M1 可動金型
M2 固定金型
M9 ガイドピン(摺動部)
M11 エジェクタピン