(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086269
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】トレーラリング支援装置および方法、船舶
(51)【国際特許分類】
B63C 3/12 20060101AFI20240620BHJP
B63B 1/16 20060101ALI20240620BHJP
B63B 49/00 20060101ALI20240620BHJP
B63B 79/40 20200101ALI20240620BHJP
G05D 1/00 20240101ALI20240620BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240620BHJP
【FI】
B63C3/12
B63B1/16
B63B49/00 Z
B63B79/40
G05D1/00 A
G05D1/02 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201312
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA04
5H301AA10
5H301BB05
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD06
5H301DD07
5H301DD15
5H301FF11
5H301GG16
5H301GG19
(57)【要約】
【課題】トレーラへの船体の積載を容易にする。
【解決手段】トレーラ200へ向かって船体100aを移動させる自動操船制御の際、決定された自動操船制御の内容に基づいて比較タイミングでの船体100aの位置および方位が推定される。そして、推定された位置および方位と、比較タイミングで検出された位置および方位との比較結果に基づいて、トレーラ200に対する船体100aの積載可否が判定され、積載不可能と判定された場合に、その旨が報知される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体を積載するためのトレーラへ向かって前記船体を移動させるよう自動操船制御する操船制御部と、
前記操船制御部による前記自動操船制御の内容に基づいて、前記自動操船制御の開始後の所定のタイミングでの前記船体の位置および方位を推定する推定部と、
前記船体の位置、操舵角および方位を検出する検出部と、
前記推定部により推定された位置および方位と、前記所定のタイミングで前記検出部により検出された位置および方位とをそれぞれ比較し、その比較結果に基づいて、前記トレーラに対して前記船体を積載可能か否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記船体を積載不可能と判定された場合に、その旨を報知する報知部と、を有する、トレーラリング支援装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記推定された位置と前記検出された位置との差が所定距離を超えるかまたは、前記推定された方位と前記検出された方位との差が所定角度を超えた場合に、前記船体を積載不可能と判定する、請求項1に記載のトレーラリング支援装置。
【請求項3】
前記所定のタイミングは、前記自動操船制御の開始後、繰り返し訪れる、請求項1に記載のトレーラリング支援装置。
【請求項4】
前記所定のタイミングは、前記推定部が最後に前記船体の位置および方位を推定した後、前記船体が所定距離移動するかまたは所定時間が経過したタイミングである、請求項3に記載のトレーラリング支援装置。
【請求項5】
前記自動操船制御の内容は、前記船体の操舵角の制御または前記船体を推進する推進機の出力の制御の少なくとも一方を含む、請求項1に記載のトレーラリング支援装置。
【請求項6】
前記操船制御部は、前記船体を積載不可能と判定された場合、前記船体を減速させる、請求項1に記載のトレーラリング支援装置。
【請求項7】
前記操船制御部は、前記船体を積載不可能と判定された場合、前記船体を後進させる、請求項1に記載のトレーラリング支援装置。
【請求項8】
前記操船制御部は、前記船体を積載不可能と判定された時点での操舵角を記憶し、前記船体を後進させる際の操舵角を、前記記憶した操舵角とは逆方向にする、請求項7に記載のトレーラリング支援装置。
【請求項9】
前記操船制御部は、前記船体を後進させる際の操舵角を、前記記憶した操舵角と前記船体を後進させる際の前記船体を推進する推進機の出力とに基づいて決定する、請求項8に記載のトレーラリング支援装置。
【請求項10】
前記操船制御部は、前記船体を後進させる際の操舵角を、前記記憶した操舵角と逆方向で且つ前記記憶した操舵角と同じ値に設定する、請求項8に記載のトレーラリング支援装置。
【請求項11】
前記報知部は、さらに、前記船体を後進させる場合は、その旨を報知する、請求項7に記載のトレーラリング支援装置。
【請求項12】
前記報知部は、さらに、前記船体を積載可能と判定された場合は、その旨を報知する、請求項1に記載のトレーラリング支援装置。
【請求項13】
前記報知部は、さらに、前記自動操船制御が実行中である場合は、その旨を報知する、請求項1に記載のトレーラリング支援装置。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のトレーラリング支援装置を備える、船舶。
【請求項15】
船体を積載するためのトレーラへ向かって前記船体を移動させるよう自動操船制御する操船制御ステップと、
前記操船制御ステップによる前記自動操船制御の内容に基づいて、前記自動操船制御の開始後の所定のタイミングでの前記船体の位置および方位を推定する推定ステップと、
前記船体の位置、操舵角および方位を検出する検出ステップと、
前記推定ステップにより推定された位置および方位と、前記所定のタイミングで前記検出ステップにより検出された位置および方位とをそれぞれ比較し、その比較結果に基づいて、前記トレーラに対して前記船体を積載可能か否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにより前記船体を積載不可能と判定された場合に、その旨を報知する報知ステップと、を有する、トレーラリング支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレーラリング支援装置および方法、船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主に小型の船体を陸揚げするために船体をトレーラに積載するトレーラリングが行われている。特許文献1は、船体およびトレーラの位置を取得し、推進機等を制御してトレーラへの船体の自動積載(装着)を行う技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2016/163559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自動積載制御の実行中に、風、潮流、波等の外乱が船体に作用することにより、制御で予測された通りに船体が移動せず、積載を円滑に行うことができない場合がある。特に経験が浅い操船者は、船体がトレーラにかなり近づいた後でないと積載が可能かどうかを判断できない。
【0005】
本発明は、トレーラへの船体の積載を容易にすることができるトレーラリング支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一態様によるトレーラリング支援装置は、船体を積載するためのトレーラへ向かって前記船体を移動させるよう自動操船制御する操船制御部と、前記操船制御部による前記自動操船制御の内容に基づいて、前記自動操船制御の開始後の所定のタイミングでの前記船体の位置および方位を推定する推定部と、前記船体の位置、操舵角および方位を検出する検出部と、前記推定部により推定された位置および方位と、前記所定のタイミングで前記検出部により検出された位置および方位とをそれぞれ比較し、その比較結果に基づいて、前記トレーラに対して前記船体を積載可能か否かを判定する判定部と、前記判定部により前記船体を積載不可能と判定された場合に、その旨を報知する報知部と、を有する。
【0007】
この構成によれば、船体を積載するためのトレーラへ向かって船体を移動させるよう自動操船制御され、自動操船制御の内容に基づいて、自動操船制御の開始後の所定のタイミングでの船体の位置および方位が推定され、船体の位置、操舵角および方位が検出される。そして、推定された位置および方位と、所定のタイミングで検出された位置および方位との比較結果に基づいて、トレーラに対して船体を積載可能か否かが判定され、船体を積載不可能と判定された場合にその旨が報知される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トレーラへの船体の積載を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】トレーラリング支援装置が適用されるトレーラリングシステムの一例を示す側面図である。
【
図2】トレーラリングシステムの一例を示す上面図である。
【
図3】トレーラリングシステムのブロック図である。
【
図4】トレーラリング支援装置を実現するための機能ブロックを示す図である。
【
図5】自動トレーラモードの実行中における状態表示画面の例を示す図である。
【
図6】自動操船制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係るトレーラリング支援装置が適用されるトレーラリングシステムの一例を示す側面図である。
図2は、トレーラリングシステムの一例を示す上面図である。このトレーラリングシステム1000は、船舶100および、船舶100を積載するトレーラ200を含む。トレーラ200は、運転者により操縦される車両99によりけん引される船舶用トレーラである。船舶100は、一例として、いわゆるジェットボートである。
【0012】
トレーラリングシステム1000は、船舶100をトレーラ200から離脱させるとともに、トレーラ200に装着させることが可能なシステムである。水辺には、水底に向かって下方に傾斜する傾斜部(ランプ)Rが形成されている。船舶100を陸上97にあるトレーラ200から水面98に移動(離脱)させる際(離脱時)には、
図1に示すように、運転者は、車両99を運転して傾斜部Rにトレーラ200を移動させる。ここで、自動離脱モードに切り替わると、船舶100が自動でトレーラ200から離間する方向に移動する。これによって自動で離脱作業が行われる。なお、トレーラ200に対する船舶100の離脱が自動でなされることは必須でない。
【0013】
また、船舶100を水面98から陸上97のトレーラ200に移動(装着)させる際(装着時)には、まず、運転者は、傾斜部Rにトレーラ200を移動させる。ここで、自動トレーラモードに切り替わると、船舶100は自動で操船され、トレーラ200に向かう方向に移動する。これによってトレーラ200に自動で装着作業が行われる。自動による離脱や装着の具体的な作業は、国際公開2016/163559号公報等に開示されるような公知の方法によって実現可能である。
【0014】
なお、上記のような自動での、主として装着の作業は、制御部101が、船舶100とトレーラ200との「相対的位置情報」を特定した後に行うと効率的である。ここで、「相対的位置情報」は、
図2に示すように上方から見た量として定義され、距離L、船方位φ、トレーラ方位θを含む。相対的位置情報を定義する上での基準位置は、トレーラ200における基準位置PT、船舶100における基準位置PBであるとする。なお、基準位置PT、基準位置PBはどの部位であってもかまわない。
【0015】
距離Lは、トレーラ200と船舶100との距離である。すなわち、距離Lは、基準位置PTと基準位置PBとの直線距離である。船方位φは、トレーラ200から見た船舶100の相対的な方位(方角)である。トレーラ方位θは、船舶100から見たトレーラ200の相対的な方位(方角)である。
【0016】
図3は、トレーラリングシステム1000のブロック図である。船舶100は、船体100a(
図1、
図2参照)と、船体100aに設けられた推進機120とを含んでいる。この船舶100は、推進機120により噴流を噴出することによって推進力を得る。
【0017】
推進機120は、駆動力を発生するためのエンジン125と、エンジン125の駆動力を調整した状態で伝達する前後進切替機構124と、噴流を噴出する噴射ノズル126とを含んでいる。船舶100は、前後進切替機構124を介してエンジン125の駆動力が伝達されるプロペラ(図示せず)を含んでいる。推進機120は、駆動力によりプロペラが回転することによって噴射ノズル126から噴流を発生させる。また、船舶100は、プロペラの回転により発生した噴射ノズル126からの噴流の噴出方向を変えることによって、船舶100の進行方向を調整する。
【0018】
船舶100は、制御部101、ECU(Engine Control Unit)115、シフトCU(Control Unit)114およびステアリングCU116を含んでいる。制御部101は、推進機120を含む船舶100全体を制御する。制御部101は、CPU102、ROM103、RAM104およびタイマ105を備える。ROM103は制御プログラムを格納している。CPU102は、ROM103に格納された制御プログラムをRAM104に展開して実行することにより、各種の制御処理を実現する。RAM104は、CPU102が制御プログラムを実行する際のワークエリアを提供する。
【0019】
ECU115、シフトCU114およびステアリングCU116はそれぞれ、制御部101からの指示に基づき、エンジン125、前後進切替機構124および噴射ノズル126を制御する。
【0020】
船舶100は、センサ群109を備える。このセンサ群109には、潮流センサ、風速センサ、風向きセンサ、方位センサ、操舵角センサ、フックセンサ、着水センサ、加速度センサ、速度センサおよび角速度センサが含まれる(いずれも図示せず)。潮流センサは、潮流を検出する。風速センサは風速を検出する。風向きセンサは風向きを検出する。方位センサは船体100aの絶対的な方位を検出する。操舵角センサは、ステアリング112の回転角を検出することにより船体100aの操舵角を検出する。
【0021】
フックセンサは、トレーラ200のフックが船体100aに掛けられていることを検出する。着水センサは、推進機120の噴射ノズル126が水中に位置することを検出する。加速度センサは、船体100aの加速度を検出するのに加えて、船体100aの傾斜を検出することによって、船体100aの姿勢を検出する。速度センサおよび角速度センサは、それぞれ、船体100aの速度および角速度を検出する。なお、センサ群109がこれら全てのセンサを備えることは必須でない。
【0022】
船舶100の船体100aには、ステアリング112およびシフトレバー113が設けられている。制御部101は、操作されたステアリング112の回転角に基づいて、ステアリングCU116を介して、噴射ノズル126から噴出される噴流の噴出方向を制御する。また、制御部101は、操作されたシフトレバー113の位置に基づいて、シフトCU114を介して、前後進切替機構124におけるシフト位置を変更する制御を行う。
【0023】
船舶100は、メモリ111、表示部110、設定操作部117、通信I/F106、波信号受信部107およびGNSS受信部108を備える。メモリ111は不揮発性の記憶媒体である。表示部110はディスプレイを備え、制御部101からの指示に基づき各種情報を表示する。表示部110は、音を発生させる機能を有してもよい。設定操作部117は、操船に関する操作をするための操作子のほか、各種設定を行うための設定操作子、各種指示を入力するための入力操作子を含む(いずれも図示せず)。
【0024】
通信I/F106は、外部装置と無線または有線で通信する。GNSS受信部108は、GNSS(Global Navigation Satellite Systems)衛星からのGNSS信号を定期的に受信する。波信号受信部107およびGNSS受信部108が受信した信号は制御部101に供給される。
【0025】
トレーラ200は、波信号発生部201、通信I/F202、方位センサ203およびGNSS受信部204を備える。通信I/F202は、外部装置と無線または有線で通信する。通信I/F202はさらに、通信I/F106と近距離無線通信等により通信することができる。なお、船舶100とトレーラ200との通信方法は問わない。GNSS受信部204は、GNSS衛星からのGNSS信号を定期的に受信する。方位センサ203は、トレーラ200の絶対的な方位を検出する。
【0026】
GNSS受信部204で受信されたGNSS信号は、トレーラ200の現在位置を示す信号として通信I/F202により送信され、船舶100の通信I/F106により受信される。また、方位センサ203により検出されたトレーラ200の方位を示す信号も、通信I/F202により送信され、船舶100の通信I/F106により受信される。
【0027】
波信号発生部201および波信号受信部107を設けることは必須でないが、これらについては後述する。
【0028】
操船制御部としての制御部101は、自動トレーラモードにおいて、トレーラ200へ向かって船体100aを移動させるよう自動操船制御する。自動操船制御の実行中に、風、潮流、波等の外乱が船体に作用することにより、制御で予測された通りに船体100aが移動せず、トレーラ200への積載を円滑に行うことができない場合がある。特に経験が浅い操船者は、船体100aがトレーラ200にかなり近づいた後でないと積載が可能かどうかを判断できない。そこで、本実施の形態では、自動トレーラモード(自動操船制御)において、トレーラ200へ船体100aを積載不可能と判定された場合に、その旨を報知することで、船体100aの積載を容易にする。
【0029】
自動トレーラモードを実行する際、制御部101は、船体100aの積載先となるトレーラ(以下、対象トレーラと称する)を特定する。この手法として公知の手法を採用してもよい。この手法の一例として、例えば、位置情報を発信するトレーラが複数ある場合、制御部101は、無線通信を通じて各トレーラの現在位置を取得する。そして制御部101は、取得した各トレーラの現在位置を、表示部110の画面上に表示させる。制御部101は、表示画面上で、各トレーラの位置のうち所望の位置の指定をユーザから受け付けることで、対象トレーラを特定する。
【0030】
あるいは、近距離無線通信が確立したトレーラのうち1つのトレーラを対象トレーラとして特定してもよい。この場合、制御部101は、対象トレーラの現在位置の情報を無線通信により受信してもよい。
【0031】
あるいは、特願2021-122618号または特願2021-116970号に開示された手法を採用し、トレーラから発せられたレーザ光や波信号を船体が受信することで、発信元を対象トレーラと特定してもよい。例えば、トレーラ200に設けられた波信号発生部201は、互いの「相対的な位置関係」が既知である少なくとも3つの異なる位置から波信号を発する。一例として、波信号は光信号であり、波信号発生部201は3つのLEDであり、波信号受信部107はカメラである。
【0032】
なお、船舶100に設けられた波信号受信部107により受信された各位置からの波信号に基づいて、相対的位置情報が特定されてもよい。例えば、制御部101は、3つのLEDから発した光信号をカメラが撮像した画像から輝点を抽出し、画像内における輝点の位置と上記相対的な位置関係とに基づいて、相対的位置情報(トレーラ方位θ、船方位φおよび距離L)を取得することができる。なお、対象トレーラを特定する際に相対的位置情報を用いない場合、相対的位置情報を特定することは必須でない。
【0033】
図4は、トレーラリング支援装置を実現するための機能ブロックを示す図である。この機能ブロックは、機能部として、操船制御部401、推定部402、検出部403、判定部404、報知部405を含む。
【0034】
これらの各機能部は、主として、通信I/F106、GNSS受信部108、センサ群109、表示部110またはメモリ111のうち少なくとも1つと、制御部101と、の協働により実現される。
【0035】
操船制御部401の機能は、主に制御部101により実現される。操船制御部401はトレーラ200へ向かって船体100aを移動させるよう自動操船制御する。
【0036】
推定部402の機能は、主に制御部101およびメモリ111により実現される。推定部402は、操船制御部401による自動操船制御の内容に基づいて、推定処理により、「比較タイミング」(所定のタイミング)での船体100aの位置および方位を推定する。比較タイミングは、自動操船制御の開始後、繰り返し(例えば定期的に)訪れる。自動操船制御の内容には、船体100aの操舵角の制御または推進機120の出力の制御の少なくとも一方が含まれる。例えば、前進シフトで且つ推進機120の出力を一定(アイドル回転)とし、操舵角の制御によって自動操船制御を実現してもよい。
【0037】
一例として、比較タイミングは、推定部402が最後に船体100aの位置および方位を推定した後、所定時間Tが経過したタイミングである。あるいは、比較タイミングは、推定部402が最後に船体100aの位置および方位を推定した後、船体100aが第1の所定距離だけ移動したタイミングとしてもよい。あるいは、推定部402が最後に船体100aの位置および方位を推定した後、所定時間Tが経過したタイミング、または船体100aが第1の所定距離だけ移動したタイミング、のうち早く訪れたタイミングを比較タイミングとしてもよい。
【0038】
検出部403の機能は、主に制御部101、GNSS受信部108およびセンサ群109により実現される。検出部403は、船体100aの位置、操舵角および方位を検出する。すなわち、検出部403は、GNSS受信部108により受信されたGNSS信号から船体100aの現在位置を取得する。また、検出部403は、センサ群109における方位センサにより船体100aの方位を検出する。また、検出部403は、センサ群109における操舵角センサにより船体100aの操舵角を検出する。
【0039】
判定部404は、主に制御部101により実現される。判定部404は、推定部402により推定された船体100aの位置および方位と、比較タイミングで検出部403により検出された船体100aの位置および方位とをそれぞれ比較する。そして判定部404は、その比較結果に基づいて、トレーラ200に対して船体100aを積載可能か否か(つまり積載可否)を判定する。
【0040】
報知部405の機能は、主に制御部101および表示部110により実現される。報知部405は、判定部404により、トレーラ200に対して船体100aを積載不可能と判定された場合に、その旨を報知する。
【0041】
図5は、自動トレーラモードの実行中における状態の推移を示す状態表示画面の例を示す図である。
図5では、状態の推移に対応して画面A1~A4が示されている。画面A1~A4は、自動トレーラモードの開始が指示され、且つ、対象トレーラが特定された後の画面であり、表示部110に表示される。
【0042】
画面A1において、現在位置P0は、自動トレーラモード開始時における船体100aの初期位置である。予測位置P1は、自動トレーラモード開始から所定時間Tの経過後における船体100aの推定位置である。予測軌跡500は、現在位置P0を起点とした船体100aの予測される今後の移動軌跡である。表示領域501には、自動操船中を示す「AUTO」が表示される。
【0043】
各画面では、対象トレーラの位置、船体100aの予測位置、船体100aの実検出位置、船体100aの移動軌跡などが表示される。これらの表示態様は例示した態様に限定されない。以降に登場するタイミングT1、T2は、いずれも比較タイミングに相当する。
【0044】
画面A2は、画面A1が表示されたタイミングから所定時間Tの経過後(タイミングT1と称する)の状態を示す。実検出位置P1’は、タイミングT1で検出部403により検出された船体100aの位置である。距離Dは、タイミングT1における予測位置P1と実検出位置P1’との差(間隔)である。角度差αは、タイミングT1における船体100aの予測方位(推定された方位)と、タイミングT1で検出部403により検出された実検出方位との差である。
【0045】
ここで、判定部404は、距離Dが第2の所定距離を超えるかまたは、角度差αが所定角度を超えた場合に、トレーラ200に対して船体100aを積載不可能と判定する。判定部404は、距離Dが第2の所定距離を超えず、且つ、角度差αが所定角度を超えない場合に、トレーラ200に対して船体100aを積載可能と判定する。画面A2の状態では、距離Dが第2の所定距離を超えず、且つ、角度差αが所定角度を超えないので、表示領域502に、積載可能を意味する「可」が表示される。
【0046】
タイミングT1で、タイミングT1から所定時間Tの経過後(タイミングT2)での予測位置P2が予測されると共に、実検出位置P1’を起点とした予測軌跡500が改めて予測され、これらが表示される。
【0047】
画面A3は、タイミングT2での状態を示す。実検出位置P2’は、タイミングT2で検出部403により検出された船体100aの位置である。画面A3において、距離Dは、予測位置P2と実検出位置P2’との差(間隔)である。角度差αは、タイミングT2における船体100aの予測方位(推定された方位)と、タイミングT2で検出部403により検出された実検出方位との差である。画面A3の状態では、距離Dが第2の所定距離を超えているか、または、角度差αが所定角度を超えているので、表示領域502に、積載不可能を意味する「不可」が表示される。
【0048】
画面A4は、タイミングT2の直後の状態を示す。タイミングA2では積載不可能と判定されたので、これ以降、前進方向における予測位置、予測方位、予測軌跡の推定は実施されない。この場合、操船制御部401は、実検出位置P2’から船体100aを後進させるよう制御する。船体100aを後進させる場合は、報知部405は、その旨を報知する。この報知の一例として、報知部405は、表示領域503に、シフト機構である前後進切替機構124のシフト位置が後進に入っていることを示す「R」などのマークを表示する。なお、後進時予測軌跡500Rが予測され表示されてもよい。
【0049】
図6は、自動操船制御処理を示すフローチャートである。この処理は、自動トレーラモードの開始が指示されたことに応じて開始される。この処理は、CPU102が、ROM103に格納された制御プログラムをRAM104に展開して実行することにより実現される。
図5も併せて参照しつつ自動操船制御処理を説明する。
【0050】
ステップS101では、CPU102は、上述した手法により、船体100aの積載先となる対象トレーラを特定する。ステップS102では、CPU102は、その他の処理を実行する。ここではCPU102は、例えば、ユーザからの指示に応じて
図6に示す自動操船制御処理を終了する等の処理を実行する。
【0051】
ステップS103では、CPU102は、推定処理を実行する。この推定処理では、まず、CPU102は、船体100aの位置、操舵角および方位を取得し、これらに基づいて、対象トレーラへ船体100aを移動させるための自動操船制御の内容(操舵角や推進機120の出力の制御など)を決定する。また、CPU102は、現時点から所定時間Tの経過後の比較タイミングにおける船体100aの位置(予測位置P1など)および方位(予測方位)を推定する。さらにCPU102は、決定した自動操船制御の内容に基づいて、現在位置を起点とした船体100aの予測される今後の移動軌跡である予測軌跡500を予測する。
【0052】
ステップS104では、CPU102は、決定した自動操船制御の内容に基づいて自動操船制御を開始する。なお、次の比較タイミングの到来を判定するために、CPU102は計時をスタートさせる。
【0053】
ステップS105では、CPU102は、状態表示画面を表示部110に表示させる。例えば、
図5の画面A1などに例示したように、対象トレーラの位置(トレーラ200の位置)、船体100aの現在位置(P0など)、予測位置(P1など)、予測軌跡500、「AUTO」(表示領域501)などが表示される。
【0054】
ステップS106では、CPU102は、船体100aの位置、操舵角および方位を検出(取得)する。ステップS107では、CPU102は、検出した船体100aの位置に基づいて、状態表示画面上で船体100aの現在位置(P0など)の表示位置を更新する。ステップS108では、CPU102は、比較タイミングが到来したか否かを判別する。CPU102は、上述したように、最後のステップS104で計時を開始してから所定時間Tが経過していた場合は、比較タイミングが到来したと判定する。なお、上述したように、比較タイミングの到来判定に船体100aの移動距離を用いる場合は、ステップS104で移動距離の計測を開始し、船体100aが第1の所定距離だけ移動したか否かをステップS108での判定要素に用いてもよい。
【0055】
CPU102は、ステップS108で比較タイミングが到来したと判定されない場合はステップS106に戻り、比較タイミングが到来したと判定した場合はステップS109に進む。
【0056】
ステップS109では、CPU102は、ステップS103で推定された船体100aの位置(予測位置)および方位(予測方位)と、今回の比較タイミングで検出された(最後のステップS106で検出された)船体100aの位置(実検出位置)および方位(実検出方位)とをそれぞれ比較する。そしてCPU102は、その比較結果に基づいて、トレーラ200に対して船体100aを積載可能か否かを判別する。
【0057】
ここでは、上述したように、CPU102は、予測位置と実検出位置との差である距離Dが第2の所定距離を超えるかまたは、予測方位と実検出方位との差である角度差αが所定角度を超えた場合、船体100aを積載不可能と判別する(例えば、
図5の画面A3)。CPU102は、距離Dが第2の所定距離を超えず、且つ、角度差αが所定角度を超えない場合、船体100aを積載可能と判別する(例えば、画面A2)。
【0058】
そしてCPU102は、トレーラ200に対して船体100aを積載可能と判別した場合はステップS110に進み、トレーラ200に対して船体100aを積載不可能と判別した場合はステップS111に進む。
【0059】
ステップS110では、CPU102は、状態表示画面を更新する。すなわち、CPU102は、最後のステップS106で検出された船体100aの実検出位置を表示させる(例えば、画面A2に実検出位置P1’を表示させる)と共に、表示領域502に、積載可能を意味する「可」を表示させる。ステップS110の後、CPU102は、ステップS102に戻る。
【0060】
従って、ステップS110を経由した次のステップS103~S105では、推定処理が実行され、新たに決定された自動操船制御の内容に従って自動操船制御が実行され、画面表示が更新される。例えば、画面A3に例示するように、ステップS110を経由した次のステップS103では、予測位置P2が予測されると共に、更新された実検出位置(実検出位置P1’)を起点とした新たな予測軌跡500が予測され、ステップS105では、予測位置P2および予測軌跡500が表示される。
【0061】
ステップS111では、状態表示画面を更新する。すなわち、CPU102は、最後のステップS106で検出された船体100aの実検出位置を表示させる(例えば、画面A3に実検出位置P2’を表示させる)と共に、表示領域502に、積載不可能を意味する「不可」を表示させる。
【0062】
ステップS112では、CPU102は、船体100aを減速させるよう制御することで、船体100aがトレーラ200に接近し過ぎるのを抑制する。例えば、CPU102は、推進機120の出力(エンジン125の回転数)を所定値以下にする。さらには、CPU102は、前後進切替機構124のシフト位置を中立位置にしてもよい。なお、ステップS112での処理には、船体100aを停止させる処理または定点保持する処理を含めてもよい。
【0063】
ステップS113では、CPU102は、船体100aを後進させる後進処理を実行すると共に、状態表示画面を更新する。まず後進処理では、CPU102は、後進用の自動操船制御の内容として、操舵角または推進機120の出力の少なくとも一方を決定し、シフト位置を後進に切り替えると共に、後進用の自動操船制御の内容に従って操船制御を開始する。なお後進処理では、一定の距離だけ、あるいは一定時間だけ、船体100aを後進させてもよい。
【0064】
なお、船体100aを後進させる際の操舵角を決定して制御する場合、CPU102は、後進させる際の操舵角(操舵方向)を、直前の前進中の操舵角(操舵方向)とは逆方向にする(ここでは逆操舵と呼称する)。このようにすれば、横風等の外乱によって積載不可能となった場合に、前進時の移動軌跡に近い軌跡で後進することができる。
【0065】
このような逆操舵を採用する場合、CPU102は、前進中の操舵角をメモリ111に随時記憶しておき、最後に記憶された操舵角を直前の前進中の操舵角として用いる。なお、上記逆操舵を採用する場合、CPU102は、後進時の操舵角を、記憶された前進中の操舵角と、後進用に決定した推進機120の出力と、に基づいて決定してもよい。その場合、CPU102は、例えば、後進時の出力が大きいほど後進時の操舵角を小さく設定してもよい。あるいは、算出等の処理負荷を軽減する観点からは、後進時の操舵角を、記憶された操舵角と逆方向で且つ同じ値に設定してもよい。
【0066】
ステップS113での状態表示画面の更新においては、画面A4に例示するように、CPU102は、表示領域503に、シフト位置が後進に入っていることを示す「R」などのマークを表示する。さらにCPU102は、後進用の自動操船制御の内容に基づいて、現在位置を起点とした船体100aの予測される今後の移動軌跡である後進時予測軌跡500Rを予測し、画面に表示させてもよい。
【0067】
ステップS113の後、CPU102は、ステップS102に戻る。その後のステップS102以降の処理では、自動トレーラモードによる前進が再開されてもよい。あるいは、ステップS113で自動トレーラモードを中断し、次のステップS102におけるその他の処理で、ユーザからの再開指示を待って自動トレーラモードを再開してもよい。
【0068】
本実施の形態によれば、決定された自動操船制御の内容に基づいて比較タイミングでの船体100aの位置および方位が推定される。そして、推定された位置および方位と、比較タイミングで検出された位置および方位との比較結果に基づいて、トレーラ200に対する船体100aの積載可否が判定され、積載不可能と判定された場合に、その旨が報知される。これにより、仮に、風、潮流、波等の外乱によって、制御で予測された通りに船体100aが移動しなかった場合であっても、操船者はそのことを積載が困難になる前に認識することができる。よって、トレーラ200への船体100aの積載を容易にすることができる。
【0069】
また、船体100aを積載可能と判定された場合に、その旨が「可」の表示によって報知され、さらに、積載不可能と判定された場合は、その旨が、「不可」の表示によって報知されるので、積載可否を視認により認識させることができる。
【0070】
また、予測位置と実検出位置との差である距離Dが第2の所定距離を超えるかまたは、予測方位と実検出方位との差である角度差αが所定角度を超えた場合、船体100aを積載不可能と判定されるので、距離または移動方向に関して予測との乖離が大きくなったまま自動操船制御が継続されることが回避される。
【0071】
また、比較タイミングは、自動操船制御の開始後、繰り返し訪れるので、船体100aをトレーラ200へ向けて移動させつつ定期的に積載可否を知らせることができる。
【0072】
また、船体100aをトレーラ200へ積載不可能と判定された場合、船体100aを減速させるか、あるいは船体100aを後進させるので、船体100aがトレーラ200に接近し過ぎるのを抑制することができる。なお、船体100aをトレーラ200へ積載不可能と判定された場合に、一旦、船体100aを減速することは必須でなく、直ちに後進処理(S113)へ移行してもよい。
【0073】
また、船体100aを積載不可能と判定された時点での操舵角を記憶し、船体100aを後進させる際の操舵角を、上記記憶した操舵角とは逆方向にすることで、横風等の外乱によって積載不可能となった場合に、前進時の移動軌跡に近い軌跡で後進することができる。特に、船体100aを後進させる際の操舵角を、上記記憶した操舵角と船体100aを後進させる際の推進機120の出力とに基づいて決定することで、推進機120の出力も考慮して、前進時の移動軌跡により近い軌跡で後進することができる。なお、船体100aを後進させる際の操舵角を、上記記憶した操舵角と逆方向で且つ同じ値に設定すれば、操舵角の算出等の処理負荷が小さくて済む。
【0074】
また、船体100aを後進させる自動操船制御を実行する際には、その旨を、「R」などのマークの表示により報知するので、後進中であることを注意喚起できる。
【0075】
また、自動操船制御が実行中である場合は、その旨が、「AUTO」の表示によって報知されるので、手動操船が無効であることを視認により認識させることができる。
【0076】
なお、「可」、「不可」、「R」、「AUTO」、予測軌跡500、500Rなどの表示態様は一例であり、これらに限られない。特に、状況を示す表示は「可」、「不可」、「R」、「AUTO」に限らず、メッセージなどの表示により各状況を報知してもよい。また、これらに代えて、あるいはこれらの表示に加えて、音声によって各状況を報知してもよい。
【0077】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【0078】
本発明は、上記した実施形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワークや非一過性の記憶媒体を介してシステムや装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータの1以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能である。以上のプログラムおよび以上のプログラムを記憶する記憶媒体は、本発明を構成する。また、本発明は、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0079】
なお、本発明は、ジェットボートに限定されず、船外機、船内機または船内外機によって推進する各種の船舶にも適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
100 船舶、 100a 船体、 101 制御部、 102 CPU、 200 トレーラ、 401 操船制御部、 402 推定部、 403 検出部、 404 判定部、 405 報知部