(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086273
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】トリポード型等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/205 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
F16D3/205 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201317
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】板垣 卓
(72)【発明者】
【氏名】杉山 達朗
(57)【要約】
【課題】所望の作動性やトルク伝達性能を安定的に発揮できるトリポード型等速自在継手を実現する。
【解決手段】外側継手部材2とトリポード部材5とが所定の最大作動角θmaxを超える作動角θ1まで相対的に角度変位したとき、外側ワッシャ12がローラ10と止め輪11の双方に接触するのに先行してカップ部3の小内径面3Baに接触することにより、作動角をさらに拡大させる角度変位を規制する変位規制部Pをトリポード部材5のボス部6に設ける。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状のカップ部を有し、該カップ部の内周に軸方向に延びる3本のトラック溝を周方向等間隔で画成した外側継手部材と、軸部材がトルク伝達可能に連結される円筒状のボス部を有し、該ボス部の外周面から径方向外側に延びる3本の脚軸が周方向等間隔で設けられたトリポード部材と、複数の針状ころを介して前記脚軸に回転可能に支持された状態で対応する前記トラック溝に収容されたローラと、前記針状ころの径方向外側で前記脚軸の外周面に装着され、前記針状ころ及び前記ローラと係合可能な外側ワッシャ、及び該外側ワッシャと係合可能な止め輪と、を備え、
前記カップ部が、円弧状の大径部及び小径部を周方向に交互に3つずつ配した断面非真円状に形成され、前記大径部と前記小径部を接続する接続部の内面に、前記ローラの転動を案内するローラ案内面が設けられたトリポード型等速自在継手において、
前記外側継手部材と前記トリポード部材とが所定の最大作動角を超えて相対的に角度変位したとき、前記外側ワッシャが前記ローラと前記止め輪の双方に接触するのに先行して前記小径部の内径面に接触することにより、作動角をさらに拡大させる角度変位を規制する変位規制部を前記ボス部に設けたことを特徴するトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
前記ボス部の外周面に、トリポード部材の中心軸に対してなす角度を前記最大作動角と等しくしたテーパ面が設けられ、該テーパ面のうち、前記ボス部の端面側の端部を前記変位規制部とした請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリポード型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結し、これら二軸が作動角をとってもトルクを等速で伝達可能な構造を有しており、上記二軸の角度変位のみを許容する固定式と、上記二軸の角度変位及び軸方向変位を許容する摺動式とに大別される。摺動式等速自在継手としては、例えば特開2001-330049号公報(特許文献1)に記載されているようなトリポード型がある。
【0003】
特許文献1に記載のトリポード型等速自在継手は、
図5(a)(b)に示すように、有底筒状のカップ部101を有し、このカップ部101の内周に軸方向に延びる3本のトラック溝102を周方向等間隔で画成した外側継手部材100と、カップ部101の内部空間に配置された継手内部部品とを備える。外側継手部材100のカップ部101は、円弧状の大径部101A及び小径部101Bを周方向に交互に3つずつ配した断面非真円状に形成されており、大径部101Aの径方向内側にトラック溝102が設けられる。
【0004】
継手内部部品としてのトリポードユニットは、図示しない軸部材がトルク伝達可能に連結される円筒状のボス部103Aを有し、このボス部103Aの外周面から径方向外側に延びる3本の脚軸103Cが周方向等間隔で設けられたトリポード部材103と、複数の針状ころ104を介して脚軸103Cに回転可能に支持された状態で対応するトラック溝102に収容された計3つのローラ105と、を含む。トラック溝102は一対のローラ案内面102aを有しており、外側継手部材100とトリポード部材103とが相対的に角度変位及び/又は軸方向変位するとき、トラック溝102に収容されたローラ105は一対のローラ案内面102a上を転動する。
【0005】
針状ころ104を介して脚軸103Cの外周に嵌合されたローラ105は、径方向(脚軸103Cの軸方向)にスライド移動可能とされており、脚軸103Cの外周面のうち、針状ころ104の被装着部よりも径方向外側には、ローラ105及び針状ころ104と径方向で係合可能な外側ワッシャ106が装着されている。また、脚軸103Cの外周面のうち、外側ワッシャ106の被装着部よりも径方向外側には環状溝が形成されており、この環状溝に装着された止め輪107により、外側ワッシャ106(並びにローラ105及び針状ころ104)の脚軸103Cからの抜け止めがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、
図6に示すように、上記構成を有するトリポード型等速自在継手が作動角θをとるとき(外側継手部材100とトリポード部材103とが相対的に角度変位するとき)には、トリポード部材103(の脚軸103C)が、トラック溝102を画成する一対の案内面102aにより拘束されたローラ105に対してスライド移動することから、トリポード部材103の中心(中心軸)Ctは外側継手部材100の中心(中心軸)Cjに対して偏心する。この偏心量は作動角θが大きくなるほど大きくなる。
【0008】
上記のように、継手が作動角θをとってトリポード部材103が外側継手部材100に対して偏心すると、ローラ105が脚軸103Cに装着した外側ワッシャ106の外径端部に接近する。ローラ105は、トリポード部材103の偏心量(作動角θ)が大きくなるほど外側ワッシャ106の外径端部に接近する。摺動式等速自在継手の一種であるトリポード型等速自在継手では、外側継手部材100とトリポード部材103の相対的な軸方向変位も許容されていることから、外側継手部材100のカップ部101とトリポード部材103の軸方向相対位置によっては、外側継手部材100とトリポード部材103とが継手使用時(トルク伝達時)の最大作動角を超えて角度変位することも有り得る。そして、例えばトリポード型等速自在継手の運搬時等に外側継手部材100とトリポード部材103とが継手使用時の最大作動角を超えるように大きく角度変位すると、外側ワッシャ106がローラ105と止め輪107の双方に接触し、外側ワッシャ106が変形等するおそれがある。外側ワッシャ106が変形等すると、ローラ105に対するトリポード部材103の姿勢精度に狂いが生じる、ローラ105の抜け止め機能が損なわれる、などといった不都合が生じ、継手の作動性やトルク伝達性能の低下を招来するおそれがある。
【0009】
上記の実情に鑑み、本発明は、トルク伝達部材としてのローラと係合可能にトリポード部材の脚軸に装着される外側ワッシャが継手の角度変位に伴って変形等するのを可及的に防止し、もって所望の作動性やトルク伝達性能を長期間に亘って安定的に発揮することができるトリポード型等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、
有底筒状のカップ部を有し、このカップ部の内周に軸方向に延びる3本のトラック溝を周方向等間隔で画成した外側継手部材と、
軸部材がトルク伝達可能に連結される円筒状のボス部を有し、このボス部の外周面から径方向外向きに延びる3本の脚軸が周方向等間隔で設けられたトリポード部材と、
複数の針状ころを介して脚軸に回転可能に支持された状態で対応するトラック溝に収容されたローラと、
針状ころの径方向外側で脚軸の外周面に装着され、針状ころ及びローラと係合可能な外側ワッシャ、及び外側ワッシャと係合可能な止め輪とを備え、
カップ部が、円弧状の大径部及び小径部を周方向に交互に3つずつ配した断面非真円状に形成され、大径部と小径部を接続する接続部の内面に、ローラの転動を案内するローラ案内面が設けられたトリポード型等速自在継手において、
外側継手部材とトリポード部材とが所定の最大作動角を超えて相対的に角度変位したとき、外側ワッシャがローラと止め輪の双方に接触するのに先行して上記小径部の内径面に接触することにより、作動角をさらに拡大させる角度変位を規制する変位規制部をボス部に設けたことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、外側継手部材とトリポード部材とが所定の作動角を超えて相対的に角度変位するのを規制する、いわゆる角度ストッパーとしての機能がトリポード部材のボス部に設けられる関係上、外側ワッシャがローラと止め輪の双方に接触することに起因して外側ワッシャが変形等するのを防止することができる。トリポード部材のボス部は、軸部材がトルク伝達可能に連結される部分であり、金属薄板で作製されるのが一般的な外側ワッシャに比して十分に厚肉で機械的強度等に優れる。このため、ボス部(に設けた変位規制部)が小径部の内径面に接触したとしてもボス部に変形等の問題が生じるのを回避することができる。
【0012】
上記構成のトリポード型等速自在継手において、ボス部の外周面には、トリポード部材の中心軸に対してなす角度を上記最大作動角θmaxと等しくしたテーパ面を設けることができ、この場合には、テーパ面のうち、ボス部の端面側の端部(最小径部)を変位規制部として機能させることができる。このような構成によれば、ボス部の外周面に所定角度のテーパ面を設けるだけで変位規制部(角度ストッパーとしての機能)を付与することができるので、外側ワッシャの変形防止を容易にかつ安価に実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上から、本発明によれば、トリポード部材の脚軸に装着されてローラ(及び針状ころ)の抜け止め部材としても機能する外側ワッシャの変形を可及的に防止することができるので、所望の作動性及びトルク伝達性能を長期間に亘って安定的に発揮することができるトリポード型等速自在継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)図は、本発明の一実施形態に係るトリポード型等速自在継手の作動角0°の状態における正面図、(b)図は、(a)図のA-A線矢視断面図である。
【
図2】
図1に示す等速自在継手が最大作動角θmaxをとった状態を示す縦断面図である。
【
図4】
図1に示す等速自在継手が最大作動角よりも大きい作動角θ1をとった状態を示す縦断面図である。
【
図5】(a)図は、従来のトリポード型等速自在継手の作動角0°の状態における正面図、(b)図は、(a)図のX-X線矢視断面図である。
【
図6】
図5に示す等速自在継手が作動角をとった状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1(a)に、本発明の一実施形態に係るトリポード型等速自在継手1の作動角0°の状態における正面図を示し、
図1(b)に、
図1(a)のA-A線矢視断面図を示す。このトリポード型等速自在継手1(以下、単に「等速自在継手1」ともいう)は、駆動側及び従動側の二軸の角度変位及び軸方向変位を許容する摺動式等速自在継手の一種であり、一端がトリポード部材5に連結される軸部材S[
図1(b)中に破線で示す]や、軸部材Sの他端に連結される図示しない固定式等速自在継手などとともにドライブシャフトを構成する。ドライブシャフトは、例えば自動車に搭載され、車台上に搭載されたエンジンや電動モータ等の駆動源から出力される回転トルクを駆動車輪に伝達する。このドライブシャフトにおいて、トリポード型等速自在継手1は駆動源側に配置され、固定式等速自在継手は駆動車輪側に配置される。
【0017】
等速自在継手1は、有底筒状のカップ部3を有する外側継手部材2と、カップ部3の内部空間に配置された継手内部部品としてのトリポードユニットとを備える。トリポードユニットは、トリポード部材5と、複数の針状ころ9と、円筒状のローラ10とを含む。以下、等速自在継手1の構成・構造を説明する際に使用する「軸方向」、「径方向」及び「周方向」とは、特に断りがない限り、それぞれ、外側継手部材2の中心軸Cjに沿う方向[
図1(b)の紙面左右方向]、上記中心軸Cjを中心とする円の径方向、及び上記中心軸Cjを中心とする円の周方向である。
【0018】
トリポード部材5は、軸孔7が形成された円筒状のボス部6と、周方向等間隔(120°ピッチ)で配置され、ボス部6の外周面から径方向外側に延びる3本の脚軸8とを一体に有する。軸孔7の内面(ボス部6の内周面)には、軸方向に延びる複数の凸部を周方向等間隔で配置してなるスプライン(セレーションを含む)が形成されており、このスプラインに対して軸部材Sがトルク伝達可能に結合される。
【0019】
トリポード部材5に設けられた各脚軸8は、トリポード部材5の中心軸Ctに対して直交する方向に延びた径一定(円筒状)の外周面8aを有しており、この外周面8aには、複数の針状ころ9を介してローラ10が回転自在に嵌合されている。各針状ころ9は、外周面8a上を脚軸8の周方向に沿って転動可能に配置されており、各針状ころ9の径方向外側及び内側の端部は、それぞれ、脚軸8の軸端付近に装着された外側ワッシャ12、及び脚軸8の付け根部に装着された内側ワッシャ13と接している。外側ワッシャ12及び内側ワッシャ13は、板厚1.0mm程度の金属薄板からなる環状部材である。
【0020】
図3に拡大して示すように、脚軸8の外周面8aのうち、外側ワッシャ12の被装着部よりも径方向外側には環状溝8bが形成されており、この環状溝8bに外側ワッシャ12と径方向で係合可能な止め輪11が装着されている。この止め輪11により、脚軸8からの外側ワッシャ12及び針状ころ9の抜脱が規制される。外側ワッシャ12は、脚軸8の外周面8aに対して装着された円盤部12aと、径方向(脚軸8の軸方向)に延びた円筒部12bと、径方向外側に向けて徐々に拡径した拡径部12cとを一体に有する断面略L字状に形成されている。外側ワッシャ12の円筒部12bの外径寸法Daは、ローラ10の内径寸法Drよりも所定量小さく設定され、外側ワッシャ12の拡径部12cの(最大)外径寸法Dbは、ローラ10の内径寸法Drよりも所定量大きく設定される。このため、脚軸8の外周に嵌合されたローラ10は、径方向に沿って所定量スライド移動可能ではあるが、脚軸8からの抜脱は規制されている。
【0021】
外側継手部材2のカップ部3の内周には、それぞれにローラ10が収容された3本のトラック溝4が周方向等間隔(120°ピッチ)で設けられている。各トラック溝4は、互いに対向してローラ10の転動を案内する一対のローラ案内面4aを有し、ローラ案内面4aも含めて軸方向に延びた(外側継手部材2の中心軸Cjと平行な)直線状に形成されている。カップ部3は、円弧状の大径部3Aと、外径及び内径が大径部3Aのそれらよりも小さい円弧状の小径部3Bとを周方向で交互に3つずつ配した断面非真円状に形成されており、大径部3Aと小径部3Bを接続する接続部3Cの内面がローラ案内面4aとして機能する。大径部3Aの内径面(大内径面)3Aa、及び小径部3Bの内径面(小内径面3Ba)は、何れも、外側継手部材2の中心軸Cjと平行な直線状に形成されている。なお、ローラ10とローラ案内面4aの接触形態は、アンギュラコンタクト(二点接触)又はサーキュラコンタクト(一点接触)とされる。サーキュラコンタクトの場合の接触率は、1.02~1.2の範囲、好ましくは1.05~1.18の範囲とされる。
【0022】
外側継手部材2及びトリポード部材5は、例えばJIS G 4051に規定されたS45C、S53C、S55C等の機械構造用炭素鋼で作製され、高強度・高硬度であることが求められる部位に焼入れ等の高強度化処理(熱処理)が施された熱処理品とされる。外側継手部材2においては、例えば、ローラ案内面4a等が設けられるカップ部3の内径面に熱処理が施され、トリポード部材5は、軸孔7の内面も含めその表面全体に熱処理が施されている。
【0023】
本実施形態のトリポード型等速自在継手1は、
図2に示すように、最大作動角θmaxが例えば23°に設定された等速自在継手、すなわち外側継手部材2の中心軸Cjとトリポード部材5の中心軸Ctとがなす角度が0°~23°の間で使用される等速自在継手であるが、外側継手部材2のカップ部3に対するトリポード部材5の軸方向相対位置によっては、
図4に示すように、最大作動角θmax(=23°)を超える作動角(=θ1)をとることができる。なお、図示例では作動角θ1=24°としている。
【0024】
図6を参照して説明した、従来のトリポード型等速自在継手が作動角をとったときにトリポード部材103の中心軸Ctが外側継手部材100の中心軸Cjに対して偏心し、かつその偏心量は作動角が大きくなるほど大きくなる、という事象は、本実施形態のトリポード型等速自在継手1においても同様に生じる。そのため、この等速自在継手1が作動角をとってトリポード部材5が外側継手部材2に対して偏心すると、ローラ10は、作動角0°のときよりも、トリポード部材5の脚軸8に装着した外側ワッシャ12の外径端部(拡径部12cの先端部)に対して接近することになる。従って、何ら対策を講じていなければ、
図4に示すように、等速自在継手1が最大作動角θmaxを超える作動角θ1をとったときには、外側ワッシャ12が、ローラ10と止め輪11の双方に接触することによって変形等するおそれがある。
【0025】
そこで、本実施形態の等速自在継手1においては、外側継手部材2とトリポード部材5とが所定の最大作動角θmaxを超える作動角θ1(ここでは24°)に角度変位したとき、外側ワッシャ12がローラ10と止め輪11の双方に接触するのに先行してカップ部3の小径部3Bの内径面(小内径面)3Baに接触することにより、作動角をさらに拡大させる角度変位を規制する変位規制部をトリポード部材5のボス部6に設けている。具体的には、
図1(b)に示すように、ボス部6の外周面6aに、ボス部6の外径寸法をボス部6の端面6cに向けて徐々に縮小させるテーパ面であって、トリポード部材5の中心軸Ct(と平行な直線)に対してなす角度αを最大作動角θmaxと等しくしたテーパ面6bを設けており、このテーパ面6bの最小径部(ボス部6の端面6cとの連結部)6baを変位規制部Pとしている(
図4中の拡大図を参照)。
【0026】
上記のようなテーパ面6bをトリポード部材5のボス部6に設けた場合、トリポード型等速自在継手1が
図2に示すように最大作動角θmaxをとったとき、ボス部6のテーパ面6bとカップ部3の小内径面3Baとは互いに平行な状態ですきま(径方向すきま)を介して対向配置される。この状態から、外側継手部材2とトリポード部材5とがさらに角度変位し、
図4に示すように、トリポード型等速自在継手1が最大作動角θmaxを超える作動角θ1をとると、トリポード部材5のボス部6に設けたテーパ面6bの最小径部6ba(変位規制部P)がカップ部3の小内径面3Baに接触し、外側継手部材2とトリポード部材5のさらなる角度変位(作動角θ1を超えての角度変位)が規制される。
【0027】
以上で示した本実施形態のトリポード型等速自在継手1によれば、外側継手部材2とトリポード部材5とが所定の作動角(=θ1)を超えて相対的に角度変位するのを規制する、いわゆる角度ストッパーとしての機能がトリポード部材5のボス部6に設けられる関係上、環状部材としての外側ワッシャ12がローラ10と止め輪11の双方に接触することによって変形等するのを防止することができる。トリポード部材5のボス部6は、軸部材Sがトルク伝達可能に連結される部分であり、金属薄板で作製される外側ワッシャ12に比べて十分に厚肉で、かつ熱処理による高強度化・高硬度化が達成されている。このため、ボス部6(に設けた変位規制部P)がカップ部3の小内径面3Baに接触したとしてもボス部6に変形等の問題が生じる可能性は皆無に等しい。
【0028】
また、本実施形態では、ボス部6の外周面6aに設けた、トリポード部材5の中心軸Ctに対してなす角度αを上記最大作動角θmaxと等しくしたテーパ面6bのうち、ボス部6の端面6c側の端部(最小径部)6baを変位規制部Pとして機能させている。このような構成によれば、ボス部6の外周面6aに所定角度のテーパ面6bを設けるだけで変位規制部P(角度ストッパーとしての機能)を付与することができるので、外側ワッシャ12の損傷防止を容易にかつ安価に実現することができる。
【0029】
以上から、本実施形態のトリポード型等速自在継手1では、トリポード部材5の脚軸8に装着されてローラ10(及び針状ころ9)の抜け止め部材としても機能する外側ワッシャ12の損傷を適切にかつ低コストに防止することができる。従って、本実施形態のトリポード型等速自在継手1は、特段のコスト増を招来することなく、所望の作動性及びトルク伝達性能を長期間に亘って安定的に発揮することができて信頼性に富む、という特徴を有する。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明を行ったが、本発明の実施の形態はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得る。すなわち、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0031】
1 トリポード型等速自在継手
2 外側継手部材
3 カップ部
3A 大径部
3Aa (大径部の)内径面
3B 小径部
3Ba (小径部の)内径面
4 トラック溝
4a 案内面
5 トリポード部材
6 ボス部
6b テーパ面
7 軸孔
8 脚軸
9 針状ころ
10 ローラ
11 止め輪
12 外側ワッシャ
Cj 外側継手部材の中心(中心軸)
Ct トリポード部材の中心(中心軸)
S 軸部材
P 変位規制部
θmax 最大作動角
θ1 最大作動角を超える作動角