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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086277
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】固定式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/227 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
F16D3/227 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201322
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 智茂
(57)【要約】
【課題】6個ボールのアンダーカットフリー型の固定式等速自在継手において、コンパクト化及び軽量化を図ると共に、従来品と同等以上の強度、負荷容量、耐久性、及び低伝達トルクロスを達成する。
【解決手段】外輪トラック溝22の円弧部22aのボール中心軌跡の曲率中心Otoと、内輪トラック溝32の円弧部32bのボール中心軌跡L2の曲率中心Otiとが、継手中心Oに対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている。ケージ5の球面状の外周面52の曲率中心Ocoと球面状の内周面53の曲率中心Ociとが、継手中心Oに対して反対側に等距離だけオフセットしている。オフセット角ηが7°~7.1°であり、ケージオフセット量f2と総オフセット量Fとの比f2/Fが0.143~0.145である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面状の内周面に6本のトラック溝が円周方向等間隔に形成された外側継手部材と、球面状の外周面に6本のトラック溝が円周方向等間隔に形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝の間に配された6個のボールと、前記外側継手部材の球面状の内周面と嵌合する球面状の外周面、前記内側継手部材の球面状の外周面と嵌合する球面状の内周面、前記6個のボールを保持する6個のポケットを有するケージとを備え、
前記外側継手部材及び前記内側継手部材のトラック溝が円弧部及びストレート部を有するアンダーカットフリー型の固定式等速自在継手において、
前記外側継手部材のトラック溝の円弧部のボール中心軌跡の曲率中心Otoと、前記内側継手部材のトラック溝の円弧部のボール中心軌跡の曲率中心Otiとが、継手中心Oに対して軸方向反対側に等距離だけオフセットし、
前記ケージの球面状の外周面の曲率中心Ocoと球面状の内周面の曲率中心Ociとが、継手中心Oに対して反対側に等距離だけオフセットし、
前記外側継手部材のトラック溝の円弧部のボール中心軌跡の曲率中心Otoと前記ボールの中心とを結ぶ直線と、継手中心を通り軸線と直交する平面Pとが成す角度をオフセット角ηとしたとき、オフセット角ηが7°~7.1°であり、
前記ケージの球面状の外周面の曲率中心Ocoと前記継手中心Oとの軸方向距離をケージオフセット量f2とし、前記外側継手部材のトラック溝の円弧部のボール中心軌跡の曲率中心Otoと前記継手中心Oとの軸方向距離を総オフセット量Fとしたとき、ケージオフセット量f2と総オフセット量Fとの比f2/Fが0.143~0.145である固定式等速自在継手。
【請求項2】
前記内側継手部材にトルク伝達可能に連結されたシャフトを有し、
前記外側継手部材の外径Doと前記シャフトの最小径部の直径Dsとの比Do/Dsが3.76~3.80であり、
前記ボールの直径Dbと前記シャフトの最小径部の直径Dsとの比Db/Dsが0.748~0.752であり、
前記ボールのピッチ円径PCD(BALL)と前記シャフトの最小径部の直径Dsとの比PCD(BALL)/Dsが2.47~2.51であり、
前記ケージの半径方向の肉厚Tcと前記シャフトの最小径部の直径Dsとの比Tc/Dsが0.209~0.214である請求項1に記載の固定式等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
50°以上の高作動角に対応可能な固定式等速自在継手として、トラック溝のボール中心軌跡が円弧部とストレート部を有するアンダーカットフリー型の固定式等速自在継手(以下、「UJ型等速自在継手」と言う。)が知られている。UJ型等速自在継手としては、6個のボールを有するものが使用されることが多いが、ボールの個数を8個にすると共に、各ボールを小径化することにより、軽量化及びコンパクト化を図ったものも知られている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-004062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
6個ボールの等速自在継手は、8個ボールの等速自在継手に対して、トラック溝及びケージポケットの加工費が削減されるため、コスト低減になる。また、ボールの個数が減ることで、ボールの周方向間隔、すなわち、ケージのポケット間の柱部の周方向幅が大きくなるため、ケージ柱部の周方向幅を維持しながら、等速自在継手を小径化することが可能になる。
【0005】
本発明では、低コストに製作できる6個ボールのUJ型等速自在継手において、コンパクト化及び軽量化を図ると共に、従来品と同等以上の強度、負荷容量、耐久性、及び低伝達トルクロスを達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
6個ボールのUJ型等速自在継手において、ボールを小径化すると共に、ボールピッチ円を小径化すれば、軽量化及びコンパクト化が図られる。しかし、ボールを小径化したりボールピッチ円を小径化したりすると、各部品の強度低下が懸念される。そのため、例えばケージの強化が必要となるが、ケージの強度を高めるためには、肉厚を増大させる必要がある。この場合、内側継手部材のトラック溝(以下、「内輪トラック溝」と言う。)及び外側継手部材のトラック溝(以下、「外輪トラック溝」と言う。)が浅くなるため、トラック溝のエッジ部へのボールの乗り上げが生じやすくなる。
【0007】
上記のような、ケージの肉厚増大に伴うボールの乗り上げを防止する対策として、ボールとトラック溝との接触角α(図3参照)を小さくすることが有効である。また、外輪トラック溝の曲率中心の継手中心に対する軸方向オフセット量(=内輪トラック溝の曲率中心の継手中心に対する軸方向オフセット量。以下、「トラックオフセット量」と言う。)を小さくすれば、外輪トラック溝の端部における深さを深くすることができるため、高角時の外輪トラック溝エッジ部へのボールの乗り上げを防止できる。
【0008】
しかし、接触角αを小さくすると、ボールとトラック溝との接触部の面圧が高くなるため、耐久性が低下する。一方、上記のようにトラックオフセット量を小さくすることで、内輪トラック溝とボールとの接触点軌跡の長さと外輪トラック溝とボールとの接触点軌跡の長さとの差が小さくなる(図4で、L1-L2<L1’-L2’)。そのため、外輪トラック溝とボールとの間の滑り量が減少し、金属表面の疲労が低減されて耐久性が高められる。この効果が、上記のようにボールとトラック溝との接触角を小さくすることによる面圧上昇に伴う耐久性の低下と相殺されることで、耐久性が維持される。
【0009】
しかし、トルクオフセット量を小さくすると、ボールを両継手部材の二等分面上に制御するための力となるポケット荷重(ケージのポケットがボールに作用する荷重)が小さくなり、トルク入力が無い条件で継手の角度を取る場合に折り曲げトルクが増大し、引っ掛かりが発生することが経験上分かっている。この場合、トラックオフセットに加えて、ケージの外球面の曲率中心と内球面の曲率中心とを継手中心に対して軸方向反対側にオフセットさせること(以下、「ケージオフセット」と言う。)で、上記のポケット荷重を補完して、折り曲げ時の引っ掛かりを回避することができる。しかし、ケージオフセットを付与した場合、ケージに偏肉が生じる、トラック荷重等の内部力が増加する、といったデメリットがある。従って、トラックオフセット及びケージオフセットの双方を付与する場合は、これらを合わせた総オフセットとして等速自在継手に影響する。
【0010】
総オフセット量が小さいほど、ケージと各継手部材との間の球面力(球面同士が押し付け合う力)が小さくなるため、トルク損失率が小さくなる。しかし、総オフセット量を小さくしすぎると、上述のように、継手の作動の引っかかりが生じる。従って、これまで、総オフセット量は、継手を折り曲げる際に引っ掛かりが発生しない範囲で、なるべく小さく設定することが通例であった。
【0011】
本発明者は、総オフセット量の異なる複数種のUJ型等速自在継手(TYPE1~5)において、作動角とトルク損失率との関係を調べた。その結果を図5に示す。尚、TYPE1~5は、この順で総オフセット量が大きくなっている。その結果、図5に示すように、作動角が7.5°以下では、総オフセット量が小さいほどトルク損失率が小さいが、作動角が7.5より大きいと、総オフセット量が大きい方がトルク損失率が小さかった。通常、UJ型等速自在継手の常用角は5~8°程度であるため、7.5°を超える常用角で使用される場合にもトルク損失をある程度抑える必要がある。そのため、総オフセット量は、折り曲げ時の引っ掛かりが生じない範囲であっても、小さいほどよいわけではなく、ある程度大きい値であることが好ましい。
【0012】
以上の知見から、UJ型等速自在継手において、オフセット角を7°程度とし、且つ、総オフセット量に対するケージオフセット量の比率を従来品よりも高めに設定することで、軽量化及びコンパクト化を図った場合でも、従来品と同等以上の強度、負荷容量、耐久性、及び低伝達トルクロスを達成できることが明らかになった。
【0013】
具体的に、本発明に係る固定式等速自在継手は、球面状の内周面に6本のトラック溝が円周方向等間隔に形成された外側継手部材と、球面状の外周面に6本のトラック溝が円周方向等間隔に形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝の間に配された6個のボールと、前記外側継手部材の球面状の内周面と嵌合する球面状の外周面、前記内側継手部材の球面状の外周面と嵌合する球面状の内周面、前記6個のボールを保持する6個のポケットを有するケージとを備え、
前記外側継手部材及び前記内側継手部材のトラック溝が円弧部及びストレート部を有するアンダーカットフリー型の固定式等速自在継手において、
前記外側継手部材のトラック溝の円弧部のボール中心軌跡の曲率中心Otoと、前記内側継手部材のトラック溝の円弧部のボール中心軌跡の曲率中心Otiとが、継手中心Oに対して軸方向反対側に等距離だけオフセットし、
前記ケージの球面状の外周面の曲率中心Ocoと球面状の内周面の曲率中心Ociとが、継手中心Oに対して反対側に等距離だけオフセットし、
前記外側継手部材のトラック溝の円弧部のボール中心軌跡の曲率中心Otoと前記ボールの中心とを結ぶ直線と、継手中心を通り軸線と直交する平面Pとが成す角度をオフセット角ηとしたとき、オフセット角ηが7°~7.1°であり、
前記ケージの球面状の外周面の曲率中心Ocoと前記継手中心Oとの軸方向距離をケージオフセット量f2とし、前記外側継手部材のトラック溝の円弧部のボール中心軌跡の曲率中心Otoと前記継手中心Oとの軸方向距離を総オフセット量Fとしたとき、
ケージオフセット量f2と総オフセット量Fとの比f2/Fが0.143~0.145であることを特徴とする。
【0014】
上記の固定式等速自在継手(UJ型等速自在継手)が、内側継手部材にトルク伝達可能に連結されたシャフトを有する場合、このシャフトの最小径部の直径Dsを基準として、各部の寸法を以下のように設定することができる。
・外側継手部材の外径Doとシャフトの最小径部の直径Dsとの比Do/Dsが3.76~3.80である。
・ボールの直径Dbと前記シャフトの最小径部の直径Dsとの比Db/Dsが0.748~0.752である。
・ボールのピッチ円径PCD(BALL)とシャフトの最小径部の直径Dsとの比PCD(BALL)/Dsが2.47~2.51である。
・ケージの半径方向の肉厚Tcとシャフトの最小径部の直径Dsとの比Tc/Dsが0.209~0.214である。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明に係る6個ボールのUJ型等速自在継手によれば、コンパクト化及び軽量化を図ると共に、従来品と同等以上の強度、負荷容量、耐久性、及び低伝達トルクロスを達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る固定式等速自在継手の軸方向断面図である。
図2】上記固定式等速自在継手を軸方向から見た正面図である。
図3】上記固定式等速自在継手のボールとトラック溝との接触点における、軸線と直交する方向の断面図である。
図4】上半分は、上記固定式等速自在継手の軸方向断面図であり、下半分は、従来の固定式等速自在継手の軸方向断面図である。
図5】固定式等速自在継手の作動角とトルク損失率との関係を示すグラフである。
図6】固定式等速自在継手の作動角と球面力との関係を示すグラフである。
図7】本発明品及び従来品に係る固定式等速自在継手の作動角と球面力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
図1及び図2は、本発明の一実施形態に係る固定式等速自在継手であるアンダーカットフリータイプの固定式等速自在継手(UJ型等速自在継手1)を示している。このUJ型等速自在継手1は、外側継手部材2と、内側継手部材3と、6個のボール4と、ケージ5とを備える。内側継手部材3にはシャフト10が連結されており、このシャフト10が外側継手部材2から軸方向一方側(図1の右側)に突出している。このUJ型等速自在継手1は、例えば、自動車のドライブシャフトのアウトボード側端部に設けられるものであり、シャフト10(中間シャフト)の反対側の端部(インボード側端部)には摺動式等速自在継手が取り付けられる。以下では、UJ型等速自在継手1の軸線方向で、外側継手部材2からシャフト10が突出した側(図1の右側)を「継手開口側」と言い、その反対側(図1の左側)を「継手奥側」と言う。
【0019】
外側継手部材2は、球面状の内周面21に6本のトラック溝22が形成されたカップ部23と、カップ部23の底壁から突設される軸部(図示省略)とを一体に有する。内側継手部材3の球面状の外周面31には、外側継手部材2のトラック溝22と対をなす6本のトラック溝32が形成される。外輪トラック溝22と内輪トラック溝32との間に、ボール4が1個ずつ配される。ケージ5には6個のポケット51が設けられ、各ポケット51にボール4が1個ずつ収容される。
【0020】
図2に示すように、外輪トラック溝22及び内輪トラック溝32がそれぞれ、周方向に沿って所定ピッチ(この場合、60°ピッチ)で形成されている。このため、トルク伝達部材としての6個のボール4は、周方向に沿って等ピッチ(60°ピッチ)で配設されている。
【0021】
内側継手部材3は、雌スプライン部33が形成された内孔を有する(図1参照)。シャフト10の端部が内側継手部材3の内孔に嵌入され、シャフト10の端部に形成された雄スプライン部11が内側継手部材3の雌スプライン部33に嵌合することで、両者がトルク伝達可能に連結される。シャフト10の端部には周方向溝12が形成され、この周方向溝12に装着された止め輪6により、シャフト10と内側継手部材3との軸方向の抜け止めが行われる。
【0022】
外輪トラック溝22は、継手奥側に設けられた円弧部22aと、継手開口側に設けられた直線部22bとを有する。内輪トラック溝32は、継手奥側に設けられた直線部32aと、継手開口側に設けられた円弧部32bとを有する。各トラック溝22、32の円弧部22a、32bのボール中心軌跡は円弧状を成し、各トラック溝22、32の直線部22b、32aのボール中心軌跡は直線状を成す。尚、ボール中心軌跡とは、トラック溝22、32に沿ってボールを動かしたときにボール4の中心が通る軌跡である。
【0023】
外輪トラック溝22の円弧部22aのボール中心軌跡の曲率中心Otoと、内輪トラック溝32の円弧部32bのボール中心軌跡の曲率中心Otiは、継手中心Oに対して等距離F、Fだけ軸方向反対側にオフセットされている。図示例では、外輪トラック溝22の円弧部22aのボール中心軌跡の曲率中心Otoが継手中心Oに対して継手開口側にオフセットされ、内輪トラック溝32の円弧部32bのボール中心軌跡の曲率中心Otiが継手中心Oに対して継手奥側にオフセットされている。外輪トラック溝22の直線部22bは、円弧部22aの継手開口側の端部から接線方向に延び、図示例では軸方向と平行とされる。内輪トラック溝32の直線部32aは、円弧部32bの継手奥側の端部から接線方向に延び、図示例では軸方向と平行とされる。
【0024】
ケージ5の球面状の外周面52は外側継手部材2の球面状の内周面21と嵌合し、ケージ5の球面状の内周面53は内側継手部材3の球面状の外周面31と嵌合している。ケージ5の外周面52の直径は外側継手部材2の内周面21の直径と略等しく、ケージ5の内周面53の直径は内側継手部材3の外周面31の直径と略等しい。ケージ5の外周面52の曲率中心Oco(すなわち、外側継手部材2の内周面21の曲率中心)と、ケージ5の内周面53の曲率中心Oci(すなわち、内側継手部材3の外周面31の曲率中心)は、継手中心Oに対して等距離f2だけ軸方向反対側にオフセットされている。図示例では、ケージ5の外周面52の曲率中心Ocoが継手中心Oに対して継手開口側にオフセットされ、ケージ5の内周面53の曲率中心Ociが継手中心Oに対して継手奥側にオフセットされている。
【0025】
ここで、外輪トラック溝22の円弧部22aのボール中心軌跡の曲率中心Otoと継手中心Oとの軸方向距離(=内輪トラック溝32の円弧部32bのボール中心軌跡の曲率中心Otiと継手中心Oとの軸方向距離)が総オフセット量Fである。また、ケージ5の外周面52の曲率中心Ocoと継手中心Oとの軸方向距離(=ケージ5の内周面53の曲率中心Ociと継手中心Oとの軸方向距離)がケージオフセット量f2である。また、総オフセット量Fとケージオフセット量f2との差がトラックオフセット量f1である。
【0026】
図3は、ボール4とトラック溝22、32の接触点における横断面図(軸直交方向断面図)である。外側継手部材2のトラック溝22および内側継手部材3のトラック溝32の横断面形状は楕円形状やゴシックアーチ形状を有する。ボール4は、外側継手部材2のトラック溝22と2点C1、C2でアンギュラコンタクトし、内側継手部材3のトラック溝32と2点C3、C4でアンギュラコンタクトしている。
【0027】
以上のUJ型等速自在継手1の各部の寸法は、下記の表2に示す通りである。尚、表2の「従来品」は、従来のUJ型等速自在継手であり、本実施形態のUJ型等速自在継手と基準シャフト径が同じである。
【0028】
【表1】
【0029】
上記表1の各項目の定義は、以下の通りである。
【0030】
・オフセット角η
図1に示す軸方向断面において、作動角0°の状態で、継手中心Oを通り軸線と直交する平面Pと、ボール4の中心と内輪トラック溝32の円弧部32bのボール中心軌跡の曲率中心Otiとを結ぶ直線との間の角度(=平面Pと、ボール4の中心と外輪トラック溝22の円弧部22aのボール中心軌跡の曲率中心Otoとを結ぶ直線との間の角度)を、オフセット角ηとする。
【0031】
・接触角α
図3に示す横断面において、ボール4の中心と、ボール4とトラック溝22、32との各接触点C1、C2、C3、C4を通る直線と、継手中心Oを通り軸線と直交する平面Pとがなす角度を接触角αとする。
【0032】
・基準シャフト径Ds
シャフト10のうち、トルク負荷領域(軸方向両端に形成された雄スプライン部の軸方向間領域)の最小径部13の外径を基準シャフト径とする。
【0033】
・ボールのピッチ円径PCD(BALL)
外輪トラック溝22の円弧部22aのボール中心軌跡の曲率中心Otoとボール中心との距離(=内輪トラック溝32の円弧部32bのボール中心軌跡の曲率中心Otiとボール中心との距離)がPCR(図1参照)であり、PCRの2倍の値がボールのピッチ円径PCD(BALL)である。
【0034】
・ケージ肉厚Tc
作動角0°の状態で、ケージ5のうち、継手中心Oを通り軸線と直交する平面Pにおける半径方向の肉厚を、ケージ肉厚Tcとする(図1参照)。
【0035】
以下、上記のように各部の寸法を設定した理由を説明する。
【0036】
本発明品では、従来品よりも、ボール4の直径Db、ボールのピッチ円径PCD(BALL)、及び外側継手部材2の外径Doを小径化した{表1の(3)(4)(5)参照}。これにより、UJ型等速自在継手1の軽量化及びコンパクト化が図られる。
【0037】
上記のようにボールを小径化したりボールピッチ円を小径化したりすると、各部品の強度低下が懸念される。そこで、本発明品では、ケージ肉厚Tcを、従来品よりも大きくした{表1の(6)参照}。
【0038】
上記のようにケージ肉厚Tcを大きくすると、外側継手部材2及び内側継手部材3のトラック溝22、32が浅くなるため、トラック溝22、32のエッジ部へのボール4の乗り上げが生じやすくなる。そこで、本発明品では、ボール4とトラック溝22、32との接触角α(図3参照)を従来品よりも小さくしている{表1の(2)参照}。また、本発明品では、オフセット角ηを従来品よりも小さくし{表1の(1)参照}、且つ、総オフセット量Fに対するケージオフセット量f2の割合を従来品よりも大きくしている{表1の(7)参照}。すなわち、トラックオフセット量f1が、従来品よりも小さくなっている。これにより、外側継手部材2のトラック溝22の継手奥側端部における深さを深くすることができる。以上のように、接触角αを小さくすると共に、トラック溝22を深くすることで、高角時のトラック溝22のエッジ部へのボール4の乗り上げを防止できる。
【0039】
上記のように接触角αを小さくすると、ボール4とトラック溝22、32との接触部の面圧が高くなるため、耐久性が低下する。そこで、上記のようにトラックオフセット量f1を小さくすることで、内輪トラック溝32とボール4との接触点軌跡L1の長さと、外輪トラック溝22とボール4との接触点軌跡L2の長さとの差が小さくなる。すなわち、図4の上半分に示す本発明品の内輪トラック溝32とボール4との接触点軌跡L1の長さと外輪トラック溝22とボール4との接触点軌跡L2の長さとの差ΔL(=L1-L2)が、図4の下半分に示す従来品の内輪トラック溝32’とボール4’との接触点軌跡L1’の長さと外輪トラック溝22’とボール4’との接触点軌跡L2’の長さとの差ΔL’(=L1’-L2’)よりも小さくなる。これにより、外輪トラック溝22とボール4との間の滑り量が減少し、金属表面の疲労が低減されて耐久性が高められる。この効果が、上記のようにボール4とトラック溝22、32との接触角αを小さくすることによる面圧上昇による耐久性の低下と相殺されることで、耐久性が維持される。
【0040】
上記のようにトルクオフセット量f1を小さくすると、ボール4を両継手部材2、3の二等分面上に制御するための力となるポケット荷重(ケージ5のポケット51がボール4に作用する荷重)が小さくなり、トルク入力が無い条件で継手の角度を取る場合に折り曲げトルクが増大し、引っ掛かりが発生することが経験上分かっている。そこで、上記のように、トラックオフセットf1に加えて、ケージオフセットf2を設け、総オフセット量Fを確保することで、上記のポケット荷重を補完することができ、継手の折り曲げ作動性を維持することができる。
【0041】
一方、総オフセット量Fが小さいほど、ケージ5と各継手部材2、3との間の球面力(ケージ5の球面状外周面52と外側継手部材2の球面状内周面21、あるいは、ケージ5の球面状内周面53と内側継手部材3の球面状外周面31とが押し付け合う力)が小さくなるため、トルク損失率が小さくなる。従って、これまで、総オフセット量は、折り曲げ時の引っ掛かりが発生しない範囲で、なるべく小さく設定することが通例であった。
【0042】
そこで、本発明者は、オフセット角が異なる複数種のUJ型等速自在継手について、作動角とトルク損失率との関係を調べた。ここで用いた各サンプルのトラックオフセット量(オフセット角)を、下記の表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
その結果、図5に示すように、作動角7.5°以下では、オフセット角が小さいほどトルク損失率が小さい。一方、作動角7.5°以上では、オフセット角が相対的に小さいTYPE1やTYPE2が、オフセット角が相対的に大きいTYPE3~5よりもトルク損失が大きい。UJ型等速自在継手の常用角は、通常5~8°程度であるため、常用角が7.5°以下の場合だけでなく、常用角が7.5°を超える場合にもトルク損失をある程度抑える必要がある。そのため、オフセット角は小さいほど良いわけではなく、作動角が7.5°を超える場合でもトルク損失がある程度抑えられているTYPE3(オフセット角約7°)が最も好ましい。
【0045】
以上の知見から、本実施形態のUJ型等速自在継手では、オフセット角を7°程度とし{表1の(1)参照}、且つ、総オフセット量に対するケージオフセット量の比率を従来品よりも高めに設定した{表1の(7)参照}。以上により、UJ型等速自在継手の軽量化及びコンパクト化を図った場合でも、従来品と同等以上の強度、負荷容量、耐久性、及び低伝達トルクロスを達成できることが明らかになった。
【0046】
ところで、上述のように、オフセット角η(総オフセット量F)が小さいと、折り曲げ時に引っ掛かりが発生するが、このような引っ掛かりが発生する要因は明らかではなく、トラックオフセット量と引っ掛かりとの相関は明らかではなかった。
【0047】
そこで、本発明者は、UJ型等速自在継手の作動角と球面力との関係を調べた。その結果、図6に示すように、作動角10°付近で、球面力に変動が生じていた。実機で発生する折り曲げ時の引っ掛かりは、作動角10°前後から発生するため、球面力の変動が引っ掛かりに影響していると予想される。
【0048】
本発明品と従来品の作動角と球面力との関係を図7に示す。この図から、本発明品の球面力の変動幅は、従来品と同等以下であるため、トルク入力が無い場合の折り曲げトルクも従来品と同等以下であると考えられる。
【符号の説明】
【0049】
1 固定式等速自在継手(UJ型等速自在継手)
2 外側継手部材
21 内周面
22 トラック溝
22a 円弧部
22b 直線部
3 内側継手部材
31 外周面
32 トラック溝
32a 直線部
32b 円弧部
4 ボール
5 ケージ
10 シャフト
13 最小径部
Db ボール直径
Do 外側継手部材の外径
Ds 基準シャフト径
F 総オフセット量
f1 トラックオフセット量
f2 ケージオフセット量
O 継手中心
Oti 内輪トラック溝の円弧部のボール中心軌跡の曲率中心
Oto 外輪トラック溝の円弧部のボール中心軌跡の曲率中心
Oci ケージ内周面の曲率中心
Oco ケージ外周面の曲率中心
PCD(BALL) ボールピッチ円径
Tc ケージ肉厚
α 接触角
η オフセット角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7