(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086294
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/01 401
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201349
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸雄
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EB07
2C056EB29
2C056EC07
2C056EC28
2C056KB16
(57)【要約】
【課題】ウォームアップ動作のタイムアウトによるサービスコールの発生を抑制する。
【解決手段】インクジェットヘッド20内のインクの温度を適正温度範囲内に到達させるためのウォームアップ動作を行う温度調整部52と、ウォームアップ動作の開始からの経過時間が、ウォームアップ動作によりインクジェットヘッド20による印刷可能範囲の全長に亘ってインクジェットヘッド20内のインクの温度が適正温度範囲内となる所定のウォームアップ時間に到達するか否かに関わらず、ウォームアップ動作中におけるインクジェットヘッド内のインクの温度の推移に基づき、ウォームアップ動作の異常の有無を判断する判断部65とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッド内のインクの温度を適正温度範囲内に到達させるためのウォームアップ動作を行う温度調整部と、
前記ウォームアップ動作の開始からの経過時間が、前記ウォームアップ動作により前記インクジェットヘッドによる印刷可能範囲の全長に亘って前記インクジェットヘッド内のインクの温度が適正温度範囲内となる所定のウォームアップ時間に到達するか否かに関わらず、前記ウォームアップ動作中におけるインクジェットヘッド内のインクの温度の推移に基づき、前記ウォームアップ動作の異常の有無を判断する判断部と
を備えるインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷装置で用いるインクの粘度は、低温度環境下において増大し、高温度環境下で低下する。インクジェット印刷装置は、インクが適正な粘度となるようにインクの温度を調節する。ウォームアップ時のインクジェット印刷装置は、インクの温度が適正な温度に調整されると、ウォームアップを終了し印刷可能な状態に移行する。
【0003】
特許文献1では、ライン型のインクジェットヘッドの全幅でインクの温度が適正温度に調整されるウォームアップ時間が長くかかる場合に、印刷ジョブの実行完了を早めるように工夫することが提案されている。
【0004】
この提案では、記録媒体の画像を形成する矩形領域の短辺の長さに対応するインクジェットヘッドの一部の部分でインクの温度が適正温度に調整される第1のウォームアップ時間を、ウォームアップ時間と比較する。第1のウォームアップ時間がウォームアップ時間よりも短い場合は、矩形領域の短辺の方向が幅方向となるように、画像データの回転制御を行う。この提案では、第1のウォームアップ時間が過ぎたら印刷を開始して、ウォームアップ時間まで印刷を待機するよりも早く印刷ジョブを完了させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の提案は、ウォームアップ動作の開始から一定時間でインクの温度が上昇することを前提としたものである。しかし、環境温度が頻繁に機体の使用環境外温度となる寒冷地等の地域では、ウォームアップ動作を行っても、インクジェットヘッド内のインクの温度が適正温度範囲外のままウォームアップ動作がタイムアウトすることがある。ウォームアップ動作がタイムアウトするとサービスコールが発生し、ユーザが要求する印刷物を得ることができなくなる。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、インクジェット印刷装置のウォームアップ動作のタイムアウトによるサービスコールの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一つの態様によるインクジェット印刷装置は、
インクジェットヘッド内のインクの温度を適正温度範囲内に到達させるためのウォームアップ動作を行う温度調整部と、
前記ウォームアップ動作の開始からの経過時間が、前記ウォームアップ動作により前記インクジェットヘッドによる印刷可能範囲の全長に亘って前記インクジェットヘッド内のインクの温度が適正温度範囲内となる所定のウォームアップ時間に到達するか否かに関わらず、前記ウォームアップ動作中におけるインクジェットヘッド内のインクの温度の推移に基づき、前記ウォームアップ動作の異常の有無を判断する判断部と
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インクジェット印刷装置のウォームアップ動作のタイムアウトによるサービスコールの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット印刷装置を含む印刷システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2A】
図2Aは、
図1のインクジェット印刷装置のインク循環機構の構成を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、
図1のインクジェット印刷装置のライン型インクジェットヘッドの構成を説明する図である。
【
図3A】
図3Aは、
図1のインクジェット印刷装置の電源オンを挟んだ前後の時間帯におけるインクの温度の変化の一例を、標準環境下について示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、
図1のインクジェット印刷装置の電源オンを挟んだ前後の時間帯におけるインクの温度の変化の一例を、寒冷地の環境下について示すグラフである。
【
図4A】
図4Aは、
図1のインクジェット印刷装置が使用環境内の環境温度でウォームアップ動作を行った場合の、
図3BのA部におけるヘッドブロックのインクの温度変化を拡大して示すグラフである。
【
図4B】
図4Bは、
図1のインクジェット印刷装置が使用環境外の低い環境温度でウォームアップ動作を行った場合の、
図3BのA部におけるヘッドブロックのインクの温度変化を拡大して示すグラフである。
【
図5A】
図5Aは、
図1のインク循環制御部の制御によってインクジェット印刷装置が行う印刷方法の手順を示すフローチャートである。
【
図5B】
図5Bは、
図1の制御部の制御によってインクジェット印刷装置が行う印刷方法の手順を示すフローチャートである。
【
図6A】
図6Aは、
図1のインク循環制御部の制御により開始されるインク温度調整部によるウォームアップ動作の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6B】
図6Bは、
図1のインク循環制御部の制御により開始されるインク温度調整部によるウォームアップ動作の手順の他の例を示すフローチャートである。
【
図6C】
図6Cは、
図1のインク循環制御部の制御により開始されるインク温度調整部によるウォームアップ動作の手順の他の例を示すフローチャートである。
【
図6D】
図6Dは、
図1のインク循環制御部の制御により開始されるインク温度調整部によるウォームアップ動作の手順の他の例を示すフローチャートである。
【
図6E】
図6Eは、
図1のインク循環制御部の制御により開始されるインク温度調整部によるウォームアップ動作の手順の他の例を示すフローチャートである。
【
図6F】
図6Fは、
図1のインク循環制御部の制御により開始されるインク温度調整部によるウォームアップ動作の手順の他の例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、ウォームアップ動作によりインク温度が第2インク温度に到達するまでの所要時間を算出する方法を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0012】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
(印刷システムの構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット印刷装置を含む印刷システムの概略構成を示すブロック図である。
図1に示す本実施形態の印刷システムは、ユーザインタフェース等の基本操作を行うためのオペレーションシステムが組み込まれ、各種のソフトウェアの実行が可能な端末装置1と、インクジェット印刷装置2と、これらの間を有線LAN等のネットワークを介して接続するシステム通信部(図示せず)とを備える。
【0014】
(端末装置1の構成)
端末装置1は、文字、各種オブジェクト、写真等の画像データを生成するアプリケーション部11とプリンタドライバ部12と入出力部(図示せず)と印刷ジョブ送信部13を備える。アプリケーション部11及びプリンタドライバ部12は、端末装置1にインストールされたプログラムが、CPU等により解読等の処理が行われることにより構成される。アプリケーション部11で生成された画像データは、プリンタドライバ部12に出力される。
【0015】
アプリケーション部11は、矩形の印刷用紙上の所定の矩形領域(以下、所定領域)内に画像を印刷するための画像データを生成する。具体的には、アプリケーション部11は、印刷用紙A4サイズ(210mm×297mm)上の領域に含まれ、印刷用紙の形状と相似な所定領域内に、各種の画像情報が含まれるように画像データを生成する。
【0016】
プリンタドライバ部12は、印刷操作画面、印刷設定画面等の表示を入出力部の出力機能に行わせる。プリンタドライバ部12は、ユーザによって設定されたデータ(以下、印刷設定データ)と画像データに基づいて、印刷対象ジョブデータ(例えば、PDLデータ)を生成し、印刷ジョブ送信部13を介してインクジェット印刷装置2に出力する。
【0017】
この際、印刷対象ジョブデータには、印刷用紙に印刷する画像の画像データと印刷設定データとが含まれる。印刷用紙に印刷する画像が複数ページに亘る場合、印刷対象ジョブデータの画像データは各ページの画像データを含む。
【0018】
(インクジェット印刷装置の構成)
インクジェット印刷装置2は、端末装置1から送信されてきた印刷対象ジョブデータを取得し、ライン型インクジェットヘッド(以下、単にインクジェットヘッドという)を用いて、印刷対象ジョブデータを実行し、印刷用紙に画像を印刷する。
【0019】
インクジェット印刷装置2は、インクジェットヘッド20と、用紙搬送部30と、インク循環機構50と、各部を制御する制御部60とを備える。
【0020】
(用紙搬送部)
用紙搬送部30では、不図示の給紙部から給紙された印刷用紙を、不図示の中間搬送部が用紙搬送方向に搬送しながらインクジェットヘッド20の下方を通過させる。インクジェットヘッド20の下方を通過する印刷用紙には、インクジェットヘッド20から吐出されるインクにより画像が印刷される。画像が印刷された印刷用紙は、用紙搬送部30の不図示の排紙部により、インクジェット印刷装置2の外に排紙される。
【0021】
(インク循環機構)
図2Aは、
図1の印刷装置のインク循環機構の構成を示す図である。本実施形態では、一例として、インク循環機構50は、後述するインク温度調整部52を除き、各色ごとに設けられているものとし、その1色のインク循環機構50の構成を説明する。
【0022】
インク循環機構50は、インク循環経路部51とインク温度調整部52を備える。ここでは、一例として、各色に対応するインク循環機構50に対して、共通のインク温度調整部52が設けられている。
【0023】
インク循環経路部51は、インクボトル510と、下流タンク511と、上流タンク512と、ポンプ514とを備える。また、インク循環経路部51は、インクボトル510から下流タンク511につながる供給流路DRと、下流タンク511から上流タンク512、インク温度調整部52、インクジェットヘッド20を通って下流タンク511に戻る循環流路CRとを備える。
【0024】
インクボトル510から供給されたインクは、供給流路DRを通って下流タンク511に一時的に溜められる。また、循環流路CRでは、下流タンク511に溜められたインクが、ポンプ514により上流タンク512に送られてから、インク温度調整部52を経てインクジェットヘッド20に導かれる。インクジェットヘッド20で印刷に用いられなかったインクは下流タンク511に戻される。
【0025】
インクジェットヘッド20のインク吐出面は、下流タンク511より高い位置に配置され、上流タンク512は、インクジェットヘッド20のインク吐出面より高い位置に配置されている。この位置関係に基づく水頭差により、上流タンク512からインクジェットヘッド20へのインク供給およびインクジェットヘッド20から下流タンク511へのインク帰還が行われる。
【0026】
インク温度調整部52は、インクジェットヘッド20内のインクの温度を適正温度範囲に到達させるための温度調整動作を行う。インクの粘度は、低温度環境下において増大し、高温度環境下で低下する。インク温度調整部52は、温度調整動作において、インクが適正な粘度となるようにインクの温度を調節する。
【0027】
インク温度調整部52は、特に、インクジェット印刷装置2の電源がオンされた際に、ウォームアップ動作として温度調整動作を行う。ウォームアップ動作は、インクジェット印刷装置2の電源のオフ中に適正温度範囲外の温度となったインクジェットヘッド20内のインクを、適正温度範囲内の温度に調整するための動作である。ウォームアップ動作によりインクジェットヘッド20内のインクの温度が適正温度範囲内の温度に調整されると、インクジェット印刷装置2は、印刷用紙に画像を印刷することが可能な状態となる。
【0028】
インク温度調整部52は、下流タンク511と上流タンク512との間に設けられ、インクを温めるためのヒータ513を備える。インク温度調整部52には、インクを冷却するためのインク冷却器(図示せず)も備えられている。インク冷却器はヒートシンクを有しており、冷却効果を高めるための冷却ファンがインク冷却器のヒートシンクの近傍に設けられている。
【0029】
ヒータ513によるインクの加温と、ヒートシンク及び冷却ファンによるインクの冷却とは、インク循環経路部51のインク流路内でインク循環が行われた状態で、供給流路DRのインクの供給方向におけるインクジェットヘッド20よりも上流(上流タンク512)側の箇所において行われる。加温又は冷却されたインクがインク温度調整部52からインクジェットヘッド20に供給されることで、インクジェットヘッド20内のインクの温度が適正温度範囲に調整される。
【0030】
(インクジェットヘッド)
インクジェットヘッド20は、用紙搬送部30の上方に配置されている。インクジェットヘッド20は、用紙搬送部30が搬送する印刷用紙に対して、所定の間隔おきに、用紙搬送方向と直交する印刷幅方向への画像形成を、インク吐出により行う。本実施形態のインクジェット印刷装置2では、用紙搬送方向(X軸方向)に沿って、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、K(ブラック)、C(シアン)の順に4つのインクジェットヘッド20が設けられている。印刷用紙には、用紙搬送方向に搬送されながら、各インクジェットヘッド20から吐出された各色のインクによる画像が形成される。各色の画像は印刷用紙に重ねて印刷され、カラー画像を構成する。
【0031】
図2Bは、
図1の印刷装置のライン型インクジェットヘッドの構成を説明する図である。
図2Bでは、4つのインクジェットヘッド20のうち1つのインク色に対応する1つのインクジェットヘッド20を代表して示している。
【0032】
インクジェットヘッド20は、6つのヘッドブロック200を有している。6つのヘッドブロック200は、X軸方向(用紙搬送方向)に2列に分けて配置されている。各列の3つのヘッドブロック200は、Y軸方向(用紙幅方向)に等間隔で配置されている。2つの列のヘッドブロック200は、Y軸方向(用紙幅方向)にずらして千鳥状に配置されている。各ヘッドブロック200の端部は、Y軸方向(用紙幅方向)の一番外側の端部を除いて、隣の列のヘッドブロック200のうちY軸方向(用紙幅方向)において一番近いヘッドブロック200の端部と重なっている。ヘッドブロック200は6つに限ったものではなく、用紙サイズにより少なくても、多くてもよい。
【0033】
各ヘッドブロック200は、用紙搬送部30が搬送する印刷用紙に対向する下面に、Y軸方向(用紙幅方向)並べた複数のノズルを有している。搬送中の印刷用紙が下方を通過するタイミングに合わせて、各列のヘッドブロック200がノズルからインクを吐出することで、Y軸方向(用紙幅方向)の1ライン分の画像を印刷用紙に印刷することができる。各ヘッドブロック200のノズルからインクを吐出させる方式は、ピエゾ素子方式、静電方式や、膜沸騰インクジェット方式等任意である。
【0034】
各ヘッドブロック200はインク温度検出部24を内蔵している。インク温度検出部24は、ヘッドブロック200内のインクの温度を検出する。本実施形態では、インクジェットヘッド20の各ヘッドブロック200がそれぞれ検出するインクの温度の、各ヘッドブロック200の配置に対応した分布が、各色のインクジェットヘッド20間で共通しているものとする。
【0035】
(制御部)
制御部60は、端末装置1からインクジェット印刷装置2に送信されてきた印刷対象ジョブデータを受信した通信部22から、受信した印刷対象ジョブデータを受け取る。制御部60は、インク温度調整制御部61と、インク循環制御部62と、適正温度範囲判定部63と、ウォームアップ時間算出部64と、異常判定部65(判断部)と、画像制御部66と、インク吐出制御部67と、用紙搬送制御部68とを備える。
【0036】
(インク温度調整制御部及びインク循環制御部)
インク温度調整制御部61は、各色のインクジェットヘッド20について、インク温度検出部24が検出する各ヘッドブロック200のインクの温度に基づいて、各ヘッドブロック200内のインクの温度が適正温度範囲内になるようにインク温度調整部52を制御する。インク循環制御部62は、インク循環機構50内でインク循環を行わせるようにポンプ514を制御する。また、インク循環制御部62は、インクの温度調整動作を行う場合に、インク温度調整部52による温度調整動作を開始させる。インク循環制御部62がインク温度調整部52に開始させる温度調整動作は、ウォームアップ動作を含む。
【0037】
(適正温度範囲判定部)
適正温度範囲判定部63は、通信部22が印刷対象ジョブデータを受信したときに、インクジェットヘッド20内の、画像データに含まれる所定領域にインクを吐出するのに用いるヘッドブロック200内のインクの温度が適正温度範囲であるか否かを判定する。インクの温度が適正温度範囲であるか否かは、インクジェットヘッド20の全てのヘッドブロック200内のインクの温度から判定してもよく、インクジェットヘッド20の一部のヘッドブロック200内のインクの温度から判定してもよい。インクジェットヘッド20の一部のヘッドブロック200は、例えば、所定領域にインクを吐出するのに用いるヘッドブロック200から選ぶことができる。
【0038】
(ウォームアップ時間算出部)
ウォームアップ時間算出部64は、適正温度範囲判定部63によりインクの温度が適正温度範囲外と判定された場合に、所定領域にインクを吐出するヘッドブロック200のインクの温度が適正温度範囲に達するまでのウォームアップ時間を算出する。ウォームアップ時間は、例えば、インクジェット印刷装置2の環境温度が標準温度である場合の計算式を用いて、所定領域にインクを吐出するヘッドブロック200のインク温度検出部24が検出したインクの温度に基づいて算出することができる。ウォームアップ時間は、インクの組成等を考慮しインクの色別に異なる方法で算出してもよい。
【0039】
(異常判定部)
異常判定部65は、インク温度検出部24が検出する各ヘッドブロック200のインクの温度と、インクジェット印刷装置2を設置した場所の環境温度とに基づいて、インク温度調整部52による温度調整動作(ウォームアップ動作を含む)を制御する。また、異常判定部65は、インク温度調整部52によるウォームアップ動作の開始からの時間を、ウォームアップ時間算出部64が算出するウォームアップ時間を基準にして管理する。
【0040】
図3Aは、インクジェット印刷装置2の電源オンを挟んだ前後の時間帯におけるインクの温度の変化の一例を、標準環境下について示すグラフである。
図3Aのハッチングを入れた部分は、インクジェット印刷装置2が使用環境外となるインクの温度の領域を示している。使用環境の温度のインクは、インク温度調整部52の温度調整動作だけでは適正温度範囲内の温度に調整できない。
【0041】
異常判定部65は、電源オン時の環境温度が使用環境外の温度でない場合は、インク温度調整部52にウォームアップ動作を行わせる。
図3Aでは、電源オン時のインクの温度が第1インク温度よりも低いため、電源オン時に、ヘッドブロック200のインクを加温するウォームアップ動作をインク温度調整部52に行わせる場合を示している。インクが第1インク温度以上に加温されると、インクジェット印刷装置2が使用可能となり、印刷用紙への画像の印刷動作が許可される。
【0042】
ウォームアップ時間算出部64が算出するウォームアップ時間は、例えば、
図3Aの電源オンからインクの温度が第1インク温度以上となるまでの期間に対応する時間とすることができる。異常判定部65は、インク温度調整部52に行わせるウォームアップ動作が、例えば、ウォームアップ時間算出部64が算出するウォームアップ時間を過ぎてもインクの温度が第1インク温度以上とならない場合に、異常発生によるサービスコールの対象とし、ウォームアップ動作を打ち切らせてもよい。
【0043】
図3Bは、インクジェット印刷装置2の電源オンを挟んだ前後の時間帯におけるインクの温度の変化の一例を、寒冷地の環境下について示すグラフである。寒冷地の場合は、インクジェット印刷装置2の電源オフ中に、インクジェット印刷装置2の設置場所の室内加温(室内暖房)が停止されることがある。室内加温の停止中には、ヘッドブロック200のインクの温度が使用環境外の温度に低下する場合がある。
【0044】
ヘッドブロック200のインクの温度が使用環境外の温度である時に、インクジェット印刷装置2の電源がオンされて、インク温度調整部52によるウォームアップ動作が行われても、ウォームアップ動作だけではヘッドブロック200のインクを適正温度範囲内の温度に調整できない。しかし、インクジェット印刷装置2の設置場所の室内加温を開始した後に、インクジェット印刷装置2の電源がオンされた場合は、
図3Bに示すように、室内加温によるインクの加温分が加わって、インクの温度を第1インク温度以上に加温することができる。
【0045】
インクジェット印刷装置2の設置場所が室内加温されているか否かは、例えば、インクジェット印刷装置2の電源オンによるウォームアップ動作の開始直後におけるヘッドブロック200のインクの温度変化の傾きによって判定することができる。
図4A及び
図4Bは、使用環境内及び使用環境外の環境温度でインクジェット印刷装置2がそれぞれウォームアップ動作を行った場合の、
図3BのA部におけるヘッドブロック200のインクの温度変化を拡大して示すグラフである。
【0046】
インクジェット印刷装置2の電源オン時のインク温度INKxBaseに対する、ウォームアップ動作によって加温されたインクの温度上昇の傾きΔInktmp/Δtは、例えば、使用環境内の温度の空間にインクジェット印刷装置2が設置されている場合は、
図4Aに示すように、インク温度調整部52の温調能力に応じたペースで加温される。
【0047】
一方、例えば、寒冷地に設置されたインクジェット印刷装置2が、例えば、使用環境外の温度に低下した環境温度の中でウォームアップ動作を開始すると、環境温度の低さのために、ウォームアップ動作を行ってもインク温度が通常のペースでは上昇しない。
図4Bに示す、使用環境外の低い環境温度でウォームアップ動作を行った場合のインクの温度上昇の傾きΔInktmp/Δtは、
図4Aに示す、使用環境内の環境温度でウォームアップ動作を行った場合のインクの温度上昇の傾きΔInktmp/Δtよりも、傾斜が緩くなる。
【0048】
ウォームアップ動作によるインクの加温が使用環境内の環境温度で行われる場合は、インク温度調整部52の温調能力に応じたペースでインクが加温されるので、ウォームアップ動作によってウォームアップ時間内にインクの温度を第1インク温度以上に調整できることが期待される。しかし、使用環境外の低い環境温度でウォームアップ動作によるインクの加温が行われる場合は、インク温度調整部52の温調能力に応じたペースよりも遅いペースでしかインクが加温されないので、ウォームアップ動作が正常に行われても、ウォームアップ時間内にインク温度が第1インク温度以上に調整されない可能性がある。よって、ウォームアップ時間算出部64が算出するウォームアップ時間を基準にして、ウォームアップ動作が正常に行われているか否かを判定すると、ウォームアップ動作が正常に行われていても、インクの温度が第1インク温度以上に加温される前にウォームアップ動作が打ち切られ、サービスコールの対象となってしまう。
【0049】
そこで、異常判定部65は、ウォームアップ動作によるインクの温度上昇の傾きΔInktmp/Δtから、インク温度調整部52によるウォームアップ動作が正常であるか否かを判定し、ウォームアップ動作が正常であると判定した場合は、ウォームアップ動作の開始から、ウォームアップ時間算出部64が算出したウォームアップ時間が経過しても、さらに長い時間にウォームアップ時間を延長する。
【0050】
なお、ウォームアップ動作が正常であるか否かの判定は、低い環境温度の中でウォームアップ動作を開始した場合に限って行ってもよい。
図3Bの第2インク温度は、低い環境温度の中でウォームアップ動作を開始したか否かをインク温度から判定するための閾値とすることができる。第2インク温度は、上述した第1インク温度よりも低い温度であり、かつ、使用環境外の範囲に属する温度である。例えば、ウォームアップ動作の開始前のヘッドブロック200のインク温度が第2インク温度よりも低い温度である場合に、低い環境温度の中でウォームアップ動作を開始したと判定してもよい。
【0051】
ウォームアップ動作が正常であるか否かの判定は、例えば、インクジェット印刷装置2が寒冷地モードに設定されている場合に限って行うようにしてもよい。
【0052】
(画像制御部)
画像制御部66は、印刷対象ジョブデータが通信部22により受信された場合、印刷対象ジョブデータを取得し、以下の処理を行う。画像制御部66は、印刷対象ジョブデータに対する画像処理を行なう。具体的には、画像制御部66は、印刷対象ジョブデータのRIP処理等の展開処理を行い、ビットマップ展開された画像データ(以下、単に画像データという)と、印刷設定データ(印刷枚数データ、印刷用紙向きデータ、印刷用紙のサイズデータ)を取得する。
【0053】
画像制御部66は、画像データの色変換処理、二値化処理、中間調処理等を行う。画像処理後の画像データはドットデータとして表現され、画像制御部66は、メモリ上の記憶領域であるドットデータ記憶部(図示せず)に記憶する。各ドットデータは、例えば、1~7ドロップを示すデータであり、上記所定領域内の各画素位置に対応づけられる。
【0054】
画像制御部66は、インク吐出制御部67に対して、ドットデータ記憶部に記憶されたドットデータに基づいて、インクジェットヘッド20を用いて、印刷用紙に印刷を行うように指示する。また、画像制御部66は、用紙搬送制御部68に対して、給紙部により印刷用紙の給紙を開始するように指示する。
【0055】
(インク吐出制御部及び用紙搬送制御部)
インク吐出制御部67は、ドットデータ記憶部に記憶された画像処理後のドットデータに基づいて、画素位置毎のインク吐出量を算出し、インクジェットヘッド20のドライバに出力する。
【0056】
用紙搬送制御部68は、用紙搬送部30の動作を制御する。用紙搬送制御部68は、印刷設定データに含まれる印刷枚数データ、印刷用紙向きデータ、印刷用紙のサイズデータと、画像制御部66からの給紙指示に基づいて、給紙部に対して給紙制御を行う。用紙搬送制御部68は、インク吐出制御部67と協働して、印刷用紙への画像形成が適切に行えるように、用紙搬送部30による印刷用紙の搬送動作を制御する。
【0057】
インク吐出制御部67は、インクジェットヘッド20の各ヘッドブロック200を駆動して、印刷用紙上の画像を印刷する位置に対応する各ヘッドブロック200のノズルからインクを吐出させる。
【0058】
(印刷方法)
上述した構成のインクジェット印刷装置2を用いた印刷方法を、
図5A及び
図5Bを参照して説明する。
図5A及び
図5Bは、制御部60の制御によってインクジェット印刷装置2が行う印刷方法の手順を示すフローチャートである。
【0059】
図5Aに示すように、端末装置1により印刷対象ジョブデータの生成が行われ、印刷対象ジョブデータがインクジェット印刷装置2に送られると、通信部22は、印刷対象ジョブデータを受信し、制御部60に送る(S1)。
【0060】
画像制御部66は、印刷対象ジョブデータから、画像データ、印刷設定データを取得し(S2)、印刷設定データに含まれる印刷枚数データ、印刷用紙向きデータ、印刷用紙のサイズデータを取得する。画像制御部66は、吐出対象幅データを参照して、画像データの所定領域の長辺の長さと、短辺の長さとのうち、印刷幅方向に平行な長さ(例えば、上記短辺の長さであり、以下、印刷幅方向長さという)に対応するヘッドブロック200とを特定するデータを取得する(S3)。
【0061】
適正温度範囲判定部63は、インクジェットヘッド20の印刷幅方向における中央のヘッドブロック200に設けられたインク温度検出部24から、現在のインク温度を取得する(S4)。適正温度範囲判定部63は、印刷幅方向長さに対応するヘッドブロック200のインク温度が適正温度範囲にあるときの中央のヘッドブロック200のインク温度(適正インク温度)を取得する(S5)。
【0062】
適正温度範囲判定部63は、S4で取得した現在のインク温度と、S5で取得した適正インク温度とから、印刷幅方向長さに対応するヘッドブロック200のインク温度が適正温度範囲にあるか判定する(S6)。S6で、適正温度範囲にあると判定された(YES)場合には、S9の処理へ移行する。現在のインク温度、印刷幅方向長さに対応するヘッドブロック200のインク温度、適正インク温度がウォームアップ時間算出部64に送られ、S9の処理が行われる。印刷幅方向長さに対応するヘッドブロック200のインク温度が適正温度範囲にないと判定された場合、S13の処理へ移行する。
【0063】
ウォームアップ時間算出部64は、中央のヘッドブロック200が、現在のインク温度から適正インク温度になるまでのウォームアップ時間とを算出する(S9)。インク循環制御部62は、インク温度調整部52によるウォームアップ動作を開始させ(S10)、S11の処理に移行する。
【0064】
図5Bに示すように、適正温度範囲判定部63は、印刷幅方向における中央のヘッドブロック200に設けられたインク温度検出部24から、現在のインク温度を取得する(S11)。適正温度範囲判定部63は、中央のヘッドブロック200のインク温度(適正インク温度)に到達したか否か判定する(S12)。S12でYESと判定された場合、S13の処理へ移行する。S12でNOと判定された場合、S15の処理に移行する。
【0065】
インク吐出制御部67は、ドットデータ記憶部に記憶された画像処理後のドットデータに基づいて、所定領域に対応するヘッドブロック200のインク吐出制御を行うとともに、用紙搬送制御部68は、印刷設定データに基づいて、用紙搬送制御を行う(S13)。
【0066】
画像制御部66は、用紙枚数カウント機能に基づいて、印刷設定データに含まれる印刷枚数の印刷が終了したか否かを判断し(S14)、S14でYESと判定された場合、本処理は終了する。一方、S14でNOと判定された場合、S13の処理に移行する。
【0067】
異常判定部65は、S10で開始されたウォームアップ動作の開始からの時間が、S9でウォームアップ時間算出部64が算出したウォームアップ時間を経過したか否かを判定する(S15)。S15でNOと判定された場合、S11の処理に移行する。S15でYESと判定された場合、異常判定部65は、S10で開始されたウォームアップ動作を中止させ(S16)、サービスコールを実行させた後(S17)、本処理を終了する。
【0068】
図6Aは、インク循環制御部62の制御により
図5AのS10で開始されるインク温度調整部52によるウォームアップ動作の手順の一例を示すフローチャートである。
図6Aに示すウォームアップ動作の手順では、ヘッドブロック200内のインクの温度が適正温度範囲内でないと判定されて、ウォームアップ動作が行われた場合に、ウォームアップ動作の開始前と開始後の既定時間到達時とのインク温度を比較する。比較の結果でウォームアップ動作の異常の有無を判断し、異常と判断した場合に、インクジェット印刷装置2による印刷動作を停止させる。
【0069】
以下、詳細な手順を説明する。
図6Aの破線で示すステップは、
図6Aに示すウォームアップ動作の手順における特徴的な手順を示す。
【0070】
適正温度範囲判定部63は、インクジェット印刷装置2の電源オン時のヘッドブロック200のインク温度を、インク温度調整部52によるウォームアップ動作(温度調整)の開始前のインク温度INKxBaseとして、ヘッドブロック200のインク温度検出部24から取得する(S101)。適正温度範囲判定部63は、取得したインク温度INKxBaseを、インク温度の比較対象値CmpTmpに設定する(S103)。
【0071】
ウォームアップ時間算出部64は、インクジェット印刷装置2の電源オンに伴うインク温度の温度調整要求(温調要求)が発生しているか否かを判定する(S105)。ウォームアップ時間算出部64は、適正温度範囲判定部63によりインク温度INKxBaseが適正温度範囲外と判定されて、ウォームアップ時間を算出した場合に、電源オンに伴うインク温度の温調要求が発生していると判定することができる。温調要求が発生していない場合はS105を繰り返し、発生している場合は、インク温度調整部52によるウォームアップ動作を、インクの温度調整動作として開始する。例えば、インク温度が適正温度範囲よりも低い場合は、ヒータ513によるインクの加温を開始する。
【0072】
適正温度範囲判定部63は、ウォームアップ動作によりインク温度が適正温度範囲に到達したか否かを判定する(S109)。適正温度範囲に到達した場合は、ヒータ513等のインク温度調整部52によるウォームアップ動作(温調動作)を停止し(S111)、本処理を終了する。適正温度範囲に到達していない場合は、S113に処理を移行する。
【0073】
図6Aに示す手順において、S113の温度取得時間とは、ウォームアップ動作の開始後に、インク温度検出部24が検出したヘッドブロック200のインク温度を取得する周期毎に到来する時刻である。ウォームアップ時間算出部64は、S113において、現在時刻が温度取得時間の直近の時刻に到達したか否かを判定する。温度取得時間の直近の時刻に到達していない場合はS105の処理に移行する。温度取得時間の直近の時刻に到達した場合、ウォームアップ時間算出部64は、温度取得時間の直近の時刻を次の温度取得時間の時刻に更新する(S115)。続いて、異常判定部65は、温度調整開始後のインク温度INKxRealを取得する(S117)。異常判定部65は、S117で取得したインク温度INKxRealを、温度調整開始後のインク温度の記録として、不図示のメモリに記憶させているインク温度INKxRealに上書き記憶させる。
【0074】
異常判定部65は、温調がタイムアウトしたか否かを判定する(S121)。異常判定部65は、ウォームアップ動作の開始から経過した時間が、現在のウォームアップ時間に達すると、温調がタイムアウトしたと判定することができる。現在のウォームアップ時間のデフォルト値は、ウォームアップ時間算出部64が算出したウォームアップ時間である。温調がタイムアウトしていない場合は、S105の処理に移行する。温調がタイムアウトした場合は、異常判定部65は、ウォームアップ時間を、ウォームアップ時間算出部64が算出した時間よりも長い時間に更新する(S123)。更新後のウォームアップ時間は、例えば、更新前のウォームアップ時間に一定時間を追加した時間とすることができる。
【0075】
異常判定部65は、S117で取得したインク温度INKxRealがインク温度の比較対象値CmpTmpを上回っているか否かを判定する(S125)。インク温度INKxRealが比較対象値CmpTmpを上回っている場合、異常判定部65は、インク温度がウォームアップ動作中に上昇しているものとして、比較対象値CmpTmpを、S117で取得したインク温度INKxRealに更新し(S127)、S105に処理を移行してウォームアップ動作を継続する。インク温度INKxRealが比較対象値CmpTmpを上回っていない場合、異常判定部65は、温調エラー処理を行い(S129)、本処理を終了する。
【0076】
温調エラー処理は、例えば、インク温度調整部52によるウォームアップ動作(温調動作)を停止させる処理とすることができる。温調エラー処理では、インクジェット印刷装置2の不図示の表示デバイスにおいて、温調エラーの発生を報知する表示を行ってもよい。
【0077】
図6Bは、インク循環制御部62の制御により
図5AのS10で開始されるインク温度調整部52によるウォームアップ動作の手順の他の例を示すフローチャートである。
図6Aに示すウォームアップ動作の手順では、ウォームアップ動作の開始前と開始後の既定時間到達時とのインク温度を比較した結果で、ウォームアップ動作の異常の有無を判断した。
図6Bに示すウォームアップ動作の手順では、ウォームアップ動作(温調動作)の開始後におけるインク温度の変化の傾きを演算し、その傾きの大きさからウォームアップ動作の異常の有無を判断する。
【0078】
以下、詳細な手順を説明する。
図6Bの破線で示すステップは、
図6Bに示すウォームアップ動作の手順における特徴的な手順を示す。
【0079】
図6Bに示すウォームアップ動作の手順では、最初の手順であるS101から途中のS111まで、
図6Aに示すウォームアップ動作のS101からS111までと同じ手順を行う。
図6Bに示すウォームアップ動作のS115からS119までと、S121及びS123とにおいても、
図6Aに示すウォームアップ動作のS115からS119までと、S121及びS123と同じ手順を行う。
【0080】
図6Bに示すウォームアップ動作の手順では、
図6AのS113の手順に代えて、
図6BのS113Aの手順を行う。S113Aでは、ウォームアップ時間算出部64が、温度取得時間に到達したか否かを判定する(S113A)。
【0081】
図6Bに示す手順において、S113Aの温度取得時間とは、ウォームアップ動作の開始後に、インク温度検出部24が検出したヘッドブロック200のインク温度を取得する周期毎に到来する時刻である。ウォームアップ時間算出部64は、S113において、現在時刻が、ウォームアップ動作の開始時から所定周期Δt毎に到来する温度取得時間の直近の時刻に到達したか否かを判定する。温度取得時間の直近の時刻に到達していない場合はS105の処理に移行する。温度取得時間の直近の時刻に到達した場合、ウォームアップ時間算出部64は、温度取得時間の直近の時刻を次の温度取得時間の時刻に更新する(S115)。
【0082】
図6Bに示すウォームアップ動作の手順では、
図6AのS119と同じ手順を行った後、
図6AのS121と同じ手順を行う前に、S120の手順を行う。S120では、異常判定部65が、比較対象値CmpTmpを、S117で取得したインク温度INKxRealに更新する。また、異常判定部65が、S117で取得したインク温度INKxRealと比較対象値CmpTmpとの差分を、所定周期Δtの期間におけるインク温度の変化量ΔInktmpとする。比較対象値CmpTmpは、デフォルトではS103で設定したウォームアップ動作(温度調整)の開始前のインク温度INKxBaseであり、S117の手順の実行後は、前回のS117の手順の実行により異常判定部65が取得したインク温度INKxRealである。
【0083】
図6Bに示すウォームアップ動作の手順では、
図6AのS125の手順に代えて、
図6BのS125Aの手順を行う。S125Aでは、異常判定部65が、ステップS120で設定したインク温度の変化量ΔInktmpを所定周期Δtで除したインク温度の変化の傾きΔInktmp/Δtが、ウォームアップ動作時の基準となるインク温度の変化の傾きである温度勾配を上回っているか否かを判定する。
【0084】
傾きΔInktmp/Δtが温度勾配を上回っている場合、異常判定部65は、インク温度がウォームアップ動作中に上昇しているものとして、S105に処理を移行してウォームアップ動作を継続する。
図6AのS127の手順は、
図6BのS120の手順で既に行っているので省略される。傾きΔInktmp/Δtが温度勾配を上回っていない場合、異常判定部65は、温調エラー処理を行い(S129)、本処理を終了する。
【0085】
図6Cは、インク循環制御部62の制御により
図5AのS10で開始されるインク温度調整部52によるウォームアップ動作の手順の他の例を示すフローチャートである。
図6Bに示すウォームアップ動作の手順では、インク温度の変化の傾きΔInktmp/Δtが温度勾配を上回っている場合にウォームアップ動作を継続した。
図6Cに示すウォームアップ動作の手順では、異常動作のモードを設定可能とし、異常動作モードが許可モードに設定されている場合に限り、傾きΔInktmp/Δtが温度勾配を上回っている場合にウォームアップ動作を継続可能とする。
【0086】
そのために、
図6Cに示すウォームアップ動作の手順では、
図6Bに示すウォームアップ動作の手順のS123の後、S125Aの前に、S124の手順を追加している。S124では、異常判定部65が、異常動作モードが許可モード(MODE=許可)であるか否かを判定する。許可モードでない場合は、S125Aの手順で傾きΔInktmp/Δtが温度勾配を上回っているか否かの判定を行うことなく、S129の温調エラー処理を実行する。許可モードである場合は、S125Aの処理に移行する。
図6Cに示すウォームアップ動作の手順は、上述したS124の手順を追加したことを除き、
図6Bに示すウォームアップ動作の手順と同じである。
【0087】
図6Dは、インク循環制御部62の制御により
図5AのS10で開始されるインク温度調整部52によるウォームアップ動作の手順の他の例を示すフローチャートである。
図6Cに示すウォームアップ動作の手順では、異常動作のモードを設定可能とし、異常動作モードが許可モードに設定されている場合に限り、傾きΔInktmp/Δtが温度勾配を上回っている場合にウォームアップ動作を継続可能とした。
【0088】
既述したように、寒冷地では、使用環境外の低い環境温度でウォームアップ動作が開始され、ウォームアップ動作によるインクの温度上昇が、使用環境内の環境温度でウォームアップ動作を行った場合よりも遅いペースとなる場合がある。そこで、
図6Dに示すウォームアップ動作の手順では、ウォームアップ動作の開始前のインク温度INKxBaseが第2インク温度よりも低い温度である場合に限り、傾きΔInktmp/Δtが温度勾配を上回っている場合にウォームアップ動作を継続可能とした。
【0089】
そのために、
図6Dに示すウォームアップ動作の手順では、
図6Cに示すウォームアップ動作の手順のS124に代えて、S124Aの手順を行う。S124Aでは、異常判定部65が、ステップS101で適正温度範囲判定部63が取得したウォームアップ動作(温度調整)の開始前のインク温度INKxBaseが、第2インク温度を下回っているか否かを判定する。そして、インク温度INKxBaseが第2インク温度を下回っている場合に限り、ウォームアップ動作が正常である可能性があるものとして、S125Aの処理に移行する。
図6Dに示すウォームアップ動作の手順は、
図6CのS124の手順を上述したS124Aの手順に変更したことを除き、
図6Cに示すウォームアップ動作の手順と同じである。
【0090】
図6Eは、インク循環制御部62の制御により
図5AのS10で開始されるインク温度調整部52によるウォームアップ動作の手順の他の例を示すフローチャートである。
図6Eに示すウォームアップ動作の手順では、
図6Dに示すウォームアップ動作の手順において、傾きΔInktmp/Δtが温度勾配を上回っている場合に、ウォームアップ動作を延長する旨をインクジェット印刷装置2の不図示の表示デバイスに表示させるS126の手順を、S125Aの手順の次に追加した。
図6Eに示すウォームアップ動作の手順は、上述したS126の手順を追加したことを除き、
図6Cに示すウォームアップ動作の手順と同じである。
【0091】
図6Fは、インク循環制御部62の制御により
図5AのS10で開始されるインク温度調整部52によるウォームアップ動作の手順の他の例を示すフローチャートである。
図6Fに示すウォームアップ動作の手順では、
図6Eに示すウォームアップ動作の手順において、S120の手順の後、S121の手順の前に、S120Aの手順を追加した。
【0092】
S120Aの手順では、ウォームアップ時間算出部64が、ウォームアップ動作によりインク温度が第1インク温度に到達する予想時刻を算出し、算出した予想時刻を、ウォームアップ動作によりインク温度が適正温度に到達する時間(温調時間)として、インクジェット印刷装置2の不図示の表示デバイスに表示させる。
図6Fに示すウォームアップ動作の手順は、上述したS120Aの手順を追加したことを除き、
図6Eに示すウォームアップ動作の手順と同じである。
【0093】
なお、ウォームアップ動作によりインク温度が適正温度としての第1インク温度に到達する予想時刻は、例えば、ウォームアップ動作中のインク温度の変化と時間の経過との関係から算出することができる。但し、第2インク温度よりも低い温度からヘッドブロック200のインクのウォームアップ動作を開始したら、ウォームアップ動作が正常か否かを判定する場合は、異常と判定したら温調エラー処理によりウォームアップ動作を中止する。このため、第1インク温度へのインク温度の到達時刻を予想するのは、ウォームアップ動作でインク温度が第2インク温度まで上昇し、ウォームアップ動作の異常判定が行われなくなった後である方が合理的である。
【0094】
このことを考慮して、第2インク温度よりも低い温度からヘッドブロック200のインクのウォームアップ動作を開始した場合は、インク温度が第2インク温度に上昇するまで、第1インク温度への到達時刻予想を保留してもよい。この場合、保留を解除し第1インク温度への到達時刻予想を開始できる時点までの所要時間を「特定温度に必要な時間x」とすると、時間xの長さは、現在のヘッドブロック200のインク温度yと、先に説明した傾きΔInktmp/Δtとから、
図7に示すグラフに示す式によって求めることができる。
【0095】
以上に説明した本実施形態のインクジェット印刷装置2によれば、ウォームアップ動作のタイムアウトによるサービスコールの発生を抑制することができる。
【0096】
本発明は上記の実施形態のままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【0097】
[付記]
以上に説明した実施形態によって、以下に示す態様の発明が開示される。
【0098】
即ち、一つの態様の発明として、
インクジェットヘッド内のインクの温度を適正温度範囲内に到達させるためのウォームアップ動作を行う温度調整部と、
前記ウォームアップ動作の開始からの経過時間が、前記ウォームアップ動作により前記インクジェットヘッドによる印刷可能範囲の全長に亘って前記インクジェットヘッド内のインクの温度が適正温度範囲内となる所定のウォームアップ時間に到達するか否かに関わらず、前記ウォームアップ動作中におけるインクジェットヘッド内のインクの温度の推移に基づき、前記ウォームアップ動作の異常の有無を判断する判断部と
を備えるインクジェット印刷装置が開示される。
【0099】
そして、上記態様による発明によれば、インクジェット印刷装置のウォームアップ動作のタイムアウトによるサービスコールの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0100】
2 インクジェット印刷装置
20 インクジェットヘッド
52 インク温度調整部(温度調整部)
60 制御部
65 異常判定部(判断部)
INKxBase ウォームアップ動作開始時のインク温度
INKxReal ウォームアップ動作中のインク温度