(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086302
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】誘導加熱調理器
(51)【国際特許分類】
H05B 6/12 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
H05B6/12 314
H05B6/12 303
H05B6/12 308
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201365
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】村上 忠正
(72)【発明者】
【氏名】相田 泰志
(72)【発明者】
【氏名】今堀 洋二
【テーマコード(参考)】
3K151
【Fターム(参考)】
3K151BA93
3K151CA01
3K151CA24
(57)【要約】
【課題】鍋などの加熱対象物とそれ以外の非加熱対象物とを識別できるようにする。
【解決手段】トッププレート1に載置された載置物を誘導加熱する誘導加熱調理器100であって、トッププレート1の裏側の複数箇所に設けられた誘導近接コイル3を有するセンサ30と、複数のセンサ30の出力値又は複数の誘導近接コイル3の周波数が閾値を超えて安定している場合に、それらの出力値又は周波数を用いて載置物の形状又は材質を含む推定器具情報を推定する推定部52を備えるようにした。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トッププレートに載置された載置物を誘導加熱する誘導加熱調理器であって、
前記トッププレートの裏側の複数箇所に設けられた誘導近接コイルを有するセンサと、
複数の前記センサの出力値又は複数の前記誘導近接コイルの周波数が閾値を超えて安定している場合に、それらの出力値又は周波数を用いて前記載置物の形状又は材質を含む推定器具情報を推定する推定部を備えることを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項2】
前記推定部により推定された前記推定器具情報を登録器具情報として記憶する器具情報記憶部と、
前記推定器具情報と前記登録器具情報とを照合して、前記推定器具情報に一致する前記登録器具情報がある場合に、前記載置物の加熱を許可する加熱制限部とを備えることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱調理器。
【請求項3】
前記推定器具情報に一致する前記登録器具情報がない場合に、前記加熱制限部が、前記推定器具情報を前記登録器具情報として登録するか否かをユーザに選択させることを特徴とする請求項2記載の誘導加熱調理器。
【請求項4】
ユーザが前記推定器具情報を前記登録器具情報として登録しないことを選択した場合に、前記加熱制限部が、前記載置物の加熱を不可にすることを特徴とする請求項3記載の誘導加熱調理器。
【請求項5】
複数の前記センサそれぞれの出力値又は複数の前記誘導近接コイルそれぞれの周波数の時間的な変動に基づいて、前記載置物の移動を検知する移動検知部をさらに備え、
移動前の前記載置物を加熱する加熱コイルの加熱条件が、移動後の前記載置物を加熱する加熱コイルの加熱条件として維持されることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱調理器。
【請求項6】
前記誘導近接コイルのインダクタンス値が、3μH以上30μH以下であり、
前記センサを構成する共振用コンデンサの容量値が、50pF以上500pF以下であることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍋等の被加熱物を誘導加熱する誘導加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導加熱調理器は、鍋などの加熱対象物をトッププレートに置くと、その加熱対象物が検知されることにより、加熱動作が可能になるように構成されている。
【0003】
ところで、近年の誘導加熱調理器には、加熱対象物をトッププレートのどこにでも自由に置けるもの(以下、Any Place調理器ともいう)が開発されている。
【0004】
しかしながら、このようなAny Place調理器において、例えばアルミホイル、金属食器、硬貨、携帯電話などの加熱しようとしていない非加熱対象物がトッププレートに意図せず置かれる場合があり、その非加熱対象物が検知されて加熱動作が開始されると、火災や火傷などが生じる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0150600号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するべくなされたものであり、トッププレートに載置された載置物が、鍋などの加熱対象物であるか、それ以外の非加熱対象物であるかを識別できるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る誘導加熱調理器は、トッププレートに載置された載置物を誘導加熱する誘導加熱調理器であって、前記トッププレートの裏側の複数箇所に設けられた誘導近接コイルを有するセンサと、複数の前記センサの出力値又は複数の前記誘導近接コイルの周波数が閾値を超えて安定している場合に、それらの出力値又は周波数を用いて前記載置物の形状又は材質を含む推定器具情報を推定する推定部を備えることを特徴とするものである。
【0008】
このように構成された誘導加熱調理器によれば、推定部がトッププレートに載置された載置物の形状又は材質を含む推定器具情報を推定するので、その推定器具情報に基づいて、トッププレートに載置された載置物が、鍋などの加熱対象物であるか、それ以外の非加熱対象物であるかを識別することができる。
その結果、載置物が非加熱対象物である可能性がある場合には、その載置物の加熱を不可にすることで、火災や火傷などを防ぐことができる。
【0009】
前記推定部により推定された前記推定器具情報を登録器具情報として記憶する器具情報記憶部と、前記推定器具情報と前記登録器具情報とを照合して、前記推定器具情報に一致する前記登録器具情報がある場合に、前記載置物の加熱を許可する加熱制限部とを備えることが好ましい。
このような構成であれば、載置物が過去に登録されたものである場合に加熱が許可されるので、非加熱対象物が加熱されてしまうことを防ぐことができ、安全性の向上を図れる。
【0010】
前記推定器具情報に一致する前記登録器具情報がない場合に、前記加熱制限部が、前記推定器具情報を前記登録器具情報として登録するか否かをユーザに選択させることが好ましい。
このような構成であれば、例えば新たに使う調理器具などを適宜登録することができ、使い勝手の向上を図れる。
【0011】
ユーザが前記推定器具情報を前記登録器具情報として登録しないことを選択した場合に、前記加熱制限部が、前記載置物の加熱を不可にすることが好ましい。
このような構成であれば、載置物の加熱の可否をユーザの選択に委ねており、このようにマニュアル操作を含ませることで、使用時の自由度が向上する。
【0012】
ところで、Any Place調理器は鍋などの配置の自由度が高いので、鍋の移動が従来よりも多くなりがちである。具体的には、鍋などを持ち上げて再びトッププレートに置くことで、鍋などが移動してしまう頻度が高くなる。
その結果、鍋などの移動時に加熱の一時停止や加熱条件のリセットが発生してしまい、調理が滞るといった問題が生じる。
【0013】
そこで、複数の前記センサそれぞれの出力値又は複数の前記誘導近接コイルそれぞれの周波数の時間的な変動に基づいて、前記載置物の移動を検知する移動検知部をさらに備え、移動前の前記載置物を加熱する加熱コイルの加熱条件が、移動後の前記載置物を加熱する加熱コイルの加熱条件として維持されることが好ましい。
このような構成であれば、載置物の移動前後において加熱条件が引き継がれるので、鍋などの移動が多くなりがちなAny Place調理器においても、滞りなく調理することが可能となる。
【0014】
前記誘導近接コイルのインダクタンス値が、3μH以上30μH以下であり、前記センサを構成する共振用コンデンサの容量値が、50pF以上500pF以下であることが好ましい。
このような構成であれば、数MHz程度の最適な発振周波数を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、鍋などの載置物が加熱対象物であるか非加熱対象物であるかを識別することができ、載置物が非加熱対象物である可能性がある場合には、その載置物の加熱を禁止などすることで、火災や火傷などを防ぐことができ、安全性の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る誘導加熱調理器の全体構成を示す模式図。
【
図2】同実施形態の加熱コイル及びセンサコイルを示す模式図。
【
図3】同実施形態の位置検出用センサの構成を示す模式図。
【
図4】同実施形態の制御機器の機能を示す機能ブロック図。
【
図5】センサコイルのインダクタンス値と被加熱物の位置との相関を示すグラフ。
【
図6】同実施形態の推定部の動作を説明するための模式図。
【
図7】同実施形態の推定部の動作を説明するためのフローチャート。
【
図8】被加熱物の移動に伴いインダクタンス値の変動を示すグラフ。
【
図9】同実施形態の移動検知部の動作を説明するためのフローチャート。
【
図10】材質の違いによるインダクタンス値及び直列抵抗値の挙動を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る誘導加熱調理器の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態に係る誘導加熱調理器は、トッププレートに載置された調理用鍋などの調理器具たる被加熱物を誘導加熱するものであり、被加熱物をトッププレートのどこにでも自由に置いて加熱できるように構成されている。
【0019】
具体的に誘導加熱調理器100は、
図1に示すように、被加熱物が置かれるトッププレート1と、被加熱物を加熱するための複数の加熱コイル2と、被加熱物の位置を検出するためのセンサコイル3と、加熱コイル2に交流電流を供給するインバータ回路4と、インバータ回路4を制御する制御機器5とを備えている。
【0020】
トッププレート1は、表側に被加熱物が置かれる平坦な載置面を有するものであり、例えばガラスやセラミックなどの電気絶縁材料からなる平板状のものである。
【0021】
加熱コイル2は、トッププレート1の裏側に設けられており、ここでは
図1に示すように、複数の加熱コイル2が、平面視において二次元アレイ状(縦横マトリクス状)をなすように配置されている。
【0022】
より具体的に説明すると、
図2に示すように、共通の基板Bに一対の加熱コイル2が設けられており、この基板Bが平面視において二次元アレイ状(縦横マトリクス状)をなすように敷設されている。
【0023】
各加熱コイル2は、基板Bに設けられたシート状をなすものであり、具体的にはフォトレジスト等により作成されたプリント基板として形成されたものである。ここでは、複数の加熱コイル2それぞれが、同じ形状及び大きさのものであるが、形状及び大きさは適宜変更して構わない。また、加熱コイル2としては、リッツ線を巻回してなるものを用いても構わない。
【0024】
なお、上述した構成において、
図1及び
図2に示すように、基板B上や互いに隣り合う基板Bの間には温度センサTが設けられており、被加熱物や加熱コイル2の温度を検知できるようにしてある。
【0025】
センサコイル3は、トッププレート1の裏側に設けられており、具体的には上述した基板Bに設けられた誘導近接コイルである。
【0026】
このセンサコイル3は、トッププレート1に置かれた被加熱物の位置を検出するためのものであり、
図3に示すように、共振用コンデンサ31、発振用アンプ32、発振周波数検知回路33、及び制御部34などとともに位置検出用センサ30を構成するものである。
なお、センサコイル3のインダクタンス値は、3μH以上30μH以下であることが好ましく、共振用コンデンサ31の容量値は、50pF以上500pF以下であることが好ましい。
【0027】
ここで、上述した基板Bは、
図2に示すように、加熱コイル2が設けられた加熱コイル層B1と、センサコイル3が設けられたセンサ層B2とを有しており、これらの層を絶縁層を介して積層して一体化させたものである。なお、本実施形態では、センサ層B2がトッププレート1側に位置し、加熱コイル層B1がセンサ層B2に対してトッププレート1の反対側に位置するように積層されている。
【0028】
かかる構成により、加熱コイル2とセンサコイル3とが一体的に設けられるとともに、加熱コイル2に対してセンサコイル3が位置決めされる。つまり、敷設された複数枚の基板Bそれぞれにおいて、加熱コイル2とセンサコイル3との相対的な位置関係が共通している。
【0029】
インバータ回路4は、電源から供給される交流電圧を任意の駆動周波数に変換して加熱コイル2に出力するものである。ここでのインバータ回路4は、スイッチング素子を用いたハーフブリッジ方式のものであるが、フルブリッジ方式のものを用いても構わない。
【0030】
制御機器5は、物理的にはCPU、メモリ、入力手段などを備えるものであり、機能的には、前記メモリの記憶されたプログラムに従ってCPUやその周辺機器が協働することにより、
図4に示すように、インバータ制御部51及び推定部52としての機能を発揮するものである。
【0031】
インバータ制御部51は、電源から供給される実際の電力である実電力を算出するとともに、その実電力がユーザの設定した火力に対応する目標電力に近づくように、上述した駆動周波数を制御するものである。ただし、インバータ制御部51としては、上述したスイッチング素子のオン・オフのデューティ比を制御するものであっても良い。
【0032】
本実施形態のインバータ制御部51は、トッププレート1に置かれた被加熱物の下方又はその近傍に位置する加熱コイル2にのみ選択的に通電できるように構成されている。
【0033】
具体的にこのインバータ制御部51は、後述する推定部52により推定された被加熱物の形状を取得し、その被加熱物の下方又はその近傍に位置している加熱コイル2にのみ選択的に通電するようにしている。
【0034】
推定部52は、上述した位置検出用センサ30の出力値に基づいて、トッププレート1に載置された載置物の形状又は材質を含む情報(以下、推定器具情報という)を推定する。
【0035】
なお、載置物とは、上述した鍋などの被加熱物たる加熱対象物に限らず、加熱しようとしていないにも関わらず意図せずにトッププレート1に載置された非加熱対象物(例えば、アルミホイル、金属食器、硬貨、携帯電話など)をも含む。
【0036】
ここで、本実施形態の位置検出用センサ30は、センサコイル3のインダクタンス値を出力するものであり、このインダクタンス値は、センサコイル3の上方或いはその近傍に載置物が位置しているか否かにより変動する。
【0037】
より詳細には、
図5に示すように、位置検出用センサ30から出力されるインダクタンス値は、載置物からセンサコイル3までの距離に応じて変動する値であり、例えば、センサコイル3から離れた位置にある載置物をセンサコイル3に近づけていくと(
図5におけるxが大きくなると)、インダクタンス値は減少する。
【0038】
そこで、推定部52は、位置検出用センサ30から出力されるインダクタンス値と予め設定した閾値とを比較して、載置物の底面の形状を推定する。なお、ここでいう形状とは、外形と大きさとを含む意味であっても良いし、外形のみを意味するものであっても良いし、大きさのみ意味するものであっても良い。
【0039】
より具体的に説明すると、推定部52は、閾値よりも低いインダクタンス値を出力するセンサコイル3を特定し、それらのセンサコイル3の位置やインダクタンス値に基づいて載置物の底面の形状を推定する。
【0040】
例えば、
図6に示すように、5つのセンサコイル3(1)~3(5)の出力値が閾値を下回っており、その周囲に位置する6つのセンサコイル3(6)~3(11)の出力値が閾値以上である(すなわち、反応がない又は反応がわずかである)場合を取り上げて説明する。
なお、以下では説明の便宜上、センサコイル3(1)~3(5)を反応ありコイルと言い、センサコイル3(6)~3(11)を反応なしコイルと言う。
【0041】
まず、
図7に示すように、トッププレート1に加熱対象物又は非加熱対象物が載置されてセンサコイル3のインダクタンス値が低下すると(S1)、推定部52が、センサコイル3のインダクタンス値が安定しているか否かを判断する(S2)。
【0042】
より具体的に説明すると、推定部52は、複数のセンサコイル3のそれぞれインダクタンス値、又は、それらのインダクタンス値の最大値或いは平均値(以下、算出値という)などが所定時間に亘り所定範囲内に収まっているか否かを判断する。
【0043】
そして、センサコイル3のインダクタンス値又は算出値が所定時間に亘り所定範囲内に収まっている場合に、推定部52は、センサコイル3のインダクタンス値が安定していると判断し、それ以外の場合は、S1の判断を繰り返す。
【0044】
センサコイル3のインダクタンス値が安定していると判断した後、推定部52は、複数の反応ありコイルの位置やインダクタンス値を用いて、載置物の底面の形状を推測する(S3)。
【0045】
より具体的に説明すると、
図6に示すように、それぞれのセンサコイル3に対して例えば円形状の検知エリアが設定されており、この検知エリアに載置物の少なくとも一部が載置されている場合に、そのセンサコイル3の出力値が閾値を下回る。
【0046】
そこで、推定部52は、載置物の底面の少なくとも一部が、反応ありコイルそれぞれの検知エリアの内側に位置するとともに、反応なしコイルそれぞれの検知エリアの外側に位置しているものとして、その底面の形状を推定する。
【0047】
本実施形態の制御機器5は、載置物がトッププレート1に置かれた際に、その形状をユーザに確認するように構成されており、仮にその形状が円形状である場合、推定部52は、センサコイル3の検知エリアと載置物との位置関係が上述した条件を満たすように、例えば複数点最小包含円等のアルゴリズムを用いて、載置物の底面の形状を推定する。
【0048】
ここで、本実施形態の制御機器5は、
図4に示すように、器具情報記憶部53及び加熱声援部54としての機能をさらに備えている。
【0049】
器具情報記憶部53は、上述した推定部52により推定された推定器具情報を登録器具情報として記憶するものである。なお、推定器具情報には、載置物の形状のみならず、その形状を推定する際に用いられたセンサコイル3のインダクタンス値も含まれている。
【0050】
より具体的に説明すると、
図7のS3において、推定部52が載置物の底面の形状を推定すると、加熱声援部54は、その形状を含む推定器具情報と、器具情報記憶部53に記憶されている登録器具情報とを照合して、推定器具情報に一致する登録器具情報があるか否かを判断する(S4)。
【0051】
そして、S4において、推定器具情報と一致する登録器具情報がない場合、加熱声援部54は、所定のメッセージを出力するなどして、その推定器具情報を登録器具情報として登録するか否かをユーザに選択させる(S5)。
【0052】
S5において、操作ボタンやタッチパネル等の入力手段を介して、ユーザにより推定器具情報を新たに登録することが選択されると、その推定器具情報が登録器具情報として器具情報記憶部53に記憶されるとともに、加熱声援部54が、その載置物の加熱を許可する。これにより、インバータ制御部51が、インバータ回路4を制御して、その載置物を設定された火力で加熱するための加熱動作が開始される。
【0053】
一方、S5において、ユーザにより推定器具情報を登録しないことが選択された場合、或いは、ユーザからの回答がない場合、加熱声援部54が、載置物の加熱を不可にする。
【0054】
また、S3に戻り、推定器具情報と一致する登録器具情報がある場合、加熱声援部54は、載置物の加熱を許可する。これにより、インバータ制御部51が、インバータ回路4を制御して、その載置物を設定された火力で加熱するための加熱動作が開始される。
【0055】
続いて、上述した動作により載置物の加熱が許可されると、本実施形態の制御機器5は、
図4に示すように、載置物の移動を検知する移動検知部55としての機能をさらに発揮する。
【0056】
この移動検知部55は、複数の位置検出用センサの出力値、言い換えれば複数のセンサコイル3それぞれのインダクタンス値の時間的な変動に基づいて、載置物が移動しているか否かを判断する。
【0057】
より具体的に説明すると、
図8に示すように、調理中に鍋などの被加熱物をトッププレート1上で移動させると、センサコイル3のインダクタンス値が変動することから、移動検知部55は、このインダクタンス値の変動に基づいて被加熱物の移動を検知する。
【0058】
より具体的に説明すると、
図9に示すように、移動検知部55は、加熱が許可された後、被加熱物を検知しているセンサコイル3のインダクタンス値が時間的に安定しているか否かを判断する(T1)。
【0059】
具体的には、上述したS2における判断と同様に、複数のセンサコイル3のそれぞれインダクタンス値、又は、それらのインダクタンス値の最大値或いは平均値(以下、算出値という)などが所定時間に亘り所定範囲内に収まっているか否かを判断する。
【0060】
T1において、インダクタンス値が時間的に安定していると判断した場合(
図8のグラフにおける右側参照)、移動検知部55は、被検知物が静止しているものとして、その後もT1の判断を繰り返す。
【0061】
一方、T1において、出力値が安定せずに変動していると判断した場合(
図8のグラフにおける中央部参照)、移動検知部55は、他の被加熱物を検知しているセンサコイル3以外の全てのセンサコイル3が金属無検知であるか否かを判断する(T2)。
【0062】
T2において、全てのセンサコイル3が金属無検知である場合、被加熱物がトッププレート1上から離れた場所に移動したとして、加熱を不可にする。
【0063】
一方、T2において、金属を検知しているセンサコイル3がある場合、そのセンサコイル3は、被検知物を検知していることになるので、そのセンサコイル3のインダクタンス値に応じて火力を調整する(T3)。
【0064】
その後、移動検知部55は、複数のセンサコイル3のインダクタンス値の時間的な変動から、被加熱物のトッププレート1上の平面的な移動を検知する(T4)。
【0065】
T4において、被加熱物の移動が検知されない場合、例えば、被加熱物がトッププレート1から持ち上げられて再び同じ場所に置かれたことなどが考えられ、この場合、移動検知部55は、インダクタンス値が時間的に安定しているかを判断する(T5)。
【0066】
一方、T4において、被加熱物の移動が検知された場合、被加熱物がトッププレート1上で他の場所に移動したと考えられ、この場合、移動検知部55は、インダクタンス値が時間的に安定しているかを判断する(T6)。
【0067】
T5において、インダクタンス値が時間的に安定している場合は、加熱許可が継続されるとともに、T4の前後において被加熱物を加熱する加熱コイル2の加熱条件が維持され、一方で、インダクタンス値が時間的に安定せずに変動している場合は、T2の判断に戻る。
なお、加熱条件とは、加熱コイル2の駆動周波数や、加熱コイル2に対応するインバータ回路4におけるスイッチング素子のデューティ比などである。
【0068】
T6において、インダクタンス値が時間的に安定している場合は、移動後の載置物が、移動前に加熱されていた被加熱物と同一であるか否かが判断され(T7)、一方で、インダクタンス値が時間的に安定せずに変動している場合は、T2の判断に戻る。
【0069】
T7の判断では、移動後の載置物の推定器具情報(形状やインダクタンス値)と、移動前の被加熱物の推定器具情報(形状やインダクタンス値)とが比較されて、それらが一致する場合は、移動後の載置物が移動前に加熱されていた被加熱物と同一であると判断され、不一致の場合は、移動後の載置物が移動前に加熱されていた被加熱物と異なるものであると判断される。
【0070】
T7において、移動後の載置物が移動前の被加熱物と同一であると判断された場合、移動後の載置物の加熱許可が継続されるとともに、加熱条件として移動前の被加熱物の加熱条件が維持される。
【0071】
一方、T7にいて、移動後の載置物が移動前の被加熱物と異なるものであると判断された場合は、加熱不可となる。
【0072】
このように構成した誘導加熱調理器100によれば、推定部52がトッププレート1に載置された載置物の形状又は材質を含む推定器具情報を推定するので、その推定器具情報に基づいて載置物が鍋などの加熱対象物であるか、それ以外の非加熱対象物であるかを識別することが可能となる。
【0073】
そして、加熱声援部54が、推定器具情報と登録器具情報とを照合して、推定器具情報に一致する登録器具情報がある場合に、載置物の加熱を許可するので、非加熱対象物が加熱されてしまうことを防ぐことができる。
【0074】
また、推定器具情報に一致する登録器具情報がない場合に、加熱声援部54が、推定器具情報を登録器具情報として登録するか否かをユーザに選択させるので、例えば新たな調理器具などを使う場合に、その大きさや材質などを必要に応じて登録器具情報として登録することができ、使い勝手の向上を図れる。
【0075】
さらに、ユーザが推定器具情報を登録器具情報として登録しないことを選択した場合に、加熱声援部54が載置物の加熱を不可にするように構成されており、言い換えれば、載置物の加熱の可否をユーザの選択に委ねているので、自動化の中にマニュアル操作を含ませており、操作性の自由度を向上させることができる。
【0076】
そのうえ、移動前の載置物を加熱する加熱コイル2の加熱条件が、移動後の載置物を加熱する加熱コイル2の加熱条件として維持されるので、鍋などの被加熱物の移動が多くなりがちなAny Place調理器においても、滞りなく調理することが可能となる。
【0077】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではない。
【0078】
例えば、前記実施形態では、センサコイル3のインダクタンス値を用いて載置物の形状を推定していたが、インダクタンス値及び直列抵抗値(Q値)を用いて載置物の形状を推定しても良い。
【0079】
これらのインダクタンス値及び直列抵抗値は、センサコイル3の端子間で測定される値であり、これらの値は、
図10に示すように、被加熱物が例えばSUS430等の磁性体金属からなるものであるか、例えばAl等の非磁性体金属からなるものであるかによって、挙動が大きく異なる。
【0080】
これにより、載置物の底面の材質や底面の厚みに関する情報を推定器具情報として取得することができ、載置物が加熱対象物であるか非加熱対象物であるかをより精度良く判定することができる。
【0081】
なお、インダクタンス値や直列抵抗値の測定方法の一例としては、例えばリファレンス抵抗やローパスフィルタなどを用いた回路構成を挙げることができ、ADコンバータやDAコンバータなどを有するマイクロコンピューを用いて算出することができる。ただし、測定方法はこれに限らず適宜変更して構わない。
【0082】
また、前記実施形態では、載置物の形状を推定するためのセンサとして、位置検出用センサ30を用いていたが、センサコイル3とは別に誘導近接コイルを設けて、位置検出用センサ30とは別のセンサを用いて載置物の形状を推定しても良い。
【0083】
さらに、前記実施形態では、位置検出用センサ30の出力値(具体的にはインダクタンス値)を用いて載置物の形状又は材質を推定したり、載置物の移動を検知したりしていたが、センサコイル3の周波数を用いて載置物の形状又は材質を推定したり、載置物の移動を検知したりしても構わない。
【0084】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0085】
100・・・誘導加熱調理器
1 ・・・トッププレート
2 ・・・加熱コイル
3 ・・・センサコイル
4 ・・・インバータ回路
5 ・・・制御機器
51 ・・・インバータ制御部
52 ・・・推定部
53 ・・・器具情報記憶部
54 ・・・加熱制限部
55 ・・・移動検知部