(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086306
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】逐次比較型A/Dコンバータおよび半導体集積回路
(51)【国際特許分類】
H03M 1/38 20060101AFI20240620BHJP
H03M 1/08 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H03M1/38
H03M1/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201370
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】稲田 洋文
【テーマコード(参考)】
5J022
【Fターム(参考)】
5J022AA02
5J022AB01
5J022BA02
5J022CA10
5J022CB01
5J022CF01
(57)【要約】
【課題】SARADCの変換誤差を低減した半導体集積回路を提供する。
【解決手段】半導体集積回路200は、スイッチング回路210および逐次比較型A/Dコンバータ(SARADC)100を備える。SARADC100は、アナログ電圧V
INを取り込むサンプルホールド処理と、サンプルホールド処理において取り込んだアナログ電圧をデジタル信号に変換する逐次比較処理と、を順に実行する。SARADC100は、SARADC100が所定の状態であるときにスイッチング回路210のスイッチングが発生すると、サンプルホールド処理を再実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング回路と、
アナログ電圧をデジタル信号に変換する逐次比較型A/Dコンバータと、
を備え、
前記逐次比較型A/Dコンバータは、前記アナログ電圧を取り込むサンプルホールド処理と、前記サンプルホールド処理において取り込んだ前記アナログ電圧を前記デジタル信号に変換する逐次比較処理と、を順に実行し、
前記逐次比較型A/Dコンバータが所定の状態であるときに前記スイッチング回路のスイッチングが発生すると、前記サンプルホールド処理を再実行する、半導体集積回路。
【請求項2】
前記逐次比較型A/Dコンバータは、前記サンプルホールド処理から前記逐次比較処理に移行する期間において、前記スイッチング回路のスイッチングが発生すると、前記サンプルホールド処理を再実行する、請求項1に記載の半導体集積回路。
【請求項3】
前記逐次比較型A/Dコンバータは、前記スイッチング回路のスイッチングと同期したスイッチングパルスと、前記逐次比較処理の開始を指示する逐次比較スタート信号と、にもとづいて前記サンプルホールド処理のやりなおしを指示するリスタート信号を生成するリスタート信号生成回路を含む、請求項2に記載の半導体集積回路。
【請求項4】
前記リスタート信号生成回路は、
前記スイッチングパルスを受け、前記スイッチングパルスのエッジを示すエッジ検出信号を生成するエッジ検出回路と、
前記逐次比較スタート信号を、システムクロックにもとづいてリタイミングするフリップフロップと、
前記フリップフロップの出力信号と前記エッジ検出信号の論理積に応じた前記リスタート信号を生成する論理ゲートと、
を含む、請求項3に記載の半導体集積回路。
【請求項5】
スイッチング回路とともに使用される逐次比較型A/Dコンバータであって、
サンプルホールドスタート信号に応答してアナログ電圧を取り込むサンプルホールド回路と、
逐次比較スタート信号に応答して逐次比較処理を開始し、前記サンプルホールド回路が取り込んだ前記アナログ電圧を、逐次比較処理によってデジタル信号に変換する変換部と、
前記サンプルホールドスタート信号および前記逐次比較スタート信号を生成するシーケンサと、
前記逐次比較スタート信号と、前記スイッチング回路のスイッチング動作と同期したスイッチングパルスと、を受け、前記逐次比較スタート信号と前記スイッチングパルスが時間軸上で所定の関係を満たすとき、前記サンプルホールドスタート信号の再発生を指示するリスタート信号を生成するリスタート信号生成回路と、
を備える、逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項6】
前記リスタート信号生成回路は、
前記スイッチングパルスを受け、前記スイッチングパルスのエッジを示すエッジ検出信号を生成するエッジ検出回路と、
前記逐次比較スタート信号を、システムクロックにもとづいてリタイミングするフリップフロップと、
前記フリップフロップの出力信号と前記エッジ検出信号の論理積に応じた前記リスタート信号を生成する論理ゲートと、
を含む、請求項5に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項7】
ひとつの半導体基板に一体集積化される、請求項5または6に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項8】
前記逐次比較型A/Dコンバータは、前記スイッチング回路と同じ半導体基板に集積化される、請求項7に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項9】
スイッチング回路と、
アナログ電圧をサンプルホールドするサンプルホールド回路と、
前記サンプルホールド回路がサンプルホールドした電圧を処理する処理回路と、
を備え、
前記サンプルホールド回路は、サンプリング状態からホールド状態に遷移し、前記処理回路に電圧を受け渡す期間において、前記スイッチング回路のスイッチングが発生すると、サンプルホールド処理を再実行する、半導体集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、逐次比較型A/Dコンバータを備える半導体集積回路に関する。
【背景技術】
【0002】
中分解能~高分解能(たとえば8ビット以上)のA/Dコンバータ(ADC:Analog to Digital Converter)として、逐次比較型(SAR:Successive Approximation Register)が使用される。SARADCは、入力電圧をサンプルホールドし、それを1サイクル目のしきい値電圧と比較する。そして比較結果に応じて、2サイクル目のしきい値電圧を決定し、再び比較を行う。この動作を繰り返すことにより、二分探索によって、アナログ電圧がデジタル信号に変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、SARADCについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。PMIC(電源管理回路)などの半導体集積回路には、SARADCと、DC/DCコンバータのコントローラが集積化される。
【0005】
DC/DCコンバータのコントローラは、スイッチング回路を含む。DC/DCコンバータは、そのスイッチングのタイミングで、スイッチングノイズを発生する。DC/DCコンバータの出力電力(出力電流)が大きくなると、スイッチングノイズの振幅が大きくなる。大きなスイッチングノイズが、半導体集積回路の電源ラインおよび接地ラインに混入すると、SARADCの変換誤差を低下させる要因となる。
【0006】
本開示はSARADCに関するものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、SARADCの変換誤差を低減した半導体集積回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある態様の半導体集積回路は、スイッチング回路と、アナログ電圧をデジタル信号に変換する逐次比較型A/Dコンバータと、を備える。逐次比較型A/Dコンバータは、アナログ電圧を取り込むサンプルホールド処理と、サンプルホールド処理において取り込んだアナログ電圧をデジタル信号に変換する逐次比較処理と、を順に実行する。逐次比較型A/Dコンバータは、当該逐次比較型A/Dコンバータが所定の状態にあるときに、スイッチング回路のスイッチングが発生すると、サンプルホールド処理を再実行する。
【0008】
本開示の別の態様は、スイッチング回路とともに使用される逐次比較型A/Dコンバータに関する。逐次比較型A/Dコンバータは、サンプルホールドスタート信号に応答してアナログ電圧を取り込むサンプルホールド回路と、逐次比較スタート信号に応答して逐次比較処理を開始し、サンプルホールド回路が取り込んだアナログ電圧を、逐次比較処理によってデジタル信号に変換する変換部と、サンプルホールドスタート信号および逐次比較スタート信号を生成するシーケンサと、逐次比較スタート信号と、スイッチング回路のスイッチング動作と同期したスイッチングパルスと、を受け、逐次比較スタート信号とスイッチングパルスが時間軸上で所定の関係を満たすとき、サンプルホールドスタート信号の再発生を指示するリスタート信号を生成するリスタート信号生成回路と、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明あるいは本開示の態様として有効である。さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、本発明の欠くべからざるすべての特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0010】
本開示のある態様によれば、SARADCの変換精度を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る半導体集積回路のブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1のSARADCの動作を説明する図である。
【
図3】
図3は、一実施例に係る半導体集積回路の回路図である。
【
図4】
図4は、リスタート信号生成回路の構成例を示す回路図である。
【
図5】
図5は、
図4のリスタート信号生成回路の動作波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0013】
本開示のある態様の半導体集積回路は、スイッチング回路と、アナログ電圧をデジタル信号に変換する逐次比較型A/Dコンバータと、を備える。逐次比較型A/Dコンバータは、アナログ電圧を取り込むサンプルホールド処理と、サンプルホールド処理において取り込んだアナログ電圧をデジタル信号に変換する逐次比較処理と、を順に実行する。逐次比較型A/Dコンバータは、当該逐次比較型A/Dコンバータが所定の状態にあるときにスイッチング回路のスイッチングが発生すると、サンプルホールド処理を再実行する。
【0014】
逐次比較型A/Dコンバータには、その制御シーケンス、回路構成、回路レイアウトに応じて、スイッチングノイズに対する耐性が低い状態が存在しうる。上記構成によれば、スイッチングノイズの耐性が低い状態において、スイッチング回路のスイッチングが発生した場合には、サンプルホールド処理を再実行することで、変換精度の低下を抑制できる。
【0015】
一実施形態において、逐次比較型A/Dコンバータは、サンプルホールド処理から逐次比較処理に移行する期間において、スイッチング回路のスイッチングが発生すると、サンプルホールド処理を再実行してもよい。
【0016】
サンプルホールド回路がサンプリングを完了した後、サンプリングした電圧をホールドして後段の回路に受け渡す期間において、ノイズ耐性が低い場合がある。そこで、この期間にスイッチングが発生した場合には、サンプルホールド処理を再実行することで、変換精度の低下を抑制できる。
【0017】
一実施形態において、逐次比較型A/Dコンバータは、スイッチング回路のスイッチングと同期したスイッチングパルスと、逐次比較処理の開始を指示する逐次比較スタート信号と、にもとづいて、サンプルホールド処理の再実行を指示するリスタート信号を生成するリスタート信号生成回路を含んでもよい。
【0018】
一実施形態において、リスタート信号生成回路は、スイッチングパルスを受け、スイッチングパルスのエッジを示すエッジ検出信号を生成するエッジ検出回路と、逐次比較スタート信号を、システムクロックにもとづいてリタイミングするフリップフロップと、フリップフロップの出力信号とエッジ検出信号の論理積に応じたリスタート信号を生成する論理ゲートと、を含んでもよい。
【0019】
一実施形態に係る逐次比較型A/Dコンバータは、スイッチング回路とともに使用される。逐次比較型A/Dコンバータは、サンプルホールドスタート信号に応答してアナログ電圧を取り込むサンプルホールド回路と、逐次比較スタート信号に応答して逐次比較処理を開始し、サンプルホールド回路が取り込んだアナログ電圧を、逐次比較処理によってデジタル信号に変換する変換部と、サンプルホールドスタート信号および逐次比較スタート信号を生成するシーケンサと、逐次比較スタート信号と、スイッチング回路のスイッチング動作と同期したスイッチングパルスと、を受け、逐次比較スタート信号とスイッチングパルスが時間軸上で所定の関係を満たすとき、サンプルホールドスタート信号の再発生を指示するリスタート信号を生成するリスタート信号生成回路と、を備える。
【0020】
一実施形態において、リスタート信号生成回路は、スイッチングパルスを受け、スイッチングパルスのエッジを示すエッジ検出信号を生成するエッジ検出回路と、逐次比較スタート信号を、システムクロックにもとづいてリタイミングするフリップフロップと、フリップフロップの出力信号とエッジ検出信号の論理積に応じたリスタート信号を生成する論理ゲートと、を含んでもよい。
【0021】
一実施形態において、逐次比較型A/Dコンバータはひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。回路を1つのチップ上に集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0022】
一実施形態において、逐次比較型A/Dコンバータは、スイッチング回路と同じ半導体基板に集積化されてもよい。
【0023】
(実施形態)
以下、好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施形態は、開示および発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示および発明の本質的なものであるとは限らない。
【0024】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0025】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に接続された(設けられた)状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0026】
図1は、実施形態に係る半導体集積回路200のブロック図である。半導体集積回路200は、スイッチング回路210および逐次比較型A/Dコンバータ(SARADC)100を備える。
【0027】
スイッチング回路210は、スイッチング動作を行う回路であり、SARADC100にとってノイズ源となる回路である。たとえばスイッチング回路210は、DC/DCコンバータ(スイッチング電源)のコントローラである。
【0028】
SARADC100は、入力端子INに入力されたアナログの入力電圧VINをデジタルnビット(nは2以上の整数)の出力データADCOUT[n-1:0]に変換する。アナログ入力電圧VINは、シングルエンド信号であってもよいし差動信号であってもよい。
【0029】
SARADC100は、アナログの入力電圧VINを取り込むサンプルホールド処理と、サンプルホールド処理において取り込んだ入力電圧VINをデジタル信号ADCOUTに変換する逐次比較処理と、を順に実行する。
【0030】
SARADC100は、アナログ部110およびロジック部120を備える。
【0031】
ロジック部120は、シーケンサと演算処理回路を含み、SARADC100の動作シーケンスを制御するとともに、アナログ部110から出力される信号にもとづいて、デジタル信号ADCOUTを生成する。ロジック部120は、アナログ部110に対して、いくつかの制御信号CTRLを出力する。この制御信号CTRLは、サンプルホールドスタート信号SH_STARTや逐次比較スタート信号SAR_STARTなどを含みうる。
【0032】
アナログ部110は、ロジック部120から供給されるサンプルホールドスタート信号SH_STARTに応答して、入力電圧VINをサンプリングする(サンプルホールド処理)。
【0033】
またアナログ部110は、ロジック部120から供給される逐次比較スタート信号SAR_STARTに応答して、入力電圧VINをホールドし、逐次比較処理を開始する。
【0034】
逐次比較処理は、複数の変換サイクルを含む。i番目(i=1,2,…K)の変換サイクル(単にサイクルともいう)において、アナログ部110には、ロジック部120から、デジタルの制御コードDACiが供給される。アナログ部110は、アナログ入力電圧VINと制御コードDACiに応じたしきい値電圧VTHiの大小関係を示す比較信号COMPiを生成する。
【0035】
ロジック部120は、i番目のサイクルで生成された比較信号COMPiを受け、次の(i+1)番目のサイクルのしきい値電圧VTH(i+1)を指示する制御コードDAC(i+1)を生成する。ロジック部120は、Kサイクルの変換処理の完了後に、制御コードDACKに応じたデジタル出力ADCOUTを出力する。
【0036】
たとえばアナログ部110は、サンプルホールド回路(サンプルホールド機能)112、D/Aコンバータ(D/A変換機能)114、比較器(比較機能)116を備える。
【0037】
サンプルホールド回路112は、ロジック部120から供給されるSH_START信号に応答して、サンプリング状態となり、入力電圧VINをサンプリングする。そして、それに続くSAR_START信号に応答してサンプリング状態からホールド状態となり、逐次比較処理に移行する。
【0038】
D/Aコンバータ114は、制御コードDACiをアナログのしきい値電圧VTHiに変換する。比較器116は、サンプルホールド回路112がホールドしたアナログ入力電圧VINとしきい値電圧VTHiを比較し、比較結果を示す比較信号COMPiを生成する。
【0039】
図1のサンプルホールド回路112、D/Aコンバータ114、比較器116は、理解の容易化のために、アナログ部110の機能を示すものであり、ハードウェアの構成を限定するものではない。
【0040】
スイッチング回路210からSARADC100には、スイッチング回路210のスイッチング動作と同期したスイッチングパルスSWが供給されている。たとえばスイッチング回路210がDC/DCコンバータのコントローラである場合、このスイッチングパルスSWは、コントローラが生成するPWM(パルス幅変調)信号あるいはPFM(パルス周波数変調)信号でありうる。
【0041】
SARADC100は、サンプルホールド処理から逐次比較処理に移行する期間において、スイッチング回路210のスイッチングが発生すると、サンプルホールド処理を再実行する。
【0042】
以上が半導体集積回路200の構成である。
【0043】
続いてその動作を説明する。
図2は、
図1のSARADC100の動作を説明する図である。
【0044】
図2には、スイッチングパルスSWと、SARADC100のステートが示される。S/Hはサンプリング状態を表し、SARは、逐次比較処理を行う状態(サンプリング回路は、ホールド状態)を示している。
【0045】
時刻t0に、SH_START信号が発生し、サンプルホールド回路112がサンプリング状態となり、入力電圧VINがサンプリング(トラッキング)される。
【0046】
時刻t1に、SAR_START信号が発生し、サンプルホールド回路112がホールド状態となり、逐次比較処理が開始する。SAR_START信号にもとづくサンプルホールド回路112の状態遷移のタイミングにもとづく判定期間τJUDGEにおいて、スイッチングパルスSWのエッジが発生している場合、逐次比較処理を停止し、サンプルホールド処理に戻る。判定期間τJUDGE1の間には、スイッチングパルスSWの遷移(ポジティブエッジ、ネガティブエッジ)は発生していないから、そのまま逐次比較処理が実行される。逐次比較処理が完了すると、出力データADCOUTが出力される。
【0047】
時刻t2に次のSH_START信号が発生すると、サンプルホールド回路112がサンプリング状態となり、入力電圧VINがサンプリング(トラッキング)される。時刻t3に、SAR_START信号が発生し、サンプルホールド回路112がホールド状態となり、逐次比較処理が開始する。
【0048】
判定期間τJUDGE2の間に、スイッチングパルスSWの遷移(ここではポジティブエッジ)が発生している。この場合、逐次比較処理は中断され、再びSH_START信号が発生し、サンプルホールドを再実行する。
【0049】
以上がSARADC100を備える半導体集積回路200の動作である。SARADCは、サンプルホールド回路112の状態が変化し、ホールド状態に遷移するタイミング、あるいは逐次比較を開始するタイミングの付近の期間T1において、最もノイズの影響を受けやすい。またスイッチングノイズは、スイッチング回路210の遷移直後のしばらくの期間T2、持続する。これらの2つの時間T1,T2を考慮してノイズに弱い期間を判定期間τJUDGEとして定めることができる。この判定期間τJUDGEの間に、スイッチング回路210の遷移が発生したときには、変換精度が低下していると推定し、サンプルホールド処理をやり直すことで、変換精度の低下を抑制できる。
【0050】
本開示は、
図1のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本開示の範囲を狭めるためではなく、本開示や本発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0051】
図3は、一実施例に係る半導体集積回路200Aの回路図である。半導体集積回路200Aは、コンバータコントローラ210AおよびSARADC100Aを備える。たとえば半導体集積回路200Aは、PMIC(電源管理IC)であってもよい。
【0052】
コンバータコントローラ210Aは、
図1のスイッチング回路210に対応する。コンバータコントローラ210Aは、外付けのインダクタL1およびキャパシタC1とともに、降圧(Buck)コンバータ300を構成する。
【0053】
コンバータコントローラ210Aは、パルス変調器212、ロジック回路214、ドライバ216、出力段218を備える。半導体集積回路200AのフィードバックピンFBには、DC/DCコンバータ300の電気的状態(たとえば出力電圧VOUTや出力電流)に応じたフィードバック信号VFBがフィードバックされる。パルス変調器212は、フィードバック信号VFBが目標値に近づくように、パルス信号SPをパルス変調する。パルス変調の方式としては、PWMやPFMが例示される。
【0054】
出力段218は、ハイサイドトランジスタMHおよびローサイドトランジスタMLを含む。ロジック回路214は、パルス信号SPにもとづいて、ハイサイドトランジスタMHとローサイドトランジスタMLのオン、オフを指示する制御パルスSH,SLを生成する。ドライバ216は、制御パルスSH,SLにもとづいて、ハイサイドトランジスタMH、ローサイドトランジスタMLを駆動する。
【0055】
SARADC100Aは、マルチプレクサ130、サンプルホールド回路132、変換部134、シーケンサ136、リスタート信号生成回路140を備える。
【0056】
サンプルホールド回路132は
図1のサンプルホールド回路112に対応し、変換部134は、
図1の比較器116、D/Aコンバータ114、ロジック部120の一部に対応する。シーケンサ136およびリスタート信号生成回路140は、ロジック部120の一部として実装される。
【0057】
マルチプレクサ130は、半導体集積回路200Aの内部電圧VINTや、モニターピンMONに入力される外部電圧VEXTのひとつを選択する。
【0058】
シーケンサ136は、サンプルホールド状態と、逐次比較状態を交互に繰り返す。シーケンサ136は、サンプルホールド状態に遷移すると、SH_START信号をアサートする。サンプルホールド回路132は、SH_START信号に応答して、入力電圧VINをサンプルホールドする。
【0059】
シーケンサ136は、逐次比較状態に遷移すると、SAR_START信号をアサートする。SAR_START信号に応答して、サンプルホールド回路132によってサンプリングされた電圧が変換部134に受け渡され、逐次比較処理が開始する。
【0060】
リスタート信号生成回路140は、逐次比較スタート信号SAR_STARTと、コンバータコントローラ210Aのスイッチング動作と同期したスイッチングパルスSWと、を受ける。スイッチングパルスSWは、パルス変調器212が生成するパルス変調信号Spであってもよいし、スイッチングピンSWの電圧であってもよいし、ハイサイドトランジスタMHやローサイドトランジスタMLのゲート信号であってもよい。
【0061】
リスタート信号生成回路140は、SAR_START信号とスイッチングパルスSWのエッジが時間軸上で所定の関係を満たすとき、SH_START信号の再発生を指示するリスタート信号RESTARTを生成する。シーケンサ136は、逐次比較状態において、RESTART信号を受けると、サンプルホールド状態に遷移し、SH_START信号を再発生する。
【0062】
図4は、リスタート信号生成回路140の構成例を示す回路図である。リスタート信号生成回路140は、エッジ検出回路142、フリップフロップ144、論理ゲート146を含む。
【0063】
エッジ検出回路142は、スイッチングパルスSWのポジティブエッジとネガティブエッジを検出すると、システムクロックCLKの1周期の間、ハイとなるエッジ検出信号EDGE_DETを生成する。
【0064】
フリップフロップ144はSAR_START信号を、クロック信号CLKを利用してリタイミングする。フリップフロップ144の出力S1は、SAR_START信号に対して1クロックサイクル遅延した信号となる。
【0065】
論理ゲート146は、フリップフロップ144の出力信号S1と、エッジ検出信号EDGE_DETの論理積を生成し、リスタート信号RESTARTとして出力する。
【0066】
図5は、
図4のリスタート信号生成回路140の動作波形図である。サンプルホールドの期間t
SHと、逐次比較の期間t
SARはそれぞれ一定である。
図5の例では、逐次比較処理の開始後の時刻t
0において、リスタート信号RESTARTが発生し、時刻t
1に、サンプルホールド処理に戻る。
【0067】
上述した実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が存在することが当業者に理解される。以下、こうした変形例について説明する。
【0068】
(変形例1)
実施形態では、スイッチング回路210が降圧コンバータのコントローラ210Aである場合を説明したがその限りでない。スイッチング回路210としては、昇圧コンバータやチャージポンプ回路などの別形式のスイッチング電源であってもよい。あるいはスイッチング回路210は、モータドライバや各種インバータであってもよいし、オーディオ用のD級アンプであってもよい。またノイズ源となるスイッチング回路は、必ずしもSARADC100と同じチップに集積化されている必要はない。
【0069】
(変形例2)
実施形態では、サンプルホールド処理の終了後、SAR処理の開始を、ノイズ耐性が低い状態として、この状態において、スイッチングが発生した場合に、サンプルホールド処理をリスタートすることとした。SARADCでは、逐次比較処理が進むにつれて、分解能が高くなっていき、ノイズの影響が大きくなる。そこで、比較回数が所定数に達した後を、ノイズ耐性が低い所定状態に定め、この状態でスイッチングが発生したときに、サンプルホールド回路をリスタートしてもよい。
【0070】
(変形例3)
実施形態では、SARADC100の入力段に配置されるサンプルホールド回路112のリスタートについて説明したが、本開示はそれに限定されず、サンプルホールド回路と、サンプルホールド回路がサンプルホールドした電圧を処理する回路の組み合わせを備えるさまざまな半導体集積回路に広く採用できる。このような回路において、サンプルホールド回路が、サンプル状態からホールド状態に遷移して後段の回路が、ホールドされた電圧の処理を開始するタイミング(期間)において、スイッチングが発生した場合に、サンプルホールド回路がリスタートされる。
【0071】
実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにさまざまな変形例が存在すること、またそうした変形例も本開示または本発明の範囲に含まれることは当業者に理解されるところである。
【0072】
(付記)
本明細書には以下の技術が開示される。
【0073】
(項目1)
スイッチング回路と、
アナログ電圧をデジタル信号に変換する逐次比較型A/Dコンバータと、
を備え、
前記逐次比較型A/Dコンバータは、前記アナログ電圧を取り込むサンプルホールド処理と、前記サンプルホールド処理において取り込んだ前記アナログ電圧を前記デジタル信号に変換する逐次比較処理と、を順に実行し、
前記逐次比較型A/Dコンバータが所定の状態であるときに前記スイッチング回路のスイッチングが発生すると、前記サンプルホールド処理を再実行する、半導体集積回路。
【0074】
(項目2)
前記逐次比較型A/Dコンバータは、前記サンプルホールド処理から前記逐次比較処理に移行する期間において、前記スイッチング回路のスイッチングが発生すると、前記サンプルホールド処理を再実行する、項目1に記載の半導体集積回路。
【0075】
(項目3)
前記逐次比較型A/Dコンバータは、前記スイッチング回路のスイッチングと同期したスイッチングパルスと、前記逐次比較処理の開始を指示する逐次比較スタート信号と、にもとづいて前記サンプルホールド処理のやりなおしを指示するリスタート信号を生成するリスタート信号生成回路を含む、項目2に記載の半導体集積回路。
【0076】
(項目4)
前記リスタート信号生成回路は、
前記スイッチングパルスを受け、前記スイッチングパルスのエッジを示すエッジ検出信号を生成するエッジ検出回路と、
前記逐次比較スタート信号を、システムクロックにもとづいてリタイミングするフリップフロップと、
前記フリップフロップの出力信号と前記エッジ検出信号の論理積に応じた前記リスタート信号を生成する論理ゲートと、
を含む、項目3に記載の半導体集積回路。
【0077】
(項目5)
スイッチング回路とともに使用される逐次比較型A/Dコンバータであって、
サンプルホールドスタート信号に応答してアナログ電圧を取り込むサンプルホールド回路と、
逐次比較スタート信号に応答して逐次比較処理を開始し、前記サンプルホールド回路が取り込んだ前記アナログ電圧を、逐次比較処理によってデジタル信号に変換する変換部と、
前記サンプルホールドスタート信号および前記逐次比較スタート信号を生成するシーケンサと、
前記逐次比較スタート信号と、前記スイッチング回路のスイッチング動作と同期したスイッチングパルスと、を受け、前記逐次比較スタート信号と前記スイッチングパルスが時間軸上で所定の関係を満たすとき、前記サンプルホールドスタート信号の再発生を指示するリスタート信号を生成するリスタート信号生成回路と、
を備える、逐次比較型A/Dコンバータ。
【0078】
(項目6)
前記リスタート信号生成回路は、
前記スイッチングパルスを受け、前記スイッチングパルスのエッジを示すエッジ検出信号を生成するエッジ検出回路と、
前記逐次比較スタート信号を、システムクロックにもとづいてリタイミングするフリップフロップと、
前記フリップフロップの出力信号と前記エッジ検出信号の論理積に応じた前記リスタート信号を生成する論理ゲートと、
を含む、項目5に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0079】
(項目7)
ひとつの半導体基板に一体集積化される、項目5または6に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0080】
(項目8)
前記逐次比較型A/Dコンバータは、前記スイッチング回路と同じ半導体基板に集積化される、項目7に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0081】
(項目9)
スイッチング回路と、
アナログ電圧をサンプルホールドするサンプルホールド回路と、
前記サンプルホールド回路がサンプルホールドした電圧を処理する処理回路と、
を備え、
前記サンプルホールド回路は、サンプリング状態からホールド状態に遷移し、前記処理回路に電圧を受け渡す期間において、前記スイッチング回路のスイッチングが発生すると、サンプルホールド処理を再実行する、半導体集積回路。
【符号の説明】
【0082】
100 SARADC
110 アナログ部
112 サンプルホールド回路
114 D/Aコンバータ
116 比較器
120 ロジック部
130 マルチプレクサ
132 サンプルホールド回路
134 変換部
136 シーケンサ
140 リスタート信号生成回路
142 エッジ検出回路
144 フリップフロップ
146 論理ゲート
200 半導体集積回路
210 スイッチング回路
210A コンバータコントローラ
212 パルス変調器
214 ロジック回路
216 ドライバ
218 出力段