(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086323
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】吊治具
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20240620BHJP
E01D 21/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201394
(22)【出願日】2022-12-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会 講演概要(令和4年8月1日) ・令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会(令和4年9月16日)
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】592093833
【氏名又は名称】青山機工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000159272
【氏名又は名称】吉永機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】今田 遥介
(72)【発明者】
【氏名】千野 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】寺田 幸男
(72)【発明者】
【氏名】上根 秀人
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA13
2D059DD02
2D059DD06
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して容易かつ安全に吊状態の床版の傾斜を調整することができる吊治具を提供することである。
【解決手段】本願発明の函体連結構造は、揚重機によって板状部材を吊るときに用いられる治具であって、本体部と索材移動手段、リンク機構を備えたものである。伸縮装置の伸縮に伴って、回転アームが固定端側の固定点周りに回転するとともに、移動体が天秤梁材の梁軸方向に移動することによって、索材の下端と吊滑車との間隔が変化し、揚重機によって吊り上げられた板状部材の傾斜を調整することができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚重機によって板状部材を吊るときに用いられる治具であって、
平面視でX字状となるように配置された2つの天秤梁材を含んで構成される本体部と、
索材と移動体とを含んで構成される索材移動手段と、
伸縮装置と回転アームとを含んで構成されるリンク機構と、を備え、
前記索材移動手段と前記リンク機構は、それぞれの前記天秤梁材に設けられ、
前記天秤梁材の両端には、それぞれ吊滑車が取り付けられ、
前記移動体は、前記天秤梁材の梁軸方向に沿って往復移動し、
2つの前記索材が前記移動体に取り付けられるとともに、それぞれ異なる前記吊滑車を介して下方に垂下し、
不動端と伸縮端を有する前記伸縮装置は、前記天秤梁材の側方に配置されるとともに、該不動端で該天秤梁材にピン結合され、該不動端と該伸縮端との間隔が変化するように該天秤梁材の前記梁軸方向に沿って伸縮可能であり、
回転端と固定端を有する前記回転アームは、前記天秤梁材の梁軸直角方向に横断するように配置され、該回転端が前記伸縮装置の前記伸縮端にピン固定されるとともに、該伸縮装置の配置側とは異なる該天秤梁材の側方で該固定端が該天秤梁材にピン固定され、
前記回転アームに設けられたアーム孔と、前記移動体に設けられた移動体孔と、に支持ピンが挿通され、
前記吊滑車から垂下する前記索材の下端と前記板状部材を連結するとともに、前記揚重機が前記本体部の一部を係止すると、該揚重機によって該板状部材が吊り上げられ、
前記伸縮装置の伸縮に伴って、前記回転アームが前記固定端側の固定点周りに回転するとともに、前記移動体が前記天秤梁材の前記梁軸方向に移動することによって、前記索材の下端と前記吊滑車との間隔が変化し、前記揚重機によって吊り上げられた前記板状部材の傾斜を調整することができる、
ことを特徴とする吊治具。
【請求項2】
前記回転アームが、前記アーム孔が設けられた上側回転アームと、前記アーム孔が設けられた下側回転アームと、によって形成され、
前記上側回転アームと前記下側回転アームは、ぞれぞれの前記回転端が前記伸縮装置の前記伸縮端にピン固定されるとともに、それぞれの前記固定端が前記天秤梁材にピン固定され、
前記上側回転アームと前記下側回転アームとの間に挟まれるように前記移動体が配置されたうえで、該上側回転アームの前記アーム孔と前記移動体孔と該下側回転アームの前記アーム孔に前記支持ピンが挿通された、
ことを特徴とする請求項1記載の吊治具。
【請求項3】
前記天秤梁材は、側面視で折り曲げられた形状であり、前記吊滑車が中央部よりも上方に配置された、
ことを特徴とする請求項1記載の吊治具。
【請求項4】
前記伸縮装置の伸縮動作を遠隔操作する遠隔装置と、
傾斜角度を測定する角度測定器と、をさらに備え、
前記揚重機によって吊り上げられた前記板状部材の上面に前記角度測定器を配置することによって、該角度測定器の測定値を確認しながら前記遠隔装置を用いて該板状部材の傾斜を調整することができる、
ことを特徴とする請求項1記載の吊治具。
【請求項5】
前記天秤梁材は、前記梁軸方向の寸法を変更し得る構造である、
ことを特徴とする請求項1記載の吊治具。
【請求項6】
X字状となるように配置された2つの前記天秤梁材の交差角度を変更する交差角変更手段を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1記載の吊治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、揚重機が吊荷を吊上げるときに用いられる治具に関するものであり、より具体的には、吊上げた状態の吊荷の傾斜を容易に調整することができる吊治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度経済成長期に集中的に整備されてきた建設インフラストラクチャー(以下、「建設インフラ」という。)は、既に相当な老朽化が進んでいることが指摘されている。平成26年には「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言(社会資本整備審議会)」がとりまとめられ、平成24年の笹子トンネルの例を挙げて「近い将来、橋梁の崩落など人命や社会装置に関わる致命的な事態を招くであろう」と警鐘を鳴らし、建設インフラの維持管理の重要性を強く唱えている。
【0003】
一方、道路橋を設計する際の基準である「道路橋示方書」は、昭和14年度版が発行されて以来随時見直されてきており、特に兵庫県南部地震の後には大幅な改定が行われている。この結果、従来では十分に耐力のあった橋梁であっても、現在の設計基準に照らせばその耐力が不足している場合も少なくない。
【0004】
このように、老朽化と強度不足という2つの理由から、現在では橋梁の補強や改築がしばしば行われている。ところが現在の道路橋は、大量の交通を確保しており、つまり人の移動や流通産業を支えているのが現状であり、安易にその供用を止めることはできない。特に、高速道路など自動車専用道路の高架橋は、一日に数万台の車を通行させており、仮に通行させないとすればその経済的損失額は計り知れないものとなるし、救急の患者を搬送できないとすれば社会的な問題にもなりかねない。
【0005】
そこで、供用中の道路橋梁に対して改築工事等を行う場合、2車線のうちいずれか一方のみを規制して、つまり少なくとも1車線は開放したうえで実施するよう求められるケースも少なくない。また、橋梁によってはその上方に架空線が架設されているなど、改築工事等を行うにあたっての空頭制限が設定されることもある。すなわち供用中の道路橋梁における改築工事等は、平面制限と高さ制限のもとで実施することが強いられ、故に施工方法や使用機械には相応の工夫が必要になる。
【0006】
橋梁改築工事は、損傷部に対して行われ、中でも床版の取替工事は比較的頻繁に実施される。一般的に床版の取替工事は、鋼製主桁に連結されたコンクリート床版を専用機械で剥離し、そのコンクリート床版を運搬車両に積み込んで搬出し、撤去箇所を清掃したうえで搬入した新規のプレキャスト床版を設置する、といった手順を繰り返し行うことで実施する。
【0007】
ところで、道路橋梁の路面には、縦断勾配(橋軸方向の勾配)と横断勾配(橋軸直角方向の勾配)が設定されており、当然ながら床版もこれらの勾配に合わせて設置される。設置された床版の傾きや高さ、あるいは隣接する床版どうしの表面の平坦性(連続性)を確保することは、橋梁および道路としての機能上において極めて重要である。そのため、設置する直前の床版、つまり吊上げられた状態の床版は、架設後と同様の傾きとされたうえで、さらに床版間の面のずれがないことを確認しながら設置することが望ましい。これまでも、吊状態にある床版の傾きを、計画された縦断勾配と横断勾配となるよう調整しながら設置していた。
【0008】
吊状態にある床版の傾きを調整する従来技術としては、代表的に次のような手法を挙げることができる。第1の例は、移動式クレーンとチェーンブロックを使用して、床版を設置する方法(以下、「移動式クレーン方式」という。)である。この移動式クレーン方式では、移動式クレーン(ラフテレーンクレーンやオールテレーンクレーンなど)で床版を揚重する。このとき、少なくとも床版には3以上の吊点を設け、これら各吊点とクレーンの親フックとの間にチェーンブロックを媒介させる。そして、チェーンブロックで床版の各吊点とクレーン親フックとの距離を可変とすることで、床版に任意の傾斜を発生させるわけである。
【0009】
第2の例は、いわば移動式クレーン方式を応用した方法であり、移動式クレーンチェーンブロックに加えて吊天秤を使用して、床版を設置する方法(以下、「吊天秤方式」という。)である。この吊天秤方式では、吊天秤と床版の間にチェーンブロックを媒介させたうえで、親フックで吊天秤を揚重する。移動式クレーン方式に比べて、吊天秤の重量が増加するため可能吊重量は低下するものの、吊ワイヤーやチェーンブロックの引張方向が鉛直に近くなり、それらに作用する張力が小さくなるため安全性は向上する。
【0010】
第3の例は、橋形クレーン(門型クレーン)とチェーンブロックを使用して、床版を設置する方法(以下、「橋型クレーン方式」という。)である。この橋型クレーン方式で使用する橋形クレーンには、親フックの他、フレームから懸架される複数のチェーンブロックが設けられる。そして床版の架設を行う際は、設置個所付近まで運搬された床版をチェーンブロックにて吊上げ、これらチェーンブロックの相対的な長さを調整することによって、吊状態の床版を所望の傾斜に調整する。使用するクレーンの種類が異なるため、移動式クレーン方式や吊天秤方式のように移動式クレーンのブームを上方に伸ばす必要がなく、したがって架空線等によって空頭制限が設けられている橋梁現場にも適用できる。
【0011】
上記した従来技術の他にも、吊状態の床版を所望の傾斜に調整する種々の技術がこれまで提案されている。例えば特許文献1では、吊状態の床版を鉛直軸周りに回転させることができ、さらにチェーンブロックの調整により床版の傾斜を調整することができる吊具ユニットについて提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、ここまで説明した技術を含む従来技術には、それぞれ問題を指摘することができる。例えば移動式クレーン方式や吊天秤方式は、クレーンのアウトリガー等を設置するため2車線分の施工スペースが必要であり、故に2車線のうち1車線を開放するよう求められるケースでは採用することができない。また、施工ヤードが移動式クレーンによって分断され、すなわち施工領域(床版を架設し、撤去する領域)を挟んで床版運搬用の車両と移動式クレーンが分断されることになる。その結果、移動式クレーンのブームが180°旋回することになり、反対車線(隣接車線)を開放するケース、あるいは工事対象外の構造物があるケースでは採用できない。さらに、施工現場周辺に上空の送電線があるケース、あるいは施工現場が立体交差となるケースでは、空頭制限が設定されるため採用することができない。
【0014】
橋型クレーン方式は、橋形クレーンの支柱が既設床版上にあるため、荷下ろしから設置までの揚重作業において、支柱を回避して運搬する必要があるため、施工効率が劣るという問題がある。具体的には、設置箇所付近への移動までは床版を設置時の状態から水平方向(鉛直軸周りに)に90°回転させた状態とするが、設置箇所付近では再び90°回転させたうえで床版にチェーンブロックを接続することとなり、荷下ろしする時点ではチェーンブロックを床版に取り付けられない。再度の90°回転を回避するためには横断方向に2分割した床版を利用することも考えられるが、この場合は設置後に処理する床版の継目が増えるため、施工効率が劣るという問題を解決することはできない。
【0015】
特許文献1に開示される技術は、移動式クレーン方式や吊天秤方式と同様、チェーンブロックの伸縮が必要であるが、通常はこの作業は人力によって行われる。吊荷の近くで作業者がチェーンブロックの調整を行うことは危険が伴い、労働災害を防止する観点からは好ましくない。また、吊状態の床版を所望の傾斜となるよう調整するには、それぞれのチェーンブロックを同時に調整する必要があり、つまりチェーンブロックの個数に合わせた作業者を動員する必要があり、作業の省力化の観点からは好ましくない。
【0016】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して容易かつ安全に吊状態の床版の傾斜を調整することができる吊治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明は、伸縮装置と、伸縮装置の伸縮に伴って回転する回転アーム、そして回転アームの回転に伴って移動する移動体を利用して、移動体に取り付けられ天秤梁材の両端から垂下する索材(ワイヤーロープなど)を昇降させる、いう点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0018】
本願発明の函体連結構造は、揚重機によって板状部材を吊るときに用いられる治具であって、本体部と索材移動手段、リンク機構を備えたものである。このうち本体部は、平面視でX字状となるように配置された2つの天秤梁材を含んで構成されるものである。また索材移動手段は、索材と移動体を含んで構成されるものであり、リンク機構は、伸縮装置と回転アームとを含んで構成されるものである。索材移動手段とリンク機構はそれぞれの天秤梁材に設けられ、天秤梁材の両端にはそれぞれ吊滑車が取り付けられる。移動体は、天秤梁材の梁軸方向に沿って往復移動することができ、移動体には2つの索材が取り付けられ、これらの策材はそれぞれ異なる吊滑車を介して下方に垂下する。不動端と伸縮端を有する伸縮装置は、天秤梁材の側方に配置されるとともに、不動端で天秤梁材にピン結合され、不動端と伸縮端との間隔が変化するように天秤梁材の梁軸方向に沿って伸縮可能である。回転端と固定端を有する回転アームは、天秤梁材の梁軸直角方向に横断するように配置され、回転端が伸縮装置の伸縮端にピン固定されるとともに、天秤梁材の側方(ただし、伸縮装置の配置側とは異なる側)で固定端が天秤梁材にピン固定される。回転アームに設けられたアーム孔と、移動体に設けられた移動体孔には、支持ピンが挿通される。そして、吊滑車から垂下する索材の下端と板状部材を連結するとともに、揚重機が本体部の一部を係止すると、揚重機によって板状部材を吊り上げることができる。また、伸縮装置の伸縮に伴って、回転アームが固定端側の固定点周りに回転するとともに、移動体が天秤梁材の梁軸方向に移動することによって、索材の下端と吊滑車との間隔が変化し、揚重機によって吊り上げられた板状部材の傾斜を調整することができる。
【0019】
本願発明の函体連結構造は、回転アームが上側回転アームと下側回転アームによって形成されたものとすることもできる。この上側回転アームと下側回転アームは、ぞれぞれの回転端が伸縮装置の伸縮端にピン固定されるとともに、それぞれの固定端が天秤梁材にピン固定される。この場合、上側回転アームと下側回転アームとの間に挟まれるように移動体が配置されたうえで、上側回転アームのアーム孔と移動体孔と下側回転アームのアーム孔に支持ピンが挿通される。
【0020】
本願発明の函体連結構造は、天秤梁材が側面視で折り曲げられた形状であり、吊滑車が中央部よりも上方に配置されたものとすることもできる。
【0021】
本願発明の函体連結構造は、伸縮装置の伸縮動作を遠隔操作する遠隔装置と、傾斜角度を測定する角度測定器をさらに備えたものとすることもできる。この場合、揚重機によって吊り上げられた板状部材の上面に角度測定器を配置し、角度測定器の測定値を確認しながら遠隔装置を用いて板状部材の傾斜を調整することができる。
【0022】
本願発明の函体連結構造は、天秤梁材の梁軸方向長さを変更し得るものとすることもできる。
【0023】
本願発明の函体連結構造は、交差角変更手段をさらに備えたものとすることもできる。この交差角変更手段は、X字状となるように配置された2つの天秤梁材の交差角度を変更することができるものである。
【発明の効果】
【0024】
本願発明の吊治具には、次のような効果がある。
(1)揚重機の吊点(主フックなど)と床版との間隔(例えば1.2m)を、従来技術(例えば、4m)に比して短くすることができる。その結果、上空に送電線があるなど空頭制限が設定されるケースでも利用することができる。
(2)揚重機に1点で取り付けられる構造であり、移動式クレーンによる操作と同様の操作で床版を回転させることができるなど、容易に床版を取り扱うことができる。
(3)遠隔装置を用いることで、伸縮装置の伸縮動作を遠隔操作することができる。これにより、作業者による吊荷近くの作業を回避することができることから、作業の安全性が向上する。また、一人の作業者で操作することができるため、つまりチェーンブロックごとに作業者を動員する必要がないため、作業の省力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】(a)は本願発明の吊治具を模式的に示す平面図、(b)は本願発明の吊治具を模式的に示す側面図。
【
図2】(a)天秤梁材を模式的に示す平面図、(b)は天秤梁材を模式的に示す側面図、(c)は天秤梁材を模式的に示す断面図。
【
図3】交差角変更手段によって組み立て後でも交差角度が変更可能とされた上段天秤梁材と下段天秤梁材を示す平面図。
【
図4】側面視で折り曲げ形状とされた天秤梁材を模式的に示す側面図。
【
図5】分割梁材と調整梁材からなる天秤梁材を模式的に示す側面図。
【
図7】(a)回転アームを模式的に示す平面図、(b)は回転アームの中央部を模式的に示す部分断面図、(c)は回転アームの前方部分を模式的に示す部分断面図。
【
図8】天秤梁材の側面に取り付けられた伸縮装置を模式的に示す平面図。
【
図9】(a)吊治具のうち移動体と回転アームが配置された部分を示す部分断面図、(b)は吊治具のうち移動体と回転アームが配置された部分を示す平面図。
【
図10】(a)は伸縮装置が伸長した状態を示す平面図、(b)は伸縮装置が伸長した結果右側下がりに傾斜したプレキャスト床版を示す側面図。
【
図11】(a)は伸縮装置が収縮した状態を示す平面図、(b)は伸縮装置が収縮した結果左側下がりに傾斜したプレキャスト床版を示す側面図。
【
図12】(a)はプレキャスト床版を吊上げる前の天秤梁材を示す側面図、(b)はプレキャスト床版を吊上げたときに左側下がりに傾いた天秤梁材を示す側面図。
【
図13】角度測定器と遠隔装置を備えた吊治具を模式的に示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願発明の吊治具の例を図に基づいて説明する。なお本願発明の吊治具は、板状部材を吊るときに用いられる治具であって、板状であれば様々なものを対象とすることができるが、便宜上ここでは板状部材をプレキャスト床版とした場合で説明する。
【0027】
図1は、本願発明の吊治具100を模式的に示す図であり、(a)は上方から見た平面図、(b)は側方から見た側面図である。この図に示すように本願発明の吊治具100は、2つの天秤梁材110を含んで構成される「本体部」と、索材130と移動体120を含んで構成される「索材移動手段」、伸縮装置150と回転アーム141を含んで構成される「リンク機構」を備えたものである。吊治具100を使用する際は、その長手方向(図では左右方向)がプレキャスト床版PCの長手方向となるように配置される。通常、プレキャスト床版PCはその長手方向が橋軸直角方となるように並べられ、この場合は吊治具100もその長手方向が橋軸直角方となるように配置される。便宜上ここでは、橋軸方向における一方(図では上方)のことを「前方」、橋軸方向における他方(図では下方)のことを「後方」ということとし、橋軸直角方向における一方(図では左)のことを「左側」、橋軸直角方向における他方(図では右)のことを「右側」ということとする。
【0028】
図1(a)に示すように2つの天秤梁材110は、それぞれ平面視で橋軸直角方向に対して傾斜するように、しかも平面視でX字状となるよう互いに交差して配置される。また
図1(b)に示すように2つの天秤梁材110は、上下に重なるように配置される。そこで、上方の天秤梁材110のことを特に「上段天秤梁材110U」、下方の天秤梁材110のことを特に「下段天秤梁材110L」ということとする。上段天秤梁材110Uと下段天秤梁材110Lには、それぞれ「索材移動手段」と「リンク機構」が設けられ、両端には水平軸周りに回転(つまり、鉛直面内で回転)する吊滑車160が取り付けられている。
【0029】
上段天秤梁材110Uと下段天秤梁材110Lの両端にある吊滑車160には、それぞれワイヤーロープやチェーンといった索材130が掛けられている。この索材130の下端に吊具(例えば、フックやUボルトなど)を取り付け、さらにその吊具をプレキャスト床版PCの係止具(例えば、アイボルトやUボルトなど)に連結すれば、プレキャスト床版PCは吊治具100に把持される。そして、吊治具100の一部(例えば、上段天秤梁材110U)に設けられた係止具(例えば、Uボルトやアイボルトなど)に揚重機の主フックMHを掛けることで、揚重機は吊治具100を介してプレキャスト床版PCを持ち上げることができる。もちろん本願発明の吊治具100は、ラフテレーンクレーンやオールテレーンクレーンといった移動式クレーンや、橋形クレーン(門型クレーン)など、種々の揚重機で利用することができる。
【0030】
天秤梁材110には、どちらかの端部に近い位置に伸縮装置150が取り付けられ、また配電盤などが設置されることもある。そのため、
図1(b)に示すように揚重機が1点で吊治具100を吊上げると、天秤梁材110は左右のバランスが崩れ水平姿勢が保てないこともある。このような場合、できるだけ水平姿勢を維持するように、天秤梁材110にカウンタウェイト170を設置するとよい。
【0031】
以下、本願発明の吊治具100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0032】
(天秤梁材)
図2は、天秤梁材110を模式的に示す図であり、(a)は上方から見た平面図、(b)は側方から見た側面図、(c)は側面図中に示すA-A矢視の断面図である。この図に示すように天秤梁材110は、2つの主梁材111と支持板112、連結材113、側板114を含んで構成される。主梁材111はI形鋼やH形鋼といった形鋼などを利用することができ、連結材113は平鋼や形鋼(溝型鋼や山形鋼など)などを利用することができる。また支持板112と側板114は、鋼板などを利用することができる。なお便宜上ここでは、天秤梁材110の軸方向(つまり、橋軸直角方向に対してやや傾斜した方向)のことを「梁軸方向」、この梁軸方向に直交する方向のことを「梁軸直角方向」ということとする。
【0033】
図2に示すように2つの主梁材111は間隔を設けて略平行(平行を含む)となるように配置され、主梁材111の上面や下面に配置された連結材113によって連結される。また、天秤梁材110の両側面(つまり、それぞれの主梁材111の外側面)には側板114が取り付けられ、中央付近には貫通孔(以下、「支持板孔112H」という。)が設けられた支持板112が略水平(水平を含む)姿勢で固定されている。側板114は概ね梁軸方向にわたって設置されるが、後述する回転アーム141が配置される箇所には側板114は設置しない(
図2(b)の切欠部)。そのため、この切欠部に配置される支持板112は、切欠部を挟む左右の側板114を利用して固定するとよい。また天秤梁材110の右側端と左側端には、既述したとおり吊滑車160が取り付けられる。
【0034】
上段天秤梁材110Uと下段天秤梁材110Lは、所定の交差角度となるように平面視でX字状とされたうえで連結される。このとき、使用時はもちろん、組み立てた後は上段天秤梁材110Uと下段天秤梁材110Lの交差角度は変化しないように固定する。あるいは、吊治具100が「交差角変更手段」を備えることとし、
図3に示すように組み立てた後でも上段天秤梁材110Uと下段天秤梁材110Lの交差角度を変更できる構成とすることもできる。この交差角変更手段成は、例えばターンテーブルなどの回転装置を利用することができ、油圧や電動などの動力を利用して作動する構成にするとよい。ただし、使用時には上段天秤梁材110Uと下段天秤梁材110Lの交差角度が変化しないよう、ストッパ機構(回転防止機構)を設けることが望ましい。
【0035】
図1や
図2に示す天秤梁材110は側面視で直線状とされているが、
図4に示すように側面視で折り曲げられた形状とすることもできる。なお、天秤梁材110を折り曲げ形状とするにあたっては、両端(つまり、吊滑車160)が中央部よりも上方に配置されるような形状にするとよい。これにより、揚重機の主フックMHによる係止点と、上段天秤梁材110U、下段天秤梁材110Lが、高さ方向において索材130と重複(ラップ)することとなり、直線状としたケースに比べると揚重機の主フックMHからプレキャスト床版PCまでの間隔が短くなっている。これまで、プレキャスト床版PCの据付姿勢を調整するにあたっては所定高(例えば、4m程度)の空間を必要としていたが、天秤梁材110を折り曲げ形状とすることによってその空間の高さを大幅に減ずる(例えば、1.2m程度)ことができる。その結果、空頭制限のあるケースでも適用することができ、しかも作業の安全性や効率性が向上する。
【0036】
また天秤梁材110は、梁軸方向の寸法(以下、「梁軸長」という。)を変更し得る構造とすることもできる。例えば
図5に示すように、天秤梁材110を分割梁材110Mと調整梁材110Sからなる構成とすることができる。天秤梁材110の梁軸長を短くするときは分割梁材110Mどうしを直接連結し、天秤梁材110の梁軸長を長くするときは分割梁材110Mと分割梁材110Mの間に調整梁材110Sを配置したうえで分割梁材110Mと調整梁材110Sを連結するわけである。あるいは、天秤梁材110を断面寸法が異なる複数の分割梁材110Mからなる構成とし、いわゆるテレスコ(登録商標)ピック構造にすることによって天秤梁材110が伸縮可能な構成にすることもできる。
【0037】
(移動体)
図6は、移動体120を模式的に示す図であり、上方から見た平面図である。この図に示すように移動体120は、本体板121とガイドローラー122を含んで構成される。本体板121は、鋼板など板状の部材を利用することができ、その中央部には貫通孔(以下、「移動体孔121H」という。)が設けられる。この移動体孔121Hは、後述する支持ピンを挿入し得る程度の大きさとされ、梁軸直角方向に長い長孔にするとよい。
【0038】
ガイドローラー122は、天秤梁材110の主梁材111に沿って走行するものであり、より詳しくは主梁材111の上下フランジ間に収められて回転するものである。ガイドローラー122が走行することによって、移動体120は梁軸方向に往復移動することができる。なお、移動体120が梁軸方向に移動することができる構成であれば、ガイドローラー122に限らず種々の走行手段を利用することができる。また移動体120の梁軸方向における両端にはそれぞれ索材130が取り付けられており、左側の索材130は天秤梁材110の左側の吊滑車160に掛けられて垂下し、右側の索材130は天秤梁材110の右側の吊滑車160に掛けられて垂下している。これにより、例えば移動体120が左側に移動すると、左側の索材130の下端は降下し、右側の索材130の下端は上昇する。逆に、移動体120が右側に移動すると、左側の索材130の下端は上昇し、右側の索材130の下端は降下する。
【0039】
(回転アーム)
図7は、回転アーム141を模式的に示す図であり、(a)は上方から見た平面図、(b)は中央部を鉛直面で切断した部分断面図、(c)は前方部分を鉛直面で切断した部分断面図である。回転アーム141は、鋼板など板状の部材を利用することができ、その中央部には貫通孔(以下、「アーム中央孔142H」という。)が設けられる。また、回転アーム141のうち支持板112側(
図7では前方)の端部にも貫通孔(以下、「アーム固定孔143H」という。)が設けられ、回転アーム141のうち他方側(
図7では後方)の端部にも貫通孔(以下、「アーム回転孔144H」という。)が設けられる。
【0040】
回転アーム141は、
図7(a)に示すように天秤梁材110の梁軸直角方向に横断するように配置される。したがって、既述したとおり回転アーム141が配置される部分には側板114が設置されず
図2(b)に示す切欠部とされる。また回転アーム141は、アーム固定孔143Hと支持板孔112H(支持板112の貫通孔)の位置が一致するように、アーム回転孔144Hが天秤梁材110よりも外側(図では後方)に位置するように配置される。なお回転アーム141は、1つの回転アーム141で構成することもできるし、
図7(b)に示すように上段に配置される回転アーム141(以下、単に「上側回転アーム141U」という。)と下段に配置される回転アーム141(以下、単に「下側回転アーム141L」という。)によって構成することもできる。もちろん上側回転アーム141Uと下側回転アーム141Lには、それぞれアーム中央孔142Hとアーム固定孔143H、アーム回転孔144Hが設けられ、これらアーム中央孔142Hとアーム固定孔143H、アーム回転孔144Hの位置が一致するように上側回転アーム141Uと下側回転アーム141Lは上下に配置される。以下、回転アーム141が上側回転アーム141Uと下側回転アーム141Lによって構成される例で説明する。
【0041】
図7(b)に示すように移動体120の本体板121は、上側回転アーム141Uと下側回転アーム141Lの間に挟まれるように、しかも移動体孔121Hと上側回転アーム141Uのアーム中央孔142H(以下、単に「上段のアーム中央孔142H」という。)、下側回転アーム141Lのアーム中央孔142H(以下、単に「下段のアーム中央孔142H」という。)の位置が一致するように配置される。そして、支持板孔112Hと上段のアーム中央孔142H、下段のアーム中央孔142Hに支持ピン142Pが挿通され、これにより本体板121と回転アーム141(上側回転アーム141Uと下側回転アーム141L)は、それぞれ鉛直軸周りに回転(つまり、水平面内で回転)するピン固定(ヒンジ固定)とされる。
【0042】
また、
図7(c)に示すように天秤梁材110の支持板112も、移動体120の本体板121と同様、上側回転アーム141Uと下側回転アーム141Lの間に挟まれるように、しかも支持板孔112Hと上側回転アーム141Uのアーム固定孔143H(以下、単に「上段のアーム固定孔143H」という。)、下側回転アーム141Lのアーム固定孔143H(以下、単に「下段のアーム固定孔143H」という。)の位置が一致するように配置される。そして、支持板孔112Hと上段のアーム固定孔143H、下段のアーム固定孔143Hにアーム固定ピン143Pが挿通され、これにより回転アーム141(上側回転アーム141Uと下側回転アーム141L)は、鉛直軸周りに回転(つまり、水平面内で回転)するピン固定とされる。便宜上ここでは、アーム固定孔143Hの位置(つまり、ピン固定点)を「アーム固定端140F」ということとし、一方のアーム回転孔144Hの位置を「アーム回転端140M」ということとする。
【0043】
(伸縮装置)
図8は、伸縮装置150を模式的に示す上方から見た平面図である。伸縮装置150は、梁軸方向に沿って伸縮するものであり、例えばジャッキなどを利用することができる。すなわち、伸縮装置150が伸縮することによって、伸縮装置150のうち一方の端部(以下、「不動端150F」という。)に対して他方の端部(以下、「伸縮端150M」という。)が接近したり離れたりする(つまり、不動端150Fと伸縮端150Mの間隔が変化する)わけである。
【0044】
伸縮装置150は、天秤梁材110の側面(例えば、側板114)に配置され、不動端150Fにおいて天秤梁材110とピン固定される。これにより伸縮装置150は、不動端150Fで鉛直軸周りに回転(つまり、水平面内で回転)することができる。ただし伸縮装置150は、支持板112が設置された側面とは異なる側面に取り付けられる。例えば
図8では、天秤梁材110のうち前方の側面に支持板112が設置され、伸縮装置150は天秤梁材110のうち後方の側面に取り付けられる。また伸縮装置150は、その不動端150Fが天秤梁材110の端部近くとなるように配置される。そのため、上段天秤梁材110U、下段天秤梁材110Lともに後方(あるいは前方)の側面に伸縮装置150を配置する場合、上段天秤梁材110Uでは左側に伸縮装置150を配置し、下段天秤梁材110Lでは右側に伸縮装置150を配置するとよい。あるいは、上段天秤梁材110U、下段天秤梁材110Lともに左側(あるいは右側)に伸縮装置150を配置する場合、上段天秤梁材110Uでは後方に伸縮装置150を配置し、下段天秤梁材110Lでは前方に伸縮装置150を配置するとよい。
【0045】
伸縮装置150の伸縮端150Mは、回転アーム141のアーム回転端140M(つまり、アーム回転孔144H)において鉛直軸周りに回転(つまり、水平面内で回転)するピン固定とされる。これにより、伸縮装置150の伸縮に伴って回転アーム141はアーム固定端140F周りに回転する。以下、索材移動手段とリンク機構の動作について、
図9~
図11を参照しながら詳しく説明する。
【0046】
(索材移動手段とリンク機構)
図9は、吊治具100のうち移動体120と回転アーム141が配置された部分を示す図であり、(a)は
図2(b)のB-B矢視の断面図であり、(b)は上方から見た平面図である。既述したとおり、移動体孔121Hと上段のアーム中央孔142H、下段のアーム中央孔142Hには支持ピン142Pが挿通され、これにより本体板121と回転アーム141(上側回転アーム141Uと下側回転アーム141L)はそれぞれ鉛直軸周りに回転する。また支持板孔112Hと上段のアーム固定孔143H、下段のアーム固定孔143Hにはアーム固定ピン143Pが挿通され、これにより回転アーム141は鉛直軸周りに回転する。さらに、伸縮端150Mとアーム回転端140Mはピン固定とされており、伸縮端150Mとアーム回転端140Mはそれぞれ鉛直軸周りに回転する。
【0047】
上記のような構成により、回転アーム141は伸縮装置150の伸縮に伴ってアーム固定端140F周りに回転する。そして回転アーム141が回転すると、支持ピン142Pも梁軸方向に沿って移動することとなり、その結果、一方の索材130が引き上げられ、他方の索材130が引き下げられる。
【0048】
例えば
図10では、伸縮装置150が伸長し、つまり伸縮端150Mが右側に移動することによって、回転アーム141がアーム固定端140Fを中心として反時計回りに回転している。回転アーム141が回転すると、アーム中央孔142Hはやや右側に移動し、これに伴って支持ピン142Pも右側に移動する。支持ピン142Pが右側に移動すると、この支持ピン142Pに押し出されるように移動体120も右側に移動し、その結果、
図10(b)に示すように左側の索材130の下端が上昇するとともに右側の索材130の下端が降下し、プレキャスト床版PCは右側下がりに傾斜した姿勢となる。
【0049】
また
図11では、伸縮装置150が収縮し、つまり伸縮端150Mが左側に移動することによって、回転アーム141がアーム固定端140Fを中心として時計回りに回転している。回転アーム141が回転すると、アーム中央孔142Hはやや左側に移動し、これに伴って支持ピン142Pも左側に移動する。支持ピン142Pが左側に移動すると、この支持ピン142Pに押し出されるように移動体120も左側に移動し、その結果、
図11(b)に示すように左側の索材130の下端が降下するとともに右側の索材130の下端が上昇し、プレキャスト床版PCは左側下がりに傾斜した姿勢となる。
【0050】
伸縮装置150が伸縮して回転アーム141が回転すると、アーム回転端140Mは天秤梁材110の側板114に近づくように移動し、これに伴って伸縮端150Mも側板114に近づくように移動する。つまり、伸縮装置150は不動端150F周りに回転する必要があり、そのため伸縮装置150は不動端150Fにおいて天秤梁材110とピン固定される。また、アーム回転端140Mが側板114に近づくように移動する結果、アーム中央孔142Hは支持ピン142Pに対して相対的に移動することとなる。つまり、アーム中央孔142Hにおける支持ピン142Pの位置が変化することになり、換言すれば支持ピン142Pがアーム中央孔142H内で相対的に梁軸直角方向に移動することになるが、アーム中央孔142Hを長孔にした効果で支持ピン142Pは自由に移動することができる。
【0051】
ところで、
図10(b)や
図11(b)では、天秤梁材110(特に中央部)が左右にバランスを取って概ね水平姿勢とされているが、プレキャスト床版PCに連結される索材130の位置や、プレキャスト床版PCの重心位置、吊治具100の重心位置によっては、
図12に示すようにプレキャスト床版PCを吊上げたときの天秤梁材110が左右のいずれかに傾くこともある。
図12(a)はプレキャスト床版PCを吊上げる前の天秤梁材110を示す側面図であり、
図12(b)はプレキャスト床版PCを吊上げたときに左側下がりに傾いた天秤梁材110を示す側面図である。
【0052】
プレキャスト床版PCの重心と、揚重機の主フックMH、吊治具100の重心が直線上に並ぶとき、主フックMHは、プレキャスト床版PCと吊治具100の重量比によって内分される位置とされる。そのため、例えばプレキャスト床版PCに連結された索材130のうち吊治具100の重心側の索材130を伸ばすと、プレキャスト床版PCの重心が水平面上で主フックMHに近づくとともに、吊治具100の重心も主フックMHに近づく。これにより、伸ばした索材130側が上方となるように、吊治具100は傾斜することとなる。
【0053】
(角度測定器と遠隔装置)
本願発明の吊治具100は、
図13に示すように角度測定器180や遠隔装置190を備えたものとすることもできる。角度測定器180は、プレキャスト床版PCの傾斜を測定するもので、例えばスラントなどを利用することができる。吊上げられたプレキャスト床版PCの上面に角度測定器180を載置することによって、プレキャスト床版PCの水平面に対する傾斜角を把握することができる。これにより、角度測定器180をモニタリングしながら伸縮装置150の伸長の操作を行うことが可能となり、より的確にプレキャスト床版PCを目的とする傾斜姿勢とすることができる。なお、プレキャスト床版PCの橋軸方向における傾斜を計測するための角度測定器180と、橋軸直角方向における傾斜を計測するための角度測定器180を配置することが望ましい。また、角度測定器180としてデジタルスラントを利用すればその計測値データを送信することも可能となり、
図13に示すようにスマートフォンなどの携帯端末SPに表示することができる。この場合、吊荷に近づくことなくプレキャスト床版PCの傾斜角を把握することができ、より安全に作業を行うことができる。
【0054】
吊荷に近づくことなく操作するという点においては、遠隔装置190を利用するとよい。プレキャスト床版PCの傾斜姿勢を調整するには、伸縮装置150の操作を行うことになるが、伸縮装置150を直接的に操作するのでは作業者は吊上げられたプレキャスト床版PCに接近することが避けられない。一方、伸縮装置150を遠隔操作することができる遠隔装置190を利用すれば、吊荷に近づくことなくプレキャスト床版PCの傾斜姿勢を調整することができ、より安全に作業を行うことができる。特に、角度測定器180としてデジタルスラントを利用することとし、携帯端末SPで計測値を確認しながら遠隔装置190の操作を実施するとよい。
【0055】
遠隔装置190は、プレキャスト床版PCに連結された索材130に対して指令するような仕様にするとよい。例えば
図13では、No.1からNo.4の名称が付された4本の索材130がプレキャスト床版PCに連結されており、「No.1の索材130を下げる」、「No.2の索材130を下げる」、「No.3の索材130を下げる」、「No.4の索材130を下げる」といったスイッチが設けられている。また、「No.1とNo.3の索材130を同時に下げる」、「No.2とNo.4の索材130を同時に下げる」、「No.1とNo.4の索材130を同時に下げる」、「No.2とNo.3の索材130を同時に下げる」といったスイッチを設けることもできる。
【0056】
(使用例)
本願発明の吊治具100を用いて、吊上げられたプレキャスト床版PCの傾斜姿勢を調整する例について説明する。なお、吊治具100からは4本の索材130が垂下しており、橋軸直角方向に2列、橋軸方向にも2列となるように配置されていることとする。例えば、上段天秤梁材110Uと下段天秤梁材110Lが平面視でプレキャスト床版PCの対角線上となるように配置することができる。もちろん、プレキャスト床版PCの対角線配置に限らず、任意の位置に上段天秤梁材110Uと下段天秤梁材110Lを配置することもできる。対角線配置とする場合、上段天秤梁材110Uの左側の索材130(以下、「No.1の索材130」という。)はプレキャスト床版PCの後方(橋軸方向)の左側(橋軸直角方向)で、上段天秤梁材110Uの右側の索材130(以下、「No.2の索材130」という。)はプレキャスト床版PCの前方の右側で、下段天秤梁材110Lの左側の索材130(以下、「No.3の索材130」という。)はプレキャスト床版PCの前方の左側で、下段天秤梁材110Lの右側の索材130(以下、「No.4の索材130」という。)はプレキャスト床版PCの後方の右側で、それぞれプレキャスト床版PCに連結するとよい。すなわち、No.1の索材130とNo.4の索材130が後方で橋軸直角方向に並び、No.2の索材130とNo.3の索材130が前方で橋軸直角方向に並ぶとともに、No.1の索材130とNo.3の索材130が左側で橋軸方向に並び、No.2の索材130とNo.4の索材130が右側で橋軸方向に並んでいるわけである。
【0057】
プレキャスト床版PCの傾斜姿勢を調整するにあたっては、まず4本の索材130それぞれの下端をプレキャスト床版PCに連結するとともに、主フックMHを吊治具100の一部に掛け、揚重機によってプレキャスト床版PCを吊上げる。なお、吊上げる前にはプレキャスト床版PCの上面に、橋軸方向計測用のデジタルスラントと橋軸直角方向計測用のデジタルスラントを固定しておく。
【0058】
プレキャスト床版PCを吊上げると、デジタルスラントによる計測値データを携帯端末SPで確認し、遠隔装置190の操作することによって伸縮装置150を伸縮させ、プレキャスト床版PCが所望の姿勢となるように調整する。
【0059】
例えば、プレキャスト床版PCを前方(橋軸方向)下がりの傾斜にする場合、No.1の索材130を引き上げるとともにNo.2の索材130を引き下げるように上段天秤梁材110Uの伸縮装置150を伸縮させ、同様に、No.3の索材130を引き下げるとともにNo.4の索材130を引き上げるように下段天秤梁材110Lの伸縮装置150を伸縮させる操作を行う。また、プレキャスト床版PCを左側(橋軸直角方向)下がりの傾斜にする場合、No.1の索材130を引き下げるとともにNo.2の索材130を引き上げるように上段天秤梁材110Uの伸縮装置150を伸縮させ、同様に、No.3の索材130を引き下げるとともにNo.4の索材130を引き上げるように下段天秤梁材110Lの伸縮装置150を伸縮させる操作を行う。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本願発明の連結函体、及び連結函体構築方法は、特に高架の自動車専用道路や一般自動車道といった道路橋に利用することができる。本願発明によれば、供用中の道路橋を効率よく更新することができ、ひいては道路橋の長寿命化につながることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0061】
100 本願発明の吊治具
110 (吊治具の)天秤梁材
110U (天秤梁材の)上段天秤梁材
110L (天秤梁材の)下段天秤梁材
110M (天秤梁材の)分割梁材
110S (天秤梁材の)調整梁材
111 (天秤梁材の)主梁材
112 (天秤梁材の)支持板
112H (天秤梁材の)支持板孔
113 (天秤梁材の)連結材
114 (天秤梁材の)側板
120 (吊治具の)移動体
121 (移動体の)本体板
121H (移動体の)移動体孔
122 (移動体の)ガイドローラー
130 (吊治具の)索材
141 (吊治具の)回転アーム
141U (回転アームの)上側回転アーム
141L (回転アームの)下側回転アーム
142H (回転アームの)アーム中央孔
142P (吊治具の)支持ピン
143H (回転アームの)アーム固定孔
143P (回転アームの)アーム固定ピン
144H (回転アームの)アーム回転孔
140F (回転アームの)アーム固定端
140M (回転アームの)アーム回転端
150 (吊治具の)伸縮装置
150F (伸縮装置の)不動端
150M (伸縮装置の)伸縮端
160 (吊治具の)吊滑車
170 (吊治具の)カウンタウェイト
180 (吊治具の)角度測定器
190 (吊治具の)遠隔装置
MH 主フック
PC プレキャスト床版