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  • 特開-電動車両制御装置 図1
  • 特開-電動車両制御装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086325
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】電動車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 1/00 20060101AFI20240620BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20240620BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B60L1/00 L
B60L3/00 J
H02J7/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201396
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植竹 忠一
【テーマコード(参考)】
5G503
5H125
【Fターム(参考)】
5G503AA07
5G503BA01
5G503BB01
5G503DA08
5G503FA06
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BB05
5H125BC25
5H125EE31
(57)【要約】
【課題】車両の被牽引時において発生する電力を適切に放電することで、電動機器等への悪影響を回避することができるようにする。
【解決手段】駆動輪6を駆動する駆動用モータ4を備えた電動車両1において、電動車両が被牽引状態にあるか否かを判断する被牽引判断部と、駆動用モータで発電した電力を制御する第1制御部11と、駆動用モータ4で発電された電圧を変換する電圧変換部8と、電動機器21,22と、電動機器21,22を制御する第2制御部12と、を備え、被牽引判断部が被牽引状態にあると判断したとき、第1制御部11は、電圧変換部8及び第2制御部12へ駆動用モータ4で生じた電力を供給し、第2制御部12による制御によって駆動用モータ4で生じた電力を用いた電動機器21,22の作動を可能にする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪を駆動する駆動用モータを備えた電動車両において、
前記電動車両が被牽引状態にあるか否かを判断する被牽引判断部と、
前記駆動用モータで発電した電力を制御する第1制御部と、
前記駆動用モータで発電された電圧を変換する電圧変換部と、
前記電動車両に搭載された電動機器と、
前記電圧変換部で変換された電力で作動し、前記電動機器を制御する第2制御部と、を備え、
前記被牽引判断部が被牽引状態にあると判断したとき、前記第1制御部は、前記電圧変換部及び前記第2制御部へ前記駆動用モータで生じた電力を供給し、前記第2制御部による制御によって前記駆動用モータで生じた電力を用いた前記電動機器の作動を可能にする
ことを特徴とする電動車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両が牽引された際に制御を行う電動車両制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境改善などの観点から電力をエネルギ源として電動の駆動用モータを作動させて走行する電動車両が開発されている。このような電動車両には、駆動用モータに給電する走行用バッテリを外部電力により充電する一般的な電気自動車のほか、燃料電池車やシリーズ式ハイブリッド車などの発電装置を備えた車両も含まれる。
このような電動車両では、電動の駆動用モータは駆動輪からの回転力を受けると発電機として機能し、回生制動を行えるようになっている。
【0003】
このような電動車両において、バッテリの電力がなくなった電欠時や、発電装置の動力用ガス(燃料電池車の水素やシリーズ式ハイブリッド車の内燃機関用燃料)がなくなったガス欠時、また、車両の機器類などに故障が発生した車両故障時などの場合に、他車両によって牽引されることが考えられる。
【0004】
また、電動車両の駆動ユニットには、駆動用モータから駆動輪までにクラッチなどの動力遮断機構がなく、動力直結されるものが存在する。この場合、駆動輪が接地された状態で牽引されると、駆動輪からドライブシャフト、ディファレンシャル及び変速機構を介して駆動用モータへ強制的に動力が伝達されてしまう。駆動用モータが外部から強制的に駆動されると、駆動用モータや車両に搭載される電装品(電動機器)に悪影響を与えたりする虞がある。
【0005】
特許文献1には、この課題を解決すべく、ドライブシャフト端部のスプライン部と嵌合する被スプライン部を有する通常走行用ドライブフランジと、当該被スプライン部を有していない被牽引用ドライブフランジとを交換可能に構成し、電動車両の被牽引時には、停車状態で駆動輪のドライブフランジを、被牽引用ドライブフランジへ交換して、駆動輪から駆動用モータへの動力伝達を遮断できるようにした技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-006772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載の発明では、被牽引用ドライブフランジを用意しこれに交換することで、電動車両が牽引される際の電動の駆動用モータや電装品といった電動機器等への悪影響を回避できるようにしているが、より簡便な手段で電動機器等への悪影響を回避できるようにしたい。
【0008】
そこで、新たな部材を追加したり交換作業を要したりすることのない手段として、車両に搭載されるPTCヒータやエアコンプレッサなどの機器に電力を供給し、放電することが考えられる。しかし、電欠時などでは、PTCヒータやエアコンプレッサなどの機器の制御部が作動せず、機器に電力を供給し放電を行うことができないことが考えられる。
【0009】
本件は、係る課題に着目して創案されたもので、車両の被牽引時において発生する電力を適切に放電することで、電動機器等への悪影響を回避することができるようにした電動車両制御装置を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件は上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現できる。
本適用例に係る電動車両制御装置は、駆動輪を駆動する駆動用モータを備えた電動車両において、前記電動車両が被牽引状態にあるか否かを判断する被牽引判断部と、前記駆動用モータで発電した電力を制御する第1制御部と、前記駆動用モータで発電された電圧を変換する電圧変換部と、前記電動車両に搭載された電動機器と、前記電圧変換部で変換された電力で作動し、前記電動機器を制御する第2制御部と、を備え、前記被牽引判断部が被牽引状態にあると判断したとき、前記第1制御部は、前記電圧変換部及び前記第2制御部へ前記駆動用モータで生じた電力を供給し、前記第2制御部による制御によって前記駆動用モータで生じた電力を用いた前記電動機器の作動を可能にすることを特徴としている。
【0011】
本適用例によれば、電動車両が被牽引状態にあると、駆動輪が回転して駆動用モータが発電を行い電力が発生するが、このときには、第1制御部が、駆動用モータで生じた電力を、電圧変換部を介して第2制御部へ供給し、第2制御部による制御によって前記駆動用モータで生じた電力による電動機器の作動を可能にするので、第2制御部による制御によって電動機器を適宜作動させて、車両の被牽引時において発生する電力を適切に放電することができ、電動機器等への悪影響を回避することができる。
【発明の効果】
【0012】
本件によれば、車両の被牽引時において発生する電力を適切に放電することができ、電動機器等への悪影響を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る電動車両の駆動系及び電動車両制御装置の構成を示すブロック図である。
図2図1に示す電動車両制御装置による制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、本件の実施形態について説明する。この実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0015】
[1.電動車両の駆動系及び電動車両制御装置の構成]
図1に示すように、本実施形態に係る電動車両(以下、単に「車両」ともいう)1は、走行用バッテリ2と、このバッテリ2にインバータ3を介して接続され車両を駆動する電動の駆動用モータ(電動モータ、又は、走行用モータ、以下、単に「モータ」ともいう)4と、モータ4とディファレンシャル5を介して連結された駆動輪6とが備えられている。なお、車両1は、走行用バッテリ2を外部電力により充電する電気自動車であるが、燃料電池車やシリーズ式ハイブリッド車などの発電装置を備えた電動車両であってもよい。
【0016】
さらに、車両1は、走行用バッテリ2にコンタクタ7を介して接続されたDC/DCコンバータ(電圧変換部)8と、コンタクタ7及びDC/DCコンバータ8を通じてモータ4で発生した電力を制御する第1ECU(第1制御部)11と、DC/DCコンバータ8に接続され、車載の電動機器類を制御する第2ECU(第2制御部)12と、を備えている。なお、ECU(Electric Vehicle-Electronic Control Unit)11,12は、プロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit),MPU(Micro Processing Unit)などのマイクロプロセッサ)やメモリ(例えば、ROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory)等)を含んで構成される。
【0017】
なお、走行用バッテリ2には、モータ4の大出力を確保するために、300V以上の比較的高電圧のものが適用される。例えば電力車両1の回生制動時に発電機として機能するモータ4で発電する電力もこれと同電圧のものである。
【0018】
車両1には、種々の電動機器類が装備され、比較的大きな電力を要する電動機器(以下、「高電圧機器」ともいう)としては、エアコン(特に、そのコンプレッサ)21やPTCヒータ22等が装備され、これらの大電力消費の電動機器は、走行用バッテリ2の電圧(=モータ4の発電時の電圧)のまま(300V以上の比較的高電圧のまま)電力を受ける仕様になっている。
【0019】
一方、車両1に装備された一般的な電動機器類(以下、「低電圧機器」ともいう)は、例えば12Vや24Vといった比較的低電圧で作動する仕様になっている。第1ECU11や第2ECU12等のコントローラ類も比較的低電圧で作動する。DC/DCコンバータ8は、走行用バッテリ2等の高電圧の電圧を、低電圧で作動する機器の適正電圧まで降下させるので、走行用バッテリ2等の高電圧電源を用いて低電圧機器を作動させることができる。なお、図1では、低電圧機器としては、第1ECU11,第2ECU12のみを例示するが、DC/DCコンバータ8で降圧された電力はその他種々の低電圧機器に供給される。
【0020】
ところで、バッテリ2の電力がなくなった電欠時や、発電装置の動力用ガスがなくなったガス欠時、また、車両の機器類などに故障が発生した車両故障時には、本車両1が他車両によって牽引されることが考えられる。
【0021】
電動モータは駆動輪が接地された状態で牽引されると、駆動輪6からドライブシャフトやディファレンシャル5等を介してモータ4へ強制的に動力が伝達され、モータ4が回転駆動されて発電が行われる。この発生した電力を消費できないと、モータ4に損傷を与えたり車両に搭載される電装品(電動機器)に悪影響を与えたりする虞がある。
【0022】
特に、例えば電欠時等の牽引の際には、走行用バッテリ2の電力を使えないので、DC/DCコンバータ8も作動せず、低電圧機器の一つである第2ECU12にも電力を供給できない。このため、第2ECU12による電動機器類の制御を行えず、モータ4で発生した電力を適切に消費することができない。
【0023】
そこで、本装置では、第1ECU11を内部に小容量キャパシタが内蔵された構成として、電源オフ時にも作動可能としており、第1ECU11は、車両1が牽引されている状態(被牽引状態)にあるか否かを判断する機能(被牽引判断部)を備え、被牽引判断部が被牽引状態にあると判断したとき、モータ4で生じた電力を、DC/DCコンバータ8、及びDC/DCコンバータ8を通じて第2ECU12へ供給するように制御する。これにより、第2ECU12による制御によって、モータ4で生じた電力を用いた電動機器の作動を行うことが可能となる。
【0024】
なお、車両1には、モータ4の回転数N(回転速度)を検出する回転数センサ(図示略)とバッテリ2の端子電圧Vを検出する電圧センサ(図示略)とが装備され、第1ECU11は、これらの情報が入力されるようになっており、被牽引状態の判定は、モータ4の回転数N及びバッテリ2の端子電圧Vに基づいて行い、モータ4の回転数Nが所定値N1以上となって且つバッテリ2の端子電圧Vが所定電圧V1以上になったら、被牽引状態と判定する。
【0025】
牽引時に例えば駆動輪の回転速度が速いほど、モータ4で発電される単位時間当たりの電力が大きくなり、これに応じてバッテリ2の端子電圧Vも大きくなる。この場合、発生した電力をより多く消費しなければならない。本装置では、バッテリ2の端子電圧Vに応じて、モータ4で発生した電力の消費対象を段階的に増大させている。
【0026】
つまり、端子電圧VがV1以上になったら、DC/DCコンバータ8が作動して、第1ECU11,第2ECU12やその他種々の低電圧機器に降圧された電力が供給される。
そして、端子電圧VがV1よりも大きいV2以上になったら、第2ECU12の制御によって、比較的放電量の大きいヒータ22及びエアコン21(これらを「放電器群A」とする)を作動させる。
さらに、端子電圧VがV2よりも大きいV3以上になったら、第2ECU12の制御によって、ヒータ22及びエアコン21(放電器群A)を作動させるのに加えて、インバータ3を三相短絡させる放電(放電器群Aに三相短絡を加えたものを「放電器群B」とする)を実施する。
【0027】
[2.作用及び効果]
本実施形態に電動車両制御装置は、上記のように構成されているので、例えば、図2に示すフローチャートのように制御を行うことができる。なお、図2のフローは、第1ECU11及び第2ECU12を通じて車両のキーオフ時に所定の制御周期で繰り返して実行される。
【0028】
まず、モータ4の回転数N及びバッテリ2の端子電圧Vを読み込む(ステップS10)。そして、モータ4の回転数Nが所定値N1以上か否かを判断し(ステップS20)、回転数Nが所定値N1以上でなければまだ牽引は開始されていないものとしてコンタクタをオフの状態にして(ステップS90、コンタクタオフ)、リターンする。回転数Nが所定値N1以上であれば、バッテリ2の端子電圧Vが所定電圧V1以上か否かを判断し(ステップS30)、端子電圧Vが所定電圧V1でなければ牽引が開始されてもモータ4による発電は僅かであり放電処理は不要と判断してコンタクタをオフの状態にして(ステップS90、コンタクタオフ)、リターンする。
【0029】
モータ4の回転数Nが所定値N1以上で且つバッテリ2の端子電圧Vが所定電圧V1以上であれば、コンタクタをオンにしてDC/DCコンバータ8を作動させ、第2ECU12の電源を確保する(ステップS40、コントローラ電源確保)。これにより、第2ECU12のみならず、第2ECU12で制御される低電圧機器類の作動も可能になる。
【0030】
次に、バッテリ2の端子電圧VがV1よりも大きいV2以上になったか否かを判断する(ステップS50)。低電圧機器類の作動では放電量も僅かなので、モータ4の発電電力を消費しきれず、バッテリ2の端子電圧Vが上昇する場合があり、バッテリ2の端子電圧VがV2以上に上昇したか否かを判断する(ステップS50)。バッテリ2の端子電圧VがV2以上に上昇したら、第2ECU12の制御によって、ヒータ22及びエアコン21(放電器群A)を作動させる(ステップS60)。バッテリ2の端子電圧VがV2以上にならなければ、ヒータ22,エアコン21の停止及びインバータ3を三相短絡の停止を保持してリターンする。
【0031】
牽引速度によっては、モータ4の発電電力が増大し、放電器群Aではモータ4の発電電力を消費しきれず、バッテリ2の端子電圧Vが上昇する場合があり、バッテリ2の端子電圧VがV3以上に上昇したか否かを判断する(ステップS70)。バッテリ2の端子電圧VがV3以上に上昇しなければリターンし、バッテリ2の端子電圧VがV3以上に上昇したら、第2ECU12の制御によって、ヒータ22及びエアコン21を作動させ且つインバータ3を三相短絡させる(ステップS80,放電器群Bの作動)。
【0032】
放電器群Bの作動でモータ4の発電電力を十分に放電できれば、バッテリ2の端子電圧VがV3未満に下がるので、インバータ3の三相短絡を停止して放電器群Aの作動とし、バッテリ2の端子電圧VがV2未満に下がれば、放電器群Aの作動も停止する。
【0033】
このようにして、車両1の牽引時には、第2ECU12の電源が確保され、モータ4の発電状態に応じて放電器群Aや放電器群Bを作動させることができるので、車両1の被牽引時において発生する電力を適切に放電することができモータ4で発電される電力による電動機器等への悪影響を回避することができる。
また、バッテリ2の端子電圧VがV3以上という特定な条件下のみで、インバータ3の三相短絡を実施するので、三相短絡によるインバータ3への影響も軽減することができる。
【0034】
[5.その他]
以上、実施形態を説明したが、本件の発明は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、かかる実施形態を適宜変更して実施することが可能である。
例えば、放電対象の例として、放電器群A(ヒータ22及びエアコン21の作動),放電器群B(ヒータ22及びエアコン21の作動及びインバータ3を三相短絡)を挙げたが、これは一例であり、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0035】
1 電動車両
2 バッテリ
3 インバータ
4 駆動用モータ(走行用モータ、モータ)
5 ディファレンシャル
6 駆動輪
7 コンタクタ
8 DC/DCコンバータ(電圧変換部)
11 第1ECU(第1制御部)
12 第2ECU(第2制御部)
21 エアコン(コンプレッサ)
22 PTCヒータ
図1
図2