(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086327
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】樹脂製保持器の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/49 20060101AFI20240620BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240620BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20240620BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20240620BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240620BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
F16C33/49
F16C19/06
B29C70/42
B29C45/00
C08K7/02
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201398
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 寿人
【テーマコード(参考)】
3J701
4F205
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
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3J701EA31
3J701EA36
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3J701FA60
4F205AA23
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4F205AD16
4F205AH14
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4J002AA01W
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4J002CN01X
4J002GM05
(57)【要約】
【課題】樹脂材料の調達性を向上させ、かつ樹脂製保持器の寸法精度をコントロール可能とする樹脂製保持器の製造方法を提供する。
【解決手段】強化繊維の含有量が異なる2種類以上の樹脂材料を、成形後の保持器50に含まれる強化繊維の量が所望の強化繊維の量となるように配合する工程と、2種類以上の樹脂材料が配合された樹脂材料により保持器50を成形して、成形後の保持器50に含まれる強化繊維の量が保持器50の全体に亘って均一になるように成形する工程と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の転動体を回動自在に保持する樹脂製保持器の製造方法であって、
強化繊維の含有量が異なる2種類以上の樹脂材料を、成形後の前記樹脂製保持器に含まれる強化繊維の量が所望の強化繊維の量となるように配合する工程と、
前記2種類以上の樹脂材料が配合された樹脂材料により前記樹脂製保持器を成形して、成形後の前記樹脂製保持器に含まれる前記強化繊維の量が前記樹脂製保持器全体に亘って均一になるように成形する工程と、
を備える樹脂製保持器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料に強化繊維を配合することで機械的強度向上を図った樹脂製保持器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受の保持器としては、鉄や高力黄銅などの金属材料が用いられてきたが、樹脂材料の性能向上に伴って、軽量化などの観点から樹脂材料を射出成形して形成された樹脂製保持器が多用されている。また、樹脂製保持器においては、機械的強度を向上させるため、樹脂材料にグラスファイバー等の強化繊維が配合されることがある。
【0003】
特許文献1には、ウェルド部とウェルド部以外とを、強化繊維の配合割合が異なる2種以上の樹脂材で成形して、ウェルド部の強度低下を抑制した転がり軸受用保持器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グラスファイバー等のガラス繊維や炭素繊維等からなる強化繊維を含有する樹脂材料を用いて保持器を射出成型した場合、強化繊維含有量によって樹脂材料の寸法収縮量が異なる。このため、成形品の寸法が所望の寸法となるように、強化繊維含有量ごとに異なる寸法収縮量を考慮して金型寸法が決定されて製作される。即ち、成形に使用される樹脂材料の強化繊維含有量ごとに、寸法が異なる成形金型を準備する必要がある。
【0006】
上記した様に、成形金型は強化繊維含有量による寸法収縮量を考慮して製作されるため、成形金型製作時に想定した強化繊維含有量を有する樹脂材料が入手困難となった場合、改めて入手可能な樹脂材料の強化繊維含有量に合わせて高価な成形金型を製作しなければならず、経済的な負担が大きいという問題があった。
【0007】
また、特許文献1に記載の転がり軸受用保持器は、2種以上の樹脂材を用いて成形することで、ウェルド部の強度低下を抑制しているが、ウェルド部とウェルド部以外とで強化繊維の配合割合が異なるため、ウェルド部とウェルド部以外とで寸法収縮量が異なり、保持器の内外径の真円度が悪化して、保持器の回転精度の低下、ひいては、振動や異音が生じる虞がある。また、本発明の目的である、樹脂製保持器全体に亘ってグラスファイバー含有量をコントロールすることで、射出成形された樹脂製保持器の寸法精度をコントロールする技術とは異なる発明である。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂材料の調達を容易にし、かつ樹脂製保持器の寸法精度をコントロール可能とする樹脂製保持器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
[1] 転がり軸受の転動体を回動自在に保持する樹脂製保持器の製造方法であって、
強化繊維の含有量が異なる2種類以上の樹脂材料を、成形後の前記樹脂製保持器に含まれる強化繊維の量が所望の強化繊維の量となるように配合する工程と、
前記2種類以上の樹脂材料が配合された樹脂材料により前記樹脂製保持器を成形して、成形後の前記樹脂製保持器に含まれる前記強化繊維の量が前記樹脂製保持器全体に亘って均一になるように成形する工程と、
を備える樹脂製保持器の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂製保持器の製造方法及び樹脂製保持器によれば、樹脂材料の調達が容易になり、かつ樹脂製保持器の寸法精度をコントロールできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る樹脂製保持器を有するラジアル玉軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る樹脂製保持器を備えるラジアル玉軸受の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るラジアル玉軸受10は、内周面に外輪軌道21を有する外輪20と、外周面に内輪軌道31を有し外輪20と同心に配置された内輪30と、外輪軌道21と内輪軌道31の間に転動自在に設けられた複数個の玉40と、を備える。各玉40は、保持器50に設けられたポケット51内に、円周方向に関して等間隔で転動自在に保持されている。
【0013】
図2に示すように、保持器50は、合成樹脂を射出成形することで形成された、所謂、冠型保持器と呼ばれる樹脂製保持器であり、全体が一体に形成されている。この保持器50は、円環状の基部52と、基部52の軸方向一方の側面(
図2の上側面)から円周方向等間隔で軸方向に突出する複数の柱部53と、を備える。そして、円周方向に隣り合う1対ずつの柱部53の互いに対向する円周方向側面と、基部52の軸方向片側面と、により三方を囲まれる部分をそれぞれポケット51としている。
【0014】
ラジアル玉軸受10の使用時には、各玉40の転動に伴って、外輪20と内輪30とが相対回転する。この際、保持器50で回転自在に保持された各玉40は、自転しつつ内輪30の周囲を公転する。また、保持器50は、これら各玉40の公転速度と同じ速度で、内輪30の周囲を回転する。
【0015】
保持器50は、例えば、ポリアミド樹脂(PA)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアセタール樹脂(POM)等の熱可塑性樹脂が、成形金型のキャビティ内に射出されることで成形される。該熱可塑性樹脂には、グラスファイバー等の強化繊維を混入することで、機械的強度の向上が図られている。
【0016】
前述したように、保持器50は、所望の寸法精度を得るため、射出成形される熱可塑性樹脂の寸法収縮量を考慮した成形金型によって製作される。また、グラスファイバーが混入された熱可塑性樹脂の成形後の寸法収縮量は、グラスファイバー含有量によって異なる。このため、あるグラスファイバー含有量の熱可塑性樹脂のために設計製作された成形金型で、グラスファイバー含有量が異なる熱可塑性樹脂を用いて保持器50を成形すると、製品である保持器50の寸法精度に差が生じる。
【0017】
成型後の保持器50の寸法精度によりポケット51と玉40との隙間が小さいと、ポケット51が玉40を強く拘束して、早期焼き付きの要因となる。また、ポケット51と玉40との隙間が大きいと、保持器50の公転挙動が大きくなり、異音や振動発生の要因となる。さらに、本来、保持器50と外内輪20、30とは干渉しない設計のものでも、保持器外内径寸法のバラツキが大きいと、相互に干渉して保持器50の摩耗や早期焼き付きなどに至る虞がある。つまり、保持器50の各寸法精度は、ある一定の寸法公差内に収める必要がある。
【0018】
一方、成形金型はグラスファイバー含有量による寸法収縮量を考慮して製作されるため、成形金型製作時に想定したグラスファイバー含有量を有する樹脂材料が入手困難となった場合、保持器50の寸法精度を維持するためには、入手可能なグラスファイバー含有量の樹脂材料に合わせて、改めて成形金型を製作することが必要となる。特に、そのような保持器50が多品種に亘る場合には、複数の成形金型の再作製によるコストアップが大きな問題であった。
【0019】
そこで、本実施形態の樹脂製保持器の製造方法は、上記した所望のグラスファイバー含有量を有する樹脂材料が入手困難となった場合に有効な方法を提案するものである。即ち、グラスファイバー含有量が異なる複数の樹脂材料をブレンドすることで、所望のグラスファイバー含有量の樹脂材料として、従来の成形金型を利用可能とする。
【0020】
また、グラスファイバー含有量が異なる複数の樹脂材料を適宜ブレンドして、樹脂材料のグラスファイバー含有量をコントロールすることで、同一の成形金型を用いて寸法精度が異なる樹脂製保持器を成形することが可能となる。
【0021】
具体的には、グラスファイバー含有量がA%の樹脂材料を想定して設計製作された成形金型に対して、グラスファイバー含有量A%の樹脂材料の入手が困難となった場合、グラスファイバー含有量A%より含有量が多いグラスファイバー含有量B%の樹脂材料と、グラスファイバー含有量A%より含有量が少ないグラスファイバー含有量C%の樹脂材料とを適宜配合することで、全体としてのグラスファイバー含有量をコントロールしてグラスファイバー含有量A%の樹脂材料とする。
【0022】
また、グラスファイバー含有量がA%より多いグラスファイバー含有量B%の樹脂材料と、グラスファイバーを含まない(グラスファイバー含有量ゼロ%の)樹脂材料とを適宜配合して、全体としてグラスファイバー含有量A%の樹脂材料としてもよい。また、配合する樹脂材料は2種類に限定されず、3種類以上であってもよい。
【0023】
このように、グラスファイバー含有量が異なる複数の樹脂材料を配合することで、グラスファイバー含有量A%の樹脂材料とし、グラスファイバー含有量A%の樹脂材料を想定して設計製作された成形金型を用いて保持器50を射出成形する。なお、グラスファイバー含有量が異なる複数の樹脂材料は、樹脂材料の配合時(射出成形前)に極力均一に混合することが好ましく、これにより成形後の保持器50のグラスファイバー量が保持器50の全体に亘って均一に成形できる。
【0024】
これにより、保持器50全体に亘って樹脂材料及びグラスファイバー量が均一に成形されて、成型後の保持器50の寸法が円周方向に沿ってバラツキが小さく、良好な真円度が維持できる。
【0025】
以上説明したように、グラスファイバー含有量が異なる複数の樹脂材料を配合して所望のグラスファイバー含有量の樹脂材料とすることで、所望のグラスファイバー含有量の樹脂材料の調達が困難となった場合でも、樹脂材料の代替調達が可能となり、樹脂材料の調達性が向上する。また、新たな成形金型を作成する必要がなく、成形金型の調達負担が低減する。
【0026】
さらに、本発明の樹脂製保持器の製造方法を用いて、樹脂材料のグラスファイバー含有量をコントロールすることで、同一の成形金型を用いて保持器50の寸法をコントロールすることができ、内部設計寸法が若干異なる保持器50にも対応可能となる。
【0027】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。例えば、上記実施形態では、玉軸受に用いる冠型保持器について説明したが、これに限定されず、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、針状ころ軸受などに用いられる他の形式の樹脂製保持器にも同様に適用できる。
さらに、上記実施形態では、強化繊維としてガラス繊維の一種であるグラスファイバーについて説明したが、これに限定されず、炭素繊維など他の強化繊維が含まれた樹脂保持器にも同様に適用できる。
【0028】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 転がり軸受の転動体を回動自在に保持する樹脂製保持器の製造方法であって、
強化繊維の含有量が異なる2種類以上の樹脂材料を、成形後の前記樹脂製保持器に含まれる強化繊維の量が所望の強化繊維の量となるように配合する工程と、
前記2種類以上の樹脂材料が配合された樹脂材料により前記樹脂製保持器を成形して、成形後の前記樹脂製保持器に含まれる前記強化繊維の量が前記樹脂製保持器全体に亘って均一になるように成形する工程と、
を備える樹脂製保持器の製造方法。
【0029】
この構成によれば、強化繊維の含有量が異なる2種類以上の樹脂材料を配合して、成形後の樹脂製保持器に含まれる強化繊維の量が樹脂製保持器全体に亘って均一になるように成形することで、樹脂材料の調達性が向上すると共に樹脂製保持器の寸法精度をコントロールできる。
【0030】
この構成によれば、強化繊維の含有量が異なる樹脂材料であっても、寸法精度がコントロールされた樹脂製保持器が得られる。
【符号の説明】
【0031】
10 ラジアル玉軸受(転がり軸受)
40 玉(転動体)
50 保持器