(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086336
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】歯ブラシ
(51)【国際特許分類】
A46B 9/04 20060101AFI20240620BHJP
A46B 9/06 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
A46B9/04
A46B9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201414
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】592111894
【氏名又は名称】ヤマトエスロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167092
【弁理士】
【氏名又は名称】鷹津 俊一
(72)【発明者】
【氏名】西村 亮
(72)【発明者】
【氏名】林 信之
(72)【発明者】
【氏名】山口 恵里奈
【テーマコード(参考)】
3B202
【Fターム(参考)】
3B202AA06
3B202EA01
3B202ED08
(57)【要約】
【課題】
本体部分において環境負荷が小さいバイオプラスチックを使用しつつも、本体の白化又は割れを低減することができる歯ブラシを提供する。
【解決手段】
ヘッド部の植毛面に複数穴の植毛穴が穿設され、一穴の前記植毛穴に対して一束の毛束と一片の平線とを打ち込むことによって前記一束の毛束を植設する歯ブラシであって、前記ヘッド部を含む本体の成形材料としてポリプロピレン樹脂を用い、かつ、前記成形材料に植物由来のポリエチレン樹脂が添加され、前記毛束は、前記植毛穴の孔方向における平線幅l(mm)と、前記平線の板厚方向における平線厚さt(mm)と、前記植毛穴の直径方向における平線長さd(mm)から前記植毛穴の植毛穴径D(mm)を控除した平線掛かり代s(mm)とが0.05≦l×t×s≦0.18の関係を充足するように植設されることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド部の植毛面に複数穴の植毛穴が穿設され、一穴の前記植毛穴に対して一束の毛束と一片の平線とを打ち込むことによって前記一束の毛束を植設する歯ブラシであって、
前記ヘッド部を含む本体の成形材料としてポリプロピレン樹脂を用い、かつ、前記成形材料に植物由来のポリエチレン樹脂が添加され、
前記毛束は、前記植毛穴の孔方向における平線幅l(mm)と、前記平線の板厚方向における平線厚さt(mm)と、前記植毛穴の直径方向における平線長さd(mm)から前記植毛穴の植毛穴径D(mm)を控除した平線掛かり代s(mm)とが0.05≦l×t×s≦0.18の関係を充足するように植設される
ことを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
前記毛束は、前記植毛穴径D(mm)に対する前記平線長さd(mm)の比率d/Dが1.16≦d/D≦1.60の関係を充足するように植設される
ことを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記毛束は、前記平線掛かり代sが0.3mm以上且つ0.5mm以下となるように植設される
ことを特徴とする請求項2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記毛束は、前記植毛穴径Dが1.4mm以上且つ1.6mm以下となるように植設される
ことを特徴とする請求項2に記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記植物由来のポリエチレン樹脂は、前記成形材料中に10重量%以上且つ20重量%以下の割合で添加される
ことを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の歯ブラシ。
【請求項6】
前記植物由来のポリエチレン樹脂は植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂である
ことを特徴とする請求項5に記載の歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯ブラシに関し、詳細には合成樹脂製の本体を有し、本体の植毛面に植毛穴が穿設され、植毛穴に対して毛束と平線とを打ち込むことによって毛束を植設する歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
長年、歯ブラシの多くは、その本体部分が石油由来の合成樹脂により形成されている。そのため、石油由来の合成樹脂製の歯ブラシを使用後に焼却して処分すれば、二酸化炭素が排出されて地球温暖化ガスの濃度を上昇させることにより地球の環境負担が大きい。
【0003】
そのなかで、地球の環境負担が小さい植物由来のプラスチックであるバイオプラスチックの開発が進み、歯ブラシの本体に用いる合成樹脂材料にもバイオプラスチックの採用が始まっている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の石油由来の合成樹脂によって形成される歯ブラシには、多くの場合、本体の成形材料としてポリプロピレン樹脂(PP)が採用されている。そして、歯ブラシの製造ラインには、こうした100%のポリプロピレン樹脂を成形して歯ブラシを製作するための金型が備えられている。
【0006】
その一方で、種々のバイオプラスチックのうち、植物由来のポリエチレン樹脂(PE)は比較的安定して調達することができる。そこで、発明者は、石油由来のポリプロピレン樹脂に一定範囲の比率において植物由来のポリエチレン樹脂を添加することによって、このようなバイオプラスチックを採用しつつも、従来の金型を用いて歯ブラシを製作することができることを見出した。
【0007】
このとき、ポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂とは互いの相溶性が低いことが知られている。ポリエチレン樹脂が上記の植物由来のポリエチレン樹脂の場合も同様である。そして、このような非相溶の樹脂同士を混合することによって得られた混合材料は、混合しない場合に比べて機械的強度が低い。そのため、ポリプロピレン樹脂の成形材料に植物由来のポリエチレン樹脂を添加して成形した歯ブラシの本体に植毛穴を穿設し、この植毛穴に毛束と平線とを打ち込むときは、植毛穴の周囲に白化が生じ易く、また、白化が進めば割れが生じ易いことが見出された。
【0008】
そこで本発明は、本体部分において環境負担が小さいバイオプラスチックを使用しつつも、本体の白化又は割れを低減することができる歯ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明はヘッド部の植毛面に複数穴の植毛穴が穿設され、一穴の前記植毛穴に対して一束の毛束と一片の平線とを打ち込むことによって前記一束の毛束を植設する歯ブラシであって、前記ヘッド部を含む本体の成形材料としてポリプロピレン樹脂を用い、かつ、前記成形材料に植物由来のポリエチレン樹脂が添加され、前記毛束は、前記植毛穴の孔方向における平線幅l(mm)と、前記平線の板厚方向における平線厚さt(mm)と、前記植毛穴の直径方向における平線長さd(mm)から前記植毛穴の植毛穴径D(mm)を控除した平線掛かり代s(mm)とが0.05≦l×t×s≦0.18の関係を充足するように植設されることを特徴とする歯ブラシを提供するものである。
【0010】
すなわち、発明者が行った試作結果から、平線幅l(mm)×平線厚さt(mm)×平線掛かり代s(mm)が0.05以上である本発明の歯ブラシは、平線がヘッド部の内部に十分食い込み、植毛穴からの刷毛及び平線の抜脱を低減することができる。そして、これと同時に、ポリプロピレン樹脂と植物由来のポリエチレン樹脂との相溶性が悪いためにヘッド部の機械的強度が不足するのに対し、平線幅l(mm)×平線厚さt(mm)×平線掛かり代s(mm)を0.18以下に抑えることによって、毛束及び平線を打ち込むときの打込み箇所近傍の割れを防止し且つ白化を低減することができる。こうして、本発明の歯ブラシは、バイオプラスチックを使用しつつ十分な機械的な要求を満たすことができる。
【0011】
(2)また、前記毛束は、前記植毛穴径D(mm)に対する前記平線長さd(mm)の比率d/Dが1.16≦d/D≦1.60の関係を充足するように植設されてもよい。
【0012】
すなわち、本発明の歯ブラシは、発明者が行った試作結果から、植毛穴径D(mm)の1.16倍以上の平線長さd(mm)を有する平線を打ち込むことにより、この平線の掛かり代がヘッド部の内部からの十分な力によって押し返される。これにより、平線が毛束とともに植毛穴から脱抜し難い。また、ポリプロピレン樹脂と植物由来のポリエチレン樹脂との相溶性が悪いためにヘッド部の機械的強度が不足するのに対し、植毛穴径D(mm)の1.60倍以下の長さを有する平線を打ち込むことによって、植毛穴周りのヘッド部に切り込んでゆく掛かり代の長さは限定的である。そのため、毛束及び平線を打ち込むときの打込み箇所近傍の割れを防止し且つ白化を低減することができる。こうして、本発明の歯ブラシは、バイオプラスチックを使用しつつ十分な機械的な要求を満たすことができる。
【0013】
(3)また、前記毛束は、前記平線掛かり代sが0.3mm以上且つ0.5mm以下となるように植設されてもよい。
【0014】
すなわち、発明者が行った試作結果から、0.3mm以上の平線掛かり代sを有することによって、植毛穴に対する刷毛の高い毛止め強度を得ることができ、また、平線掛かり代sを0.5mm以下に抑えることによって、より確実に打込み箇所の割れを防止でき且つ白化を低減できることができる。
【0015】
さらに、平線掛かり代sの最大長さを制限することによって、隣り合う平線同士の干渉の可能性を低減して植毛面上に配置される各植毛穴の内周面同士の間隔を抑えることができる。そのため、一定面積の植毛面上により多くの植毛穴を配置することができ、また、より多くの束数の毛束を植設することができる。その結果、本発明の歯ブラシは、植毛面の単位面積当たりの歯ブラシの刷掃効果を向上することが可能となる。
【0016】
(4)また、前記毛束は、前記植毛穴径Dが1.4mm以上且つ1.6mm以下となるように植設されてもよい。
【0017】
すなわち、本発明の歯ブラシは、毛束が、一定の大きさ以上の植毛穴径Dである植毛穴に植設されることによって、歯面、歯間、歯茎等の口腔内の部位をより効果的に刷掃することができるほどの本数の刷毛を有することができる。また、植毛穴径Dを一定の大きさ以下に抑えることによって、隣り合う植毛穴の内周面同士の間隔を抑えるとともに、各植毛穴に打ち込まれる平線同士の干渉の可能性を低減することができる。その結果、本発明の歯ブラシは、植毛面の単位面積当たりの歯ブラシの刷掃効果を向上することが可能となる。
【0018】
(5)また、前記植物由来のポリエチレン樹脂は、前記成形材料中に10重量%以上且つ20重量%以下の割合で添加されてもよい。
【0019】
すなわち、本発明の歯ブラシは、ポリプロピレン樹脂に対する植物由来のポリエチレン樹脂を10重量%以上添加して製作することにより、そのぶん、バイオプラスチックを用いない歯ブラシを製作する場合と比べて高いカーボンニュートラル効果を得ることができる。その一方で、発明者の試作結果により、植物由来のポリエチレン樹脂の添加割合を20重量%以下に抑えるとき、ポリプロピレン樹脂を100%用いる場合の金型及びそのときの成形条件を変えずに歯ブラシを製作することができる。そのため、本発明の歯ブラシの製作者は、従来の製造ラインを変更する必要が少ない。また、20%重量までの割合であれば歯ブラシに必要な機械的強度を持たせることが見出した。このようにして、本発明の歯ブラシには、最大20%重量までの植物由来のポリエチレン樹脂を添加することができる。
【0020】
(6)また、前記植物由来のポリエチレン樹脂は植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であってもよい。
【0021】
すなわち、本発明の歯ブラシは、発明者の試作結果により、植物由来のポリエチレン樹脂として植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)を採用することによって白化の発生率をさらに減らすことができる。
【発明の効果】
【0022】
このように本発明では、環境負荷が小さいバイオプラスチックである植物由来のポリエチレン樹脂を使用しつつも、ヘッド部の割れを防止し且つ白化を低減することができる歯ブラシを提供する。また、刷掃効果の高い歯ブラシを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(a)本発明の第1の実施形態に係る歯ブラシの平面図を表わす。(b)同じく側面図を表わす。
【
図2】(a)
図1の歯ブラシの植毛穴に植設される毛束の平面図を表わす。(b)同じく側面図を表わす。
【
図3】(a)
図1の歯ブラシにおける植毛穴の平面図を表わす。(b)同じく正面図を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態を、
図1~
図3を用いて説明する。
図1(a)(b)において1は歯ブラシである。歯ブラシ1は先端側にヘッド部2を有し、基端側に、ヘッド部2を口腔内に誘導するために把持されるハンドル部3を有する。これらヘッド部2及びハンドル部3を総称して本体ともいう。ヘッド部2とハンドル部3とは、植物由来のポリエチレン樹脂が10~20重量%の割合で添加されたポリプロピレン樹脂を材料とする。また、ヘッド部2及びハンドル部3は、この材料の射出成形による成形品であり、一体に形成される。すなわち、歯ブラシ1の本体の成形材料としてポリプロピレン樹脂を用い、この成形材料に10重量%以上且つ20重量%以下の割合で植物由来のポリエチレン樹脂が添加される。図においては、矢印Uの向きが歯ブラシ1の上方を示し、矢印Dの向きが同じく下方を示す。
【0025】
ヘッド部2は上向きの植毛面4を有する。植毛面4には上下方向の毛束5が複数束植設される。
図2(a)(b)はこれら複数束の毛束5のうち、例として2束の毛束5の平面図及び側面図をそれぞれ表わす。これら2束の毛束5以外の毛束5も同様に構成される。1束の毛束5には複数本の刷毛6が束ねられる。刷毛6はナイロン、ポリブチレンテレフタレートなどの合成樹脂を材料とする。
【0026】
植毛面4には、
図2(a)に示される下向きの植毛穴7が凹設される。植毛穴7は、上下方向の中心線を有する略円柱状に形成される。毛束5の束数と同数の植毛穴7が凹設される。各植毛穴7は略円柱状の内側に位置する内周面7aを有する。そして、各植毛穴7の内周面7aには偏平状の平線8が渡される。平線8は黄銅などの金属を材料とする。図においては、矢印Fの向きが植毛穴7の前方を示し、矢印Bの向きが同じく後方を示す。また、矢印Lの向きが同じく左方を示し、矢印Rの向きが同じく右方を示す。なお、
図2(a)の例において、平面視における2つの植毛穴7が並ぶ方向と各植毛穴7の前後方向とが一致せず、並ぶ方向に対して前後方向がやや時計回りに傾いているが、これら並ぶ方向と前後方向とはこのような関係になくともよい。すなわち、これらの方向が一致、直交又はこれ以外の角度において傾いてもよい。
【0027】
各平線8は、略直方体状に形成され、その横断面が左右方向の長手方向を有する長方形を成す。各平線8の姿勢は、
図3(a)(b)に表わされる平面図及び正面図によって示される。すなわち、各平線8は、その上面及び底面が概ね植毛面4と平行する姿勢において配置される。各毛束5が植毛面4に植設されるときは、各植毛穴7の開口から、二つ折れした毛束5が折り返し部を先頭にして下向きに挿入される。各毛束5は、例えば26~27本の刷毛6を束ねて構成され、二つ折れされることにより、2倍の52~54本の刷毛6が一度に各植毛穴7に挿入されることによって植設される。
【0028】
このとき、平線8は毛束5の二つ折れの内側に挟まれた状態で、毛束5と共に植毛穴7に挿入されて打ち込まれる。平線8が内周面7aに対して圧着されて打込み直後の位置に留まることにより、刷毛6は植毛穴7から抜けることがない。そして、平線8が打ち込まれる際に通過した跡が、植毛穴7の内周面において上下方向の溝9として残る。
【0029】
図3(a)(b)においては、植毛穴7及び平線8の寸法を符号D,d,l,Σ1,Σ2,tによって表わす。植毛穴7の直径は植毛穴径D(単位:mm)によって表わす。また、平面視における平線8の左右方向の長さを平線長さd(単位:mm)によって表わす。この平線長さdとは、植毛穴7の直径方向における平線8の長さと同意である。また、平面視における平線8の左端から内周面7aの左端までの距離を左側平線掛かり代Σ1(単位:mm)によって表わす。同じく内周面7aの右端から平線8の右端までの距離を右側平線掛かり代Σ2(単位:mm)によって表わす。これら左側平線掛かり代Σ1と右側平線掛かり代Σ2との和は、植毛穴径Dから平線長さdを控除した長さと同じであり、この和を平線掛かり代s(単位:mm)によって表わす。
【0030】
また、平線8の前後方向の長さは平線厚さt(単位:mm)によって表わす。この平線厚さtとは、平線8の板厚方向における厚さと同意である。そして、平線8の上下方向の長さは平線幅l(単位:mm)によって表わす。この平線幅lとは、植毛穴7の孔方向における平線8の幅と同意である。
【0031】
本実施形態の例において、歯ブラシ1の寸法は、平線幅l×平線厚さt×平線掛かり代sの数値を0.05以上且つ0.18以下の範囲に収めるとともに、直毛穴径Dに対する平線長さdの比率d/Dを1.16以上且つ1.60以下の範囲に収める。すなわち、発明者は、植物由来のポリエチレン樹脂が添加されたポリプロピレン樹脂を材料とするヘッド部2及びハンドル部3から成る歯ブラシ1を複数試作し、これらに種々の寸法の植毛穴7を設けるとともに種々の寸法の平線8を用いて毛束5を打ち込んだ結果、寸法がこれらの範囲内に収まるものについてヘッド部2の割れが生じず、かつ、植毛穴7周囲の白化が少ないことを見出した。そのため、歯ブラシ1の寸法を上述の数値範囲に収めるものである。
【0032】
しかも、平線幅l×平線厚さt×平線掛かり代sの数値が0.07以上且つ0.15以下の範囲に収まるときには、より安定的にヘッド部2の割れが生じず、かつ、植毛穴7周囲の白化が少ないことを見出した。また、直毛穴径Dに対する平線長さdの比率d/Dが1.18以上且つ1.36以下の範囲に収まるときにも、より安定的にヘッド部2の割れが生じず、かつ、植毛穴7周囲の白化が少ないことを見出した。よって、より望ましくは、歯ブラシ1の寸法を重ねて上述の数値範囲に収めるものである。
【0033】
さらに、添加する植物由来のポリエチレン樹脂として、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)及び直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)を候補に挙げてそれぞれを用いた試作品を製作及び試験した結果、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を添加した歯ブラシ1の植毛穴7周囲の白化が最も少ないことを見出した。よって、歯ブラシ1の成形材料に添加する植物由来のポリエチレン樹脂として、最も望ましくは直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を選択するものである。
【0034】
ところで、添加する植物由来のポリエチレン樹脂の成形材料中における割合は高ければ高いほど、歯ブラシを製作することによる環境負担を小さくすることができる。すなわち、例えばサトウキビを発酵して得られるエタノールから合成される植物由来のポリエチレン樹脂を用いることによって、この原料であるサトウキビの育成段階において二酸化炭素を吸収するため、焼却する際に発生する二酸化炭素の排出量を実際よりも少ないものとみなすことができる。このような、いわゆるカーボンニュートラル効果については、植物由来のポリエチレン樹脂の使用割合が高いほどより高い効果を得ることができる。そして、カーボンニュートラル効果を得られる歯ブラシを製作して環境負荷を抑えるためには、少なくとも10重量%の割合で植物由来のポリエチレン樹脂を添加することが望ましい。
【0035】
その一方で、ポリプロピレン樹脂と植物由来のポリエチレン樹脂とは互いの相溶性が低いために、植物由来のポリエチレン樹脂を添加する割合が高ければ高いほど、これら樹脂同士の結合性が低い。これにより、添加の割合が高いぶん機械的強度が低く、そのため、歯ブラシはヘッド部の白化及び割れの生じる度合が高くなり、また、ハンドル部の剛性が低く、使用者がハンドル部を把持して歯を磨くために不十分である。これに対して、試作品の製作を通じて、歯ブラシ1に最小限の機械的強度を持たせるために、20%重量までの割合で植物由来のポリエチレン樹脂を添加するのであれば、必要な機械的強度を持たせることを見出した。そのため、多くても20%重量の割合で植物由来のポリエチレン樹脂を添加することが望ましい。
【0036】
一例として、平線幅lが1.5mmであり、平線厚さtが0.2mmであり、平線掛かり代sが0.6mmであり、植毛穴径Dが1.7mmであり、かつ、平線長さdが2.3mmであるとともに、ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製グレードJ106MG)に対して10重量%の割合で植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(伯ブラスケム社製グレードSLL118/21)を添加した成形材料を用いた歯ブラシ1を製作した。製作時において、この歯ブラシ1のヘッド部2の割れが生じず、かつ、植毛穴7周囲の白化が少なかった。また、ハンドル部3の剛性は、把持して歯を磨く上で十分であった。
【0037】
また、上記のポリプロピレン樹脂を別のグレードであるポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製グレードJ105G)に変更して歯ブラシ1を製作した。その結果、植毛穴7周囲の白化について、どちらも白化が少なかったが、両者を比較すれば、変更前のポリプロピレン樹脂(同社製グレードJ106MG)を用いた歯ブラシ1は白化がより少なかった。
【0038】
本例の歯ブラシ1の平線幅l×平線厚さt×平線掛かり代sの数値は0.180であり、また、平線長さd/植毛穴径Dの数値は1.353であった。
【0039】
以上の構成により、発明者が行った試作結果から、平線幅l(mm)×平線厚さt(mm)×平線掛かり代s(mm)が0.05以上である歯ブラシ1は、平線8がヘッド部2の内部に十分食い込み、植毛穴7からの刷毛6及び平線8の抜脱を低減することができる。そして、これと同時に、ポリプロピレン樹脂と植物由来のポリエチレン樹脂との相溶性が悪いためにヘッド部2の機械的強度が不足するのに対し、発明者が行った試作結果から、平線幅l(mm)×平線厚さt(mm)×平線掛かり代s(mm)を0.18以下に抑えることによって、毛束5及び平線8を打ち込むときの打込み箇所近傍の割れを防止し且つ白化を低減することができる。こうして、歯ブラシ1は、バイオプラスチックを使用しつつ十分な機械的な要求を満たすことができる。
【0040】
また、歯ブラシ1は、発明者が行った試作結果から、植毛穴径D(mm)の1.16倍以上の平線長さd(mm)を有する平線8を打ち込むことにより、この平線8の掛かり代がヘッド部2の内部からの十分な力によって押し返される。これにより、平線8が毛束5とともに植毛穴7から脱抜し難い。これと同時に、ポリプロピレン樹脂と植物由来のポリエチレン樹脂との相溶性が悪いためにヘッド部2の機械的強度が不足するのに対し、発明者が行った試作結果から、植毛穴径D(mm)の1.60倍以上の長さを有する平線8を打ち込むことによって、植毛穴7周りのヘッド部2に切り込んでゆく掛かり代の長さは限定的である。そのため、毛束5及び平線8を打ち込むときの打込み箇所近傍の割れを防止し且つ白化を低減することができる。こうして、歯ブラシ1は、バイオプラスチックを使用しつつ十分な機械的な要求を満たすことができる。
【0041】
また、ポリプロピレン樹脂に対する植物由来のポリエチレン樹脂を10重量%以上添加する歯ブラシ1を製作することにより、そのぶん、バイオプラスチックを用いない歯ブラシを製作する場合と比べて高いカーボンニュートラル効果を得ることができる。その一方で、発明者の試作結果により、植物由来のポリエチレン樹脂の添加割合を20重量%以下に抑えるとき、ポリプロピレン樹脂を100%用いる場合の金型及びそのときの成形条件を変えずに歯ブラシ1を製作することができる。そのため、歯ブラシ1の製作者は、従来の製造ラインを変更する必要が少ない。また、20%重量までの割合であれば歯ブラシ1に必要な機械的強度を持たせることが見出した。このようにして、製作者は最大20%重量までの植物由来のポリエチレン樹脂を添加することができる。
【0042】
さらに、発明者の試作結果により、植物由来のポリエチレン樹脂として植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を採用することによって白化の発生率を減らすことができる。
【0043】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態を例示する。第2の実施形態に係る歯ブラシ11の構成は、特に記載しない限り第1の実施形態に係る歯ブラシ1の構成と共通する。例えば、本実施形態の例においても、歯ブラシ11の寸法は、平線幅l×平線厚さt×平線掛かり代sの数値を0.05以上且つ0.18以下の範囲に収めるとともに、直毛穴径Dに対する平線長さdの比率d/Dを1.16以上且つ1.60以下の範囲に収める。
【0044】
また、平線幅l×平線厚さt×平線掛かり代sの数値を0.07以上且つ0.15以下の範囲に収め、または、直毛穴径Dに対する平線長さdの比率d/Dを1.18以上且つ1.36以下の範囲に収めることがより望ましい。さらに、平線幅l×平線厚さt×平線掛かり代sの数値を0.07以上且つ0.15以下の範囲に収め、かつ、直毛穴径Dに対する平線長さdの比率d/Dを1.18以上且つ1.36以下の範囲に収めることが望ましい。
【0045】
ところで、発明者は、さらなる試作結果により、平線掛かり代sが0.3mm以上となるように毛束15及び平線18を打ち込むことによって、ヘッド部12と平線18との間において大きな摩擦を生じさせ、その結果、植毛穴17に対する刷毛16の高い毛止め強度を得ることを見出した。その一方で、ポリプロピレン樹脂と植物由来のポリエチレン樹脂との相溶性が悪いためにヘッド部12の機械的強度が不足するのに対して、平線掛かり代sを0.5mm以下に抑えることによって、より確実に打込み箇所の割れを防止でき且つ白化を低減できることを見出した。
【0046】
そのため、本実施形態に係る歯ブラシ11においては、毛束15を、平線掛かり代sを0.3mm以上且つ0.5mm以下となるように植設する。
【0047】
一例として、平線幅lが1.2mmであり、平線厚さtが0.2mmであり、平線掛かり代sが0.4mmであり、植毛穴径Dが1.1mmであり、かつ、平線長さdが1.5mmであるとともに、ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製グレードJ106MG)に対して10重量%の割合で植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(伯ブラスケム社製グレードSLL118/21)を添加した成形材料を用いた歯ブラシ11を製作した。製作時において、この歯ブラシ11のヘッド部12の割れが生じず、かつ、植毛穴17周囲の白化が少なかった。また、ハンドル部13の剛性は、把持して歯を磨く上で十分であった。
【0048】
また、上記のポリプロピレン樹脂を別のグレードであるポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製グレードJ105G)に変更して歯ブラシ11を製作した。その結果、植毛穴17周囲の白化について、どちらも白化が少なかったが、両者を比較すれば、変更前のポリプロピレン樹脂(同社製グレードJ106MG)を用いた歯ブラシ11は白化がより少なかった。
【0049】
本例の歯ブラシ11の平線幅l×平線厚さt×平線掛かり代sの数値は0.096であり、また、平線長さd/植毛穴径Dの数値は1.364であった。
【0050】
以上の構成により、発明者が行った試作結果から、0.3mm以上の平線掛かり代sを有することによって、植毛穴17に対する刷毛16の高い毛止め強度を得ることができ、また、平線掛かり代sを0.5mm以下に抑えることによって、より確実に打込み箇所の割れを防止でき且つ白化を低減できることができる。
【0051】
さらに、平線掛かり代sの最大長さを0.5mmとすることによって、隣り合う平線18同士の干渉の可能性を低減して植毛面14上に配置される各植毛穴17の内周面17a同士の間隔を抑えることができる。そのため、一定面積の植毛面14上により多くの植毛穴17を配置することができ、より多くの束数の毛束15を植設することができる。その結果、植毛面14の単位面積当たりの歯ブラシ11の刷掃効果を向上することが可能となる。
【0052】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態を例示する。第3の実施形態に係る歯ブラシ21の構成は、特に記載しない限り第2の実施形態に係る歯ブラシ11の構成と共通する。例えば、本実施形態の例においても、歯ブラシ21の寸法は、平線幅l×平線厚さt×平線掛かり代sの数値を0.05以上且つ0.18以下の範囲に収めるとともに、直毛穴径Dに対する平線長さdの比率d/Dを1.16以上且つ1.60以下の範囲に収める。また、毛束25を、平線掛かり代sを0.3mm以上且つ0.5mm以下となるように植設する。
【0053】
さらに、平線幅l×平線厚さt×平線掛かり代sの数値を0.07以上且つ0.15以下の範囲に収め、または、直毛穴径Dに対する平線長さdの比率d/Dを1.18以上且つ1.36以下の範囲に収めることがより望ましい。さらに、平線幅l×平線厚さt×平線掛かり代sの数値を0.07以上且つ0.15以下の範囲に収め、かつ、直毛穴径Dに対する平線長さdの比率d/Dを1.18以上且つ1.36以下の範囲に収めることが望ましい。
【0054】
ここで、本実施形態に係る歯ブラシ21においては、毛束25を、植毛穴径Dが1.4mm以上且つ1.6mm以下である植毛穴27に植設する。よって、ヘッド部22の植毛面24には植毛穴径Dが1.4mm以上且つ1.6mm以下である植毛穴27を凹設する。
【0055】
一例として、平線幅lが1.2mmであり、平線厚さtが0.2mmであり、平線掛かり代sが0.4mmであり、植毛穴径Dが1.5mmであり、かつ、平線長さdが1.9mmであるとともに、ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製グレードJ106MG)に対して10重量%の割合で植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(伯ブラスケム社製グレードSLL118/21)を添加した成形材料を用いた歯ブラシ21を製作した。製作時において、この歯ブラシ21のヘッド部22の割れが生じず、かつ、植毛穴27周囲の白化が極めて少なかった。また、ハンドル部23の剛性は、把持して歯を磨く上で十分であった。
【0056】
また、上記のポリプロピレン樹脂を別のグレードであるポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製グレードJ105G)に変更して歯ブラシ21を製作した。その結果、植毛穴27周囲の白化について、どちらも白化が少なかったが、両者を比較すれば、変更前のポリプロピレン樹脂(同社製グレードJ106MG)を用いた歯ブラシ21は白化がより少なかった。
【0057】
本例の歯ブラシ21の平線幅l×平線厚さt×平線掛かり代sの数値は0.096であり、また、平線長さd/植毛穴径Dの数値は1.267であった。
【0058】
以上の構成により、歯ブラシ21の毛束25は、植毛穴径Dが1.4mm以上の植毛穴27に植設されることによって、歯面、歯間、歯茎等の口腔内の部位をより効果的に刷掃することができるほどの本数の刷毛26を有することができる。また、植毛穴径Dを1.6mm以下に抑えることによって、隣り合う植毛穴27の内周面27a同士の間隔を抑えるとともに、各植毛穴27に打ち込まれる平線28同士の干渉の可能性を低減することができる。その結果、植毛面24の単位面積当たりの歯ブラシ21の刷掃効果を向上することが可能となる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について例示したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、植設される毛束によって使用者の歯を清掃するための歯ブラシに利用できる。
【符号の説明】
【0061】
1,11,21 歯ブラシ
2,12,22 ヘッド部
3,13,23 ハンドル部
4,14,24 植毛面
5,15,25 毛束
6,16,26 刷毛
7,17,27 植毛穴
8,18,28 平線
D 植毛穴径
d 平線長さ
s 平線掛かり代
t 平線厚さ
l 平線幅