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特開2024-86395メタンの製造方法及びメタンの製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086395
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】メタンの製造方法及びメタンの製造装置
(51)【国際特許分類】
   C12P 5/02 20060101AFI20240620BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240620BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240620BHJP
   C12M 1/107 20060101ALI20240620BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20240620BHJP
   C02F 3/28 20230101ALI20240620BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C12P5/02
C25B1/04
C25B9/00 A
C12M1/107
C02F11/04 A ZAB
C02F3/28 A
B01D53/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201502
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】築井 良治
(72)【発明者】
【氏名】森田 智之
(72)【発明者】
【氏名】岩本 拓也
【テーマコード(参考)】
4B064
4D006
4D040
4D059
4K021
【Fターム(参考)】
4B064AB03
4B064CA01
4B064CE20
4B064DA16
4D006GA41
4D006HA01
4D006HA41
4D006KA01
4D006KB24
4D006MA01
4D006MA03
4D006MC03
4D006MC28
4D006MC58
4D006PA01
4D006PB19
4D006PB64
4D006PB66
4D006PB68
4D006PC67
4D040AA23
4D040AA26
4D040AA42
4D059AA02
4D059AA03
4D059BA15
4D059BA18
4D059BE49
4D059CA11
4D059CA14
4K021AA01
4K021BA02
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】設備の小型化を実現しながらエネルギーとして利用可能なメタンを効率的で安定的に生成することが可能なメタンの製造方法及びメタンの製造装置を提供する。
【解決手段】メタン化触媒又は微生物の存在下で水素と二酸化炭素とを反応させるメタネーション反応によってメタン含有ガスを生成するメタネーション工程と、メタン含有ガスからメタン含有ガス中に残留する水素及び二酸化炭素を分離してメタン含有ガス中のメタン濃度を高め、メタンを主成分とする処理ガスを得るガス分離工程とを有することを特徴とするメタンの製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン化触媒又は微生物の存在下で水素と二酸化炭素とを反応させるメタネーション反応によってメタン含有ガスを生成するメタネーション工程と、
前記メタン含有ガスから前記メタン含有ガス中に残留する前記水素及び前記二酸化炭素を分離して前記メタン含有ガス中のメタン濃度を高め、メタンを主成分とする処理ガスを得るガス分離工程と
を有することを特徴とするメタンの製造方法。
【請求項2】
前記ガス分離工程で分離した前記水素及び前記二酸化炭素を前記メタネーション工程へ循環させる工程を更に有することを特徴とする請求項1に記載のメタンの製造方法。
【請求項3】
前記メタネーション工程が、
有機性排水又は有機性廃棄物の嫌気性消化によって得られるメタン及び二酸化炭素を含むバイオガスを導入し、前記バイオガスに含まれる前記二酸化炭素をメタンに変換する処理を有することを特徴とする請求項1に記載のメタンの製造方法。
【請求項4】
前記ガス分離工程が、分離膜を用いて前記メタン含有ガス中に残留する前記水素及び前記二酸化炭素を分離することを特徴とする請求項1に記載のメタンの製造方法。
【請求項5】
有機性排水又は有機性廃棄物の嫌気性消化によって得られるメタン及び二酸化炭素を含むバイオガスを、前記メタネーション工程を迂回させて前記ガス分離工程へと供給し、前記ガス分離工程において、前記バイオガスに含まれる前記二酸化炭素を分離し、前記バイオガス中のメタン濃度を高める工程を有する請求項1~4のいずれか1項に記載のメタンの製造方法。
【請求項6】
前記メタネーション反応が進行する反応槽内の気相中の水素濃度又は前記反応槽の出口ガス配管内の水素濃度が一定値以上となるように前記水素を前記反応槽内へ供給することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のメタンの製造方法。
【請求項7】
前記メタネーション反応が進行する反応槽内の気相中の水素濃度又は前記反応槽の出口ガス配管内の水素濃度を計測し、
前記水素濃度が一定値以上となるように、前記反応槽内へ供給する前記水素又は前記二酸化炭素の供給流量を調整することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のメタンの製造方法。
【請求項8】
前記メタネーション反応が進行する反応槽内の気相中の水素濃度又は前記反応槽の出口ガス配管内の水素濃度を計測し、
前記水素濃度が一定値以上となるように、前記ガス分離工程で分離した前記水素及び前記二酸化炭素を前記メタネーション工程へ循環させる際の循環流量を調節することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のメタンの製造方法。
【請求項9】
前記ガス分離工程で分離した前記水素及び前記二酸化炭素を前記メタネーション工程へ循環させる際の循環流量を調整することにより、前記ガス分離工程で得られる前記処理ガスの圧力を調整することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のメタンの製造方法。
【請求項10】
前記メタネーション反応が進行する反応槽内へ供給する前記水素又は前記二酸化炭素の供給流量を調整することにより、前記ガス分離工程で得られる前記処理ガスの圧力を調整することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のメタンの製造方法。
【請求項11】
メタン化触媒又は微生物の存在下で水素と二酸化炭素とを反応させるメタネーション反応によってメタン含有ガスを生成するメタネーション手段と、
前記メタン含有ガスから前記メタン含有ガス中に残留する前記水素及び前記二酸化炭素を分離して前記メタン含有ガス中のメタン濃度を高め、メタンを主成分とする処理ガスを得るガス分離手段と
を備えることを特徴とするメタンの製造装置。
【請求項12】
前記ガス分離手段で分離した前記水素及び前記二酸化炭素を前記メタネーション手段へ循環させる循環手段を更に備える請求項11に記載のメタンの製造装置。
【請求項13】
前記メタネーション手段へ供給する前記水素を電気分解により生成する水素生成手段を更に備えることを特徴とする請求項11又は12に記載のメタンの製造装置。
【請求項14】
前記メタネーション手段へ供給する前記二酸化炭素とメタンとを含有するバイオガスを生成する嫌気性消化手段を更に備えることを特徴とする請求項11又は12に記載のメタンの製造装置。
【請求項15】
前記メタネーション手段へ供給する前記二酸化炭素とメタンとを含有するバイオガスを生成する嫌気性消化手段を更に備え、
前記ガス分離手段が分離膜を備え、前記嫌気性消化手段で得られる前記バイオガスを前記分離膜の透過側にスイープガスとして注入する注入手段を更に備えることを特徴とする請求項11又は12に記載のメタンの製造装置。
【請求項16】
前記メタネーション手段を迂回させて、有機性排水又は有機性廃棄物の嫌気性消化によって得られるバイオガスを前記ガス分離手段へと供給する迂回手段を備え、
前記ガス分離手段が、前記迂回手段を介して供給された前記バイオガスに含まれる二酸化炭素を分離し、前記バイオガス中のメタン濃度を高めることを特徴とする請求項11又は12に記載のメタンの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンの製造方法及びメタンの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と二酸化炭素から天然ガスの主成分であるメタンを合成する「メタネーション」とよばれる技術が知られている。メタネーションに用いられる原料として、発電所又は工場等から回収した二酸化炭素と、風力発電や太陽光発電等の余剰電力を用いた水の電気分解によって得られる水素とを利用することによって、化石燃料由来でない、再生可能エネルギー由来のカーボンニュートラルなメタンが合成できる。よって、メタネーション技術は、脱炭素社会への移行過程における有用な技術の一つとして注目されてきている。
【0003】
特開2020-33284号公報(特許文献1)には、再生可能エネルギー設備で生成した電気を利用し、水電解装置により生成したH2と、火力発電や製鉄プラント等から排出・回収されたCO2とを用いて、メタンを製造するメタネーション反応装置の例が記載されている。特表2022-506756号公報(特許文献2)には、二酸化炭素含有排出物及び/または排ガスを利用して、生物起源メタンを生成する方法に関する発明が記載されている。
【0004】
特開2016-108382号公報(特許文献3)には、メタン発酵によりバイオガスを発生するメタン発酵槽と、メタン発酵槽に接続され、メタン発酵槽で発生したバイオガスに含まれる二酸化炭素をメタンに変換する第1のメタネーション反応器とを備えるバイオガス製造システムの例が記載されている。特開2020-045430号公報(特許文献4)には、再生可能エネルギー発電装置の余剰電力を用いて、水素と酸素とを製造する水電解装置と、水電解装置にて製造した水素とシステム内で生成する二酸化炭素とを合成して、メタン等の炭化水素燃料を製造するメタネーション設備とを備えた再生可能エネルギー利用システムの例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-33284号公報
【特許文献2】特表2022-506756号公報
【特許文献3】特開2016-108382号公報
【特許文献4】特開2020-045430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~4に記載されるようなメタネーション技術の実社会への適用に際しては、以下のような課題がある。
【0007】
微生物を利用したメタネーションでは、反応に必要な時間を多く必要とするため、リアクター容積、設置面積及び製作コストが大きくなり、実社会に適用し難いという課題がある。特に、ガス状態の水素を、液相中に存在する微生物に消費させるためには、水素の液相への溶解速度の律速の問題もありリアクター容積が大きくなるという問題がある。
【0008】
メタネーションにより合成したメタンを、国内の既存のガスインフラ設備で利用するためには、合成したメタンの濃度を、既存のガスインフラ設備を運営するガス会社の基準値に合わせる必要がある。特に、大都市部のような需要の多いガス会社は、需要先が多様なため、メタン濃度の基準値も比較的高くなる傾向にある。そのため、メタネーション反応を用いた処理を一回行っただけでは、ガス会社の基準値に到達しない場合もある。メタン濃度の基準値に到達させるために、メタネーション反応の時間を長くすると、装置自体が大きくなり、設置面積が増大する。
【0009】
将来、再生可能エネルギー及びカーボンニュートラルな水素の需要が大きくなることが予想されているが、再生可能エネルギーを用いた発電は、太陽光、地熱、風、水等の自然界に存在する環境や資源を利用しているため、化石燃料を用いた発電に比べて発電が不安定である。このような事情を勘案し、各地域におけるエネルギー需要調整力の一翼を担うためには、再生可能エネルギーの特徴と電力消費者の需要変動とを適切に考慮した、より効率的で安定的なエネルギー需給システムの構築が求められる。
【0010】
上記課題を鑑み、本発明は、設備の小型化を実現しながらエネルギーとして利用可能なメタンを効率的で安定的に生成することが可能なメタンの製造方法及びメタンの製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、メタン化触媒又は微生物の存在下で水素と二酸化炭素とを反応させるメタネーション反応を利用して天然ガスの主成分であるメタンを合成するとともに、所定の処理を行ってメタン含有ガス中のメタン濃度を高めることが有効であるとの知見を得た。
【0012】
以上の知見に基づき、本発明は一側面において、メタン化触媒又は微生物の存在下で水素と二酸化炭素とを反応させるメタネーション反応によってメタン含有ガスを生成するメタネーション工程と、メタン含有ガスからメタン含有ガス中に残留する水素及び二酸化炭素を分離してメタン含有ガス中のメタン濃度を高め、メタンを主成分とする処理ガスを得るガス分離工程とを有するメタンの製造方法である。
【0013】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法は一実施態様において、ガス分離工程で分離した水素及び二酸化炭素をメタネーション工程へ循環させる工程を更に有する。
【0014】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法は別の一実施態様において、メタネーション工程が、有機性排水又は有機性廃棄物の嫌気性消化によって得られるメタン及び二酸化炭素を含むバイオガスを導入し、バイオガスに含まれる二酸化炭素をメタンに変換する処理を有する。
【0015】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法は更に別の一実施態様において、ガス分離工程が、分離膜を用いてメタン含有ガス中に残留する水素及び二酸化炭素を分離する。
【0016】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法は更に別の一実施態様において、有機性排水又は有機性廃棄物の嫌気性消化によって得られるメタン及び二酸化炭素を含むバイオガスを、メタネーション工程を迂回させてガス分離工程へと供給し、ガス分離工程において、バイオガスに含まれる二酸化炭素を分離し、バイオガス中のメタン濃度を高める工程を有する。
【0017】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法は更に別の一実施態様において、メタネーション反応が進行する反応槽内の気相中の水素濃度又は反応槽の出口ガス配管内の水素濃度が一定値以上となるように水素を反応槽内へ供給する。
【0018】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法は更に別の一実施態様において、メタネーション反応が進行する反応槽内の気相中の水素濃度又は反応槽の出口ガス配管内の水素濃度を計測し、水素濃度が一定値以上となるように、反応槽内へ供給する水素又は二酸化炭素の供給流量を調整する。
【0019】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法は更に別の一実施態様において、メタネーション反応が進行する反応槽内の気相中の水素濃度又は反応槽の出口ガス配管内の水素濃度を計測し、水素濃度が一定値以上となるように、ガス分離工程で分離した水素及び二酸化炭素をメタネーション工程へ循環させる際の循環流量を調節する。
【0020】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法は更に別の一実施態様において、ガス分離工程で分離した水素及び二酸化炭素をメタネーション工程へ循環させる際の循環流量を調整することにより、ガス分離工程で得られる処理ガスの圧力を調整する。
【0021】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法は更に別の一実施態様において、メタネーション反応が進行する反応槽へ供給する水素又は二酸化炭素の供給流量を調整することにより、ガス分離工程で得られる処理ガスの圧力を調整する。
【0022】
本発明は別の一側面において、メタン化触媒又は微生物の存在下で水素と二酸化炭素とを反応させるメタネーション反応によってメタン含有ガスを生成するメタネーション手段と、メタン含有ガスからメタン含有ガス中に残留する水素及び二酸化炭素を分離してメタン含有ガス中のメタン濃度を高め、メタンを主成分とする処理ガスを得るガス分離手段とを備えるメタンの製造装置である。
【0023】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造装置は一実施態様において、ガス分離手段で分離した水素及び二酸化炭素をメタネーション手段へ循環させる循環手段を更に備える。
【0024】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造装置は別の一実施態様において、メタネーション手段へ供給する水素を電気分解により生成する水素生成手段を更に備える。
【0025】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造装置は更に別の一実施態様において、メタネーション手段へ供給する二酸化炭素とメタンとを含有するバイオガスを生成する嫌気性消化手段を更に備える。
【0026】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造装置は更に別の一実施態様において、メタネーション手段へ供給する二酸化炭素とメタンとを含有するバイオガスを生成する嫌気性消化手段を更に備え、ガス分離手段が分離膜を備え、嫌気性消化手段で得られるバイオガスを分離膜の透過側にスイープガスとして注入する注入手段を更に備える。
【0027】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造装置は更に別の一実施態様において、メタネーション手段を迂回させて、有機性排水又は有機性廃棄物の嫌気性消化によって得られるバイオガスをガス分離手段へと供給する迂回手段を備え、ガス分離手段が、迂回手段を介して供給されたバイオガスに含まれる二酸化炭素を分離し、バイオガス中のメタン濃度を高める。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、設備の小型化を実現しながらエネルギーとして利用可能なメタンを効率的で安定的に生成することが可能なメタンの製造方法及びメタンの製造装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施の形態に係るメタンの製造装置の一例を示す概略図である。
図2】本発明の実施の形態に係るメタンの製造装置を利用したメタン製造システムの一例を示す模式図である。
図3】本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法の一例を示すフロー図である。
図4】本発明の実施の形態に係るメタンの製造装置の別の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図面を参照しながら本発明の実施の形態を以下に説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0031】
(メタンの製造装置)
本発明の実施の形態に係るメタンの製造装置は、図1に示すように、メタン化触媒又は微生物の存在下で水素と二酸化炭素とを反応させるメタネーション反応によってメタンを含むメタン含有ガスを生成するメタネーション手段1と、メタン含有ガスからメタン含有ガス中に残留する水素及び二酸化炭素を分離してメタン含有ガス中のメタン濃度を高め、メタンを主成分とする処理ガスを得るガス分離手段2とを備える。
【0032】
メタネーション手段1では、二酸化炭素と水素とを、以下の式(1)に示すメタネーション反応によってメタンを得る。
CO2+4H2→CH4+2H2O ・・・(1)
【0033】
メタネーション手段1に供給される二酸化炭素源としては、工場等で発生する排ガス等から回収した二酸化炭素等を利用することができる。水素源としては、水素ステーション等で得られる水素、或いは、再生可能エネルギー発電で得られる電力によって水を電気分解することによって得られる水素(以下「グリーン水素」ともいう)等を用いることができる。これにより、二酸化炭素の大気中への排出量を減らすことができ、より地球環境を考慮した設備を提供することができる。
【0034】
メタネーション反応には、金属触媒等のメタン化触媒を利用した化学的メタネーションと、微生物を利用した生物的メタネーション(以下「バイオメタネーション」ともいう)とがある。本実施形態ではいずれのメタネーション反応も利用することができる。
【0035】
化学的メタネーションでは、メタン化触媒として、アルミナ等の担体上にRh/Mn/Al系、Rh/Al系、Ni/Al系、Pd/Al系、Pt/Al系、Ni等の活性成分を担持した触媒、或いは、セリア又はジルコニア等の担体上にNi/Ce系、Ni/Zr系の活性成分を担持した触媒をメタネーション手段1の反応槽内に充填し、CO2を1モルに対してH2を4モル反応槽内へ供給することによってメタンを生成させる。
【0036】
化学的メタネーションでは、硫化水素、シロキサン等の不純物を含むバイオガスを処理する場合には、その不純物の濃度が低い場合であってもメタン化触媒が劣化し、処理性能が落ちることがある。そのため、メタネーション工程において化学的メタネーションを行う場合には、原料ガス中の不純物を予め取り除いておくことが好ましい。
【0037】
バイオメタネーションは、水素資化メタン生成菌等の微生物を用いたメタネーション反応を利用するものであるため、バイオガス中の不純物に対しては耐性がある。よって、バイオガスを原料ガスとする場合には、バイオガスをそのまま原料として使用することができる点でバイオメタネーションが適している。
【0038】
バイオメタネーションは、反応槽内に微生物を保持し、二酸化炭素と水素の混合ガスを吹き込むことで行うため、比較的小規模な設備で済む点で、施設全体のコンパクト化が図れる。バイオメタネーションに用いられる微生物としては、下水処理場の嫌気性消化の汚泥を利用できる他、下水処理場で発生する消化ガスをそのままメタネーション反応の原料としても使用できるため、下水処理場等に付帯する設備として有用である。更に、化学的メタネーションが高温条件下(例えば300~550℃程度)での反応を必要とするのに対して、バイオメタネーションは、低温条件下(例えば30~70℃)での反応で行えるため、加熱のためのエネルギー消費量も少なく、設備を簡略化できる。
【0039】
メタネーション手段1において、バイオメタネーションを利用する場合には、例えば、微生物として古細菌である水素資化メタン生成菌等を反応槽内へ収容する。反応槽内の温度は、30~80℃とし、圧力条件は、大気圧下~1.0MPa程度とし、二酸化炭素又は二酸化炭素を含むバイオガスと、水素とを反応槽内へ注入する。メタネーション反応後のメタンを主成分とするメタン含有ガスは、反応槽の上部から出口ガスとして排出させる。反応槽内のガス滞留時間を調整することにより、出口ガス中のメタン濃度が目標値になるように調整することができる。メタネーション手段1の反応槽内へ収容する微生物としては、微生物を担体上に固定化した固定化担体等を用いてもよいし、下水処理場等で発生する汚泥等を一部使用してもよい。
【0040】
メタネーション手段1で得られるメタン含有ガス中のメタン濃度は、90wt%以上となるように調整されることが好ましく、96wt%以上がより好ましく、97wt%以上が更に好ましい。メタン濃度の調整のために、メタネーション手段1は複数段並列又は直列に接続されていてもよい。
【0041】
ガス分離手段2としては、メタン含有ガスから不純物である二酸化炭素及び水素を選択的に除去できる装置であれば特に限定されない。ガス分離手段2としては、例えば、化学吸収法、物理吸収法、膜分離法、物理吸着法、深冷分離法等の種々の方法を利用したガス分離装置が利用できる。中でも、気体分子径の調整により複数のガス成分の分離が可能な分離膜を備え、分離膜を用いてメタン含有ガス中に残留する水素及び二酸化炭素を選択的に分離する膜分離装置、或いは、活性炭、ゼオライト、モレキュラーシービングカーボン(機能性活性炭)等の吸着剤を用いた物理吸着法を利用した吸着装置を利用することが、装置の小型化及び簡略化、経済的観点及び分離ガスの再利用の観点から好ましい。ガス分離手段2は、複数段並列又は直列に接続されていてもよい。
【0042】
ガス分離手段2として、膜分離装置を利用する場合は、分離膜としては、特に制限されないが、シリカ、アルミナ等の無機材料膜、或いは、過フッ素化ポリマーや芳香族ポリイミド等の高分子膜が用いられる。そして、これら分離膜を、中空糸膜状または平膜状として充填した膜モジュール等を使用することによって、取り扱いが簡易でコンパクトな装置が得られる。
【0043】
ガス分離手段2とメタネーション手段1との間には、ガス分離手段2で分離した水素及び二酸化炭素をメタネーション工程へ循環させるための循環手段3が設けられている。このように、循環手段3を介してメタネーション手段1へ水素及び二酸化炭素を循環させることで、水素及び二酸化炭素の使用量を低減でき、効率良くメタンを生成させることができる。
【0044】
特に、メタネーション手段1でバイオメタネーションが行われる場合には、微生物が存在する液相中への水素の溶解度の問題とバイオメタネーションの反応温度が低いという事情により反応速度が比較的遅く、反応槽の大きさが大きくなる傾向がある。本実施形態では、循環手段3を介してメタネーション手段1に水素を供給することで、メタネーション手段1から排出されるメタン含有ガスと、メタネーション手段1の反応槽内の内部ガスとに、それぞれ水素を残留させることができるため、メタネーション手段1の反応槽内の水素分圧を高く維持できる。その結果、メタネーション手段1の反応槽内における水素の液相への溶解速度を大きくすることができ、これによりメタネーション反応の反応速度を高め、処理時間を短縮化できるとともに、反応槽の大きさを小型化することができる。
【0045】
メタネーション手段1では、有機性排水又は有機性廃棄物の嫌気性消化によって得られるメタン及び二酸化炭素を含むバイオガスを導入し、バイオガスに含まれる二酸化炭素をメタンに変換する処理を行うことが好ましい。
【0046】
バイオガスのメタネーション手段1への供給は、水素及び二酸化炭素のメタネーション手段1への供給と同時に行ってもよいし、間欠的に行ってもよいし、二酸化炭素のメタネーション手段1への供給を止め、二酸化炭素のメタネーション手段1への供給の代わりにバイオガスを供給するように行ってもよい。生成されるバイオガスの性状(バイオガス中のメタン濃度やシロキサン等の副生成物の濃度)、或いは、メタネーション手段1に供給される水素及び二酸化炭素の原料供給状況に応じて例えば1日当たりの供給量又は供給タイミングを制御することもまた好ましい。
【0047】
例えば、メタネーション手段1へ供給される水素として再生可能エネルギー発電による電力を用いて生成されるグリーン水素を用いる場合、時期又は時間帯によっては再生可能エネルギーの電気代又はグリーン水素の価格が高価になる場合がある。このような場合は、メタネーション手段1は使用せずに、図1に示すように、二酸化炭素を供給するための配管に接続され、メタネーション手段1を迂回するための迂回手段4を介して、バイオガスをガス分離手段2へ供給してバイオガス中の不純物を取り除くことによりバイオガス中のメタン濃度を高めてこれを処理ガスとすることで、安価で効率的にメタンガスを主成分とする処理ガスを生成できる。なお、バイオガスをメタネーション手段1を介さずに、ガス分離手段2へ直接供給する場合には、バイオガス中の二酸化炭素を効率良く分離するためのガス分離装置を1又は複数段設置することが好ましい。
【0048】
図1に示すメタンの製造装置を用いて本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法が実施できる。即ち、本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法は、メタネーション手段1において、メタン化触媒又は微生物の存在下で水素と二酸化炭素とを反応させるメタネーション反応によってメタンを含むメタン含有ガスを生成するメタネーション工程と、ガス分離手段2において、メタン含有ガスからメタン含有ガス中に残留する水素及び二酸化炭素を分離してメタン含有ガス中のメタン濃度を高め、メタンを主成分とする処理ガスを得るガス分離工程とを有する。
【0049】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造装置及びメタンの製造方法によれば、メタネーション手段1でメタン含有ガスを生成し、ガス分離手段2によって、メタン含有ガス中の二酸化炭素及び水素を除去することで、メタン含有ガス中のメタン濃度を高めることができる。これにより、設備の小型化を実現しながら、エネルギーとして利用可能なメタンを効率的で安定的に生成することが可能となる。
【0050】
(メタンの製造システム)
本発明の実施の形態に係るメタンの製造装置を用いたメタン製造システムの例を図2に示す。図2のメタン製造システムは、メタネーション手段1と、ガス分離手段2と、循環手段3と、迂回手段4と、メタネーション手段1へ供給する水素を電気分解により生成する水素生成手段6と、メタネーション手段1へ供給する二酸化炭素を供給するCO2供給手段7と、メタネーション手段1へ供給する二酸化炭素とメタンとを含有するバイオガスを生成する嫌気性消化手段5と制御手段30とを備える。
【0051】
水素生成手段6としては、典型的には再生可能エネルギーを電力源として水を電気分解してグリーン水素を生成する水電解装置が利用可能である。H2供給手段61は、メタネーション手段1に対して水素生成手段6と並列に接続されていてもよい。H2供給手段61の例としては、水素ボンベ等の水素収容容器や水素ステーション等が挙げられる。水素生成手段6とH2供給手段61は、バルブ等の切替手段65を介してメタネーション手段1に接続されており、グリーン水素とH2供給手段61の水素価格や水素供給量等の状況に応じてメタネーション手段1へ供給する水素を適宜選択できるようになっている。
【0052】
CO2供給手段7は、工場や各種処理設備で排出された二酸化炭素を回収し、回収した二酸化炭素をメタネーション手段1へ供給する装置である。CO2供給手段7から供給された二酸化炭素はCO2供給手段7に接続されたガスホルダ54内へ供給されて貯蔵された後、ブロワ8を介してメタネーション手段1へ供給される。CO2供給手段7としてガスボンベやガスタンク等を利用してもよい。CO2供給手段7とガスホルダ54との間にはバルブ等の切替手段75が配置されており、切替手段75によってCO2供給手段7からの二酸化炭素の供給及び供給停止が制御できるようになっている。
【0053】
嫌気性消化手段5は、有機性排水又は有機性廃棄物を嫌気性消化処理する装置が用いられる。嫌気性消化手段5としては、浄化槽汚泥や下水汚泥等を嫌気性処理する嫌気性消化槽等が利用できる。嫌気性消化手段5から排出される消化汚泥は、固液分離手段51で固液分離処理され、固液分離によって得られた分離液は、排水処理手段52を用いて所定の排水処理が行われ、処理水として放流される。
【0054】
嫌気性消化手段5では、メタン及び二酸化炭素を含むバイオガスが生成される。このバイオガスには、メタン、二酸化炭素の他に、硫化水素等の硫黄系ガス成分が含まれている。そのため、嫌気性消化手段5には、脱硫塔53が接続されており、嫌気性消化手段5から排出されるバイオガスから、脱硫塔53において硫黄系ガス成分を除去できるようになっている。脱硫塔53で硫黄系ガス成分が除去されたバイオガスは、ガスホルダ54へ供給されて貯留される。脱硫塔53とガスホルダ54との間の配管には切替手段55が設けられており、CO2供給手段7からガスホルダ54への二酸化炭素の供給と、嫌気性消化手段5からガスホルダへのバイオガスへの供給を制御できるようになっている。
【0055】
ブロワ8は、ガスホルダ54に供給された二酸化炭素又は二酸化炭素を含むバイオガスをメタネーション手段1へ供給する。ブロワ8には、循環手段3及び迂回手段4が接続されている。ブロワ8により、ガス分離手段2で分離された二酸化炭素と水素とを含むガスを循環手段3へ循環できるため、ガス移送のためのポンプ等の設置を省略することができ、装置の小型化が図れる。同様に、ブロワ8により、迂回手段4を介して、ガスホルダ54内のバイオガスをメタネーション手段1を迂回させて、ガス分離手段2側へ供給することができるため、ガス移送のためのポンプ等の設置を省略することができ、装置の小型化が図れる。
【0056】
メタネーション手段1の後段にはメタネーション手段1で生成されたメタン含有ガスを一時的に貯留するためのバッファタンク91を備えていてもよい。バッファタンク91の後段にはガス精製手段92を更に備えていても良い。ガス精製手段92としては、ガス中の異物を取り除くためのフィルタ、不純物を吸着除去するための活性炭等を備えた吸着装置、ガス中の水分を取り除くための除湿装置等を備えることができる。ガス精製手段92においてメタネーション手段1で得られるメタン含有ガス中の不純物を取り除いておくことにより、ガス分離手段2へ導入されるメタン含有ガス中の不純物の濃度を予め低減できるため、例えば、ガス分離手段2として分離膜を採用する場合には分離膜の汚染を低減でき、これにより、ガス分離手段2への不純物の混入によるガス分離手段2の分離効率の低下を長期間抑制できる。
【0057】
迂回手段4によって、メタネーション手段1を介さずに、バイオガスをガス分離手段2へ供給する場合には、バイオガスに含まれるシロキサン、アンモニア、硫化水素等の副生成物をガス精製手段92で予め取り除けるため、例えば、ガス分離手段2として膜分離装置を利用する場合には、ガス中に含まれる副生成物等による分離膜の性能劣化を抑制できるため、長期間安定したガス分離処理を行うことができる。
【0058】
ガス分離手段2は、前段分離手段21と後段分離手段22とを備えていてもよい。前段分離手段21と後段分離手段22は、同じ装置を用いても良いし、異なる装置を用いてもよい。例えば、前段分離手段21及び後段分離手段22として同一の膜分離装置を用いてもよいし、後段分離手段22として膜分離装置を利用し、前段分離装置として物理吸着装置等を用いてもよい。
【0059】
ガス分離手段2に導入されるガスの種類及び成分の違い等によって、前段分離手段21及び後段分離手段22を使い分けてもよい。例えば、メタネーション手段1で生成されたメタン含有ガスをガス分離手段2に供給する場合は、後段分離手段22のみで処理を行い、迂回手段4を介してバイオガスを、メタネーション手段1を介さずにガス分離手段2へ供給する場合は、前段分離手段21で一段目のガス分離処理を行った後に、後段分離手段22で最終のガス分離処理を行っても良い。前段分離手段21と後段分離手段22の数は特に限定されず、それぞれ1又は複数の装置を、並列又は直列で設けることができる。
【0060】
ガス分離手段2から排出された処理ガスは、メタン濃度が90wt%以上、好ましくは96wt%以上に高濃度化されているため、都市ガスとして使用するか、或いは既存のインフラへそのまま供給することができる。ガス分離手段2の後段には、発電手段100が接続されてもよい。そして、ガス分離手段2から排出された処理ガスを発電手段100へ供給して発電手段100で発電を行ってもよい。
【0061】
例えば、再生可能エネルギーを用いた水素の生成に必要な費用が高価となる時間帯や、電力消費者の電力需要が大きい場合は、ブロワ8によって、ガスホルダ54に収容したバイオガスを、迂回手段4及びガス精製手段92を介してガス分離手段2へ供給する。ガス分離手段2で得られたガスは、発電手段100へ供給して発電することにより、発電手段100で得られた電力を電気使用者へ供給することができる。この際、ガス分離手段2によって処理ガスのメタン濃度がバイオガスよりも高濃度となっているため、発電手段100として安価で発電効率のよい汎用的な発電機を利用することができる。その結果、再生可能エネルギーの特徴と電力消費者の需要変動とを適切に考慮した、より効率的で安定的なエネルギー供給が実現できる。
【0062】
ガス分離手段2には、注入手段23が接続されていてもよい。注入手段23は、図示しないが、嫌気性消化手段5又はガスホルダ54に接続されており、嫌気性消化手段5で発生したバイオガスをガス分離手段2へ供給する。例えば、ガス分離手段2として膜分離装置を使用した場合、注入手段23を介して、膜分離装置の分離ガス側(透過側)にスイープガスとしてバイオガスを注入することにより透過側の水素分圧が低下する。なお、スイープガスとは、分離膜の二次側(透過側)の透過成分の分圧を下げるために透過側へ注入するガスを意味する。本実施形態によれば、注入手段23を介してスイープガスを分離膜の二次側に注入することにより、膜透過効率を向上させることができる。その結果、膜分離における膜透過速度や選択性を高め、膜分離装置の規模を小さくすることが可能となる。
【0063】
循環手段3には、ガス分離手段2で分離された二酸化炭素及び水素の濃度を測るための濃度計31や分離ガスの圧力を測るための圧力計32等の計測器が接続されていてもよい。また、メタネーション手段1の反応槽内の圧力、温度、各種ガスの濃度を測定するため計測器11を備えていても良い。これら計測器を備えることにより、ガス分離手段2で分離された二酸化炭素及び水素の分圧やメタネーション手段1の反応槽内の状況に応じた適切な循環ガスの供給が行える。
【0064】
制御手段30は、ブロワ8を用いたガスの供給、切替手段55、65、75の切替制御、注入手段23によるガス、スイープガスの供給等を制御する他、再生可能エネルギーの電力事情と電力消費者の需要変動とに応じた処理ガスの生成制御を行う。制御手段30は、処理部と記憶装置とを備える汎用のコンピュータ等で構成できる。
【0065】
図3は、本発明の実施の形態に係るメタンの製造方法の一例を示すフロー図である。なお、図3のフローは一例であり、これ以外にも図2のメタンの製造システムを用いた種々の処理フローが採用できることは勿論である。
【0066】
ステップS101において、制御手段30は、再生可能エネルギーの電力状況又は電力価格、又は、再生可能エネルギーによって得られるグリーン水素の価格の情報を抽出する。電力価格及び水素の価格は時間帯によって変わることが多いため、制御手段30は、本システムで処理を行う時間帯(時刻)を検出してもよい。或いは、制御手段30は、電力消費者の電力需要の情報を検出してもよい。
【0067】
ステップS102において、制御手段30は、ステップS101で検出した情報に基づいて、メタンの製造に際し、メタネーション工程を迂回させるかどうかを判定する。例えば、再生可能エネルギー又はグリーン水素の価格が高価で基準値以上となる場合、メタネーション手段1を用いたメタンの生成処理にかかる費用がシステム全体に対して相対的に大きくなり効率的な処理とは言えなくなる場合がある。そのような場合は、制御手段30は、ステップS107において、グリーン水素を用いるメタネーション工程を一時停止させ、ブロワ8を介して嫌気性消化手段5で発生したバイオガスを、迂回手段4を介してメタネーション手段1から迂回させ、ガス精製手段92を介してガス分離手段2へ導入し、ステップS108へ進む。
【0068】
メタネーション工程を迂回しない場合には、ステップS105において、制御手段30は、水素生成手段6で得られるグリーン水素又は必要に応じて更にH2供給手段61から供給される水素を、ブロワ8を介してメタネーション手段1の反応槽内へ供給する。メタネーション手段1の反応槽内に供給される二酸化炭素は、CO2供給手段7を介してガスホルダ54へ貯留した後、ブロワ8を介し得てメタネーション手段1へ供給される。ガスホルダ54は、必要に応じて、嫌気性消化手段5で発生したバイオガスを更に貯留してもよい。貯留したバイオガスは、ブロワ8を介してメタネーション手段1へ供給される。
【0069】
ステップS106において、メタネーション手段1において、式(1)に基づくメタネーション反応によって二酸化炭素と水素とからメタン含有ガスが生成される。メタン含有ガスは、図2のバッファタンク91に貯留された後、ガス精製手段92を介してガス分離手段2へ導入される。
【0070】
ステップS107において、ガス分離手段2は、メタネーション手段1で生成されたメタン含有ガス又は嫌気性消化手段5で発生したバイオガスから、二酸化炭素と水素を分離するガス分離処理を行って、メタン濃度90wt%以上、好ましくは96wt%以上のメタンを含有する処理ガスを生成させる。
【0071】
本発明の実施の形態に係るメタンの製造システム及びメタンの製造方法によれば、メタネーション手段1でメタン含有ガスを生成した後、メタン含有ガス中の二酸化炭素と水素とを除去してメタン含有ガスのメタン濃度を高めることができるため、国内の既存のガスインフラ設備に利用可能となる程度に、高いメタン濃度を有する処理ガスを製造できる。メタネーション手段1及びガス分離手段2は比較的小型な設備とすることができるため、経済的にも設置面積としても社会実装可能な大きさとすることができる。
【0072】
更に、将来、再生可能エネルギーやカーボンニュートラルなグリーン水素の需要変動が大きくなる際に、制御手段30が、メタネーション手段1への原料ガスの供給を制御することができるため、例えば、需要(価格)の高い時間帯の電気もしくはグリーン水素は利用せずに、需要の低い時間帯の電気もしくは水素を積極的に使用するように処理を行うことができる。これにより、各地域におけるエネルギーの需要状況に応じて、本システムを経済的に運転できる。
【0073】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。
【0074】
図4図1のメタンの製造装置の変形例を示している。メタネーション反応が進行するメタネーション手段1の反応槽内(図示せず)は、液相で構成される液相部と気相で構成される気相部とを有する。気相部には、計測器11として例えば反応槽内の気相中の水素濃度を計測するための水素濃度計が設けられている。或いは、計測器11として、水素濃度計の代わりに、反応槽内の気相中のメタン又は二酸化炭素の濃度を測定する濃度計を設け、メタン又は二酸化炭素濃度の測定値から、水素濃度を計算により算出してもよい。水素濃度計等の計測器11は、メタネーション手段1の反応槽の出口ガス配管内の水素濃度を測定するように、反応槽とガス分離手段2とを接続する反応槽の出口ガス配管内に設けられても良い。
【0075】
メタネーション反応は、反応槽内の気相中又は反応槽の出口ガス配管内の水素濃度が一定値以上となるように調整された雰囲気で行われることが好ましい。この水素濃度は、以下に限定されるものではないが、例えば、2wt%以上となるように調整されることが好ましく、5wt%となるように調整されることが好ましい。水素濃度が高すぎても効率的ではないことから、典型的には60wt%以下、更には45wt%以下とする。本実施形態によれば、メタネーション反応が進行する反応槽内の気相中の水素濃度を2wt%以上に調整することにより気相中の水素濃度を高くして、気相中の水素を液相中へより溶解しやすくすることができる。これにより、液相中に存在する水素資化メタン生成菌による処理効率の向上が望める点で好ましい。
【0076】
メタネーション手段1の反応槽内の気相中又は反応槽の出口ガス配管内の水素濃度は、計測器11の計測結果に基づいて調整されることが好ましい。図4に示すように、メタネーション手段1の反応槽へ水素及び二酸化炭素を供給する配管には、それぞれ水素及び二酸化炭素の供給流量を調整するための流量計71、72が接続されている。計測器11及び流量計71、72に電気的に接続された制御手段30は、計測器11による測定結果から求められる気相中又は反応槽の出口ガス配管内の水素濃度に基づいて、気相中の水素濃度が一定値以上となるように、水素及び二酸化炭素もしくはそのどちらかのメタネーション手段1への供給流量をそれぞれ制御することが好ましい。
【0077】
循環手段3の配管には、ガス分離手段2で分離された二酸化炭素及び水素のメタネーション手段1への循環流量を調整可能な調整手段73が設けられている。調整手段73としては、開度コントロール弁、回転数制御付きブロア等が好ましく用いられる。制御手段30は、メタネーション手段1の反応槽内の気相中の水素濃度が一定値以上となるように、ガス分離工程で分離した水素及び二酸化炭素の反応槽への循環流量を調節する。例えば、制御手段30は、メタネーション手段1の反応槽へ供給される原料ガス総流量(水素ガス及び二酸化炭素(又はバイオガス)の合計)に対するガス分離手段2で分離された残留水素及び残留二酸化炭素を含む循環ガスの流量比で表される循環比が、気相中の水素含有量を2wt%以上とするときには0.05~0.1、より好ましくは0.08となるように、或いは、気相中の水素含有量を5wt%以上とするときには0.08~0.15、より好ましくは0.1となるように、循環手段3を流れる残留水素及び残留二酸化炭素の流量を、調整手段73を介して調製する。
【0078】
制御手段30は、調整手段73を介して、ガス分離手段2で分離した水素及び二酸化炭素の循環流量を調整することにより、ガス分離手段2で得られる処理ガスの圧力を調整することが好ましい。ガス分離手段2で分離した水素及び二酸化炭素の循環流量を調整することにより、ガス分離手段2の出口部の圧力を一定値とすることができるため、処理ガスを安定的に送給することができる。図示を省略しているが、ガス分離手段2の出口部に圧力計等を設け、圧力計の測定結果に基づいて、循環手段3を流れる循環ガスの流量及びガス分離手段2で得られる処理ガスの圧力を調整することが好ましい。処理ガスの圧力は、循環流量だけでなく、メタネーション手段1の反応槽への供給流量を調整することでも調整できる。即ち、メタネーション反応が進行する反応槽内へ供給する水素又は二酸化炭素の供給流量を調整することにより、ガス分離工程で得られる処理ガスの圧力を調整することで、装置の小型化及び簡略化が図れる。
【0079】
このように、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を相互に組み合わせ、変形して具体化できることは勿論である。
【符号の説明】
【0080】
1…メタネーション手段
2…ガス分離手段
3…循環手段
4…迂回手段
5…嫌気性消化手段
6…水素生成手段
7…CO2供給手段
8…ブロワ
11…計測器
21…前段分離手段
22…後段分離手段
23…注入手段
30…制御手段
31…濃度計
32…圧力計
51…固液分離手段
52…排水処理手段
53…脱硫塔
54…ガスホルダ
55、65、75…切替手段
61…H2供給手段
71、72…流量計
73…調整手段
75…切替手段
91…バッファタンク
92…ガス精製手段
100…発電手段
図1
図2
図3
図4