IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本発條株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086424
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】放熱構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
H01L23/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201537
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】岩垣 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中野 淳一
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136BA04
5F136BA31
5F136BA36
5F136FA02
5F136FA03
5F136GA04
5F136GA18
(57)【要約】
【課題】機械的強度の高い放熱構造体を低コストで製造する方法を提供する。
【解決手段】放熱構造体の製造方法は、円筒形状を有する金属製の第1構造体の表面をスカイブ加工することにより、第1構造体の表面から外方に設けて延びる板形状の第2構造体を隆起させ、第2構造体が形成された第1構造体を回転させることを含む。第1構造体の表面の一部分において、板形状の第3構造体を溶接によって接合することをさらに含む。溶接は、円筒形状の外側からレーザ光を照射することで行われる。第2構造体は、湾曲した形状を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状を有する金属製の第1構造体の表面をスカイブ加工することにより、前記第1構造体の表面から外方に設けて延びる板形状の第2構造体を隆起させ、
前記第2構造体が形成された前記第1構造体を回転させることを含む、放熱構造体の製造方法。
【請求項2】
前記第1構造体の表面の一部分において、板形状の第3構造体を溶接によって接合することをさらに含む、請求項1に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項3】
前記溶接は、前記円筒形状の外側からレーザ光を照射することで行われる、請求項2に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第2構造体は、湾曲した形状を有する、請求項1に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項5】
前記第1構造体と、前記第2構造体と、は同一の組成を有し、それぞれアルミニウム、亜鉛、マグネシウム、および銅を含む、請求項1に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項6】
前記第1構造体と、前記第2構造体と、は同一の組成を有し、それぞれアルミニウム、マグネシウム、およびケイ素を含む、請求項1に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項7】
前記第1構造体は、電動機用ケースのハウジングを構成し、
前記第2構造体は、電動機用ケースのフィンを構成する、請求項1に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項8】
前記第2構造体と、前記第3構造体と、は同一の組成を有し、それぞれアルミニウム、亜鉛、マグネシウム、および銅を含む、請求項2に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項9】
前記第2構造体と、前記第3構造体と、は同一の組成を有し、それぞれアルミニウム、マグネシウム、およびケイ素を含む、請求項2に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項10】
前記第1構造体は、電動機用ケースのハウジングを構成し、
前記第2構造体及び前記第3構造体は、電動機用ケースのフィンを構成する、請求項2に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項11】
金属製のプレート状の第1構造体の表面をスカイブ加工することにより、前記第1構造体の表面から外方に向けて延びる板状の第2構造体を隆起させ、
前記第2構造体が形成された前記第1構造体の両端を、円筒形状のコア材に沿って接合することを含む、放熱構造体の製造方法。
【請求項12】
前記第2構造体が形成されたプレートと、前記円筒形状のコア材とは、接着材によって接着される、請求項11に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項13】
前記第1構造体は、電動機用ケースのハウジングを構成し、
前記第2構造体は、電動機用ケースのフィンを構成する、請求項11に記載の放熱構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、冷却機能を備える放熱構造体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータやインバータ、ポンプ、コンプレッサなどの電動機は、駆動時に発熱するため、電動機を収容するケースに放熱用のフィンが取り付けられることがある。例えば特許文献1には、複数のフィンが設けられた円筒状の電動機用ケースが開示されている。この電動機用ケースは、アルミニウムを押出成形または鋳型加工することによって製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-22250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電動機用ケースの場合、アルミニウムを押出成形や切削加工にすることによって製造される。しかしながら、押出成形の場合、専用の金型を用意する必要がある。また、切削加工の場合、長い加工時間を必要するとともに、切削された部分は廃棄されてしまうために、材料のムダが生じる。このため、電動機用ケースを製造するためのコストが高くなってしまう。
【0005】
上記課題を鑑み、本発明は、放熱構造体を低コストで製造する方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一つは、放熱構造体を製造する方法である。この方法は、円筒形状を有する金属製の第1構造体の表面をスカイブ加工することにより、第1構造体の表面から外方に設けて延びる板形状の第2構造体を隆起させ、第2構造体が形成された第1構造体を回転させることを含む。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、金属製のプレート状の第1構造体の表面をスカイブ加工することにより、第1構造体の表面から外方に向けて延びる板状の第2構造体を隆起させ、第2構造体が形成された第1構造体の両端を、円筒形状のコア材に沿って接合することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る放熱構造体の模式的斜視図。
図2】本発明の実施形態に係る放熱構造体の模式的上面図。
図3】本発明の実施形態に係る放熱構造体の模式的斜視図。
図4】本発明の実施形態に係る放熱構造体の模式的斜視図。
図5】本発明の実施形態に係る放熱構造体の模式的斜視図。
図6】本発明の実施形態に係る放熱構造体の模式的斜視図。
図7】本発明の実施形態に係る放熱構造体を製造するための構造体の構成の模式的斜視図。
図8】本発明の実施形態に係る放熱構造体の製造装置を説明する図。
図9A】本発明の実施形態に係る放熱構造体の製造方法を説明する図。
図9B】本発明の実施形態に係る放熱構造体の製造方法を説明する図。
図9C】本発明の実施形態に係る放熱構造体の製造方法を説明する図。
図10】本発明の実施形態に係る放熱構造体の製造装置を説明する図。
図11】本発明の実施形態に係る放熱構造体の製造方法を説明する図。
図12】本発明の実施形態に係る放熱構造体を製造するための構造体の構成の模式的斜視図。
図13】本発明の実施形態に係る放熱構造体の模式的斜視図。
図14】本発明の実施形態に係る放熱構造体の模式的上面図。
図15A】本発明の実施形態に係る放熱構造体の模式的上面図。
図15B】本発明の実施形態に係る放熱構造体の製造方法を説明する図。
図16A】本発明の実施形態に係る放熱構造体の模式的上面図。
図16B】本発明の実施形態に係る放熱構造体の製造方法を説明する図。
図17】本発明の実施形態に係る放熱構造体の模式的上面図。
図18A】本発明の実施形態に係る放熱構造体の製造方法を説明する図。
図18B】本発明の実施形態に係る放熱構造体の製造方法を説明する図。
図18C】本発明の実施形態に係る放熱構造体の製造方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本出願で開示される発明の各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0010】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0011】
以下、本発明の実施形態の一つである放熱構造体100とその製造方法について説明する。
【0012】
1.放熱構造体の構造
図1図2に放熱構造体100の模式的斜視図と上面図をそれぞれ示す。放熱構造体100は、円筒形状を有する金属製のハウジング102、およびハウジング102の外周(外壁)に設けられ、ハウジング102から放射状に延伸する金属製の複数のフィン104を備える。ハウジング102の内部に種々の電動機が収容される。図示しないが、放熱構造体100の外部または内部に、放熱構造体100を冷却するための冷媒を還流するための流路を設けてもよい。以下、各図面において、ハウジング102の円筒形状の軸が延伸する方向をz方向とし、z方向に垂直であり、互いに直交する方向をx方向とy方向とする。
【0013】
ハウジング102の大きさ(円筒形状の外径やz方向の長さ)は電動機の種類や大きさによって適宜選択される。例えば、外径は200mm以上500mm以下でもよく、z方向の長さは30mm以上300mm以下でもよい。ハウジング102のアスペクト比(外径/長さ)は、例えば1以上20以下でもよい。また、ハウジング102の厚さt1(外径と内径の差の1/2)も放熱構造体100に要求される強度によって選択され、例えば1mm以上20mm以下の範囲から選択すればよい。フィン104の厚さや高さ(ハウジング102の外壁からz方向に垂直な方向の長さ)、間隔も、放熱構造体100に要求される冷却効率やフィン104の数に応じて適宜選択され、例えば厚さt2は0.5mm以上5mm以下の範囲から、高さは30mm以上90mm以下、間隔は1mm以上20mm以下の範囲から選択すればよい。
【0014】
図1及び図2に示すように、フィン104はハウジング102の外壁の全体にわたって等間隔に配置してもよい。あるいは、図3に示す放熱構造体100Aのように、ハウジング102の外周の一部に配置されてもよい。この場合、フィン104が設けられない部分には、配線や流路のための一つまたは複数の開口102aを設けてもよい。また、フィン104は、その主面(最大面積を有する面)104aがハウジング102の軸であるz方向と平行になるように配置してもよい。あるいは、図4に示す放熱構造体100Bのように、ハウジング102の外壁上で、円周方向に沿って複数の列を形成するように複数のフィン104を配置してもよい。図示しないが、フィン104は、ハウジング102の外壁上で千鳥配列を形成してもよい。なお、各フィン104の形状は、主面104aが四角形である六面体に限られない。各フィン104は、輪郭が直線と曲線または曲線のみで形成される主面104aを有してもよい。
【0015】
また、図1及び図3に示すように、フィン104のz方向における長さは、ハウジング102のz方向における長さと同一でもよい。または、図5に示す放熱構造体100Cのように、フィン104のz方向における長さは、ハウジング102のz方向における長さよりも小さくてもよい。図5に示すハウジング102において、フィン104が設けられない領域102bと、フィン104が設けられる領域102c(隣接するフィン104とフィン104との間の領域)とにおいて、領域102cの厚さは、領域102aの厚さt1と略同一であってもよいし、領域102aの厚さt1よりも薄くてもよいし、領域102aの厚さt1よりも厚くてもよい。領域102cの厚さが、領域102aの厚さt1よりも厚い場合、図6に示す放熱構造体100Dのように、円筒形状のハウジング102の表面に凸部102dが設けられていてもよい。凸部102dは、ハウジング102の円周方向に沿って設けられている。言い換えると、凸部102dは、ハウジング102の円周方向に延在している。凸部102dの表面に沿って、フィン104が設けられている。凸部102dのz方向における長さは、フィン104のz方向における長さと略同じである。図示しないが、凸部102dにおいて、y方向に延在する貫通孔が少なくとも一つ設けられていてもよい。凸部102dに貫通孔が設けられることにより、放熱構造体100Dの冷却効果を向上させることができる。また、図6では、ハウジング102の表面に、1つの凸部102dが設けられる例について示したが、凸部102dの数は特に限定されない。円筒形状の円周方向に沿って複数の凸部102dが設けられていてもよい。言い換えると、ハウジング102の外壁上で、円周方向に沿って複数の列を形成するように複数の凸部102dが設けられ、各凸部102dに複数のフィン104が形成されてもよい。このように、放熱構造体100、100A~100Cに要求される冷却効率を考慮し、種々の形状と配置を選択することができる。
【0016】
ハウジング102とフィン104は同一の組成を有している。ハウジング102とフィン104に含まれる材料としては、アルミニウムや鉄、チタンなどの金属やその合金が例示されるが、好ましくは、軽量で熱導電率の高いアルミニウム合金が挙げられる。アルミニウム合金としては、例えばA7072、A7050、A7075、A7N01などと称されるアルミニウム、亜鉛、マグネシウム、および銅を含む合金や、A6061、A6063、A6N01などと称されるケイ素を含むアルミニウムとマグネシウムの合金が挙げられる。ただし、アルミニウム合金は上記合金に限られず、A5052やA5056、A5083、A5454などに例示されるアルミニウムとマグネシウムの合金、A4032やA4043に例示されるケイ素が添加されたアルミニウム、A3003やA3005、A3105などに例示されるアルミニウムとマンガンの合金を用いてもよい。アルミニウム合金をハウジング102とフィン104に用いることで、アルミニウムの高い熱伝導率に起因し、放熱構造体100は高い放熱特性を示すことができる。
【0017】
2.放熱構造体の製造方法
以下、放熱構造体100の製造方法について説明する。放熱構造体100におけるフィン104を、スカイブ加工によって形成する方法について説明する。
【0018】
スカイブ加工とは、材料の表面を薄く削ぐように切削する加工方法である。スカイブ加工によって、材料の表面を薄く削ぐように切削することで、スライス状の部位を形成することができる。しかしながら、従来、プレート状の構造物に対してスカイブ加工を行うことは検討されてきたが、円筒形状の構造体に直接スカイブ加工を行うことは検討されていない。
【0019】
本実施形態では、ハウジング102とフィン104とを形成する部材として、円筒形状の金属製の構造体(第1構造体ともいう)を用いる。図7に示すように、円筒形状の構造体110において、厚さt3は、ハウジング102の厚さt1と、後に形成される板状のフィン104(第2構造体ともいう)の厚さt2とを合わせた厚さよりも厚ければよい。
【0020】
図8は、本発明の一実施形態に係る放熱構造体100の製造装置10の一例である。図8に示す製造装置10によって、構造体110からスカイブ加工によってフィン104を形成する。製造装置10は、回転ドラム11、駆動部12、切削工具13、を少なくとも有する。支持部材14には、アーム15が接続され、アーム15の先端に切削工具13が取り付けられている。アーム15によって、構造体110の表面に対する切削工具13の切り込み開始位置及び角度が調節される。回転ドラム11は、円筒形状の構造体110の内部に設けられ、構造体110を回転させる。回転ドラム11は、支持部材16によって支持されている。また、駆動部12は、駆動部12に接続された制御部(図示せず)によって回転される。駆動部12が回転することで、動力がベルト17に伝わり支持部材16の軸18を回転させることで、回転ドラム11を回転させる。また、製造装置10に、スカイブ加工する際に切削工具13に切削液が放出される吐出ノズル19が設けられていてもよい。また、製造装置10に、スカイブ加工する際に回転ドラム11を固定する固定部21が設けられていてもよい。
【0021】
次に、構造体110をスカイブ加工することによってフィン104を形成する方法について、図9A図9Cを参照して説明する。スカイブ加工を行う際には、製造装置10の吐出ノズル19から切削液が切削工具13の刃面131に向かって吐出される。図9Aに示すように、構造体110に対して切削工具13の先端部132を当てる。構造体110において、フィン104が形成される領域110aについては、円筒形状の表面が平坦になるように加工されていてもよい。例えば、構造体110の表面には、予め傾斜部が設けられていてもよい。傾斜部の長さは、フィン104の長さに応じた長さであればよい。図9Bに示すように、切削工具13の先端部132を構造体110の表面を削ぐように構造体110の内部に押し込む。これにより、構造体110の表面からフィン104の部分が削り出される。このとき、切削工具13の底面と、刃面131とは、構造体110に接触した状態である。図9Cに示すように、切削工具13の先端部132をフィン104に当接した状態で切削工具13を持ち上げることで、構造体110の表面から切り立った(隆起した)フィン104が形成される。
【0022】
構造体110に、フィン104が形成される度に、回転ドラム11によって構造体110を回転させてもよいし、構造体110に、フィン104が複数形成された後に、回転ドラム11によって構造体110を回転させてもよい。回転ドラム11を回転させる角度は、例えば、フィン104が形成される所定のピッチに相当する。図10に示すように、製造装置10は、構造体110を切削し、回転ドラム11を回転させる操作を繰り返すことで、構造体110に複数のフィン104を形成することができる。このとき、構造体110において、フィン104を支持する部分がハウジング102として機能する。
【0023】
以上の工程により、円筒形状の金属製の構造体110から、放熱構造体100を製造することができる。本発明の一実施形態に係る放熱構造体100の製造方法では、円筒形状の金属製の構造体110に対して、スカイブ加工により、フィン104が形成されるため、ハウジング102とフィン104とを一体形成することができる。これにより、電動機で発生した熱を効率的に伝導することができる。また、切削加工と比較すると、ピッチが狭く、かつ背が高いフィン104を有する表面積が大きな放熱構造体100を製造することができる。
【0024】
また、図11に示すように、構造体110を切削工具13によって切削する際に、切削工具13の進行方向に逆らうように、回転ドラム11を回転させてもよい。回転ドラム11を切削工具13の進行方向に逆らうように回転させることで、構造体110の加工性や剛性を向上させることができる。また、切削工具13による加工の軌跡が円弧状となるため、フィン104の先端において、フィン104の厚みが大きくなる(先太りともいう)を抑制することができる。
【0025】
なお、図5に示す放熱構造体100C及び図6に示す放熱構造体100Dを形成する場合には、図7に示す円筒形状の金属製の構造体110を加工する必要がある。図12に示すように、構造体110Aは、厚みが異なる領域を有しており、フィン104が形成されない領域102bと、後にフィン104が形成される領域111とを有する。領域102bの厚みt1は、1mm以上20nm以下の範囲から選択される。また、領域111の厚みt4は、凸部102dの厚さと、フィン104の厚さに応じて決定される。例えば、スカイブ加工によって、領域111にフィン104が形成されたあと、図5に示す放熱構造体100Cのように、領域102cの厚さが、領域102aの厚さt1と略同一になるように領域111の厚さが決定されてもよい。また、領域102cの厚さが、領域102aの厚さt1よりも薄くなるように、領域111の厚さが決定されてもよい。または、図6に示す放熱構造体100Dのように、領域102cの厚さが領域102aの厚さt1よりも厚くなる、つまり、領域102cに凸部102dが形成されるように、領域111の厚さが決定されてもよい。このように、図12に示す構造体110Aの厚さt3は、厚さt1に、厚さt4が加算された厚さとなるように、設定されればよい。円筒形状の金属性の構造体110に対して、円周方向に延在する凸形状の領域111を形成するように切削する。言い換えると、構造体110Aに対して、上側及び下側を、厚みがt1になるまで切削することで、凸形状の領域111が形成される。このようにして、厚みが異なる領域102bと領域111とを有する構造体110Aを形成することができる。なお、構造体110Aに形成される凸形状の領域111の数は、特に限定されない。その後、領域111において、図7A図7Cに示したように、スカイブ加工を行うことによりフィン104を複数形成することで、図5に示す放熱構造体100C、または図6に示す放熱構造体100Cを形成することができる。なお、放熱構造体100Dの凸部102dにおいてy方向に延在する貫通孔を形成する場合には、スカイブ加工に対する剛性を考慮すると、フィン104を形成した後に形成することが好ましい。
【0026】
次に、図1とは一部構成が異なる放熱構造体100Eについて説明する。図13及び図14に示すように、スカイブ加工によって構造体110を形成する場合、切削工具13の大きさによっては、フィン104が形成されない領域110bが生じる場合がある。この領域110bには、図3で説明した配線や流路のための開口を形成してもよい。また、領域110bに、板状のフィン105(第3構造体ともいう)を接合してもよい。また、領域110bに、フィン105を接合する場合、例えば、抵抗溶接(プロジェクション溶接)、レーザ溶接、電子ビーム溶接、またはアーク溶接などを用いればよい。フィン105は、構造体110とは異なる構造体から、スカイブ加工によって切り出されたものを使用してもよい。また、フィン105の加工方法として、プレス打ち抜き、放電加工(ワイヤーカット)、圧延まま材、押出材、切削加工材、鋳造材、または金属積層造形材などが挙げられる。
【0027】
図15Aは、フィン104が形成されたハウジング102の領域110bに、フィン105が接合された放熱構造体100Fである。構造体110(ハウジング102)に形成されたフィン104と、構造体110の一部分に接合されたフィン105と、は同一の組成を有し、それぞれアルミニウム、亜鉛、マグネシウム、および銅を含むことが好ましい。または、構造体110に形成されたフィン104と、構造体110の一部分に接合されたフィン105と、は同一の組成を有し、それぞれアルミニウム、マグネシウム、およびケイ素を含むことが好ましい。フィン105が、構造体110及びフィン104と同じ組成を有することで、フィン104と105との熱伝導率にムラができることを抑制することができる。
【0028】
構造体110の領域110bにフィン105を溶接する場合、図15Bに示すように、領域110bの表面にフィン105を配置し、これらが互いに接する面に抵抗溶接(プロジェクション溶接)、レーザ溶接、電子ビーム溶接、またはアーク溶接などによって熱エネルギーを供給し、両者を溶接すればよい。レーザ光としては、例えば1064nmの波長を有するイットリウム-アルミニウム-ガーネット(YAG)レーザや、1070nmの波長を有するファイバレーザなどを用いればよい。また、光学素子を用いて線状に加工されたレーザ光を用いてもよい。
【0029】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に示す放熱構造体100、100A~100Fとはフィンの構造が異なる放熱構造体100Gについて、図16A及び図16Bを参照して説明する。
【0030】
図16Aは、放熱構造体100Gの模式的上面図である。本実施形態における放熱構造体100Gは、ハウジング102とフィン106、107と、を有している。本実施形態では、フィン106、107は、湾曲した形状を有している。放熱構造体100Gについても、第1実施形態にて説明したように、円筒形状の金属製の構造体110に対してスカイブ加工により、フィン106が形成される。そのため、フィン106はハウジング102と一体形成される。また、ハウジング102において、領域110bについては、スカイブ加工を行う際に切削工具13によってフィン106が形成されない領域である。そのため、領域110bについては、別途形成されたフィン107をハウジング102に溶接してもよい。溶接する方法及び溶接するフィンの材料については、図15A及び図15Bにて説明した通りである。または、図示しないが、領域110bにおいて、図3で説明した開口を形成してもよい。
【0031】
フィン106、107の厚さ、高さは、実施形態1で説明したフィン104の厚さ、高さと同様である。ハウジング102に配置されるフィン106の間隔及びフィン107の間隔は、ハウジング102に配置されるフィン104の間隔と同様である。フィン107の厚さ、高さ、形状、及び材質は、フィン106の厚さ、高さ、形状、及び材質と同じであることが好ましい。また、フィン106、107の湾曲形状は、切削工具13Aの刃面131Aの形状によって制御することができる。図16Bは、構造体110の一部と、切削工具13Aとを説明する図である。切削工具13Aの刃面131Aが湾曲形状を有している。これにより、切削工具13Aを構造体110の表面に対して切削することで、フィン106が、切削工具13Aの刃面131Aの湾曲面に沿って切り出される。これにより、厚さが薄く、湾曲した形状を有するフィン106を形成することができる。
【0032】
(第3実施形態)
本実施形態では、第1及び第2実施形態に示す放熱構造体100、100A~100Gとは、ハウジング102の構造が異なる放熱構造体100Hについて、図17図18Cを参照して説明する。
【0033】
図17は、放熱構造体100Hの模式的上面図である。本実施形態における放熱構造体100Hは、ハウジング102の内側に円筒形状のコア材112が設けられている。円筒形状のコア材112と、ハウジング102とは、接着材111によって接着されている。図17に示すフィン104は、先の実施形態で説明したようにスカイブ加工によって形成されており、ハウジング102と一体的に形成されている。コア材112の材料として、放熱構造体100Hの内側からの熱伝導を担うため、熱伝導率が高く、かつ軽量化できる材料であることが好ましい。コア材112の材料として、ハウジング102及びフィン104で説明したアルミニウム合金を用いればよい。ハウジング102及びフィン104として用いるアルミニウム合金の組成と、コア材112として用いるアルミニウム合金の組成とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
次に、金属製のプレート状の構造体120(第1構造体ともいう)をスカイブ加工することによって板状のフィン(第2構造体ともいう)を形成した後、構造体120をコア材112に接合する方法について、図18A図18Cを参照して説明する。図18Aに示すように、切削工具13の先端部132を構造体120の表面を削ぐように構造体120の内部に押し込む。このとき、構造体120の表面には、予め傾斜部が設けられていてもよい。傾斜部は、構造体120の底面に対してなす角度θで設けられる。傾斜部の長さは、フィン104の長さに応じた長さであればよい。これにより、構造体120の表面からフィン104の部分が削り出される。このとき、切削工具13の底面と、刃面131は、構造体110に接触した状態である。図18Bに示すように、切削工具13の先端部132をフィン104に当接した状態で、切削工具13を持ち上げることで、構造体120の表面から切り立った(隆起した)フィン104が形成される。構造体120に対して、スカイブ加工を所定の間隔で繰り返すことにより、構造体120に複数のフィン104を形成することができる。
【0035】
次に、プレート状の構造体120を巻くことで変形させる。具体的には、フィン104が構造体120から外側に放射状に延伸するように、構造体120を円筒形状に変形する。このとき、構造体120を正しく円筒形状に変形するためのサポート治具及びハウジング102の補強材としてコア材112を用いる。すなわち、円筒形状のコア材112を構造体120の底面(フィン104が形成される面に対して反対側の面)に配置し、コア材112の周りに構造体120を巻きつける。このとき、コア材112の表面または構造体120の底面に、接着材111を塗布し、コア材112に接着する。接着材111として、熱伝導が高い材料を用いる。または、接着材111に替えてろう付けによって、コア材112と構造体120とを接着してもよい。コア材112及び構造体120として用いることが可能な材料として例示したアルミニウム合金として、A3003やA3005を用いる場合には、例えば、Al-Siろうを用いて、590℃~600℃でろう付けを行えばよい。また、アルミニウム合金として、A7050、A7075、A6061を用いる場合には、低融点のろう材を用いればよい。なお、後述する底面側からの溶接のための空間を確保するため、コア材112の一部にz方向に延伸する溝110cを設けてもよい。この場合には、構造体120の両端が溝110cと重なるように構造体120が変形される。なお、後述する底面側からの溶接のための空間を確保するため、コア材112の一部にz方向に延伸する溝112aを設けてもよい。この場合には、構造体120の両端が溝112aと重なるように構造体120が変形される。
【0036】
その後、構造体120の両端を互いに接合することで放熱構造体100Hを製造することができる。接合方法の一つとして溶接が挙げられる。例えば、構造体120の外側(フィン104が配置される側)または内側(フィン104が配置される側に対して反対側)からレーザ光またはアーク放電、電子ビーム、FSW(摩擦攪拌接合)等を利用して熱エネルギーを供給すればよい。図18Cに、構造体120の接合部115の一部の拡大図を示す。図18Cに示すように、溶接時により広い接触面を確保するため、互いに噛み合う段差113を構造体120の両端に設けてもよい。段差113の形状に制約はなく、段差113同士を噛み合わせた際、両端が接する面がハウジング102の円周方向とz方向に延伸するように段差113を設ければよい。例えば、図18Cに示すように、構造体120の一方の端部において上面の一部を除去し、他方の端部において底面の一部を除去することで段差113を形成すればよい。この場合、両端部の厚さは、その和が構造体120の厚さと同一または実質的に同一になるように調整される。なお、段差113を設ける場合には、両端部の接合は、ボルトやビス、ナットなどの組み合わせで構成される固定治具を用いて行ってもよい。あるいは、両端部が接した状態でz方向に対して垂直な方向に圧力を掛け、拡散接合によって両端部を接合してもよい。
【0037】
なお、フィン104の厚さが小さい場合、構造体120の変形時に掛かる力によってフィン104が変形する可能性がある。このため、両端部を接合したのち、変形したフィン104を矯正し、その形状を構造体120の変形前の形状へ戻してもよい。
【0038】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係る放熱構造体100、100A~100Hは、A7075やA6061などのアルミニウム合金を含む。このため、放熱構造体100、100A~100Hは、アルミニウムの高い熱伝導率に起因する高い冷却効率が達成できるだけでなく、軽量でありかつ強度が高い。このことは、例えば航空機の推進力を生み出すためのモータなどの高い信頼性が要求される放熱構造体への応用を可能にする。また、軽量化が要求されるドローンなどの無人航空機や電気自動車などの各種車両の放熱構造体としても本実施形態に係る放熱構造体100を好適に利用することができる。
【0039】
また、本発明の一実施形態に係る放熱構造体100、100A~100Hの製造方法では、フィン104の形成はスカイブ加工によって形成される。このため、ハウジング102とフィン104が一体化され、電動機が発生する熱をハウジング102からフィン104へ効率良く伝えることができるので、高効率で電動機を冷却することができる。さらに、押出成形や鋳型加工と比較すると、金型や鋳型が不要であるため、製造コストが低く、かつ、大きな高さを有するフィン104を高密度、すなわち狭いピッチで設けることが可能である。また、本製造方法では切削工程は構造体110に傾斜面を形成する場合や、構造体120の両端部における段差116を形成する場合に限られるため、材料の使用効率が高い。このことは、本製造方法を適用することで、低コストで放熱構造体を提供できることを意味している。
【0040】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0041】
また、上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0042】
10:製造装置、11:回転ドラム、12:駆動部、13:切削工具、13A:切削工具、14:支持部材、15:アーム、16:支持部材、17:ベルト、18:軸、19:吐出ノズル、21:固定部、100:放熱構造体、100A~100H:放熱構造体、102:ハウジング、102a:開口、104:フィン、104a:主面、105:フィン、106:フィン、107:フィン、110:構造体、110a:領域、110b:領域、110c:溝、111:接着材、112:コア材、112a:溝、113:段差、115:接合部、116:段差、120:構造体、131:刃面、131A:刃面、132:先端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図17
図18A
図18B
図18C