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特開2024-86450糖鎖結合剤、糖鎖検出キット及び医薬品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086450
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】糖鎖結合剤、糖鎖検出キット及び医薬品
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/00 20060101AFI20240620BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240620BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240620BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20240620BHJP
   A61P 31/00 20060101ALN20240620BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20240620BHJP
【FI】
C07K14/00 ZNA
A61P43/00 111
A61K38/16
A61P35/00
A61P31/00
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201581
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】520219036
【氏名又は名称】長▲崎▼ 慶三
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 慶三
(72)【発明者】
【氏名】和田 啓
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 健文
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA21
4C084BA23
4C084CA01
4C084CA04
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB311
4C084ZC411
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA01
4H045EA50
4H045EA61
4H045FA74
4H045GA01
4H045GA22
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】 糖鎖に特異的に結合可能な糖鎖結合剤を提供する。
【解決手段】特異的糖鎖結合部を含み、前記特異的糖鎖結合部が、配列番号1の配列からなるポリペプチドを含み、前記アミノ酸配列において、中性アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基、及び、塩基性アミノ酸残基の少なくとも一つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、糖鎖結合の特異性を変更可能であることを特徴とする、糖鎖結合剤。前記配列番号1のアミノ酸配列は、HaVのVP492タンパク質のC末端側に存在する連続反復配列由来であってもよい。
【選択図】 なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的糖鎖結合部を含み、
前記特異的糖鎖結合部が、下記(A)及び(B)からなる群の少なくとも一つのポリペプチドを含み、
前記アミノ酸配列において、中性アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基、及び、塩基性アミノ酸残基の少なくとも一つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、糖鎖結合の特異性を変更可能であることを特徴とする、
糖鎖結合剤。

(A)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド:HaV01株及びHaV53株
TLSVCDTIIAPNACFTTITLDTLDLTDITAVNACLTDVTVSDNLNVSDTLTSYIVSTDALLSTNACFTNATVVD

(B)配列番号1のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加した配列からなり、かつ糖鎖結合能を有するポリペプチド
【請求項2】
前記置換は、配列番号1の少なくとも一方において、N末端から数えて、4、6、7、9、10、11、13、15、16、17、20、21、22、23、26、27、30、31、32、34,36、37、38、40、41、42、43、44、45、46、48、49、51、55、56、57、58、59、61、62、63、65、68、69、70、72、73及び74位のアミノ酸残基の少なくとも一つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することである、
請求項1記載の糖鎖結合剤。
【請求項3】
前記特異的糖鎖結合部に含まれる前記ペプチドは、アミノ酸配列が異なる2個以上のポリペプチドがペプチド結合で連結したポリペプチドである、
請求項1又は2記載の糖鎖結合剤。
【請求項4】
前記配列番号1のアミノ酸配列は、HaVがコードする分子量約492kDaのタンパク質のC末端側に存在する連続反復配列由来である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の糖鎖結合剤。
【請求項5】
糖鎖結合剤、及び、前記結合剤を検出する検出剤を含み、
前記糖結合剤は、請求項1から4のいずれか一項に記載の糖鎖結合剤である、
糖鎖検出キット。
【請求項6】
生体内の糖鎖を標的とした医薬品であって、
請求項1から4のいずれか一項に記載の糖鎖結合剤を含む、医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖結合剤、糖鎖検出キット及び医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内のタンパク質の多くは糖鎖で修飾されており、両者が一体化することで機能を発揮する場合もある。近年、一部の疾病では糖鎖構造の質的変化が観察されており、その定量によって病気の進行度を推定することが可能となっている。よって、特異的な糖鎖識別・定量技術の開発は、癌や感染症等の画期的診断法の確立につながると考えられており、世界中で開発競争が行われている状況にある。例えば、特許文献1には、糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマトデバイスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-60255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
創薬分野において、標的となる分子構造を認識する分子プローブの設計・作出は、重要な工程といえる。たとえば標的がタンパク質の場合、それを実験動物に接種し抗体産生を促すことで、目的とする分子プローブ(抗体)を入手することが可能である。しかし、標的が糖鎖である場合、糖鎖自体の免疫原性がきわめて低いため、抗体産生を促すことがしばしば困難である。
【0005】
抗体以外の糖結合性タンパク質の例としてはレクチンが知られる。レクチンは2つ以上の結合部位を持ち、多糖構造を表面に持つ動物・植物細胞を凝集することができる。レクチンは植物・動物・微生物等から検出されており、すでに多様なレクチンが上市されている状況にある。ただし、レクチンの多様性は探索する生物の範囲によって限定されるため、オーダーに応じた認識特異性を付与することは難しい。
【0006】
標的となる糖鎖分子に特異的に吸着可能なタンパク質分子を(オーダーメイドで)設計する技術は未だ開発されていない。
【0007】
そこで、本発明は、糖鎖に特異的に結合することが可能な糖鎖結合剤、それを用いた糖鎖検出キット及び医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の糖鎖結合剤は、特異的糖鎖結合部を含み、
前記特異的糖鎖結合部が、下記(A)及び(B)からなる群の少なくとも一つのポリペプチドを含み、
前記アミノ酸配列において、中性アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基、及び、塩基性アミノ酸残基の少なくとも一つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、糖鎖結合の特異性を変更可能であることを特徴とする。

(A)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド:HaV01株及びHaV53株
TLSVCDTIIAPNACFTTITLDTLDLTDITAVNACLTDVTVSDNLNVSDTLTSYIVSTDALLSTNACFTNATVVD

(B)配列番号1のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加した配列からなり、かつ糖鎖結合能を有するポリペプチド
【0009】
本発明の糖鎖検出キットは、糖鎖結合剤、及び、前記結合剤を検出する検出剤を含み、
前記糖結合剤は、本発明の糖鎖結合剤である。
【0010】
本発明の医薬品は、生体内の糖鎖を標的とした医薬品であって、本発明の糖鎖結合剤を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構造が異なる種々の糖鎖に対し、特異的に結合可能な糖鎖結合剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、糖鎖を認識するタンパク質の由来を説明する図である。
図2図2は、HaVは、株ごとに宿主特異性が異なることを説明する図である。
図3図3は、HaV01株及びHaV53株のVP492タンパク質のC末端側に存在する連続反復配列(74アミノ酸)を比較した図である。
図4図4は、図5のアミノ酸配列の比較をアミノ酸残基の性質に応じて分けて示した図である。
図5図5は、VP492タンパク質の立体モデルを示す図である。
図6図6は、本発明の実施形態の一例を示す図である。
図7図7は、実施例で使用した糖鎖(8種類)の構造を示す図である。
図8図8は、実施例におけるHaV Vp492由来 74aa×2の精製工程と精製条件を示す図である。
図9図9は、可溶化条件下で精製したHaV Vp483に由来する精製74aax2タンパク質の電気泳動写真である。
図10図10は、バイオレイヤー干渉法による各種ビオチン修飾型糖鎖への74aaタンパク質のセンサーグラムを示す図である。
図11図11は、実施例におけるPull-down法による糖鎖結合解析の手順の概要を示す図である。
図12図12は、実施例におけるPull-down法による糖鎖結合解析の手順の概要を示す図である。
図13図13は、実施例におけるPull-down法による糖鎖結合解析の結果を示すグラフである。
図14図14は、実施例におけるPull-down法による糖鎖結合解析の結果を示すグラフである。
図15図15は、シアル酸又はガラクトース添加による74aax2タンパク質へのビオチン修飾型糖鎖(GT-25349)の結合阻害を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の糖鎖結合剤において、前記置換は、配列番号1において、N末端から数えて、4、6、7、9、10、11、13、15、16、17、20、21、22、23、26、27、30、31、32、34,36、37、38、40、41、42、43、44、45、46、48、49、51、55、56、57、58、59、61、62、63、65、68、69、70、72、及び73位のアミノ酸残基の少なくとも一つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することである、という態様であってもよい。
【0014】
本発明の糖鎖結合剤において、前記特異的糖鎖結合部に含まれる前記ペプチドは、アミノ酸配列が異なる2個以上のポリペプチドがペプチド結合で連結したポリペプチドである、という態様であってもよい。
【0015】
本発明の糖鎖結合剤において、前記配列番号1のアミノ酸配列は、HaVがコードする分子量約492kDaのタンパク質(VP492やVP492タンパク質ともいう)のC末端側に存在する連続反復配列由来である、という態様であってもよい。
【0016】
前記(B)において、「数個」は、特に制限されず、例えば、2~18、5~18、10~18等である。
【0017】
以下、本発明について、例を用いて具体的に説明する。
【0018】
本発明は、ラフィド藻類ヘテロシグマ・アカシオに感染する2本鎖DNAウイルスHaVがコードする巨大分子VP492中に存在する74個以上のアミノ酸からなる特殊な繰り返し領域の糖鎖親和性を利用することにより、標的となる糖鎖の構造に応じて特異的に吸着可能なタンパク質分子を設計する技術を開発し、創薬分野等に提供することを目的とする。
【0019】
図1に、糖鎖を認識するタンパク質の由来を示す。本発明の前記ポリペプチドは、赤潮の原因となる赤潮藻「ヘテロシグマ・アカシオ」に感染するウイルスHaVのVP492タンパク質のC末端側に存在する連続反復配列に由来する。同図において、左側に正常なヘテロシグマ・アカシオを示し、中央にHaVに感染したヘテロシグマ・アカシオを示し、右側に、HaVを示す。
【0020】
図2に、HaVは、株ごとに宿主特異性が異なることを示す。同図に示すように、HaV01株とHaV53株は、ヘテロシグマ・アカシオH93616株に共通して感染する。しかし、HaV01は、ヘテロシグマ・アカシオStrain1株には感染するが、同Strain2株には感染せず、一方、HaV53は、同Strain1株に感染しないが、同Strain2株に感染する。この宿主特異性が異なるのは、VP492タンパク質のC末端側の連続反復配列の変異による宿主(ヘテロシグマ・アカシオ)の表面にある糖鎖への結合特異性の違いによる。
【0021】
図3及び図4に、HaV01株及びHaV53株のVP492タンパク質のC末端側に存在する連続反復配列の74アミノ酸の比較図を示す。両図に示すように、HaV01株及びHaV53株の配列において、疎水性アミノ酸残基においては保存性が高く、一方、親水性アミノ酸残基部分に変異が集中していることが分かる。また、各位置において最も割合の多いアミノ酸残基は両株の間で一致する。
【0022】
図5に、VP492タンパク質の立体モデルを示す。同図において、74aa#1~#5は、前記連続反復配列部分を示し、この部分がヘテロシグマ・アカシオの表面糖鎖を認識する。前記連続反復配列部分は、サビキ釣りのサビキ仕掛けのように、それぞれの反復配列が、異なる糖鎖に結合するようになっており、この構造が、HaVの株の相違により、宿主特異性を決定している。本発明者は、この知見を初めて見出し、糖鎖の特異的結合に利用するという着想を得て、本件発明に想到した。
【0023】
本発明が適用できる製品例
例1 腫瘍細胞が産生する糖鎖を特異的に識別・定量する診断薬
例2 筋ジストロフィー症例にみられるジストログリカン特異的糖鎖を特異的に識別・定量する診断薬
【0024】
本発明の具体的応用例のうち、腫瘍マーカー糖鎖の検出・定量の概要を説明する。
(1)HaVが持つ超巨大分子VP492のC末端側に存在する74又は86アミノ酸の連続反復領域をモデル配列とし、多様な多糖との反応性を調べることで、その糖鎖結合特異性を決定する。
(2)同領域をコードする遺伝子領域をクローニングする。主に疎水性アミノ酸配列を除く親水性領域について遺伝子組換え技術を用いてアミノ酸残基の置換を行う。これにより多様な糖鎖結合特異性を持つポリペプチドのライブラリを作製する。なお、同じアミノ酸配列を直列にサビキ状に繋ぐことにより、さらに検出感度を高めた分子も設計可能である。
(3)得られたライブラリから、腫瘍マーカー糖鎖に特異的に結合する配列をスクリーニングする。陽性反応を示したものを腫瘍マーカー糖鎖特異的分子として診断薬等に適用する。
【0025】
図6は、本発明の実施形態の一例を示す。図示のとおり、例えば、His-tag付加 74aa ×2を発現タンパク質とし、大腸菌BL21(DE3)などを発現ホストとし、pET15bを発現ベクターとして、大腸菌コドンに最適化した遺伝子合成ができる。
【実施例0026】
以下において、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0027】
図7に、本実施例で使用した糖鎖(8種類)の構造を示す。同図において、Rはビオチン修飾される部位である。同図におけるRの構造は、下記化学式のとおりである。なお、図示の8種類以外の糖鎖である「GT-25389」は、グリコリル構造を有する。
【化1】
【0028】
[実施例1:HaV Vp492由来 74aa×2の精製]
以下のようにして、海洋ウイルス由来VP492 74aa繰り返しペプチド・ドメインを二つタンデムに融合させたタンパク質(HaV Vp492由来 74aa×2)を精製した。
【0029】
本タンパク質の発現は、Vp483の繰り返し74アミノ酸の最も標準的な配列をタンデムに2回並列に並べ、N末端に精製用のヒスチジンタグを付加したタンパク質(74aax2タンパク質)を大腸菌で発現させた。図8に、本実施例におけるHaV Vp492由来 74aa×2の精製工程と精製条件を示す。図示のとおり、培養した菌体を破砕後、不溶性画分を回収し、尿素による可溶を行った後に、変性条件下でNi-NTAアガロース樹脂(富士フィルム和光純薬)を用いて精製した。精製後、74aax2タンパク質が含まれる画分を回収し、希釈法によりリフォールディングを行うことで、可溶性の74aax2タンパク質を得た。さらにその後、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー(HiPrep Sephacryl S200 16/60、Cytiva社製)により精製することで、高純度の精製74aax2タンパク質を得た。図9に、可溶化条件下で精製したHaV Vp483に由来する精製74aax2タンパク質の電気泳動写真を示す。
【0030】
[実施例2:BLI法による糖鎖結合解析]
BLI法(バイオレイヤー干渉法)により、図7に示した8種類の糖鎖に対する74aax2タンパク質の糖鎖結合解析を行った。解析条件は、下記の解析条件1とした。

解析条件1
:糖鎖 550nM
:74aa 550nM~2.2μM
結合:120sec.
解離:120sec.
【0031】
図10に、バイオレイヤー干渉法による各種ビオチン修飾型糖鎖への74aaタンパク質のセンサーグラムを示す。同図において、測定は、BLItz(ForteBIO社[現 Octet N1 sytem,ザルトリウス社]の商品名)を用いて行い、ストレプトアビジン固定型のセンサーチップ(商品名Octet SA Biosensor,ザルトリウス社製)を用いた。センサーチップへの糖鎖の固定には550nMの各種糖鎖を使用し、550nM 74aaタンパク質をアナライトとして、74aax2タンパク質の各種糖鎖への結合および解離を測定した。図示のとおり、74aaタンパク質は、8種類すべての糖鎖に対し糖鎖結合能を示し、糖鎖結合剤として機能することが確認された。
【0032】
下記表1に、74aaタンパク質と各種糖鎖の親和性(Kon、Koff、KD)を示す。同表の数値は、BLItz Pro Data Analysis software (ver. 1.1.0.29) を用いてセンサーグラムのlocal fitting解析を行い、結合速度定数(Kon (M/s-1))、解離速度定数(kd (s-1))および解離定数(KD(M))を算出した結果である。下記表1に示すとおり、本実施例で用いたすべての糖鎖において74aax2タンパク質の結合が検出でき、その解離定数(KD)は、10-7~10-8Mであった。すなわち、糖鎖の種類によって親和性に顕著な差がなかったことが確認できた。なお、コントロール実験として、糖鎖の代わりにTris緩衝液(50mM Tris-HCl(pH7.8),150mM NaCl)を用いた場合は、74aax2タンパク質は結合しなかった。
【表1】
【0033】
[実施例3:Pull-down法による糖鎖結合解析]
図11及び12に、本実施例におけるPull-down法による糖鎖結合解析の手順の概要を示す。まず、図7に示した8種類の糖鎖それぞれをビオチン修飾した。そのビオチン修飾型糖鎖(終濃度25μM)と74aax2タンパク質(終濃度:100μM)とをエッペンチューブ中で混合し、Ni-NTAアガロース樹脂(富士フィルム和光純薬)添加することで74aax2タンパク質を沈殿させ取り除いた。上清に残されたビオチン修飾型糖鎖を4-ヒドロキシアゾベンゼン-2'-カルボン酸(HABA,シグマアルドリッチ)を用いて比色定量した。図13及び14に、その結果を示す。図13の各グラフにおいて、左側のデータは、74aax2タンパク質を加えなかった場合のデータ(対照,Control)を表す。中央のデータは、74aax2タンパク質を加えた場合のデータを表す。右側のデータは、74aax2タンパク質を加えた場合場合と加えなかった場合との差を表す。左側の縦軸の数値は、上清中のフリーHABA濃度を表す。右側の縦軸の数値は、74aax2タンパク質を加えた場合と加えなかった場合との上清中のフリーHABA濃度の差(平均値及び標準偏差)を表す。また、図13の結果を、図14において棒グラフで示す。図14の棒グラフにおいて、縦軸の数値は、上清中のフリーHABA濃度を表す。8種類の糖鎖それぞれのデータにおいて、左側のデータは、74aax2タンパク質を加えなかった場合のデータ(対照,Control)を表し、右側のデータは、74aax2タンパク質を加えた場合のデータを表す。図13及び14に示すとおり、74aax2タンパク質を添加しない場合(コントロール)と比較して、74aax2タンパク質を添加すると上清中のビオチンが有意に減少した。
【0034】
さらに、ビオチン修飾型糖鎖(GT-25349)と74aax2タンパク質の混合の際に、150μM若しくは1.5mM N-Acetylneuraminic acid (シアル酸,富士フィルム和光純薬)、又は150μM若しくは1.5mM Galactose(ガラクトース,ナカライテスク)を添加し、糖鎖結合が阻害されるかどうかを確認した。図15に、その結果を示す。図15のグラフにおいて、縦軸及び横軸の意味は、図13と同じである。差の解析には、p検定を用いた。図15上段のグラフは、ビオチン修飾型糖鎖(GT-25349)と74aax2タンパク質の混合の際にシアル酸及びガラクトースを加えなかった場合の測定結果を示すグラフである。図15下段左側のグラフは、ビオチン修飾型糖鎖(GT-25349)と74aax2タンパク質の混合の際に150μM又は1.5mMのシアル酸を加えた場合の測定結果を示すグラフである。図15下段右側のグラフは、ビオチン修飾型糖鎖(GT-25349)と74aax2タンパク質の混合の際に150μM又は1.5mMのガラクトースを加えた場合の測定結果を示すグラフである。図示のとおり、1.5mM又は150μMのシアル酸又はガラクトースの添加により、糖鎖(GT25349)の74aax2タンパク質への有意な結合が見られなった。すなわち、ビオチン修飾型糖鎖(GT-25349)と74aax2タンパク質の混合の際にシアル酸又はガラクトースを添加すると、74aax2タンパク質へのビオチン修飾型糖鎖(GT-25349)の結合が有意に阻害された(競合阻害)。
【0035】
本実施例で示したとおり、本発明によれば、標的となる糖鎖の構造に応じて特異的に吸着可能なタンパク質分子を設計できる。本実施例で用いた海洋ウイルス由来VP492 74aa繰り返しペプチド・ドメインを二つタンデムに融合させたタンパク質は、当該ウイルスの糖鎖と有意に結合することができ、本作用はN-Acetylneuraminic acid(シアル酸)およびGalactose(ガラクトース)で阻害された。BLI法では、試験に用いたすべての糖鎖において結合が検出でき、その解離定数(KD)は、10-7~10-8Mであった。
【0036】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、糖鎖に特定的に結合する糖鎖結合剤を提供することができ、本発明の糖鎖結合剤は、研究、検査、診断及び医薬等の各分野で利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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