(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086475
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】組成物及び組成物を備える蓄熱材
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
C09K5/06 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201619
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 優
(57)【要約】
【課題】 優れた性能を有する組成物を提供する。
【解決手段】 本発明のある形態は、ホスト物質である水がゲスト物質を取り囲んだ包接水和物を形成するための組成物であって、水と、ゲスト物質と、アミノ酸と、を含む組成物である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスト物質である水がゲスト物質を取り囲んだ包接水和物を形成するための組成物であって、
水と、ゲスト物質と、アミノ酸と、を含む組成物。
【請求項2】
水と、ゲスト物質と、アミノ酸と、を含む蓄熱材用の組成物。
【請求項3】
前記アミノ酸の水への溶解度(20℃)が、1.0g/100ml以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物中の水及び前記ゲスト物質の合計量を100.0質量部とした場合の、前記アミノ酸の含有量が0.1~10.0質量部である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
容器と、前記容器内に収納された請求項1又は2に記載の組成物と、を備える蓄熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び組成物を備える蓄熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の温度を保つための蓄熱材の一つに、相変化材料がある。相変化材料は、固相から液相への相変化時の潜熱を利用して温度を一定に保つ機能を有する材料のことを指す。
【0003】
蓄熱材に求められる特性の一つとして、特に生鮮食品用途や医薬品用途にて、比較的高温の温度帯(例えば、0℃超15℃以下等)で保温する機能が挙げられる。従来、このような高温となる温度帯における保温に用いられる技術の多くがパラフィンを用いた蓄熱材であったが、パラフィンは可燃物であることから安全性に問題があった。
【0004】
水溶液を用いた蓄熱材により安全性を向上させる試みがある。しかしながら、水溶液を用いた蓄熱材(例えば、包接水和物を形成する蓄熱材)は、固相化させる際に過冷却が生じ、凝固点よりも遥かに低い温度まで冷却する必要が生じる場合がある。
【0005】
このような状況を踏まえ、水溶液を用いた蓄熱材において、過冷却を解消すべく様々な研究がなされている。例えば、特許文献1には、所定の成分を含む水溶液に対して電圧を印加することで、水溶液中に過冷却解除物質を生成させ、この過冷却解除物質の機能によって過冷却を解消する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に係る過冷却解消の方法は、過冷却解消の効果は高いものの、電圧印加という外部刺激が必要である等の点で、使用できる設備が限定的であった。このような技術以外にも、過冷却を解消するために多くの研究がなされているが、十分な性能を有する蓄熱材とすることは困難であった。
【0008】
そこで本発明は、蓄熱材を構成するのに適した、優れた性能を有する組成物、及び、当該組成物を備える蓄熱材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行い、特定の成分を含有する組成物によって上記課題を解決可能なことを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0010】
本発明の第1の形態は、
ホスト物質である水がゲスト物質を取り囲んだ包接水和物を形成するための組成物であって、
水と、ゲスト物質と、アミノ酸と、を含む組成物である。
【0011】
本発明の第2の形態は、
水と、ゲスト物質と、アミノ酸と、を含む蓄熱材用の組成物である。
【0012】
前記アミノ酸の水への溶解度(20℃)が、1.0g/100ml以上であることが好ましい。
前記組成物中の水及び前記ゲスト物質の合計量を100.0質量部とした場合の、前記アミノ酸の含有量が0.1~10.0質量部であることが好ましい。
【0013】
本発明の第3の形態は、
容器と、前記容器内に収納された第1の形態に係る組成物又は第2の形態に係る組成物と、を備える蓄熱材である。
【0014】
本発明によれば、蓄熱材を構成するのに適した、優れた性能を有する組成物、及び、当該組成物を備える蓄熱材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、上限値と下限値とが別々に記載されている場合、任意の上限値と任意の下限値とを組み合わせた数値範囲が実質的に開示されているものとする。
【0016】
以下において、ある化合物が記載されている場合、その異性体も同時に記載されているものとする。
【0017】
以下において、特に断らない限り、各種測定は、環境温度を室温(23℃)として実施する。
【0018】
ここで、包接化合物は、一般的に、ホスト物質によって籠状やトンネル状等の、内部空間を有する分子の集合体を形成し、ホスト物質によって形成された内部空間にゲスト物質が包接される(ホスト物質とゲスト物質とが相互作用によって結合する)ことで形成される化合物である。
【0019】
特に、ホスト物質が水である場合の包接化合物は、包接水和物と称される。換言すれば、ホスト物質及び水を含む組成物において、ホスト物質である水がゲスト物質を取り囲んで包接水和物を形成する。このように、本明細書において、「包接水和物」とは、水分子(ホスト分子)で構成された籠状の包接格子内にゲスト分子が包み込まれて結晶化する化合物を示す。また、本明細書において、「準包接水和物」とは、アルキルアンモニウム塩に代表される比較的大きなイオン性のゲスト分子が、水分子(ホスト分子)の籠状の包接格子内に包み込まれ、その包接格子内の水素結合が、部分的に壊れた状態で結晶化する化合物を示す。以下の説明において、「包接水和物」とするときには「準包接水和物」も含むものとする。
【0020】
以下、組成物の、成分、物性/性質、用途等について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0021】
<<<組成物>>>
<<成分>>
本開示の組成物は、水と、ゲスト物質と、アミノ酸と、を含むことが好ましい。
本開示の組成物は、増粘剤(ゲル化剤)を含むことが好ましい。
本開示の組成物は、その他の成分を含んでいてもよい。
以下、それぞれの成分について説明する。
【0022】
<水>
水は、組成物中において、ゲスト物質とともに包接水和物を形成可能である。
【0023】
水は、蒸留水、イオン交換水、RO(逆浸透膜)水等の純水や超純水が用いられてもよい。
【0024】
組成物中の水の含有量は、別の成分の濃度等を考慮して調整可能であり、例えば、組成物全量に対して、20.0質量%以上、30.0質量%以上、40.0質量%以上、又は、50.0質量%以上等とすることができ、また、90.0質量%以下、80.0質量%以下、70.0質量%以下等とすることができる。
【0025】
<ゲスト物質>
ゲスト物質は、水と包接水和物(特に、準包接水和物)を形成可能な物質であれば特に限定されない。具体的には、ゲスト物質は、第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩であることが好ましい。
【0026】
第4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラブチルアンモニウム塩やトリブチルペンチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0027】
第4級ホスホニウム塩としては、例えば、テトラブチルホスホニウム塩等が挙げられる。
【0028】
また、第4級アンモニウム塩や第4級ホスホニウム塩を構成するアニオンとしては、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン等が挙げられ、好ましくは臭化物イオンである。
【0029】
ゲスト物質は、テトラブチルアンモニウム塩又はテトラブチルホスホニウム塩であることが好ましく、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)又はテトラブチルホスホニウムブロミド(TBPB)であることが好ましい。
【0030】
本開示の組成物は、ゲスト物質と水とを含むことで、ホスト物質である水がゲスト物質を取り囲んだ包接水和物を形成することができる。
【0031】
別の表現によれば、本開示の組成物は、ホスト物質である水がゲスト物質を取り囲んだ包接水和物を形成するための組成物である。
【0032】
このように、包接水和物を形成可能な成分を含む組成物とすることにより、単位質量当たりの融解潜熱量に優れた蓄熱材とすることが可能であり、また、パラフィン系等の蓄熱材と比較して、より安全性の高い組成物とすることができる。
【0033】
組成物中のゲスト物質の含有量(濃度)は、所望する組成物の融点に応じて適宜調整可能であり、特に限定されない。組成物中のゲスト物質の含有量は、例えば、水とゲスト物質との合計量を100.0質量部とした場合に、10.0~60.0質量部、20.0~55.0質量部、25.0~50.0質量部、又は、30.0~45.0質量部とすることができる。
【0034】
<アミノ酸>
アミノ酸は、カルボキシル基とアミノ基とを有する化合物であれば特に限定されない。
【0035】
アミノ酸は、非極性アミノ酸(疎水性アミノ酸)であってもよいし、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、又は、極性無電荷アミノ酸等の極性アミノ酸(親水性アミノ酸)であってもよい。
【0036】
非極性アミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン等が挙げられる。
【0037】
酸性アミノ酸としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等が挙げられる。
【0038】
塩基性アミノ酸としては、アルギニン、リシン、ヒスチジン等が挙げられる。
【0039】
極性無電荷アミノ酸としては、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、システイン、チロシンが挙げられる。
【0040】
疎水性アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン等が挙げられる。
【0041】
極性無電荷アミノ酸としては、例えば、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン等が挙げられる。
【0042】
酸性アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸が挙げられる。
【0043】
塩基性アミノ酸としては、例えば、アルギニン、ヒスチジン、リジン等が挙げられる。
【0044】
アミノ酸は、D体であってもL体であってもよい。
【0045】
アミノ酸は、前述した以外のアミノ酸であってもよい。
【0046】
ホスト物質である水とゲスト物質とを含む組成物を凝固させる際に、過冷却が生じ、凝固点よりも遥かに低い温度まで冷却する必要が生じる場合がある。例えば、水:TBABの配合量比が60:40である組成物は約12℃に融点をもつが、過冷却の影響により0℃まで冷却しても固相化されない場合がある。このように、蓄熱材用の組成物の融点が比較的高温(10℃以上等)であっても、2~5℃の保冷能力を有する一般的な冷蔵庫等では凝固が生じ難い場合がある。このような過冷却の影響を低減させる手段として、第2のゲスト物質や無機塩等の過冷却抑制成分(或いは、核形成用化合物)を組成物に配合することが考えられる。しかしながら、このような成分を使用した場合、核形成効果が安定せず過冷却防止効果が弱いといった問題や、他の成分が混合されることで目的温度における潜熱量が低減し易い等の問題が発生し得る。一方で、本開示のように、ホスト物質である水とゲスト物質(例えば、第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩等)とを含む組成物にアミノ酸を配合した場合、ゲスト物質による包接水和物形成とあわせて、アミノ酸による水和物形成効果等が作用し、優れた効果(例えば、過冷却解消効果)が得られるものと推定される。なお、アミノ酸は、疎水性側鎖が水和物形成に影響を与え得ることが報告されている(例えば、R. Li, Z. Sun, J. Song, J. of Molecular Liquids, 117880, 2021等参照)。しかしながら、本開示においては比較的高い親水性を有するアミノ酸を用いた場合にも優れた効果が奏されるものであり、アミノ酸の疎水性側鎖のみが本開示の効果に寄与している訳ではないことが示唆された。また別の考察として、組成物中のアミノ酸の結晶形態(析出形態)が、ゲスト物質を含む組成物における過冷却解消に効果的である可能性も考えられる。このように、包接水和物を形成可能なゲスト物質とともにアミノ酸を組成物に含有させることで優れた効果(例えば、過冷却解消効果)が得られるが、その原理については不明な部分もあり、詳細な解明が待たれる。
【0047】
このように、アミノ酸は、ホスト物質である水とゲスト物質(例えば、第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩等)とを含む組成物等に対して、優れた効果を奏する過冷却抑制成分として用いることができる。
【0048】
より安定して過冷却の影響を低減できるという観点から、アミノ酸は、水への溶解性が高いことが好ましい。具体的には、アミノ酸は、水への溶解度(20℃)が、0.1g/100ml以上、0.5g/100ml以上、1.0g/100ml以上、1.5g/100ml以上、又は、2.0g/100ml以上のものであることが好ましい。
【0049】
組成物中のアミノ酸の含有量は、例えば、組成物中の水とゲスト物質との合計量を100.0質量部とした場合に、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、又は、0.8質量部以上とすることが好ましく、また、10.0質量部以下、8.0質量部以下、5.0質量部以下、3.0質量部以下、2.0質量部以下、又は、1.5質量部以下とすることが好ましい。
【0050】
また、別の観点では、組成物中のアミノ酸の含有量は、例えば、組成物中の水含有量を100.0質量部とした場合に、0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、0.8質量部以上、又は、1.0質量部以上とすることが好ましく、また、15.0質量部以下、10.0質量部以下、5.0質量部以下、3.0質量部以下、2.0質量部以下、又は、1.8質量部以下とすることが好ましい。
【0051】
<増粘剤(ゲル化剤)>
組成物は、増粘剤(ゲル化剤)を含んでいてもよい。換言すれば、組成物は、ゲル化されていてもよい。
【0052】
増粘剤としては、従来公知のものを使用することが可能であり、例えば、多糖類、ゼラチン、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0053】
多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース誘導体、アルギン酸、寒天等が挙げられる。また、アルギン酸やカルボキシメチルセルロース等は、ナトリウム塩等の塩類の形態も含む。このような塩類の形態とすることで水溶性が高まり、水系組成物へ添加する成分として好ましいものとなる。
【0054】
また、組成物は、これらの増粘剤のゲル化を促進する(或いは補助する)、ゲル化補助剤を含んでいてもよい。
【0055】
増粘剤としては、安全性や機能性を考慮して、カルボキシメチルセルロースを用いることが好ましい。また、カルボキシメチルセルロースは、ゲル化補助剤として多価金属塩(多価カチオンを放出可能な塩)を用いてゲル化(架橋)させることが好ましい。この場合、カルボキシメチルセルロースのカルボキシ基が、金属塩由来の多価カチオンを介して架橋され、ゲル化が促進される。
【0056】
多価金属塩としては、特に限定されず、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、カリミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)等のアルミニウム塩の他、カルシウム塩、バリウム塩、鉄塩、クロム酸塩、チタン酸塩等が使用可能である。
【0057】
多価金属塩は、カルボキシメチルセルロースに対して十分な架橋点を形成可能であることからアルミニウム塩であることが好ましい。また、多価金属塩は、安全性等の観点から、カリミョウバンであることがより好ましい。
【0058】
組成物中の増粘剤の含有量は、組成物が所定の粘度となるように調整可能であり、特に限定されない。組成物中の増粘剤の含有量は、例えば、水とゲスト物質との合計量を100.0質量部とした場合に、0.1質量部以上、0.5質量部以上、又は、1.0質量部以上とすることができ、また、10.0質量部以下、又は、5.0質量部以下とすることができる。
【0059】
組成物がゲル化補助剤を含む場合、その含有量は、組成物が所望の粘度となるように増粘剤の含有量に応じて適宜調整可能であり、特に限定されない。
【0060】
<その他の成分>
組成物は、着色剤(染料、顔料)、抗菌剤、粘度調整剤、水以外の有機溶媒等の公知の成分を含んでいてもよい。
【0061】
また、組成物は、アミノ酸以外の過冷却抑制消成として、無機塩や鉱物等の氷核活性物質を含んでいてもよい。ただし、本開示の効果を高めるという観点で、組成物中のアミノ酸以外の氷核活性物質の含有量は、組成物中の水とゲスト物質との合計量を100.0質量部とした場合に、1.0質量部未満、0.5質量部以下、0.2質量部以下、又は、0.1質量部以下とすることが好ましい。
【0062】
<<物性/性質>>
<熱的性質>
本開示の組成物の融点は、0.0℃超、1.0℃以上、3.0℃以上、5.0℃以上、8.0℃以上、9.0℃以上、10.0℃以上、又は、11.0℃以上とすることができ、また、18.0℃以下、15.0℃以下、14.0℃以下、13.0℃以下、又は、12.5℃以下とすることができる。
【0063】
本開示の組成物の潜熱量(融点における潜熱量)は、100.0J/g以上、120.0J/g以上、140.0J/g以上、又は、160.0J/g以上とすることができる。本開示の組成物の潜熱量の上限値は、特に限定されないが、例えば、400.0J/g以下、300.0J/g以下、又は、200.0J/g以下であってもよい。
【0064】
なお、組成物の融点及び潜熱量は、示差走査熱量測定(DSC)により得られる。具体的には以下の通りである。
組成物をDSC測定用のアルミパンに10mg程度投入し、1℃/分の速度で-25℃まで降温し凝固させた後に、1℃/分の速度で25℃まで昇温する。相変化の際に現れるピークの頂点と面積から融点及び潜熱量を得る。
【0065】
本開示の組成物の凝固点(液相から固相へ変化する温度)は、2℃超であることが好ましく、3℃以上であることがより好ましい。凝固点が2℃超或いは3℃以上である場合、冷却温度が2~5℃である一般的な冷却能力を有する冷蔵庫でも凝固可能であり、有用性が高いと考えられる。また、本開示の組成物の過冷却度ΔTは、10.0未満であることが好ましく、9.5以下であることが好ましい。本開示において、凝固点及び過冷却度Δは、以下の凝固試験に基づき算出されたものである。
【0066】
<凝固試験>
恒温槽内に常温の組成物(25g)を静置し、組成物を4時間放置する。恒温槽の温度を0℃から5℃まで1℃刻みで温度を上げていき、設定された各温度にて4時間放置後に組成物が凍結(凝固)したか否かを確認する。
凝固試験を行った際に、組成物が凍結(凝固)した最も高い温度を凝固点とする。
組成物の融点から凝固点を減じたものを過冷却度ΔTとする。
【0067】
<粘度>
組成物の粘度は、用途に応じて適宜変更可能であり、特に限定されない。
組成物がゲル成分を含む場合、組成物の粘度を、1.0Pa・s以上、2.0Pa・s以上、5.0Pa・s以上、10Pa・s以上、100Pa・s以上、又は、500Pa・s以上とすることができる。組成物の粘度の上限値は、特に限定されないが、例えば、2000Pa・s以下である。
【0068】
なお、組成物の粘度は、B型回転粘度計を使用して測定された、25℃の粘度である。
【0069】
<<用途>>
本開示に係る組成物は、蓄熱材用とすることが好ましい。
換言すれば、本開示に係る組成物の好ましい形態は、水とゲスト物質とアミノ酸とを含む蓄熱材用組成物である。
【0070】
<蓄熱材>
以下、本開示に係る組成物の具体的な使用方法の一例として、本開示に係る組成物を備える蓄熱材について説明する。
【0071】
蓄熱材は、容器と、容器内に収納された組成物と、を備える。
【0072】
組成物については前述した通りであるので、詳細な説明を省略する。
【0073】
組成物は、前述した通り、ゲル化されたもの(ゲル成分を含むもの)であってもよい。ゲル化された組成物を用いることで、容器が破損した際の液体材料の漏れ等を抑制することができる。
【0074】
容器の材質は、組成物の相変化(凝固及び融解)に応じて変形可能な程度の可撓性を有することが好ましい。
【0075】
蓄熱材は、樹脂フィルムや金属フィルム等の変形し易い部材により容器が構成された所謂ソフトタイプであってもよいし、厚みのある樹脂材料(例えば、中空成形体)等の変形し難い部材により構成された所謂ハードタイプであってもよい。
【0076】
蓄熱材は、容器内に少なくとも組成物が封止されていればよく、開閉可能な蓋部等を有するなどして容器を破壊せずに組成物を取り出し或いは注入することが可能なように構成してもよいし、容器を破壊する以外は組成物を取り出し困難なように構成してもよい。
【0077】
蓄熱材の大きさや形状は、蓄熱材の用途に応じて適宜変更可能である。
【0078】
蓄熱材は、容器及び組成物以外の構成要素を含んでいてもよい。
【0079】
本開示に係る組成物は、0℃超の範囲に融点を有することができ、また、10℃超の範囲に融点を有することもできる。更に、本開示に係る組成物は、過冷却の影響が低減されていることから、一般的な冷蔵庫でも凝固させやすく、また、凝固に要する時間を短縮することもできる。従って、本開示に係る蓄熱材は、通常の氷や0℃以下の範囲に融点を有する通常の蓄熱材よりも比較的高温となるような温度範囲での保温が望ましい物品用の蓄熱材として好ましく使用することができる。具体的には、本開示に係る蓄熱材は、生鮮食品や医療品(ワクチン、血液製剤、赤血球製剤、細胞等)等に用いられる蓄熱材(これらの物品の輸送時や保管時等の保温用の蓄熱材)や、接触冷感部材等として好ましく使用することができる。
【実施例0080】
以下、実施例及び比較例により、組成物(蓄熱材用組成物)を具体的に説明するが、本発明は以下には限定されない。
【0081】
<<組成物の作製>>
表1に示す各原料を、表1に示す配合量(質量部)にて配合し、攪拌することで、実施例1~5及び比較例1~4に係る組成物を得た。
【0082】
<<測定/評価>>
前述の方法に従って、各組成物の融点及び潜熱を測定した。また、前述の凝固試験を行い、各組成物が凝固(凍結)する温度と、各組成物の過冷却度ΔTと、を測定した。測定結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
実施例1~5に係る組成物は、過冷却抑制成分を用いていない比較例1に係る組成物と比較して過冷却の影響が著しく低下し、比較的高温である3℃条件でも凝固可能であった。
また、実施例1~5に係る組成物は、過冷却抑制成分として、分散マイカ、層状ケイ酸塩又はL-酒石酸を用いた比較例2~4に係る組成物と比較して、過冷却の影響が低い、或いは、潜熱量低下の影響が小さいものとなった。