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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008648
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
   B25F 5/00 20060101AFI20240112BHJP
   B25B 21/00 20060101ALI20240112BHJP
   F16D 11/04 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B25F5/00 Z
B25F5/00 G
B25B21/00 530Z
B25B21/00 B
B25B21/00 520A
F16D11/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110681
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 暁斗
【テーマコード(参考)】
3C064
3J056
【Fターム(参考)】
3C064AA01
3C064AB02
3C064AC02
3C064BA12
3C064BA19
3C064BA35
3C064BB21
3C064BB23
3C064CA03
3C064CA06
3C064CA28
3C064CA53
3C064CB01
3C064CB03
3C064CB07
3C064CB11
3C064CB17
3C064CB19
3C064CB32
3C064CB62
3C064CB73
3C064DA02
3C064DA33
3C064DA59
3J056AA03
3J056AA62
3J056BB05
3J056BB21
3J056BB41
(57)【要約】
【課題】クラッチ機構の接続の信頼性を向上する。
【解決手段】電動工具1は、モータ2と、出力軸6と、クラッチ機構5と、を備える。出力軸6には先端工具が取り付けられる。クラッチ機構5は、モータ2のトルクを出力軸6に伝達する伝達状態と、モータ2のトルクを出力軸6から遮断する遮断状態とに切り替わる。クラッチ機構5は、モータ2の駆動軸21に対して回転可能な減速回転部56と、出力軸6と結合したクラッチ板54と、を有する。遮断状態において、減速回転部56とクラッチ板54とは離間しており、減速回転部56は、駆動軸21の第1回転数よりも低速の第2回転数で回転する。クラッチ機構5は、減速回転部56とクラッチ板54とが接続することによって、遮断状態から伝達状態に切り替わる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
先端工具が取り付けられる出力軸と、
前記モータのトルクを前記出力軸に伝達する伝達状態と、前記モータのトルクを前記出力軸から遮断する遮断状態とに切り替わるクラッチ機構と、を備え、
前記クラッチ機構は、前記モータの駆動軸に対して回転可能な減速回転部と、前記出力軸と結合したクラッチ板と、を有し、
前記遮断状態において、前記減速回転部と前記クラッチ板とは離間しており、前記減速回転部は、前記駆動軸の第1回転数よりも低速の第2回転数で回転し、
前記クラッチ機構は、前記減速回転部と前記クラッチ板とが接続することによって、前記遮断状態から前記伝達状態に切り替わる
電動工具。
【請求項2】
前記クラッチ機構は、
前記駆動軸に固定され、前記モータからの動力によって回転する太陽歯車と、
前記太陽歯車の周囲に配置され、前記太陽歯車と噛み合う複数の遊星歯車と、を更に備え、
前記減速回転部は、内歯歯車であり、
前記内歯歯車は、前記複数の遊星歯車の周囲に配置され、前記複数の遊星歯車と噛み合い、
前記複数の遊星歯車は、各々の回転軸が前記クラッチ板に回転可能に支持されており、
前記遮断状態において、前記内歯歯車は、前記太陽歯車の回転が前記複数の遊星歯車の各々の前記回転軸を中心とした回転によって伝達されることにより、前記太陽歯車の回転方向と逆方向に前記第2回転数で回転し、
前記伝達状態において、前記内歯歯車と前記クラッチ板とが接続することによって、前記内歯歯車と、前記クラッチ板と、前記複数の遊星歯車と、前記太陽歯車と、が互いに固定され、前記内歯歯車と、前記クラッチ板と、前記複数の遊星歯車と、前記太陽歯車と、が一体となって、前記駆動軸の回転方向に前記第1回転数で回転する
請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記モータ及び前記クラッチ機構を収容するハウジングを更に備え、
前記クラッチ板は、前記遮断状態において、前記ハウジングによって回転が抑制されるように固定される
請求項2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記モータを制御するための操作を受け付ける第1スイッチと、
前記第1スイッチの操作後に、前記減速回転部と前記クラッチ板とを接続させるための操作を受け付ける第2スイッチと、を更に備える
請求項1に記載の電動工具。
【請求項5】
前記モータを制御するための操作を受け付ける第1スイッチと、
前記第1スイッチの操作に連動して、前記減速回転部と前記クラッチ板とを接続させる接続機構と、を更に備える
請求項1に記載の電動工具。
【請求項6】
前記接続機構は、ソレノイドを含む
請求項5に記載の電動工具。
【請求項7】
前記接続機構は、前記第1スイッチが操作されてから所定時間後に、前記減速回転部と前記クラッチ板とを接続させる
請求項5に記載の電動工具。
【請求項8】
前記接続機構は、前記モータの前記駆動軸の回転数が所定値まで達した後に、前記減速回転部と前記クラッチ板とを接続させる
請求項5に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に電動工具に関し、より詳細には、モータを備える電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の電動締付機は、電動モータと、電動モータに直結されたはずみ車と、ソケットが取り付けられたドライブ軸と、はずみ車の回転をドライブ軸に伝達するクラッチと、を備えている。特許文献1に記載の電動締付機では、予めはずみ車に蓄積した回転エネルギを、クラッチを瞬時に接続することによりドライブ軸に伝える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-277272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたような電動締付機(電動工具)において、ドライブ軸(出力軸)に対してはずみ車が高速で回転している状態で、はずみ車とドライブ軸とをクラッチ(クラッチ機構)によって接続する場合に、クラッチの接続不良が発生する可能性があった。
【0005】
本開示は上記事由に鑑みてなされ、クラッチ機構の接続の信頼性を向上する電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電動工具は、モータと、出力軸と、クラッチ機構と、を備える。前記出力軸には先端工具が取り付けられる。前記クラッチ機構は、前記モータのトルクを前記出力軸に伝達する伝達状態と、前記モータのトルクを前記出力軸から遮断する遮断状態とに切り替わる。前記クラッチ機構は、前記モータの駆動軸に対して回転可能な減速回転部と、前記出力軸と結合したクラッチ板と、を有する。前記遮断状態において、前記減速回転部と前記クラッチ板とは離間しており、前記減速回転部は、前記駆動軸の第1回転数よりも低速の第2回転数で回転する。前記クラッチ機構は、前記減速回転部と前記クラッチ板とが接続することによって、前記遮断状態から前記伝達状態に切り替わる。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、クラッチ機構の接続の信頼性を向上する電動工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る電動工具の断面図である。
図2図2は、同上の電動工具の外観斜視図である。
図3図3は、同上の電動工具のブロック図である。
図4図4は、同上の電動工具が備えるクラッチ機構を前方から見た斜視図である。
図5図5は、同上の電動工具が備えるクラッチ機構を前方から見た分解斜視図である。
図6図6は、同上の電動工具が備えるクラッチ機構の後方から見た斜視図である。
図7図7は、同上の電動工具が備えるクラッチ機構の後方から見た分解斜視図である。
図8図8は、同上の電動工具が備えるクラッチ機構の遮断状態を説明するための説明図である。
図9図9は、同上の電動工具が備えるクラッチ機構の伝達状態を説明するための説明図である。
図10図10は、同上の電動工具が備えるクラッチ機構の伝達状態を説明するための説明図である。
図11図11は、同上の電動工具が備えるクラッチ機構の遮断状態における動作を説明するための説明図である。
図12図12は、同上の電動工具が備えるクラッチ機構の伝達状態における動作を説明するための説明図である。
図13図13は、変形例の電動工具のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の実施形態に係る電動工具1について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態及び変形例は、本開示の一例に過ぎず、本開示は、実施形態及び変形例に限定されない。この実施形態及び変形例以外であっても、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。図面中の各向きを示す矢印は一例であり、電動工具1の使用時の向きを規定する趣旨ではない。また、図面中の各向きを示す矢印は説明のために表記しているに過ぎず、実体を伴わない。
【0010】
(1)概要
まず、本実施形態の電動工具1の概要について、図1及び図2を参照して説明する。
【0011】
本実施形態の電動工具1は、図1に示すように、モータ2と、出力軸6と、クラッチ機構5と、を備える。
【0012】
出力軸6には、ねじ及びボルト等の締結部品を締め付けるドライバビット等の先端工具11(図2参照)が固定される。
【0013】
クラッチ機構5は、モータ2のトルクを出力軸6に伝達する伝達状態と、モータ2のトルクを出力軸6から遮断する遮断状態とに切り替わる。
【0014】
クラッチ機構5は、モータ2の駆動軸21に対して回転可能な減速回転部56と、出力軸6と結合したクラッチ板54と、を有する。
【0015】
遮断状態において、減速回転部56とクラッチ板54とは離間しており、減速回転部56は、駆動軸21の第1回転数よりも低速の第2回転数で回転する。
【0016】
クラッチ機構5は、減速回転部56とクラッチ板54とが接続することによって、遮断状態から伝達状態に切り替わる。
【0017】
ここにおいて、減速回転部56とクラッチ板54とが接続するとは、減速回転部56とクラッチ板54とが、連動して回転可能な状態で接続されること示している。減速回転部56とクラッチ板54とが直接接続してもよいし、減速回転部56とクラッチ板54との間に中間部材を介して接続してもよい。
【0018】
本実施形態の電動工具1によれば、減速回転部56が駆動軸21の第1回転数よりも低速の第2回転数で回転した状態で減速回転部56とクラッチ板54とが接続するため、減速回転部56とクラッチ板54との間で接続不良が発生する可能性を低減することができる。これにより、クラッチ機構5の接続の信頼性を向上することができる。またこれにより、減速回転部56及びクラッチ板54の摩耗及び破損を防止することができる。
【0019】
(2)詳細
(2.1)電動工具の構成
以下、本実施形態の電動工具1について詳細に説明する。
【0020】
以下の説明では、出力軸6の軸方向に沿って、図1等に示すように、モータ2側から出力軸6側への向きを前方とし、出力軸6側からモータ2側への向きを後方とする。また、前方及び後方と直交する向きに沿って、グリップ部102側から胴体部101への向きを上方とし、胴体部101側からグリップ部102側への向きを下方とする。
【0021】
電動工具1は、ドリルドライバ等の、作業者が片手で把持可能な可搬型の電動工具である。電動工具1は、図1及び図3に示すように、モータ2と、ハウジング10と、伝達機構3と、第1軸受け8と、出力軸6と、第1スイッチ13と、第2スイッチ52と、制御部7と、記憶部9を備えている。
【0022】
ハウジング10は、外部ハウジング10A及び外部ハウジング10Aの内側に配置される内部ハウジング10Bを有する。
【0023】
外部ハウジング10Aは、胴体部101と、グリップ部102と、装着部103とを有している。胴体部101の形状は、後端が有底の筒状である。
【0024】
胴体部101は、モータ2と、伝達機構3と、第1軸受け8と、を収容している。詳細には、胴体部101は、内部ハウジング10Bを収容し、伝達機構3及び第1軸受け8は内部ハウジング10Bに収容されている。
【0025】
グリップ部102は、胴体部101から下方に突出している。グリップ部102は、制御部7を収容している。
【0026】
装着部103は、グリップ部102の先端部(下端部)に設けられている。言い換えれば、胴体部101と装着部103とが、グリップ部102にて連結されている。装着部103は、電池パック14が取り外し可能に装着されるように構成されている。
【0027】
電動工具1には、充電式の電池パック14が着脱可能に取り付けられる。本実施形態の電動工具1は、電池パック14を電源として動作する。すなわち、電池パック14は、モータ2を駆動する電流を供給する電源部14Aである。電池パック14は、電動工具1の構成要素ではない。ただし、電動工具1は、電池パック14を備えていてもよい。電池パック14は、複数の二次電池(例えば、リチウムイオン電池)を直列接続して構成された組電池と、組電池を収容したケースと、を備えている。
【0028】
モータ2は電動工具1における動力源である。モータ2は、例えばブラシレスモータである。特に、本実施形態のモータ2は、同期電動機であり、より詳細には、永久磁石同期電動機(Permanent Magnet Synchronous Motor:PMSM)である。モータ2は、永久磁石を備えた回転子2Aと、3相(U相、V相、W相)分の電機子巻線を備えた固定子2Bとを備える。回転子2Aは駆動軸21を有している。モータ2は、電池パック14から供給される電力を駆動軸21のトルクに変換する。
【0029】
伝達機構3は、モータ2の前方に配置される。伝達機構3には、モータ2の駆動軸21及び出力軸6が機械的に接続されている。伝達機構3は、駆動軸21のトルクを出力軸6に伝達する。
【0030】
第1軸受け8は、胴体部101の先端部に保持され、出力軸6を回転可能に支持する。
【0031】
出力軸6の前端には、図2に示すように、取付部12が固定される。取付部12には、ドライバビット等の先端工具11が固定される。つまり、出力軸6が回転するのに伴い、取付部12に取り付けられた先端工具11が回転する。ドライバビットである先端工具11が取付部12に取り付けられている場合、先端工具11が締結部品にセットされた状態で先端工具11が回転することにより、相手部材に対して締結部品を締め付ける又は緩めるといった作業が可能となる。
【0032】
取付部12及び先端工具11は、電動工具1の構成要素ではない。ただし、電動工具1は、取付部12及び先端工具11のうち少なくとも一方を備えていてもよい。
【0033】
本実施形態の伝達機構3は、図1に示すように、慣性体4と、クラッチ機構5とを有している。
【0034】
慣性体4は、クラッチ機構5とモータ2との間に配置されている。具体的には、慣性体4は、モータ2の前方かつクラッチ機構5の後方に配置されている。慣性体4は、駆動軸21と機械的に接続されており、慣性体4は、駆動軸21と一体となって回転する。慣性体4は、いわゆるフライホイールであり、モータ2(駆動軸21)のトルクの慣性力を増加させる。また、慣性体4はモータ2の冷却用のファンとしての機能も有している。詳細には、慣性体4の後面に複数のファンブレード41が設けられており、慣性体4の回転に伴って複数のファンブレード41からモータ2に向かって冷却風が発生する。
【0035】
クラッチ機構5は、モータ2のトルクを出力軸6に伝達する伝達状態と、モータ2のトルクを出力軸6から遮断する遮断状態とに切り替わる。
【0036】
クラッチ機構5は、図1図4図7に示すように、押圧部51と、第2スイッチ52と、第2軸受け53と、クラッチ板54と、キャリア55と、減速回転部56と、太陽歯車57と、複数(例えば3つ)の遊星歯車58と、を備える。
【0037】
クラッチ板54は、出力軸6と結合した円板状部材である。具体的には、クラッチ板54の中心部に設けられた篏合孔541(図5参照)及び篏合孔541の周縁から前方に突出する円筒部542と、出力軸6とが、クラッチ板54が出力軸6の軸方向(前後方向)に沿って移動可能な状態で結合している。クラッチ板54は、第1位置と、第2位置と、の間で、前後方向に移動可能である。第1位置は、図8に示すようにクラッチ機構5が遮断状態のときのクラッチ板54の位置である。クラッチ板54が第1位置にあるとき、減速回転部56とクラッチ板54とは離間している。第2位置は、図10に示すように、クラッチ機構5が伝達状態のときのクラッチ板54の位置である。クラッチ板54が第2位置にあるとき、減速回転部56とクラッチ板54とは接続している。
【0038】
押圧部51は、図4及び図5に示すように、第2軸受け53を介して、クラッチ板54の円筒部542に固定される円板状部材である。詳細には、第2軸受け53の内輪が円筒部542の外面に固定され、押圧部51は第2軸受け53の外輪に固定されている。これにより、押圧部51とクラッチ板54との間では第2軸受け53を介して前後方向の力は伝達されるが、回転方向の力は伝達は抑制される。すなわち、出力軸6及び出力軸6と結合したクラッチ板54が回転する場合でも、押圧部51には回転方向の力の伝達が抑制される。
【0039】
押圧部51は、下方において第2スイッチ52と連結しており、第2スイッチ52の前後方向の動作と連動して、押圧部51は前後方向に移動可能である。押圧部51とクラッチ板54との間では第2軸受け53を介して前後方向の力は伝達されるため、押圧部51は、第2スイッチ52の前後方向の動作と連動して、クラッチ板54を第1位置及び第2位置との間で前後方向に移動させる。
【0040】
クラッチ板54の後面には、図7に示すように、後方に突出する例えば3つの爪部543が設けられる。3つの爪部543は、クラッチ板54が第2位置にあるときに、減速回転部56に設けられた3つの係合部561と各々係合する。
【0041】
キャリア55は、クラッチ板54の後方に配置され、出力軸6と結合した円板状部材である。具体的には、キャリア55の中心部に設けられた篏合孔551(図5等参照)と出力軸6とが篏合している。キャリア55は、出力軸6の軸方向に沿った移動が規制された状態で出力軸6と篏合している。また、キャリア55は、出力軸6に対して回転が規制された状態で出力軸6と篏合しているため、キャリア55は出力軸6と一体となって回転又は停止する。
【0042】
図5に示すように、キャリア55の前面において、篏合孔551の周囲に、前方に突出する例えば3つの突起部552が設けられている。3つの突起部552は、クラッチ板54に設けられた3つの保持孔544(図5及び図7参照)と各々篏合している。クラッチ板54は、3つの保持孔544の各々が3つの突起部552の各々と篏合した状態で、前後方向に移動可能である。3つの突起部552と3つの保持孔544とは、クラッチ板54が前後方向において移動可能な範囲におけるいずれの位置でも篏合した状態となっている。つまり、クラッチ板54は、クラッチ板54が前後方向において移動可能な範囲において、キャリア55に対して回転が規制された状態でキャリア55に保持されている。換言すると、クラッチ板54とキャリア55との間では、回転方向の力が伝達され、クラッチ板54及びキャリア55は、クラッチ板54の前後方向の位置に関わらず、常に一体となって回転又は停止する。
【0043】
減速回転部56は、図6及び図7に示すように、内面に歯車(内歯)を有する円筒形状の部材であり、所謂、内歯歯車(インターナルギア)である。減速回転部(内歯歯車)56は、図1に示すように、内部ハウジング10Bの内壁と接触しない状態で、内部ハウジング10Bに収容されている。つまり、内歯歯車56は、内部ハウジング10Bの内部で回転可能な状態で、内部ハウジング10Bに収容されている。
【0044】
内歯歯車56の前端には、図5に示すように、前方に突出する例えば3つの係合部561が設けられる。3つの係合部561は、図9及び図10に示すように、クラッチ板54が第2位置にあるときに、クラッチ板54に設けられた3つの爪部543と各々係合する。つまり、内歯歯車56に設けられた3つの係合部561とクラッチ板54に設けられた3つの爪部543とが各々係合することによって、クラッチ機構5は遮断状態から伝達状態に切り替わる。
【0045】
図1に示すように、内歯歯車56の内側には、キャリア55が、内歯歯車56の内壁に接触しない状態で収納されている。また、内歯歯車56の内側には、キャリア55の後方において3つの遊星歯車58が内歯歯車56の内歯と噛み合った状態で収容されている。
【0046】
太陽歯車57は、図1図5図7に示すように、駆動軸21に固定され、モータ2からの動力によって回転する外歯歯車である。
【0047】
3つの遊星歯車58は、図1図5図7に示すように、太陽歯車57の周囲に配置され、太陽歯車57と噛み合っている外歯歯車である。また、3つの遊星歯車58は、内歯歯車56の内側において、内歯歯車56の内歯と噛み合っている。換言すると、内歯歯車56は、3つの遊星歯車58の周囲に配置され、3つの遊星歯車58と噛み合っている。したがって、3つの遊星歯車58は、太陽歯車57と内歯歯車56との間に、太陽歯車57の外歯及び内歯歯車56の内歯と噛み合った状態で配置されている。
【0048】
3つの遊星歯車58は、太陽歯車57の周囲において、互いに等間隔となるように配置されている。
【0049】
ここで、3つの遊星歯車58は、各々の回転軸581がクラッチ板54に回転可能に支持されている。詳細には、3つの遊星歯車58の各々の回転軸581は、図5図7に示すように、クラッチ板54を保持しているキャリア55に設けられた3つの支持孔553に、軸受け等を介して支持されている。これにより、3つの遊星歯車58の各々は、回転可能な状態で、クラッチ板54に支持される。
【0050】
第1スイッチ13は、図1に示すように、グリップ部102から前方に突出している。第1スイッチ13は、作業者によるモータ2を制御するための操作を受け付ける操作部である。具体的には、作業者は、第1スイッチ13を引く操作により、モータ2のオン/オフを切替可能である。また、第1スイッチ13を引く操作の引込み量で、駆動軸21の回転速度を調整可能であり、例えば第1スイッチ13の引込み量が大きいほど、駆動軸21の回転速度が速くなる。
【0051】
第2スイッチ52は、図1に示すように、グリップ部102から前方に突出している。第2スイッチ52は、第1スイッチ13の操作後に、作業者による内歯歯車56とクラッチ板54とを結合させるための操作を受け付ける操作部である。作業者は、第2スイッチ52を引く操作によって、押圧部51を介してクラッチ板54を第1位置から第2位置に移動させ、クラッチ板54と内歯歯車56を接続させることができる。つまり、作業者は、第2スイッチ52を引く操作によって、クラッチ機構5を遮断状態から伝達状態に切り替えることができる。第2スイッチ52は、ばね機構によって前方に反発力を与えられており、作業者は、ばねの反発力に抗って第2スイッチ52を引くことによってクラッチ機構5を遮断状態から伝達状態に切り替えることができる。作業者が第2スイッチ52の引き込みを解除すると、第2スイッチ52はばねの反発力によって前方に押し戻され、クラッチ機構5は伝達状態から遮断状態に切り替わる。
【0052】
記憶部9は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等からなる。記憶部9は、制御部7が実行する制御プログラムを記憶する。また記憶部9は、締付トルクの設定値(設定トルク)等を記憶する。
【0053】
制御部7は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、制御部7の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0054】
制御部7は、図3に示すように、トルク検出部71及び駆動制御部72を有する。なお、トルク検出部71及び駆動制御部72は、必ずしも実体のある構成を示しているわけではなく、制御部7によって実現される機能を示している。
【0055】
トルク検出部71は、モータ2に流れる電流量に基づいて、出力軸6の締付トルクを検出する。
【0056】
駆動制御部72は、モータ2を制御する。駆動制御部72は、例えばベクトル制御でモータ2を制御する。駆動制御部72は、モータ2に供給する電流であるモータ電流を、トルクを発生するトルク電流(q軸電流)と磁束を発生させる励磁電流(d軸電流)とに分解し、それぞれの電流成分を独立に制御する。なお、駆動制御部72がモータ2を制御する方法は、ベクトル制御に限定されず、ベクトル制御とは異なる制御方法であってもよい。
【0057】
駆動制御部72は、トルク検出部71によって測定された締付トルクが、予め記憶部9に記憶されている設定トルクに一致するようにモータ2を制御する。例えば、トルク検出部71によって検出された締付トルクと設定トルクとの誤差が所定の許容範囲(例えば設定トルクの±20%)に収まると、駆動制御部72はモータ2を制御して駆動軸21の回転を停止させる。
【0058】
(2.2)クラッチ動作
以下に、クラッチ機構5の遮断状態と伝達状態との切り替えについて、図1図8図12を参照して詳細に説明する。
【0059】
まず、作業者は、例えば先端工具11の先端をねじ等の締結部品に接触させた状態で、第1スイッチ13を例えば最大まで引き、駆動軸21を回転させる。以下、第1スイッチ13を最大まで引いた場合の駆動軸21の回転数を第1回転数と呼ぶ。なお、第1回転数は、第1スイッチ13を最大まで引いた場合の駆動軸21の回転数に限定されず、第1スイッチ13の引き込み量に応じて変化する値であってもよい。以下の説明では、作業者は、締結部品の締結作業が完了するまで、駆動軸21を第1回転数で回転するように、第1スイッチ13を最大まで引いた状態を維持すると想定する。なお、第1スイッチ13は、作業者によって操作されていない状態でも、最大まで引かれた状態を維持する所謂オルタネイト動作を行ってもよい。この場合、作業者が一度第1スイッチ13を最大まで引けば、作業者が第1スイッチ13から手を離しても駆動軸21は第1回転数で回転を続ける。
【0060】
駆動軸21が第1回転数で回転すると、駆動軸21に固定された太陽歯車57も第1回転数で回転する。また、太陽歯車57と噛み合っている3つの遊星歯車58は、太陽歯車57が回転することによって、各々の回転軸581を中心に回転する。このとき、3つの遊星歯車58の各々の回転軸581は、回転可能な状態で、キャリア55を介してクラッチ板54に支持されている。
【0061】
ここで、クラッチ板54は図8に示すように、第1位置にあり、内歯歯車56と離間している。つまり、このときクラッチ機構5は遮断状態にある。また、クラッチ板54は第1位置にあるとき、第2スイッチ52に前方への反発力を与えるばね機構により、第2スイッチ52と結合した押圧部51を介して内部ハウジング10Bの接触面S1(図1参照)に押し当てられる。つまり、クラッチ板54は遮断状態において、内部ハウジング10Bによって回転が抑制されている。なお、クラッチ板54と内部ハウジング10Bとは互いに篏合する篏合部を有してもよく、クラッチ板54が第1位置にあるとき、クラッチ板54の篏合部と内部ハウジング10Bの篏合部とが篏合することで、クラッチ板54の回転が抑制されてもよい。
【0062】
これらにより、キャリア55を介してクラッチ板54に支持されている3つの遊星歯車58は、太陽歯車57に対する回転(公転)が抑制される。つまり、3つの遊星歯車58の各々は、太陽歯車57に対する位置が固定されたまま、回転軸581を中心として回転する。このとき、3つの遊星歯車58の周囲に配置され、3つの遊星歯車58と噛み合っている内歯歯車56は、内部ハウジング10Bの内部で回転可能な状態で内部ハウジング10Bに収容されている。図11に示すように、遮断状態において、内歯歯車56は、太陽歯車57の回転が3つの遊星歯車58の各々の回転軸581を中心とした回転によって伝達されることにより、太陽歯車57の回転方向(第1方向DR1)と逆方向(第2方向DR2)に第2回転数で回転する。ここで、本実施形態では、第1方向DR1は電動工具1を後方から見た場合の時計回りの回転方向であり、第2方向DR2は反時計回りの回転方向である。なお、第1方向DR1は反時計回りでもよく、この場合は、第2方向DR2は時計回りとなる。また、第2回転数は、太陽歯車57の歯数を内歯歯車56の歯数で除した値を第1回転数に乗じた値である。ここで、太陽歯車57の歯数は内歯歯車56の歯数よりも小さいため、第2回転数は第1回転数よりも小さい値となる。
【0063】
次に作業者は、先端工具11の先端をねじ等の締結部品に接触させた状態、かつ、第1スイッチ13を最大まで引いた状態で、第2スイッチ52を引き、クラッチ板54を前後方向に沿って第1位置(図8参照)から第2位置(図9参照)に移動させる。
【0064】
クラッチ板54が第2位置に移動すると、図9に示すように、3つの爪部543の前後方向の位置と、3つの係合部561の前後方向の位置が重なる。そして、図10に示すように、第2方向DR2に回転する3つの係合部561の各々の側面S2と、3つの爪部543の各々の側面S3とが係合する。以下、3つの係合部561の各々の側面S2と、3つの爪部543の各々の側面S3との係合によって、クラッチ機構5に発生する力について、図12等を参照して説明する。
【0065】
3つの爪部543が設けられたクラッチ板54は、伝達状態においては、内部ハウジング10Bの接触面S1から離間しているため、内部ハウジング10Bに対して回転可能な状態になっている。したがって、第2方向DR2に回転する3つの係合部561の各々の側面S2が、3つの爪部543の各々の側面S3と係合する(図10参照)と、クラッチ板54及びクラッチ板54を保持するキャリア55は第2方向DR2に回転しようとする。また、回転軸581を中心として回転可能な状態でキャリア55に支持されている3つの遊星歯車58も第2方向DR2に回転(公転)しようとする。3つの遊星歯車58が第2方向DR2に公転しようとした場合、3つの遊星歯車58の各々には、回転軸581を中心として第1方向DR1に回転(自転)しようとする力F1(図12参照)が働く。一方、3つの遊星歯車58の各々には、第1方向DR1に回転する太陽歯車57から、第2方向DR2に回転する力F2(図12参照)が働いている。力F1及び力F2はともに太陽歯車57の第1方向DR1への回転によって発生する力であるため、力F1及び力F2は拮抗し、3つの遊星歯車58の各々は、回転軸581を中心とした回転を停止する。これにより、内歯歯車56も第2方向DR2の回転を停止する。つまり、伝達状態において、内歯歯車56とクラッチ板54とが接続することによって、内歯歯車56と、クラッチ板54と、3つの遊星歯車58と、太陽歯車57と、が互いに対して回転を停止する。換言すると、伝達状態において、内歯歯車56とクラッチ板とが結合することによって、内歯歯車56と、クラッチ板54と、3つの遊星歯車58と、太陽歯車57と、が互いに固定される。内歯歯車56と、クラッチ板54と、3つの遊星歯車58と、太陽歯車57と、が互いに固定されると、内歯歯車56と、クラッチ板54と、3つの遊星歯車58と、太陽歯車57と、が一体となって、第1方向DR1に第1回転数で回転する。これにより、クラッチ板54及びキャリア55と結合している出力軸6が第1方向DR1に第1回転数で回転する。これにより、作業者は出力軸6に取り付けられた先端工具11によって締結部品の締結作業を実施することができる。
【0066】
駆動制御部72は、トルク検出部71によって測定された締付トルクと設定トルクとの誤差が所定の許容範囲(例えば設定トルクの±20%)に収まると、モータ2を制御して駆動軸21の回転を停止させる。
【0067】
(3)利点
以上説明したように、本実施形態の電動工具1において、内歯歯車56が駆動軸21の第1回転数よりも小さい第2回転数で回転した状態で、内歯歯車56に設けられた複数の係合部561とクラッチ板54に設けられた複数の爪部543が係合する。これにより、内歯歯車56が駆動軸21に対して減速されていない場合と比較して、係合部561と爪部543の係合不良が発生する可能性を低減でき、内歯歯車56とクラッチ板54との接続の信頼性を向上することができる。またこれにより、内歯歯車56及びクラッチ板54の摩耗及び破損を防止することができる。具体的には、係合部561及び爪部543の摩耗、欠け等を防止することができる。
【0068】
また、電動工具1において、クラッチ機構5が伝達状態に切り替わった後は、出力軸6はモータ2の駆動軸21と同じ第1回転数で回転する。これにより、減速機構によって出力軸6の回転が減速される(回転数が低下する)場合と比較して、締付トルクの上昇を抑制でき、締結部品の締結作業中に作業者が電動工具1から受ける反力を小さくすることができる。
【0069】
更に、作業者は駆動軸21の回転数を第1回転数に維持したまま、第2スイッチ52の操作によってクラッチ機構5を遮断状態と伝達状態とに切り替えることによって出力軸6の回転を制御することができる。これにより、複数の締結部品の締結作業を連続して行う場合等に、駆動軸21の回転数を都度ゼロから上昇させる場合と比較して、出力軸6の回転数を第1回転数まですばやく上昇させることができ、作業効率を向上させることができる。
【0070】
(4)変形例
上記実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。上記実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0071】
以下、上記実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0072】
本開示における電動工具1は、制御部7にコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における制御部7としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1又は複数の電子回路で構成される。ここでいうIC又はLSI等の集積回路は、集積の度合いによって呼び方が異なる。IC又はLSI等の集積回路は、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又はULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれる集積回路を含む。さらに、LSIの製造後にプログラムされる、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はLSI内部の接合関係の再構成若しくはLSI内部の回路区画の再構成が可能な論理デバイスも、プロセッサとして採用することができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。ここでいうコンピュータシステムは、1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを有するマイクロコントローラを含む。したがって、マイクロコントローラについても、半導体集積回路又は大規模集積回路を含む1又は複数の電子回路で構成される。
【0073】
電動工具1には、ドライバビットの代わりにソケットが先端工具11として取り付けられてもよい。さらに、電動工具1は、電池パック14を電源とする構成に限らず、交流電源(商用電源)を電源とする構成であってもよい。
【0074】
また、電動工具1は、締付トルクを測定するトルクセンサを備えていてもよい。トルクセンサは、例えば、ねじり歪みの検出が可能な磁歪式歪センサである。磁歪式歪センサは、出力軸6にトルクが加わることにより発生する歪みに応じた透磁率の変化を検出し、歪みに比例した電圧信号を出力するセンサである。電動工具1がトルクセンサを備える場合、トルク検出部71は、トルクセンサによって測定される締付トルクを検出してもよい。
【0075】
トルク検出部71は、締結部品が相手部材に着座したことを検出してもよく、駆動制御部72は、トルク検出部71が締付部材の着座を検出した場合に、モータ2への電力供給を停止してもよい。ここで、「着座」とは、締結部品の頭部座面が相手部材と接触することを示す。締結部品の頭部座面が相手部材と接触すると、先端工具11は締結部品の頭部座面と相手部材との間に発生する摩擦力に抗って回転するため、トルク検出部71が検出する締付トルクは急激に上昇する。したがって、トルク検出部71は、一例として、単位時間当たりの締付トルクの上昇量が規定値を超えたときに、締付部材の着座を検出するように構成される。トルク検出部71が締付部材の着座を検出すると、駆動制御部72はモータ2への電力供給を停止する。モータ2への電力供給が停止された後、出力軸6及び出力軸6に取り付けられた先端工具11は、慣性体4等に蓄積された運動エネルギによって回転を続け、締付部品を締め付ける。これにより、締付部品の着座後において、作業者が電動工具1から受ける反力を低減することができる。詳細には、モータ2に電力が供給されていない状態においては、モータ2の回転子2Aと固定子2Bとの間に電磁的な相互作用が発生しない。このため、出力軸6から回転子2Aに伝達される反力が固定子2Bに伝達されず、作業者が電動工具1から受ける反力を低減することができる。
【0076】
電動工具1は、図13に示すように、モータ2を制御するための操作を受け付ける第1スイッチ13と、第1スイッチ13の操作に連動して、減速回転部56とクラッチ板54とを接続させる接続機構15と、を更に備えてもよい。つまり、電動工具1は作業者によって手動で操作される第2スイッチ52に加えて、又は第2スイッチ52の代わりに、第1スイッチ13の操作に連動して、クラッチ機構5を遮断状態から伝達状態に切り替える接続機構15を備えてもよい。また、この場合に、制御部7は、接続機構15を制御する接続制御部73を更に備えてもよい。これによれば、作業者が2つのスイッチ(第1スイッチ13及び第2スイッチ52)を同時に操作する必要がないため、電動工具1の作業性を向上することができる。接続機構15は、例えばソレノイド151を含んでよい。ここで言う「ソレノイド」とは、電磁力を利用して電気エネルギを機械運動に変換する機能部品を示す。接続機構15は、一例として、第1スイッチ13が操作されてから所定時間後に、減速回転部56とクラッチ板54とを接続させる。具体的には、接続制御部73は、第1スイッチ13が操作されてから所定時間が経過すると、接続機構15に含まれるソレノイド151に電流を流し、クラッチ板54を第1位置から第2位置に移動させることによって減速回転部56とクラッチ板54とを接続させる。ここで所定時間は、例えば、駆動軸21の回転数が第1回転数に達するまでの時間であり、記憶部9に予め記憶される。これにより、減速回転部56とクラッチ板54との接続後の出力軸6の回転数が、締結部品の締結作業に不十分な値となる可能性を低減することができる。なお、接続機構15は、駆動軸21の回転数が所定値(例えば第1回転数)まで達した後に、減速回転部56とクラッチ板54とを接続させてもよい。この場合、例えば接続制御部73が、モータ2に流れるq軸電流及びd軸電流の値に基づいて駆動軸21の回転数を算出し、算出した駆動軸21の回転数に基づいて接続機構15を制御すればよい。
【0077】
(5)まとめ
以上説明したように、第1の態様の電動工具(1)は、モータ(2)と、出力軸(6)と、クラッチ機構(5)と、を備える。出力軸(6)には先端工具(11)が取り付けられる。クラッチ機構(5)は、モータ(2)のトルクを出力軸(6)に伝達する伝達状態と、モータ(2)のトルクを出力軸(6)から遮断する遮断状態とに切り替わる。クラッチ機構(5)は、モータ(2)の駆動軸(21)に対して回転可能な減速回転部(56)と、出力軸(6)と結合したクラッチ板(54)と、を有する。遮断状態において、減速回転部(56)とクラッチ板(54)とは離間しており、減速回転部(56)は、駆動軸(21)の第1回転数よりも低速の第2回転数で回転する。クラッチ機構(5)は、減速回転部(56)とクラッチ板(54)とが接続することによって、遮断状態から伝達状態に切り替わる。
【0078】
この態様によれば、減速回転部(56)が駆動軸(21)の第1回転数よりも低速の第2回転数で回転した状態で減速回転部(56)とクラッチ板(54)とが接続するため、減速回転部(56)とクラッチ板(54)との間で接続不良が発生する可能性を低減することができる。これにより、クラッチ機構(5)の接続の信頼性を向上することができる。
【0079】
第2の態様の電動工具(1)では、第1の態様において、クラッチ機構(5)は、太陽歯車(57)と、複数の遊星歯車(58)と、を更に備える。太陽歯車(57)は、駆動軸(21)に固定され、モータ(2)からの動力によって回転する。複数の遊星歯車(58)は、太陽歯車(57)の周囲に配置され、太陽歯車(57)と噛み合う。減速回転部(56)は、内歯歯車(56)である。内歯歯車(56)は、複数の遊星歯車(58)の周囲に配置され、複数の遊星歯車(58)と噛み合う。複数の遊星歯車(58)は、各々の回転軸(581)がクラッチ板(54)に回転可能に支持されている。遮断状態において、内歯歯車(56)は、太陽歯車(57)の回転が複数の遊星歯車(58)の各々の回転軸(581)を中心とした回転によって伝達されることにより、太陽歯車(57)の回転方向と逆方向に第2回転数で回転する。伝達状態において、内歯歯車(56)とクラッチ板(54)とが接続することによって、内歯歯車(56)と、クラッチ板(54)と、複数の遊星歯車(58)と、太陽歯車(57)と、が互いに固定され、内歯歯車(56)と、クラッチ板(54)と、複数の遊星歯車(58)と、太陽歯車(57)と、が一体となって、駆動軸(21)の回転方向に第1回転数で回転する。
【0080】
この態様によれば、内歯歯車(56)が駆動軸(21)の第1回転数よりも小さい第2回転数で回転した状態で内歯歯車(56)とクラッチ板(54)とが接続するため、内歯歯車(56)とクラッチ板(54)との間で接続不良が発生する可能性を低減することができる。これにより、クラッチ機構(5)の接続の信頼性を向上することができる。
【0081】
第3の態様の電動工具(1)は、第2の態様において、モータ(2)及びクラッチ機構(5)を収容するハウジング(10)を更に備える。クラッチ板(54)は、遮断状態において、ハウジング(10)によって回転が抑制されるように固定される。
【0082】
この態様によれば、遮断状態において、クラッチ板(54)に回転可能に支持されている複数の遊星歯車(58)の太陽歯車(57)に対する公転を抑制することができる。
【0083】
第4の態様の電動工具(1)は、第1~第3のいずれかの態様において、モータ(2)を制御するための操作を受け付ける第1スイッチ(13)と、第1スイッチ(13)の操作後に、減速回転部(56)とクラッチ板(54)とを接続させるための操作を受け付ける第2スイッチ(52)と、を更に備える。
【0084】
この態様によれば、第1スイッチ(13)の操作後に、作業者の任意のタイミングで、減速回転部(56)とクラッチ板(54)とを接続させることができる。
【0085】
第5の態様の電動工具(1)は、第1~第3のいずれかの態様において、モータ(2)を制御するための操作を受け付ける第1スイッチ(13)と、第1スイッチ(13)の操作に連動して、減速回転部(56)とクラッチ板(54)とを接続させる接続機構(15)と、を更に備える。
【0086】
この態様によれば、作業者が第1スイッチ(13)及び第2スイッチ(52)を同時に操作する必要がないため、電動工具(1)の作業性を向上することができる。
【0087】
第6の態様の電動工具(1)では、第5の態様において、接続機構(15)は、ソレノイド(151)を含む。
【0088】
この態様によれば、作業者が第1スイッチ(13)及び第2スイッチ(52)を同時に操作する必要がないため、電動工具(1)の作業性を向上することができる。
【0089】
第7の態様の電動工具(1)では、第5又は第6の態様において、接続機構(15)は、第1スイッチ(13)が操作されてから所定時間後に、減速回転部(56)とクラッチ板(54)とを接続させる。
【0090】
この態様によれば、減速回転部(56)とクラッチ板(54)との接続後の出力軸(6)の回転数が、締結部品の締結作業に不十分な値となる可能性を低減することができる。
【0091】
第8の態様の電動工具(1)では、第5又は第6の態様において、接続機構(15)は、モータ(2)の駆動軸(21)の回転数が所定値まで達した後に、減速回転部(56)とクラッチ板(54)とを接続させる。
【0092】
この態様によれば、減速回転部(56)とクラッチ板(54)との接続後の出力軸(6)の回転数が、締結部品の締結作業に不十分な値となる可能性を低減することができる。
【0093】
なお、第2~第8の態様は電動工具(1)に必須の構成ではなく、適宜省略が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 電動工具
2 モータ
5 クラッチ機構
6 出力軸
10 ハウジング
11 先端工具
13 第1スイッチ
15 接続機構
21 駆動軸
52 第2スイッチ
54 クラッチ板
56 減速回転部、内歯歯車
57 太陽歯車
58 遊星歯車
151 ソレノイド
581 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13