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特開2024-86501相対位置検出システム及び相対位置検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086501
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】相対位置検出システム及び相対位置検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/43 20100101AFI20240620BHJP
【FI】
G01S19/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201660
(22)【出願日】2022-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠司
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062CC07
5J062GG02
(57)【要約】
【課題】GNSS衛星からの電波を使って、誤差数cm程度の高精度位置測位を可能とする、相対位置検出システム及び相対位置検出方法を提供する。
【解決手段】本発明は、GNSS衛星から送られる搬送波位相の瞬時値を用いてアンテナ間の相対位置ベクトルを3次元空間を探索して測位する相対位置検出システム及び相対位置検出方法である。第一段階では粗い刻みで探索を行ない、第二段階では細かい精度で探索することにより高精度測位を短時間で実現する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナと、
前記複数のアンテナのそれぞれに接続され複数のGNSS衛星からの電波を受信して搬送波位相の瞬時値を検出する位相検出装置と、
前記搬送波位相の瞬時値を用いて前記複数のアンテナ間の相対位置ベクトルを測位する測位手段を備え、
前記測位手段は、
前記GNSS衛星の衛星位置を取得する衛星位置情報取得手段と、
前記搬送波位相の瞬時値及び前記GNSS衛星の衛星位置を用いて第1推定ベクトルを探索して求める第1の探索手段と、
前記搬送波位相の瞬時値、前記第1推定ベクトル及び前記GNSS衛星の衛星位置を用いて第2推定ベクトルを探索して求める第2の探索手段とを備えることを特徴とする相対位置検出システム
【請求項2】
前記第2の探索手段における第2推定ベクトルの変化刻み(Δ2)が、前記第1の探索手段における第1推定ベクトルの変化刻み(Δ1)よりも小さい値であることを特徴とする請求項1に記載の相対位置検出システム。
【請求項3】
前記第1の探索手段は、前記搬送波位相の瞬時値及び前記GNSS衛星の衛星位置に加えて前記相対位置ベクトルの初期値を用いて第1推定ベクトルを探索して求めることを特徴とする請求項1に記載の相対位置検出システム。
【請求項4】
複数のアンテナにそれぞれ接続した複数の位相検出装置を用いて複数のGNSS衛星からの電波を受信して搬送波位相の瞬時値を検出し、前記搬送波位相の瞬時値を用いてアンテナ間の相対位置ベクトルを測位する相対位置検出方法であって、
前記測位は、前記複数のGNSS衛星の衛星位置を取得する衛星位置取得工程と、
前記搬送波位相の瞬時値及び前記GNSS衛星の衛星位置を用いて第1推定ベクトルを探索して求める第1の探索工程と、
前記搬送波位相の瞬時値、前記第1推定ベクトル及び前記GNSS衛星の衛星位置を用いて第2推定ベクトルを探索して求める第2の探索工程とを備えることを特徴とする相対位置検出方法。
【請求項5】
前記第2の探索工程における第2推定ベクトルの変化刻み(Δ2)が、前記第1の探索工程における第1推定ベクトルの変化刻み(Δ1)よりも小さい値であることを特徴とする請求項4に記載の相対位置検出方法。
【請求項6】
第1の探索工程は、前記搬送波位相の瞬時値及び前記GNSS衛星の衛星位置に加えて前記相対位置ベクトルの初期値を用いて第1推定ベクトルを探索して求めることを特徴とする請求項4に記載の相対位置検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対位置検出システム及び相対位置検出方法及に関する。
【背景技術】
【0002】
地滑り等の災害が発生しそうな危険地帯においては、地盤や構造物のわずかな変位を監視するためにGPS(Global Positioning System)、またはGNSS(Global Navigation Satellite System)を用いた地盤監視システムが提案されている。ここでGPSは米国が運営する人工衛星システムを表す用語であり、GNSSは米国を含めて日本、ヨーロッパ、中国などの国々が打ち上げた人工衛星システムを表す用語である。本発明ではGNSSに統一して説明するが、本発明がGPSに適用できることは言うまでもない。
【0003】
GNSSの位置検出方法は、コード情報を検出するコード測位と、搬送波位相を検出する搬送波位相測位の2通りに大別できる。カーナビゲーションなど、広く一般的に用いられているのはコード情報を検出する方法である。GNSS衛星から送られるコード情報は約1MHzで変化するので、コード測位により数メートル~十メートル程度の精度で地球上の位置(緯度、経度及び高度)を知ることができる。
【0004】
コード測位により位置だけでなく全世界で統一された正確な時刻(GPS時刻)も検出できる。GPS時刻に閏秒補正を施せば全世界共通のUTC(Coordinated Universal Time)に変換できる。またUTCに9時間を加えれば日本標準時(JST)に変換できる。
【0005】
コード測位よりも高い位置精度が必要な場合は、より高い周波数(約1.5GHz)の搬送波位相測位を用いることにより、誤差数センチメートル以下の高精度で測位できる。搬送波位相測位としては、RTK(Real-Time-Kinematic)、あるいはキャリア位相相対測位の名称で呼ばれる方法がある。
【0006】
搬送波位相測位のシステムとして特許文献1には、複数のGNSS衛星から送出される電波の搬送波位相の瞬時値を、複数のGNSSアンテナとそれらに接続された複数のGNSS受信機で受信して所定のGPS時刻に搬送波位相の瞬時値を取得し、複数のGNSSアンテナ間の相対位置を検出する相対位置検出システムが開示されている。
【0007】
特許文献1に記載されているシステムにおいては搬送波位相の瞬時値のみを用いるので、計測装置から伝送する情報量を減らすことが可能となり、例えばLPWA(Low Power Wide Area)のように、伝送速度が低い無線通信技術を適用して携帯電話回線が圏外となるような場所においても高精度で相対位置検出を可能となる。
【0008】
しかし特許文献1のシステムでは3次元空間を探索する為に多くの演算が必要で、測位時間が長いという問題があった。例えば8立方メートル(2mx2mx2m)の3次元空間を1mmの精度で探索した場合、探索点の総数は80億点(=2000 x 2000 x 2000)と膨大な数になる。1点の探索にかかる時間が50ナノ秒であったとしても、80億点の探索には400秒と長い時間が必要である。このため探索時間を短縮することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2022-112022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明では、搬送波位相の瞬時値を用いて基線ベクトルを探索することにより、測位する際に探索にかかる時間を大幅に短縮することを可能とした相対位置検出システム及び相対位置検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]本発明の相対位置検出システムは、複数のアンテナ(2A、2B)と、前記複数のアンテナのそれぞれに接続され複数のGNSS衛星からの電波を受信して搬送波位相の瞬時値を検出する位相検出装置(3A、3B)と、前記搬送波位相の瞬時値を用いて前記複数のアンテナ間の相対位置ベクトルを測位する測位手段(4)を備え、前記測位手段は、前記GNSS衛星の衛星位置を取得する衛星位置情報取得手段(43)と、前記搬送波位相の瞬時値及び前記GNSS衛星の衛星位置を用いて第1推定ベクトルを探索して求める第1の探索手段(41)と、前記搬送波位相の瞬時値、前記第1推定ベクトル及び前記GNSS衛星の衛星位置を用いて第2推定ベクトルを探索して求める第2の探索手段(42)とを備えることを特徴とする相対位置検出システムである。
【0012】
[2]本発明の相対位置検出システムにおいて、前記第2の探索手段における第2推定ベクトルの変化刻み(Δ2)が、前記第1の探索手段における第1推定ベクトルの変化刻み(Δ1)よりも小さい値であることが好ましい。
【0013】
[3]本発明の相対位置検出システムにおいて、
前記第1の探索手段(41)は、前記搬送波位相の瞬時値及び前記GNSS衛星の衛星位置に加えて前記相対位置ベクトルの初期値を用いて第1推定ベクトルを探索して求めることが好ましい。
【0014】
[4]本発明の相対位置検出方法は、複数のアンテナにそれぞれ接続した複数の位相検出装置を用いて複数のGNSS衛星からの電波を受信して搬送波位相の瞬時値を検出し、前記搬送波位相の瞬時値を用いてアンテナ間の相対位置ベクトルを測位する相対位置検出方法であって、前記測位は、前記複数のGNSS衛星の衛星位置を取得する衛星位置取得工程(S3)と、前記搬送波位相の瞬時値及び前記GNSS衛星の衛星位置を用いて第1推定ベクトルを探索して求める第1の探索工程(S4)と、前記搬送波位相の瞬時値、前記第1推定ベクトル及び前記GNSS衛星の衛星位置を用いて第2推定ベクトルを探索して求める第2の探索工程(S5)とを備えることを特徴とする相対位置検出方法である。
【0015】
[5]本発明の位相検出方法において、前記第2の探索工程における第2推定ベクトルの変化刻み(Δ2)が、前記第1の探索工程における第1推定ベクトルの変化刻み(Δ1)よりも小さい値であることが好ましい。
【0016】
[6]本発明の位相検出方法において、第1の探索工程(S4)は、前記搬送波位相の瞬時値及び前記GNSS衛星の衛星位置に加えて前記相対位置ベクトルの初期値を用いて第1推定ベクトルを探索して求めることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の相対位置検出システム及び相対位置検出方法は、刻み値の異なる二段階の探索を実施することにより、演算回数を激減させて短時間で測位を完了させることが可能な、相対位置検出システム及び相対位置検出方法を提供する。すなわち、本発明の相対位置検出システム及び相対位置検出方法は、第一段階では粗い刻みで探索を行ない、第二段階では細かい精度で探索することにより高精度測位を短時間で実現する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の相対位置検出システム1の構成例を示す図である。
図2】相対位置検出システム1を構成する位相検出装置3の構成例を示す図である。
図3】位相検出装置3を構成する瞬時位相計算部33の構成例を示す図である。
図4】瞬時位相計算部33の内部信号波形を模式的に表した図である。
図5】測位手段4を構成する基線ベクトル探索手段41の構成例を示す図である。
図6】測位手段4を構成する基線ベクトル探索手段42の構成例を示す図である。
図7】基線ベクトル探索手段41及び基線ベクトル探索手段42を構成するEnergy演算手段9の構成例を示す図である。
図8】実施形態2における相対位置検出方法のフローチャートである。
図9】測位工程(S2)を構成する第1の探索工程(S4)のフローチャートである。
図10】測位工程(S2)を構成する第2の探索工程(S5)のフローチャートである。
図11】第1の探索工程及び第2の探索工程を構成するEnergy演算工程のフローチャートである。
図12】本発明を実施した実験結果の例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について説明する。以降では衛星番号をカッコで囲んで表記する。例えば「衛星番号n」を「(n)」として表し、「基準衛星r」を「(r)」と表記する。また2台のアンテナ及び位相検出装置をAとBと表示する。例えば位相検出装置2Aで検出されたGNSS衛星Sat1の搬送波位相の瞬時値φをφA(1)と表記する。以降では4つのGNSS衛星(Sat1~Sat4)を受信できた場合を例として説明するが、より多くのGNSS衛星からの電波を受信した場合に適用できることは言うまでもない。
【0020】
〔実施形態1〕
【0021】
図1は、本発明の実施形態1における搬送波位相を用いた相対位置検出システム1の構成例を示す図である。上空にある4つのGNSS衛星(Sat1~Sat4)からの電波が2つのアンテナ(2A及び2B)で受信され、電気信号に変換される。ここでアンテナ2Aは基準位置に設置される。2つのアンテナにはそれぞれ位相検出装置(3A及び3B)が接続される。2台の位相検出装置(3A及び3B)はコード測位と搬送波位検出を実施し、得られた情報を測位手段4に伝送する。測位手段4は後述する搬送波位相測位を実施し、アンテナ2Aからアンテナ2Bへの相対位置ベクトルP2を出力する。(以降では2つのアンテナ間の距離Rを「基線長」と呼ぶこともある。)
【0022】
2台の位相検出装置3Aと3Bはそれぞれ、コード測位によりアンテナ2Aと2Bの置かれた概略位置座標(緯度、経度及び高度)を求めて測位手段4に伝送する。コード測位では、アンテナ2Aと2Bが置かれた概略位置座標を、数メートルから数十メートルの誤差で得ることが出来る。また2台の位相検出装置3Aと3Bはそれぞれ、所定のGPS時刻で搬送波位相をサンプリングし、搬送波位相の瞬時値φAとφBを求め、測位手段4に伝送する。(以降ではこのようにして所定のGPS時刻でサンプリングした搬送波位相の瞬時値を「瞬時位相」と表記する。)
【0023】
[位相検出装置の構成]
図2は、相対位置検出システム1を構成する位相検出装置3の構成例を示す図である。複数の計測地点に設置されている位相検出装置3は、フロントエンド30、衛星信号受信部31、コード測位部32、瞬時位相計算部33及びタイミング発生手段34で構成される。このうち衛星信号受信部31、コード測位部32及び瞬時位相計算部33はいずれも衛星毎に複数個設ける。
【0024】
図2において受信アンテナ2により衛星電波を受信し、フロントエンド30は微弱信号をフィルタで抽出し増幅してから低周波数信号に変換し、複数の衛星信号受信部31に供給する。
【0025】
衛星信号受信部31は、各衛星から検出される航法メッセージ、擬似距離Pr、搬送波位相Ω、搬送波の周波数オフセットDpを出力する。このうち周波数オフセットDpは一般に、「ドップラー周波数」と呼ばれる。コード測位部32は航法メッセージと擬似距離を用いてコード測位を行い、各衛星の位置(X,Y,Z)と受信アンテナ2の概略位置座標(緯度・経度・高度)を求める。コード測位部32はまた、各衛星で受信した電波の時刻誤差εを下式1で求めて出力する。
【数1】
ここでRangeは各衛星から受信アンテナ2までの距離を表し、各衛星位置と受信アンテナ2の概略位置座標の距離差として求めることができる。Cvは光速を表し、SDは衛星時計の補正パラメータから計算される衛星時計の遅延時間である。衛星時計の補正パラメータは航法メッセージに含まれている。
【0026】
タイミング発生手段34は水晶発振器とカウンター等で構成され、位相検出装置3内部の動作クロックを供給する。動作クロック周波数が高くなると消費電力が増大するので、できるだけ低い周波数の動作クロックが望ましい。タイミング発生手段34はまた、動作クロックをカウントして装置時刻Trを出力する。装置時刻Trには、動作クロックの周期(周波数の逆数)での時刻誤差が含まれる。(動作クロックが1kHzの場合、最大で1msの誤差が含まれる)。また装置時刻Trには、各衛星からの電波がアンテナ2まで到達するに要した時間により、さらに時刻誤差が含まれる。
【0027】
そこで複数の瞬時位相計算部33は、装置時刻Trに含まれる時刻誤差の影響を補正し、所定時刻Tsにおいてサンプリングされた搬送波位相(即ち瞬時位相)に補正して出力する。
【0028】
図3は、位相検出装置3を構成する瞬時位相計算部33の構成例を示すブロック図である。補正時間検出手段331は、UTCに合致している所定時刻Ts、装置時刻Trと時刻誤差εから、下式2に従って位相補正時間δを算出して出力する。
【数2】
【0029】
以上により位相補正手段332は、下式3に従って瞬時位相φを計算することができる。
【数3】
ここで関数modは2πを法とする剰余演算である。
【0030】
図4は、瞬時位相計算部33の内部信号波形を模式的に表した図である。いまGNSS衛星から送出される搬送波が(A)に示す波形であったとすると、衛星信号受信部31内部の(図示しない)位相検出回路からは(B)に示す搬送波位相φが検出される。この搬送波位相は0~2πの範囲に畳み込まれているので、2πから0に変化する毎に2πを加えることにより、(C)に示す積算位相Ωが得られる。積算位相Ωを所定時刻Tsでサンプリングすることができれば良いが、装置時刻Trには誤差があり、所定時刻Tsには一致しない。
【0031】
そこで式3は、積算位相が傾きDpで直線変化するものと近似して積算位相Ωを補正し、所定時刻Tsにおける瞬時位相φを求めるものである。ここで直線変化ではなく、高次多項式を用いて積算位相を補正することも可能である。
【0032】
図2に示した位相検出装置3は、以上説明した瞬時位相φを測位手段4に伝送する。またコード測位部32により得られたアンテナ2の概略位置座標を測位手段4に伝送する。瞬時位相及び概略位置座標の伝送は、LPWA等の無線通信手段を用いることもできる。
【0033】
[測位手段の構成]
瞬時位相を使っての高精度測は、測位手段4で実施される。図1に示した測位手段4は基線ベクトル探索手段41、基線ベクトル探索手段42、衛星位置情報取得手段43及びシステムコントローラ45で構成される。
【0034】
システムコントローラ45はCPUなどで構成され、測位手段4の動作を司る。システムコントローラ45は、2台の位置検出装置3A及び3Bから得られた概略位置情報(緯度、経度及び高度)を地心直交座標系に変換し、2つのアンテナの相対位置を求めることにより、3次元探索の中心位置となる初期ベクトルP0を出力する。システムコントローラ45はまた、位相検出装置3Aから供給されるアンテナ2Aの概略位置情報を地心直交座標系に変換し、アンテナ2Aの3次元概略位置(A,A,A)として出力する。
【0035】
衛星位置情報取得手段43は、航法メッセージを使ってケプラー方程式を解き、各衛星の位置(X,Y,Z)を求める。ここで航法メッセージは、各衛星から速度50bpsで放送されている情報であり、市販GNSS受信機を設置して衛星電波を受信すれば入手できる。あるいは国土地理院等が公開しているインターネットサーバから航法メッセージをダウンロードすることもできる。
【0036】
基線ベクトル探索手段41は、初期ベクトルP0を原点に3次元探索を実施し、第1推定ベクトルP1を出力する。この3次元探索では、探索の刻みΔを4cmとして、おおざっぱに探索する。このようにして得られた第1推定ベクトルP1を中心にして、基線ベクトル探索手段42は刻みΔ=1mmと精度の高い第二段階の探索を行い、第2推定ベクトルP2を求め、測位結果として出力する。
【0037】
図5は、測位手段4を構成する基線ベクトル探索手段41の構成例を示す図である。基線ベクトル探索手段41は、Energy演算手段9,推定基線ベクトル探索手段411、探索刻みメモリ412、探索コントローラ413及び最小Energy検出手段415で構成される。
【0038】
探索刻みメモリ412は不揮発メモリなどで構成され、探索刻みΔとして所定値(4cm)を出力する。この探索刻みΔを最小単位として後述する3次元空間の探索が行われる。探索コントローラ413はCPU等で構成され、3次元スキャン係数(K、K、K)を所定範囲で順次変化させ、初期ベクトルP0を原点とする3次元空間を探索する。推定基線ベクトル探索手段411は、下式4の演算により推定基線ベクトルPsを出力する。
【数4】
【0039】
Energy演算手段9は、推定基線ベクトルの確からしさを示す指標としてEnergyを出力する。ここでEnergyが小さければ小さいほど、推定基線ベクトルが正しい値であると考えられる。最小Energy検出手段415は、Energyをモニターしながら、Energyを最小とした推定基線ベクトルを第1推定ベクトルP1として出力する。
【0040】
図6は、測位手段4を構成する基線ベクトル探索手段42の構成例を示す図である。基線ベクトル探索手段42は、第1推定ベクトルP1を中心として、推定基線ベクトルを刻みΔ=1mmで変化させて3次元を探索し、第2推定ベクトルP2を求め、測位結果として出力する。基線ベクトル探索手段42の構成は、探索の刻みΔ=が1mmであることと、探索中心が第1推定ベクトルP1であることを除いて、基線ベクトル探索手段41と同一である。
【0041】
図7は、基線ベクトル探索手段41及び基線ベクトル探索手段42を構成するEnergy演算手段9の構成例を示す図である。Energy演算手段9は、演算コントローラ91,二重位相差演算手段92,格子ベクトル演算手段93,理論位相差演算手段94,評価指標演算手段95及び指標合成演算手段96で構成される。
【0042】
演算コントローラ91は、基準衛星(r)と、基準衛星以外の衛星(n)を順次抽出して衛星ペア(n、r)を形成する。例えば基準衛星(r)としてSat1を選択した場合には、3つの衛星ペア(2,1)、(3,1)、(4,1)を順次抽出する。
【0043】
二重位相差演算手段92は、基準衛星(r)と、他の衛星(n)から得られた瞬時位相に対して次式5の演算により二重位相差θを演算して出力する。二重位相差を用いることにより電離層における伝搬遅延の変化等、様々な外乱を除去することができる。
【数5】
【0044】
格子ベクトル演算手段93は、アンテナ2Aの3次元概略位置(A,A,A)から衛星(n)への方向ベクトルv(n)を求め、アンテナ2Aの3次元概略位置(A,A,A)から基準衛星(r)への方向ベクトルv(r)を求め、2つの方向ベクトルの差分として下式6により格子ベクトルkを求める。
【数6】
【0045】
理論位相差演算手段94は、格子ベクトルkと推定基線ベクトルPsとの内積演算(・)により、理論二重位相差Φを下式7で求める。
【数7】
ここで関数mod()は2πを法とする剰余演算である。
【0046】
以上の処理により得られた理論二重位相差Φと、二重位相差演算手段92により実測された二重位相差θは、何れも位相情報である。そこで評価指標演算手段95は下式8のように2つの位相情報の差異を評価して評価指標Eを求める。
【数8】
【0047】
指標合成演算手段96は、下式9に示すように全ての衛星ペアに関する評価指標EをEnergyに加算してEnergyを求める。
【数9】
【0048】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2における搬送波位相を用いた相対位置検出方法の構成例を図8のフローチャートに示す。図8は、実施形態2における相対位置検出方法のフローチャートである。
【0049】
[ステップS0]
最初にステップS0において、上空にあるGNSS衛星(Sat1~SAt4)が送信する電波を2つのアンテナ(2A及び2B)で受信し、2つのアンテナにそれぞれ位相検出装置(3A及び3B)を接続し、それぞれ搬送波位相の瞬時値を検出する。
【0050】
[ステップS1]
ステップS1において探索の初期ベクトルP0をセットする。地滑り等の災害検出に用いる場合は、アンテナ2Aと2Bの設置位置がおよそ解っている。そこで2つのアンテナの位置座標を引き算することにより、初期ベクトルP0を求めることができる。あるいは位相検出装置(3A及び3B)がコード測位を実施して得られる概略位置情報の差として、初期ベクトルP0を定めることもできる。
【0051】
ステップS2において、2つのアンテナから得られた瞬時位相を使って、高精度の搬送波位相測位を実施し、アンテナ2Aからアンテナ2Bへの測位結果P2を出力する。このステップS2で実施される搬送波位相測位の詳細は、ステップS3からステップS5の3ステップで構成される。
【0052】
[ステップS3]
ステップS3において、航法メッセージを用いてケプラー方程式を解き、各衛星の位置情報(X,Y,Z)を取得する。
【0053】
[ステップS4]
ステップS4において、第1の探索工程を実施する。即ち初期ベクトルP0を中心にし、オフセットベクトルを粗い刻み(Δ=4cm)で変化させてP0に加え、3次元空間を探索し第1推定ベクトルP1を求める。
【0054】
[ステップS5]
ステップS5において、第2の探索工程を実施する。即ち第1推定ベクトルP1を中心にして、オフセットベクトルを細かい刻み(Δ=1mm)で変化させてP1に加え、3次元空間を高精度探索し、第2推定ベクトルP2を求めて測位結果とする。
【0055】
[第1の探索工程]
第1の探索工程(ステップS4)のフローチャートを図9に示す。図9は、測位工程(S2)を構成する第1の探索工程(S4)のフローチャートである。以降では8m立方の3次元空間を4cm刻みで3次元探索すること想定し、3つの係数(K、K、K)をそれぞれ ―50から+50まで101通りに変化させる例について説明する
【0056】
[ステップS40]
ステップS40において、3つのスキャン係数(K、K、K)を全て「-50」として初期化する。
【0057】
[ステップS41]
ステップS41において、初期ベクトルP0にオフセットベクトル(Δ1KX1KY1KZ)を加えて推定基線ベクトルPsとする。
【0058】
[ステップS42]
ステップS42では、このようにして得られた推定基線ベクトルに対して図11のフローチャートに記載する工程を施し、Energyを算出する。図11は、第1の探索工程及び第2の探索工程を構成するEnergy演算工程のフローチャートである。
【0059】
[ステップS43]
ステップS43では、Energyがそれまでの最小値であったか否かを判断する。最小値であった場合に処理はステップS44に遷移し、第1推定ベクトルP1=Psとして第1推定ベクトルP1を更新する。
【0060】
[ステップS45]
ステップS44では、3次元スキャン係数(K、K、K)のそれぞれが、―50から+50までの整数値を全て取り終えたかどうかを判断する。全ての値を取り終えていた場合、第1推定ベクトルP1を探索結果として処理は終了する。
【0061】
[ステップS46]
3次元スキャン係数(K、K、K)のそれぞれが―50から+50までの整数値を全て取り終えていない場合、処理はステップS46に遷移する。ステップS46では、3次元スキャン係数(K、K、K)の何れかに整数「1」を加え、あるいは初期値―50に戻すアップデートを行った後に、ステップS41に遷移して処理を続行する。
【0062】
以上述べたように第1の探索工程(ステップS4)では、3次元スキャン係数(K、K、K)のそれぞれを―50から+50まで変化させ、Energy(Ps)を最も小さくする第1推定ベクトルP1を探索して求める。この探索では、ステップS41~S46までのループを約103万回(=101の3乗回)評価することになる。
【0063】
[第2の探索工程]
第2の探索工程(ステップS5)の詳細構成例を図10のフローチャートに示す。図10は、測位工程(S2)を構成する第2の探索工程(S5)のフローチャートである。
ステップS4とステップS5の違いは、初期ベクトルと探索の変化刻みである。即ちステップS4においては、初期ベクトルP0を中心に探索していたが、ステップS4では第1推定ベクトルP1を中心とした探索となる。またステップS4では推定基線ベクトルPsの変化刻みを(Δ=4cm)と大きな値にして、8m立方の広い範囲を粗く探索した。これに対してステップS5では推定基線ベクトルPsの変化刻みを(Δ=1mm)と小さな値に設定し、5cm立方の狭い範囲を高精度(1mm)で探索して第2推定ベクトルP2を求めるように構成されている。
【0064】
初期ベクトルと探索の変化刻みが異なることを除くと、第1の探索工程(ステップS4)と第2の探索工程(ステップS5)は同一であるので、各工程の動作説明を省略する。
【0065】
第2の探索工程(ステップS5)においても、3次元スキャン係数(K、K、K)のそれぞれを―50から+50まで変化させる。従って第2の探索工程において、ステップS51、S42,S43,S45、S46と回るループを約103万回(=101の3乗回)評価することになる。
【0066】
[ステップS42の詳細]
ステップS42としてEnergyを算出する工程は、図11に記載したS421からS428の8工程で実現される。
【0067】
[ステップS421]
ステップS421において、位相検出装置3Aから供給されるアンテナ2Aの概略位置情報を地心直交座標系に変換し、アンテナ2Aの3次元概略位置(A,A,A)を求める。
【0068】
[ステップS422]
ステップS422において、基準衛星(r)と、基準衛星以外の衛星(n)を順次抽出して衛星ペア(n、r)を形成する。例えば衛星数が4つで、基準衛星としてSat1を選択した場合、3つの衛星ペア(2,1)、(3,1)、(4,1)を順次抽出する。
【0069】
[ステップS423]
ステップS423において、基準衛星(r)と、他の衛星(n)から得られた瞬時位相に対して式5の演算を実施して、二重位相差θを求める。
【0070】
[ステップS424]
ステップS424において、アンテナ2Aの3次元概略位置(A,A,A)から衛星(n)への方向ベクトルv(n)を求め、アンテナ2Aの3次元概略位置(A,A,A)から基準衛星(r)への方向ベクトルv(r)を求め、式6により格子ベクトルkを求める。
【0071】
[ステップS425]
ステップS425において、格子ベクトルkと推定基線ベクトルPsとの内積演算により、理論二重位相差Φを式7の演算により求める。
【0072】
[ステップS426]
理論二重位相差Φと実測された二重位相差θは、何れも位相情報である。そこでステップS426において、式8に示すように2つの位相情報の差異を評価し、推定相対位置ベクトルPsの正しさを表す評価指標Eを求める。
【0073】
[ステップS427]
ステップS427において、式9に示した演算により評価指標EをEnergyに加算する。
【0074】
[ステップS428]
ステップS428において、可能性のある全ての測位ペア(n,r)についてステップS422~ステップS427の演算を行ったか否かを判断する。残りがあった場合に処理はステップS422に戻り、新たな測位ペアに関する評価指標演算が行われる。全ての測位ペアに関する処理が終わった場合、Energyが得られる。
【0075】
以上説明したように本発明の相対位置検出システム及び相対位置検出方法は、3次元探索測位を、刻み値の異なる二段階の3次元探索として実施する。この結果、探索演算の繰り返し回数を激減させる。上述した例では、第一と第2の探索工程を合わせて約206万回の評価で測位解を得ることが出来る。これを従来法(一回の探索工程)で実施した場合は約8億回の評価が必要であった。本発明により絶大な演算時間削減効果が得られることが解る。
【0076】
[実験確認]
建物の屋上にアンテナ2Aと2Bを9.84m離して設置し、本発明を適用して1秒間隔で500回の測位を行った。この実験結果を図12に示す。500回の測位で基線長のバラつきは3.5cmと小さく、正しい基線長が得られたことが解る。またこの実験で、2段階の3次元探索に要した演算時間は、市販のCPU(3GHz動作のIntel社 Core-i5)を用いた場合に約100ミリ秒で完了した。この実験により、高速度演算が実現可能であることが確認された。
【0077】
以上に本発明の構成を述べたが、上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能となるものである。例えば、下記に示すような変形実施も可能である。
【0078】
上述の実施形態においては、3次元空間を探索するものとして説明した。しかし例えばアンテナ2Aが固定され、アンテナ2Bが上下方向に動かない場合には、2次元空間を探索するように簡略化して演算速度をさらに高めることも可能である。さらにアンテナ2Bの移動方向が予め解っている場合には、1次元空間を探索するように簡略化することもできる。
【0079】
上述の実施形態においては、瞬時位相の単位をラジアンとして説明した。しかし瞬時位相を定数2πで除することにより、位相の一回転を単位とすることもできる。このとき瞬時位相は0~1までの範囲で変化する。
【0080】
上述の実施形態において、基線ベクトル探索手段41はEnergyを最も小さくする第1推定ベクトルP1を探索結果として出力するものとした。しかし、例えばEnergy)を最も小さくした第1推定ベクトルPs1と、Energyを2番目に小さくした第1推定ベクトルPs2とを求め、アンテナ2Bの移動状況など他の情報を使ってPs1、Ps2のいずれかを選択して探索結果とすることもできる。
【0081】
上述の実施形態においては、衛星から送られる搬送波周波数が約1.5GHzとして説明したが、1.2GHzの搬送波を使う衛星を使うことも可能である。例えば1.5GHzと1.2GHzの2種類の搬送波に対して本発明を適用することも可能であり、さらに高精度の計測が可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12