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  • 特開-電極構造およびそれを含む装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086526
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】電極構造およびそれを含む装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20240620BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
G06F3/041 640
G06F3/044 122
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060672
(22)【出願日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】202211617437.0
(32)【優先日】2022-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】519308156
【氏名又は名称】ティーピーケイ アドバンスド ソリューションズ インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】TPK ADVANCED SOLUTIONS INC
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ジアン
(72)【発明者】
【氏名】シュウ シーチャン
(72)【発明者】
【氏名】バイ メイフェン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ ウェイチュアン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジュンフア
(72)【発明者】
【氏名】ワン ソンシン
(72)【発明者】
【氏名】シュエ フェンミン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ロンユン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジンショウ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】曲げ部の抵抗値の変化率/比が制御された電極構造及びその電極構造を含む装置を提供する。
【解決手段】電極構造10は、基板11と、基板上に配置された銀ナノワイヤ電極12とを含み、展開状態から曲げ半径RRが約2~4mmの曲げ状態に変化でき、曲げ状態において、曲げ領域BZと、曲げ領域にそれぞれ隣接する2つの非曲げ領域FZと、を含む。銀ナノワイヤ電極は、曲げ領域内の銀ナノワイヤ電極の電極部における、曲げ状態と前記展開状態との間の抵抗値の変化率が10%未満である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された銀ナノワイヤ電極とを含む電極構造であって、
前記銀ナノワイヤ電極は銀ナノワイヤと樹脂とを含み、
前記電極構造は、展開状態から曲げ半径が2~4mmの曲げ状態に変化し、
前記電極構造は、前記曲げ状態において、曲げ領域と、当該曲げ領域にそれぞれ隣接する第1の非曲げ領域および第2の非曲げ領域とを含み、
前記銀ナノワイヤ電極は、前記曲げ領域内の前記銀ナノワイヤ電極の電極部における、前記曲げ状態と前記展開状態との間の抵抗値の変化率が10%未満である、電極構造。
【請求項2】
前記銀ナノワイヤ電極は、前記曲げ領域内の前記銀ナノワイヤ電極の電極部における、前記曲げ状態と前記展開状態との間の抵抗値の変化率が2%~8%である、請求項1に記載の電極構造。
【請求項3】
前記銀ナノワイヤ電極は第1電極と第2電極とを含み、前記第1電極と前記第2電極とは前記基板の異なる側に配置され、前記第2電極が前記第1電極よりも曲げ軸に近く、前記第1電極は、曲げ半径が3mmの前記曲げ状態と前記展開状態との間の第1の抵抗値の変化率を有し、前記第2電極は、曲げ半径が3mmの前記曲げ状態と前記展開状態との間の第2の抵抗値の変化率を有し、前記第2の抵抗値の変化率が前記第1の抵抗値の変化率の1.1~2.5倍であり、前記第2の抵抗値の変化率と前記第1の抵抗値の変化率がいずれも10%未満である、請求項1または2に記載の電極構造。
【請求項4】
前記銀ナノワイヤ電極は、シート抵抗30~70opsの銀ナノワイヤペーストから作られ、50nm未満の厚みを有し、ヘイズが0.25~0.6である、請求項1または2に記載の電極構造。
【請求項5】
請求項1または2に記載の電極構造を含む装置であって、
表示要素を含むフレキシブル表示装置であり、
前記表示要素と前記電極構造との間に光学接着層が配置され、
前記表示要素は、前記曲げ領域、前記第1の非曲げ領域、および前記第2の非曲げ領域に対応して画像を表示する、装置。
【請求項6】
前記光学接着層の-30℃~60℃の温度範囲における貯蔵弾性率の平均勾配が-4.0kPa/℃~-1.5kPa/℃の範囲内である、請求項5に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極構造と、その電極構造を含む装置に関し、特に、曲げ部の抵抗値の変化率/比が制御された電極構造と、その電極構造を含む装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブルアプリケーションは、電子製品の標準仕様となりつつある。固定された形状の表示装置と比較して、フレキシブル表示装置は、折り畳み、丸め、または折り曲げて、フレキシブル表示装置の形状を変えてつぶした状態にできるため、持ち運びが容易で、ユーザの利便性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】台湾特許出願公開第2022/21400号明細書
【特許文献2】米国特許第11343911号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
顧客の使用におけるフレキシブル装置の信頼性を評価するために、動的曲げ試験が一般的に採用される。例えば、台湾特許出願公開第2022/21400号明細書(以下、TW400と言う)には、銀ナノワイヤ(SNW)電極と周辺金属トレースとを含むタッチパネルが開示されており、特定の曲率半径で周辺金属トレースに対して動的曲げ試験(例えば200K回)を行い、周辺金属トレースの全体的な抵抗値の変化を測定している。しかしながら、TW400では、曲げ領域のSNW電極の抵抗変化は測定されていない。さらに、米国特許第11343911号明細書(以下、US911と言う)には、透明導電電極を最初に曲げ、次いで、曲げた状態で固定した固定曲げ装置が開示されている。US911は、曲げ前後の透明導電電極の抵抗値の変化を開示している。しかしながら、US911では、電極の全長にわたって抵抗値が測定されている。例えば、US911の図6に示すように、5cmの電極全長の両端に測定用のコンタクトを配置して、曲げ前後の電極全長の抵抗値の変化を測定している。換言すれば、曲げ領域の電極抵抗値の変化に特化した測定はまだ行われていない。その理由は、US911では固定曲げ構造であってフレキシブル装置ではなく、ユーザは固定曲げ構造を折畳み状態と展開状態との間で切り替えることができず、両方の使用状態における曲げ領域の抵抗値の違い(または変化)はUS911にとって関係がないためである。
【0005】
フレキシブル装置は、大きく分けて外側に折り畳めるタイプと内側に折り畳めるタイプとがある。外側に折り畳めるタイプは、折畳み状態で画面を見てタッチすることができる。ユーザが曲げ領域にある画面にタッチしようとするときに、システムが正常にタッチセンシングを実行できるかどうかは、ユーザの体験に大きな影響を与える。一方、ユーザは、装置を展開状態から折畳み状態に切り替え、同時に画面タッチ(手書き、ジェスチャスライディング等)を実行する可能性がある。指が折畳み領域にスライドしたときに、タッチが正しく感知されない、または不正確なタイミングで感知された場合には、良くない体験となろう。上述のように、折畳み領域のタッチ性能はユーザ体験に非常に重要であり、折畳み領域内の部分にあるタッチ電極の抵抗値が、折畳みによって明らかに過剰な抵抗値の変化率を生成するのを防げるかどうかが重要な役割を果たす。US911はフレキシブル装置ではないが、US911に開示されている抵抗データを参照すると、曲げ領域におけるUS911の抵抗値の変化率は100%を超えると計算できる。つまり、従来技術では、曲げ領域の抵抗値の変化率が高いため、ユーザによるタッチ時に遅延および感知不良等の問題がある。
【0006】
そこで、本開示は、上記の欠点を考慮して開発された。
本開示の目的は、曲げ状態の曲げ部における抵抗値の変化率が10%未満である電極構造を提供することである。そのため、それは、電気伝導性と光学特性とのバランスに優れる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電極構造は、基板と、前記基板上に配置された銀ナノワイヤ電極とを含む電極構造であって、前記電極構造は、展開状態から曲げ半径がおおよそ2~4mmの曲げ状態に変化でき、前記電極構造は、前記曲げ状態において、曲げ領域と、当該曲げ領域にそれぞれ隣接する第1の非曲げ領域および第2の非曲げ領域とを含み、前記銀ナノワイヤ電極は、前記曲げ領域内の前記銀ナノワイヤ電極の電極部における、前記曲げ状態と前記展開状態との間の抵抗値の変化率が10%未満である、電極構造である。
【0008】
好ましくは、本開示の電極構造によれば、前記銀ナノワイヤ電極が銀ナノワイヤと樹脂とを含む。
【0009】
好ましくは、本開示の電極構造によれば、前記電極構造は、展開状態から曲げ半径が約3mmの曲げ状態に変化し、前記銀ナノワイヤ電極は、前記曲げ領域内の前記銀ナノワイヤ電極の電極部における、前記曲げ状態と前記展開状態との間の抵抗値の変化率がおおよそ2.8%~7.2%であるか、あるいは、前記電極構造は、展開状態から曲げ半径がおおよそ2~4mmの曲げ状態に変化し、前記銀ナノワイヤ電極は、前記曲げ領域内の前記銀ナノワイヤ電極の電極部における、前記曲げ状態と前記展開状態との間の抵抗値の変化率がおおよそ2.4%~7.2%である。
【0010】
好ましくは、本開示の電極構造によれば、前記電極構造は、展開状態から曲げ半径が約3mmの曲げ状態に変化し、前記銀ナノワイヤ電極は、前記曲げ領域内の前記銀ナノワイヤ電極の電極部における、前記曲げ状態と前記展開状態との間の抵抗値の変化率がおおよそ2%~8%であるか、あるいは、前記電極構造は、展開状態から曲げ半径がおおよそ2~4mmの曲げ状態に変化し、前記銀ナノワイヤ電極は、前記曲げ領域内の前記銀ナノワイヤ電極の電極部における、前記曲げ状態と前記展開状態との間の抵抗値の変化率がおおよそ2%~8%である。
【0011】
好ましくは、本開示の前記電極構造によれば、前記銀ナノワイヤ電極は第1電極と第2電極とを含み、前記第1電極と前記第2電極とは前記基板の異なる側に配置され、前記第1電極は、前記曲げ状態と前記展開状態との間の第1の抵抗値の変化率を有し、前記第2電極は、前記曲げ状態と前記展開状態との間の第2の抵抗値の変化率を有し、前記第1の抵抗値の変化率が、前記第2の抵抗値の変化率とは異なる。
【0012】
好ましくは、本開示の電極構造によれば、前記銀ナノワイヤ電極は第1電極と第2電極とを含み、前記第1電極と前記第2電極とは前記基板の異なる側に配置され、前記第2電極が前記第1電極よりも曲げ軸に近く、前記第1電極は、前記曲げ状態と前記展開状態との間の第1の抵抗値の変化率を有し、前記第2電極は、前記曲げ状態と前記展開状態との間の第2の抵抗値の変化率を有し、前記第2の抵抗値の変化率が前記第1の抵抗値の変化率よりも大きい。
【0013】
好ましくは、本開示の電極構造によれば、前記銀ナノワイヤ電極は第1電極と第2電極とを含み、前記第1電極と前記第2電極とは前記基板の異なる側に配置され、前記第2電極が前記第1電極よりも曲げ軸に近く、前記第1電極は、曲げ半径が約3mmの前記曲げ状態と前記展開状態との間の第1の抵抗値の変化率を有し、前記第2電極は、曲げ半径が約3mmの前記曲げ状態と前記展開状態との間の第2の抵抗値の変化率を有し、前記第2の抵抗値の変化率が前記第1の抵抗値の変化率のおおよそ、1.1~2.5倍または1.2~1.8倍であり、前記第2の抵抗値の変化率と前記第1の抵抗値の変化率がいずれも10%未満である。
【0014】
好ましくは、本開示の電極構造によれば、前記銀ナノワイヤ電極は、シート抵抗が15~100opsの銀ナノワイヤペーストから作られ、50nm未満の厚みを有するか、あるいは、前記銀ナノワイヤ電極は、シート抵抗が30~70opsの銀ナノワイヤペーストから作られ、50nm未満の厚みを有する。
【0015】
さらに、本開示は、上記の電極構造を含む表示装置等の装置を提供する。この装置は表示要素を含むフレキシブル表示装置であり、前記表示要素と前記電極構造との間に光学接着層が配置され、前記表示要素は、前記曲げ領域、前記第1の非曲げ領域、および前記第2の非曲げ領域に対応して画像を表示する。
【0016】
好ましくは、本開示の装置によれば、前記光学接着層の-30℃~60℃の温度範囲における貯蔵弾性率の平均勾配が-4.0kPa/℃~-1.5kPa/℃の範囲内である。
【0017】
上述のように、本開示によって提供される電極構造は、ユーザは曲げ状態での操作時に良好なタッチ体験を得ることを可能にする。そうして、本開示によって提供される曲げ状態の電極構造の電気的および光学的特性(透過率およびヘイズ等)は、すべて製品仕様の範囲内に収まる。
【0018】
本開示の目的、特徴および効果に関して当業者の理解を支援するために、以下の具体的な実施形態および添付図面を提供して、本開示を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本開示は、添付図面を参照して、その好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読むことにより、当業者に明らかとなろう。
【0020】
図1】本開示の実施形態による電極構造を示す概略図である。
【0021】
図2図1の電極構造を曲げ状態で示す断面図である。
【0022】
図3】本開示によるタッチ表示装置を示す透視図である。
【0023】
図4図3のタッチ表示装置を曲げ状態で示す透視図である。
【0024】
図5】本開示による電極構造のパターンを示す概略図である。
【0025】
図6】本開示の他の実施形態による電極構造を曲げ状態で示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の利点、特徴、および達成方法は、添付図面を参照して、本開示の例示的な実施形態を以下に詳細に説明することによって明らかになろう。ただし、本開示は、以下の例示的な実施形態に限定されるものではなく、様々な形態で実施することができることに留意されたい。
【0027】
ここで使用される用語は、特定の実施形態を説明するためにのみ使用され、本開示を限定することを意図したものではない。ここでの使用において、単数形の表現は、特に明記しない限り、複数形の表現も含む。
【0028】
加えて、図面に示されているようなある要素と他の要素との関係を説明するために、ここでは、図面内の空間的関係に応じて、「下に」、「より下に」、「より低い」、「上に」、「より高い」、「より上に」、「左側」、「右側」、「側」等の空間用語を使用できることを理解しておく必要があろう。ここでの空間用語は、図面に示されている方向に加えて、使用、操作および/または製造中の機器/装置/要素の異なる方向を含むことができる。例えば、他の要素または特徴の「下に」として記述されている要素は、図面内の機器/装置/要素を反転させた場合、それに応じて他の要素または特徴の「上に」位置されるであろう。したがって、ここで記載の用語「下」は、機器/装置/要素の空間的な関係に応じて、上と下の両方の向きを含むことができる。加えて、機器/装置/要素は、その他の方向(例えば、45°、90°、または他の方向に回転した)を向いている場合がある。つまり、ここで使用される空間的な相対用語は、それに応じて解釈されるべきである。加えて、特に明記しない限り、ここで言う厚み、幅、線径、線長等の値は固定値ではなく、近似値と見なすことができる。すなわち、「約」、「おおよそ」、または「実質的に」で表されるような誤差または範囲のマージンを含む。ここで言う厚み、幅、線径、線長等の値は、製造公差、測定誤差等を含むことができることは、当業者なら理解できよう。ここで言う値の誤差または範囲は、±20%、±10%、または±5%であることができる。
【0029】
また、ここでは、「第1」および「第2」等の用語を様々な要素を記述するために使用することができるが、これらの要素はこれらの用語によって限定されるべきではないことも理解できよう。これらの用語は、それぞれの要素を区別するためにのみ使用される。したがって、いくつかの実施形態で言及されている第1の要素は、本開示の教示を逸脱することなく、他の実施形態では第2の要素として言及できる。本明細書では、同じ参照番号は同じ要素を示す。
【0030】
図1および図2を参照する。ここで、図1は、本開示による電極構造を示す模式図であり、これは誘導性タッチのための電極構造である。図2は、図1の電極構造を曲げ状態で示す断面図である。図1を参照して、電極構造10は、電極12と、電極12を支持するために使用できる基板11とを含む。一実施形態において、電極構造10は、透明カバープレート、表示モジュール、光学フィルム、および光学接着剤等(図1には描かれていない)と共に、タッチ表示装置100を構成することができる。ここで、タッチ表示装置100は、図3および図4に示すように、同様の用途の、曲げ可能、折畳み可能、またはその他のフレキシブルな表示装置(フレキシブルディスプレイ)であることができる。
【0031】
この実施形態において、タッチ表示装置100は曲げ領域BZを含むが、本開示はそれに限定されない。本開示の他の実施形態によれば、タッチ表示装置100は、複数の折畳み領域を含むことができる。タッチ表示装置100は、表示領域DAおよび表示領域DAの外に位置する周辺領域PAとを含むことができるが、本開示のこの実施形態の電極構造10は実質的に表示領域DAに対応しており、このことはユーザが表示画面を見てタッチ操作を行うことを容易にする。
【0032】
図1および図2では、簡略化のために電極構造のみを示している。図2を参照して、本開示のこの実施形態の電極構造10は、曲げ領域BZを含む。すなわち、電極12および基板11は、曲げ領域BZ内で曲げ、逆に折り畳むことができる。図2に示すように、電極構造10は、所定方向に延びる軸FX1に沿って折り畳むことができるが、本開示のこの実施形態において、曲げ半径RRは、軸FX1の垂直方向の投影位置から基板11の下面までの距離として定義される。ここでは、この折り畳まれた状態を「折畳み状態」または「曲げ状態」と呼ぶことができる。図1は、電極構造10が広げられた様子を示す。すなわち、曲げられていない状態を「展開状態」、「非折畳み状態」、または「非曲げ状態」と呼ぶことができる。加えて、図1は、電極構造10が1つの曲げ領域BZを含むことを示しているが、本開示はこれに限定されない。すなわち、電極構造10は複数の曲げ領域BZを含むことができる。本開示のこの実施形態の電極構造10は、電子製品の動作モードに応じて複数の領域に画定でき、例えば、電極構造10は、曲げ領域BZまたは非曲げ領域FZのうちの少なくとも1つを含むことができる。図1に示すように、曲げ領域BZは、2つの非曲げ領域FZの間に設定することができる。
【0033】
他の実施形態において、タッチ表示装置は、曲げ領域BZと非曲げ領域FZとを含むことができる。本開示の電極構造10は、透明カバープレート、表示モジュール、光学フィルム、光学接着剤等(図1には描かれていない)と共に、タッチ表示装置を構成することができる。ここで、タッチ表示装置は、ローラブルタッチ表示装置であることができる。装置を巻けば、表示装置全体が1つの曲げ領域BZを形成する。
【0034】
いくつかの実施形態において、基板11は特に制限されないが、ガラス基板(曲げ可能な極薄ガラス基板等)、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、環状オレフィンポリマー(COP)基板、透明ポリイミド(CPI)基板、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板、ポリカーボネート(PC)基板、ポリエーテルサルファイド(PES)基板等であることができる。加えて、基板11は、電極を保持する機能を有することができ、必要に応じて光学機能を提供することもできる。例えば、基板11は、位相差フィルム(具体的には、1/2波長位相差フィルムまたは1/4波長位相差フィルム)、補償フィルム、偏光フィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム、またはこれらの組合せ、または、保護フィルム、防傷フィルム、防汚フィルム、またはこれらの組合せ等の他の機能性フィルム、または、上記の複数の機能を有する複合フィルムであることができる。
【0035】
具体的には、図1を参照して、電極12は基板11上に配置される。いくつかの実施形態において、電極12は基板11上に配置されたタッチ電極層を含む。いくつかの実施形態によると、タッチ電極層は、透明導電材料から形成することができ、透明導電材料としては、酸化インジウムスズ(ITO)等の金属酸化物;または金属メッシュ、銀ナノワイヤ(SNW)、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン;またはポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等の導電ポリマーから選択された材料が挙げられる。特に、タッチ電極層は、これらの材料の1つまたは複数から形成することができる。
【0036】
特に、一実施形態において、電極12は銀ナノワイヤから作られ、その方法は銀ナノワイヤを含む分散液/インクを基板11上に直接的にまたは間接的にコーティングする方法であることができる。例えば、銀ナノワイヤを、水、アルコール、ケトン、エーテル、炭化水素、または芳香族溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等)等の溶媒に混合して、コーティング材料/ペースト/インクを形成する。このコーティング材料/ペースト/インクはまた、カルボキシメチルセルロース(CMC)、2-ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、スルホン酸エステル、硫酸エステル、ジスルホン酸塩、スルホコハク酸エステル、リン酸エステル、またはフッ素含有界面活性剤等の、添加剤、界面活性剤、または結合剤を含むことができる。
【0037】
より詳細には、ここで使用される「金属ナノワイヤ」という語句は、複数の元素金属、金属合金または金属化合物(金属酸化物を含む)を含む金属ワイヤの集合体を指す総称であり、そこに含まれる金属ナノワイヤの数は、本開示の権利範囲に影響しない。加えて、1つの金属ナノワイヤの少なくとも1つの断面(すなわち、断面の直径)のサイズは、約500nm未満、好ましくは約100nm未満、より好ましくは約50nm未満である。本開示において「ワイヤ」と呼ばれる金属ナノ構造は、主に、例えばおおよそ10~100,000の高いアスペクト比を有する。より詳細には、金属ナノワイヤのアスペクト比(断面の直径に対するワイヤの長さの比率)は、約10超、好ましくは約50超、より好ましくは約100超であることができる。金属ナノワイヤは、銀、金、銅、ニッケル、または金メッキ銀を含む(ただし、これらに限定されない)任意の金属であることができる。シルク、ファイバ、チューブ等の他の用語も上記のサイズおよび高アスペクト比を有する場合、それらもまた本開示に含まれる範囲内である。コーティングに使用される分散液に含まれる銀ナノワイヤのパラメータが完全に同一ではないことを考慮すると、例えば、同じ仕様であっても異なる生産バッチで生産された銀ナノワイヤは、平均直径(ワイヤ径)、直径の標準偏差、最大/最小直径、直径の分布等が異なるか、または、平均ワイヤ長、ワイヤ長の標準偏差、最大/最小ワイヤ長、ワイヤ長の分布等が異なり得る。金属ナノワイヤの分布に関しては、米国特許出願公開第2011/0174190号明細書を参照することができ、これは本開示のこの実施形態全体の中に組み込まれる。したがって、本開示のこの実施形態において、同じ仕様の銀ナノワイヤペーストから作られた電極が、曲げ領域で異なる抵抗値の変化を有することを回避するために、曲げ領域における電極の抵抗値の変化の差異は、量産の基準および製品の受入れ基準に応じて、おおよそ、15%未満、12%未満、10%未満、または8%未満に制限する必要がある。
【0038】
好ましい実施形態において、ナノ構造の形状は異方性である(すなわちアスペクト比≠1)。異方性ナノ構造は通常、その長さに沿って長軸を持つ。例示的な異方性ナノ構造は、ナノワイヤ、すなわち、アスペクト比(ワイヤ直径に対するワイヤ長の比)が少なくとも10、より典型的には少なくとも50の固体ナノワイヤ構造を含むことができる。加えて、特定仕様のナノワイヤ群(例えば、合成および精製された製品、または、溶媒と混合されて形成されたコーティング材料/ペースト等)は、単一のサイズを持たず、あるサイズ範囲(ワイヤ長、ワイヤ径等)内のナノ構造を含む。したがって、このようなナノワイヤ群によって形成される薄膜の仕様(光学特性、電気特性、応力を受けた後のフレキシブル特性等)は、ナノワイヤ群全体の共通の効果に依存する。
【0039】
コーティングが完了した後、硬化工程によって銀ナノワイヤ層が形成される。その後、この銀ナノワイヤ層を使用して、当技術分野で公知のパターン形成方法(例えば、フォトレジストを利用したフォトリソグラフィ工程、および、レーザーまたはエッチング液を利用したエッチング工程等)によって電極12を形成することができる。
【0040】
好ましくは、一実施形態において、銀ナノワイヤ層を覆うためにポリマー層をさらに配置することができるため、このポリマー層はオーバーコート(OC)と呼ぶことができる。一実施形態において、適切なポリマーが銀ナノワイヤ層上にコーティングされ、流動状態/流動性を有するポリマーがフィラーとしての銀ナノワイヤ間に浸透できるため、ポリマー層はまたマトリックス層と呼ぶことができる一方、銀ナノワイヤはポリマー中に埋め込まれ、それによってポリマーの硬化後に銀ワイヤ/樹脂複合構造を形成できる。すなわち、この工程では、ポリマーをコーティングすることによって銀ナノワイヤ層上にポリマー層が追加される一方、銀ナノワイヤはポリマー層に埋め込まれて、複合構造を形成できる。本開示のいくつかの実施形態において、ポリマー層は絶縁材料で形成される。例えば、ポリマー層の材料は、ポリアクリレート、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリシラン、シリコーン、ポリ(シリコン-アクリル酸)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)等の非導電樹脂または他の有機材料であることができる。本開示のいくつかの実施形態において、ポリマー層は、スピンコーティング、スプレーコーティング、印刷等の方法によって形成することができる。本開示のいくつかの実施形態において、ポリマー層は、おおよそ、20nm~10mm、50nm~200nm、または30nm~100nmの厚みを有する。例えば、ポリマー層の厚みは、おおよそ、90nmまたは100nmである。上記の特定の方法は、例えば、米国特許出願公開第2019/0227650号明細書、中国特許出願公開第101292362号明細書を参照することができ、それらの全体をここに組み込むことができる。銀ナノワイヤペーストおよびポリマーコーティング材料はいずれも、Cambrios社から入手できる。特に明記しない限り、ここで参照される銀ナノワイヤ電極は、銀ワイヤ/樹脂複合構造の導電層である。いくつかの実施形態において、30ops(Ω/□)のシート抵抗を有する銀ナノワイヤ電極は、50nm未満の厚み、または10nm~50nm、20nm~40nm、または40nm~50nmの厚みを有することができる。このシート抵抗の下で、銀ナノワイヤ電極の厚みが過大(例えば50nm超)では、銀ナノワイヤ電極の光学特性(例えば、黄色度b値)が要求を満たすことが困難になる可能性があり、銀ナノワイヤ電極とその後に配置される材料層(例えば、金属材料からなる周辺領域の引出配線)との間の接触インピーダンスが高くなる可能性がある。また、銀ナノワイヤ電極の厚みが過小(例えば10nm未満)では、銀ナノワイヤ電極の抗紫外線性能が不充分となる可能性がある。
【0041】
具体的には、いくつかの実施形態によれば、電極構造10はさらに分離層または保護層を含むことができる。分離層は、銀ナノワイヤ層または銀ナノワイヤ/樹脂複合構造層の上に配置される。本開示において、「分離」という用語は、電気的分離と物理的分離の両方の側面を含む。分離層は、無機実装材料の単層または多層積層、または、無機および有機の実装材料の積層である。使用される無機実装材料は、特に制限されないが、例えば、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO)、酸窒化ケイ素(SiON)、酸化アルミニウム(AlO)、または酸化チタン(TiO)である。
【0042】
本開示の第1の実施形態による電極構造の具体的なプロセスは、以下の通りである。
【0043】
S1: 基板11を提供する。この基板は、東レ社製の厚み50μmのPET基板(製品型番:U483)である。
【0044】
S2:透明導電膜を配置する。銀ナノワイヤペースト(製品型番:G6;シート抵抗:30ops(Ω/□);ナノワイヤのアスペクト比:おおよそ450~550)とCambrios社製のポリマーコーティング材料(製品型番:OCHE)とを、ロールトゥロールコーティング(具体的には、スロットダイコーティング)によって基板11上に順次形成し、硬化させて、厚み約30nmの銀ナノワイヤ層を形成する。
【0045】
S3:タッチ電極を形成する。銀ナノワイヤ層をレーザーエッチングにより特定のパターン(例えば、図5に示す複数の軸状のタッチ電極121)を有する電極に形成して、本開示のこの実施形態の電極構造10を形成する。加えて、曲げ領域BZにおける電極の断面a-bが特定され(具体的には、点aは実質的に曲げ領域BZと左側の非曲げ領域FZとの境界/境界面に位置する。点bは実質的に図5の曲げ領域BZと右側の非曲げ領域FZとの境界/境界面に位置する。)、点cおよび点dは軸状のタッチ電極121の全長の両端であり、断面c-dの長さは約10mm、断面a-bの長さは約1mm、各軸状のタッチ電極121の幅は約10μmである。
【0046】
S4:曲げ状態のタッチ電極121の断面a-bの抵抗値(線抵抗)の変化を測定する。まず、タッチ電極の点aと点bの位置にそれぞれコンタクトを配置する。例えば、点aと点bの位置に導電銀ペーストを配置する。その後、硬化した導電銀ペーストに抵抗値測定装置のプローブを接続し、断面a-bの抵抗値を測定することができる。これにより、断面a-bと断面c-dの抵抗値とをそれぞれ、曲げ状態(ここで、本開示のこの実施形態の電極構造10は、図2に示すように、曲げ半径が3mmの条件下で180°逆に折り畳む)と非曲げ状態で測定する。
【0047】
本開示の第2の実施形態による電極構造の具体的なプロセスは、同じ仕様の銀ナノワイヤインクを用いた第1の実施形態と同様である。ただし、この銀ナノワイヤインクは、本開示の第1の実施形態で使用される銀ナノワイヤインクとは異なるバッチで製造される。
【0048】
本開示の第3の実施形態による電極構造の具体的なプロセスは、異なる製品仕様の銀ナノワイヤペーストを用いることを除いて、第1の実施形態と同様である。この実施形態において、Cambrios社製のシート抵抗70opsの製品型番G6の銀ナノワイヤペーストを用いる。硬化した銀ナノワイヤ層の厚みはおおよそ40~50nmである。
【0049】
本開示の第4の実施形態による電極構造の具体的なプロセスは、曲げ状態の条件を、曲げ半径が2mmの条件下で180°逆に折り畳む、に変更することを除いて、第3の実施形態と同様である。
【0050】
本開示の第5の実施形態による電極構造の具体的なプロセスは、曲げ状態の条件を、曲げ半径が4mmの条件下で180°逆に折り畳む、に変更することを除いて、第3の実施形態と同様である。
【0051】
本開示の第6の実施形態による電極構造の具体的なプロセスは、基板11を東レ社製の厚み125μmのPET基板(製品型番:U483)に置き換えることを除いて、第1の実施形態と同様である。
【0052】
本開示の第7の実施形態による電極構造の具体的なプロセスは、基板11を東レ社製の厚み125μmのPET基板(製品型番:U483)に置き換え、製品仕様の異なる銀ナノワイヤペーストを用いることを除いて、第1の実施形態と同様である。この実施形態において、シート抵抗が30opsであり、銀ナノワイヤのアスペクト比がおおよそ400~750である、Cambrios社製の製品型番G5の銀ナノワイヤペーストを用いる。
【0053】
本開示のこの実施形態によれば、演算要素(タッチチップ等)のために、曲げ領域BZの断面a-bにおいてタッチ電極の抵抗値が変化するため、抵抗値の過度な変化は、信号伝送の遅延を引き起こし、タッチ伝送速度の低下または不正確なタッチセンシングを招くであろう。一実施形態において、タッチ電極を外側に折り畳める電子製品(つまり、折畳み状態で、ユーザは表示画面を見てタッチすることができる)に適用するとき、曲げ領域BZの断面a-bで発生するタッチ電極の抵抗値の変化が演算要素の仕様を超えると(例えば、15%超、12%超、または10%超)、上記の問題が起こるであろう。したがって、本開示のこの実施形態は、外側に折り畳める電子製品の仕様を満足するように、演算要素の仕様を満たすことができる(例えば、曲げ領域BZの断面a-bにおけるタッチ電極の抵抗値の変化は、15%未満、12%未満、10%未満、および8%未満にすることができる。)。以下の表1は、上記の実施形態で作製された電極で実行されたタッチセンシングシミュレーションの結果を示しており、第2の実施形態の電極では、タッチセンシング不良の現象が発生している。表1に示された抵抗値の変化率はすべて正の数であるが、本開示は、抵抗値の変化率が負の数であるという側面を排除するものではない。換言すれば、抵抗値の変化率の絶対値がここに列挙された要件を満たしている限り、それは本開示の範囲内に属する。変化率または変化比の式は、(曲げ状態の抵抗(a-b)-通常状態の抵抗(a-b))/通常状態の抵抗(a-b)である。
【表1】
【0054】
第1および第2の実施形態を参照して、同じ仕様だが異なるバッチの銀ナノワイヤから作られた電極は、曲げ後の抵抗値の変化が異なることが分かる。タッチセンシングシミュレーションの伝送では、第2の実施形態の電極でタッチセンシング伝送の遅延(表1では、「△」で表される)の問題が発生した。上述のように、銀ナノワイヤペーストの各バッチの共通性能は一貫しているが、バッチ間で個々の銀ワイヤの仕様に差異がある。そのため、最終製品の検査適合性を確保するために、電極の特性に応じて仕様が定められる。
【0055】
第1および第3の実施形態を参照して、シート抵抗の高い銀ナノワイヤペーストを用いることで、より小さい抵抗値の変化率(%)を実現できるであろう。その理由は、シート抵抗の高い銀ナノワイヤペーストは、コーティング後により高い抵抗値の電極を形成するため、曲げ領域において電極によって引き起こされる抵抗値の変化が抵抗値の大きな変化率(%)につながらないためと理解できる。しかしながら、信号伝送の観点からは、抵抗値の高い電極は好ましくない。したがって、シート抵抗の高い銀ナノワイヤペーストは、より小さい抵抗値の変化率(%)を達成するのに役立つが、電極全体の信号伝送を考慮すると、本開示のこの実施形態において、シート抵抗が100ops未満、好ましくは85ops未満、または70ops未満の銀ナノワイヤペーストを用いることが推奨される。
【0056】
また、分析のために第1および第3の実施形態を取り上げると、シート抵抗の低い銀ナノワイヤペーストを用いることは、より高い抵抗値の変化率(%)につながる可能性がある。また、光学の観点から考えると、シート抵抗の低い銀ナノワイヤペーストはまた、銀ナノワイヤ成分を多く含むため、光学特性の低下(ヘイズの増加等)を引き起こす可能性がある。したがって、本開示のこの実施形態において、シート抵抗が15ops超、好ましくは20ops超、または30ops超の銀ナノワイヤペーストを用いることが推奨される。要約すると、曲げ領域BZの断面a-bのタッチ電極の抵抗値の変化が演算要素の仕様を超えないようにし、かつ良好な光学特性(1未満のヘイズ等)と信号伝送特性とを有するようにするために、シート抵抗が15~100ops、20~85ops、または30~70opsの銀ナノワイヤペーストを用いることができる。第1の実施形態において、30opsの銀ナノワイヤペーストからなる導電膜のヘイズは0.4~0.6である。第3の実施形態において、70opsの銀ナノワイヤペーストからなる導電膜のヘイズは0.25~0.3である。この実施形態の導電膜は、30~70opsの銀ナノワイヤペーストからなり、ヘイズは0.25~0.6である。
【0057】
第1および第6の実施形態を参照して、より厚い基板を採用するとき、銀ナノワイヤ電極の曲げ領域の歪みが大きくなることが理解できる。メカニカルシミュレーションシステムによると、第1および第6の実施形態の電極の歪みは、曲げ領域でそれぞれ0.56%および1.91%である。すなわち、より厚い基板を採用すると、曲げ領域での電極の歪みが大きくなり、曲げ領域での抵抗値の変化率が大きくなるであろう。歪みが曲げ領域での電極の抵抗値の変化率に正比例することを考慮すると、歪みが2.76%超であるとき、第1の実施形態の銀ワイヤを採用すると、曲げ領域での電極の抵抗値の変化率は10%を超える可能性があることが予測できる。一方、より厚い基板を採用するとき、力学理論から、応力を加えて膜層を曲げると、引張応力領域と圧縮応力領域とが形成され、それら2つの領域の間に応力ゼロの中立軸/中立面(“Mechanics of Materials”, James M. Gere et al.を参照されたい)が形成されるであろうことが分かる。したがって、説明のために第1および第6の実施形態を取り上げると、基板がより厚い場合(すなわち、第6の実施形態)、応力を加えて積層構造全体を曲げると、電極の位置が中立軸から遠くなるであろう(第1の実施形態と比較して)。その結果、第6の実施形態において、曲げ領域の電極における応力/歪みがより大きくなり、曲げ領域の抵抗値の変化率が大きくなる。上記の中立軸の観点によれば、より厚い基板を採用するとき、保護層、接着層、光学膜層等の他の膜層を銀ナノワイヤ電極上に形成して、中立軸の位置を上に移動させる、すなわち、銀ナノワイヤ電極を中立軸に近づけることで、曲げ領域の電極における応力/歪みを低減し、それによって抵抗値の変化率が10%を超えないことを達成することが考えられる。
【0058】
加えて、曲げ状態では、断面c-dの抵抗値の変化もまた、タッチセンシングの感度に影響する。第1の実施形態を例に取ると、断面c-dの抵抗値の変化はおおよそ1~5%である。変化率または変化比の式は、(曲げ状態での抵抗(c-d)-通常状態での抵抗(c-d))/通常状態での抵抗(c-d)である。
【0059】
本開示の電極構造の他の実施形態において、基板11の両側(例えば、上側と下側)にタッチ電極が配置される。例えば、図6に示すように、基板11の下側に第2電極12B(駆動電極等)が配置され、基板11の上側に第1電極12A(感知電極等)が配置されて、上述のように第1電極12Aと第2電極12Bの両方が形成されることができる。曲げ状態において、第1電極12Aと第2電極12Bの両方が、抵抗値の変化率が10%を超えないという要件を満たす必要がある。一方、第1電極12Aと第2電極12Bとでは軸FX1までの距離が異なるため、同じ曲げ状態において、第1電極12Aと第2電極12Bの歪みが異なる。したがって、同じ曲げ条件において、第1電極12Aと第2電極12Bの抵抗値の変化率が異なることが分かる。この実施形態において、第1電極12Aから軸FX1までの距離が、第2電極12Bから軸FX1までの距離よりも長い(つまり、第1電極12Aの曲げ半径がより大きい)ため、第2電極12Bはより大きい応力を受ける。そのため、第2電極12Bの抵抗値の変化率は、第1電極12Aの抵抗値の変化率よりも大きくなる(ただし、いずれも10%を超えない要件を満たす)。分析のために第1および第6の実施形態を例に取ると、曲げ半径が3mmの条件下では、第2電極12Bの抵抗値の変化率は、第1電極12Aの抵抗値の変化率に対して、おおよそ、1.1~2.5倍または1.2~1.8倍である。
【0060】
本開示の第8の実施形態において、コニカミノルタ社製の厚み25μmの環状オレフィン共重合体(COP)基板上に電極12を作製し、次いで、光学接着層を介して厚み50μmの透明ポリイミド薄膜(無色PI、CPI)を積層し、曲げ半径3mmの曲げ試験を行う。この実施形態において、CPI基板は、有機発光ダイオードディスプレイ(OLED)等の表示要素をシミュレートするために使用される。この実施形態において、電極12の抵抗値の変化率は、上述の仕様に従う。
【0061】
加えて、貯蔵弾性率および曲げ試験結果は、異なる温度での動的負荷試験により測定され、充分な安定性(つまり、温度の変化によって接着特性が大きく変化することはない)を実現し、また製品の良好な信頼性を実現できるように、光学接着層の貯蔵弾性率の平均勾配(~30℃~60℃)は-4.0kPa/℃~-1.5kPa/℃である。
【0062】
表2に示すように、本開示のこの実施形態において、様々な光学接着層が試験される。
【表2】
【0063】
これらの実施形態から分かるように、貯蔵弾性率の平均勾配の絶対値がより大きいこと(例えば、サンプル4の貯蔵弾性率の平均勾配の絶対値は、他の3つのサンプルのそれの10倍以上と見積もられる)は、-30℃~60℃における貯蔵弾性率の変動がより大きいことを示す。そのため、サンプル4は、高温(60℃等)での貯蔵弾性率が過小であり、その温度域でその材料は急速に軟化し、高い流動性(材料強度が小さく、凝集力/結晶化力が非常に小さい)を有し、工学用途には不利である。具体的には、サンプル4の高温(60℃等)での材料強度は、実際の製造プロセスに不利であり、曲げ状態において、サンプル4の材料強度が低く、応力が電極12に集中し、上述の抵抗値の変化率の要件(具体的には、12%未満または10%未満)を満たさない可能性がある。
【0064】
逆に、貯蔵弾性率の平均勾配の絶対値が1.5(-1.5の絶対値)未満のように過小である条件下では、温度範囲(-30℃~60℃)での貯蔵弾性率の変動は大きくないが、高温での材料の貯蔵弾性率が過大である。貯蔵弾性率が過大であることは、接着材料が比較的硬く、その接着力が悪く、それによって高温での曲げ試験において剥離・気泡等の現象が発生することを意味する。さらに、曲げの間に発生する剥離・気泡は、同時に電極12の損傷(すなわち、上述の抵抗値の変化率の要件が満たされない)を引き起こす可能性があり、このことは製品の信頼性の低下という問題に繋がるであろう。
【0065】
要約すると、本開示のこの実施形態において、貯蔵弾性率の平均勾配(-30℃~60℃)が-4.0kPa/℃~-1.5kPa/℃、または-3.8kPa/℃~-1.7kPa/℃である光学接着剤を使用して、透明カバープレート、表示モジュール、光学フィルム等の構成要素を接着して、タッチ表示装置を構成することができる。そうして、このタッチ表示装置は、上述の曲げ時の抵抗値の変化率の要件を満たすことができる。
【0066】
ここでは1つずつ列挙しないが、当業者が上記実施例に基づいて様々な変更および変形ができることは理解できよう。
【0067】
最後に、本開示の技術的特徴とそれらによって達成された技術的効果を以下のように要約する。
【0068】
1.本開示のこの実施形態によれば、透明電極が曲げ状態(曲げ条件は制限されない)にあるとき、曲げ領域に位置する部分の抵抗値の変化率は10%未満であり、そのため、ユーザは曲げ状態での操作時に良好なタッチ体験を得ることができる。
【0069】
2.本開示のこの実施形態によれば、透明電極が曲げ状態(曲げ半径はおおよそ2~4mm、または、おおよそ2、3、または4mm)にあるとき、曲げ領域に位置する部分の抵抗値の変化率は2%~8%または2.4%~7.2%である。そうして、この透明電極の電気的および光学的特性(透過率およびヘイズ等)は、すべて製品仕様の範囲内に収まる。
【0070】
3.本開示のこの実施形態によれば、透明電極が曲げ半径約3mmの曲げ状態にあるとき、曲げ領域に位置する部分の抵抗値の変化率は2%~8%または2.8%~7.2%である。そうして、この透明電極の電気的および光学的特性(透過率およびヘイズ等)は、すべて製品仕様の範囲内に収まる。
【0071】
本開示の実施を、上記の特定の実施形態を参照して説明した。当業者は、本開示から本開示の技術的特徴、利点および効果を容易に理解できよう。
【0072】
以上の説明は、本開示の好ましい実施形態に過ぎず、本開示の範囲を制限することを意図したものではない。本開示の趣旨から逸脱せずになされた他の同等の変更および変形は、添付の特許請求の範囲に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6