(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086544
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】張力異常検出装置、張力異常検出方法、および張力異常検出プログラム
(51)【国際特許分類】
B65H 63/02 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
B65H63/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104891
(22)【出願日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2022201332
(32)【優先日】2022-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185719
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100150072
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 賢司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 貴明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一登
【テーマコード(参考)】
3F115
【Fターム(参考)】
3F115BA03
3F115CA21
3F115CA22
3F115CB08
3F115CC17
3F115CC22
3F115CD05
3F115CF39
3F115CF40
(57)【要約】
【課題】糸巻取機が巻き取る糸の張力に関する様々な異常を簡単な方法で精度良く検出可能な張力異常検出装置を提供する。
【解決手段】張力異常検出装置は、制御装置と、糸巻取機に巻き取られる糸の張力を検出するための張力センサとを備える。制御装置は、正常な張力波形を圧縮した後に当該正常な張力波形を復元するように学習された自己符号化器を取得する処理と、張力センサから得られる入力張力波形と、当該入力張力波形を自己符号化器に入力することで得られる出力張力波形との類似度に基づいて、糸巻取機に巻き取られる糸の張力の異常を検出する処理を実行する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置と、
糸巻取機に巻き取られる糸の張力を検出するための張力センサとを備え、
前記制御装置は、
正常な張力波形を圧縮した後に当該正常な張力波形を復元するように学習された自己符号化器を取得する処理と、
前記張力センサから得られる入力張力波形と、当該入力張力波形を前記自己符号化器に入力することで得られる出力張力波形との類似度に基づいて、前記糸巻取機に巻き取られる糸の張力の異常を検出する処理を実行する、張力異常検出装置。
【請求項2】
前記制御装置は、さらに、正常な張力波形を用いて前記自己符号化器を生成する学習する処理を実行する、請求項1に記載の張力異常検出装置。
【請求項3】
前記糸巻取機は、糸をトラバースしながらボビンに巻き取り、
前記張力センサは、糸のトラバースに応じて当該糸に断続的に接触して張力を検出するように構成されている、請求項1または2に記載の張力異常検出装置。
【請求項4】
前記検出する処理では、
前記類似度が予め定められた閾値以上である場合に張力の異常が検出され、
前記類似度が前記予め定められた閾値未満である場合に張力の正常が検出される、請求項1~3のいずれか1項に記載の張力異常検出装置。
【請求項5】
前記張力異常検出装置は、さらに、表示部を備え、
前記制御装置は、さらに、前記類似度の時間変化を示すグラフを作成して前記表示部に表示する処理を実行する、請求項1~4のいずれか1項に記載の張力異常検出装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記糸巻取機が糸を巻き取っている間に前記検出する処理を実行する、請求項1~5のいずれか1項に記載の張力異常検出装置。
【請求項7】
前記制御装置は、さらに、
張力波形の入力を受けて、前記異常の種別を出力するように学習された推定モデルを取得する処理と、
前記検出する処理で張力の異常が検出された場合に、前記入力張力波形と、前記推定モデルとに基づいて、前記異常の種別を判別する処理とを実行する、請求項1~6のいずれか1項に記載の張力異常検出装置。
【請求項8】
張力異常検出装置によって実行される張力異常検出方法であって、
前記張力異常検出装置は、糸巻取機に巻き取られる糸の張力を検出するための張力センサを備え、
前記張力異常検出方法は、
正常な張力波形を圧縮した後に当該正常な張力波形を復元するように学習された自己符号化器を取得するステップと、
前記張力センサから得られる入力張力波形と、当該入力張力波形を前記自己符号化器に入力することで得られる出力張力波形との類似度に基づいて、前記糸巻取機に巻き取られる糸の張力の異常を検出するステップを備える、張力異常検出方法。
【請求項9】
張力異常検出装置によって実行される張力異常検出プログラムであって、
前記張力異常検出装置は、糸巻取機に巻き取られる糸の張力を検出するための張力センサを備え、
前記張力異常検出プログラムは、前記張力異常検出装置に、
正常な張力波形を圧縮した後に当該正常な張力波形を復元するように学習された自己符号化器を取得するステップと、
前記張力センサから得られる入力張力波形と、当該入力張力波形を前記自己符号化器に入力することで得られる出力張力波形との類似度に基づいて、前記糸巻取機に巻き取られる糸の張力の異常を検出するステップを実行させる、張力異常検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、張力異常検出装置、張力異常検出方法、および張力異常検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、紡糸装置から紡出された糸を巻取装置を用いて巻き取る工程における異常を検出する方法を開示する。糸経路には、張力測定手段が設けられている。張力測定手段は、糸の張力を測定し、所定のサンプリング期間の張力の平均値と張力の標準偏差を求める。特許文献1の方法では、求められた張力の平均値と、それに対する上限閾値及び下限閾値と、を比較し、更に、求められた張力の標準偏差と、それに対する上限閾値と、を比較することで異常の有無を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、張力の平均値と張力の標準偏差とに基づいて画一的に異常が検出される。しかし、張力の異常には様々なパターンがあるため、張力の平均値と張力の標準偏差だけに基づいて、様々な張力の異常を精度良く検出することは容易ではない。
【0005】
本開示は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、糸巻取機が巻き取る糸の張力に関する様々な異常を精度良く検出可能な張力異常検出装置、張力異常検出方法、および張力異常検出プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例では、張力異常検出装置が提供される。上記張力異常検出装置は、制御装置と、糸巻取機に巻き取られる糸の張力を検出するための張力センサとを備える。上記制御装置は、正常な張力波形を圧縮した後に当該正常な張力波形を復元するように学習された自己符号化器を取得する処理と、上記張力センサから得られる入力張力波形と、当該入力張力波形を上記自己符号化器に入力することで得られる出力張力波形との類似度に基づいて、上記糸巻取機に巻き取られる糸の張力の異常を検出する処理を実行する。
【0007】
この張力異常検出装置においては、張力が正常の張力波形に基づいて学習された自己符号化器が糸の張力の異常を検出するために用いられる。そのため、正常な張力から逸脱する様々な異常が検出され得る。たとえば、張力の大きさや変化の程度だけでは検出できない異常が検出される。
【0008】
本開示の一例では、上記制御装置は、さらに、正常な張力波形を用いて上記自己符号化器を生成する学習する処理を実行する。
【0009】
これにより、学習処理が張力異常検出装置で実行される。張力異常検出装置が学習機能を備えることで、張力異常検出装置は、自己符号化器を自装置で生成することができる。
【0010】
本開示の一例では、上記糸巻取機は、糸をトラバースしながらボビンに巻き取り、上記張力センサは、糸のトラバースに応じて当該糸に断続的に接触して張力を検出するように構成されている。
【0011】
これにより、糸に断続的に接触する張力センサが検出するデータには、張力の最大値だけでなく、張力が時間に応じてどのように変化するかを示す変化傾向が含まれる。これにより、張力波形に多数の特徴が含まれることになるため、糸の張力の異常度を精度良く検出するための自己符号化器が生成される。
【0012】
本開示の一例では、上記検出する処理では、上記類似度が予め定められた閾値以上である場合に張力の異常が検出される。上記類似度が上記予め定められた閾値未満である場合に張力の正常が検出される。
【0013】
これにより、張力異常検出装置は、閾値に応じて張力異常を検出することができる。
【0014】
本開示の一例では、上記張力異常検出装置は、さらに、表示部を備える。上記制御装置は、さらに、上記類似度の時間変化を示すグラフを作成して上記表示部に表示する処理を実行する。
【0015】
これにより、例えば管理者又はオペレータは、張力の異常度を直感的に把握することができる。
【0016】
本開示の一例では、上記制御装置は、上記糸巻取機が糸を巻き取っている間に上記検出する処理を実行する。
【0017】
これにより、張力異常検出装置は、張力の異常度をリアルタイム又はそれに近いタイミングで検出できる。そのため、管理者又はオペレータは、張力が異常である場合に、巻取りを中断する等の処理を行うこともできる。
【0018】
本開示の一例では、上記制御装置は、さらに、張力波形の入力を受けて、上記異常の種別を出力するように学習された推定モデルを取得する処理と、上記検出する処理で張力の異常が検出された場合に、上記入力張力波形と、上記推定モデルとに基づいて、上記異常の種別を判別する処理とを実行する。
【0019】
これにより、張力異常検出装置は、張力異常が発生していることを検出するだけでなく、発生している張力異常の種別を判別することができる。
【0020】
本開示の他の例では、張力異常検出装置によって実行される張力異常検出方法が提供される。上記張力異常検出装置は、糸巻取機に巻き取られる糸の張力を検出するための張力センサを備える。上記張力異常検出方法は、正常な張力波形を圧縮した後に当該正常な張力波形を復元するように学習された自己符号化器を取得するステップと、上記張力センサから得られる入力張力波形と、当該入力張力波形を上記自己符号化器に入力することで得られる出力張力波形との類似度に基づいて、上記糸巻取機に巻き取られる糸の張力の異常を検出するステップを備える。
【0021】
この張力異常検出方法においては、張力が正常の張力波形に基づいて学習された自己符号化器が糸の張力の異常を検出するために用いられる。そのため、正常な張力から逸脱する様々な異常が検出され得る。たとえば、張力の大きさや変化の程度だけでは検出できない異常が検出される。
【0022】
本開示の他の例では、張力異常検出装置によって実行される張力異常検出プログラムが提供される。上記張力異常検出装置は、糸巻取機に巻き取られる糸の張力を検出するための張力センサを備える。上記張力異常検出プログラムは、上記張力異常検出装置に、正常な張力波形を圧縮した後に当該正常な張力波形を復元するように学習された自己符号化器を取得するステップと、上記張力センサから得られる入力張力波形と、当該入力張力波形を上記自己符号化器に入力することで得られる出力張力波形との類似度に基づいて、上記糸巻取機に巻き取られる糸の張力の異常を検出するステップを実行させる。
【0023】
この張力異常検出プログラムにおいては、張力が正常の張力波形に基づいて学習された自己符号化器が糸の張力の異常を検出するために用いられる。そのため、正常な張力から逸脱する様々な異常が検出され得る。たとえば、張力の大きさや変化の程度だけでは検出できない異常が検出される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一実施形態に係る糸巻取機の正面図を示す図である。
【
図4】変換モデルを用いて、入力張力波形から出力張力波形を得る方法を示す図である。
【
図5】張力異常がない場合の入力張力波形、出力張力波形、及びスコアをグラフで示す図である。
【
図6】張力異常がある場合の入力張力波形、出力張力波形、及びスコアをグラフで示す図である。
【
図7】張力異常があるか否かを判定するフローチャートを示す図である。
【
図8】張力異常があるか否かをオペレータに判定させるための処理を示すフローチャートを示す図である。
【
図9】制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図10】学習用データセットの一例を示す図である。
【
図11】制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図12】学習部による学習処理を概念的に示す図である。
【
図13】検出部による異常検出処理を概念的に示す図である。
【
図14】異常検出システムの装置構成の一例を示す図である。
【
図15】学習用データセットの一例を示す図である。
【
図16】制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図17】学習部による学習処理を概念的に示す図である。
【
図18】判別部による異常種別の判別処理を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明に従う各実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。なお、以下で説明される各実施の形態および各変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0026】
<A.糸巻取機1>
次に、図面を参照して本開示の実施形態を説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る糸巻取機1の正面図である。
図2は、糸巻取機1の側面図である。
図3は、糸巻取機1のブロック図である。以下の説明では、糸の走行方向の上流又は下流を単に上流又は下流と称することがある。
【0027】
図1に示す糸巻取機1の上流には、図略の紡糸機が配置されている。紡糸機は、糸93を製造して糸巻取機1に供給する。糸巻取機1は、糸93をボビン91に巻き取ってパッケージ94を製造する。
図1に示すように、上側の巻取位置にあるボビン91には、糸93が巻き取られて糸層が形成されパッケージ94が形成されている。一方、下側の待機位置にあるボビン91には、糸93が巻き取られていない。
【0028】
糸93は、ナイロン又はポリエステル等の伸縮性に優れた合繊糸である。更に詳細には、糸93は、例えばFDY(Fully Draw Yarn)又はPOY(Partially Oriented Yarn)である。ただし、糸93の種類はこれらに限定されず、上述した種類以外の糸に対しても、後述の張力異常検出装置10を適用可能である。
【0029】
また、
図2に示すように、本実施形態では、紡糸機から糸巻取機1には、糸送りローラ100から、第1ボビンホルダ41(第2ボビンホルダ42)の軸方向に並ぶ複数の糸93が供給される。また、ボビン91は、第1ボビンホルダ41(第2ボビンホルダ42)の軸方向に並べて複数設けられている。糸巻取機1は、複数の糸93をそれぞれボビン91に巻き取って、複数のパッケージ94を製造する。
【0030】
以下、糸巻取機1の詳細について説明する。
図1に示すように、糸巻取機1は、フレーム11と、支点ガイド12と、第1ハウジング20と、第2ハウジング30と、ターレット板(ボビンホルダ移動機構)40と、を備える。
【0031】
フレーム11は、糸巻取機1が備える各部を保持する部材である。フレーム11には、第1ハウジング20及び第2ハウジング30が取り付けられている。第1ハウジング20及び第2ハウジング30は、フレーム11に対して昇降可能である。
【0032】
支点ガイド12は、フレーム11に配置されている。支点ガイド12は、紡糸機から糸巻取機1に供給される糸93をガイドする。詳細には、支点ガイド12は糸93に接触する壁部を有しており、糸93が糸道から外れないように糸93の位置を規制する。
【0033】
第1ハウジング20には、トラバース装置21が取り付けられている。トラバース装置21は、後述するトラバースガイド23が糸93と係合した状態で後述する第1ボビンホルダ41の軸方向に沿って、パッケージ94の巻幅に往復動することにより、下流側に送られる糸93をトラバースさせる。この糸93のトラバース動作によりボビン91又はパッケージ94に糸層が形成される。
図3に示すように、トラバース装置21は、トラバースカム22と、トラバースガイド23と、を備える。
【0034】
トラバースカム22は、ボビン91又はパッケージ94と平行に配置されたローラ状の部材である。トラバースカム22の外周面には、螺旋状のカム溝が形成されている。トラバースカム22は、トラバースモータ51により回転駆動される。
【0035】
トラバースモータ51は、後述する制御装置50によって制御される。トラバースガイド23は、糸93と係合する部分である。トラバースガイド23の先端は例えば略U字状のガイド部を有しており、糸93を巻幅方向で挟み込むようにして、糸93と係合する。トラバースガイド23の基端はトラバースカム22のカム溝に位置している。この構成により、トラバースカム22を回転駆動することで、支点ガイド12を支点として、トラバースガイド23を巻幅方向に往復動させることができる。
【0036】
第2ハウジング30には、接触ローラ31が回転可能に取り付けられている。接触ローラ31は、糸93の巻取り時にパッケージ94の糸層に所定の圧力で接触しながら従動回転することにより、トラバースガイド23からの糸93をパッケージ94の糸層に送るとともにパッケージ94の糸層形状を整える。なお、モータ等の駆動部を用いて接触ローラ31を回転駆動してもよい。
【0037】
第2ハウジング30には、操作パネル32が設けられている。操作パネル32は、オペレータによって操作される装置である。オペレータは、操作パネル32を操作することにより、糸巻取機1に対して指示を行う。オペレータが行う指示としては、例えば、巻取りの開始、巻取りの停止、巻取条件の変更等である。
【0038】
紡糸機からトラバース装置21に向かう糸道上には、張力センサ13が設けられている。詳細には、張力センサ13は、糸93の走行方向において支点ガイド12の下流であってトラバース装置21の上流に設けられている。従って、張力センサ13は、トラバース装置21によって往復動する糸93の張力を検出する。張力センサ13は、図略の一対のアーム部を備える。一方のアーム部は、トラバースの一端において糸93と接触する。他方のアーム部は、トラバースの他端において糸93と接触する。つまり、張力センサ13は、トラバースされる糸93と断続的に接触する。また、アーム部には、歪みゲージが設けられており、歪みゲージが検出したアーム部の歪みは、糸93の張力と相関性がある。従って、歪みゲージが出力する信号に基づいて、糸93の張力を求めることができる。張力センサ13が検出した張力の値を示す信号は、後述する制御装置50に出力される。また、張力センサ13が出力する信号には、時間の経過に応じた張力の変化を示す張力波形が含まれる。
【0039】
なお、上述した張力センサ13は一例であり、本実施形態とは異なる構成の張力センサ13を用いてもよい。例えば、張力センサ13は、糸93に断続的に接触する構成に限られず、糸93に連続的に接触する構成であってもよい。また、張力センサ13は、歪みゲージに代えて、バネ又は圧電素子を用いて張力を検出してもよい。
【0040】
図3に示すように、糸巻取機1は、表示部14を備える。表示部14は、情報を表示可能なディスプレイである。表示部14は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイである。表示部14は、後述する制御装置50が出力した画像を画面に表示する。
【0041】
ターレット板40は、円板状の部材である。ターレット板40は、フレーム11に回転可能に取り付けられている。ターレット板40は、円板の中心を通る法線を回転軸として回転可能である。ターレット板40は、
図3に示すターレットモータ53により回転駆動される。ターレットモータ53は、後述する制御装置50により制御される。
【0042】
ターレット板40のうち、円板の中心を挟んで対向する2箇所には、それぞれ第1ボビンホルダ41と第2ボビンホルダ42が設けられている。第1ボビンホルダ41には、第1ボビンホルダ41の軸方向に並べて複数のボビン91を装着可能である。第2ボビンホルダ42には、第2ボビンホルダ42の軸方向に並べて複数のボビン91を装着可能である。ターレット板40を回転させることにより、第1ボビンホルダ41と第2ボビンホルダ42の位置を変更することができる。なお、第1ボビンホルダ41と第2ボビンホルダ42の位置を変更可能であれば、ターレット板40に代えて別の装置を用いてもよい。
【0043】
第1ボビンホルダ41は、第1ボビンホルダ41の軸位置を回転中心として、ターレット板40に対して回転可能である。第1ボビンホルダ41は、
図3に示す第1ボビンホルダモータ54により回転駆動される。同様に、第2ボビンホルダ42は、第2ボビンホルダ42の軸位置を回転中心として、ターレット板40に対して回転可能である。第2ボビンホルダ42は、
図3に示す第2ボビンホルダモータ55により回転駆動される。第1ボビンホルダモータ54及び第2ボビンホルダモータ55は、後述する制御装置50により制御される。
【0044】
以下では、第1ボビンホルダ41と第2ボビンホルダ42をまとめて、ボビンホルダ41,42と称する。
図1では、ボビンホルダ41,42が上下に並んだ状態が示されている。このとき、高い方にあるボビンホルダ41,42の位置が巻取位置であり、低い方にあるボビンホルダ41,42の位置が待機位置である。糸巻取機1は、巻取位置にあるボビンホルダ41,42のボビン91に対して糸93を巻き取ってパッケージ94を製造する。
【0045】
また、所定量の糸93を巻き取って、第1ボビンホルダ41のパッケージ94が満巻となった場合、ターレット板40が回転することにより、第1ボビンホルダ41と第2ボビンホルダ42の位置が切り替わる。その後、満巻となって待機位置にある第1ボビンホルダ41のパッケージ94が回収され、巻取位置にある第2ボビンホルダ42のボビン91に対して糸93が巻き取られる。パッケージ94が回収された第1ボビンホルダ41には、新たにボビン91が装着される。
【0046】
制御装置50は、制御部50aと、学習部50bと、検出部50cと、記憶部50dと、を備える。具体的に説明すると、制御装置50は公知のコンピュータとして構成されており、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、SSD(Solid State Drive)等を備える。CPUは、プロセッサの一種である。SSDには、糸巻取機1を制御するためのプログラム及びデータが予め記憶されている。また、SSDには、張力センサ13から入力された張力が時系列で記憶されている。CPUがプログラムをRAMに読み出して実行することにより、制御装置50を、制御部50a、学習部50b、及び検出部50cとして動作させることができる。また、SSDは記憶部50dに相当する。なお、SSDに代えて、HDD(Hard Disk Drive)又はフラッシュメモリを用いてもよい。あるいは、制御装置50の外部に設けられ、制御装置50と通信可能なストレージを記憶部として用いてもよい。
【0047】
制御部50aは、制御装置50が行う制御の全般を司る。制御部50aは、外部から制御装置50に入力されたデータ、又は、記憶部50dに記憶されているデータを処理する。制御部50aは、この処理により得られたデータを記憶部50dに記憶するか、制御装置50の外部に出力する。学習部50bは、機械学習を用いて変換モデルを構築する処理を行う。学習部50bが構築する変換モデルの詳細は後述する。検出部50cは、制御装置50に外部から入力されたデータと、学習部50bが構築して記憶部50dに記憶された変換モデルと、に基づいて、異常を検出する検出処理を行う。記憶部50dは、制御部50aの処理に応じてデータを記憶する。
【0048】
図3には、張力異常検出装置10が示されている。張力異常検出装置10は、糸巻取機1が巻き取る糸93の張力の異常度を検出する。張力異常検出装置10は、制御装置50と、張力センサ13と、表示部14と、を備える。制御装置50は、張力異常検出装置10を構成する部分として、以下の処理を行う。
【0049】
即ち、制御部50aは、データを学習部50b及び検出部50cに出力して、処理を行わせる。制御部50aは、学習部50b及び検出部50cが処理を行うことで得られたデータを記憶部50dに記憶させる。また、制御部50aは、張力センサ13が検出した張力波形を記憶部50dに記憶させる。なお、制御部50aの制御対象としては、更に、トラバースモータ51、ターレットモータ53、第1ボビンホルダモータ54、及び第2ボビンホルダモータ55が挙げられる。学習部50bは、記憶部50dに記憶された張力波形又は張力センサ13から入力された張力の検出値に基づく張力波形に基づいて機械学習を行って変換モデルを構築する。検出部50cは、制御装置50に外部から入力されたデータ(具体的には張力センサ13が検出した張力)と、学習部50bが構築して記憶部50dに記憶された変換モデルと、に基づいて、糸巻取機1が巻き取る糸93の張力の異常度を検出し、異常か否かを判定する。検出部50cの処理により得られた判定結果は、制御部50aにより、外部に出力されたり、記憶部50dに記憶されたりする。記憶部50dは、上述したように、制御部50a、学習部50b、及び検出部50cの処理により得られたデータを記憶する。
【0050】
変換モデルは自己符号化器であり、学習部50bが以下の機械学習を行うことで構築される。初めに、オペレータ又は管理者は、学習部50bに対して、機械学習の開始を指示する。学習部50bは、この指示を受けて、張力センサ13に張力の検出値を要求する。張力センサ13は、張力の検出値を学習部50bに出力する。学習部50bは、張力センサ13から入力された張力の検出値をバッファリングする。学習部50bが張力の検出値を取得してバッファリングする処理は繰り返し行われる。その後、学習部50bは、バッファリングした張力の検出値を機械学習して変換モデルを構築する。なお、学習部50bの要求に基づいて張力センサ13が出力した張力の検出値を記憶部50dに記憶しておき、記憶部50dの記憶内容に基づいて学習部50bが機械学習を行って変換モデルを構築してもよい。学習部50bが構築した変換モデルは記憶部50dに記憶され、検出部50cに設定される。これにより、機械学習が完了する。
【0051】
本実施形態の張力センサ13は断続的に糸93に接触する構成であるため、張力波形は、三角波状である。また、変換モデルを作成するための学習用データは、張力が正常の張力波形である。変換モデルの作成には、張力が正常の張力波形のみを用い、張力が異常の張力波形は用いない。一般的に張力の異常が発生する頻度は低いため、張力が正常の張力波形を準備することは容易である。
【0052】
変換モデルは、多層ニューラルネットワークにおいて、入力層、中間層、及び出力層に上記の学習用データを用いて教師なし学習をさせることで構築される。ここで行われる学習は深層学習であり、学習によって特徴量が特定されるため、特徴量の入力は不要である。この学習を行うことにより構築される変換モデルに対して、張力が正常の張力波形を設定することで、張力波形に含まれる重要な特徴量が抽出されて中間層(隠れ層)に圧縮され、その後に、特徴量に基づいて復元された張力波形が生成される。つまり、変換モデルは、入力張力波形が正常の張力波形であれば、出力張力波形が入力張力波形と同じような張力波形を生成するように用いられる。なお、本実施形態の変換モデルの構築方法は一例であり、別の手法を用いることもできる。
【0053】
図4に示すように、変換モデルは、検出部50cにより用いられる。具体的には、検出部50cは、入力張力波形と、変換モデルと、に基づいて出力張力波形を生成する。ここで、入力張力波形が正常の張力波形であれば、検出部50cは入力張力波形と同じような張力波形を出力張力波形として生成する。そして、入力張力波形が正常でない張力波形であれば、検出部50cは入力張力波形と異なる張力波形を出力張力波形として生成する。
【0054】
図5には、張力異常が発生していない張力波形(入力張力波形)と、入力張力波形と変換モデルに基づいて検出部50cが生成する出力張力波形と、が示されている。入力張力波形には張力異常が含まれていないので、入力張力波形と出力張力波形は実質的に同じであり、類似度が高い。
【0055】
図6には、張力異常が発生している張力波形(入力張力波形)と、入力張力波形と変換モデルに基づいて検出部50cが生成する出力張力波形と、が示されている。入力張力波形には張力異常が含まれているので、張力異常が発生している時間帯(鎖線の楕円で示した時間帯)において、入力張力波形と出力張力波形の類似度が低くなる。
【0056】
検出部50cは、入力張力波形と出力張力波形を比較して、入力張力波形と出力張力波形の類似度に基づいて、糸93の張力の異常度を検出する。入力張力波形と出力張力波形の比較には、2つのデータの相関性の高さを求める様々な手法を用いることができる。本実施形態では、マハラノビス距離が用いられる。マハラノビス距離は、相関関係を考慮して算出される仮想的な距離であり、相関性が高い場合は距離が小さくなる。なお、マハラノビス距離は公知であるため、詳細な説明は省略する。検出部50cは、入力張力波形と出力張力波形に基づいて時間帯毎にマハラノビス距離を算出する。ここで、入力張力波形と出力張力波形の相関性は、波形の類似度を示す。即ち、張力が正常であれば、入力張力波形と出力張力波形の類似度が高くなり、マハラノビス距離は小さくなる。張力が異常であれば、入力張力波形と出力張力波形の類似度が低くなり、マハラノビス距離は大きくなる。従って、マハラノビス距離が大きくなることは、張力の異常度を示すこととなる。以下では、マハラノビス距離をスコアと称する。上述したように、マハラノビス距離以外の値をスコアとして用いることもできる。
【0057】
図5の入力張力波形には張力異常が含まれていないため、スコアは低くなる。一方、
図6の入力張力波形には張力異常が含まれているため、張力異常が含まれている時間帯においてスコアが高くなる。スコアを用いることにより、入力張力波形と出力張力波形の類似度、言い換えれば張力の異常度を具体的な数値で示すことができる。
【0058】
また、
図5及び
図6に示すように、スコアには閾値を設定してもよい。この場合、閾値は予め検出部50cに設定される。閾値は、実験的又は経験的に求めることができる。検出部50cは、スコアが閾値以上か、閾値未満かに基づいて、張力が異常か否かを判定してもよい。
【0059】
図6に示す例では、張力異常が発生している時間帯は、他の時間帯と比較して張力が非常に大きい。これは張力異常の一例であり、張力異常には様々な種類がある。張力異常の種類によっては、張力の変化態様が他の時間帯と異なることもある。この種の張力異常では、張力の大きさだけを用いても張力異常を判定できない。しかし、本実施形態の方法を用いることにより、この種の張力異常であってもスコアが高くなるので、この種の張力異常を検出できる。
【0060】
次に、主に
図7を参照して、張力異常検出装置10が行う処理の流れについて説明する。
【0061】
オペレータ又は管理者は、上述した閾値を予め検出部50cに設定する。その後、オペレータ又は管理者は、検出部50cに対して、張力の異常を検出するよう指示を行う。また、検出部50cは、張力異常の検出タイミングか否かを判定しており(S101)、オペレータ又は管理者の指示があった場合、検出タイミングが到来したと判定する。
【0062】
次に、検出部50cは、出力張力波形を生成する(S102)。具体的には、検出部50cは、検出タイミングと判定した場合、張力センサ13に張力の検出値を要求する。張力センサ13は、張力の検出値を検出部50cに出力する。検出部50cは、張力センサ13から入力された張力の検出値をバッファリングする。その後、検出部50cは、バッファリングした張力の検出値に基づく入力張力波形と、記憶部50dに記憶された変換モデルと、に基づいて、出力張力波形を生成する。次に、検出部50cは、入力張力波形と出力張力波形を比較して、上述したようにスコアを算出する(S103)。
【0063】
次に、検出部50cは、スコアが閾値以上か否かを判定する(S104)。検出部50cは、スコアが閾値以上と判定した場合、張力が異常と判定する(S105)。この場合、制御部50a又は検出部50cは、張力が異常であった時刻等を記憶してもよい。また、制御部50a又は検出部50cは、張力が異常である旨を表示部14に表示することにより、オペレータに通知してもよい。あるいは、制御部50aは、糸93の巻取りの中断を指示してもよい。一方、検出部50cは、スコアが閾値未満と判定した場合、張力が正常と判定する(S106)。
【0064】
図7に示す例では、張力が異常か否かを検出部50cが判定する。これに代えて、
図8に示すように、検出部50cがスコアを提示するだけであってもよい。この場合、オペレータ又は管理者は、検出部50cが提示するスコアを見て張力が異常か否かを判定する。
【0065】
図8のフローチャートにおいて、S201からS203は、上述したS101からS103と同じ処理であるため、説明を省略する。検出部50cは、スコアの算出後において、スコアを数値及びグラフで表示部14に表示する(S204)。
【0066】
図7及び
図8に示す処理では、糸巻取機1が糸93を巻き取る間に、巻取中の糸93の張力の異常度を検出する。言い換えれば、リアルタイムで張力の異常度を検出する。これに代えて、糸93の巻取中は張力に関するデータを記憶しておき、糸93の巻取後において、記憶しているデータに基づいて張力の異常度を検出してもよい。
【0067】
以上に説明したように、本実施形態の張力異常検出装置10は、糸巻取機1が巻き取る糸93の張力の異常度を検出する。張力異常検出装置10は、張力センサ13と、学習部50bと、記憶部50dと、検出部50cと、を備える。張力センサ13は、糸巻取機1が巻き取る糸93の張力を検出する。学習部50bは、張力が正常の張力波形を自己符号化器を用いて機械学習することにより、張力が正常の張力波形に基づいて同じ波形を生成する変換モデルを構築する。記憶部50dは、学習部50bが構築した変換モデルを記憶する。検出部50cは、張力センサ13が検出した張力に基づく入力張力波形と、張力波形を学習した変換モデルとに基づいて出力張力波形を生成し、入力張力波形と出力張力波形との類似度に基づいて、糸巻取機1に巻き取られる糸93の張力の異常度を検出する。
【0068】
張力が正常の張力波形を学習して変換モデルを作成するため、正常な張力から逸脱する様々な異常を検出できる。特に、自己符号化器を用いた張力波形の機械学習により変換モデルを構築することにより、張力の大きさや変化の程度だけでは検出できない異常を検出できる。
【0069】
本実施形態の張力異常検出装置10において、糸巻取機1は、糸93をトラバースしながらパッケージ94に巻き取る。張力センサ13は、糸93のトラバースに応じて糸93に断続的に接触して張力を検出する。
【0070】
糸93に断続的に接触する張力センサ13が検出するデータには、張力の最大値だけでなく、張力が時間に応じてどのように変化するかを示す変化傾向を含む。そのため、張力波形に多数の特徴が含まれることになるため、糸93の張力の異常度を精度良く検出するためのモデルを作成できる。
【0071】
本実施形態の張力異常検出装置10において、検出部50cは、入力張力波形と出力張力波形を比較して、異常度を数値化したスコアを算出する。
【0072】
これにより、張力の異常度を具体的に得ることができる。
【0073】
本実施形態の張力異常検出装置10において、検出部50cには予め閾値が設定されており、検出部50cは、スコアが閾値以上である場合は張力が異常と判定し、スコアが閾値未満である場合は張力が正常と判定する。
【0074】
これにより、張力が異常か否かを判定することができる。
【0075】
本実施形態の張力異常検出装置10は表示部14を備え、検出部50cは、スコアの時間変化を示すグラフを作成して表示部14に表示する制御を行う。
【0076】
これにより、例えば管理者又はオペレータは、張力の異常度を直感的に把握することができる。
【0077】
本実施形態の張力異常検出装置10において、検出部50cは、糸巻取機1が糸93を巻き取る間に、巻取中の糸93の張力の異常度を検出する。
【0078】
これにより、張力の異常度をリアルタイム又はそれに近いタイミングで検出できる。そのため、例えば、張力が異常である場合に、巻取りを中断する等の処理を行うこともできる。
【0079】
以上に本開示の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0080】
上記実施形態で示したフローチャートは一例であり、一部の処理を省略したり、一部の処理の内容を変更したり、新たな処理を追加したりしてもよい。
【0081】
上記実施形態のトラバース装置21はカムドラム式であるが、トラバースガイド23を巻幅方向に往復動させることが可能であれば異なる構成であってもよい。例えば、トラバース装置21に代えて、回転羽根を用いたロータリ式トラバース装置、又は、トラバースガイドをベルトによって往復駆動するベルト式のトラバース装置を用いることもできる。
【0082】
上記実施形態では、紡糸機が製造した糸を巻き取る糸巻取機に本発明を適用する例を説明したが、この糸巻取機に代えて、仮撚加工機又は巻返し機にも本発明を適用できる。
【0083】
<B.制御装置50のハードウェア構成>
次に、
図9を参照して、
図3に示される制御装置50のハードウェア構成について説明する。
図9は、制御装置50のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0084】
制御装置50は、上述の記憶部50d(
図3参照)と、プロセッサ101と、通信インターフェイス104と、表示インターフェイス105と、入力インターフェイス107とを含む。これらのコンポーネントは、バス115に接続される。記憶部50dとしては、ROM(Read Only Memory)102、RAM103と、および補助記憶装置120などが挙げられる。
【0085】
プロセッサ101は、たとえば、少なくとも1つの集積回路によって構成される。集積回路は、たとえば、少なくとも1つのCPU、少なくとも1つのGPU(Graphics Processing Unit)、少なくとも1つのASIC(Application Specific Integrated Circuit)、少なくとも1つのFPGA(Field Programmable Gate Array)、またはそれらの組み合わせなどによって構成され得る。
【0086】
プロセッサ101は、各種プログラムを実行することで制御装置50の動作を制御する。プロセッサ101は、各種プログラムの実行命令を受け付けたことに基づいて、補助記憶装置120またはROM102からRAM103に実行対象のプログラムを読み出す。RAM103は、ワーキングメモリとして機能し、プログラムの実行に必要な各種データを一時的に格納する。
【0087】
通信インターフェイス104には、LAN(Local Area Network)やアンテナなどが接続される。制御装置50は、通信インターフェイス104を介して、外部機器との間でデータをやり取りする。当該外部機器は、たとえば、サーバーなどを含む。
【0088】
表示インターフェイス105には、上述の表示部14(
図3参照)が接続される。表示インターフェイス105は、プロセッサ101などからの指令に従って、表示部14に対して、画像を表示するための画像信号を送出する。表示部14は、たとえば、液晶表示ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、またはその他のディスプレイである。なお、表示部14は、制御装置50と一体的に構成されてもよいし、制御装置50とは別に構成されてもよい。
【0089】
入力インターフェイス107には、入力デバイス108が接続される。入力デバイス108は、たとえば、マウス、キーボード、タッチパネル、またはユーザの操作を受け付けることが可能なその他の装置である。なお、入力デバイス108は、制御装置50と一体的に構成されてもよいし、制御装置50とは別に構成されてもよい。
【0090】
補助記憶装置120は、たとえば、ハードディスク、フラッシュメモリ、およびSSDなどの記憶媒体である。補助記憶装置120は、たとえば、学習用データセット122と、上述の変換モデル124と、学習プログラム126と、張力異常検出プログラム128とを格納する。これらの格納場所は、補助記憶装置120に限定されず、プロセッサ101の記憶領域(たとえば、キャッシュメモリなど)、ROM102、RAM103、外部機器(たとえば、サーバー)などに格納されていてもよい。
【0091】
学習プログラム126は、学習用データセット122を用いて変換モデル124を生成するためのプログラムである。学習プログラム126は、単体のプログラムとしてではなく、任意のプログラムの一部に組み込まれて提供されてもよい。この場合、学習プログラム126による学習処理は、任意のプログラムと協働して実現される。このような一部のモジュールを含まないプログラムであっても、本実施の形態に従う学習プログラム126の趣旨を逸脱するものではない。さらに、学習プログラム126によって提供される機能の一部または全部は、専用のハードウェアによって実現されてもよい。さらに、少なくとも1つのサーバーが学習プログラム126の処理の一部を実行する所謂クラウドサービスのような形態で制御装置50が構成されてもよい。
【0092】
張力異常検出プログラム128は、学習済みの変換モデル124を用いて、糸巻取機1に巻き取られる糸の張力の異常を検出するためのプログラムである。張力異常検出プログラム128は、単体のプログラムとしてではなく、任意のプログラムの一部に組み込まれて提供されてもよい。この場合、張力異常検出プログラム128による異常検出処理は、任意のプログラムと協働して実現される。このような一部のモジュールを含まないプログラムであっても、本実施の形態に従う張力異常検出プログラム128の趣旨を逸脱するものではない。さらに、張力異常検出プログラム128によって提供される機能の一部または全部は、専用のハードウェアによって実現されてもよい。さらに、少なくとも1つのサーバーが張力異常検出プログラム128の処理の一部を実行する所謂クラウドサービスのような形態で制御装置50が構成されてもよい。
【0093】
<C.学習用データセット122>
次に、
図10を参照して、
図9に示される学習用データセット122について説明する。
図10は、学習用データセット122の一例を示す図である。
【0094】
学習用データセット122は、複数の学習用データ123を含む。学習用データセット122に含まれる学習用データ123の数は、任意である。一例として、学習用データ123の数は、数十~数十万である。
【0095】
学習用データ123の各々において、データID(Identification)と、張力が正常な張力波形とが関連付けられている。データIDは、学習用データ123を一意に識別するための情報である。データIDは、たとえば、重複しないようにユーザによって入力される。
【0096】
学習用データ123に規定される張力波形は、糸巻取機1が糸を巻き取っている最中に
上述の張力センサ13によって検出された張力が時系列に並べられているデータ群である。すなわち、1つの学習用データ123においては、時間ごとに張力が関連付けられている。学習用データセット122に規定される各張力波形の次元数は、互いに等しい。また、学習用データセット122は、正常な張力波形の学習用データ123のみで構成される。
【0097】
<D.制御装置50の機能構成>
次に、
図11~
図13を参照して、制御装置50の機能構成について説明する。
図11は、制御装置50の機能構成の一例を示す図である。
【0098】
図11に示されるように、制御装置50は、機能構成として、学習部50bと、検出部50cとを含む。以下では、これらの機能構成について順に説明する。
【0099】
(D1.学習部50b)
まず、
図12を参照して、
図11に示される学習部50bの機能について説明する。
図12は、学習部50bによる学習処理を概念的に示す図である。
【0100】
学習部50bは、上述の学習用データセット122(
図10参照)を用いて学習処理を実行し、自己符号化器としての変換モデル124を生成する。学習処理に採用される機械学習アルゴリズムは、特に限定されず、たとえば、ディープラーニング(深層学習)などのニューラルネットワークなどが採用され得る。以下では、ニューラルネットワークを用いた学習処理について説明する。
【0101】
図12に示されるように、変換モデル124は、入力層Xと、中間層Hと、出力層Yとで構成される。
【0102】
入力層Xは、学習用データ123に規定されている正常な張力波形の入力を受けるように構成される。入力層Xは、たとえば、N個のユニットx1~xNで構成されている(Nは自然数)。入力層Xを構成するユニット数は、入力される張力波形の次元数と同数である。たとえば、入力される張力波形がN次元のデータである場合、入力層Xは、N個のユニットで構成される。入力層Xを構成する各ユニットは、入力されたデータを中間層Hの1層目の各ユニットに出力する。
【0103】
中間層Hは、1層または複数層で構成されている。
図12の例では、中間層Hは、L層で構成されている(Lは自然数)。中間層Hの各層は、複数のユニットを含む。中間層Hの各層におけるユニット数は、同数であってもよいし、異なっていてもよい。
図12の例では、中間層Hの1層目は、Q個のユニットh
A1~h
AQで構成されている(Qは自然数)。また、中間層Hの最終層は、R個のユニットh
L1~h
LRで構成されている(Rは自然数)。
【0104】
中間層Hの各層を構成する各ユニットは、前の層の各ユニットと、次の層の各ユニットとに接続されている。各層の各ユニットは、前の層の各ユニットから出力値を受けて、各出力値に重みを乗算し、それらの乗算結果を積算し、その積算結果に対して所定のバイアスを加算(または減算)し、その加算結果(または減算結果)を所定の関数(たとえば、シグモナイト関数)に入力し、その関数の出力値を次の層の各ユニットに出力する。
【0105】
自己符号化器としての変換モデル124においては、中間層Hの各層を構成するユニット数は、入力層Xを構成するユニット数よりも少ない。その結果、張力波形の次元数は、入力層Xから中間層Hに伝達される過程で圧縮される。
【0106】
出力層Yは、中間層Hで圧縮された張力波形を復元するように構成される。より具体的には、出力層Yは、入力層Xと同数のユニットで構成される。一例として、入力層XがN個のユニットで構成されている場合、出力層Yは、N個のユニットで構成される。
図12の例では、出力層Yは、N個のユニットy
1~y
Nで構成されている。以下では、ユニットy
1~y
3をユニットyとも称する。
【0107】
ユニットyの各々は、中間層Hの最終層の各ユニットhL1~hLMと接続されている。ユニットyの各々は、中間層Hの最終層の各ユニットからの出力値を受けて、各出力値に重みを乗算し、それらの乗算結果を積算し、その積算結果に対して所定のバイアスを加算(または減算)し、その加算結果(または減算結果)を所定の関数(たとえば、シグモナイト関数)に入力し、その関数の出力結果を出力値として出力する。
【0108】
次に、学習部50bによる変換モデル124の内部パラメータの更新処理について説明する。
【0109】
学習部50bは、1つ目の学習用データ123に規定されている正常な張力波形T(t)を変換モデル124に入力する。これにより、変換モデル124は、張力波形T(t)を圧縮し、当該張力波形T(t)を同次元の張力波形T'(t)に復元する。次に、学習部50bは、入力された張力波形T(t)と、出力された張力波形T'(t)との誤差「Z」を算出する。一例として、誤差「Z」は、下記の式(1)に基づいて算出される。
【0110】
Z={(T(t1)-T'(t1))2+・・・+(T(tN)-T'(tN))2}/N・・・(1)
次に、学習部50bは、誤差「Z」が小さくなるように、変換モデル124の内部パラメータ(たとえば、重みやバイアス)を更新する。内部パラメータの更新は、たとえば、誤差逆伝播法により実現される。
【0111】
学習部50bは、変換モデル124の内部パラメータの更新処理を、学習用データセット122に含まれる各学習用データ123について繰り返し行う。これにより、変換モデル124は、正常な張力波形を圧縮した後に当該正常な張力波形を復元するように学習される。すなわち、変換モデル124は、正常な張力波形が入力された場合には当該正常な張力波形と類似する張力波形を出力するようになり、異常な張力波形が入力された場合には当該異常な張力波形と異なる張力波形を出力するようになる。異なる言い方をすれば、変換モデル124は、正常な張力波形を通過させる一方で異常な正常な張力波形を通過させない一種のフィルターのように機能する。
【0112】
なお、学習部50bは、学習用データセット122に含まれる全ての学習用データ123を学習処理に用いる必要はなく、学習用データセット122に含まれる一部の学習用データ123を用いて変換モデル124を生成してもよい。残りの学習用データ123は、たとえば、変換モデル124の評価などに用いられる。
【0113】
(D2.検出部50c)
次に、
図13を参照して、
図11に示される検出部50cの機能について説明する。
図13は、検出部50cによる異常検出処理を概念的に示す図である。
【0114】
検出部50cは、張力センサ13から得られる入力張力波形と、当該入力張力波形を変換モデル124に入力することで得られる出力張力波形との類似度に基づいて、糸巻取機1に巻き取られる糸の張力の異常を検出する。
【0115】
より具体的には、まず、検出部50cは、張力センサ13から得られる入力張力波形を変換モデル124に入力し、変換モデル124から出力張力波形を取得する。変換モデル124の取得先は、上述の記憶部50dであってもよいし、外部機器であってもよい。変換モデル124は、正常な張力波形が入力された場合には当該正常な張力波形と類似する張力波形を出力し、異常な張力波形が入力された場合には当該異常な張力波形と異なる張力波形を出力する。検出部50cは、入力張力波形と出力張力波形との類似度に基づいて、糸巻取機1に巻き取られる糸の張力の異常を検出する。検出部50cの機能については上述の通りであるので、その機能の詳細な説明については繰り返さない。
【0116】
<E.変形例1>
次に、
図14を参照して、糸巻取機1の機能配置に係る変形例について説明する。
【0117】
上述の
図11の例では、学習部50bおよび検出部50cが同一の糸巻取機1に実装されていた。しかしながら、学習部50bおよび検出部50cは、必ずしも同一の糸巻取機1に実装される必要はない。一例として、学習部50bは、異なる装置に実装されてもよい。
【0118】
図14は、本変形例における異常検出システム500の装置構成の一例を示す図である。
図14に示されるように、異常検出システム500は、1つ以上の糸巻取機1と、1つ以上の情報処理装置200とを含む。
図14の例では、異常検出システム500は、3つの糸巻取機1A~1Cと、1つの情報処理装置200とで構成されている。
【0119】
糸巻取機1A~1Cおよび情報処理装置200は、同一のネットワークNWに接続されており、互いに通信可能に構成される。糸巻取機1および情報処理装置200は、有線で通信接続されてもよいし、無線で通信接続されてもよい。
【0120】
情報処理装置200は、デスクトップ型のパソコン、ノート型のパソコン、タブレット端末、または、その他の情報処理端末である。
【0121】
図14の例では、学習部50bは、情報処理装置200に実装されている。また、検出部50cは、糸巻取機1Cに実装されている。
【0122】
情報処理装置200は、ネットワークNWに接続されている糸巻取機1(たとえば、糸巻取機1A,1B)から上述の学習用データ123(
図10参照)を収集する。次に、情報処理装置200の学習部50bは、あらゆる糸巻取機1から収集した学習用データ123を用いて学習処理を実行し、上述の変換モデル124を生成する。学習部50bによる学習機能については上述の通りであるので、その説明については繰り返さない。
【0123】
その後、情報処理装置200は、生成した変換モデル124を糸巻取機1(たとえば、糸巻取機1C)に送信する。糸巻取機1Cの検出部50cは、当該変換モデル124を用いて、糸巻取機1Cに発生した張力異常を検出する。検出部50cによる異常検出機能については上述の通りであるので、その説明については繰り返さない。
【0124】
<F.変形例2>
【0125】
(F1.概要)
次に、
図15~
図18を参照して、変形例に従う張力異常検出装置10について説明する。
【0126】
上述の例では、張力異常検出装置10は、張力センサ13から得られる入力張力波形を変換モデル124に入力することで、張力の異常が発生しているか否かを判断していた。これに対して、本変形例に従う張力異常検出装置10は、張力異常が発生していると判断した場合に、発生している張力異常の種別をさらに判別する。なお、張力異常検出装置10のハードウェア構成などのその他の点については上述の通りであるので、それらの説明については繰り返さない。
【0127】
(F2.学習用データセット132)
次に、
図15を参照して、張力異常の種別を判別するための推定モデルを生成する際に用いられる学習用データセット132について説明する。
図15は、学習用データセット132の一例を示す図である。
【0128】
学習用データセット132は、複数の学習用データ133を含む。学習用データセット132に含まれる学習用データ133の数は、任意である。一例として、学習用データ133の数は、数十~数十万である。
【0129】
学習用データ133の各々において、データID(Identification)と、張力が異常な張力波形と、張力異常の種別とが関連付けられている。データIDは、学習用データ133を一意に識別するための情報である。データIDは、たとえば、重複しないようにユーザによって入力される。
【0130】
学習用データ133に規定される張力波形は、糸巻取機1が糸を巻き取っている最中に
上述の張力センサ13によって検出された張力が時系列に並べられているデータ群である。学習用データセット132に規定される各張力波形の次元数は、互いに等しい。また、各張力波形には、異常種別がラベルとして対応付けられている。異常種別は、たとえば、上述の入力デバイス108などを介してユーザによって入力される。
【0131】
(F3.制御装置50の機能構成)
次に、
図16~
図18を参照して、本変形例における制御装置50の機能構成について説明する。
図16は、制御装置50の機能構成の一例を示す図である。
【0132】
制御装置50は、機能構成として、学習部50bと、検出部50cと、学習部50eと、判別部50fとを含む。
図16に示される制御装置50は、学習部50eと、判別部50fとをさらに備える点で、
図11に示される制御装置50とは異なる。学習部50bおよび検出部50cの機能説明については上述の通りであるので、それらの説明については繰り返さない。以下では、学習部50eおよび判別部50fの機能について順に説明する。
【0133】
なお、学習部50b、検出部50c、学習部50e、および判別部50fの全てが制御装置50に実装される必要はない。一例として、学習部50bおよび学習部50eの少なくとも一方は、上述の情報処理装置200に実装されてもよい。
【0134】
(a)学習部50e
まず、
図17を参照して、
図16に示される学習部50eの機能について説明する。
図17は、学習部50eによる学習処理を概念的に示す図である。
【0135】
学習部50eは、上述の学習用データセット132(
図15参照)を用いて学習処理を実行し、張力異常を判別するための推定モデル134を生成する。学習処理に採用される機械学習アルゴリズムは、特に限定されず、たとえば、ディープラーニング(深層学習)などのニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、または決定木系などの種々の機械学習アルゴリズムが採用され得る。以下では、ディープラーニングを用いた学習処理について説明する。
【0136】
図17に示されるように、推定モデル134は、入力層Xと、中間層Hと、出力層Yとで構成される。
【0137】
入力層Xは、学習用データ133に規定されている異常な張力波形の入力を受けるように構成される。入力層Xは、たとえば、N個のユニットx1~xNで構成されている(Nは自然数)。入力層Xを構成するユニット数は、入力される張力波形の次元数と同数である。たとえば、入力される張力波形がN次元のデータである場合、入力層Xは、N個のユニットで構成される。入力層Xを構成する各ユニットは、入力されたデータを中間層Hの1層目の各ユニットに出力する。
【0138】
中間層Hは、1層または複数層で構成されている。
図17の例では、中間層Hは、L層で構成されている(Lは自然数)。中間層Hの各層は、複数のユニットを含む。中間層Hの各層におけるユニット数は、同数であってもよいし、異なっていてもよい。
図17の例では、中間層Hの1層目は、Q個のユニットh
A1~h
AQで構成されている(Qは自然数)。また、中間層Hの最終層は、R個のユニットh
L1~h
LRで構成されている(Rは自然数)。
【0139】
中間層Hの各層を構成する各ユニットは、前の層の各ユニットと、次の層の各ユニットとに接続されている。各層の各ユニットは、前の層の各ユニットから出力値を受けて、各出力値に重みを乗算し、それらの乗算結果を積算し、その積算結果に対して所定のバイアスを加算(または減算)し、その加算結果(または減算結果)を所定の関数(たとえば、シグモナイト関数)に入力し、その関数の出力値を次の層の各ユニットに出力する。
【0140】
出力層Yは、入力された張力波形に応じた推定結果を出力する。出力層Yは、たとえば、ユニットy1~y3で構成される。以下では、ユニットy1~y3をユニットyとも称する。
【0141】
ユニットyの各々は、中間層Hの最終層のユニットhL1~hLRと接続されている。ユニットyの各々は、中間層Hの最終層の各ユニットからの出力値を受けて、各出力値に重みを乗算し、それらの乗算結果を積算し、その積算結果に対して所定のバイアスを加算(または減算)し、その加算結果(または減算結果)を所定の関数(たとえば、シグモナイト関数)に入力し、その関数の出力結果を出力値として出力する。
【0142】
出力層Yを構成するユニット数は、学習用データ133に規定される張力異常の種別数に応じて決定される。一例として、張力異常「A」~「C」を検出する場合、出力層Yを構成するユニット数は、ユニットy1~y3の3つとなる。この場合、ユニットy1は、張力異常「A」が発生している可能性を示すスコア「sa」を出力するように構成される。ユニットy2は、張力異常「B」が発生している可能性を示すスコア「sb」を出力するように構成される。ユニットy3は、張力異常「C」が発生している可能性を示すスコア「sc」を出力するように構成される。
【0143】
なお、
図17の例では、推定モデル134が複数のスコアを出力するように構成されているが、1つの推定モデルが1つのスコアを出力するように構成されてもよい。一例として、第1の推定モデルが異常種別「A」に係るスコア「sa」を出力するように構成され、第2の推定モデルが異常種別「B」に係るスコア「sb」を出力するように構成され、第3の推定モデルが異常種別「C」に係るスコア「sc」を出力するように構成されてもよい。
【0144】
次に、学習部50eによる推定モデル134の内部パラメータの更新処理について説明する。
【0145】
学習部50eは、1つ目の学習用データ133に規定されている張力波形T(t)を推定モデル134に入力する。次に、学習部50eは、推定モデル134から出力された推定結果「sa」~「sc」と、1つ目の学習用データ133に対応付けられている異常種別に応じた正解スコア「sa'」~「sc'」とを比較する。
【0146】
一例として、学習用データ133に対応付けられている異常種別が「A」である場合には、正解スコアは、(sa',sb',sc')=(1,0,0)となる。学習用データ133に対応付けられている異常種別が「B」である場合には、正解スコアは、(sa',sb',sc')=(0,1,0)となる。学習用データ133に対応付けられている異常種別が「C」である場合には、正解スコアは、(sa',sb',sc')=(0,0,1)となる。
【0147】
学習部50eは、推定モデル134の出力結果「sa」~「sc」と、正解スコア「sa'」~「sc'」との間の誤差「Z」を算出する。誤差「Z」は、たとえば、下記の式(2)に基づいて算出される。
【0148】
Z={(sa-sa')2+(sb-sb')2+(sc-sc')2}/3・・・(2)
次に、学習部50eは、誤差「Z」が小さくなるように、推定モデル134に含まれる各種のパラメータ(たとえば、重みやバイアス)を更新する。当該パラメータの更新は、たとえば、誤差逆伝播法により実現される。
【0149】
学習部50eは、推定モデル134の内部パラメータの更新処理を、学習用データセット132に含まれる各学習用データ133について繰り返し行う。その結果、推定モデル134は、学習が進むにつれて正確な推定結果を出力するようになる。
【0150】
なお、学習部50eは、学習用データセット132に含まれる全ての学習用データ133を学習処理に用いる必要はなく、学習用データセット132に含まれる一部の学習用データ133を用いて推定モデル134を生成してもよい。残りの学習用データ133は、たとえば、推定モデル134の評価などに用いられる。
【0151】
(b)判別部50f
次に、
図18を参照して、
図16に示される判別部50fの機能について説明する。
図18は、判別部50fによる異常種別の判別処理を概念的に示す図である。
【0152】
まず、判別部50fは、学習部50eによって生成された推定モデル134を取得する。推定モデル134の取得先は、上述の記憶部50dであってもよいし、外部機器であってもよい。判別部50fは、上述の検出部50cによって張力異常が検出された場合に、当該張力異常の検出に用いられた入力張力波形と、推定モデル134とに基づいて、発生している張力異常の種別を判別する。
【0153】
より具体的には、判別部50fは、推定モデル134に対して、異常を示す入力張力波形を推定モデル134に入力する。これにより、推定モデル134は、張力異常が発生している可能性を示すスコアを異常種別に出力する。推定モデル134は、たとえば、推定結果として、張力異常「A」が発生している可能性を示すスコア「sa」と、張力異常「B」が発生している可能性を示すスコア「sb」と、張力異常「C」が発生している可能性を示すスコア「sa」とを出力する。
【0154】
判別部50fは、スコア「sa」~「sc」に基づいて、発生している張力異常の種別を判別する。一例として、判別部50fは、スコア「sa」~「sc」のいずれかが所定閾値を超えている場合には、スコア「sa」~「sc」の内の最大スコアに対応する張力異常を判別結果として出力する。一方で、判別部50fは、スコア「sa」~「sc」が全て所定閾値を超えていない場合には、不明の張力異常が発生していることを出力する。当該所定閾値は、予め設定されていてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
【0155】
なお、判別部50fによる判別結果の出力態様は、特に限定されない。一例として、判別部50fは、発生している張力異常の種別を含む警告を出力する。当該警告は、たとえば、上述の表示部14においてメッセージとして表示されてもよいし、音声で出力されてもよいし、ログとして記憶部50dに記憶されてもよい。
【0156】
<G.付記>
以上のように、本実施形態は以下のような開示を含む。
【0157】
本開示の観点によれば、以下の構成の張力異常検出装置が提供される。即ち、張力異常検出装置は、糸巻取機が巻き取る糸の張力の異常度を検出する。張力異常検出装置は、張力センサと、学習部と、記憶部と、検出部と、を備える。前記張力センサは、糸巻取機が巻き取る糸の張力を検出する。前記学習部は、張力が正常の張力波形を自己符号化器を用いて機械学習することにより、張力が正常の張力波形に基づいて同じ波形を生成する変換モデルを構築する。前記記憶部は、前記学習部が構築した前記変換モデルを記憶する。前記検出部は、前記張力センサが検出した張力に基づく入力張力波形と前記変換モデルとに基づいて出力張力波形を生成し、前記入力張力波形と前記出力張力波形との類似度に基づいて、糸巻取機に巻き取られる糸の張力の異常度を検出する。
【0158】
張力が正常の張力波形を学習して変換モデルを作成するため、正常な張力から逸脱する様々な異常を検出できる。特に、自己符号化器を用いた張力波形の機械学習によりモデルを構築することにより、張力の大きさや変化の程度だけでは検出できない異常を検出できる。
【0159】
前記の張力異常検出装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記糸巻取機は、糸をトラバースしながらボビンに巻き取る。前記張力センサは、糸のトラバースに応じて当該糸に断続的に接触して張力を検出する。
【0160】
糸に断続的に接触する張力センサが検出するデータには、張力の最大値だけでなく、張力が時間に応じてどのように変化するかを示す変化傾向を含む。そのため、張力波形に多数の特徴が含まれることになるため、糸の張力の異常度を精度良く検出するためのモデルを作成できる。
【0161】
前記の張力異常検出装置においては、前記検出部は、前記入力張力波形と前記出力張力波形を比較して、異常度を数値化したスコアを算出することが好ましい。
【0162】
これにより、張力の異常度を具体的に得ることができる。
【0163】
前記の張力異常検出装置においては、前記検出部には予め閾値が設定されており、前記検出部は、前記スコアが閾値以上である場合は張力が異常と判定し、前記スコアが閾値未満である場合は張力が正常と判定することが好ましい。
【0164】
これにより、張力が異常か否かを判定することができる。
【0165】
前記の張力異常検出装置においては、表示部を備え、前記検出部は、前記スコアの時間変化を示すグラフを作成して前記表示部に表示する制御を行うことが好ましい。
【0166】
これにより、例えば管理者又はオペレータは、張力の異常度を直感的に把握することができる。
【0167】
前記の張力異常検出装置においては、前記学習部及び前記検出部は、前記糸巻取機が糸を巻き取る間に、巻取中の糸の張力の異常度を検出することが好ましい。
【0168】
これにより、張力の異常度をリアルタイム又はそれに近いタイミングで検出できる。そのため、例えば、張力が異常である場合に、巻取りを中断する等の処理を行うこともできる。
【0169】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0170】
1 糸巻取機
10 張力異常検出装置
14 表示部
13 張力センサ
50 制御装置
50b 学習部
50c 検出部
50d 記憶部
50f 判別部
124 変換モデル
134 推定モデル
【手続補正書】
【提出日】2023-10-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0106
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0106】
出力層Yは、中間層Hで圧縮された張力波形を復元するように構成される。より具体的には、出力層Yは、入力層Xと同数のユニットで構成される。一例として、入力層XがN個のユニットで構成されている場合、出力層Yは、N個のユニットで構成される。
図12の例では、出力層Yは、N個のユニットy
1~y
Nで構成されている。以下では、ユニットy
1~y
N
をユニットyとも称する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0107
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0107】
ユニットyの各々は、中間層Hの最終層の各ユニットhL1~hLR
と接続されている。ユニットyの各々は、中間層Hの最終層の各ユニットからの出力値を受けて、各出力値に重みを乗算し、それらの乗算結果を積算し、その積算結果に対して所定のバイアスを加算(または減算)し、その加算結果(または減算結果)を所定の関数(たとえば、シグモナイト関数)に入力し、その関数の出力結果を出力値として出力する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0111
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0111】
学習部50bは、変換モデル124の内部パラメータの更新処理を、学習用データセット122に含まれる各学習用データ123について繰り返し行う。これにより、変換モデル124は、正常な張力波形を圧縮した後に当該正常な張力波形を復元するように学習される。すなわち、変換モデル124は、正常な張力波形が入力された場合には当該正常な張力波形と類似する張力波形を出力するようになり、異常な張力波形が入力された場合には当該異常な張力波形と異なる張力波形を出力するようになる。異なる言い方をすれば、変換モデル124は、正常な張力波形を通過させる一方で異常な張力波形を通過させない一種のフィルターのように機能する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0153
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0153】
より具体的には、判別部50fは、推定モデル134に対して、異常を示す入力張力波形を推定モデル134に入力する。これにより、推定モデル134は、張力異常が発生している可能性を示すスコアを異常種別に出力する。推定モデル134は、たとえば、推定結果として、張力異常「A」が発生している可能性を示すスコア「sa」と、張力異常「B」が発生している可能性を示すスコア「sb」と、張力異常「C」が発生している可能性を示すスコア「sc」とを出力する。
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】