(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008656
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】半導体用樹脂封止材における無機充填剤として好適なマグネシウムチタン複酸化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
C01G23/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110696
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000109255
【氏名又は名称】チタン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】吉見 智子
(72)【発明者】
【氏名】古賀 俊之
(72)【発明者】
【氏名】加世堂 有
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴康
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047CA07
4G047CB05
4G047CC02
4G047CD04
4G047CD07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ナトリウム及び塩素溶出量を低減し、適度な粒子径を有し、未反応物である二酸化チタンを含有しない、半導体用樹脂封止材における無機充填剤として好適なマグネシウムチタン複酸化物粉末を提供する。
【解決手段】透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径が300~5000nmであり、粉末を水に100g/Lの濃度で浸漬して95℃で20h保持した際に水に溶出するナトリウム量及び塩素量が粉末1.0kgあたりそれぞれ100mg以下及び50mg以下であり、X線回折での二酸化チタンのピークが観察されないマグネシウムチタン複酸化物粉末。チタン源とマグネシウム源を湿式混合しアルカリを添加してpH9.5~13.0に調整し、固液分離して電気伝導度が≦300μS/cmとなるまで水洗し、焼成し、焼成物を酸洗浄した後pH4.0~7.0の範囲に調整し固液分離して電気伝導度が≦100μS/cmとなるまで水洗し乾燥して製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径が300nm以上5000nm以下であり、
粉末を水に100g/Lの濃度で浸漬し、95℃で20h保持した際に粉末中から水に溶出する粉末中のナトリウム量が粉末1.0kgあたり100mg以下であり、塩素量が粉末1.0kgあたり50mg以下であり、
X線回折において二酸化チタンのピークが観察されない、マグネシウムチタン複酸化物粉末。
【請求項2】
粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量が1000mg以下であり、かつ粉末1.0kgあたりの塩素含有量が50mg以下である請求項1に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末。
【請求項3】
含有するナトリウムのうち、水に溶出するナトリウムが85mmol/mol以下である、請求項1又は2に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末。
【請求項4】
煮あまに油吸油量が14mL/100g以上45mL/100g以下である、請求項1又は2に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末。
【請求項5】
レーザー散乱回折式粒度分析法により測定したメディアン径が0.5μm以上10.0μm以下である、請求項1又は2に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末。
【請求項6】
X線回折において回折角度2θが32.00°以上33.50°以下の範囲に出現するMgTiO3の(104)面における結晶子径が60nm以上130nm以下の範囲である、請求項1又は2に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末。
【請求項7】
以下の工程A~Eを含む、請求項1又は2に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末の製造方法。
A:湿式状態においてチタン源とマグネシウム源を混合し、アルカリを添加し、pH9.5以上13.0以下の範囲に調整してスラリーを得る工程、
B:工程Aで得たスラリーを液体部分の電気伝導度が300μS/cm以下になるまで水洗し、固液分離してチタン源とマグネシウム源の混合物を得る工程、
C:工程Bで得た混合物を焼成し、チタン源とマグネシウム源を反応させ、焼成物を得る工程、
D:工程Cで得た焼成物を、酸を用いて洗浄した後、pH4.0以上7.0以下の範囲に調整してスラリーを得る工程、
E:工程Dで得たスラリーを液体部分の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで水洗し、固液分離して固形分を得る工程、
F:工程Eで得た固形分を乾燥する工程。
【請求項8】
前記工程Aで添加するアルカリがナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物である、請求項7に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末の製造方法。
【請求項9】
粉末を構成する粒子の表面の少なくとも一部に、無機物又は有機物の被覆層を付す工程をさらに含む、請求項7又は8に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末の製造方法。
【請求項10】
粉末表面に無機物又は有機物の被覆層を有する請求項1又は2に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末を含有する、半導体用樹脂封止材内に用いる無機充填剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムチタン複酸化物粉末とその製造方法に関する。より詳細には、半導体用樹脂封止材における無機充填剤として好適なマグネシウムチタン複酸化物粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムチタン複酸化物粉末は、その誘電特性を活かして半導体用封止材内に含有させる充填剤やセラミックコンデンサの原料として、また健康への影響が小さいことを活かして化粧料用紫外線波長変換剤など、様々な用途で使用されている。
【0003】
その中で半導体用封止材は、衝撃や圧力などの機械的外力、又は湿度、熱、紫外線などの外部環境から半導体素子を保護するものであり、また電気絶縁性の確保や誘電率の調整といった役割も担っている。半導体用封止材は、基本的に主成分となる樹脂成分と、その内部に分散させる充填剤によって構成される。
【0004】
半導体用樹脂封止材における充填剤としては一般的に無機物粒子が用いられる。特開2002-265797号公報(特許文献1)では、チタン酸バリウムを初めとするチタン酸塩を封止用の樹脂組成物の充填剤として採用することで高誘電率を示す樹脂組成物が得られることが提案されている。特許文献1に列挙される高誘電率のチタン酸バリウム等のチタン酸塩に加えて、マグネシウムチタン複酸化物は、チタン酸塩の中では誘電率が小さい材料であることから、高誘電率の半導体用樹脂封止材を所望の誘電率に調整する際に有用である。特開2001-72418号公報(特許文献2)では、電子材料分野で使用される誘電率の小さいチタン酸マグネシウムの製造方法として、塩素を含む雰囲気下で焼成する方法が提案されている。
【0005】
一方、樹脂成分としては、その優れた強度や化学的安定性、硬化の際に副生成物が生じないこと等からエポキシ樹脂が広く使用されている。エポキシ樹脂中にナトリウムや塩素に代表されるイオン化しやすい不純物が存在していると、電極が腐食することがある。この現象は半導体中で断線や予期しない絶縁につながり、製品の信頼性を大きく損なうため、この分野における大きな課題となっている。特開2009-144107号公報(特許文献3)では、エポキシ樹脂中の不純物を低減している。しかし一方で、エポキシ樹脂中の不純物が少ない場合でも、無機充填剤中に上記の不純物が含まれていると、やはり電極が腐食する場合があることが判明している。厳密なメカニズムはよくわかっていないが、エポキシ樹脂中の水分に無機充填剤中の不純物が溶出してイオンが発生し、これがエポキシ樹脂内部を移動して電極に到達し、腐食を引き起こすものと考えられる。対策としてイオン捕捉剤を用いる場合もあるが、封止材の本来の機能とは関係のない物質を添加することは望ましいことではない。更に、イオン捕捉剤自体も不純物の一つであるため、外部に流出するリスク等を考慮すると、この課題はイオン捕捉剤を使用せずに解決することが望ましい。すなわち、半導体用樹脂封止材における無機充填剤として、ナトリウム及び塩素に代表される不純物の溶出量が小さいものを用いることが望ましい。特許文献1では、樹脂組成物の誘電率については論述されているが、半導体素子電極及び配線に使用される金属の腐食への対応が考慮されていない。特許文献2の製造方法で得たチタン酸マグネシウムは、その製造方法ゆえに塩素を多く含有する。したがって、特許文献2の製造方法で得たチタン酸マグネシウムは、半導体用樹脂封止材における充填剤の用途に用いるのは難しいと考えられる。
【0006】
特開2007-134465号公報(特許文献4)は、半導体封止用樹脂組成物に添加するフェライト粒子に関する発明であり、このフェライト粒子は、溶出する可溶性イオン量が小さいことが記載されている。しかし、該フェライト粒子の誘電率は明記されていないものの、マグネシウムチタン複酸化物と比較して誘電率は非常に小さいと推測されるため、高誘電率の半導体用樹脂封止材の用途で使用することは難しい。また該フェライト粒子は平均粒子径が10~50μmと粒子サイズが非常に大きいため、高充填率を達成することが難しく、強度の大きな半導体用樹脂封止材を得ることは難しい。
【0007】
また、特許文献4に記載のフェライト粒子では、粒子表面にSiO
2を主成分とする表層部を形成することが可溶性イオンの溶出量の低減に重要な役割を果たしている。しかし、内部の可溶性イオンの溶出を防止するためには、SiO
2を主成分とする表層部はある程度の厚みを有し、更に粒子全体にわたって形成されていることが必要となると考えられる。実際に特許文献4の
図2では、SiO
2を主成分とする表層部は薄い部分でも1500nm程度の厚みがある。SiO
2の比誘電率は文献値で3.8と小さいため、誘電率が大きい物質からなる粒子であっても、粒子がSiO
2を主成分とする厚みのある層で覆われている場合、高誘電率の半導体用樹脂封止材の充填剤としての機能を損なう可能性がある。加えて、衝撃によって表層部に亀裂等が発生し、可溶性イオンが溶出するリスクも考えられる。したがって、表層部に依らずに不純物の溶出量低減を実現することが望ましい。
【0008】
無機複酸化物を得る一般的な方法としては、複数の金属塩を混合し、焼成することが挙げられる。マグネシウムチタン複酸化物についても、チタン源とマグネシウム源を乾式混合し、焼成することによって得ることが可能である(非特許文献1)。しかし、このようにして得られたマグネシウムチタン複酸化物は、一般的に粒子径が小さいため、半導体用樹脂封止材における充填剤に用いた際に分散性が悪く、内部に空隙が発生しやすい。
【0009】
マグネシウムチタン複酸化物については、粒子径が大きいチタン源やマグネシウム源を使用することで、生成物の粒子径を大きくすることは可能であるが、そうして得られたマグネシウムチタン複酸化物は、反応が容易には完結せず、未反応物である二酸化チタンを含有するなどの課題があり、特性の安定性に欠けるものであった。このため、誘電率をはじめとする特性の厳密な制御が求められる半導体用樹脂封止材の分野で使用することは難しかった。
【0010】
一方で、チタン源とマグネシウム源を湿式混合した後に焼成してマグネシウムチタン複酸化物を得る場合、従来の方法ではマグネシウム成分が水中に溶出することで物質量比が安定せず、やはり物性の安定性に欠けていた。更に水中に存在する物質は生成物中に残存するため、不純物の含有量が小さいマグネシウムチタン複酸化物を得ることは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002-265797号公報
【特許文献2】特開2001-072418号公報
【特許文献3】特開2009-144107号公報
【特許文献4】特開2007-134465号公報
【非特許文献1】田中 泰夫「酸化マグネシウムと酸化チタンとの固相反応(第一報)」日本化学会誌第60巻2号P.212-218
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ナトリウム溶出量及び塩素溶出量を低減したマグネシウムチタン複酸化物からなる粉末を提供することを課題とする。更に適度な範囲の粒子径を有し、未反応物である二酸化チタンを含有しない、半導体用樹脂封止材における無機充填剤として用いる際に好適なマグネシウムチタン複酸化物からなる粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、マグネシウムチタン複酸化物におけるナトリウム溶出量及び塩素溶出量の低減について鋭意検討を行った結果、原料を湿式混合した後でアルカリを添加してpHを9.5以上13.0以下に調整し、ろ液の電気伝導度が所定の値以下となるまで水洗した上で焼成し、酸で処理した後に更に再度水洗することで、上記の条件を満たすマグネシウムチタン複酸化物からなる粉末を得た。
【0014】
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末は、後述の方法で測定した粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量が100mg以下であり、塩素溶出量が50mg以下である。また、粉末を構成する粒子は透過型電子顕微鏡による平均一次粒子径が300nm以上5000nm以下であり、更に後述する条件で測定するX線回折において、二酸化チタンのピークが観察されない。本発明は、これらに限定されないが、以下を含む。
[態様1]
透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径が300nm以上5000nm以下であり、
粉末を水に100g/Lの濃度で浸漬し、95℃で20h保持した際に粉末中から水に溶出する粉末中のナトリウム量が粉末1.0kgあたり100mg以下であり、塩素量が粉末1.0kgあたり50mg以下であり、
X線回折において二酸化チタンのピークが観察されない、マグネシウムチタン複酸化物粉末。
[態様2]
粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量が1000mg以下であり、かつ粉末1.0kgあたりの塩素含有量が50mg以下である態様1に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末。
[態様3]
含有するナトリウムのうち、水に溶出するナトリウムが85mmol/mol以下である、態様1又は2に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末。
[態様4]
煮あまに油吸油量が14mL/100g以上45mL/100g以下である、態様1から3のいずれかに記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末。
[態様5]
レーザー散乱回折式粒度分析法により測定したメディアン径が0.5μm以上10.0μm以下である、態様1から4のいずれかに記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末。
[態様6]
X線回折において回折角度2θが32.00°以上33.50°以下の範囲に出現するMgTiO3の(104)面における結晶子径が60nm以上130nm以下の範囲である、態様1から5のいずれかに記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末。
[態様7]
以下の工程A~Eを含む、態様1から6のいずれかに記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末の製造方法。
A:湿式状態においてチタン源とマグネシウム源を混合し、アルカリを添加し、pH9.5以上13.0以下の範囲に調整してスラリーを得る工程、
B:工程Aで得たスラリーを液体部分の電気伝導度が300μS/cm以下になるまで水洗し、固液分離してチタン源とマグネシウム源の混合物を得る工程、
C:工程Bで得た混合物を焼成し、チタン源とマグネシウム源を反応させ、焼成物を得る工程、
D:工程Cで得た焼成物を、酸を用いて洗浄した後、pH4.0以上7.0以下の範囲に調整してスラリーを得る工程、
E:工程Dで得たスラリーを液体部分の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで水洗し、固液分離して固形分を得る工程、
F:工程Eで得た固形分を乾燥する工程。
[態様8]
前記工程Aで添加するアルカリがナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物である、態様7に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末の製造方法。
[態様9]
粉末を構成する粒子の表面の少なくとも一部に、無機物又は有機物の被覆層を付す工程をさらに含む、態様7又は8に記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末の製造方法。
[態様10]
粉末表面に無機物又は有機物の被覆層を有する態様1から6のいずれかに記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末。
[態様11]
態様1から6のいずれかに記載のマグネシウムチタン複酸化物粉末を含有する、半導体用樹脂封止材内に用いる無機充填剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末は、半導体用樹脂封止材における充填剤の用途で使用する際、ナトリウム及び塩素の溶出量が小さいため、電極及び配線に使用されている金属の腐食を防ぐことが可能である。また、粒子サイズが適度であるために使用性にも優れ、更に未反応物(二酸化チタン)を含有していないため特性が安定している。マグネシウムチタン複酸化物はチタン酸塩の中では誘電率が小さいため、本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末を使用することで、高誘電率の半導体用樹脂封止材の誘電率をきめ細かく調整することが可能となる。
【0016】
本発明の効果の一つとして、粉末自体の有するナトリウム含有量に多少のバラツキが存在していても、粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は100mg以下となることが挙げられる。ナトリウムの溶出量は低減したいが製造過程や製品の特性の関係で粉末中のナトリウム含有量を低減することが難しい場合においても、本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末とその製造方法は好適である。
【0017】
更に本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末の効果の一つとして、粉末を形成する粒子の表面に被覆層を有していなくても、ナトリウム及び塩素の溶出量が小さいことが挙げられる。これにより、衝撃などの物理的要因、あるいは有機溶媒や酸・塩基といった化学的要因で粒子表面の一部が損なわれた場合にナトリウム及び塩素の溶出量が急増することがないという利点が得られる。また本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末を形成する粒子の表面に被覆層を新たに形成した場合でも、上記の効果は損なわれない。以上より、本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末を用いることができる工程、樹脂の種類及び併用する物質の幅は広く、設計の自由度が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例4で得たマグネシウムチタン複酸化物粉末の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例3で得たマグネシウムチタン複酸化物粉末のX線回折パターンである。
【
図3】実施例9で得たマグネシウムチタン複酸化物粉末の粒度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末及びその製造方法について、以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。
本明細書中で「粉末」とは、粒子が集合したものである。
【0020】
本明細書中で単に「チタン酸マグネシウム」と記した場合、MgTiO3を指す。また単に「二酸化チタン」と記した場合、TiO2を指す。
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末はチタン酸マグネシウムからなるが、Mg2TiO4であるチタン酸二マグネシウム及びMgTi2O5である二チタン酸マグネシウムが含まれていてもよい。チタン酸マグネシウム、チタン酸二マグネシウム、及び二チタン酸マグネシウムの合計で、マグネシウムチタン複酸化物粉末の質量のうち900g/kg以上を占めることが好ましく、950g/kg以上であることがより好ましく、980g/kg以上であることが更に好ましい。上限は特に限定されず、上記の物質以外の成分が全く存在しない、すなわち上記の物質の合計が1000g/kgを占めることが最も好ましい。
【0021】
本実施形態のマグネシウムチタン複酸化物粉末は、粉末を100g/Lの濃度で水に分散し、95℃で20h保持後、固液分離する熱水抽出試験において、マグネシウムチタン複酸化物粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量が100mg以下かつ塩素溶出量が50mg以下である。ナトリウム及び塩素の溶出量を上記の範囲に制御することで、半導体用樹脂封止材における充填剤として好適に使用することができる。一方で、ナトリウム溶出量及び/又は塩素溶出量が上記の範囲より大きい場合、半導体素子電極及び配線に使用されている金属を腐食させ、本発明の目的を満たすことができない。下限は特に限定されず、ナトリウム、塩素共に全く溶出しない、すなわち溶出量が0mgであることが最も好ましい。好ましくは、マグネシウムチタン複酸化物粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量が50mg以下、塩素溶出量が30mg以下であり、より好ましくはナトリウム溶出量が20mg以下、塩素溶出量が10mg以下であり、ナトリウム溶出量は更に好ましくは10mg以下である。
【0022】
本実施形態のマグネシウムチタン複酸化物粉末を構成する粒子は、透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径が300nm以上5000nm以下である。平均一次粒子径が300nm以上5000nm以下であれば、粒子の比表面積が大きくなり過ぎないためナトリウム及び塩素の溶出が抑制され、また樹脂中での分散性が向上して樹脂との間に空隙が生じにくくなると同時に、樹脂への充填率を大きくすることが容易となり、使用性が向上する。下限は、好ましくは310nm以上、より好ましくは400nm以上、更に好ましくは500nm以上であり、上限は好ましくは3000nm以下、より好ましくは2000nm以下、更に好ましくは1500nm以下、一層好ましくは1000nm以下である。透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径の評価方法は後述する。
【0023】
本実施形態のマグネシウムチタン複酸化物粉末は、X線回折測定において二酸化チタンのピークが観察されない。二酸化チタンのピークが観察されないということは、製造工程において反応が完了していることの証左であり、得られたマグネシウムチタン複酸化物は半導体用樹脂封止材における充填剤の用途に使用するのに十分な純度を有していると言える。X線回折測定の方法は後述する。なお、二酸化チタンピークが「観察されない」とは、二酸化チタンのピークが後述する方法で印刷したパターン上で確認できないことを指すが、しきい値を定めるのであれば、二酸化チタンのピーク強度がマグネシウムチタン複酸化物の(104)面のピーク強度に対して2.0%未満である状態を指す。
【0024】
本実施形態のマグネシウムチタン複酸化物粉末の特に優れた点として、含有するナトリウムが水に溶出しにくいことが挙げられる。本実施形態のマグネシウムチタン複酸化物粉末では、粉末に含まれるナトリウムのうち85mmol/mol以下しか水に溶出しない。完全には解明されていないが、本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末中のナトリウムは、マグネシウムチタン複酸化物の構造の内部に強固に保持されていると考えられる。後述する本発明の製造方法を採用することにより、例えば、従来用いてきた原料組成や原料配合比を大きく変更することなく、ナトリウム溶出量が小さい無機充填剤を得ることが可能となる。含有するナトリウムのうち水に溶出するナトリウムの割合の上限は、より好ましくは80mmol/mol以下であり、更に好ましくは60mmol/mol以下である。下限は特に限定されず、全く溶出しない0mmol/molが最も好ましい。
【0025】
本実施形態のマグネシウムチタン複酸化物粉末は、電極及び配線に使用されている金属の腐食を抑制するという観点から、ナトリウム及び塩素以外の不純物の溶出量も小さいことが好ましい。特に硫黄及びアンモニアの溶出量が小さいことが好ましい。具体的には、前述の熱水抽出試験において、硫黄については四酸化硫黄イオン換算で溶出量が粉末1.0kgあたり10mg以下であることが好ましく、アンモニアについてはアンモニウムイオン溶出量が粉末1.0kgあたり10mg以下であることが好ましい。下限は特に限定されず、硫黄、アンモニア共に全く溶出しない、すなわち溶出量が0mgであることが最も好ましい。水に溶出した四酸化硫黄イオン及びアンモニウムイオンの評価方法は特に制限されないが、代表的にはJISK0102:2019に準じた方法で、イオンクロマトグラフ法やインドフェノール青吸光光度法を用いた方法を用いて評価することができる。その他の不純物についても、溶出量は小さいことが望ましい。
【0026】
本実施形態のマグネシウムチタン複酸化物粉末は、ナトリウム及び塩素の溶出量を低減するという本発明の目的に照らし合わせて、ナトリウム及び塩素の含有量が小さいことが好ましい。マグネシウムチタン複酸化物粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量が1000mg以下、塩素含有量が50mg以下であれば、溶出量は許容範囲内となりやすい。ナトリウム含有量の上限は、より好ましくはマグネシウムチタン複酸化物粉末1.0kgあたり900mg以下、塩素含有量の上限は、より好ましくはマグネシウムチタン複酸化物粉末1.0kgあたり30mg以下である。ナトリウム及び塩素の含有量の評価方法は後述する。
【0027】
ナトリウム含有量の下限は特に限定されない。しかし、基本的にはナトリウム及び塩素の含有量を低減するほど、水洗等に必要なコストは増加する。コストを抑えた上で溶出量を低減するという二つの目的を達成する観点に立てば、一概には言えないが、マグネシウムチタン複酸化物粉末1.0kgあたりのナトリウムの含有量が200mg以上、塩素含有量が5mg以上が好ましい範囲と言える。もちろん、コストが度外視できる場合は、ナトリウム、塩素ともに含有量が小さければ小さいほど好ましい。
【0028】
本実施形態のマグネシウムチタン複酸化物粉末を構成する粒子は、X線回折での2θが32.00°以上35.50°以下の範囲に出現するチタン酸マグネシウムMgTiO3の(104)面における結晶子径が60nm以上130nm以下であることが好ましい。結晶子径が上記範囲であれば、結晶格子の歪みが本発明の目的に照らし合わせて許容範囲内であると言える。結晶子径は、より好ましくは下限は90nm以上であり、また上限は120nm以下である。
【0029】
本実施形態のマグネシウムチタン複酸化物粉末は、煮あまに油吸油量が14mL/100g以上45mL/100g以下であることが好ましい。煮あまに油吸油量が上記範囲であれば、粒子の比表面積が小さくなることでナトリウム及び塩素の溶出が抑制され、更に充填剤として使用する際に使用性が良好となる。より好ましくは、上限は20mL/100g以下である。煮あまに油吸油量は、後述するJIS K5101-13-2に準拠した方法で評価する。
【0030】
本実施形態のマグネシウムチタン複酸化物粉末は、レーザー散乱回折法により求めたメディアン径が0.5μm以上10.0μm以下であることが好ましい。メディアン径が上記の範囲内であれば、大きな二次凝集粒子が生じにくく、かつ粒子が流体中で一定以上の大きさを保つことができると判断できる。より好ましくは、上限は5.0μm以下であり、更に好ましくは4.0μm以下である。メディアン径は、後述するJIS -Z -8825:2013に準じた方法で評価する。
【0031】
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末を構成する粒子における粒子径の分布や粒子形状については、特に限定されない。但し本発明の目的を考慮すると、粒子径の分布が小さく、粒子表面に凹凸が少ない方が望ましいと言える。
【0032】
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末を構成する粒子の比表面積は特に限定されない。あくまで目安としては、比表面積が0.5m2/g以上6.0m2/g以下であれば、ナトリウム及び塩素の溶出が抑制され、また樹脂中での分散性が向上して樹脂との間に空隙が生じにくくなると同時に、樹脂への充填率を大きくすることが容易となるので好ましい。より好ましくは上限は5.0m2/g以下である。比表面積はBET法で評価することができる。このような比表面積の範囲においてナトリウム及び塩素の溶出量が小さいマグネシウムチタン複酸化物粉末を得ることができることは、本発明の優れた特徴の一つであると言える。
【0033】
(製造方法)
以下、本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末の製造方法について述べる。
本実施形態のマグネシウムチタン複酸化物粉末は、以下の工程AからFを含む製造方法により製造することができる。
A:湿式状態においてチタン源とマグネシウム源を混合し、アルカリを添加し、pH9.5以上13.0以下の範囲に調整してスラリーを得る工程、
B:工程Aで得たスラリーを液体部分の電気伝導度が300μS/cm以下になるまで水洗し、固液分離してチタン源とマグネシウム源の混合物を得る工程、
C:工程Bで得た混合物を焼成し、チタン源とマグネシウム源を反応させ、焼成物を得る工程、
D:工程Cで得た焼成物を、酸を用いて洗浄した後、pH4.0以上7.0以下の範囲に調整してスラリーを得る工程、
E:工程Dで得たスラリーを液体部分の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで水洗し、固液分離して固形分を得る工程、
F:工程Eで得た固形分を乾燥する工程。
【0034】
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末の製造方法の特徴の一つとして、主にチタン源とマグネシウム源をpH9.5以上13.0以下の領域で湿式混合し、液体部分の電気伝導度が所定の値以下となるまで水洗した後焼成し、酸で処理することが挙げられる。工程Aの湿式混合時のpHを「第一調整pH」と記す。
【0035】
チタン源としては、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、アナターゼ型とルチル型の2相を有する二酸化チタン及びメタチタン酸が挙げられる。特に限定はされないが、代表的には、拡散速度の観点からマグネシウム源との反応を完結させることが比較的容易であるメタチタン酸が挙げられる。メタチタン酸は、粒子径が大きいマグネシウムチタン複酸化物を得る上でも有利である。チタン源は一般的に、製品中に不純物として残存し得る物質の含有量が小さいものが望ましい。マグネシウム源と混合する前に、チタン源を焼成してもよい。
【0036】
マグネシウム源は特に限定されないが、代表的には、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、硝酸マグネシウム及び塩化マグネシウムなどのマグネシウム塩ならびに酸化マグネシウムを挙げることができる。マグネシウム源は一般的に、マグネシウムを多く含有し、チタン源と反応しやすく、更に製品の腐食の原因となる塩素や硫黄といった不純物を含まない、水酸化マグネシウム又は炭酸マグネシウムが好ましい。マグネシウム源は、チタン源と混合する前に予め粉砕してもよい。
【0037】
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末を製造する際は、湿式で原料混合を行うことが好ましい。湿式で原料を混合することで、マグネシウム源及びチタン源はマクロの領域でより均一に混合され、更に水分の蒸発によってマグネシウム源とチタン源の間の距離が縮まる。この結果、平均一次粒子径がより大きい粒子を得ることが可能となる。こうして得られたマグネシウムチタン複酸化物粉末は、未反応物が残存する蓋然性も小さい。
【0038】
マグネシウム源とチタン源は任意の方法で湿式混合することができる。混合の際には、らいかい機、ミキサー、ミルなどの装置を必要に応じて使用することができる。一般的には、チタン源やマグネシウム源を粉砕する必要がある場合には、粉砕と混合を同一プロセスで行えば効率が良い。最終的に粉砕されたチタン源とマグネシウム源が混合されていれば、手順に特に制限はない。その際は、マグネシウム源とチタン源は、なるべく小粒径の材料を使用することが好ましい。チタンとマグネシウムの物質量比が適切であっても、チタン源とマグネシウム源とが均一に混合されていなければ、目的のマグネシウムチタン複酸化物粉末が得られないことがあるため、均一に混合することが望ましい。
【0039】
チタン源とマグネシウム源との混合の際、反応を完結させるためには、チタンの物質量を1.0molとしたときマグネシウムの物質量は1.0molより大きいことが好ましい。完全には解明されていないが、湿式混合時にチタンに対してマグネシウムを過剰にすることで、個々のチタン源がマグネシウム源と接触しやすくなると考えられる。チタンの物質量1.0molに対するマグネシウムの物質量は1.1mol以上がより好ましく、1.2mol以上が更に好ましい。チタンの物質量1.0molに対するマグネシウムの物質量の上限は特に制限されないが、マグネシウムの物質量が過度に大きい場合、マグネシウムチタン複酸化物粉末を得るためのコストが大きくなる。一概には言えないものの、チタンの物質量を1.0molとしたときにマグネシウムの物質量が3.0mol以下であれば、低コストで製造することができるので好ましく、より好ましくは2.0mol以下、更に好ましくは1.6mol以下である。
【0040】
原料混合工程Aではアルカリを添加し、第一調整pHを9.5以上13.0以下の範囲とすることで、マグネシウムの過剰な溶解を防ぎ、物質量比を安定させることができる。第一調整pHが上記の範囲内であれば、マグネシウムとチタンの物質量比が適切な範囲に保たれ、未反応物を含まないマグネシウムチタン複酸化物粉末を得ることができる。また、平均一次粒子径の大きな粒子から構成されるマグネシウムチタン複酸化物を得る上でも、アルカリを添加した方が有利である。第一調整pHは下限は9.7以上が好ましく、9.9以上がより好ましく、10.0以上が更に好ましく、11.0以上が一層好ましい。上限は12.0以下がより好ましい。
【0041】
前述のアルカリとしては、ナトリウム、カリウム及びカルシウムなどの化合物を使用することができる。特に、これらの水酸化物が好ましい。また、溶解度や使用性を考慮すると、ナトリウム又はカリウムを含む化合物がより好ましい。これらの化合物を二種類以上組み合わせて使用してもよい。特に好ましいのは、水酸化ナトリウムである。ナトリウムを含む化合物を添加した場合でもナトリウム溶出量が小さいマグネシウムチタン複酸化物粉末を得ることができることは、本発明の製造方法の優れた特徴の一つであると言える。
【0042】
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末の製造方法のもう一つの特徴として、添加したアルカリを除去するため、原料混合工程(工程A)の後に水洗による洗浄(工程B)を実施することが挙げられる(工程Bの水洗を「第一水洗」と記す)。水洗には、断りのない限りイオン交換水を用いる。以下に、フィルタープレスを用いた第一水洗の方法を示す。フィルタープレスを用いる際は、正洗浄と逆洗浄の両方を実施する。なお、正洗浄とはスラリー供給口からケーキに洗浄液を流す洗浄方法であり、逆洗浄とはろ布からケーキに洗浄液を流す洗浄方法である。正洗浄で除去できなかった不純物の少なくとも一部を、逆洗浄を追加することで除去することができる。水洗を実施している最中にナトリウムや塩素の溶出量、あるいは含有量を評価するのは、所要時間や装置の容量の面から現実的ではない。ここで、ろ液の電気伝導度は水に溶出するナトリウムや塩素に代表される不純物の量と相関があると考えられるため、採取したろ液の電気伝導度を指標として、正洗浄と逆洗浄の切り替えや水洗の終了を判断する。少なくとも、液体部分(ろ液)の電気伝導度が300μS/cm以下となるまでは、第一水洗を継続する。水洗に掛かる時間は原料の量や気温、水温等の条件によって大きく異なるため、特に限定されない。なお、後述する実施例及び比較例における第一水洗を再現する際に必要な時間は、あくまで目安としては、1時間以上24時間以内である。液体部分の電気伝導度は100μS/cm以下とするのがより好ましく、20μS/cm以下とするのが更に好ましい。なお、液体部分の電気伝導度が所定の値以下となるように調整するに際し、水洗時間が長くなることで製造コストが増加するものの、生成するマグネシウムチタン複酸化物粉末の特性には特に悪影響は生じない。
【0043】
水洗工程では、ろ過や固液分離を効率的に進めるため、例えばフィルターの目詰まり防止等の目的で必要に応じて凝集剤を添加することができる。凝集剤の種類は特に制限されず、アルミニウム系や鉄系に代表される無機凝集剤、高分子凝集剤のいずれも使用することができる。不純物の溶出量や未反応物の含有量を低減したマグネシウムチタン複酸化物粉末を得る、という本発明の目的を考慮すると、焼成等の工程によって成分が容易に除去される高分子凝集剤の方が、好ましいと言える。このうち高分子凝集剤はアニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれも使用することができる。無機凝集剤と高分子凝集剤を併用してもよく、二種類以上の無機凝集剤、あるいは二種類以上の高分子凝集剤を使用してもよい。一般的には、スケール、スラリーのpHや濃度、所望するフロックのサイズや粘性、凝集剤の性状や価格、といった要素を考慮して使い分ける。例えば、これらに限定されないが、ポリアクリルアミドに代表されるアニオン系高分子凝集剤、ポリアクリルエステルやポリメタクリル酸エステルに代表されるカチオン系高分子凝集剤などを必要に応じて使用してもよい。
【0044】
第一水洗に使用できる方法としては、フィルタープレスを用いた方法以外にも、デカンテーション法が挙げられる。デカンテーション法ではアルカリを添加したスラリーを容器内で静置し、固形分が容器の底に沈降したことを確認した上で上澄みを廃棄する。再度水を足して沈降し、これを不純物が除去できるまで繰り返す。フィルタープレスを用いる場合と同じ理由で、液体部分(上澄み液)の電気伝導度を指標とすることが好ましい。洗浄で用いる容器の構造や大きさは特に限定されないが、水をいっぱいに入れた時に、水の重量が固形分の3倍以上、より好ましくは5倍以上、更に好ましくは10倍以上となるような容器を選定する。また、デカンテーション法のみでは固いケーキを得ることが難しいので、上澄みの電気伝導度が基準値に達したら、スラリーをフィルタープレスにかけることで含水ケーキを得ることができる。デカンテーション法はフィルタープレス法よりも自動化に難がある反面、必要な水量が小さく、また沈降物の性状を直接確認できるため、試料が少量である時や生成物の性状が不明である時に使用することが望ましい。他にもヌッチェを用いた方法を挙げることができる。これらの二種類以上の方法を組み合わせてもよい。いずれにせよ、例えばデカンテーション法では上澄み液、ヌッチェを用いた方法であればろ液の電気伝導度が300μS/cm以下となるまで第一水洗を継続する。
【0045】
第一水洗後に得られた含水ケーキに対しては、固液分離を行う。
固液分離で得られたチタン源とマグネシウム源の混合物を次いで乾燥する。乾燥温度は70℃以上170℃以下が好ましい。上記の温度範囲内であれば、混合物中で反応が進行することはない。
【0046】
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末を製造する際は、チタン源とマグネシウム源以外の物質を添加する必要はないが、必要に応じて、混合助剤や焼成を促進又は阻害する物質、硬度を調整する物質を添加してもよい。具体的には、混合のために水を添加する、焼成の助剤にLi2Oを添加する、内部に微細な空洞を作って強度を低下させるために糖などの有機物を添加する等が挙げられる。本発明においては、上記添加物中の成分が本発明の目的を損なうことのないように、添加物中に含まれる成分の種類及び含有量を管理する必要がある。
【0047】
得られた混合物を焼成することで、チタン源とマグネシウム源を反応させる(工程C)。焼成温度は、純度の大きいマグネシウムチタン複酸化物を得ることができることから700℃以上が好ましい。特に高温で焼成することにより、マグネシウム源とチタン源の反応が進行しやすくなる。この結果、未反応のチタン源の残存が無くなり、高純度のマグネシウムチタン複酸化物粉末を合成することが可能である。また、高温で焼成することにより、比表面積の小さい粒子形状となることから、マグネシウムチタン複酸化物粉末の表面からの、不純物の溶出が抑制される。焼成温度は800℃以上がより好ましく、900℃以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、あまりにも高温にするとマグネシウムチタン複酸化物粉末を得るためのコストが大きくなり、使用できる設備や安全面での制約も増す。一般的に、焼成温度が1200℃を超えなければ、工業的に容易に生産することができるため、1200℃以下が好ましい。焼成時間は特に制限されないが、0.5h以上が好ましく、0.67h以上がより好ましい。一般的に、焼成前には水分がなるべく除去できていることが、所望の反応を進行させる上で好ましい。
【0048】
焼成によって得られた粉体を構成する粒子は、焼成直後はその粒子表面に酸化マグネシウムに代表される副生成物が存在する。これらの副生成物を溶解、除去するために、酸を用いて粉体を洗浄する必要がある(工程D)。洗浄の操作自体は、安全性やろう洩への対策を除き、化学実験における一般的な水を用いた粉体の洗浄と何ら変わらない。酸の種類やpHは特に制限されないが、安価で、またマグネシウムチタン複酸化物粉末表面に残存しにくい、塩酸などが好ましい。酸を用いた洗浄は複数回実施してもよい。また、酸を用いた洗浄を行う前に粉体を水洗してもよい。更に、例えば、酸を用いた洗浄、水洗、再び酸を用いた洗浄、のように、酸を用いた洗浄と水洗とを交互に繰り返して実施してもよい。酸を用いた洗浄から水洗工程に移る前にpHを4.0以上7.0以下の範囲に調整する(以下「第二調整pH」と記す)。第二調整pHが4.0以上7.0以下であれば、生成物の物質量比や生成量を大きく変化させることなく、ナトリウム及び塩素の溶出量を低減することが可能である。第二調整pHの上限は6.5以下が好ましく、6.0以下がより好ましい。下限は4.5以上が好ましく、4.7以上がより好ましい。製造工程中に例えば塩酸のような塩素を含む化合物を用いた場合でも塩素溶出量が小さいマグネシウムチタン複酸化物粉末を得ることができることは、本発明の製造方法の優れた特徴の一つであると言える。
【0049】
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末の製造方法の三番目の特徴として、上記の酸を用いた洗浄(工程D)を終えた後、更に水洗による洗浄(工程E)を行う(以下「第二水洗」と記す)。通常はフィルタープレスを用い、第二水洗においても、第一水洗と同様に正洗浄と逆洗浄の両方を実施する。液体部分(フィルタープレスの場合はろ液)の電気伝導度の値から不純物の残量を推測し、水洗方法の切り替えや水洗の終了を判断する。第二水洗については、液体部分の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで洗浄を継続する。水洗時間は特に限定されないが、一般的には第一水洗と同程度、若しくは第一水洗よりも短いことが多い。第二水洗が終了した含水ケーキについても、やはり固液分離を行う。
【0050】
第二水洗についても、デカンテーション法やヌッチェを用いた方法に代表される、フィルタープレスを使用しない方法で実施してもよい。これらの方法を適宜組み合わせて水洗を実施してもよい。いずれにせよ、例えばデカンテーション法では上澄み液、ヌッチェを用いた方法であればろ液の、電気伝導度が100μS/cm以下となるまで第二水洗を継続する。
【0051】
得られた固形分は、水分を除去するために乾燥する(工程F)。乾燥温度は70℃以上170℃以下が好ましい。
乾燥品は、適宜粉砕してもよい。粉砕の方法は特に限定されない。ボールミル、振動ミル、ジェットミル、衝突式粉砕機など、公知の方法を制限なく用いることができる。粉砕の方法は、粒子サイズや粉砕品中の粗粒子の割合、コストなどを考慮して決定する。また、粉砕後に分級などの操作を実施してもよい。これらの操作は、何ら制限されない。
【0052】
得られたマグネシウムチタン複酸化物粉末は、封止樹脂中での流動性の向上や樹脂組成物の強度の向上のため、粉体を構成する粒子の表面の少なくとも一部に、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、チタン、ジルコニウム、鉄、セリウム及びスズ等の金属の含水酸化物又は酸化物のような無機物の被覆層を付してもよい。上記以外の金属塩を無機物の被覆として用いてもよい。また、粒子の表面の少なくとも一部に、表面改質を施すために、有機物の被覆層を付してもよい。被覆層を形成する場合には、高誘電率で不純物の溶出量が小さい半導体用樹脂封止材を得る、という本発明の目的を考慮すると、被覆層の形成に用いる材料の添加量を大きくし過ぎないことが好ましく、更に材料中の成分を管理することが望ましい。なお、このような目的で形成される被覆層は、被覆する物質が3分子程度重なった層があれば役割を果たすものであり、多くても5分子程度重なった層があれば十分であると考えられる。例えば、後述する方法で評価した被覆後の平均一次粒子径から被覆前の平均一次粒子径を減じた値は200nm以下が好ましい。また、被覆層の質量は粒子全体の50g/kg未満が好ましい。また、本発明においては被覆の前後で粉末の誘電率が変化しないことが好ましい。
【0053】
有機物の被覆としては、ジメチルポリシロキサン、ハイドロゲンジメチコン、ポリシロキサン等のシリコーン化合物、シラン系、アルミニウム系、チタン系及びジルコニウム系等のカップリング剤、炭化水素、レシチン、アミノ酸、ポリエチレン、ロウ、金属石けん等を処理することを挙げることができる。これらの処理を複数組み合わせてもよく、その際の処理の順番に特に制限はない。表面処理の方法は特に限定されず、慣用される方法を用いればよい。例えば、ヘンシェルミキサー等の高速かくはん混合機中で乾式処理を行う方法、あるいは当該導電性粉末を有機溶媒や水に分散させて懸濁液とし、その溶液中に有機物を添加して被覆処理を行う方法等がある。有機物を表面に均一に処理する場合には後者の溶液中での処理が適しているが、有機溶媒系の場合には蒸留操作、粉砕等、水系の場合には固液分離、乾燥及び粉砕等の工程が必要となる。したがって、製造の容易さ、コストの点ではヘンシェルミキサー等の高速かくはん混合機を用いた方法が好ましい。また、被覆層の材料と粉体とを混合した後、加熱処理するなどの方法を用いて被覆層を形成させることができる。表面処理をどの工程で実施するかは何ら制限されないが、一般的には酸による洗浄を含め、洗浄や乾燥を実施して、ある程度純度を高めた後に実施する方が、被覆率が大きく、また被覆層が剥離しにくいため、好ましい。
【0054】
(用途)
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末は、主にエポキシ樹脂組成物等からなる半導体用樹脂封止材における充填剤として好適に使用することができ、該樹脂組成物に耐湿性、曲げ強度、及び良好な流動性を与える等、優れた性質を付与することができる。このような樹脂組成物で封止された半導体装置は優れた電気的特性を有すると共に、金属の劣化が起こりにくく、耐候性にも優れる等、特性のバランスが良好であり、信頼性の高いものである。半導体用樹脂封止材における樹脂成分の組成は特に限定されない。また、他の充填剤や、例えば難燃剤など他の成分を併用しても良い。
【0055】
本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末は、半導体用樹脂封止材における無機充填剤以外の用途にも使用することができる。例えば、本発明の、未反応物及び不純物の含有量が小さいという特徴は、精密な品質管理が要求される電子材料分野で用いるのに有用であり、具体的にはセラミックコンデンサ等が挙げられる。特に、不純物の溶出量が少ないという特徴は周囲の部材の腐食や劣化が抑制されるため、例えばディスプレイなど、様々な素材を組み合わせて製造する電子部品に用いる際にも非常に有用である。マグネシウムチタン複酸化物の誘電率がチタン酸塩の中では小さいことを活かし、トナー外添剤としての使用も好適である。また、本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末の、粒子サイズが大きく二酸化チタンを含有しないという特徴は、近年の健康意識の高まりを考慮すると、化粧料の分野で用いるのに有利であると言える。
【0056】
実施例の説明に先立ち、本発明で用いた試験方法について説明する。
[ナトリウム・塩素溶出量]
マグネシウムチタン複酸化物粉末を、25.0℃における電気抵抗が18.2MΩ・cmである水(以下「超純水」と記す)1Lに対して100gの割合で添加し、全体が均一になるまで分散した後、95℃のオーブン中で20h保持してナトリウムを抽出し、3000rpmで30minの遠心分離を行って粉末を除去した(これを「遠心分離上澄み液」と記す)。遠心分離上澄み液を、株式会社日立ハイテクサイエンス製誘導結合プラズマ発光分光分析計PS3520UVDD II(以下「ICP」と記す)で測定し、粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量を求めた。
【0057】
塩素濃度は、標準試料を測定して検量線を作成した後、ブランクと抽出した遠心分離上澄み液をサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製イオンクロマトグラフDIONEX(登録商標)INTEGRION(登録商標)(以下「イオンクロマトグラフ」と記す)で測定し、粉末1.0kgあたりの塩素溶出量を求めた。なお、本装置の塩素の含有量の検出下限は、遠心分離上澄み液1.0kgに対して塩素0.2mgである。これより、マグネシウムチタン複酸化物粉末1.0kgに対して塩素2mg未満である場合、検出限界未満となる。
【0058】
[ナトリウム含有量]
マグネシウムチタン複酸化物粉末0.25gを20mLの酸性溶液中で加熱溶解し、冷却後、超純水を加えて5倍に希釈した。また、マグネシウムチタン複酸化物粉末を加えていない酸性溶液20mLを5倍に希釈した(これを「ブランク」と記す)。それぞれの希釈溶液にナトリウム標準液を3mL加え、ICPを用いて測定した。試料を溶解した溶液中のナトリウム量をb(mg)、ブランク中のナトリウム量をc(mg)とすると、ナトリウム含有量a(mg/kg)は、以下の式で表される。
【0059】
a=1000・(b-c)/0.25
[溶出したナトリウムの割合]
前述の方法で求めたナトリウムの溶出量を、上記の方法で求めたナトリウムの含有量で除した値(mmol/mol)を溶出したナトリウムの割合とした。
【0060】
[塩素含有量]
マグネシウムチタン複酸化物粉末0.05gを、日東精工アナリテック株式会社製燃焼分解装置AQF-2100Hにおいて、Arガス流量を200mL/min、O2ガス流量を400mL/minに設定し、ヒーターのインレット温度を900℃、アウトレット温度を1000℃として、完全燃焼させた。溶離液の流速は1.5mL/min、カラム温度は35℃とした。粉末の燃焼中に発生したガスを吸収液で吸収した後、吸収液20μLをイオンクロマトグラフへ導入することで、電気伝導度検出器によるクロマトグラムを得た。得られたクロマトグラムはピーク面積を求め、検量線法を用いて塩素含有量を算出した。
【0061】
溶離液は、超純水に炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムを添加し、良くかくはんして炭酸ナトリウム286mg/kg、炭酸水素ナトリウム25mg/kgの水溶液を作成し、これを用いた。吸収液は、超純水にリン酸水素二カリウム及び過酸化水素溶液を添加し、良くかくはんしてリン25mg/kg、過酸化水素0.3mL/Lの水溶液を作成し、これを用いた。なお、試薬の規格は、クロマトグラフィー用の規格がある場合はクロマトグラフィー用規格のものを、ない場合は一級のものを用いた。
【0062】
[煮あまに油吸油量]
マグネシウムチタン複酸化物粉末5.0gを、ガラス板状に山盛りにした。予めミクロビュレット中に保持していた煮あまに油を、試料の中心に1滴だけ滴下し、試料全体をヘラで均一に練り合わせた。同様に1滴、若しくは2滴ずつ煮あまに油を滴下し、練り合わせる作業を繰り返し、試料全体が固い均一なパテ状の塊となった時点で作業を終了した。使用した煮あまに油量をxmLとすると、吸油量a(mL/100g)は、以下の式で表される。
【0063】
a=100・x/5.0
[平均一次粒子径]
日本電子株式会社製透過型電子顕微鏡JEM-1400plusを用いて測定した。観察倍率は、5000倍とし、粒子径が小さくて粒子径を測定するのが困難な場合は、必要に応じて印刷時に2倍に拡大した。投影画像から100個以上の一次粒子の投影面積円相当径を、拡大の倍率を考慮して測定し、その平均値を算出して、これを本発明における平均一次粒子径とした。
【0064】
[メディアン径]
粒度分布は、マイクロトラック・ベル社製のレーザー光回折散乱式粒度分析計である粒子径分布測定装置マイクロトラック(登録商標)MT3300EX IIを用いて測定した。分散媒には純水を使用した。マグネシウムチタン複酸化物粉末を測定装置に付設した自動試料循環機の超音波分散槽に適量滴下した後に、超音波分散を出力40Wで180s行った。この後に、各計測パラメーターは、イオン交換水の屈折率を1.33、測定対象粒子の光透過性を透過、計測時間を60sとし、積算粒度分布において、体積基準の50%に対応した粒子径をメディアン径とした。
【0065】
[二酸化チタンピーク及び結晶子径]
株式会社リガク製X線回折装置RINT-TTR IIIを用い、粉末法によるX線回折測定を実施した。マグネシウムチタン複酸化物粉末は乳鉢ですり潰した上でセルに約1.5g±0.2gでパッキングし、開始角度は10.0000°、終了角度は75.0000°、サンプリング幅は0.0200°、スキャンスピードは4.0000°/min、発散スリットは0.5°、散乱スリットは0.5°、受光スリットの幅は0.15mm、特性X線は陰極に銅を用い、波長は0.15418nmとした。得られたX線回折パターンを、株式会社リガク製粉末X線解析ソフトウェアPDXL2を用いてバックグラウンド処理し、平滑化及びピーク検出を実施した。25.00°以上28.00°以下に出現する二酸化チタンのピーク強度を算出した。得られたX線回折パターンをA4一ページいっぱいに印刷した際に、二酸化チタンのピークが目視で確認できない、若しくは(104)面のピーク強度を100とした時に二酸化チタンのピーク強度が2.0未満である時は測定に用いた装置のノイズと区別ができないため、二酸化チタンのピークは存在しない(観察されない)、とした。二酸化チタンのピークが存在しない場合には、マグネシウムチタン複酸化物粉末の特性に影響し得る量の二酸化チタンは含有していないと判断できる。ピークが存在する場合、(104)面のピーク強度を100とした時の二酸化チタンのピーク強度を算出した。
【0066】
また、回折角度2θが32.00°以上33.50°以下の範囲に出現したチタン酸マグネシウムMgTiO3の(104)面における結晶子径を算出し、これをマグネシウムチタン複酸化物粉末の結晶子径とした。
【実施例0067】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は単に例示のために示すものであり、発明の範囲がこれらによって何ら制限されるものではない。
なお、実施例及び比較例中に記載のかくはん操作では、液量や液の粘度、容器の形状といった、かくはん時の液の挙動に関係する性状を考慮し、液全体が均一に混合され、かつ飛まつが周囲に飛び散らないように回転数を適切に調整している。また、塩酸など、一般的な市販品であればどの企業の製品を使用しても同じ効果が得られる場合、製造元及び販売元の企業名を省略している。
【0068】
[実施例1]
硫酸法で得られたメタチタン酸を脱鉄漂白処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH9.0とし、脱硫処理を行い、その後、塩酸を添加してpH5.8まで中和し、ろ過水洗を行って、硫黄含有量がSO3換算で9.3g/kgのメタチタン酸ケーキを得た。洗浄済みケーキに水を加えて、Tiとして2.13mol/Lのスラリーとした後、塩酸を加えてpH1.4とし、解こう処理を行った。得られたメタチタン酸スラリーをTiO2として857.4mol採取し、これに神島化学工業株式会社製水酸化マグネシウム#200を1028.8mol分添加した後、当該混合スラリーの第一調整pHが12.0となるように水酸化ナトリウム水溶液を添加した後、2.5hかくはん混合した。
【0069】
得られた混合スラリーについて、凝集剤として、ハイモ株式会社製ハイモロック(登録商標)SS-120 25.7g及びハイモ株式会社製ハイモロック(登録商標)MP-173H 25.7gを同時に添加した後、フィルタープレスを用いて第一水洗を実施した。この時、ろ液の電気伝導度が300μS/cm以下となるまで正洗浄し、その後、逆洗浄に切り替えて、再度ろ液の電気伝導度が300μS/cm以下となるまで水洗した。その後水洗を停止し、ろ過した。
【0070】
得られた固形分を乾燥機中で130℃にて20h乾燥した。乾燥させた固形分は、株式会社ダルトン製パワーミルP-3型を用いてスクリーン径4mmで整粒し、大気雰囲気下において900℃で6h焼成した。焼成物はフロイント・ターボ工業株式会社製ローラーコンパクターWP105x40を用いて粗粉砕した後、ホソカワミクロン株式会社製マイクロパルペライザAP-1(以下「マイクロパルペライザ」と記す)を用いてメッシュ径2mmで粉砕した。次に純水に塩酸を添加した液中で洗浄した。終了後に塩酸を添加して第二調整pHが5.0になるように調整した。更に第二水洗では、ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となるまで正洗浄し、その後、逆洗浄に切り替えて、再度ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となるまで水洗した。固液分離を行い、大気中、120℃で乾燥して、マグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は3mg、塩素溶出量は2mg、平均一次粒子径は410nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは観察されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は896mg、塩素含有量は5mg、溶出したナトリウムは含有量の3mmol/molであり、煮あまに油吸油量は18mL/100g、メディアン径は0.6μm、結晶子径は98nmであった。
【0071】
[実施例2]
焼成温度を1150℃にしたことを除き、実施例1と同様の手順でマグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は5mg、塩素溶出量は2mg、平均一次粒子径は1230nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは観察されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は404mg、塩素含有量は6mg、溶出したナトリウムは含有量の12mmol/molであり、煮あまに油吸油量は14mL/100g、メディアン径は2.6μm、結晶子径は128nmであった。
【0072】
[実施例3]
第一水洗において、正洗浄を開始した後、ろ液の電気伝導度が4000μS/cm以下になった時点で逆洗浄に切り替え、1000μS/cm以下になった時点で正洗浄に再度切り替え、700μS/cm以下になった時点でまた逆洗浄に、500μS/cm以降は電気伝導度が100μS/cm変化する毎に洗浄方法を切り替え、300μS/cm以下となった時点で水洗を終了したこと及び焼成温度を1000℃にしたことを除き、実施例1と同様の手順でマグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は48mg、塩素溶出量は29mg、平均一次粒子径は1320nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは観察されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は631mg、塩素含有量は30mg、溶出したナトリウムは含有量の76mmol/molであり、煮あまに油吸油量は18mL/100g、メディアン径は3.8μm、結晶子径は117nmであった。
【0073】
[実施例4]
焼成温度を1000℃にしたことを除き、実施例1と同様の手順でマグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は4mg、塩素溶出量は4mg、平均一次粒子径は790nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは観察されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は330mg、塩素含有量は5mg、溶出したナトリウムは含有量の12mmol/molであり、煮あまに油吸油量は14mL/100g、メディアン径は1.1μm、結晶子径は113nmであった。
【0074】
[実施例5]
混合スラリーの第一調整pHを11.0に、焼成温度を1050℃にしたことを除き、実施例1と同様の手順でマグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は6mg、塩素溶出量は5mg、平均一次粒子径は770nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは観察されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は261mg、塩素含有量は5mg、溶出したナトリウムは含有量の23mmol/molであり、煮あまに油吸油量は18mL/100g、メディアン径は1.1μm、結晶子径は103nmであった。
【0075】
[実施例6]
混合スラリーの第一調整pHを10.0に調整したことを除き、実施例5と同様の手順でマグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は6mg、塩素溶出量は6mg、平均一次粒子径は700nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは観察されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は221mg、塩素含有量は6mg、溶出したナトリウムは含有量の27mmol/molであり、煮あまに油吸油量は17mL/100g、メディアン径は1.1μm、結晶子径は100nmであった。
【0076】
[実施例7]
第一洗浄を、上澄み液の電気伝導度が300μS/cm以下となるまでデカンテーション法で行い、フィルタープレスでろ過のみを行ったことを除き、実施例3と同様の手順でマグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は14mg、塩素溶出量は6mg、平均一次粒子径は780nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは検出されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は451mg、塩素含有量は12mg、溶出したナトリウムは含有量の31mmol/molであり、煮あまに油吸油量は14mL/100g、メディアン径は1.1μm、結晶子径は102nmであった。
【0077】
[実施例8]
一次粒子の平均粒径が0.18μmの二酸化チタン粉末の表面未処理品3.76molと水酸化マグネシウム5.26molを純水にリパルプし、湿式ビーズミルで分散後、当該分散スラリーの第一調整pHが13.0となるように水酸化ナトリウム水溶液を添加した。得られたスラリーは、実施例1と同様に凝集剤を添加した後に第一水洗を実施し、水洗後の固形分を乾燥機中で150℃にて20h乾燥した。乾燥させた固形分は、大気雰囲気下950℃で0.8h焼成した。得られた焼成品を純水に塩酸を添加した液中で洗浄し、第二調整pHを5.0とした後、実施例1と同様の手順で第二水洗を実施した。その後大気中、120℃で12h乾燥して、マグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は9mg、塩素溶出量は4mg、平均一次粒子径は320nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは観察されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は171mg、塩素含有量は7mg、溶出したナトリウムは含有量の53mmol/molであり、煮あまに油吸油量は42mL/100g、メディアン径は0.6μm、結晶子径は61nmであった。
【0078】
[実施例9]
実施例4で得られたマグネシウムチタン複酸化物粉末をマイクロパルペライザを用いてスクリーン径2mmで粉砕し、表面処理剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランであるダウ・東レ株式会社製XIAMETER(登録商標)OFS-6040 Silaneを粉末に対して5g/kg添加し、三井三池化工機株式会社製ミキサーFM-10Bを用いて周速8m/sで8min混合後、90℃で4h熱処理した。熱処理品はマイクロパルペナライザを用いてスクリーン径0.5mmで粉砕した。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は5mg、塩素溶出量は2mg、平均一次粒子径は790nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは観察されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は262mg、塩素含有量は5mg、溶出したナトリウムは含有量の19mmol/molであり、煮あまに油吸油量は17mL/100g、メディアン径は1.2μm、結晶子径は113nmであった。
【0079】
[実施例10]
表面処理剤として3-アミノプロピルトリエトキシシランであるエボニック・ジャパン株式会社製Dynasylan(登録商標)AMEOを粉末に対して4g/kg用いたことを除き実施例9と同様の手順でマグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は2mg、塩素溶出量は3mg、平均一次粒子径は790nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは検出されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は337mg、塩素含有量は5mg、溶出したナトリウムは含有量の6mmol/molであり、煮あまに油吸油量は14mL/100g、メディアン径は1.2μm、結晶子径は113nmであった。
【0080】
[比較例1]
実施例1と同様にして得たメタチタン酸スラリーをTiO2として8.6mol採取し、これに水酸化マグネシウム10.3molを添加後、当該混合スラリーの第一調整pHが13.0になるように水酸化ナトリウム水溶液を添加した。その後、2.5hかくはん混合した。凝集剤としてハイモ株式会社製ハイモロック(登録商標)SS-120 0.3g及びハイモ株式会社製ハイモロック(登録商標)MP-173H 0.3gを同時に添加した後、第一水洗において、正洗浄を開始し、ろ液の電気伝導度が500μS/cm以下となったら逆洗浄に切り替え、再び500μS/cm以下となったら逆洗浄を終了した。その後ろ過し、水洗後の固形分を乾燥機中で120℃にて20h乾燥した。乾燥させた固形分は、大気雰囲気下1000℃で6h焼成した。
【0081】
得られた焼成品を粉砕し、次に純水に塩酸を添加した液中で水洗した後、第二調整pHを5.0とした。その後の第二水洗も、第一水洗と同様に実施した。大気中、120℃で乾燥して、マグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。得られた粉末1.0kg中のナトリウム溶出量は159mg、塩素溶出量は3mg、平均一次粒子径は820nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは観察されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は3870mg、塩素含有量は6mg、溶出したナトリウムは含有量の41mmol/molであり、煮あまに油吸油量は11mL/100g、メディアン径は1.5μm、結晶子径は106nmであった。
【0082】
[比較例2]
第二水洗のみ、実施例1と同様の手順で実施したことを除いては、比較例1と同様の手順でマグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は134mg、塩素溶出量は3mg、平均一次粒子径は810nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは観察されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は1520mg、塩素含有量は5mg、溶出したナトリウムは含有量の88mmol/molであり、煮あまに油吸油量は12mL/100g、メディアン径は1.1μm、結晶子径は101nmであった。
【0083】
[比較例3]
焼成温度を1000℃とし、第二水洗を実施せずに、水で軽くゆすいだ試料を乾燥したことを除き、実施例1と同様の手順でマグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。なお、軽くゆすいだ水の電気伝導度は19000μS/cmであった。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は10mg、塩素溶出量は170mg、平均一次粒子径は810nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは観察されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は383mg、塩素含有量は173mg、溶出したナトリウムは含有量の26mmol/molであり、煮あまに油吸油量は13mL/100g、メディアン径は1.2μm、結晶子径は113nmであった。
【0084】
[比較例4]
一次粒子の平均粒径が0.18μmの二酸化チタン粉末の表面未処理品3.76molと炭酸マグネシウム5.26molを月島マシンセールス株式会社製振動ミルAH-1で2h乾式混合した。当該混合粉末をそのまま大気雰囲気下950℃で0.8h焼成した。焼成品を取り出した後の操作については、実施例1と同様に実施して、マグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は1mg、塩素溶出量は検出限界未満、平均一次粒子径は250nmであり、X線回折測定において、二酸化チタンのピークは観察されなかった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は144mg、塩素含有量は3mg、溶出したナトリウムは含有量の7mmol/mol、であり、煮あまに油吸油量は43mL/100g、メディアン径は0.6μm、結晶子径は61nmであった。
【0085】
[比較例5]
水酸化マグネシウムを添加後、水酸化ナトリウム水溶液を全く添加せず、第一水洗を実施したこと及び焼成温度を1000℃にしたことを除き、実施例1と同様の手順でマグネシウムチタン複酸化物粉末を得た。なお、水酸化マグネシウムを添加した後のpHは9.4であった。得られた粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量は2mg、塩素溶出量は2mg、平均一次粒子径は770nmであった。X線回折測定において、二酸化チタンのピークが観察され、(104)面のピーク強度を100とした時の強度は25.9であった。粉末1.0kgあたりのナトリウム含有量は205mg、塩素含有量は6mg、溶出したナトリウムは含有量の10mmol/molであり、煮あまに油吸油量は18mL/100g、メディアン径は1.0μm、結晶子径は101nmであった。
【0086】
表1は実施例及び比較例のマグネシウムチタン複酸化物粉末の製造条件を、表2は実施例及び比較例で得られたマグネシウムチタン複酸化物粉末の特性を示す。
【0087】
【0088】
【0089】
表2に示す通り、湿式混合を行ったあとアルカリを添加し、焼成の前に液体部分の電気伝導度が300μS/cm以下となるまで水洗し(第一水洗)、更に焼成の後に酸で洗浄した後、液体部分の電気伝導度が100μS/cm以下となるまで水洗を行う(第二水洗)ことで、粉末1.0kgあたりのナトリウム溶出量が100mg以下、塩素溶出量が50mg以下であり、試料の平均一次粒子径が300nm以上5000nm以下であり、かつ二酸化チタンのピークが観察されないマグネシウムチタン複酸化物粉末が得られた。本発明では、表面に被覆層を形成しない場合(実施例1から8)と被覆層を形成した場合(実施例9と10)のいずれにおいてもナトリウム及び塩素の溶出量の小さいマグネシウムチタン複酸化物粉末を得ることができた。一方、第一水洗と第二水洗の少なくとも一方が上記の条件を満たさない場合、ナトリウム溶出量及び/又は塩素溶出量が所望の範囲を上回った。乾式混合品(比較例4)や湿式混合後にアルカリを添加しない試料(比較例5)についてはいずれの溶出量も範囲内であったものの、平均一次粒子径や未反応物の残存、といった面で課題を解決することができなかった。
【0090】
更に本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末において、技術的に重要な点として、ナトリウムの含有量が変動しても、溶出量を一定に抑えることが可能であることが挙げられる。例えば明細書に記載の実施例1で得られたマグネシウムチタン複酸化物粉末は、実施例8で得られたマグネシウムチタン複酸化物粉末の5倍強のナトリウムを含有しているにも関わらず、ナトリウム溶出量は実施例8で得られたマグネシウムチタン複酸化物粉末と比較して大きな差が生じていない。本発明によって、粉末中のナトリウム含有量を大きく変更せずにナトリウム溶出量のみ低減する、というアプローチが可能となることが明らかになった。各メーカーは、本発明の製造方法を適応することで、実績のあるこれまでの原料組成や原料配合比を維持したままマグネシウムチタン複酸化物粉末のナトリウム溶出量を低減することが可能となる。
【0091】
本発明のナトリウム溶出量についての知見を、他の不純物の溶出量の低減に適応することもできる。
以上の通り、本発明ではナトリウム溶出量及び塩素溶出量が小さいマグネシウムチタン複酸化物粉末を得ることができる。本発明のマグネシウムチタン複酸化物粉末は、半導体用樹脂封止材における無機充填剤として使用した際、高誘電率の半導体用樹脂封止材の誘電率を所望の値に調整しつつ、電極及び配線の金属の腐食を防ぐことが可能であり、使用性にも優れ、更に未反応物を含まないために特性が安定したものである。