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特開2024-86562レーダ目標追尾装置及びレーダ目標追尾プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086562
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】レーダ目標追尾装置及びレーダ目標追尾プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/72 20060101AFI20240620BHJP
【FI】
G01S13/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023149387
(22)【出願日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2022199941
(32)【優先日】2022-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】諸星 博之
(72)【発明者】
【氏名】藤城 佑太
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 重治
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC19
5J070AE02
5J070AE04
5J070AK14
5J070BB04
5J070BB13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本開示は、レーダを用いて船舶又は航空機等の目標を追尾するにあたり、波又は雲等によるクラッタの密度が高いときでも、クラッタを着目目標に誤って紐付ける可能性を低くするとともに、着目目標の予測ゲートを狭めずに、着目目標の追尾処理を途絶えさせる可能性を低くすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、前回のレーダスキャンにおける着目目標の観測ドップラ速度及び/又は断面積から、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度及び/又は断面積への、スキャン間変化率を算出するスキャン間相関部14と、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、スキャン間変化率が最も小さい目標を、着目目標に紐付ける目標追尾部15と、を備えるレーダ目標追尾装置2である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各回のレーダスキャンにおいて、検出点をクラスタリングし、各目標の位置を検出し、各目標の観測ドップラ速度及び断面積の少なくともいずれかを検出する目標検出部と、
各回のレーダスキャンにおいて、次回のレーダスキャンに備えて、各目標の位置を予測し、各目標の予測位置を中心として、各目標の予測ゲートを設定する目標位置予測部と、
各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の観測ドップラ速度及び断面積の少なくともいずれかから、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度及び断面積の少なくともいずれかへの、スキャン間変化率を算出するスキャン間相関部と、
各回のレーダスキャンにおいて、前記着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、前記スキャン間変化率が最も小さい目標を、前記着目目標に紐付ける目標追尾部と、
を備えることを特徴とするレーダ目標追尾装置。
【請求項2】
前記スキャン間相関部は、各回のレーダスキャンにおいて、前記着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の観測ドップラ速度から、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度への観測ドップラ速度変化率と、前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の断面積から、各回のレーダスキャンにおける各目標の断面積への断面積変化率と、を前記着目目標のレーダからの距離又は前記着目目標の運動状態に応じた重み付けで加算し、前記スキャン間変化率を算出する
ことを特徴とする、請求項1に記載のレーダ目標追尾装置。
【請求項3】
前記スキャン間相関部は、前記着目目標のレーダからの距離が遠いほど、前記観測ドップラ速度変化率に対する重み付けを前記断面積変化率に対する重み付けと比べて大きくする一方で、前記着目目標のレーダからの距離が近いほど、前記断面積変化率に対する重み付けを前記観測ドップラ速度変化率に対する重み付けと比べて大きくする
ことを特徴とする、請求項2に記載のレーダ目標追尾装置。
【請求項4】
前記スキャン間相関部は、前記着目目標の運動状態が一定速度状態であるほど、前記観測ドップラ速度変化率に対する重み付けを前記断面積変化率に対する重み付けと比べて大きくする一方で、前記着目目標の運動状態が急加減速状態であるほど、前記断面積変化率に対する重み付けを前記観測ドップラ速度変化率に対する重み付けと比べて大きくする
ことを特徴とする、請求項2に記載のレーダ目標追尾装置。
【請求項5】
各回のレーダスキャンにおいて、検出点をクラスタリングし、各目標の位置を検出し、各目標の観測ドップラ速度及び断面積の少なくともいずれかを検出し、必要に応じて各目標の受信電力を検出する目標検出部と、
各回のレーダスキャンにおいて、次回のレーダスキャンに備えて、各目標の位置を予測し、必要に応じて各目標のドップラ速度を予測し、各目標の予測位置を中心として、各目標の予測ゲートを設定する目標位置予測部と、
各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、以下の(1)及び(2)のスキャン間変化率を算出するスキャン間相関部と、
(1)前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の観測ドップラ速度及び断面積の少なくともいずれかから、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度及び断面積の少なくともいずれかへの、前記スキャン間変化率、及び、
(2)前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の予測ドップラ速度及び受信電力の少なくともいずれかから、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度及び受信電力の少なくともいずれかへの、前記スキャン間変化率、
各回のレーダスキャンにおいて、前記着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、前記スキャン間変化率が最も小さい目標を、前記着目目標に紐付ける目標追尾部と、
を備えることを特徴とするレーダ目標追尾装置。
【請求項6】
前記スキャン間相関部は、各回のレーダスキャンにおいて、前記着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、以下の(1)及び(2)の変化率を、前記着目目標のレーダからの距離、前記着目目標の運動状態、前記着目目標の運動状態の予測精度、前記着目目標の周囲の天候、前記着目目標の断面積の解像度又は前記着目目標の受信電力の安定度に応じた重み付けで加算し、前記スキャン間変化率を算出する:
(1)前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の観測ドップラ速度から、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度への観測ドップラ速度変化率と、前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の断面積から、各回のレーダスキャンにおける各目標の断面積への断面積変化率と、の少なくともいずれか、及び、
(2)前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の予測ドップラ速度から、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度への予測ドップラ速度変化率と、前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の受信電力から、各回のレーダスキャンにおける各目標の受信電力への受信電力変化率と、の少なくともいずれか、
ことを特徴とする、請求項5に記載のレーダ目標追尾装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のレーダ目標追尾装置が備える各処理部が実行する各処理ステップを、コンピュータに実行させるためのレーダ目標追尾プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダを用いて目標を追尾する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダを用いて目標を追尾する技術が特許文献1等に開示されている。特許文献1では、各回のレーダスキャンにおいて、検出点をクラスタリングし、各目標の位置、観測ドップラ速度及びレーダの送受信装置の受信強度を検出する。そして、各回のレーダスキャンにおいて、次回のレーダスキャンに備えて、各目標の位置及びドップラ速度を予測し、各目標の予測位置を中心として、各目標の予測ゲートを設定する。さらに、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、着目目標の予測位置に最も近い目標を、着目目標に紐付ける。
【0003】
ただし、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測位置からの距離が等しいとともに、レーダの送受信装置の受信強度が等しい各目標が、複数存在することがある。そこで、各回のレーダスキャンにおいて、これらの複数存在する各目標のうちの、着目目標の予測ドップラ速度に最も近い観測ドップラ速度を有する目標を、着目目標に紐付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-341025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術のレーダ目標追尾処理の具体例を図1に示す。図1では、前回のレーダスキャンにおいて、着目目標Tvの検出位置はPであり、最新のレーダスキャンにおいて、着目目標Tvの予測位置はP’であり、着目目標Tvの予測ゲートGが設定される。そして、最新のレーダスキャンにおいて、着目目標Tvの予測ゲートGの内部では、目標Ta、Tb、Tc、Tdの検出位置は、P、P、P、Pであり(右欄では目標Tcが不存在)、着目目標Tvの予測ゲートGの外部では、目標Te、Tf、Tgが存在する。
【0006】
図1では、着目目標Tv及び目標Tcは、船舶又は航空機等であり(右欄では目標Tcが何らかの理由(自物標の潜水による要因、自物標と別物標との位置関係・運動状態による偶発的要因又はレーダの信号処理における何らかの要因等)によりレーダで観測できない)、目標Ta、Tb、Td、Te、Tf、Tgは、波又は雲等によるクラッタである。すると、クラッタの密度が高いときには、クラッタである目標Tbが、着目目標Tvの予測位置P’に最も近く、着目目標Tvに誤って紐付けられる可能性が高い。そして、クラッタである目標Tbが、次回以降のレーダスキャンにおいて誤追尾される可能性が高い。一方で、着目目標Tvの予測ゲートGが狭いときには、クラッタである目標Tbが、着目目標Tvに誤って紐付けられる可能性が低い。しかし、着目目標Tvの予測位置P’が、高精度に予測されなければ、目標Tcの検出位置Pが、着目目標Tvの予測ゲートGの内部に存在せず、着目目標Tvの追尾処理が、途絶える可能性が高い。
【0007】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、レーダを用いて船舶又は航空機等の目標を追尾するにあたり、波又は雲等によるクラッタの密度が高いときでも、クラッタを着目目標に誤って紐付ける可能性を低くするとともに、着目目標の予測ゲートを狭めずに、着目目標の追尾処理を途絶えさせる可能性を低くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、レーダスキャン毎(例えば、数秒程度)に、各目標の観測ドップラ速度及び/又は断面積が、急激に変化しないことに注目する。つまり、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、前回のレーダスキャンにおける着目目標の観測ドップラ速度及び/又は断面積から、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度及び/又は断面積への、スキャン間変化率を算出する。そして、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、スキャン間変化率が最も小さい目標を、着目目標に紐付ける。ここで、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標であれば、着目目標の予測位置からの距離によらず対等に扱い、観測ドップラ速度及び/又は断面積のスキャン間変化率に注目する。
【0009】
具体的には、本開示は、各回のレーダスキャンにおいて、検出点をクラスタリングし、各目標の位置を検出し、各目標の観測ドップラ速度及び断面積の少なくともいずれかを検出する目標検出部と、各回のレーダスキャンにおいて、次回のレーダスキャンに備えて、各目標の位置を予測し、各目標の予測位置を中心として、各目標の予測ゲートを設定する目標位置予測部と、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の観測ドップラ速度及び断面積の少なくともいずれかから、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度及び断面積の少なくともいずれかへの、スキャン間変化率を算出するスキャン間相関部と、各回のレーダスキャンにおいて、前記着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、前記スキャン間変化率が最も小さい目標を、前記着目目標に紐付ける目標追尾部と、を備えることを特徴とするレーダ目標追尾装置である。
【0010】
この構成によれば、船舶又は航空機等の着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、観測ドップラ速度及び/又は断面積のスキャン間変化率に注目するため、波又は雲等によるクラッタの密度が高いときでも、クラッタを着目目標に誤って紐付ける可能性を低くすることができる。そして、船舶又は航空機等の着目目標の予測ゲートの内部にある各目標であれば、着目目標の予測位置からの距離によらず対等に扱うため、着目目標の予測ゲートを狭めずに、着目目標の追尾処理を途絶えさせる可能性を低くすることができる。
【0011】
また、本開示は、前記スキャン間相関部は、各回のレーダスキャンにおいて、前記着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の観測ドップラ速度から、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度への観測ドップラ速度変化率と、前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の断面積から、各回のレーダスキャンにおける各目標の断面積への断面積変化率と、を前記着目目標のレーダからの距離又は前記着目目標の運動状態に応じた重み付けで加算し、前記スキャン間変化率を算出することを特徴とするレーダ目標追尾装置である。
【0012】
この構成によれば、着目目標のレーダからの距離又は着目目標の運動状態に応じて、各目標の観測ドップラ速度及び断面積のスキャン間変化率のうちの、いずれのスキャン間変化率を他方のスキャン間変化率と比べて重視するかを設定することができる。
【0013】
また、本開示は、前記スキャン間相関部は、前記着目目標のレーダからの距離が遠いほど、前記観測ドップラ速度変化率に対する重み付けを前記断面積変化率に対する重み付けと比べて大きくする一方で、前記着目目標のレーダからの距離が近いほど、前記断面積変化率に対する重み付けを前記観測ドップラ速度変化率に対する重み付けと比べて大きくすることを特徴とするレーダ目標追尾装置である。
【0014】
この構成によれば、着目目標のレーダからの距離が遠い/近いほど、着目目標の観測ドップラ速度のスキャン間変化率が小さい/大きいことを考慮して、各目標の観測ドップラ速度及び断面積のスキャン間変化率に対する重み付けを設定することができる。
【0015】
また、本開示は、前記スキャン間相関部は、前記着目目標の運動状態が一定速度状態であるほど、前記観測ドップラ速度変化率に対する重み付けを前記断面積変化率に対する重み付けと比べて大きくする一方で、前記着目目標の運動状態が急加減速状態であるほど、前記断面積変化率に対する重み付けを前記観測ドップラ速度変化率に対する重み付けと比べて大きくすることを特徴とするレーダ目標追尾装置である。
【0016】
この構成によれば、着目目標の運動状態が一定速度/急加減速状態であるほど、着目目標の観測ドップラ速度のスキャン間変化率が小さい/大きいことを考慮して、各目標の観測ドップラ速度及び断面積のスキャン間変化率に対する重み付けを設定することができる。
【0017】
前記課題を解決するために、以上に記載の構成に加えて、レーダスキャン毎(例えば、数秒程度)に、各目標の予測・観測ドップラ速度及び/又は受信電力が、急激に変化しないことに注目する。つまり、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、前回のレーダスキャンにおける着目目標の予測ドップラ速度及び/又は受信電力から、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度及び/又は受信電力への、スキャン間変化率を算出する。そして、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、スキャン間変化率が最も小さい目標を、着目目標に紐付ける。ここで、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標であれば、着目目標の予測位置からの距離によらず対等に扱い、予測・観測ドップラ速度及び/又は受信電力のスキャン間変化率に注目する。
【0018】
具体的には、本開示は、各回のレーダスキャンにおいて、検出点をクラスタリングし、各目標の位置を検出し、各目標の観測ドップラ速度及び断面積の少なくともいずれかを検出し、必要に応じて各目標の受信電力を検出する目標検出部と、各回のレーダスキャンにおいて、次回のレーダスキャンに備えて、各目標の位置を予測し、必要に応じて各目標のドップラ速度を予測し、各目標の予測位置を中心として、各目標の予測ゲートを設定する目標位置予測部と、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、以下の(1)及び(2)のスキャン間変化率を算出するスキャン間相関部と、(1)前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の観測ドップラ速度及び断面積の少なくともいずれかから、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度及び断面積の少なくともいずれかへの、前記スキャン間変化率、及び、(2)前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の予測ドップラ速度及び受信電力の少なくともいずれかから、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度及び受信電力の少なくともいずれかへの、前記スキャン間変化率、各回のレーダスキャンにおいて、前記着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、前記スキャン間変化率が最も小さい目標を、前記着目目標に紐付ける目標追尾部と、を備えることを特徴とするレーダ目標追尾装置である。
【0019】
この構成によれば、船舶又は航空機等の着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、(観測ドップラ速度及び/又は断面積)かつ(予測・観測ドップラ速度及び/又は受信電力)のスキャン間変化率に注目するため、波又は雲等によるクラッタの密度が高いときでも、クラッタを着目目標に誤って紐付ける可能性を低くすることができる。そして、船舶又は航空機等の着目目標の予測ゲートの内部にある各目標であれば、着目目標の予測位置からの距離によらず対等に扱うため、着目目標の予測ゲートを狭めずに、着目目標の追尾処理を途絶えさせる可能性を低くすることができる。
【0020】
また、本開示は、前記スキャン間相関部は、各回のレーダスキャンにおいて、前記着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、以下の(1)及び(2)の変化率を、前記着目目標のレーダからの距離、前記着目目標の運動状態、前記着目目標の運動状態の予測精度、前記着目目標の周囲の天候、前記着目目標の断面積の解像度又は前記着目目標の受信電力の安定度に応じた重み付けで加算し、前記スキャン間変化率を算出する:(1)前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の観測ドップラ速度から、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度への観測ドップラ速度変化率と、前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の断面積から、各回のレーダスキャンにおける各目標の断面積への断面積変化率と、の少なくともいずれか、及び、(2)前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の予測ドップラ速度から、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度への予測ドップラ速度変化率と、前回のレーダスキャンにおける前記着目目標の受信電力から、各回のレーダスキャンにおける各目標の受信電力への受信電力変化率と、の少なくともいずれか、ことを特徴とするレーダ目標追尾装置である。
【0021】
この構成によれば、着目目標のレーダからの距離、着目目標の運動状態、着目目標の運動状態の予測精度、着目目標の周囲の天候、着目目標の断面積の解像度又は着目目標の受信電力の安定度に応じて、各目標の(観測ドップラ速度及び/又は断面積)かつ(予測・観測ドップラ速度及び/又は受信電力)のスキャン間変化率のうちの、いずれのスキャン間変化率を他方のスキャン間変化率と比べて重視するかを設定することができる。
【0022】
また、本開示は、以上に記載のレーダ目標追尾装置が備える各処理部が実行する各処理ステップを、コンピュータに実行させるためのレーダ目標追尾プログラムである。
【0023】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【0024】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0025】
このように、本開示は、レーダを用いて船舶又は航空機等の目標を追尾するにあたり、波又は雲等によるクラッタの密度が高いときでも、クラッタを着目目標に誤って紐付ける可能性を低くするとともに、着目目標の予測ゲートを狭めずに、着目目標の追尾処理を途絶えさせる可能性を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】従来技術のレーダ目標追尾処理の具体例を示す図である。
図2】本開示のレーダ目標追尾システムの構成を示す図である。
図3】第1実施形態のレーダ目標追尾処理の手順を示す図である。
図4】第1実施形態のレーダ目標追尾処理の具体例を示す図である。
図5】第1実施形態の観測ドップラ速度及び断面積の変化率に対する重み付けを示す図である。
図6】第1実施形態の観測ドップラ速度及び断面積の変化率に対する重み付けを示す図である。
図7】第2実施形態のレーダ目標追尾処理の手順を示す図である。
図8】第2実施形態の観測ドップラ速度及び受信電力の変化率に対する重み付けを示す図である。
図9】第2実施形態の観測ドップラ速度及び受信電力の変化率に対する重み付けを示す図である。
図10】第2実施形態の予測ドップラ速度及び断面積の変化率に対する重み付けを示す図である。
図11】第2実施形態の予測ドップラ速度及び断面積の変化率に対する重み付けを示す図である。
図12】第2実施形態の断面積及び受信電力の変化率に対する重み付けを示す図である。
図13】第2実施形態の断面積及び受信電力の変化率に対する重み付けを示す図である。
図14】第2実施形態の観測ドップラ速度及び予測ドップラ速度の変化率に対する重み付けを示す図である。
図15】第2実施形態の観測ドップラ速度及び予測ドップラ速度の変化率に対する重み付けを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0028】
(第1実施形態のレーダ目標追尾処理の概要)
本開示のレーダ目標追尾システムの構成を図2に示す。第1実施形態のレーダ目標追尾処理の手順を図3に示す。レーダ目標追尾システムRは、レーダ送受信装置1、レーダ目標追尾装置2及びレーダ表示装置3を備える。レーダ送受信装置1は、レーダを送受信し、レーダ目標追尾装置2は、目標Tを追尾し、レーダ表示装置3は、目標Tを表示する。
【0029】
レーダ目標追尾装置2は、目標検出部11、目標記憶部12、目標位置予測部13、スキャン間相関部14及び目標追尾部15を備える。レーダ目標追尾装置2は、図3に示したレーダ目標追尾プログラムを、コンピュータにインストールし実現することができる。
【0030】
目標検出部11は、各回のレーダスキャンにおいて、検出点をクラスタリングし、各目標の位置P、観測ドップラ速度Dоn及び断面積Sを検出する(ステップS1)。ここで、目標検出部11は、DBSCAN(Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise)等を用いて、検出点をクラスタリングする。そして、目標検出部11は、各目標の重心検出点又は全検出点平均の観測ドップラ速度Dоnを検出する。さらに、目標検出部11は、各目標の検出点数に基づいて、各目標の断面積Sを検出する。目標記憶部12は、各回のレーダスキャンにおいて、各目標の位置P、観測ドップラ速度Dоn及び断面積Sの情報を記憶する。
【0031】
目標位置予測部13は、各回のレーダスキャンにおいて、次回のレーダスキャンに備えて、各目標の位置P’を予測し、各目標の予測位置P’を中心として、各目標の予測ゲートを設定する(ステップS2)。ここで、目標位置予測部13は、カルマンフィルタ等を用いて、各目標の位置P’を予測する。そして、目標位置予測部13は、各目標の予測位置P’を中心として、各目標の予測ゲートの半径を広げ過ぎも狭め過ぎもしない。
【0032】
第1実施形態のレーダ目標追尾処理の具体例を図4に示す。図4では、前回のレーダスキャンにおいて、着目目標Tvの(検出位置、観測ドップラ速度、断面積)の組み合わせは(P、Dоv、S)であり、最新のレーダスキャンにおいて、着目目標Tvの予測位置はP’であり、着目目標Tvの予測ゲートGが設定される。そして、最新のレーダスキャンにおいて、着目目標Tvの予測ゲートGの内部では、目標Ta、Tb、Tc、Tdの(検出位置、観測ドップラ速度、断面積)の組み合わせは、(P、Dоa、S)、(P、Dоb、S)、(P、Dоc、S)、(P、Dоd、S)であり(右欄では目標Tcが不存在)、着目目標Tvの予測ゲートGの外部では、目標Te、Tf、Tgが存在する。
【0033】
図4では、着目目標Tv及び目標Tcは、船舶又は航空機等であり(右欄では目標Tcが何らかの理由(自物標の潜水による要因、自物標と別物標との位置関係・運動状態による偶発的要因又はレーダの信号処理における何らかの要因等)によりレーダで観測できない)、目標Ta、Tb、Td、Te、Tf、Tgは、波又は雲等によるクラッタである。ここで、目標Ta、Tb、Td、Te、Tf、Tgは、概ね同じ速度を有し、着目目標Tv及び目標Tcは、異なる速度を有する。そして、波又は風等による各目標の揺れ、各目標の方向転換又は各目標の急加減速があっても、レーダスキャン毎(例えば、数秒程度)に、目標Ta、Tb、Tc、Td、Te、Tf、Tgの観測ドップラ速度及び断面積が、急激に変化しないことに注目する。つまり、着目目標Tvの予測ゲートGの内部にある目標Ta、Tb、Tc、Tdであれば、着目目標Tvの予測位置P’からの距離によらず対等に扱い、観測ドップラ速度及び断面積のスキャン間変化率に注目する。
【0034】
スキャン間相関部14は、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について(ステップS3、YES)、前回のレーダスキャンにおける着目目標の観測ドップラ速度Dоv及び断面積Sから、各回のレーダスキャンにおける各目標の観測ドップラ速度Dоn及び断面積Sへの、スキャン間変化率X=α|Dоv-Dоn|+β|S-S|を算出する(ステップS4)。ここで、スキャン間相関部14は、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|と、断面積変化率|S-S|と、を着目目標のレーダからの距離又は着目目標の運動状態に応じた重み付けα、βで加算する。一方で、スキャン間相関部14は、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの外部にある各目標について(ステップS3、NO)、当該目標を着目目標に紐付けない(ステップS8)。
【0035】
図4では、着目目標Tvの予測ゲートGの内部にある目標Ta、Tb、Tc、Tdについて、スキャン間変化率X=α|Dоv-Dоa|+β|S-S|、X=α|Dоv-Dоb|+β|S-S|、X=α|Dоv-Dоc|+β|S-S|、X=α|Dоv-Dоd|+β|S-S|が算出される(右欄では目標Tcが不存在)。一方で、着目目標Tvの予測ゲートGの外部にある目標Te、Tf、Tgについて、着目目標Tvに紐付けない。
【0036】
目標追尾部15は、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、スキャン間変化率Xが所定閾値以下であるとともに(ステップS5、YES)、スキャン間変化率Xが最も小さい目標を(ステップS6、YES)、着目目標に紐付ける(ステップS7)。一方で、目標追尾部15は、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、スキャン間変化率Xが所定閾値より大きい目標を(ステップS5、NO)、着目目標に紐付けない(ステップS8)。そして、目標追尾部15は、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、スキャン間変化率Xが所定閾値以下であるものの(ステップS5、YES)、スキャン間変化率Xが非最小である目標を(ステップS6、NO)、着目目標に紐付けない(ステップS8)。目標記憶部12は、各回のレーダスキャンにおいて、紐付けられた着目目標の位置P、観測ドップラ速度Dоn及び断面積Sの情報を記憶する。
【0037】
図4の左欄では、スキャン間変化率Xが所定閾値以下であり最も小さい目標Tcについて、着目目標Tvに紐付ける。一方で、スキャン間変化率X、X、Xが所定閾値より大きい又は非最小である目標Ta、Tb、Tdについて、着目目標Tvに紐付けない。ここで、着目目標Tvの予測位置P’からの距離が最も近い目標Tbであっても、スキャン間変化率Xの大きさに基づいて、着目目標Tvに紐付けない。なお、着目目標Tv以外の着目目標を追尾するにあたり、追尾候補として目標Tcを除外する。
【0038】
図4の右欄では、スキャン間変化率Xが所定閾値以下であり最も小さい目標が存在しないため、着目目標Tvがロストしたと判定する。一方で、スキャン間変化率X、X、Xが所定閾値より大きい又は非最小である目標Ta、Tb、Tdについて、着目目標Tvに紐付けない。ここで、着目目標Tvの予測位置P’からの距離が最も近い目標Tbであっても、スキャン間変化率Xの大きさに基づいて、着目目標Tvに紐付けない。
【0039】
このように、船舶又は航空機等の着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、観測ドップラ速度及び断面積のスキャン間変化率に注目するため、波又は雲等によるクラッタの密度が高いときでも、クラッタを着目目標に誤って紐付ける可能性を低くすることができる。そして、船舶又は航空機等の着目目標の予測ゲートの内部にある各目標であれば、着目目標の予測位置からの距離によらず対等に扱うため、着目目標の予測ゲートを狭めずに、着目目標の追尾処理を途絶えさせる可能性を低くすることができる。
【0040】
(第1実施形態の観測ドップラ速度及び断面積の変化率に対する重み付け)
第1実施形態の観測ドップラ速度及び断面積の変化率に対する重み付けを図5、6に示す。スキャン間相関部14は、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|と、断面積変化率|S-S|と、を着目目標のレーダからの距離又は着目目標の運動状態に応じた重み付けα、βで加算する(ステップS4)。図5、6では、重み付けα、βの具体例を示す。
【0041】
図5の左欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、レーダ目標追尾システムRから遠距離において、レーダ目標追尾システムRを横切っている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvのレーダからの距離が遠いほど、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαを、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvのレーダからの距離が遠いほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|が小さいからである。なお、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを0に設定してもよい。
【0042】
図5の右欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、レーダ目標追尾システムRから近距離において、レーダ目標追尾システムRを横切っている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvのレーダからの距離が近いほど、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvのレーダからの距離が近いほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|が大きいからである。なお、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαを0に設定してもよい。
【0043】
図6の左欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、一定速度状態でレーダ目標追尾システムRに近づいている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態が一定速度状態であるほど、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαを、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvの運動状態が一定速度状態であるほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|が小さいからである。なお、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを0に設定してもよい。
【0044】
図6の右欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、急加減速状態でレーダ目標追尾システムRに近づいている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態が急加減速状態であるほど、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvの運動状態が急加減速状態であるほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|が大きいからである。なお、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαを0に設定してもよい。
【0045】
このように、着目目標のレーダからの距離又は着目目標の運動状態に応じて、各目標の観測ドップラ速度及び断面積のスキャン間変化率のうちの、いずれのスキャン間変化率を他方のスキャン間変化率と比べて重視するかを設定することができる。
【0046】
そして、着目目標のレーダからの距離が遠い/近いほど、着目目標の観測ドップラ速度のスキャン間変化率が小さい/大きいことを考慮して、各目標の観測ドップラ速度及び断面積のスキャン間変化率に対する重み付けを設定することができる。
【0047】
さらに、着目目標の運動状態が一定速度/急加減速状態であるほど、着目目標の観測ドップラ速度のスキャン間変化率が小さい/大きいことを考慮して、各目標の観測ドップラ速度及び断面積のスキャン間変化率に対する重み付けを設定することができる。
【0048】
(第2実施形態のレーダ目標追尾処理の概要)
本開示のレーダ目標追尾システムの構成を図2に示す。第2実施形態のレーダ目標追尾処理の手順を図7に示す。第2実施形態では、第1実施形態と比べて、レーダ目標追尾システムRの構成は同様であるが、レーダ目標追尾処理の手順は多少異なる。
【0049】
目標検出部11は、各回のレーダスキャンにおいて、検出点をクラスタリングし、各目標の位置Pを検出し、各目標の観測ドップラ速度Dоn及び/又は断面積Sを検出し、必要に応じて各目標の受信電力Wを検出する(ステップS11)。ここで、目標検出部11は、各目標の全検出点電力のうちのピーク電力、全検出点電力に関する平均電力又は全検出点電力に関する電力和に基づいて、各目標の受信電力Wを検出する。ただし、目標検出部11は、各目標の全検出点電力に関する電力和に基づいて、各目標の受信電力Wを検出するにあたり、波、雲又は雨等のサイズが大きくレーダ断面積が小さい目標と、船舶又は航空機等のサイズが小さくレーダ断面積が大きい目標と、を混同しないことが望ましい。目標記憶部12は、各回のレーダスキャンにおいて、各目標の位置Pの情報を記憶し、各目標の観測ドップラ速度Dоn及び/又は断面積Sの情報を記憶し、必要に応じて各目標の受信電力Wの情報を記憶する。
【0050】
目標位置予測部13は、各回のレーダスキャンにおいて、次回のレーダスキャンに備えて、各目標の位置P’を予測し、必要に応じて各目標のドップラ速度Dpnを予測し、各目標の予測位置P’を中心として、各目標の予測ゲートを設定する(ステップS12)。ここで、目標位置予測部13は、各回のレーダスキャンにおける各目標の位置Pと、次回のレーダスキャンにおける各目標の予測位置P’と、レーダ目標追尾システムRから見た各目標の予測位置P’の方向と、レーダスキャンの間隔と、に基づいて、次回のレーダスキャンにおける各目標のドップラ速度Dpnを予測する。
【0051】
第2実施形態では、第1実施形態に加えて、図4の左欄及び右欄のように、波又は風等による各目標の揺れ、各目標の方向転換又は各目標の急加減速があっても、レーダスキャン毎(例えば、数秒程度)に、各目標Tnの予測・観測ドップラ速度及び/又は受信電力が、急激に変化しないことに注目する。つまり、着目目標Tvの予測ゲートGの内部にある各目標Tnであれば、着目目標Tvの予測位置P’からの距離によらず対等に扱い、予測・観測ドップラ速度及び/又は受信電力のスキャン間変化率に注目する。
【0052】
スキャン間相関部14は、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について(ステップS13、YES)、前回のレーダスキャンにおける着目目標の(観測ドップラ速度Dоv及び/又は断面積S)かつ(予測ドップラ速度Dpv及び/又は受信電力W)から、各回のレーダスキャンにおける各目標の(観測ドップラ速度Dоn及び/又は断面積S)かつ(観測ドップラ速度Dоn及び/又は受信電力W)への、スキャン間変化率X=(α|Dоv-Dоn|及び/又はβ|S-S|)並びに(γ|Dpv-Dоn|及び/又はδ|W-W|)の加算値を算出する(ステップS14)。
【0053】
ここで、スキャン間相関部14は、(観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|及び/又は断面積変化率|S-S|)並びに(予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|及び/又は受信電力変化率|W-W|)を、着目目標のレーダからの距離、着目目標の運動状態、着目目標の運動状態の予測精度、着目目標の周囲の天候、着目目標の断面積の解像度又は着目目標の受信電力の安定度に応じて、(重み付けα及び/又は重み付けβ)並びに(重み付けγ及び/又は重み付けδ)で加算する。一方で、スキャン間相関部14は、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの外部にある各目標について(ステップS13、NO)、当該目標を着目目標に紐付けない(ステップS18)。
【0054】
目標追尾部15は、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、スキャン間変化率Xが所定閾値以下であるとともに(ステップS15、YES)、スキャン間変化率Xが最も小さい目標を(ステップS16、YES)、着目目標に紐付ける(ステップS17)。一方で、目標追尾部15は、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、スキャン間変化率Xが所定閾値より大きい目標を(ステップS15、NO)、着目目標に紐付けない(ステップS18)。そして、目標追尾部15は、各回のレーダスキャンにおいて、着目目標の予測ゲートの内部にある各目標のうちの、スキャン間変化率Xが所定閾値以下であるものの(ステップS15、YES)、スキャン間変化率Xが非最小である目標を(ステップS16、NO)、着目目標に紐付けない(ステップS18)。目標記憶部12は、各回のレーダスキャンにおいて、紐付けられた着目目標の位置Pの情報を記憶し、紐付けられた着目目標の観測ドップラ速度Dоn及び/又は断面積Sの情報を記憶し、必要に応じて紐付けられた着目目標の受信電力Wの情報を記憶する。
【0055】
このように、船舶又は航空機等の着目目標の予測ゲートの内部にある各目標について、(観測ドップラ速度及び/又は断面積)かつ(予測・観測ドップラ速度及び/又は受信電力)のスキャン間変化率に注目するため、波又は雲等によるクラッタの密度が高いときでも、クラッタを着目目標に誤って紐付ける可能性を低くすることができる。そして、船舶又は航空機等の着目目標の予測ゲートの内部にある各目標であれば、着目目標の予測位置からの距離によらず対等に扱うため、着目目標の予測ゲートを狭めずに、着目目標の追尾処理を途絶えさせる可能性を低くすることができる。
【0056】
(第2実施形態の観測ドップラ速度及び受信電力の変化率に対する重み付け)
第2実施形態の観測ドップラ速度及び受信電力の変化率に対する重み付けを図8、9に示す。スキャン間相関部14は、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|と、受信電力変化率|W-W|と、を着目目標のレーダからの距離又は着目目標の運動状態に応じた重み付けα、δで加算する(ステップS14)。図8、9では、重み付けα、δの具体例を示す。
【0057】
図8の左欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、レーダ目標追尾システムRから遠距離において、レーダ目標追尾システムRを横切っている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvのレーダからの距離が遠いほど、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαを、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvのレーダからの距離が遠いほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|が小さいからである。なお、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδを0に設定してもよい。
【0058】
図8の右欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、レーダ目標追尾システムRから近距離において、レーダ目標追尾システムRを横切っている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvのレーダからの距離が近いほど、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδを、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvのレーダからの距離が近いほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|が大きいからである。なお、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαを0に設定してもよい。
【0059】
図9の左欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、一定速度状態でレーダ目標追尾システムRに近づいている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態が一定速度状態であるほど、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαを、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvの運動状態が一定速度状態であるほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|が小さいからである。なお、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδを0に設定してもよい。
【0060】
図9の右欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、急加減速状態でレーダ目標追尾システムRに近づいている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態が急加減速状態であるほど、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδを、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvの運動状態が急加減速状態であるほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|が大きいからである。なお、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαを0に設定してもよい。
【0061】
このように、着目目標のレーダからの距離又は着目目標の運動状態に応じて、各目標の観測ドップラ速度及び受信電力のスキャン間変化率のうちの、いずれのスキャン間変化率を他方のスキャン間変化率と比べて重視するかを設定することができる。
【0062】
(第2実施形態の予測ドップラ速度及び断面積の変化率に対する重み付け)
第2実施形態の予測ドップラ速度及び断面積の変化率に対する重み付けを図10、11に示す。スキャン間相関部14は、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|と、断面積変化率|S-S|と、を着目目標のレーダからの距離又は着目目標の運動状態に応じた重み付けγ、βで加算する(ステップS14)。図10、11では、重み付けγ、βの具体例を示す。
【0063】
図10の左欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、レーダ目標追尾システムRから遠距離において、レーダ目標追尾システムRを横切っている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvのレーダからの距離が遠いほど、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγを、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvのレーダからの距離が遠いほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|が小さいため、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|も小さいと考えられるからである。なお、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを0に設定してもよい。
【0064】
図10の右欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、レーダ目標追尾システムRから近距離において、レーダ目標追尾システムRを横切っている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvのレーダからの距離が近いほど、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvのレーダからの距離が近いほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|が大きいため、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|も大きいと考えられるからである。なお、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγを0に設定してもよい。
【0065】
一方で、図10の左欄及び右欄では、スキャン間相関部14は、着目目標Tvのレーダからの距離によらず、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγと、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと、の間の比率をほぼ一定とすることもできる。着目目標Tvのレーダからの距離によらず、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|は小さいと考えられるからである。なお、重み付けγ、βの間の比率は、図10の左欄及び右欄の間で、変化量を小さくしてもよく、変化量をなくしてもよい。
【0066】
図11の左欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、一定速度状態でレーダ目標追尾システムRに近づいている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態が一定速度状態であるほど、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγを、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvの運動状態が一定速度状態であるほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|が小さいため、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|も小さいと考えられるからである。なお、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを0に設定してもよい。
【0067】
図11の右欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、急加減速状態でレーダ目標追尾システムRに近づいている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態が急加減速状態であるほど、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvの運動状態が急加減速状態であるほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|が大きいため、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|も大きいと考えられるからである。なお、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγを0に設定してもよい。
【0068】
一方で、図11の左欄及び右欄では、スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態によらず、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγと、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと、の間の比率をほぼ一定とすることもできる。着目目標Tvの運動状態によらず、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|は小さいと考えられるからである。ただし、目標位置予測部13は、前回のみならず過去の複数回のレーダスキャンに基づいて、着目目標Tvの運動状態が一定速度状態及び急加減速状態のいずれであるかを予測していることが望ましい。なお、重み付けγ、βの間の比率は、図11の左欄及び右欄の間で、変化量を小さくしてもよく、変化量をなくしてもよい。
【0069】
このように、着目目標のレーダからの距離又は着目目標の運動状態に応じて、各目標の予測・観測ドップラ速度及び断面積のスキャン間変化率のうちの、いずれのスキャン間変化率を他方のスキャン間変化率と比べて重視するかを設定することができる。
【0070】
(第2実施形態の断面積及び受信電力の変化率に対する重み付け)
第2実施形態の断面積及び受信電力の変化率に対する重み付けを図12、13に示す。スキャン間相関部14は、断面積変化率|S-S|と、受信電力変化率|W-W|と、を着目目標のレーダからの距離、着目目標の周囲の天候、着目目標の断面積の解像度又は着目目標の受信電力の安定度に応じた重み付けβ、δで加算する(ステップS14)。図12、13では、重み付けβ、δの具体例を示す。
【0071】
図12の第1欄では、目標Tnがレーダ目標追尾システムRから遠距離において位置している。スキャン間相関部14は、目標Tnのレーダからの距離が遠いほど、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、目標Tnのレーダからの距離が遠いほど、目標Tnの受信電力Wは距離補正を必要とするが、目標Tnの断面積Sは距離補正を必要としないからである。なお、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδを0に設定してもよい。
【0072】
図12の第2欄では、目標Tnがレーダ目標追尾システムRから近距離において位置している。スキャン間相関部14は、目標Tnのレーダからの距離が近いほど、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδと、をほぼ等しくしてもよい。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、目標Tnのレーダからの距離が近いほど、目標Tnの受信電力Wは距離補正を必要とせず、目標Tnの断面積Sも距離補正を必要としないからである。
【0073】
図12の第3欄では、目標Tnとレーダ目標追尾システムRとの間において降雨が生じている。スキャン間相関部14は、目標Tnの周囲の天候が悪天候であるほど、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、目標Tnの周囲の天候が悪天候であるほど、目標Tnの受信電力Wは降雨補正を必要とするが、目標Tnの断面積Sは降雨補正を必要としないからである。なお、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδを0に設定してもよい。
【0074】
図12の第4欄では、目標Tnとレーダ目標追尾システムRとの間において降雨が生じていない。スキャン間相関部14は、目標Tnの周囲の天候が好天候であるほど、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδと、をほぼ等しくしてもよい。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、目標Tnの周囲の天候が好天候であるほど、目標Tnの受信電力Wは降雨補正を必要とせず、目標Tnの断面積Sも降雨補正を必要としないからである。
【0075】
図12の第5欄では、目標Tnが大きく動揺している。スキャン間相関部14は、目標Tnの受信電力の安定度が低いほど、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、目標Tnが大きく動揺しているほど、目標Tnの受信電力Wは電波の照射点の変動に大きく影響されるが、目標Tnの断面積Sは電波の照射点の変動にあまり影響されないからである。なお、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδを0に設定してもよい。
【0076】
図12の第6欄では、目標Tnがあまり動揺していない。スキャン間相関部14は、目標Tnの受信電力の安定度が高いほど、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδと、をほぼ等しくしてもよい。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、目標Tnがあまり動揺していないほど、目標Tnの受信電力Wは電波の照射点の変動にあまり影響されず、目標Tnの断面積Sも電波の照射点の変動にあまり影響されないからである。
【0077】
図13の第1欄では、目標Ta、Tb、Tc、Tdが断面積の解像度の低いレーダ画像に表示されている。スキャン間相関部14は、目標Ta、Tb、Tc、Tdの断面積の解像度が低いほど、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδを、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、目標Ta、Tb、Tc、Tdの断面積の解像度が低いほど、目標Tnの断面積Sはデータの間引きに大きく影響されるが(特にマスの境界上の目標Tb)、目標Tnの受信電力Wはデータの間引きにあまり影響されないからである。なお、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを0に設定してもよい。
【0078】
図13の第2欄では、目標Ta、Tb、Tc、Tdが断面積の解像度の高いレーダ画像に表示されている。スキャン間相関部14は、目標Ta、Tb、Tc、Tdの断面積の解像度が高いほど、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδと、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと、をほぼ等しくしてもよい。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、目標Ta、Tb、Tc、Tdの断面積の解像度が高いほど、目標Tnの断面積Sはデータの間引きにあまり影響されず(目標Tbについても)、目標Tnの受信電力Wもデータの間引きにあまり影響されないからである。
【0079】
図13の第3欄では、目標Tnが高密度のクラッタC(海波等)に取り囲まれている。スキャン間相関部14は、目標Tnの周囲の天候が悪天候であるほど、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδを、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、目標Tnの周囲の天候が悪天候であるほど、目標Tnの断面積SはクラッタCの面積に大きく影響されるが(目標Tnの断面積S及びクラッタCの面積が一体化される)、目標Tnの受信電力WはクラッタCの受信電力にあまり影響されない(目標Tnの受信電力Wはクラスタ全体のピーク又は平均電力であり電力和ではない)からである。なお、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβを0に設定してもよい。
【0080】
図13の第4欄では、目標Tnが低密度のクラッタC(海波等)に取り囲まれている。スキャン間相関部14は、目標Tnの周囲の天候が好天候であるほど、受信電力変化率|W-W|に対する重み付けδと、断面積変化率|S-S|に対する重み付けβと、をほぼ等しくしてもよい。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、目標Tnの周囲の天候が好天候であるほど、目標Tnの断面積SはクラッタCの面積にあまり影響されず(目標Tnの断面積S及びクラッタCの面積が一体化されても)、目標Tnの受信電力WもクラッタCの受信電力にあまり影響されない(目標Tnの受信電力Wはクラスタ全体のピーク又は平均電力であり電力和ではない)からである。
【0081】
このように、着目目標のレーダからの距離、着目目標の周囲の天候、着目目標の断面積の解像度又は着目目標の受信電力の安定度に応じて、各目標の断面積及び受信電力のスキャン間変化率のうちの、いずれのスキャン間変化率を他方のスキャン間変化率と比べて重視するかを設定することができる。
【0082】
(第2実施形態の観測ドップラ速度及び予測ドップラ速度の変化率に対する重み付け)
第2実施形態の観測ドップラ速度及び予測ドップラ速度の変化率に対する重み付けを図14、15に示す。スキャン間相関部14は、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|と、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|と、を着目目標のレーダからの距離、着目目標の運動状態又は着目目標の運動状態の予測精度に応じた重み付けα、γで加算する(ステップS14)。図14、15では、重み付けα、γの具体例を示す。
【0083】
図14の第1欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、検出の不安定な状態(着目物標Tvの潜水による要因、着目物標Tvと別物標との位置関係・運動状態による偶発的要因又はレーダの信号処理における何らかの要因等)から検出の安定な状態(検出の不安定な状態の要因が消滅)へと移りながらレーダ目標追尾システムRに近づいている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態の検出精度が検出の不安定な状態から検出の安定な状態へと移るときに、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαを、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvの運動状態の検出精度が検出の不安定な状態から検出の安定な状態へと移るときに、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|はドップラ速度の予測と無関係であるが、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|は予測精度が未だに低いからである。なお、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγを0に設定してもよい。
【0084】
図14の第2欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、一定速度状態で検出の安定な状態(検出の不安定な状態の要因が不存在)を保ちながらレーダ目標追尾システムRに近づいている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態の検出精度が一定速度状態で検出の安定な状態を保つときに、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαと、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγと、をほぼ等しくしてもよい。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvの運動状態の検出精度が一定速度状態で検出の安定な状態を保つときに、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|はドップラ速度の予測と無関係であり、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|も既に予測精度が高いからである。
【0085】
図14の第3欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、クラッタ(海波等)の影響の大きい進路を取りながらレーダ目標追尾システムRに近づいている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態の予測精度が低いほど、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαを、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvの進路でクラッタ(海波等)の影響が大きいほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|はドップラ速度の予測と無関係であるが、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|は予測精度が低いからである。なお、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγを0に設定してもよい。
【0086】
図14の第4欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、クラッタ(海波等)の影響の小さい進路を取りながらレーダ目標追尾システムRに近づいている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態の予測精度が高いほど、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαと、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγと、を等しくしてもよい。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvの進路でクラッタ(海波等)の影響が小さいほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|はドップラ速度の予測と無関係であり、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|も予測精度が高いからである。
【0087】
図15の第1欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、レーダ目標追尾システムRから近距離において、レーダ目標追尾システムRを横切っている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvのレーダからの距離が近いほど、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγを、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvのレーダからの距離が近いほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|は大きいが(図5、8の右欄も参照)、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|は小さい(図10の右欄も参照)からである。なお、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαを0に設定してもよい。
【0088】
図15の第2欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、レーダ目標追尾システムRから遠距離において、レーダ目標追尾システムRを横切っている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvのレーダからの距離が遠いほど、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγと、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαと、をほぼ等しくしてもよい。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvのレーダからの距離が遠いほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|は小さく(図5、8の左欄も参照)、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|も小さい(図10の左欄も参照)からである。
【0089】
図15の第3欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、急加減速状態でレーダ目標追尾システムRに近づいている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態が急加減速状態であるほど、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγを、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαと比べて大きくする。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvの運動状態が急加減速状態であるほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|は大きいが(図6、9の右欄も参照)、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|は小さい(図11の右欄も参照)からである。なお、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαを0に設定してもよい。
【0090】
図15の第4欄では、前回のレーダスキャンにおける着目目標Tvが、最新のレーダスキャンにおける目標Tnの検出位置へ移動するにあたり、一定速度状態でレーダ目標追尾システムRに近づいている。スキャン間相関部14は、着目目標Tvの運動状態が一定速度状態であるほど、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|に対する重み付けγと、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|に対する重み付けαと、をほぼ等しくしてもよい。追尾対象の目標Tnのスキャン間変化率Xを最も小さくすべきところ、着目目標Tvの運動状態が一定速度状態であるほど、目標Tnの観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|は小さく(図6、9の左欄も参照)、目標Tnの予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|も小さい(図11の左欄も参照)からである。
【0091】
このように、着目目標のレーダからの距離、着目目標の運動状態又は着目目標の運動状態の予測精度に応じて、各目標の予測・観測ドップラ速度及び観測ドップラ速度のスキャン間変化率のうちの、いずれのスキャン間変化率を他方のスキャン間変化率と比べて重視するかを設定することができる。
【0092】
(第2実施形態の最大で4種類のパラメータの変化率に対する重み付け)
第1実施形態では、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|と、断面積変化率|S-S|と、をこれらの長所及び短所に応じた重み付けα、βで加算する。
【0093】
第2実施形態では、(1)観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|と、受信電力変化率|W-W|と、をこれらの長所及び短所に応じた重み付けα、δで加算し、(2)予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|と、断面積変化率|S-S|と、をこれらの長所及び短所に応じた重み付けγ、βで加算し、(3)断面積変化率|S-S|と、受信電力変化率|W-W|と、をこれらの長所及び短所に応じた重み付けβ、δで加算し、(4)観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|と、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|と、をこれらの長所及び短所に応じた重み付けα、γで加算する。
【0094】
第2実施形態では、観測ドップラ速度変化率|Dоv-Dоn|と、断面積変化率|S-S|と、予測ドップラ速度変化率|Dpv-Dоn|と、受信電力変化率|W-W|と、のうち、(5)1種類のみのパラメータの変化率を抽出してもよく、(6)3種類のパラメータの変化率をこれらの長所及び短所に応じた重み付けで加算してもよく、(7)4種類全てのパラメータの変化率をこれらの長所及び短所に応じた重み付けで加算してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本開示のレーダ目標追尾装置及びレーダ目標追尾プログラムは、レーダを用いて船舶又は航空機等の目標を追尾するにあたり、波又は雲等によるクラッタの密度が高いときでも、クラッタを着目目標に誤って紐付ける可能性を低くするとともに、着目目標の予測ゲートを狭めずに、着目目標の追尾処理を途絶えさせる可能性を低くすることができる。
【符号の説明】
【0096】
Tv:着目目標
G:予測ゲート
T、Ta、Tb、Tc、Td、Te、Tf、Tg、Tn:目標
C:クラッタ
R:レーダ目標追尾システム
1:レーダ送受信装置
2:レーダ目標追尾装置
3:レーダ表示装置
11:目標検出部
12:目標記憶部
13:目標位置予測部
14:スキャン間相関部
15:目標追尾部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15