(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086602
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極用炭素粉末、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20240620BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20240620BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240620BHJP
【FI】
H01M4/587
C01B32/205
H01M4/133
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023197927
(22)【出願日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2022199984
(32)【優先日】2022-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】古賀 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】間所 靖
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AB01
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC15A
4G146AC15B
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AC17A
4G146AC17B
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA27
4G146BB03
4G146BB07
4G146BC23
4G146BC36B
4G146CB09
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA16
5H050CA17
5H050CA29
5H050CB08
5H050DA03
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】 得られるリチウムイオン二次電池の入出力特性に優れ、初回充放電効率が高く、かつ、得られる負極の密度が高くなる、リチウムイオン二次電池負極用炭素粉末を提供すること。
【解決手段】 粒子径D50が3.2μm以下であり、(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値が4.0以上であり、比表面積が7.0m2/g以上であり、X線回折測定を行うことにより得られる回折チャートにおいて、110反射の強度に対する004反射の強度の比が2.50以下である、リチウムイオン二次電池負極用炭素粉末。ただし、上記粒子径D50は、粒度分布の累積度数が体積百分率で50%の粒子径を表し、上記粒子径D10は、粒度分布の累積度数が体積百分率で10%の粒子径を表し、上記粒子径D90は、粒度分布の累積度数が体積百分率で90%の粒子径を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径D50が3.2μm以下であり、
(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値が4.0以上であり、
比表面積が7.0m2/g以上であり、
X線回折測定を行うことにより得られる回折チャートにおいて、110反射の強度に対する004反射の強度の比が2.50以下である、リチウムイオン二次電池負極用炭素粉末。
ただし、前記粒子径D50は、粒度分布の累積度数が体積百分率で50%の粒子径を表し、前記粒子径D10は、粒度分布の累積度数が体積百分率で10%の粒子径を表し、前記粒子径D90は、粒度分布の累積度数が体積百分率で90%の粒子径を表す。
【請求項2】
ラマン分光測定を行うことにより得られるラマンスペクトルにおいて、1570~1630cm-1の領域に存在するピークのピーク強度に対する、1350~1370cm-1の領域に存在するピークのピーク強度の比が、0.100未満である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用炭素粉末。
【請求項3】
X線回折測定から算出される002反射に対応する格子面間隔d002が、0.3375nm以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用炭素粉末。
【請求項4】
コークス黒鉛化物である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用炭素粉末。
【請求項5】
前記コークス黒鉛化物が、モザイクコークスの黒鉛化物である、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池負極用炭素粉末。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極用炭素粉末を含む、リチウムイオン二次電池負極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池負極を有する、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極用炭素粉末、リチウムイオン二次電池用負極、および、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池用の負極材料としては、種々の材料が検討されており、なかでも、黒鉛材料が中心に検討が進んでいる。黒鉛材料は、天然黒鉛と、人造黒鉛とに大別される。人造黒鉛については、近年、石油系または石油系のニードルコークスを原料とする人造黒鉛が、リチウムイオン二次電池負極用材料(リチウムイオン二次電池負極用炭素粉末)として広く利用されている。
上記のようなリチウムイオン二次電池負極用炭素粉末(以下、単に「炭素粉末」ともいう。)を用いたリチウムイオン二次電池の入出力特性を向上させるためには、炭素粉末の平均粒径を小さくする方法が有効であるとされている。
【0003】
例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3には、コークス等を粉砕して黒鉛化した炭素粉末について記載されている。具体的には、特許文献1には、所定の被覆層を有する炭素粉末が開示されており、メジアン径を3.0~30μmとすることが記載されている。また、特許文献2では、細孔径を制御した炭素粉末が開示されており、体積基準の粒度分布におけるメジアン径を、1~20μmとすることが記載されている。また、特許文献3では、結晶子の大きさと、平均粒径とを制御した炭素粉末が開示されており、平均粒径を3~20μmとすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-222681号公報
【特許文献2】特開2017-050184号公報
【特許文献3】特開2014-011085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、リチウムイオン二次電池の負極材料に用いられる炭素粉末は、小粒径化するほどリチウムイオン二次電池の入出力特性およびサイクル特性が向上する。一方で、小粒径化すると、初回充放電効率および電極密度が低下する場合がある。
初回充放電効率は、炭素粉末に対して被覆処理を施すことで改善することがあるが、工程が追加されるため、製造コストの面で好ましくなかった。また、被覆処理によっては、電極密度は改善されにくい。
【0006】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、得られるリチウムイオン二次電池の入出力特性に優れ、初回充放電効率が高く、かつ、得られる負極の密度が高くなる、リチウムイオン二次電池負極用炭素粉末を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記リチウムイオン二次電池負極用炭素粉末を含むリチウムイオン二次電池用負極、および、上記リチウムイオン二次電池用負極を有するリチウムイオン二次電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、粒子径D50が3.2μm以下であり、(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値、比表面積、および、X線回折測定を行った際の特定の回折線の強度比が所定の範囲であると、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、以下の構成により上記課題が解決されることを見出した。
【0008】
〔1〕 粒子径D50が3.2μm以下であり、
(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値が4.0以上であり、
比表面積が7.0m2/g以上であり、
X線回折測定を行うことにより得られる回折チャートにおいて、110反射の強度に対する004反射の強度の比が2.50以下である、リチウムイオン二次電池負極用炭素粉末。
ただし、上記粒子径D50は、粒度分布の累積度数が体積百分率で50%の粒子径を表し、上記粒子径D10は、粒度分布の累積度数が体積百分率で10%の粒子径を表し、上記粒子径D90は、粒度分布の累積度数が体積百分率で90%の粒子径を表す。
〔2〕 ラマン分光測定を行うことにより得られるラマンスペクトルにおいて、1570~1630cm-1の領域に存在するピークのピーク強度に対する、1350~1370cm-1の領域に存在するピークのピーク強度の比が、0.100未満である、〔1〕に記載のリチウムイオン二次電池負極用炭素粉末。
〔3〕 X線回折測定から算出される002反射に対応する格子面間隔d002が、0.3375nm以下である、〔1〕または〔2〕に記載のリチウムイオン二次電池負極用炭素粉末。
〔4〕 コークス黒鉛化物である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池負極用炭素粉末。
〔5〕 上記コークス黒鉛化物が、モザイクコークスの黒鉛化物である、〔4〕に記載のリチウムイオン二次電池負極用炭素粉末。
〔6〕 〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池負極用炭素粉末を含む、リチウムイオン二次電池負極。
〔7〕 〔6〕に記載のリチウムイオン二次電池負極を有する、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、得られるリチウムイオン二次電池の入出力特性に優れ、初回充放電効率が高く、かつ、得られる負極の密度が高くなる、リチウムイオン二次電池負極用炭素粉末を提供できる。
また、本発明によれば、リチウムイオン二次電池用負極、および、リチウムイオン二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】評価用のコイン型二次電池を示す断面図である。
【
図2】モザイク状の消光パターンを示すコークスの偏光顕微鏡像である。
【
図3】流れ状の消光パターンを示すコークスの偏光顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本発明はそのような実施態様に制限されない。
【0012】
以下、本明細書における各記載の意味を表す。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、以下に記載する実施形態は一例であり、本発明は、以下に記載する実施形態に限定されない。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[炭素粉末]
本発明のリチウムイオン二次電池負極用炭素粉末(炭素粉末)は、粒子径D50が3.2μm以下であり、
(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値が4.0以上であり、
比表面積が7.0m2/g以上であり、
X線回折測定を行った際に得られる回折チャートにおいて、110反射の強度に対する004反射の強度の比が2.50以下である。
ただし、上記粒子径D50は、粒度分布の累積度数が体積百分率で50%の粒子径を表し、上記粒子径D10は、粒度分布の累積度数が体積百分率で10%の粒子径を表し、上記粒子径D90は、粒度分布の累積度数が体積百分率で90%の粒子径を表す。
以下、本発明の炭素粉末が満たす各要件について詳細に説明する。
【0014】
<粒子径D50>
粒子径D50は、粒度分布の累積度数が体積百分率で50%の粒子径を表し、本発明の炭素粉末において、粒子径D50は、3.2μm以下である。粒子径D50が上記範囲内であると、リチウムイオンが炭素粉末に対して挿入しやすく、また、リチウムイオンが炭素粉末から脱離しやすいため、得られるリチウムイオン二次電池の入出力特性が向上しやすいと考えられる。
粒子径D50は、3.0μm未満が好ましく、2.9μm以下がより好ましい。粒子径D50の下限は、後段の(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値に関する条件を充足する限り特に制限されないが、粒子径D50は1.0μm以上が好ましく、1.2μm以上がより好ましく、1.5μm以上がさらに好ましく、2.0μm以上が特に好ましく、2.5μm以上が最も好ましい。
粒子径D50の測定方法は後述する。
【0015】
<(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値>
本発明の炭素粉末は、(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値が4.0以上である。(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値は、粒度分布の幅に対応する指標であるといえる。(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値が上記範囲内である場合、炭素粉末は、広い範囲の粒子径の粒子を含むことを表すと考えられ、粒径の大きな粒子同士の空隙に、粒径の小さな粒子が入り込みやすくなる。これにより、粒子の充填性が向上し、結果として、得られる負極の密度が高くなると考えられる。また、粒子間の接触面積が大きくなりやすいため、得られるリチウムイオン二次電池の入出力特性に優れると考えられる。
なお、上記粒子径D10は、粒度分布の累積度数が体積百分率で10%の粒子径を表し、上記粒子径D90は、粒度分布の累積度数が体積百分率で90%の粒子径を表す。
(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値は、4.1以上が好ましく、4.2以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、6.0以下が挙げられ、5.5以下が好ましく、5.0以下がより好ましい。
【0016】
ここで、上記粒子径D10、粒子径D50、および、粒子径D90は、レーザー式粒度分布測定装置によって粒度分布曲線を得て、粒度分布の累積度数が体積百分率で、それぞれ、10、50および90%の粒子径である。
レーザー式粒度分布測定装置によって粒度分布曲線を得る際は、以下の手順に従う。
まず、使用装置はLMS-2000e(セイシン企業社製)とする。測定時におけるサンプル粒子の屈折率は2.42、分散媒の屈折率は1.33とする。なお、サンプル粒子の吸収率は1とする。また、装置の超音波出力は70%、スターラーおよびポンプは1750rpmに設定する。
また、測定条件の詳細は以下のとおりである。サンプル粒子の測定時間は5秒、バックグラウンド測定時間は5秒とする。サンプル測定スナップ数は5000、バックグラウンド測定スナップ数は5000とする。なお、測定結果の計算モデルは、汎用モードを選択し、感度は標準とし、粒子形状は不規則と仮定して計算を行う。
測定に使用する分散液は、以下の手順で調製する。
まず、炭素粉末を採取し、3%のトリトン溶液を1~2滴添加してよく混ぜて湿らせる。その後、分散剤SN-PW43(サンノプコ社製)を1~2滴下してよく混ぜる。これにイオン交換水50mLを添加し、ホモジナイザー(BRANSON SONIFIRE MODEL251AA)により、DUTY CTCLEがConstant、OUTPUT CONTROLが3の条件で2分間処理し、黒鉛粒子を十分分散させて分散液を得る。
なお、測定時は、測定時の散乱光強度が10~20%となるように、分散液を測定装置内に導入する。散乱光強度(Ob)は、下記式で定義される。
Ob=100×{1-(Ls/Lb)}
上記式中、Lsは、装置セル中にサンプル粒子が存在するときにセルを透過する光の強度を表す。
上記式中、Lbは、装置セル中に分散媒のみが存在するときにセルを透過する光の強度を表す。
【0017】
また、粒子径D10は、1.4μm以下が好ましく、1.2μm以下がより好ましく、1.0μm以下がさらに好ましい。粒子径D10は、0.1μm以上である場合が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。
粒子径D90は、7.0μm以上が好ましく、9.0μm以上がより好ましく、11.0μm以上がさらに好ましく、12.0μm以上が特に好ましい。また、粒子径D90は、20.0μm以下が好ましく、15.0μm以下がより好ましく、13.0μm以下がさらに好ましい。
【0018】
<比表面積>
本発明の炭素粉末は、比表面積が7.0m2/g以上である。比表面積が上記範囲であると、リチウムイオンが炭素粉末に対して挿入しやすく、また、リチウムイオンが炭素粉末から脱離しやすいため、得られるリチウムイオン二次電池の入出力特性が向上しやすいと考えられる。
炭素粉末の比表面積は、7.1m2/g以上が好ましく、7.2m2/g以上がより好ましい。比表面積の上限は特に制限されないが、20.0m2/gが挙げられ、10.0m2/g以下が好ましく、9.5m2/g以下がより好ましく、8.0m2/g以下がさらに好ましい。
炭素粉末の比表面積は、以下の手順にしたがって得る。
測定装置は、粉体分析装置(カンタクローム社製、Monosorb)を用いる。
まず、上記分析装置のセル内に、炭素粉末を秤量する。その後、窒素30体積%とヘリウム70体積%からなるキャリアガス流通下、250℃にてサンプルを10分間加熱し、サンプル中の水分や不純物を除去する。測定は、窒素ガスを用いて行い、相対圧0.29において吸着ガスした体積(V)を求め、下記式にしたがって第1層として分子吸着した窒素ガスの体積(Vm)を算出する。下記式中、Pは、セル内の圧であり、P0は、当該測定条件下における飽和蒸気圧であり、P/P0は相対圧に相当する。
Vm=V(1-P/P0)
第1層として吸着した窒素ガスの体積(Vm)から、炭素粉末の表面積を算出し、秤量した炭素粉末の質量で除して比表面積(単位:m2/g)を得る。上記比表面積の測定方法は、BET1点法とも呼ばれる。
【0019】
<回折強度比>
本発明の炭素粉末は、X線回折測定を行った際に得られる回折チャートにおいて、110反射の強度に対する004反射の強度の比が2.50以下である。以下、X線回折測定を行った際に得られる回折チャートにおける110反射の強度に対する004反射の強度の比のことを、「I004/I110」とも記載する。
なお、<110>方向は、黒鉛構造において、黒鉛を構成するグラフェンの面内方向に該当し、<001>方向(<004>方向)は、黒鉛構造において、黒鉛を構成するグラフェンの積層方向に該当する。したがって、I004/I110は、炭素粉末の粒子中における結晶子の配向の指標となる。I004/I110の値が大きいことは、粒子中のグラフェンの積層方向が比較的同じ方向となっていることを表す。そうすると、I004/I110の値が大きい場合、粒子の形状は、粒子の端面が鋭利で角の多い鱗片形状を取りやすい。
I004/I110の値が上記範囲であると、上記のような角が少なく、充電時に電解液との副反応が起こりにくく、初回充放電効率が高くなると考えられる。
また、I004/I110の値が大きい炭素粉末を用いて負極を作製した場合、炭素粉末においてグラフェン層の面内方向が集電体(例えば集電体箔)の面方向と平行になりやすいと考えられる。このような負極を用いたリチウムイオン二次電池では、充放電時の入出力特性が低下しやすいと考えられる。よって、I004/I110の値が上記範囲であると、得られるリチウムイオン二次電池の入出力特性が向上しやすいと考えられる。
なお、I004/I110は、110反射の強度、および、004反射の強度から算出されるが、上記それぞれの強度は、JIS R 7651:2007(炭素材料の格子定数および結晶子の大きさ測定方法)に準拠して求める。
I004/I110は、2.45以下が好ましく、2.20以下がより好ましく、2.00以下がさらに好ましく、1.80以下が特に好ましい。I004/I110の下限は特に制限されないが、1.00以上が挙げられ、1.30以上が好ましく、1.60以上がより好ましい。
【0020】
<ラマン分光測定>
本発明の炭素粉末は、ラマン分光測定を行った際に、得られるラマンスペクトルにおいて、1570~1630cm-1の領域に存在するピークのピーク強度に対する、1350~1370cm-1の領域に存在するピークのピーク強度の比(以下、「ID/IG」ともいう。)が0.1未満であることも好ましい。なお、1570~1630cm-1の領域に存在するピークは、Gバンドとも呼ばれ、1350~1370cm-1の領域に存在するピークは、Dバンドとも呼ばれる。
ラマン分光測定によって得られる情報は、炭素粉末の各粒子の表面の状態を反映しているといえる。すなわち、ID/IG値が小さい場合、粒子表面の結晶性が高く、放電容量がより大きくなりやすい。
ID/IG値は、0.098以下がより好ましく、0.097以下がさらに好ましく、0.090以下が特に好ましく、0.080以下が最も好ましい。またID/IG値は、0.050以上が好ましく、0.060以上がより好ましく、0.070以上がさらに好ましい。
【0021】
上記ラマン分光測定およびID/IG値の算出は、以下の手順で行う。
ラマン分光測定装置は、堀場製作所社製の「LabRAM ARAMIS」を用い、波長532nmのレーザー光を炭素粉末に照射し、顕微ラマン分析を100μm×100μmの領域内100箇所について行う。それぞれの測定で得られるラマンスペクトルにおいて、1530~1630cm-1の領域に存在するピークのピーク強度、および、1300~1400cm-1の領域に存在するピークのピーク強度を求め、ID/IG値を算出する。それぞれのラマンスペクトルのID/IG値を平均し、炭素粉末のID/IG値とする。
【0022】
<格子面間隔d002>
本発明の炭素粉末は、X線回折測定から算出される002反射に対応する格子面間隔d002が、0.3375nm以下であることも好ましい。上述したように、格子面間隔d002は、001反射の2回反射の002反射に対応し、黒鉛を構成する最も近いグラフェン同士の積層間隔に相当する。
格子面間隔d002は、炭素材料の結晶性を示す指標の1つであり、値が大きいと結晶性が低く、値が小さいと結晶性が高いとされる。炭素化した材料を加熱することにより、材料の黒鉛化、つまり、結晶化が進行する。黒鉛化が進むほど、結晶の大きさ(結晶子サイズ)は大きくなり、格子面間隔d002は、理想的な黒鉛結晶の0.3354nm(理論値)に近づく。
本発明の炭素粉末の格子面間隔d002は、0.3375nm以下が好ましく、0.3372nm以下がより好ましい。格子面間隔d002が上記範囲内にあれば、炭素粉末の粒子のバルク結晶性が高いため、放電容量の値がより良好になる。なお、格子面間隔d002の下限は特に制限されないが、0.3354nmが挙げられ、0.3365nm以上が好ましく、0.3366nm以上がより好ましい。
格子面間隔d002は、上記I004/I110を求める際と同様にして測定を行い、002反射に対応するピークの反射角と、用いたX線源の波長から求められる。
【0023】
また、本発明の炭素粉末は、コークスを黒鉛化して得られる炭素粉末であることが好ましい。すなわち、本発明の炭素粉末は、コークス黒鉛化物であることが好ましい。
上記コークスは、モザイクコークスであることがより好ましい。すなわち、本発明の炭素粉末は、モザイクコークスの黒鉛化物であることがより好ましい。
【0024】
[炭素粉末の製造方法]
本発明の炭素粉末の製造方法は特に制限されないが、例えば、原料のコークスを粉砕し、粉砕したコークスを黒鉛化し、上記黒鉛化の前または後に、粗粉を除去する方法が挙げられる。
以下、上記炭素粉末の製造方法の例について詳述する。
【0025】
<原料>
上述した炭素粉末の製造方法では、原料として、コークスを用いる。コークスとしては、例えば、石炭系コークス、および、石油系コークスが挙げられる。石炭系コークスは、コールタールを高温で熱処理して得られる、金属性光沢のある灰黒色の多孔質固体である。石油系コークスは、石油の重質留分を高温で熱処理して得られるコークスである。
コークスは、か焼前のコークス(生コークス)であってもよく、か焼されたコークス(カルサインコークス)であってもよい。コークスのか焼は、例えば、ローターリーキルン等を用いて、約900~1500℃の温度で行われる。
コークスは、
図2に示す偏光顕微鏡写真のようなモザイク状の消光縞模様を示すコークス(モザイクコークス)を用いることが好ましい。モザイクコークスは、粉砕によって粒径の小さな粒子が発生しやすい傾向にある。したがって、モザイクコークスを粉砕した粉砕品を黒鉛化した場合、得られる炭素粉末の粒子径D50が3.2μm以下となるようにモザイクコークスの粉砕の度合いを調整すると、炭素粉末の粒度分布幅を示す(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値を4.0以上に調整しやすい。
一方、
図3に示す偏光顕微鏡写真のような流れ状の消光縞模様を示すコークス(流れ状コークス)を粉砕する場合、粉砕によって粒径の小さな粒子が発生しにくい傾向にある。したがって、流れ状コークスを原料として使用する場合、例えば、得られる炭素粉末の粒子径D50を3.2μm以下としつつ、(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値を4.0以上に調整するためには、粉砕度合いの異なる流れ状コークスを混合して用いればよい。
なお、流れ状コークスを原料として使用して炭素粉末を製造した場合、得られる炭素粉末において、粒子径D50が3.2μm以下となるように粉砕度合いを調整すると、(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値を4.0以上に調整しにくい場合がある。
【0026】
<粉砕>
上述した炭素粉末の製造方法では、コークスを粉砕して粉砕コークスを得る。この際、粉砕コークスの粒子径D50は、3.2μm以下となるように粉砕を行うことが好ましい。
コークスを粉砕する方法は特に制限されず、公知の粉砕装置を用いることができる。粉砕に用いる装置としては、例えば、せん断式ミル、ジョークラッシャー、衝撃式クラッシャー、および、コーンクラッシャー等の粗粉砕機;ロールクラッシャー、および、ハンマーミル等の中間粉砕機;機械式粉砕機、気流式粉砕機、および、旋回流式粉砕機等の微粉砕機;等が挙げられる。
【0027】
<黒鉛化>
上述した炭素粉末の製造方法では、粉砕したコークスを加熱して黒鉛化し、黒鉛化品を得る。黒鉛化する際の加熱温度(黒鉛化温度)は、2500℃以上が好ましく、2800℃以上がより好ましい。一方、黒鉛化温度は、4000℃以下が好ましく、3500℃以下がより好ましい。黒鉛化温度がこの範囲であれば、黒鉛化品の結晶性等が良好となりやすい。
なお、上記加熱は、通常、減圧下または窒素およびアルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行われる。
【0028】
<粗粉除去>
上述した炭素粉末の製造方法では、上記黒鉛化を実施する前、または、黒鉛化を実施した後に粗粉を除去する。粗粉を除去することで、粒子径D10、粒子径D50、および、粒子径D90を調整できる。例えば、黒鉛化後に粗粉を除去する場合には、得られる炭素粉末の粒子径D50が3.2μm以下であり、(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値が4.0以上となるように粗粉を除去する。また、黒鉛化前に粗粉を除去する場合には、粗粉の除去後の粉末の粒子径D50が3.2μm以下となるようにすることが好ましい。
なお、上記黒鉛化を実施する前および黒鉛化を実施した後の両方において粗粉除去を行ってもよい。
粗粉除去の方法としては、特に限定されないが、例えば、風力分級機等を用いて乾式で分級する方法、および、篩を用いる方法が挙げられる。
風力分級機の方式としては、例えば、内部ロータにより遠心力を発生させ、微粉のみ外部ブロアにより吸引させて分級する強制遠心分離式;内部ロータにより風を循環させ、被処理物の比重差によって分級する比重選別式;被処理物を気流に乗せて管内に投入し、慣性と気流の抵抗を利用して、被処理物の飛行軌跡の違いにより分級する重力慣性分離式;等が挙げられ、適宜選択できる。風力分級機においては、内部ロータの回転数、および、気流の速度等によって除去する粗粉の粒径を調整できる。
篩に用いる装置としては特に限定されないが、超音波式振動篩、および、篩振とう機等が挙げられる。篩の目の大きさは、除去する粗粉の粒径によって適宜選択する。
【0029】
[リチウムイオン二次電池]
以下、本発明の炭素粉末をリチウムイオン二次電池用負極に用いたリチウムイオン二次電池(以下、「本発明のリチウムイオン二次電池」ともいう。)について説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の炭素粉末を含むリチウムイオン二次電池負極(以下、「本発明の負極」ともいう。)を有するリチウムイオン二次電池である。本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の負極のほかに、さらに、正極および非水電解質等を有する。本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、負極、非水電解質、正極の順で積層し、電池の外装材内に収容することにより構成される。本発明のリチウムイオン二次電池は、用途、搭載機器、要求される充放電容量等に応じて、円筒型、角型、コイン型、ボタン型等の中から任意に選択できる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極材料として本発明の炭素粉末を用いること以外は特に限定されず、他の電池構成要素については、一般的なリチウムイオン二次電池の要素に準ずる。
【0030】
<負極>
本発明のリチウムイオン二次電池用負極(本発明の負極)は、本発明の炭素粉末を含むリチウムイオン二次電池用負極である。
本発明の負極は、通常のリチウムイオン二次電池の負極に準じて作製される。負極の作製時には、本発明の炭素粉末に結合剤を加えて予め調製した負極合剤を用いることが好ましい。負極合剤には、本発明の炭素粉末以外の活物質および導電材等が含まれていてもよい。
結合剤としては、電解質に対して、化学的および電気化学的に安定なものが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、および、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂;ポリエチレン、ポリビニルアルコール、および、スチレンブタジエンゴム等の樹脂;カルボキシメチルセルロース;等が挙げられる。なお、これらを2種以上併用することもできる。結合剤は、通常、負極合剤の全量中の1~20質量%程度の割合で用いられる。
【0031】
より具体的な負極の作製手順としては、本発明の炭素粉末を結合剤と混合し、得られた混合物と溶剤とを混合して、ペースト状の負極合剤を調製する。溶剤としては、水、イソピロピルアルコール、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。混合には、公知の攪拌機、混合機、混練機、および、ニーダー等が用いられる。
調製したペーストを、通常、集電体の片面または両面に塗布し、乾燥する。こうして、集電体に均一かつ強固に密着した負極合剤層(負極)が得られる。負極合剤層の厚さは、10~200μmが好ましく、20~100μmがより好ましい。負極合剤層を形成した後、プレス加圧等の圧着を行なうことにより、負極合剤層(負極)と集電体との密着強度をより高めることができる。集電体の形状は、特に限定されないが、例えば、箔状、メッシュ、エキスパンドメタル等の網状等である。集電体の材質としては、銅、ステンレス、ニッケル等が好ましい。集電体の厚さは、箔状の場合で5~20μm程度が好ましい。
【0032】
<正極>
正極の材料(正極活物質)は、充分量のリチウムを吸蔵/放出し得るものを選択するのが好ましい。正極活物質としては、金属リチウムのほか、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物およびそのリチウム化合物等のリチウム含有化合物;一般式MXMo6S8-Y(式中Mは少なくとも一種の遷移金属元素であり、Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数値である)で表されるシェブレル相化合物;活性炭;活性炭素繊維;等が挙げられる。バナジウム酸化物は、V2O5、V6O13、V2O4、V3O8で示される。
【0033】
リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと2種類以上の遷移金属とを固溶したものであってもよい。複合酸化物は単独で使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。リチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には、LiM1
1-XM2
XO2(式中M1、M2は少なくとも一種の遷移金属元素であり、Xは0≦X≦1の範囲の数値である)、または、LiM1
1-YM2
YO4(式中M1、M2は少なくとも一種の遷移金属元素であり、Yは0≦Y≦1の範囲の数値である)で示される。
M1、M2で示される遷移金属元素は、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Sn等であり、好ましいのはCo、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Al等である。好ましい具体例は、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi0.9Co0.1O2、LiNi0.5Co0.5O2等である。
リチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、リチウム、遷移金属の酸化物、水酸化物、塩類等を出発原料とし、これら出発原料を所望の金属酸化物の組成に応じて混合し、酸素雰囲気下600~1000℃の温度で焼成することにより得ることができる。
正極活物質は、上述した化合物を単独で使用しても2種類以上併用してもよい。例えば、正極中に炭酸リチウム等の炭素塩を添加できる。正極を形成するに際しては、従来公知の導電剤や結着剤等の各種添加剤を適宜に使用できる。
【0034】
このような正極は、例えば、正極活物質と、結合剤と、正極に導電性を付与するための導電剤とからなる正極合剤を、集電体の両面に塗布して正極合剤層を形成して作製される。結合剤としては、負極の作製に使用される結合剤を使用できる。導電剤としては、黒鉛化物、カーボンブラック等の公知の導電剤が使用される。集電体の形状は特に限定されないが、箔状または網状等が挙げられる。集電体の材質は、アルミニウム、ステンレス、ニッケル等である。集電体の厚さは、10~40μmが好ましい。正極も、負極と同様に、ペースト状の正極合剤を、集電体に塗布、乾燥し、その後、プレス加圧等の圧着を行なってもよい。
【0035】
<非水電解質>
非水電解質は液状の非水電解質(非水電解質液)としてもよく、固体電解質またはゲル電解質等の高分子電解質としてもよい。前者の場合、非水電解質電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池として構成される。後者の場合、非水電解質電池は、高分子固体電解質、高分子ゲル電解質電池等の高分子電解質電池として構成される。
非水電解質としては、通常の非水電解質液に使用される電解質塩である、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C6H5)、LiCl、LiBr、LiCF3SO3、LiCH3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3CH2OSO2)2、LiN(CF3CF2OSO2)2、LiN(HCF2CF2CH2OSO2)2、LiN((CF3)2CHOSO2)2、LiB[{C6H3(CF3)2}]4、LiAlCl4、LiSiF6等のリチウム塩が用いられる。酸化安定性の点からは、LiPF6、LiBF4が好ましい。非水電解質液中の電解質塩の濃度は、0.1~5.0mol/Lが好ましく、0.5~3.0mol/Lがより好ましい。
非水電解質液を調製するための溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート;1、1-または1、2-ジメトキシエタン、1、-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、1、3-ジオキソラン、4-メチル-1、3-ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテル等のエーテル;スルホラン、メチルスルホラン等のチオエーテル;アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリル等のニトリル;ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3-メチル-2-オキサゾリドン、エチレングリコール、ジメチルサルファイト等の非プロトン性有機溶媒;等が挙げられる。
【0036】
非水電解質を、固体電解質またはゲル電解質等の高分子電解質とする場合、マトリクスとして可塑剤(非水電解質液)でゲル化された高分子を用いることが好ましい。マトリクスを構成する高分子としては、ポリエチレンオキサイド、その架橋体等のエーテル系高分子化合物;ポリ(メタ)アクリレート系高分子化合物;ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系高分子化合物;等が好適に用いられる。可塑剤である非水電解質液中の電解質塩の濃度は、0.1~5.0mol/Lが好ましく、0.5~2.0mol/Lがより好ましい。高分子電解質において、可塑剤の割合は、10~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましい。
【0037】
<セパレータ>
本発明のリチウムイオン二次電池は、セパレータを有していてもよい。セパレータは、通常、負極と正極との間に配置される。セパレータの材質は特に限定されないが、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜等が用いられる。これらのうち、合成樹脂製微多孔膜が好ましく、なかでも、ポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、および、膜抵抗の面でより好ましい。ポリオレフィン系微多孔膜としては、ポリエチレン製微多孔膜、ポリプロピレン製微多孔膜、これらを複合した微多孔膜等が好適に挙げられる。
【実施例0038】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきではない。
【0039】
[実施例1]
<炭素粉末の製造>
モザイク状の消光縞模様を示す石炭系のカルサインコークスを空気雰囲気下120℃で乾燥し水分を除去した。乾燥品を、機械式粉砕機(不二パウダル社製 AIIW-型)を用いて粉砕した後、超音波式振動篩(ダルトン社製 C501C型)を用いて篩がけを行い、粗粉を除去して粒子径D50が2.6μm超3.2μm以下となるように調整した。その後、黒鉛ルツボに封入し、黒鉛化炉(160KVAタンマン炉、日本カーボンセラム社製)にて3000℃、アルゴン雰囲気下で黒鉛化して、実施例1の炭素粉末を得た。
【0040】
<炭素粉末の物性>
実施例1の炭素粉末について、それぞれ上述した方法で、粒度分布曲線、X線回折チャート、および、ラマンスペクトルを得て、粒子径D10、粒子径D50、粒子径D90、格子面間隔d002、I002/I110、および、ID/IGを求めた。また、上述した方法で炭素粉末の比表面積を得た。さらに、(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値を算出した。
炭素粉末の物性の測定結果を後段の表1に示す。
【0041】
<負極合材ペーストの調製>
炭素粉末98質量部、カルボキシメチルセルロース(結合剤)1質量部、および、スチレン-ブタジエンゴム1質量部を水に入れ、撹拌して負極合剤ペーストを調製した。
【0042】
<負極の作製>
負極合剤ペーストを銅箔に均一な厚さで塗布し、真空中110℃で溶剤を揮発させ、乾燥した。その後、負極合剤層をハンドプレス装置によって255MPaで加圧した。加圧後、銅箔と負極合剤層とを直径15.5mmの円形状に打抜いて、集電体と、上記集電体に密着した負極合剤層とからなる負極を作製した。負極の質量および大きさから、負極の密度(単位:g/cm3)を求めた。得られた負極の密度を下記表1に示す。
また、上記方法にてハンドプレスの加圧圧力を調整して負極の密度が1.2~1.3g/cm3となるようにした負極も作製し、この電極を後段に記載する電池評価に用いた。
【0043】
<正極の作製>
リチウム金属箔をニッケルネットに押付け、直径15.5mmの円形状に打抜いて、ニッケルネットからなる集電体と、集電体に密着したリチウム金属箔(厚み0.5mm)からなる正極を作製した。
【0044】
<評価電池の作製>
評価電池として、
図1に示すボタン型二次電池を作製した。
図1は、ボタン型二次電池を示す断面図である。
図1に示すボタン型二次電池は、外装カップ1と外装缶3との周縁部が絶縁ガスケット6を介してかしめられ、密閉構造が形成されている。密閉構造の内部には、外装缶3の内面から外装カップ1の内面に向けて順に、集電体7a、正極4、セパレータ5、負極2、および、集電体7bが積層されている。
図1に示すボタン型二次電池を、次のように作製した。まず、エチレンカーボネート(33体積%)とメチルエチルカーボネート(67体積%)との混合溶媒に、LiPF
6を1mol/Lとなる濃度で溶解させ、非水電解質液を調製した。得られた非水電解質液を、ポリプロピレン多孔質体(厚さ:20μm)に含浸させることにより、非水電解質液が含浸したセパレータ5を作製した。次に、作製したセパレータ5を、銅箔からなる集電体7bに密着した負極2と、ニッケルネットからなる集電体7aに密着した正極4との間に挟んで積層した。その後、集電体7bおよび負極2を外装カップ1の内部に収容し、集電体7aおよび正極4を外装缶3の内部に収容し、外装カップ1と外装缶3とを合わせた。さらに、外装カップ1と外装缶3との周縁部を、絶縁ガスケット6を介してかしめ、密閉した。このようにして、ボタン型二次電池を作製した。
作製したボタン型二次電池(評価電池)を用いて、以下に説明する充放電試験により、電池特性を評価した。結果を下記表1に示す。
以下の充放電試験においては、リチウムイオンを負極材料に吸蔵する過程を充電とし、負極材料からリチウムイオンが脱離する過程を放電とした。
【0045】
<充放電試験>
まず、0.9mAの電流値で、回路電圧が1mVに達するまで定電流充電を行なった。回路電圧が1mVに達した時点で定電圧充電に切替え、電流値が20μAになるまで充電を続けた。この間の通電量から、充電容量(単位:mAh/g)を求めた。その後、10分間休止した。次に、0.9mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行なった。この間の通電量から、放電容量(単位:mAh/g)を求めた。これを第1サイクルとした。次いで、充電電流を1C(1時間で満充電される電流値)、放電電流を2C(30分で完全放電する電流値)として、第1サイクルと同様にして充放電を行った。1Cおよび2Cの電流値は、第1サイクルの放電容量と負極の活物質質量(すなわち、炭素粉末の質量)から計算した。
初回充放電効率は、式(1)から計算した。初回充放電効率の値が大きいほど、初回充放電効率が良好であると評価できる。
初回充放電効率(単位:%)=100×(第1サイクルの放電容量/第1サイクルの充電容量)・・・(1)
1C充電率は式(2)から計算した。また、2C放電率は式(3)から計算した。
1C充電率(単位:%)=100×(1C電流値におけるCC部分の充電容量/第1サイクルの放電容量)・・・(2)
2C放電率(単位:%)=100×(2C電流値における放電容量/第1サイクルの放電容量)・・・(3)
なお、式(2)中、「CC部分の充電容量」とは、回路電圧が1mVに達するまで定電流充電を行った際の充電容量を示す。
1C充電率、および、2C放電率は入出力特性を表す指標である。入出力特性は、入力特性と出力特性に大別され、1C充電率の値が高い程入力特性が優れ、2C放電率が高い程出力特性に優れることを表す。
【0046】
[実施例2]
実施例1において、粉砕後に篩掛けしたコークスの粒子径D50を2.3μm超2.6μm以下となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして炭素粉末を製造した。また、実施例1と同様に、負極合材ペーストの調製、負極の作製、リチウムイオン二次電池の作製および充放電試験を行った。
【0047】
[実施例3]
実施例1において、粉砕後に篩掛けしたコークスの粒子径D50を2.0μm超2.3μm以下となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして炭素粉末を製造した。また、実施例1と同様に、負極合材ペーストの調製、負極の作製、リチウムイオン二次電池の作製および充放電試験を行った。
【0048】
[実施例4]
実施例1において、粉砕後に篩掛けしたコークスの粒子径D50を2.0μm以下となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして炭素粉末を製造した。また、実施例1と同様に、負極合材ペーストの調製、負極の作製、リチウムイオン二次電池の作製および充放電試験を行った。
【0049】
[実施例5]
粉砕後に篩掛けした複数のコークスを混合し、コークスの粒子径D50を2.0μm以下、かつ、(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値が5.0以上となるように調整し、その後黒鉛化を行ったこと以外は、実施例1と同様にして炭素粉末を製造した。また、実施例1と同様に、負極合材ペーストの調製、負極の作製、リチウムイオン二次電池の作製および充放電試験を行った。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、粉砕後に篩掛けしたコークスの粒子径D50を3.2μm超4.0μm以下となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に炭素粉末を製造した。また、実施例1と同様に、負極合剤ペーストの調製、負極の作製、リチウムイオン二次電池の作製および充放電試験を行った。
【0051】
[比較例2]
実施例1において、粉砕後に篩掛けしたコークスの粒子径D50を4.0μm超となるように調整したこと以外は、実施例1と同様に炭素粉末を製造した。また、実施例1と同様に、負極合剤ペーストの調製、負極の作製、リチウムイオン二次電池の作製および充放電試験を行った。
【0052】
[比較例3]
実施例1において、原料として流れ状の消光縞模様を示す石炭系生コークスを用いた以外は、実施例1と同様に炭素粉末を製造した。また、実施例1と同様に、負極合剤ペーストの調製、負極の作製、リチウムイオン二次電池の作製および充放電試験を行った。
【0053】
[比較例4]
実施例1において、原料として流れ状の消光縞模様を示す石油系生コークスを用いた以外は、実施例1と同様に炭素粉末を製造した。また、実施例1と同様に、負極合剤ペーストの調製、負極の作製、リチウムイオン二次電池の作製および充放電試験を行った。
【0054】
[比較例5]
実施例1において、コークスを粉砕した後、風力分級機にて微粉および粗粉を除去して、コークスの粒子径D50を2.3μm超2.6μm以下、かつ、(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値が3.9以下となるように調整し、その後黒鉛化を行ったこと以外は、実施例1と同様に炭素粉末を製造した。また、実施例1と同様に、負極合剤ペーストの調製、負極の作製、リチウムイオン二次電池の作製および充放電試験を行った。
【0055】
[結果]
実施例および比較例の炭素粉末の物性、負極密度、および、充放電試験の結果を表1に示す。
また、実施例および比較例に用いた原料の特性についても表1に示す。
【0056】
【0057】
表1の結果から、粒子径D50が3.2μm以下であり、(粒子径D90-粒子径D10)/粒子径D50の値が4.0以上であり、比表面積が7.0m2/g以上であり、I004/I110が2.5以下である実施例1~5の炭素粉末を用いた場合、上記要件のいずれか1つ以上を満たさない比較例1~5の炭素粉末を用いた場合と比較して、負極密度が高くなることが確認された。
また、実施例1~5の炭素粉末を用いた場合、比較例1~5の炭素粉末を用いた場合と比較して、同程度の初回充電効率、および、同程度の入出力特性を示し、初回充放電効率および入出力特性にも優れることが確認された。