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特開2024-86608導電性基材の製造方法、電子デバイスの製造方法、電磁波シールドフィルムの製造方法、面状発熱体の製造方法および導電性基材
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  • 特開-導電性基材の製造方法、電子デバイスの製造方法、電磁波シールドフィルムの製造方法、面状発熱体の製造方法および導電性基材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086608
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】導電性基材の製造方法、電子デバイスの製造方法、電磁波シールドフィルムの製造方法、面状発熱体の製造方法および導電性基材
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/12 20060101AFI20240620BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240620BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20240620BHJP
   C23C 24/06 20060101ALI20240620BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240620BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
H05K3/12
H05K1/03 610H
H05K1/03 670
H05K9/00 W
C23C24/06
H01B13/00 503Z
H01B5/14 Z
H01B5/14 B
H01B13/00 503D
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200580
(22)【出願日】2023-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2022199931
(32)【優先日】2022-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000130581
【氏名又は名称】サトーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】小川 孝之
(72)【発明者】
【氏名】柴田 剛
【テーマコード(参考)】
4K044
5E321
5E343
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
4K044AA16
4K044AB02
4K044BA06
4K044BB01
4K044BC14
4K044CA23
4K044CA53
4K044CA64
5E321BB21
5E321BB23
5E321BB44
5E321BB60
5E343AA02
5E343AA12
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB72
5E343CC17
5E343DD02
5E343FF02
5E343GG06
5G307GA06
5G307GB02
5G307GC01
5G307GC02
5G323AA01
5G323CA05
(57)【要約】
【課題】導電性粒子を含有する導電性組成物を用いて、比抵抗が小さい導電膜を有する導電性基材を製造すること。
【解決手段】(1)基材の表面に、導電性粒子を含む導電性組成物を用いて導電性粒子含有層を形成し、基材層と導電性粒子含有層とを備える積層体を得る積層工程と、(2)前記導電性粒子含有層内に、前記導電性粒子の表面の酸化膜を除去することが可能な成分(X)を浸透させる浸透工程と、(3)前記成分(X)が浸透した導電性粒子含有層を少なくとも加圧して導電膜を形成する導電膜形成工程と、を含む、導電性基材の製造方法
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、導電性粒子を含む導電性組成物を用いて導電性粒子含有層を形成し、基材層と導電性粒子含有層とを備える積層体を得る積層工程と、
前記導電性粒子含有層内に、前記導電性粒子の表面の酸化膜を除去することが可能な成分(X)を浸透させる浸透工程と、
前記成分(X)が浸透した導電性粒子含有層を少なくとも加圧して導電膜を形成する導電膜形成工程と、
を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記積層工程と前記浸透工程との間に、前記導電性粒子含有層を少なくとも加圧する加圧工程を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記加圧工程において前記導電性粒子含有層にかかる圧力をP1とし、
前記導電膜形成工程において前記導電性粒子含有層にかかる圧力をP2としたとき、
P1<P2である、導電性基材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記浸透工程では、前記成分(X)が溶解または分散した液体を、前記導電性粒子含有層内に浸透させる、導電性基材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記液体は、水を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記成分(X)が溶解または分散した液体は、前記積層工程と前記浸透工程との間に、滴下、噴霧または浸漬のいずれかの方法により、前記導電性粒子含有層の少なくとも表面に供給される、導電性基材の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記浸透工程では、前記成分(X)を含むシートを前記導電性粒子含有層に接触させることにより、前記導電性粒子含有層内に前記成分(X)を浸透させる、導電性基材の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜形成工程では、前記導電性粒子含有層を加熱しながら加圧する、導電性基材の製造方法。
【請求項9】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜形成工程では、前記積層体における前記導電性粒子含有層が設けられた面を、フィルム状物で覆ったうえで前記導電性粒子含有層を少なくとも加圧する、導電性基材の製造方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記浸透工程と前記導電膜形成工程とが、同時に行われる、導電性基材の製造方法。
【請求項11】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記浸透工程の後に、前記導電膜形成工程が行われる、導電性基材の製造方法。
【請求項12】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜形成工程の後に、前記導電膜の表面または内部に残存する前記成分(X)を除去する除去工程を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項13】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記成分(X)が、有機酸、リンのオキソ酸、および、ヒドラジンまたはその誘導体、からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性基材の製造方法。
【請求項14】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性組成物が、樹脂および結着剤の一方または両方を含む、導電性基材の製造方法。
【請求項15】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性組成物が、樹脂を実質的に含まず、また、結着剤を実質的に含まない、導電性基材の製造方法。
【請求項16】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記基材は可撓性を有する、導電性基材の製造方法。
【請求項17】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記基材は、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイミドおよび紙からなる群より選択される少なくともいずれかである、導電性基材の製造方法。
【請求項18】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記浸透工程は、押圧部材により前記導電性粒子含有層に圧力をかけることにより行われる、導電性基材の製造方法。
【請求項19】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記浸透工程は、以下(i)~(iii)のいずれかのようにして行われる、導電性基材の製造方法。
(i)前記積層体を、対向する2本のロールで挟みながら、前記2本のロールの間を搬送させることにより行われる。
(ii)前記積層体を、平板上または平坦面を有する台の前記平坦面上に置き、その上からロールを接触させ、当該ロールを回転させながら前記積層体に圧力を加えることにより行われる。
(iii)第1の平坦面を有する第1の押圧部材の前記第1の平坦面と、第2の平坦面を有する第2の押圧部材の前記第2の平坦面と、により、前記積層体を挟むことにより行われる。
【請求項20】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜はパターン構造を有する、導電性基材の製造方法。
【請求項21】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて電子デバイスを製造する、電子デバイスの製造方法。
【請求項22】
請求項21に記載の電子デバイスの製造方法であって、
前記電子デバイスが、RFタグである、電子デバイスの製造方法。
【請求項23】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて電磁波シールドフィルムを製造する、電磁波シールドフィルムの製造方法。
【請求項24】
請求項1または2に記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて面状発熱体を製造する、面状発熱体の製造方法。
【請求項25】
基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に、導電性粒子を含む導電性組成物を用いて設けられた導電膜とを備える導電性基材であって、
前記導電膜の表面または内部には、前記導電性粒子の表面の酸化膜を除去することが可能な成分(X)が存在する導電性基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基材の製造方法、電子デバイスの製造方法、電磁波シールドフィルムの製造方法、面状発熱体の製造方法および導電性基材に関する。
【背景技術】
【0002】
基材上に導電性粒子を含有する導電性組成物を塗布して導電性粒子含有層を設け、その導電性粒子含有層を加熱・加圧等して、導電膜を備える導電性基材を形成する技術が知られている。
【0003】
一例として、特許文献1の実施例には、平均一次粒径7nmの銀微粒子を、水/エチレングリコールに分散させたものを、PETフィルムに塗布して塗膜とし、その塗膜を150℃で加熱・加圧したこと、そしてこのような工程により導電層を形成したこと、が記載されている。
【0004】
別の例として、特許文献2の実施例には、メジアン径が約40nmの銅微粒子(銅ナノ粒子)と、分散媒と、分散剤とを有する銅微粒子分散液(銅ナノインク)を、ガラス基材上にスピンコートして塗膜とし、その後焼成することで導電膜を形成したこと、が記載されている。
【0005】
さらに別の例として、特許文献3には、(A)オキシカルボン酸、(B)含窒素化合物、(C)銅粒子、及び(D)分散媒を含有する導電性インク組成物を基材上に塗布して塗布膜とし、その塗布膜を処理して導電性層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6181608号公報
【特許文献2】特開2021-044308号公報
【特許文献3】特開2017-191723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
導電性粒子を含有する導電性組成物を用いて導電膜を形成する際には、形成される導電膜の比抵抗ができるだけ小さくなることが好ましい。しかし、例えば特許文献1~3のような従来知られた製造方法により得られる導電膜については、比抵抗をより小さくする余地があった。
【0008】
上記事情を踏まえ、本発明者らは、導電性粒子を含有する導電性組成物を用いて、比抵抗が小さい導電膜を有する導電性基材を製造することを目的の1つとして、様々な検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0010】
本発明は、以下である。
【0011】
1.
基材の表面に、導電性粒子を含む導電性組成物を用いて導電性粒子含有層を形成し、基材層と導電性粒子含有層とを備える積層体を得る積層工程と、
前記導電性粒子含有層内に、前記導電性粒子の表面の酸化膜を除去することが可能な成分(X)を浸透させる浸透工程と、
前記成分(X)が浸透した導電性粒子含有層を少なくとも加圧して導電膜を形成する導電膜形成工程と、
を含む、導電性基材の製造方法。
2.
1.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記積層工程と前記浸透工程との間に、前記導電性粒子含有層を少なくとも加圧する加圧工程を含む、導電性基材の製造方法。
3.
2.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記加圧工程において前記導電性粒子含有層にかかる圧力をP1とし、
前記導電膜形成工程において前記導電性粒子含有層にかかる圧力をP2としたとき、
P1<P2である、導電性基材の製造方法。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記浸透工程では、前記成分(X)が溶解または分散した液体を、前記導電性粒子含有層内に浸透させる、導電性基材の製造方法。
5.
4.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記液体は、水を含む、導電性基材の製造方法。
6.
4.または5.に記載の導電性基材の製造方法であって、
前記成分(X)が溶解または分散した液体は、前記積層工程と前記浸透工程との間に、滴下、噴霧または浸漬のいずれかの方法により、前記導電性粒子含有層の少なくとも表面に供給される、導電性基材の製造方法。
7.
1.~3.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記浸透工程では、前記成分(X)を含むシートを前記導電性粒子含有層に接触させることにより、前記導電性粒子含有層内に前記成分(X)を浸透させる、導電性基材の製造方法。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜形成工程では、前記導電性粒子含有層を加熱しながら加圧する、導電性基材の製造方法。
9.
1.~8.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜形成工程では、前記積層体における前記導電性粒子含有層が設けられた面を、フィルム状物で覆ったうえで前記導電性粒子含有層を少なくとも加圧する、導電性基材の製造方法。
10.
1.~9.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記浸透工程と前記導電膜形成工程とが、同時に行われる、導電性基材の製造方法。
11.
1.~9.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記浸透工程の後に、前記導電膜形成工程が行われる、導電性基材の製造方法。
12.
1.~11.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜形成工程の後に、前記導電膜の表面または内部に残存する前記成分(X)を除去する除去工程を含む、導電性基材の製造方法。
13.
1.~12.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記成分(X)が、有機酸、リンのオキソ酸、および、ヒドラジンまたはその誘導体、からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、導電性基材の製造方法。
14.
1.~13.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性組成物が、樹脂および結着剤の一方または両方を含む、導電性基材の製造方法。
15.
1.~13.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電性組成物が、樹脂を実質的に含まず、また、結着剤を実質的に含まない、導電性基材の製造方法。
16.
1.~15.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記基材は可撓性を有する、導電性基材の製造方法。
17.
1.~16.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記基材は、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイミドおよび紙からなる群より選択される少なくともいずれかである、導電性基材の製造方法。
18.
1.~17.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記浸透工程は、押圧部材により前記導電性粒子含有層に圧力をかけることにより行われる、導電性基材の製造方法。
19.
1.~18.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記浸透工程は、以下(i)~(iii)のいずれかのようにして行われる、導電性基材の製造方法。
(i)前記積層体を、対向する2本のロールで挟みながら、前記2本のロールの間を搬送させることにより行われる。
(ii)前記積層体を、平板上または平坦面を有する台の前記平坦面上に置き、その上からロールを接触させ、当該ロールを回転させながら前記積層体に圧力を加えることにより行われる。
(iii)第1の平坦面を有する第1の押圧部材の前記第1の平坦面と、第2の平坦面を有する第2の押圧部材の前記第2の平坦面と、により、前記積層体を挟むことにより行われる。
20.
1.~19.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法であって、
前記導電膜はパターン構造を有する、導電性基材の製造方法。
21.
1.~20.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて電子デバイスを製造する、電子デバイスの製造方法。
22.
21.に記載の電子デバイスの製造方法であって、
前記電子デバイスが、RFタグである、電子デバイスの製造方法。
23.
1.~20.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて電磁波シールドフィルムを製造する、電磁波シールドフィルムの製造方法。
24.
1.~20.のいずれか1つに記載の導電性基材の製造方法により得られた導電性基材を用いて面状発熱体を製造する、面状発熱体の製造方法。
25.
基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に、導電性粒子を含む導電性組成物を用いて設けられた導電膜とを備える導電性基材であって、
前記導電膜の表面または内部には、前記導電性粒子の表面の酸化膜を除去することが可能な成分(X)が存在する導電性基材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、導電性粒子を含有する導電性組成物を用いて、比抵抗が小さい導電膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】導電性基材の製造方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合がある。
図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0015】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0016】
<導電性基材の製造方法>
本実施形態の導電性基材の製造方法は、
基材の表面に、導電性粒子を含む導電性組成物を用いて、基材層と導電性粒子含有層とを備える積層体を得る積層工程と、
導電性粒子含有層内に、導電性粒子の表面の酸化膜を除去することが可能な成分(X)を浸透させる浸透工程と、
成分(X)が浸透した導電性粒子含有層を少なくとも加圧して導電膜を形成する導電膜形成工程と、
を含む。
【0017】
本発明者らの知見によれば、導電性粒子を含有する導電性組成物を用いて、従来知られた製造方法により導電膜を形成する場合、導電性粒子の表面に存在する酸化膜のために、得られる導電膜の比抵抗が大きくなりがちであった。
このことを踏まえ、本発明者らは、導電性粒子を含有する導電性組成物を用いて導電膜を形成する際に、導電性粒子の表面の酸化膜を除去することが可能な成分(X)を用いて、導電性粒子の表面の酸化膜の少なくとも一部を除去するようにした。これにより、得られる導電膜の比抵抗を小さくすることができた。
【0018】
以下、本実施形態の導電性基材の製造方法の一例を、図面を参照しつつより具体的に説明する。
【0019】
[積層工程:導電性組成物を用いた膜形成(図1のA)、および、膜の乾燥(図1のB)]
積層工程においては、例えば、まず図1のAに示されるように、基材1の表面に、導電性粒子を含む導電性組成物を用いて、膜3を形成する。
導電性組成物が揮発性溶剤を含む場合には、膜3中の揮発性溶剤を揮発させて導電性粒子含有層3B(乾燥膜)とする。このようにして、基材1(基材層)と導電性粒子含有層3Bとを備える積層体を得ることができる。もちろん、基材1と導電性粒子含有層3Bとを備える積層体を得ることができる限り、積層工程は、図1のAおよびBに示される態様のみに限定されない。
【0020】
基材1は、通常、フィルム状、シート状または板状である。工業的な生産性の観点から、基材1の形状はこれらのいずれかが好ましい。
基材1は、好ましくは可撓性を有する。可撓性を有する基材1を採用することで、フレキシブル基板(FPC)を製造することができる。
また、可撓性を有する基材1を用いることで、後掲の導電膜形成工程において、「ロール」を用いた導電膜形成を行いやすくなる。このことは量産性の観点で好ましい。
念のため述べておくと、基材1は、可撓性を有しないリジッドな基材であってもよい。
【0021】
コストや最終用途を考慮し、基材1は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)などのポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリイミドおよび紙からなる群より選択される少なくともいずれかであることが好ましい。ここで、紙は、コート紙(紙表面がコート剤でコーティングされた紙)であってもよいし、コート紙ではない通常の紙であってもよい。また、基材1としては、PETなどに限らず、一般の樹脂フィルムを採用することができる。
本実施形態においては、導電膜形成工程において、加熱なし、または比較的低温の加熱においても、十分に比抵抗が小さい導電膜を得ることができる。よって、ポリエステル、ポリオレフィン、紙などの、低耐熱性の基材1も、基材として好適に用いることができる。また、ポリイミドなどの高耐熱性の基材1を用いた場合、導電膜形成工程において高温の加熱を行うことで、比抵抗を一層小さくすることができる。
【0022】
導電性組成物を用いた膜形成の方法は、特に限定されない。膜形成の方法としては、各種の塗布、印刷技術を適用することができる。
膜3および/または導電性粒子含有層3Bは、基材1の一面の全体に設けられてもよいし、基材1の一面の一部にのみ設けられてもよい。前者の場合、ブレードコーター、エアナイフコーター、ドクターコーター、ロールコーター、バーコーター(ロッドコーター)、カーテンコーターなどの装置を用いた塗布により、膜3を形成することができる。後者の場合、各種の印刷法、例えばスクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、平板印刷法(オフセット印刷法)、インクジェット法、転写印刷法などにより、膜3を形成することができる。印刷の際の「パターン」を適切に設計することで、回路として働くことができる導電膜(回路パターン)や、電磁波シールド能を有するメッシュパターンなどの、パターン構造を備えた基材を製造することができる。導電性組成物を基材1の一面の一部にのみ設ける場合、印刷の「パターン」は、最終的に得られる導電膜の用途に応じて適切に設計されることが好ましい。
基材1における所望の場所以外に膜3が形成されないようにするため、例えば、孔をくりぬいたフィルムを基材1の上に置き、その上から導電性組成物を塗布または印刷し、その後フィルムを除去してもよい。
【0023】
導電膜としたときの十分な導電性を得る観点と、塗布または印刷のしやすさの観点から、導電性組成物の使用量は適宜調整すればよい。具体的には、膜3の厚みまたは導電性粒子含有層3Bの厚みは、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~50μmである。
【0024】
特に導電性組成物が溶剤を含む場合、溶剤を乾燥させるための加熱処理を行って、膜3を導電性粒子含有層3B(乾燥膜)とすることが好ましい。加熱処理の条件は、溶剤が十分に乾燥する限り特に限定されないが、溶剤の十分な乾燥と、過度な加熱による導電性粒子の変質抑制の観点から調整される。加熱処理の温度は好ましくは50~150℃、より好ましくは80~120℃である。加熱処理の時間は好ましくは1~60分、より好ましくは3~30分である。
溶剤を乾燥させるための加熱処理は、例えば膜3に熱風を当てることで行うことができる。もちろんこれ以外の方法で加熱処理を行ってもよい。
【0025】
導電性組成物の具体的態様については、後述する。
【0026】
[加圧工程(図1のC)]
本実施形態においては、上述の積層工程と、後述の浸透工程との間に、導電性粒子含有層3Bを少なくとも加圧する加圧工程を含むことが好ましい。
加圧工程を行うか否かは任意であるが、この工程の実施により、後続する工程(特に浸透工程)において、導電性粒子含有層3Bの形態を維持しやすくなる。特に、浸透工程において成分(X)が溶解または分散した液体を導電性粒子含有層3B内に浸透させる際に、導電性粒子含有層3Bの少なくとも一部が液体により変形したり崩壊したりすることを抑制しやすくなる。
【0027】
とりわけ、樹脂や結着剤を実質的に含まない導電性組成物を用いる場合、導電膜となる前の導電性粒子含有層3Bは変形・崩壊しやすいため、加圧工程を行うことが好ましい。
一方、樹脂や結着剤を含む導電性組成物を用いる場合、樹脂や結着剤を実質的に含まない導電性組成物に比べれば、導電性粒子含有層3Bは変形・崩壊しにくいため、加圧工程を行わずとも導電性粒子含有層3Bの形態が十分に維持される場合がある。
【0028】
加圧工程は、例えば図1のCに示されるように、基材1および導電性粒子含有層3Bを備える積層体を、対向する2本のロール10Aおよび10Bで挟みながら、これら2本のロールの間を搬送させることにより行うことができる。
【0029】
加圧工程においては、図1のCに示されるように、積層体における導電性粒子含有層3Bが設けられた面の一部または全部をフィルム状物5Aで覆ったうえで、そのフィルム状物5Aの上からロール10Aを当てることにより導電性粒子含有層3Bに圧力をかけてもよい。
フィルム状物5Aを用いることで、ロール10Aが導電性粒子含有層3Bに直接接することが避けられるため、導電性粒子含有層3Bの意図せぬ変形や崩壊を抑えやすい。また、フィルム状物5Aが「緩衝材」として働くことにより、導電性粒子含有層3Bに均一に圧力を加えやすくなる。導電性粒子含有層3Bに均一に圧力を加えることは、浸透工程において成分(X)が導電性粒子含有層3Bに内に均一に浸透することにつながるため、好ましい。さらに、フィルム状物5Aを用いることで、導電性粒子含有層3Bの一部または全部が剥離してロール10Aに付着することを防ぐことができる場合がある。
【0030】
一観点として、フィルム状物5Aの材質は、基材1と同様であることができる。すなわち、フィルム状物5Aは、PETフィルムなどのポリエステルフィルム等であることができる。
別観点として、導電性粒子含有層3Bの剥離や損傷を抑える観点から、フィルム状物5Aとしては剥離フィルムを好ましく用いることができる。剥離フィルムは、通常、樹脂フィルムの少なくとも片面に剥離剤をコーティングしたものであり、剥離剤の種類としてはシリコーン系、フッ素系、ノンシリコーン系などを挙げることができる。剥離フィルムは、例えば、藤森工業株式会社から入手可能である。
さらに別観点として、フィルム状物5Aは、紙やアルミ箔などの非樹脂系の材質のものであってもよい。
【0031】
ちなみに、導電性粒子含有層3Bの一部または全部が剥離してロール10Aに付着することを防ぐという目的のためには、フィルム状物5Aを用いるかわりに、ロール10Aの胴部に、シリコーン系、フッ素系、ノンシリコーン系などの剥離剤による膜を形成しておいてもよい。
【0032】
上述の「後続する工程(特に浸透工程)において、導電性粒子含有層3Bの形態を維持しやすくする」という観点では、加圧工程における圧力は大きいことが好ましい。一方、浸透工程において成分(X)を導電性粒子含有層3Bの内部に浸透させやすくする観点からは、加圧工程における圧力を大きすぎないようにして、導電性粒子含有層3B内に適度な「すき間」が残るようにすることが好ましい。
【0033】
具体的には、加圧工程において導電性粒子含有層3Bにかかる圧力をP1とし、後述の導電膜形成工程において導電性粒子含有層3Bにかかる圧力をP2としたとき、P1<P2であることが好ましい。より具体的には、P1はP2の0.9倍以下であることが好ましく、0.75倍以下であることがより好ましく、0.6倍以下であることがさらに好ましい。つまり、加圧工程における圧力は、導電膜形成工程において導電性粒子同士を押し固めたりシンタリングさせたりするのに必要な圧力よりも十分に小さいことが好ましい。
【0034】
種々の観点から、P1およびP2それぞれの値についても、最適化することが好ましい。
P1は、好ましくは1~500MPa、より好ましくは10~200MPa、さらに好ましくは20~100MPaである。P1が1MPa以上であることにより、後続する工程(特に浸透工程)において導電性粒子含有層3Bの形態を維持しやすくなる効果を確実・十分に得るやすい。また、P1が500MPa以下であることにより、成分(X)の浸透のための「すき間」が十分に導電性粒子含有層3B中に残存しやすい。
また、P2は、好ましくは10MPa以上、より好ましくは10~5000MPa、さらに好ましくは20~300MPa、特に好ましくは30~250MPaである。P2が10MPa以上であることにより、得られる導電膜の比抵抗を一層小さくすることができる。また、圧力が5000MPa以下であることにより、基材1や導電性粒子含有層3Bの損傷を抑えることができる。ちなみに、基材1の強度が十分であれば、圧力を大きくして、導電膜の比抵抗を一層小さくすることができる。
【0035】
念のため述べておくと、加圧工程は、図1のCに示したような、積層体を2本のロール10Aおよび10Bで挟んで搬送する手段以外の手段により行われてもよい。
一例として、加圧工程は、積層体を、平板上または平坦面を有する台の平坦面上に置き、その上からロールを接触させ、そのロールを回転させながら積層体に圧力を加えることにより行ってもよい。別の例として、加圧工程は、第1の平坦面を有する第1の押圧部材の第1の平坦面と、第2の平坦面を有する第2の押圧部材の第2の平坦面と、により、積層体を挟むことにより行ってもよい。これらの例においても、図1のCにおけるフィルム状物5Aに相当するフィルムを介して積層体に圧力を加えてもよい。
要するに、加圧工程では、浸透工程の前に導電性粒子含有層3Bに圧力が加えられさえすればよい。
【0036】
加圧工程では、導電性粒子含有層3Bに熱を加えることが好ましい。これは、市販の導電性粒子の表面処理が関係していると推測される。具体的には、市販の導電性粒子の表面の一部は有機物で表面処理されている場合があり、導電性粒子含有層3Bに熱を加えることで、導電性粒子表面の有機物が除去または移動すると考えられる。このことにより導電性粒子間の接触が促進される可能性がある。
加圧工程で導電性粒子含有層3Bに熱を加える場合、その温度は、例えば50~150℃、より好ましくは70~140℃、さらに好ましくは70~130℃の範囲内で、基材1が実質的に変質(軟化や融解など)しない温度を設定することが好ましい。ただし、加熱時間が短い場合には、これより高い温度での加熱が許容される場合もある。
もちろん、加圧工程で導電性粒子含有層3Bに熱を加えなくてもよい。
【0037】
加圧工程においてフィルム状物5Aを用いた場合には、通常、フィルム状物5Aを基材1および導電性粒子含有層3Bから剥離した後に、次工程を行う。
【0038】
[浸透工程および導電膜形成工程(図1のD)]
浸透工程においては、導電性粒子含有層3B内に、導電性粒子の表面の酸化膜を除去することが可能な成分(X)を浸透させる。また、導電膜形成工程においては、成分(X)が浸透した導電性粒子含有層3Bを少なくとも加圧して導電膜を形成する。
念のため述べておくと、図1においては不図示であるが、浸透工程を行う前には、導電性粒子含有層3Bに成分(X)を供給することが必要である。供給の具体的手段は特に限定されず、例えば後述するように滴下、噴霧、浸漬などであることができる。
【0039】
プロセス実施の容易性や、導電性粒子含有層3B内への成分(X)の浸透させやすさの点で、好ましくは、浸透工程では、成分(X)が溶解または分散した液体を、導電性粒子含有層3B内に浸透させる。より好ましくは、浸透工程では、成分(X)が溶解または分散した水を、導電性粒子含有層3B内に浸透させる。成分(X)が溶解または分散した「水」を用いることは、環境負荷の低減やプロセスの安全性(引火しない)の観点で好ましい。もちろん、成分(X)が溶解または分散した有機溶剤も使用可能である。
【0040】
浸透工程において、成分(X)が溶解または分散した液体を、導電性粒子含有層3B内に浸透させる場合、その液体を、導電性粒子含有層3Bの少なくとも表面に供給する方法は、特に限定されない。具体的な方法としては、滴下、噴霧、浸漬などが挙げられる。
また、後述するフィルム状物5Bを用いる場合には、まずフィルム状物5Bの上面の少なくとも一部を、成分(X)が溶解または分散した液体で濡らしておき、その後、フィルム状物5Bの上面(濡れている)に、積層体の導電性粒子含有層3Bを接触させるようにしてもよい。
もちろん、液体を導電性粒子含有層3Bの少なくとも表面に供給する方法は、ここに具体的に示した方法のみに限定されない。
【0041】
図1のDでは、浸透工程と導電膜形成工程とを同時に行っている。図1のDでは、ロール10Cおよびロール10Dによる圧力により、成分(X)を含む液体50が導電性粒子含有層3B内に浸透することが促進され、同時に、ロール10Cおよびロール10Dによる圧力により導電性粒子含有層3Bは加圧されて導電膜へと変化する。
浸透工程が、導電性粒子含有層3Bに何らかの形で圧力をかける工程を含む場合には、浸透工程と導電膜形成工程とを同時に行うことができる。つまり、外部からの圧力により、成分(X)が導電性粒子含有層3B内に浸透して導電性粒子の表面の酸化膜が除去されながら、それと同時に導電性粒子の界面同士の接合が進行して導電性粒子含有層3Bは導電膜に変化していく。
ちなみに、ここでの具体的な加圧の程度は、前述の「P2」で示した数値範囲の通りである。
【0042】
浸透工程および導電膜形成工程の一方または両方は、押圧部材により導電性粒子含有層3Bに圧力をかけることにより行うことができる。より具体的には、以下(i)~(iii)のいずれかのようにして行うことができる。
(i)図1のDに示されるように、基材1および導電性粒子含有層3Bを備える積層体を、対向する2本のロール10Cおよび10Dで挟みながら、これら2本のロールの間を搬送させることにより行う。
(ii)積層体を、平板上または平坦面を有する台の平坦面上に置き、その上からロールを接触させ、そのロールを回転させながら積層体に圧力を加えることにより行う。
(iii)第1の平坦面を有する第1の押圧部材の第1の平坦面と、第2の平坦面を有する第2の押圧部材の第2の平坦面と、により、積層体を挟むことにより行う。
【0043】
上記では浸透工程と導電膜形成工程とを同時に行う場合について説明したが、もちろん、浸透工程の後に導電膜形成工程を行ってもよい。
一例として、まず、滴下、噴霧、浸漬などの任意の方法により成分(X)を含む液体を導電性粒子含有層3Bの少なくとも表面に供給し、常圧下または加圧下で成分(X)を含む液体を導電性粒子含有層3B内に浸透させる。その後、導電膜形成工程を行う。
別の例として、積層体の少なくとも導電性粒子含有層3Bの部分を、成分(X)を含む「気体」に曝露することにより成分(X)を導電性粒子含有層3B内に浸透させ、その後、導電膜形成工程を行う。この場合、成分(X)が常温常圧で気体であるものであれば、常温常圧において浸透工程を行ってもよい。また、成分(X)が常温常圧で液体または固体である場合には、成分(X)を加熱して気化させて、その気化した成分(X)を導電性粒子含有層3Bに接触させてもよい。
これら例における、浸透工程後の導電膜形成工程の具体的態様は、例えば上記(i)~(iii)のようにすることができる。
【0044】
浸透工程の後に導電膜形成工程を行う場合、浸透工程において導電性粒子含有層3Bに浸透しなかった成分(X)は、導電膜形成工程を行う前に除去してもよいし、除去しなくてもよい。
ちなみに、浸透工程の後に導電膜形成工程を行う場合、導電膜形成工程においても、成分(X)による酸化膜の一部の除去は進行する可能性がある。
【0045】
浸透工程の後に導電膜形成工程を行う場合には、浸透工程において酸化膜が除去された導電性粒子の表面に再度酸化膜が形成されないようにするため、浸透工程と導電膜形成工程との間の時間は短いことが好ましい。具体的には、浸透工程の後に導電膜形成工程を行う場合、浸透工程の終了時から導電膜形成工程の開始時までの時間は、好ましくは1時間以下、より好ましくは30分以下、さらに好ましくは10分以下、特に好ましくは1分以下である。
あるいは、浸透工程において酸化膜が除去された導電性粒子の表面に再度酸化膜が形成されないようにするため、浸透工程の後であって導電膜形成工程を行う前の積層体を、貴ガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で一時的に保管しておいたり、還元雰囲気下で一時的に保管しておいたり、真空または減圧下で一時的に保管しておいたりしてもよい。
【0046】
浸透工程および導電膜形成工程の一方または両方においては、図1のDに示されるように、積層体における導電性粒子含有層3Bが設けられた面の一部または全部を、フィルム状物5Bで覆ったうえで導電性粒子含有層3Bを少なくとも加圧することが好ましい。このような加圧プロセスを採用することにより、特に、成分(X)が溶解または分散した液体を用いる場合に、液体が逃げずに、液体が密な状態が維持されながら加圧(および必要に応じて加熱)できるため、好ましい。
量産適性の点では、積層体における導電性粒子含有層3Bが設けられた面の全部を、フィルム状物5Bで覆ったうえで導電性粒子含有層3Bを少なくとも加圧することが好ましい。
もちろん、最終的に導電膜が得られる限り、フィルム状物5Bを用いずに導電性粒子含有層3Bを加圧してもよい。
【0047】
フィルム状物5Bの材質は、フィルム状物5Aの材質と同様であることができる。つまり、フィルム状物5Bの材質は、基材1と同様であることができる。また、フィルム状物5Bとしては剥離フィルムを好ましく用いることができる。さらに、フィルム状物5Bは、紙やアルミ箔などの非樹脂系の材質のものであってもよい。
フィルム状物5Bとしては、フィルム状物5Aを用いてもよい。つまり、フィルム状物5Bとフィルム状物5Aは同じものであることができる。もちろん、フィルム状物5Bはフィルム状物5Aと異なっていてもよい。
フィルム状物5Bの材質は、フィルム状物5Aと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
導電性粒子含有層3Bをフィルム状物5Bで覆ったうえで導電性粒子含有層3Bを加圧することで、フィルム状物5Bが緩衝材としての役割を果たし、導電性粒子含有層3Bに均一に圧力を加えやすくなる。これにより均質な導電膜を得やすくなる。
【0049】
また、導電性粒子含有層3Bをフィルム状物5Bで覆ったうえで導電性粒子含有層3Bを加圧することで、押圧部材(具体的には図1のDにおけるロール10C)の腐食や劣化を抑えることができる。ちなみに、押圧部材の腐食や劣化を抑える観点では、フィルム状物5Bを用いるかわりに、押圧部材の表面の少なくとも一部(具体的にはロール10Aの胴部)に、シリコーン系、フッ素系、ノンシリコーン系などの剥離剤による膜を形成しておいてもよい。
【0050】
さらに、特に成分(X)が溶解または分散した液体を導電性粒子含有層3B内に浸透させる場合、フィルム状物5Bの存在により、圧力により液体が「逃げる」ことが抑えられ、十分な量の成分(X)が導電性粒子含有層3B内に浸透しやすくなるため、好ましい。この点で、フィルム状物5Bは、成分(X)が溶解または分散した液体が透過しないもの(非透液性)であることが好ましい。具体的には、フィルム状物5Bは、液体を容易に透過しうる紙ではなく、通常は液体を透過させない樹脂フィルムであることが好ましい。もちろん、比抵抗が小さい導電膜が得られるならば、フィルム状物5Bは、成分(X)が溶解または分散した液体が透過可能であるもの(透液性であるもの)であってもよい。フィルム状物5Bが透液性であることにより、余剰の液体の排出・除去が促される可能性がある。
フィルム状物5Bの具体的態様は、基材1と同様であることができる。ただし、上述のようにフィルム状物5Bは好ましくは樹脂フィルムである。
【0051】
導電膜形成工程では、導電性粒子含有層3Bを加熱しながら加圧することが好ましい。
ここでの「加熱」の温度は、基材1の耐熱性や、用いる導電性粒子の種類などに応じて適宜設定すればよい。例えば、基材1が、ポリエステル、ポリオレフィン、紙などの、低耐熱性の素材で構成されている場合には、加熱温度は、使用する基材の耐熱温度を考慮しつつ、例えば50~200℃、より好ましくは70~180℃、さらに好ましくは70~150℃、特に好ましくは80~125℃の範囲内で、基材が実質的に変質(軟化や融解など)しない温度を設定することが好ましい。ただし、加熱時間が短い場合には、これより高い温度(例えば400℃)での加熱が許容される場合もある。
【0052】
一方、基材1が、ポリイミドなどの高耐熱性素材で構成されている場合には、加熱温度は50~400℃とすることができる。すなわち、導電性粒子含有層3Bを加熱する場合、その温度は400℃以下で適宜調整することが好ましい。
【0053】
ちなみに、後掲の実施例で示されるように、加熱温度は、必ずしも高ければ高いほど良いわけではない。加熱温度を高くしても得られる導電膜の比抵抗は小さくならないか、またはむしろ大きくなる場合もある。あくまで推測であるが、加熱温度が高すぎる場合、成分(X)が変質したり、成分(X)により酸化膜が除去された導電性粒子が熱により再び速やかに酸化してしまったりして、得られる導電膜の比抵抗は単純には小さくならない可能性がある。
【0054】
加熱の時間も、基材1の耐熱性や、用いる導電性粒子の種類などに応じて適宜設定することができる。加熱時間は、例えば0.01~1秒、好ましくは0.04~0.6秒である。ちなみに、「加熱の時間」とは、導電膜形成工程においてロールプレスを採用した場合には、導電性粒子含有層3Bがロール10Cにより加圧されつつ加熱されている時間のことである。一例として、対向して回転する2つのロールが接触する幅を1mm、2本のロール間を基材が通過する速度をvとすると、加熱時間(加圧されている時間と等しい)は、v=0.1m/分では0.59秒、v=1.5m/分では0.04秒、v=1.0m/分では0.06秒、v=5.0m/分では0.012秒となる。
【0055】
導電膜形成工程において、図1のDに示されるようなロールによる押圧を採用した場合には、導電性粒子含有層3Bを加熱しながら加圧するため、2本のロールのうち、少なくとも導電性粒子含有層3Bに近い側のロール10Cは、加熱されていることが好ましい。ロール10Cの加熱温度は、上記説明のとおり、基材1の耐熱性や、用いる導電性粒子の種類などに応じて、400℃以下で適宜設定することができる。また、加熱の時間は、ロール10Cおよびロール10Dの回転速度(すなわち搬送速度)を変えることで調整することができる。搬送速度は、例えば0.1~10m/分の間で、十分な加熱加圧時間の確保や、量産性などを考慮して適宜調整すればよい。
また、均一な加熱や加熱時間の短縮のため、ロール10Cだけでなくロール10Dも加熱されていてもよい。
【0056】
一方、十分に比抵抗が小さい導電膜が得られるならば、ロール10Cは加熱されていなくてもよいし、ロール10Dも加熱されていなくてもよい。用いる導電性組成物の種類によっては、加熱なしで加圧のみで十分に比抵抗が小さい導電膜が得られる場合がある。
十分に比抵抗が小さい導電膜が得られるならば、導電膜形成工程で導電性粒子含有層3Bを加熱しなくてもよい。特に導電性粒子として銀を主成分とする粒子を用いる場合、加圧のみによっても十分に比抵抗が小さい導電膜を得やすい。
【0057】
上記では、成分(X)が溶解または分散した「液体」を導電性粒子含有層3B内に浸透させる方法を主として説明し、その他、成分(X)が気体である場合の方法についても簡単に言及した。これらとはさらに別の方法として、成分(X)を含むシートを導電性粒子含有層3Bに接触させ、好ましくは圧力を加えることにより、導電性粒子含有層3B内に成分(X)を浸透させることも可能である。
ここでの「シート」のとしては、具体的には、成分(X)を含む紙や不織布、成分(X)が表面に塗布または印刷された樹脂シート、などを挙げることができる。
【0058】
成分(X)の具体的態様については後述する。
【0059】
[追加しうる工程]
本実施形態の導電性基材の製造方法は、上述した工程以外の工程を含んでもよい。
一例として、導電膜形成工程において、フィルム状物5Bを用いた場合には、導電膜形成工程の終了後、そのフィルム状物5Bを除去する。
別の例として、導電膜形成工程の後に、得られた導電膜の表面または内部に残存する成分(X)を除去する除去工程が行われてもよい。具体的には、得られた導電性基材を、成分(X)を溶解または分散可能な液体(水や有機溶剤)に浸漬する工程や、導電膜の表面に液体(水や有機溶剤)をかけることにより残余の成分(X)を「洗い流す」工程などが挙げられる。また、基材1が損傷しない程度の温度で、得られた導電性基材を加熱することにより、残存する成分(X)を「気化させて飛ばす」工程も考えられる。
【0060】
[製造方法全体について補足]
上述した各製造工程は、連続して行われてもよいし、不連続に行われてもよい。量産性の観点では連続して行われることが好ましい。
例えば、適当な搬送装置やプレス装置(ロールプレス機など)を組み合わせた製造装置を用いて、以下(i)~(viii)の一連の工程を連続して行うことが好ましい。ちなみに、以下の一連の工程において、成分(X)の導電性粒子含有層3Bへの浸透は、(v)~(vii)の一部または全部で行われる。
【0061】
(i)基材1および導電性粒子含有層3Bを備える積層体を製造装置に載置する
(ii)積層体の、少なくとも導電性粒子含有層3Bを備える面を、フィルム状物5Aで覆う
(iii)プレス装置を用いて加圧工程を行う
(iv)フィルム状物5Aを剥離する
(v)導電性粒子含有層3Bの少なくとも表面に、成分(X)が溶解または分散した液体を供給する
(vi)積層体の、少なくとも導電性粒子含有層3Bを備える面(上記液体が供給された面)を、フィルム状物5Bで覆う
(vii)プレス装置を用いて導電膜形成工程を行う
(viii)フィルム状物5Bを剥離する
【0062】
[導電性組成物について]
導電性組成物は、少なくとも、導電性粒子を含む。
入手容易性および良好な導電性の観点から、導電性粒子は、銀および銅からなる群より選ばれる少なくともいずれかの元素を含むことが好ましい。
具体的には、導電性粒子は、銀を主成分とする粒子、および、銅を主成分とする粒子からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含むことが好ましい。ここで、「銀を主成分とする」との表現は、粒子中の全構成元素中の銀元素の比率が、好ましくは50mol%以上、より好ましくは75mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上、特に好ましくは95mol%以上であることをいう。同様に、「銅を主成分とする」との表現は、粒子中の全構成元素中の銅元素の比率が、好ましくは50mol%以上、より好ましくは75mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上、特に好ましくは95mol%以上であることをいう。
念のため述べておくと、所望の導電性が得られる限り、導電性粒子は、銀および銅以外の元素を含んでもよい。銀および銅以外の元素としては、金、アルミニウム、白金、パラジウム、イリジウム、タングステン、ニッケル、タンタル、鉛、亜鉛等を挙げることができる。
【0063】
導電性粒子は、2以上の元素を含んでもよい。例えば、銅粒子の表面に銀めっきがされている導電性粒子(銀コート銅粒子)などは本実施形態で好ましく用いられる。銀コート銅粒子は、銅を主成分とする粒子であり、例えば粒子の全質量を基準として最大35質量%までの量の銀が、銅粒子の表面にめっきされている。
【0064】
導電性粒子をレーザー回折散乱法により粒子径測定したときに得られる体積基準累積粒子径分布曲線において、累積頻度が50%となる粒子径D50は、好ましくは0.5~100μm、より好ましくは0.6~50μm、さらに好ましくは0.7~30μm、特に好ましくは0.7~20μmである。
50が適度に大きいことにより、単位体積あたりの導電性粒子間の粒界の数を少なくすることができる。このことは得られる導電膜の比抵抗をより小さくすることにつながると考えられる。
50が大きすぎないことにより、導電性粒子間の「すき間」が少なくなり、得られる導電膜の比抵抗をより小さくすることにつながると考えられる。
【0065】
本実施形態で使用可能な導電性粒子は、例えば、DOWAエレクトロニクス社、福田金属箔粉工業社などから購入可能である。
粒径分布の調整・最適化やその他の目的のため、2以上の異なる導電性粒子を混合して用いてもよい。
【0066】
得られる導電膜の比抵抗を一層小さくする観点から、導電性組成物中の導電性粒子の比率は大きいことが好ましい。具体的には、導電性組成物の全不揮発成分中の導電性粒子の比率は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。換言すると、得られる導電膜の比抵抗を一層小さくする観点では、導電性組成物は、樹脂を実質的に含まず、また、結着剤を実質的に含まないことが好ましい。ここで、樹脂や結着剤を「実質的に含まない」とは、樹脂や結着剤を全く含まないか、または、樹脂や結着剤を含むものの、その量が、樹脂や結着剤の使用により期待される効果(具体的には以下に説明)を得られないほどの少量(導電性組成物の全不揮発成分中、例えば1質量%以下、具体的には0.5質量%以下)であることを意味する。
所望の導電膜を得られる限り、導電性組成物は、樹脂や結着剤を含まなくてもよい。
【0067】
一方、浸透工程において導電性粒子含有層3Bの形態を維持しやすくする観点、具体的には、浸透工程において成分(X)が溶解または分散した液体を導電性粒子含有層3B内に浸透させる際に、導電性粒子含有層3Bの少なくとも一部が液体により変形したり崩壊したりすることを抑制する観点では、導電性組成物は、樹脂および結着剤の一方または両方を含むことが好ましい。導電性組成物は、樹脂および結着剤の両方を含んでもよいし、樹脂および結着剤の一方のみを含み、他方を含まなくてもよい。
また、加圧工程(図1のC)を省略して導電性基材の製造プロセスを簡略化する目的で、樹脂および結着剤の一方または両方を含む導電性組成物を用いてもよい。つまり、樹脂および結着剤の一方または両方を含む導電性組成物を用いて形成された導電性粒子含有層3Bは、成分(X)を含む液体により変形したり崩壊したりしにくいため、加圧工程(図1のC)を行わずとも導電性粒子含有層3Bの形態を維持しやすい。そして最終的に所望の導電膜を得やすい。
【0068】
導電性粒子含有層3Bの形態を維持しやすくしつつ、得られる導電膜の比抵抗を小さくする観点から、導電性組成物が樹脂および結着剤の一方または両方を含む場合、その量は、導電性組成物の全不揮発成分中、好ましくは1~5質量%、より好ましくは2~5質量%である。
【0069】
樹脂または結着剤の具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリエステル、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール、セルロース系樹脂(例えばエチルセルロースなど)、フェノール樹脂などを好ましく挙げることができる。
【0070】
導電性組成物は、溶剤を含むことができる。導電性組成物が溶剤を含むことにより、導電性組成物の基材への塗布性または印刷性が向上する。溶剤は、典型的には有機溶剤を含む。導電性粒子を適切に分散可能であれば、溶剤は水を含んでもよい。
溶剤の種類は特に限定されない。溶剤は、導電性組成物中の各成分を実質的に変質させないものであればよい。
溶剤の使用量は、導電性組成物の塗布・印刷方法などに応じて適宜調整すればよい。溶剤の使用量は、導電性組成物の全体中、例えば3~30質量%、好ましくは5~25質量%、さらに好ましくは10~20質量%である。
【0071】
導電性組成物は、その他、従来のインク組成物や導電性ペーストにおける各種添加成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0072】
[成分(X)について]
成分(X)は、導電性粒子の表面の酸化膜を除去することが可能なものである限り、特に限定されない。
本明細書において、酸化膜の「除去」とは、導電性粒子の表面に存在する酸化物自体が除去される場合だけでなく、酸化物が化学的変化(還元など)することで酸化物が非酸化物に戻る場合も包含する。
【0073】
本発明者の知見によれば、有機酸、リンのオキソ酸、および、ヒドラジンまたはその誘導体、からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含むことが好ましい。これらは、導電性粒子が銅または銀を含む場合に特に好適である。
【0074】
有機酸としては、クエン酸、ギ酸、酢酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸、コハク酸、フマル酸、プロピオン酸、などのカルボン酸を挙げることができる。
リンのオキソ酸としては、ホスフィン酸、ホスホン酸、亜リン酸、リン酸、二リン酸、三リン酸、メタ三リン酸を具体的に上げることができる。これらの中でも特にホスフィン酸が好ましい。
ヒドラジンまたはその誘導体としては、ヒドラジンそのもの;モノ塩酸ヒドラジン、ジ塩酸ヒドラジン、モノ臭化水素酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジンなどのヒドラジン塩類;その他、-NH-NH構造を有する化合物;などを挙げることができる。
【0075】
その他、酸化膜を除去するという点では、水中でのpKaが小さい化合物を成分(X)として用いることができる。具体的には、水中でのpKaが-5.0~5.0である化合物が成分(X)として好ましく、pKaが-4.0~4.5である化合物が成分(X)としてより好ましい。ちなみに、成分(X)が多塩基酸である場合には、複数のpKa中の最も小さいpKaが上記範囲内にあることが好ましい。
pKaの小ささとそれによる酸化膜の除去性だけを考えると、成分(X)として、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸を用いることも考えられる。ただし、導電性粒子含有層3B中に残存した場合の不具合などを考慮すると、成分(X)としては有機酸が好ましい。
なお、ここでのpKaの値は、常温(例えば25℃)での値を採用することができる。ただし、実際のプロセスにおける酸化膜の除去性の観点では、浸透工程または導電膜形成工程における温度下でのpKaの値を採用することが好ましいとも言える。
【0076】
また、還元反応により酸化膜を非酸化状態に戻すことができる化合物全般も、成分(X)として用いることができる。例えば、アルデヒド基を有する化合物は、酸化物を還元できる場合があるため、成分(X)として用いうる。
【0077】
さらに、水中でのpKaが小さく、かつ、還元反応により酸化膜を非酸化状態に戻すことができる化合物も成分(X)として好ましく用いられる。このような化合物としては、例えばギ酸を挙げることができる。ギ酸には、揮発しやすく、導電膜中に残存しづらいという利点がある。
【0078】
上記以外にも、成分(X)としては、ピロガロール、フェニドン、ハイドロキノン、オルトアミノフェノールなどを挙げることができる。これらは、銀塩写真分野において還元剤として機能することが知られている物質である。
ある化合物Aを導電性粒子含有層3Bに浸透させた場合と、浸透させなかった場合とで、前者のほうがより小さい比抵抗を有する導電膜を得られるならば、その化合物Aは成分(X)として採用することができる。
【0079】
浸透工程において、成分(X)が溶解または分散した液体を導電性粒子含有層3Bに浸透させる場合、その液体中の成分(X)の濃度は、適宜調整すればよい。濃度は、導電性粒子含有層3B中に十分な量の成分(X)を浸透させる観点と、残余の成分(X)の量を少なくして導電膜の腐食や劣化を抑える観点から調整される。
液体中の成分(X)の濃度は、例えば0.05~50mol/L、好ましくは0.1~40mol/L、より好ましくは0.1~30mol/L、さらに好ましくは0.1~10mol/L、特に好ましくは0.15~5.0mol/Lである。もちろん、ここに示した濃度よりも低い濃度で成分(X)を含む液体を用いてもよいし、ここに示した濃度よりも高い濃度(例えば飽和濃度)で成分(X)を含む液体を用いてもよい。
【0080】
<導電性基材について>
上記のようにして得られた導電性基材の導電膜は、良好な電気伝導性を有する。
【0081】
上記のようにして得られた導電性基材の導電膜は、必ずではないが、製法に起因して、導電膜の表面または内部に成分(X)を含んでいる場合がある。すなわち、本実施形態において、導電性基材は、基材と、その基材の表面の少なくとも一部に設けられた導電膜(導電性粒子を含む導電性組成物を用いて設けられた)とを備え、その導電膜の表面または内部に成分(X)が存在することができる。
導電膜の表面または内部に存在する成分(X)は、各種の測定・観察方法により確認することができる。例えば、電子顕微鏡で導電膜を観察することにより、導電性粒子と成分(X)とが反応して生成した塩を観察できる場合がある。その他、透過電子顕微鏡、X線回折法、核磁気共鳴法、赤外線分光測定、紫外可視吸収分光測定、ラマン分光測定などの方法により、導電膜の表面または内部に存在する成分(X)を検知できる場合がある。
【0082】
<電子デバイスの製造方法>
上記のようにして得られた導電性基材を用いて、電子デバイスを製造することができる。例えば、積層工程において印刷により基材1の一面の一部にのみ膜3を形成する場合、印刷の「パターン」を適切に設計することで、回路として働くことができる導電膜(回路パターン)を備えた基材を製造することができる。そして、この基材と他の電子素子とを組み合わせることで、電子デバイスを製造することができる。
【0083】
ここで、「電子デバイス」の例をいくつか記載する。念のため述べておくと、本実施形態の導電性基材の製造方法で得られた導電性基材を含む電子デバイスは、当然、これらのみに限定されない。
・センサー:例えば感圧センサー、バイタルセンサー等のセンサー中の、導電性部材/回路について、本実施形態の導電性基材の製造方法で得られた導電性基材を適用することができる。
・太陽電池:例えば太陽電池の集電配線について、本実施形態の導電性基材の製造方法で得られた導電性基材を適用することができる。
・メンブレンスイッチ:メンブレンスイッチとは、薄いシート状のスイッチでフィルムに回路と接点を印刷して貼り重ねたものである。これの回路や接点を形成するために、本実施形態の導電性基材の製造方法を適用することができる。
・タッチセンサー・タッチパネル:例えばタッチセンサー・タッチパネルにおける引き出し配線を形成するために、本実施形態の導電性基材の製造方法を適用することができる。また、タッチセンサー・タッチパネルにおける透明電極を形成するために、本実施形態の導電性基材の製造方法を適用することも考えられる。
・フレキシブル基材:従来は、まず可撓性フィルムの全面に金属膜をコーティングし、その後、薬剤を使って金属膜の不要な部分を取り除くことで回路を形成している。このような従来の方法の代わりに、本実施形態の導電性基材の製造方法で回路を形成することが考えられる。
【0084】
特に、従来は導電ペーストを用いて回路を形成していた電子デバイスにおいて、回路形成を本実施形態の導電性基材の製造方法を利用することで、回路の比抵抗が小さくなり、電子デバイスの性能向上を期待することができる。
【0085】
とりわけ好ましい電子デバイスとしては、RFタグを挙げることができる。すなわち、RFタグにおけるアンテナ部等の導電回路を製造するために、本実施形態の導電性基材の製造方法は好ましく用いられる。
RFタグの具体的構造については、例えば特開2003-332714号公報、特開2020-46834号公報などを参考にすることができる。
【0086】
<電磁波シールドフィルムの製造方法>
電子デバイスとは別の応用として、本実施形態の導電性基材の製造方法により、電磁波シールドフィルムを製造することが考えられる。具体的には、積層工程において、導電性組成物を印刷する際のパターンを、電磁波シールドフィルム特有のパターン(メッシュパターンなど)とすることで、電磁波シールドフィルムを製造することができる。
【0087】
<面状発熱体の製造方法>
さらに別の応用として、本実施形態の導電性基材の製造方法により、面状発熱体を製造することが考えられる。面状発熱体とは、基材上に電気配線が設けられ、その配線に電流を流すことで発熱するもののことをいう。面状発熱体の具体例としては、例えば乗用車のリアガラスなど、防曇や防寒のための面状発熱体を挙げることができる。
【0088】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0089】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
以下において、指数表記を記号「E」で示す場合がある。例えば、1.3E-06とは、1.3×10-6を意味する。
【0090】
<導電性組成物の調製>
導電性粒子77質量部と、有機溶剤23質量部とを、遊星式攪拌機を用いて攪拌した。これにより均一なペースト状の導電性組成物を得た。導電性粒子としては、福田金属箔粉工業社から入手した銅粉(D50:4.5μm)を用いた。
念のため述べておくと、この導電性組成物は樹脂や結着剤を含んでいない。
【0091】
<導電性基材の製造>
(積層工程)
上記<導電性組成物の調製>で得られた導電性組成物を用いて、PETフィルム上に、15mm×5mmの大きさの膜(ベタ膜)を形成した。
具体的には、まずPETフィルム上にスリーエム社のスコッチテープを貼って15mm×5mmの大きさの「くりぬき部」を設けた。そして、そのくりぬき部の上で、スキージーを用いて導電性組成物をスキージングして、くりぬき部に導電性組成物を充填した。その後、スコッチテープを剥がした。このときの膜(未乾燥)の厚みは40μm程度であった。
上記の膜を設けたPETフィルムを、熱風循環式大気オーブンに入れ、100℃で15分間加熱した。これにより溶剤を揮発させた。
以上のようにして、PETフィルム上に導電性粒子含有層が設けられた積層体を得た。
【0092】
(加圧工程)
積層工程で得られた積層体の導電性粒子含有層の上に、ポリイミドフィルムを載せた。そして、積層体をポリイミドフィルムと一緒に、荷重調節式のロールプレス機(テスター産業社製「SA-602」、対向して回転する1対のロールを備える)を用いて、以下の条件でロールプレスした。
ロール温度:上下のロールともに110℃
圧力:60MPa
搬送速度:0.1m/分
【0093】
ロール温度について補足しておく。ロールプレス機には非接触の温度センサーが備え付けられているが、今回はより正確な温度測定を行うために接触式の温度計でロール温度を測定した 。
また、圧力については、以下計算により求めた。
ロール幅:165mm、ロール間の接触幅:1mmとし、圧力がかかる面積を165×1=165mmと計算した。また、加圧力は10kNとした。165mmの領域に10kNの力がかかったことから、10kN÷165mmの計算により、圧力60.6MPaと算出した 。
【0094】
加圧工程の終了後、ポリイミドフィルムを剥がした。
【0095】
(浸透工程および導電膜形成工程)
まず、ポリイミドフィルムの上に、後掲の表1に記載の組成の液体(成分(X)が溶解または分散している)を、1mLスポイトで1滴分滴下して濡らした。この濡れた部分に上記加圧工程後の導電性粒子含有層が接するように積層体を置いた。そして、積層体とポリイミドフィルムを一緒にロールプレス機にセットし、加熱しつつ加圧した。これにより成分(X)を導電性粒子含有層内に浸透させつつ、導電性粒子含有層をロールプレス機としては加圧工程と同じ装置を用いた。処理条件は以下の条件とした。
ロール温度:上下のロールともに110℃
圧力:121MPa
搬送速度:0.1m/分
【0096】
上記のロールプレス機による処理の後、ポリイミドフィルムを剥がした。
以上のようにして、導電膜が設けられた導電性基材を製造した。
【0097】
<比抵抗の測定>
得られた導電性基材の導電膜について、4端子抵抗測定器で抵抗値を測定し、また、膜厚計で膜厚を測定した。測定された抵抗値および膜厚から、比抵抗を算出した。比抵抗の値は小さいほど好ましい。
【0098】
以上についてまとめて表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
実施例1-1~10で得られた導電膜の比抵抗は、比較例で得られた導電膜の比抵抗よりも小さかった。このことから、導電性粒子を含有する導電性組成物を用いて導電膜を形成する際に、導電性粒子の表面の酸化膜を除去することが可能な成分(X)を用いて、導電性粒子の表面の酸化膜の少なくとも一部を除去するようにすることで、得られる導電膜の比抵抗を小さくできることが理解される。
【0101】
実施例をより詳細に見ると、実施例6-1~10の、ピロガロール、フェニドン、ハイドロキノンまたはo-アミノフェノールを成分(X)として用いた場合には、得られた導電膜の比抵抗は10-5Ω・cmオーダーであった。
これに対し、実施例1-1~5の、各種有機酸、ホスフィン酸(リンのオキソ酸)またはヒドラジンを用いた場合には、10-5Ω・cmオーダーよりもさらに小さい10-6Ω・cmオーダーの比抵抗を有する導電膜を得ることができた。
これら実施例間の対比から、成分(X)としては、各種有機酸、リンのオキソ酸、ヒドラジンまたはその誘導体が好ましいことが理解される。
【0102】
また、実施例1-1~1-6、3-1~3-4、4-1~4-4の結果から、必ずしも成分(X)の濃度が高ければ高いほど得られる導電膜の比抵抗が小さくなるわけではなく、成分(X)の濃度を高めることで、若干ではあるが比抵抗が大きくなる傾向も読み取ることができる。これは、成分(X)の濃度を高くすることによる酸化膜の除去性向上と、高濃度の成分(X)の一部が導電膜中に残存することによる電気抵抗の増大との拮抗によるものと推測される。
【0103】
<加圧工程の圧力を変更した例>
表1の実施例3-1および3-2において、上記(加圧工程)における圧力を、60MPaから、その1.5倍の90MPa、または2倍の120MPaに変更して、導電膜を得た。そして上記<比抵抗の測定>と同様にして比抵抗を測定した。結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2に示されるとおり、特に成分(X)(ホスフィン酸)の濃度が低い場合に、加圧工程における圧力を大きくすると、得られる導電膜の比抵抗はやや大きくなる傾向がみられた。逆に言うと、加圧工程における圧力が比較的小さいほうが、より低い比抵抗を有する導電膜を得ることができた。このことは、加圧工程における圧力が比較的小さいほうが、導電性粒子含有層内に適度な「すき間」が残って、浸透工程において成分(X)が導電性粒子含有層の内部に浸透しやすかったためと推測される。
【0106】
<加圧工程の圧力だけでなく温度も変更した例>
表1の実施例3-2において、(加圧工程)における圧力を変更しただけでなく、温度を110℃から室温(25℃)に変更して導電膜を得た。そして上記<比抵抗の測定>と同様にして比抵抗を測定した。結果を表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
表3に示されるとおり、加圧工程においては、圧力が同じならば、室温(25℃)での処理よりも、高温(110℃)での処理のほうが、より小さい比抵抗の導電膜を得ることができた。
これは、今回使用した導電性粒子(銅粉)の表面の有機物が、加熱により除去または移動して、導電性粒子間の接触が促進されたためと推測される。
【0109】
<導電膜形成工程での圧力を変更した例>
表1の実施例3-2において、(浸透工程および導電膜形成工程)での圧力を、121MPaから表4に示す値に変更しして導電膜を得た。そして上記<比抵抗の測定>と同様にして比抵抗を測定した。結果を表4に示す。
【0110】
【表4】
【0111】
表4に示されるとおり、導電膜形成工程での圧力を実施例3-2における121MPaよりも小さくした場合、若干ではあるが得られる導電膜の比抵抗は大きくなった。ただし、圧力36MPaの場合であっても、得られた導電膜の比抵抗は、表1の比較例よりも十分に小さかった。
【0112】
<導電膜形成工程の温度を変更した例>
表1の実施例3-1および3-2において、(浸透工程および導電膜形成工程)での温度を、110℃から表5に示す値に変更しして導電膜を得た。そして上記<比抵抗の測定>と同様にして比抵抗を測定した。結果を表5に示す。
【0113】
【表5】
【0114】
表5から、導電膜の比抵抗をより小さくする観点からは、導電膜形成工程における加熱温度はあまり高くないほうが良いことが理解される。ただし、加熱温度が150℃や200℃という比較的高温であっても、表1の比較例よりは十分に比抵抗が小さい導電膜が得られている。
【0115】
<浸透工程および導電膜形成工程においてポリイミドフィルムを用いなかった例>
表1の実施例4-2において、(浸透工程および導電膜形成工程)でポリイミドフィルム(フィルム状物)を用いずに導電膜を得た。具体的には、まず、(積層工程)で得らえた積層体の導電性粒子含有層の上に直接、成分(X)を含む液体を1mLスポイトで1滴分滴下し、その後、積層体をロールプレス機にセットし、加熱しつつ加圧した。そして導電性基材を得た。そして、上記<比抵抗の測定>と同様にして比抵抗を測定した。
この例において、ロールプレス機のロールとしては離型処理を施したものを用いた。これは、ポリイミドフィルム(フィルム状物)を用いない場合には、導電膜がロールに付着して剥離しやすいためである。
【0116】
比抵抗の測定結果は3.67E-6Ω・cmであった。つまり、浸透工程および導電膜形成工程においてフィルム状物を用いずとも、フィルム状物を用いた場合と同程度のオーダーの比抵抗の導電膜を形成することができた。
【0117】
<成分(X)を含む液体の代わりに、成分(X)を含む紙を用いて成分(X)を導電性粒子含有層に浸透させた例>
上記(浸透工程および導電膜形成工程)において、ポリイミドフィルムおよび表1に記載の組成の液体を用いる代わりに、1.5mol/Lギ酸水溶液を含ませた紙を導電性粒子含有層に接触させて、ロールプレス機による加熱および加圧を行った。そして、得られた導電膜の比抵抗を、上記<比抵抗の測定>と同様にして測定した。
得られた導電膜の比抵抗は、4.36E-6Ω・cmであった。つまり、成分(X)を含む液体ではなく、成分(X)を含む「シート」を導電性粒子含有層に接触させることでも、比抵抗が小さい導電膜を得ることができた。
【0118】
<導電性組成物を変更し、加圧工程を行わなかった例>
表1の実施例4-2において、以下2点を変更して、導電性基材を得た。そして、上記<比抵抗の測定>と同様にして導電膜の比抵抗を測定した。
・変更点1
導電性組成物として、樹脂を含むものを用いた。具体的には、導電性粒子(福田金属箔粉工業社から入手した銅粉、D50:4.5μm)79質量部、市販のポリエステル樹脂2質量部、および、有機溶剤19質量部を、遊星式攪拌機を用いて攪拌して得た、均一なペースト状の導電性組成物を用いた。
・変更点2
(加圧工程)を行わなかった。つまり、(積層工程)で得られた積層体を、そのまま(浸透工程および導電膜形成工程)に供した。
【0119】
この例においては、比抵抗の値が5.75E-6Ω・cmである導電膜を得ることができた。つまり、樹脂を含む導電性組成物を用いることにより、加圧工程を行わずとも、良好な導電膜を得ることができた。
【0120】
<導電膜中に残存する成分(X)の観察>
実施例4-4で得られた導電膜を、走査電子顕微鏡で観察した。この観察において、銅イオンとギ酸とで生成された塩と考えられる物質の存在が確認された。つまり、少なくとも実施例4-4で得られた導電性基材は、基材と、その基材の表面の少なくとも一部に設けられた導電膜とを備え、その導電膜の表面または内部に成分(X)(ギ酸)が存在するものであった。
【0121】
この出願は、2022年12月15日に出願された日本出願特願2022-199931号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0122】
1 基材
3 膜
3B 導電性粒子含有層
5A フィルム状物
5B フィルム状物
10A ロール
10B ロール
10C ロール
10D ロール
50 成分(X)を含む液体
図1