(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008662
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】マグネシアカーボンれんが及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/043 20060101AFI20240112BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C04B35/043
F27D1/00 N
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110704
(22)【出願日】2022-07-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波多江 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨田 大輔
【テーマコード(参考)】
4K051
【Fターム(参考)】
4K051AA02
4K051AA06
4K051AB03
4K051AB05
4K051BE03
(57)【要約】
【課題】黒鉛を含まないかあるいは含有量が極めて少ないマグネシアカーボンれんがにおいて、耐食性の低下を抑制しつつ耐スポーリング性を向上する。
【解決手段】粒径0.075mm以上5mm未満のマグネシアを80質量%以上95質量%以下、粒径0.075mm未満のマグネシアを3質量%以上12質量%以下、炭化珪素を0.1質量%以上3質量%以下、並びにアルミニウム及び/又はアルミニウム合金を合計で0.3質量%以上2.5質量%以下含有し、かつ黒鉛の含有率が1.5質量以下(0を含む)である耐火原料配合物に、有機バインダーを添加して混練し成形後、熱処理する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料配合物に有機バインダーを添加して混練し成形後、熱処理して得られるマグネシアカーボンれんがであって、
耐火原料配合物が、粒径0.075mm以上5mm未満のマグネシアを80質量%以上95質量%以下、粒径0.075mm未満のマグネシアを3質量%以上12質量%以下、炭化珪素を0.1質量%以上3質量%以下、並びにアルミニウム及び/又はアルミニウム合金を合計で0.3質量%以上2.5質量%以下含有し、かつ黒鉛の含有率が1.5質量以下(0を含む)である、マグネシアカーボンれんが。
【請求項2】
耐火原料配合物中の炭化珪素の含有率が0.6質量%以上2.5質量%以下である、請求項1に記載のマグネシアカーボンれんが。
【請求項3】
耐火原料配合物及び有機バインダーに含まれるトータルカーボン量が、1質量%以上4質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載のマグネシアカーボンれんが。
【請求項4】
真空脱ガス炉に使用される、請求項1又は請求項2に記載のマグネシアカーボンれんが。
【請求項5】
粒径0.075mm以上5mm未満のマグネシアを80質量%以上95質量%以下、粒径0.075mm未満のマグネシアを3質量%以上12質量%以下、炭化珪素を0.1質量%以上3質量%以下、並びにアルミニウム及び/又はアルミニウム合金を合計で0.3質量%以上2.5質量%以下含有し、かつ黒鉛の含有率が1.5質量以下(0を含む)である耐火原料配合物に、有機バインダーを添加して混練し成形後、熱処理する、マグネシアカーボンれんがの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属容器、特にRH、DH、VOD等の真空脱ガス炉に使用されるマグネシアカーボンれんが及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシアカーボンれんがは一般的にカーボン源として黒鉛を含有するが、黒鉛を含有するため熱伝導率が高く溶融金属の放散熱による熱損失の問題や、カーボンピックアップの問題がある。特に、極低炭素鋼を処理する真空脱ガス炉では、カーボンピックアップの問題から黒鉛を含有しないか極めて少ない(例えば1.5質量%以下)マグネシアカーボンれんがが要求されている。また通常、マグネシアカーボンれんがは、マグネシア及び鱗状黒鉛を主体とする耐火原料配合物にフェノール樹脂等の有機バインダーを添加して混練し、成形後に150℃~600℃で熱処理することで製造されている。
【0003】
上述の観点からは、マグネシアカーボンれんがには黒鉛を含有しないかあるいはできるだけ少ないことが望ましいが、黒鉛が少なくなると、耐スポーリング性が低下するという問題が生じる。そこで、この黒鉛を含有しないかあるいは減量した場合に伴う耐スポーリング性の低下を抑制する手段が種々提案されている。
【0004】
特許文献1には、粒径が0.075mm未満のマグネシアを3.0質量%以上10.0質量%以下、粒径が0.075mm以上5mm未満のマグネシアを87.0質量%以上96.0質量%以下含有し、かつ粒径が0.075mm以上1mm未満のマグネシアに対する粒径が1mm以上5mm未満のマグネシアの質量比が1.66以上2.34以下であり、黒鉛を含有しないマグネシアカーボンれんがが開示されている。このような粒度構成とすることで、使用時の受熱により熱処理後の緻密化と低弾性率化とを同時に満足するとされている。
この特許文献1のマグネシアカーボンれんがは、耐スポーリング性がかなり改善され実炉でも良好に使用されているが、厳しい使用環境下では依然としてれんが表層の剥離を伴う損耗が生じていると考えられ、耐スポーリング性に課題を残している。
【0005】
特許文献2には、マグネシア原料100重量%に対して、外掛けで、合量0~7重量%のピッチ粉及び/または鱗状黒鉛と、外掛けで0.1~10重量%の炭化珪素を添加してなる配合物を使用した低カーボンMgO-Cれんがが開示されている。そして、炭化珪素は融点が高く、スラグに濡れにくいので、低カーボンMgO-Cれんがの耐食性向上に寄与し、また、カーボンに次いで低熱膨張性と高熱伝導性の特性を有するので低カーボンMgO-Cれんがの耐熱スポーリング性の向上にも寄与するとされている。
しかしながら、特許文献2のマグネシアカーボンれんがでは、特に炭化珪素の添加量が多い場合、耐食性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-70406号公報
【特許文献2】特許第6026495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、黒鉛を含まないかあるいは含有量が極めて少ないマグネシアカーボンれんがにおいて、耐食性の低下を抑制しつつ耐スポーリング性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、黒鉛を含まないかあるいは含有量が極めて少ない(1.5質量%以下)マグネシアカーボンれんがにおいて、耐火原料配合物中のマグネシアの粒度構成を適切な範囲としかつ炭化珪素を特定範囲で含有することで、耐食性の低下が抑制されかつれんがの熱処理後の弾性率が大幅に低下することを知見した。
【0009】
炭化珪素は、熱膨張率が小さくかつ熱伝導率が高いため耐スポーリング性の改善に有効であることは公知であるが、従来、耐スポーリング性を改善するためにはある程度の量を添加しなければならなかった。これに対して本発明では、炭化珪素の極めて少量の使用で大幅に弾性率が低下し耐スポーリング性の改善効果が認められた。その理由としては、炭化珪素が熱間でのマグネシア粒子の過焼結を抑制することで、れんがの弾性率が低下するためと考えられる。すなわち、特に黒鉛を含まないかあるいは含有量が極めて少ない領域においては黒鉛による過焼結抑制効果がないか少なくなるため、炭化珪素による過焼結抑制効果がより顕著に現れると考えられる。加えて、粒径0.075mm未満のマグネシアを少量に制限しているため、炭化珪素の添加量が少なくても十分な過焼結抑制効果が得られる。ただし、黒鉛を含まないかあるいは含有量が極めて少ない領域においては、炭化珪素の過焼結抑制効果により見掛気孔率が上昇するため、過剰に添加すると耐食性の低下を招くことになる。
【0010】
本発明は、以上のような本発明者らによる新たな知見と考察に基づき想到されたもので、その一観点によれば次のマグネシアカーボンれんがが提供される。
耐火原料配合物に有機バインダーを添加して混練し成形後、熱処理して得られるマグネシアカーボンれんがであって、
耐火原料配合物が、粒径0.075mm以上5mm未満のマグネシアを80質量%以上95質量%以下、粒径0.075mm未満のマグネシアを3質量%以上12質量%以下、炭化珪素を0.1質量%以上3質量%以下、並びにアルミニウム及び/又はアルミニウム合金を合計で0.3質量%以上2.5質量%以下含有し、かつ黒鉛の含有率が1.5質量以下(0を含む)である、マグネシアカーボンれんが。
【0011】
また、本発明の他の観点によれば次のマグネシアカーボンれんがの製造方法が提供される。
粒径0.075mm以上5mm未満のマグネシアを80質量%以上95質量%以下、粒径0.075mm未満のマグネシアを3質量%以上12質量%以下、炭化珪素を0.1質量%以上3質量%以下、並びにアルミニウム及び/又はアルミニウム合金を合計で0.3質量%以上2.5質量%以下含有し、かつ黒鉛の含有率が1.5質量以下(0を含む)である耐火原料配合物に、有機バインダーを添加して混練し成形後、熱処理する、マグネシアカーボンれんがの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、黒鉛を含まないかあるいは含有量が極めて少ない(1.5質量%以下)マグネシアカーボンれんがにおいて、耐食性の低下を抑制しつつ耐スポーリング性を向上することができる。そのため、例えば真空脱ガス炉で使用した場合でも十分な耐用性が得られ、しかもカーボンピックアップを抑制し鋼の品質を向上し、熱損失も少なくなくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、炭化珪素は、れんがを低弾性率化して耐スポーリング性を向上させるために耐火原料配合物中に0.1質量%以上3質量%以下で使用する。0.1質量%未満では低弾性率化の効果が不十分となり、3質量%を超えると見掛気孔率が高くなるため耐食性が不十分となる。さらに、より耐食性及び耐スポーリング性を高めたい場合には、耐火原料配合物中の炭化珪素の含有率を0.6質量%以上2.5質量%以下とすることもできる。
本発明で使用する炭化珪素は、通常の耐火物の原料として使用されているものであれば問題なく使用することができる。また、炭化珪素の粒度は分散性等を考慮して、粒径0.1mm未満であることが好ましく、粒径0.044mm未満であることがより好ましい。
【0014】
黒鉛は固定炭素量が多いため、カーボンピックアップを抑制する点から含有しなくてもよい。一方、黒鉛を含有する場合には、耐火原料配合物中の含有率は1.5質量%以下とし、好ましくは1質量%以下とする。
黒鉛としては、通常のマグネシアカーボンれんがに使用されている鱗状黒鉛あるいは膨張黒鉛等を好適に使用することができるが、合成黒鉛も使用可能である。また、黒鉛の粒度は、粒径0.1mm未満とすることができる。
【0015】
本発明では真空脱ガス炉等に使用されるマグネシアカーボンれんがとして十分な耐食性を得るため、粒径0.075mm以上5mm未満のマグネシアを80質量%以上95質量%及び粒径0.075mm未満のマグネシアを3質量%以上12質量%以下で使用する。粒径0.075mm以上5mm未満のマグネシアが80質量%未満では耐食性が不十分となり、95質量%を超えると、耐スポーリング性が低下する。また、粒径0.075mm未満のマグネシアが3質量%未満では成形時の充填性が悪くなり、得られるれんがの強度が低下して強度不足となる結果、耐スポーリング性が低下する。さらに、見掛気孔率が高くなり耐食性も低下する。一方、粒径0.075mm未満のマグネシアが12質量%を超えると、れんがの使用時に焼結が進んで高弾性となり耐スポーリング性が低下する。
本発明において、耐火原料配合物中のマグネシアの含有量、すなわち粒径0.075mm以上5mm未満のマグネシア及び粒径0.075mm未満のマグネシアの合量は、真空脱ガス炉等に使用されるマグネシアカーボンれんがとして十分な耐食性を得るため、92質量%以上とすることができる。
本発明において耐火原料配合物に使用するマグネシアは、電融マグネシア、焼結マグネシアのいずれでもよく、これらを併用してもよい。その組成も特に限定されるものではないが、より高い耐食性を得るためにはMgO純度の高いマグネシアを使用することができ、例えばMgO純度96質量%以上、さらには98質量%以上のものを使用することができる。
【0016】
本発明においてアルミニウム及び/又はアルミニウム合金は、酸化防止と組織の緻密化のために、合計で0.3質量%以上2.5質量%以下使用する。アルミニウム及び/又はアルミニウム合金の合計が2.5質量%を超えると、使用時のアルミニウムの酸化反応による膨張、さらにはアルミニウム及び/又はアルミニウム合金が溶融、揮発して生じる気孔のため見掛気孔率が高くなり耐食性が不十分となる。アルミニウム及び/又はアルミニウム合金が合計で0.3質量%未満では、れんがの耐酸化性が低下することで耐食性が低下する。なお、アルミニウム及び/又はアルミニウム合金による酸化防止と組織の緻密化の効果は、例えば粒径0.075mm未満の細かいアルミニウム及び/又はアルミニウム合金を使用することで一層顕著に発現される。
アルミニウム、アルミニウム合金としては、マグネシアカーボンれんが等で一般的に使用されているものであれば問題なく使用可能である。また、粒度は上述の通り、粒径0.075mm未満で使用することができる。
【0017】
ここで、本発明でいう粒径とは、耐火原料粒子を篩いで篩って分離したときの篩い目の大きさのことであり、例えば粒径0.075mm未満のマグネシアとは、篩い目が0.075mmの篩いを通過するマグネシアのことで、粒径0.075mm以上のマグネシアとは、篩い目が0.075mmの篩い目を通過しないマグネシアのことである。
【0018】
本発明のマグネシアカーボンれんがの原料としては、上述のマグネシア、炭化珪素、黒鉛、アルミニウム、アルミニウム合金以外に、マグネシアカーボンれんがの原料として一般的に使用されている原料を、合量で5質量%以下程度であれば悪影響を及ぼすことなく使用することができる。例えば、ピッチ、アルミナ、スピネル、シリコン、カーボンブラック、炭化硼素、繊維、ガラス等である。
【0019】
本発明においては、カーボンピックアップを抑制する点から、耐火原料配合物及び有機バインダーに含まれるトータルカーボン量を1質量%以上4質量%以下とすることが好ましく、1.5質量%以上3質量%以下とすることがより好ましい。ここで、トータルカーボン量(T.C量)とは、耐火原料配合物及び有機バインダー中の固定炭素量と炭化珪素等の炭化物原料に含有されるC量の合量である。耐火原料配合物及び有機バインダー中の固定炭素量は、各原料のメーカーの仕様値から計算することができる。また原料メーカーの仕様値が不明の場合には、使用する原料それぞれの固定炭素をJIS規格によって測定することができる。具体的には、ピッチはJISK2425、黒鉛はJISM8511、有機バインダーはJISK6910、並びにピッチ、黒鉛及び有機バインダー以外はJISM8812に準じ測定して特定することができる。また後述の通り炭化物原料に含有されるC量は、使用する原料の純度から、計算によって特定することができる。なお、耐火原料配合物及び有機バインダーに含まれるトータルカーボン量は、れんが中のトータルカーボン量と実質的に同一である。
【0020】
本発明のマグネシアカーボンれんがは、一般的な不焼成マグネシアカーボンれんがの製造方法によって製造することができる。すなわち、本発明のマグネシアカーボンれんがは、前述の耐火原料配合物に有機バインダーを添加して混練し成形後、熱処理することで得ることができる。熱処理温度は例えば150~600℃、好ましくは150~400℃とすることができる。
【0021】
以上の通り、本発明においては、C成分含有率の低い炭化珪素の使用によって大幅に弾性率を低下することができるため、例えば黒鉛、カーボンブラック等のC成分含有率の高い炭素原料の使用量を抑制することができる。そのため、れんが中の固定炭素量を1質量%以上4質量%以下と少なくしつつ、耐スポーリング性に優れたれんがを提供することができる。したがって、本発明のマグネシアカーボンれんがは特に極低炭素鋼を処理する真空脱ガス炉での用途に適している。
【実施例0022】
表1及び表2に、本発明の実施例及び比較例における耐火原料配合物の組成、及び得られたれんがの物性を示す。使用した耐火原料としてマグネシアはMgO純度が98質量%の電融マグネシアを、炭化珪素はSiC純度が90質量%のものを、アルミナは純度98質量%の電融アルミナを、鱗状黒鉛は固定炭素量が95%のものを、カーボンブラックは固定炭素量が90%のものを、及びピッチ粉は軟化点が150℃で固定炭素量が50%のものを使用した。
【0023】
【0024】
【0025】
表1及び表2の耐火原料配合物に有機バインダーとしてフェノール樹脂を外掛けで2質量%添加して混練し、オイルプレスによって230mm×114mm×100mmの形状に成形後、最高温度250℃で5時間保持の熱処理を施すことでマグネシアカーボンれんがを製造した。なお、実施例19以外はフェノール樹脂は固定炭素量が50%のものを使用し、実施例19は固定炭素量が30%のものを使用した。これらのれんがから物性測定用試料を切り出して見掛気孔率と弾性率を測定すると共に、耐食性及び耐熱衝撃性を評価した。
【0026】
見掛気孔率の測定においては形状50×50×50mmの試料をコークスブリーズ中に埋め、電気炉において1400℃まで昇温し、5時間保持して自然放冷した。その後、溶媒を白灯油としJISR2205に準拠して測定した。
【0027】
弾性率は20×20×110mmの試料を1400℃で5時間還元雰囲気下で焼成した試料を使用し、音速法により測定した。
【0028】
耐食性は、回転侵食試験にて評価した。回転侵食試験では、水平の回転軸を有するドラム内面を供試れんがでライニングし、スラグを投入、加熱して、供試れんが表面を侵食させた。回転侵食試験はCaO/SiO2質量比=2.0のスラグとして、CaOを40質量%、SiO2を20質量%、Al2O3を30質量%含有するものを使用した。加熱源は酸素-プロパンバーナー、試験温度は1700℃として、スラグの排出、投入を30分毎に行い、この操作を10回繰り返した。試験終了後、各供試れんがの最大溶損部の溶損寸法(mm)を測定し、表1に記載の「比較例1」のれんがの溶損寸法を100とする溶損指数で表示した。この溶損指数は数値が小さいものほど耐食性が優れていることを示す。
【0029】
耐スポーリング性は、40×40×190mmの試料を1400℃で5時間還元雰囲気下で焼成した試料を使用し、この試料を1600℃に昇温した溶銑中に90秒間浸漬後、30秒水冷するサイクルを5回繰り返した。試験終了後、試料を切断し断面を観察し亀裂の程度を評価した。具体的には、試験終了後の試料の亀裂が認められないあるいは非常に軽微である場合を◎(優)、中程度の亀裂で使用上十分な耐熱スポーリング性を有すると判断される場合を○(良)、亀裂の程度が大きい、又は試料の剥落により5回繰り返しの試験に耐えらず実機使用には適さないと判断される場合を×(不良)と評価した。
【0030】
トータルカーボン量(質量%)は、各原料の固定炭素量と炭化物原料のC含有量とからの計算値である。各原料の固定炭素量は原料メーカーの仕様値を使用し、炭化物原料については原料の純度からC含有量を計算した。
【0031】
総合評価は表3に示す評価基準に基づき、◎(優)、○(良)、×(不良)の3段階で評価した。
【0032】
【0033】
表1中、実施例1から実施例5は耐火原料配合物中の炭化珪素の含有率が異なる場合であり、炭化珪素の添加量が増加するに従い弾性率が低下し、炭化珪素を含有しない比較例1と比べて大幅に弾性率が低下し耐スポーリング性が向上していることがわかる。ただし、炭化珪素の添加により見掛気孔率が高くなり耐食性が低下する傾向になる。比較例2は炭化珪素の含有率が本発明の上限値を上回る場合であり、見掛気孔率が高く実施例5に対して耐食性が顕著に劣る結果となった。また、実施例1から実施例5より、炭化珪素の含有率を0.6質量%以上2.5質量%とすることで、耐スポーリング性及び耐食性をバランスよく具備することができることがわかる。
【0034】
実施例6及び実施例7は、粒径0.075mm以上5mm未満及び0.075mm未満のマグネシアの含有率が異なる場合であるが、本発明の範囲内であり良好な結果となった。一方、比較例3は粒径0.075mm以上5mm未満のマグネシアの含有率が本発明の下限値を下回る場合であり、マグネシア含有率が少なくなるため耐食性が低下した。比較例4は0.075mm以上5mm未満のマグネシアの含有率が本発明の上限値を上回りしかも0.075mm未満のマグネシアが本発明の下限値を下回る場合であり、成形時の充填が悪くなり耐スポーリング性及び耐食性に劣る結果となった。この比較例4が耐スポーリング性に劣る理由は、上述の通り成形時の充填不良による強度不足によるものである。他方、比較例5は粒径0.075mm未満のマグネシアの含有率が本発明の上限値を上回る場合であり、実施例6と比較して鱗状黒鉛を1.5質量%含んでいるにもかかわらず弾性率が高くなり、耐スポーリング性に劣る結果となった。これは、粒径0.075mm未満のマグネシアが多すぎるため受熱後の組織が過度に緻密化したためである。
【0035】
実施例8及び実施例9は耐火原料配合物中のアルミニウムの含有率が異なる場合であるが、本発明の範囲内であり良好な結果となった。これに対して比較例6はアルミニウムを含有しない場合であり、耐酸化性が不足することで耐食性が不十分となった。一方、比較例7はアルミニウムの含有率が本発明の上限値を超えており、見掛気孔率が高くなり耐食性が不十分となった。
【0036】
実施例10から実施例12は耐火原料配合物中の鱗状黒鉛の含有率が異なる場合であるが、本発明の範囲内であり良好な結果となった。一方、比較例9は鱗状黒鉛を1.5質量%含有するものの炭化珪素を含有しない場合であり、炭化珪素を2質量%含有する実施例12と比較すると、弾性率が高く耐スポーリング性に劣る結果となった。これらの対比により、鱗状黒鉛が1.5質量%以下と非常に少ない場合には、炭化珪素の添加によって弾性率が大幅に低下することがわかる。
【0037】
表2中、実施例13はシリコンを、実施例14は膨張黒鉛、シリコン及び炭化硼素を添加した例であるが、いずれも本発明の範囲内であり、弾性率が低く耐スポーリング性に優れており、耐食性も良好であった。実施例15及び実施例16はシリコン、カーボンブラック及び炭化硼素を添加した例であるが、これらも本発明の範囲内であり良好な結果となった。さらに実施例17はシリコン、カーボンブラック、炭化硼素及びAl-Mg合金を添加した例であるが、本発明の範囲内であり良好な結果となった。実施例18は、鱗状黒鉛と炭化珪素が本発明の上限値で、しかもピッチ粉、カーボンブラック及び炭化硼素も添加した場合であり、固定炭素量が3.9質量%となる場合であるが、耐食性及び耐スポーリング性に優れる結果となった。実施例19は、固定炭素量が1.0%の場合であるが、耐食性及び耐スポーリング性に優れる結果となった。
【0038】
実施例3、実施例13、比較例1及び比較例5のマグネシアカーボンれんがをRH脱ガス炉の下部層にライニングし、300ヒート使用した後れんがを回収し損耗量(平均長さ)から平均損耗量(mm/ヒート)を計算した。比較例1の平均損耗量を指数表示で100とした場合に、比較例5は102であったが、実施例3は78、実施例13は72と非常に優れる結果となった。本発明により耐スポーリング性を改善できた効果が大きいと考えられる。