IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブラザー工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-燃料電池システム 図1
  • 特開-燃料電池システム 図2
  • 特開-燃料電池システム 図3
  • 特開-燃料電池システム 図4
  • 特開-燃料電池システム 図5
  • 特開-燃料電池システム 図6
  • 特開-燃料電池システム 図7
  • 特開-燃料電池システム 図8
  • 特開-燃料電池システム 図9
  • 特開-燃料電池システム 図10
  • 特開-燃料電池システム 図11
  • 特開-燃料電池システム 図12
  • 特開-燃料電池システム 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008665
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04746 20160101AFI20240112BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20240112BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20240112BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20240112BHJP
   H01M 8/043 20160101ALI20240112BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20240112BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20240112BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240112BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/0432
H01M8/04225
H01M8/04302
H01M8/043
H01M8/04537
H01M8/04858
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110711
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100152515
【弁理士】
【氏名又は名称】稲山 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】丹野 則彦
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA06
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA57
5H127BA59
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127BB39
5H127CC11
5H127DA01
5H127DB53
5H127DB74
5H127DC22
5H127DC45
(57)【要約】
【課題】セルスタックの発電性能を維持しつつ、セルスタックに供給される空気の供給量を低下させることが可能な燃料電池システムを提供する
【解決手段】燃料電池システムは、アノード極に水素を供給させ、且つ、カソード極に空気を供給させることで、燃料電池の発電を開始させる。燃料電池システムは、燃料電池が発電している状態で、熱触媒の温度が閾値温度未満の場合(S43:NO)、第1供給量の空気をカソード極に供給させる(S41)。燃料電池システムは、燃料電池が発電している状態で、熱触媒の温度が閾値温度以上の場合(S43:YES)、カソード極に供給する空気を、第1供給量も小さい第2供給量まで段階的に低下させる(S45)。燃料電池システムは、カソード極に対する空気の供給量が第2供給量になった場合、カソード極に対して第2供給量の空気を継続して供給する(S49)。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード極、カソード極、及び触媒を有するセルを少なくとも1つ有するスタックと、
前記アノード極に燃料を供給する燃料供給部と、
前記カソード極に空気を供給する空気供給部と、
前記セルの温度を調節する熱媒体の温度を計測する計測部と、
前記燃料供給部及び前記空気供給部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記燃料供給部を制御して前記アノード極に前記燃料を供給させ、且つ、前記空気供給部を制御して前記カソード極に前記空気を供給させることで、前記スタックを発電させる発電処理と、
前記発電処理により前記スタックが発電している状態で、前記計測部により計測された温度が所定の閾値温度未満の場合、前記空気供給部を制御し、第1供給量の前記空気を前記カソード極に供給させる第1供給処理と、
前記発電処理により前記スタックが発電している状態で、前記計測部により計測された温度が前記閾値温度以上の場合、前記空気供給部を制御して前記カソード極に供給させる前記空気を調節する第2供給処理であって、
前記カソード極に対する前記空気の供給量が前記第1供給量である場合、前記カソード極に供給する前記空気を、前記第1供給量も小さい第2供給量まで段階的に低下させる段階供給処理と、
前記カソード極に対する前記空気の供給量が前記第2供給量である場合、前記カソード極に前記第2供給量の前記空気を継続して供給する継続供給処理と
を含む前記第2供給処理と
を実行することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記発電処理による前記スタックの発電の開始時、前記計測部により計測された温度に関わらず、前記第1供給量の前記空気を前記カソード極に供給させる開始時供給処理
を更に実行することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記空気供給部は、
前記カソード極に対する前記空気の供給量を、所定のステップ量ずつ調節可能であり、
前記段階供給処理は、
前記カソード極に供給する前記空気を、前記ステップ量ずつ前記第2供給量まで段階的に低下させることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記段階供給処理は、
前記カソード極に供給する前記空気を、単位時間毎に前記第2供給量まで段階的に低下させることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記段階供給処理は、
前記カソード極に供給する前記空気を、前記第1供給量の所定の割合である割合量ずつ前記第2供給量まで段階的に低下させることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御部は、
前記発電処理による前記スタックの発電が開始される前に、前記空気供給部を制御して前記カソード極に前記空気を供給させる発電前供給処理
を更に実行することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記第1供給量は、前記第2供給量の2倍以上の値であることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記制御部は、
前記スタックの電圧が所定の第1閾値電圧未満の場合、前記スタックから出力可能な電力を減少させる電力減少処理と、
前記スタックの電圧が、前記第1閾値電圧よりも大きい場合、前記スタックから出力可能な電力を増加させる電力増加処理と
を更に実行することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記電力増加処理は、
前記スタックの電圧が、前記第1閾値電圧よりも大きい第2閾値電圧以上の場合、前記スタックから出力可能な電力を増加させる
ことを特徴とする請求項8に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記電力減少処理による電力の減少幅は、前記電力増加処理による電力の増加幅よりも大きいことを特徴とする請求項8に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記減少幅は、前記増加幅の10倍以上であることを特徴とする請求項10に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、燃料電池システムを開示する。燃料電池システムは、セルスタック、エアポンプ、セルスタック温度センサ、及びCPUを備える。エアポンプは、セルスタックに空気を供給する。セルスタック温度センサは、セルスタックの温度を検出する。CPUは、セルスタック温度センサによって検出されたセルスタックの温度に基づいて、エアポンプの出力を制御する。CPUは、セルスタックの発電を開始した後、セルスタックの温度が所定温度に達するまでの少なくとも一部の期間、エアポンプによる空気の出力を、セルスタックの温度が所定温度以上の場合の出力よりも大きく設定する。これにより燃料電池システムは、燃料電池の温度上昇に要する時間を短縮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-96553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セルスタックに供給される空気の供給量を大きくした状態から元に戻す場合、供給量を急激に低下させると、セルスタックの電圧が急落して発電が急停止する場合があるという問題点がある。
【0005】
本発明の目的は、セルスタックの発電性能を維持しつつ、セルスタックに供給される空気の供給量を低下させることが可能な燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る燃料電池システムは、アノード極、カソード極、及び触媒を有するセルを少なくとも1つ有するスタックと、前記アノード極に燃料を供給する燃料供給部と、前記カソード極に空気を供給する空気供給部と、前記セルの温度を調節する熱媒体の温度を計測する計測部と、前記燃料供給部及び前記空気供給部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記燃料供給部を制御して前記アノード極に前記燃料を供給させ、且つ、前記空気供給部を制御して前記カソード極に前記空気を供給させることで、前記スタックを発電させる発電処理と、前記発電処理により前記スタックが発電している状態で、前記計測部により計測された温度が所定の閾値温度未満の場合、前記空気供給部を制御し、第1供給量の前記空気を前記カソード極に供給させる第1供給処理と、前記発電処理により前記スタックが発電している状態で、前記計測部により計測された温度が前記閾値温度以上の場合、前記空気供給部を制御して前記カソード極に供給させる前記空気を調節する第2供給処理であって、前記カソード極に対する前記空気の供給量が前記第1供給量である場合、前記カソード極に供給する前記空気を、前記第1供給量も小さい第2供給量まで段階的に低下させる段階供給処理と、前記カソード極に対する前記空気の供給量が前記第2供給量である場合、前記カソード極に前記第2供給量の前記空気を継続して供給する継続供給処理とを含む前記第2供給処理とを実行することを特徴とする。
【0007】
本発明において、燃料電池システムは、カソード極に供給される空気の供給量を第2供給量まで段階的に低下させる。これにより燃料電池システムは、空気の供給量の低下に応じてスタックの電圧が急落し発電が停止することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】燃料電池システム1の概要を示す図である。
図2】制御装置6の電気的構成を示すブロック図である。
図3】スタック電圧、スタック電流、及び出力電力の経時変化を示すグラフである。
図4】閾値Thを設定した場合におけるスタック電圧の経時変化を示すグラフである。
図5】スタック電流と、温度計測部52により計測された熱媒体の温度との関係を示すグラフである。
図6】閾値Vh1を設定した場合におけるスタック電圧の経時変化を示すグラフである。
図7】スタック電流と、温度計測部52により計測された熱媒体の温度との関係を示すグラフである。
図8】空気の供給量を急激に低下させた場合におけるスタック電圧及び出力電力の経時変化を示すグラフである。
図9】空気の供給量を段階的に低下させた場合におけるスタック電圧及び出力電力の経時変化を示すグラフである。
図10】対策前後のそれぞれの場合におけるスタック電圧の経時変化を示すグラフである。
図11】メイン処理のフローチャートである。
図12】発電処理のフローチャートである。
図13】出力制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る燃料電池システム1の一実施形態について、図面を参照して説明する。参照する図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、記載されている装置の構成等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0010】
<燃料電池システム1の概要>
図1を参照し、燃料電池システム1の概要について説明する。燃料電池システム1は、燃料電池1A、複数の流路20、複数の弁20A、ポンプ31、32、34、フィルタ33、水素供給源41、空気供給源42、熱交換器43、電力調整部44、電圧計測部51、温度計測部52、及び制御装置6を有する。複数の流路20は、水素供給路21、水素排出路22、空気供給路23、空気排出路24、及び、熱媒体循環路25を含む。複数の弁20Aは、水素供給弁21A、水素排出弁22A、空気供給弁23A、及び空気排出弁24Aを含む。
【0011】
燃料電池1Aは、セル10を複数積層したスタック構造を有する。隣接するセル10間は、非図示のセパレータにより隔てられる。複数のセル10は直列に接続される。各セル10は、アノード11、カソード12、及び電解質(例えば、固体高分子電解質膜)13を有する。
【0012】
電解質13は、アノード11とカソード12との間に挟まれる。アノード11は、アノード極11Aとアノード触媒11Bとを含む。カソード12は、カソード極12Aとカソード触媒12Bとを含む。アノード極11A及びカソード極12Aは電極である。アノード触媒11B及びカソード触媒12Bは、例えばアセチレンブラックに担持されたPtからなる。なお、アノード触媒11B及びカソード触媒12Bの材料は例示した材料に限定されず、他の材料でもよい。セパレータは、各セル10の間に配置された板形状であり、一方の面にセル10のアノード極11Aに面する燃料流路を有し、他方の面にセル10のカソード極12Aに面する酸化剤流路を有する。本実施形態では、燃料として水素を使用し、酸化剤として空気を使用する。
【0013】
水素供給源41は水素の取り入れ口であり、燃料電池1Aにて消費される水素の供給源として機能する。例えば、水素供給源41は非図示の水素タンクに接続され、水素タンクに貯留された水素が取り入れられる。水素供給源41は、水素タンクの他、水電解装置に接続されてもよい。空気供給源42は空気の取り入れ口であり、燃料電池1Aにて消費される空気の供給源として機能する。例えば、空気供給源42には大気中の空気が取り入れられる。なお、空気供給源42は、空気タンクに接続されてもよいし、水電解装置に接続されてもよい。
【0014】
水素供給路21、及び水素排出路22は、水素が通流する管である。水素供給路21は、水素供給源41から各セル10のアノード極11Aに水素を供給する。水素排出路22は、各セル10のアノード極11Aから水素を排出する。空気供給路23及び空気排出路24は、空気が通流する管である。空気供給路23は、空気供給源42から各セル10のカソード極12Aに空気を供給する。空気排出路24は、各セル10のカソード極12Aから空気を排出する。
【0015】
ポンプ31は、水素供給路21に介在する。ポンプ31は、水素供給源41から各セル10のアノード極11Aに向けた水素の流れを、水素供給路21に形成させる。ポンプ32は、空気供給路23に介在する。ポンプ32は、空気供給源42から各セル10のカソード極12Aに向けた空気の流れを、空気供給路23に形成させる。フィルタ33は、空気供給源42とポンプ32との間の空気供給路23に設けられる。フィルタ33は、空気供給路23を通流する空気から不純物を除去する。
【0016】
水素供給弁21Aは水素供給路21に設けられる。水素供給弁21Aは、水素供給路21を開閉可能な調節弁である。水素排出弁22Aは水素排出路22に設けられる。水素排出弁22Aは、水素排出路22を開閉可能な調節弁である。空気供給弁23Aは空気供給路23に設けられる。空気供給弁23Aは、空気供給路23を開閉可能な調節弁である。空気排出弁24Aは空気排出路24に設けられる。空気排出弁24Aは、空気排出路24を開閉可能な調節弁である。
【0017】
水素供給弁21Aは、水素供給路21を流れる水素の流量を制御することが可能である。空気供給弁23Aは、空気供給路23を流れる空気の流量を制御することが可能である。水素供給弁21A及び空気供給弁23Aは、夫々、制御装置6から出力される電気信号に応じ、流量を段階的に調節可能である。
【0018】
水素供給源41、ポンプ31、水素供給弁21A、及び水素供給路21は、燃料電池1Aのアノード極11Aに水素を供給する燃料供給部1Bとして機能する。燃料供給部1Bは、ポンプ31を駆動し且つ水素供給弁21Aを開放させることにより、水素供給路21を介してアノード極11Aに水素を供給する。燃料供給部1Bは、水素供給路21を流れる水素の流量を水素供給弁21Aにより制御することで、アノード極11Aに対する水素の供給量を所定のステップ量rずつ段階的に調節可能である。又、燃料供給部1Bは、ポンプ31の駆動を停止し且つ水素供給弁21Aを閉塞させることにより、アノード極11Aに対する水素の供給を停止する。
【0019】
空気供給源42、フィルタ33、ポンプ32、空気供給弁23A、及び空気供給路23は、燃料電池1Aのカソード極12Aに空気を供給する空気供給部1Cとして機能する。空気供給部1Cは、ポンプ32を駆動し且つ空気供給弁23Aを開放させることにより、空気供給路23を介してカソード極12Aに空気を供給する。空気供給部1Cは、空気供給路23を流れる空気の流量を空気供給弁23Aにより制御することで、カソード極12Aに対する空気の供給量を所定のステップ量qずつ段階的に調節可能である。又、空気供給部1Cは、ポンプ32の駆動を停止し且つ空気供給弁23Aを閉塞させることにより、カソード極12Aに対する空気の供給を停止する。
【0020】
燃料電池1Aが発電することにより、燃料電池1Aの出力端子18間に電圧が印加される。この電圧の値は、各セル10のアノード極11Aとカソード極12Aとの間の電圧を加算した値と一致する。以下、この電圧を「スタック電圧」という。燃料電池1Aの出力端子18から出力される電流を、「スタック電流」という。
【0021】
燃料電池システム1は、外部負荷Ldを接続可能な接続端子19を有する。燃料電池1Aの出力端子18は、電力調整部44を介して接続端子19に接続する。電力調整部44は、出力端子18間のスタック電圧を昇圧又は降圧するコンバータである。電力調整部44は、接続端子19から出力される電圧及び電流を制御することにより、接続端子19に接続された外部負荷Ldに供給することが可能な電力を調整する。以下この電力を「出力電力」という。
【0022】
電圧計測部51は、分圧抵抗及びADコンバータを含む。分圧抵抗は、出力端子18に接続され、スタック電圧を分圧する。ADコンバータは分圧抵抗に接続し、分圧抵抗の両端部の間の電圧を示す電気信号を制御装置6に出力する。
【0023】
熱媒体循環路25は、熱媒体が循環する管である。熱媒体は、燃料電池1Aを加熱する為の流体である。熱媒体循環路25は環状を有する。熱媒体循環路25の一部は、燃料電池1A内に配置される。以下、熱媒体循環路25のうち燃料電池1A内に配置される部分を、「加熱部25A」という。加熱部25Aを通過する熱媒体は、燃料電池1Aの複数のセル10に熱を供給することにより、複数のセル10を加熱する。又、熱媒体は、加熱部25Aにおいて複数のセル10に熱を供給することにより冷却される。
【0024】
熱媒体循環路25には、ポンプ34及び熱交換器43が介在する。ポンプ34は、加熱部25Aの出口252から排出された熱媒体を、熱交換器43に向けて送り出す。熱交換器43は、ポンプ34により送り出された熱媒体に熱を供給することにより、熱媒体を加熱する。熱交換器43により加熱された熱媒体は、加熱部25Aの入口251に向けて送り込まれる。
【0025】
温度計測部52は、熱媒体循環路25のうち加熱部25Aの出口252とポンプ34との間に接続する。温度計測部52は熱電対である。温度計測部52は、加熱部25Aの出口252から排出された熱媒体の温度を計測し、計測結果を示す電気信号を制御装置6に出力する。
【0026】
制御装置6は、燃料電池システム1に含まれる制御基板であり、燃料電池システム1の全体の制御を司る。
【0027】
<燃料電池1Aの発電原理>
アノード11のアノード極11Aに対し、水素供給源41から水素供給路21を介して水素が供給される。水素は、アノード11のアノード触媒11Bにより水素イオンと電子に分解される。水素イオンは、電解質13を介してカソード12に向けて流れる。電子は、出力端子18、接続端子19、及び外部負荷Ldを介して、カソード12のカソード極12Aに向けて流れる。これにより、外部負荷Ldに給電される。
【0028】
カソード12のカソード極12Aに対し、空気供給源42から空気供給路23を介して空気が供給される。カソード12のカソード触媒12Bでは、電解質13を介してアノード11から流れてきた水素イオンと、出力端子18、接続端子19、及び外部負荷Ldを介して流れてきた電子と、空気の酸素分子とが結合し、水が発生する。
【0029】
<制御装置6の電気的構成>
図2を参照し、制御装置6の電気的構成について説明する。制御装置6は、CPU61、記憶装置62、入力部63、及び出力部64を含む。CPU61は、記憶装置62、入力部63、出力部64、複数の弁20A、ポンプ31、32、34、電力調整部44、電圧計測部51、及び温度計測部52と電気的に接続する。
【0030】
CPU61は、制御装置6を含む燃料電池システム1の全体を制御する。記憶装置62は、CPU61が後述するメイン処理(図11参照)、発電処理(図12参照)、及び出力制御処理(図13参照)を実行する為のプログラムを記憶する。
【0031】
入力部63は押ボタンであり、燃料電池システム1に対する入力操作を受け付ける。出力部64はディスプレイであり、燃料電池システム1の状態等を出力する。
【0032】
CPU61は、ポンプ31を制御することにより、水素供給路21を介して水素供給源41から各セル10のアノード極11Aに向けて水素を通流させることが可能である。CPU61は、ポンプ32を制御することにより、空気供給路23を介して空気供給源42から各セル10のカソード極12Aに向けて空気を通流させることが可能である。CPU61は、ポンプ34を制御することにより、熱媒体循環路25を介して熱媒体を循環させることが可能である。これにより、熱交換器43にて加熱された熱媒体は、熱媒体循環路25の加熱部25Aに送り出される。CPU61は、複数の弁20Aを制御することにより、複数の流路20を開閉可能である。
【0033】
CPU61は、電力調整部44に電気信号を出力して制御することにより、燃料電池システム1の出力電力を調整することが可能である。
【0034】
CPU61は、電圧計測部51から出力される電気信号に基づき、燃料電池1Aのスタック電圧を取得可能である。CPU61は、温度計測部52から出力される信号に基づき、熱媒体循環路25の加熱部25Aの出口252から排出された熱媒体の温度を取得可能である。
【0035】
<フラッディングによる性能低下>
フラッディングとは、燃料電池1Aの発電の過程で発生した水がカソード極12Aに付着する現象を示す。フラッディングが発生した場合、カソード極12Aに付着した水が空気の経路を塞いでしまい、燃料電池1Aによる発電の性能が低下する。図3は、燃料電池1Aのスタック電圧、スタック電流、及び、燃料電池システム1の出力電力の経時変化を示すグラフである。スタック電圧及びスタック電流は、発電開始から時間t11の経過後に急激に低下しており、このタイミングでフラッディングが発生していることを表している。
【0036】
本実施形態において、燃料電池システム1は、フラッディングの発生を抑制する為、(1)燃料電池1Aの加熱による対策、(2)出力電力の制御による対策、(3)発電開始時における空気の供給量の調節による対策、(4)熱媒体の温度上昇後における空気の供給量の調節による対策、を行う。
【0037】
(1)燃料電池1Aの加熱による対策
フラッディングは、燃料電池1Aの発電時における温度が低温になる程、発生しやすい。この理由は、温度が低温になる程、水が結露し、カソード極12Aに付着し易い為である。このためCPU61は、温度計測部52により計測される熱媒体の温度が所定の閾値Tk未満になった場合、熱媒体循環路25に介在するポンプ34を駆動し、加熱部25Aに熱媒体を供給して複数のセル10を加熱する。
【0038】
図4は、閾値Tkを13~15℃、15~17℃、17~19℃、21~23℃のそれぞれに設定した場合におけるスタック電圧の経時変化を示すグラフである。閾値Tkを13~15℃に設定した場合、発電開始から時間t21の経過後に急激にスタック電圧が低下した。又、閾値Tkを15~17℃に設定した場合、発電開始から時間t22の経過後に急激にスタック電圧が低下した。これらはいずれも、このタイミングでフラッディングが発生していることを表している。一方、閾値Tkを17~19℃、21~23℃に設定した場合、フラッディングの発生に基づくスタック電圧の急激な低下は見られなかった。このため本実施形態において、閾値Tkは17℃に設定された。又、CPU61は、設定された閾値Tkに基づいて燃料電池1Aを加熱する制御を行った。
【0039】
図5は、スタック電流と、温度計測部52により計測された熱媒体の温度との関係を、閾値Tk(17~19℃(気温9℃/14℃)、20~22℃、21~23℃、22~24℃、24~26℃)毎に示したグラフである。なお、熱媒体の温度は、燃料電池1Aの発電開始からの経過時間が長くなる程高くなるので、グラフの横軸(熱媒体温度)は、燃料電池1Aの発電開始からの経過時間と同義と見做せる。
【0040】
この結果から、閾値Tkを大きい値に設定する程、スタック電流が流れ始めるタイミングが遅延し、且つ、スタック電流の急激な上昇を抑制できることが分かった(矢印Y11)。このことは、閾値Tkを大きい値に設定する程、燃料電池1Aが低温状態で発電して大きなスタック電流が通電することを抑制できることになる。このため、閾値Tkを大きい値に設定する程、フラッディングが発生し難い環境で燃料電池1Aを発電させることができることが分かった。
【0041】
(2)出力電力の制御による対策
フラッディングの発生を抑制する方法の例として、燃料電池システム1から出力される電力を制御する方法がある。CPU61は、燃料電池1Aの複数のセル10の1個当たりの電圧が所定の閾値Vh1未満になった場合、電力調整部44を制御して出力電力を低下させる。一方、CPU61は、燃料電池1Aの複数のセル10のそれぞれの電圧が、閾値Vh1よりも大きい所定の閾値Vh2以上になった場合、電力調整部44を制御して出力電力を増加させる。これによりCPU61は、各セル10の電圧が閾値Vh1よりも小さくならないよう制御し、フラッディングの発生を抑制する。
【0042】
図6は、閾値Vh1を0.60V/cell、0.63V/cell、0.64V/cell、0.66V/cellのそれぞれに設定した場合におけるスタック電圧の経時変化を示すグラフである。閾値Vh1を0.60V/cellに設定した場合、発電開始から時間t41の経過後に急激にスタック電圧が低下した。閾値Vh1を0.63V/cellに設定した場合、発電開始から時間t42の経過後に急激にスタック電圧が低下した。閾値Vh1を0.64V/cellに設定した場合、発電開始から時間t43の経過後に急激にスタック電圧が低下した。なお図6では、サンプリング周期の問題で急激なスタック電圧の低下は表れていない。これらはいずれも、このタイミングでフラッディングが発生していることを表している。一方、閾値Vh1を0.66V/cellに設定した場合、フラッディングの発生に基づくスタック電圧の急激な低下は見られなかった。このため本実施形態において、閾値Vh1は0.66V/cellに設定され、閾値Vh2は閾値Vh1よりも大きい0.68V/cellに設定された。又、CPU61は、設定された閾値Vh1、Vh2に基づいて出力電力の制御を行った。
【0043】
なお、各セル10の電圧が閾値Vh2以上となった場合において出力電力を増加させる場合の程度が大きいと、急激なスタック電流の増加によりフラッディングが発生しやすくなる。以下、出力電力を増加させる場合の程度を、「増加幅Wu」という。
【0044】
図7は、スタック電流と、温度計測部52により計測された熱媒体の温度との関係を、出力電力の増加幅Wu(1W/2sec、2W/2sec、5W/2sec)毎に示したグラフである。なお、図5の場合と同様、グラフの横軸(熱媒体温度)は、燃料電池1Aの発電開始からの経過時間と同義と見做せる。
【0045】
この結果から、増加幅Wuを小さい値に設定する程、スタック電流が流れ始めるタイミングが遅延し、且つ、スタック電流の急激な増加を抑制できることが分かった(矢印Y12)。このことは、増加幅Wuを小さい値に設定する程、燃料電池1Aが低温状態で発電して大きなスタック電流が通電することを抑制できることになる。このため、増加幅Wuを小さい値に設定する程、フラッディングが発生し難い環境で燃料電池1Aを発電させることができることが分かった。本実施形態において、増加幅Wuは1Wに設定された。
【0046】
(3)発電開始時における空気の供給量の調節による対策
燃料電池システム1は、燃料電池1Aの発電を開始する場合、空気供給部1Cにより各セル10のカソード極12Aに大量の空気を供給し、カソード極12Aに付着した水を吹き飛ばすことによりカソード極12Aから水を除去する。より詳細には、CPU61は、燃料電池1Aの発電を開始する直前から、温度計測部52により計測した熱媒体の温度が所定の閾値Th以上となるまでの間、空気の供給量を、通常の発電に必要な空気の供給量の2倍とする。以下、通常の発電に必要な空気の供給量を、「第2供給量Q2」といい、第2供給量の2倍の供給量を、「第1供給量Q1」という。本実施形態において、閾値Thは37.5℃に設定された。
【0047】
図8は、上記のように空気の供給量を調節した場合における、スタック電圧及び出力電力の経時変化を示すグラフである。又、発電開始から時間t61の経過後、電力調整部44により、接続端子19からの電力の供給が可能な状態に切り替えられている。時間t61の経過後、発電開始から時間t62が経過するまでの間、第1供給量Q1の空気が供給された状態でスタック電圧及び出力電力は安定化しており、フラッディングの発生は抑制されている。
【0048】
(4)熱媒体の温度上昇後における空気の供給量の調節による対策
図8に示すように、発電開始から時間t62が経過するまでの間、温度計測部52により計測した熱媒体の温度は、32.9℃から徐々に上昇する。そして、時間t62が経過した時点で、温度計測部52により計測した熱媒体の温度は閾値Thに達する。このときCPU61は、空気供給部1Cにより各セル10のカソード極12Aに供給される空気の供給量が第1供給量Q1から第2供給量Q2まで急激に低下するよう制御する。この場合、空気の供給量の急激な低下に伴い、スタック電圧が一時的に9.55Vまで低下する(サンプルP1参照)。スタック電圧が一時的に9.55Vまで低下すると、燃料電池システム1からの出力電力が不安定となるため好ましくない。
【0049】
このためCPU61は、空気の供給量を、第1供給量Q1から第2供給量Q2まで段階的に低下させる。図9では、発電開始から時間t71が経過した時点で、温度計測部52により計測した熱媒体の温度が閾値Thに達している。又、各セル10のカソード極12Aに供給される空気の供給量は、発電開始から時間t72が経過するまでの間で第1供給量Q1から第2供給量Q2まで段階的に低下している。
【0050】
この場合、空気の供給量の低下に伴いスタック電圧は一時的に10.2Vまで低下する(サンプルP2参照)。この値は、図8の場合(サンプルP1、9.55V)よりも大きな値となっている。このため、空気の供給量を段階的に低下させることにより、図8の場合と比べて、燃料電池システム1の出力電力を安定化させることができることが分かった。
【0051】
(1)~(4)による効果
図10は、上記の(1)~(4)の対策を実行する前と後とのそれぞれの場合におけるスタック電圧の経時変化を示すグラフである。対策前の場合、発電開始から時間t81の経過後に、スタック電圧が急激に低下しており、このタイミングでフラッディングが発生していることを表している。一方、対策後の場合、スタック電圧の急激な低下は見られず、スタック電圧は安定的に推移した。従って、対策(1)~(4)を実行することにより、フラッディングの発生を抑制できることが分かった。
【0052】
<メイン処理>
図11図13を参照し、メイン処理について説明する。CPU61は、制御装置6の電源を投入する操作が行われた場合、記憶装置62に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、メイン処理を開始する。なお、メイン処理の開始時において、アノード極11Aに対する水素の供給は停止され、且つ、カソード極12Aに対する空気の供給は停止されている。又、電力調整部44は、燃料電池システム1の出力電力を0Wとする。燃料電池システム1の接続端子19に外部負荷Ldが接続される。
【0053】
図11に示すように、CPU61は、燃料電池1Aの発電を開始させる為の入力操作を、入力部63を介して検出したか判定する(S11)。CPU61は、入力操作を検出しない場合(S11:NO)、処理をS11に戻し、入力操作を継続して待ち受ける。CPU61は、燃料電池1Aの発電を開始させる為の入力操作を、入力部63を介して検出した場合(S11:YES)、処理をS13に進める。
【0054】
CPU61は、燃料供給部1Bのポンプ31及び水素供給弁21Aを制御し、アノード極11Aへの水素の供給を開始する。CPU61は、水素の供給量が初期供給量Riとなるように水素供給弁21Aを制御する。なお、初期供給量Riは、後述するS15の処理に伴い燃料電池1Aの発電を開始させる為に必要な水素の量であって、燃料電池1Aに水素を充填させる為に必要な量である。又、初期供給量Riは、アノード極11Aに付着した水を水素により吹き飛ばして除去することが可能な量である。具体的には、初期供給量Riは、パージ1回につき1ノルマルリットル(1NL/回)である。
【0055】
CPU61は、空気供給部1Cのポンプ32及び空気供給弁23Aを制御し、カソード極12Aへの空気の供給を開始する(S13)。CPU61は、空気の供給量が初期供給量Qiとなるように空気供給弁23Aを制御する。なお、初期供給量Qiは、後述するS15の処理に伴い燃料電池1Aの発電を開始させる為に必要な空気の量であって、燃料電池1Aに空気を充填させる為に必要な量である。又、初期供給量Qiは、カソード極12Aに付着した水を空気により吹き飛ばして除去することが可能な量である。
【0056】
これにより、カソード極12Aに付着した水は吹き飛ばされ、燃料電池システム1から外部負荷Ldに対する電力の供給が開始される前にカソード極12Aから除去される。又、燃料電池1Aは、燃料供給部1Bによりアノード極11Aに水素が供給され、空気供給部1Cによりカソード極12Aに空気が供給されることにより、発電を開始する。燃料電池1Aの出力端子18間にスタック電圧が印加される。
【0057】
CPU61は、電力調整部44を制御し、燃料電池システム1の出力電力を0Wから初期電力Wiに切り替える(S15)。これにより、燃料電池システム1の接続端子19に接続した外部負荷Ldに対する電力の供給が開始される。
【0058】
CPU61は発電処理(図12参照)を開始させ(S17)、次いで出力制御処理を開始させる(S19)。発電処理及び出力制御処理は、メイン処理と並行して実行される。
【0059】
CPU61は、燃料電池1Aの発電を終了させる為の入力操作を、入力部63を介して検出したか判定する(S21)。CPU61は、入力操作を検出しない場合(S21:NO)、処理をS21に戻す。この間、発電処理及び出力制御処理が継続される。
【0060】
図12を参照し、発電処理について説明する。CPU61は、燃料電池1Aが発電している状態で、アノード極11Aに対する水素の供給量が発電供給量Rvとなるように水素供給弁21Aを制御する(S41)水素の発電供給量Rvは、通常の発電に必要な水素の供給量である。発電供給量Rvは、初期供給量Ri以上である(Rv≧Ri)。又、CPU61は、カソード極12Aに対する空気の供給量が第1供給量Q1となるように空気供給弁23Aを制御する(S41)。第1供給量Q1は、初期供給量Qiと略同じ量である。
【0061】
CPU61は、温度計測部52により計測された熱媒体の温度を取得する。CPU61は、取得した熱媒体の温度が閾値Th以上か判定する(S43)。CPU61は、熱媒体の温度が閾値Th未満であると判定した場合(S43:NO)、処理をS41に戻す。CPU61は、アノード極11Aに対する水素の供給量が発電供給量Rvとなるように水素供給弁21Aを継続して制御する(S41)。又、CPU61は、カソード極12Aに対する空気の供給量が第1供給量Q1となるように空気供給弁23Aを継続して制御する(S41)。
【0062】
なお、燃料電池1Aの発電が継続されることにより燃料電池1Aの温度は上昇し、熱媒体の温度も上昇する。CPU61は、熱媒体の温度が閾値Th以上であると判定した場合(S43:YES)、処理をS45に進める。CPU61は、空気供給弁23Aを制御し、カソード極12Aに対する空気の供給量を、第1供給量Q1から第2供給量Q2まで、1秒ごとにステップ量qずつ段階的に低下させる(S45)。なお、第2供給量Q2は、第1供給量Q1の1/2の値である。つまり、カソード極12Aに対する空気の供給量は、段階的に低下することで、最終的に第1供給量Q1の半分になる。
【0063】
CPU61は、カソード極12Aに対する空気の供給量が第2供給量Q2まで低下した後、温度計測部52により計測された熱媒体の温度を取得する。CPU61は、取得した熱媒体の温度が閾値Th以上か判定する(S47)。CPU61は、熱媒体の温度が閾値Th以上であると判定した場合(S47:YES)、アノード極11Aに対する水素の供給量が発電供給量Rvとなるように水素供給弁21Aを継続して制御する(S49)。又、CPU61は、カソード極12Aに対する空気の供給量が第2供給量Q2となるように空気供給弁23Aを継続して制御する(S49)。
【0064】
CPU61は、カソード極12Aに対する空気の供給量が第2供給量Q2まで低下した後、熱媒体の温度が閾値Th未満であると判定した場合(S47:NO)、処理をS41に戻す。CPU61は、アノード極11Aに対する水素の供給量が発電供給量Rvとなるように水素供給弁21Aを継続して制御する(S41)。又、CPU61は、カソード極12Aに対する空気の供給量が第1供給量Q1となるように空気供給弁23Aを制御する(S41)。これにより、カソード極12Aに対する空気の供給量は増加し、第2供給量Q2の2倍になる。
【0065】
図13を参照し、出力制御処理について説明する。CPU61は、電圧計測部51により計測されたスタック電圧を取得する。CPU61は、取得したスタック電圧に基づき、複数のセル10の1個当たりの電圧(以下、「セル電圧」という。)を特定する。CPU61は、特定したセル電圧が閾値Vh1未満であるか判定する(S61)。CPU61は、セル電圧が閾値Vh1未満であると判定した場合(S61:YES)、出力電力が、現時点での出力電力から所定の電力(以下、「減少幅Wd」という。)を減算した値となるよう電力調整部44を制御する(S63)。本実施形態において、減少幅Wdは10Wである。CPU61は、処理をS69に進める。
【0066】
CPU61は、特定したセル電圧が閾値Vh1以上であると判定した場合(S61:NO)、特定したセル電圧が閾値Vh2以上であるか判定する(S65)。CPU61は、特定したセル電圧が閾値Vh2以上であると判定した場合(S65:YES)、出力電力が、現時点での出力電力に増加幅Wuを加算した値となるよう電力調整部44を制御する(S67)。なお、本実施形態において増加幅Wuは1Wに設定されているため、増加幅Wuは減少幅Wd(10W)の1/10となる。CPU61は、処理をS69に進める。
【0067】
CPU61は、特定したセル電圧が閾値Vh2未満であると判定した場合(S65:NO)、現時点での出力電力を変更することなく、処理をS69に進める。
【0068】
CPU61は、S61~S67の処理が完了してから2秒経過したか判定する(S69)。CPU61は、S61~S67の処理が完了してから2秒経過していないと判定した場合(S69:NO)、処理をS69に戻す。CPU61は、S61~S67の処理が完了してから2秒経過したと判定した場合(S69:YES)、処理をS61に戻す。
【0069】
図11に示すように、CPU61は、燃料電池1Aの発電を終了させる為の入力操作を検出した場合(S21:YES)、S17の処理によって開始した発電処理を終了させ(S23)、S19の処理によって開始した出力制御処理を終了させる(S25)。
【0070】
CPU61は、電力調整部44を制御し、燃料電池システム1の出力電力を0Wに切り替える(S27)。これにより、燃料電池システム1の接続端子19に接続された外部負荷Ldに対する電力の供給は停止される。CPU61は、燃料供給部1Bのポンプ31及び水素供給弁21Aを制御し、アノード極11Aへの水素の供給を停止させる(S29)。CPU61は、空気供給部1Cのポンプ32及び空気供給弁23Aを制御し、カソード極12Aへの空気の供給を停止させる(S29)。これにより、燃料電池1Aの発電は停止される。CPU61は、メイン処理を終了させる。
【0071】
<本実施形態の作用、効果>
燃料電池システム1は、燃料電池1Aの発電開始後、燃料電池1Aを加熱する熱媒体の温度が閾値Th未満である場合(S43:NO)、カソード極12Aに対する空気の供給量を第1供給量Q1とする(S41)。第1供給量Q1は、第2供給量Q2の2倍の値である。大量の空気がカソード極12Aに供給されることにより、カソード極12Aに付着した水は吹き飛ばされカソード極12Aから除去される。従って燃料電池システム1は、フラッディングが発生しやすい低温環境の場合において、大量の空気を供給することによってフラッディングの発生を抑制できる。
【0072】
一方、燃料電池システム1は、カソード極12Aに対する空気の供給量が第1供給量Q1である状態で、熱媒体の温度が閾値Th以上になった場合(S43:YES)、カソード極12Aに対する空気の供給量を、第1供給量Q1から第2供給量Q2まで段階的に低下させる(S45)。第2供給量Q2は、第1供給量Q1の1/2の値である。これにより燃料電池システム1は、通常の発電に必要な第2供給量Q2となるように空気の供給量を変化させる過程で、空気の供給量の低下に応じて燃料電池1Aの電圧が急落し発電が停止することを抑制できる。
【0073】
発電処理(図12参照)の開始直後、S41の処理によって第1供給量Q1の空気がカソード極12Aに供給される。つまり、燃料電池1Aの発電の開始直後は、熱媒体の温度に関わらず、第1供給量Q1の空気がカソード極12Aに供給されることになる。これにより燃料電池システム1は、燃料電池1Aの発電開始時においてカソード極12Aに付着した水を空気で吹き飛ばし、カソード極12Aから水を除去できる。このため燃料電池システム1は、水がカソード極12Aに付着することに伴いフラッディングが発生して発電効率が低下することを、燃料電池1Aによる発電開始時から抑制できる。
【0074】
空気供給部1Cの空気供給弁23Aは、カソード極12Aに対する空気の供給量を、1秒ごとにステップ量qずつ段階的に第2供給量Q2まで低下させる。燃料電池システム1は、空気供給弁23Aを用いることで空気の供給量をステップ量qずつ変化させることにより、空気の供給量の制御を簡易な構成で精度良く行うことができる。又、燃料電池システム1は、1秒ずつ段階的に空気の供給量を低下させることにより、カソード極12Aに対する空気の供給量の時間変化を一定にできる。以上により、燃料電池システム1は、空気の供給量の低下に応じて燃料電池1Aの電圧が急落し発電が停止することを適切に抑制できる。
【0075】
燃料電池システム1は、スタック電圧が閾値Vh1未満の場合(S61:YES)、出力電力を減少幅Wd分減少させる(S63)。これにより燃料電池システム1は、燃料電池1Aのスタック電圧が低い状態で大きな電力が外部負荷Ldに供給されてフラッディングが生じることを抑制できる。又、燃料電池システム1は、スタック電圧が閾値Vh2よりも大きい場合、出力電力を増加幅Wu分増加させる(S67)。これにより燃料電池システム1は、燃料電池1Aの発電能力を効率良く利用して外部負荷Ldに電力を供給できる。
【0076】
なお、燃料電池システム1は、2つの閾値(閾値Vh1、Vh2)により出力電力の増減の要否を判断することによって、スタック電圧が閾値Vh1以上閾値Vh2未満の場合における出力電力を安定化させることができる。又、減少幅Wdと比べて増加幅Wuを小さくすることにより、燃料電池システム1は、出力電力が急激に増加することによりフラッディングが生じることを抑制できる。更に、減少幅Wdを増加幅Wuの10倍とすることにより、燃料電池システム1は、スタック電圧が閾値Vh1未満の場合において出力電力を急速に減少させる。従って、燃料電池システム1は、フラッディングが生じる可能性が高い状態を、迅速に解消できる。
【0077】
<変形例>
本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更が可能である。燃料電池1Aは、水素以外の物質が燃料供給部1Bにより供給されることで発電してもよい。例えば燃料供給部1Bは、メタノールを供給することにより燃料電池1Aを発電してもよい。温度計測部52は、加熱部25Aを流れる熱媒体の温度を計測してもよい。
【0078】
燃料電池システム1には、水素供給路21と水素排出路22とを連結する循環路が更に設けられてもよい。循環路は、水素排出路22を介して排出される水素の一部を水素供給路21に向けて流すことにより、水素を循環させてもよい。水素供給源41から供給される水素の元圧が十分高い場合は、ポンプ31は設けられなくてもよい。
【0079】
燃料電池システム1は、カソード極12Aに付着した付着物のうち、カソード極12Aに対して科学的に結合した付着物(有機ガス、NOx・SOx等)を除く付着物(埃、ごみ等)を、空気供給部1Cによる空気の供給によって除去してもよい。
【0080】
上記実施形態における閾値Tk、Th、Vh1、Vh2の具体例は一例であり、他の値が適宜設定されてもよい。
【0081】
燃料電池システム1は、カソード極12Aへの空気の供給を開始して燃料電池1Aの発電を開始する場合(S13)、空気の供給量が第1供給量Q1となるよう制御してもよい。
【0082】
燃料電池システム1は、燃料電池1Aの発電直後、熱媒体の温度が閾値Th以上の場合には、空気供給部1Cによる空気の供給量を、初期供給量Qiから第2供給量Q2まで段階的に低下させてもよい。即ち、燃料電池システム1は、燃料電池1Aの発電直後、空気供給部1Cによる空気の供給量を常に第1供給量Q1としなくてもよい。
【0083】
燃料電池システム1は、S45の処理を行う場合において、カソード極12Aに供給する空気を、第1供給量Q1の所定の割合ずつ第2供給量Q2まで段階的に低下させてもよい。例えば割合として、0.4%が設定されてもよい。この場合、Q1×0.004の算出結果が、割合量Uとして算出されてもよい。燃料電池システム1は、S45の処理を行う場合、空気供給部1Cによる空気の供給量を、第1供給量Q1から割合量Uずつ段階的に低下させてもよい。これにより燃料電池システム1は、カソード極12Aに対する空気の供給量を、一定の割合で段階的に低下させることができるので、空気の供給量の低下に応じてスタックの電圧が急落し発電が停止することを適切に抑制できる。
【0084】
燃料電池システム1は、S45の処理を行う場合において、カソード極12Aに供給する空気を第1供給量Q1から第2供給量Q2まで段階的に低下させる場合のステップ量qを可変としてもよい。つまり、燃料電池システム1は、空気の供給量を、それぞれ異なるステップ量ずつ段階的に低下させてもよい。燃料電池システム1は、空気の供給量をステップ量qずつ段階的に低下させる場合の周期を、1秒以外としてもよい。例えば、この周期は2秒でもよい。又、燃料電池システム1は、カソード極12Aに対する空気の供給量を、第1供給量Q1から第2供給量Q2まで線形変化させてもよい。つまり、カソード極12Aに対する空気の供給量の変化は、段階的でなくてもよい。
【0085】
燃料電池システム1は、S13の処理によって燃料電池1Aの発電が開始される前に、アノード極11Aに対する水素の供給を行わず、カソード極12Aに対する空気の供給のみを行ってもよい。即ち燃料電池システム1は、燃料電池1Aの発電が開始される前に、空気供給部1Cによりカソード極12Aに空気を供給し、カソード極12Aに付着した水を除去してもよい。これにより、燃料電池システム1は、カソード極12Aに付着した水を、燃料電池1Aの発電開始前に除去できる。このため燃料電池システム1は、水がカソード極12Aに付着してフラッディングが発生することに伴う発電効率の低下を、燃料電池1Aの発電開始前に抑制できる。
【0086】
第1供給量Q1と第2供給量Q2との関係は、上記実施形態に限定されない。第1供給量Q1は、第2供給量Q2よりも大きいという条件を満たす範囲で、適宜変更されてもよい。例えば第1供給量Q1は、第2供給量Q2の1.5倍、3倍等でもよい。
【0087】
燃料電池システム1は、出力制御処理において、セル電圧が閾値Vh1以上の場合(S61:NO)、セル電圧と閾値Vh2との大小関係に関わらず、出力電力を増加させる処理を実行してもよい。出力電圧の減少幅Wd及び増加幅Wuのそれぞれの値は、上記実施形態に限定されない。それぞれの値は、減少幅Wdが増加幅Wuよりも大きいという条件を満たす範囲で、適宜変更されてもよい。例えば、減少幅Wdは増加幅Wuの10倍より大きくてもよい。また、例えば、減少幅Wdが10Wに設定され、増加幅Wuが5Wに設定されてもよい。又、減少幅Wdが増加幅Wuよりも小さくてもよい。燃料電池システム1は、出力制御処理を行わなくてもよい。
【0088】
<その他>
S17の処理を行うCPU61は、本発明の「発電処理」の一例である。S41の処理を行うCPU61は、本発明の「第1供給処理」「開始時供給処理」の一例である。S45、S49の処理を行うCPU61は、本発明の「第2供給処理」の一例である。S45の処理を行うCPU61は、本発明の「段階供給処理」の一例である。S49の処理を行うCPU61は、本発明の「継続供給処理」の一例である。S13の処理を行うCPU61は、本発明の「発電前供給処理」の一例である。S63の処理を行うCPU61は、本発明の「電力減少処理」の一例である。S67の処理を行うCPU61は、本発明の「電力増加処理」の一例である。閾値Thは、本発明の「閾値温度」の一例である。閾値Vh1は、本発明の「第1閾値電圧」の一例である。閾値Vh2は、本発明の「第2閾値電圧」の一例である。
【符号の説明】
【0089】
1 :燃料電池システム
1A :燃料電池
1B :燃料供給部
1C :空気供給部
5 :温度計測部
6 :制御装置
10 :セル
11A :アノード極
12A :カソード極
52 :温度計測部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13