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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086661
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】放射線被ばく治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20240620BHJP
   A61P 39/00 20060101ALI20240620BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240620BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240620BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240620BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61P39/00 ZNA
A61P43/00 101
A61K35/12
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023210855
(22)【出願日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2022201663
(32)【優先日】2022-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 平
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 幾郎
【テーマコード(参考)】
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZC37
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB35
4C087BB63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZC37
(57)【要約】      (修正有)
【課題】放射線被ばく治療剤を提供する。
【解決手段】有効成分として治療有効量の細胞外小胞に含まれるマイクロRNAを含む、放射線被ばく治療剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として治療有効量の細胞外小胞に含まれるマイクロRNAを含む、放射線被ばく治療剤。
【請求項2】
前記細胞外小胞が、ロミプロスチムを投与した放射線被ばく露個体から採取した細胞外小胞である、請求項1に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項3】
前記細胞外小胞がエクソソームである、請求項1に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項4】
対象が1回以上の放射線量を受けた後に前記治療有効量の細胞外小胞が1回以上投与される、請求項1に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項5】
前記対象が、哺乳動物である、請求項4に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項6】
前記対象が、ヒトである、請求項4に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項7】
前記マイクロRNAが、miR-144-5p、miR-211-3p、miR-296-5p、miR-3472、miR-3547-5p、miR-3620-5p、miR-6354、miR-6360、miR-6937-5p、miR-7047-5p、miR-709、miR-7216-5p、及びmiR-7686-5pからなる群から選ばれる1種以上のマイクロRNAである、請求項1~6のいずれか1項に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項8】
前記マイクロRNAが、miR-144-5pである、請求項7に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項9】
前記放射線被ばくが、急性放射線症候群である、請求項1~8のいずれか1項に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項10】
ロミプロスチムを投与した放射線被ばく露個体から採取した、治療有効量の細胞外小胞を含む、放射線被ばく治療剤。
【請求項11】
前記細胞外小胞がエクソソームである、請求項10に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項12】
対象が1回以上の放射線量を受けた後に前記治療有効量の細胞外小胞が1回以上投与される、請求項10に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項13】
前記対象が、哺乳動物である、請求項12に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項14】
前記対象が、ヒトである、請求項12に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項15】
前記放射線被ばくが、急性放射線症候群である、請求項10~14のいずれか1項に記載の放射線被ばく治療剤。
【請求項16】
有効成分としてmiR-144-5p、miR-211-3p、miR-296-5p、miR-3472、miR-3547-5p、miR-3620-5p、miR-6354、miR-6360、miR-6937-5p、miR-7047-5p、miR-709、miR-7216-5p、及びmiR-7686-5pからなる群から選ばれる1種以上のマイクロRNAを含む、放射線被ばく治療剤。
【請求項17】
有効成分としてmiR-144-5pを含む、放射線被ばく治療剤。
【請求項18】
前記放射線被ばくが、急性放射線症候群である、請求項16または17に記載の放射線被ばく治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線被ばく治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
核テロや原子力災害において想定される高線量放射線被ばくでは、生命を脅かす急性放射線症候群((acute radiation syndrome、(ARS))を発症させる可能性がある。また、造血器系や消化器系など個体の生存に重要な臓器に重篤な障害が起きた場合、個体死に繋がる可能性がある。このため、放射線誘発性の正常組織毒性を改善するための治療戦略が非常に重要となる。
【0003】
慢性特発性血小板減少性紫斑病の治療薬として2011年に日本で承認され、さらに2021年1月に米国食品医薬品局でARS緩和剤として承認されたthrombopoietin (TPO)受容体作動薬ロミプロスチム(romiplostim:RP)の放射線緩和剤としての有効性がいくつか報告されており、被ばく後単回投与で85%、3日間投与で100%と被ばく個体の致死回避効果が見出されている。
【0004】
放射線被ばく個体へのRP投与によって、骨髄、脾臓、肺、肝臓など個体の生存に重要な臓器の機能障害からの回復が起こることはわかっているが、血中半減期が数十時間しかないRPがなぜ被ばく後数回の投与で個体に完全な致死回避効果をもたらすことができるのかは不明であった。
【0005】
エクソソームに代表される細胞外小胞はタンパク、脂質、核酸などの生理活性をもつ物質を内包し、局所だけでなく、血液中を巡って、遠隔組織の細胞にも情報運搬体としての役割を果たしている。RPによる生存個体には放射線障害軽減情報を反映させた細胞外小胞が存在し、RPの効果を継いで、被ばく個体の障害軽減や救命効果に二次的に寄与している可能性が考えられる。
【0006】
免疫細胞を含む多種多様な細胞は、エンドソーム及び細胞膜由来の脂質二重膜小胞を放出し、これらはそれぞれエクソソーム及びマイクロベシクルと呼ばれる。
【0007】
エクソソームは、細胞周囲の環境変化やストレス等に伴って分泌され、包含する核酸やタンパク質等の情報を到達先の細胞に伝達することで、環境のコンディショニングや細胞間情報伝達ツールとしての役割を担っている。
【0008】
エクソソームを含む医薬組成物がいくつか報告されている。例えば、特許文献1は、 動員された幹細胞から誘導されたエクソソームと、1以上の医薬的に許容可能な担体、アジュバント、又はビヒクルと、を含む医薬配合物を開示している。特許文献2は、細胞外小胞、特にヒトカーディオスフェアまたはカーディオスフェア由来細胞から得られるエクソソームを用いて、皮膚炎、特に放射線誘発皮膚炎を治療する方法及び皮膚炎、特に放射線誘発皮膚炎の治療で使用するための、細胞外小胞、特にヒトカーディオスフェアまたはカーディオスフェア由来細胞から得られるエクソソームを含む配合物を開示している。特許文献3は、間葉系幹細胞(MSC)集団、前記MSC集団から分泌される細胞外小胞、及びこれらの組み合わせを含む医薬組成物、ならびに疾患または障害の治療でのこれらの使用方法を開示している。
【0009】
特許文献4は、有効成分としてロミプロスチム又はエルトロンボパグ(eltrombopag)を含む放射線被ばく治療剤を開示している。
【0010】
放射線被ばく治療剤としては、ロミプロスチム(RP)、顆粒状コロニー刺激因子(G―CSF)や顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を含む造血因子が知られている。米国食品医薬品局が承認する4種類の放射線障害軽減治療薬は、RPを含めすべてが造血因子であるが、これまで体内で産生される生理活性因子による効果を実証した報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2017-510582号公報
【特許文献2】特開2019-512514号公報
【特許文献3】特開2019-535691号公報
【特許文献4】特許第6150374号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、ロミプロスチムによる致死線量放射線ばく露個体の致死回避効果に関し、生存個体で間葉系幹細胞が増加することから放射線障害軽減情報を反映した細胞外小胞並びにその内在分子に着目し、6.5~7Gyの致死線量X線全身照射したマウスにロミプロスチムを腹腔投与し、内在分子の同定には細胞外小胞からマイクロRNAを含むTotal RNAを抽出しマイクロアレイ解析を行った。その結果、本発明者らは、内在分子として miR-144-5p及び miR-6354が被ばく個体救命の鍵となる可能性が示唆されたことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本開示は、以下の特徴を包含する。
〔1〕
有効成分として治療有効量の細胞外小胞に含まれるマイクロRNAを含む、放射線被ばく治療剤。
〔2〕
前記細胞外小胞が、ロミプロスチムを投与した放射線被ばく露個体から採取した細胞外小胞である、〔1〕に記載の放射線被ばく治療剤。
〔3〕
前記細胞外小胞がエクソソームである、〔1〕に記載の放射線被ばく治療剤。
〔4〕
対象が1回以上の放射線量を受けた後に前記治療有効量の細胞外小胞が1回以上投与される、〔1〕に記載の放射線被ばく治療剤。
〔5〕
前記対象が、哺乳動物である、〔4〕に記載の放射線被ばく治療剤。
〔6〕
前記対象が、ヒトである、〔4〕に記載の放射線被ばく治療剤。
〔7〕
前記マイクロRNAが、miR-144-5p、miR-211-3p、miR-296-5p、miR-3472、miR-3547-5p、miR-3620-5p、miR-6354、miR-6360、miR-6937-5p、miR-7047-5p、miR-709、miR-7216-5p、及びmiR-7686-5pからなる群から選ばれる1種以上のマイクロRNAである、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の放射線被ばく治療剤。
〔8〕
前記マイクロRNAが、miR-144-5pである、〔7〕に記載の放射線被ばく治療剤。
〔9〕
前記放射線被ばくが、急性放射線症候群である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の放射線被ばく治療剤。
〔10〕
ロミプロスチムを投与した放射線被ばく露個体から採取した、治療有効量の細胞外小胞を含む、放射線被ばく治療剤。
〔11〕
前記細胞外小胞がエクソソームである、〔10〕に記載の放射線被ばく治療剤。
〔12〕
対象が1回以上の放射線量を受けた後に前記治療有効量の細胞外小胞が1回以上投与される、〔10〕に記載の放射線被ばく治療剤。
〔13〕
前記対象が、哺乳動物である、〔12〕に記載の放射線被ばく治療剤。
〔14〕
前記対象が、ヒトである、〔12〕に記載の放射線被ばく治療剤。
〔15〕
前記放射線被ばくが、急性放射線症候群である、〔10〕~〔14〕のいずれか1項に記載の放射線被ばく治療剤。
〔16〕
有効成分としてmiR-144-5p、miR-211-3p、miR-296-5p、miR-3472、miR-3547-5p、miR-3620-5p、miR-6354、miR-6360、miR-6937-5p、miR-7047-5p、miR-709、miR-7216-5p、及びmiR-7686-5pからなる群から選ばれる1種以上のマイクロRNAを含む、放射線被ばく治療剤。
〔17〕
有効成分としてmiR-144-5pを含む、放射線被ばく治療剤。
〔18〕
前記放射線被ばくが、急性放射線症候群である、〔16〕または〔17〕に記載の放射線被ばく治療剤。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、本開示のロミプロスチムを投与した放射線被ばく露個体から採取した、治療有効量の細胞外小胞を含む、放射線被ばく治療剤を被ばく個体に投与することにより、被ばく個体の生存率を大幅に改善することができた。
【0015】
本開示によれば、本開示のマイクロRNAを含む、放射線被ばく治療剤
を被ばく個体に投与することにより、被ばく個体の生存率を有意に延長することができた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】致死線量放射線ばく露個体にRPを投与し、照射後7日目に回収したエクソソームによる救命効果を示す。
図1B】致死線量放射線ばく露個体にRPを投与し、照射後14日目に回収したエクソソームによる救命効果を示す。
図1C】致死線量放射線ばく露個体にRPを投与し、照射後21日目に回収したエクソソームによる救命効果を示す。
図1D】致死線量放射線ばく露個体にRPを投与し、照射後28日目に回収したエクソソームによる救命効果を示す。
図2A】照射後7日目非照射生食投与群の生存率を示す。
図2B】照射後7日目非照射RP投与群の生存率を示す。
図2C】照射後7日目 TBI生食投与群の生存率を示す。
図2D】照射後7日目 TBI+RP投与群の生存率を示す。
図2E】照射後7日目アミフォスチン事前投与のTBI群の生存率を示す。
図3A】TBI+RP群の細胞外小胞からRNAを抽出し、救命効果をもたらす細胞外小胞の内在分子としてmiRNAを示す。
図3B】TBI生食群の細胞外小胞からRNAを抽出し、救命効果をもたらす細胞外小胞の内在分子としてmiRNAを示す。
図4】Scatter Plotを示す。マイクロRNAプロファイルは、GeneSpring GX14.9ソフトウェア(Agilent)を使用して解析し、本解析における全エンティティ1902種類のマイクロRNAのうち、90%パーセンタイルシフトによる正規化及び発現量や品質情報によるフィルタンリングで145種類まで絞った。その結果、TBI生食群と比較したTBI+RP群のScatter Plotを示し、両群ともに同じような発現をしているmiRNAは中心の対角線上にもしくは近い位置にプロットされ、発現量が変化すれは中心から離れてプロットされる。特に、TBI生食群でのみ、もしくはTBI+RP群でのみ発現がみられるmiRNAが存在する。
図5】ヒートマップを示す。実験方法:マイクロRNAプロファイルは、GeneSpring GX14.9ソフトウェア(Agilent)を使用して解析し、本解析における全エンティティ1902種類のマイクロRNAのうち、90%パーセンタイルシフトによる正規化及び発現量や品質情報によるフィルタンリングで145種類、student’s t-testによる有意差検定にてP値0.05未満を満たしたマイクロRNAで13種類まで絞った。その結果、アレイデータを基にした発現プロファイリングの結果、有意な発現変動を示したmiRNAは13種類と判明した。特にmiR-144-5pはTBI+RP群のエクソソームでのみ、発現が認められ、miR-6354はTBI生食群のエクソソームでのみ、発現が認められた。
図6】候補miRNAsの定量RT―PCR解析による再現性の検証結果を示す。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT―qPCR)によるEVs中mmu-miR-144-5p及びmiR-6354発現解析(n=12~16、student’s t-testP < 0.001)。内在性コントロールは個体差間の変動が最も小さく安定した発現を示したU6 snRNAを採用し、発現レベルはComparative CT法を用いて解析した。その結果、TBI生食群のEVsと比較して、TBI+RP群のEVsにおける有意なmiR-144-5pの発現増加及びmiR-6354の発現減少が認められた。
図7】候補miRNAsの定量RT―PCR解析による再現性の検証結果を示す。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT―qPCR)によるEVs中mmu-miR-144-5p及びmiR-6354発現解析(n=12~16、student’s t-testP < 0.001)。内在性コントロールは個体差間の変動が最も小さく安定した発現を示したU6 snRNAを採用し、発現レベルはComparative CT法を用いて解析した。その結果、TBI+RP群のEVsと比較して、TBI生食群の EVsにおける有意なmiR-6354の発現増加及びmiR-144-5pの発現減少が認められた。
図8】miR-144-5pによる致死線量放射線ばく露マウスの延命効果を示す。C57BL/6JJcl雌マウスにX線6.5Gy全身照射後、miR-144-5pを被ばく後単回(青線、TBI+single-dose miR144)もしくは被ばく後と3日目の2回(赤線、TBI+double-dose miR144)で腹腔内投与した。溶媒コントロールにはアテロコラーゲンを用いた(黒線、TBI+vehicle)。30日間生存率をカプラン・マイヤー法で評価した。その結果、X線照射溶媒投与群(TBI+vehicle)では照射後5日目から個体の死亡が確認され、10日目で全体の50%が死亡し、14日目で全体の87.5%が死亡、30日間生存率は12.5%であった。また、miR-144-5pの被ばく後単回投与(TBI+single-dose miR144)では照射後6日目から個体の死亡が確認され30日間生存率は25%であった。一方で、miR-144-5pの被ばく後及び3日目の2回投与(TBI+double-dose miR144)においても30日間生存率は25%であり、3群間の30日間生存率の比較では統計的有意差は認められなかった。
図9】miR-144-5pによる致死線量放射線ばく露マウスの延命効果を示す。C57BL/6JJcl雌マウスにX線6.5 Gy全身照射後、miR-144-5pを被ばく後単回(青線、TBI+single-dose miR144)もしくは被ばく後と3日目の2回(赤線、TBI+double-dose miR144)で腹腔内投与した。溶媒コントロールにはアテロコラーゲンを用いた(黒線、TBI+vehicle)。死亡個体の生存期間を示している。その結果、X線照射溶媒投与群(TBI+vehicle)では照射後5日目から個体の死亡が確認され、10日目で全体の50%が死亡し、14日目で全体の87.5%が死亡、30日間生存率は12.5%であった。また、miR-144-5pの被ばく後単回投与(TBI+single-dose miR144)では照射後6日目から個体の死亡が確認され30日間生存率は25%であった。一方で、miR-144-5pの被ばく後及び3日目の2回投与(TBI+double-dose miR144)においても30日間生存率は25%であり、3群間の30日間生存率の比較では統計的有意差は認められなかったものの、個体の死亡は照射後21日目から確認されており、被ばく個体の平均生存期間は9.5日から23日まで有意に延長した。
図10】miR-144-5pによる致死線量放射線ばく露個体の救命/延命効果の検証(1)を示す。X線6.5 Gy全身照射後、miR-144-5pをTBI後3日目に単回(〇、TBI+single i.p. miR144-5p)、TBI後3日目と6日目の2回(□、TBI+double i.p. miR144-5p),及びTBI後3日目と6日目と9日目の3回(◇、TBI+triple i.p. miR144-5p)で腹腔内投与した(投与濃度は12 μM /回)。溶媒コントロールにはアテロコラーゲンを用いた(●、TBI+vehicle i.p.)。(A)カプラン・マイヤー法で評価した30日間生存率と(B~E)照射日を基準とした各群個体の体重推移を示している。統計的有意差の検定にはlog-rank testを用いた(各群n=5~8)。
図11】miR-144-5pによる致死線量放射線ばく露個体の救命/延命効果の検証(2)を示す。X線6.5 Gy全身照射後、miR-144-5pをTBI後3日目に単回(〇、TBI+single i.p. miR144-5p)、TBI後3日目と6日目の2回(□、TBI+double i.p. miR144-5p)、及びTBI後3日目と6日目と9日目の3回(◇、TBI+triple i.p. miR144-5p)で腹腔内投与した(投与濃度は6 μM /回)。溶媒コントロールにはアテロコラーゲンを用いた(●、TBI+vehicle i.p.)。(A)カプラン・マイヤー法で評価した30日間生存率と(B~E)照射日を基準とした各群個体の体重推移を示している。統計的有意差の検定にはlog-rank testを用いた(各群n=5~8)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の放射線とは、粒子線及び電磁波の電離放射線を含み、主にα線、β線、γ線、X線、遠紫外線、陽子線、中性子線等を示す。本発明における放射線被ばくとは、電離放射線による被ばくや、放射線療法に伴う被ばく等を示す。本発明における放射線被ばくの対象となる障害としては、例えば、原子力発電所の事故や核爆発による全身性の放射線被ばくに起因する急性放射線症候群又は晩発性放射線障害等、癌治療等の医療目的での放射線照射や放射線被ばく事故等による局所性の放射線被ばくによる急性又は晩発性放射線障害等が挙げられる。これらのうち、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、局所性又は全身性の急性放射線障害の治療に用いることが好ましく、特に骨髄細胞、腸管障害等の増殖性が高い細胞を備える臓器の治療や再生に用いられる。また、本発明における放射線の防護は、このような放射線被ばくや放射線療法に伴う障害の予防又は治療が含まれるが、治療に用いることが好ましい。また、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤の治療対象としては、被ばくによる放射線障害の他に、被ばくに伴う消化管や骨髄等の再生不良等に伴う症状自体を治療するものであってもよい。
【0018】
一部の実施形態において、本開示の細胞外小胞は、エクソソーム、マイクロベシクル、膜粒子、膜小胞、エクソソーム様小胞、エクトソーム、エクトソーム様小胞、エクソベシクル(exovesicle)、エピディディモソーム(epididimosome)、アルゴソーム(argosome)、プロミニノソーム(promininosome)、プロスタソーム、デキソソーム、テキソソーム、アーキオソーム(archeosome)、オンコソーム(oncosome)などである。
【0019】
一部の実施形態において、本開示の細胞外小胞が、ロミプロスチムを投与した放射線被ばく露個体から採取した細胞外小胞である。
【0020】
一部の実施形態において、本開示の対象は、哺乳動物、好ましくはヒト、より好ましくは、放射線治療、例えば癌放射線治療を受けたことがある、受けている、または受けようとしているヒト対象である。
【0021】
一部の実施形態において、本開示の治療有効量の細胞外小胞、例えばエクソソームが、対象が1回以上の放射線量を受けた後に対象に投与される。
【0022】
一部の実施形態において、本開示の治療有効量の細胞外小胞、例えばエクソソームが、例えば、各放射線ばく露後1時間未満に対象に投与される。
【0023】
一部の実施形態において、本開示の治療有効量の細胞外小胞、例えばエクソソームが、例えば、放射線ばく露後1~24時間未満に対象に投与される。
【0024】
一部の実施形態において、本開示の治療有効量の細胞外小胞、例えばエクソソームが、例えば、放射線ばく露後24~48時間未満に対象に投与される。
【0025】
一部の実施形態において、本開示の治療有効量の細胞外小胞、例えばエクソソームが、例えば、対象が1回以上の放射線量を受けた10~14日後に対象に投与される。
【0026】
一部の実施形態において、本開示の治療有効量の細胞外小胞、例えばエクソソームが、例えば最初の放射線ばく露の15~21日後に対象に投与される。
【0027】
一部の実施形態において、本開示の治療有効量の細胞外小胞、例えばエクソソームが、例えば最初の放射線ばく露の1~2週間後に対象に投与される。
【0028】
一部の実施形態において、本開示の治療有効量の細胞外小胞、例えばエクソソームが、例えば最初の放射線ばく露の2~3週間後に対象に投与される。
【0029】
一部の実施形態において、本開示の治療有効量の細胞外小胞、例えばエクソソームが、例えば最初の放射線ばく露の4~8週間後に対象に投与される。
【0030】
一部の実施形態において、本開示の治療有効量の細胞外小胞、例えばエクソソームが、例えば最初の放射線ばく露の1、2、3、4、5、6、7、及び/または8週後に、例えば、連続投与間に7日間隔をあけて、1回以上、対象に投与される。
【0031】
一部の実施形態において、本開示の投与は、皮下注射、経皮注射、皮内注射、局所投与、筋肉内注射、リンパ系組織への注射、リンパ系への注射、全身投与(例えば、経口、静脈内、内部非経口(intraparenteral))などを介する。
【0032】
一部の実施形態において、本開示の細胞外小胞、例えば、エクソソームは、ヒト細胞または動物細胞に由来する。いくつかの実施形態では、細胞外小胞、例えばエクソソームは、カーディオスフェアもしくはCDCから、またはnewt A1細胞株から調製される。いくつかの実施形態では、細胞外小胞、例えばエクソソームは、胚性幹細胞、多能性幹細胞、多機能幹細胞、誘導された多能性幹細胞、出生後幹細胞、成体幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、内皮幹細胞、上皮性幹細胞、神経幹細胞、心臓前駆細胞を含む心臓幹細胞、骨髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、肝幹細胞、末梢血由来幹細胞、臍帯血由来幹細胞、胎盤幹細胞等の再生幹細胞から調製される。
【0033】
一部の実施形態において、本開示の細胞外小胞、例えばエクソソームは、それらを特定の標的部位に向けるように修飾される(例えば、遺伝的にまたはその他の方法で)。例えば、修飾は、いくつかの実施形態では、エクソソーム上での特定の細胞表面マーカーの発現を誘導することを含んでよく、その結果、所望の標的組織上の受容体との特異的相互作用がもたらされる。一実施形態では、エクソソームの天然含有物が除去され、所望の外因性タンパク質及び/または核酸で置換または補充される。
【0034】
一部の実施形態において、本開示の細胞外小胞、例えばエクソソームは、例えば、約15~250nm、約15~205nm、約90~220nm、約30~200nm、約20~150nm、約70~150nm、または約40~100nmの直径を有する。
【0035】
一部の実施形態において、本開示の細胞外小胞、例えばエクソソームを精製して、汚染物質または望ましくない化合物をエクソソームから除去するようにする。
【0036】
一部の実施形態において、本開示の治療有効量の細胞外小胞は、薬学的または生理学的に許容される担体と組み合わせて、治療用の製剤として調製してもよい。「薬学的に許容される」または「生理学的に許容される」という表現は、医薬分野及び獣医学分野において使用が許容されていること、すなわち、許容できない毒性を示すなどの生理的使用に不適な点が認められないことを意味する。当業者であれば、エクソソーム製剤の使用目的によって、選択する担体が異なることは十分に理解できるだろう。一実施形態において、エクソソームは、点滴または注射(例えば、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射または静脈内注射)による投与に適した製剤に調製される。よって、発熱物質を含まない滅菌水溶液(必要に応じて緩衝液または等張液としてもよい)などの生理学的に許容される医療グレードの担体に懸濁した懸濁剤として調製される。使用可能な担体としては、蒸留水(RNA分解酵素及びDNA分解酵素をいずれも含まない)、糖(例えば、ショ糖またはデキストロース)を含有する滅菌溶液、または塩化ナトリウムを含む滅菌生理食塩水(必要に応じて緩衝液としてもよい)が挙げられる。好適な生理食塩水は、様々な濃度の塩化ナトリウムを含んでいてもよく、例えば、通常の濃度の生理食塩水(0.9%)、1/2濃度の生理食塩水(0.45%)、1/4濃度の生理食塩水(0.22%)の他、これらより高濃度(例えば、3%~7%またはそれ以上)の塩化ナトリウムを含む溶液も使用できる。必要に応じて、生理食塩水は、塩化ナトリウム以外の成分、例えば、デキストロースなどの糖を含んでいてもよい。塩化ナトリウム以外の成分を含む生理食塩水としては、例えば、リンゲル液(例えば、乳酸リンゲル液または酢酸リンゲル液)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝生理食塩水(TBS)、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、アール平衡塩類溶液(EBSS)、標準クエン酸生理食塩水(SSC)、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)、ゲイ平衡塩類溶液(GBSS)などが挙げられる。
【0037】
一部の実施形態において、本開示の治療有効量の細胞外小胞は、以下の投与経路に限定されないが、経口、鼻腔内、腸内、局所、舌下、動脈内、髄内、髄腔内、吸入、眼内、経皮、膣内、直腸内などの経路からの投与に適した製剤に調製され、各製剤はそれぞれの投与経路に適した担体を含む。例えば、局所適用するエクソソーム組成物は、適当な担体を配合して調製することができる。局所適用されるクリーム剤、ローション剤及び軟膏剤は、トリグリセリド基剤などの適当な基剤を用いて調製することができる。このようなクリーム剤、ローション剤及び軟膏剤は、界面活性剤をさらに含有していてもよい。好適な噴射剤を用いたエアロゾル製剤を調製することも可能である。また、本発明における組成物には、投与方法に拘わらず、他の補助剤を配合してもよく、例えば、微生物の増殖及び/または長期保管中の分解を防ぐために、抗菌剤、酸化防止剤及びその他の保存剤を本発明における組成物に配合してもよい。
【0038】
一部の実施形態において、本開示は、有効成分としてマイクロRNAを含む、放射線被ばく治療剤を提供する。
【0039】
一部の実施形態において、本開示のマイクロRNAは、miR-144-5p、miR-211-3p、miR-296-5p、miR-3472、miR-3547-5p、miR-3620-5p、miR-6354、miR-6360、miR-6937-5p、miR-7047-5p、miR-709、miR-7216-5p、及びmiR-7686-5pからなる群から選ばれる1種以上のマイクロRNAを含む。
【0040】
一部の実施形態において、本開示のマイクロRNAは、miR-144-5p、miR-3620-5p、miR-6354、及びmiR-7686-5pからなる群から選ばれる1種以上のマイクロRNAを含む。
【0041】
一部の実施形態において、本開示のマイクロRNAは、miR-144-5pを含む。
【0042】
一部の実施形態において、本開示の有効成分としてマイクロRNAを含む、放射線被ばく治療剤は、経口的に使用される剤形であってもよく、非経口的に使用される剤形であってもよい。これらの剤形は、当業者であれば、薬学的に許容される担体及び添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。一部の実施形態において、本開示の医薬組成物は、例えば日本薬局方または米国薬局方(USP)に記載された方法等、既知の方法に従って製造することができる。
【0043】
一部の実施形態において、本開示のマイクロRNAを含有する放射線被ばく治療剤の有効量を、治療を必要とする対象に投与することを含む、放射線被ばくの治療方法を提供する。
【0044】
一部の実施形態において、本開示のマイクロRNAを含有する放射線被ばく治療剤の投与期間は3日間以上、より好ましくは5日間以上であることが好適である。これらの高濃度の投与により、放射線被ばくによる障害臓器を再生する用途に好適に用いることができ、本発明の目的を達成できる。本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤の1回目の投与は、被ばくした細胞内でアポトーシス等の経路が作動する前に行うことが好ましい。このため、具体的には、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、なるべく、被ばく直後に上記量を投与することが好ましい。しかしながら、放射線被ばくの1日以内、好ましくは6時間以内に投与を開始しても、被ばくの程度によるものの、十分な臓器再生と全数生存効果が得られる。投与と投与の間隔は、血中の薬剤濃度が保たれるため、通常1日以上で十分である。しかしながら、放射線被ばくによる治療効果が増強される限り、これに限定されない。
【0045】
一部の実施形態において、本開示のマイクロRNAを含有する放射線被ばく治療剤は、治療に際し最も効果的に投与されることが望ましく、注射を行う場合に、1回の投与量及び投与回数は、投与の目的により、さらに対象の年齢、体重、症状及び疾患の重篤度等の種々の条件に応じて適宜選択及び変更することが可能である。なお、投与回数及び期間について、1日1回投与して状態をモニターし、約2~4週間程度は対象の状態を確認し、再度又は繰り返し投与を行うことも可能である。
【0046】
一部の実施形態において、本開示のマイクロRNAを含有する放射線被ばく治療剤は、薬理学的に許容される任意の製剤上許容しうる担体(例えば、生理的食塩水、補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50等を挙げることができるが、それらに限定されない)と共に投与することができる。また、適切な賦形剤等を含んでもよい。
【0047】
一部の実施形態において、本開示のマイクロRNAを含有する放射線被ばく治療剤の投与経路は、特に限定されないが、非経口的に投与することが好ましい。非経口投与としては、例えば、経皮、静脈内、動脈内、皮下、真皮内、筋肉内または腹腔内の投与が挙げられる。この際、1日~数日毎の末梢/脳内注射、又は皮下投与を用いることが好適である。また、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、経口投与のための投与に適した投与形態にて処方され得る。
【0048】
一部の実施形態において、本開示の放射線被ばく治療剤は、他の組成物等と併用することも可能である。また、他の組成物と同時に本発明の組成物を投与してもよく、また間隔を空けて投与してもよいが、その投与順序は特に問わない。たとえば、サイトカインとしてG-CSF及びerythropoietin(EPO )との併用をすることで、より効果的である。
【0049】
また、本開示の実施の形態において、疾患が改善または軽減される期間は特に限定されないが、一時的な改善または軽減であってもよいし、一定期間の改善または軽減であってもよい。
【0050】
また、本開示の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、ヒトを含む各種の動物を治療対象とすることができる。この動物は特に限定されるものではなく、例えば哺乳動物である、ヒト、家畜動物種、野生動物を含む。このため、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、広く動物の治療、家畜の発育等の対象とすることができる。また、疾病の予防や健康増進のため、放射線管理施設内で勤務するヒト等に予備的に投与することもできる。
【0051】
以下に、本開示で使用される略号を記載する。
AMF:Amifostine(アミフォスチン)
ARS:acute radiation syndrome(急性放射線症候群)
EVs:Extracellular Vesicles(細胞外小胞)
RP:romiplostim(ロミプロスチム)TBI:Total Body Irradiation(全身照射)
NSS:normal saline solution(生理食塩水)
以下、実施例により本開示を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0052】
致死線量放射線ばく露個体にRPを投与し、一週間毎に生存個体から血清を回収した(図1A~1D)。本実験では、マクロファージに発現するエクソソームの受容体Tim4に着目して、Tim4の細胞外領域と磁気ビーズを結合させたTim4アフィニティ法による回収法を採用した。Tim4はエクソソーム膜表面のホスファチジルセリンとカルシウムイオン依存的に結合することから、キレート剤で遊離させることで、従来の超遠心法に比べ、高純度なエクソソームを(中性条件下で)インタクトな状態で精製することが可能である。本実験では、Tim4アフィニティ法によるエクソソームの回収を行い、回収量とエクソソームマーカーなどをチェックした後に、別で用意した8週齢マウスに対して致死線量全身ばく露後、一回量10 ~ 10 オーダーとなるように1日1回3日間連続で投与した。その結果、いずれの回収日におけるエクソソームでも高い生存率が得られたが、特に照射後7日目に回収したエクソソームによる救命効果が最も高くなることが判明した(図1A)。
【実施例0053】
照射後7日目に着目した生存率の試験
非照射生食投与群(図2A)、非照射RP投与群(図2B)、TBI生食投与群(図2C)、TBI+RP投与群(図2D)、そして防護剤の比較検討としてアミフォスチン(AMF)事前投与のTBI群、の5群(図2E)を用意し、すべて照射後7日目に個体からエクソソームを回収した。投与条件は実施例1と同様である。試験の結果、TBI+RP群から回収したエクソソーム投与でのみ被ばく個体の生存率が大幅に改善した(図2D)。ARS緩和剤による致死回避個体の血液中には、放射線障害の軽減・再生に寄与する細胞外小胞が存在する可能性が示唆された。
【実施例0054】
miRNAの特定方法
工程1:X線照射後7日目に生存個体をイソフルラン含有エスカイン吸入麻酔液(マイラン製薬株式会社)で処置後、非開胸下の心採血により血液を採取し、室温下で十分に凝固させ、1,200×gで20分間遠心後、その上清を1,200×gで10分間遠心分離した。その後の上清を1%EV-Save細胞外小胞ブロッキング試薬(富士フイルム和光純薬)含有Tris Buffered Saline(TBS、富士フイルム和光純薬)で懸濁した。
工程2:MagCapture Exosome Isolation Kit PS ver2(富士フイルム和光純薬)を用いて、マニュアルに従いエクソソームを精製した。精製手順を簡潔に記載する。マグネットスタンド(富士フイルム和光純薬)を用いてBiotin―Labeled Exosome Captureを
Streptavidin Magnetic Beadsに固定化し、マイクロチューブローテーター(アズワン)を用いてサンプルと1時間反応させた。0.2%Exosome Binding Enhancer含有Wash Bufferを用いて3回洗浄後、1% EV-Save細胞外小胞ブロッキング試薬含有Exosome Elution Bufferを用いてエクソソームを溶出した。溶出後、0.45 μm Ultrafree―MC(メルクミリポア)により濾過処理(12,000×gで4分間)を行い、磁気ビーズを完全に除去した。
工程3:続いて、マイクロRNAエキストラクターSPキット(富士フイルム和光純薬)を用いて、マニュアルに従いエクソソームに含まれるマイクロRNAを抽出した。抽出手順を簡潔に記載する。工程2で精製したサンプルとProtease solution及びLysis solutionを混合し、37℃で30分反応させた。サンプルを付属のカラムに通し、Wash solutionを用いて3回洗浄後、Elution solutionを用いてマイクロRNAを抽出した。
工程4:エクソソームから抽出された30 ngのマイクロRNAは、miRNA Complete Reagent and Hyb kit (Agilent) を使用してシアニン―3 (Cy3) で標識した。Cy3標識マイクロRNAは、Gene Expression Hybridization Kit(Agilent)を用いて、SurePrint G3マウスmiRNAマイクロアレイスライド(8×60K、V21)上のプローブとハイブリダイズした。マイクロアレイスライド上のCy3蛍光の強度と位置は、SureScanマイクロアレイスキャナー(Agilent)で取得し、Feature Extraction ソフトウェアプログラム バージョン10.7を使用して処理した。マイクロRNAプロファイルは、GeneSpring GX14,9ソフトウェア(Agilent)を使用して解析し、本解析における全エンティティ1902種類のマイクロRNAのうち、90%パーセンタイルシフトによる正規化及び発現量や品質情報によるフィルタンリングで145種類、さらに、student’s t-testによる有意差検定にてP値0.05未満を満たしたマイクロRNAが13種類、さらに2倍以上の発現変動を満たしたマイクロRNAが4種類と同定された。
表1 miRNAの配列表
注)★はP値0.05未満かつ2倍以上の発現変動を示した4種類のマイクロRNA

アレイデータを基にした発現プロファイリングの結果、有意な発現変動を示したmiRNAは13種類と判明し、発現量の変化による抽出では4種類のmiRNAまで候補が絞られた。特にmiR-144-5pはTBI+RP群のエクソソームでのみ、発現が認められ、miR-6354はTBI生食群のエクソソームでのみ、発現が認められた。
【実施例0055】
miR-144-5pの作成方法、投与方法
microRNAデータベース(miRBase: https://www.mirbase.org/)の情報を基に、脱保護、脱塩、アニールされた純度95%以上の合成miR-144-5p(miRNA/siRNA for in vivo transfection AteloSiLence(登録商標)を株式会社高研より購入した。合成したmiR-144-5pの配列は、パッセンジャー鎖5’-ggauaucaucauauacuguaagu-3’及びガイド鎖3’-uuccuauaguaguauaugacauuca-5’である。miRNA及びアテロコラーゲン複合体の調製はマニュアルに従い、in vivo siRNA/miRNA transfection kit AteloGene(登録商標) Local & Systemic Useに含まれるsmall interfering RNA bufferにてmiRNA溶液を約40μMで調製し、等量のアテロコラーゲンとともに4℃で20分間ゆっくりと回転させ、10000 rpmで1分間遠心し気泡を除去した。TBI後30分以内に一回、もしくはTBI後30分以内及び3日目にマウス腹腔内に投与し、溶媒コントロールにはアテロコラーゲンを用いた。
【実施例0056】
8週齢の雌C57BL/6JJclマウスに6.5~7Gyの致死線量X線全身照射(Total Body Irradiation:TBI)後、50 μg/kg RPを腹腔投与した。経時的に生存個体から血清を回収しEVsを抽出した後、新たに用意したTBIマウスに生理食塩水(normal saline solution:NSS)で調製したEVs抽出液を腹腔投与し、30日間生存率を評価した。内在分子の同定はEVsからmiRNAを含むTotal RNAを抽出し、Agilent miRNAマイクロアレイ解析を行った。発現プロファイリングはGeneSpring GX14.9 softwareにて実施し、バイオインフォマティクス解析により関連パスウェイ、生物学的機能情報、及び標的遺伝子を予測した。さらにTaqMan MicroRNA assayにより再現性を検証した。
RP投与したTBI個体から経時的にEVsを抽出し、それぞれのEVsの30日間生存率を検証した結果、照射後7日目に回収したEVsで最も高い救命効果が得られた(生存率75%、P = 1.991×10-7)。救命効果をもたらすTBI+RP EVsとその比較対象としてTBI+NSS EVsからTotal RNAを抽出し、GeneSpringを用いたアレイデータ解析の結果、有意な発現変動を示すエンティティの抽出(P < 0.05)では13種類、さらに発現量の変化による抽出(Fold Changes > 2.0)では4種類のmiRNAに候補が絞られた。特にmiR-144-5pはTBI+RP EVsでのみ、発現が認められ、miR-6354はTBI+NSS EVsでのみ、発現が認められた。その再現性検証のため、miR-144-5pとmiR-6354に対して発現定量解析を行ったところ、TBI+RP EVsにおけるmiR-144-5p及びmiR-6354の発現はそれぞれ2.83-及び0.33-fold、TBI+NSS EVsにおけるmiR-144-5p及びmiR-6354の発現はそれぞれ0.36-及び2.56-foldであった(P <0.001)。この試験の結果から、RP投与により致死を回避した個体由来のEVsがTBI個体の生存率を劇的に改善し、その内在分子としてmiR-144-5p及びmiR-6354が被ばく個体救命の鍵となる可能性が示唆された。
【実施例0057】
1.実験動物
実験動物として7週齢の雌C57BL/6JJc1近交系マウスを日本クレア株式会社より購入した。マウスは弘前大学大学院保健学研究科動物飼育施設にて12時間の明/暗周期の下で馴化させ、餌と水は自由摂取で飼育した。本実験におけるマウスの飼育及び実験は、弘前大学動物実験委員会の承認を得て、同委員会が定める弘前大学動物実験に関する規定を厳守して行った。各実験で使用したマウスの匹数はそれぞれの凡例に記載した。
2.放射線照射
馴化した8週齢マウスに対して,X線発生装置(MX-160Labo, MediXtec)を用いて全身照射(total body irradiation; TBI)を行った。照射条件は、管電圧を160 kV、管電流を3mA、フィルタは1.0 mmALにセット、線量率を0.622 Gy/分とし、マウス致死線量である6.5 Gyを採用した。
3.miRNA合成とmiRNA/アテロコラーゲン複合体の投与
microRNAデータベース(miRBase: https://www.mirbase.org/)の情報を基に、脱保護、脱塩、アニールされた純度95%以上の合成miR-144-5p(miRNA/SiRNA for in vivo transfectionAteloSiLence(登録商標))を株式会社高研(東京)より購入した。合成したmiRNAの配列はmiR-144-5p(パッセンジャー鎖5’-ggauaucaucauauacuguaagu-3’,ガイド鎖3’-uuccuauaguaguauaugacauuca-5’)である。miRNAおよびアテロコラーゲン複合体の調製はマニュアルに従い、in vivo SiRNA/miRNA transfection kit AteloGene(登録商標) Local & Systemic Useに含まれるsmall interfering RNA bufferにてmiRNA溶液を調製し、等量のアテロコラーゲンとともに4℃で20分間ゆっくりと回転させ、10000 rpmで1分間遠心し気泡を除去した(Oncotarget. 2017;8(5):7572-7585. doi: 10.18632/oncotarget.13810;BMC Cancer. 2016;16:415. doi: 10.1186/s12885-016-2467-y.)。TBI後3日目の単回、TBI後3日目と6日目の2回、またはTBI後3日目と6日目と9日目の3回(J Immunol. 2013;190(8):3905-3915. doi:10.4049/jimmunol.1200822.)合成miRNAを腹腔内投与し(投与濃度は12 μM /回または6 μM /回)、溶媒コントロールにはアテロコラーゲンを用いた。
4.統計解析
マウス生存率はカプラン・マイヤー法で評価し、統計的有意差の検定にはMantel-CoX (log-rank)testを用いた。統計処理はStatcel 3(オーエムエス出版、埼玉)機能拡張済みEXcel2016ソフトウェア(Microsoft)およびOrigin 7.5 (OriginLab, Notthampton)を用いて解析し、有意水準は5%とした(X線照射溶媒投与群との比較を示す)。
5.結果
RP投与により放射線障害軽減/致死回避した個体から照射後7日目に回収した血清EVsにより致死線量放射線ばく露個体に救命効果がもたらされ、その特異的内在分子としてmiR-144-5pを同定している。さらに、亜致死線量放射線ばく露マウスモデルを用いた予試験では,miR-144-5pのTBI直後と3日目の2回投与で生存期間延長の可能性を見出している。そこで、TBI個体の生存期間延長に寄与しなかったTBI直後の核酸投与を検討から除外し、X線6.5 Gy全身照射マウスに対して、TBI後3日目の単回、TBI後3日目と6日目の2回、またはTBI後3日目と6日目と9日目の3回、miR-144-5pを12 μM /回で腹腔内投与し、30日間生存率と体重推移を指標としてmiR-144-5pがもたらす致死線量放射線ばく露個体の救命効果を評価した(図10)。X線照射溶媒投与群(TBI+vehicle)では照射後9日目から個体の死亡が確認され、11日目で全体の50%が死亡し、13日目には全個体の死亡が確認された。miR-144-5pのTBI後単回投与(TBI +single i.p.miR-144-5p)では照射後7日目から個体の死亡が認められ、13日目で全体の50%が死亡、30日間生存率は25%と向上したものの統計的有意差は認められなかった(P = 0.05421)。miR-144-5pのTBI後2回投与(TBI +double i.p.miR-144-5p)では照射後9日目から個体の死亡が認められ、14日目で全体の50%が死亡、30日間生存率は38%と有意な救命効果が認められた(P = 0.02524)。一方,miR-144-5pのTBI後3回投与(TBI +triple i.p.miR-144-5p)では照射後10日目から個体が死亡し、16日目には全個体の死亡が確認されたものの有意な延命効果が認められた(P = 0.03809)。 miR-144-5p投与により致死線量放射線ばく露個体に対して救命/延命効果の可能性が示唆されたものの、vehicle投与群と比較して早期に個体の死亡が認められたため、投与濃度の追加検討を行った。
X線6.5 Gy全身照射マウスに対して、TBI後3日目の単回、TBI後3日目と6日目の2回、またはTBI後3日目と6日目と9日目の3回、miR-144-5pを6 μM /回で腹腔内投与し、30日間生存率と体重推移を指標としてmiR-144-5pがもたらす致死線量放射線ばく露個体の救命効果を評価した(図11)。miR-144-5pのTBI後単回投与(TBI +single i.p.miR-144-5p)では照射後12日目から個体の死亡が認められ、16日目で全体の50%が死亡、30日目に全個体が死亡したものの統計的に有意な延命効果が認められた(P =0.00183)。miR-144-5pのTBI後2回投与(TBI +double i.p.miR-144-5p)では照射後14日目から個体の死亡が認められ、19日目で全体の50%が死亡、最終的な30日間生存率は50%と有意な救命効果が認められた(P = 0.00110)。一方、miR-144-5pのTBI後3回投与(TBI +triple i.p.miR-144-5p)でも30日間生存率が25%と有意に改善し(P= 0.00242)、すべての群でmiR-144-5p投与による致死線量放射線ばく露個体の救命/延命効果の可能性が示唆された。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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