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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086677
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】焼却灰の処理剤およびその処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240620BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20240620BHJP
   B09B 101/30 20220101ALN20240620BHJP
【FI】
C09K3/00 S
B09B3/70 ZAB
B09B101:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023211587
(22)【出願日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2022200720
(32)【優先日】2022-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522489705
【氏名又は名称】有限会社HARTS
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正昭
(72)【発明者】
【氏名】武本 行正
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】角 忠治
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004AB08
4D004BA02
4D004CA34
4D004CA35
4D004CB44
4D004CC03
4D004CC11
4D004CC12
4D004DA01
4D004DA02
4D004DA03
4D004DA10
(57)【要約】
【課題】焼却灰からフッ素などの有害物質を、経済的かつ効率的に除去できる焼却灰の処理剤およびその処理方法を提供する。
【解決手段】焼却灰の処理方法は、フッ素を含む焼却灰から少なくともフッ素を不溶化させる処理方法であって、処理槽11内において少なくとも焼却灰1の粒子間の空隙が埋まるように、リン酸塩またはリン酸塩含有物質と、硫酸、塩酸、硝酸、およびリン酸から選ばれる少なくとも1種の無機酸と、水とを含む処理剤2を存在させつつ、pH4.0以上の環境下で焼却灰1を曝露させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含む焼却灰から少なくともフッ素を不溶化させるための処理剤であって、
リン酸塩またはリン酸塩含有物質と、硫酸、塩酸、硝酸、およびリン酸から選ばれる少なくとも1種の無機酸と、水とを含むことを特徴とする焼却灰の処理剤。
【請求項2】
前記処理剤は、硫酸鉄(FeSO)または塩化鉄(FeCl)をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の焼却灰の処理剤。
【請求項3】
前記リン酸塩が、第二リン酸カルシウム(CaHPO)または第三リン酸カルシウム(Ca(PO)であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の焼却灰の処理剤。
【請求項4】
前記無機酸は、前記リン酸塩または前記リン酸塩含有物質に含まれるリン酸塩成分1モルに対して前記無機酸に由来するプロトンのモル数が2モル以下となるように含まれることを特徴とする請求項1または請求項2記載の焼却灰の処理剤。
【請求項5】
フッ素を含む焼却灰から少なくともフッ素を不溶化させる処理方法であって、
処理槽内において少なくとも前記焼却灰の粒子間の空隙が埋まるように請求項1または請求項2記載の処理剤を存在させつつ、pH4.0以上の環境下で前記焼却灰を曝露させることを特徴とする焼却灰の処理方法。
【請求項6】
前記処理方法は、前記処理剤を満たした前記処理槽内に前記焼却灰を投入しつつ、前記焼却灰を移送し排出する方法であり、前記処理槽内のpHをモニタリングして、そのpHに応じて前記処理槽へ供給する前記処理剤の供給量を制御することを特徴とする請求項5記載の焼却灰の処理方法。
【請求項7】
前記処理槽の上部がオーバーフロー構造であり、前記処理槽から溢れ出た余剰水が前記処理槽に循環可能になっていることを特徴とする請求項6記載の焼却灰の処理方法。
【請求項8】
前記処理剤は、酸性溶液として保管槽にて保管され、前記保管槽から調整槽を介して前記処理槽に供給され、前記余剰水は前記調整槽に流入するように接続され前記処理槽に循環可能になっていることを特徴とする請求項7記載の焼却灰の処理方法。
【請求項9】
前記処理槽から排出された焼却灰に対して、pH7以上の環境下で硫化ナトリウム水溶液または鉄硫化物を添加して処理することを特徴とする請求項5記載の焼却灰の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス発電やゴミ焼却処理などに伴い発生する焼却灰の資源化に関し、具体的には、焼却灰の処理剤およびその処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー資源の確保の一環として、バイオマス資源の活用が進められている。その活用として、バイオマス資源を燃焼させて発電を行なうバイオマス発電がある。バイオマス発電の増大に伴って、焼却灰が多量に排出され増加しつつある。また、日常生活において排出されるゴミ焼却処理に伴う焼却灰の処理も問題になり得る。排出される焼却灰の一部は、例えば、脱塩セメント原料化、あるいは高温処理による溶融固化によるリサイクルが行われている。例えば、セメント原料化は、焼却灰を石灰岩、硅石、粘土などの原料に添加し、セメント原料として利用するものであり、この方法では、塩分の除去が要求されることから、通常は水洗による脱塩処理が行われている。
【0003】
ところで、バイオマス資源などの焼却灰には人体に有害な物質が含まれている。従来、これらの有害物質の除去方法が検討されており、例えば化学合成された有機系化合物のキレート剤と混合して、不溶化する方法が広く採用されている(例えば特許文献1)。しかし、キレート薬剤は高価であり、また長期的安定性は必ずしも保証されていない。そのため、焼却灰の多くが廃棄物として埋め立て処分されている。この原因として、一部、フッ素や六価クロムなどの有害物質を含むことが指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-316183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、焼却灰からフッ素などの有害物質を、経済的かつ効率的に除去できる焼却灰の処理剤およびその処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の焼却灰の処理剤は、フッ素を含む焼却灰から少なくともフッ素を不溶化させるための処理剤であって、リン酸塩またはリン酸塩含有物質と、硫酸、塩酸、硝酸、およびリン酸から選ばれる少なくとも1種の無機酸と、水とを含むことを特徴とする。
【0007】
上記処理剤は、硫酸鉄(FeSO)または塩化鉄(FeCl)をさらに含むことを特徴とする。
【0008】
上記リン酸塩が、第二リン酸カルシウム(CaHPO)または第三リン酸カルシウム(Ca(PO)であることを特徴とする。
【0009】
上記無機酸は、上記リン酸塩または上記リン酸塩含有物質に含まれるリン酸塩成分1モルに対して上記無機酸に由来するプロトンのモル数が2モル以下となるように含まれることを特徴とする。
【0010】
本発明の焼却灰の処理方法は、フッ素を含む焼却灰から少なくともフッ素を不溶化させる処理方法であって、処理槽内において少なくとも上記焼却灰の粒子間の空隙が埋まるように本発明の処理剤を存在させつつ、pH4.0以上の環境下で上記焼却灰を曝露させることを特徴とする。
【0011】
上記処理方法は、上記処理剤を満たした上記処理槽内に上記焼却灰を投入しつつ、上記焼却灰を移送し排出する方法であり、上記処理槽内のpHをモニタリングして、そのpHに応じて上記処理槽へ供給する上記処理剤の供給量を制御することを特徴とする。例えば、pHが所定値以上(例えば9.0以上)になった場合に処理剤を供給するというようにできる。なお、処理槽への処理剤の供給は、調整槽などの他の槽を介して行われてもよい。
【0012】
上記処理槽の上部がオーバーフロー構造であり、上記処理槽から溢れ出た余剰水が上記処理槽に循環可能になっていることを特徴とする。
【0013】
上記処理剤は、酸性溶液として保管槽にて保管され、上記保管槽から調整槽を介して上記処理槽に供給され、上記余剰水は上記調整槽に流入するように接続され上記処理槽に循環可能になっていることを特徴とする。
【0014】
上記処理槽から排出された焼却灰に対して、pH7.0以上の環境下で硫化ナトリウム(NaS)水溶液または鉄硫化物を添加して処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の焼却灰の処理剤は、リン酸塩またはリン酸塩含有物質と、硫酸、塩酸、硝酸、およびリン酸から選ばれる少なくとも1種の無機酸と、水とを含むので、従来用いられているキレート薬剤に比べて安価であり、また、リン酸塩とフッ素のアパタイトは常温、中性の環境では安定であり、長期的に環境への再溶出、悪影響がない。また、リン酸塩は、多くの重金属(鉛、カドミウムなど)と不溶化塩を生成することも知られていることから、フッ素に加えて、他の重金属などの有害物質の除害化にも繋がる。これにより、焼却灰からフッ素などの有害物質を、経済的かつ効率的に除去できる。
【0016】
上記処理剤は、硫酸鉄または塩化鉄をさらに含むので、フッ素とともに焼却灰に含まれやすい六価クロムも同時に除害化することができ、効率的である。また、硫酸鉄や塩化鉄も安価であり、還元によって生じる三価クロムは、常温、中性の環境では安定であり、長期的に環境への再溶出、悪影響がない。なお、硫酸鉄や塩化鉄はヒ素の除去効果の報告もあり、他の有害物質の除去にも繋がる。
【0017】
本発明の焼却灰の処理方法は、処理槽内において少なくとも焼却灰の粒子間の空隙が埋まるように本発明の処理剤を存在させつつ、pH4.0以上の環境下で焼却灰を曝露させるので、後述の実施例で示すように、フッ素を効果的に不溶化させることができる。また、pH4.0未満の酸性になると、重金属が溶出しやすくなる。
【0018】
上記処理方法は、処理剤を満たした処理槽内に上記焼却灰を投入しつつ、焼却灰を移送し排出する方法であり、処理槽内のpHをモニタリングして、そのpHに応じて処理槽へ供給する処理剤の供給量を制御するので、連続的な処理も安定的に実施でき、pHをモニタリングすることで、除害化処理のバラつきも抑えることができる。さらに、処理槽の上部がオーバーフロー構造であり、処理槽から溢れ出た余剰水が処理槽に循環可能になっているので、簡易な構造としながら処理槽内における余剰水の量を管理しやすく、また、排出処理される余剰水の処理量を抑制することができ、より経済的である。
【0019】
処理槽から排出された焼却灰に対して、pH7.0以上の環境下で硫化ナトリウム水溶液または鉄硫化物を添加して処理するので、焼却灰中の六価クロム濃度をより低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の焼却灰の処理方法の一例の概略図である。
図2】処理槽中における焼却灰と処理剤の拡大イメージ図である。
図3】本発明の焼却灰の処理方法の他の例の概略図である。
図4】処理槽へ処理剤を供給するシステムの全体概略図である。
図5】本発明の焼却灰の処理方法の他の例の概略図である。
図6】試験2におけるリン酸塩類の添加量とフッ素濃度の関係図である。
図7】試験4における処理剤の添加量とフッ素・六価クロム濃度の関係図である。
図8】試験4における処理剤の添加量とセレン・ホウ素濃度の関係図である。
図9】原料灰の含水率毎の処理剤の添加量と余剰水量の関係図である。
図10】連続的な処理の試験の試験装置の概略図である。
図11】試験例1~10における槽内pH推移と六価クロム濃度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、少なくともフッ素を含む焼却灰から、少なくともフッ素を経済的かつ効率的に不溶化し除害化するべく鋭意検討を行った。従来より、水処理の分野においては、フッ素がカルシウムと反応してフッ化カルシウム(CaF)を生成し、不溶化することが知られている。また、フッ素は、第二リン酸カルシウム(CaHPO)と反応して、フッ素とリン酸カルシウムのアパタイト化合物を生成し不溶化することが知られている。本発明者らは、フッ素を含む焼却灰の処理において、リン酸塩などに無機酸を加えることで、フッ素の不溶化の効力が増大することを見出した。具体的には、焼却灰の除害化処理において、リン酸塩またはリン酸塩含有物質と、所定の無機酸と、水とを含む処理剤がフッ素の不溶化に有効であることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0022】
(処理剤)
本発明の処理剤は、リン酸塩またはリン酸塩含有物質(以下、まとめてリン酸塩類ともいう)と、硫酸、塩酸、硝酸、およびリン酸から選ばれる少なくとも1種の無機酸と、水とを含む。
【0023】
リン酸塩としては特に限定されないが、第一リン酸カルシウム(Ca(HPO)、第二リン酸カルシウム(CaHPO)、第三リン酸カルシウム(Ca(PO)、リン酸アルミニウム(AlPO)、Pなどを挙げることができる。これらの中でも、特に安価な第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0024】
リン酸塩含有物質は、リン酸塩を含有する物質であればよく、下水汚泥焼却灰、過リン酸石灰、家畜糞(例えば、牛糞や鶏糞)などが含まれる。例えば、下水汚泥焼却灰は、Pが15質量%~25質量%含まれる。また、過リン酸石灰は、主成分として第一リン酸カルシウムを含む。また、鶏糞や下水汚泥焼却灰は、多くが廃棄物として扱われているものであり、廃棄物の削減とコスト低減が期待される。
【0025】
無機酸には、硫酸、塩酸、硝酸、およびリン酸から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの無機酸は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。例えば、第三リン酸カルシウムは水に対する溶解度が低く反応が遅いと推測されるが、無機酸を添加すると第一リン酸カルシウムを生成し水溶性となる。
【0026】
無機酸の含有量は特に限定されないが、リン酸塩またはリン酸塩含有物質に含まれるリン酸イオン(PO 3-)成分1モルに対し無機酸に由来するプロトン(H)のモル数が2モル以下となるように含まれることが好ましい。
【0027】
処理対象の焼却灰が六価クロムを含む場合、上記処理剤は硫酸鉄(FeSO)または塩化鉄(FeCl)をさらに含むことが好ましい。例えば、硫酸鉄は有害性もなく、扱いやすく、コストも安価であるため好ましい。硫酸鉄によって、六価クロムは三価クロムに還元されて除害化される。硫酸鉄を用いる場合、上記処理剤に用いられる無機酸は硫酸が好ましい。
【0028】
また、上記処理剤は硫酸アルミニウムAl(SO、塩化アルミニウム、PAC(ポリ塩化アルミニウム)などのアルミニウム塩をさらに含んでいてもよい。これらアルミニウム塩は、アルカリ性の条件下で、セレンやホウ素とアパタイトを形成して不溶化させることができる。焼却灰に含まれ得るセレンやホウ素の有害物質の除害化に有効である。
【0029】
上記処理剤は、例えば、予め混合された状態で焼却灰に添加されてもよい。硫酸第一鉄などの第一鉄塩は、アルカリ性条件下では水酸化鉄を形成し酸化しやすいため、分解しやすい。一方で、酸性条件下では安定である。そのため、例えば、リン酸カルシウムに硫酸を加えたもの(酸性pH2程度)に第一鉄塩を混合させておくことで酸性溶液として長期の保存が可能となり、また製造上、タンク数を削減できるなど製造効率化も図りやすい。また、アルミニウム塩も同様に、アルカリ性下では水酸化アルミニウムを生成し不安定であるが、酸性下では安定である。
【0030】
(処理方法)
本発明の焼却灰の処理方法は、少なくともフッ素を含む焼却灰から少なくともフッ素を不溶化させる方法である。図1は、焼却灰の処理方法の一例の概略図を示す。図1は、所定量の焼却灰1を処理槽12へ添加して処理剤2に曝露させた後、処理された焼却灰を全量取り出すバッチ式の処理を示している。なお、処理剤2には、上述した処理剤を用いることができるが、これに限定されるものではない。以下では、処理剤2を上述の処理剤として説明する。
【0031】
図1に示すように、この処理方法では、処理装置11の処理槽12にて焼却灰1と処理剤2が混合される。処理剤2は、各種成分を予め混合した状態で処理槽12に添加してもよく、別々に添加してもよい。例えば、焼却灰1は、該焼却灰を貯留するホッパーなどから配管などを通して処理槽12に供給される。焼却灰1は、周知の粉砕機を用いてミクロンレベルまで粒子状に粉砕してもよい。
【0032】
処理対象となる焼却灰1は、少なくともフッ素を含むものであれば特に限定されず、家庭から排出される一般ごみの焼却灰や、産業用焼却灰、バイオマス発電由来などの火力発電所の焼却灰などを用いることができる。焼却灰1には、有害物質として六価クロムが含まれていてもよい。また、焼却灰1に含まれる有害物質の濃度は特に限定されないが、例えば、溶出濃度として、フッ素が1~5mg/L程度、六価クロムが0.05~0.5mg/L程度であり、より具体的には、フッ素が2~4mg/L程度、六価クロムが0.05~0.2mg/L程度である。
【0033】
ここで、原料となる焼却灰に対して化学的処理を行う場合、焼却灰に付着するフッ素などの有害物質の水への溶解を促進するべく、処理剤と反応できる充分な環境が必要である。本発明の処理方法では、少なくとも焼却灰の粒子間の空隙が埋まるように処理剤を存在させる。すなわち、処理槽12での処理において、良好な反応を引き起こすために灰粒子全体が処理剤2に覆われ、水溶解できる状況、つまり粒子間に空隙がない状態(空隙率を超える充分な湿潤状態)に保つことで、有害物質の水への溶解が促進され、処理効率を向上できる。具体的には、図2に示すように、焼却灰1を構成する粒子Pと粒子Pの間隙を処理剤2(間隙水)が埋めている。なお、図2では、処理剤2の液面水位は、焼却灰1の堆積表面の高さよりも上方に位置している。
【0034】
処理剤2の添加量について、具体的には、原料となる焼却灰20kgに対して例えば5L~30Lであり、好ましくは6L~18Lであり、より好ましくは8L~12Lである。なお、除害化処理後には、粒子間の空隙にある処理剤の多くは余剰水として残存するため、余剰水の処理の観点からは処理剤の添加量は少ないことが望ましい。一方、効率的な除害化の観点からは処理剤が過剰にあることが望ましい。なお、後述する連続的な除害化処理の場合には、処理槽から溢れ出た余剰水を循環させることで、焼却灰に対して処理剤の量を過剰な状態に保ちながら、余剰水の処理量を減少させることができる。
【0035】
図1において、処理槽12では焼却灰1の粒子間の空隙が埋まるように処理剤2を存在させつつ、例えばpH4.0以上(好ましくはpH6.0以上)の環境下で焼却灰1を曝露させる。曝露させる時間は特に限定されないが、例えば5分~1時間程度である。例えば、図1の処理装置11は、焼却灰1と処理剤2を撹拌するための撹拌装置13と、処理槽内のpHを測定するためのpH計14を有している。
【0036】
処理槽内のpHは例えば4.0以上に維持される。フッ素の除去の観点では、リン酸カルシウム態アパタイトを形成しやすいことなどから、6.0以上に維持されることが好ましく、より好ましくは8.0以上12.0未満に維持され、さらに好ましくは9.0以上12.0未満に維持される。処理槽内のpHの変動は、焼却灰のアルカリ度合いによって異なり、そのアルカリ度合いによってコントロールされるpHの範囲を設定してもよい。例えば処理槽内のpHを11.0未満に維持してもよく、10.0未満に維持してもよい。なお、処理槽内のpHは余剰水のpHとほぼ同等である。処理槽中のpHや有害物質の濃度をモニタリングすることなどにより、除害化処理が充分に行われている状況であるかを判断できる。焼却灰1や処理剤2の処理槽12への供給量は、これらのモニタリング結果などに応じて制御することが好ましい。
【0037】
処理槽12での除害化処理後、余剰水を含む処理灰は処理灰受槽15に移送される。処理灰受槽15では、処理灰と余剰水が分離される。分離手法は特に限定されず、例えば自然分離やろ過により行われる。通常、粉体粒子含水物は、粒子の重力沈降現象により下部に沈積することから、処理灰と余剰水は静置により自然分離する。自然分離を行う場合、例えば、余剰水は処理灰受槽15の上部から排出される。
【0038】
排出された余剰水は、放流のために排水処理されてもよいが、次回の除害化処理に再利用することもできる。例えば、余剰水を処理槽12へ循環させるようにしてもよい。この場合、余剰水のpHや有害物質の濃度などに応じて、新たに添加される処理剤2の供給量が制御される。なお、余剰水には、焼却灰由来のカリウムが含まれる場合があり、必要に応じて余剰水を濃縮することで、資源回収することができる。例えば、カリウム濃縮水からフッ素や六価クロムなどを除去して肥料液としたり、中和・濃縮、結晶化して硫酸カリウムなどとして回収したりできる。余剰水は、除害化されていることから資源回収としての利用が容易である。
【0039】
一般的な焼却灰の処理では、添加水量や薬剤量は、原料灰の性状を予め分析することにより設定される場合が多い。そのため、原料灰の性状に変動が生じた場合、添加水量や薬剤量の調整は困難になりやすい。上記方法では処理槽内の水質(pHや有害物質の濃度など)をモニタリングすることによって、処理剤の添加量を容易に制御できる。
【0040】
続いて、連続的な除害化処理の方法について図3図5を用いて説明する。これらの処理方法は、処理剤を満たした処理槽内に焼却灰を投入し、焼却灰を処理剤に曝露させつつ移送して排出する方法である。なお、曝露させる時間は特に限定されないが、例えば5分~1時間程度である。また、処理槽内での曝露に際して、撹拌や、かき混ぜ、混合などの手段は必ずしも必要なく、投入した後、移送する態様でもよい。
【0041】
図3に示す処理装置21は、焼却灰1と処理剤2を添加する処理槽22と、処理槽内において焼却灰を移送する移送手段23と、処理槽内から焼却灰を引き上げる回転バケット体24と、回転バケット体24で引き上げられた焼却灰を外部へ排出する排出手段25とを有する。
【0042】
移送手段23は、複数のプーリと、複数のプーリに無端状に掛け渡されたチェーン23aと、チェーン23aの走行方向に所定間隔で取り付けられる複数のスクレーパ23bとを有する。プーリは、処理槽外に設けられたモータなどの駆動装置に接続され、回転可能になっている。プーリが回転することで、チェーン23aの上側部分が移送方向上流側(先端側から基端側)に向かって走行し、チェーン23aの下側部分が移送方向下流側(基端側から先端側)に向かって走行する。
【0043】
スクレーパ23bは、例えば、処理槽22の幅方向に延びる平板状をなしている。スクレーパ23bは、チェーン23aの走行方向に対して板面がほぼ直角をなすように、かつ、幅方向で2つのチェーンに掛け渡すように取り付けられている。図3に示すように、スクレーパ23bは、チェーン23aの下側部分に保持された状態で、その下縁が処理槽22の底面22aに近接して位置している。下側部分の走行に伴ってスクレーパ23bが移動し、底面22aに堆積した焼却灰を掻き取り移送方向下流側へ移送させる。スクレーパ23bの移動に伴って、焼却灰は、底面22aの一部に形成された凹部22cに供給される。
【0044】
なお、スクレーパ23bの形状は複数間で互いに同じ形状であってもよいが、例えば、団子状や塊になった灰を掻き分けて分散させやすくするため、スクレーパの形状を互いに異なる形状としてもよい。具体的には、平板状のスクレーパの下端に切り欠き部を設け、その切り欠き部の形成箇所を互いに異なるようにしてもよい。
【0045】
回転バケット体24は、外周部において周方向に離間して配置された複数のバケット24aを有する。回転バケット体24は、その回転によって凹部22cに溜まった焼却灰をバケット24aで掻き上げるように配置されている。回転バケット体24の回転駆動によりバケット24aが回転し、処理槽内にて処理剤2に曝露された焼却灰が、余剰水とともに引き上げられる。
【0046】
排出手段25は、バケット24aから落下する焼却灰を受けることができるよう回転バケット体24に隣接して設けられている。排出手段25は、例えば、引き上げられた焼却灰から水分をろ過可能なベルトフィルターで構成され、処理槽22の上方に配置される。焼却灰とともに引き上げられた余剰水は下方の処理槽22に回収される。また、必要に応じて供給される洗浄用の洗浄水も、下方に落下して処理槽22に回収される。なお、排出手段25には、脱水作用を高めるため、振動付与手段(超音波振動など)を設けてもよい。排出手段25の下方の処理槽22には、底面22aに向けて槽深さが深くなるように傾斜した傾斜部22bが設けられており、余剰水や洗浄水とともに落下した焼却灰が凹部22cに再度供給されやすいように構成されている。
【0047】
図3において、原料となる焼却灰1は投入ベルトにより処理槽内に連続的に投入される。投入前に、焼却灰1を、必要に応じて粉砕機(例えば図10参照)で細かく粉砕してもよい。処理槽22には、処理剤2が満たされており、pH計26によってpHが4.0以上(好ましくは6.0以上)を維持するようにモニタリングされている。なお、コントロールされるpHの範囲については、上記図1で説明した内容を適用できる(図5も同様である)。処理槽22に投入された焼却灰は、処理槽22の底面22aに堆積する。堆積した灰粒子は重力沈降により圧密する。その焼却灰はスクレーパ23bの移動によって凹部22cに移送された後、バケット24aによって掻き上げられる。そして、バケット24aによって処理槽22から引き上げられた後、排出手段25に送られて、脱水、必要に応じて洗浄を経て処理灰として排出される。図3では、例えば引き上げられた焼却灰を洗浄することで、焼却灰に付着した余剰水を取り除くことができ、結果として処理灰に含まれる不純物を低減させることができる。
【0048】
焼却灰の除害化処理では、原料灰に対して処理剤の供給量(特にリン酸塩類および無機酸の薬剤量)を適正に管理することが重要となる。この管理は、原料灰の含水率や有害物質の濃度などにより種々変動する。例えば、処理槽内の液面水位をモニタリングして行う。また、余剰水量の調整により実施される。処理剤の供給量を適正に制御するため、処理槽内の余剰液の水質(pH、電気伝導度(EC)、有害物質の濃度など)をモニタリングすることが好ましい。
【0049】
例えば、処理剤における水の量は液面水位により制御し、処理剤における薬剤量は水質で制御してもよい。処理槽22の液面水位は略一定となるように制御されることが好ましい。これにより、余剰水の量を管理でき、処理能力を安定して発揮させることができる。例えば、処理槽22の上部をオーバーフロー構造とし、余剰水をオーバーフローさせるようにして液面水位を維持するようにしてもよい。さらに、処理槽22から溢れ出た余剰水が処理槽22に循環可能になっていることが好ましい。
【0050】
図3に示す処理装置21は、図示の構成に限らず、適宜変更することができる。例えば、移送手段をベルト部材としてベルト部材の上に堆積した焼却灰を移送方向下流側に移送するようにしてもよい。また、バケット24a内の焼却灰に洗浄水が供給されるようにしてもよい。この場合、洗浄水はバケット24aから落下して下方の処理槽22に回収される。
【0051】
図4には、処理槽へ処理剤を供給するシステムの全体概略図を示す。図4において処理剤2は、無機酸とリン酸塩類と硫酸鉄と水とを含む。この処理剤2は、酸性溶液(例えばpH2以下)として保管槽28で保管されている。上述したように、硫酸鉄は酸性条件下では安定である。そして、処理槽22への供給は、調整槽27を介して行われる。処理槽22ではpH計26によってpHがモニタリングされている。また、処理槽22の余剰水は調整槽27に流入するように接続され、調整槽27から処理槽22へ循環可能になっている。なお、必要に応じて処理槽22から排水処理が行われてもよい。このように構成することで、処理剤2を効率的にかつ安定的に保管しながら、処理槽22内のpHを管理しやすく、さらには余剰水の有効利用も図ることができる。
【0052】
図5に示す処理装置31は、焼却灰1と処理剤2を添加する処理槽32と、焼却灰を移送して排出する移送ベルト33と、pH計34とを有する。処理槽32には、移送ベルト33に向けて槽深さが深くなるように傾斜した傾斜部32aが設けられている。
【0053】
移送ベルト33は、複数のローラと、複数のローラに無端状に掛け渡されたベルト部材を有する。移送ベルト33は、図5に示すように、移送方向上流側から下流側に向かうにつれて上方へ傾斜して設置されており、ベルト部材の一部が水面よりも上側まで延びている。また、移送ベルト33には、振動付与手段35が設けられており、水面よりも上側に移送された焼却灰に振動を与えて脱水させる構造になっている。脱水された焼却灰は、移送ベルトから外部へ排出される。
【0054】
図5において、原料となる焼却灰1は投入ベルトにより処理槽内に連続的に投入される。なお、投入前に焼却灰1を粉砕してもよい。処理槽32には、処理剤2が満たされており、pH計34によってpHが4.0以上(好ましくは6.0以上)を維持するようにモニタリングされている。処理槽32に投入された焼却灰は、傾斜部32aに堆積し、堆積した灰粒子は重力沈降により圧密され、傾斜部32aの下部に徐々に移送される。そして、移送ベルト33に到達した焼却灰は、順次移送される。なお、図5の処理装置31では、移送ベルト上の焼却灰に洗浄水を加えて洗浄する構成になっている。洗浄に用いられた洗浄水は、下方の処理槽32に供給される。
【0055】
また、処理槽32においても上部をオーバーフロー構造とし、余剰水をオーバーフローさせるようにして液面水位を維持するようにしてもよい。さらに、処理槽32から溢れ出た余剰水が処理槽32に循環可能になっていることが好ましい(例えば図4参照)。
【0056】
図5に示す処理装置31は、図示の構成に限らず、適宜変更することができる。例えば、傾斜部32aの構成を省略して、投入ベルトから投入された焼却灰が直接移送ベルトの上に堆積するように配置してもよい。
【0057】
上述した図3図5に示す連続的な処理方法では、焼却灰に対して所定量の薬剤量が添加されるとともに比較的過剰な水が添加される。
【0058】
なお、本発明の処理方法は、図1図5で説明した構成に限定されるものではない。
【0059】
上述した処理方法において、さらに、六価クロムを三価クロムに還元するべく、硫化ナトリウム水溶液または鉄硫化物(硫化鉄、黄鉄鉱など)の粉末を用いてもよい。具体的には、処理槽から排出された焼却灰に対して、pH7.0以上(好ましくは8.0以上)の環境下で硫化ナトリウム水溶液または鉄硫化物を添加して処理してもよい。例えば、処理灰について六価クロムの環境基準値を満たしていない場合などに、追加工程としてこの処理を行ってもよい。また、硫化ナトリウム水溶液または鉄の硫化物を別途、処理槽中に添加してもよい。
【0060】
硫化物イオン(S2-)は還元性があり、六価クロム処理剤として使用されている。しかし、アルカリ性領域では難溶性の金属硫化物を形成し、効力が少ないため、通常は酸性領域で使用されている。一方、硫化物イオンは酸性領域で硫化水素を発生し、容易に分解し、また、これによる悪臭の発生や機材の腐食も懸念される。
【0061】
これに対して、硫化ナトリウムはアルカリ性領域においても水溶性であり、還元作用を有する。また、硫化鉄などの鉄硫化物は、アルカリ性領域においてもある程度は溶解し(例えば、硫化鉄の場合、水1Lに対して6mgの溶解度である)、還元作用を有する。鉄硫化物は平均粒子径が1mm以下まで粉砕することが好ましい。また、焼却灰中の六価クロムは三価クロムに還元されても強度の酸化雰囲気においては再度六価クロムに再生するおそれがある。この点、硫化物はアルカリ性領域では比較的安定で、また長期の保存にも耐えるので、これを混合することで長期にわたる六価クロムの再生を防止できると考えられる。
【実施例0062】
[試験1]
各種処理剤を加えた際のフッ素除去効果を検討した。フッ素をあらかじめ添加した焼却灰10gに各種処理剤を加えて1分程度撹拌後、ろ過し、ろ液中のフッ素濃度をパックテスト法により測定し、添加前の数値と比較して、効果を検討した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムに硫酸を加えたもの(水も含む)、下水汚泥焼却灰に硫酸を加えたもの(水も含む)に、フッ素除去作用が認められた。すなわち、フッ素を不溶化させることでろ液中のフッ素が低減した。また、第二リン酸カルシウムにおいては硫酸を加えることで、上記作用が高まることが認められた。
【0065】
[試験2]
焼却灰にフッ化ナトリウム試薬を添加した汚染灰を作製した。この汚染灰10gに、種々の添加量のリン酸塩類と、無機酸を適宜加えて除害化処理を行った。溶出試験として、処理後の検体に水を1:10(固体/液体)加えて1分程度撹拌した。これを、ろ紙を用いてろ過し、ろ液のフッ素濃度(mg/L)を測定した。分析方法は、アリザリンコンプレクソン比色法で行った。結果を図6に示す。
【0066】
各処理剤の詳細を以下に示す。
下水灰+HSO;灰10gに硫酸4gを添加
AlPO+HSO;リン酸アルミニウム10gに硫酸18gを添加
AlPO+HPO;リン酸アルミニウム10gにリン酸17gを添加
Ca(HPO;無機酸添加なし
CaHPO+HSO-1;CaHPO10gに硫酸3gを添加
CaHPO+HSO-2;CaHPO10gに硫酸9gを添加
【0067】
図6に示すように、原料となる汚染灰のフッ素濃度は1.5mg/L~3.0mg/Lであった。これに対して、リン酸塩類の添加量が増加するとともに、フッ素濃度が低下する結果となった。図6の結果より、汚染灰10gについて、第二リン酸カルシウムは0.1g~0.2gの添加で、溶出試験濃度が環境基準値(0.8mg/L)以下となり、有効であると判断された。
【0068】
[試験3]
フッ素除去効果とpHの関係について検討した。フッ素7.9mg/Lの溶液に、水酸化カルシウムと下水道灰(リン酸分Pとして20%含む)と硫酸を加えて、撹拌後、ろ過し、フッ素の除去効果を検討した。結果を表2に示す。表2に示すように、pHの低い試料では、フッ素除去能は確認されたものの、フッ素除去効果が低いことが分かった。中性~アルカリ性ではpHに依らず、良好なフッ素除去効果を示した。
【0069】
【表2】
【0070】
[試験4]
原料灰にはバイオマス発電所の焼却灰(含水率0.9%)を用いた。フッ素の溶出濃度を3mg/L、六価クロムの溶出濃度を0.20mg/Lと仮定し、それに合わせて、原料灰にクロム酸カリウムおよびフッ化ナトリウムを添加して汚染灰とした。
【0071】
薬剤A:第二リン酸カルシウム0.8kg、硫酸0.4kgを水4Lに溶解
薬剤B:硫酸鉄・7水和物0.1kgを水5Lに溶解(2%液)
【0072】
予め調製した汚染灰(乾物量20kg)を入れた撹拌機に、実施例1~5では薬剤A(2L)、薬剤B(1L)、水(3L~7L)をそれぞれ別個に投入した。一方、比較例1~2では、ブランクとして水10Lのみを投入した。これらを投入後、1分間撹拌した。実施例1~5では、槽内pHは9~11程度(余剰水pHとほぼ同等)であり、アルカリ性の環境下で原料灰を処理剤に曝露させた。撹拌後、排出して容器に保管した。10分以上放置後、灰から上水として分離した余剰水を掬い取って回収し、回収した余剰水の量を計量した。また、パックテスト法により余剰水中のフッ素、六価クロムを測定するとともに、pH計にてpHの測定を行った。また、余剰水が分離された処理灰についてもpH測定、および、溶出試験によりフッ素、六価クロム、鉛、ヒ素、カドミウム、セレン、ホウ素の測定を行った。結果を表3に示す。また、図7には、フッ素および六価クロムの溶出試験の結果を示し、図8には、セレンおよびホウ素の溶出試験の結果を示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3に示すように、比較例1~2は、余剰水のフッ素濃度が3mg/L、六価クロム濃度が2mg/L以上であったのに対して、処理剤を添加することで(実施例1~5)、余剰水のフッ素濃度が0.5~0.8mg/L、六価クロム濃度がND(未検出)~0.02mg/Lとなった。また、処理灰の溶出試験においても、フッ素濃度および六価クロム濃度の低減が認められた(図7参照)。また、処理剤を添加することで、pHが低下し、アルカリ度の低減も認められた。焼却灰はpH12程度のアルカリ性であり、処理剤を用いることで処理灰の中和効果が期待される。なお、余剰水について、カリウムイオンメータ(株式会社堀場製作所製)を用いてカリウム濃度を測定したところ、0.8%~1%程度の高濃度のカリウムが検出された。また、処理剤の添加量と除害化能との関係でいえば、焼却灰20kgに対して処理剤の添加量7L以下では、余剰水の発生がなくなり、処理性能が低下する傾向が見られた。
【0075】
また、セレンとホウ素の溶出試験では、処理剤の添加によりこれらの溶出濃度の低下が認められた(図8参照)。特にホウ素については、処理剤の添加量7L以下の方がより高い効果が認められた。以上の結果から、余剰水の調整により除害化処理の制御ができる(余剰水量の適正化)。
【0076】
次に、フッ素および六価クロムの除害化処理において、処理手順などの差異を検討した。
実施例7では、処理剤として、薬剤Aと薬剤Bを予め混合して1週間以上放置したものを用いた。表4に示すように、この場合も処理剤を別々に投入する場合(実施例6)と同様の効果が認められた。
また、上述の実施例では、原料灰に対して処理剤を投入するという手順で行ったのに対して、実施例8では、原料灰と処理剤の投入順序を変更して、処理剤に対して原料灰を投入した。すなわち、連続的な除害化処理を想定して、予め処理剤を満たした処理槽に原料灰を投入するようにした。実施例8および実施例9では処理剤の液量が十分となるように、処理剤の添加量を10L[薬剤A(2L)、薬剤B(1L)、水(7L)]とした。表4に示すように、処理剤の液量が十分の場合において両者に差は認められなかった。
【0077】
【表4】
【0078】
次に、余剰水が多い場合について検討するべく、原料灰に含水率19%のものを用いた。表5の試験(実施例10~12)では、表3の試験に比べて原料灰の含水率が多い分、余剰水が多量に発生する結果となった。表5に示すように、余剰水が過剰に多い場合でも処理効果に差は認められなかった。
【0079】
【表5】
【0080】
ここで、図9には、原料灰の含水率毎における処理剤の添加量と余剰水量との関係を示す。図9に示すように、原料灰の含水率によって余剰水量が大きく異なることが分かった。すなわち、原料灰の含水率が多くなると、用いる処理剤の量が同じでも、発生する余剰水量が多くなることが分かった。原料灰は、飛散抑制のため、予め水分が付与されている場合がある。その場合、原料灰によって含水率が異なることになるが、原料灰毎に含水率を測定することは作業負担に繋がる。これに対して、本発明では、余剰水量を管理することで、原料灰の含水率を測定しなくても、簡便に処理能力を安定させることができる。例えば、原料灰の含水率に依らず余剰水が所定以上発生する条件で処理できるよう液面を設定することが考えられる。
【0081】
表6には、余剰水の液性と処理灰の除害効果を示す。表6に示すように、余剰水の有害物質の濃度が高いと、処理灰の溶出試験における有害物濃度が高くなる傾向があることが分かった。そのため、余剰水中の有害物濃度をモニタリングすることで、処理灰中の有害物質の溶出濃度を管理することができる。
【0082】
【表6】
【0083】
表7には、除害化処理中の灰の性状による処理効果の影響について評価した。灰(乾灰)30gに水100mLを添加した場合は団子状になった。一方、灰(湿灰)45gに水100mLを添加した場合は泥状になった。これらを比較すると、団子状の場合に比べて、泥状の場合の方が除害化効果が高いことが分かった。灰は粒子が団子状や塊として存在する場合があるが、このような場合には、これらを粉砕、分散させることで、処理剤が灰の各粒子の表面まで到達するようにすることが好ましい。
【0084】
【表7】
【0085】
乾燥灰において団子状や塊の粉砕は容易ではないが、湿潤状態では比較的容易となる。そのため、処理装置は、灰を処理剤に曝露した状態で分散させやすくする構造を有することが好ましい。例えば、移送ベルトで灰を移送する構成においては、ベルト上に複数の羽を突設させることで灰を分散させやすくなる。なお、連続的な除害化処理のように、処理剤に灰を添加する手順であれば、灰が分散されやすくなると考えられる。
【0086】
[連続的な処理の試験]
図10に示す試験装置を用いて、連続的な処理を模擬した試験を実施した。この試験では、連続的な処理の実施可能性および六価クロムの除害化について評価した。なお、この試験に用いた焼却灰はフッ素濃度が低かったため、フッ素の除害化については評価していない。図10に示すように、試験装置41は、原料灰と処理剤を添加する処理槽42(内容積:150L)と、処理槽42内において原料灰を移送する移送手段43と、処理槽42内から原料灰を引き上げて排出する排出手段とを有する。移送手段43は、複数のプーリと、チェーンと、複数のスクレーパとを有する構成とした。試験装置41では、排出手段として回収容器44を用いており、これを手動で引き上げることで、処理槽42から原料灰を回収した。
【0087】
図10において、粉砕機45は、水平に配置され内側に回転する2本のロールを有している。粉砕機45は、上部から原料灰を投入し粉砕した原料灰を下部から排出する構成であり、連続的な処理に好適である。また、ロール間隙による粉砕粒度の調整が容易であり、例えば平均粒径がミクロンオーダーに粉砕される。なお、粉砕機45の構成は、これに限定されるものではなく、ロールを複数段に設けてもよく、またロール方式以外の方式の粉砕機を用いてもよい。
【0088】
図10に示す試験では、各段階の処理により効率化を図った。具体的には、粉砕機45による粉砕と投入量の制御、A部における混合処理、B部における撹拌処理、C部における脱水・熟成処理を行った。
【0089】
試験例1について、薬液A(1L)と薬液B(4L)に水を混合し、総量75Lとした処理剤を処理槽42に投入した。
薬液A:第二リン酸カルシウム200gと硫酸50mLを水1Lに溶解
薬液B:硫酸第一鉄20gを水1Lに溶解
原料灰10kgを粉砕機45によって粉砕し、5分程度かけて処理槽42の上部から逐次投入した。移送手段43を2回転させて原料灰を撹拌するとともに、移送し、原料灰を回収容器44に収集した。数分後、回収容器44を処理槽42から引き上げて、処理槽42の槽内液のpHを測定した。処理槽42から引き上げた処理灰は1時間程度、静置し、余剰水を分離して、処理灰を得た。
【0090】
試験例1の終了後、処理槽42に、薬液Aを1L、薬液Bを4L補充し、水を加えて計150Lにしてから、原料灰10kgを投入し、試験例1と同様の処理を行った(試験例2)。後続の試験例3~5では、各試験終了後、薬液の補充を行わずに原料灰10kgを投入し、試験例1と同様の処理を行った。
【0091】
試験例1~5で得られた処理灰を用いて溶出試験を行い、六価クロム濃度を測定した。結果を表8に示す。
【0092】
【表8】
【0093】
表8に示すように、試験例1~5のいずれの場合も、未処理灰に比べて、六価クロム濃度を大幅に低減させることができた。これらの試験では、槽内pHは5~8程度であり、弱酸性~弱アルカリ性の環境下で原料灰を処理剤に曝露させた。この連続的な処理の試験において、処理剤の補充が少ない若しくは無いため、原料灰の投入に伴い、pHは徐々に上昇した。なお、六価クロム濃度については、pHの上昇に伴い、上昇する傾向が見られた。
【0094】
次に、処理剤の使用量を増量して、下記の試験例6~10を実施した。
【0095】
試験例6について、薬液A(5L)と薬液B(20L)に水を混合し、総量150Lとした処理剤を処理槽42に投入した。原料灰10kgを用いて、試験例1と同様の処理を行った。
【0096】
試験例6の終了後、処理槽42に、薬液Aを0.5L、薬液Bを2L補充し、水を加えて計150Lにしてから、原料灰10kgを投入し、試験例6と同様の処理を行った(試験例7)。後続の試験例8では、試験例7と同様の処理を行った。さらに後続の試験例9~10では、各試験終了後、薬液の補充を行わずに原料灰10kgを投入し、同様の処理を行った。
【0097】
試験例6~10で得られた処理灰を用いて溶出試験を行い、六価クロム濃度を測定した。結果を表9に示す。
【0098】
【表9】
【0099】
表9に示すように、試験例6~10のいずれの場合も、未処理灰に比べて、六価クロム濃度を大幅に低減させることができ、試験例6~9は、環境基準値以下であった。表9の試験では、槽内pHは4~6程度であり、弱酸性の環境下で原料灰を処理剤に曝露させた。試験例6~10でも、原料灰の投入に伴い、pHは徐々に上昇した。
【0100】
図11(a)、(b)には、連続的な処理の試験における槽内pH推移と六価クロム濃度を示した。処理剤は弱酸性であり、原料灰がアルカリ性であることから、連続的な処理においてpHの変化が生じる。今回の試験では、原料灰の連続的な投入に伴い槽内pHは上昇したが、処理剤の添加によって、pHを低下させることもできる。浸漬法(水槽処理)における槽内処理液のモニタリング手段として、pHが簡易であり、pHをモニタリングすることで、原料灰と処理剤の投入量の調整が可能であり、除害処理を管理することができる。図11の結果より、原料灰の投入により処理剤中の成分が消耗され、これに伴いpHが上昇するとともに処理灰中の六価クロムが増加することが認められた。
【0101】
上記の試験結果より、本発明の焼却灰の処理方法は、連続的な処理の実施が可能であり、また、六価クロムの除害化も十分行うことができる。また、処理槽の水位を管理することで、原料灰の吸水性や含水率などによる変動を調節できる。また、槽内pHをモニタリングすることで、処理剤の添加量などを調節でき、処理剤の不足などの変動を制御できる。また、余剰液のpH、六価クロム濃度などの濃度をチェックすることで、処理状況の確認を行うことができる。
【0102】
[硫化物を用いた試験]
試験1
微量の六価クロムを含む焼却灰に1%(重量%)の粉末硫化鉄(市販の硫化鉄を1mm以下に粉砕したもの)を混合し、溶出試験を行った。この混合物12.5gに水を加えて32mLとし、撹拌後、一定時間放置後、ろ紙(アドバンテク株式会社製5A)を用いてろ過し、ろ液のpHと六価クロム濃度を測定した。種々の撹拌・放置時間における六価クロム濃度を検討した。六価クロム濃度はパックテスト(共立理化学研究所株式会社製)を使用した。結果を表10に示す。
【0103】
【表10】
【0104】
表10に示すように、六価クロム濃度は撹拌・放置時間が長いほど低下することが認められた。
【0105】
試験2
微量の六価クロムを含む焼却灰12.5gに1%(重量%)の硫化ナトリウム9水和物水溶液を1mL添加し、これを10日間、室内に放置、自然乾燥を行った。乾燥物に水を加えて32mLとし、撹拌後、一定時間放置後、ろ紙(アドバンテク株式会社製5A)を用いてろ過し、試験1と同様にして、ろ液のpHと六価クロム濃度を測定した。なお、硫化ナトリウム水溶液の添加にあたっては添加後、かき混ぜにより薬液が均一となるようにしたものと、不均一となるようにしたものの2形態を作製した。結果を表11に示す。
【0106】
【表11】
【0107】
表11に示すように、硫化ナトリウムの添加により、アルカリ性領域においても六価クロム濃度は大きく低下した。均一の形態の方が六価クロム濃度がより低い値であった。また、撹拌・放置時間が長いと六価クロム濃度は低下した。
【0108】
試験3
微量の六価クロムを含む焼却灰25gに1%(重量%)の硫化ナトリウム9水和物水溶液を2mL添加し、これに水を加えて66mLとし、1分撹拌後、ろ紙(アドバンテク株式会社製5A)を用いてろ過し、試験1と同様にして、ろ液のpHとクロム濃度を測定した。これを未処理物(焼却灰25gに水を加えて66mLとし、同様にろ過したもの)と比較した。結果を表12に示す。
【0109】
【表12】
【0110】
表12に示すように、アルカリ性領域において六価クロム濃度は大きく低下し、環境基準値以下となった。
【0111】
上記の硫化物を用いた試験の結果より、例えば、硫酸鉄などを用いた処理によっても六価クロムの値が環境基準値を満たさない場合などには、硫化物を用いた還元により、六価クロム濃度をより低下させることができる。
【0112】
なお、バイオマス焼却灰には肥料として有用なカリウムが多量に含まれている。また、処理剤として使用するリン酸カルシウムも肥料として通常使用されている。そのため、焼却灰に含まれるフッ素や六価クロムを本発明の処理方法で除害化することで、焼却灰の有効利用が促進される。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の処理剤および処理方法は、焼却灰からフッ素などの有害物質を、経済的かつ効率的に除去でき、さらには、フッ素に加えて、六価クロム、ヒ素、その他の重金属の除害化も可能であるので、廃棄物として埋め立て処分されている焼却灰の資源活用において有用である。
【符号の説明】
【0114】
1 焼却灰
2 処理剤
11 処理装置
12 処理槽
13 撹拌装置
14 pH計
15 処理灰受槽
21 処理装置
22 処理槽
23 移送手段
24 回転バケット体
25 排出手段
26 pH計
27 調整槽
28 保管槽
31 処理装置
32 処理槽
33 移送ベルト
34 pH計
35 振動付与手段
41 試験装置
42 処理槽
43 移送手段
44 回収容器
45 破砕機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11