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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086773
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】積層フィルム、積層体及び包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20240621BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B65D65/40 D
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060172
(22)【出願日】2024-04-03
(62)【分割の表示】P 2023077217の分割
【原出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田崎 奈津美
(72)【発明者】
【氏名】山崎 敦史
(57)【要約】
【課題】ベースフィルムによって、様々な熱収縮性をもつ蒸着フィルムが存在する。長手方向に熱収縮率の高い蒸着フィルムを用いて、ラミネート品を作製し、レトルト処理を行った場合、バリア性が悪化することがある。ベースフィルムでの改善は、一度の生産量が多いため、専用の銘柄を設定しなければならないという難点がある。
【解決手段】幅方向において、レトルト処理前後のMD方向の収縮率が1.2%以下であり幅方向の最大MD収縮率と最小MD収縮率の差△が0.4%以内である積層体を提供することにより、レトルト処理後の水蒸気透過度を2.5g/m2・day以下に抑制することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸延伸樹脂フィルム基材と、前記二軸延伸樹脂フィルム基材の少なくとも片面側に積層された無機薄膜層と、前記無機薄膜層上に積層されたウレタン樹脂を含む保護層とを備え、以下の(1)~(3)の要件を満たすことを特徴とするガスバリア性を有する積層フィルム。
(1)二軸延伸樹脂フィルム基材と無機薄膜層の間に層を設けないこと。
(2)130℃30分レトルト処理前後のMD方向の熱収縮率が1.2%以下であること。
(3)前記積層フィルムの保護層表面に15μmの二軸延伸ナイロンフィルムおよび70μmの未延伸ポリプロピレンフィルムを、ポリウレタン系2液硬化型接着剤を乾燥後に4μmの厚さとなるように塗布してドライラミネート法により貼り合わせて積層し、40℃の温度下で4日間エージングした後、130℃で30分湿熱処理した後の水蒸気透過度が2.5g/m・day以下であること。
【請求項2】
前記積層フィルムが、フィルム幅が1,000mm以上で、130℃30分レトルト処理時の幅方向の最大MD収縮率と最小MD収縮率の差Δが0.4%以内である請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記無機薄膜層が、酸化ケイ素および/又は酸化アルミニウムを含む無機酸化物を少なくとも1種類以上含有してなる請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記保護層が、ポリエステルウレタン樹脂を少なくとも1種類以上含有してなる請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記保護層中にシランカップリング剤を含有してなる請求項1~4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の積層フィルムの保護層表面にヒートシール層を積層した積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品、工業製品等の包装分野に用いられる積層フィルムに関する。更に詳しくは、無機薄膜層を備えたガスバリア性積層フィルムとした際に、フィルムの物理特性を制御することで、結果として良好なガスバリア性と密着性を発現させ得る積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等に用いられる包装材料は、蛋白質、油脂の酸化抑制、味、鮮度の保持、医薬品の効能維持のために、酸素や水蒸気等のガスを遮断する性質、すなわちガスバリア性を備えることが求められている。また、太陽電池や有機EL等の電子デバイスや電子部品等に使用されるガスバリア性材料は、食品等の包装材料以上に高いガスバリア性を必要とする。
【0003】
従来から、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする食品用途においては、プラスチックからなる基材フィルムの表面に、アルミニウム等からなる金属薄膜、酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の無機酸化物からなる無機薄膜を形成したガスバリア性積層フィルムが、一般的に用いられている。中でも、酸化ケイ素や酸化アルミニウム、これらの混合物等の無機酸化物の薄膜を形成したものは、透明であり内容物の確認が可能であることから、広く使用されている。
【0004】
しかしながら、無機薄膜は柔軟性に乏しいため、フィルムに折り曲げや衝撃が加わった際、さらに、レトルト処理等の高温処理を施した際に、ピンホールや欠陥が発生しやすく、ガスバリア性が低下するといった問題があった。
【0005】
上記問題に対して、無機薄膜の上にさらに保護層を設ける試みがなされている。例えば、無機薄膜上に、水溶性高分子から成る樹脂、あるいは、溶剤溶解性樹脂を設けた積層フィルムが知られており、ガスバリア性の安定性を向上させることができる。
【0006】
しかしながらこれらの積層フィルムは、基材フィルムの取位置や、無機薄膜積層時の巻き条件によって、様々な熱収縮率を有する。熱収縮率の高い積層フィルムを用いて、シーラント層を貼り合わせラミネート品を作製し、レトルト処理を施した場合、高湿熱処理によりラミネート品が伸長・収縮し、ガスバリア層に引張応力・圧縮応力がかかり割れが生じ、バリア性能が低下するという問題点を有していた。
【0007】
このような背景のもと、基材フィルム上にインラインコート層あるいはアンカーコート層等の被覆層を施し、湿熱処理を施した後にもガスバリア性や密着性を維持できるという方法が知られている(特許文献1、2)。ブチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂を含有する基材フィルムを用いて、基材そのものの柔軟性を向上させ、湿熱処理後も良好なガスバリア性を維持できるという方法が知られている(特許文献3、4)。また、シュリンクフィルムおよびポリアミドフィルムの積層フィルムを用いて、収縮率を調整し、温水処理後も良好なガスバリア性を維持できるという方法が知られている(特許文献5)。
【0008】
しかしながら、上述したいずれの方法でも、基材フィルムの原料自身の変更が必要であり、専用のロットを持たなければならず、多品種・小ロットに対応できないという問題があった。
【0009】
さらに、基材の乾燥工程によって熱収縮率を制御し、層間密着強度を向上させることができるという方法も知られている(特許文献6)。しかしながら、湿熱処理に関しては言及されていない。
【0010】
また、広幅の積層フィルムとした場合に、基材フィルムに起因する幅方向の熱収縮率の差異によって、レトルト処理等の高温処理を施した際に、無機薄膜にピンホールや欠陥が発生することによってガスバリア性が低下する問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許6631098号公報
【特許文献2】特許6507847号公報
【特許文献3】特開2019-014043号公報
【特許文献4】特許6879292号公報
【特許文献5】特開2018-089800号公報
【特許文献6】特開2017-144593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、広幅の積層フィルムにおいて良好なガスバリア性を有すると共に、レトルト処理後も幅方向においてガスバリア性のバラツキが少なく良好なガスバリア性を有する積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、保護層のコーティングプロセス中で、フィルム表面温度をレトルト処理温度以上とし、張力を制御することによって、コーティング終了時に所望の熱収縮率を有する積層フィルムを作製し、さらに、レトルト処理を施した際に、ガスバリア性が維持できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)樹脂基材と、前記樹脂基材の少なくとも片面側に積層された無機薄膜層と、前記無機薄膜層上に積層された保護層とを備え、以下の(I)~(III)の要件を満たすことを特徴とするガスバリア性を有する積層フィルム。
(I)樹脂基材と無機薄膜層の間に層を設けないこと。
(II)130℃30分レトルト処理前後のMD方向の熱収縮率が1.2%以下であること。
(III)前記積層フィルムの保護層表面に15μmの二軸延伸ナイロンフィルムおよび70μmの未延伸ポリプロピレンフィルムを、ポリウレタン系2液硬化型接着剤を乾燥後に4μmの厚さとなるように塗布してドライラミネート法により貼り合わせて積層し、40℃の温度下で4日間エージングした後、130℃で30分湿熱処理した後の水蒸気透過度が2.5g/m2・day以内であること。
(2)前記積層フィルムが、フィルム幅が1,000mm以上で、130℃30分レトルト処理時の幅方向の最大MD収縮率と最小MD収縮率の差△が0.4%以内である(1)に記載の積層フィルム。
(3)前記無機薄膜層が、酸化ケイ素および/又は酸化アルミニウムを含む無機酸化物を少なくとも1種類以上含有してなる(1)又は(2)に記載の積層フィルム。
(4)前記保護層が、ウレタン樹脂あるいはエステル樹脂を少なくとも1種類以上含有してなる(1)~(3)のいずれかに記載の積層フィルム。
(5)前記保護層中にシランカップリング剤を含有してなる(1)~(4)のいずれかに記載の積層フィルム。
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載の積層フィルムの保護層表面にヒートシール層を積層した積層体。
(7)前記(6)に記載の積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、広幅の積層フィルムにおいて良好なガスバリア性を有すると共に、コーティング終了時に所望の熱収縮率を有する積層フィルムを得ることができ、レトルト処理を施しても幅方向においてガスバリア性のバラツキが少なく良好なガスバリア性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の積層フィルムは、樹脂基材と、前記樹脂基材の少なくとも片面側に積層された無機薄膜層と、前記無機薄膜層上に積層された保護層とを備えたガスバリア性を有する積層フィルムであって、130℃30分レトルト処理時の、フィルム幅方向の最大MD収縮率と最小MD収縮率の差△が0.4%以内であり、かつ、前記積層フィルムの保護層表面に15μmの二軸延伸ナイロンフィルムおよび70μmの未延伸ポリプロピレンフィルムを、ポリウレタン系2液硬化型接着剤を乾燥後に4μmの厚さとなるように塗布してドライラミネート法により貼り合わせて積層して積層体として、40℃の温度下で4日間エージングした後、130℃で30分湿熱処理した後の幅方向の最大水蒸気透過度が2.5g/m2・day以内である、積層フィルムである。まずプラスチック基材フィルムについて説明し、次いでこれに積層する無機薄膜層および保護層、さらにはその他の層について説明する。
【0017】
[基材フィルム]
本発明で用いる基材フィルム(以下「基材フィルム」と称することがある)としては、例えば、プラスチックを溶融押し出しし、必要に応じ、長手方向(MD方向)および/または幅方向(TD方向)に延伸、冷却、熱固定を施した延伸フィルムを用いることができる。機械的強度が得られる点で、長手方向および幅方向に延伸を施した2軸延伸フィルムが好ましい。プラスチックとしては、ナイロン4・6、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン12等に代表されるポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート等に代表されるポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等に代表されるポリオレフィン;のほか、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリ乳酸等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、寸歩安定性、透明性の点でポリエステルが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートに他の成分を共重合した共重合体が好ましい。
【0018】
基材フィルムとしては、機械強度、透明性等所望の目的や用途に応じて任意の膜厚のものを使用することができ、その膜厚は特に限定されないが、通常は5~250μmであることが推奨され、包装材料として用いる場合は10~60μmであることが望ましい。基材フィルムの幅は、加工時のハンドリング、後工程、機械コストの観点から、1000mm以上、5,000mm以下が好ましく、3,000mm以下がさらに好ましく、2,000mm以下がより好ましい。基材フィルムの透明度は、特に限定されるものではないが、透明性が求められる包装材料として使用する場合には、50%以上の光線透過率をもつものが望ましい。
【0019】
基材フィルムは、1種のプラスチックからなる単層型フィルムであってもよいし、2種以上のプラスチックフィルムが積層された積層型フィルムであってもよい。積層型フィルムとする場合の積層フィルムの種類、積層数、積層方法等は特に限定されず、目的に応じて公知の方法から任意に選択することができる。また基材フィルムには、本発明の目的を損なわない限りにおいて、コロナ放電処理、グロー放電、火炎処理、表面粗面化処理等の表面処理が施されていてもよく、また、公知のアンカーコート処理、印刷、装飾等が施されてもよい。
【0020】
MD収縮率とは、Machine Directionすなわち縦方向の収縮率のことであり、TD収縮率とは、Transverse Directionすなわち横方向の収縮率のことである。
【0021】
使用する基材フィルムの初期の130℃30分レトルト処理前後のMD熱収縮率は1.6%以下であることが必要であり、通常1.5%以下が好ましく、さらに好ましくは1.4%以下である。幅方向MD熱収縮率差△は0.6%以下が好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.4%以下がより好ましい。また、TD熱収縮率は-0.6%以上が好ましく、-0.5%以上がさらに好ましく、-0.4%以上がより好ましい。
【0022】
[無機薄膜層]
本発明の積層フィルムは、前記基材フィルムの上に無機薄膜層を有する。無機薄膜層は樹脂基材上に直接積層され、両層の間には層を設けない。
【0023】
無機薄膜層は金属または無機酸化物からなる薄膜である。無機薄膜層を形成する材料は、薄膜にできるものなら特に制限はないが、ガスバリア性の観点から、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの混合物等の無機酸化物が好ましく挙げられる。特に、生産性の観点からは、酸化アルミニウムが好ましい。また、後述の本願の所定の保護層と酸化アルミニウムからなる無機薄膜層を組み合わせた構成の積層フィルムは、特に酸性処理後の酸素透過率と水付けラミネート強度において、顕著な改良効果を有するので好ましい。なお、ここでいう酸化ケイ素とはSiOやSiO2等の各種珪素酸化物又はそれらの混合物であり、酸化アルミニウムとは、AlOやAl23等の各種アルミニウム酸化物又はそれらの混合物である。
【0024】
無機薄膜層の膜厚は、通常1~100nm、好ましくは3~50nm、さらに好ましくは5~20nmである。無機薄膜層の膜厚が1nm未満であると、満足のいくガスバリア性が得られ難くなる場合があり、一方、100nmを超えて過度に厚くしても、それに相当するガスバリア性の向上効果は得られず、耐屈曲性や製造コストの点でかえって不利となる。
【0025】
無機薄膜層を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法(PVD法)、あるいは化学蒸着法(CVD法)等、公知の蒸着法を適宜採用すればよい。以下、無機薄膜層を形成する典型的な方法を、酸化アルミニウム薄膜を例に説明する。例えば、真空蒸着法を採用する場合は、蒸着原料としてAl23あるいはAlが好ましく用いられる。これら蒸着原料としては通常粒子が用いられるが、その際、各粒子の大きさは蒸着時の圧力が変化しない程度の大きさであることが望ましく、好ましい粒子径は1mm~5mmである。加熱には、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱、レーザー加熱などの方式を採用することができる。また、反応ガスとして酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を採用することも可能である。さらに、被蒸着体(蒸着に供する積層フィルム)にバイアスを印加したり、被蒸着体を加熱もしくは冷却するなど、成膜条件も任意に変更することができる。このような蒸着材料、反応ガス、被蒸着体のバイアス、加熱・冷却等は、スパッタリング法やCVD法を採用する場合にも同様に変更可能である。
【0026】
[保護層]
本発明においては、前記無機薄膜層の上に保護層を有する。プラスチックフィルム上に積層した無機薄膜層は完全に密な膜ではなく、微小な欠損部分が点在している。無機薄膜層上に後述する特定の保護層用樹脂組成物を塗工して保護層を形成することにより、無機薄膜層の欠損部分に保護層用樹脂組成物中の樹脂が浸透し、結果としてガスバリア性が安定するという効果が得られる。加えて、保護層そのものにもガスバリア性を持つ材料を使用することで、積層フィルムのガスバリア性能も大きく向上することになる。
【0027】
本発明においては、保護層の塗布量を0.05~0.60g/m2とすることが好ましい。これにより、均一性によりコートムラや欠陥を減少させつつ、アンカー効果で接着性を高めることができる。また保護層自体の凝集力が向上し、無機薄膜層-保護層間の密着性が強固になり、耐水性を高めることもできる。保護層の塗布量は、好ましくは0.08g/m2以上、より好ましくは0.10g/m2以上、さらに好ましくは0.15g/m2以上であり、好ましくは0.50g/m2以下、より好ましくは0.45g/m2以下、さらに好ましくは0.40g/m2以下である。保護層の塗布量が0.60g/m2を超えると、ガスバリア性は向上するが、保護層内部の凝集力が不充分となり、密着が低下するおそれがある。またコート外観にムラや欠陥が生じたり、湿熱処理後のガスバリア性・接着性を充分に発現できない場合がある。一方、保護層の膜厚が0.10g/m2未満であると、充分なガスバリア性および層間密着性またインクの浸透性が得られないおそれがある。
【0028】
保護層の成分としては、溶剤分散樹脂、水分散樹脂のどちらを用いても構わない。特に、無機薄膜層との密着性を向上させるためには、溶剤分散樹脂が好ましい。さらに、高いガスバリア性を得るためにジカルボン酸および多価アルコールを反応させて得られるポリエステルポリオール成分、および、ポリイソシアネート成分から成る樹脂が好ましい。
【0029】
(A)ポリエステル成分
ポリエステル成分は、多価カルボン酸および多価アルコールを反応させて得られる。
【0030】
多価カルボン酸としては、芳香族多価カルボン酸、脂環族多価カルボン酸、脂肪族多価カルボン酸等が含まれる。ガスバリア性の観点から、芳香族多価カルボン酸が好ましい。例えば、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、アントラセン-1,2-ジカルボン酸、アントラキノン-2,3-ジカルボン酸である。
【0031】
多価アルコールとしては、低分子量のグリコールから高分子量のものまで用いることはできるが、ガスバリア性および非晶部による柔軟性の観点から、アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘプタンジオール、オクタンジオール等の直鎖状または分岐鎖状C2-10アルキレングリコール)、(ポリ)オキシC2-4アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール等)等の低分子量グリコールが使用される。好ましいグリコール成分は、C2-8ポリオール成分[例えば、C2-6アルキレングリコール(特に、エチレングリコール、1,2-または1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール)等]、ジまたはトリオキシC2-3アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等)であり、特に好ましいジオール成分はC2-8アルキレングリコール(特にC2-6アルキレングリコール)である。
【0032】
これらのジオール成分は単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。さらに必要に応じて、芳香族ジオール(例えば、ビスフェノールA、ビスヒドロキシェチルテレフタレート、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、1,3-または1,4-キシリレンジオールもしくはその混合物等)、脂環族ジオール(例えば、水添ビスフェノールA、キシリレンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等)等の低分子量ジオール成分を併用してもよい。さらに、必要により、3官能以上のポリオール成分、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオールも併用することができる。ポリオール成分は、少なくともC2-8ポリオール成分(特に、C2-6アルキレングリコール)を含むのが好ましい。
【0033】
(B)ポリイソシアネート成分
ポリイソシアネート成分としては、芳香族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート等が含まれる。ポリイソシアネート化合物としては、通常、ジイソシアネート化合物が使用される。
【0034】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(2,4-または2,6-トリレンジイソシアネートもしくはその混合物)(TDI)、フェニレンジイソシアネート(m-、p-フェニレンジイソシアネートもしくはその混合物)、4,4'-ジフェニルシイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシネート(4,4'-、2,4'-、または2,2'-ジフェニルメタンジイソシネートもしくはその混合物)(MDI)、4,4'-トルイジンジイソシアネート(TODI)、4,4'-ジフェニルエーテルシイソシアネート等が例示できる。芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート(1,3-または1,4-キシリレンジイソシアネートもしくはその混合物)(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(1,3-または1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネートもしくはその混合物)(TMXDI)、ω,ω'-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン等が例示できる。
【0035】
脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート(1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート)、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロジイソシアネート、IPDI)、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(4,4'-、2,4'-または2,2’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート))(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート(メチルー2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルー2,6-シクロヘキサンジイソシアネート)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(1,3-または1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンもしくはその混合物)(水添XDI)等を挙げることができる。
【0036】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート(テトラメチレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンダメチレンジイソシアネート、2,4,4-または2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカフェート等を挙げることができる。
【0037】
ポリエステル成分(A)およびポリイソシアネート成分(B)を反応させることにより、ウレタン樹脂が得られる。ポリエステル成分およびポリイソシアネート成分の重量比は固形分で、9:1~1:9である。好ましくは8:2~2:8であり、さらに好ましくは6:4~4:6である。
【0038】
本発明の保護層用樹脂組成物には、後述のようにシランカップリング剤を含有することが好ましいが、必要に応じて、ガスバリア性を損なわない範囲で、各種の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、層状無機化合物、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等)、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、着色剤、フィラー、結晶核剤等が例示できる。
【0039】
シランカップリング剤は、無機薄膜層に対する保護層の密着性を改良するのに有効である。シランカップリング剤としては、加水分解性アルコキシシラン化合物、例えば、ハロゲン含有アルコキシシラン(2-クロロエチルトリメトキシシラン、2-クロロエチルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロC2-4アルキルトリC1-4アルコキシシランなど)、エポキシ基を有するアルコキシシラン[2-グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン等のグリシジルオキシC2-4アルキルトリC1-4アルコキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等のグリシジルオキシジC2-4アルキルジC1-4アルコキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン等の(エポキシシクロアルキル)C2-4アルキルトリC1-4アルコキシシラン等]、アミノ基を有するアルコキシシラン[2-アミノエチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノC2-4アルキルトリC1-4アルコキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン等のアミノジC2-4アルキルジC1-4アルコシシラン、2-[N-(2-アミノエチル)アミノ]エチルトリメトキシシラン、3-[N-(2-アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン、3-[N-(2-アミノエチル)アミノ]プロピルトリエトキシシラン等の(2-アミノC2-4アルキル)アミノC2-4アルキルトリC1-4アルコキシシラン、3-[N-(2-アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジメトキシシラン、3-[N-(2-アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジエトキシシラン等の(アミノC2-4アルキル)アミノジC2-4アルキルジC1-4アルコキシシラン等]、メルカプト基を有するアルコキシシラン(2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトC2-4アルキルトリC1-4アルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のメルカプトジC2-4アルキルジC1-4アルコキシシラン等)、ビニル基を有するアルコキシシラン(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルトリC1-4アルコキシシラン等)、エチレン性不飽和結合基を有するアルコキシシラン[2-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロキシC2-4アルキルトリC1-4アルコキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロキシジC2-4アルキルジC1-4アルコキシシラン等)等が例示できる。前記のシランカップリング剤のうちで、アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が好ましく、アミノプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。これらのシランカップリング剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0040】
シランカップリング剤の含有量の割合は、保護層に対して、5.0重量%以下、好ましくは2.0~4.5重量%、さらに好ましくは3.0~4.0重量%程度である。
【0041】
保護層用樹脂組成物により保護層を形成する場合、前記組成物および有機溶剤からなる塗工液(塗布液)を用意し、基材フィルムに塗布、乾燥すればよい。有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類から選択される単独または混合溶剤を使用することができ、塗膜加工および臭気の観点からはメチルエチルケトン、酢酸エチルが好ましい。
【0042】
保護層用樹脂組成物の塗工方式は、フィルム表面に塗工して層を形成させる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、グラビアコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、ダイコーティング等の通常のコーティング方法を採用することができる。生産性と塗工安定性の観点から、ワイヤーバーコーティング、グラビアコーティングが好適に用いられる。
なお、本発明においては、以下のように保護層を塗工・乾燥する際に特定の工程条件を採用することにより、積層フィルムにおいて所定の熱収縮率を得ると共に、幅方向の熱収縮率のバラツキを低減することができる。
【0043】
保護層を形成する際には、保護層用樹脂組成物を塗布した後、加熱乾燥することが好ましく、その際の乾燥温度は110~210℃が好ましく、より好ましくは115~205℃、さらに好ましくは120~200℃である。乾燥温度が110℃未満であると、保護層に乾燥不足または熱による凝集不足が生じ、表面硬度が所定範囲外となるおそれがある。その結果、密着性およびボイル処理、レトルト処理を施した際の保護層の耐水性が低下するおそれがある。一方、乾燥温度が210℃を超えると、保護層の凝集が進みすぎて膜が硬くなりバリア層が破壊されバリア性能が低下するおそれがある。また、基材であるフィルム自体に熱がかかりすぎてしまいフィルムが脆くなったり、収縮して加工性が悪くなる虞がある。なお、乾燥とは別に、追加の熱処理(例えば、150~190℃)を加えることも、保護層の乾燥を進行させる上で、効果的である。
【0044】
保護層の乾燥時間は、30秒以内が好ましい。乾燥時間が30秒を超えると、保護層の乾燥のみでなく、基材フィルムの収縮が起こり、ガスバリア層に割れが生じ、ガスバリア性能が低下する。一方で、5秒より短い場合、保護層が硬化せず、密着性やバリア性の低下が生じる。生産性の観点から、さらに好ましくは5~25秒、より好ましくは10~20秒である。フィルムが急激に加熱されるとフィルムが大きく収縮され、ガスバリア層に圧縮応力が生じ、バリア性能が低下する。50℃/秒以下の速度で温度を上昇させていくことが好ましい。さらに好ましくは30℃/秒以下であり、より好ましくは20℃/秒以下である。
【0045】
保護層を形成する工程での加熱時の表面温度は、100~150℃が好ましく、さらに好ましくは105~145℃であり、より好ましくは110~140℃である。
【0046】
保護層を形成する工程での加熱時のフィルム張力は、30~90N/mが好ましい。さらに好ましくは、40~80N/mであり、より好ましくは50~70N/mである。20N/m未満の場合、巻き不良が生じ、100N/mを超えると、ガスバリア層に引張応力が生じ、バリア性能が低下する。
【0047】
積層フィルムとなった後の130℃30分レトルト処理前後のMD熱収縮率は0.0%以上1.2%以下であることが必要であり、通常0.1%以上1.1%以下が好ましく、0.2%以上1.0%以下がより好ましく、さらに好ましくは0.3%以上0.9%以下である。幅方向MD熱収縮率差△は0.3%以下が好ましく、0.2%以下がさらに好ましく、0.1%以下がより好ましい。また、TD熱収縮率は―0.5%以上0.4%以下が好ましく、-0.4%以上0.3%以下がさらに好ましく、-0.3%以上0.2%以下がより好ましい。
【0048】
無機薄膜層を有する基材フィルムのMD方向、TD方向の熱収縮率が、幅方向でバラつきを有していたとしても、保護層を形成する工程で、幅方向で△3℃のバラつき内の所定の温度および所定の張力下で乾燥させることにより、幅方向でバラつきのない熱収縮率を得ることができる。
【0049】
[ヒートシール層]
無機薄薄膜層を備えたガスバリア性積層フィルムを包装材料として用いる場合には、シーラントと呼ばれるヒートシール層を形成することが好ましい。ヒートシール層は通常、無機薄膜層上に設けられるが、基材フィルムの外側(保護層形成面の反対側の面)に設けることもある。ヒートシール性樹脂の形成は、通常押出しラミネート法あるいはドライラミネート法によりなされる。ヒートシール性樹脂層を形成する熱可塑性重合体としては、シーラント接着性が充分に発現できるものであればよく、HDPE、LDPE、LLDPEなどのポリエチレン樹脂類、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-α-オレフィンランダム共重合体、アイオノマー樹脂等を使用できる。レトルト処理のような湿熱処理を施す場合には、ポリプロピレン樹脂を用いてドライラミネート法で形成させるのが好ましい。ヒートシール層は、通常は20~250μmであることが推奨され、包装材料として用いる場合は40~100μmであることが望ましい。
【0050】
保護層とヒートシール層の接着には、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリエステル樹脂、エーテル樹脂等が用いられる。レトルト処理のような湿熱処理を施す場合には、ポリウレタン樹脂とポリイソシアネート樹脂の反応物を接着剤として用いるのが好ましい。塗布量は、貼り合わせるフィルムの材質によって異なるが、1~20g/m2が好ましく、さらに好ましくは2~10g/m2であり、より好ましくは3~6g/m2である。接着温度は、ヒートシール層の厚みと接着剤の厚みによって設定されるが、50~120℃が好ましく、さらに好ましくは55~100℃であり、より好ましくは60~80℃である。
【0051】
以上より本発明の積層フィルムは、常態およびレトルト処理を施した後にも水蒸気バリア性および外観に優れ、かつ印刷・ラミネート等の加工を施した際も良好な接着性を有し、しかも製造が容易で経済性にも優れたガスバリア性積層フィルム(積層フィルム)となる。
【0052】
[その他の層]
本発明の積層フィルムを用いてなる無機薄膜層を備えたガスバリア性積層フィルムには、上記基材フィルム、無機薄膜層、保護層のほかに、必要に応じて、公知のガスバリア性積層フィルムが備えている種々の層を設けることができる。例えば、ガスバリア性積層フィルムおよびヒートシール層の間に、中間層としてポリアミド樹脂を備え、積層体の密着性や柔軟性を向上させることができる。また、無機薄膜層形成時に発生する無機酸化物の酸素欠損部分や金属水酸化物と反応させ密着性を向上させるため、被覆層があってもよい。
【0053】
さらに、無機薄薄膜層を備えたガスバリア性積層フィルムには、無機薄膜層または基材フィルムとヒートシール性樹脂層との間またはその外側に、印刷層や他のプラスチック基材および/または紙基材を少なくとも1層以上積層していてもよい。
【0054】
印刷層を形成する印刷インクとしては、水性および溶媒系の樹脂含有印刷インクが好ましく使用できる。ここで印刷インクに使用される樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル共重合樹脂およびこれらの混合物が例示される。印刷インクには、帯電防止剤、光線遮断剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、フィラー、着色剤、安定剤、潤滑剤、消泡剤、架橋剤、耐ブロッキング剤、酸化防止剤等の公知の添加剤を含有させてもよい。印刷層を設けるための印刷方法としては、特に限定されず、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等の公知の印刷方法が使用できる。印刷後の溶媒の乾燥には、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線乾燥等公知の乾燥方法が使用できる。
【0055】
他方、他のプラスチック基材や紙基材としては、充分な積層フィルムの剛性および強度を得る観点から、紙、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂および生分解性樹脂等が好ましく用いられる。また、機械的強度の優れたフィルムとする上では、二軸延伸ポリエステルフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム等の延伸フィルムが好ましい。
【0056】
特に、無機薄膜層を備えたガスバリア性積層フィルムを包装材料として用いる場合、無機薄膜層とヒートシール性樹脂層との間に、ピンホール性や突き刺し強度等の機械的物性を向上させるため、ナイロンフィルムを積層することが好ましい。ここでナイロンの種類としては、通常、ナイロン6、ナイロン66、メタキシレンアジパミド等が用いられる。ナイロンフィルムの厚さは、通常10~30μm、好ましくは15~25μmである。ナイロンフィルムが10μmより薄いと、強度不足になるおそれがあり、一方、30μmを超えると、腰が強く加工に適さない場合がある。ナイロンフィルムとしては、縦横の各方向の延伸倍率が、通常2倍以上、好ましくは2.5~4倍程度の二軸延伸フィルムが好ましい。
【0057】
本発明の積層フィルムは、基材層、無機薄膜層、および保護層以外の上述した各層を有する態様をも包含する。
【0058】
本発明の積層フィルムの水蒸気透過率は、2.5g/m2・day以下であることが好ましく、より好ましくは2.0g/m2・day以下であり、さらに好ましくは1.5g/m2・day以下である。また、レトルト処理を施した際の水蒸気透過率は、2.5g/m2・day以下であることが好ましく、より好ましくは2.0g/m2・day以下であり、さらに好ましくは1.5g/m2・day以下である。
【実施例0059】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0060】
各実施例、比較例で用いた加工方法および評価・物性測定方法は以下の通りである。
【0061】
(1)フィルム表面温度の測定方法
フィルム表面温度は、熱電対(岡崎製作所社製、AEROPAKシース熱電対)を使用した。
【0062】
(2)評価用ラミネート積層フィルムの作製
各積層フィルムの上に、ポリウレタン系2液硬化型接着剤(三井化学社製「タケラック(登録商標)A525S」と「タケネート(登録商標)A50」を13.5:1(質量比)の割合で配合)を用いて、厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(東洋紡株式会社製「ハーデンフィルムN1102」)およびヒートシール性樹脂層として厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡株式会社製「P1146」)をこの順でドライラミネート法により貼り合わせ、40℃にて4日間エージングを施すことにより、評価用のラミネートガスバリア性積層フィルムを得た。なお、ウレタン系2液硬化型接着剤で形成される接着剤層の乾燥後の厚みはいずれも約4μmであった。幅方向で500mmの間隔でサンプルを切り出し、水蒸気透過率測定を実施した。
【0063】
(3)レトルト処理方法
積層フィルムあるいは前記(2)で得られた積層体に対して、熱水スプレー式レトルト殺菌装置(日阪製作所社製「RCS-60SPXTG」)を用いて、130℃で30分間レトルト処理を行った。その後、40℃室にて1日間乾燥させ、積層体を得た。
【0064】
(4)レトルト処理前後の熱収縮率の評価方法
ロールの両端面から50mm内側に入った位置を端とし、TD方向210mm×MD方向297mmの寸法のフィルムを切り出した。さらに、TD方向の中心部においても、TD方向210mm×MD方向297mmの寸法のフィルムを切り出し試験片とした。得られたフィルムの中心にMD方向に沿って15mm、TD方向に沿って10mmの標線を付けた。レトルト処理前の試験片の標線の間隔を0.1mmの精度で測定した。試験片を熱水スプレー式レトルト殺菌装置(日阪製作所社製「RCS-60SPXTG」)内に置き、130℃、30分の湿熱条件で処理を施した。試験片を装置から取り出して室温まで冷却した後,初めに測定したときと同じ部分について長さおよび幅を測定した。各試験片の寸法変化率は,MD方向およびTD方向について寸法変化の初期値に対する百分率として計算した。各方向の寸法変化率は,その方向での測定値の平均とした。
【0065】
(5)水蒸気透過度の評価方法
前記(2)及び(3)で得られた積層フィルムに対して、JIS-K7129に準じて、水蒸気透過度測定装置(MOCON社製「PERMATRAN-3/33MW」)を用い、温度40℃、相対湿度90%の雰囲気下で、水蒸気透過度を測定した。なお、水蒸気透過度の測定は、保護層を積層していない基材フィルム側から保護層側に水蒸気が透過する方向で行った。
【0066】
(6)外観の評価方法
ロール法によって塗工液を塗布した後の、巻き上がったロールの外観を目視で確認した。
【0067】
各実施例、比較例において保護層の形成に用いた各材料は以下のようにして調製した。
【0068】
<保護層A形成に用いた材料の調製(塗工液a)>
数平均分子量450~3,000のポリエステル樹脂(オルト配向芳香族ジカルボン酸又はその無水物の少なくとも1種を含む多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分を主成分としてなるポリエステル)30%を、メチルエチルケトン70%に溶解した(ポリエステル溶液)。シランカップリング剤(信越化学社製「KBM-603」)をアセトンに溶解した溶液およびメタキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(三井化学社製「タケネートD-110N」:固形分濃度75%)を混合させ、10分間マグネチックスターラ―を用いて撹拌した。得られた調合液をメチルエチルケトンで希釈し、さらにポリエステル溶液を添加し、固形分濃度が5%となるようなポリエステルウレタン塗工液aを得た。
<保護層B形成に用いた材料の調製(塗工液b)>
重量平均分子量35,000のポリエステル樹脂(テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコールおよびプロピレングリコールを主成分としてなるポリエステル)25%を、酢酸プロピル35%および酢酸エチル40%に溶解した(ポリエステル溶液)。該溶液14.00%および、酢酸エチル41.40%、酢酸プロピル43.10%、イソシアネート基を有するポリイソシアネート(コロネートL、日本ポリウレタン(株)製)1.30%、シランカップリング剤(信越化学社製「KBM-903」)0.2%を混合し、固形分濃度が5%となるようなポリエステルウレタン塗工液bを得た。
<保護層C形成に用いた材料の調製(塗工液c)>
重量平均分子量30,000のポリメタクリル酸を、酢酸エチル/イソプロピルアルコール混合溶剤(酢酸エチル/イソプロピルアルコール=1:1(質量比))で希釈して、固形分濃度が5%となるようなポリメタクリル酸塗工液cを得た。
【0069】
(実施例1)
予めMD、および、TD方向の熱収縮率を測定した、酸化アルミニウムの無機薄膜層10nmを形成した厚み12μm、幅1,000mmの二軸延伸ポリエステルフィルムの無機薄膜層上に、得られたa~cの塗工液をロール法によって塗布し、20℃/秒以下の昇温速度でオーブン炉内滞在時間が10秒となるように昇温・降温し、フィルム表面温度が表1の通りになるように乾燥させ、保護層を得た。乾燥後の塗布量は0.3g/m2であった。ドライヤー通過後の張力は、オーブン前後のロールの回転速度比を調整させ、50N/mとした。以上のようにして、樹脂基材/無機薄膜層/保護層を備えた積層フィルムを作製した。得られた積層フィルムについて、MD、および、TD方向の熱収縮率を測定し、上記の通りラミネート積層体を作製した。さらに、130℃30分のレトルト処理を施し、水蒸気透過度の変化について評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例2~4)
保護層およびフィルム表面温度および炉内通過後の張力を表1に示す通りとなるよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製し、水蒸気透過度を評価した。
【0071】
(実施例5)
原反幅の異なる無機蒸着層が形成された二軸延伸ポリエステルフィルムを用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製し、水蒸気透過度を評価した。
【0072】
(比較例1~2)
フィルム表面温度および炉内通過後の張力を表1に示す通りとなるよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製し、水蒸気透過度を評価したところ、レトルト処理後の値が低下した。
【0073】
(比較例3)
フィルム表面温度を表1に示す通りとした場合、コート加工後のフィルムが強いシワを有しており、実施例1と同様にして積層体を作製し、水蒸気透過度を評価したところ、レトルト処理前においても値が低下した。
【0074】
(比較例4)
フィルム表面温度を表1に示す通りとした場合、加工後のフィルム表面がタック性を有しており、評価することができなかった。
【0075】
(比較例5)
ドライヤー通過後の張力を表1に示す通りとした場合、張力の値が弱く、ロールにフィルムを巻くことができなかった。
【0076】
(比較例6)
保護層を表1に示す通りとなるよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製し、水蒸気透過度を評価したところ、レトルト処理後の値が低下した。
【0077】
(比較例7)
酸化アルミニウムの無機薄膜層を形成した二軸延伸ポリエステルフィルムに、塗工液を塗布せずに、乾燥工程のみを施したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製し、水蒸気透過度を評価したところ、レトルト処理前においても値が低下した。
【0078】
【表1A】
【0079】
【表1B】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明により、常態においては勿論のことレトルト処理を施した後にも、ガスバリア性に優れる積層フィルムを提供することができた。本発明のガスバリア性積層フィルムは、製造が容易で経済性や生産安定性に優れ、均質な特性が得られやすいという利点を有している。また、プロセス中での改善であることから、多品種・小ロットにも対応しやすい。従って、ガスバリア性積層フィルムは、レトルト処理用の食品包装に止まらず、各種食品や医薬品、工業製品等の包装用途の他、太陽電池、電子ペーパー、有機EL素子、半導体素子等の工業用途にも広く用いることができる。