(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086780
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】成形材料及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08F 22/10 20060101AFI20240621BHJP
C08G 81/02 20060101ALI20240621BHJP
C08K 5/1545 20060101ALI20240621BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20240621BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240621BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240621BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20240621BHJP
C07H 13/04 20060101ALI20240621BHJP
C08B 37/14 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C08F22/10
C08G81/02
C08K5/1545
C08L33/04
C08K3/08
C08L101/00
C08L53/00
C07H13/04
C08B37/14
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060509
(22)【出願日】2024-04-04
(62)【分割の表示】P 2019238850の分割
【原出願日】2019-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2019004813
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】森田 和代
(72)【発明者】
【氏名】服部 貴美子
(57)【要約】
【課題】本発明は、成形性に優れ、かつ透明性に優れた成形体を形成できる成形材料を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、ペントース誘導体由来単位を含むポリマーを含有する成形材料に関する。また、本発明は、成形材料を成形してなる成形体に関するものでもある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペントース誘導体由来単位を含むポリマーを含有する成形材料。
【請求項2】
前記ペントース誘導体由来単位の含有量は、前記成形材料の全質量に対して20質量%以上である、請求項1に記載の成形材料。
【請求項3】
前記ペントース誘導体由来単位は、下記式(1)で表されるモノマーに由来する単位である、請求項1又は2に記載の成形材料;
【化1】
式(1)中、R
1は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アルキル基、アシル基、アリール基、トリメチルシリル基又はホスホリル基を表し、複数あるR
1は同一であっても異なっていてもよい。
【請求項4】
前記ペントース誘導体由来単位は、下記式(2)で表されるモノマーに由来する単位である、請求項1又は2に記載の成形材料;
【化2】
式(2)中、R
1は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アルキル基、アシル基、アリール基、トリメチルシリル基又はホスホリル基を表し、複数あるR
1は同一であっても異なっていてもよい;R
5は、水素原子、アルキル基、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す;Y
1は単結合又は連結基を表す。
【請求項5】
前記ペントース誘導体由来単位はヘミセルロース由来の単位である、請求項1~4のいずれか1項に記載の成形材料。
【請求項6】
ペントース誘導体をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の成形材料。
【請求項7】
樹脂成分をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の成形材料。
【請求項8】
金属導入用である、請求項1~7のいずれか1項に記載の成形材料。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の成形材料を成形してなる成形体。
【請求項10】
全光線透過率が80%以上である、請求項9に記載の成形体。
【請求項11】
金属をさらに含む、請求項9又は10に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料とこの成形材料を用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋汚染対策や地球温暖化対策などにより植物由来プラスチックや生分解性プラスチックが注目されている。植物由来の成分は主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンの3種類である。この中で、セルロースは生分解性がある材料として有名であるが、ヘミセルロースはセルロースよりも更に生分解性が良好であることが報告されている。
【0003】
セルロースを成形材料として活用する技術が検討されている。例えば、特許文献1には樹脂にセルロースナノファイバーを配合した樹脂成形品の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2ではセルロースアセテートとフルオレン系化合物を重合させて射出成形用の材料とする技術が開示されている。引用文献2では、そのほか、木粉そのものの利用やヘミセルロース、リグニンの利用が提案されている。
【0005】
特許文献3では、不飽和ポリエステルと架橋性モノマーを含む不飽和ポリエステル樹脂であって、不飽和ポリエステルの主鎖の一部に木質系材料を基に作成される材料を用いた不飽和ポリエステル樹脂が提案されている。
【0006】
特許文献4では、天然繊維で強化された成形体が開示されている。この成形体は残留水分を含む原料混合物の塑性成形又は熱可塑性成形後に得られた成形材料からなり、最終成形工程後に凝固され、少なくとも一つの植物又は動物の繊維材料と、少なくとも一つの熱可塑性又は熱硬化性プラスチックと、少なくとも一つの水結合性バイオポリマー及び/又は少なくとも一つの水結合性バイオモノマーを含む成形体である。特許文献4には、植物繊維やバイオポリマー及びバイオモノマーとしてヘミセルロースが使用できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-43405号公報
【特許文献2】特開2015-86254号公報
【特許文献3】特開2008-239906号公報
【特許文献4】特表2005-506413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される樹脂成形品に使用される材料においては、ポリプロピレンに対するセルロースナノファイバーの混合割合は、射出成形時の流動性の問題から最大20%とされており、植物由来材料の割合を大きくすることは困難であった。
【0009】
これに対し、特許文献2では、植物由来材料であるセルロースアセテートの割合を70-90%と向上させることが可能であるが、フルオレン自体が高価であり、かつ用途によっては成形体の光透過性が十分でないという課題があった。
【0010】
特許文献3では実施例3で木質系材料中のリグニンとセルロースおよびヘミセルロースから作製した材料の合成方法を開示している。しかしながら、特許文献3で得られる樹脂の成形性には改善の余地があり、また、成形体の光透過性も不十分であった。
【0011】
特許文献4ではバイオポリマー/バイオモノマーとしてヘミセルロースを使用する方法が開示されているが、ヘミセルロースの使用が具体的に開示されておらず、その成形性や従来のプラスチックとの相溶性、透明性についても明らかにされていなかった。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、植物由来の材料として産業的にほぼ活用されてこなかったヘミセルロースを有効活用した上で、成形性に優れ、かつ透明性に優れた成形体を形成できる成形材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
[1] ペントース誘導体由来単位を含むポリマーを含有する成形材料。
[2] ペントース誘導体由来単位の含有量は、成形材料の全質量に対して20質量%以上である、[1]に記載の成形材料。
[3] ペントース誘導体由来単位は、下記式(1)で表されるモノマーに由来する単位である、[1]又は[2]に記載の成形材料;
【化1】
式(1)中、R
1は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アルキル基、アシル基、アリール基、トリメチルシリル基又はホスホリル基を表し、複数あるR
1は同一であっても異なっていてもよい。
[4] ペントース誘導体由来単位は、下記式(2)で表されるモノマーに由来する単位である、[1]又は[2]に記載の成形材料;
【化2】
式(2)中、R
1は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アルキル基、アシル基、アリール基、トリメチルシリル基又はホスホリル基を表し、複数あるR
1は同一であっても異なっていてもよい;R
5は、水素原子、アルキル基、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す;Y
1は単結合又は連結基を表す。
[5] ペントース誘導体由来単位はヘミセルロース由来の単位である、[1]~[4]のいずれかに記載の成形材料。
[6] ペントース誘導体をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の成形材料。
[7] 樹脂成分をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の成形材料。
[8] 金属導入用である、[1]~[7]のいずれかに記載の成形材料。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の成形材料を成形してなる成形体。
[10] 全光線透過率が80%以上である、[9]に記載の成形体。
[11] 金属をさらに含む、[9]又は[10]に記載の成形体。
【0014】
また、本発明は、以下の構成を有するものであってもよい。
【0015】
[101]ペントースが化学修飾された単糖又は多糖誘導体から選ばれる少なくとも1種類の構成要素を含む成形材料。
[102]ペントースが化学修飾された単糖又は多糖誘導体が下記式(1)で表される構造であるか、もしくは下記式(1)で表される構造に由来する単位を含む[101]に記載の成形材料。
【化3】
式(1)中、R
1は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アシル基、アリール基、トリメチルシリル基又はホスホリル基を表し、複数あるR
1は同一であっても異なっていてもよい。
[103]ペントースが化学修飾された単糖又は多糖誘導体が下記式(2)で表される構造であるか、もしくは下記式(2)で表される構造に由来する単位を含む[101]に記載の成形材料。
【化4】
R
1は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アシル基、アリール基、トリメチルシリル基又はホスホリル基を表し、複数あるR1は同一であっても異なっていてもよい;R
5は、水素原子又はアルキル基、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子を表す;Y
1は単結合又は連結基を表す。
[104][101]~[103]いずれかに記載の成形材料を成形してなる成形加工品。
[105][101]~[103]いずれかに記載の成形材料を成形して成形加工品を得る工程を有する成形方法。
[106]更に金属を導入する工程を有する[105]に記載の成形方法。
[107]ペントースが化学修飾された単糖又は多糖誘導体から選ばれる少なくとも1種類の構成要素はヘミセルロースを分解して得られたものである、[105]又は[106]に記載の成形方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ヘミセルロースを有効活用した成形材料であって、成形性に優れ、かつ透明性に優れた成形体を形成できる成形材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において置換・無置換を明記していない置換基については、その基に任意の置換基を有していてもよい意味である。
【0018】
(成形材料)
本発明の成形材料は、ペントース誘導体由来単位を含むポリマーを含有する成形材料に関する。ペントース誘導体は、ペントースが化学修飾された単糖又は多糖誘導体から選ばれる少なくとも1種類である。本明細書において、ペントース誘導体由来単位とは、ペントースが化学修飾された単糖又は多糖誘導体に由来する単位である。なお、本発明の成形材料は、ペントースが化学修飾された単糖又は多糖誘導体を含むものであってもよい。
【0019】
本発明の成形材料において、ペントース誘導体由来単位の含有量(糖誘導体含有率)は、成形材料の全質量に対して20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、35質量%以上であることが一層好ましく、40質量%以上であることが特に好ましい。なお、ペントース誘導体由来単位の含有量(糖誘導体含有率)は、100質量%であってもよい。ペントース誘導体由来単位の含有量(糖誘導体含有率)を上記範囲内とすることにより成形材料から形成される成形体の生分解性をより効果的に高めることができる。
【0020】
ここで、本発明の成形材料におけるペントース誘導体由来単位の含有量(糖誘導体含有率)は、以下の算出式で算出される値である。
ペントース誘導体由来単位の含有率(質量%)=ペントース誘導体由来単位からなるポリマーの質量/成形材料の質量×100
なお、ペントース誘導体由来単位を含むポリマーがペントース誘導体由来単位と他の構成単位とのコポリマーである場合、ペントース誘導体由来単位の含有率は以下の式により算出される。
ペントース誘導体由来単位の含有率(質量%)=ペントース誘導体由来単位の分子量×コポリマー中におけるペントース誘導体由来単位の平均含有数/成形材料の重量平均分子量
【0021】
本発明の成形材料は、上記構成を有するものであるため、成形性に優れている。ここで、成形材料の成形性は、成形材料を加熱加圧成形した後の成形体の性状により評価できる。具体的には、ひび割れがなく外観が良好な成形体が得られる場合に、成形性が良好であると評価できる。また、本発明の成形材料から形成される成形体は透明性にも優れている。成形体の透明性は成形体の全光線透過率から判定できる。具体的には、JIS K 7105に記載の方法で測定した全光線透過率が80%以上である場合に、成形体の透明性が良好であると評価できる。
【0022】
また、本発明の成形材料から形成された成形体は、ペントース誘導体由来単位を含むため、生分解性を有するものである。このような成形体は、海洋汚染や地球温暖化を抑制し得る材料としてその利用が期待される。
【0023】
(ペントース誘導体)
ペントース誘導体(ペントースが化学修飾された単糖又は多糖誘導体)は、ペントース単糖又はペントースが複数グリコシド結合した多糖類のヒドロキシル基の少なくとも1つが置換基で修飾されたものである。置換基としては、後述するような置換基が挙げられるが、例えば、アルキル基、アシル基、アリール基、ホスホリル基、トリメチルシリル基等を例示することができる。このように、ペントースのヒドロキシル基の一部を置換基で修飾することによりヒドロキシル基同士の水素結合力を弱めることが可能となり、成形材料中における相溶性や成形時の流動性を高め、成形性を高めることが可能となる。
【0024】
ペントースが化学修飾された単糖誘導体としてはキシロース誘導体を好ましく例示できる。また、ペントースが化学修飾された多糖誘導体としてはヘミセルロース誘導体、キシロオリゴ糖誘導体を挙げることができ、キシロオリゴ糖誘導体を好ましく例示できる。
【0025】
ペントース誘導体はヘミセルロース由来の材料であることも好ましい。すなわち、ペントース誘導体由来単位はヘミセルロース由来の単位であることがこのましい。ヘミセルロース由来の材料からペントース誘導体を得ることで、ヘミセルロースを有効活用することができる。また、ヘミセルロースは生分解性が高いことが知られており、セルロースと酢酸セルロースがともに生分解性を有していることからも、ヘミセルロース由来の材料を用いることでより効果的に生分解性を高めることができる。
【0026】
ペントース誘導体由来単位は、下記式(1)もしくは(2)で表されるモノマーに由来する単位であることが好ましい。すなわち、成形材料に含まれるポリマーは、下記式(1)もしくは(2)で表されるモノマーに由来する単位を含むものであることが好ましい。
【0027】
【0028】
式(1)中、R1は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アシル基、アリール基、トリメチルシリル基又はホスホリル基を表し、複数あるR1は同一であっても異なっていてもよい。但し、R1の少なくとも1つは、アルキル基、アシル基、アリール基、トリメチルシリル基又はホスホリル基である。
【0029】
【0030】
式(2)中、R1は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アシル基、アリール基、トリメチルシリル基又はホスホリル基を表し、複数あるR1は同一であっても異なっていてもよい。R5は、水素原子、アルキル基、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。Y1は単結合又は連結基を表す。
【0031】
ペントース誘導体由来単位を含むポリマーは、側鎖を有する糖ポリマーであっても良い。ここで、糖ポリマーとは、糖鎖がポリマーの主鎖を構成していてもよく、糖鎖以外の他の構成要素がポリマーの主鎖を構成するものであってもよい。糖以外の他の構成要素がポリマーの主鎖を構成する場合、糖もしくは糖鎖はポリマーの側鎖を構成することになる。また、糖ポリマーが主鎖及び側鎖に糖鎖を有する場合には、主鎖及び側鎖のいずれのペントースが化学修飾されていても良い。
【0032】
糖以外の他の構成要素がポリマーの主鎖を構成する場合、ペントース誘導体由来単位は、下記式(3)で表される単位であることが好ましい。
【化7】
【0033】
式(3)中、R1はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アシル基、アリール基、ホスホリル基又はトリメチルシリル基を表し、アルキル基には糖誘導体基が含まれ、複数あるR1は同一であっても異なっていてもよい;
R’は水素原子、-OR1、アミノ基又は-NR1
2を表す。
R”は水素原子又は-OR1を表す。
なお、R’及びR”におけるR1は、式(3)中のR1と同様であり、好ましい範囲も同様である。
R5は水素原子、アルキル基、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、複数あるR5は同一であっても異なっていてもよい。中でも、R5は水素原子、アルキル基、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子であることが好ましい。
X1及びY1はそれぞれ独立に単結合又は連結基を表し、複数あるX1は同一であっても異なっていてもよく、複数あるY1は同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
糖鎖がポリマーの主鎖を構成する場合、ペントース誘導体由来単位は、下記式(4)で表される単位であることが好ましい。
【化8】
【0035】
式(4)中、R201はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アシル基、アリール基、ホスホリル基又はトリメチルシリル基を表し、複数あるR201は同一であっても異なっていてもよい。
R’は水素原子、-OR1、アミノ基又は-NR1
2を表す。
R”は水素原子又は-OR1を表す。
なお、R’及びR”におけるR1は、式(3)中のR1と同様であり、好ましい範囲も同様である。
*印はR201に代わってR201が結合している酸素原子のいずれか1つとの結合部位を表す。
【0036】
ペントース誘導体由来単位が上記式(3)で表される単位である場合、式(3)中、R1は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アシル基、アリール基、ホスホリル基又はトリメチルシリル基を表す。なお、R1の少なくとも1つは、アルキル基、アシル基、アリール基、ホスホリル基又はトリメチルシリル基であることが好ましい。R1におけるアルキル基は、置換基を有するアルキル基であってもよく、このようなアルキル基には糖誘導体基が含まれるため、式(3)の糖部分(糖誘導体部)はさらに直鎖又は分岐鎖の糖誘導体部を有していてもよい。中でも、R1は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上3以下のアシル基であることが好ましい。なお、複数あるR1は同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
上記式(3)においてR1がアルキル基又はアシル基である場合、その炭素数は、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、炭素数は1以上であることが好ましく、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましく、4以下であることが特に好ましい。
【0038】
上記式(3)におけるR1の具体例としては、例えば、アセチル基、プロパノイル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、クロロアセチル基、トリフルオロアセチル基、シクロペンタンカルボニル基、シクロヘキサンカルボニル基、ベンゾイル基、メトキシベンゾイル基、クロロベンゾイル基等のアシル基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t-ブチル基等のアルキル基などが挙げられる。これらの中でも、メチル基、エチル基、アセチル基、プロパノイル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基が好ましく、アセチル基、プロパノイル基が特に好ましい。
【0039】
式(3)中、R’は水素原子、-OR1、アミノ基、もしくは-NR1
2を表す。R1の具体例としては、上記式(3)におけるR1の具体例と同様のものを例示できる。R’の好ましい構造は-H、-OH、-OAc、-OCOC2H5、-OCOC6H5、-NH2、-NHCOOH、-NHCOCH3であり、R’のさらに好ましい構造は-H、-OH、-OAc、-OCOC2H5、-NH2であり、R’の特に好ましい構造は-OH、-OAc、-OCOC2H5である。
【0040】
式(3)中、R”は水素原子又は-OR1を表す。R1の具体例としては、上記式(3)におけるR1の具体例と同様のものを例示できる。R”の好ましい構造は-H、-OAc、-OCOC2H5、であり、R”のさらに好ましい構造は-H、-OAc、-OCOC2H5である。
【0041】
式(3)中、R5は水素原子、アルキル基、塩素原子、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、複数あるR5は同一であっても異なっていてもよい。中でも、R5は水素原子又は炭素数が1以上3以下のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることが特に好ましい。
【0042】
式(3)中、X
1及びY
1はそれぞれ独立に単結合又は連結基を表し、複数あるX
1は同一であっても異なっていてもよく、複数あるY
1は同一であっても異なっていてもよい。
X
1が連結基である場合、X
1としては、アルキレン基、-O-、-NH
2-、カルボニル基などを含む基が挙げられるが、X
1は単結合であるか、もしくは炭素数が1以上6以下のアルキレン基であることが好ましく、炭素数が1以上3以下のアルキレン基であることがより好ましい。
Y
1が連結基である場合、Y
1としては、アルキレン基、フェニレン基、-O-、-C(=O)O-などを含む基が挙げられる。Y
1はこれらの基を組み合わせた連結基であってもよい。中でもY
1は下記に示される連結基(a)~(e)であることが好ましい。
【化9】
【0043】
連結基(a)~(e)において、※印は主鎖側との結合部位を表し、*印は、側鎖の糖単位との結合部位を表す。
【0044】
なお、本明細書においては、式(3)におけるR
1がアルキル基である場合、該アルキル基は置換基を有するアルキル基であってもよく、このようなアルキル基には糖誘導体基が含まれる。このため、式(3)の糖部分(糖誘導体部)はさらに直鎖又は分岐鎖の糖誘導体部を有していてもよい。すなわち、ペントース誘導体由来単位は式(3’)で表される単位であってもよい。
【化10】
【0045】
式(3’)においてR1、R5、R’、R’’、X1及びY1は、式(3)におけるR1、R5、R’、R’’、X1及びY1と同様である。rは2以上1500以下である。式(3’)における*印はrが2以上の場合にR1のいずれか1つとの結合部位を表すか、もしくはR1に代わってR1が結合している酸素原子のいずれか1つとの結合部位を表す。
【0046】
なお、式(3’)におけるrは、糖誘導体部の重合度を表す。糖誘導体部の平均重合度は下記の測定方法によって算出することができる。まず、ペントース誘導体を含む溶液を50℃に保ち15000rpmで15分間遠心分離し不溶物を除去する。その後、上清液の全糖量と還元糖量(共にキシロース換算)を測定する。そして全糖量を還元糖量で割ることで平均重合度が算出される。なお、上記測定方法が採用できない場合は、ゲル浸透クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、光散乱法、粘度法、末端基定量法、沈降速度法、MULDI-TOF-MS法、NMRによる構造解析法などを採用してもよい。
【0047】
糖誘導体の平均重合度をポリマー合成後に測定する場合は、1H-NMRで糖鎖由来のピーク(3.3-5.5ppm付近)の積分値と、ペントース誘導体のその他の成分由来のピークの積分値を算出し、各積分値の比より平均重合度を算出する。なお、式(3’)におけるR1が水素原子でない場合には、糖鎖由来のピークの代わりに-OR1基由来のピークの積分値を使用することもできる(但しこの場合の-OR1基のR1は糖鎖ではない)。
【0048】
式(3)に記載のペントース誘導体由来単位を含むポリマーを重合する場合、ホモポリマーとしてもよいし、そのほか公知のモノマー材料と混合して重合するコポリマーとしてもよい。公知のモノマー材料は特に限定されないが、メチルメタクリレート、スチレン、乳酸、プロピレン、テレフタル酸、エチレングリコールなども使用することができる。
【0049】
ペントース誘導体由来単位が上記式(4)で表される単位である場合、式(4)中、R201はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アシル基、アリール基、トリメチルシリル基又はホスホリル基を表し、複数あるR201は同一であっても異なっていてもよい。なお、R201の少なくとも1つは、アルキル基、アシル基、アリール基、トリメチルシリル基又はホスホリル基であることが好ましい。
【0050】
式(4)中、R201、R’、R”の好ましい範囲は、式(3)中のR1、R’、R”の好ましい範囲と同様である。
【0051】
本発明の成形材料が含有するポリマーは、式(3)及び式(4)の構成単位を含むコポリマーであってもよい。また、本発明の成形材料が含有するポリマーは式(3)及び/又は式(4)の構成単位に加えて、他の構成単位を含むものであってもよい。
【0052】
本発明の成形材料は、上述したようなペントース誘導体由来単位を含むポリマーを含有する。ポリマーの重量平均分子量は150以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましく、300以上であることがさらに好ましい。また、ポリマーの重量平均分子量は2,000,000以下であることが好ましく、1,000,000以下であることがより好ましく、800,000以下であることがさらに好ましい。なお、ポリマーの重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)よるポリスチレン換算により測定された値である。
【0053】
(樹脂成分)
本発明の成形材料には、ペントース誘導体由来単位を含むポリマーの他に、樹脂成分が混合されていてもよい。樹脂成分としては特に限定されないが、PMMA、PC、PS、ポリ乳酸、ポリプロピレン、PET、PTFE、ポリアミド、PFAなどが挙げられる。本発明の成形材料においては、化学修飾されたペントースを用いているため、化学修飾されていないペントースからなる単糖又は多糖に比べて樹脂成分との相溶性が飛躍的に高められている。
【0054】
樹脂成分は、ペントース誘導体由来単位を含むポリマーを構成する共重合成分として含まれていてもよい。この場合は、ペントース誘導体由来単位と上述した樹脂を構成するモノマーに由来する単位を共重合することでポリマーが形成される。このように、ペントース誘導体由来単位を含むポリマーを構成する共重合成分として樹脂成分が含まれていてもよい。このような共重合体はランダムコポリマーであってもよく、ブロックコポリマーであってもよい。
【0055】
また、樹脂成分は、ペントース誘導体由来単位を含むポリマーとは別に添加されるポリマーであってもよい。このような場合は、樹脂成分はプラスチック材料として添加されてもよい。プラスチック材料としても上述した樹脂成分と同様の材料が例示される。樹脂成分がペントース誘導体由来単位を含むポリマーとは別に添加されるポリマーである場合、ペントース誘導体由来単位を含むポリマーと樹脂成分からなるポリマーが溶融混合される。
【0056】
(任意成分)
本発明の成形材料は、上記成分の他に架橋剤、重合開始剤、相溶性を向上させるような添加剤、着色剤、増粘剤、低収縮剤、補強材、無機充填剤などを含んでもよい。架橋剤又は重合開始剤は、単糖又は多糖の水酸基を置換した基を架橋又は重合するものであってもよいし、成形材料中に含まれる単糖又は多糖の誘導体以外の材料を架橋又は重合するものであってもよい。
【0057】
また、本発明の成形材料には、ペントース誘導体由来単位を含むポリマーの他に、モノマー成分として、ペントース誘導体を含んでいてもよい。モノマー成分としてペントース誘導体を含むことにより、成形材料の成形性を向上させることができる。
【0058】
本発明の成形材料から成形体を形成する工程では、金属成分が導入されてもよい。金属成分が導入された成形体は導電性を発揮することができるため、導電性が求められる用途に好ましく用いられる。このように、本発明の成形材料は、金属導入用の材料であってもよい。
【0059】
(ペントース誘導体由来単位を含むポリマーの合成方法)
ペントース誘導体由来単位を含むポリマーを合成する方法としては、リビングラジカル重合やリビングアニオン重合、原子移動ラジカル重合といった公知の重合法で行うことができる。例えばリビングラジカル重合の場合、AIBN(α、α’-アゾビスイソブチロニトリル)といった重合開始剤を用い、ペントース誘導体等のモノマーと反応させることによってポリマーを得ることができる。リビングアニオン重合の場合、塩化リチウム存在下ブチルリチウムとモノマーを反応させることによってポリマーを得ることができる。なお、本実施例においては、リビングアニオン重合を用いて合成した例を示しているが、それに限ることはなく、上記各合成法や公知の合成法によって適宜合成することができる。
【0060】
(ペントース材料の抽出方法)
ペントース誘導体由来単位を含むポリマーの合成に用いるペントース材料は、合成で得てもよいが、木本性植物、あるいは草本性植物由来材料から抽出する工程を組み合わせて得てもよい。木本性植物、あるいは草本性植物由来のリグノセルロース等から抽出する方法を採用する場合は、特開2012-100546号公報等に記載の抽出方法を利用することができる。キシランについては、例えば特開2012-180424号公報に開示されている方法で抽出することができる。
【0061】
(ペントース材料の化学修飾)
ペントース誘導体は、上記抽出方法等で得られたペントース材料のOH基をアセチル化やハロゲン化などして修飾して用いることが好ましい。例えばアセチル基を導入する場合、ペントース材料を無水酢酸と反応させることによりアセチル化したペントース誘導体を得ることができる。
【0062】
(成形体)
本発明は、上述した成形材料を成形してなる成形体に関するものでもある。中も、成形材料は、上述した成形材料を加熱加圧成形したものであることが好ましい。また、成形体は、上述した成形材料に活性エネルギー先を照射して硬化させてなる成形体であってもよい。
【0063】
本発明の成形体の全光線透過率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。このように、本発明の成形体は透明性に優れているため、光学部品としても好ましく用いられる。
【0064】
本発明の成形体は上述した任意成分や金属をさらに含むものであってもよい。成形体に含まれる金属は、後述する金属を導入する工程において導入されるものである。金属が導入された成形体は導電性を発揮することができるため、導電性が求められる用途に好ましく用いられる。
【0065】
成形体の用途としては、例えば、電子機器や家電製品などの筐体、補強材、土木、建材用部品、内装部品、自動車、二輪車用部品、航空機用部品、鉄道車両用部品、日用雑貨品、包装材などの部材等が挙げられるが、中でも、ディスポーザブルな用途として好適である。本発明の成形体は自然環境中に流出しないことが望ましいが、仮に流出しても、自然環境中で分解されるため環境への負荷を減らすことができる。
【0066】
(成形方法)
本発明の成形体の成形方法としては特に限定されるものではないが、射出成形、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、注型成形、発泡成形、粉末成形、光成形、圧縮成形などが挙げられる。中でも、成形方法は射出成形や押出成形、発泡成形、粉末成形であることが好ましい。
【0067】
また、本発明の成形体を成形する際には、光重合による成形を行うこともできる。この場合は、上述した成形材料に光重合材料を用いることが好ましい。光重合により成形体を成形する際には、例えば凹型や微細パターンが加工されている型に本発明の成形材料を流し入れ、そこに光照射することで成形体を得ることができる。また、基材に所望の厚みでコーティングを行い、その後光を照射することによって成形材料をコーティングした成形体を得ることもできる。或いは下地材料上に成形材料をコーティングして未硬化の樹脂膜を形成し、樹脂膜に型を押し付けながら樹脂膜を光重合させる所謂ナノインプリント技術にも適用できる。本発明の成形材料をナノインプリントで使用する場合は、硬化前の成形材料の粘度を低くするために、ペントース誘導体のモノマー成分を添加することが好ましい。もしくは、ペントース誘導体以外の単糖誘導体又はオリゴ糖誘導体を添加することも好ましい。なお、コーティングの下地材料は特に限定されるものではないが、例えばPET,PP,PE,PS,PC,PMMA,COP(シクロオレフィンポリマー),ポリアミド、セルロースナノファイバー、シリコン、石英といった材料を使用することができる。
【0068】
(金属を導入する工程)
本発明の成形材料を用いて成形体を成形する際には、成形後に金属を導入する工程を設けることも好ましい。金属を導入することにより、成形体の強度を高めたり、導電性を高めたりすることができる。
【0069】
金属を導入する方法としては、成形材料自身に金属材料を混合する、又は金属を配位させる方法もあるが、成形体にしてから金属を導入することもできる。具体的には、CVD(化学蒸着法)やスパッタリング(真空蒸着法)、ALD(原子層堆積法)又はSIS法(Sequencial Infiltration Synthesis;逐次浸透合成)に代表される金属含浸法などがあげられる。中でも、金属を導入する工程は、成形材料を成形した後に設けられることが好ましく、金属ガスを成形体中に含浸させる金属含浸法は、成形体表面のみならず内部まで金属が入るので特に好ましい。この際、金属を導入する工程を成形体全体に行ってもよいし、成形体の中で金属を導入したい部分を選択して金属導入することもできる。
【0070】
金属を導入する工程において導入される金属としては、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Po、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどが挙げられる。このようなプロセスは、例えばJornal of Photopolymer Science and Technology Volume29, Number5(2016)653-657に記載されている方法により行うことができる。
【実施例0071】
以下に例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0072】
[糖の調製]
キシロオリゴ糖およびキシロースは特開2012-100546を参考に、木材パルプから抽出を行った。
【0073】
[実施例1]
(アセチル糖メタクリレート1の合成)
キシロース1kgを無水酢酸12kgと酢酸16kgの混合溶液へ添加し、30℃で2時間攪拌した。溶液のおよそ5倍量の冷水を攪拌しながらゆっくりと加え、2時間攪拌したのちに1晩静置した。フラスコ中でTHF20Lにエチレンジアミン60gと、酢酸70gを加えて0℃にした溶液に、析出した結晶1kgを加え、4時間攪拌した。これを冷水50Lに注入し、ジクロロメタンで2回抽出した。得られた抽出物1kg、ジクロロメタン15L及びトリエチルアミン240gをフラスコに入れ、-30℃に冷却した。次いで、塩化メタクリロイル140gを加えて2時間攪拌した。これを冷水15Lに注入し、ジクロロメタンで2回抽出し、溶媒を濃縮することにより、アセチル糖メタクリレート1を810g得た。得られたアセチル糖メタクリレート1の構造は下記式(6)のとおりである。
【化11】
【0074】
(アセチル糖メタクリレートポリマー1の合成)
フラスコにテトラヒドロフラン500mL、塩化リチウムの2.6質量%THF溶液(東京化成工業社製)92gを加え、アルゴン雰囲気下で-78℃まで冷却した。n-ブチルリチウムの15.4質量%濃度ヘキサン溶液(東京化成工業社製)13gを加え、5分間攪拌後、脱水・脱気処理を行った。次いで、アセチル糖メタクリレート1(300g)を加えて30分間攪拌した。その後メタノール10gを加えて反応を停止させ、アセチル糖メタクリレートポリマー1を得た。アセチル糖メタクリレートの重合度は350であった。アセチル糖メタクリレートポリマー1の重量平均分子量は34000であった。得られたアセチル糖メタクリレートポリマー1を成形材料とした。
【0075】
[実施例2]
(アセチル糖メタクリレート2の合成)
実施例1の(アセチル糖メタクリレート1の合成)においてキシロースに代えて平均重合度3のキシロオリゴ糖を用いた以外は、アセチル糖メタクリレート1の合成と同様にしてアセチル糖メタクリレート2を合成した。
【0076】
(アセチル糖メタクリレートポリマー2の合成)
フラスコにテトラヒドロフラン500mL、塩化リチウムの2.6質量%THF溶液(東京化成工業社製)92gを加え、アルゴン雰囲気下で-78℃まで冷却した。n-ブチルリチウムの15.4質量%濃度ヘキサン溶液(東京化成工業社製)13gを加え、5分間攪拌後、脱水・脱気処理を行った。次いで、アセチル糖メタクリレート2(300g)を加えて30分間攪拌した。その後メタノール10gを加えて反応を停止させ、アセチル糖メタクリレートポリマー2を得た。
【0077】
(ポリ乳酸の合成)
フラスコにL-乳酸900gを加え、脱気した後、アルゴン雰囲気下で脱水トルエン(和光純薬社製)4L、2-エチルヘキサン酸スズ(II)(シグマアルドリッチ社製)7mLを加え、90℃で24時間攪拌した。反応後、室温まで冷却し、メタノール5Lを加えて反応を停止させ、ポリ乳酸を得た。
【0078】
(ポリ乳酸-アセチル糖メタクリレート2ブロックコポリマーの合成)
ポリ乳酸-アセチル糖メタクリレート2ブロックコポリマーは、Macromolecules Vol.36,No.6, 2003を参考に合成した。まず、DMF1L中にアセチル糖メタクリレートポリマー2を50g、ポリ乳酸を50g入れ、還元剤として1gのNaCNBH
3を加えた。60℃で7日撹拌し、その間毎日NaCNBH
3を1g追加した。続いて混合物を室温まで冷却し、沈殿させるために水を5L加えた。沈殿物をろ過し、数回冷水で洗浄し、過剰なアセチル糖を除去した。続いて、ろ過した固形分を真空乾燥し、ポリ乳酸-アセチル糖メタクリレート2ブロックコポリマーを得た。得られたブロックコポリマーの構造は下記式(7)のとおりである。
【化12】
【0079】
式(7)中、p=104、q=156、r=1であった。但しp、q、rは得られたブロックコポリマーにおける平均値を示す。得られたポリ乳酸-アセチル糖メタクリレート2ブロックコポリマーの重量平均分子量は32000であった。このポリ乳酸-アセチル糖メタクリレート2ブロックコポリマーを成形材料とした。
【0080】
[実施例3]
(アセチル糖の合成)
キシロオリゴ糖(平均糖鎖長8)1kgを無水酢酸12kgとピリジン15kgの混合溶液へ添加し、30℃で17時間攪拌した。溶液のおよそ5倍量の冷水を攪拌しながらゆっくりと加え、30分攪拌することにより、キシロースアセチル誘導体であるアセチル糖を合成した。得られたアセチル糖、絶乾質量4gに対し、PMMA(シグマアルドリッチ社製、重量平均分子量35万)6gを混合して成形材料とした。
【0081】
[実施例4]
実施例1の(アセチル糖メタクリレート1の合成)で合成したアセチル糖メタクリレート1を10g、重合開始剤としてIRGACURE369(チバスペシャルティケミカルズ社製)を0.3g、ライトエステルM(共栄社化学社製)を3g、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(共栄社化学社製)を2g混合し、キセノンランプを照射して得られたポリマーを成形材料とした。
【0082】
[比較例1]
粉末セルロース(シグマアルドリッチ社製)を成形材料とした。
【0083】
[比較例2]
粉末セルロースシグマアルドリッチ社製)絶乾質量4gに対し、PMMA(シグマアルドリッチ社製、重量平均分子量35万)6gを混合して成形材料とした。
【0084】
[測定及び評価]
<ペントース誘導体由来単位の含有率>
成形材料中におけるペントース誘導体由来単位の含有量は、以下の通り算出した。
ペントース誘導体由来単位の含有率(質量%)=ペントース誘導体由来単位からなるポリマーの質量/成形材料の質量×100
なお、ペントース誘導体由来単位が他の構成単位とのコポリマーとなる場合のペントース誘導体由来単位の含有率は以下のようにして算出した。
ペントース誘導体由来単位の含有率(質量%)=ペントース誘導体由来単位の分子量×コポリマー中におけるペントース誘導体由来単位の平均含有数/成形材料の重量平均分子量
ここで、上記式中における、ペントース誘導体由来単位の分子量、コポリマー中におけるペントース誘導体由来単位の平均含有数及び成形材料の重量平均分子量は、以下のようにして算出した。ペントース誘導体由来単位における糖誘導体部の平均重合度を1H-NMRを用い算出し、ペントース誘導体由来単位の分子量は算出したペントース誘導体の平均重合度から算出した。
成形材料の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)法にて測定を行った。
GPCカラム:Shode x K-806M/K-802連結カラム(昭和電工社製)
カラム温度:40℃
移動層:クロロホルム
検出器:RI
コポリマー中におけるペントース誘導体由来単位の平均含有数は1H-NMRおよびGPCの値から算出した。
コポリマー中におけるペントース誘導体由来単位の平均含有数=(ペントース誘導体由来単位の数比率×成形材料の数平均分子量)/{(ペントース誘導体由来単位の分子量×ペントース誘導体由来単位の数比率)+(他の構成単位の数平均分子量×他の構成単位の数比率)}
【0085】
<成形性>
(熱成形)
実施例及び比較例で得られた成形材料を熱成形することにより、成形性の確認を行った。具体的には、まず、10mmx20mmx2mmの形状の凹部となるように作製したシリコンゴム型に実施例及び比較例で得た成形材料2gを入れた。次いで、ゴム型内を減圧にしてランプで型の外側から160~180℃になるように加熱することによって成形材料を溶融させた。その後、空冷にて1時間冷却させ、型から外して成形体を得た。以下の評価基準にて成形体の外観から成形性を評価した。
○:目視で成形体にひび割れが見られず成形性が良好であった。
×:目視で成形体にひび割れが見られ成形性に問題があった。
【0086】
<透明性>
成形性の評価において作製した成形体の全光線透過率を測定した。全光線透過率は、JIS K 7105に記載の方法で測定した。
【0087】
<導電性>
成形性の評価において作製した成形体をALD(原子層堆積装置:PICUSAN社製 SUNALE R-100B)に入れ、95℃にてAl(CH3)3ガスを導入した後、水蒸気を導入した。この操作を3回繰り返すことで、成形体にAl2O3を導入した。Al2O3導入後の成形体を電子顕微鏡JSM7800F(日本電子製)にて、EDX分析(エネルギー分散型X線分析)を行い、Al成分の比率を算出し、以下の評価基準で導電性を評価した。
○:Al成分の比率が5atom%以上であり成形体が導電性を有する。
×:Al成分の比率が5atom%未満であり成形体が導電性を有しない。
【0088】
【0089】
<光成形性>
実施例4においては、さらに、光成形による成形性の確認を行った。0.1μm厚のPETフィルム上に実施例4の成形材料を200nm厚となるように塗布し、直径100nmのホールが形成されている石英テンプレートの型を押し付けてキセノンフラッシュランプを照射し、型から外した。PETフィルム表面をSEMにて観察したところ、石英テンプレートのホール型を反転した直径100nmのピラー構造(成形体)が形成されていることを確認した。実施例4で得られた石英テンプレートの転写構造体は、欠陥が見られず、光透過性を有していた。
【0090】
以上のように、実施例の成形材料は優れた成形性と透明性を有していた。このように実施例で得られた成形体においては、ひび割れ等の構造欠陥の発生が抑制されており、強度の発現が期待できる。また、光透過性を有することから光学部品として使用可能である。さらに、金属の導入が容易であることから導電性又は帯電防止性を有する部品としても使用できる。加えて、実施例の成形材料を用いて製造した成形体は、ペントース誘導体由来の成分を含むため、生分解性を有している。