(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086793
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/427 20060101AFI20240621BHJP
B60N 2/64 20060101ALI20240621BHJP
B68G 7/05 20060101ALI20240621BHJP
B68G 7/06 20060101ALI20240621BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
B60N2/427
B60N2/64
B68G7/05 C
B68G7/06 B
B60R21/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060950
(22)【出願日】2024-04-04
(62)【分割の表示】P 2022079731の分割
【原出願日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】63/270,008
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/263,244
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 強
(72)【発明者】
【氏名】根岸 寛興
(72)【発明者】
【氏名】山部 篤史
(57)【要約】
【課題】簡便に力布を取り付けることが可能な乗物用シートを提供する。
【解決手段】乗物用シートSは、エアバッグ4aとインフレータ4bとを備える乗物用シートにおいて、フレームFと、フレームF上に配置されるパッド10と、パッド10を覆い、一部にエアバッグ4aの展開時に破断する破断部7が形成された表皮11と、破断部7からパッド10の表面に沿って延び、表皮11よりも引張り伸び量の小さい力布20と、を備え、力布20は、パッド10の表面に接着剤により取り付けられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグとインフレータとを備える乗物用シートにおいて、
フレームと、
該フレーム上に配置されるパッドと、
該パッドを覆い、一部に前記エアバッグの展開時に破断する破断部が形成された表皮と、
前記破断部から前記パッドの表面に沿って延び、前記表皮よりも引張り伸び量の小さい力布と、を備え、
前記力布は、前記パッドの表面に接着剤により取り付けられることを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記接着剤により前記力布と前記パッドの表面とが接着される接着領域は、前記破断部が形成された部分以外の領域に設けられることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記破断部と接続する端部の反対の端部と前記パッドの表面とが前記接着剤により、接着されており、
前記接着剤により接着される接着領域と前記破断部との間に、前記力布と前記パッドの表面とが前記接着剤により接着されない非接着領域を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記力布は、前記パッドの背面側の表面に前記接着剤により取り付けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記力布は、前記エアバッグと前記パッドとの間に挟まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記フレームは、前記乗物用シートの前面側において断面が円弧状に形成された円弧状部を有し、
前記力布は、前記フレームの前記円弧状部に当接して、前記パッドの表面に沿って配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに係り、特に、エアバッグ装置を備える乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用シートには乗員に対する側方からの衝撃に対する保護のために、サイドエアバッグが提供されるようになった。サイドエアバッグは、衝撃荷重を緩衝し且つ分配することにより乗員の保護をしている。
【0003】
シートバックに設けられるサイドエアバッグは、エアバッグの膨張エネルギを効率的に表皮(シートカバー)の継ぎ目の縫合部(ティアライン、破断部)に伝達して縫合部を短時間で破断する。エアバッグを遅滞なく展開させるため、表皮と共に力布を縫合部で縫製し、縫合部の反対側の基端部をバックフレームに固定している。
しかしながら、力布をバックフレームに固定するためにブラケット等が用いられることから、シートバックの構造が複雑になることが課題となっていた。例えば、特許文献1に開示され乗物用シートでは、サイドエアバッグをくるむように力布を巻き付けて固定している。そのため、力布をより容易に固定し作業性を向上させることが望まれていた。
【0004】
力布の固定を容易にするため、例えば特許文献2に係る車両用シートでは、力布の基端部に吊り込み部材を設け、クッションパッドの吊り込み溝に設けられたクリップ(取付部材)を用いて力布を固定することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-094982号公報
【特許文献2】特開2015-003578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されるように、エアバッグが取り付けられる位置に吊り込み溝がある場合、クリップ等を用いて固定することが可能である。しかしながら、シートの意匠によっては、エアバッグを取り付ける位置に吊り込み溝が設けられておらず、クリップを用いて力布を固定できない場合がある。そのため、クリップを用いることなく力布を簡便に固定する手段が望まれていた。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便に力布を取り付けることが可能な乗物用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、本発明の乗物用シートによれば、エアバッグとインフレータとを備える乗物用シートにおいて、フレームと、該フレーム上に配置されるパッドと、該パッドを覆い、一部に前記エアバッグの展開時に破断する破断部が形成された表皮と、前記破断部から前記パッドの表面に沿って延び、前記表皮よりも引張り伸び量の小さい力布と、を備え、前記力布は、前記パッドの表面に接着剤により取り付けられることにより解決される。
【0009】
力布をパッドに接着剤で取り付けることにより簡便に力布を固定することができるため、フレームに力布を取り付ける場合と比較して作業性を向上させることができる。
また、力布を吊り込む吊り込み溝等がない場合でも力布を取り付けることができるため、様々な乗物用シートの意匠に対応することができる。
【0010】
また、上記の乗物用シートによれば、前記接着剤により前記力布と前記パッドの表面とが接着される接着領域は、前記破断部が形成された部分以外の領域に設けられるとよい。
接着領域が、破断部(固定点)が形成された部分以外の領域、例えば破断部から離れた位置に設けられることにより、力布による支持性が向上する。
【0011】
また、上記の乗物用シートによれば、前記破断部と接続する端部の反対の端部と前記パッドの表面とが前記接着剤により、接着されており、前記接着剤により接着される接着領域と前記破断部との間に、前記力布と前記パッドの表面とが前記接着剤により接着されない非接着領域を備えるとよい。
接着領域と破断部との間に非接着領域を備えることで、例えば接着剤の使用量を少なくすることができる。
【0012】
また、上記の乗物用シートによれば、前記力布は、前記パッドの背面側の表面に前記接着剤により取り付けられるとよい。
力布をパッドの背面側に配置して接着することで、乗物シートの前面側に力布が配置されることがないため、前面側に凹凸感が発生することを抑制することができる。
【0013】
また、上記の乗物用シートによれば、前記力布は、前記エアバッグと前記パッドとの間に挟まれるとよい。
力布を、エアバッグとパッドとの間に配置して挟むことにより、より強固に力布を固定することができる。
【0014】
また、上記の乗物用シートによれば、前記フレームは、前記乗物用シートの前面側において断面が円弧状に形成された円弧状部を有し、前記力布は、前記フレームの前記円弧状部に当接して、前記パッドの表面に沿って配置される。
力布が、フレームの円弧状部に当接してパッドの表面に沿って配置されることにより、例えばフレームのエッジ部分に当たることが避けられるため、力布の破損を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、力布をパッドに接着剤で取り付けることにより簡便に力布を固定することができるため、フレームに力布を取り付ける場合と比較して作業性を向上させることができる。また、力布を吊り込む吊り込み溝等がない場所にも取り付けることができるため、様々な乗物用シートの意匠にも対応することができる。
また、接着領域が、破断部(固定点)が形成された部分以外の領域、例えば破断部から離れた位置に設けられることにより、力布による支持性が向上する。
また、接着領域と破断部との間に非接着領域を備えることで、例えば接着剤の使用量を少なくすることができる。
また、力布をパッドの背面側に配置して接着することで、乗物シートの前面側に力布が配置されることがないため、前面側に凹凸感が発生することを抑制することができる。
また、力布を、エアバッグとパッドとの間に配置して挟むことにより、より強固に力布を固定することができる。
また、力布が、フレームの円弧部分に当接してパッドの表面に沿って配置されることにより、例えばフレームのエッジ部分に当たることが避けられるため、力布の破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用シートを斜め前方から見た斜視図である。
【
図2】
図1のB-B線に沿った断面図であり、クリップを用いて力布を固定する構造を示す図である。
【
図3】
図1のA-A線に沿った断面図であり、第1例を示す図である。
【
図4】第1例の別例を示す図であり、エアセルを避けた位置に力布とパッドとが接着される構成を示す図である。
【
図5】第1例の別例を示す図であり、エアセルと重なる位置に力布とパッドとが接着される構成を示す図である。
【
図6】第2例を示す
図1のA-A線に沿った断面図である。
【
図7】第2例の別例を示す断面図であり、エアセルを避けた位置に力布とクッションパッドとが接着される構成を示す図である。
【
図8】第2例の別例を示す断面図であり、エアセルと重なる位置に力布とクッションパッドとが接着される構成を示す図である。
【
図9】第3例を示す
図1のA-A線に沿った図である。
【
図10】第3例の別例を示す断面図であり、エアセルを避けた位置に表皮とクッションパッドとが接着される構成を示す図である。
【
図11】第3例の別例を示す図であり、エアセルを設けた位置に表皮とクッションパッドとが接着される構成を示す図である。
【
図12】第4例を示す
図1のA-A線に沿った断面図である。
【
図13】第5例を示す
図1のA-A線に沿った断面図である。
【
図14】第6例を示す
図1のA-A線に沿った断面図である。
【
図15】第7例を示す
図1のA-A線に沿った断面図である。
【
図16】第8例を示す
図1のA-A線に沿った断面図である。
【
図17】第9例を示す
図1のA-A線に沿った断面図である。
【
図18】第10例を示す
図1のA-A線に沿った断面図である。
【
図19】第11例を示す
図1のA-A線に沿った断面図である。
【
図21】クッションパッドの別例を示す斜視図である。
【
図22】力布が入る凹部が形成されたクッションパッドを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態に係る乗物用シートの構成について図面を参照しながら説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例であり、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0018】
なお、以下では、乗物用シートの一例として車両用シートを挙げ、その構成例について説明することとする。ただし、本発明は、自動車・鉄道など車輪を有する地上走行用乗物に搭載される車両用シートに限定されるものではなく、地上以外を移動する航空機や船舶などに搭載されるシートであってもよい。
【0019】
また、以下の説明において、「前後方向」とは、車両用シートの前後方向であり、車両走行時の進行方向と一致する方向である。また、「シート幅方向」とは、車両用シートの幅方向であり、車両用シートに着座した乗員から見た左右方向と一致する方向である。また、「上下方向」とは、車両用シートの上下方向であり、車両が水平面を走行しているときには鉛直方向と一致する方向である。
【0020】
また、以下の説明において、「シート幅方向」、「シート高さ方向」のように各種方向に「シート」を付して記載する場合には、車両用シートに対する方向を示し、「車両内側」、「車両外側」のように「車両」を付して記載する場合には、車両に対する方向を示すものとする。
また、以下に説明する車両用シート各部の形状、位置及び姿勢等については、特に断る場合を除き、車両用シートが着座可能な状態にあるケースを想定して説明することとする。
【0021】
<車両用シートの基本構成>
本実施形態の第1例である車両用シート(以下、車両用シートS)の基本構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1は車両用シートSを前方斜めから見た斜視図である。
図1中、車両用シートSの一部については図示の都合上、表皮11(トリムカバーとも呼ばれる)を外した構成で図示している。
【0022】
車両用シートSは、車体フロア上に載置され、車両の乗員が着座するシートである。本実施形態において、車両用シートSは、車両の前部座席に相当するフロントシートとして利用される。ただし、これに限定されるものではなく、車両用シートSは、車両のリアシートであってもよく、また、前後方向に三列のシートを備える車両において二列目のミドルシートや三列目のリアシートとしても利用可能である。
【0023】
車両用シートSは、
図1に示すように、着座者の臀部を支える着座部分となるシートクッション1と、着座者の背部を支える背もたれ部分となるシートバック2と、シートバック2の上部に配され着座者の頭部を支えるヘッドレスト3と、を主な構成要素とする。
【0024】
シートクッション1は、その後端部がシートバック2の下端部に連結されている。また、シートクッション1は、クッションフレームにクッションパッド10を載置し、更に表皮11により覆うことで構成される。シートバック2は、バックフレームに、クッションパッド10を配し、更にクッションパッド10を表皮11により覆うことで構成される。
また、シートクッション1とシートバック2とは不図示のリクライニング機構を挟んで連結されている。シートクッション1の下部には不図示のスライドレールが設置されており、このスライドレールにより、車両用シートSは、前後方向にスライド移動可能な状態で車体フロアに載置される。
【0025】
車両用シートSの中には、シートフレームF(フレーム)が設けられており、シートフレームFは主にシートクッション1の骨格をなすクッションフレームと、シートバック2の骨格をなすバックフレームとにより構成される。
【0026】
クッションパッド10は、発泡体によりクッション部分が形成されており、クッション部分が表皮11により被覆される。この発泡体としては、ポリプロピレンビーズ発泡体、ポリエチレンビーズ発泡体、ポリプロピレン発泡体、ポリエチレン発泡体、アクリロニトリル・スチレン発泡体、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタンフォーム材等、若しくはこれらを組合わせて使用される。本実施形態において、クッションパッド10は、ウレタン発泡剤を用いて発泡成型により形成されたウレタンパッドである。
また、表皮11は、布、フィルム、クロス、革やシート等により構成され、所定のテンションが掛かるように張られた状態でクッションパッド10を覆うよう取り付けられている。
【0027】
<エアバッグ装置4>
シートバック2の右側側部には、
図1に点線で示すようにエアバッグ装置4が設けられている。エアバッグ装置4は、車両のドアに近い方に配置されるニアサイドエアバッグ装置である。なお、車両用シートSにはシートバック2の左側側部にもエアバッグ装置5が設けられている。エアバッグ装置5は、ドアから遠い方に配置されるファーサイドエアバッグ装置である。
エアバッグ装置4、5は公知の構成からなり、シートバック2の土手部2bの内部においてシートフレームFに取り付けられその位置が固定される。エアバッグ装置4、5は、クッションパッド10により形成された空間に格納されるように構成されている。エアバッグ装置4、5は略同様の構成であるため、以下ではエアバッグ装置4について主に説明する。
【0028】
エアバッグ装置4についてより詳細に述べると、エアバッグ装置4は、例えば
図2に示すようにエアバッグ4aと、エアバッグ4aにガスを供給するインフレータ4bと、エアバッグ4a及びインフレータ4bを覆うケース4cと、インフレータ4bをケース4cにナット締めするボルト4dとから構成されている。
【0029】
エアバッグ装置4は、シートフレームFの右側(車両用シートSの外側)に固定されており、エアバッグ装置4の右側のクッションパッド10には、スリット8が形成されている。エアバッグ装置4からエアバッグ4aが膨出したとき、クッションパッド10はスリット8で破断すると共に、表皮11が縫合部でもある破断部7(ティアラインと呼ばれる)で切開して、エアバッグ4aが外方に展開される。
【0030】
シートバック2の内部には、
図1に点線で示すように、エアバッグ装置4の周囲において、エアバッグの展開を案内する案内部材(力布)が設けられている。案内部材はエアバッグ装置4の周囲において上側と下側の二箇所に設けられており、以下、上側に配置される案内部材を上側案内部材13、下側に配置される案内部材を下側案内部材14と称する。
エアバッグ装置4によりエアバッグ4aが膨張されると、エアバッグ4aの膨張エネルギが、クッションパッド10を介して、力布である上側案内部材13及び下側案内部材14に伝達される。上側案内部材13及び下側案内部材14がエアバッグ4aの膨張エネルギを受けると、破断部7(ティアライン)の縫合糸にエアバッグ4aの膨張エネルギが集中し、縫合糸が切断される。それにより、上側案内部材13及び下側案内部材14が破断部7で切り離され、クッションパッド10がスリット8で破断されることにより、エアバッグ4aが外方に展開される。
【0031】
<力布固定構造>
以下では、まず
図2を用いて、下側案内部材14を固定する構造について説明し、その後、本発明の要である上側案内部材13を固定する構造について説明する。
【0032】
図2は、
図1のB-B線に沿ったシートバック2の断面図であり、クリップ15を用いて下側案内部材14を固定する構造を示している。
図22に示すように、シートバック2を覆う表皮11は、座面被覆部11aと、土手部被覆部11bと、側部被覆部11cと、背面被覆部11dと、から構成されている。座面被覆部11aと土手部被覆部11bとは、座面部2aと土手部2bとの間に形成される縦吊り込み溝17aに吊り込まれる縫合部6で縫製により連結されている。なお、縫合部6は吊り込みラインを形成している。
土手部被覆部11bと側部被覆部11cとは、土手部2bの前端において破断部7で縫製により連結されている。破断部7は、エアバッグ4aの展開時に破断するティアラインを形成している。
側部被覆部11cと背面被覆部11dとは、背面部2dにおいて線ファスナ9により連結されている。シートバック2の背面被覆部11dは、シートバック2の右側の側部被覆部11cと、左側の側部被覆部(不図示)とを連結している。
【0033】
<下側案内部材14>
下側案内部材14は、
図1及び
図2に示すように、エアバッグ装置4に対応する部位、言い換えれば、シートバック2を前方から見てエアバッグ装置4と重なる位置に設けられている。
下側案内部材14は、内側力布22と外側力布23とから構成され、内側力布22と外側力布23は、破断部7において表皮11と縫製されている。より詳細に述べると、内側力布22は、ティアラインである破断部7から吊り込みラインの縫合部6までクッションパッド10の土手部表面10aに沿って設けられている。外側力布23は、シートバック2の側部2cにおいて、破断部7から背面部2dまでクッションパッド10の側部表面10cに沿って配置される。外側力布23の背面側の端部、すなわち破断部7と接続する端部の反対側の端部は、背面側縫合部19において縫製により取り付けられており、外側力布23は、表皮11のうち側部被覆部11cを裏打ちした状態となっている。
【0034】
内側力布22及び外側力布23は表皮11よりも引張り伸び量の小さい素材から形成されている。言い換えれば、内側力布22及び外側力布23は、表皮11よりも伸縮性に乏しいシート状部材から形成されている。そのため、内側力布22及び外側力布23は、エアバッグ展開時に掛かる力を破断部7に伝達して、エアバッグ4aの展開を促進させることができる。
【0035】
<吊り込み溝17>
クッションパッド10には、吊り込み溝17が形成されている(
図1参照)。吊り込み溝17は、シート縦方向に延びる二つの縦吊り込み溝17aと、シート幅方向に延びる横吊り込み溝17bとから構成されている。二つの縦吊り込み溝17aは、その上端が横吊り込み溝17bにより連結されており、吊り込み溝17全体はシート前方から見てΠ字状になるよう形成される。
【0036】
<クリップ15>
縦吊り込み溝17a及び横吊り込み溝17bの内部には、所定の間隔を開けて複数のクリップ15(ホグレスクリップとも呼ばれる)が設けられている。クリップ15は、
図2に示すように縦吊り込み溝17aの底部に一部が埋設されることにより固定され、クッションパッド10と一体に設けられている。クリップ15は、その断面が略V字状に形成されており、クリップ15の頂部には、吊り込み部材16の矢尻状の先端部を保持する保持部15aが設けられている。なお、クリップ15は断面がU字状又はC字状に形成されてもよい。
【0037】
クリップ15は樹脂製であり、例えばポリアセタール(POM)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂等から形成される。クリップ15を、比較的強度の高いポリアセタール(POM)樹脂により形成するのがよい。
【0038】
図2に示すように、座面被覆部11aと土手部被覆部11bとの縫合部6において、吊り込み部材16が表皮11と内側力布22とに縫製により取り付けられている。
そして、吊り込み部材16の先端部をクリップ15の保持部15aに挿入することにより、吊り込み部材16をクリップ15に固定することができる。吊り込み部材16をクリップ15に固定することで、内側力布22がクッションパッド10に固定されるようになる。
なお、吊り込み部材16は樹脂製であり、例えばポリプロピレン(PP)樹脂により形成される。
【0039】
<上側案内部材13>
以下、エアバッグ装置4の周囲上側に配置される上側案内部材13について説明する。
図2に示した下側案内部材14の内側力布22は、クリップ15を用いてクッションパッド10の縦吊り込み溝17aに固定されていた。
しかしながら、シートのデザインによっては、吊り込み溝17をエアバッグ装置4の上側まで延ばすことができない場合がある。
本実施形態の車両用シートSでは、
図1示すようにエアバッグ装置4の中央付近まで、吊り込み溝17は延びているが、エアバッグ装置4の上方においては吊り込み溝17が形成されていない。そのため、上側案内部材13については、クリップ15を用いてクッションパッド10に固定することができず、別の手段により取り付ける必要がある。
<<第1例>>
【0040】
本実施形態の第1例である車両用シートSについて、
図3-
図5を用いて説明する。
図3は、
図1のA-A線に沿ったシートバック2の断面図であり、上側案内部材13をクッションパッド10に取り付ける取付構造を示す図である。
【0041】
図3に示すように、表皮11のうち座面被覆部11aと土手部被覆部11bとは、座面部2aと土手部2bとの境界部分Kにおいて連続して形成されている。
上側案内部材13は、内側力布20と外側力布23とにより構成されている。外側力布23は、下側案内部材14の外側力布23と同様に、シートバック2の側部2cにおいて、破断部7から背面部2dまでクッションパッド10の側部表面10cに沿って配置される。
また、外側力布23の背面側の端部、すなわち破断部7と接続する端部の反対側の端部は、背面側縫合部19において縫製により取り付けられており、外側力布23は、表皮11の側部被覆部11cを裏打ちした状態となっている。
【0042】
一方、内側力布20は、下側案内部材14の内側力布22と異なり、破断部7からクッションパッド10の側部表面10c(表面)に沿って延び、スリット8からクッションパッド10の内側に進入している。スリット8から入った内側力布20は、エアバッグ装置4のケース4cの前面を通り、シートフレームFの円弧状部Faを超えてクッションパッド10の背面側表面10bに沿って配置される。そして、内側力布20は、前後方向に対して傾斜する部分において、接着剤によりクッションパッド10の背面側表面10bに取り付けられている。接着剤は、内側力布20の端部において所定の面積を有する接着領域21に設けられる。そして、接着領域21は、シートフレームFの後端側のフランジFbのうち内端部よりもシート幅方向で内側に設けられている。接着剤として、例えばシート状のホットメルト又は粘着テープ等を用いることができる。また、接着領域21と破断部7との間には、接着されない非接着領域が設けられている。
【0043】
内側力布20を接着剤でクッションパッド10に取り付けることで、従来よりも簡便な方法で上側案内部材13を固定することができ、内側力布20を取り付ける作業性を向上させることができる。
また、内側力布20を接着剤で固定することで、吊り込み溝がない場所にも内側力布20を取り付けることができるため、様々な車両用シートの意匠に対応することができる。
また、接着領域21をティアラインである破断部7以外の領域に設け、内側力布20を接着することにより支持性が向上するようになる。例えば、接着領域21を、破断部7から所定距離離れた位置に接着領域21を設けることにより支持性が向上するようになる。
また、破断部7と接着領域21との間に接着剤を設けない非接着領域があることにより、接着剤の使用量を削減することができる。
また、内側力布20を車両用シートSの前面側すなわちシートバック2の着座面側に配置しないことにより、車両用シートSの前面側に凹凸感が発生することを抑制することができる。
表皮11については接着剤等で固定していないため、表皮11にしわができ難い。また、表皮11が乗員の頸部の動きに追従できるため、頸部の動きを阻害することが抑制される。
【0044】
<車両用シートSの組立方法>
エアバッグ4a及びインフレータ4b(エアバッグ装置4)を備える車両用シートSの組立方法について説明する。
エアバッグ4aの展開時に破断する破断部7が形成された表皮11と、破断部7に縫合され、表皮11よりも引張り伸び量の小さい内側力布20(力布)とを準備する(準備工程)。外側力布23は表皮11の裏面に縫合されているとよい。
案内部材として、上下に配置された上側案内部材13と下側案内部材14があり、下側案内部材14の内側力布22が、クッションパッド10に設けられたクリップ15により固定される場合、クリップ15に係合する吊り込み部材16を予め内側力布22に取り付けておく。
【0045】
エアバッグ装置4が取り付けられたシートフレームFに、ウレタン製のクッションパッド10を被せる。次に、上側案内部材13の内側力布20を、破断部7からクッションパッド10の表面に沿って延びるように配置する。下側案内部材14の内側力布22についても、破断部7からクッションパッド10の表面に沿って延びるように配置する(力布配置工程)。
【0046】
次に、接着剤を用いて内側力布20をクッションパッド10の表面に取り付ける。接着剤がホットメルトである場合は、予め内側力布20に接着剤を塗布しておき、内側力布20をクッションパッド10の表面に配置した後、熱を加えて接着する(力布接着工程)。
また、吊り込み部材16をクリップ15に係合させることで、下側案内部材14の内側力布22を固定する(力布係合工程)。
次に表皮11全体をクッションパッド10に被せる。表皮11の側部被覆部11cと外側力布23とをクッションパッド10の背面側に配置し、側部被覆部11cと背面被覆部11dとを線ファスナ9により結合することで、組立が完了する(表皮取付工程)。
【0047】
内側力布20を接着する接着剤は、完全に乾燥するまでに半日程度の時間を要するが、30分で位置ずれしない程度になる。そのため、力布接着工程を実施した後、30分程度おいてから次の表皮取付工程を実施するか、又は、力布接着工程と表皮取付工程とを同時に実施した後、30分程度おいてから表皮取付工程を行うことで、下側案内部材14の内側力布22の位置ズレを抑制することができる。
【0048】
吊り込み溝17に設けられるクリップ15は、通常、吊り込み溝17の延在方向に沿って開口している。そのため、クリップ15に係合した吊り込み部材16は、吊り込み溝17の延在方向に動きやすい。力布接着工程を実施した後、30分程度経過してから力布係合工程を実施することにより、吊り込み部材16の位置ズレを抑制しつつ組立作業をすることができる。
【0049】
次に、第1例の別例について説明する。
図4に示すように、シートバック2の土手部2bにおいてエアセル(空気袋)が内蔵される場合がある。エアセル31は、大小二つの空気袋31a、31bから構成されており、膨張又は収縮が可能となっている。エアセル31を膨張させて乗員の体の一部を押圧することにより、乗員の腰部や背中等をマッサージして、乗員をリラックス又はリフレッシュさせるよう構成されている。
エアセル31は、シートバック2のクッションパッド10において、
図4に示すように前面側(着座面側)から背面側に向けて形成されたエアセル収容部30内に配置されている。
【0050】
また、エアセル31の前面側には、
図4に示すようにヒータ装置33が設けられてもよい。また、このヒータ装置33の代わりに振動装置34が設けられてもよい。ヒータ装置33又は振動装置34の乗員に向く面は、土手部被覆部11b(表皮11)の裏面と直接接触している。それにより熱又は振動を乗員に伝達しやすい。
なお、エアセル31の前面(乗員に向く面)に、ヒータ装置33及び振動装置34を設けなくてもよい。この場合、エアセル31の前面は、直接土手部被覆部11bと直接接触する。表皮11とエアセル31との間にクッション部材が設けられてもよい。
【0051】
図4に示す例においては、接着領域21が、エアセル31が膨張したときに表皮11と接触する領域を避けた位置に設けられている。より具体的に述べると、接着領域21は、エアセル31の最大幅CRの領域をエアセル31の中心軸CAに沿って伸ばした範囲に入らないように配置されている。
【0052】
接着領域21をこのように設けることにより、内側力布20の接着領域21へのエアセル31の影響を抑制する、すなわち、接着領域21にかかる負荷又は圧力を低減させることができる。エアセル31の前面にヒータ装置33又は振動装置34がある場合は、ヒータ装置33から出る熱、又は、振動装置34による振動の影響を抑制することができる。
【0053】
第1例の更なる別例について
図5を用いて説明する。
図5に示す例においては、内側力布20をクッションパッド10の背面側表面10bに接着する場合、接着領域21’を、エアセル31が膨張したときに表皮11に接触する領域と重なるように配置している。より具体的に述べると、接着領域21’の少なくとも一部が、エアセル31の最大幅CRの領域をエアセル31の中心軸CAに沿って伸ばした範囲に入るように配置されている。
このとき、エアセル31と接着領域21’とが直接接触することは避け、エアセル31と接着領域21’との間にパッド層を設けるのがよい。
【0054】
このように配置することで、エアセル31が膨張したときにクッションパッド10が接着領域21’の一部を押圧するようになることから、内側力布20とクッションパッド10とを接着する接着剤の接着力が向上する。
【0055】
<<第2例>>
本実施形態の第2例である車両用シートSAについて、
図6-
図8を用いて説明する。
図6は、
図1のA-A線に沿ったシートバック2Aの断面図であり、上側案内部材13Aをクッションパッド10に取り付ける取付構造を示す図である。
【0056】
図6に示すように、表皮11のうち座面被覆部11aと土手部被覆部11bとは、シートバック2Aの座面部2aと土手部2bとの境界部分Kにおいて連続して形成されている。
上側案内部材13Aは、外側力布23と、内側力布20Aとから構成され、内側力布22と外側力布23は、破断部7において表皮11と縫製されている。
外側力布23は、第1例の外側力布23と同様、シートバック2の側部2cにおいて、破断部7から背面部2dまでクッションパッド10の側部表面10cに沿って配置され、背面側縫合部19において縫製されている。
一方、内側力布20Aについては、第1例における内側力布20と比較するとクッションパッド10と接着剤により取り付ける接着領域21Aの位置が異なっている。
【0057】
内側力布20Aは、
図6に示すように、破断部7からクッションパッド10の側部表面10c(表面)に沿って延び、スリット8からクッションパッド10の内側に進入している。スリット8から入った内側力布20Aは、エアバッグ装置4のケース4cの前面を通り、シートフレームFの円弧状部Faを超えたところまで延びている。そして、内側力布20Aとクッションパッド10とは、エアバッグ装置4の前面側に設けられた接着領域21Aにおいて接着剤により取り付けられている。エアバッグ装置4のケース4cと内側力布20Aとは接触するが接着剤により取り付けらえていない。
【0058】
内側力布20Aを接着剤でクッションパッド10に取り付けることにより、従来よりも簡便な方法で上側案内部材13Aを固定することができ、内側力布20Aを取り付ける作業性を向上させることができる。
また、接着領域21Aが、エアバッグ装置4のケース4cとクッションパッド10の背面側表皮と挟まれることにより、より強固に内側力布20Aとクッションパッド10とを接着させることができる。
【0059】
また、ティアラインである破断部7から離れた位置で、内側力布20Aを接着することにより支持性が向上するようになる。また、破断部7と接着領域21との間に接着剤を設けない領域があることにより、接着剤の使用量を削減することができる。
内側力布20を、乗物シートの前面側すなわちシートバック2の着座面側に配置しないため、前面側に凹凸感が発生することを抑制することができる。
表皮11については接着剤等で固定していないため、表皮11にしわができ難い。また、表皮11が乗員の頸部の動きに追従できるため、頸部の動きを阻害することが抑制される。
【0060】
第2例の別例について
図7を用いて説明する。
図7は、土手部2bにおいてエアセル31(空気袋)及びヒータ装置33又は振動装置34を内蔵したシートバック2Aの断面図である。エアセル31やヒータ装置33等の構成については
図4に示すものと同様であるため詳細な説明は省略する。
接着領域21Aは、
図7に示すように、エアセル31が膨張したときに表皮11に接触する領域を避けた位置に設けられている。より具体的に述べると、接着領域21Aは、エアセル31の最大幅CRの領域をエアセル31の中心軸CAに伸ばした範囲に入らないように配置されている。
【0061】
接着領域21Aをこのような位置に配置することにより、内側力布20Aの接着領域21Aへのエアセル31の影響を抑制する、すなわち、接着領域21Aにかかる負荷又は圧力を低減させることができる。エアセル31の前面にあるヒータ装置33又は振動装置34がある場合は、ヒータ装置33から出る熱や振動装置34からの振動の影響を抑制することができる。
【0062】
第2例の更なる別例について
図8を用いて説明する。
図8に示す例においては、内側力布20Aをクッションパッド10とエアバッグ装置4との間に接着する場合、接着領域21Aを、エアセル31が膨張したときに表皮11に接触する領域と重なるように配置している。
【0063】
より具体的に述べると、接着領域21Aの少なくとも一部が、エアセル31の最大幅CRの領域をエアセル31の中心軸CAに沿って伸ばした範囲に入るように配置されている。
このとき、エアセル31と接着領域21Aとが直接接触することを避け、エアセル31と接着領域21との間にパッド層を設けるのがよい。
このように配置することで、エアセル31が膨張したときにクッションパッド10が接着領域21を押圧するため、内側力布20とクッションパッド10とを接着する接着剤の接着力が向上する。
【0064】
<<第3例>>
本実施形態の第3例である車両用シートSBについて、
図9-
図11を用いて説明する。
図9は、
図1のA-A線に沿ったシートバック2Bの断面図であり、上側案内部材13Bをクッションパッド10に取り付ける取付構造を示す図である。
【0065】
図9に示すように、表皮11のうち座面被覆部11aと土手部被覆部11bとは、座面部2aと土手部2bとの境界部分Kにおいて連続して形成されている。
上側案内部材13Bは、外側力布23のみで構成されており、外側力布23は、破断部7において表皮11と縫製されている。
【0066】
外側力布23は、第1例の外側力布23と同様、シートバック2の側部2cにおいて、破断部7から背面部2dまでクッションパッド10の側部表面10cに沿って配置される。
第1例と比較すると、内側力布20を備えていないことと、接着領域21Bの位置が異なっている。第3例では、表皮11の土手部被覆部11bとクッションパッド10の土手部表面10aとが直接接着剤により、接着領域21Bにおいて接着され、表皮11の一部がクッションパッド10に固定される。接着領域21Bは、
図9に示すようにティアラインである破断部7の近傍において、クッションパッド10の前面側(着座面側)に設けられている。
破断部7に近い位置で表皮11を固定することにより、表皮11が伸びる影響を減らすことができる。
【0067】
第3例の別例について
図10を用いて説明する。
図10は、土手部2bにおいてエアセル31(空気袋)及びヒータ装置33又は振動装置34を内蔵したシートバック2Bの断面図である。エアセル31やヒータ装置33等の構成については
図4に示すものと同様であるため詳細な説明は省略する。
接着領域21Bは、
図10に示すように、エアセル31が膨張したときに表皮11に接触する領域を避けた位置に設けられている。より具体的に述べると、接着領域21Bは、エアセル31の最大幅CRの領域をエアセル31の中心軸CAに沿って伸ばした範囲に入らないように配置されている。
【0068】
接着領域21Bをこのように配置することで、接着領域21Bへのエアセル31の影響を抑制する、すなわち、接着領域21Bにかかる負荷又は圧力を低減させることができる。エアセル31の前面にあるヒータ装置33又は振動装置34がある場合は、ヒータ装置33から出る熱や振動装置34による振動の影響を抑制することができる。
【0069】
第3例の更なる別例について
図11を用いて説明する。
図11に示す例においては、接着領域21Bを、エアセル31が膨張したときに表皮11に接触する領域と重なるように配置している。
より具体的に述べると、接着領域21Bの少なくとも一部が、エアセル31の最大幅CRの領域をエアセル31の中心軸CAに沿って伸ばした範囲に入るように配置されている。
このとき、エアセル31と接着領域21Bとが直接接触することは避け、エアセル31と接着領域21Bとの間にパッド層を設けるのがよい。
このように配置することで、エアセル31が膨張したときにクッションパッド10が接着領域21Bを押圧し、表皮11とクッションパッド10とを接着する接着剤の接着力が向上する。
【0070】
<<第4例>>
本実施形態の第4例である車両用シートSCについて、
図12を用いて説明する。
図12は、
図1のA-A線に沿ったシートバック2Cの断面図であり、上側案内部材13Cをクッションパッド10に取り付ける取付構造を示す図である。
【0071】
図12に示すように、表皮11のうち座面被覆部11aと土手部被覆部11bとは、座面部2aと土手部2bとの境界部分Kにおいて連続して形成されている。そして、境界部分Kにおいて、クッションパッド10には、土手部表面10aから背面側表面10bまで延びるスリット18が形成されている。
上側案内部材13Cは、内側力布20Cと外側力布23とから構成され、内側力布22と外側力布23は、破断部7において表皮11と縫製されている。
【0072】
外側力布23は、第1例の外側力布と同様にシートバック2の側部2cにおいて、破断部7から背面部2dまでクッションパッド10の側部表面10cに沿って配置され、背面側縫合部19において縫製されている。
第1例と比較すると、内側力布20Cが延びる方向が異なっている。内側力布20Cは、破断部7からクッションパッド10の土手部表面10a(表面)に沿って延び、境界部分Kに形成されたスリット18から、クッションパッド10の内側に進入している。
【0073】
スリット18から入った内側力布20Cは、スリット18の背面側開口部においてシート幅方向の外側に折れ曲がり、背面側表面10bに沿って延びる。そして、クッションパッド10の背面側表面10b(斜面部分)と、接着領域21Cにおいて接着剤により取り付けられている。接着領域21Cは、シートフレームFの後端側のフランジFbの内端部よりもシート幅方向で内側に設けられている。
スリット18を形成する必要があるものの、下側案内部材14と同様の方向に内側力布20Cを伸ばすことができ、エアバッグ展開時に掛かる力も内側力布20Cに掛かる応力の同じになるため、内側力布20Cは安定して破断部7を支持することができる。
【0074】
<<第5例>>
本実施形態の第5例である車両用シートSDについて、
図13を用いて説明する。第4例の固定手段においては、接着剤を用いて内側力布20Cをクッションパッド10の背面側表面10bに取り付けていたが、第5例では、接着剤の代わりに内側力布20Dの先端にJフック24を設け、背面側表面10bに内側力布20Dを固定している。
より具体的に述べると、破断部7から延びる内側力布20Dをスリット18に通し、スリット18の背面側開口部の周囲に取り付けられたインサートワイヤ25にJフック24を引掛けることにより、内側力布20Cを固定している。接着剤は、完全に乾燥するまでに半日程度を要するが、本例では接着剤を使わないため乾燥を待つことなく内側力布20Dの取り付けを完了することができる。
【0075】
<<第6例>>
本実施形態の第6例である車両用シートSEについて、
図14を用いて説明する。
図14は、
図1のA-A線に沿ったシートバック2Eの断面図であり、上側案内部材13Eをクッションパッド10に取り付ける取付構造を示す図である。
図14に示すように、表皮11のうち座面被覆部11aと土手部被覆部11bとは、座面部2aと土手部2bとの境界部分Kにおいて連続して形成されている。
【0076】
上側案内部材13Eは、内側力布20Eと外側力布23とから構成され、内側力布20Eと外側力布23とは破断部7において表皮11と縫製されている。
外側力布23は、第1例の外側力布23と同様、シートバック2Eの側部2cにおいて、破断部7から背面部2dまでクッションパッド10の側部表面10cに沿って配置される。また、外側力布23の、破断部7と縫製する端部と反対側の端部が、背面側縫合部19において縫製されている。
一方、内側力布20Eについては、第1例と比較すると、破断部7から延びる方向と、接着剤によりクッションパッド10に接着する接着領域21Eの位置が異なっている。
【0077】
具体的に述べると、内側力布20Eは、
図14に示すように、ティアラインである破断部7からクッションパッド10の土手部表面10a(表面)に沿って、座面部2aと土手部2bとの境界部分Kまで延びている。そして、内側力布20Eの先端部分、すなわち、破断部7と接続する端部とは反対側の端部が、境界部分Kの付近において、接着領域21Eにおいて接着剤によりクッションパッド10に取り付けられている。
【0078】
内側力布20Eは、接着剤により表皮11の土手部被覆部11bの裏面と接着領域12Eにおいて接着されている。
接着剤により内側力布20Eをクッションパッド10に取り付けるため、吊り込み溝が形成されない表皮11を被せる方式のシートに適用することができる。
また、部分的に接着することから、全体的に接着剤を塗布して取り付ける場合と比較してコストを削減することができる。また、エアバッグ4aの展開方向がばらついた場合でも未接着領域分における内側力布20Eの自由度により安定的に案内部材としての機能を発現することができる。
【0079】
また、表皮11の土手部被覆部11bと内側力布20Eとを接着することにより、より強固に内側力布20Eを支持することができる。
また、表皮11と内側力布20Eとを接着する接着領域12Eと、内側力布とクッションパッド10を接着する接着領域21Eととの大きさは略同じ大きさであるとよい。
内側力布20Eを、表皮11とクッションパッド10の両方に強固に取り付けることができる。
また、接着領域12Eより接着領域21Eの方が大きくてもよい。内側力布20Eをクッションパッド10により強固に取り付けることができる。
【0080】
<<第7例>>
本実施形態の第7例である車両用シートSFについて
図15を用いて説明する。
図15は、
図1のA-A線に沿ったシートバック2Fの断面図であり、上側案内部材13Fをクッションパッド10に取り付ける取付構造を示す図である。
【0081】
上側案内部材13Fは、内側力布20Fと外側力布23とから構成され、内側力布22Fと外側力布23とは破断部7において表皮11と縫製されている。
外側力布23は、第1例と同様の構成である。内側力布20Fは、第6例の内側力布20Eと同様に、ティアラインである破断部7からクッションパッド10の土手部表面(表面)に沿って、座面部2aと土手部2bとの境界部分Kまで延びている。
【0082】
そして、内側力布20Fの先端部分、すなわち、破断部7と接続する端部とは反対側の端部が、境界部分Kの付近において、接着領域21Fにおいて接着剤によりクッションパッド10に取り付けられている。
第6例では、表皮11を内側力布20Fに接着剤により取り付けていたが、本例では、表皮11は、内側力布20Fに対し接着剤により固定されていない。
【0083】
表皮11を内側力布20Fに接着剤により固定しないことで、接着剤の量が減少しコストを削減することができる。また、表皮11が固定されないため表皮11にしわができ難くなる。
また、表皮11が乗員の頸部の動きに追従できるため、頸部の動きを阻害することが抑制される。また、エアバッグ4aの展開方向がばらついた場合でも内側力布20Fの自由度により安定的に案内部材としての機能を発現することができる。
【0084】
<<第8例>>
本実施形態の第8例である車両用シートSGについて
図16を用いて説明する。
図16は、
図1のA-A線に沿ったシートバック2Gの断面図であり、上側案内部材13Gをクッションパッド10に取り付ける取付構造を示す図である。
【0085】
第8例の上側案内部材13Gは、第6例の上側案内部材13と同様に、外側力布23と、内側力布20Gとから構成されている。外側力布23は、シートバック2の側部2cにおいて、破断部7から背面部2dまでクッションパッド10の側部表面10cに沿って配置される。また、外側力布23は、破断部7と接続する端部と反対側の端部が、背面側縫合部19において表皮11と縫製により取り付けられており、表皮11の裏地側に裏打ちした状態となっている。
内側力布20Gは、第6例の内側力布20Eと同様に、ティアラインである破断部7からクッションパッド10の土手部表面10a(表面)に沿って、座面部2aと土手部2bとの境界部分Kまで延びている。
【0086】
上述した第6例の内側力布20Eでは、境界部分Kの近傍である接着領域21Eのみ接着していた。第8例の内側力布20Gでは、
図16に示すように、ティアラインである破断部7以外の土手部表面10a(接着領域21G)においてクッションパッド10と接着している。
また、内側力布20Gは、表皮11に対しても破断部7以外の部分(接着領域12G)で接着している。
【0087】
このように内側力布20Gを取り付けることで、内側力布20Gの保持強度が上がり展開出力の高いエアバッグ装置にも適用することができる。また、表皮を全面的に接着剤で取り付ける全面接着工法にも適用することができる。
【0088】
<<第9例>>
本実施形態の第9例である車両用シートSHについて
図17を用いて説明する。
図17は、
図1のA-A線に沿ったシートバック2Hの断面図であり、上側案内部材13Hをクッションパッド10に取り付ける取付構造を示す図である。
第9例の内側力布20Hは、ティアラインである破断部7以外の土手部表面(接着領域21H)において、クッションパッド10と接着剤により取り付けられている。一方、内側力布20Hは、表皮11(土手部被覆部11b)とは接着していない。
破断部7以外の部分において、内側力布20Hとクッションパッド10とを接着することにより、保持強度が上がり、展開出力の高いエアバッグ装置にも適用することができる。一方、表皮11は内側力布20Hに固定されないため表皮11にしわができ難くなる。
【0089】
<<第10例>>
本実施形態の第10例である車両用シートSIについて
図18を用いて説明する。
図18は、
図1のA-A線に沿ったシートバック2Iの断面図であり、上側案内部材13Iをクッションパッド10に取り付ける取付構造を示す図である。
第10例の上側案内部材13Iは外側力布23のみにより構成されており、内側力布は設けれていない。外側力布23は、第1例の外側力布23と同様、破断部7と背面側縫合部19とにより表皮11に対して縫製により取り付けれており、表皮11の裏面側に裏打ちした状態となっている。
また、クッションパッド10の土手部表面10aでは、内側力布の代わりに、表皮11の土手部被覆部11bが接着領域12Iにおいて直接接着剤により取り付けられている。
第10例では、内側力布が表皮11の裏面側に設けられないため、外観上凹凸感を少なくすることができる。
【0090】
なお、
図18に示す例では、接着領域12Iを部分的に設け、接着領域12Iと破断部7との間に未接着領域があるが、第8例と同様に、接着領域12Jを破断部7以外の部分まで広げて、表皮11をクッションパッド10の土手部表面10aに接着してもよい。すなわち、表皮11の土手部被覆部11bの裏面全体をクッションパッド10に接着してもよい。
【0091】
<<第11例>>
本実施形態の第11例である車両用シートSJについて
図19を用いて説明する。
図19は、
図1のA-A線に沿ったシートバック2Jの断面図であり、上側案内部材13Jをクッションパッド10に取り付ける取付構造を示す図である。
【0092】
図19に示すように、車両用シートSJでは、シートバック2Jの土手部内部にヒータ装置33が設けられている。ヒータ装置33を設けることにより、着座した乗員の肩部等を温めることができる。
上側案内部材13Jは外側力布23と内側力布20Jとから構成されている。内側力布20Jは、
図19に示すように、ヒータ装置33に対して、クッションパッド10の厚み方向において重ねて配置されている。内側力布23Jは、例えば上述した第7例に示す内側力布20Fと同様、接着剤により接着領域21Jにおいてクッションパッド10の土手部表面10aに取り付けられている。
内側力布23Jをヒータ装置33と厚み方向で重ねて配置することで、高い省スペース性を確保することができる。
【0093】
また、土手部内部にヒータ装置33がある場合、内側力布23Jをヒータ装置33と厚み方向で重ならないように避けて配置してもよい。例えば、シート高さ方向に内側力布23Jをずらしてヒータ装置33が設けられていない位置に内側力布23Jを配置する。内側力布23Jをヒータ装置33と厚み方向で重ならないように配置することで、シートバック2の厚みの増加を抑制することができる。
【0094】
図20を用いて、接着剤の配置の一例について説明する。
図20は、クッションパッド10に取り付けられる前の、表皮11に取り付けられた内側力布20を示す説明図である。内側力布20は、ティアラインとなる破断部7の付近において縫合部28により縫製されている。
ホットメルト等による接着剤を内側力布20の接着領域21に予め塗布しておき、取り付けた後、接着剤を温めることにより、内側力布20が、クッションパッド10の背面側表面10bに接着される。このとき、接着剤の一部分を伸ばし、延長部21aとして内側力布20からはみ出すように取り付ける。
【0095】
より具体的には、
図20に示すように接着剤を、接着領域21の角部から内側力布20の角部に向けて伸ばし、表皮11と接着するように若干はみ出して配置する。
このように接着剤の一部をはみ出しておくことにより、内側力布20が表皮11に仮止めされた状態となり、例えば表皮11をクッションパッド10に被せたとき、内側力布20が巻き込まれて折れたり、位置がずれたりすることが抑制される。そして、所定位置に内側力布20が配置された後、接着剤に熱を加えることにより内側力布20とクッションパッド10の表面とを接着することができる。
【0096】
図21を用いて、クッションパッド10の別例(クッションパッド10A)について説明する。クッションパッド10Aは、シート幅方向において溝部よりも内側にあるクッション中央部10eと、溝部より外側にあるクッションサイド部10dとを備えている。
そして、クッションサイド部10dは、クッション中央部10eよりも硬度が高く構成されている。このような構成とすることで、クッション中央部10eでは、着座した乗員を柔らかく受け止めて、クッションサイド部10dでは乗員をしっかりと保持して受け止めることができる。硬度が部分的に異なるクッションパッド10Aの形成には、例えば異なるウレタン材料を用いて二色成形する等、公知の技術を用いて実現することができる。
【0097】
上述した、上側案内部材13、13A~13Jは、硬度の高いクッションサイド部10dに取り付けられるのがよい。特に、内側力布20を接着剤により取り付ける場合、パッド材が撓み難くなり、その接着状態を維持しやすくなる。
【0098】
次に、
図21を用いて、シートバック2に搭載されるクッションパッド10の別例(クッションパッド10B)について説明する。
図21は、クッションパッド10Bの断面図であり、第6例~第9例、11例に示す内側力布20E~20G、20Jが配置される位置に応じて、土手部表面10aの一部に凹部10fが形成されている。そして内側力布20E~20G、20Jは、凹部10fの内部に配置されるとよい。内側力布20E~20G、20Jを、凹部10f内に配置することで、内側力布20E~20G、20Jの位置ズレや接着剤の位置ズレを抑制することができる。また、厚みが増加することを抑制することができ、それにより、例えば表皮11を前面から見た場合の凹凸感を減少させることができる。
【0099】
上述した本実施形態の第1例から第11例の車両用シートSに用いられる上側案内部材13、13A~13Jの取付構造は、車両用シートの車両外側に配置されるニアサイドエアバッグに適用されているが、上側案内部材13、13A~13Jをクッションパッド10に取り付ける取付構造は、ニアサイドエアバッグの場合に限定されない。例えば、
図1に示すように、車両内側に設けられるファーサイドエアバッグであるエアバッグ装置5にも適用することができる。すなわち、ファーサイドエアバッグの展開を案内する上側案内部材26及び下側案内部材27の固定に、上述した取付構造を適用してもよい。但し、第4例又は第5例で示す取付構造を適用する場合は、クッションパッド10に土手部表面10aから背面側表面10bまで延びるスリット18を形成する必要がある。
また、下側案内部材を配置する場所に吊り込み溝がない場合、上述した上側案内部材と同様の取付構造を用いて下側案内部材を取り付けてもよい。また、第1例から第11例において示した上側案内部材の取付構造を組み合わせてクッションパッド10に取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0100】
S、SA~SJ 車両用シート(乗物用シート)
F シートフレーム(フレーム)
Fa 円弧状部
Fb フランジ
1 シートクッション
2、2A~2J シートバック
2a 座面部
2b 土手部
2c 側部
2d 背面部
3 ヘッドレスト
4 エアバッグ装置(ニアサイドエアバッグ)
4a エアバッグ
4b インフレータ
4c ケース
4d ボルト
5 エアバッグ装置(ファーサイドエアバッグ)
6 縫合部(吊り込みライン)
7 破断部(ティアライン)
8 スリット
9 線ファスナ
10、10A、10B クッションパッド(パッド)
10a 土手部表面
10b 背面側表面
10c 側部表面
10d クッションサイド部
10e クッション中央部
10f 凹部
11 表皮
11a 座面被覆部
11b 土手部被覆部
11c 側部被覆部
11d 背面被覆部
K 境界部分
12E、12G、12I 接着領域
13、13A~13J 上側案内部材
14 下側案内部材
15 クリップ(取付部材)
15a 保持部
16 吊り込み部材
17 吊り込み溝
17a 縦吊り込み溝
17b 横吊り込み溝
18 スリット
19 背面側縫合部
20、20A~20J 内側力布(力布)
21、21A~21J 接着領域
21a 延長部
22 内側力布
23 外側力布
24 Jフック
25 インサートワイヤ
26 上側案内部材
27 下側案内部材
28 縫合部
30 エアセル収容部
31 エアセル
31a、31b 空気袋
33 ヒータ装置
34 振動装置
CR 最大幅
CA 中心軸