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特開2024-86815薬物動態及び/又は安全性に優れるテリパラチド含有液状医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086815
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】薬物動態及び/又は安全性に優れるテリパラチド含有液状医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/29 20060101AFI20240621BHJP
   A61P 5/18 20060101ALI20240621BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240621BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
A61K38/29
A61P5/18
A61K9/08
A61K47/20
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024062188
(22)【出願日】2024-04-08
(62)【分割の表示】P 2023060783の分割
【原出願日】2018-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2017182615
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303046299
【氏名又は名称】旭化成ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】宮部 康平
(72)【発明者】
【氏名】尾瀬 淳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友紀
(72)【発明者】
【氏名】児玉 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】松縄 保宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 光
(57)【要約】
【課題】薬物動態の観点で優れているテリパラチド又はその塩の液状医薬製剤の提供。
【解決手段】1回当たりの投与量として成分1をテリパラチド換算で28.2μg含有する、ヒト皮下投与用液状医薬製剤であって、成分1の濃度が80~240μg/mLである、ヒト皮下投与用液状医薬製剤。
・成分1)テリパラチド又はその塩。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1回当たり成分1をテリパラチド換算で25~50μg投与するためのヒト皮下投与用水性医薬製剤であって、成分1の濃度が100~200μg/mLであり、L-メチオニンを含有するヒト皮下投与用水性医薬製剤。
・成分1)テリパラチド又はその塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テリパラチド又はその塩を含有する皮下投与用液状医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
PTH(副甲状腺ホルモン)は、カルシトニン類やビタミンD類とともに、血中カルシウム濃度の調節に関与するホルモンである。天然型のPTHの生理活性同等物であるPTHペプチドについては、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤やPTHペプチド含有液剤も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-306235号公報
【特許文献2】特開2004-10511号公報
【特許文献3】特開2007-186466号公報
【特許文献4】特表2001-525372号公報
【特許文献5】国際公開第2006/22301号
【特許文献6】国際公開第2012/169435号
【特許文献7】特表2015-504087号公報
【特許文献8】特開昭63-57527号公報
【特許文献9】特開平2-96533号公報
【特許文献10】特表2004-513069号公報
【特許文献11】特開2005-213158号公報
【特許文献12】国際公開第2011/139838号
【特許文献13】特表2014-507484号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】テリボン(登録商標)皮下注用56.5μg添付文書(2015年11月改訂(第6版 使用上の注意等の改訂))
【非特許文献2】フォルテオ(登録商標)皮下注キット600μg添付文書(2014年7月改訂(第7版))
【非特許文献3】Sung et al., Journal of Biological Chemistry, (1991), Vol.266, No.5, pp.2831-2835
【非特許文献4】Takei et al., Peptide Chemistry 1979, (1980), pp.187-192
【非特許文献5】Merrifield, Advances In Enzymology, (1969), Vol.32, pp.221-296
【非特許文献6】猪川和朗他、計量生物学, (2015), 36, Special Issue, S3-S18
【非特許文献7】Mach et al., Therapeutic Delivery, (2011), Vol.2, No.6, pp.727-736
【非特許文献8】Kinnunen et al., Journal of Controlled Release, (2014), Vol.182, pp.22-32
【非特許文献9】「医薬品開発における薬物動態研究の重要性と今後の展開」、住友化学II(26~34)
【非特許文献10】Chen et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., (1971), Vol.44, No.6, pp.1285-1291
【非特許文献11】Greenfield, Nature Protocols, (2006), Vol.1, No.6, pp.2876-2890
【非特許文献12】Lee et al., Biopolymers, (1989), Vol.28, pp.1115-1127
【非特許文献13】Strickland et al., Biochemistry, (1993), Vol.32, pp.6050-6057
【非特許文献14】日本薬学会年会要旨集第118年会、1998年, 4, 34
【非特許文献15】Izutsu et al., Journal of Pharmaceutical Sciences, (2006), Vol.95, No.4, pp.781-789
【非特許文献16】平松弘嗣(東北大学・大学院薬学研究科)、「赤外吸収スペクトルを用いた二次構造解析法」、蛋白質科学会アーカイブ、2009年,2,e054
【非特許文献17】伊豆津健一他、「タンパク質医薬品の非破壊評価に向けた水溶液と凍結乾燥固体中の二次構造検討」、第21回近赤外フォーラム講演要旨集、2005年,59
【非特許文献18】Armstrong et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1993), Vol.90, pp.11337-11340
【非特許文献19】Chakrabartty et al., Biochemistry, (1993), Vol.32, No.21, pp.5560-5565
【非特許文献20】Wu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1979), Vol.76, No.8, pp.3656-3659
【非特許文献21】Aloj et al., Archives of Biochemistry and Biophysics, (1972), Vol.150, No.2, p.782-785
【非特許文献22】Salgin et al., International Journal of Electrochemical Science, (2012), Vol.7, pp.12404-12414
【非特許文献23】Yamamoto et al., Eur J Pharmacol.(2015), Vol.764, pp.457-462
【非特許文献24】テリボン(登録商標)皮下注用56.5μg申請資料概要(http://www.pmda.go.jp/drugs/2011/P201100155/index.html)
【非特許文献25】宮澤光博、「特集にあたって:タンパク質の立体構造解析法」、蚕糸・昆虫バイオテック、2012年、81(2)、pp.105~106
【非特許文献26】日本薬学会編 スタンダード薬学シリーズ7 製剤化のサイエンス 第1版 第1刷 2006年2月10日発行、pp.12~13
【非特許文献27】小阪谷典子他、「閉経期日本人女性における腰椎骨密度の5年間の減少に対する関連因子」、日本栄養・食糧学会誌 、1999年、第52巻、第5号、pp.307~313
【非特許文献28】水野仁貴他、「膜透過性ペプチドのアミノ酸配列改変によるpH応答性の評価」、日本大学生産工学部第48回学術講演会講演概要(2015-12-5)、pp.543~544
【非特許文献29】Tim J et al., Protein Science, (2007), Vol.16, pp.1193-1203
【非特許文献30】Leonid K., Drug Metab. Dispos., (2014), Vol.42, pp.1890-1905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、薬物動態が良好な(例:バイオアベイラビリティーが高い)及び/又は安全性の高い(例:消化管副作用発現頻度が抑制された)テリパラチド又はその塩を含有する皮下投与用液状医薬製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の皮下投与用液状医薬製剤の一態様において、テリパラチド又はその塩におけるα-ヘリックス含有率は特定範囲内(例:13.0%以上)である。
【0007】
本発明の皮下投与用液状医薬製剤の一態様において、テリパラチド又はその塩におけるα-ヘリックス構造を形成するアミノ酸残基数は特定範囲内(例:4.5個以上)である。
【0008】
本発明の皮下投与用液状医薬製剤の一態様において、製剤が示す円偏光二色性(CD)スペクトル測定(測定波長222nm)による平均残基モル楕円率[θ]222が特定範囲内(例:-6300(deg.cm/d mol)以下)である。
【0009】
これらの皮下投与用液状医薬製剤では、優れた薬物動態(例:バイオアベイラビリティーが高い)が得られる。
【0010】
また、本発明の皮下投与用液状医薬製剤の一態様において、その1回当たりのテリパラチド又はその塩の投与量が特定量(例:28.2μg)である。
【0011】
あるいは、本発明の皮下投与用液状医薬製剤の一態様において、その単回投与によって得られるテリパラチド又はその塩の最高血漿中濃度到達時間(Tmax)は特定範囲内(例:0.7hr未満)である。
【0012】
もしくは、本発明の皮下投与用液状医薬製剤の一態様において、その単回投与後のテリパラチド又はその塩の血漿中濃度が特定閾値(例:250pg/mL)以上の状態の経過時間が特定範囲内(例:1.0hr未満)である。
【0013】
これらの皮下投与用液状医薬製剤では、優れた安全性(例:消化管副作用発現頻度が抑制されている)が得られる。
【0014】
すなわち、本発明は以下の発明等に関する。
[1]
1回当たりの投与量として成分1をテリパラチド換算で28.2μg含有する、ヒト皮下投与用液状医薬製剤であって、成分1の濃度が80~240μg/mLである、ヒト皮下投与用液状医薬製剤。
・成分1)テリパラチド又はその塩。
[2]
成分1の濃度が100~200μg/mLである、前記[1]に記載のヒト皮下投与用液状医薬製剤。
[3]
薬物動態モデルに依存しない解析(NCA(Non Compartmental Analysis);ノンコンパートメントモデル解析)によって算出される単回投与時のTmaxが0.5~0.7(1/hr)である、前記[1]又は[2]に記載のヒト皮下投与用液状医薬製剤。
[4]
単回投与後における成分1の血漿中濃度が100pg/mL又はそれ以上である状態の経過時間が2.1(hr)未満であり、かつ、単回投与後における成分1の血漿中濃度が250pg/mL又はそれ以上である状態の経過時間が1.0(hr)未満である、前記[1]~[3]に記載のヒト皮下投与用液状医薬製剤。
[5]
閉経後女性に投与するための、前記[1]~[4]に記載のヒト皮下投与用液状医薬製剤。
[6]
成分1においてα-へリックス構造を形成しているアミノ酸残基数が4.5個以上かつ5.5個以下である、前記[1]~[5]に記載のヒト皮下投与用液状医薬製剤。
[7]
アミノ酸残基数が、以下の測定条件1~4を充足する円偏光二色性(CD)スペクトル測定によって得られた平均残基モル楕円率の数値aから以下の推算式1を用いて推算されるα-へリックス含有率に基づくアミノ酸残基数である、前記[6]に記載の液状医薬製剤;
測定条件1:測定波長は222nmである;
測定条件2:試料濃度(成分1濃度)は0.1~0.3mg/mLである;
測定条件3:測定温度は20℃である;
測定条件4:セル長は1~2mmである;
推算式1:α-へリックス含有率 = -(数値a+2340)/30300。
[8]
成分1がテリパラチド酢酸塩である、前記[1]~[7]に記載のヒト皮下投与用液状医薬製剤。
[9]
ヒト皮下投与用液状医薬製剤がヒト皮下投与用水性医薬製剤(凍結乾燥製剤の再構成物を除く)である、前記[1]~[8]に記載のヒト皮下投与用液状医薬製剤。
[10]
ヒト皮下投与用液状医薬製剤がヒト皮下投与用水性医薬製剤であり、その溶媒が注射用水である、前記[1]~[9]に記載のヒト皮下投与用液状医薬製剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、薬物動態及び/又は安全性に優れたテリパラチド又はその塩を含有する液状医薬製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1Aは、「円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方Aを測定対象として、20℃で8回の積算により円偏光二色性(CD)スペクトル測定を実施して得た測定結果が図示されたものである。横軸「Wavelength (nm)」は測定波長(nm)を表し、縦軸「[θ]/deg.cmd mol-1」は平均残基モル楕円率[θ]を表す。
図1B図1Bは、「円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方Bを測定対象として、20℃で8回の積算により円偏光二色性(CD)スペクトル測定を実施して得た測定結果が図示されたものである。横軸「Wavelength (nm)」は測定波長(nm)を表し、縦軸「[θ]/deg.cmd mol-1」は平均残基モル楕円率[θ]を表す。
図1C図1Cは、「円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方Cを測定対象として、20℃で8回の積算により円偏光二色性(CD)スペクトル測定を実施して得た測定結果が図示されたものである。横軸「Wavelength (nm)」は測定波長(nm)を表し、縦軸「[θ]/deg.cmd mol-1」は平均残基モル楕円率[θ]を表す。
図1D図1Dは、「円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方Dを測定対象として、20℃で8回の積算により円偏光二色性(CD)スペクトル測定を実施して得た測定結果が図示されたものである。横軸「Wavelength (nm)」は測定波長(nm)を表し、縦軸「[θ]/deg.cmd mol-1」は平均残基モル楕円率[θ]を表す。
図1E図1Eは、「円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方Eを測定対象として、20℃で8回の積算により円偏光二色性(CD)スペクトル測定を実施して得た測定結果が図示されたものである。横軸「Wavelength (nm)」は測定波長(nm)を表し、縦軸「[θ]/deg.cmd mol-1」は平均残基モル楕円率[θ]を表す。
図1F図1Fは、「円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方Fを測定対象として、20℃で8回の積算により円偏光二色性(CD)スペクトル測定を実施して得た測定結果が図示されたものである。横軸「Wavelength (nm)」は測定波長(nm)を表し、縦軸「[θ]/deg.cmd mol-1」は平均残基モル楕円率[θ]を表す。
図1G図1Gは、「円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方Gを測定対象として、20℃で8回の積算により円偏光二色性(CD)スペクトル測定を実施して得た測定結果が図示されたものである。横軸「Wavelength (nm)」は測定波長(nm)を表し、縦軸「[θ]/deg.cmd mol-1」は平均残基モル楕円率[θ]を表す。
図1H図1Hは、「円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方Hを測定対象として、20℃で8回の積算により円偏光二色性(CD)スペクトル測定を実施して得た測定結果が図示されたものである。横軸「Wavelength (nm)」は測定波長(nm)を表し、縦軸「[θ]/deg.cmd mol-1」は平均残基モル楕円率[θ]を表す。
図1I図1Iは、「円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方A~Hを測定対象として、20℃で8回の積算により円偏光二色性(CD)スペクトル測定を実施して得た測定結果が纏めて図示されたものである。横軸「Wavelength (nm)」は測定波長(nm)(210~230nm)を表し、縦軸「[θ]/deg.cmd mol-1」は平均残基モル楕円率[θ]を表す。
図2図2は、「円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方A~H(合計8処方)を対象として、円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験とヒト薬物動態試験(実施例3;ヒト薬物動態試験(2))を実施して得た結果が纏めて図示されたものである。円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験結果を、同試験の測定2の測定結果(平均残基モル楕円率[θ]222)とし、ヒト薬物動態試験結果を、AUClast(最終観察時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積)に関する対照処方2に対する各処方の比であるAUClastRatioとした。
図3図3は、「円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方A~H(合計8処方)を対象として、円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験とヒト薬物動態試験(実施例3;ヒト薬物動態試験(2))を実施して得た結果が纏めて図示されたものである。円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験結果を、同試験の測定2の測定結果(α-へリックス含有比率)とし、ヒト薬物動態試験結果を、AUClast(最終観察時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積)に関する対照処方2に対する各処方の比であるAUClastRatioとした。
図4図4は、処方A~H(合計8処方)を対象として、円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験とサル薬物動態試験(実施例2 サル薬物動態試験)を実施して得た結果が纏めて図示されたものである。円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験結果を、同試験の測定2の測定結果(平均残基モル楕円率[θ]222)とし、サル薬物動態試験結果を、AUClast(最終観察時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積)に関する対照処方1に対する各処方の比であるAUClastRatioとした。
図5図5は、処方A~H(合計8処方)を対象として、円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験とサル薬物動態試験(実施例2 サル薬物動態試験)を実施して得た結果が纏めて図示されたものである。円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験結果を、同試験の測定2の測定結果(α-へリックス含有比率)とし、サル薬物動態試験結果を、AUClast(最終観察時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積)に関する対照処方1に対する各処方の比であるAUClastRatioとした。
図6図6は、実施例において供された処方A、B、E、F、及びH処方及び参考例(成分1のTmaxが特定範囲内である発明に関する参考例)において供された28.2μg製剤及び56.5μg製剤それぞれをヒトに投与して得られた血漿中テリパラチド酢酸塩濃度の時間推移が示された図である。
図7図7は、実施例6及び7において用いられた薬物動態モデル(1-コンパートメントモデル)の模式図である。ここで、Kaは吸収速度定数、Keは消失速度定数をそれぞれ意味する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0018】
1.皮下投与用液状医薬製剤:
本発明は、一態様として、成分1としてテリパラチド又はその塩を含有する皮下投与用液状医薬製剤であって、前記製剤中の成分1のα-へリックス含有率が特定範囲内である、皮下投与用液状医薬製剤を提供する。
【0019】
本発明は、一態様として、成分1としてテリパラチド又はその塩を含有する皮下投与用液状医薬製剤であって、前記製剤中の成分1においてα-へリックス構造を形成しているアミノ酸残基数が特定範囲内である、皮下投与用液状医薬製剤を提供する。
【0020】
本発明は、一態様として、成分1としてテリパラチド又はその塩を含有する皮下投与用液状医薬製剤であって、製剤が示す円偏光二色性(CD)スペクトル測定(測定波長222nm)による平均残基モル楕円率[θ]222が-6300(deg.cm/d mol)以下である、皮下投与用液状医薬製剤を提供する。
【0021】
また、本発明は、別の態様として、成分1としてテリパラチド又はその塩を含有する皮下投与用液状医薬製剤であって、その1回当たりのテリパラチド又はその塩の投与量が特定量である、皮下投与用液状医薬製剤を提供する。
【0022】
さらに、本発明は、別の態様として、成分1としてテリパラチド又はその塩を含有する皮下投与用液状医薬製剤であって、その単回投与によって得られる成分1のTmaxが特定範囲内である、皮下投与用液状医薬製剤を提供する。
【0023】
あるいは、本発明は、別の態様として、成分1としてテリパラチド又はその塩を含有する皮下投与用液状医薬製剤であって、単回投与後のテリパラチド又はその塩の血漿中濃度が特定閾値以上の状態の経過時間が特定範囲内である、皮下投与用液状医薬製剤を提供する。
【0024】
(1)液状医薬製剤:
本発明の液状医薬製剤は、後述のテリパラチド又はその塩(成分1)を含有する液状の皮下投与用医薬製剤であれば、その形態は特に限定されない。本発明の液状医薬製剤として、皮下注射剤や皮下挿入用カプセル剤を例示できる。本発明の液状医薬製剤は、皮下投与用である限り、その容器・針・包装等は特に限定されない。ここで「医薬製剤」とは、哺乳動物(ヒト、サル、ラットなど)に対して任意の疾病の予防/治療/診断に用いられる薬剤を意味する。医薬製剤として、ヒト用医薬製剤が好ましく例示できる。投与対象がヒトである場合、その性別、年齢、罹患する疾病の有無・種類などは特に限定されないが、例えば、閉経後女性であることができる。
【0025】
本発明の液状医薬製剤に用いる溶媒は特に限定されず、水性溶媒でも非水性溶媒でもよいが、水性溶媒を含むことが好ましく、実質的に溶媒を水性溶媒のみで構成してもよい。本発明は水性医薬製剤であることが好ましい。液状医薬製剤又は溶媒(水性溶媒など)は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、無機塩・有機塩、緩衝剤、添加剤等の各種の成分を含有していてもよい。例えば、注射用水や生理食塩液などによって、本発明の液状医薬製剤は調製され得る。
【0026】
本発明の液状医薬製剤として、好ましくはヒト皮下投与用水性医薬製剤、最も好ましくはヒト皮下注射用水性医薬製剤を例示できる。ここで、本発明の液状医薬製剤が皮下投与用製剤である場合、皮下投与の部位は、特に限定されないが、神経や血管の分布が少なく、皮下脂肪が多く、骨のない部位が好ましい。このような部位として、腹部、上腕部、大腿部、臀部を好ましく挙げることができ、腹部が好ましい。
【0027】
(2)テリパラチド又はその塩(成分1):
本発明において、ヒトPTH(1-34)は、ヒト副甲状腺ホルモンであるヒトPTH(1-84)のアミノ酸配列において、N末端側からみて第1番目から第34番目までのアミノ酸残基からなる部分アミノ酸配列で示されるペプチドである。
【0028】
本発明において、テリパラチドは、フリー体のヒトPTH(1-34)を意味する。テリパラチドは塩の形態であることもできる。
【0029】
本発明において、テリパラチドの塩としては、テリパラチドと1種又は2種以上の揮発性有機酸とによって形成される任意の塩が挙げられる。揮発性有機酸としては、トリフルオロ酢酸、蟻酸、酢酸などが例示される。フリー体のテリパラチドと揮発性有機酸とが塩を形成する際の両者の比率は、当該塩を形成する限りにおいて特に限定されない。中でも、揮発性有機酸としては、酢酸が好ましい。即ち、本発明におけるテリパラチドの塩としては、テリパラチド酢酸塩を好ましく例示できる。
【0030】
テリパラチド又はその塩は、ペプチドであることから、その等電点(pI)を有する。pIの測定については、自体公知の方法(例えばHPLCや電気泳動などを用いた方法)により実施可能である。一般的に、テリパラチド又はその塩のpIは、8.3~8.4であることが知られている。
【0031】
テリパラチド又はその塩(成分1)は、自体公知の方法(例えば非特許文献3~5等に記載の方法)により製造され得る。
【0032】
(3)テリパラチド又はその塩(成分1)の含有量・用量・濃度:
本発明の液状医薬製剤に含有されるテリパラチド又はその塩(成分1)の量は特に限定されないが、好適には以下を例示できる。即ち、製剤中の成分1の量としては10μg以上であることが好ましく、20μg以上、25μg以上、27μg以上、更には28μg以上であることがより好ましい。また、製剤中の成分1の量としては100μg以下であることが好ましく、50μg以下、40μg以下、35μg以下、更には、30μg以下であることがより好ましい。中でも、成分1の含有量は、テリパラチドとして28.2μg又は29.2μgであることが好ましい。用いるテリパラチドが酢酸塩の場合は、酢酸量を加味した量も例示できる。例えば、テリパラチド五酢酸塩の場合は、テリパラチド五酢酸塩として、成分1の含有量は30.3μg又は31.3μgであることが好ましい。
【0033】
本発明の液状医薬製剤に含有されるテリパラチド又はその塩(成分1)の1回投与当たりの投与量は特に限定されないが、好適には以下を例示できる。即ち、製剤中の成分1の1回投与当たりの投与量としては25μg以上、27μg以上、更には28μg以上であることがより好ましい。また、製剤中の成分1の1回投与当たりの投与量としては35μg以下、30μg以下、更には29μg以下であることがより好ましい。中でも、成分1の1回投与当たりの投与量は、テリパラチドとして28.2μgであることが好ましい。特に、成分1の1回投与当たりの投与量を前記上限値以下とすることにより、好ましくは単回投与に伴う優れた安全性が得られる。また、成分1の1回投与当たりの投与量を56.5μgとする態様も例示できる。
【0034】
本発明の液状医薬製剤に含有されるテリパラチド又はその塩(成分1)の濃度は特に限定されないが、好適には以下を例示できる。即ち、製剤中の成分1の濃度としては50μg/mL以上であることが好ましく、70μg/mL以上、80μg/mL以上、100μg/mL以上、100μg/mL超、110μg/mL以上、更には120μg/mL以上であることがより好ましい。また、製剤中の成分1の濃度としては500μg/mL以下であることが好ましく、250μg/mL以下、250μg/mL未満、240μg/mL以下、200μg/mL以下、180μg/mL以下、更には160μg/mL以下であることがより好ましい。中でも、141μg/mLを最も好ましく例示できる。成分1の濃度を前記範囲とすることにより、好ましくは、成分1の高い吸収速度や本製剤の単回投与に伴う優れた安全性が得られる。なお、ここで、成分1がテリパラチド塩であった場合、成分1の濃度をそのフリー体(テリパラチド)濃度に換算することが好ましい。
【0035】
(4)テリパラチド又はその塩(成分1)のα-へリックス含有率及びα-へリックス形成アミノ酸残基数:
本発明において、成分1(テリパラチド又はその塩)のα-へリックス含有率とは、本発明の液状医薬製剤に含有される成分1が有する全体のアミノ酸残基数(全体残基数:即ち34個)に対する、α-へリックス構造を形成する平均のアミノ酸残基数(該当残基数)の割合を意味する。割合は、該当残基数を全体残基数で除算した値(0~1)で示されてもよく、百分率(0~100(%))に換算してもよい。例えば、成分1のα-へリックス含有率が13%とは、成分1のアミノ酸残基数34個のうち平均約4.42(=0.13×34)個のアミノ酸残基がα-へリックス構造を形成していることを意味する。
【0036】
ここで、本発明の液状医薬製剤に含有される成分1において、α-へリックス構造の形成部位やその量に関して多くの分子種が存在し、その間で動的平衡されていてもよく、本発明の液状医薬製剤に含有される多くの成分1が実質的に同一のα-へリックス構造の形成部位やその量を示していてもよい。何れの場合も、α-へリックス含有率とは、成分1が有する全体のアミノ酸残基数に対する、成分1中のα-へリックス構造を形成するアミノ酸残基数の割合を意味する。
【0037】
本発明において、液状医薬製剤に含有される成分1のα-へリックス含有率は、例えば円偏光二色性(CD)スペクトル測定法によって推算することが可能である(非特許文献10~11等参照)。例えば、成分1を含有する液状医薬製剤を試料として、測定波長222nmでの円偏光二色性(CD)スペクトル測定値([m deg])を取得し、その測定値を平均残基モル楕円率([deg.cm/d mol])に換算し、得られた平均残基モル楕円率の数値aを用いて、以下の数式から成分1のα-へリックス含有率を推算することが好ましい。
【数1】
【0038】
測定条件は特に限定されず、例えば、以下の条件で測定することができる。
1) 測定波長 222nm
2) 試料濃度(成分1濃度) 0.1~0.3mg/mL
3) 温度 20℃
4) セル長 1~2mm
【0039】
試料容量は、適宜選択でき、例えば、0.5mL程度としてもよい。CDスペクトルを測定するための装置は特に限定されないが、例えば、円二色性分散計(日本分光株式会社販売;J-720)を利用することができる。
【0040】
また、液状医薬製剤に高濃度のアミノ酸等が添加物として含まれている場合には、バックグラウンドが高くなる結果、円偏光二色性(CD)スペクトル測定法によるα-へリックス含有率の測定が困難となる場合もある。このような場合には、例えばCDスペクトル測定法に代えて、核磁気共鳴法(NMR)を用いて測定してもよい。
【0041】
但し、一般的に、円偏光二色性(CD)スペクトル測定結果から成分1のα-へリックス含有率を推算する場合、その推算に用いる推算式に依存して、α-へリックス含有率の推算値が異なり得る。また、同一液状医薬組成物を対象とした場合であっても、NMR法によるα-へリックス含有率の推算値とCD法によるα-へリックス含有率の推算値が異なる場合があり、例えば、CD法によるα-へリックス含有率の推算の際に用いた推算式によっては、前者が後者より高くなる場合がある。
【0042】
従って、NMR法を用いる場合には、CDスペクトル測定法によってα-へリックス含有率が推算された液状医薬製剤を対照品として、同対照品についてNMRで得られるCαの化学シフトを取得し、両測定法による含有率の乖離をもって数値補正を行うことが好ましい。
【0043】
その他、ATR-FT IR(フーリエ変換赤外分光の全反射測定法)、IR(赤外分
光法、非特許文献16参照)、ラマン分光法等の手法を用いて、液状医薬製剤に含有される成分1のα-へリックス含有率を測定することもできる。但し、これらの測定法を適用する場合、測定対象となる被検組成物は、成分1を少なくとも1%(w/v)以上の濃度で含有するように調製されていることが必要である。
【0044】
NMR法による成分1のα-へリックス含有率測定の際にも、試験に供される液状医薬製剤中の成分1の濃度を測定にふさわしい濃度に適宜調整しておくことが好ましい(非特許文献25)。例えば、成分1の濃度が0.5~4mMとなるように液状医薬製剤中の成分1の濃度を適宜調節してNMR法による測定を実施し得る。
【0045】
本発明の液状医薬製剤に含有される成分1のα-へリックス含有率は特に限定されないが、13%以上であることが好ましい。中でも13.5%以上、又は13.8%以上をより好ましく例示できる。液状医薬製剤に含有される成分1のα-へリックス含有率を前記下限値以上とすることにより、優れた薬物動態を示す液状医薬製剤が得られる。
【0046】
本発明の液状医薬製剤に含有される成分1のα-へリックス含有率は、通常、上記下限値(13%以上、13.5%以上、13.8%以上など)を充足すればよく、その上限は、特に制限されないが、例えば100%以下、80%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、25%以下、20%以下、18%以下、16%以下、又は15.8%以下を好ましく例示できる。
【0047】
本発明の液状医薬製剤に含有される成分1のα-へリックス形成アミノ酸残基数は特に限定されないが、4個以上の範囲から選択でき、4.2個以上、4.4個以上、4.42個以上、4.5個以上であってもよい。中でも、4.59個以上、4.6個以上、4.69個以上、4.7個以上をより好ましく例示できる。液状医薬製剤に含有される成分1のα-へリックス形成アミノ酸残基数を前記下限値以上とすることにより、良好な薬物動態を示す皮下投与用液状医薬製剤が得られる。
【0048】
本発明の液状医薬製剤に含有される成分1のα-へリックス形成アミノ酸残基数は、通常、上記下限値(4.2個以上、4.5個以上など)を充足すればよく、その上限は、特に制限されないが、例えば34個以下、30個以下、25個以下、20個以下、18個以下、16個以下、15個以下、12個以下、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6.8個以下、6.5個以下、6.1個以下、5.5個以下、5.44個以下、5.4個以下、5.37個以下であってもよい。
【0049】
本発明の液状医薬製剤が示す円偏光二色性(CD)スペクトル測定(測定波長222nm)による平均残基モル楕円率[θ]の上限は、特に限定されないが、例えば、-6000以下、-6100以下、-6300以下、-6400以下であることができ、中でも-6300以下を好ましく例示できる。同様に、その下限も特に限定されないが、例えば、-8000以上、-7500以上、-7300以上、-7200以上、又は、-7100以上を好ましく例示できる。液状医薬製剤が示す円偏光二色性(CD)スペクトル測定(測定波長222nm)による平均残基モル楕円率[θ]を前記上限以下とすることにより、良好な薬物動態を示す皮下投与用液状医薬製剤が得られる。
【0050】
なお、本発明において、液状医薬製剤中の成分1のα-へリックス含有率やα-へリックス形成アミノ酸残基数を調整し、或いは増加させる手段は、特に制限されないが、本発明の液状医薬製剤に緩衝剤を実質的に含有せしめないこと、イオン性化合物又はイオン性物質(塩化ナトリウムなど)を適宜添加すること、pHを調節すること等を例示できる(後述の実施例1中「(2)ヒト薬物動態試験に供した液状医薬製剤の調製」及び後述の実施例3~4、非特許文献18、非特許文献20なども参照)。
【0051】
あるいは、本発明の液状医薬製剤の極性を低下させる手段、具体的には、各種アルコール類を組成物に添加することにより、組成物中の成分1のα-へリックス含有率やα-へリックス形成アミノ酸残基数を増加させることができる。α-へリックス形成能の強いアルコール類として、トリフルオロエタノール(TFE)が知られているが(非特許文献19)、TFEに代えて医薬品添加物として利用されているイソプロパノールやエタノールを本発明の液状医薬製剤に添加することにより、組成物中の成分1のα-へリックス含有率やα-へリックス形成アミノ酸残基数を増加させることもできる。
【0052】
また、カルシウムイオン(Ca2+)を本発明の液状医薬製剤に添加することによっても、組成物中の成分1のα-へリックス含有率やα-へリックス形成アミノ酸残基数を増加させることができる(非特許文献20)。添加量は特に限定されないが、成分1濃度の約100~1000倍程度のCa2+を添加することが好ましい。
【0053】
なお、特許文献5において、酢酸ナトリウム緩衝液を薬液に添加すると、添加しない場合と比べて薬液中の生理活性ペプチドの生物学的利用率(BA)が向上したことが開示されている(実施例2)。一方、本発明の液状医薬製剤では、実質的に緩衝剤(より具体的には、酢酸緩衝剤)を含ませなくても、良好な薬物動態が得られうる。
【0054】
(5)テリパラチド又はその塩(成分1)のT max
本発明の液状医薬製剤を皮下に単回投与した際に得られる成分1の最高血漿中濃度到達時間(Tmax;hr)は特に限定されないが、好適には以下を例示できる。
【0055】
即ち、薬物動態モデルに依存しない解析(NCA(Non Compartmental Analysis);ノンコンパートメントモデル解析)によって算出されるTmaxとしては、0.75(hr)以下であることが好ましく、0.7(hr)以下、0.65(hr)以下、0.625(hr)以下、0.6(hr)以下、又は、0.5(hr)以下であることがさらに好ましい。また、薬物動態モデルに依存しない解析(NCA(Non Compartmental Analysis);ノンコンパートメントモデル解析)によって算出されるTmaxとしては、0.1(hr)以上、0.2(hr)以上、0.25(hr)以上、0.3(hr)以上、0.4(hr)以上、又は、0.5(hr)以上であることがさらに好ましい。中でも、0.5~0.7(hr)、0.5~0.625(hr)であることが好ましい。成分1のTmaxを前記範囲内とすることにより、好ましくは単回投与に伴う優れた安全性を示す。
【0056】
あるいは、1-コンパートメント(薬物動態)モデル解析によって算出されるTmaxとしては、0.6(hr)以下であることが好ましく、0.55(hr)以下、又は、0.5(hr)以下であることがさらに好ましい。また、1-コンパートメント(薬物動態)モデル解析によって算出されるTmaxとしては、0.1(hr)以上、0.2(hr)以上、0.25(hr)以上、0.3(hr)以上、又は、0.35(hr)以上であることがさらに好ましい。中でも、0.3~0.6(hr)、0.35~0.5(hr)であることが好ましい。成分1のTmaxを前記範囲内とすることにより、好ましくは単回投与に伴う優れた安全性を示す。
【0057】
本発明の液状医薬製剤を皮下に単回投与した際に得られる成分1のTmaxを前記範囲内とするための方法は特に限定されない。
【0058】
maxは、薬剤の薬物動態を特徴づける薬剤の吸収・分布・代謝・排泄(absorption, distribution, metabolism, eliminationのそれぞれの頭文字からADMEと称される場合がある)において、概ね、薬物の吸収速度定数(ka)と消失速度定数(kel)で規定され、代表的なモデルを用いると、次の式で計算される。
【数2】
【0059】
本発明の実施例において、本発明の液状医薬製剤を皮下に単回投与した際に得られる成分1のTmaxは、公知の成分1製剤を皮下に単回投与した際に得られる成分1のTmaxと比較して小さい値を示したこと、kelはkaと比較して製剤の組成依存性が低いと考えられることを考慮して、本発明において成分1のTmaxを前記範囲内とするための方法として、成分1のkaを高める(すなわち、成分1の吸収速度を高める)方法が好ましく例示される。
【0060】
本発明の液状医薬製剤に含まれる成分1のイオン化が、皮下投与された際の成分1の吸収に影響を与える可能性が考慮され得る。従って、成分1のTmaxを前記範囲内とするために、本発明の液状医薬製剤に含まれる成分1を1種又は2種以上の揮発性有機酸との塩とすることができ、あるいは、本発明の液状医薬製剤のpHを後述の例を参考に適宜に調節することができる。また、成分1のTmaxを前記範囲内とするために、本発明の液状医薬製剤の添加剤を後述の例を参考に適宜に選択することもできる。
【0061】
また、成分1のTmaxを前記範囲内とするために、本発明の液状医薬製剤に含まれる成分1の濃度を前記の範囲内で適宜に調節することが好ましく、例えば、80~240μg/mL、100~200μg/mL、109~190μg/mL、又は、120~160μg/mLとすることができる。
【0062】
一般的に、薬物の分子量、薬剤中の添加剤、麻酔、温熱、押圧などが、皮下投与薬物の吸収速度や吸収量に影響を与えることが知られている(非特許文献30)。
【0063】
また、液状医薬製剤に含まれる成分1の濃度を高めることによって、液状医薬製剤を投与対象の皮下に投与した際に得られる成分1の吸収速度定数(Ka)は大きくなる(非特許文献26)。成分1のKaが大きくなることで成分1のTmaxは短縮され得る。
【0064】
また、本発明において、投与対象がヒトである場合、成分1のTmaxを前記範囲内とするために、本発明の液状医薬製剤が投与されるヒトを、例えば、閉経後女性とすることもできる。
【0065】
本発明の液状医薬製剤を皮下に単回投与した際に得られる成分1のTmaxは、自体公知の方法により測定して確認することができる。皮下投与の部位は、特に限定されないが、神経や血管の分布が少なく、皮下脂肪が多く、骨のない部位が好ましい。このような部位として、腹部、上腕部、大腿部、臀部を好ましく挙げることができ、腹部が最も好ましい。
【0066】
成分1のTmaxを測定する際、十分な測定時点数を確保することが好ましい。例えば、後述の実施例における各種評価手順のように、例えば投与前、投与5、15、30、及び45分後、並びに1、1.5、2、3、4、及び6時間後に血液試料を採取して、血漿中の成分1の濃度を測定することが好ましい。
【0067】
(6)特定閾値を超えるテリパラチド又はその塩(成分1)濃度が維持される時間:
薬剤の効果は一般的にその血中濃度が高くなると強くなる傾向がある。例えば、時間依存性の抗菌薬の場合、Time above MIC(最小発育濃度(MIC)よりも高い血中濃度で推移した時間)がその作用において重要である。
【0068】
一方、テリパラチドは体内のカルシウムホメオスタシスに関与していることや高い血中カルシウムレベルがテリパラチド投与に伴う悪心の原因の1つであることが知られている(非特許文献23)。また、テリパラチドを反復投与することで、このようなテリパラチドの生理活性によって高い血中カルシウムレベルが維持・増強され、結果として、高カルシウム血症や高カルシウム尿症等の副作用リスクについて配慮されることもある。
【0069】
本発明において、皮下に単回投与した後のテリパラチド又はその塩の血漿中濃度が特定閾値以上となる状態の経過時間が特定範囲内となる液状医薬製剤を一態様として挙げられるが、特定閾値として2つの態様を例示できる。
【0070】
一方を特定閾値a、他方を特定閾値bとすると、特定閾値a及び特定閾値bは共に特に限定されないが、特定閾値aとしては、50(pg/mL)以上であることが好ましく、60(pg/mL)以上、又は、80(pg/mL)以上であることができ、特定閾値aの上限としては、200(pg/mL)以下、150(pg/mL)以下、又は、120(pg/mL)以下であることが好ましい。特定閾値aの好適例として、100(pg/mL)を好ましく挙げられる。血漿中成分1濃度が特定閾値a以上である状態の経過時間が特定範囲内であることにより、好ましくは、単回投与に伴う血中カルシウム濃度の上昇が抑制される。血中カルシウム濃度の上昇抑制は、消化器副作用発生頻度及び/又は高カルシウム血症/尿症発症リスクの低減に寄与し得る。
【0071】
ここで、経過時間の特定範囲は特に限定されないが、3時間以内であることができ、好ましくは、2.5時間未満、2.1時間未満、2.0時間未満、1.73時間未満、1.7時間未満、1.5時間未満、更には、1.0時間未満であることができる。その下限も特に限定されないが、0.5時間以上、0.7時間以上、更には、0.8時間以上であることができる。中でも、2.1時間未満、0.7~2.1時間、1.7時間未満、又は、0.7~1.7時間であることがさらに好ましい。
【0072】
特定閾値bも前記の通り特に限定されないが、100(pg/mL)以上であることが好ましく、150(pg/mL)以上、又は、200(pg/mL)以上であることができ、上限としては、500(pg/mL)以下、400(pg/mL)以下、又は、300(pg/mL)以下であることが好ましい。特定閾値bの好適例として、250(pg/mL)を好ましく挙げられる。血漿中成分1濃度が特定閾値b以上である状態の経過時間が特定範囲内であることにより、好ましくは、単回投与に伴う優れた安全性(とりわけ、消化管副作用発現の頻度が抑制される安全性)が示され得る。
【0073】
前記の経過時間は特に限定されないが、1.4時間未満であることができ、好ましくは、1.3時間未満、1.2時間未満、1.1時間未満、1.0時間未満、更には、0.9時間未満、0.8時間未満、又は、0.7時間未満であることができる。その下限も特に限定されないが、0.0以上、更には、0.1時間以上であることができる。中でも、0.8時間未満、0.1時間以上であることがより好ましい。
【0074】
本発明の液状医薬製剤を皮下に単回投与する際、一般的に、1回当たりの成分1の投与量を増減させることに伴って、成分1の血漿中濃度も増減する傾向があると考えられる。従って、血漿中成分1濃度が特定閾値以上である状態の経過時間が特定範囲内であるために、1回当たりの成分1の投与量を前記の範囲内で適宜に調節することが好ましく、テリパラチドとして28.2μgとすることが最も好ましい。
【0075】
本発明の液状医薬製剤に含まれる成分1のイオン化が、皮下投与された際の成分1の吸収に影響を与える可能性が考慮され得る。従って、血漿中成分1濃度が特定閾値以上である状態の経過時間を調節する目的で、本発明の液状医薬製剤に含まれる成分1をテリパラチドの1種又は2種以上の揮発性有機酸との塩とすることができ、あるいは、本発明の液状医薬製剤のpHを後述の例を参考に適宜に調節することができる。また、同様の目的のために、本発明の液状医薬製剤の添加剤を後述の例を参考に適宜に選択することもできる。
【0076】
また、成分1の前記特定閾値に到達する時点から同値を下回る時点までの経過時間を前記経過時間とするために、本発明の液状医薬製剤に含まれる成分1の濃度を前記の範囲内で適宜に調節することが好ましく、例えば、80~240μg/mL、100~200μg/mL、109~190μg/mL、又は、120~160μg/mLとすることができる。
【0077】
成分1の特定閾値が2つ存在する態様(特定閾値a,b、ここで、b>aとする)の場合、成分1のTmaxをより小さくすることで特定閾値aに到達する時点から同値を下回る時点までの経過時間(経過時間a)がより短くなり得るものの、過剰にTmaxを小さくすると特定閾値bに到達する時点から同値を下回る時点までの経過時間(経過時間b)がより長くなることがある。従って、このような場合、経過時間aと経過時間bの両方の時間をバランスよく短縮化することで単回投与による安全性を好適にすることが好ましく、より具体的には、例えば、本発明の液状医薬製剤に含まれる成分1の濃度を前記の濃度範囲とし、あるいは、成分1のTmaxを前記の時間範囲とすることが望ましい。
【0078】
液状医薬製剤に含まれる成分1の濃度を高めることによって、液状医薬製剤を投与対象の皮下に投与した際に得られる成分1の吸収速度定数(Ka)は大きくなる(非特許文献26)。成分1のKaが大きくなることで成分1のTmaxは短縮され、結果として、血漿中成分1の濃度の消失相の傾きが大きくなり得る(すなわち、フリップフロップ(flip-flop)現象が解消される方向になるので、消失相の傾きが消失速度定数に近づき得る)。成分1のTmaxの短縮化と血漿中成分1の濃度の消失相の傾き増大により、成分1の前記特定閾値に到達する時点から同値を下回る時点までの経過時間は短縮され得る。
【0079】
本発明において、投与対象がヒトである場合、本発明の液状医薬製剤が投与されるヒトについて、性別は女性が好ましく、年齢は45歳以上(好ましくは、50歳以上)、体重は42~62kg(好ましくは、45~60kg)であることがそれぞれ好ましい。
【0080】
また、本発明において、投与対象がヒトである場合、血漿中成分1濃度が特定閾値以上である状態の経過時間を調節する目的で、本発明の液状医薬製剤が投与されるヒトを、例えば、閉経後女性とすることもできる(非特許文献27)。
【0081】
あるいは、本発明において、投与対象がヒトである場合、本発明の液状医薬製剤が投与されるヒトの体重等に応じて医師等の判断により適宜投与量を調節することもできる。
【0082】
本発明の液状医薬製剤を皮下に単回投与した際に得られる血漿中成分1濃度は、自体公知の方法により測定して確認することができる(図6参照)。皮下投与の部位は、特に限定されないが、神経や血管の分布が少なく、皮下脂肪が多く、骨のない部位が好ましい。このような部位として、腹部、上腕部、大腿部、臀部を好ましく挙げることができ、腹部が最も好ましい。
【0083】
血漿中成分1濃度を測定する際、十分な測定時点数を確保することが好ましい。例えば、後述の実施例における各種評価手順のように、例えば投与前、投与5、15、30、及び45分後、並びに1、1.5、2、3、4、及び6時間後に血液試料を採取して、血漿中の成分1の濃度を測定することが好ましい。
【0084】
(7)pH、添加剤、緩衝剤:
本発明における液状医薬製剤のpHは特に限定されないが、好適には以下を例示できる。即ち、液状医薬製剤のpHは例えば3.5以上、4.0以上、4.0超、4.2以上、又は4.4以上とすることが好ましい。液状医薬製剤のpHは例えば6.0以下、5.5以下、5.0以下、5.0未満、4.9以下、又は4.8以下とすることが好ましい。中でも、5.0以下とすることが好ましく、更には、4.0以上かつ5.0以下、4.0以上かつ5.0未満、4.2以上かつ5.0未満とすることが好ましく、4.4以上かつ4.9以下とすることが最も好ましい。本製剤のpHを前記範囲とすることにより、優れた安定性(例:成分1の脱アミド体や切断体(31-34)の生成の生成抑制性など)及び/又は薬物動態が効率よく得られうる。
【0085】
また、本発明の液状医薬製剤には、各種の添加物を含有せしめることもできる。添加物として、例えば、可溶化剤、安定化剤、等張化剤、pH調節剤、防腐剤(保存剤)などを挙げることができる。添加物として、例えば、塩化ナトリウム、D-マンニトール、シュークロース、L-メチオニンを例示できる。pH調節剤として、例えば、塩酸、水酸化ナトリウムを挙げることができる。
【0086】
また、本発明の液状医薬製剤には、医薬分野で一般的に使用される緩衝剤を含んでもよい。あるいは、本発明の製剤は実質的に緩衝剤を含有しない液状医薬製剤であってもよく、中でも、実質的に酢酸緩衝剤を含有しない液状医薬製剤であることで、好ましくは、優れた薬物動態が効率よく得られうる。
【0087】
本発明の液状医薬製剤に少なくとも1種以上の無機塩及び/又は有機塩が含有される場合、その濃度は特に限定されないが、2mg/mL以上であることが好ましく、3mg/mL以上であることがさらに好ましく、中でも5.5mg/mL以上であることがより好ましい。一方、25mg/mL以下であることが好ましく、中でも11mg/mL以下であることがより好ましい。
【0088】
本発明の液状医薬製剤に少なくとも1種以上の無機塩及び/又は有機塩が含有される場合、そのテリパラチド又はその塩に対する質量比(成分1:成分2の質量比)は特に限定されないが、下限としては例えば1:5以上であることが好ましく、1:10以上、又は1:15以上であることがさらに好ましく、中でも1:20以上であることがより好ましく、1:35以上であることが最も好ましい。一方、上限としては例えば1:500以下であることが好ましく、1:300以下であることがより好ましく、1:80以下であることが最も好ましい。
【0089】
本発明の液状医薬製剤のpHは、自体公知の方法により、例えば、緩衝剤やpH調節剤を用いて調整することができる。
【0090】
また、本発明の液状医薬製剤の一態様として、1回当たりの投与量としてテリパラチド酢酸塩をテリパラチド換算で28.2μg又は56.5μg含有し、さらに、塩化ナトリウムと精製白糖を含有する凍結乾燥製剤を除く、液状医薬製剤を例示できる。さらに、本発明の液状医薬製剤の一態様として、氷酢酸、酢酸ナトリウム(無水物であってもよい)及びD-マンニトールを含有し、pHが3.8~4.5(例えば、pHが4.1)である、液状医薬製剤を除く、液状医薬製剤も挙げることができる。あるいは、本発明の液状医薬製剤の一態様として、1回当たりの投与量としてテリパラチド酢酸塩をテリパラチド換算で28.2μg又は56.5μg含有する凍結乾燥製剤を除く、液状医薬製剤を例示することもできる。また、本発明の液状医薬製剤の一態様として、成分1及び単糖類(例:マンニトール、グルコース、ソルビトール、イノシトール)を含有する凍結乾燥製剤を除く、液状医薬製剤を例示できる。あるいは、発明の液状医薬製剤の一態様として、成分1及びキシリトールを含有する液状医薬製剤を除く、液状医薬製剤を例示できる。
【0091】
(8)凍結乾燥:
本発明の液状医薬製剤は、凍結乾燥製剤から再構成されてなる液状医薬製剤の態様を含んでもよく、凍結乾燥製剤から再構成されてなる液状医薬製剤ではなくてもよい。従来、テリパラチド又はその塩を含有する凍結乾燥製剤、用時に生理食塩液等に溶解(再溶解)させて調製させて液状医薬製剤とすることが知られているが、本発明の液状医薬製剤は、このような凍結乾燥製剤の再溶解品(用時調製品)であってもよく、凍結乾燥製剤を経ない製剤(予め液剤化された製剤)であってもよい。本発明では、凍結乾燥製剤を経なくても、良好な薬物動態を有する製剤を提供しうる。
【0092】
(9)薬物動態:
本発明の皮下投与用液状医薬製剤の一態様において、テリパラチド又はその塩(成分1)のα-ヘリックス含有率は特定範囲内(例えば、13.0%以上)である。また、本発明の皮下投与用液状医薬製剤の一態様において、成分1におけるα-へリックス形成アミノ酸残基数は特定範囲内(例えば、4.5個以上)である。このような皮下液状医薬製剤では、優れた薬物動態が得られる。
【0093】
液状医薬製剤をヒトやサルなど哺乳動物に投与した際、どれだけ全身循環血に到達し作用するかは重要な問題である。一般に、液状医薬製剤を静脈投与した場合、前記製剤中の薬物はほぼ完全に生体で利用されるが、非静脈投与(経口、直腸、経皮、皮下など)投与の際には、循環血に全てが到達するわけではない。全身循環血に到達した量を測る指標として、AUC(血漿中濃度-時間曲線下面積)が採用されることが多い。また、静脈投与によって得られたAUCに対する非静脈投与によって得られたAUCの比率を(絶対的)生物学的利用率(%)として薬物の生体利用度を評価する場合もある。非静脈投与によるAUCや生物学的利用率などの薬物動態学的パラメータを改善することは薬物が与える治療効果や安全性などを高める上で重要である。
【0094】
液状医薬製剤の薬物動態は、各種の薬物動態学的パラメータを指標として評価することができる。薬物動態学的パラメータの例としては、最高血漿中濃度到達時間(Tmax)、最高血漿中濃度(Cmax)、血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)、及び生物学的利用率(%)などが好ましく例示される。AUCとしては、特に限定されるものではないが、例えばAUCinf(無限大時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積)、AUClast(最終観察時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積)、及び反復投与時の1投与間隔で得られるAUCτ(時間ゼロから投与間隔時間τまでの血漿中濃度-時間曲線下面積)等が挙げられる。
【0095】
薬物動態学的パラメータの評価に際し、投与の部位は特に限定されないが、神経や血管の分布が少なく、皮下脂肪が多く、骨のない部位が好ましい。このような部位として、腹部、上腕部、大腿部、臀部を好ましく挙げることができ、腹部が最も好ましい。
【0096】
薬物動態学的パラメータの算出方法も特に制限されず、薬物動態モデルに依存しない解析及び薬物動態モデルに依存する解析方法(例:1-コンパートメントモデル)のいずれを用いても算出可能である(非特許文献6)。但し、薬物動態モデルに依存しない解析方法、即ちNCA(Non Compartmental Analysis)によって算出されることが好ましい。NCAにおけるAUC算出法として、線形台形法(linear trapezoidal rule)や対数線形台形法(log linear trapezoidal rule)を挙げることができる。例えば、最高血漿中濃度到達時間(Tmax)までの吸収相では線形台形法を、Tmax以降の消失相では対数線形台形法を用いてAUCを算出することもできる。
【0097】
薬物動態学的パラメータを算出する際には、十分な測定時点数を確保することが好ましい。例えば、後述の実施例における各種評価手順のように、例えば投与前、投与5、15、30、及び45分後、並びに1、1.5、2、3、4、及び6時間後に血液試料を採取して、血漿中のテリパラチド又は塩の濃度を測定することができる。
【0098】
液状医薬製剤の薬物動態パラメータを算出するためには、十分な例数を確保することが好ましい。各薬物動態パラメータは、各症例が示す数値を加算したものを例数で除することで得られる平均値(mean)であってもよく、あるいは、各症例が示す数値を序列化してその中央に位置する中央値(median)としてもよい。複数種類の液状医薬製剤の薬物動態パラメータを得るために、群間比較試験や交差試験を用いることができる。テリパラチドは、比較的にウオッシュアウトされやすく、また、例数をコンパクトにすることができるという意味において、複数種類の液状医薬製剤の薬物動態パラメータを得る目的では、交差試験を適用することが好ましい。
【0099】
薬物動態の指標として、成分1の絶対的生物学的利用率(%)は、例えば、以下の式より算出することができる。
【数3】
【0100】
AUCinfの測定誤差等によって、理論的上限である100%を超過する絶対的生物学的利用率(%)が得られることがある。成分1の絶対的生物学的利用率(%)は特に限定されないが、好適には以下を例示できる。即ち、例えば70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、100%以上、110%以上、であることが好ましい。また、上限としては例えば、180%以下、160%以下、150%以下であることが好ましい。中でも、90%以上かつ160%以下とすることが好ましく、100%以上かつ150%以下とすることが最も好ましい。
【0101】
成分1のCmaxは、特に限定されないが、好適には以下を例示できる。即ち、230(pg/mL)以上、240(pg/mL)以上、250(pg/mL)以上であることが好ましい。また、上限としては例えば、380(pg/mL)以下、360(pg/mL)以下、350(pg/mL)以下であることが好ましい。中でも、250~350(pg/mL)であることが好ましい。
【0102】
成分1のAUClastは、特に限定されないが、好適には以下を例示できる。即ち、350(hr・pg/mL)以上、360(hr・pg/mL)以上、370(hr・pg/mL)以上、380(hr・pg/mL)以上、390(hr・pg/mL)以上であることが好ましい。また、上限としては例えば、600(hr・pg/mL)以下、580(hr・pg/mL)以下、570(hr・pg/mL)以下、550(hr・pg/mL)以下、530(hr・pg/mL)以下であることが好ましい。中でも、350~550(hr・pg/mL)とすることが好ましい。
【0103】
成分1のAUCinfは、特に限定されないが、好適には以下を例示できる。即ち、380(hr・pg/mL)以上、390(hr・pg/mL)以上、400(hr・pg/mL)以上、420(hr・pg/mL)以上であることが好ましい。また、上限としては例えば、650(hr・pg/mL)以下、600(hr・pg/mL)以下、590(hr・pg/mL)以下、580(hr・pg/mL)以下、560(hr・pg/mL)以下であることが好ましい。中でも、400~600(hr・pg/mL)とすることが好ましい。
【0104】
成分1の絶対的生物学的利用率(%)、Tmax、Cmax、AUClast、AUCinfの少なくとも1以上を前記範囲とすることが好ましい。
【0105】
なお、いかなるメカニズムによって上記の画期的な結果が示されたかは未だ不明である。
【0106】
薬物動態の側面においては、例えば、臨床現場で使用されている皮下投与用抗体製剤は、概ね50~60%の生物学的利用能しかなく、その低い生物学的利用能を誘導する可能性がある原因は、製剤中のタンパク質が示す電荷や疎水性、製剤中の添加剤成分、投与用量や投与深度と多岐にわたることや、プラスに荷電した抗体が皮下組織に吸着することが報告されている(非特許文献7)ものの、製剤中の抗体の二次構造が生物学的利用能に与える影響はなんら開示又は示唆されていない。別の報告においては、テリパラチド酢酸塩凍結乾燥製剤(添加物は、精製白糖及び塩化ナトリウム)を生理食塩液で溶解した薬液(pH5.0~7.0)を皮下に投与すると、およそ35~50分程度で最高血中濃度に達し、AUCinfから計算された絶対的生物学的利用率がほぼ100%であることも開示されている(非特許文献1における「[薬物動態]2.生物学的利用率」欄)が、薬液中のテリパラチド酢酸塩の二次構造が生物学的利用能に与える影響はなんら示唆されていない。
【0107】
一方、テリパラチドの二次構造の側面においては、例えば、水溶液中において、テリパラチドは主に柔軟かつ伸長していること、その例外として、N末端から第20~24番目(Arg-Val-Glu-Trp-Leu)にランダムではない部分構造が存在すること、二次元NMR測定による2次構造は殆ど観察されないこと、等が報告されているものの(非特許文献12)、本文献では、テリパラチドの二次構造が吸収・代謝・排泄等のその薬物動態性に与える影響はなんら示唆されていない。
【0108】
このように、従来の報告のみに基づき、テリパラチドの二次構造がその薬物動態性に与える影響を考察することは難しい。そのような状況の下で、本発明者等は、いかなるメカニズムによって上記の画期的な結果が獲得できたのかについて以下に考察する。
【0109】
皮膚は、体内と外界の環境を隔て人体の恒常性を維持する重要な役割を果たしており、その役目を果たすために様々な機能をもち、それを実現するための複雑な構造を有している。皮膚を断面で観察すると、おおまかに、表皮・真皮・皮下組織の3層構造をとっていることが分かる。皮下組織は脂肪組織が主体であり、中性脂肪の貯留や保温機能、外力からのクッションの役目などを担っている。
【0110】
皮下に投与される医薬製剤の構成は、投与される皮下組織の構造と相違することから、皮下に投与された後、薬が血管やリンパ管に至るその間で、様々なストレスが、その安定性、溶解性、機能に与え得るだろうことが提案されている(非特許文献8)。ここで、非特許文献8に記載されるように、ストレスの例として、1)細胞外マトリックスにおける立体構造障害、静電的相互作用、特定相互作用(表4)、2)投与前後のpH変動が医薬製剤にそれぞれ含まれる添加物の薬に対する保護作用に与える影響(27~28頁)、3)投与後における添加物の速い移動による薬の凝集や皮下組織への吸着(図5のD)、4)投与前後のpH変動が薬の安定性に与える影響(29頁)、5)投与前後の薬近傍の温度変動が薬の吸収性に与える影響(29頁)、6)投与による間質液静水圧又は膠質浸透圧の変動が薬の安定性に与える影響(29~30頁)などが知られている。
【0111】
本発明者等は、これに拘泥するわけではないが、1つの理論として、テリパラチド又はその塩におけるα-へリックス含量が上記のストレスの少なくとも1つに対して関与していると考えている。
【0112】
ここでの関与は、皮下に投与されたテリパラチド又はその塩が優れた薬物動態を示すような機序である限りにおいて特に限定されないが、例えば、テリパラチド又はその塩におけるα-へリックスやその量が、1)血管内皮の透過性を向上させることによってその生物学的利用率(%)を高める態様が1つの考えとして提示され得る。
【0113】
血管内皮細胞は、全身をめぐる血管の最内層にある細胞であり、血管への炎症細胞の接着、血管透過性、凝固・線溶系の調節など重要な役割を果たしている。一方、ペプチドの膜透過にはそのα-へリックスが大きく関与していることが知られている(非特許文献28)。
【0114】
従って、1つの理論として、皮下に投与されたテリパラチド又はその塩においてα-へリックスがある程度以上に存在する場合には、そうでない場合と比較すると、ペプチドの血管内皮細胞の膜透過性が上昇することで血中への移行が高まり、結果として、生物学的利用率(%)が高まるメカニズムを考えることもできる。
【0115】
また、例えば、テリパラチド又はその塩におけるα-へリックスやその量が、2)細胞外マトリックスにおける各種障害や相互作用を直接的又は間接的に抑制することによってその生物学的利用率(%)を高める態様が1つの考えとして提示され得る。
【0116】
細胞外マトリックスは、細胞の外に存在する超分子構造体であり、骨格的役割を有すると共に、細胞接着における足場を提供し、シグナル伝達などに関与している。細胞外マトリックスは、構造タンパク質(コラーゲンなど)やプロテオグリカンなどから構成されている。プロテオグリカンは核となるタンパク質にグリコサミノグリカン(GAGと称される場合もある)が共有結合した複合体であり、GAGとして、硫酸コンドロイチン、ヒアルロン酸、ヘパリンなどを例示できる。コラーゲンやGAGは皮下投与された薬物との特異的な相互作用を引き起こし得ることも知られている(非特許文献8)。
【0117】
一方、副甲状腺ホルモンであるPTH(1-84)は、ヘパリンや各種ポリアニオン性物質との相互作用によってα-へリックスが誘導されることが知られている(非特許文献29)。GAGと各種タンパク質の相互作用は、病期等における多様な生物学的現象を調節すると考えられていること、ヘパリンは、ヘパリン結合性タンパク質と相互作用する際、ネイティブな構造を有する同タンパク質をより優先すること等に基づいて、PTH(1-84)は、GAGとの相互作用によってα-へリックス等の構造変化を起し、そのような構造変化を起したPTH(1-84)が受容体と結合するというモデルが提供されている(非特許文献29)。
【0118】
従って、1つの理論として、皮下に投与されたテリパラチド又はその塩においてα-へリックスがある程度以上に存在する場合には、そうでない場合と比較すると、GAGとの相互作用が減弱され、結果として、生物学的利用率(%)が高まるメカニズムを考えることもできる。α-へリックス含量がテリパラチド又はその塩とGAGの相互作用に与える影響の機序も特に限定されないが、例えば、テリパラチド又はその塩における極性・非極性のバランス変化と考えることができるかもしれない。
【0119】
従前において、水溶液中においてテリパラチドは主に柔軟かつ伸長していることが報告されていること(非特許文献12)から、3次構造に大きな差がない可能性が高いと本発明者等は考察している。
【0120】
さらに、今回、水溶液中におけるテリパラチドのゼータ電位と薬物動態との間にはっきりとした関係が認められなかった。以上のことから、水溶液中のテリパラチドにおけるα-へリックス含量やα-へリックス形成アミノ酸残基数と薬物動態の関係の確からしさがより明確になったと発明者は考えている。
【0121】
テリパラチドにおいて、α-ヘリックスを形成するアミノ酸残基としては、N末端の1~34番目のいずれであってもよく、特に限定されないが、例えば、3~12番目、17~26番目などであってもよい。これらのアミノ酸残基は、ヘリックス構造を形成しやすいようである。そのため、本発明の製剤において、これらのアミノ酸残基数の少なくとも1個がα-へリックスを形成していてもよい。
【0122】
特に、これらのアミノ酸残基(3~12番、17~26番)のうち、平均4個以上(例えば、4.2個以上、4.4個以上、4.42個以上、4.5個以上、4.59個以上、4.6個以上、4.69個以上、又は4.7個以上)のアミノ酸残基がα-へリックスを形成してもよい。また、これらのアミノ酸残基(3~12番、17~26番)のうち、平均20個以下(例えば、18個以下、16個以下、15個以下、12個以下、11個以下、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6.8個以下、6.5個以下、6.1個以下、5.5個以下、5.44個以下、5.4個以下、又は5.37個以下)のアミノ酸残基がα-へリックスを形成してもよい。
【0123】
また、アミノ酸残基の中でも、N末端から13番目(リジン残基)、14番目(ヒスチジン残基)、及び、27番目(リジン残基)から選択された少なくとも1個のアミノ酸残基がα-ヘリックスを形成していてもよい。これらの残基は、いずれも塩基性アミノ酸残基であることから、皮下組織に投与された際に正に荷電していると推察される。
【0124】
これらのアミノ酸残基は、前記ストレスのいずれかに対する影響が比較的強いようであり、これらのアミノ酸残基にα-ヘリックスを形成させることで、効率良く、良好な薬物動態が得られうる。
【0125】
(10)安全性:
本発明の液状医薬製剤の一態様において、その1回当たりのテリパラチド又はその塩の投与量が特定量(例えば、28.2μg)である。あるいは、本発明の液状医薬製剤の一態様において、その単回投与によって得られるテリパラチド又はその塩の最高血漿中濃度到達時間(Tmax)は特定範囲内(例えば、0.7時間未満)である。もしくは、本発明の皮下投与用液状医薬製剤の一態様において、その単回投与によって得られるテリパラチド又はその塩の血漿中濃度が特定閾値(例:100pg/mL、又は、250pg/mL)以上の状態の経過時間が特定範囲内(例:2.1時間未満、1.0時間未満)である。これらの皮下液状医薬製剤では、優れた安全性が得られる。
【0126】
ここで、安全性とは、あらゆる好ましくない医療上の出来事である有害事象及び有害事象と薬剤の関係について因果関係を否定できない副作用をいずれも包含する。
【0127】
重篤な有害事象として、死亡や障害などが挙げられるが、本発明における安全性は、これに限定されず、医薬品の有効性(ベネフィット)との関係においてその評価に影響を与え得るあらゆるリスクを包含する。
【0128】
安全性の種類や程度も特に限定されず、例えば、皮膚・皮膚付属器、筋・骨格、中枢・末梢神経、自律神経、視覚、嗅覚、精神、消化管、肝臓・胆管、代謝・栄養障害、内分泌、心・血管、呼吸器、血球・血小板、泌尿器、生殖器、全身などに起こる障害や好ましくない症状であって、その強さや頻度も限定されない。好ましくは、消化管副作用や血圧低下リスクを例示することができ、中でも悪心・嘔吐・嘔気の頻度を最も好ましく例示できる。
【0129】
医薬品は、生活習慣病治療薬等として長期に亘って反復継続して使用される場合が多く、その治療継続は良好な治療を得るために重要である。しかし、医薬品が反復投与されると、そのトラフ値が上昇することで副作用が強くなる場合があり、このような副作用の増強に起因する治療脱落は治療の奏功に悪影響を与え得る。
【0130】
あるいは、医薬品の投薬の度に一過性に医薬品の血中濃度が上昇することで副作用が頻りに又は強く発現することもあり、このような場合においても、結果として、治療脱落という好ましくない状況が発生し得る。
【0131】
このように、医薬品の利用に際して、その都度及び継続利用する期間にわたって、その安全性が配慮されていることが望ましい。言い換えれば、単回投与に伴う安全性と反復継続投与に伴う安全性の両面の安全性が医薬品に備わっていることが好ましい。
【0132】
本発明の液状医薬製剤は、従来のテリパラチドを含む医薬製剤と比較して、単回投与に伴う安全性が改善されていることが好ましい。単回投与に伴う安全性の改善の例としては、これらに限定されるものではないが、単回投与に伴う消化管副作用頻度及び/又は血圧低下リスクの低減が好ましく例示される。
【0133】
(11)性状等:
本発明の液状医薬製剤は、少なくともその製造時においては、無色澄明であることが好ましく、生理食塩液に対する浸透圧比は約1(例:1.0~1.4)であることができる。
【0134】
2.液状医薬製剤の製法:
本発明の液状医薬製剤は、自体公知の種々の製法により製造可能である。通常は、本発明の液状医薬製剤を構成する前述の各種の成分を適宜選択し、適切な溶媒と混合して溶解させればよい。
【0135】
本発明の皮下投与用液状医薬製剤を製造する場合には、水性液状医薬製剤とすることが好ましい。水性液状医薬製剤の場合、投与前に無菌処理されたものであることが好ましい。無菌処理として無菌操作法を採用する場合には、秤量した各原料を注射用水などに溶解させ、溶解液を濾過滅菌することにより液状医薬製剤を製造することができる。注射用水は、一般的に、発熱性物質(エンドトキシン)試験に適合した滅菌精製水として理解され、蒸留法により製造された注射用水は、注射用蒸留水と称呼される場合もある。
【0136】
この注射用液状医薬製剤を、更に、洗浄・滅菌処理された容器に充填・密封し、検査・包装等を経て、注射用液状医薬製剤を充填してなる注射剤を製造することができる。ここで容器としては、例えば、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、バッグなどを例示できる。容器の材質は、特に限定されないが、ガラスやプラスチックを挙げることができる。強度、取扱い容易さ、安全性などの観点から、容器の材質としてプラスチックを好ましく例示できる。
【0137】
3.薬物動態学的パラメータを改善する方法:
本発明は、一態様として、成分1を含む液状医薬製剤を皮下投与した際に前記製剤が示す成分1の薬物動態学的パラメータを改善する方法であって、成分1のα-へリックス含有率及び/又は成分1におけるα-へリックス形成アミノ酸残基数を調整する(増加などさせる)ことを含む方法を提供する。
【0138】
本方法は、例えば、以下の工程を順次実施することにより、実施され得る。
工程1)成分1のα-へリックス含有率が前記の特定範囲内(例えば、13.0%以上)及び/又は成分1におけるα-へリックス形成アミノ酸残基数が前記の特定範囲内(例えば、4.5個以上)となるように成分1を含有する液状医薬製剤を調製する。
工程2)液状医薬製剤をヒト皮下に投与し、投与前及び複数の時点の投与後の血液試料をヒトから採取する。
工程3)各時点の血液試料に含まれる成分1の濃度を測定する。
工程4)各時点の成分1濃度からある薬物動態学的パラメータaの数値Aを算出する。
工程5)成分1のα-へリックス含有率及び/又は成分1におけるα-へリックス形成アミノ酸残基数が前記の特定範囲外にある成分1を含有する液状医薬製剤をヒト皮下に投与した際に得られた薬物動態学的パラメータaの数値Bと数値Aを比較し、数値Aが数値Bよりも良好か否かを判定する。
【0139】
薬物動態学的パラメータが成分1の絶対的生物学的利用率(%)である場合、その数値の増加は薬物動態学的パラメータの改善を意味する。薬物動態学的パラメータが成分1のAUClast又はAUCinfである場合、その数値の増加は薬物動態学的パラメータの改善を意味する。
【0140】
また、本発明は、一態様として、成分1としてテリパラチド又はその塩を含む液状医薬製剤を皮下投与した際に前記製剤が示す成分1の薬物動態学的パラメータを改善する方法であって、1)成分1の1回当たりの投与量を前記の特定量(例えば、28.2μg)とすること、2)成分1の濃度を特定範囲内(例えば、120~160μg/mL)とすること、3)成分1を1種又は2種以上の揮発性有機酸との塩とすること、4)液状医薬製剤のpHを調節すること、及び、5)製剤に適宜添加剤を含有せしめること、のうち、少なくとも1つを実施することを特徴とする、薬物動態学的パラメータを改善する方法を提供する。ここで、薬物動態学的パラメータの改善は、成分1のTmaxが前記範囲内(例:0.2~0.7(hr))となっているか否かを測定することによって確認され得る。
【0141】
4.品質を管理する方法:
本発明は、一態様として、成分1を含有する皮下投与用液状医薬製剤の品質を管理する方法であって、液状医薬製剤中の成分1のα-へリックス含有率及び/又は成分1におけるα-へリックス形成アミノ酸残基数を測定し、得られたα-へリックス含有率及び/又は成分1におけるα-へリックス形成アミノ酸残基数の測定値を、予め定められた基準値と比較し、前記測定値が前記基準値以上である場合に、液状医薬製剤の品質が維持されていると判断することを含む方法を提供する。
【0142】
ここで、予め定められた基準値は、前記の成分1のα-へリックス含有率の特定範囲下限(例:13.0%以上)である。
【0143】
また、基準値と比較する値をα-へリックス構造形成残基数とすることもでき、その際の予め定められた基準値は、前記の成分1におけるα-へリックス構造形成残基範囲下限(例:4.5個以上)とする。
【0144】
あるいは、基準値と比較する値を円偏光二色性(CD)スペクトル測定(測定波長222nm)による平均残基モル楕円率[θ]とすることもでき、その際の予め定められた基準値は、前記の円偏光二色性スペクトル測定平均残基モル楕円率[θ]の範囲上限(例:-6300以下)とする。
【0145】
ここで、液状医薬製剤の品質とは、例えば、液状医薬製剤を皮下に単回投与した際に得られる薬物動態学的パラメータである。薬物動態学的パラメータとして、成分1の絶対的生物学的利用率(%)、AUClast、AUCinfなどを好ましく例示し得る。
【実施例0146】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例にも束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0147】
なお、以下の実施例において、「処方」を本発明の「液状医薬製剤」に相当する文言として表記する場合もある。
【0148】
実施例1(液状医薬製剤の調製):
(1)サル薬物動態試験に供した液状医薬製剤の調製:
下記表1~2に従って処方A~Hを調製した。これらの処方は、それぞれ、後述「(2)ヒト薬物動態試験に供した液状医薬製剤の調製」の処方A~Hと、その組成の観点でほぼ同一の処方である。
【0149】
下記表1に従って処方A~Dを調製した。
各処方の具体的調製法は次の通りである。まず表中「添加剤」欄に記載の各添加剤溶液を混合し注射用水で約46mLにした後に、その混合液に2.5mLのテリパラチド酢酸塩溶液(テリパラチドとして2820μg/mL)を添加し、約48.5mLの薬液aを調製した。ここで、各添加剤溶液及びテリパラチド酢酸塩溶液それぞれの溶媒を注射用水とした。さらに、その薬液aに対して、塩酸を添加することで表中「pH」欄に記載のpHに調整し、注射用水を用いて全量50mLの処方を調製した。
【0150】
各処方を濾過滅菌処理した後に、プラスチック製バイアルに1.5mLずつ充填することによって、各処方が充填されたプラスチック製バイアルを製造し、サル薬物動態試験に供した。
【0151】
各処方の組成は表中「最終含有量」欄に記載の通りである。
【表1】
【0152】
さらに、下記表2に従って処方E~Hを調製した。
各処方の具体的調製法は次の通りである。まず表中「添加剤」欄に記載の各添加剤を注射用水と共に混合し全量を3000mLにした。その後、その混合液1600mLに対してテリパラチド酢酸塩(テリパラチドとして282mg)を添加し、溶解させることで薬液aを調製した。さらに、その薬液aに対して、希釈した塩酸を添加して、表中「pH」欄に記載のpHに調整後、注射用水にて全量を2000mLとし、処方を調製した。
【0153】
各処方を濾過滅菌処理した後に、プラスチック製バイアルに1.5mLずつ充填することによって、各処方が充填されたプラスチック製バイアルを製造し、サル薬物動態試験に供した。
【0154】
各処方の組成は表中「最終含有量」欄に記載の通りである。
【表2】
【0155】
(2)ヒト薬物動態試験に供した液状医薬製剤の調製:
下記表3に従って処方A~Hを調製した。
【0156】
具体的な処方各調製法については次の通りである。まず表中「添加剤」欄に記載の各添加剤(ただし、L-メチオニンは、予備溶解されてなるL-メチオニン溶液)を注射用水と共に混合し、テリパラチド酢酸塩(テリパラチドとして1425.6mg)を加え、全量9.5kgの薬液aを調製した。その後、薬液aに対して希釈した塩酸を添加することで表中「pH」欄に記載のpHに調整後、注射用水を用いて全量10.10kgの処方を調製した。
【0157】
各処方を濾過滅菌処理した後に、アンプルに2mLずつ充填することによって、各処方が充填されたアンプル(処方製剤)を製造し、ヒト薬物動態試験に供した。処方製剤は、その処方容量が0.2mLであり、1回当たりの投与量としてテリパラチド酢酸塩をテリパラチド換算で28.2μg含有する処方が充填された製剤である。
【0158】
各処方の組成は表中「最終含有量」欄に記載の通りである。
【表3】
【0159】
(3)対照液状医薬製剤の調製:
(3-1)対照処方1の調製:
市販のテリパラチド凍結乾燥製剤(「テリボン皮下注用56.5μg」旭化成ファーマ社製;非特許文献1)に日局生理食塩液0.45mLを加え溶解して得られる薬液をシリンジで0.2mL取り、対照処方1を調製し、対照処方1を充填したシリンジを対照処方1製剤として利用した。なお、対照処方1は、その容量が0.2mLであり、テリパラチド酢酸塩濃度がテリパラチド換算で141μg/mLであり、1回当たりの投与量としてテリパラチド酢酸塩をテリパラチド換算で28.2μg含有する処方である。
【0160】
(3-2)対照処方2の調製:
市販のテリパラチド凍結乾燥製剤(「テリボン皮下注用56.5μg」旭化成ファーマ社製;非特許文献1)に日局生理食塩液1.0mLを加え溶解して得られる対照処方2を調製し、対照処方2を充填したシリンジを対照処方2製剤として利用した。なお、対照処方2は、その容量が0.89mLであり、テリパラチド酢酸塩濃度がテリパラチド換算で63.5μg/mLであり、1回当たりの投与量としてテリパラチド酢酸塩をテリパラチド換算で56.5μg含有する処方である。
【0161】
(3-3)対照処方3の調製:
下記表4に従って対照処方3を調製した。
具体的な処方各調製法については次の通りである。まず表中「添加剤」欄に記載の各添加剤を注射用水と共に混合し、全量3000gの溶液aを調製した。2480gの溶液aに対してテリパラチド酢酸塩(テリパラチドとして352.5mg)を溶解し、溶液aを用いて全量2500mLとし、対照処方3を調製した。
【0162】
対照処方3を濾過滅菌した後に、プラスチック製シリンジに0.2mLずつ充填し、対照処方3を充填したシリンジを対照処方3製剤として利用した。なお、対照処方3は、その容量が0.2mLであり、テリパラチド酢酸塩濃度がテリパラチド換算で141μg/mLであり、1回当たりの投与量としてテリパラチド酢酸塩をテリパラチド換算で28.2μg含有する処方である。
【0163】
【表4】
【0164】
(4)円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製:
下記表5に従って処方A~Hを調製した。これらの処方は、それぞれ、前記「(2)ヒト薬物動態試験に供した液状医薬製剤の調製」の処方A~Hと、その組成の観点でほぼ同一の処方である。
【0165】
具体的な処方各調製法については次の通りである。まず表中「添加剤」欄に記載の各添加剤注射用水と共に混合し、全量3000mLの溶液aを調製した。1600mLの溶液aに対してテリパラチド酢酸塩(テリパラチドとして282mg)を溶解させて薬液aを調製した。その後、薬液aに対して希釈した塩酸を添加することで表中「pH」欄に記載のpHに調整後、注射用水を用いて全量2000mLの処方を調製した。
【0166】
各処方を濾過滅菌処理した後に、2mLのアンプルに2mLずつ充填して、各処方が充填されたアンプル(処方アンプル製剤)を製造し、充填容器に関する安定性試験に供した。また、各処方を濾過滅菌処理した後に、プラスチック製シリンジに0.2mLずつ充填して、各処方が充填されたプラスチック製シリンジ(処方シリンジ製剤)を製造し、充填容器に関する安定性試験に供した。
【0167】
各処方の組成は表中「最終含有量」欄に記載の通りである。
【表5】
【0168】
(5)安定性試験に供した液状医薬製剤の調製:
下記表6に従って処方A、B、E、F、及びHを調製した。
【0169】
具体的な処方各調製法については次の通りである。まず表中「添加剤」欄に記載の各添加剤注射用水と共に混合し、全量3000mLの溶液aを調製した。1600mLの溶液aに対してテリパラチド酢酸塩(テリパラチドとして282mg)を溶解させて薬液aを調製した。その後、薬液aに対して希釈した塩酸を添加することで表中「pH」欄に記載のpHに調整後、前記の溶液aを用いて全量2000mLの処方を調製した。
【0170】
各処方を濾過滅菌処理した後に、2mLのアンプルに2mLずつ充填して、各処方が充填されたアンプル(処方アンプル製剤)を製造し、安定性試験に供した。また、各処方を濾過滅菌処理した後に、プラスチック製シリンジに0.2mLずつ充填して、各処方が充填されたプラスチック製シリンジ(処方シリンジ製剤)を製造し、安定性試験に供した。
【0171】
各処方の組成は表中「最終含有量」欄に記載の通りである。
【表6】
【0172】
実施例2(サル薬物動態試験):
(1)試験方法:
前述の実施例1「(1)サル薬物動態試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方A~H、及び、前述の実施例1「(3)対照液状医薬製剤の調製」において調製された対照処方1、及び、対照処方3それぞれを用いてサル薬物動態試験を実施した。
【0173】
4~6才齢の雌性カニクイザルに、処方A~H、対照処方1及び対照製剤3を、皮下投与し、投与後5、15、30、60、120、及び、180分の時点において大腿静脈より採血した。PK試験は、2試験(試験1及び2)に分けて実施した。各試験は、クロスオーバーデザインとし、各期の間には、適切に設定された休薬期間をおいた。動物は各試験で6匹用いた。これらの採血により得られた血液から、遠心分離により血漿を採取し、血漿中のテリパラチド濃度をELISA法(High Sensitivity Human PTH(1-34) ELISA kit、Immutopics Inc.)により測定した。測定により得られた血漿中テリパラチド濃度に基づき、血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)を算出した。
【0174】
(2)試験結果:
試験結果を下記の表7及び8に記す。
【表7】
【0175】
【表8】
【0176】
上記の表7及び8に示すように、処方A、B、E、F、及びHを皮下投与した場合のAUCは、対照処方3を投与した場合のAUCに比べ増加していることが示された。また、処方Bを投与した場合のAUCは、対照処方1より増加していることが示された。以上の結果から、カニクイザルにおいて、処方A、B、E、F、及びHは、対照処方3と比較して、よりよい体内動態を示すことが確認された。
【0177】
実施例3(ヒト薬物動態試験):
(1)試験(1)方法:
前述の実施例1「(3)対照液状医薬製剤の調製」において調製された対照処方2、3製剤を用いて、ヒト薬物動態試験(1)を実施した。
【0178】
具体的には、非盲検下で健康閉経後女性12例における薬物動態試験を実施し、対照処方3を腹部、大腿部、又は上腕部に単回皮下投与し、そのうち腹部に投与したときの薬物動態パラメータを、対照処方2を上腕部に皮下投与したときの薬物動態パラメータと比較した。
【0179】
血漿中テリパラチド酢酸塩濃度は、処方投与前、投与5、15、30、45分後、1、1.5、2、3、4、及び6時間後に採取した血液試料で測定した。血漿中テリパラチド酢酸塩濃度から、モデルによらない方法により、以下の式に従って、薬物動態パラメータAUClast、AUCinfおよびCmaxを被験者ごとに算出した。
【0180】
AUClast=線形台形法(linear trapezoidal rule)による最終観測時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積
(ヒト薬物動態試験 試験(2)におけるAUClastも同一定義)
AUCinf=線形台形法(linear trapezoidal rule) による無限大時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積
(ヒト薬物動態試験 試験(2)におけるAUCinfも同一定義)
max=最高血漿中濃度
(ヒト薬物動態試験 試験(2)におけるCmaxも同一定義)
【0181】
算出したAUClast、AUCinfおよびCmaxについて、対照処方2に対する対照処方3の比と95%信頼区間を以下の手法で算出した。対数変換したAUClast、AUCinfおよびCmaxについて、被験者(順序群内)を変量効果とし、順序群、製剤(対照処方2~3製剤)を固定効果とおいて、混合効果モデルによる分散分析法を用いて解析した。推定した製剤の差と95%信頼区間を指数変換し、各処方の比と信頼区間の形で示した。
【0182】
また、安全性評価項目として、有害事象、臨床検査(血液検査、生化学検査、尿検査、免疫検査)、バイタルサイン(腋窩体温、収縮期・拡張期血圧、脈拍数)、12誘導心電図、体重を設け、対照処方2、3製剤投与による安全性評価を実施した。
【0183】
被験者12例を無作為に4群3例に割り付け、4期にわたって以下の表9のスケジュールに従って試験を実施した。
【0184】
【表9】
【0185】
(2)試験(1)結果:
試験結果を下記表10及び11に示す。対照処方3を皮下投与したときのCmaxは、対照処方2を皮下投与したときの約1/2であり、AUClastおよびAUCinfは約1/4であった(表11)。
【0186】
【表10】
【0187】
【表11】
【0188】
(3)試験(2)方法:
前述の実施例1「(2)ヒト薬物動態試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方A~H製剤、及び、前述の実施例1「(3)対照液状医薬製剤の調製」において調製された対照処方2製剤それぞれを用いて、ヒト薬物動態試験(2)を実施した。
【0189】
被験者は、健康閉経後女性24名であった。試験は、非盲検下、処方A~Hを腹部に単回皮下投与して得られた薬物動態パラメータを、対照処方2を上腕部に皮下投与して得られた薬物動態パラメータと比較することにより、実施した。
【0190】
本試験は2つのコホートで行い、I、II、III、及びIV群をコホート1、V、VI、VII、及びVIII群をコホート2とした。コホートごとに、12例を無作為に、3例ずつ4群に割り付けた。下記表12で示される投与計画に従って、処方A~H及び対照処方2を被験者に投与した。
【0191】
表12において「-」は、処方A~H及び対照処方2のいずれもが投与されなかった事実を意味する。各期に1回投与され、各期の日数は本試験の目的に沿って適切に設定された。
【0192】
【表12】
【0193】
血漿中テリパラチド酢酸塩濃度は、処方投与前、投与15、30、45分後、1、1.5、2、3、4、及び6時間後に採取した血液試料を用いて測定された。血漿中テリパラチド酢酸塩濃度から、モデルによらない方法により、薬物動態パラメータAUClast、AUCinfおよびCmaxを被験者ごとに算出した。
【0194】
算出したAUClast、AUCinfおよびCmaxについて、対照処方2に対する処方A~Hの比と95%信頼区間を以下の手法で算出した。まず、算出したAUClast、AUCinfおよびCmaxを対数変換し、次に、対数変換したAUClast、AUCinfおよびCmaxについて、被験者(順序群内)を変量効果とし、順序群、処方を固定効果とおいて、混合効果モデルによる分散分析法を用いて解析した。推定した各処方の差と95%信頼区間を指数変換し、各処方の比と信頼区間の形で示した。
【0195】
さらに、処方A~Hとは異なるテリパラチド酢酸塩製剤を用いた別のヒト薬物動態試験を実施して得られたAUCinf(11.4ng・min/mL)(非特許文献24;2.7.1.2.2 バイオアベイラビリティー)、及び、前述の処方A~H及び対照処方3で算出されたAUCinfを用いて、血漿中テリパラチドの絶対的生物学的利用率(%)を、下記式に従って推算した。
【数4】
【0196】
なお、前記の別の薬物動態試験は、健康な30歳代および60歳代の男性各5例に、テリパラチドとして14.1μgを含有するテリパラチド酢酸塩製剤を3分間静脈内持続投与すること等を方法とする臨床薬理試験である。
【0197】
また、処方A~Hが投与された被験者(各処方当たり12症例)及び対照処方2が投与された被験者(計24症例)における副作用発現が観察された。副作用発現率(%)として、各副作用を発現した人数を投与人数で除して100を乗じた値とした。さらに、処方A~H及び対照処方2が投与された被験者における血清カルシウム値上昇が観察された。血清カルシウム値上昇は、投与後6時間経過後における血清カルシウム値と投与前の血清カルシウム値の差分(平均値)とした。
【0198】
maxについても、各被投与者の血漿中テリパラチド酢酸塩濃度が最高となる時間の平均値として算出された。
【0199】
(4)試験(2)結果:
(4-1)試験:
試験結果を下記表13~19に示す。対照処方2に対する比の95%信頼区間の上限値が0.5を超えた処方は、AUClastで処方A、B、E、FおよびH、AUCinfで処方A、E、FおよびH、Cmaxで処方A~Hの全てであった。処方A~Hおよび対照処方2間の順序効果は認められなかった(表14)。
【0200】
【表13】
【0201】
【表14】
【0202】
【表15】
【0203】
以上の結果から、薬物動態の観点において、処方A、B、E、F、及びHが好ましいことが分かった。
【0204】
【表16】
【0205】
【表17】
【0206】
【表18】
【0207】
処方A~Hが投与された被験者において、頭痛、腹部膨満、下痢、悪心、嘔吐及び注射部位紅斑の有害事象が認められ、その他の有害事象は一切認められなかった。また、これらの有害事象のうち、頭痛、悪心、嘔吐及び注射部位紅斑が副作用として認められた。嘔吐、悪心及び注射部位紅斑それぞれの副作用発現率は上記表18の通りとなった。
【0208】
【表19】
【0209】
以上の結果から、単回投与に伴う安全性(とりわけ、消化管副作用)の観点において、Tmaxが小さい、又は、血漿中テリパラチド酢酸塩濃度が閾値以上である経過時間が短いテリパラチド酢酸塩液状製剤は、総じて優れているといえる。
【0210】
実施例4(円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験):
(1)試験方法:
円二色性分散計(日本分光株式会社販売;J-720)を用いて、前述の実施例1「(4)円偏光二色性(CD)スペクトル測定試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方A~H製剤、及び、前述の実施例1「(3)対照液状医薬製剤の調製」において調製された対照処方1,3をそれぞれ1mmのセルに入れ、20℃で8回の積算により円偏光二色性(CD)スペクトル測定を行った。また、ブランク溶液として各処方のプラセボ溶液を用いた。
【0211】
試験は2回に分けて実施され、測定1は、測定対象を、対照処方1、対照処方3、処方B、処方D(合計4処方)として、測定2は、測定対象を、処方A~H(合計8処方)として、各処方の円偏光二色性スペクトル測定を行った。
【0212】
(2)試験結果:
試験結果を以下の表20~22に記す。
【表20】
【0213】
【表21】
【0214】
【表22】
【0215】
ここで、表中「平均残基モル楕円率[θ]」とは、測定波長222nmでの測定値([m deg])を残基モル楕円率([deg.cm/d mol])に換算して得られた数値であり、「α-へリックス含有比率」とは、以下の数式を用いて、平均残基モル楕円率[θ]に基づいて推算されたα-へリックス含有比率である。
【数5】
【0216】
測定2の測定結果(測定波長190~260nm)における処方A~Hの平均残基モル楕円率[θ]をそれぞれ図1A~Hに示す。さらに、測定2の測定結果(測定波長210~230nm部分)における処方A~Hの平均残基モル楕円率[θ]を図1Iに示す。
また、測定2の測定結果において、平均残基モル楕円率[θ]222とAUClastRatio(AUClastに関する対照処方2に対する各処方の比)の関係を図2に、α-へリックス含有比率とAUClastRatioの関係を図3に、それぞれ示す。
【0217】
前述の「ヒト薬物動態試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方A~H製剤は、それぞれ、前述の「サル薬物動態試験に供した液状医薬製剤の調製」において調製された処方A~H製剤とほぼ同一の製剤である。そこで、前者処方A~H製剤を後者処方A~H製剤と交換してもサル薬物動態試験の結果は殆ど変化しないとの前提に立って、本発明における液状医薬組成物に含まれるテリパラチド又はその塩が有するα-へリックスの含有率や平均残基モル楕円率[θ]222と同組成物をサル皮下投与した際のテリパラチド又はその塩の薬物動態学的パラメータとの関係を検討した。その結果を、図4~5に示す。
【0218】
これらの結果と前記実施例3の結果との対比から明らかなように、薬物動態とα-へリックスの含有率やα-ヘリックス形成アミノ酸残基数との間には、明らかに相関関係があることがわかった。すなわち、前記実施例3において、良好な薬物動態であることが示された処方(処方A、B、E、F、及びH)は、いずれも、これら以外の処方(処方C、D、G、及び対照処方3)に比べ、α-へリックス含有率やα-ヘリックス形成アミノ酸残基数において大きい値を示した。本発明の利用によって、今まで以上により効率的・経済的・安全に、格別顕著な薬物動態性を有する、テリパラチド又はその塩を含むヒト皮下投与用液状医薬組成物を獲得できると発明者は考えている。
【0219】
実施例5(安定性試験):
(1)試験方法:
前述の「安定性試験に供した液状医薬製剤」において調製された処方A、B、E、F、及びHアンプル製剤、及び、前述の「安定性試験に供した液状医薬製剤」において調製された処方A、B、E、F、及びHシリンジ製剤等を用いて、安定性試験を実施した。
【0220】
具体的には、各処方製剤を25℃/60%RHの安定性試験器に保存した後、3箇月目にサンプリングを行い、高速液体クロマトグラフィーにより安定性を測定した。
【0221】
(2)試験結果:
試験結果を以下の表23及び24に記す。
表中の「対開始時含量」とは、保存前のテリパラチド量を100とした場合の3箇月目に残存していたテリパラチド量の割合(%)を示す。表中の「類縁物質総量」とは、3箇月目に存在している(テリパラチド量及び類縁物質総量)を100とした場合の3箇月目に存在している類縁物質総量の割合(%)を示す。
【0222】
【表23】
【0223】
【表24】
【0224】
実施例6(薬物動態に関するシミュレーション試験1):
ある理論的な成分1含有製剤であって、同製剤をヒト皮下に単回投与した際に得られる吸収速度定数Kaが0.48(1/hr)である製剤(製剤a)、及び、別の理論的な成分1を含有する製剤であって、同製剤をヒト皮下投与した際に得られる吸収速度定数Kaが2(1/hr)である製剤(製剤b)をそれぞれ想定し、吸収速度の変化が成分1の血漿中濃度推移に与える影響を自体公知の薬物動態モデルを利用するシミュレーション法で確認した。薬物動態モデルは、解析用ソフトウェアPhenix WinNonlin 7.0 software(Certara社:旧Pharsight Corporation社)の1次吸収および1次消失過程を伴う1-コンパ
ートメントモデルを用いた。本実施例及び実施例7で使用した1-コンパートメントモデルの概要を図7に模式的に示す。製剤aと製剤bそれぞれのクリアランス及び分布容積は、適切な同一値とし、製剤aと製剤bそれぞれに含まれる成分1量をいずれも28.2μgとした。シミュレーション結果の概要を以下の表25に示す。
【0225】
なお、ここで、1-コンパートメントモデルでは、以下の式(A)が適用される。
【数6】
【0226】
【表25】
【0227】
実施例7(薬物動態に関するシミュレーション試験2):
(1)試験(1)方法:
以下の表26に記載のNo.1~12各製剤をヒト薬物動態試験に供して得られた結果に基づき、実施例6と同様の1-コンパートメントモデルを用いて、それぞれV/F、Ka、及びCL/Fを算出し、製剤中の成分1濃度と算出されたKaとの関係性を検討した。具体的には、製剤中の成分1濃度(X)と算出されたKa(Y)を単回帰分析し、その傾き、切片、及び、決定係数を算出した。ただし、ここで、Kaは吸収速度定数、V/Fは分布容積、CL/Fはクリアランスをそれぞれ意味し、1-コンパートメントモデルは、前述式(A)によるモデルと同等のモデルである。
【0228】
【表26】
【0229】
(2)試験(1)結果:
1-コンパートメントモデルを用いて算出して得た各製剤のKaは、以下の表27の通りとなった。これらのKaを用いて単回帰分析した結果、以下の数式が示すように、製剤中の成分1の濃度(X)とKa(Y)には高い相関が認められた。
【数7】
【0230】
【表27】
【0231】
(3)試験(2)方法:
さらに、1-コンパートメントモデルを用いて算出して得た各製剤(ただし、成分1の濃度が100μg/mLを超え、かつ、生物学的利用率が高いNo.4~8及び10~12)のKa及びKelを、下記式に代入して、各製剤の理論的Tmaxを算出した。
【数8】
【0232】
(4)試験(2)結果:
算出した結果を以下の表28に纏めた。その結果、各製剤のKa幅は、0.84~1.22であった。なお、モデルによらない方法によって得られたNo.4~8製剤のTmax(実施例3試験結果(2)表16に記載の処方A、B、E、F、及びHのTmax)と以下の表記載のNo.4~8製剤の理論的Tmaxに大きな乖離は認められなかったことから、1-コンパートメントモデルを用いて算出して得た各製剤の各薬物動態パラメータ(V/F、Ka、及びCL/F)は妥当な推算値であると考えられる。
【0233】
【表28】
【0234】
さらに、前記表の最大及び最小のKa(0.84(1/hr)及び1.22(1/hr))を前記単回帰分析の数式に入力すると、製剤中の成分1の濃度は、109~190(μg/mL)であった。モデルによらない方法によって中央値として得られたNo.10~12製剤のTmaxを以下の表29に示す。
【0235】
【表29】
【0236】
参考例(成分1のT max が特定範囲内である発明に関する参考例):
二重盲検下で健康閉経後女性30例における臨床試験を実施し、テリパラチド28.2μgまたは56.5μgを単回皮下投与したときの薬物動態、骨代謝マーカーおよび安全性を、プラセボと比較した。
【0237】
テリパラチド28.2(又は56.5)μg製剤は、1mLの日局生理食塩液を用いてテリパラチド酢酸塩含有凍結乾燥製剤を用時溶解して得られた注射剤である。具体的には、テリパラチド28.2μg製剤は、その容量が1.0mLであり、1回当たりの投与量としてテリパラチド酢酸塩をテリパラチド換算で28.2μg含有する製剤であり、テリパラチド56.5μg製剤は、その容量が1.0mLであり、1回当たりの投与量としてテリパラチド酢酸塩をテリパラチド換算で28.2μg含有する製剤である。
【0238】
副作用発現率(%)として、各副作用を発現した人数を投与人数で除して100を乗じた値とした。さらに、テリパラチド28.2(又は56.5)μg製剤が投与された被験者における血清カルシウム値上昇が観察された。血清カルシウム値上昇は、投与後6時間経過後における血清カルシウム値と投与前の血清カルシウム値の差分(平均値)とした。
【0239】
maxについても、各被投与者の血漿中テリパラチド酢酸塩濃度が最高となる時間の平均値として算出された。
【0240】
試験結果を下記の表30~33に記す。
【表30】
【0241】
【表31】
【0242】
【表32】
【0243】
【表33】
【産業上の利用可能性】
【0244】
本発明の液状医薬製剤は、薬物動態の観点で優れている。本発明の薬物動態学的パラメータを改善する方法も、画期的な主薬制御方法である。従って、本発明は医薬品産業において極めて有用である。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図2
図3
図4
図5
図6
図7