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特開2024-86856成形材料、成形材料の製造方法及びパルプ成形品の製造方法
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  • 特開-成形材料、成形材料の製造方法及びパルプ成形品の製造方法 図1
  • 特開-成形材料、成形材料の製造方法及びパルプ成形品の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086856
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】成形材料、成形材料の製造方法及びパルプ成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20240621BHJP
   C08L 3/02 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C08L1/02
C08L3/02
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063467
(22)【出願日】2024-04-10
(62)【分割の表示】P 2020204402の分割
【原出願日】2020-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2020130585
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000207757
【氏名又は名称】大宝工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(72)【発明者】
【氏名】松坂 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】丸野 満義
(72)【発明者】
【氏名】福田 厚
(57)【要約】
【課題】透明性を有するパルプ成形品を実現可能とするための成形材料及びこの成形材料の製造方法並びにパルプ成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】パルプと澱粉系結合剤とを主成分とする成形材料であって、前記パルプは、針葉樹パルプを含み、また、前記パルプと前記澱粉系結合剤との成分比(重量)が3:7~6:4である成形材料。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプと澱粉系結合剤とを主成分とする成形材料であって、前記パルプは、針葉樹パルプを含み、また、前記パルプと前記澱粉系結合剤との成分比(重量)が3:7~6:4であることを特徴とする成形材料。
【請求項2】
請求項1記載の成形材料であって、前記パルプは、針葉樹パルプ及び広葉樹パルプであることを特徴とする成形材料。
【請求項3】
請求項2記載の成形材料において、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプと前記澱粉系結合剤の成分比(重量)は、3:3:4~1.5:4.5:4であることを特徴とする成形材料。
【請求項4】
請求項3記載の成形材料において、前記澱粉系結合剤の含有率が30wt%~40wt%であることを特徴とする成形材料。
【請求項5】
請求項2~4いずれか1項に記載の成形材料において、前記針葉樹パルプは、繊維長が2mm前後、繊維径が40μm程度のものであり、前記広葉樹パルプは、繊維長が0.9mm前後、繊維径が20μm程度のものであることを特徴とする成形材料。
【請求項6】
パルプ及び澱粉系結合剤を主成分とする成形材料の製造方法であって、前記パルプと前記澱粉系結合剤と水とを混合する混合工程と、前記混合工程により得られた混合物を混練する混練工程とを含み、前記混合工程は、前記パルプとして少なくとも針葉樹パルプを用い、さらに、前記パルプと前記澱粉系結合剤との混合比(重量)を3:7~6:4とすることを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の成形材料の製造方法において、前記混合工程は、前記パルプとして針葉樹パルプと広葉樹パルプを用いることを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の成形材料の製造方法において、前記混合工程は、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプと前記澱粉系結合剤との混合比(重量)を3:3:4~1.5:4.5:4とすることを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項9】
請求項6~8いずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記混合工程は、前記水の混合率を前記成形材料の10wt%~15wt%とすることを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項10】
請求項6~9いずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記混合物は、非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩が添加されていることを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の成形材料の製造方法において、前記非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩の添加は、前記パルプと前記澱粉系結合剤と水とを混合した混合物100wt%に対して0.2wt%~2.0wt%であることを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項12】
請求項6~11いずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記針葉樹パルプは、繊維長が2mm前後、繊維径が40μm程度のものであり、前記広葉樹パルプは、繊維長が0.9mm前後、繊維径が20μm程度のものであることを特徴とする成形材料の製造方法。
【請求項13】
請求項6~12いずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記混練工程は、下記の条件で前記混合物を混練することを特徴とする成形材料の製造方法。

温度:60℃~100℃
混練速度:80rpm~120rpm
混練時間:5分以上
【請求項14】
パルプ及び澱粉系結合剤を主成分とするパルプ成形品の製造方法であって、下記1の成形材料を、下記2のプレス条件で圧縮成形すること特徴とするパルプ成形品の製造方法。
記1
パルプと澱粉系結合剤とを主成分とし、前記パルプとして針葉樹パルプを含み、また、前記パルプと前記澱粉系結合剤との成分比(重量)が3:7~6:4である成形材料。
記2
プレス圧力:2トン~4トン
プレス温度:80℃~100℃
プレス時間:1分~5分
【請求項15】
請求項14記載のパルプ成形品の製造方法において、前記成形材料は、前記パルプとして針葉樹パルプ及び広葉樹パルプを含んでいることを特徴とするパルプ成形品の製造方法。
【請求項16】
請求項15記載のパルプ成形品の製造方法において、前記成形材料は、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプと前記澱粉系結合剤の成分比(重量)が、3:3:4~1.5:4.5:4であることを特徴とするパルプ成形品の製造方法。
【請求項17】
請求項14~16いずれか1項に記載のパルプ成形品の製造方法において、前記成形材料を射出成形処理し、この射出成形処理したものを前記条件で圧縮成形すること特徴とするパルプ成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料、成形材料の製造方法及びパルプ成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人はプラスチックに代わる新たな成形技術として、パルプ及び澱粉系結合剤を主成分とする成形材料を用いたパルプ射出成形(Pulp Injection Molding)の技術開発に注力し、これまでにパルプ射出成形に関連する成形材料、製造方法及びこれらの技術を用いた成形品などに関する多くの特許出願を行ってきた(例えば特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2916136号公報
【特許文献2】特許第4716969号公報
【特許文献3】特許第6697874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これまでのパルプ射出成形技術ではパルプ成形品を透明化することができず、容器内の確認が必要な透明性を要するプラスチック成形品、例えば使い捨て注射器(シリンジ)のようなものの代替品としてのパルプ成形品を提供することができていない。
【0005】
本発明はこのようなパルプ成形品の現状に鑑みなされたものであり、透明性(光透過性)を有するパルプ成形品を実現可能とするための成形材料及びその製造方法並びにパルプ成形品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0007】
パルプと澱粉系結合剤とを主成分とする成形材料であって、前記パルプは、針葉樹パルプを含み、また、前記パルプと前記澱粉系結合剤との成分比(重量)が3:7~6:4であることを特徴とする成形材料に係るものである。
【0008】
また、請求項1記載の成形材料であって、前記パルプは、針葉樹パルプ及び広葉樹パルプであることを特徴とする成形材料に係るものである。
【0009】
また、請求項2記載の成形材料において、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプと前記澱粉系結合剤の成分比(重量)は、3:3:4~1.5:4.5:4であることを特徴とする成形材料に係るものである。
【0010】
また、請求項3記載の成形材料において、前記澱粉系結合剤の含有率が30wt%~40wt%であることを特徴とする成形材料に係るものである。
【0011】
また、請求項2~4いずれか1項に記載の成形材料において、前記針葉樹パルプは、繊維長が2mm前後、繊維径が40μm程度のものであり、前記広葉樹パルプは、繊維長が0.9mm前後、繊維径が20μm程度のものであることを特徴とする成形材料に係るものである。
【0012】
また、パルプ及び澱粉系結合剤を主成分とする成形材料の製造方法であって、前記パルプと前記澱粉系結合剤と水とを混合する混合工程と、前記混合工程により得られた混合物を混練する混練工程とを含み、前記混合工程は、前記パルプとして少なくとも針葉樹パルプを用い、さらに、前記パルプと前記澱粉系結合剤との混合比(重量)を3:7~6:4とすることを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0013】
また、請求項6記載の成形材料の製造方法において、前記混合工程は、前記パルプとして針葉樹パルプと広葉樹パルプを用いることを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0014】
また、請求項7記載の成形材料の製造方法において、前記混合工程は、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプと前記澱粉系結合剤との混合比(重量)を3:3:4~1.5:4.5:4とすることを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0015】
また、請求項6~8いずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記混合工程は、前記水の混合率を前記成形材料の10wt%~15wt%とすることを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0016】
また、請求項6~9いずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記混合物は、非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩が添加されていることを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0017】
また、請求項10記載の成形材料の製造方法において、前記非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩の添加は、前記パルプと前記澱粉系結合剤と水とを混合した混合物100wt%に対して0.2wt%~2.0wt%であることを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0018】
また、請求項6~11いずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記針葉樹パルプは、繊維長が2mm前後、繊維径が40μm程度のものであり、前記広葉樹パルプは、繊維長が0.9mm前後、繊維径が20μm程度のものであることを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。
【0019】
また、請求項6~12いずれか1項に記載の成形材料の製造方法において、前記混練工程は、下記の条件で前記混合物を混練することを特徴とする成形材料の製造方法に係るものである。

温度:60℃~100℃
混練速度:80rpm~120rpm
混練時間:5分以上
【0020】
また、パルプ及び澱粉系結合剤を主成分とするパルプ成形品の製造方法であって、下記1の成形材料を、下記2のプレス条件で圧縮成形すること特徴とするパルプ成形品の製造方法に係るものである。
記1
パルプと澱粉系結合剤とを主成分とし、前記パルプとして針葉樹パルプを含み、また、前記パルプと前記澱粉系結合剤との成分比(重量)が3:7~6:4である成形材料。
記2
プレス圧力:2トン~4トン
プレス温度:80℃~100℃
プレス時間:1分~5分
【0021】
また、請求項14記載のパルプ成形品の製造方法において、前記成形材料は、前記パルプとして針葉樹パルプ及び広葉樹パルプを含んでいることを特徴とするパルプ成形品の製造方法に係るものである。
【0022】
また、請求項15記載のパルプ成形品の製造方法において、前記成形材料は、前記針葉樹パルプと前記広葉樹パルプと前記澱粉系結合剤の成分比(重量)が、3:3:4~1.5:4.5:4であることを特徴とするパルプ成形品の製造方法に係るものである。
【0023】
また、請求項14~16いずれか1項に記載のパルプ成形品の製造方法において、前記成形材料を射出成形処理し、この射出成形処理したものを前記条件で圧縮成形すること特徴とするパルプ成形品の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は上述のように構成したから、透明性(光透過性)を有するパルプ成形品を実現可能とする成形材料及びその製造方法並びにパルプ成形品の製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施例の透明性を評価した際の判定基準例である。
図2】本実施例の光透過性評価試験の成形条件を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0027】
本発明の成形材料は、パルプ及び澱粉系結合剤が主成分であり、また、パルプは針葉樹パルプと広葉樹パルプとの混合パルプである。
【0028】
針葉樹パルプと広葉樹パルプとでは繊維径及び繊維長が異なり、広葉樹パルプの方が細く短いものとなっている。そのため、この混合パルプと澱粉系結合剤とを混合した際、針葉樹パルプの隙間に広葉樹パルプが入り込み隙間が埋められるため、成形材料中の空隙率が低減され、成形時に気泡ができ難い成形材料となる。
【0029】
したがって、本発明の成形材料を用いて射出成形若しくは圧縮成形されるパルプ成形品は、成形品中(部材内部)に気泡がほとんど無く、気泡による光の反射、散乱が低減され、これにより光透過性が向上し、透明性を有するものとなる。
【0030】
これにより、本発明の成形材料を用いることで、これまで実現できなかった、例えば使い捨て注射器(シリンジ)のような容器内の確認が必要な透明性を必要とする成形品をパルプ成形品で提供することが可能となる。
【実施例0031】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0032】
本実施例は、パルプ及び澱粉系結合剤を主成分とする成形材料を所定条件で圧縮成形することにより得られる透明性(光透過性)を有するパルプ成形品(パルプ圧縮成形品)である。
【0033】
まず、本実施例に係る成形材料及びその製造方法について説明する。
【0034】
本実施例の成形材料は、パルプ及び澱粉系結合剤を主成分とするものであり、具体的には、パルプと澱粉系結合剤と水とを混合した混合物に非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩を添加して混練したものを所定形状(例えばペレット状)に成形したものである。
【0035】
詳細には、パルプには、針葉樹パルプと広葉樹パルプとが用いられており、針葉樹パルプは繊維長:2mm前後、繊維径:40μm程度のもの、広葉樹パルプは繊維長:0.9mm前後、繊維径:20μm程度のものを用いている。
【0036】
また、これらの混合比は、針葉樹パルプ:広葉樹パルプ=1:1~1:3(好ましくは針葉樹パルプ:広葉樹パルプ=1:1)としている。
【0037】
また、パルプ全体(針葉樹パルプ及び広葉樹パルプ)と澱粉系結合剤との成分比(重量)は6:4とし、これにより、針葉樹パルプと広葉樹パルプと澱粉系結合剤との成分比(重量)は、針葉樹パルプ:広葉樹パルプ:澱粉系結合剤=3:3:4~1.5:4.5:4としている。
【0038】
また、澱粉系結合剤には、コーンスターチが用いられている。なお、澱粉系結合剤としては、このコーンスターチのほか、例えば馬鈴薯澱粉や米粉などを用いても良い。
【0039】
また、この針葉樹パルプ、広葉樹パルプ及び澱粉系結合剤を混合したものに加える水は、成形材料の10wt%~15wt%(好ましくは13wt%以上)としている。
【0040】
したがって、本実施例の成形材料全体の成分比としては、パルプ:50wt%~60wt%、澱粉系結合剤:30wt%~40wt%、水:10wt%~15wt%となる。
【0041】
また、本実施例の成形材料は、針葉樹パルプと針葉樹パルプを1:1~1:3で混合した混合パルプを50wt%~60wt%、澱粉系結合剤(コーンスターチ)を30wt%~40wt%の適宜な割合で混合し、これに10wt%~15wt%の適宜な水を加えた混合物に適量(本実施例では、前記混合物100wt%に対し0.2wt%~2wt%)の非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩を添加し、この非アルカリ金属の長鎖脂肪酸塩を添加した混合物100wt%に対して30wt%~35wt%の水を加えて混練処理をした後、ペレット形状に成形することで得られる。
【0042】
なお、本実施例における混練条件は、温度:60℃~100℃、混練速度:80rpm~120rpm、混練時間:5分以上としている。
【0043】
次に、上記の成形材料を用いた本実施例の製造(成形)方法について説明する。
【0044】
本実施例は、上述した成形材料を、加圧力:1トン~5トン(好ましくは2トン~4トン)、加圧温度:60℃~100℃(好ましくは80℃~100℃)、加圧時間:1分~5分(好ましくは2分~4分)のプレス条件で圧縮成形することにより得られる。
【0045】
具体的には、成形時の設定肉厚(スペーサを入れて押し切った隙間の厚さ)は、0.1mm~0.3mm(好ましくは0.2mm~0.3mm)としている。
【0046】
なお、成形材料を射出成形処理し、この射出成形処理したものを上記のように圧縮成形しても良い。
【0047】
また、後述する評価試験の結果から、成形材料における針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、澱粉系結合剤及び水の混合比(重量%)の最適条件は、針葉樹パルプ:広葉樹パルプ:澱粉系結合剤:水=26:26:35:13であり、また、この成形材料を用いて成形品を成形する際の成形条件(プレス温度及び設定肉厚)の最適条件は、プレス温度:100℃、設定肉厚0.2mmであることを確認している。
【0048】
上記条件により、所望の耐久性及び透明性を有するパルプ成形品が得られた。
【0049】
本実施例のパルプ成形品は、針葉樹パルプと広葉樹パルプとを1:1~1:3の混合比で混合した成形材料を、上述した適正な条件で圧縮成形することにより、成形品中に気泡が生成されず(したがって、界面が生じない。)、これにより、従来にない光透過率が良好な透明性(光透過性)を有するパルプ成形品となり、このように良好な透明性を有することで、これまでパルプ成形品で代替できなかった使い捨て注射器(シリンジ)のような容器内の確認が必要な透明性を必要とするものや照明器具のカバー(シェード)などをパルプ成形品で代替提供することができるようになり、脱プラスチックを促進させることができる。
【0050】
次に、上述した本実施例の効果(本実施例に係る成形材料の混合比、パルプ成形品の成形条件の設定値)を裏付ける透明性評価試験及び光透過性評価試験について説明する。
【0051】
<透明性評価試験>
透明性評価試験では、表1に示す針葉樹パルプ、広葉樹パルプ及び澱粉系結合剤の混合率を変えた5種の成形材料を作成し、これらの成形材料の(1)成形時の温度(プレス温度)差による透明性の変化、(2)成形時の設定肉厚差による透明性の変化、(3)成形材料の水分含有率差による透明性の変化を確認した。
【0052】
【表1】
【0053】
(1)成形時の温度(プレス温度)による透明性評価試験
本試験では、表1に示す各成形材料を、水分含有量が13wt%となるよう水を混合し、プレス温度60℃、80℃、100℃の成形条件(設定肉厚:0.2mm、プレス圧力:4トン、プレス時間:2分は固定)で圧縮成形(プレス成形)し、得られた各成形品の透明性を判定した。
【0054】
なお、透明性の判定は、図1に示す判定基準に基づいて行った。この判定基準については、図1に示すように、下地の線や文字が良好に視認できる場合を〇、やや曇りはあるが下地の線や文字が視認できる場合を△、下地の線や文字の視認が困難な場合を×と表記した。
【0055】
本試験の結果を表2に示す。この表2に示すように、パルプ成分として、針葉樹パルプと広葉樹パルプの両方を用いた成形材料(本実施例1及び本実施例2)の場合、100℃条件で良好な透明性を有する成形品が得られた。また、本実施例の成形材料においては、本実施例1(針葉樹パルプと広葉樹パルプの混合比を1:1にしたもの)は、プレス温度80℃においてやや曇りはあるものの透明性を有する成形品が得られた。
【0056】
【表2】
【0057】
(2)成形時の設定肉厚による透明性評価試験
本試験では、表1に示す各成形材料を、水分含有量が13wt%となるよう水を混合し、設定肉厚0.1mm、0.2mm、0.3mmの成形条件(プレス温度:100℃、プレス圧力:4トン、プレス時間:2分は固定)で圧縮成形(プレス成形)し、得られた各成形品の透明性を、成形時の温度(プレス温度)による透明性評価試験と同様、図1に示す判定基準に基づいて判定した。
【0058】
本試験の結果を表3に示す。この表3に示すように、本評価試験においても、本実施例の成形材料を用いた成形品のみに良好な透明性が確認された。また、本実施例の成形材料において、本実施例1(針葉樹パルプと広葉樹パルプの混合比を1:1にしたもの)は全ての肉厚条件で良好な透明性が有する成形品が得られた。
【0059】
【表3】
【0060】
(3)成形材料の水分含有率による透明性評価試験
本試験では、表1に示す各成形材料において、水分含有率を10wt%、12wt%、13wt%とした成形材料を作成し、これらを設定肉厚:0.2mm、プレス温度:100℃、プレス圧力:4トン、プレス時間:2分の成形条件で圧縮成形し、得られた各成形品の透明性を、成形時の温度(プレス温度)による透明性評価試験と同様、図1に示す判定基準に基づいて判定した。
【0061】
本試験の結果を表4に示す。この表4に示すように、本実施例の成形材料を用いた成形品のみに良好な透明性が確認された。また、本実施例の成形材料において、本実施例1(針葉樹パルプと広葉樹パルプの混合比を1:1にしたもの)は全ての水分率条件で良好な透明性を有する成形品が得られた。
【0062】
【表4】
【0063】
<光透過性評価試験>
本試験では、本実施例の成形材料(混合率を、針葉樹パルプ:広葉樹パルプ:澱粉=30:30:40、水分含有量を13wt%~14wt%とした成形材料)を用い、表5に示すような、設定肉厚、プレス圧力及びプレス時間の成形条件を変更した12つの成形品(No.1~No.12)を作成し、各成形品の光透過性を測定し、成形条件差による光透過性(透明性)の変化について確認した。なお、成形条件において、プレス温度は100℃に固定した。
【0064】
【表5】
【0065】
本試験の結果を図2に示す。この図2に示すように、光透過率は成形条件における設定肉厚の依存性が高いことが確認され、設定肉厚が薄い方が光透過率が高くなる(透明性が向上する)結果が得られた。
【0066】
また、本試験では透明性評価試験と同様、図1の判定基準に基づき、各成形品の透明性も判定した。その結果、No.1~No.12の全てが判定〇となる良好な透明性を有する結果が得られた。
【0067】
以上から、混合パルプと澱粉系結合剤との混合比を6:4とすると共に、混合パルプにおける針葉樹パルプと広葉樹パルプとの混合比を1:1とし、且つ成形材料における水分率を13wt%とすることが最も望ましい成形材料で、この成形材料を、プレス圧力:4トン、プレス温度100℃、設定肉厚0.2mmで圧縮成形することで、パルプ成形品が最も透明性を有するものとなる。
【0068】
なお、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
図1
図2