(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086866
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】カトラリー
(51)【国際特許分類】
A47G 21/00 20060101AFI20240621BHJP
A47G 21/02 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
A47G21/00 Z
A47G21/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063874
(22)【出願日】2024-04-11
(62)【分割の表示】P 2022016572の分割
【原出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 善行
(72)【発明者】
【氏名】三浦 崇
(57)【要約】
【課題】プラスチックを用いない使い捨てカトラリーを提供する。
【解決手段】
使い捨てカトラリーであって、食物に触れるヘッド部、このヘッド部に連接するネック部、及びこのネック部に連接し把手するためのハンドル部を有し、パルプ繊維を抄紙したシート材により形成され、かつ、そのシート材の一部又は全部がプレス加工して圧縮成形されている、使い捨てカトラリーによって解決される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使い捨てカトラリーであって、
食物に触れるヘッド部、このヘッド部に連接するネック部、及びこのネック部に連接し把手するためのハンドル部を有し、
パルプ繊維を抄紙したシート材により形成され、
かつ、そのシート材の一部又は全部がプレス加工して圧縮成形されている、
ことを特徴とする使い捨てカトラリー。
【請求項2】
シロキサン化合物が含有されている、請求項1記載の使い捨てカトラリー。
【請求項3】
パルプ繊維として針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプを合わせて90~100質量%含み、針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプの配合割合が、5:95~30:70である、請求項1又は2記載の使い捨てカトラリー。
【請求項4】
プレス加工部分における密度が1.0g/cm3以上である請求項1~3の何れか1項に記載の使い捨てカトラリー。
【請求項5】
皿状又は少なくとも先端側に湾曲する部分を有するヘッド部と、このヘッド部に連接しヘッド部より幅狭のネック部と、ネック部と等幅又はネック部より幅広のハンドル部と、を有し、
少なくともヘッド部及びネック部がプレス加工により成形されており、
ネック部は、断面湾曲に成形されているとともに、幅に対する断面の曲率半径の割合が、1:0.4~1:0.8である、
請求項1~4の何れか1項に記載の使い捨てカトラリー。
【請求項6】
一方縁に向かって先薄となるブレード部を有するヘッド部と、ヘッド部に連接するネック部と、ネック部に連接するハンドル部とを有し、
ヘッド部、ネック部及びハンドル部は、シート材が複数枚積層されて形成され、
かつ、少なくともブレード部が、プレス加工による成形によって一方縁に向かって先薄に成形されている、
請求項1~4の何れか1項に記載の使い捨てカトラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプーン、フォーク、ナイフといったカトラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
商業施設におけるフードコート、ファストフードショップ、持ち帰り弁当店、航空機内など飲食提供サービス、フードデリバリーやケータリングイベント等の種々の飲食提供の場において、一回又は数回程度の使用の後の廃棄することが想定されている使い捨てのカトラリーが用いられている。このような使い捨てのカトラリーは、利便性を実現するとともに、多くが無料提供を前提とされているため低コストであることが求められる。
【0003】
このため、使い捨てではない金属製等の高級なカトラリーと同様の形状に成形しやすく、しかも安価で軽量なプラスチック性のものが多く使用されている(特許文献1参照)。
【0004】
他方で、近年、マイクロプラスチックによる海洋汚染等の問題が注目され、環境保護の点等から脱プラスチック化が世界的に進んでいる。日本においても、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が成立し、例えば、特定の事業者に対して、使い捨てプラスチック製品の削減が義務化されることとなった。そして、この「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」では、「特定プラスチック使用製品」として、宿泊業、飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業等の特定業種において、提供されるフォーク、スプーン、ナイフといったカトラリーが指定されており、カトラリーにおける脱プラスチック化の要望が高まっている。
【0005】
カトラリーをプラスチックに代えてプラスチック以外の天然素材とする技術は、下記特許文献2、特許文献3、特許文献4に開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2017-524498号公報
【特許文献2】特開2012-249963号公報
【特許文献3】特開2021-29926号公報
【特許文献4】特開2021-29924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の技術は、シート形状の素材を折り畳み接着することで食物を収納する容器部を形成するものであるため、予めシート形状となった素材を調達及び加工することで製造することができるという利点がある。しかしながら、モールド成形されたプラスチック製のカトラリーのような、非使い捨てではない金属製のカトラリーのような曲線的な意匠を有するものではないため、口腔内に入れた際等の感覚など使用感がプラスチック製のカトラリーとは大きく異なる。
【0008】
他方で、特許文献3や特許文献4の技術は、パルプモールド技術によって、口に入れる部分等が金属製のカトラリーのような曲線的な意匠を有するものとなっており、表面も滑らかで口腔内に入れた際等の感覚など使用感がプラスチック製のカトラリーに近くなっている。
【0009】
しかしながら、特許文献3や特許文献4のパルプモールド技術は、スラリー状の湿潤パルプを直接に成形する技術であるため、製造するには湿潤パルプを取り扱う設備が必用であり、シート素材から製造できる特許文献2の技術よりも、製造するための工程や管理が煩雑となる。また、パルプモールド技術は、湿潤パルプを成形するため成形物の高密度化や耐水性を高めることが難しい。
【0010】
そこで、本発明の主たる課題は、主原料を天然素材としつつ、従来のプラスチック製の使い捨てカトラリーと同様の意匠性や使用感を達成でき、さらに、シート材から製造することが可能で製造が容易であり、さらに耐水性も十分な、カトラリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決した第一の手段は、
使い捨てカトラリーであって、
食物に触れるヘッド部、このヘッド部に連接するネック部、及びこのネック部に連接し把手するためのハンドル部を有し、
パルプ繊維を抄紙したシート材により形成され、
かつ、そのシート材の一部又は全部がプレス加工して圧縮成形されている、
ことを特徴とする使い捨てカトラリーである。
【0012】
第二の手段は、
シロキサン化合物が含有されている上記第一の手段に係る使い捨てカトラリーである。
【0013】
第三の手段は、
パルプ繊維として針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプを合わせて90~100質量%含み、針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプの配合割合が、5:95~30:70である、上記第一又は第二の手段に係る使い捨てカトラリーである。
【0014】
第四の手段は、
プレス加工部分における密度が1.0g/cm3以上である、上記第一~第三の手段に係る使い捨てカトラリーである。
【0015】
第五の手段は、
皿状又は少なくとも先端側に湾曲する部分を有するヘッド部と、このヘッド部に連接しヘッド部より幅狭のネック部と、ネック部と等幅又はネック部より幅広のハンドル部と、を有し、
少なくともヘッド部及びネック部がプレス加工により成形されており、
ネック部は、断面湾曲に成形されているとともに、幅に対する断面の曲率半径の割合が、1:0.4~1:0.8である、
上記第一~第四の手段に係る使い捨てカトラリーである。
【0016】
第六の手段は、
一方縁に向かって先薄となるブレード部を有するヘッド部と、ヘッド部に連接するネック部と、ネック部に連接するハンドル部とを有し、
ヘッド部、ネック部及びハンドル部は、シート材が複数枚積層されて形成され、
かつ、少なくともブレード部が、プレス加工による成形によって一方縁に向かって先薄に成形されている、
上記第一~第四の手段に係る使い捨てカトラリーである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、主原料を天然素材としつつ、従来のプラスチック製の使い捨てカトラリーと同様の意匠性や使用感を達成でき、さらに、シート材から製造することが可能で製造が容易であり、さらに耐水性も十分な、カトラリーを提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係るカトラリーを説明するための正面図である。
【
図2】本実施形態に係る多層紙の断面模式図である。
【
図3】本実施形態に係るスプーンの正面、側面及び断面の図である。
【
図4】本実施形態に係るフォークの正面、側面及び断面の図である。
【
図5】本実施形態に係るナイフの正面、側面及び断面の図である。
【
図6】本実施形態に係る係止構造を説明するための図である。
【
図7】本実施形態に係るカトラリーの曲げ強度の測定方法を説明するための図である。
【
図8】本実施形態に係るカトラリーの曲げ強度測定の結果を説明するための図である。
【
図9】本実施形態に係るカトラリーの他の曲げ強度測定の結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次いで、本発明の実施形態を
図1~
図9を参照しながら以下に詳述する。但し、本発明は、これらの実施形態に限定されるわけではない。
【0020】
本実施形態に係る使い捨てカトラリー1は、商業施設におけるフードコート、ファストフードショップ、持ち帰り弁当店、航空機内の飲食提供サービス、フードデリバリーやケータリングイベント等の種々の飲食提供の場において提供されるなどして、一回又は数回程度の使用の後の廃棄されることが想定されるものである。本実施形態に係る使い捨てカトラリー1は、主に食物に触れるヘッド部11、ヘッド部11に連接するネック部12、及びネック部12に連接し主に把手や操作を行うためのハンドル部13を有しており、特に
図1に示すように、スプーン10、フォーク20、ナイフ30が含まれる。その他に、蓮華、マドラー、穴あきスプーン等が含まれ得る。
【0021】
この本実施形態の使い捨てカトラリー1は、特徴的に、パルプ繊維を抄紙したシート材により形成されており、そのパルプ繊維を抄紙したシート材の一部又は全部が厚み方向にプレス加工されて成形されている。すなわち、全体がパルプ繊維を抄紙したシート材により形成されており、さらに、スプーン10、フォーク20、ナイフ30等のカトラリー1の一部形状又は全体形状に予め成形した金型を、そのシート材の一部又は全部に対して厚み方向から押し付けることで、その金型形状をシート材に転写するように圧縮成形されている。もちろん、プレス加工後に適宜に型抜き、カット等によって所望の形状に整えられたものであってよい。また、プレス加工して成形されたものに対して、プレス加工されていない別のシート材を厚み方向に積層するなどして、一部又は全部の厚みが増加されて形成されているものであってもよい。好ましくは、高いプレス圧力で成形できることから全部が厚み方向にプレス加工して成形されているのが望ましい。上記のヘッド部11、ネック12部及びハンドル部13を有する形状のカトラリー1においては、そのカトラリー1がスプーン10、フォーク20である場合には、少なくともヘッド部11及びネック部12がプレス加工されて成形されているのが望ましく、特には、ヘッド部11、ネック部12及びハンドル部13までを含む全体がプレス加工されて成形されているのが望ましい。また、カトラリー1がナイフ30である場合には、少なくともヘッド部11の刃とするエッジ部分がプレス加工されて成形されているのが望ましい。さらに、本実施形態の使い捨てカトラリー1は、シート材が複数枚積層された状態でプレス加工されて成形されたものであってもよいが、層間での剥離のおそれがないため、一枚のシート材のみをプレス加工して成形したもののほうが望ましい。
【0022】
ここで、従来のパルプモールド技術は、金属成形における鋳造技術のように、パルプ繊維を含む流動原料を型押して圧縮により膠着させて成形するため、成形物を複雑な形状に成形しやすい一方、高密度化が難しく、また、成形物が、繊維配向性を有さないため、剛直でコシが弱く折れや割れが発生しやすくなることがあるという問題があった。本実施形態のカトラリーは、パルプモールド技術等の流動原料を型押するのではなく、金属成形における鍛造技術のように、一度乾燥されて水素結合を構築し、さらに繊維配向性も定まっているシート材をさらに厚み方向にプレス加工することで成形するため、高密度に圧密化され、薄いながらもプラスチック性のような適度な粘りやしなりを有して使用に十分な高い強度を有する。また、従来のパルプモールド技術によるものに比べて、厚みを薄くしながら強度を高めることができ、表面を滑らかにすることもできる。このため、滑らかな曲線や曲面で形成された金属製の高級なカトラリーと同様の形状に成形することができ、使用時の口当たりにも優れるものとなる。さらに、製造時に流動性のパルプスラリーを櫃よとせず、製造しやすい利点がある。
【0023】
また、本実施形態のカトラリー1は、プラスチックではなく、パルプ繊維を抄紙したシート材で形成されているため、脱プラスチックを達成することができる。脱プラスチック達成の点から、本実施形態に係るカトラリー1は、非生分解性の樹脂によるプラスチックラミネートが施されていないのが望ましく、特には、プラスチックラミネートが施されていないのが望ましい。また、本実施形態のカトラリー1は、パルプ繊維の集合体であるため使用時に歯で噛むなどしても口腔内で破砕することがなく使用時の安全性を十分なものとすることができる。
【0024】
ここで、本実施形態のカトラリー1の曲げ強度は、その形状やカトラリーの用途によって必要な曲げ強度が異なるため、必ずしも限定されないが、複合材料試験機(10kN)形式5966型及びその相当機によって測定される2点曲げ荷重試験における強度が、曲げ撓み15mm時における曲げ荷重が0.5N以上であるのが望ましい。なお、この2点曲げ試験では、
図7に示すように、支持台80Aにカトラリー1のハンドル部13を固定し、カトラリー1のヘッド部11の中央部を押し込み位置として測定する。例えば、
図7に示すようにカトラリー1がスプーン10であれば、椀形状の底部位置を押し込み位置とする。カトラリー後端から支持台端までの保持長さL20は、カトラリー1の種類や形状により限定されないが、カトラリー全長の25~30%の長さとればよい。但し、少なくともネック部12でその幅が最狭となる位置が支持台80Aの線端80tより先となるようにセットする。測定は小負荷用500Nとし、押し込み速度は40mm/min、圧子81は先端半円のものとする。測定試料は、スプーン10、フォーク20であれば正面側を上側に向けてセットし、ナイフ30であれば、側面側を上側に向けてセットする。一般に、カレースプーン、テーブルスプーン一杯分は15~30g程度であり、また、スプーン10やフォーク20等のカトラリー1を操作する際には、ネック部12又はその近傍を指などで支持して操作する。したがって、ネック部を支持しない本測定方法によって、曲げ撓み15mm時における曲げ荷重が0.5N以上であれば、カトラリー1の一般的な操作法をもって使用するに十分な特に好ましい強度を有しているといえる。さらに、本実施形態のカトラリーは、曲げ撓み30mm時に2N以上であるのが望ましい。比較的大きなテーブルスプーンのような形状としても、高い撓りを有し、使用時に折れたり破損したりするおそれが各段に低く安全性が高いものとなる。
【0025】
他方で、本実施形態のカトラリー1は、必ずしも限定されないが、耐水性能が3分以上、より好ましくは5分以上あるのが望ましい。ここで、耐水性は、水に完全浸漬しても各層が分離せず、また、水解しなければよい。但し、より好ましくは、5分浸漬時においても、上記の2点曲げ荷重試験における強度、つまり曲げ撓み15mm時における曲げ荷重が0.5N以上が維持されているのが特に望ましい。
【0026】
さらに、本実施形態に係るカトラリー1は、シロキサン化合物が含有されているのが望ましい。少なくともプレス加工した部分には、シロキサン化合物が含有されているのがより望ましく、特には、全体にシロキサン化合物が含有されているのが望ましい。シロキサン化合物が含有されていると、シロキサン結合によって剛度、強度、耐水性及び表面の滑らかさが高いものとなる。少なくとも、食物に触れたり、口腔内の水分と接触したりしやすく、また、口腔内や唇と接触する可能性が高いヘッド部11及び操作時に捻じれや力が加わりやすいネック部12を含む範囲にシロキサン化合物が含有されているのが望ましい。シロキサン化合物含有による剛度、強度、耐水性及び表面の滑らかさの向上の効果が感じられやすい。好ましくは、カトラリー全体にシロキサン化合物が含有されているのが望ましい。
【0027】
シロキサン化合物は、シロキサン結合を有するものであれば、必ずしも限定されないが、カトラリー1は、食物と触れたり、口腔内に入れたりする可能性があるため、生体に対して毒性が無いか、低いものが望ましい。また、カトラリー1に、シロキサン化合物を含有させるには、カトラリー1に対してシロキサン化合物を塗工する態様のほか、成形前のシート材に対して、適宜のアルコキシシラン溶液やアルコキシシラン溶液加工品を含侵させた後、加温や加熱しつつプレス加工するようにしてもよい。このようにすると、シロキサン化合物が、パルプ繊維自体に結合したり、パルプ繊維をコーティングしたりする態様で含有されるようになる。
【0028】
ここで、本実施形態のカトラリー1は、シート材をプレス加工して成形されたものであるが、そのプレス圧力及びプレス速度は、シート材やカトラリーの種類や形状に応じて適宜変更することができ、必ずしも限定されない。但し、シート材を厚み方向に圧密化して、十分な強度を発現させるためには、好ましくは、60トン以上のプレス圧、より好ましくは80トン以上のプレス圧、特に好ましくは100トン以上のプレス圧でシート材を圧縮して形成するのが望ましい。上限はシート材の破断等が生じない範囲で設計すればよいが、パルプ繊維を抄紙したシート材であることを考慮すれば200トン程度が上限である。また、本実施形態のカトラリー1において、このような高いプレス加工圧とする場合、特に、一部をプレス加工して成形するよりも、全体をプレス加工して成形するほうが製造の容易さ、及び強度の面で望ましいものとなる。したがって、本実施形態のカトラリー1は、一枚のシート材の全体をプレス加工して圧縮成形したものに対して、プレス加工していないシート材を部分的に接着や圧着して一体化したものとしてもよい。なおプレス加工を行うにあたっては、プレス加工とともに加熱してもよく、シート材を変形しやすくするために湿潤させてもよい。上記シロキサン化合物を含む溶液やシロキサン化合物の前駆体となる物質を含む溶液を湿潤剤としてもよい。また、加熱する際の加熱温度等は、必ずしも限定されるものではない。
【0029】
本実施形態のカトラリー1の好ましい坪量は、坪量が700g/m2以上、より好ましくは850g/m2以上、特に好ましくは950g/m2以上である。坪量は、JIS P 8124(2011)に記載の「紙及び板紙-坪量測定方法」に準拠して測定した値である。本実施形態のカトラリー1の好ましい密度は、0.70g/cm3以上、好ましくは、0.98g/cm3以上、特に好ましくは、1.1g/cm3である。特に、プレス加工部分における密度は、好ましくは1.0g/cm3以上、特に好ましくは、1.2g/cm3である。密度は、(坪量)/(紙厚)で算出される。本実施形態のカトラリー1は、この密度であれば十分に高い密度といえる。特に上記の坪量であるとともに、この密度であれば、適度な質量で圧密化されており、薄いながらもプラスチック性のような適度な粘りやしなりを有し、使用に十分な高い強度となる。厚みは必ずしも限定されないが、プレス加工された部分における厚みは、シート一層分あたり1.5mm以下、好ましくは、1.35m以下、特に好ましくは1.0mm以下である。紙厚は、JIS-P8118(2014)に記載の「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した値である。
【0030】
カトラリー1を構成するパルプ繊維は、必ずしも限定されないが、好ましい構成パルプ繊維は、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等の針葉樹クラフトパルプ及び、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等広葉樹クラフトパルプである。その他のパルプとして、古紙パルプ、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、あるいは、ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等の公知の種々のパルプを適宜組合せて使用されていれもよい。但し、カトラリー1は、食物に触れたり、口腔内に入れる用途に用いられたりするため、好ましくは、バージンパルプ100%であり古紙パルプを含有していないのが望ましい。また、バージンパルプであり、加工後の製品の外観及び強度を両立しやすいことから、針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプが90~100質量%であるのが望ましい。この場合、針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプの配合割合は、5:95~30:70であるのが望ましい。繊維長の短い広葉樹クラフトパルプの配合割合を多くすることで、プレス加工によって圧密化されやすく強度を発現させやすく、また、表面の質感を高めやすい。さらに、漂白パルプであり白色度が高く、清潔感及び硬質感のある意匠性を有するカトラリー1となることから、針葉樹晒クラフトパルプ及び広葉樹晒クラフトパルプを用いることが特に好ましい。
【0031】
本実施形態に係るパルプ繊維を抄紙したシート材は、乾式抄紙した紙、湿式抄紙した紙が挙げられる。好ましくは、パルプスラリーを湿式抄紙により製造した縦方向(MD方向)及び横方向(CD方向)を有する紙である。このような紙は、繊維配向性を有するため強度を高めやすい。また、特に、このような繊維配向性を有するシート材をプレス加工したカトラリー1では、必ずしも限定されないが、ヘッド部11側からハンドル部13側に至る長尺方向が、紙の縦方向(MD方向)と一致するようになっているのが望ましい。紙の縦方向(MD方向)と長尺方向とを一致させることで、ハンドル部13をもってヘッド部11を操作した際に折れ難く撓りやすいカトラリー1となる。
【0032】
本実施形態に係るシート材として、特に好ましいものは、3以上の紙層を有する多層紙50である。本実施形態のカトラリー1は、シート材をこの多層紙50とするとともに、シロキサン化合物を含有させたもので構成するのが特に好ましい。ここで、
図2に示すように、多層紙50は、複数の紙層51,52が積層されているため単層の紙よりも厚み方向に圧密化した際に強度を高めやすい。また、多層紙50は、各層の特性を変えることができ、高密度ながら弾性を確保しやすく、耐水性も付与しやすい。例えば、耐水性に優れるものの硬いが折れ易い傾向の一対の表層51に柔軟な中層52を組み合わせることで、耐水性、強靭性や耐久性に優れるようになる。そして、本実施形態に係る使い捨てカトラリー1では、シート材を厚み方向、つまり多層紙50における層積層方向からプレス加工により圧縮成形するため、多層紙50における各層の特性が維持されやすい。このため、プラスチック製の使い捨てカトラリー1と同様の形状、例えば、
図3に示すスプーンや
図4に示すフォークのように、幅狭のネック部12を介してヘッド部11とハンドル部13とが連接された全体として薄い長尺形状としても、十分な強度を発現させやすい。特にネック部12の撓りを発現しやすく、プラスチック製の使い捨てカトラリー1と同様の使用感を有するものとしやすい。なお、多層紙50は、多層抄きによって製造することができる。また、多層紙50は、市販されているものであってよく、例えば、大日製紙株式会社製のエリプラペーパー等が例示できる。
【0033】
本実施形態に係る好ましいシート材である多層紙50は、JIS P 8113(2006)に準拠して測定された縦方向及び横方向の引張強度が、ともに50kN/m以上であるのが望ましい。この引張強度を有していれば、プレス非加工部分及びプレス加工による成形後においても十分な強度を確保しやすい。
【0034】
また、本実施形態に係る好ましいシート材である多層紙50は、JIS P 8125(2000)に準拠して測定されたテーバー剛直度が縦方向で125mN・m以上、好ましくは150mN・m以上であり、横方向で40mN・m以上であり、好ましくは60mN・m以上であるのが望ましい。この多層紙50であれば、十分な剛性及び強度とでき、プレス非加工部分及びプレス加工による成形後においても十分な強度を確保しやすい。
【0035】
さらに、多層紙50は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.18-1:2000に準拠して測定されるZ軸強度が400kN/m2以上、好ましくは450kN/m2以上であるのが望ましい。プレス加工による成形性に優れるとともに、プレス加工前後におけるトムソン加工等の打ち抜き、カッティングプロッター等のカッティングによって製造しやすい。
【0036】
本実施形態に係る好ましいシート材である多層紙50の層数は、限定されないが、五~九層とし、中層52の層数を三層以上、特に五層とするのがよい。特に
図2に示す形態は、三層の中層52を有するものとなっている。中層52の総数が三層以上であると、多層紙50の強靭性や耐久性がより発現しやすいとされている。中層52の総数の上限としては、層間強度を維持する観点から、七層以下であることが好ましい。また、三層~七層は、円網多筒式抄き合わせ抄紙機を使用する場合における層間強度を維持しながら操業を行いやすい。
【0037】
ここで、本実施形態に係る好ましいシート材である多層紙50の坪量は、成形後のカトラリー1と同様に、好ましくは700g/m2以上、より好ましくは850g/m2以上、特に好ましくは950g/m2以上である。この坪量の多層紙50であれば、厚み方向に圧密化することで十分な剛性及び強度としやすく、よりプラスチック製の使い捨てカトラリーと同様の使用感を有するものとしやすい。多層紙50の坪量の上限値は限定されないが、抄造時にカレンダーロール等で折れジワが発生しやすくなるおそれがあり、この点からは上限値については、1400g/m2が好ましく、1240g/m2がより好ましい。また、多層紙の紙厚は、900μm以上1,500μm以下が好ましく、より好ましくは1000μm以上1,350μm以下である。この紙厚の多層紙50を1.5mm以下、好ましくは1.35mm以下、特に好ましくは1.0mm以下となるようにプレス加工すると本実施形態のカトラリー1に係る強度としやすい。なお、坪量は、JIS P 8124(2011)に記載の「紙及び板紙-坪量測定方法」に準拠して測定した値であり、紙厚は、JIS-P8118(2014)に記載の「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した値である。
【0038】
なお、本実施形態に係る好ましいシート材である多層紙50における表層51及び中層52の坪量は、上記のシート材全体の坪量の範囲で調整することができ、特に限定されないが、好ましくは、表層51の坪量としては、1層あたり60.0g/m2以上250.0g/m2以下、特には130~150g/m2が好ましい。また、中層52全体の坪量としては、500g/m2以上900g/m2以下、特には650g/m2以上800g/m2以下が好ましい。さらに、多層紙50は、多層紙50全体の坪量に対する一対の表層51,51の合計の坪量の割合が、20.0%以上35.0%以下のものであるのが好ましい。一対の表層51の剛直性が高く、中層52の柔軟性が優れるからである。また、多層紙50において、一対の表層51の合計の坪量の割合を上記の範囲のものは、折れ曲がり難い特性となっている。好ましい多層紙50は、密度が、プレス加工による圧縮成形前において、好ましくは0.65~1.50g/cm3、より好ましくは0.73~1.00g/cm3、特に好ましくは0.76~0.96g/cm3である。多層紙50の密度がこの範囲であることで、高坪量で剛性が優れつつ、折れ難く、プレス加工による成形によってより硬質さと高いコシを有するものとなりやすい。
【0039】
また、多層紙50の各層を構成する好ましいパルプ繊維は、上記のカトラリー1を構成するパルプ繊維と同様であり、必ずしも限定されないが、好ましくは、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等の針葉樹クラフトパルプ及び、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等広葉樹クラフトパルプである。その他のパルプとして、古紙パルプ、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、あるいは、ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等の公知の種々のパルプを適宜組合せて使用されていれもよい。但し、カトラリーは、食物に触れたり、口腔内に入れる用途に用いられたりするため、好ましくは、バージンパルプ100%であり古紙パルプを含有していないのが望ましい。また、バージンパルプであり、加工後の製品の外観及び強度を両立しやすいことから、針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプが90~100質量%であるのが望ましい。この場合、針葉樹クラフトパルプ及び広葉樹クラフトパルプの配合割合は、5:95~30:70であるのが望ましい。繊維長の短い広葉樹クラフトパルプの配合割合を多くすることで、プレス加工によって圧密化されやすく強度を発現させやすく、また、表面の質感を高めやすい。さらに、漂白パルプであり白色度が高く、清潔感及び硬質感のある意匠性を有するカトラリー1となることから、針葉樹晒クラフトパルプ及び広葉樹晒クラフトパルプを用いることが特に好ましい。
【0040】
なお、本実施形態に係る好ましいシート材である多層紙50は、脱プラスチックの観点から、もちろんプラスチックを含む合成繊維を含まない天然素材由来の繊維のみから構成される紙であるのが望ましい。好適には、パルプ繊維のみからなる紙が望ましい。
【0041】
この多層紙50における各層のパルプ繊維の配合は、表層51は針葉樹クラフトパルプと前記広葉樹クラフトパルプの質量比(%)が0/100以上15/85以下であるのが好ましい。剛直で高密度化しやすい広葉樹クラフトパルプが多く含有され、表層が高密度で剛直な特性となり、強度に優れるカトラリー1となる。この配合の表層51ととともに、中層52は、針葉樹クラフトパルプと前記広葉樹クラフトパルプの質量比(%)を15/85以上35/65以下であるのが好ましい。表層よりも柔軟性に富む針葉樹クラフトパルプを多く含有させると、プレス加工時に厚み方向にしっかりと圧縮成形されやすく所望の形状のカトラリー1としやすい。
【0042】
また、本実施形態に係る好ましいシート材である多層紙50は、製紙用添加剤としてサイズ剤及び紙力増強剤の少なくとも一方を添加されているのが望ましい。所望の強度に調整しやすい。なお、多層紙50には、本発明の目的とする効果を損ねない範囲でその他の各種添加剤を含有させることができる。例えば、ポリビニルアルコールやワックス等を塗布することができる。
【0043】
サイズ剤としては、スチレン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水琥珀酸(ASA)、中性ロジンサイズ剤、ロジンサイズ剤、変性ロジンエマルジョンサイズ剤などが挙げられる。これらの中でもロジンサイズ剤及び変性ロジンエマルジョンサイズ剤が好ましい。ロジンサイズ剤は、特に限定されない。ロジン系の物質は、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン類をフマル酸、マレイン酸、アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸あるいはその無水物で変性した強化ロジンや、ロジン類をグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の多価アルコールを反応させて得られるロジンエステルを挙げることができる。また、ロジンサイズ剤には、これらの単独またはその混合物をエマルジョン化したもの、単独でエマルジョン化した後に混合したものも含まれる。さらに、エマルジョン化したものに、サイズ発現性をより向上させるために各種ポリマーを添加したものも含まれる。
【0044】
紙力増強剤としては、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミン系樹脂、アクリル樹脂系、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂など公知の種々のものを使用できる。これらの中でも、両性紙力増強剤を使用することが好ましい。両性ポリアクリルアミドとしては、アクリルアミドとアニオン性モノマー及びカチオン性モノマーの共重合物、アクリルアミドとアニオン性モノマーとの共重合物のマンニッヒ変性物、ホフマン分解物等が挙げられる。特に両性ポリアクリルアミドは、自己定着機能を有しているため、紙間強度を向上させるべく増添したとしても、カチオン過多になることがなく、変性ロジンエマルジョンサイズ剤とともに含むことでこれを安定的に定着させることができる。
【0045】
サイズ剤の添加量としては、固形分で0.5kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。紙力増強剤の添加量としては、固形分で12kg/t以上30kg/t以下が好ましい。なお、「kg/t」はパルプ1tあたりの質量(kg)を示す。サイズ剤の添加量をこの範囲とすると、耐水性を十分に向上でき、カトラリー用途に特に適する多層紙となる。
【0046】
また、多層紙50は、表層51及び中層52の各層に製紙用添加剤として上記のサイズ剤及び紙力増強剤の少なくとも一方を添加することが好ましい。この場合、表層51のサイズ剤の添加量としては、固形分で0.5kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。また、中層52のサイズ剤の添加量としては、固形分で2.0kg/t以上5.0kg/t以下が好ましい。また、各層の紙力増強剤の添加量としては、固形分で12kg/t以上30kg/t以下が好ましい。この範囲とするとで、カトラリーに適した多層紙の層間強度などの各種紙力としやすい。
【0047】
さらに、本実施形態に係る使い捨てカトラリー1のより好ましい具体的な形状について、スプーン10を例にさらに説明する。
図3に本実施形態に係る使い捨てカトラリーであるテーブルスプーン10を示す。この
図3において(A)は正面視を示す図であり、(B)は側面視を示す図であり、(C)は、(A)における(1)~(7)位置における正面側の湾曲形状を断面視で示した図である。
【0048】
図示例のこの実施形態のスプーン10は、ヘッド部11からハンドル部13に至る全体がシート材をプレス加工して圧縮成形されて形成されている。その食物に触れるヘッド部11は、個体、粉体又は液体等の各種形状の食物を掬うことができるよう、一般的な金属製スプーンや従来プラスチック製の使い捨てのスプーンと同様に正面側解放の椀状となっている。
【0049】
また、本実施形態に係るスプーン10は、ヘッド部11に連接するネック部12が、正面視においてヘッド部11から曲線で滑らか連続して幅狭に形成され、ネック部12に連接するハンドル部13がネック部12と等幅又はネック部12より幅広となっている。さらに、ヘッド部11からハンドル部13にかけて、正面視及び側面視において縁が曲線を描き、さらに正面、背面が曲面で構成されており、全体として流線型の使い捨てではない金属製等の高級なカトラリーと同様の形状となっており、意匠性に優れるものとなっている。但し、本実施形態に係るスプーン10は、この形状に限定されない。
【0050】
他方で、本実施形態に係るスプーン10は、ヘッド部11に連接するネック部12が、正面視においてヘッド部11から曲線で滑らか連続して幅狭に形成されているとともに、特に、ネック部12は、
図3に示されるように、正面側が開いた断面湾曲に成形され、その幅L1に対する断面の曲率半径R1の割合が、1:0.4~1:0.8となっている。特に好ましくは、1:0.4~1:0.75である。ネック部の幅対する断面の曲率半径の割合が1:0.4~1:0.8であることで、圧縮成形した型から抜けることができつつ、強度を高めることができる。なお、一般的な金属成形では、幅に対する断面の曲率半径の割合が、1:0.5未満となると型から抜けなくなるが、本実施形態のカトラリーでは、シート材がルプ繊維を抄紙したシート材であり、湾曲面を開くように撓るため1:0.5未満とすることができる。ネック部12を断面湾曲に形成すると形成しないものと比較して、ヘッド部11を正面側又は背面側から押した際に曲げ強度が向上する。そして、特に、幅に対する断面の曲率半径の割合が、1:0.4~1:0.8とすると、使用時、例えば、スプーンで食物を掬う一般的な操作時にネック部が折れるおそれが各段に低くなる。
【0051】
この本実施形態のスプーンの具体的な大きさは限定されないが、特に
図3に示すテーブルスプーン10であれば、全体の長さL2としては180~200mm、ヘッド部11の長さL3は45.0~60.0mm、ヘッド部11の最大幅L4は35.0~45.0mm、
【0052】
ネック部12の長さL5は40.0~50.0mm、ネック部12の最小幅L6は8.5~22.0mmとすることができる。この形状であれば、プラスチック製の一般普及品の使い捨てのテーブルスプーン10と同様の使用感を有するものとすることができる。
【0053】
なお、図示の形態では、テーブルスプーン10を例にその形状や大きさを説明したが、本実施形態のカトラリーをスプーンとする場合、これに限定されず本発明の効果を妨げない範囲で、適宜の大きさのものとすることができ、例えば、サービススプーン、デザートスプーン、スープスプーン、フィッシュスプーン、ティースプーン、コーヒースプーン、デミタススプーン、アイスクリームスプーンの用途に適するの大きさ、形状とすることができる。また、メロンスプーン、イチゴスプーン等と称される先端が二股三又に形成されたスプーンであってもよい。
【0054】
さらに、本実施形態に係る使い捨てカトラリー1のより好ましい具体的な形状について、フォーク20を例にさらに説明する。
図4に本実施形態に係る使い捨てカトラリー1であるテーブルフォーク20を示す。この
図3において(A)は正面視を示す図であり、(B)は側面視を示す図であり、(C)は、(A)における(1)~(7)位置における正面側の湾曲形状を断面視で示した図である。
【0055】
図示例のこの実施形態のフォーク20は、上記スプーン10と同様に、ヘッド部11からハンドル部13に至る全体がシート材をプレス加工して圧縮成形されて形成されている。その食物に触れるヘッド部11は、個体、粉体又は液体等の各種形状の食物を掬うことができるよう、正面側が解放の浅い椀状となっているとともに、食物を刺して保持できるよう先端が4つ又に別れた櫛型に形成されている。
【0056】
また、本実施形態に係るフォーク20は、上記スプーン10と同様にヘッド部11に連接するネック部12が、正面視においてヘッド部11から曲線で滑らか連続して幅狭に形成され、ネック部12に連接するハンドル部13がネック部12と等幅又はネック部12より幅広となっている。さらに、ヘッド部11からハンドル部13にかけて、正面視及び側面視において縁が曲線を描き、さらに面が曲面で構成されており、全体として流線型の使い捨てではない金属製等の高級なカトラリーと同様の形状となっており、意匠性に優れるものとなっている。但し、本実施形態に係るフォーク20は、この形状に限定されない。
【0057】
他方で、本実施形態に係るフォーク20も、上記スプーン10と同様に、ヘッド部11に連接するネック部12が、正面視においてヘッド部11から曲線で滑らか連続して幅狭に形成されているとともに、特に、
図4に示されるように、ネック部12は正面側が開いた断面湾曲に成形され、その幅L7に対する断面の曲率半径R2の割合が、1:0.4~1:0.8となっている。特に好ましくは、1:0.4~1:0.75である。ネック部12を断面湾曲に形成すると形成しないものと比較して、ヘッド部11を正面側又は背面側から押した際に曲げ強度が向上する。特に、幅に対する断面の曲率半径の割合が、1:0.4~1:0.8とすることで、使用時、例えば、フォークで食物を刺す一般的な操作時にネック部12が折れるおそれが各段に低くなる。
【0058】
この本実施形態のフォーク20の具体的な大きさは限定されないが、特に
図4に示すテーブルフォーク20であれば、全体の長さL8としては180~200mm、ヘッド部11の長さL9は45.0~60.0mm、ヘッド部11の最大幅L10は35.0~45.0mm、ネック部の長さL11は40.0~50.0mm、ネック部の最小幅L12は8.5~22.0mmとすることができる。この形状であれば、プラスチック製の一般普及品の使い捨てのテーブルフォーク20と同様の使用感を有するものとすることができる。
【0059】
なお、図示の形態では、テーブルフォークを例にその形状や大きさを説明したが、本実施形態のカトラリーをフォークとする場合、これに限定されず本発明の効果を妨げない範囲で、適宜の大きさのものとすることができ、例えば、サービスフォーク、デザートフォーク、フィッシュフォーク、サラダフォーク、フルーツフォーク、ケーキフォーク、ヒメフォークの用途に適する大きさ、形状とすることができる。
【0060】
さらに、本実施形態に係る使い捨てカトラリー1のより好ましい具体的な形状について、ナイフ30を例にさらに説明する。
図5に本実施形態に係る使い捨てカトラリー1であるテーブルナイフ30を示す。この
図5において(A)は背面視を示す図であり、(B)は側面視を示す図であり、(C)は、(A)における(1)~(7)位置における断面視を示す図である。
【0061】
図示例のこの実施形態のナイフ30は、ヘッド部11の一方縁部がプレス加工によって一方縁に向かって先薄となるブレード部11Bを有している。また、本実施形態に係るナイフ30は、側面視においてブレード部11Bを構成する一方縁がやや膨出する湾曲形状に形成されているとともに、これに連接するネック部12が、側面視において曲線で滑らか連続してハンドル部13に連なっており、ブレード部11B側の縁が全体として流線型の使い捨てではない金属製等の高級なカトラリーと同様の形状となっており、意匠性に優れるものとなっている。但し、本実施形態に係るナイフ30は、この形状に限定されない。
【0062】
また、この本実施形態のナイフ30は、特徴的に、ヘッド部11、ネック部12及びハンドル部13に至る部分が、二枚のシート材30A,30Bが積層されて形成されている。そして、特に、プレス加工された一方縁部以外の部分が、シート材が、プレス加工されておらず、前記ブレード部11Bに対して厚みが増加されている。非プレス加工部分の厚みは必ずしも限定されないが、1800μm以上3000μm以下である。シート材の積層枚数が必ずしも限定されないが、2~3枚であるのが望ましい。ヘッド部11の一方縁部がプレス加工によって一方縁に向かって先薄となるブレード部11Bとし、さらに、他の部分においてシート材を積層することで、使用時、例えば、ナイフで食物を分断する一般的な操作時にナイフが折れるおそれが各段に低くなる。なお、図示はしないが、ブレード部11Bの縁は鋸刃状に形成してもよい。肉等の繊維質を切断しやすいものとなる。
【0063】
この本実施形態のナイフの具体的な大きさは限定されないが、特に
図4に示すテーブルナイフ30であれば、全体の長さL13としては180~200mm、ヘッド部11の長さL14は90.0~110.0mm、ヘッド部11の最大幅L15は12.0~20.0mm、ハンドル部の長さL16は90.0~100.0mm、ハンドル部の幅L17は15.0~25.0mmとすることができる。この形状であれば、プラスチック製の一般普及品の使い捨てのテーブルナイフと同様の使用感を有するものとすることができる。
【0064】
なお、図示の形態では、テーブルナイフを例にその形状や大きさを説明したが、本実施形態のカトラリーをフォークとする場合、これに限定されず本発明の効果を妨げない範囲で、適宜の大きさのものとすることができ、例えば、デザートナイフ、フィッシュナイフ、フルーツナイフ、バターナイフの用途に適する大きさ、形状とすることができる。
【0065】
ここで、本実施形態のカトラリーにおいては、
図4に示すナイフ30のようにシート材のプレス加工していない部分同士を積層して一体化した部分があってもよい。さらには、シート材のプレス加工した部分と、プレス加工していないシート材を積層一体化した部分があってもよい。シート材同士の接合方法は、必ずしも限定されない。本発明の効果を妨げない範囲で、接着剤、圧着手段、カシメ手段、ハトメ手段、楔手段、ステープル手段、芯なしステープルなどとも称される係止構造による接合などの接合手段によって接合することができる。また、接合手段は、複数種類の接合手段を併用してもよい。接合のための接着剤としては、澱粉、各種変性澱粉、カルボキシメチルセルロース等の変性セルロース、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子接着剤、アクリル酸エステル、酢酸ビニル等の水系エマルジョン樹脂等を使用してもよい。澱粉、セルロース系の自然素材由来のものが、環境負荷の点で望ましい。接合のためのカシメ、ハトメを構成するリベット類やステープルの針は、プラスチック以外の木製、金属製のものとしプラスチック以外の素材のものがよい。
【0066】
好ましい、接合手段としては、
図5(A)及びその断面B-B断面を示す
図5(B)に係止構造を示すように、表裏面の一部を打ち抜き等によって切起片70,70を形成し、その先端部分70t,70tを少なくとも隣接する層に押し込ませることで各層を相互に機械的に接合する係止構造によるものが挙げられる。この係止構造においては、前記先端部分70tが挿通されやすいように、少なくとも隣接する層における切起片70の縁70eと平面視の同位置にハーフカット線を入れるなどしてもよい。この係止構造は、具体的には、
図4に示すナイフ30における係止部40のように、適宜の複数の箇所に形成してシート材同士を一体化させることができる。本実施形態のカトラリー1は、シート材がコシを有する紙素材であるためこのような係止構造による接合によっても各層同士の接合が可能である。そして、この係止構造は、他の部品を使用することがない点で望ましい。但し、上記のとおり、この係止構造を含む、機械的な係止構造と接着剤とを併用してもよい。この場合においても接着剤の使用量を少なくできる利点がある。
【実施例0067】
次いで、本発明に係るカトラリーとしてスプーン(実施例1~実施例7)を作製し、その曲げ強度を測定した。実施例1~実施例7は、全て
図3に示す形状のものとした。なお、全長は190mmである。シート材は、繊維原料がパルプ繊維100%である多層紙(大日製紙株式会社製のエリプラペーパー、坪量1000g/m
2)用いた。プレス加工は全体とし、実施例1は、60トンのプレス圧で加工したもの、実施例2は、80トンのプレス圧で加工したもの、実施例3は110トンのプレス圧で加工することで加工圧力を異ならしめた。また、実施例4及び実施例5は、110トンのプレス圧で加工し、シロキサン化合物を含有するものである。実施例4と実施例5では、実施例4のシロキサン化合物の含有量を2倍、多くした。実施例6及び実施例7は、60トンのプレス圧で加工し、シロキサン化合物を含有するものである。実施例6と実施例7では、実施例6のシロキサン化合物の含有量を2倍、多くした。
【0068】
試験方法は、複合材料試験機(10kN)形式5966型を用いた2点曲げ荷重試験とし、試料は
図7に示すように、支持台80Aの先端位置80tがカトラリー後端から70mmの位置となるようにして固定した。なお、ネック部12の最狭部分は先端位置80tより前方位置となっている。押し込み位置は椀形状の底部位置を押し込み位置とした。測定は小負荷用500Nとし、押し込み速度は40mm/min、圧子81の半径R1=5mmとした。
【0069】
各例の測定結果を
図8及び
図9に示す。
図8に示すように、実施例1~実施例3は、プレス加工圧が異なるものの、曲げ撓み15mm時における曲げ荷重が0.5N以上となっており、さらに、曲げ撓み30mm時に2N以上となっておりカトラリーとして十分な強度であることが示されている。また、
図9に示すように、シロキサン化合物を含有させることで、より強度が高まることも確認された。
【0070】
次に、本発明に係るカトラリーであるスプーン(実施例8)及びフォーク(実施例9)とそのプレス加工前のカトラリー形状のシート材(比較例1及び比較例2)とを作製し、被験者に実際に使用をさせる官能試験を行った。実施例8に係るスプーンは、実施例3のものと同様とした、実施例9に係るフォークは、
図4に示す形状とし、シート材として繊維原料がパルプ繊維100%である多層紙(大日製紙株式会社製のエリプラペーパー、坪量1000g/m
2)を用い、110トンのプレス圧で成形したものとした。比較例1及び比較例2は、形状は、実施例8及び実施例9のプレス加工前の形状と同様とし、シート材として繊維原料がパルプ繊維100%である多層紙(大日製紙株式会社製のエリプラペーパー、坪量1000g/m
2)を用いた。
【0071】
官能試験は、カレー専門店「カレーハウスCoCo壱番屋」(株式会社壱番屋運営)が販売する「パリパリチキンカレー」テイクアウト品のカレールー、白米及びフライドチキンを、実施例8及び実施例9に係るスプーン及びフォークと、比較例1及び比較例2に係るスプーン及びフォークとを用いて自由に実食し、その使用感を評価した。なお評価基準は、特に、強度、口当たり及び操作感を中心に自由な評価基準で使いやすいを〇、使いづらいを×と評価した。被験者数はN=5とした。試験の結果、5名の被験者全てが、実施例8及び実施例9を使いやすい〇、比較例1及び比較例2を使いづらい×と評価した。この結果から、本発明に係るカトラリーは十分に使用することができるといえる。
【0072】
以上のとおり、本発明によれば、主原料を天然素材のパルプ繊維としつつ、従来のプラスチック製の使い捨てカトラリーと同様の意匠性や使用感を達成でき、さらに、シート材から製造することが可能で製造が容易であり、さらに耐水性も十分な、カトラリーが提供される。
1…カトラリー、10…スプーン、20…フォーク、30…ナイフ、30A,30B…シート材、11…ヘッド部、12…ネック部、13…ハンドル部、50…多層紙、51…表層、52…中層。