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特開2024-86927アップリンク信号の送受信システム及び電子ペン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086927
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】アップリンク信号の送受信システム及び電子ペン
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20240621BHJP
   G06F 3/03 20060101ALI20240621BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
G06F3/041 530
G06F3/03 400Z
G06F3/041 512
G06F3/041 522
G06F3/044 120
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066674
(22)【出願日】2024-04-17
(62)【分割の表示】P 2020078488の分割
【原出願日】2020-04-27
(71)【出願人】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】宮本 雅之
(72)【発明者】
【氏名】野村 佳生
(57)【要約】
【課題】人体に誘導される信号が原因で発生する基準電位の揺れによって、電子ペンが有するペン電極に誘導された信号が一時的に検出できなくなることを抑制可能な、アップリンク信号の送信システム及び電子ペンを提供する。
【解決手段】アップリンク信号の送受信システムは、ペン電極を有する電子ペンと、N個(Nは、2以上の整数)のセンサ電極を有する静電容量方式のタッチセンサに接続され、かつタッチセンサを介するアップリンク信号の送信制御を行うセンサ制御回路とを備える。タッチセンサ上における人体の接触領域に2個以上のセンサ電極が位置する場合、2個以上のセンサ電極は、G個のグループに分配して割り当てられる。
【選択図】図7

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン電極を有する電子ペンと、
N個(Nは、2以上の整数)のセンサ電極を有する静電容量方式のタッチセンサに接続され、かつ前記タッチセンサを介するアップリンク信号の送信制御を行うセンサ制御回路と、
を備え、
前記センサ制御回路は、前記N個のセンサ電極のうち、K≦Nを満たすK個のセンサ電極をG個(Gは2以上の整数)のグループに分類し、前記G個のグループの中から時間に応じてグループを選択し、前記グループに属するL個(1<L≦K)のセンサ電極である送信電極から前記アップリンク信号を送信する制御を行い、
前記タッチセンサ上における人体の接触領域に2個以上のセンサ電極が位置する場合、前記2個以上のセンサ電極は、前記G個のグループに分配して割り当てられることを特徴とする、アップリンク信号の送受信システム。
【請求項2】
前記タッチセンサは、相互容量方式のセンサであり、
前記N個のセンサ電極は、一方向に延びて等間隔に配置されるライン電極であり、
前記K個のセンサ電極は、前記接触領域又はその周辺の位置に連なって配置される、
請求項1に記載のアップリンク信号の送受信システム。
【請求項3】
前記タッチセンサは、自己容量方式のセンサであり、
前記N個のセンサ電極は、二次元格子に配置されるブロック電極であり、
前記K個のセンサ電極は、前記接触領域又はその周辺の位置に連なって配置される、
請求項1に記載のアップリンク信号の送受信システム。
【請求項4】
前記電子ペンは、前記送信電極を切り替えるための制御信号を前記センサ制御回路に送信し、
前記センサ制御回路は、前記制御信号の受信に応じて前記送信電極を切り替える、
請求項1に記載のアップリンク信号の送受信システム。
【請求項5】
N個(Nは、2以上の整数)のセンサ電極を有する静電容量方式のタッチセンサに接続
されるセンサ制御回路とともに用いられ、かつM個(Mは、2以上の整数)のペン電極を有する電子ペンであって、
前記センサ制御回路が、前記タッチセンサ上における人体の接触領域に位置する2個以上のセンサ電極を含むK個(2≦K≦N)のセンサ電極をG個(Gは2以上の整数)のグループに分類し、前記グループに属するL個(1<L≦K)のセンサ電極である送信電極からアップリンク信号を送信する制御を行っている間、
前記M個のペン電極の中から1個以上のペン電極である受信電極を決定し、前記アップリンク信号の前記送信電極と前記受信電極の組を時間に応じて変更する制御を行う
ことを特徴とする電子ペン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アップリンク信号の送受信システム及び電子ペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電源内蔵型の位置指示器であるアクティブ電子ペン(以下、単に「電子ペン」という)と、タッチセンサを備える電子機器と、から構成される位置検出システムが知られている。この種のシステムでは、データのやり取り又は制御の同期を行うため、電子ペンと電子機器の間で信号の送受信が行われる。以下、2種類の信号を区別するために、電子機器からの信号を「アップリンク信号」といい、電子ペンからの信号を「ダウンリンク信号」という。
【0003】
電子ペンは、ペン先に設けられる電極と、タッチセンサの一部を構成するセンサ電極群との間に形成される静電結合を介してアップリンク信号を受信した後、受信回路を通じてデジタル信号に変換することで、電子機器から供給されたデータを取得する。例えば、ユーザの人体が電子機器のタッチ面に触れることで、ユーザの人体とセンサ電極群の間に静電結合が形成される場合がある。人体に誘導されたアップリンク信号は、人体の電位を変化させるように作用し得る。
【0004】
つまり、[1]電子ペンの基準電位が筐体の電位に設定され、[2]ユーザが電子ペンを把持した状態であり、[3]電子ペンの電極にアップリンク信号が誘導されている状態であることを前提とした上で、[4]人体の接触部位にアップリンク信号が誘導され得る状態であり、かつ[5]電子ペンの電極及び人体の接触部位の間の相対的な位置・姿勢関係が特定の条件を満たす場合に、アップリンク信号の検出を妨げるような基準電位の揺れが、電子ペンの受信回路の接地端に現われてしまう。その結果、電子ペンの電極に誘導されたアップリンク信号が、この基準電位の揺れによって一時的に検出できなくなる状況が起こり得る。
【0005】
図28及び図29は、アップリンク信号が一時的に検出できない状態を模式的に示す図である。より詳しくは、図28は受信回路1の構成を示すとともに、図29図28のノード4、5にて計測される信号レベルの時間変化を示している。
【0006】
例えば、図28に示すように、受信回路1の入力端には電極2が接続されるともに、受信回路1の接地端には筐体3がグランド接続(あるいは、グラウンド接続)される場合を想定する。図29から理解されるように、ノード5でのGND電位は、人体がタッチ面に接触していない場合(1,2ビット目の受信時)には略一定の信号レベルを保っている。ところが、人体がタッチ面に接触している場合(3,4ビット目の受信時)、ノード5でのGND電位は、ノード4でのアップリンク信号の波形に応じて信号レベルが変動する。その結果、3ビット目の受信が正しく行われず、アップリンク信号が検出できなくなる現象が発生する。
【0007】
そこで、特許文献1では、アップリンク信号が電子ペンの受信回路の接地端に現われることを抑制するためのキャンセル信号を、アップリンク信号と併せて送信するようにセンサ電極群の駆動制御を行うセンサコントローラが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-091142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、キャンセル信号を生成する機能や、2種類の信号を切り替えて送信する機能などが別途必要となり、その分だけセンサコントローラが実行する信号処理がより複雑になってしまう。つまり、特許文献1に開示される技術には、機能の簡素化という観点で改良の余地が残されている。
【0010】
本発明の目的は、人体に誘導される信号が原因で発生する基準電位の揺れによって、電子ペンが有するペン電極に誘導された信号が一時的に検出できなくなることを抑制可能な位置検出システム、センサ制御回路、及び電子ペンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の本発明における位置検出システムは、M個(Mは自然数)のペン電極を有する電子ペンと、N個(Nは、2以上の整数)のセンサ電極を有する静電容量方式のタッチセンサに接続され、かつ前記タッチセンサを介するアップリンク信号の送信制御を行うセンサ制御回路と、を備え、前記電子ペンは、前記M個のペン電極の中から1個以上の受信電極を選択し、前記センサ制御回路は、前記N個のセンサ電極の中から1<L<Nを満たすL個のセンサ電極である送信電極を選択し、アップリンク信号の送信電極と受信電極の組が時間に応じて変更される。
【0012】
第2の本発明におけるセンサ制御回路は、M個(Mは自然数)のペン電極を有する電子ペンとともに用いられる回路であって、N個(Nは、2以上の整数)のセンサ電極を有する静電容量方式のタッチセンサに接続され、前記N個のセンサ電極の中から1<L<Nを満たすL個のセンサ電極である送信電極を選択し、アップリンク信号の送信電極と受信電極の組を時間に応じて変更する制御を行う。
【0013】
第3の本発明における電子ペンは、N個(Nは、2以上の整数)のセンサ電極を有する静電容量方式のタッチセンサに接続されるセンサ制御回路とともに用いられるペンであって、M個(Mは、2以上の整数)のペン電極を有し、前記M個のペン電極の中から1個以上のペン電極である受信電極を決定し、アップリンク信号の送信電極と受信電極の組を時間に応じて変更する制御を行う。
【0014】
第4の本発明におけるセンサ制御回路は、N個(Nは、2以上の整数)のセンサ電極を有する静電容量方式のタッチセンサに接続される回路であって、前記タッチセンサ上における人体の接触領域又は接触位置を検出する第1検出動作と、ペン電極を有する電子ペンの指示位置を検出する第2検出動作とを交互に実行し、前記第2検出動作では、前記N個のセンサ電極の中から1<L<Nを満たすL個のセンサ電極を送信電極として選択し、L個の送信電極からアップリンク信号を送信する送信制御を行い、前記タッチ検出動作によって前記人体の接触が検出されなかった場合に、直近に検出された前記電子ペンの指示位置に応じて前記L個の送信電極を選択し、前記人体の接触が検出された場合に、前記接触領域又は前記接触位置に応じて前記L個の送信電極を選択する。
【発明の効果】
【0015】
第1~第4の本発明によれば、人体に誘導される信号が原因で発生する基準電位の揺れによって、電子ペンが有するペン電極に誘導された信号が一時的に検出できなくなることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態における位置検出システムの全体構成図である。
図2図1に示す電子機器及び電子ペンの模式図である。
図3】電子ペンの位置に応じたアップリンク信号の検出結果を模式的に示す図である。
図4図1及び図2のタッチICにおける回路構成の一例を示す図である。
図5】アップリンク信号の一例を示す図である。
図6】人体及び電子ペンの検出動作を示すフローチャートである。
図7図6のステップS2(1次スキャン)に関する詳細フローチャートである。
図8】全体送信モードにおける送信電極の選択結果を示す図である。
図9】部分送信モードにおける送信電極の選択結果の一例を示す図である。
図10図9の選択結果に基づき実行される送信シーケンスを示す図である。
図11】アップリンク信号の時分割送信による効果を模式的に示す図である。
図12】アップリンク信号の時分割送信による効果を模式的に示す図である。
図13】第1例における送信電極の選択結果を示す図である。
図14図13の選択結果に基づき実行される送信シーケンスを示す図である。
図15図14とは別の送信シーケンスを示す図である。
図16】第2例における送信電極の選択結果を示す図である。
図17図16の選択結果に基づき実行される送信シーケンスを示す図である。
図18図6のステップS4(2次スキャン)に関する詳細フローチャートである。
図19】電子ペンの位置を基準とした送信電極の選択結果の一例を示す図である。
図20】接触領域の位置を基準とした送信電極の選択結果の一例を示す図である。
図21】接触領域及び電子ペンの位置を基準とした送信電極の選択結果の一例を示す図である。
図22図1及び図2の電子ペンの内部構造を模式的に示す図である。
図23図22に示す回路基板のブロック図である。
図24図23の受信回路の具体的な構成を示す図である。
図25】別の例における回路基板の部分ブロック図である。
図26】通常モードにおける電子ペンの通信動作を示すフローチャートである。
図27】切替モードにおける電子ペンの通信動作を示すフローチャートである。
図28】アップリンク信号が一時的に検出できない状態を模式的に示す図である。
図29】アップリンク信号が一時的に検出できない状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明における位置検出システム、センサ制御回路、及び電子ペンについて、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、後述する実施形態及び変形例に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。あるいは、技術的に矛盾が生じない範囲で各々の構成を任意に組み合わせてもよい。
【0018】
[位置検出システム10の説明]
<全体構成>
図1は、本発明の一実施形態における位置検出システム10の全体構成図である。位置検出システム10は、タッチの検出面(以下、タッチ面12という)を有する電子機器14と、この電子機器14とともに用いられる電子ペン16と、から基本的に構成される。
【0019】
電子機器14は、例えば、タブレット型端末、スマートフォン、パーソナルコンピュータで構成される。ユーザは、電子ペン16を片手で把持し、タッチ面12にペン先を押し当てながら移動させることで、電子機器14に絵や文字を書き込むことができる。
【0020】
電子ペン16は、ペン型のポインティングデバイスであり、電子機器14との間で双方向に通信可能に構成されている。以下、電子機器14が電子ペン16に向けて送信する信号を「アップリンク信号US」といい、電子ペン16が電子機器14に向けて送信する信号を「ダウンリンク信号DS」という。なお、この電子ペン16は、自身が蓄える電気エネルギーから能動的に信号を生成し、この信号をダウンリンク信号DSとして電子機器14に向けて送信する「アクティブ方式」のスタイラスである。
【0021】
図2は、図1に示す電子機器14及び電子ペン16の模式図である。この電子機器14は、タッチセンサ20と、タッチIC(Integrated Circuit)22(「センサ制御回路」に相当)と、ホストプロセッサ24と、表示パネル26と、を含んで構成される。
【0022】
タッチセンサ20は、表示パネル26の上に重ねて配置される静電容量方式のセンサである。タッチセンサ20は、相互容量方式のセンサであってもよいし、自己容量方式のセンサであってもよい。タッチセンサ20は、配列方向に沿って互いに離間しながら面状に配置されるセンサ電極群18を含んで構成される。センサ電極の材料は、酸化インジウムスズ(ITO)であってもよいし、銅、銀、金などの金属であってもよい。本図の例では、タッチセンサ20は、表示パネル26に外側から取り付ける「外付け型」のセンサであるが、これに代えて表示パネル26と一体的に構成される「内蔵型」(さらに分類すると、オンセル型又はインセル型)のセンサであってもよい。
【0023】
タッチIC22は、タッチセンサ20の駆動制御を行う集積回路である。タッチIC22は、ホストプロセッサ24から供給された制御信号に基づいてタッチセンサ20を駆動する。これにより、タッチIC22は、電子ペン16の状態を検出する「ペン検出機能」や、ユーザの指などによるタッチを検出する「タッチ検出機能」を実行する。
【0024】
ホストプロセッサ24は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)を含む処理演算装置によって構成される。ホストプロセッサ24は、図示しないメモリに格納されたプログラムを読み出して実行することで、デジタルインクの生成・レンダリング、画像信号の作成、データの送受信制御を含む様々な機能を実行可能である。
【0025】
表示パネル26は、例えば、液晶パネル、有機EL(Electro Luminescence)パネル、電子ペーパーなどによって構成される。表示パネル26は、行方向及び列方向に配列されたマトリクス状の信号線に駆動電圧を印加して複数の画素を駆動することで、表示領域内に画像又は映像を表示する。
【0026】
<問題点>
図2は、ユーザの人体BDが電子機器14のタッチ面12に接触している状態における等価回路図を示している。以下、[1]電子ペン16の基準電位(以下、「GND電位」ともいう)が筐体の電位に設定されており、[2]ユーザが電子ペン16を把持した状態であり、[3]電子ペン16の電極(以下、ペン電極ともいう)にアップリンク信号USが誘導されている状態であることを前提とする。
【0027】
電子機器14、電子ペン16及び人体BDは、静電結合を介して互いに電気的に接続される。電子ペン16は、ペン先の電極の直下である位置Pに形成される静電容量C1を介してセンサ電極群18と電気的に接続される。人体BDは、電子ペン16のGND電位とアースの間に発生する静電容量C3を介して接地される。タッチIC22及び表示パネル26は、電子機器14のGND電位とアースの間に発生する静電容量C4を介して共通に接地される。
【0028】
電子ペン16の受信回路の接地端は、筐体及び人体BDを介してアースに接続されている。これにより、受信回路は、目論見通りの動作を実行可能となり、入力端からのアップリンク信号USを検出することができる。ところが、人体BD(例えば、電子ペン16を把持する手の一部)が電子機器14のタッチ面12に接触することで、人体BDが、タッチ面12上の位置Qに形成される静電容量C5を介して、センサ電極群18と電気的に接続される場合がある。つまり、人体BDに誘導されたアップリンク信号USは、人体BDの電位を変化させるように作用し得る。
【0029】
電子ペン16の電極及び人体BDの接触部位の間の相対的な位置・姿勢関係が特定の条件を満たす場合に、アップリンク信号USの検出を妨げるようなGND電位の揺れが、電子ペン16の受信回路の接地端に現われてしまう。その結果、ペン電極を介して受信されたアップリンク信号USが、上記したGND電位の揺れによって一時的に検出できなくなる状況が起こり得る。
【0030】
図3は、電子ペン16の位置に応じたアップリンク信号USの検出結果を模式的に示す図である。ここでは、ユーザが、左の手のひらをタッチ面12に接触させたまま、左手の周辺における軌跡T1,T2に沿って、電子ペン16を右手で把持しながら移動させる場合を想定する。電子機器14と電子ペン16の間で双方向に通信可能である場合に限り、電子機器14は、電子ペン16の指示位置に追従してストローク(指示位置の軌跡)を表示することができる。つまり、電子ペン16の受信回路がアップリンク信号USを常に検出可能である場合、1本のストロークが途切れなく描画される点に留意する。
【0031】
電子ペン16は、「A」、「B」、「A+B」の3種類の電極を用いてアップリンク信号USを受信する。「A」は電子ペン16のペン先に設けられたチップ電極であり、「B」はペン先よりも後側にあるリング電極である。なお、「A+B」は、上記したチップ電極及びリング電極を電気的に接続した一体的な電極に相当する。図示の便宜上、3種類の電極によるストロークの描画結果に関して、上下方向(軌跡T1の場合)あるいは左右方向(軌跡T2)に位置をずらして表記している。
【0032】
本図から理解されるように、3種類の描画結果においてストロークの断線(破線で囲んだ箇所)が発生する傾向が互いに似通っているが、断線の位置及び長さに関する規則性がほとんど見られない。その理由は、上記した相対的な位置・姿勢関係に関する発動条件が限定的であり、電子ペン16の電極と人体BDの接触部位の間の微妙なバランスによって、アップリンク信号USが局所的かつ突発的に不検出になるからである。
【0033】
以下、人体BDに誘導される信号が原因で発生するGND電位の揺れによって、電子ペンが有するペン電極に誘導されたアップリンク信号USが一時的に検出できなくなることを抑制する方法を提案する。具体的には、[1]電子ペン16が、M個のペン電極の中から1個以上の受信電極を選択し、[2]タッチIC22が、タッチセンサ20の一部を構成するN個のセンサ電極の中からL個の送信電極を選択し、[3]位置検出システム10が、アップリンク信号USの送信電極と受信電極の組を時間に応じて変更することで実現される。Mは、1以上の任意の整数である。Nは、2以上の任意の整数である。Lは、1<L<Nの関係を満たす任意の整数である。
【0034】
[タッチIC22の説明]
<構成>
図4は、図1及び図2のタッチIC22における回路構成の一例を示す図である。このタッチIC22は、センサ電極群18(図2)に接続されており、マイクロコントロールユニット(以下、MCU40)と、ロジック部42と、受信部44と、送信部46と、選択部48と、を含んで構成される。
【0035】
センサ電極群18は、X方向の位置(X座標)を検出するための複数本のライン電極18X(「センサ電極」に相当)と、Y方向の位置(Y座標)を検出するための複数本のライン電極18Y(「センサ電極」に相当)と、を含んで構成される。ライン電極18X,18Yは、ガラス又は樹脂からなる絶縁性基板(不図示)の介在によってそれぞれ絶縁されている。複数本のライン電極18Xは、Y方向に延びて設けられ、かつX方向に沿って互いに離間しながら等間隔に配置されている。複数本のライン電極18Yは、X方向に延びて設けられ、かつY方向に沿って互いに離間しながら等間隔に配置されている。
【0036】
MCU40及びロジック部42は、受信部44、送信部46、及び選択部48を制御することにより、タッチIC22の送受信動作を制御する。MCU40は、自身が有するメモリからプログラムを読み出して実行することで、電子ペン16からのダウンリンク信号DSを受信する制御と、電子ペン16へのアップリンク信号USを送信する制御を選択的に行う制御ユニットである。また、ロジック部42は、MCU40の制御に応じて、受信部44、送信部46、及び選択部48の制御信号を生成するように構成される。
【0037】
受信部44は、ロジック部42から供給される制御信号に基づいて、電子ペン16により送信されたダウンリンク信号DSを受信する機能を有する。具体的には、受信部44は、選択部48から供給された信号に対して復号処理を施し、得られたデジタル信号を受信信号としてMCU40に供給する。
【0038】
MCU40は、ダウンリンク信号DSが電子ペン16の位置を示す「位置信号」である場合、複数本のライン電極18X,18Yのそれぞれにおける受信強度から、タッチ面12上における電子ペン16の位置座標(x,y)を算出してホストプロセッサ24に出力する。一方、MCU40は、ダウンリンク信号DSが送信データを含む「データ信号」である場合、このデータ信号に含まれる応答データRes(具体的には、固有ID、筆圧、ペンスイッチのオン・オフ情報など)を取得してホストプロセッサ24に出力する。
【0039】
一方、MCU40は、アップリンク信号USを送信する際に、電子ペン16に対するコマンドcmdを生成し、このコマンドcmdを送信部46に供給する。送信部46は、MCU40及びロジック部42の制御に従ってアップリンク信号USを生成する機能を有する。具体的には、送信部46は、符号列保持部46aと、拡散処理部46bと、を含んで構成される。
【0040】
符号列保持部46aは、ロジック部42から供給される制御信号に基づいて、自己相関特性を有するスペクトラム拡散符号(以下、単に「拡散符号」ともいう)を生成して保持する機能を有する。符号列保持部46aは、送信データの内容(「P」,「0000」,「0001」など)ごとに異なる拡散符号を生成及び記憶可能に構成される。
【0041】
拡散処理部46bは、MCU40から供給されるコマンドcmdに基づいて、所望の交流信号(例えば、パルス信号、三角波信号、正弦波信号など)を生成する機能を有する。図5に示すように、まず、拡散処理部46bは、入力されたコマンドcmdからアップリンク信号USを生成する。本図の例では、アップリンク信号USは、2つのプリアンブル「P」、各1バイトのデータ「D1,D2,D3」、及び誤り検出信号「CRC」から構成される。次に、拡散処理部46bは、このアップリンク信号USを構成する複数の送信データのそれぞれについて、符号列保持部46aによって保持される拡散符号に置き換えた後、マンチェスタ符号化処理を行うことで2値のチップ列を生成する。最後に、拡散処理部46bは、このチップ列に応じたパルス信号を生成する。
【0042】
図4に戻って、選択部48は、センサ電極群18に接続されており、ロジック部42からの制御信号に応じてスイッチ動作を行う。具体的には、選択部48は、2つのスイッチ50x,50yと、2つの電極選択回路52x,52yと、を含んで構成される。
【0043】
スイッチ50x,50yはそれぞれ、共通端子とT端子及びR端子のいずれか一方とが接続されるように構成されたスイッチ素子である。スイッチ50xの共通端子は電極選択回路52xに、T端子は送信部46の出力端に、R端子は受信部44の入力端にそれぞれ接続される。スイッチ50yの共通端子は電極選択回路52yに、T端子は送信部46の出力端に、R端子は受信部44の入力端にそれぞれ接続される。
【0044】
電極選択回路52xは、複数本のライン電極18Xをスイッチ50xの共通端子に選択的に接続するためのスイッチ素子である。つまり、電極選択回路52xは、複数本のライン電極18Xの少なくとも一部をスイッチ50xの共通端子に同時に接続可能に構成される。電極選択回路52yは、複数本のライン電極18Yをスイッチ50yの共通端子に選択的に接続するためのスイッチ素子である。つまり、電極選択回路52yは、複数本のライン電極18Yの少なくとも一部をスイッチ50yの共通端子に同時に接続可能に構成される。
【0045】
選択部48には、ロジック部42から4つの制御信号sTRx,sTRy,selX,selYが供給される。具体的には、制御信号sTRxはスイッチ50xに、制御信号sTRyはスイッチ50yに、制御信号selXは電極選択回路52xに、制御信号selYは電極選択回路52yにそれぞれ供給される。ロジック部42は、4つの制御信号sTRx,sTRy,selX,selYを通じて選択部48のスイッチング制御を行うことで、アップリンク信号USの送信及びダウンリンク信号DSの受信が選択的に行われる。
【0046】
<動作>
この実施形態におけるタッチIC22は、以上のように構成される。続いて、タッチIC22による検出動作について説明する。
【0047】
図6は、人体BD及び電子ペン16の検出動作を示すフローチャートである。ステップS1は、人体BDによるタッチを検出するための「タッチ検出動作」に関する。一方、残りのステップS2~S6は、電子ペン16を検出するための「ペン検出動作」に関する。
【0048】
ステップS1において、タッチIC22は、人体BDの指又はパームを検出するための「タッチスキャン」を行う。タッチIC22は、指又はパームが検出された場合、その位置を示す位置情報(座標又は領域)を算出する。以下、タッチスキャンの動作について説明する。
【0049】
図4のロジック部42は、T端子が共通端子に接続されるようスイッチ50xを制御するとともに、R端子が共通端子に接続されるようスイッチ50yを制御する。さらに、複数本のライン電極18X,18Yの組み合わせが順次選択されるように、電極選択回路52x,52yを制御する。これにより、複数本のライン電極18X,18Yによって構成される複数の交点のそれぞれを通過した人体検出用信号が、受信部44によって順次受信される。
【0050】
MCU40は、タッチスキャンにより順次受信される人体検出用信号の受信強度に基づいて、タッチセンサ20のセンサ領域内における指及びパームの位置を算出する。より具体的には、MCU40は、人体検出用信号の受信強度が所定値以上である交点が連続してなる領域の面積を演算により求める。そして、MCU40は、得られた面積が所定値以下である場合に「指」としてその位置を算出する一方、それ以外の場合に「パーム」としてその位置を算出する。なお、パームの位置は、点ではなく、広がりを持った領域によって表現してもよい。
【0051】
図6のステップS2において、タッチIC22は、相対的に広い範囲内にて電子ペン16の有無を検出するための「1次スキャン」を実行する。この1次スキャンについては、図7のフローチャートを参照しながら後で詳しく説明する。
【0052】
ステップS3において、タッチIC22は、ステップS2で実行された1次スキャンによって電子ペン16の有無を検出した結果を確認する。電子ペン16が検出されなかった場合(ステップS3:NO)、ステップS1に戻って当該フローチャートを繰り返し実行する。一方、電子ペン16が検出された場合(ステップS3:YES)、次のステップS4に進む。
【0053】
ステップS4において、タッチIC22は、相対的に狭い範囲内にて電子ペン16を検出するための「2次スキャン」を実行する。この2次スキャンについては、図18のフローチャートを参照しながら後で詳しく説明する。
【0054】
ステップS5において、タッチIC22は、ステップS4で実行された2次スキャンによって電子ペン16の有無を検出した結果を確認する。電子ペン16が検出されなかった場合(ステップS5:NO)、ステップS1に戻って当該フローチャートを繰り返し実行する。一方、電子ペン16の位置が検出された場合(ステップS5:YES)、次のステップS6に進む。
【0055】
ステップS6において、タッチIC22は、ステップS4の2次スキャンで得られた信号分布のピーク位置を電子ペン16の指示位置として計算する。例えば、タッチIC22は、1次元モデル演算を2回繰り返してX軸座標値、Y軸座標値をそれぞれ推定し、ホストプロセッサ24に指示位置の座標値(X,Y)を供給する。あるいは、タッチIC22は、2次元モデル演算を1回行って指示位置の座標値(X,Y)を同時に推定し、ホストプロセッサ24に座標値(X,Y)を供給してもよい。
【0056】
タッチIC22は、ステップS6を実行した後にステップS1に戻って、当該フローチャートを繰り返し実行する。このようにして、タッチIC22は、タッチセンサ20上における人体Bdの接触を検出するタッチ検出動作と、電子ペン16を検出するペン検出動作とを交互に実行する。
【0057】
図7は、図6のステップS2(1次スキャン)に関する詳細フローチャートである。ここでは、一方向(ここでは、X方向)の全範囲にわたって電子ペン16のスキャンが行われる点に留意する。
【0058】
ステップS11において、タッチIC22は、アップリンク信号USの送信モードを選択する。ここでは、複数種類の送信モードのうち、後述する「全体送信モード」と「部分送信モード」のいずれか一方が選択される場合を想定する。例えば、タッチIC22は、図6のステップS1によるタッチスキャンの結果に応じて送信モードを選択してもよい。具体的には、人体Bdの接触が検出されなかった場合には「全体送信モード」が、人体Bdの接触が検出された場合には「部分送信モード」がそれぞれ選択される。
【0059】
ステップS12において、タッチIC22は、ステップS11で選択された送信モードを確認する。例えば、全体送信モードが選択された場合(ステップS12:全体送信モード)、次のステップS13に進む。
【0060】
ステップS13において、タッチIC22は、アップリンク信号USの送信に用いられるセンサ電極(以下、「送信電極」という)として、すべてのライン電極18Xを選択する。
【0061】
図8は、全体送信モードにおける送信電極の選択結果を示す図である。上下方向に延びる矩形はライン電極18Xを示すとともに、左右方向に延びる矩形はライン電極18Yを示している。また、ハッチングが付された矩形は、アップリンク信号USの送信電極に相当する。本図から理解されるように、すべてのライン電極18Xが送信電極として選択される。
【0062】
図7のステップS14において、タッチIC22は、タッチセンサ20の近くにある電子ペン16との通信を試みる。具体的には、タッチIC22は、自身が生成したアップリンク信号USを電子ペン16に送信するとともに、電子ペン16からのダウンリンク信号DSを受信する。なお、アップリンク信号USの送信は、ステップS13で選択された送信電極を介して行われる。
【0063】
一方、図7のステップS12に戻って、部分送信モードが選択された場合(ステップS12:部分送信モード)、全体送信モードの場合とは異なる別のステップS15に進む。
【0064】
ステップS15において、タッチIC22は、アップリンク信号USの送信シーケンスが未定であるか否かを確認する。送信シーケンスが既に定まっている場合(ステップS15:NO)、ステップS16を省略してステップS17に進む。一方、送信シーケンスが未定である場合(ステップS15:YES)、次のステップS16に進む。
【0065】
ステップS16において、タッチIC22は、アップリンク信号USの送信シーケンスを決定する。この「送信シーケンス」は、アップリンク信号USの時分割送信を実行するための一連の動作を意味する。ここでは、タッチIC22は、送信電極のグループ及び選択順の組み合わせを決定する。
【0066】
図9は、部分送信モードにおける送信電極の選択結果の一例を示す図である。本図では、センサ座標系上で定義されるセンサ領域60が模式的に示されている。ここで、センサ領域60は、タッチセンサ20に含まれるセンサ電極群18により位置が検出可能な領域を意味する。また、センサ座標系は、Oを原点とし、X軸,Y軸からなる2次元直交座標系である。原点Oは、タッチ面12(図1)上の特徴点(例えば、左上の頂点)である。本図では、センサ領域60は、4つの頂点(0,0)、(X0,0)、(X0,Y0)、(0,Y0)を有する矩形状の領域である。
【0067】
例えば、ユーザが、電子ペン16を把持する手をタッチ面12上に固定させながら筆記操作を行うユースケースを想定する。この場合、センサ領域60内には、小指側の側面でのタッチによる接触領域62が検出される。ここで、接触領域62の代表的な位置(以下、「接触位置64」という)におけるX座標をX1とすると、全体のセンサ領域60は、X=X1を境界線として2つの部分領域66,68に分割される。つまり、部分領域66は「0≦X<X1」を満たす領域であり、部分領域68は「X1≦X≦X0」を満たす領域である。
【0068】
以下、タッチIC22は、選択順が1番目であるグループG1として部分領域66を設定するとともに、選択順が2番目であるグループG2として部分領域68を設定したとする。例えば、部分領域66にあるライン電極18Xの本数がL1であり、部分領域68にあるライン電極18Xの本数がL2(=N-L1)である。
【0069】
図7のステップS17において、タッチIC22は、ステップS16で決定された送信シーケンスに従って、2個のグループG1,G2の中から1個のグループ(以下、「送信電極グループ」ともいう)を選択する。その後、タッチIC22は、タッチセンサ20の近くにある電子ペン16との通信を試みる(ステップS14)。
【0070】
以上のようにして、図7に示す詳細フローチャートの実行が終了する。部分送信モードが継続して選択される場合、当該フローチャートを繰り返して実行することで、タッチIC22は、アップリンク信号USを時分割で送信する制御を行う。これにより、所望の送信シーケンスが実行される。
【0071】
図10は、図9の選択結果に基づき実行される送信シーケンスを示す図である。より詳しくは、接触位置64(X=X1)の周辺を拡大して図示している。まず、タッチIC22は、グループG1に属するL1本のライン電極18Xからアップリンク信号US1をそれぞれ送信する制御を行う。そして、一連の処理が終了して所定の時間が経過した後に、タッチIC22は、グループG2に属するL2本のライン電極18Xからアップリンク信号US2をそれぞれ送信する制御を行う。以下、2個のグループG1,G2を順繰りに選択することで、アップリンク信号US1,US2の時分割送信が実行される。
【0072】
<まとめ>
以上のように、タッチIC22は、M個のペン電極を有する電子ペン16とともに用いられ、N個のセンサ電極(ここでは、N本のライン電極18X)を有する静電容量方式のタッチセンサ20に接続される。そして、タッチIC22は、N本のライン電極18Xの中からL本(1<L<N)の送信電極を選択し、アップリンク信号USの送信電極を時間に応じて変更する制御を行う。
【0073】
つまり、アップリンク信号USの送信位置又は送信時間を能動的に変更することで、電子ペン16のペン電極と人体BDの接触部位の間の微妙なバランスによって受信回路が局所的かつ突発的に機能しなかったとしても、そのうちに受信回路が目論見通りに機能する可能性が高くなる。以下、この作用について図9図11及び図12を参照しながら説明する。図9に示すように、X方向における電子ペン16の指示位置70がX=X1の周辺にあり、電子ペン16がアップリンク信号US1,US2の両方を受信可能であるとする。
【0074】
図11に示すように、電子ペン16のGND電位は、人体BDがタッチ面12に接触している場合(3,4ビット目の受信時)、アップリンク信号USの波形に応じて信号レベルが変動する。そうすると、電子ペン16の受信回路は一方のアップリンク信号US1(第1データDAT1)を正しく検出できなくなるが、他方のアップリンク信号US2(第2データDAT2)を正しく検出することができる。あるいは、図12に示すように、電子ペン16の受信回路は一方のアップリンク信号US2(第2データDAT2)を正しく検出できなくなるが、他方のアップリンク信号US1(第1データDAT1)を正しく検出することができる。このように、人体Bdに誘導される信号が原因で発生するGND電位の揺れによって、電子ペン16が有するペン電極に誘導された信号が一時的に検出できなくなることが抑制される。
【0075】
また、タッチIC22は、タッチセンサ20上における人体Bdの接触領域62を部分的に含むようにL本の送信電極を選択してもよい。また、タッチIC22は、N本のライン電極18XをG個(G≧2)のグループに分類し、時間に応じて順繰りに選択した1個以上のグループに属するL本のライン電極18Xを送信電極として選択してもよい。この場合、タッチIC22は、接触領域62に位置する2本以上のライン電極18Xを分配してG個のグループにそれぞれ割り当ててもよい。
【0076】
[タッチIC22による別の動作例]
続いて、タッチIC22による別の動作例について、図13図21を参照しながら説明する。
【0077】
<第1例>
図13は、第1例における送信電極の選択結果を示す図である。この例では、アップリンク信号USの送信シーケンスにおいて、全体のセンサ領域60のうちの一部の領域(以下、部分領域72という)にあるライン電極18Xのみが送信電極として選択される。部分領域72は、X2≦X≦X3を満たし、かつ接触領域62を含む領域である。ここで、X=X2は接触領域62の左端の位置に相当するとともに、X=X3は接触領域62の右端の位置に相当する。部分領域72は、X=X1を境界線として2つの部分領域74,76に分割される。つまり、部分領域74はX2≦X<X1を満たす領域であり、部分領域76はX1≦X≦X3を満たす領域である。
【0078】
図14は、図13の選択結果に基づき実行される送信シーケンスを示す図である。ここで、選択順が1番目である「第1グループ」として部分領域74が、選択順が2番目である「第2グループ」として部分領域76が、選択順が3番目である「第3グループ」として部分領域72がそれぞれ設定されたとする。例えば、部分領域72にあるライン電極18Xの本数がK(ただし、1<K<N)であり、部分領域72にあるライン電極18Xの本数がそれぞれK/2である。
【0079】
この場合、まず、タッチIC22は、部分領域74にある(K/2)本のライン電極18Xからアップリンク信号US1をそれぞれ送信する制御を行う。第1グループに関する一連の処理が終了して所定の時間が経過した後に、タッチIC22は、部分領域76にある(K/2)本のライン電極18Xからアップリンク信号US2をそれぞれ送信する制御を行う。第2グループに関する一連の処理が終了して所定の時間が経過した後に、タッチIC22は、部分領域72にあるK本のライン電極18Xからアップリンク信号US3をそれぞれ送信する制御を行う。以下、3個のグループを順繰りに選択することで、アップリンク信号US1~US3の時分割送信が実行される。
【0080】
図15は、図14とは別の送信シーケンスを示す図である。ここで、第1グループとして部分領域74が、第2グループとして部分領域75が、第3グループとして部分領域76がそれぞれ設定されたとする。ここで、部分領域75は、部分領域74の右半分と部分領域76の左半分を合成した領域である。
【0081】
この場合、まず、タッチIC22は、部分領域74にある(K/2)本のライン電極18Xからアップリンク信号US1をそれぞれ送信する制御を行う。第1グループに関する一連の処理が終了して所定の時間が経過した後に、タッチIC22は、部分領域75にある(K/2)本のライン電極18Xからアップリンク信号US2をそれぞれ送信する制御を行う。第2グループに関する一連の処理が終了して所定の時間が経過した後に、タッチIC22は、部分領域76にある(K/2)本のライン電極18Xからアップリンク信号US3をそれぞれ送信する制御を行う。
【0082】
以下、3個のグループを順繰りに選択することで、アップリンク信号US1~US3の時分割送信が実行される。これにより、面積が略等しい部分領域74~76を徐々に移動させながらアップリンク信号USの送信が行われる。
【0083】
このように、タッチIC22は、N個のセンサ電極(ここでは、N本のライン電極18X)のうち、L≦K<Nを満たすK本のライン電極18XをG個のグループに分類し、時間に応じて順繰りに選択した1個以上のグループに属するL本の送信電極を選択してもよい。特に、タッチセンサ20が相互容量方式のセンサである場合、K本のライン電極18Xは、接触領域62又はその周辺の位置に連なって配置された電極であってもよい。
【0084】
<第2例>
図16は、第2例における送信電極の選択結果を示す図である。この例では、タッチセンサ20が、正方形状のブロック電極18Bが二次元格子状に配置されてなる自己容量方式のセンサである場合を想定する。ここでは、アップリンク信号USの送信シーケンスにおいて、全体のセンサ領域60のうちの一部の領域(以下、部分領域80という)にあるブロック電極18Bのみが送信電極として選択される。一方、センサ領域60から部分領域80を除外した残余領域82は、送信電極として選択されない。
【0085】
部分領域80は、(X2≦X≦X3)AND(Y2≦Y≦Y3)を満たし、かつ接触領域62を含む領域である。ここで、接触位置64の座標は(X1,Y1)であり、Y=Y2は接触領域62の上端の位置に、Y=Y3は接触領域62の下端の位置にそれぞれ相当する。部分領域80は、X=X1を境界線として2つの部分領域83,84に分割される。つまり、部分領域83は(X2≦X<X1)AND(Y2≦Y≦Y3)を満たす領域であり、部分領域83は(X1≦X≦X3)AND(Y2≦Y≦Y3)を満たす領域である。
【0086】
図17は、図16の選択結果に基づき実行される送信シーケンスを示す図である。ここで、第1グループとして部分領域83が、第2グループとして部分領域84がそれぞれ設定されたとする。例えば、部分領域80にあるブロック電極18Bの個数がK個であり、部分領域83,84にあるブロック電極18Bの個数がそれぞれ(K/2)個である。
【0087】
この場合、まず、タッチIC22は、部分領域83にある(K/2)個のブロック電極18Bからアップリンク信号US1をそれぞれ送信する制御を行う。第1グループに関する一連の処理が終了して所定の時間が経過した後に、タッチIC22は、部分領域84にあるL4個のブロック電極18Bからアップリンク信号US2をそれぞれ送信する制御を行う。以下、2個のグループを順繰りに選択することで、アップリンク信号US1,US2の時分割送信が実行される。
【0088】
このように、タッチIC22は、N個のセンサ電極(ここでは、N個のブロック電極18B)のうち、L≦K<Nを満たすK個のセンサ電極をG個のグループに分類し、時間に応じて順繰りに選択した1個以上のグループに属するL個の送信電極を選択してもよい。特に、タッチセンサ20が自己容量方式のセンサである場合、K個のブロック電極18Bは、接触領域62又はその周辺の位置に連なって配置された電極であってもよい。
【0089】
<第3例>
図7のステップS11では、タッチIC22がタッチスキャンの結果に応じて送信モードを選択しているが、この手法に限られない。例えば、電子ペン16が、タッチセンサ20の送信電極を切り替えるための制御信号をタッチIC22に送信可能である場合、タッチIC22は、制御信号の受信に応じて送信電極を切り替えてもよい。これにより、タッチIC22は、通信相手である電子ペン16と連携しながら、より適したタイミングで送信電極を切り替えることができる。
【0090】
<第4例>
図18は、図6のステップS4(2次スキャン)に関する詳細フローチャートである。ここでは、1次スキャンによって電子ペン16が検出されている場合を想定する。
【0091】
ステップS21において、タッチIC22は、タッチスキャン(図6のステップS1)の実行結果に基づいて、X方向に接触領域62が存在しないか否かを確認する。接触領域62が存在しなかった場合(ステップS21:YES)にはステップS22に進む一方、接触領域62が存在する場合(ステップS21:NO)にはステップS23に進む。
【0092】
ステップS22において、タッチIC22は、すべてのライン電極18Xの中から、電子ペン16の位置を基準としてアップリンク信号USの送信電極を選択する。
【0093】
図19は、電子ペン16の位置を基準とした送信電極の選択結果の一例を示す図である。この例では、全体のセンサ領域60のうちの一部の領域(つまり、部分領域90)にあるライン電極18Xのみが送信電極として選択される。部分領域90は、電子ペン16の指示位置70(X=X4)を基準とするW1以内の距離範囲に相当する。つまり、部分領域90は、X5=X4-W1、X6=X4+W1と定義するとき、X5≦X≦X6を満たす領域である。
【0094】
一方、ステップS23において、タッチIC22は、すべてのライン電極18Xの中から、接触領域62の位置を基準としてアップリンク信号USの送信電極を選択する。この選択方法について、図20及び図21を参照しながら説明する。
【0095】
図20は、接触領域62の位置を基準とした送信電極の選択結果の一例を示す図である。この例では、全体のセンサ領域60のうちの一部の領域(つまり、部分領域92)にあるライン電極18Xのみが送信電極として選択される。部分領域92は、X2≦X≦X3を満たし、かつ接触領域62を含む領域である。ここで、X=X2は接触領域62の左端の位置に相当するとともに、X=X3は接触領域62の右端の位置に相当する。つまり、図20の例では、部分領域92の位置又はサイズは、電子ペン16の指示位置70に依存しない。
【0096】
図21は、接触領域62及び電子ペン16の位置を基準とした送信電極の選択結果の一例を示す図である。この例では、全体のセンサ領域60のうちの一部の領域(つまり、部分領域98)にあるライン電極18Xのみが送信電極として選択される。この部分領域98は、2つの部分領域92,94の関係から定められる。部分領域92は、図20の場合と同じ定義であるので説明を省略する。部分領域94は、電子ペン16の指示位置70(X=X4)を基準とするW2以内の距離範囲に相当する。2つの部分領域92,94は、部分領域96で重複する。この場合、部分領域98は、部分領域94から部分領域96を差し引いた領域である。つまり、図21の例では、部分領域98の位置又はサイズが、電子ペン16の指示位置70に依存する。
【0097】
図18のステップS24において、タッチIC22は、タッチセンサ20の近くにある電子ペン16との通信を試みる。具体的には、タッチIC22は、自身が生成したアップリンク信号USを電子ペン16に送信するとともに、電子ペン16からのダウンリンク信号DSを受信する。なお、アップリンク信号USの送信は、ステップS22,S23で選択された送信電極を介して行われる。
【0098】
ステップS25において、タッチIC22は、タッチスキャン(図6のステップS1参照)の実行結果に基づいて、Y方向に接触領域62が存在しないか否かを確認する。接触領域62が存在しなかった場合(ステップS25:YES)にはステップS26に進む一方、接触領域62が存在する場合(ステップS25:NO)にはステップS27に進む。
【0099】
ステップS26において、タッチIC22は、アップリンク信号USの送信電極としてすべてのライン電極18Yを選択する。なぜならば、1次スキャン(図6のステップS2参照)では、X方向のみスキャンが行われており、電子ペン16のY方向の位置が特定されていないからである。
【0100】
一方、ステップS27において、タッチIC22は、すべてのライン電極18Yの中から、接触領域62の位置を基準としてアップリンク信号USの送信電極を選択する。例えば、タッチIC22は、上記したステップS24で説明した手法と同一の又は異なる手法を用いて送信電極を選択してもよい。
【0101】
ステップS28において、タッチIC22は、タッチセンサ20の近くにある電子ペン16との通信を試みる。具体的には、タッチIC22は、自身が生成したアップリンク信号USを電子ペン16に送信するとともに、電子ペン16からのダウンリンク信号DSを受信する。なお、アップリンク信号USの送信は、ステップS26,S27で選択された送信電極を介して行われる。
【0102】
以上のように、タッチIC22は、タッチセンサ20上における人体Bdの接触領域62又は接触位置64を検出する第1検出動作と、ペン電極を有する電子ペン16の指示位置70を検出する第2検出動作とを交互に実行する。第2検出動作では、N個のセンサ電極(ここでは、N本のライン電極18X)の中からL本(1<L<N)のライン電極18Xを送信電極として選択し、L本の送信電極からアップリンク信号USを送信する送信制御を行う。そして、タッチ検出動作によって人体Bdの接触が検出されなかった場合に、タッチIC22は、直近に検出された電子ペン16の指示位置70に応じてL本の送信電極を選択する。一方、人体Bdの接触が検出された場合に、タッチIC22は、接触領域62又は接触位置64に応じてL本の送信電極を選択する。
【0103】
このように構成しても、人体Bdに誘導される信号が原因で発生するGND電位の揺れによって、電子ペン16が有するペン電極に誘導された信号が一時的に検出できなくなることが抑制される。
【0104】
また、タッチIC22は、人体Bdの接触が検出された場合に、接触領域62又は接触位置64と、指示位置70との組み合わせに応じてL本の送信電極を選択してもよい。具体的には、タッチIC22は、接触位置64を含む部分領域92から指示位置70を含む部分領域96を除外した部分領域98にあるL本の送信電極を選択してもよい。
【0105】
[電子ペン16の説明]
<構成>
図22は、図1及び図2の電子ペン16の内部構造を模式的に示す図である。この電子ペン16は、芯100と、チップ電極102(「第1電極」に相当)と、リング電極104(「第2電極」に相当)と、筆圧検出センサ106と、回路基板108と、電池110と、を含んで構成される。
【0106】
芯100は、電子ペン16のペン軸に沿って配置される棒状の部材である。チップ電極102及びリング電極104はそれぞれ、金属などの導電性材料からなり又は導電性材料を含む電極である。具体的には、チップ電極102は、芯100の先端に取り付けられた円錐状の電極である。また、リング電極104は、先端側に向かうにつれて径が徐々に小さくなるテーパ環状の電極である。
【0107】
図22から理解されるように、チップ電極102とリング電極104は、[1]ペン先(筐体112の端側)に設けられ、[2]互いに異なる形状を有し、[3]軸の方向が互いに一致し、[4]ペン軸に対して回転対称であり、かつ[5]ペン軸方向に離間するように配置されている。なお、チップ電極102及びリング電極104の形状・配置は、図22の例に限られず、必要に応じて適宜変更されてもよい。
【0108】
筆圧検出センサ106は、芯100と物理的に接続されており、芯100の先端側に作用する筆圧を検出可能に構成される。筆圧検出センサ106として、例えば、筆圧に応じて容量が変化する可変容量コンデンサが用いられる。回路基板108は、電子ペン16を作動するための電気回路を構成する基板である。電池110は、回路基板108上に設けられる電子部品又は電子素子に対して駆動電力を供給する電源である。
【0109】
また、電子ペン16は、上記したそれぞれの構成部品を収容する筐体112を含んで構成される。筒状の筐体112は、金属などの導電性材料からなり又は導電性材料を含んで構成される。ユーザは、電子ペン16を使用する際に、筐体112の外周面に触れながら電子ペン16を把持する。これにより、人体BDは、筐体112の接触部位に形成される静電容量を介して電子ペン16と電気的に接続される。
【0110】
図23は、図22に示す回路基板108のブロック図である。この回路基板108には、MCU120と、第1スイッチ122と、第2スイッチ124と、第3スイッチ126と、受信回路128と、送信回路130と、が設けられている。
【0111】
MCU120は、電子ペン16の各部に対する統括的な制御を行うユニットである。MCU120は、受信回路128に対して所望の受信制御を行うことで、電子機器14からのアップリンク信号USを受信可能に構成される。また、MCU120は、送信回路130に対して所望の送信制御を行うことで、電子機器14へのダウンリンク信号DSを送信可能に構成される。
【0112】
第1スイッチ122は、共通端子とR端子及びT端子のいずれか一方とが接続されるように構成されたスイッチ素子である。第1スイッチ122の共通端子はチップ電極102に、R端子は第3スイッチ126のS1端子に、T端子は送信回路130の出力端にそれぞれ接続される。MCU120が第1スイッチ122のスイッチング制御を行うことで、アップリンク信号US1の受信及びダウンリンク信号DSの送信が選択的に行われる。
【0113】
第2スイッチ124は、共通端子とR端子及びT端子のいずれか一方とが接続されるように構成されたスイッチ素子である。第2スイッチ124の共通端子はリング電極104に、R端子は第3スイッチ126のS2端子に、T端子は送信回路130の出力端にそれぞれ接続される。MCU120が第2スイッチ124のスイッチング制御を行うことで、アップリンク信号US2の受信及びダウンリンク信号DSの送信が選択的に行われる。
【0114】
第3スイッチ126は、S1端子及びS2端子のいずれか一方と共通端子とが接続されるように構成されたスイッチ素子である。第3スイッチ126の共通端子は、受信回路128の入力端に接続される。MCU120が第3スイッチ126のスイッチング制御を行うことで、アップリンク信号US1、US2の受信が選択的に行われる。
【0115】
受信回路128は、チップ電極102又はリング電極104に誘導されたアップリンク信号USを復調し、復調後のデータDATをMCU120に出力する回路である。後述するように、受信回路128の接地端は、電子ペン16の筐体112にグランド接続(あるいはグラウンド接続)されている。なお、MCU120は、復調後のデータDATに対して所定の信号処理を行うことで、電子機器14からの制御用データを取得する。
【0116】
送信回路130は、MCU120の制御に従ってダウンリンク信号DSを生成する回路である。送信回路130は、ダウンリンク信号DSが「位置信号」である場合にキャリア信号を無変調で出力し、ダウンリンク信号DSが「データ信号」である場合に送信用データを用いてキャリア信号を変調して出力する。
【0117】
図24は、図23の受信回路128の具体的な構成を示す図である。この受信回路128は、アナログ回路132と、デジタル回路140と、が直列的に接続されてなる。アナログ回路132は、増幅回路134と、ΔΣ型AD変換回路(以下、ΔΣ型ADC136)と、を含んで構成される。
【0118】
増幅回路134は、チップ電極102又はリング電極104に誘導されたアップリンク信号USを増幅させる回路であり、入力端は第3スイッチ126の共通端子に、接地端は筐体112にそれぞれ接続される。なお、図24の例では、増幅回路134が筐体112に直接的に接続されているが、図示しない導電性部材を介して筐体112に間接的に接続されてもよい。
【0119】
ΔΣ型ADC136は、増幅回路134の出力信号AOに対してデルタシグマ型のAD変換を行うことで、2値化、3値化又は多値化された信号を出力する回路である。なお、「デルタシグマ型」とは、標本化された電圧と出力電圧との差(Δ)を積分器で積分(Σ)し、得られた積分値と基準電圧との間の大小を比較することでパルス列に変換するAD変換方式を意味する。
【0120】
一方、デジタル回路140は、増幅回路134の出力信号AOを処理してなる出力信号COと、アップリンク信号USに対応する比較パターンPTcの間の相関演算により、アップリンク信号USが示すデータDATを検出する。具体的には、このデジタル回路140は、マッチドフィルタ142と、データ復元部144と、を含んで構成される。
【0121】
マッチドフィルタ142は、ΔΣ型ADC136の出力信号COと、記憶回路146から読み出した比較パターンPTcの間の相関演算により、アップリンク信号USに対応するデータ信号を検出する。ここで、「相関演算」とは、逐次的に供給されるチップ列と、既知である比較パターンPTc(ここでは、アップリンク信号USに対応する拡散符号の配列)のそれぞれとの相関値を算出し、相関値がピークを示した場合にビットの検出及び出力を行う演算である。
【0122】
データ復元部144は、マッチドフィルタ142により検出されたデータ信号を既知の規則に従って復元し、データDATを出力する機能を有する。
【0123】
記憶回路146は、タッチIC22(図2及び図4)がアップリンク信号USの送信に使用し得る複数の拡散符号に関して、元の波形を示すパターン(ここでは、0/1の2値パターン)を比較パターンPTcとしてそれぞれ記憶する。
【0124】
図25は、別の例における回路基板150の部分ブロック図である。この回路基板150は、図23に示す回路基板108の各構成に加えて、チップ電極102とリング電極104の間に設けられる第4スイッチ152をさらに備える。MCU150が第4スイッチ152のスイッチング制御を行うことで、チップ電極102及びリング電極104の電気的な結合又は分離が選択的に行われる。この構成によれば、電子ペン16は、[1]チップ電極102、[2]リング電極104、又は[3]チップ電極102及びリング電極104の結合電極、のうちのいずれかの電極を介してアップリンク信号USを受信することができる。
【0125】
<動作>
続いて、電子機器14との通信時における回路基板108の動作について説明する。この回路基板108は、アップリンク信号USの受信モードを選択可能に構成される。ここでは、複数種類の受信モードのうち、通常モードと切替モードのいずれか一方が選択される場合を想定する。一方、「切替モード」は、必要に応じてペン電極を切り替えながらアップリンク信号USを受信するためのする送信制御モードを意味する。
【0126】
図26は、通常モードにおける電子ペン16の通信動作を示すフローチャートである。この「通常モード」は、特定のペン電極を用いてアップリンク信号USを受信するための送信制御モードを意味する。つまり、当該モードでは、アップリンク信号USの受信に用いられるペン電極(以下、「受信電極」という)が、[1]チップ電極102、[2]リング電極104、又は[3]チップ電極102及びリング電極104の結合電極、のうちのいずれか1つ(例えば、チップ電極102)に静的に設定される。
【0127】
回路基板108は、アップリンク信号USの受信動作を行う(ステップS31)。アップリンク信号USが正しく受信あるいは検出された場合(ステップS32:YES)、回路基板108は、ダウンリンク信号DSの送信動作を行った後(ステップS33)、ステップS31に戻る。一方、アップリンク信号USが正しく受信されなかった場合(ステップS32:NO)、回路基板108は、ステップS33の実行をスキップして、ステップS31に戻る。以下、当該フローチャートを繰り返し実行することで、電子ペン16は、アップリンク信号USの送信タイミングに同期させてダウンリンク信号DSを送信する。
【0128】
図27は、切替モードにおける電子ペン16の通信動作を示すフローチャートである。この「切替モード」は、必要に応じてペン電極を切り替えながらアップリンク信号USを受信するための送信制御モードを意味する。つまり、当該モードでは、アップリンク信号USの受信電極が、[1]チップ電極102、[2]リング電極104、又は[3]チップ電極102及びリング電極104の結合電極、のうちのいずれか1つに動的に設定される。
【0129】
ステップS41において、回路基板108は、現時点で選択されている受信電極を用いて、アップリンク信号USの受信動作を行う。
【0130】
ステップS42において、回路基板108は、ステップS41の今回の実行によって、今回のアップリンク信号USを正しく受信あるいは検出したか否かを確認する。今回のアップリンク信号USが受信された場合(ステップS42:YES)、次のステップS43に進む。
【0131】
ステップS43において、回路基板108は、ステップS42で受信された今回のアップリンク信号USを用いて、今回の受信に応答するためのダウンリンク信号DSを生成する。
【0132】
ステップS44において、回路基板108は、ステップS43で生成されたダウンリンク信号DSの送信動作を行う。このダウンリンク信号DSは、タッチセンサ20を介してタッチIC22により受信される。一方、ステップS42に戻って、今回のアップリンク信号USが受信されなかった場合(ステップS42:NO)、ステップS45に進む。
【0133】
ステップS45において、回路基板108は、ステップS41の前回の実行によって、前回のアップリンク信号USを正しく受信あるいは検出していたか否かを確認する。前回のアップリンク信号USが受信されなかった場合(ステップS45:NO)、ステップS46,S44の実行をスキップして、後述するステップS47に進む。一方、前回のアップリンク信号USが受信されていた場合(ステップS45:YES)、次のステップS46に進む。
【0134】
ステップS46において、回路基板108は、ステップS42で受信されていた前回のアップリンク信号USを用いて、今回の受信に応答するためのダウンリンク信号DSを生成する。回路基板108は、ステップS46で生成されたダウンリンク信号DSの送信動作を行う(ステップS44)。
【0135】
ステップS47において、回路基板108は、送信電極の切替が必要であるか否かを判定する。例えば、回路基板108は、今回のアップリンク信号USを検出できた場合に送信電極の切り替えが「不要」であり、今回のアップリンク信号USを検出できなかった場合に送信電極の切り替えが「必要」であると判定してもよい。
【0136】
ステップS48において、回路基板108は、送信電極の切替が必要でない場合に(ステップS48:NO)、ステップS49の実行をスキップして、ステップS41に戻る。一方、回路基板108は、送信電極の切替が必要である場合に(ステップS48:YES)、次のステップS49に進む。
【0137】
ステップS49において、回路基板108は、M個のペン電極の中から、予め定められた切替順序に従って受信電極を切り替える。図23の例では、現在の受信電極がチップ電極102である場合、リング電極104に切り替えられる。また、図25の例では、現在の受信電極がチップ電極102である場合、リング電極104、あるいは結合電極(チップ電極102及びリング電極104の結合体)のいずれか一方に切り替えられる。
【0138】
以下、当該フローチャートを繰り返し実行することで、電子ペン16は、アップリンク信号USの送信タイミングに同期させてダウンリンク信号DSを送信することができる。
【0139】
<まとめ>
以上のように、電子ペン16は、N個のセンサ電極を有する静電容量方式のタッチセンサ20に接続されるタッチIC22とともに用いられる。そして、電子ペン16は、M個(M≧2)のペン電極を有し、M個のペン電極の中から1個以上のペン電極である受信電極を決定し、アップリンク信号USの送信電極と受信電極の組を時間に応じて変更する制御を行う。このように構成しても、人体Bdに誘導される信号が原因で発生するGND電位の揺れによって、電子ペン16が有するペン電極に誘導された信号が一時的に検出できなくなることが抑制される。
【0140】
ここで、M個のペン電極は、電子ペン16のペン先に設けられるチップ電極102と、ペン先より後方に位置するリング電極104と、チップ電極102とリング電極104を電気的に接続した電極と、を含んでもよい。
【0141】
また、電子ペン16は、タッチIC22から周期的に送信されるアップリンク信号USを受信して検出する際に、少なくとも今回の検出処理によるアップリンク信号USの検出結果に応じて、自身が有するM個のペン電極の中から次の検出処理に関わる受信電極を決定してもよい。また、電子ペン16は、今回の検出処理において一の受信電極からの受信によりアップリンク信号USが検出されなった場合に、次回の検出処理に関わる受信電極を他のいずれかのペン電極に切り替えてもよい。また、電子ペン16は、今回の検出処理においてアップリンク信号USが検出されなかった場合、直近に検出されたアップリンク信号USに基づいて生成したダウンリンク信号DSを送信してもよい。
【0142】
<別の動作例>
続いて、電子ペン16による別の動作例について説明する。
【0143】
図27のステップS49では、回路基板108が今回及び前回のアップリンク信号USを検出できなかった場合に受信電極を切り替えているが、判定条件はこれに限られない。例えば、電子ペン16は、所定の検出回数にわたって一の受信電極からアップリンク信号USが継続して検出されなくなった場合に、次回の検出処理に関わる受信電極を他のいずれかのペン電極に切り替えてもよい。
【0144】
図27のステップS49では、予め定められた切替順序に従って受信電極を切り替えているが、切替規則はこれに限られない。例えば、電子ペン16は、受信電極を切り替えながらアップリンク信号USの受信レベルを計測し、得られた受信レベルに応じて受信電極を決定してもよい。具体的には、電子ペン16は、直近に受信した信号強度が最大となる1個のペン電極を受信電極として決定すればよい。
【0145】
図27のステップS49では、回路基板108がアップリンク信号USの検出結果に応じて受信電極を切り替えているが、切り替えのトリガはこれに限られない。例えば、タッチIC22が、電子ペン16の送信電極を切り替えるための制御信号を電子ペン16に送信可能である場合、電子ペン16は、制御信号の受信に応じて受信電極を切り替えてもよい。これにより、電子ペン16は、通信相手であるタッチIC22と連携しながら、より適したタイミングで受信電極を切り替えることができる。
【符号の説明】
【0146】
10‥位置検出システム、14‥電子機器、16‥電子ペン、18B‥ブロック電極(センサ電極)、18X,18Y‥ライン電極(センサ電極)、20‥タッチセンサ、22‥タッチIC(センサ制御回路)、24‥ホストプロセッサ、60‥センサ領域、62‥接触領域、64‥接触位置、102‥チップ電極(ペン電極)、104‥リング電極(ペン電極)、108,150‥回路基板、112‥筐体、128‥受信回路、DS‥ダウンリンク信号、US,US1,US2‥アップリンク信号

図1
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図3
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