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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086947
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】抗炎症組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/47 20060101AFI20240621BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240621BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240621BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
A61K38/47
A61P29/00
A61K47/10
A61K47/12
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067452
(22)【出願日】2024-04-18
(62)【分割の表示】P 2020566415の分割
【原出願日】2020-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2019004641
(32)【優先日】2019-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000252252
【氏名又は名称】和興フィルタテクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】影島 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】村上 洋一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 章
(72)【発明者】
【氏名】安部 茂
(72)【発明者】
【氏名】羽山 和美
(72)【発明者】
【氏名】丸山 奈保
(57)【要約】
【課題】本発明は、好中球に起因する炎症を治療又は予防するための方法及びその治療又は予防をするための医薬組成物を提供するものである。
【解決手段】具体的には、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体を含有する、好中球に起因する炎症を治療又は予防するための医薬組成物等を提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾチームとキトサンとを結合させた複合体を含有する、好中球に起因する炎症を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項2】
前記キトサンが、分子量1000Da~30,000Daの水溶性キトサンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物中、前記複合体を、0.01mg/ml~50mg/ml含有する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物中、前記複合体を、0.001質量%~5.0質量%含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
さらに、テルペンアルコール、脂肪酸、及び/又は該脂肪酸の塩を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
さらに、炭素数8~12の脂肪酸又は該脂肪酸の塩を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記脂肪酸が、デカン酸又はラウリン酸である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
さらに、テルペンアルコールを含み、該テルペンアルコールがテルピネン-4-オール、ヒノキチオール又はゲラニオールである、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
好中球に起因する炎症が、皮膚炎又は膿皮症である、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
好中球に起因する炎症を治療又は予防するための医薬組成物の製造における、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好中球に起因する炎症性を治療又は予防し得る組成物に関する。より具体的には、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体を含有する、好中球に起因する炎症を治療又は予防するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
好中球は、血液中に存在する多核白血球の一種であり、炎症部位に向かって血管から組織内に遊走する。遊走した好中球は炎症部位で異物を貧食する。また、好中球は活性化されて活性酸素(過酸化水素、ヒドロキシラジカル等)を生成し、細胞外に放出したり、蛋白質分解酵素等の顆粒成分を細胞外に放出する。当該活性酸素や顆粒成分は、強い細胞障害作用を有し、炎症反応を抑制する能力を有する。一方で、炎症部位に集積され活性化された好中球により過剰な活性酸素が産生されると、炎症部位以外の細胞組織に対する障害作用(悪影響)を引き起こすことが知られている(非特許文献1~3)。かかる好中球が引き起こす障害作用に対し、グルコサミンや植物精油を用いて好中球の過剰な活性化を抑制することがこれまで検討されてきた(非特許文献2及び3)。しかしながら、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体と好中球との関係については、これまで検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2017/038872号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2017/138476号パンフレット
【特許文献3】特開2017-226615号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】太田安彦ら、「TNF-αによる好中球活性化のプライミング反応について」、生物資料分析 Vol. 35, No. 4、2012年、第322頁~第328頁
【非特許文献2】長岡功ら、「グルコサミンの好中球機能抑制作用とそのメカニズム」、炎症・再生 Vol. 22, No. 5、2002年9月、第461頁~第468頁
【非特許文献3】丸山奈保、安部茂、「植物精油の抗真菌・抗炎症効果~真菌感染症治療への可能性~」J. Japan Association on Odor Enviroment、Vol. 43, No. 3、2012年、第199頁~第210頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、好中球に起因する炎症を治療又は予防するための医薬組成物、治療剤、予防剤、ならびにこれらの製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、さらに、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体を含有する医薬組成物を使用し、好中球に起因する炎症を治療又は予防することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体と好中球との関係を鋭意検討した結果、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体が炎症部位における好中球の粘着反応を抑制することができることを見出した。その結果、炎症部位において好中球が過剰に活性化され、活性酸素を過剰に産生した結果として引き起こされる炎症反応に対し、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体を当該炎症部位に付与することにより、当該炎症反応が抑制できるとの結論に至り、本発明に至ったものである。具体的に本発明は、以下の態様であり得る。
〔1〕リゾチームとキトサンとを結合させた複合体を含有する、好中球に起因する炎症を治療又は予防するための医薬組成物。
〔2〕前記キトサンが、分子量1000Da~30,000Daの水溶性キトサンである、前記〔1〕に記載の医薬組成物。
〔3〕前記医薬組成物中、前記複合体を、0.01mg/ml~50mg/ml含有する、前記〔1〕又は〔2〕に記載の医薬組成物。
〔4〕前記医薬組成物中、前記複合体を、0.001質量%~5.0質量%含有する、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の医薬組成物。
〔5〕さらに、テルペンアルコール、脂肪酸、及び/又は該脂肪酸の塩を含有する、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の医薬組成物。
〔6〕さらに、炭素数8~12の脂肪酸又は該脂肪酸の塩を含有する、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の医薬組成物。
〔7〕前記脂肪酸が、デカン酸又はラウリン酸である、前記〔6〕に記載の医薬組成物。
〔8〕さらに、テルペンアルコールを含み、該テルペンアルコールがテルピネン-4-オール、ヒノキチオール又はゲラニオールである、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の医薬組成物。
〔9〕好中球に起因する炎症が、皮膚炎又は膿皮症である、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の医薬組成物。
〔10〕好中球に起因する炎症を治療又は予防するための医薬組成物の製造における、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体の使用。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、好中球に起因する炎症を治療又は予防するための医薬組成物、治療剤、予防剤、ならびにこれらの製造方法を提供することができる。
また、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体を含有する医薬組成物を使用し、好中球に起因する炎症を治療又は予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】リゾチームとキトサンとを結合させた複合体を合成する際の反応の概略図である。
図2a】リゾチーム-キトサン複合体の濃度と好中球粘着率(%)との関係を示すグラフである。
図2b】デカン酸の濃度と好中球粘着率(%)との関係を示すグラフである。
図3a】リゾチーム-キトサン複合体及びデカン酸を含まない、コントロールにおける好中球をクリスタル紫で染色したものを示す顕微鏡写真である。
図3b】リゾチーム-キトサン複合体を0.2mg/mlと、デカン酸を0.4mg/mlとの混合物を使用した場合の、好中球をクリスタル紫で染色したものを示す顕微鏡写真である。
図3c】リゾチーム-キトサン複合体を0.2mg/ml使用した場合の、好中球をクリスタル紫で染色したものを示す顕微鏡写真である。
図3d】デカン酸を0.4mg/ml使用した場合の、好中球をクリスタル紫で染色したものを示す顕微鏡写真である。
図4】各種披検物質を使用した場合の、好中球粘着率(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<医薬組成物>
本発明は、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体を含有する、好中球に起因する炎症を治療又は予防するための医薬組成物に関する。以下、本発明を具体的に説明する。
「リゾチームとキトサンとを結合させた複合体」とは、リゾチームとキトサンとを、例えばメイラード反応等により結合させた複合体である(図1参照)。リゾチームと水溶性キトサンとをメイラード反応により結合させることで、リゾチーム中の抗原構造のほとんど又はすべてがマスクされるため、リゾチーム-キトサン複合体をヒトが摂取してもアレルギーを起こしにくいという特徴がある。その他、架橋剤を使用してリゾチームとキトサンとを共有結合させて上記複合体を得ることもできる。
【0010】
ここで「リゾチーム」は、ムコ多糖類を加水分解する酵素であり、ニワトリ由来のリゾチーム、ヒト由来のリゾチームを好ましく用いることができる。
「キトサン」は、以下の化学式(I)で示されるポリ-β1→4-グルコサミンである((C6H11NO4)n、CAS登録番号9012-76-4)。
当該キトサンは水溶性である。キトサンの分子量の上限は、例えば、30,000Da以下であり、より好ましくは25,000Da以下、20,000Da以下、18,000Da以下、15,000Da以下であってもよい。またキトサンの分子量の下限は特に制限しなくてもよいが、例えば、1,000Da以上、好ましくは、5,000Da以上、10,000Da以上、12,000Da以上であってもよい。当該キトサンの分子量の範囲は、上記いずれかの上限値及び下限値の間の範囲であり得るが、例えば、1000Da~30,000Da、好ましくは5,000Da~20,000Daであり、より好ましくは10,000Da~15,000Daであり得る。抗菌性に着目すると、分子量の大きいキトサンの方が有利となり、製造のしやすさに着目すると、分子量の小さいキトサンの方が溶解性及び安定性が良好となり、低分子量のキトサンの方が有利となる。
【0011】
上記架橋剤としては、例えば、アミン反応性架橋剤(例えば、アルコキシアミン)、カルボニル反応性架橋剤(例えば、ヒドラジン化合物)、及びスルフヒドリル反応性架橋剤等を挙げることができる。
【0012】
リゾチーム/キトサンの質量比は、例えば、99/1~1/99、好ましくは90/10~10/90、より好ましくは80/20~20/80、さらに好ましくは60/40~40/60、特に好ましくは50/50となることが適当である。
具体的なリゾチームとキトサンとを結合させた複合体の製造方法としては、例えば次のようなものが挙げられる。まず、上記質量比のリゾチームとキトサンとを水に混合溶解し、得られた水溶液中のリゾチーム及びキトサンの合計質量が5~30質量%となるように調製する。得られた水溶液を凍結乾燥して粉末化する。得られた粉末を、例えば50~80℃、好ましくは55~65℃の温度と、例えば50~80%、好ましくは60~70%の相対湿度の条件下で、例えば2~20日、より好ましくは7~14日、メイラード反応させることにより本発明のリゾチームとキトサンとを結合させた複合体を製造することができる。
【0013】
本実施形態のリゾチーム-キトサン複合体が生成しているか否かは、種々の公知の方法で確認できるが、例えば、SDS(Sodium dodecyl sulfate)やSDS-PAGE(Sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide)ポリアクリルアミド電気泳動により得られるプレートを、染色処理することによって、蛋白質-キトサン複合体である高分子物質の生成を確認することができる。
【0014】
「好中球」とは、血液中に存在する多核白血球の一種である、好中球は、炎症部位に向かって血管から組織内に遊走し、炎症部位で異物を貧食する。また、好中球は、活性化されて活性酸素(過酸化水素、ヒドロキシラジカル等)を生成し、該活性酸素を細胞外に放出したり、蛋白質分解酵素等の顆粒成分を細胞外に放出する能力を有する。一方で、炎症部位に集積され活性化された好中球により、活性酸素が過剰に産生されると、炎症部位以外の細胞組織に対する障害作用(悪影響)を引き起こす(非特許文献1~3)。かかる好中球が引き起こす障害作用が炎症として現れたものが「好中球に起因する炎症」である。従って、「好中球に起因する炎症」は、真菌や細菌などの菌に起因して生ずる炎症とは異なる。本発明の医薬組成物は、当該「好中球に起因する炎症」を有意に治療し、及び/又は、予防し得る。本発明の「好中球に起因する炎症」の具体的な例としては、例えば、アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、剥脱性皮膚炎、うっ滞性皮膚炎及び接触皮膚炎等の皮膚炎、乾癬、湿疹、並びに膿皮症等を挙げることができる。
ここで、「治療」とは、本発明の対象である炎症を完全に治癒することの他、炎症を抑制して重傷度を低下させることを含む。「予防」とは、本発明の対象である炎症の病歴がない場合の他、本発明の対象である炎症が治癒した後に当該炎症が再発しないように防止することを含む。
【0015】
本発明の医薬組成物には、上記複合体の他に、1種以上のその他の有効成分を任意に含むことができる。その他の有効成分としては、それ自体が有効成分として作用するものの他、それ自体は有効成分として作用しないものの、本発明の有効成分である上記複合体と併用することによって効果を発揮するもの(補助剤)も含む。その他の有効成分としては、例えば、テルペンアルコール、脂肪酸、及び/又は該脂肪酸の塩を挙げることができる。これらテルペンアルコール、脂肪酸、及び/又は該脂肪酸の塩を添加することにより、本発明の複合体と相まって、相加効果及び相乗効果を得ることができる。テルペンアルコールとしては、例えば、テルピネン-4-オール、ヒノキチオール、ゲラニオール、及びメントール等を挙げることができる。脂肪酸としては、例えば、炭素数8~12の脂肪酸、好ましくはデカン酸(カプリン酸)又はラウリン酸を挙げることができる。脂肪酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩等を挙げることができる。その他、好中球に起因する炎症に効果があることが知られているレモングラス、スペアミント、ゼラニウム、シソなどから得られる精油、及び、グルコサミンを、当該その他の有効成分として加えてもよい。
【0016】
本発明の医薬組成物には、上記複合体の他に、1種以上のその他の成分を任意に含むことができる。その他の成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、乳化剤、溶剤、粘着剤、崩壊剤、粘稠剤、滑沢剤、着色剤、流動剤、保湿剤等の添加剤を添加することもできる。
保湿剤としては、例えば、グリセリン、ブチレングリコール、コラーゲン、ヒアルロン酸、及びセラミドを挙げることができる。
結合剤としては、例えば、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを挙げることができる。
乳化剤としては、例えば、レシチン、ポリエチレングリコール(PG)、PG-水添ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びセテス等を挙げることができる。
溶剤としては、例えば、水、エタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ペンタノール等を挙げることができる。
【0017】
本発明のリゾチーム-キトサン複合体は、本発明の医薬組成物中、例えば、0.01mg/ml~50mg/ml、好ましくは0.01mg/ml~2mg/ml、より好ましくは0.05mg/ml~1mg/ml、さらに好ましくは0.1mg/ml~0.5mg/ml、特に好ましくは0.2mg/ml~0.4mg/ml含有することが適当である。また、その他の有効成分は、本発明の医薬組成物中、例えば、0.001質量%~5.0質量%、好ましくは0.002質量%~0.2質量%、より好ましくは0.005質量%~0.1質量%、さらに好ましくは0.01質量%~0.05質量%、特に好ましくは0.02質量%~0.04質量%含有することが適当である。さらに、その他の成分は、各成分によって適切な含有量は適宜調節する必要があるが、例えば、0.1質量%~90質量%、好ましくは1質量%~70質量%、より好ましくは10質量%~50質量%含有することが適当である。なお、本発明の医薬組成物は、そのほとんどは水などの溶媒であり得、例えば、本発明の医薬組成物中、溶媒を95質量%以上、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは99.5質量%以上含有することが適当である。また、ラウリン酸及びデカン酸(カプリン酸)のような炭素数8~12の脂肪酸又は該脂肪酸の塩は、本発明の医薬組成物中、例えば、0.001質量%~5質量%、好ましくは0.005質量%~1質量%、より好ましくは0.01質量%~0.5質量%、特に好ましくは0.04質量%~0.2質量%含有することが適当である。
【0018】
[投与量、投与形態、投与方法]
本発明の医薬組成物は、その剤型、投与対象、投与ルート、対象疾患、症状等によっても異なるが、例えば、ヒトの皮膚に噴霧するスプレー剤の形態の場合、一日投与量は、例えば、0.1~20mg/kg体重、好ましくは0.2~10mg/kg体重、さらに好ましくは0.5~10mg/kg体重であり、この量を1日1回~数回(例、2回、3回、4回又は8回)投与するのが望ましい。この投与量は、スプレー剤以外にも以下で説明するクリーム等の他の製剤においても好ましく適用できる。
【0019】
本発明の医薬組成物は、経口でも非経口でも投与することができ、これらの製剤化には特別な技術は必要なく、汎用される技術を用いて製剤化をすることができる。投与剤型としては、クリーム、軟膏、ハップ剤、液剤、スプレー剤、ゲル剤、注射剤、錠剤、坐剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、点眼剤、眼軟膏などが挙げられ、クリーム、軟膏、ハップ剤、液剤、スプレー剤が特に好ましい。
本発明の医薬組成物は、上記投与形態に合わせて適宜投与方法を選択し得る。投与方法は公知の投与方法でよく、例えば、クリームの場合、本発明の医薬組成物を炎症箇所に上記投与量で塗布すればよい。
【0020】
<治療方法>
本発明は、また、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体を含有する医薬組成物を対象者に投与して、好中球に起因する炎症を抑制又は予防するための方法を含み得る。
ここで「対象者」は、ヒトの他、ネコ、イヌ、サル、ウシ、ウマなどの哺乳動物を含む。
リゾチームやキトサンなどの各定義、その他の有効成分やその他の成分、投与量、投与形態、投与方法等は上述したとおりである。
【0021】
<使用>
本発明は、また、好中球に起因する炎症を治療又は予防するための医薬組成物の製造における、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体の使用を含み得る。
好中球に起因する炎症を治療又は予防するための医薬組成物の製造において、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体は、複合体以外の当該医薬組成物の成分と共に混合され、当該医薬組成物となる。当該混合方法としては、公知の方法を用いることができるが、例えば液剤の場合、水などの溶剤に、リゾチームとキトサンとを結合させた複合体及び上記任意のその他の成分を加え、混合し、必要に応じて乳化剤を加えて混合して分散剤又はエマルジョンとし、液剤が調製される。
【実施例0022】
[試料の調製]
・好中球懸濁液
好中球を血液から採取した。具体的には、健康なヒト又はイヌから採取した全血から、ポリモルホプレップ(コスモバイオ)を用いて好中球を分離した。分離した好中球の試料を2000rpmで約40分間遠心分離にかけ、その後上清を取り除き、残渣を、10質量%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals,USA)を添加したRPMI(SIGMA)培地に移し、細胞数が4×106個/mlとなるよう希釈し、ヒト好中球懸濁液及びイヌ好中球懸濁液をそれぞれ調製した。
・活性化標準液
好中球の活性化試薬である大腸菌由来リポ多糖(SIGMA Lot 12K4083)を予め10質量%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals,USA)を添加したRPMI(SIGMA)培地を用いて希釈し、得られた活性化標準液の容積に対して大腸菌由来リポ多糖の質量が4μg/mlである活性化標準液を得た。
【0023】
・本発明の医薬組成物試料
リゾチームとキトサンとを結合させた複合体(リゾチーム-キトサン複合体)として、市販のLYZOX(登録商標、和興フィルタテクノロジー株式会社製)を使用した。市販のLYZOX(登録商標)は、ニワトリ由来のリゾチームと、14,000Daの水溶性キトサンとを1:1の質量比で含む粉末である。具体的には、上記リゾチームと水溶性キトサンとを、水に混合溶解し、その後凍結乾燥させることによって、粉末状とし、さらにメイラード反応が完全に終了するのに十分な温度、湿度及び日数の条件下でメイラード反応させることによって本発明において使用するリゾチーム-キトサン複合体(LYZOX(登録商標))を得ている。
【0024】
[抗炎症効果の評価]
好中球に起因する炎症に対する抗炎症効果は、炎症部位に粘着する好中球の量から把握することができる。即ち、炎症部位に粘着している好中球の量が本発明の医薬組成物の適用後に減少していれば、本発明の医薬組成物は好中球粘着抑制効果を有することとなる。炎症部位に粘着している好中球の量が減少すれば、好中球に起因して過剰に産生される活性酸素の量が減少することとなり、もって当該活性酸素によって引き起こされていた炎症反応を抑制できることとなる。好中球粘着率と好中球に起因する炎症に対する抗炎症効果とには略一次関数的な相関関係があることはよく知られたとおりである(例えば、Naoshi Yakuwa, et. al. "A Novel Neutrophil Adherent Test Effectively Reflects the Activated State of Neutrophils", Microbiol. Immunol. 1989; Vol. 33(10), pages 843-852参照)。
好中球粘着率は、リゾチーム-キトサン複合体及びデカン酸を含まないコントロールにおいて各ウェルに粘着した活性化好中球を定量化した値を100%とし、各実施例及び比較例の被検物質においても同様に各ウェルに粘着した活性化好中球を定量化した値と比較することによって求めた。

好中球粘着率(%)=[各実施例及び比較例における粘着した活性化好中球の定量値]/[コントロールにおける粘着した活性化好中球の定量値]×100

具体的な各実施例及び比較例の実験方法及び定量化方法は、下記に示すとおりである。
【0025】
実施例1
本発明において、当該好中球粘着反応抑制能は下記の手順で評価した。即ち、リゾチーム-キトサン複合体としてのLYZOX(登録商標)を、10質量%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals,USA)を添加したRPMI(SIGMA)培地で希釈し、被検物質とした。96穴プレートウェルに、当該被検物質50μl、上記活性化標準液50μl、及び上記ヒト好中球懸濁液100μlをそれぞれ加えた。5%CO2の雰囲気下、37℃で1時間培養後、96穴プレートウェルに粘着しなかった好中球(非粘着細胞)を含む上清を除去し、ウェル底面に強固に粘着した活性化好中球を生理食塩水で洗浄し、乾燥した。16時間乾燥後、各ウェルに1%クリスタル紫(Merk)を200μl加え、15分静置して各ウェルに粘着した好中球(粘着細胞)を(クリスタル紫)で染色し、各ウェルに1%SDS(Sodium dodecyl sulfate)100μlを加えてよく攪拌して、マイクロプレートリーダーを用いて波長620nmの光を当てた場合の透過率(吸光度、又はOD620)を測定し、各ウェルに粘着した活性化好中球を定量化した。
上記のように本発明のLYZOX(登録商標)(リゾチーム-キトサン複合体)を使用して試験した場合の、LYZOX(登録商標)の濃度と好中球粘着率(%)との関係を図2aに示す。
【0026】
比較例1
LYZOX(登録商標)の代わりにデカン酸を使用した以外は実施例1と同様に試験を繰り返し、96穴プレートウェルに粘着した活性化好中球を定量化した。このようにデカン酸を使用して試験した場合の、デカン酸の濃度と好中球粘着率(%)との関係を図2bに示す。
図2aと図2bとの対比から理解できるように、LYZOX(登録商標)(リゾチーム-キトサン複合体)の濃度が上昇すると好中球粘着率(%)は低くなり、LYZOX(登録商標)には好中球に起因する炎症に対する抗炎症効果が認められる一方、デカン酸を使用した場合には、デカン酸の濃度が上昇しても好中球粘着率(%)は低くならず、デカン酸では好中球に起因する炎症に対する抗炎症効果が期待できないことがわかった。
【0027】
実施例2
好中球懸濁液としてイヌ好中球懸濁液を使用し、被検物質として各種被検物質を使用した以外は、実施例1と同様の試験を繰り返し、96穴プレートウェルに粘着した活性化好中球を定量化した。同時に、当該96穴プレートウェルに粘着した好中球(粘着細胞)をクリスタル紫で染色したものを、顕微鏡にて観察した。使用した被検物質は以下の通りである。

(a):コントロール(リゾチーム-キトサン複合体及びデカン酸を含まない)
(b):リゾチーム-キトサン複合体0.2mg/ml(被検物質全体の質量に対して0.02質量%)と、デカン酸0.4mg/ml(被検物質全体の質量に対して0.04質量%)との混合物
(c):リゾチーム-キトサン複合体0.2mg/ml(被検物質全体の質量に対して0.02質量%)
(d):デカン酸0.4mg/ml(被検物質全体の質量に対して0.04質量%)

上記(a)~(d)の被検物質を使用した場合の96穴プレートウェルに粘着した好中球をクリスタル紫で染色した顕微鏡写真をそれぞれ図3a~図3dに示す。顕微鏡としては、オリンパス製、倒立型システム顕微鏡MODEL IMT-2を使用し、観察倍率は40倍とした。
また、上記(a)~(d)の被検物質を使用した場合の好中球粘着率(%)を図4に示す。
図3a~図3dに示されているように、図3a及び図3dではクリスタル紫で染色された好中球が広く分布しているが、図3b及び図3cでは、クリスタル紫で染色された好中球の分布が抑制されていることがわかる。また、図4に示されているように、(b)リゾチーム-キトサン複合体+デカン酸及び(c)リゾチーム-キトサン複合体では、(a)コントロール及び(d)デカン酸のみに比べ、好中球粘着率(%)が顕著に抑制されていることがわかる。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図3d
図4