(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086967
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】車両用シート構造
(51)【国際特許分類】
B60N 2/56 20060101AFI20240621BHJP
B60N 2/58 20060101ALI20240621BHJP
A47C 7/74 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
B60N2/56
B60N2/58
A47C7/74 C
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024068331
(22)【出願日】2024-04-19
(62)【分割の表示】P 2022056675の分割
【原出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】金子 航
(72)【発明者】
【氏名】川久保 翔平
(72)【発明者】
【氏名】カタリア ニシャント
(57)【要約】
【課題】車室内への通気部の露出を避けつつ、物品等が通気部に接触したときの物品等への荷重の集中を抑制できる車両用シート構造を提供する。
【解決手段】車両用シート1は、座面を形成するシートバッククッション32と、座面の周辺空気を調整する送風ファン34と、シートバッククッション32を覆うシートバックカバー33と、送風ファン34またはエアバッグ装置71に接続された可撓性を有するワイヤハーネス51,52と、を備える。シートバックカバー33は、送風ファン34と連通し、かつ、シートバッククッション32の座面とは異なる部分を覆う位置に形成されている通気性を有する通気部331と、通気部331をシート外側から覆う位置に形成されている被覆部332と、を含み、ワイヤハーネス51,52は、被覆部332よりもシート内側で通気部331と重なる位置に配索される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面を形成するクッション材と、
前記座面の周辺空気を調整する送風装置と、
前記クッション材を覆うシートカバーと、
前記送風装置またはシート側装置に接続された可撓性を有する索状体と、
を備えた車両用シート構造において、
前記シートカバーは、
前記送風装置と連通し、かつ、前記クッション材の前記座面とは異なる部分を覆う位置に形成されている通気性を有する通気部と、
前記通気部をシート外側から覆う位置に形成されている被覆部と、を含み、
前記索状体は、前記被覆部よりもシート内側で前記通気部と重なる位置に配索されることを特徴とする車両用シート構造。
【請求項2】
前記索状体を支持する配索用ブラケットを有するシートフレームを備え、
前記配索用ブラケットは、前記通気部よりもシート内側に配置され、前記索状体をシート外側で支持することを特徴とする請求項1に記載の車両用シート構造。
【請求項3】
前記通気部は、前記被覆部と対面する位置に間隔を空けて配置された第1貫通口および第2貫通口を有し、
前記配索用ブラケットは、前記第1貫通口および前記第2貫通口の間に配置されることを特徴とする請求項2に記載の車両用シート構造。
【請求項4】
前記クッション材は、前記シートフレームにおける前記配索用ブラケットの支持部をシート外側から覆う部位を有し、
前記配索用ブラケットは、前記クッション材の前記部位から離間した位置で前記索状体を支持することを特徴とする請求項3に記載の車両用シート構造。
【請求項5】
前記索状体は、
前記送風装置に接続される第1索状体と、
前記シート側装置に接続される第2索状体と、を含み、
前記配索用ブラケットは、前記第1索状体および前記第2索状体をシート外側でそれぞれ支持することを特徴とする請求項3に記載の車両用シート構造。
【請求項6】
前記通気部は、前記被覆部よりも通気性が高い布状の材料により形成され、かつ、前記被覆部と対面する位置に貫通口を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用シート構造。
【請求項7】
前記索状体は、前記通気部のシート内側から前記貫通口を通ってシート外側に引き出され、
前記被覆部は、前記通気部のシート外側に引き出された前記索状体の移動を規制する規制部を有することを特徴とする請求項6に記載の車両用シート構造。
【請求項8】
座面を形成するクッション材と、
前記座面の周辺空気を調整する送風装置と、
前記クッション材を覆うシートカバーと、
を備えた車両用シート構造において、
前記シートカバーは、
前記送風装置と連通し、かつ、前記クッション材の前記座面とは異なる部分を覆う位置に形成されている通気性を有する通気部と、
前記通気部をシート外側から覆う位置に形成されている被覆部と、
を含み、
前記通気部および前記被覆部の間に可撓性を有するシート構成部品が配置されており、前記通気部および前記被覆部と前記シート構成部品とによって通気空間が形成され、
前記通気部は、布状の材料を用いて形成されていることを特徴とする車両用シート構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に用いられるシートには、座部やシートバックの座面周辺の空気を調整可能な空調機能を備えたものが知られている。空調機能付きの車両用シートは、座面を形成するクッション材に通気部(通気口)が設けられるとともに、通気部と連通する位置に送風装置(ファン)が設けられている。例えば、特許文献1には、前席側のシートバックの背面に後席用フェイス吹出口を設けた車両用シートが開示されている。この車両用シートは、室内空調ユニットからの空調風が導かれる背面空気通路に後席用フェイス吹出口が連通しており、後席用フェイス吹出口に設けられた上下調整ルーバによって、後席側への空調風の送風方向が調整可能な構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような従来の車両用シート構造については、前席側のシートバックの背面に後席用フェイス吹出口のような通気部を設けていると、該通気部が車室内に露出した状態となって後席の乗員の視界に入ってしまい、車両用シートの見栄え、ひいては車室内の美観が損なわれるおそれがあった。また、通気部が車室内に露出して設置されている場合、物品等が通気部に接触したときに物品等に荷重が集中しないように配慮する必要があった。
【0005】
本発明は上記の点に着目してなされたもので、車室内への通気部の露出を避けつつ、物品等が通気部に接触したときの物品等への荷重の集中を抑制できる車両用シート構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明に係る車両用シート構造の一態様は、座面を形成するクッション材と、前記座面の周辺空気を調整する送風装置と、前記クッション材を覆うシートカバーと、前記送風装置またはシート側装置に接続された可撓性を有する索状体と、を備えた車両用シート構造を提供する。この車両用シート構造において、前記シートカバーは、前記送風装置と連通し、かつ、前記クッション材の前記座面とは異なる部分を覆う位置に形成されている通気性を有する通気部と、前記通気部をシート外側から覆う位置に形成されている被覆部と、を含み、前記索状体は、前記被覆部よりもシート内側で前記通気部と重なる位置に配索される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両用シート構造の一態様によれば、シートカバーに通気部を設け、該通気部が被覆部によりシート外側から覆われるようにしたことで、車室内への通気部の露出を避けつつ、物品等が通気部に接触したときの物品等への荷重の集中を抑制することができるとともに、物品等の接触時には、可撓性を有する索状体を変形させて荷重を吸収したり、索状体と伴に物品等をクッション材の側へ移動させて、クッション材で荷重を吸収したりすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用シート構造の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図1のシートにおいてヘッドレストを取り外し、シートバックカバーの被覆部を捲った状態を示す後面図である。
【
図3】
図2のシートのシートカバーを取り外した状態を示す後面図である。
【
図4】
図3のシートのクッション材を取り外した状態を示す後面図である。
【
図6】上記実施形態に関連した変形例のシートにおいてヘッドレストを取り外し、シートバックカバーの被覆部を捲った状態を示す後面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る車両用シート構造について図面(
図1~
図5)を参照しながら説明する。なお、図において、矢印Fr方向は車両用シートの前後方向における前方を示す。実施形態の説明における「前部(前端)および後部(後端)」は、シート前後方向における前部および後部に対応する。また、本実施形態におけるシート前後方向の前方は、車両前後方向の前方に対応する。矢印R方向および矢印L方向は、乗員が車両用シートに着座したときの右側および左側を示している。矢印U方向は、上方を示している。
【0010】
図1は、本実施形態による構造が適用された車両用シート1の外観を示す斜視図である。また、
図2は、
図1の車両用シート1の後面図である。なお、
図2には、車両用シート1のヘッドレスト35を取り外し、シートバックカバー33の被覆部332をシート後方の上側に捲った状態が示されている。車両用シート1の使用時には、
図2に二点鎖線で示したように、被覆部332は、シート下方の前側に被せた状態とされる。
【0011】
図1および
図2において、車両用シート1は、座部10と、シートバック30と、を備えている。
座部10は、乗員が着座する部分である。座部10は、座部フレーム11と、着座面を形成する座部クッション12と、該座部クッション12を覆う座部カバー13と、を有している。
【0012】
シートバック30は、座部10の後部から上方に延びている部分であり、座部10に着座した乗員の特に上半身を支持するように構成されている。シートバック30は、シートバックフレーム31(後述する
図4)と、座面を形成するシートバッククッション32と、該シートバッククッション32を覆うシートバックカバー33と、座面の周辺空気を調整する送風ファン34と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト35と、を有している。
【0013】
なお、本実施形態では、シートバッククッション32が本発明の「クッション材」に相当し、シートバックカバー33が本発明の「シートカバー」に相当し、送風ファン34が本発明の「送風装置」に相当する。以下、車両用シート1の各部材について具体的に説明する。
【0014】
図3は、
図2の車両用シート1における座部カバー13およびシートバックカバー33を取り外した状態を示す後面図である。また、
図4は、
図3の車両用シート1における座部クッション12およびシートバッククッション32を取り外した状態を示す後面図である。さらに、
図5は、
図2のA-A線矢視断面図である。
【0015】
図1~
図5に示すように、座部10の座部フレーム11は、座部10の骨格を構成している。座部フレーム11の下部は、シート幅方向の両側部分が左右のシートレール2に走行部(図示せず)を介して移動可能に取り付けられている(
図1~
図4)。シートレール2は、車両室内のフロア部(図示せず)に設けられ、車両前後方向に延びている。
【0016】
座部クッション12は、弾性特性を有し、座部フレーム11の上部に設置されている(
図1~
図3および
図5)。座部クッション12の上部は、乗員が着座する着座面を形成している。
座部カバー13は、座部クッション12に上方から被さるトリムである(
図1および
図2)。座部カバー13は、座部クッション12の上部(着座面)、前部、後部および左右両側部を覆っている。
【0017】
シートバック30のシートバックフレーム31は、フレーム本体311と、ファン固定用ブラケット312と、エアバッグ固定用ブラケット313と、複数の配索用ブラケット314A~314Cと、S字状ばね315と、を有している(
図4および
図5)。
【0018】
フレーム本体311は、シートバックフレーム31の骨格を構成する部材で、パイプ状の部材を湾曲させて略長方形状に形成されている(
図4)。フレーム本体311は、シート幅方向に延びるアッパクロスフレーム311Aと、該アッパクロスフレーム311Aの左右端のそれぞれから下方に延び、互いに平行に配置された左右のサイドフレーム311B,311Cと、左右のサイドフレーム311B,311Cの下端を繋ぐようにシート幅方向に延びるロアクロスフレーム311Dと、を有している。アッパクロスフレーム311A及びロアクロスフレーム311Dは、それぞれが水平で、互いに平行に延びている。左右のサイドフレーム311B,311Cは、シート幅方向と交差する交差方向にそれぞれ延びている。なお、本実施形態では、左側のサイドフレーム311Bが本発明の「第1サイドフレーム」に相当し、右側のサイドフレーム311Cが本発明の「第2サイドフレーム」に相当し、ロアクロスフレーム311Dが本発明の「クロスフレーム」に相当する。
【0019】
ファン固定用ブラケット312は、シート幅方向に延びており、長手方向の両端部が左右のサイドフレーム311B,311Cの上部に取り付けられている(
図4および
図5)。ファン固定用ブラケット312の長手方向の中間部分には、送風ファン34が固定されている。つまり、本実施形態による車両用シート1には、シートバック30の上部におけるシート幅方向の中央付近に送風ファン34が設置されている。
【0020】
送風ファン34には、可撓性を有するファン接続用ワイヤハーネス(第1索状体)51が接続されている。ファン接続用ワイヤハーネス51は、車体に搭載されたバッテリ装置(図示せず)から送風ファン34に電力を供給する。ファン接続用ワイヤハーネス51は、配索用ブラケット314A,314Bにより、フレーム本体311に沿った所定位置に支持されている。ここでは、配索用ブラケット314Aがロアクロスフレーム311Dの中央部に取り付けられ、配索用ブラケット314Bが左側のサイドフレーム311Bの下部に取り付けられている。ファン接続用ワイヤハーネス51の具体的な配索については後述する。
【0021】
エアバッグ固定用ブラケット313は、右側のサイドフレーム311Cにおけるシート上下方向の中央部に取り付けられている(
図4)。エアバッグ固定用ブラケット313には、右側のサイドフレーム311Cに沿って延びるエアバッグ装置71が固定されている。エアバッグ装置71は、側突時に乗員を保護するサイドエアバッグであり、車両室内における車幅方向外側に配置されている。
【0022】
エアバッグ装置71には、可撓性を有するエアバッグ接続用ワイヤハーネス(第2索状体)52が接続されている。エアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、上記バッテリ装置からエアバッグ装置71に電力を供給する。エアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、上記配索用ブラケット314A、およびロアクロスフレーム311Dの右端部に取り付けられた配索用ブラケット314Cにより、フレーム本体311に沿った所定位置に支持されている。エアバッグ接続用ワイヤハーネス52の具体的な配索については後述する。
【0023】
なお、本実施形態では、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52が本発明の「シート構成部品」に相当する。また、エアバッグ装置71が本発明の「シート側装置」に相当し、バッテリ装置が本発明の「車体側装置」に相当する。
【0024】
S字状ばね315は、フレーム本体311の左右のサイドフレーム311B,311Cを繋ぐように、シート幅方向に沿って配置されている(
図3および
図4)。本実施形態では、2本のS字状ばね315が上下方向に間隔を空けて配置されている。
【0025】
シートバッククッション32は、本体部32Aと、左右のサイドクッション部32B,32Cと、凹部32Dと、を有している(
図1~
図3および
図5)。
本体部32Aは、弾性特性を有し、シートバックフレーム31のフレーム本体311を覆っている部分である。具体的には、本体部32Aの上部がフレーム本体311のアッパクロスフレーム311Aを上方側から覆い、本体部32Aの下部がフレーム本体311のロアクロスフレーム311Dを下方側から覆っている(
図5)。本体部32Aの前面は、乗員の背中を支持する座面(支持面)となっている。本体部32Aの前面側には、複数の送風口32Eが形成されている(
図1および
図5)。各送風口32Eは、本体部32Aの内部に形成されている空気の流路32Fに連通しており、座面の周辺空気が各送風口32Eおよび流路32Fを通って送風ファン34に導かれる、或いは、送風ファン34からの空気が流路32Fおよび各送風口32Eを通って座面に送風される(
図5)。
【0026】
左右のサイドクッション部32B,32Cは、弾性特性を有し、本体部32Aのシート幅方向外側に配置され、上下方向に延びている(
図1および
図3)。左側のサイドクッション部32Bは、シートバックフレーム31の左側のサイドフレーム311Bを側方から覆っている。右側のサイドクッション部32Cは、シートバックフレーム31の右側のサイドフレーム311Cおよびエアバッグ装置71を側方から覆っている。
【0027】
凹部32Dは、本体部32Aの後面側で、左右のサイドクッション部32B,32Cの間に設けられ、シート前方に凹んでいる(
図3および
図5)。凹部32Dの上端は、本体部32Aの上下方向で中間部に位置し、凹部32Dの下端は、本体部32Aの下部に位置している。凹部32Dの内側には、2本のS字状ばね315が凹部32Dを横断するように配置されている。
【0028】
シートバックカバー33は、シートバッククッション32の上方から被さるトリムであり、シートバッククッション32における本体部32Aの前後面、および、左右のサイドクッション部32B,32Cの外側面を覆っている(
図1、
図2および
図5)。シートバックカバー33における本体部32Aの前面を覆っている部分のうちで各送風口32Eと対面する領域周辺は、当該部分の他の領域よりも通気性が高くなるように構成されている。また、本実施形態のシートバックカバー33は、シートバッククッション32の後面下側を覆っている部分に通気部331および被覆部332を含んでいる(
図2~
図5)。
図3および
図4に示す二点鎖線は、車両用シート1の使用時におけるシートバックカバー33の通気部331および被覆部332の外形と配置を仮想的に示している。
【0029】
通気部331は、送風ファン34と連通し、かつ、シートバッククッション32の座面(前面)とは異なる部分を覆う位置に形成されている。本実施形態では、シートバッククッション32の凹部32Dの内側空間が送風ファン34と連通しており、シートバックカバー33のうちで凹部32Dの前壁下部に対面する位置から本体部32Aの後面下端部までの部分を覆う位置に、通気部331が形成されている(
図2~
図5)。通気部331は、シートバックカバー33のうちの上記各送風口32Eと対面する領域周辺と同様な高い通気性を有する布状の材料(例えば、クインズコード等)を用いて形成されている。つまり、シートバックカバー33における各送風口32Eと対面する領域周辺と通気部331とは、それら以外の部分よりも通気性が高くなるように構成されている。なお、通気部331に使用する材料は透光性の有無を問わない。
【0030】
具体的に、通気部331は、後方視で、シート幅方向に延びる略長方形に形成されている。ただし、通気部331の形状は上記の一例に限定されない。通気部331のシート幅方向の全幅は、シートバッククッション32の本体部32Aの全幅よりも狭くなっている。通気部331の上端部分および左右両端部分は、シートバックカバー33の後面側下部に縫合されている。通気部331の下側部分は、シートバッククッション32の本体部32Aの後面側下端から下面側前方に向けて本体部32Aを巻き込むように覆っている(
図5)。
【0031】
被覆部332は、通気部331をシート外側から覆う位置に形成されている(
図2~
図5)。被覆部332は、通気性が低く、かつ透光性が殆ど無い布状の材料(例えば、ニードルパンチカーペット等)を用いて形成されている。被覆部332は、シート後方の上側に捲り上げていない車両用シート1の使用時の状態(シート下方の前側に被せた状態)において、後方視で、シート幅方向の全幅が上側から下側に向かうに従い狭くなる略台形状に形成されている。ただし、被覆部332の形状は上記の一例に限定されない。被覆部332の上端側の全幅は、シートバッククッション32の本体部32Aの全幅と同程度、若しくは本体部32Aの全幅よりも広くなっている。被覆部332の上端部分は、通気部331の上端部分と概ね重なる位置で、シートバックカバー33の後面側下部に縫合されている(
図5)。被覆部332の左右両端部分および下端部分は、シートバックカバー33には縫合されていない。つまり、被覆部332の縫合箇所以外の部分は、シートバックカバー33の通気部331を含んだ後面側下部から、シート後方側に間隔を空けて配置可能な構成になっている。被覆部332の下側部分は、シートバッククッション32の本体部32Aの後面側下端から、座部クッション12の下面前方に向けて、本体部32Aおよび座部クッション12を巻き込むように覆っている。
【0032】
また、通気部331には、被覆部332と対面する位置に貫通口が設けられている。本実施形態では、例えば、4つの貫通口331A,331B,331C,331Dが、通気部331のうちでシートバッククッション32の凹部32Dを覆っている部分に、シート幅方向に間隔を空けて設けられている(
図2~
図4)。各貫通口331A~331Dは、通気部331をシート前後方向に貫通しており、シート上下方向に延びるスリット状の形状をそれぞれ有している。各貫通口331A~331Dの下端部分は、ロアクロスフレーム311Dに隣接している。
【0033】
具体的に、第1貫通口331Aおよび第2貫通口331Bは、通気部331のシート幅方向で中央部分に設けられている。後方視で、第1貫通口331Aおよび第2貫通口331Bの間には、配索用ブラケット314Aが配置されている。第1貫通口331Aは、第2貫通口331Bよりも右側のサイドフレーム311C(第2サイドフレーム)側に配置されている(
図4)。第2貫通口331Bは、第1貫通口331Aよりも左側のサイドフレーム311B(第1サイドフレーム)側に配置されている。第1貫通口331Aには、ファン接続用ワイヤハーネス(第1索状体)51が挿通され、第2貫通口331Bには、エアバッグ接続用ワイヤハーネス(第2索状体)52が挿通される(
図2)。また、第3貫通口331Cは、第2貫通口331Bの左方に間隔を空けて配置されている。さらに、第4貫通口331Dは、第1貫通口331Aの右方に間隔を空けて配置されている。なお、通気部331に設けられる貫通口の個数、形状および配置は上記の一例に限定されない。
【0034】
送風ファン34は、シートバック30の座面の周辺空気を調整するための空調機器である。送風ファン34は、ファン接続用ワイヤハーネス51により供給される電力によって双方向に回転可能に構成されている。送風ファン34が一方向に回転(正転)すると、シートバック30の座面の周辺空気が、シートバッククッション32の本体部32Aの前面側に形成されている各送風口32Eから吸い込まれ、本体部32Aの内部の流路32F、送風ファン34、本体部32Aの凹部32Dおよびシートバックカバー33の通気部331を順に通って、シートバック30の後面側に送り出される。一方、送風ファン34が反対方向に回転(逆転)する場合には、シートバック30の後面側の空気が、上記正転時とは逆方向に流れて、シートバック30の座面に送り出される。
【0035】
ヘッドレスト35は、車両用シート1の座部10に着座した乗員の頭部を支持するように構成されている。ヘッドレスト35は、シートバックフレーム31のアッパクロスフレーム311Aの中央部分に設けられているヘッドレストガイド36(
図4)に差し込まれることで、シートバックフレーム31に対して着脱可能に取り付けられる。
【0036】
次に、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52の配索について詳しく説明する。
ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、
図2~
図4に示すように、座部クッション12の下方において、ワイヤ接続部3から、シート後方に向かって延びている。そして、ファン接続用ワイヤハーネス51は、座部クッション12内を通ってシートバックフレーム31の下方側における右側部まで延び、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、座部クッション12内を通ってシートバックフレーム31の下方側における左側部まで延びている。
【0037】
シートバックフレーム31の下方側における右側部に到達したファン接続用ワイヤハーネス51は、上方に向かって湾曲し、シートバックフレーム31のロアクロスフレーム311Dの上方まで延びている。そして、ファン接続用ワイヤハーネス51は、左側に向かって湾曲し、シート幅方向中央に配置された配索用ブラケット314Aまで、ロアクロスフレーム311Dの上方で、シート幅方向に沿って延びている。
【0038】
このとき、ファン接続用ワイヤハーネス51は、配索用ブラケット314Aに到達する手前で、シートバックカバー33の通気部331に設けられている第1貫通口331Aにシート後方側から挿通される(
図2)。つまり、ファン接続用ワイヤハーネス51は、第1貫通口331Aの挿通前において通気部331の外側(シート後方側)を通り、第1貫通口331Aの挿通後において通気部331の内側(シート前方側)を通るように配索されている。ファン接続用ワイヤハーネス51が挿通された状態での第1貫通口331Aの開口面積は、ファン接続用ワイヤハーネス51の断面積よりも広い。このため、ファン接続用ワイヤハーネス51と第1貫通口331Aの縁との間には、隙間が形成されている。
【0039】
したがって、シートバックカバー33の被覆部332が通気部331をシート外側から覆っている状態(
図2において二点鎖線で示した被覆部332の状態)において、ファン接続用ワイヤハーネス51のうちで通気部331の右端から第1貫通口331Aまでの区間に位置している部分は、通気部331と被覆部332の間に配置されていることになる。換言すると、ファン接続用ワイヤハーネス51は、第1貫通口331Aに挿通された状態で通気部331および被覆部332の間に配置され、かつ、第1貫通口331Aの縁との間に隙間が形成されている。このような状態では、通気部331および被覆部332とファン接続用ワイヤハーネス51とによって通気空間V1が形成されている(
図5)。この通気空間V1は、シート幅方向の右端側で車室内空間と連通している。
【0040】
配索用ブラケット314Aに到達したファン接続用ワイヤハーネス51は、配索用ブラケット314Aに支持された後、シートバックフレーム31の左側のサイドフレーム311Bまで、ロアクロスフレーム311Dの上方で、シート幅方向に沿って延びている(
図4)。そして、ファン接続用ワイヤハーネス51は、上方に向かって湾曲し、左側のサイドフレーム311Bに取り付けられている配索用ブラケット314Bに支持された後、左側のサイドフレーム311Bに沿って上方に延びている。さらに、ファン接続用ワイヤハーネス51は、ファン固定用ブラケット312の手前で、右側に向かって湾曲し、送風ファン34まで延びている。
【0041】
一方、シートバックフレーム31の下方側における左側部に到達したエアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、上方に向かって湾曲し、シートバックフレーム31のロアクロスフレーム311Dの上方まで延びている。そして、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、右側に向かって湾曲し、シート幅方向中央に配置された配索用ブラケット314Aまで、ロアクロスフレーム311Dの上方で、シート幅方向に沿って延びている。
【0042】
このとき、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、配索用ブラケット314Aに到達する手前で、シートバックカバー33の通気部331に設けられている第2貫通口331Bにシート後方側から挿通される(
図2)。つまり、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、第2貫通口331Bの挿通前において通気部331の外側(シート後方側)を通り、第2貫通口331Bの挿通後において通気部331の内側(シート前方側)を通るように配索されている。エアバッグ接続用ワイヤハーネス52が挿通された状態での第2貫通口331Bの開口面積は、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52の断面積よりも広い。このため、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52と第2貫通口331Bの縁との間には、隙間が形成されている。
【0043】
したがって、シートバックカバー33の被覆部332が通気部331をシート外側から覆っている状態(
図2において二点鎖線で示した被覆部332の状態)において、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52のうちで通気部331の左端から第2貫通口331Bまでの区間に位置している部分は、通気部331と被覆部332の間に配置されていることになる。換言すると、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、第2貫通口331Bに挿通された状態で通気部331および被覆部332の間に配置され、かつ、第2貫通口331Bの縁との間に隙間が形成されている。このような状態では、通気部331および被覆部332とエアバッグ接続用ワイヤハーネス52とによって通気空間V2が形成される(
図5)。この通気空間V2は、シート幅方向の左端側で車室内空間と連通している。また、前述したファン接続用ワイヤハーネス51によって形成される通気空間V1と、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52によって形成される通気空間V2とは、シート幅方向に連通している。つまり、通気空間V1,V2の全体は、シート幅方向の両端側で車室内空間と連通している。
【0044】
配索用ブラケット314Aに到達したエアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、配索用ブラケット314Aに支持された後、ロアクロスフレーム311Dの右端部に配置された配索用ブラケット314Cまで、ロアクロスフレーム311Dの上方で、シート幅方向に沿って延びている(
図4)。そして、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、配索用ブラケット314Cに支持された後、上方に向かって湾曲し、エアバッグ装置71まで、右側のサイドフレーム311Cに沿って延びている。
【0045】
次に、本実施形態による車両用シート構造の作用について説明する。
上記のような構造を有する車両用シート1では、ファン接続用ワイヤハーネス51によってバッテリ装置からの電力が送風ファン34に供給されることで、送風ファン34が所望の方向に回転する。ここでは、例えば、シートバック30の座面の周辺空気をシートバック30の後面側に送る方向に送風ファン34が回転(正転)する場合の作用について
図5を参照しながら説明する。なお、送風ファン34が反対方向に回転(逆転)する場合については、送風ファン34が正転する場合と同様にして考えることができるため、ここでの説明を省略する。
【0046】
送風ファン34が正転する場合、
図5の矢印線に示すように、シートバック30の座面の周辺空気が、シートバッククッション32の本体部32Aに形成されている各送風口32Eから吸い込まれ、本体部32Aの内部の流路32Fを通って送風ファン34に導かれる。送風ファン34を通過した空気は、本体部32Aの後面側に設けられている凹部32Dとシートバックカバー33の間に形成されている空間を通った後、シートバックカバー33の通気部331および各貫通口331A~331Dを通過して、通気部331と被覆部332との間に形成されている通気空間V1,V2に導かれる。
【0047】
通気部331および被覆部332の間の通気空間V1,V2では、被覆部332の通気性が低いため、通気部331および各貫通口331A~331Dを通過した空気の流れが被覆部332で遮られ、該空気の流れ方向がシート幅方向に変化する。そして、通気空間V1,V2をシート幅方向に流れる空気は、通気空間V1の右端側および通気空間V2の左端側から車室内空間に送り出されるようになる。
【0048】
以上説明したように本実施形態による車両用シート1では、シートバックカバー33が、送風ファン34と連通し、かつ、シートバッククッション32の座面とは異なる部分を覆う位置に形成されている通気性を有する通気部331と、通気部331をシート外側から覆う位置に形成されている被覆部332と、を含んでいる。このような構造では、上述した従来の車両用シートに設けられていた通気口が、シートバックカバー33の通気部331によって構成される。これにより、物品等がシートバックカバー33の通気部331の位置に接触した場合に、通気部331を容易に変形、破壊または変位させて、物品等に荷重が集中するのを抑制することができる。また、シートバックカバー33の通気部331が被覆部332によってシート外側から覆われているので、車室内への通気部331の露出を避けることが可能である。
【0049】
また、本実施形態による車両用シート1では、シートバックカバー33について、通気部331および被覆部332の間に可撓性を有するファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52が配置されており、通気部331および被覆部332とファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52とによって通気空間V1,V2が形成されている。このような通気空間V1,V2が形成されることによって、シートバックカバー33の通気部331の通気性を高めることができる。また、物品等の接触時には、可撓性を有するファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52を変形させて荷重を吸収したり、当該ワイヤハーネスと伴に物品等をシートバッククッション32の側へ移動させて、シートバッククッション32で荷重を吸収したりすることが可能である。さらに、シートバックカバー33の被覆部332によってファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52も覆われるので、車室内への当該ワイヤハーネスの露出も避けることができる。
【0050】
また、本実施形態による車両用シート1では、シートバックカバー33の通気部331が、被覆部332と対面する位置に貫通口331A~331Dを有している。このような構造においては、被覆部332によって貫通口331A~331Dが覆われるので、車室内への貫通口331A~331Dの露出を避けつつ、貫通口331A~331Dを介して空気を送ることができるので、送風ファン34による送風効率を高めることが可能になる。
【0051】
また、本実施形態による車両用シート1では、ファン接続用ワイヤハーネス51が、第1貫通口331Aに挿通された状態で通気部331および被覆部332の間に配置され、かつ、第1貫通口331Aの縁との間に隙間が形成されている。同様に、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52が、第2貫通口331Bに挿通された状態で通気部331および被覆部332の間に配置され、かつ、第2貫通口331Bの縁との間に隙間が形成されている。このような構造においては、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52によって第1、2貫通口331A,331Bが塞がれていても、隙間によって第1、2貫通口331A,331Bの通気性を確保することができる。また、ファン接続用ワイヤハーネス51の一部が第1貫通口331Aよりもシート内側に配置されるとともに、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52の一部が第2貫通口331Bよりもシート内側に配置されるので、被覆部332で覆われていない位置に配索されるワイヤハーネスの車室内への露出を効率良く避けることが可能になる。特に、本実施形態では、4つの貫通口331A~331Dのうちのシート幅方向内側に配置されている第1、2貫通口331A,331Bのそれぞれからワイヤハーネスが引き込まれる構成になっているので、ワイヤハーネスの配索作業を容易に行うことができる。
【0052】
また、本実施形態による車両用シート1では、ファン接続用ワイヤハーネス51が、第1貫通口331Aの縁により支持されているとともに、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52が、第2貫通口331Bの縁により支持されている。このような構造においては、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52のシートバックフレーム31に対する支持点を減らすことができる。これにより、配索用ブラケットの設置数を削減できるので、車両用シート1の生産性向上およびコスト低減を図ることが可能になる。加えて、配索用ブラケットの減少により、物品等と配索用ブラケットとが接触し物品等に荷重が集中してしまう可能性を低下させることもできる。
【0053】
また、本実施形態による車両用シート1では、送風ファン34とバッテリ装置とを接続するファン接続用ワイヤハーネス51が第1貫通口331Aを通って配索されるとともに、エアバッグ装置71とバッテリ装置とを接続するエアバッグ接続用ワイヤハーネス52が第2貫通口331Bを通って配索されている。これにより、第1、2貫通口331A,331Bを当該ワイヤハーネスの引込口として兼用することができるので、シート構造の簡略化が可能になる。また、第1、2貫通口331A,331Bに引き込まれるワイヤハーネスが被覆部332で覆われることになるので、車両用シート1の見栄えが損なわれるのを防ぐこともできる。
【0054】
また、本実施形態による車両用シート1では、シートバックフレーム31のロアクロスフレーム311Dに配索用ブラケット314Aが設けられ、該配索用ブラケット314Aによりファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52が支持されている。配索用ブラケット314Aは、シートバックカバー33の被覆部332に対面する位置に配置されており、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、配索用ブラケット314Aとシートバックカバー33の通気部331との間に配索されている部分を有している。このような構造においては、高い剛性を有するシートバックフレーム31に取り付けられた配索用ブラケット314Aによって、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52が支持されることになる。このため、シートバックカバー33の通気部331に形成された第1、2貫通口331A,331Bに過度な負荷をかけることなく、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52を第1、2貫通口331A,331Bの縁で支持することができる。これにより、配索用ブラケットの増加を抑制しつつ、ワイヤハーネスを安定して配索することができる。加えて、配索用ブラケット314Aと車室内空間との間に、可撓性を有するワイヤハーネスと、シートバックカバー33の通気部331および被覆部332とが配置されるので、物品等の接触時に、配索用ブラケット314Aから物品等にかかる荷重がワイヤハーネス等で吸収されて、物品等への荷重の集中を効果的に抑制することが可能である。
【0055】
また、本実施形態による車両用シート1では、配索用ブラケット314Aが第1貫通口331Aおよび第2貫通口331Bの間に配置されている。これにより、配索用ブラケット314Aは、シートバックカバー33の通気部331における第1、2貫通口331A,331Bの間に位置する部分で覆われた上で、被覆部332によって更に覆われるようになるので、車室内への配索用ブラケット314Aの露出を確実に回避することができる。
【0056】
また、本実施形態による車両用シート1では、第1、2貫通口331A,331Bがシート幅方向に間隔を空けて配置され、シートバックカバー33の通気部331および被覆部332とワイヤハーネス51,52とによって形成される通気空間V1,V2がシート幅方向の両端側で車室内空間と連通している。このような構造においては、第1、2貫通口331A,331Bの貫通方向(シート前後方向)に流れようとする空気を被覆部332に沿ったシート幅方向に導き、通気空間V1,V2におけるシート幅方向の両端側から車室内空間に送り出すことができる。これにより、シートバックカバー33の被覆部332とシート後方側で対面する位置に乗員がいる場合に、シートバック30側の空気の流れが乗員に違和感を与えるような状況を抑制することができる。具体的には、シートバック30の座面の周辺空気がシートバック30の後面から排出される場合に、当該排気が乗員に直接当らないようにすること可能である。また、シートバック30の後面側の空気を吸い込んでシートバック30の座面に送風する場合に、乗員の前方の空気が吸い取られるような違和感を乗員に与えるのを防ぐことができる。
【0057】
また、本実施形態による車両用シート1では、ファン接続用ワイヤハーネス51が、ロアクロスフレーム311Dおよび左側のサイドフレーム311Bに沿って配索されるとともに、配索用ブラケット314Aに支持され、かつ、第1貫通口331Aに挿通されている。一方、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52は、ロアクロスフレーム311Dおよび右側のサイドフレーム311Cに沿って配索されるとともに、配索用ブラケット314Aに支持され、かつ、第2貫通口331Bに挿通されている。このような構造においては、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52をシートバックフレーム31に沿って容易に配索することができる。また、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52が配索用ブラケット314Aに支持されるので、物品等が配索用ブラケット314Aに近づいても、配索用ブラケット314Aに支持されているワイヤハーネスで荷重を受け止めることができ、物品等に荷重が局所的に集中するのを抑制することが可能である。
【0058】
また、本実施形態による車両用シート1では、第1貫通口331Aが第2貫通口331Bよりも右側のサイドフレーム311C側に配置され、第2貫通口331Bが第1貫通口331Aよりも左側のサイドフレーム311B側に配置されており、ファン接続用ワイヤハーネス51が、第1貫通口331Aから左側のサイドフレーム311Bに向けてロアクロスフレーム311Dに沿って引き回され、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52が、第2貫通口331Bから右側のサイドフレーム311Cに向けてロアクロスフレーム311Dに沿って引き回されている。このとき、ファン接続用ワイヤハーネス51の引き回し方向とエアバッグ接続用ワイヤハーネス52の引き回し方向とが逆方向となっている。このような構造とすることにより、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52を個別に配索し易くすることができる。
【0059】
次に、上述した実施形態による車両用シート1の変形例について説明する。
図6は、車両用シート1の変形例を示す後面図である。なお、
図6には、上述した
図2と同様に、車両用シート1のヘッドレスト35を取り外し、シートバックカバー33の被覆部332をシート後方の上側に捲った状態が示されている。
【0060】
図6において、上記変形例における車両用シート1の構造が上述した実施形態の場合と相違する点は、被覆部332の内側面(通気部331と対面する側の面)に規制部332A,332Bおよび保持部332C,332Dが設けられている点と、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52のそれぞれにコネクタ51A,52Aが設けられている点である。また、上述した実施形態ではシートバックカバー33の通気部331に4つの貫通口331A~331Dが形成されていたのに対して、
図6の変形例では、通気部331に2つの貫通口331E,331Fが形成されている。なお、上記以外の変形例の構造は、上述した実施形態の構造と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0061】
規制部332A,332Bは、通気部331の外側に配索されているファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52のシート幅方向の移動を規制するために設けられている。具体的に、規制部332A,332Bは、被覆部332の内側面において、シート上下方向に間隔を空けて複数(ここでは2つ)配置されており、シート幅方向に帯状に延びている。各規制部332A,332Bのシート幅方向の両端部分は、被覆部332の内側面におけるシート幅方向両側部に縫合されている。
【0062】
具体的に、被覆部332を捲り上げた状態で下側に位置している規制部332Aにおけるシート幅方向の両端部分は、被覆部332におけるシート幅方向の全幅がシート上下方向に変化している領域332Eの両側部に沿って配置されている。また、規制部332Aのシート幅方向の両端部分は、被覆部332における全幅が変化している領域332Eと全幅が一定の領域332Fとの境界部分(くびれ部分)332Gを跨ぐように配置されている。被覆部332を捲り上げた状態で上側に位置している規制部332Bにおけるシート幅方向の両端部分は、被覆部332におけるシート幅方向の全幅が一定の領域332Fの両側部に沿って配置されている。
【0063】
上記のような各規制部332A,332Bと被覆部332との接続(縫合)部分は、
図6に二点鎖線で示した被覆部332を捲り上げていない使用時の状態(シート下方の前側に被せた状態)において、通気部331から下方にオフセットした位置に配置されている。換言すると、後方視で、各規制部332A,332Bの縫合部分と通気部331とが重ならない配置となっている。具体的に
図6の変形例においては、各規制部332A,332Bの縫合部分が、通気部331の貫通口331E,331Fからシート幅方向外側かつシート下方にオフセットした位置に配置されている。
【0064】
各規制部332A,332Bのシート幅方向の中間部分と被覆部332の内側面との間には、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52を挿通可能な空間が形成されている。各ワイヤハーネスのコネクタ51A,52Aに近い側の規制部332Bにおけるシート上下方向の幅は、コネクタ51A,52Aに遠い側の規制部332Aにおけるシート上下方向の幅よりも狭くなるように形成されている。
【0065】
保持部332C,332Dは、被覆部332の内側面にエアバッグ接続用ワイヤハーネス52を保持するために設けられている。
図6の変形例では、2つの規制部332A,3332Bそれぞれに対してシート上下方向に間隔を空けて2つの保持部332C,332Dが設けられている。換言すると、2つの保持部332C,332Dが規制部332Aを挟んでシート上下方向に配置されている。なお、保持部の数は2つに限定されず、1つまたは3つ以上の保持部を被覆部332の内側面に設けてもよい。また、必要であれば、ファン接続用ワイヤハーネス51を保持するための保持部を被覆部332の内側面に設けてもよい。
【0066】
具体的に、保持部332C,332Dは、弾性特性または可撓性を有しているのが好ましく、例えば、表皮部材またはテープ等を用いて構成することが可能である。保持部332C,332Dが表皮部材で構成されている場合、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52の摺動が許容されるので、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52を位置調整しやすくなる。一方、保持部332C,332Dがテープで構成されている場合には、保持部332C,332Dの周辺におけるエアバッグ接続用ワイヤハーネス52の摺動を規制することができる。
【0067】
ファン接続用ワイヤハーネス51のコネクタ51Aおよびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52のコネクタ52Aは、例えば、座部クッション12の下方のワイヤ接続部3に繋がる他のワイヤハーネス等に、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52を電気的に接続するための端子である。
【0068】
通気部331に形成されている右側の貫通口331Eは、上述した実施形態の第1貫通口331Aに対応しており、ファン接続用ワイヤハーネス51の引込口としても使用される。また、左側の貫通口331Fは、上述した実施形態の第2貫通口331Bに対応しており、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52の引込口としても使用される。各貫通口331E,331Fは、通気部331のシート幅方向の両側部分に配置され、シート上下方向に延びている。貫通口331E,331Fの各下端部は、シートバックフレーム31のロアクロスフレーム311D(
図4および
図5)と重なる位置、またはロアクロスフレーム311Dの下方まで延びている。
【0069】
上記のような車両用シート1の変形例では、被覆部332の規制部332A,332Bにより、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52が被覆部332のよりもシート幅方向外側に移動することを規制できるようになる。このため、ワイヤハーネスの車室内への露出を確実に抑制することが可能である。特に、規制部332Aのシート幅方向の両端部分が被覆部332の全幅の変化領域332Eの両側部に沿って配置されていることで、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52をシート幅方向の内側に誘導しやすくなる。さらに、上記規制部332Aの両端部分が被覆部332のくびれ部分332Gを跨ぐように配置されていることで、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52を被覆部332の内側面における配索方向(シート上下方向)に沿わせやすくすることができる。これらにより、ワイヤハーネスの露出抑制効果が高められる。
【0070】
上記のような規制部332A,332Bに加えて、被覆部332の保持部332C,332Dにより、エアバッグ接続用ワイヤハーネス52を位置決めしているので、該エアバッグ接続用ワイヤハーネス52の車室内への露出をより確実に抑制することが可能になる。特に、2つの規制部332A,332Bの間に保持部332Dを設けるようにすれば、各規制部332A,332Bに対するエアバッグ接続用ワイヤハーネス52の移動および摺動を規制または制限することができる。このような保持部332C,332Dは、各規制部332A,332Bとは重ならない位置に設けられているので、各保持部332C,332Dによりエアバッグ接続用ワイヤハーネス52を保持する作業を容易に行うことができる。
【0071】
また、車両用シート1の変形例では、通気部331の貫通口331E,331Fがロアクロスフレーム311Dと重なる位置(または下方)まで延びているので、貫通口331E,331Fの面積が大きくなり、空気をより一層流通させやすくなる。さらに、被覆部332を捲り上げていない使用時の状態において、被覆部332と規制部332A,332Bとの接続(縫合)部分が、通気部331の貫通口331E,331Fからシート幅方向外側かつシート下方にオフセットした位置に配置されていることで、貫通口331E,331Fに流れる空気が規制部332A,332Bによって妨げられ、空気が流通し難くなるのを抑制することができる。特に、被覆部332の規制部332A,332Bが通気部331と重ならないように配置されていれば、貫通口331E,331Fへの空気の流れが規制部332A,332Bにより妨げられるのを確実に抑制することが可能になる。つまり、
図6における通気部331付近の左右方向の空気の流れが、被覆部332の規制部332A,332Bによって妨げられるのを回避している。
【0072】
また、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52のそれぞれが、配索方向の途中でコネクタ51A,52Aによって分離可能に構成されているので、被覆部332を捲り上げたときに、シートバック30側に分離したワイヤハーネスを被覆部332と一緒に移動させることができる。これにより、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52の配索作業や被覆部332の開閉作業を容易に行うことが可能になる。加えて、各ワイヤハーネスのコネクタ51A,52Aに近い側の規制部332Bの幅が遠い側の規制部332Aの幅よりも狭くなるように形成されていることで、各ワイヤハーネスのコネクタ51A,52A側の部分が摺動および変形しやすくなるので、コネクタ51A,52Aの接続作業を容易に行うことができる。
【0073】
以上、本発明の実施形態とその変形例について述べたが、本発明は上述した実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。例えば、上述した実施形態および変形例では、送風ファン34がシートバック30側に配置されている一例を説明したが、送風ファン34が座部10側に配置されている場合にも本発明のシート構造を応用することが可能である。
【0074】
また、上述した実施形態および変形例では、ファン接続用ワイヤハーネス51およびエアバッグ接続用ワイヤハーネス52が、可撓性を有するシート構成部品として、通気部331および被覆部332の間に配置される一例を説明したが、ワイヤハーネス以外の他のシート構成部品(例えば、クッション材の一部やS字状ばねなど)が、通気部331および被覆部332の間に配置されていてもよい。本発明における可撓性を有するシート構成部品は、材質自体を細くして可撓性を持たせた部品でもよく、或いは、部品自体には可撓性がなくともその周囲に弾性体等を配置して可撓性を持たせたものであってもよい。
【0075】
また、上述した実施形態および変形例では、第1、2貫通口331A,331Bがシート幅方向に間隔を空けて配置される一例を示したが、通気部の表面に沿う方向(例えば、シート上下方向など)に間隔を空けて第1、2貫通口を配置することが可能である。
【0076】
また、上述した実施形態および変形例では、第1~4貫通口331A~331Dが通気部331に形成される一例を説明したが、貫通口を区画する壁面が、シートカバーのうちの通気部以外の部分であって被覆部に覆われている部分に含まれていてもよい。
【0077】
また、上述した実施形態および変形例では、被覆部332の上端部分がシートバックカバー33に縫合されておりシート上方に捲ることが可能な一例を示したが、被覆部のシート幅方向側部を縫合してシート幅方向に捲る、或いは、被覆部の下端部分を縫合してシート下方に捲るように構成してもよい。さらに、被覆部は、シートカバーから取り外し可能に構成されていてもよい。この場合、被覆部は、例えば、ジッパーや面ファスナー、ボタン、クリップ等によって、シートカバーに着脱可能に固定する。加えて、被覆部は、透光性が低ければ、通気部のような通気性を有していても構わない。
【符号の説明】
【0078】
1…車両用シート
2…シートレール
3…ワイヤ接続部
10…座部
11…座部フレーム
12…座部クッション
13…座部カバー
30…シートバック
31…シートバックフレーム
311…フレーム本体
311A…アッパクロスフレーム
311B…左側のサイドフレーム(第1サイドフレーム)
311C…右側のサイドフレーム(第2サイドフレーム)
311D…ロアクロスフレーム(クロスフレーム)
312…ファン固定用ブラケット
313…エアバッグ固定用ブラケット
314A~314C…配索用ブラケット(ブラケット)
315…S字状ばね
32…シートバッククッション(クッション材)
32A…本体部
32B…左側のサイドクッション部
32C…右側のサイドクッション部
32D…凹部
32E…送風口
32F…流路
33…シートバックカバー(シートカバー)
331…通気部
331A~331F…貫通口
332…被覆部
332A,332B…規制部
332C,332D…保持部
34…送風ファン(送風装置)
35…ヘッドレスト
36…ヘッドレストガイド
51…ファン接続用ワイヤハーネス(第1索状体)
52…エアバッグ接続用ワイヤハーネス(第2索状体)
51A,52A…コネクタ
71…エアバッグ装置(シート側装置)
V1,V2…通気空間