(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086972
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ポリマー粉末の熱処理のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B29B 13/02 20060101AFI20240621BHJP
B29B 7/10 20060101ALI20240621BHJP
C08J 99/00 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
B29B13/02
B29B7/10
C08J99/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024068598
(22)【出願日】2024-04-19
(62)【分割の表示】P 2021500720の分割
【原出願日】2019-07-09
(31)【優先権主張番号】62/696,390
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ドニ・ジル・ユズ
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・ブリュレ
(72)【発明者】
【氏名】ナディーヌ・デクレマー
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ブルース・クレイ
(57)【要約】
【課題】一般に、本発明は、容器内部のある特定の温度(又は一連の複数の特定の温度若しくは温度勾配)における半結晶性又は結晶化可能なポリマー(例えば、PAEK)粉末の熱処理プロセスを行うための方法及び装置である。
【解決手段】装置は、粉末の最高融点の結晶形態の溶融温度よりも低い温度に粉末を加熱するための加熱装置と、加熱装置によって発生する熱に曝露する粉末を収容する容器と、容器内の粉末を容器に対して運動させるための運動機構とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半結晶性又は結晶化可能なポリマーの粉末の熱処理方法であって:
容器の内部領域内に収容される前記粉末を、前記ポリマーの最高融点の結晶形態の溶融温度よりも低い温度に加熱するステップと;
前記容器内の前記加熱された粉末を前記容器に対して運動させるために、前記容器を運動させるステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記粉末が、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、好ましくはポリエーテルケトンケトン(PEKK)、より好ましくは約60:40のT:I比を有するポリエーテルケトンケトン(PEKK)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粉末がポリエーテルケトンケトン(PEKK)を含み、前記加熱するステップが、230℃~295℃又は260℃~290℃の温度に前記粉末を加熱するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記加熱するステップが、前記ポリマーのガラス転移温度(Tg)よりも高い温度に前記粉末を加熱するステップを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記容器内に配置された混合要素、好ましくはふるいを通過するように前記粉末を運動させるステップ、又は前記粉末を通過するようにコンパクトな形状を有する混合要素を運動させるステップのいずれかをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記容器内に配置された混合要素、好ましくはふるいを通過するように前記粉末を運動させるステップと、前記ふるいを前記容器とともに回転させるステップとをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記容器の第1の軸のまわりの1つの回転方向に前記容器を回転させるステップをさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記容器の前記第1の軸のまわりの2つの異なる回転方向に前記容器を回転させるステップをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記容器の前記第1の軸のまわりの第1の回転方向に前記容器を回転させるステップと、前記容器が1回転に到達する前に、前記第1の回転方向とは反対の第2の回転方向に前記容器を回転させるステップとをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の軸に対して垂直である前記容器の第2の軸のまわりに前記容器を回転させるステップをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1及び第2の軸のまわりに前記容器を同時に回転させるステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記容器をオーブン中に配置するステップをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記容器が回転成形ユニットの一部を形成する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記容器の運動中に前記容器の内面から集塊を除去するステップをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
半結晶性又は結晶化可能なポリマーの粉末を熱処理するための装置であって:
前記粉末を、前記ポリマーの最高融点の結晶形態の溶融温度よりも低い温度に加熱するための加熱装置と;
前記加熱装置によって発生する熱に曝露する容器であって、前記粉末を収容するための内部領域を画定する容器と;
前記容器内の前記粉末を前記容器に対して運動させるための、前記容器の運動手段と、
を含む、装置。
【請求項16】
前記容器の運動によって前記容器内の前記粉末をふるい分けするために前記容器に配置されるふるい、又は前記容器の運動によって前記粉末に接触するための前記容器内に配置された、コンパクトな形状を有し、前記容器内で独立して運転するように構成される混合要素のいずれかをさらに含む、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記装置が、前記容器の運動によって前記容器内の前記粉末を解凝集させるために前記容器内に配置された有孔パネルであるふるいをさらに含む、請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記運動手段が、前記容器を回転させるように構成されるモーターシャフトであり、前記モーターシャフトが直接又は間接のいずれかで前記容器に取り付けられる、請求項15~17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記運動手段が、前記容器を回転させるために前記容器に接触して配置されるモーター付きローラーである、請求項15~18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記容器が円筒管である、請求項15~19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記容器が箱形である、請求項15~19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記加熱装置がオーブンであり、前記容器が前記オーブン内に配置される、請求項15~21のいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
前記加熱装置が発熱体であり、前記発熱体が、前記容器に接続されるか、又は前記容器の一部である、請求項15~21のいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
前記装置が回転成形ユニットである、請求項15~23のいずれか一項に記載の装置。
【請求項25】
前記容器の内面から集塊を除去するための手段をさらに含む、請求項15~24のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)ポリマーなどの半結晶性又は結晶化可能なポリマーの粉末の熱処理のための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
Arkemaに付与された米国特許第9,587,107号明細書(その開示全体があらゆる目的で参照により本明細書に援用される)に記載されるように、選択的レーザー焼結(SLS)プロセスでは、ポリマー粉末の床を予熱チャンバー中で予熱し、次に焼結チャンバー中で薄い層として分布させ、そこでレーザーを使用して床の特定の部分を加熱して、ポリマー粉末の一部をあらかじめ決定されたパターンで選択的に焼結させる。これに続いて、床中に第2の層を形成し、その第2の層中の材料を再び加熱し、あるパターンで選択的に焼結させる。同時に、第2の層は、第1の層の焼結部分への融合も起こる。このような連続的な層形成及び焼結によって三次元部品を形成することができ、これは次に焼結していない粉末床から取り出される。このような方法の態様は、例えば、米国特許第7,847,057号明細書(その開示全体があらゆる目的で参照により本明細書に援用される)にも記載されている。
【0003】
SLSプロセスの前の予備的な熱処理ステップによって、粉末のより均一な溶融が得られ、粉末の流動性が改善され、高温における粉末の取り扱いを必要とする用途における摩耗率が低下することが示されている。熱処理プロセスは、例えば、米国特許出願公開第20160108229A1号明細書及び米国特許出願公開第20160122527A1号明細書、並びに米国特許出願第15/830,100号明細書(これらの開示全体があらゆる目的で参照により本明細書に援用される)に記載されている。米国特許第9,580,551号明細書(その開示全体があらゆる目的で参照により本明細書に援用される)には、SLSプロセスの有効性及び製品の品質を改善するための熱処理方法が記載されている。
【0004】
熱処理プロセスは従来技術において開示される場合もあるが、大規模の製造量で熱処理を行うことが可能な設備に関する開示は比較的少ない。例えば、米国特許第9,587,107号明細書などに記載されるようなSLSプロセスに使用するために熱処理されるポリマー粉末の予備的熱処理ステップのための方法及び装置が以下に記載される。
【0005】
伝導によって熱を伝達する必要があり、ポリマー及び空気の両方が低い熱伝導率を有するので、静的オーブンにおける熱処理の実施によって問題及び欠点が生じる。外層が断熱層として機能するので、バッチサイズを増加させると、この熱伝達はさらに困難になる。ある厚さを超えると、すべての粉末の加熱は不可能になる場合がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般に、本発明は、容器内部のある特定の温度(又は一連の複数の特定の温度若しくは温度勾配)における半結晶性又は結晶化可能なポリマー(例えば、PAEK)粉末の熱処理プロセスを行うための方法及び装置である。容器の高温の内面上で、好ましくは実質的に絶え間なく、より好ましくは絶え間なく粉末が移動又は運動するように、この容器は(例えば、回転、循環、部分的な回転、部分的な循環、振動など)によって運動し、それによって粉末の均一又はより均一な加熱が行われ、容器表面上での固まり、凝集、及び/又は固着も回避される。これによって、例えばSLSプロセスにおけるさらなる処理及び使用が可能となる熱処理された粉末がより大きいパーセント値又はより多い量でも得られる。
【0007】
静的オーブンと比較すると、回転オーブンでは、オーブンの高温表面上に粉末が繰り返し接触することによって、より効率的で均一な熱伝達が保証される。結果として、粉末の熱処理時間を実質的に短縮することができ、バッチサイズを増加させることができる。これら両方の要因によって、生産性が改善される。さらに、過熱及び凝集物の形成の危険性は減少する。
【0008】
一実施形態では、本発明は、粉末形態であり多形であってよい、半結晶性又は結晶化可能なポリマーを熱処理するための装置を提供する。この装置は、粉末の最高融点の結晶形態の溶融温度よりも低い温度に粉末を加熱するための加熱装置と;加熱装置によって発生する熱に曝露する容器であって、粉末を収容するための内部領域を画定する容器と;容器内の粉末を容器に対して運動させるための、容器の運動手段とを含む。
【0009】
本発明の別の一実施形態は、粉末形態である半結晶性又は結晶化可能なポリマー(多形ポリマーを含む)の熱処理方法を提供する。この方法は、容器の内部領域内に収容される単形又は多形の半結晶性又は結晶化可能なポリマー粉末を、粉末の最高融点の結晶形態の溶融温度よりも低い温度に加熱するステップと;容器内の加熱された半結晶性又は結晶化可能なポリマー粉末を容器に対して運動させるために、容器を運動させるステップとを含む。
【0010】
PAEKの場合、熱処理は、好ましくは約230℃~およそTm-10℃までの温度で行われ、Tmは最高融点の多形又は結晶相の融点である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の代表的な実施形態による、概略的に示される、半結晶性又は結晶化可能なポリマー粉末を熱処理するための装置の等角図を示している。
【
図2A】本発明の第2の代表的な実施形態による、概略的に示される、半結晶性又は結晶化可能なポリマー粉末を熱処理するための別の装置の断面側面図を示している。
【
図2B】線2B-2Bに沿って得られた
図2Aの装置の断面側面図である。
【
図3】回転成形装置を用いた半結晶性又は結晶化可能なポリマー粉末の熱処理の典型的な温度プロファイルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の第1の代表的な実施形態による、概略的に示される、半結晶性又は結晶化可能なポリマー粉末を熱処理するための装置10の等角図を示している。装置10は、一般に、加熱装置12と、加熱装置12によって加熱される粉末を収容するための容器14と、容器14内部に配置され、少なくとも部分的に粉末(図示せず)中に埋没するグリッド又はふるい16などの混合要素と、容器14の運動手段18とを含む。
【0013】
加熱装置12は、熱を発生させ、その熱に容器14及びその内容物を曝露するための機構である。加熱装置12は、容器14が中に配置されるオーブンであってよい。或いは、加熱装置12は、容器14に接続される又は容器14の一部である発熱体であってよい。別の代案として、容器14は、循環する高温油(又はその他の流体)を用いて加熱することができる。加熱装置12は、当業者に周知のあらゆる従来の加熱機構であってよく、図示され説明されるものに限定されるものではない。例えば、加熱装置は、抵抗加熱のプロセスで電気を熱に変換する発熱体を含むことができ、又はこれは循環する場合もある高温油を含むことができる。
【0014】
容器14は、中空管又は円筒などのあらゆる形状を有する容器であり、その中に粉末が収容される。容器14のサイズ及び形状は変動しうることを理解すべきである。容器14は、その長手方向軸A(本明細書では回転軸とも呼ばれる)のまわりを回転するように構成される。容器14は、熱伝導性材料、特に例えばグレード316L又は904などのステンレス鋼などの金属又は金属合金から構成されてよい。容器14の末端は、(図示されるように)開放されているか、又は閉じているかのいずれかであってよい。取り外し可能なリッドクロージャー(図示せず)を容器14の一方の開放端の上に取り外し可能に取り付けることができる。容器14は、操作中の汚染又は粉末の放出を防止するために閉鎖系であってよい。別の実施形態によると、容器14は、ガス(例えば、窒素などの不活性ガス)が容器14を通過して流れるように構成することができる。容器14は、取り外し可能又は永続的のいずれかで装置10内に搭載することができる。
【0015】
混合要素は、粉末が通過できる孔、細孔、又は開口部を有する有孔板であるふるい16を含むことができる。或いは、ふるい16は、横方向に分割される部材を有するラック、すなわち、従来のオーブンラックなどの形態で提供することができる。ある実施形態によると、複数のふるいを容器内部に配置することができる。ふるい16の開口部のサイズ及び形状はさまざまであってよい。ふるい16は、例えばステンレス鋼(グレード316L又は904など)又は別の金属若しくは金属合金などの熱伝導性材料から構成されてよい。或いは、ふるい16は、例えば、コンパクトな形状(球、立方体、円筒形など)を有し、容器内での独立した運動が可能であり、金属又はセラミックのいずれかで構成される複数の混合要素に置き換えてもよい。別の代案として、ふるい16は、全くなくてもよい。
【0016】
本発明の一態様によると、ふるい16が容器14とともに回転するように、ふるい16が容器14に連結する。本発明の別の態様によると、静止したふるい16に対して容器14が回転するように、ふるい16は固定された場所(例えば、加熱装置12上)に連結される。本発明のさらに別の態様では、ふるい16は、容器14とは反対方向に運動又は回転することができる。
【0017】
本発明の一態様によると、容器14は、容器表面から粉末の集塊又は固まりを除去するための手段17を含む。手段17は、例えばスクレーパー、ブラシ、ワイヤブラシ、ナイフ、又はパドルであってよい。静止した手段17に対して容器14が回転するように、手段17は固定された場所(例えば、加熱装置12上)に連結することができる。
【0018】
容器14を運動させるか、又は例えば回転させる1つの手段18は、図示されるようにローラーの形態で提供される。ローラーは、容器14を回転させるために容器14の外周に係合する(回転方向の1つを示す矢印を参照されたい)。ローラー18は、容器14が両方の回転方向に回転するように構成することができる。ローラー18は、ローラー18を回転させるためのモーター(又はその他の動力装置)のギヤ又は出力軸に接続することができる。或いは、容器14をモーターに直接接続することができ、ローラー18は、容器14の回転を可能にする受動装置であってよい。容器14の回転を可能にするローラー18から離れた位置で、受動ローラー20も容器14の外周に係合する。
【0019】
容器14内の粉末の温度を直接又は間接のいずれかで検出するために、温度センサー19を容器14(又は加熱装置12)の内部に配置することができる。
【0020】
加熱装置12、運動手段18、及び温度センサー19は、コントローラー/プロセッサー20に直接又は間接的に接続される。コントローラー/プロセッサー20は、加熱装置12及び運動手段18の動作を制御するように構成される。コントローラー/プロセッサー20は、温度センサー19からの信号を受信するように構成される。コントローラー/プロセッサー20に操作命令を送信するために、ディスプレイ又はキーパッドなどのユーザーインターフェース21が、コントローラー/プロセッサー20に直接又は間接的に接続される。
【0021】
半結晶性又は結晶化可能なポリマー粉末を熱処理するための装置10の代表的な操作方法の1つによると、最初に容器14に、PAEK粉末などの半結晶性又は結晶化可能なポリマーの粉末が投入される。次に容器14をカバー(図示せず)によって閉じることができる。好ましくは、粉末は、容器14の容積の約10~70パーセントの間を占めることができる。より好ましくは、粉末は、容器14の容積の約20~60パーセントの間を占めることができる。より好ましくは、粉末は、容器14の容積の約30~50パーセントの間を占めることができる。或いは、粉末は、容器14の容積の約50%以下を占めることができる。
【0022】
次にコントローラー/プロセッサー20によって、加熱装置12及び運動手段18を作動させる。作動すると、加熱装置12によって、粉末の組成によって左右されるあらかじめ決定された温度まで容器14内の粉末が加熱される。これを加熱するステップと呼ぶ場合がある。米国特許第9,587,107号明細書に記載されるように、あらかじめ決定された加熱温度は、ポリマーの最高融点の結晶形態の溶融温度よりも20度低い、好ましくは10度低い、より好ましくは5度低い温度値、又はポリマーの2つの結晶相の2つの融点の間の温度値であってよい。例えば、あらかじめ決定された加熱温度は、250℃、又は260℃、又は270℃、又は275℃、又は280℃、又は好ましくは285℃であってよい。
【0023】
運動手段18は、(i)連続的に1つの回転方向、又は(ii)往復若しくは揺動方式(例えば、ある回転方向に1回転未満、及び反対の回転方向に1回転未満、又は1回転若しくは1回転を超えて定期的に反転させる)のいずれかで、軸Aのまわりに容器14を回転させる。往復運動の別の一例として、容器14は、ある回転方向に2又は3回転だけ回転させ、次に反対の回転方向に2又は3回転だけ回転させることができる。これを回転又は運動ステップと呼ぶ場合がある。容器14の回転によって、容器14中の粉末の運動及び循環が起こり、これによって粉末の実質的に均一又は均質な加熱が促進され、粉末がより迅速に加熱され、粉末中のホットスポットが防止又は制限される。ふるい16(又は混合要素)によって、形成された凝集物を分離でき、粉末が混合され、それによって粉末の均一性及び性質が改善される。容器14の運動及び重力のために、粉末は、容器14の加熱された内面に対して運動する。したがって、容器14が軸Aのまわりを回転するときに、粉末の粒子は運動し、容器14の加熱された内面上の同じ場所にとどまることはない。粉末がふるい16を通過するときに、ふるい16は、粉末中の凝集物の形成を制限するか実質的に防止するかのいずれかであり、及び/又は形成されうる凝集物を分離する。
【0024】
開始温度(例えば、室温)からあらかじめ決定された温度まで粉末が加熱される第1の時間の間、加熱及び回転のステップは典型的には同時に行われる。この第1の時間は、15分を超え10時間未満、好ましくは6時間未満、より好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下、さらにより好ましくは、30分を超え2時間未満であってよい。あらかじめ決定された温度に到達した後、目標温度を±5℃(すなわち、目標温度の±5℃の範囲内)、又は好ましくは±3℃で維持しながら、加熱及び回転のステップは第2の時間の間続けることができる。この第2の時間は、少なくとも少なくとも1分~7時間、好ましくは1分~約6時間、より好ましくは少なくとも1時間~約5時間、さらにより好ましくは少なくとも約1時間~約4時間であってよい。別の一実施形態では、第2の時間は、少なくとも120分以上であってよい。粉末があらかじめ決定された温度まであらかじめ決定された時間の間十分加熱された後、熱処理された粉末は、場合により冷却され、容器14から取り出される。得られたポリマー粉末は、例えば米国特許第9,587,107号明細書などに記載されるような選択的レーザー焼結に使用できる状態である。
【0025】
好ましい一実施形態では、容器及び/又は生成物は冷却されてもよく、冷却時間及び速度は、例えば、強制空気、散水、又は油、水、若しくは空気などの流体が循環するジャケットを用いて制御されてもよい。好ましくは、生成物が冷却されるとき、及び冷却ステップ中は、回転が維持される。制御パラメーターの1つである冷却時間は、一般に、できる限り短くされ、例えば、40分未満、好ましくは30分未満、より好ましくは20分未満、さらにより好ましくは10分未満である。
【0026】
図2A及び2Bは、本発明の第2の代表的な実施形態による、概略的に示される、半結晶性又は結晶化可能なポリマー粉末113を熱処理するための別の装置110を示している。装置110は、一般に、加熱装置112と、加熱装置112によって加熱される粉末を収容するための容器114と、容器114内部に配置され、少なくとも部分的に粉末中に埋没するグリッド又はふるい116と、容器114を軸Bのまわりで運動させる(例えば、回転させる)手段118と、容器114を軸Cのまわりで運動させる(例えば、回転させる)手段119とを含む。容器114と、加熱装置112並びに手段118及び119とは、従来の回転成形装置であってよい。適切な回転成形機械は、Ferry Industries,Incによって供給されている。回転成形装置は、ConocoPhillipsに付与された米国特許第3,474,165号明細書(その開示全体があらゆる目的で参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0027】
加熱装置112は、熱を発生させて容器114をその熱に曝露するための機構である。加熱装置112は、容器114が中に配置されるオーブンであってよい。或いは、加熱装置112は、容器114に接続される又は容器114の一部である発熱体であってよい。加熱装置112は、当業者に周知のあらゆる従来の加熱機構であってよく、図示され説明されるものに限定されるものではない。
【0028】
容器114は、粉末が中に収容される中空の箱形容器である。容器114は、取り外し可能な蓋114’を有する。以下により詳細に記載されるように、容器114は、軸B及びCのまわりを回転するように構成される。容器114は、例えばグレード316L又は904などの熱伝導性ステンレス鋼から構成される。容器114は、操作中の汚染又は粉末の放出を防止するために閉鎖系である。
【0029】
ふるい116は、粉末が通過できる孔、細孔、又は開口部を有する有孔板であってよい。或いは、ふるい116は、横方向に分割される部材を有するラック、すなわち、従来のオーブンラックなどの形態で提供することができる。ふるい116の開口部のサイズ、形状、及び数は、さまざまであってよい。ふるい116は、例えばグレード316L又は904などの熱伝導性ステンレス鋼から構成されてよい。ふるい116は、容器114の2つの対向する内部のコーナーの間に延在することができ、容器114に対して実質的に固定される。ふるい116は、容器114に対してわずかの量で移動できる場合があり、又は容器114内の同じ場所に固定される場合もある。或いは前述のように、ふるい116を金属球又は類似の物体に置き換えてもよい。別の代案として、ふるい116は全くなくてもよい。
【0030】
容器114を軸Bのまわりで運動させる手段118は、(場合により)図示されるように容器114の底部に(直接又は間接のいずれかで)接続されるシャフトを有するモーターである。手段118は、軸Bのまわりの両方の回転方向に容器114が回転するように構成することができる。
【0031】
容器114を軸Cのまわりで運動させる手段119は、(場合により)図示されるように容器114の側面に(直接又は間接のいずれかで)接続されるシャフトを有するモーターである。手段119は、軸Cのまわりの両方の回転方向に容器114が回転するように構成することができる。同時に軸B及びCの両方のまわりを容器114が回転するように手段118及び119を同時に操作できるように、手段118が容器114を回転させるときに、手段119は手段118も回転させる(又はその逆である)。
【0032】
手段118及び119は、図示され説明されるものとは異なっていてよい。代案の1つとして、手段118及び119の一方を省略することができる。別の代案として、軸B及びCに対して垂直である第3の軸のまわりに容器を回転させるための、容器の第3の運動手段を設けることができる。さらに別の代案として、手段118及び/又は119は、回転の代わりに、それぞれ軸B及びCに沿って往復方式で容器114を振盪(又は振動)させることができる。別の手段は、軸B及びCに対して垂直である第3の軸に沿って往復方式で容器114を振盪(又は振動)させることができる。
【0033】
容器114内の粉末113の温度を直接又は間接のいずれかで検出するために、温度センサー123を容器114(又は加熱装置112)の内部に配置することができる。
【0034】
加熱装置112、手段118及び119、並びに温度センサー123は、コントローラー/プロセッサー120に直接又は間接的に接続される。コントローラー/プロセッサー120は、加熱装置112並びに手段118及び119の動作を制御するように構成される。コントローラー/プロセッサー120は、温度センサー123からの信号を受信するように構成される。コントローラー/プロセッサー120に操作命令を送信するために、ディスプレイ又はキーパッドなどのユーザーインターフェース121が、コントローラー/プロセッサー120に直接又は間接的に接続される。
【0035】
半結晶性又は結晶化可能なポリマー粉末を熱処理するための装置110の代表的な操作方法の1つによると、最初に容器114にポリマー粉末113が投入される。前述のように、粉末は容器114の全容積未満を占めることができる。次に、コントローラー/プロセッサー120によって、加熱装置112並びに手段118及び119を作動させる。作動すると、装置10に関する前述の説明のように、加熱装置112によって、粉末の組成によって左右されるあらかじめ決定された温度まで容器114内の粉末が加熱される。粉末の溶融、凝集、又は融着が回避される又は最小限となるように、温度が制御される。
【0036】
加熱プロセス中、手段118は、(i)連続的に1つの回転方向、又は(ii)往復若しくは揺動方式(例えば、ある回転方向に1回転未満、及び反対の回転方向に1回転未満)のいずれかで、軸Bのまわりに容器114を回転させる。同様に、手段119は、(i)連続的に1つの回転方向、又は(ii)往復若しくは揺動方式(例えば、ある回転方向に1回転未満、及び反対の回転方向に1回転未満)のいずれかで、軸Cのまわりに容器114を回転させる。手段118及び119は、同時に作動させる場合も、させない場合もある。これを回転又は運動ステップと呼ぶ場合がある。
【0037】
容器114が回転すると、容器114中の粉末によって、粉末粒子の運動及び循環が起こり、これによって粉末の実質的に均一又は均質な加熱が促進され、粉末中のホットスポットが防止され、又は実質的に制限される。ふるい116(又は混合要素)によって、形成された凝集物を分離でき、粉末が混合され、それによって粉末の均一性及び性質が改善される。粉末は、容器114の加熱された内面に対して運動する。したがって、容器114が軸B及びCのまわりを回転するときに、粉末の粒子は運動し、容器114の加熱された内面上の同じ場所にとどまることはない。粉末がふるい116を通過するときに、ふるい116は、粉末中の凝集物の形成を制限するか、若しくは実質的に防止し、又は形成されうる凝集物を分離する。
【0038】
加熱及び回転のステップは、典型的には、装置10に関して前述したように行われる。
【0039】
容器及び/又は生成物は冷却されてもよく、冷却時間及び速度は、例えば、強制空気、散水、又は油、水、若しくは空気などの流体が循環するジャケットを用いて制御されてもよい。好ましくは、生成物が冷却されるとき、及び冷却ステップ中は、回転が維持される。制御パラメーターの1つである冷却時間は、一般にできる限り短くされ、例えば、40分未満、好ましくは30分未満、より好ましくは20分未満、さらにより好ましくは10分未満である。
【0040】
装置110の試験中、粉末はあらかじめ決定された温度(例えば約285℃)に約90分で到達し、容器114の加熱された表面上で粉末が連続的に移動するため、粉末の温度は実質的に均一であることが分かった。なんらかの理論によって束縛しようと意図するものではないが、容器114の回転によって、容器114の加熱された内面に接触する粉末の層が常に新しくなり、そのため粉末の新しい層で、容器114の加熱された表面上の粉末の古い層が常に置き換えられると考えられる。熱処理の温度範囲は、好ましくは制限され、維持され、制御されるので、粉末温度の均一性は重要である。特に、熱処理の温度範囲の最高温度を超えると、粉末の溶融及び凝集が起こった。対照的に、本発明の教示による効果的な熱処理によって、所望の改質された結晶構造が実現された。
【0041】
図3は、回転成形装置を用いたポリマー粉末の熱処理の典型的な温度プロファイルを示している。この図は、粉末が約275℃の目標温度に到達するために約100分を要することを示している。
【0042】
本発明を実施するにあたって、比較例の項で以下に記載される別の周知の装置と比較すると、装置10及び110は、半結晶性又は結晶化可能なポリマー粉末を熱処理するための商業的に実現可能な装置であることを発見した。
【0043】
本明細書に記載の種類の装置及び方法は、多形の半結晶性又は結晶化可能なポリマーなどの、半結晶性又は結晶化可能なポリマーの粉末と関連した使用に有用である。本発明は、本明細書に記載の特定の好ましい実施形態に限定されるものではなく、容器に対して容器中の粉末を動かす手段を有するあらゆる容器をさらに含む。
【0044】
本発明と関連して使用できるポリマーは、多形の半結晶性ポリマー、及び/又はポリマーのガラス転移温度よりも高い温度にさらされると半結晶性になることができるポリマーを含む。本明細書において使用される場合、用語「多形の半結晶性又は結晶化可能なポリマー」は、ポリマーが1つ又は2つ以上の結晶形態で存在することができること、及びポリマーが、結晶性である及び/又は熱処理によって1つ以上の結晶性領域を形成可能である1つ以上の領域を有することを意味する。
【0045】
本発明の種々の態様によると、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)ポリマーの粉末を使用してよい。例えば、このようなPAEKポリマー粉末は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルビフェニルエーテルケトン(PEDEK)、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)からなる群から選択されるポリマーの粉末であってよい。国際公開第2015/124903号パンフレットに開示されるようなPEEK-PEDEKなどのポリアリールエーテルケトンのブレンド又は混合物又はコポリマーを本発明の範囲内で使用することもできる。本発明による装置又は本発明による方法を用いた熱処理が有益となりうる別の多形ポリマーとしては、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)のホモポリマー及びコポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
本発明による装置又は方法は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)及びPEK(ポリエーテルケトン)などの1つの結晶形を有するポリマー材料にも適用可能である場合があり、この場合、高温における処理によって、結晶ラメラの直線的な結晶化度が増加し、DSCによって観察されるような最終生成物の溶融温度及び/又は溶融ピークの形状に直接的な方法で影響が生じる(ISO 11357に記載されるような第1の加熱中)。
【0047】
本発明は、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)の場合に特に有用である。ポリエーテルケトンケトンは、当技術分野において周知であり、そのそれぞれの開示全体があらゆる目的で参照により本明細書に援用される以下の特許に記載の方法などのあらゆる適切な重合技術を用いて調製することができる:米国特許第3,065,205号明細書、米国特許第3,441,538号明細書、米国特許第3,442,857号明細書、米国特許第3,516,966号明細書、米国特許第4,704,448号明細書、米国特許第4,816,556号明細書、及び米国特許第6,177,518号明細書。PEKKポリマーは、それらが多くの場合に2つの異なる異性体繰り返し単位を含むという点で、一般的な種類のPAEKポリマーとは異なる。これらの繰り返し単位は、以下の式及びII:
-A-C(=O)-B-C(=O)- I
-A-C(=O)-D-C(=O)- II
で表すことができ、式中、Aはp,p’-Ph-O-Ph-基であり、Phはフェニレン基であり、Bはp-フェニレンであり、及びDはm-フェニレンである。ポリエーテルケトンケトン中の一般にT:I比と呼ばれる式I:式IIの異性体比は、ポリマーの全体の結晶性が変化するように選択される。T:I比は、一般に50:50~100:0で変動し、幾つかの実施形態では60:40~80:20、又は55:45~90:10で変動する。80:20などのより大きなT:I比では、60:40などのより小さいT:I比と比較すると、より高い結晶化度が得られる。ある実施形態によると、本発明により処理される粉末は、約60:40、又は約70:30、又は約80:20、又は約50:50のT:I比を有するPEKK粉末である。
【0048】
適切なポリエーテルケトンケトンは、種々のブランド名で幾つかの商業的供給源から入手可能である。例えば、ポリエーテルケトンケトンは、ArkemaによりKEPSTAN(登録商標)ポリマーのブランド名で販売されている。特定のT:I比を有するポリマーの使用に加えて、ポリエーテルケトンケトンの混合物を使用することができる。
【0049】
本発明において使用される粉末は、合成によって直接製造することができ、又は粉砕、エアミル粉砕、噴霧乾燥、凍結乾燥、若しくは微粉末への直接溶融加工などの種々の方法によって製造することができる。好ましくは、粉末が最初に製造され、熱処理が行われる。熱処理方法及びこの方法によって製造される粉末は、任意の特定の粒度に限定されるものではない。粉末の粒度は、個別の用途の必要性に基づいて、熱処理方法の前又は後に調節することができる。一般に、本発明に有用な粉末は、0.002ミクロン~0.1メートル、より好ましくは0.01ミクロン~1.0mmの間のメジアン体積平均粒度/直径を有することができる。選択的レーザー焼結(SLS)に使用する場合、15~150ミクロンのメジアン体積平均粒度/直径が好ましい場合があり、より好ましくは30~75ミクロンであってよい。「メジアン体積平均粒度」及び「メジアン体積平均粒径」は、本明細書において同義で使用される。
【0050】
本発明のある非限定的な態様によると、PEKKフレークを粉砕すると、ISO13320:2009などのなどの当技術分野において周知のレーザー光散乱方法を用いて乾燥粉末を用いて測定して約10ミクロン~約150ミクロンの間のメジアン体積平均粒径を有するPEKK粉末が生成される。本明細書において使用される場合、「粉末」は、PEKKの小さな粒子から構成される材料を意味することができる。PEKK粉末は、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、又は約150ミクロンのメジアン体積平均粒度を有することができる。好ましい態様では、PEKK粉末は約30ミクロン~約100ミクロンのメジアン体積平均粒度を有する。別の好ましい態様では、PEKK粉末は約50ミクロンのメジアン体積平均粒度を有する。
【0051】
本発明のある非限定的な態様によると、種々の構造の多形の半結晶性又は結晶化可能なポリマーは、高温での粉末の流動が必要な用途においてより良好な粉末の取り扱い及び耐久性を得るために、結晶の融点又は溶融ピークの形状が上昇する、低下する、又は調節されるように熱処理することができる。多形の半結晶性又は結晶化可能なポリマーは、結晶化を誘発する、及び/又は結晶性ポリマーが別の熱力学的により安定な結晶形に変換されるように熱処理することができる。
【0052】
非限定的な一実施形態では、ポリマーは、少なくとも2つの結晶形態を有することができるポリエーテルケトンケトン(PEKK)を含む。この実施形態では、PEKKは最初に非晶質であるが、熱処理を行うと、少なくとも一部のPEKKが、少なくとも1つの結晶形態に変換され、この形態が少なくとも部分的に、より高融点の結晶形態に変換可能となる、ということが可能である。次に熱処理ステップで、ポリマー組成物を、最高融点の結晶形態の融点よりも低く、別の結晶形態の溶融範囲内又はそれより高い温度に、ポリマー組成物中の別の結晶形態に対して最高融点の結晶形態の含有量を増加させる時間の間曝露することによって、より高融点の結晶形態の含有量を増加させることができる。
【0053】
さらに別の一実施形態では、1つの結晶形のポリエーテルケトンケトンの含有量を増加させる方法であって、より低融点の結晶形のポリエーテルケトンケトンの溶融範囲又はそれより高い温度であって、より高融点の結晶形のポリエーテルケトンケトンの融点よりも低い温度において、別の結晶形のポリエーテルケトンケトンを含むポリマー組成物を熱処理するステップを少なくとも含む、方法が提供される。この実施形態でも、出発ポリエーテルケトンケトンは最初に非晶質であるが、熱処理によって、少なくとも一部のポリエーテルケトンケトンが、1つ又は両方の別の結晶形に変換されることが可能である。
【0054】
限定するものではないが、選択的レーザー焼結、回転成形、及び粉末コーティングなどのポリマー粉末を変換するためのあらゆる適切な方法又は周知の方法を用いて、本発明による装置又は本発明による方法を用いて熱処理された粉末を、有用な物品又は物品上のコーティングに変換することができる。
【0055】
発明例1:
図1中に示されるようなオーブン中に配置される回転可能な容器
材料:約50ミクロンのメジアン体積平均粒度を有するKepstan(登録商標)6002 PL PEKK粉末(Arkema,Inc.の製品)。充填:容器の容積の約30%。
【0056】
方法:室温において容器にポリマー粉末を充填した。充填した容器をオーブン中に入れた。オーブンの設定点温度を293℃で固定した。293℃の設定点温度によって、285℃でのポリマー粉末の熱処理が行われた。設定温度(293℃)には2時間後に到達し、続いて3時間維持した。容器は、10rpmの一定回転で動かした。粉末を充填した容器を次にオーブンから取り出し、次にパルス空気で冷却した。この段階中、容器の回転を維持した。処理された粉末は、後に使用する前にふるいにかけることができる。こうして得られた粉末のメジアン体積平均粒度を測定すると約50±3ミクロンであった。
【0057】
発明例2:
図1中に示されるようなオーブン中に配置される回転可能な容器
材料:約50ミクロンのメジアン体積平均粒度を有するKepstan(登録商標)6002 PL PEKK粉末。充填:容器の約10%。
【0058】
方法:室温において容器にポリマー粉末を充填した。充填した容器をオーブン中に入れた。オーブンの設定点温度を293℃で固定した。293℃の設定点温度によって、285℃で粉末の熱処理が行われた。設定温度(293℃)には2時間以内に到達し、続いて3時間維持した。容器は、10rpmの一定回転で動かした。粉末を充填した容器をオーブンから取り出し、次にパルス空気で冷却した。この段階中、容器の回転を維持した。処理された粉末は、後に使用する前にふるいにかけることができる。こうして得られた粉末のメジアン体積平均粒度を測定すると約50±3ミクロンであった。
【0059】
発明例3:
図1中に示されるようなオーブン中に配置される回転可能な容器
材料:約50ミクロンのメジアン体積平均粒度を有するKepstan(登録商標)6002 PL PEKK粉末。充填:容器の容積の約50%。
【0060】
方法:室温において容器にポリマー粉末を充填した。充填した容器をオーブン中に入れた。オーブンの設定点温度を293℃で固定した。293℃の設定点温度によって、285℃でのポリマー粉末の熱処理が行われた。設定温度(293℃)には2時間以内に到達し、続いて3時間維持した。容器は、10rpmの一定回転で動かした。粉末を充填した容器をオーブンから取り出し、次にパルス空気で冷却した。この段階中、容器の回転を維持した。処理された粉末は、後に使用する前にふるいにかけることができる。こうして得られた粉末のメジアン体積平均粒度を測定すると約50±3ミクロンであった。
【0061】
発明例4:
図1中に示されるようなオーブン中に配置される回転可能な容器
材料:約50ミクロンのメジアン体積平均粒度を有するKepstan(登録商標)6002 PL PEKK粉末。充填:容器の約55%。
【0062】
方法:室温において容器にポリマー粉末を充填した。充填した容器をオーブン中に入れた。オーブンの設定点温度を293℃で固定した。293℃の設定点温度によって、285℃でのポリマー粉末の熱処理が行われた。設定温度(293℃)には2時間後に到達し、続いて5時間維持した。容器は、10rpmの一定回転で動かした。粉末を充填した容器を次にオーブンから取り出し、次にパルス空気で冷却した。この段階中、容器の回転を維持した。処理された粉末は、後に使用する前にふるいにかけることができる。こうして得られた粉末のメジアン体積平均粒度を測定すると約50±3ミクロンであった。
【0063】
発明例5:
図1中に示されるようなオーブン中に配置される回転可能な容器
材料:約50ミクロンのメジアン体積平均粒度を有するKepstan(登録商標)6002 PL PEKK粉末(Arkema,Inc.の製品)。充填:容器の容積の約30%。
【0064】
方法:室温において容器にポリマー粉末を充填した。充填した容器をオーブン中に入れた。オーブンの設定点温度を281℃で固定した。281℃の設定点温度によって、275℃でのポリマー粉末の熱処理が行われた。設定温度(281℃)には2時間後に到達し、続いて3時間維持した。容器は、10rpmの一定回転で動かした。粉末を充填した容器を次にオーブンから取り出し、次にパルス空気で冷却した。この段階中、容器の回転を維持した。処理された粉末は、後に使用する前にふるいにかけることができる。こうして得られた粉末のメジアン体積平均粒度を測定すると約50±3ミクロンであった。
【0065】
発明例6:
図1中に示されるようなオーブン中に配置される回転可能な容器
材料:約70ミクロンのメジアン体積平均粒度を有するKepstan(登録商標)6002 PEKK粉末(Arkema,Inc.の製品)。充填:容器の容積の約30%。
【0066】
方法:室温において容器にポリマー粉末を充填した。充填した容器をオーブン中に入れた。オーブンの設定点温度を293℃で固定した。293℃の設定点温度によって、285℃でのポリマー粉末の熱処理が行われた。設定温度(293℃)には2時間後に到達し、続いて3時間維持した。容器は、10rpmの一定回転で動かした。粉末を充填した容器を次にオーブンから取り出し、次にパルス空気で冷却した。この段階中、容器の回転を維持した。処理された粉末は、後に使用する前にふるいにかけることができる。こうして得られた粉末のメジアン体積平均粒度を測定すると約70±5ミクロンであった。
【0067】
発明例7:
図2A中に示されるようなオーブン中に配置される回転可能な容器
材料:約50ミクロンのメジアン体積平均粒度を有するKepstan(登録商標)6002 PL粉末。
【0068】
装置:431×431×675mm3の寸法を有する4.76mmの304ステンレス鋼でできた平行六面体のチャンバーを用いたSTP Lab 40 Rotomolder。
【0069】
方法:
図2B中に示されるようにチャンバー中に対角状に配置されるステンレス鋼グリッドとともに、20kgのポリマー粉末をチャンバー中に入れた。粉末が占める体積は、チャンバーの全容積の約42%であった。オーブン温度を285℃に設定した。チャンバーをオーブン中に入れ、
図2A中に示されるような2つの軸のまわりに連続的に回転させた。型の内部の粉末の温度はロトログ(rotolog)で監視し、記録した。
図3中に示されるように、約2時間後、粉末は285±3℃の目標温度に到達し、次に粉末をさらに3時間この温度で維持した。
図3は、粉末温度を示す曲線を平滑にするために修正してあることに留意されたい。次にチャンバーをオーブンから取り出し、強制空気を用いて冷却した。取り出すと、粉末は、260ミクロンにおけるふるい分けで粉末から容易に分離可能な凝集物を15%未満で有する易流動性の粉末であった。これらの凝集物は、弱い圧力を加えると容易に破壊できて微粉末に戻ることが分かった。チャンバーの壁の上に破片/集塊/溶融生成物は見られなかった。こうして得られた粉末のメジアン体積平均粒度を測定すると約50±3ミクロンであった。
【0070】
比較例:以下の各比較例の試験中に、約50ミクロンのメジアン体積平均粒度を有するKEPSTAN(登録商標)6002 PLポリマー粉末を使用した。
【0071】
比較例1:循環空気オーブン
広範な試験後、循環空気オーブンの効率及び生産性は低いことが分かった。粉末の熱伝達係数が低いため、一度に粉末の薄層のみが処理され、そのためプロセスが遅くなりすぎて許容できない。一例では、厚い5cmの粉末層は、粉末の内部温度がオーブンの温度(例えば、285℃)に到達するまでに約7時間を要した。
【0072】
比較例2:スクリュー/アジテーター/撹拌装置
米国特許出願公開第20120364697号明細書(その開示全体があらゆる目的で参照により本明細書に援用される)などの一部の従来技術の参考文献は、粉末を循環させるために撹拌装置を粉末中に埋没させる可能性に言及している。粉末が収容される容器は静止したままであることに言及している。比較試験において、この方法では、粉末の不均一な加熱及びホットスポットが生じ、それによって、溶融したポリマー、装置の壁上の付着物(したがって熱伝達過程が遅くなる)、凝集した粉末、及び熱処理された粉末中の塊が生じ得ることが分かった。
【0073】
比較例3:流動床
流動床ヒーターでは、粉末は容器内に収容され、容器の外壁が加熱される。同時に、気流中に固体を浮遊させるのに十分速い速度で、気体(空気など)が容器に通される。比較試験において、粉末を流動化させるのに必要な空気の量では、粉末が容器を出る前に粉末があらかじめ決定された熱処理温度に到達できないことが分かった。
【0074】
比較例4:パドル乾燥機
パドル乾燥機は、加工塊に熱を加えるか又は熱を除去する、機械的撹拌を行う間接熱伝達装置である。パドル乾燥機は、粉末及び顆粒の間接的な乾燥、加熱、冷却、低温殺菌、結晶化、及び反応に使用することができる。操作中、容器及びパドルが加熱され、粉末が容器中に分配される。比較試験において、少なくとも部分的には、パドル乾燥機の内部に配置される粉末の凝集によって形成される断熱層のために、粉末は、あらかじめ決定された熱処理温度(目標温度の285℃ではなく、例えば260℃)には到達しないことが分かった。
【0075】
比較例5:振動熱処理ユニット
振動熱処理ユニットでは、電流によってらせん管の振動と加熱との両方が起こる。粉末は管の底部開口部に導入され、振動によって、粉末は加熱されたらせん管の内部に移送され、加熱され、管の底部開口部から出る。比較試験において、粉末は、らせんの中に詰まり始め、上部開口部から出ることができないことが分かった。
【0076】
本発明の態様
本発明の種々の説明的な態様は以下のようにまとめることができる:
態様1:多形の半結晶性又は結晶化可能なポリマーの粉末の熱処理方法であって:
容器の内部領域内に収容される粉末を、ポリマーの最高融点の結晶形態の溶融温度よりも低い温度に加熱するステップと;
容器内の粉末を容器に対して運動させるために、容器を運動させるステップと、
を含む方法。
【0077】
態様2:粉末が、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、より好ましくはポリエーテルケトンケトン(PEKK)、最も好ましくは約60:40のT:I比を有するポリエーテルケトンケトン(PEKK)を含む、態様1の方法。
【0078】
態様3:粉末がポリエーテルケトンケトン(PEKK)を含み、加熱するステップが、PEEK粉末を230℃~295℃又は260℃~290℃の温度に加熱するステップを含む、態様2の方法。
【0079】
態様4:熱処理された粉末をレーザー焼結するステップをさらに含む、態様1~4のいずれかの方法。
【0080】
態様5:加熱するステップが、ポリマーのガラス転移温度(Tg)よりも高い温度に粉末を加熱するステップを含む、態様1~4のいずれかの方法。
【0081】
態様6:容器内に配置されたふるいを通過するように粉末を運動させるステップ、又は粉末を通過するようにコンパクトな形状を有する混合要素を運動させるステップのいずれかをさらに含む、態様1~5のいずれかの方法。
【0082】
態様7:容器内に配置されるふるいを通過するように粉末を運動させるステップと、容器とともにふるいを回転させるステップとをさらに含む、態様1~6のいずれかの方法。
【0083】
態様8:容器の第1の軸のまわりの1つの回転方向に容器を回転させるステップをさらに含む、態様1~7のいずれかの方法。
【0084】
態様9:容器の第1の軸のまわりの2つの異なる回転方向に容器を回転させるステップをさらに含む、態様1~8のいずれかの方法。
【0085】
態様10:容器の第1の軸のまわりの第1の回転方向に容器を回転させるステップと、容器が1回転に到達する前に、第1の回転方向とは反対の第2の回転方向に容器を回転させるステップとをさらに含む、態様1~9のいずれかの方法。
【0086】
態様11:第1の軸に対して垂直である容器の第2の軸のまわりに容器を回転させるステップをさらに含む、態様1~10のいずれかの方法。
【0087】
態様12:第1及び第2の軸のまわりに容器を同時に回転させるステップをさらに含む、態様11の方法。
【0088】
態様13:容器をオーブン中に配置するステップをさらに含む、態様1~12のいずれかの方法。
【0089】
態様14:容器が回転成形ユニットの一部を形成する、態様1~13のいずれかの方法。
【0090】
態様15:容器の運動中に容器の内面から集塊を除去するステップをさらに含む、態様1~14のいずれかの方法。
【0091】
態様16:多形の半結晶性又は結晶化可能なポリマーの粉末を熱処理するための装置であって:
粉末を、ポリマーの最高融点の結晶形態の溶融温度よりも低い温度に加熱するための加熱装置と;
加熱装置によって発生する熱に曝露する容器であって、粉末を収容するための内部領域を画定する容器と;
容器内の粉末を容器に対して運動させるための、容器の運動手段と、
を含む、装置。
【0092】
態様17:容器の運動によって容器内の粉末をふるい分けするために容器内に配置されるふるいをさらに含む、態様16の装置。
【0093】
態様18:ふるいが有孔パネルである、態様17の装置。
【0094】
態様19:運動手段が、容器を回転させるように構成されるモーターシャフトであり、モーターシャフトが直接又は間接のいずれかで容器に取り付けられる、態様16~18のいずれかの装置。
【0095】
態様20:運動手段が、容器を回転させるために容器に接触して配置されるモーター付きローラーである、態様16~19のいずれかの装置。
【0096】
態様21:容器が円筒管である、態様16~20のいずれかの装置。
【0097】
態様22:容器が箱形である、態様16~20のいずれかの装置。
【0098】
態様23:加熱装置がオーブンであり、容器がオーブン内に配置される、態様16~22のいずれかの装置。
【0099】
態様24:加熱装置が発熱体であり、発熱体が容器に接続される、態様16~22のいずれかの装置。
【0100】
態様25:装置が回転成形ユニットである、態様16~24のいずれかの装置。
【0101】
態様26:容器の内面から集塊を除去するための手段をさらに含む、態様16~25のいずれかの装置。
【0102】
本明細書において、明確で簡潔な明細書を書くことを可能にする方法で実施形態を記載してきたが、実施形態は、本発明を逸脱せずに種々の組み合わせ又は分離が可能であることを意図しており、そのように認識されるであろう。例えば、本明細書に記載のすべての好ましい特徴は、本明細書に記載される本発明のすべての態様に適用可能であることを認識されるであろう。
【0103】
特定の実施形態を参照しながら本明細書において本発明を例示し説明してきたが、示された詳細に本発明が限定されることを意図するものではない。むしろ、請求項の同等物の意図及び範囲の中で、本発明から逸脱することなく、詳細において種々の修正を行うことができる。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半結晶性又は結晶化可能なポリマーの粉末の熱処理方法であって:
容器の内部領域内に収容される前記粉末を、前記ポリマーの最高融点の結晶形態の溶融温度よりも低い温度に加熱するステップと;
前記容器内の前記加熱された粉末を前記容器に対して運動させるために、前記容器を運動させるステップと、
を含む方法。
【外国語明細書】