(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024086998
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ラットレース回路
(51)【国際特許分類】
H01P 5/22 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
H01P5/22 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024069470
(22)【出願日】2024-04-23
(62)【分割の表示】P 2020046895の分割
【原出願日】2020-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】須田 保
(57)【要約】
【課題】反射特性が最良となる周波数と、透過特性が最良となる周波数と、アイソレーション特性が最良となる周波数と、を一致させることが可能なラットレース回路を提供する。
【解決手段】リング状の導体線路RCに、順に第1のポートP1、第2のポートP2、第3のポートP3および第4のポートP4が設けられたラットレース回路1であって、所定の周波数近辺で各ポートP1~P4の反射特性と透過特性とアイソレーション特性が最良となるように、導体線路RCと各ポートP1~P4との分岐部における高周波電流の位相基準面のずれ量だけ、第1のポートP1と第2のポートP2の間の線路R12の長さ、第2のポートP2と第3のポートP3の間の線路R23の長さおよび、第3のポートP3と第4のポートP4の間の線路R34の長さが、1/4波長よりも長く設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状の導体線路に、順に第1のポート、第2のポート、第3のポートおよび第4のポートが設けられたラットレース回路であって、
所定の周波数近辺で前記各ポートの反射特性と透過特性とアイソレーション特性が最良となるように、前記導体線路と前記各ポートとの分岐部における高周波電流の位相基準面のずれ量だけ、前記第1のポートと前記第2のポートの間の線路の長さ、前記第2のポートと前記第3のポートの間の線路の長さおよび、前記第3のポートと前記第4のポートの間の線路の長さが、1/4波長よりも長く設定されている、
ことを特徴とするラットレース回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波帯の分岐回路などとして使用されるラットレース回路に関する。
【背景技術】
【0002】
ラットレース回路は、誘電体の基板上に印刷配線されたマイクロストリップ回路などで構成される高周波・マイクロ波回路であり、
図7に示すように、一周が1.5波長のリング状の導体線路(リング状線路)RCに、1/4波長間隔つまり60°の角度間隔で引き出して配線されるポートP1~P4が、4つ設けられている(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、一周が1.5波長のリング状線路RCに対して、1/4波長間隔で4つのポートP1~P4を設けると、長さが1/4波長の線路R12、R23、R34が3つ、長さが3/4波長の線路R41が1つ構成される。また、各ポートP1~P4のインピーダンスを50Ωとすると、リング状線路RCのインピーダンスは、√2倍の70.71Ωとなる。
【0003】
このようなラットレース回路では、一番端の第1のポートP1から高周波信号を入力すると、その隣である第2のポートP2と一つ飛ばした第4のポートP4に半分ずつ出力され、その振幅は同じだが位相は180°異なる。このとき、第3のポートP3には出力されない。また、第3のポートP3から高周波信号を入力すると、第2のポートP2と第4のポートP4に半分ずつ出力され、その振幅と位相は同じとなり、第1のポートP1には出力されない。
【0004】
このような動作・作用は可逆的で、第2のポートP2と第4のポートP4から同振幅で同位相の高周波信号を入力すると、第2のポートP2と第4のポートP4から入力された信号を足し合わせた信号が、第3のポートP3に出力される。このとき、第1のポートP1からは出力されない。また、第2のポートP2と第4のポートP4から同振幅で逆位相(位相差180°)の高周波信号を入力すると、第2のポートP2と第4のポートP4から入力された信号を足し合わせた振幅が2倍の信号が、第1のポートP1に出力される。このとき、第3のポートP3からは出力されない。このように、出力されない特性をアイソレーション特性と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来のラットレース回路では、隣接するポートP1~P4間の線路R12、R23、R34の長さが1/4波長であるため、各ポートP1~P4の反射特性が最良・最適となる周波数と、透過特性が最良となる周波数と、アイソレーション特性が最良となる周波数とが一致しない、という問題があることを本願発明者は確認した。
【0007】
すなわち、使用する中心周波数を2.45GHzとした場合、
図8、
図9に示すように、反射特性が最良となる周波数が中心周波数よりも高い周波数に位置する。ここで、
図8、
図9における「S1,1」は、第1のポートP1の反射特性(Sパラメータ)を示し、「S2,2」は、第2のポートP2の反射特性を示し、「S3,3」は、第3のポートP3の反射特性を示し、「S4,4」は、第4のポートP4の反射特性を示す。
【0008】
また、第1のポートP1から高周波信号を入力した際に、第3のポートP3からは出力されないアイソレーション特性は、
図10に示すように、ほぼ中心周波数で最良となる。これに対して、第1のポートP1から高周波信号を入力した際に、第2のポートP2と第4のポートP4から出力される透過特性・伝達特性が最良となる周波数は、
図11に示すように、中心周波数よりも高い周波数に位置する。ここで、
図10、
図11における「S2,1」は、第1のポートP1から第2のポートP2へのSパラメータを示し、「S3,1」は、第1のポートP1から第3のポートP3へのSパラメータを示し、「S4,1」は、第1のポートP1から第4のポートP4へのSパラメータを示す。
【0009】
そこでこの発明は、反射特性が最良となる周波数と、透過特性が最良となる周波数と、アイソレーション特性が最良となる周波数と、を一致させる(近づける)ことが可能なラットレース回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、リング状の導体線路に、順に第1のポート、第2のポート、第3のポートおよび第4のポートが設けられたラットレース回路であって、所定の周波数近辺で前記各ポートの反射特性と透過特性とアイソレーション特性が最良となるように、前記導体線路と前記各ポートとの分岐部における高周波電流の位相基準面のずれ量だけ、前記第1のポートと前記第2のポートの間の線路の長さ、前記第2のポートと前記第3のポートの間の線路の長さおよび、前記第3のポートと前記第4のポートの間の線路の長さが、1/4波長よりも長く設定されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、所定の周波数(中心周波数)近辺で各ポートの反射特性と透過特性とアイソレーション特性が最良となるように、第1のポートと第2のポートの間の線路の長さ、第2のポートと第3のポートの間の線路の長さおよび、第3のポートと第4のポートの間の線路の長さが、1/4波長よりも長く設定されている。このため、各ポートの反射特性が最良となる周波数と、透過特性が最良となる周波数と、アイソレーション特性が最良となる周波数と、を一致させる(近づける)ことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明の実施の形態に係るラットレース回路を示す平面図である。
【
図2】マイクロストリップ線路のT分岐における位相基準面のずれを示す説明図である。
【
図3】
図1のラットレース回路の第1のポートと第2のポートの入力反射特性(周波数特性)の計算値を示す図である。
【
図4】
図1のラットレース回路の第3のポートと第4のポートの入力反射特性(周波数特性)の計算値を示す図である。
【
図5】
図1のラットレース回路の第1のポートから他のポートへの伝達特性(周波数特性)の計算値を示す図である。
【
図6】
図5の第1のポートから第2および第4のポートへの伝達特性の拡大図である。
【
図7】従来のラットレース回路を示す平面図である。
【
図8】
図7のラットレース回路の第1のポートと第2のポートの入力反射特性(周波数特性)の計算値を示す図である。
【
図9】
図7のラットレース回路の第3のポートと第4のポートの入力反射特性(周波数特性)の計算値を示す図である。
【
図10】
図7のラットレース回路の第1のポートから他のポートへの伝達特性(周波数特性)の計算値を示す図である。
【
図11】
図10の第1のポートから第2および第4のポートへの伝達特性の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0014】
図1は、この発明の実施の形態に係るラットレース回路1を示す平面図である。このラットレース回路1は、誘電体の基板上に印刷配線されたマイクロストリップ回路で構成される高周波回路であり、ポートP1~P4の配設間隔を除いて従来のラットレース回路と同等の構成となっている。
【0015】
ラットレース回路1は、リング状の導体線路(リング状線路)RCに、順に第1のポートP1、第2のポートP2、第3のポートP3および第4のポートP4が設けられている。そして、所定の周波数近辺、つまり、使用する中心周波数近辺において、各ポートP1~P4の反射特性と透過特性とアイソレーション特性が最良となるように、第1のポートP1と第2のポートP2の間の線路R12の長さ、第2のポートP2と第3のポートP3の間の線路R23の長さおよび、第3のポートP3と第4のポートP4の間の線路R34の長さが、中心周波数の1/4波長よりも長く設定されている。
【0016】
すなわち、リング状線路RCから引き出される、第1のポートP1と第2のポートP2の角度間隔、第2のポートP2と第3のポートP3の角度間隔および、第3のポートP3と第4のポートP4の角度間隔が、従来の60°よりも大きく(この実施の形態では、60.2°に)設定されている。さらに、第1のポートP1と第4のポートP4の間の線路R41の長さが、従来と同じ3/4波長に設定されている。従って、リング状線路RCの全周の長さは、従来の1.5波長よりも長く設定(リング状線路RCの直径φ1は従来の直径φ2よりも大きく設定)されている。
【0017】
このように、線路R12、線路R23および線路R34の長さを1/4波長よりも長く設定するのは、リング状線路RCからポートP1~P4が分岐する分岐部(根元部)において、高周波電流の位相基準面が分岐部の中心からずれるためである。すなわち、マイクロストリップ線路でT分岐を構成する場合、線路を伝搬する高周波電流の位相基準面が、
図2に示すように、T分岐の交点の中心から少しずれた位置(d
1、d
2ずれた位置)に位置することが知られている。
【0018】
このときのずれ量d
1、d
2は、以下の計算式で算出される。すなわち、
f:周波数[GHz]
t:板厚[mm]
ε
eff:実効誘電率
Z
1:主線路のインピーダンス
Z
2:分岐線路のインピーダンス
d
1:主線路の位相基準面オフセット
d
2:分岐線路の位相基準面オフセット
とすると、
【数1】
ε
eff:主線路の実効誘電率
【数2】
ε
eff:分岐線路の実効誘電率
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0019】
そして、このようなずれがラットレース回路1の分岐部においても生じ、線路R12、線路R23および線路R34の長さを1/4波長とすると、線路R12、線路R23および線路R34と、3/4波長の線路R41とで位相が合わなくなる。従って、この位相基準面のずれ量(T分岐の場合には、ずれ量d1の2倍)だけ、線路R12、線路R23および線路R34の長さを1/4波長よりも長くする必要があると、本願発明者が考察したためである。
【0020】
このため、マイクロストリップ線路のT分岐におけるずれ量d1に基づいて(参考にして)、中心周波数近辺において、各ポートP1~P4の反射特性と透過特性とアイソレーション特性が最良となるように、線路R12、線路R23および線路R34の長さが1/4波長よりも長く設定されている。
【0021】
具体的には、リング状線路RCの直径φ1が30~40mmの場合、1/4波長よりも0.数mm長く設定されており、この延長量は、印刷配線のエッチングの厚み(例えば、18μm)に対して桁違いに大きい値となっている。また、この場合、リング状線路RCの直径φ1は従来の直径φ2(
図7)よりも0.数mm大きい。なお、リング状線路RCの幅D1と各ポートP1~P4の幅D2は、従来のそれらの幅D3、幅D4(
図7)と同値となっている。
【0022】
このような構成のラットレース回路1によれば、所定の周波数(中心周波数)近辺で各ポートP1~P4の反射特性と透過特性とアイソレーション特性が最良となるように、第1のポートP1と第2のポートP2の間の線路R12の長さ、第2のポートP2と第3のポートP3の間の線路R23の長さおよび、第3のポートP3と第4のポートP4の間の線路R34の長さが、1/4波長よりも長く設定されている。このため、各ポートP1~P4の反射特性が最良となる周波数と、透過特性が最良となる周波数と、アイソレーション特性が最良となる周波数と、を一致させる(近づける)、つまり、中心周波数にすることが可能となる。
【0023】
さらに、第1のポートP1と第4のポートP4の間の線路R41の長さが3/4波長に設定されている。つまり、リング状線路RCの全周の長さが1.5波長よりも長く設定されているため、反射特性と透過特性とアイソレーション特性が最良となる中心周波数を、所望の周波数に設定する(近づける)ことが可能となる。
【0024】
ここで、本ラットレース回路1の周波数特性の計算値を
図3~
図6に示す。使用する中心周波数を2.45GHzとした場合、
図3、
図4に示すように、反射特性が最良となる周波数が中心周波数近辺であることが確認できる。ここで、
図3、
図4における「S1,1」は、第1のポートP1の反射特性(Sパラメータ)を示し、「S2,2」は、第2のポートP2の反射特性を示し、「S3,3」は、第3のポートP3の反射特性を示し、「S4,4」は、第4のポートP4の反射特性を示す。
【0025】
また、第1のポートP1から高周波信号を入力した際に、第3のポートP3からは出力されないアイソレーション特性は、
図5に示すように、ほぼ中心周波数で最良となる。さらに、第1のポートP1から高周波信号を入力した際に、第2のポートP2と第4のポートP4から出力される透過特性が最良となる周波数が、
図6に示すように、中心周波数近辺であることが確認できる。ここで、
図5、
図6における「S2,1」は、第1のポートP1から第2のポートP2へのSパラメータを示し、「S3,1」は、第1のポートP1から第3のポートP3へのSパラメータを示し、「S4,1」は、第1のポートP1から第4のポートP4へのSパラメータを示す。
【0026】
このように、本ラットレース回路1の周波数特性は、従来のラットレース回路の周波数特性(
図8~
図11)に比べて、反射特性と透過特性とアイソレーション特性が最良となる周波数が、同じ周波数である中心周波数近辺にあることが確認できる。
【0027】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、ラットレース回路1をマイクロストリップで構成する場合について説明したが、マイクロストリップ以外の導波管などで構成してもよい。また、リング状線路RCの外側にポートP1~P4が引き出される場合について説明したが、リング状線路RCの内側にポートP1~P4が引き出される場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明によるラットレース回路は、レーダ装置、方向探知機、移動体用衛星追尾アンテナ、各種電子応用装置の分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 ラットレース回路
RC リング状の導体線路(リング状線路)
P1 第1のポート
P2 第2のポート
P3 第3のポート
P4 第4のポート
R12 第1のポートと第2のポートの間の線路
R23 第2のポートと第3のポートの間の線路
R34 第3のポートと第4のポートの間の線路
R41 第1のポートと第4のポートの間の線路