(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087002
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240621BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
B41J2/01 307
B41J2/165 101
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024069550
(22)【出願日】2024-04-23
(62)【分割の表示】P 2020163402の分割
【原出願日】2020-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】天野 祐作
(72)【発明者】
【氏名】青木 毅
(57)【要約】
【課題】ノズルを覆う状態にキャップがヘッドに接触するときに所望のキャップ圧を得られやすい液体吐出装置を提供する。
【解決手段】液体吐出装置の一例であるプリンターは、昇降方向±Bに沿って互いにスライド可能な第1部材と第2部材とを有するスライド機構31と、第1部材と固定され、液体を吐出するノズルを有するヘッド20Hと、第2部材と固定され、ヘッド20Hを昇降方向±Bに沿って昇降させる昇降機構30と、ノズルを覆うキャップ64とを備える。第1部材は、長孔27を有する壁部材22Bにより構成され、第2部材は、ピン28Pにより構成される。昇降機構30は、ヘッド20Hがキャップ64から遠ざかる向きへのスライドが生じない状態にて、ヘッド20Hをキャップ64側に向けて相対移動させる。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降方向に沿って互いにスライド可能な第1部材および第2部材を有するスライド機構と、
前記第1部材と固定され、液体を吐出するノズルを有するヘッドと、
前記第2部材と固定され、前記ヘッドを前記昇降方向に沿って昇降させる昇降機構と、 前記ノズルを覆うキャップとを備え、
前記昇降機構は、前記ヘッドが前記キャップから遠ざかる向きへの前記スライド機構を介したスライドが生じない状態にて、前記ヘッドを前記キャップ側に向けて相対移動させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記スライド機構は、前記昇降方向に沿って延びる第1壁面と、前記昇降方向と交差する方向に沿って延びる第2壁面と、前記第1壁面に接触しながら当該第1壁面に対してスライドするスライド部材と、前記スライド部材のスライドにより前記第2壁面との間の接触の有無を切り替え可能な当接面と、を有し、
前記当接面と前記第2壁面とが接触することにより、前記ヘッドが前記キャップから遠ざかる向きへのスライドが生じないことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
昇降方向に沿って互いにスライド可能な第1部材および第2部材を有するスライド機構と、
前記第1部材と固定され、液体を吐出するノズルを有するヘッドと、
前記第2部材と固定され、前記ヘッドを前記昇降方向に沿って昇降させる昇降機構と、 前記ノズルを覆うキャップとを備え、
前記スライド機構は、前記昇降方向に沿って延びる第1壁面と、前記昇降方向と交差する方向に沿って延びる第2壁面と、前記第1壁面に接触しながら前記第1壁面に対してスライドするスライド部材と、前記スライド部材のスライドにより前記第2壁面との間の接触の有無を切り替え可能な当接面と、を有し、
前記昇降機構は、前記当接面と前記第2壁面とが接触した状態にて、前記ヘッドを前記キャップ側に向けて相対移動させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
前記キャップを保持するためのキャップホルダーと、
前記キャップと前記キャップホルダーとの間に固定された第1ばねと
をさらに備え、
前記昇降機構は、前記当接面と前記第2壁面とが接触した状態にて、前記ヘッドを前記キャップに向けて移動させることにより、前記第1ばねを圧縮させることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記スライド機構は、前記当接面と前記第2壁面とが離間する向きに付勢する第2ばねと、
前記昇降方向に交差する方向に沿って延びる面であって前記第2壁面と反対側を向く面である第3壁面と、
前記スライド部材のスライドにより前記第3壁面との間の接触の有無を切り替え可能な第2当接面とをさらに備え、
前記第2ばねのばね定数は、前記第1ばねのばね定数よりも小さいことを特徴とする請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記ヘッドは前記ノズルが開口する面であるノズル面を有し、
前記ヘッドの前記ノズル面が向く向きと反対の向きを向く面であって前記昇降方向における前記ヘッドの移動により前記ヘッドとの間の接触の有無を切り替える当該面である規制面を備え、
前記スライド機構の前記第1壁面と前記スライド部材とは、前記ヘッドと前記規制面とが接触した状態において、スライドすることを特徴とする請求項2~請求項5のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
カム面を有する偏心カムと、前記偏心カムを回転させるための軸とを備え、
前記規制面は、前記偏心カムの前記カム面により構成され、かつ、前記昇降方向における前記ヘッドの位置が第1位置となる第1規制面と、前記ヘッドの位置が第2位置となる第2規制面とを含むことを特徴とする請求項6に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記ヘッドは、当該ヘッドと前記規制面とが接触した状態において、液体を吐出することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記スライド機構は、
前記スライド部材と前記第2壁面とが離間する向きに付勢する第2ばねと、
前記昇降方向と交差する方向に沿って延びる面であって前記第2壁面と反対側を向く当該面である第3壁面と、
前記スライド部材のスライドにより前記第3壁面との間の接触の有無を切り替え可能な第2当接面と
を備えることを特徴とする請求項2~請求項8のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記スライド部材の前記第2当接面が前記第3壁面に接触した状態における前記第2ばねの長さは、
前記第2当接面が前記第3壁面に接触する位置から、前記当接面が前記第2壁面に接触する位置まで前記スライド部材が移動する移動量よりも、長いことを特徴とする請求項9に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙等の媒体に液体を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、媒体にインク等の液体を吐出する液体吐出装置の一例であるインクジェット記録装置が開示されている。この液体吐出装置は、液体を吐出する吐出口が配列された記録ヘッドを保持するヘッドホルダと、ヘッドホルダを所定の位置に移動させることが可能な移動手段と、記録ヘッドの吐出口が配列された吐出口面をキャッピング可能なキャップとを備える。さらに、液体吐出装置は、移動手段によって移動され、所定の位置において当接部材に当接した状態にあるヘッドホルダを、当接の方向に付勢する付勢部材を備える。
【0003】
移動手段は、駆動ギアと、この駆動ギアの回転に伴ってスライドするスライドラックギア(ラックの一例)と、ヘッドホルダと係合しスライドラックギアに連動してスライドすることが可能なスライド部材とを有する。付勢部材は、スライドラックギアとスライド部材との間に介在するバネ部材である。
【0004】
キャップにより吐出口面をキャッピングするための所定の位置において、付勢部材は、媒体を支持する支持部材(例えばプラテン)の幅方向の両側に左右対照に装置内に固定されている当接部材に当接した状態にあるヘッドホルダを、当接の方向に付勢する。この状態で、さらに駆動ギアが回転することにより、吐出口面に対するキャップの接触圧であるキャップ圧が好ましい値に調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の液体吐出装置では、駆動ギアの回転によるヘッドホルダの移動距離を長くしないと所望のキャップ圧を得られない、という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する液体吐出装置は、昇降方向に沿って互いにスライド可能な第1部材および第2部材を有するスライド機構と、前記第1部材と固定され、液体を吐出するノズルを有するヘッドと、前記第2部材と固定され、前記ヘッドを前記昇降方向に沿って昇降させる昇降機構と、前記ノズルを覆うキャップとを備え、前記昇降機構は、前記ヘッドが前記キャップから遠ざかる向きへの前記スライド機構を介したスライドが生じない状態にて、前記ヘッドを前記キャップ側に向けて相対移動させる。
【0008】
上記課題を解決する液体吐出装置は、昇降方向に沿って互いにスライド可能な第1部材および第2部材を有するスライド機構と、前記第1部材と固定され、液体を吐出するノズルを有するヘッドと、前記第2部材と固定され、前記ヘッドを前記昇降方向に沿って昇降させる昇降機構と、前記ノズルを覆うキャップとを備え、前記スライド機構は、前記昇降方向に沿って延びる第1壁面と、前記昇降方向と交差する方向に沿って延びる第2壁面と、前記第1壁面に接触しながら前記第1壁面に対してスライドするスライド部材と、前記スライド部材のスライドにより前記第2壁面との間の接触の有無を切り替え可能な当接面と、を有し、
前記昇降機構は、前記当接面と前記第2壁面とが接触した状態にて、前記ヘッドを前記キャップ側に向けて相対移動させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係るプリンターの媒体の搬送経路を示す模式正断面図。
【
図5】ヘッドユニットおよび本体フレームの一部を拡大した斜視図。
【
図6】ヘッドユニットおよび調整ユニットを示す斜視図。
【
図7】ヘッドユニットおよび調整ユニットの一部を拡大した斜視図。
【
図9】ヘッドユニットおよびキャップユニットを示す正面図。
【
図11】ヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図12】ヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図13】ヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図14】ヘッドユニットが移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図15】ヘッドユニットが移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図16】ヘッドユニットが移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図17】ヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図18】ヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図19】ヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図20】変更例におけるヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図21】変更例におけるヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図22】変更例におけるヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図23】変更例におけるヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図24】変更例におけるヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、液体吐出装置の一実施形態であるプリンター1について説明する。
図1に示されるように、液体吐出装置の一例としてのプリンター1は、記録用紙に代表される媒体Pに対し、液体の一例であるインクを吐出することで記録を行うインクジェット方式の装置として構成されている。なお、各図において示すX-Y-Z座標系は直交座標系である。
【0011】
Y方向は、媒体の搬送方向と交差する媒体の幅方向及び装置奥行き方向であり、一例として、水平方向となっている。また、Y方向は、後述するA方向及びB方向の両方と交差する装置奥行方向の一例である。Y方向の手前に向かう方向を+Y方向、奥に向かう方向を-Y方向と称する。
【0012】
X方向は装置幅方向であり、一例として、水平方向となっている。プリンター1の操作者から見てX方向の左に向かう方向を+X方向、右に向かう方向を-X方向と称する。Z方向は、装置高さ方向であり、一例として、鉛直方向となっている。Z方向の上に向かう方向を+Z方向、下に向かう方向を-Z方向と称する。
【0013】
プリンター1において、媒体Pは、
図1に破線で示す搬送経路Tを通って搬送される。
X-Z面に示されるA-B座標系は、直交座標系である。A方向は、搬送経路Tのうちヘッドユニット20が有するヘッドの一例としてのラインヘッド20H(以下、単に「ヘッド20H」ともいう。)と対向する領域における媒体Pの搬送方向である。A方向の上流に向かう方向を-A方向、下流に向かう方向を+A方向と称する。本実施形態において、A方向は、+A方向が-A方向よりも+Z方向に位置するように傾いた方向とされている。具体的には水平方向に対して50°~70°の範囲で傾斜し、より具体的には概ね60°傾斜している。このように、ヘッドユニット20による記録が行われる搬送ユニット10を含む領域の媒体Pの搬送方向は、水平方向および鉛直方向の両方向と交差する傾斜した方向である。
【0014】
B方向は、ヘッド20Hを有するヘッドユニット20が移動する移動方向の一例である。つまり、B方向は、ヘッドユニット20が搬送ユニット10に対し進退する方向となる移動方向である。B方向におけるヘッド20Hが搬送経路Tに近づく方向を+B方向、搬送経路Tから離れる方向を-B方向と称する。-B方向は、ヘッド20Hが搬送ユニット10から離れる方向に沿って斜め上に向かっている。本実施形態において、B方向は、-B方向が+B方向よりも+Z方向に位置するように傾いた方向とされ、A方向とは直交している。ヘッドユニット20は、
図1に二点鎖線で示す退避位置と、
図1に実線で示す記録位置とを含む複数の位置を通る経路でB方向に移動する。なお、ヘッドユニット20の移動方向は、水平に対して所定の角度に傾いていればよい。
【0015】
プリンター1は、直方体状の筐体2を有する。筐体2のZ方向中央よりも+Z方向には、情報が記録された媒体Pが排出される空間部を形成する排出部3が形成されている。また、筐体2には、複数のカセット4が着脱可能に設けられている。複数のカセット4には、媒体Pが収容されている。各カセット4に収容された媒体Pは、ピックローラー6及び搬送ローラー対7、8によって、搬送経路Tに沿って搬送される。搬送経路Tには、外部装置から媒体Pが搬送される搬送路T1と、筐体2に設けられた手差トレイ9から媒体Pが搬送される搬送路T2とが合流している。
【0016】
また、搬送経路Tには、後述する搬送ユニット10と、媒体Pを搬送する複数の搬送ローラー対11と、媒体Pが搬送される経路を切り替える複数のフラップ12と、媒体PのY方向の幅を検出する媒体幅センサー13とが配置されている。
【0017】
搬送経路Tは、媒体幅センサー13と対向する領域において湾曲されており、媒体幅センサー13から斜め上方、すなわちA方向に延びている。搬送経路Tにおける搬送ユニット10よりも下流には、排出部3に向かう搬送路T3及び搬送路T4と、媒体Pの表裏を反転させる反転路T5とが設けられている。排出部3には、搬送路T4に合わせて、不図示の排出トレイが設けられている。
【0018】
プリンター1は、媒体Pを搬送する搬送ユニット10と、媒体Pに画像または文字などの情報を記録するヘッドユニット20と、ヘッドユニット20を昇降方向に移動させる昇降機構30とを有する。ここで、B方向は、ヘッドユニット20を変位させる方向であり、高さ方向であるZ方向の成分を有する方向である。また、筐体2内には、インク等の液体を収容する液体収容部23と、インクの廃液を貯留する廃液貯留部16と、プリンター1の各部の動作を制御する制御部26とが設けられている。液体収容部23は、不図示のチューブを介してヘッド20Hへインクを供給する。ヘッド20Hは、供給されたインク等の液体をノズルN(
図9参照)から吐出する。
【0019】
図1に示されるように、プリンター1は、ヘッド20Hをメンテナンスするメンテナンス装置60を備える。メンテナンス装置60は、ヘッド20HのノズルNをメンテナンスする。メンテナンス装置60は、
図2に示されるキャップ64を有するキャップユニット62を備える。
【0020】
図1に示されるように、排出部3はその底部を構成する排出トレイ21を備える。排出トレイ21は、板状に形成された部材であり、排出された媒体Pが載置される載置面21Aを有する。また、排出トレイ21は、媒体Pの搬送経路Tにおける搬送ユニット10よりも下流で且つZ方向におけるヘッドユニット20に対する+Z方向に設けられている。
【0021】
具体的には、排出トレイ21は、媒体Pの搬送方向において、排出トレイ21の下流端部が上流端部よりも+Z方向に位置している。載置面21Aは、媒体Pの排出方向に沿って斜め上に向かう傾斜を有している。なお、
図1では、プリンター1の各構成部を簡略化して示している。
【0022】
制御部26は、図示を省略するCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びストレージを含んで構成される。制御部26は、プリンター1における媒体Pの搬送や、ヘッドユニット20による媒体Pへの情報の記録動作を制御する。詳しくは、制御部26は、自身が実行する全ての処理についてソフトウェア処理を行うものに限られない。たとえば、制御部26は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行う専用のハードウェア回路(たとえば特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、制御部26は、コンピュータープログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサー、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路、或いはそれらの組み合わせ、を含む回路(circuitry)として構成し得る。プロセッサーは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリーを含み、メモリーは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリーすなわちコンピューター可読媒体は、汎用または専用のコンピューターでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0023】
図2に示されるように、Y方向から見た場合に、B方向とX方向(水平方向の一例)とのなす角度は鋭角な所定角度θ1となっている。ヘッドユニット20が搬送ユニット10と対向する方向となるB方向が、ヘッドユニット20の移動方向となっている。このように、本実施形態のヘッドユニット20は、水平面に対して所定角度θ1だけ傾く移動方向に往復移動する。ヘッドユニット20が移動方向(昇降方向±B)に移動することで、記録位置、退避位置、キャップ位置、ヘッド交換位置などに配置される。ここで、記録位置とは、媒体Pに記録を行うときのヘッドユニット20の位置である。退避位置は、ヘッドユニット20を記録位置から一旦上昇側へ退避させる位置である。キャップ位置は、ヘッドユニット20を、ヘッド20Hが退避位置からキャップ64に当接するまでB方向に下降させた位置である。記録が行われない待機時にヘッド20HのノズルNは、キャップ64により覆われるキャッピング状態とされる。また、ヘッドユニット20の交換時は、ヘッドユニット20が交換位置に配置される。なお、交換位置は、ヘッドユニット20を交換するときの位置である。交換位置は、退避位置よりもヘッドユニット20が上昇する側(-B方向側)に位置する。
【0024】
昇降機構30は、例えば、ピニオン43とラック28とを含むラックピニオン機構により構成される。プリンター1は、ピニオン43の駆動源としてモーター41を有する。
本実施形態のヘッドユニット20は、水平面に対して所定角度θ1で傾く斜め上方に向かう-B方向に上昇し、水平面に対して所定角度θ1で傾く斜め下方に向かう+B方向に下降する。つまり、ヘッド20HにおけるノズルN(
図9参照)が開口する面であるノズル面20Nと直交する方向が、ヘッド20Hの昇降方向である。本明細書では、ヘッド20Hが移動する方向を昇降方向ともいう。なお、本明細書では、-B方向と+B方向とを含む昇降方向を、昇降方向±Bとも記す。昇降機構30は、ヘッドユニット20を昇降方向±Bに沿って昇降させる。
【0025】
図2に示されるキャップユニット62は、ヘッド20HのノズルNをキャップ64が覆う状態の下で、ヘッド20Hのメンテナンスを行う。キャップユニット62は、ヘッド20HのノズルNからインク等の液体をキャップ64内に強制的に排出させる。プリンター1は、キャップユニット62が、ヘッド20Hから強制的に排出させた液体を廃液として
図1に示される廃液貯留部16に貯留する。廃液貯留部16は、ヘッド20Hからキャップ64(
図8、
図12参照)に向けてメンテナンスのために空吐出されたインク等の液体、およびクリーニングによってヘッド20HのノズルNから強制的に排出されたインク等の液体を、廃液として貯留する。
【0026】
図2に示されるように、プリンター1は、キャップユニット62を、ヘッドユニット20の移動方向であるB方向と交差(例えば直交)するA方向に移動させる移動機構70を備える。キャップユニット62は、移動機構70によりA方向に往復移動可能である。キャップユニット62は、
図1、
図2に示される待機位置と、キャップ64がヘッド20Hと対向するキャッピング位置(
図12、
図13を参照)とを含む複数の位置を通る直線状の経路に沿ってA方向に往復移動する。
【0027】
ヘッドユニット20は、メンテナンス装置60が待機位置からキャッピング位置へ移動するときに、メンテナンス装置60の移動経路を確保するために記録位置よりも-B方向に退避した退避位置に移動する。ヘッドユニット20が退避位置にあるとき、キャップユニット62はキャッピング位置(
図12参照)まで+A方向に移動する。キャッピング位置は、
図2に示すキャップ64が、退避位置にあるときのヘッド20HとB方向に対向する位置である。その後、ヘッドユニット20が、退避位置から+B方向に移動すると、ヘッド20Hが、キャッピング位置にあるキャップ64に所定の圧力で当接するキャップ位置(
図13参照)に配置される。ヘッド20Hがキャップ64に当接するキャップ位置では、キャップ64がヘッド20HのノズルNを覆う。
【0028】
図1、
図2に示されるように、搬送ユニット10は、搬送中の媒体P(
図1参照)を支持する支持部の一例である。搬送ユニット10は、2つのプーリー14と、2つのプーリー14に巻き掛けられた無端状の搬送ベルト15と、プーリー14を駆動する不図示のモーターとを有していてもよい。媒体Pは、搬送ベルト15のベルト面に吸着されつつ、ヘッドユニット20と対向する位置を搬送される。搬送ベルト15に媒体Pを吸着させる方式としては、エアー吸引方式や静電吸着方式などの公知の吸着方式を採用できる。このように、搬送ベルト15は、媒体Pを吸着しつつ、媒体Pを支持している。搬送ユニット10は、ヘッドユニット20とB方向に対向配置される。
【0029】
ヘッドユニット20は、液体の一例であるインクを吐出するラインヘッド20Hを有する。ラインヘッド20Hは、記録位置において搬送ユニット10とB方向に対向配置され、ヘッド20Hからインクを吐出することで媒体Pに情報を記録する。ヘッドユニット20は、インクを吐出するヘッド20Hが媒体Pの幅方向としてのY方向の全域をカバーするように構成されたインク吐出ヘッドである。また、ヘッド20Hのノズル面20NはA方向とY方向に沿って配置される。ノズル面20Nは、ヘッド20Hにおける液体を吐出するノズルN(
図9参照)が開口する面である。
【0030】
また、ヘッドユニット20は、媒体Pの幅方向への移動を伴わないで媒体Pの幅方向の全域に記録が可能なインク吐出ヘッドとして構成されている。但し、インク吐出ヘッドのタイプはこれに限られず、キャリッジに搭載されて媒体Pの幅方向に移動しながらインクを吐出するタイプのヘッド20Hであってもよい。
【0031】
図3に示されるように、ヘッドユニット20は、B方向における搬送ユニット10(
図1参照)から最も離れた交換位置において、昇降機構30から離脱可能とされている。具体的には、ヘッドユニット20は、ガイドレール37(
図5も参照)に沿って-B方向に移動された交換位置で、ガイドレール38(
図5も参照)に沿って+Z方向に引き上げられることで、昇降機構30から離脱されるようになっている。
【0032】
図2に示されるように、昇降機構30は、ヘッドユニット20を昇降方向±Bに移動させることで、ヘッド20Hを、記録位置(
図2)と退避位置(
図11)とに移動させる。
換言すると、昇降機構30によるヘッドユニット20の移動方向は、鉛直方向及び水平方向の両方と交差する方向である。
【0033】
図1に示されるプリンター1は、筐体2内に、
図3に示される本体部分を構成する本体フレーム32と、ヘッドユニット20を昇降方向±Bに案内するガイド部材36と、ヘッドユニット20を昇降方向±Bに駆動する駆動ユニット40(
図5参照)とを有する。そして、昇降機構30は、ヘッドユニット20を、記録位置に対して搬送ユニット10から離れた1つ以上の位置に移動させる。具体的には、昇降機構30は、記録位置、退避位置、キャップ位置および交換位置に、ヘッドユニット20を移動可能に設けられている。
【0034】
図4に示されるように、ヘッドユニット20が有するヘッド20Hは、Y方向に延びている。ヘッド20HのY方向の両端部には、+A方向に向けて一対の板部20Aが突出している。ヘッドユニット20は、ヘッド20Hと、ヘッド20HのY方向の両端部に取り付けられた一対の支持フレーム22とを有する。
【0035】
支持フレーム22は、A-B面に沿った側板として構成されており、ヘッドユニット20に対して-B方向へ延びている。支持フレーム22のY方向の外側面におけるB方向両端部には、それぞれ+Y方向及び-Y方向へ延びる円柱状の支持ピン24が設けられている。支持ピン24には、円環状のコロよりなるガイドローラー25が回転可能に設けられている。
【0036】
また、支持フレーム22のY方向の内面には、ピン28Pを有するラック28が設けられている。ピン28Pは、スライド部材の一例である。また、ピン28Pは、ラック28からY方向の外側に向かって突出されている。ラック28は、Y方向を厚さ方向とする板状の部材であり、B方向に延びている。ラック28の-A方向の端部には、B方向に並ぶ複数の歯を有する歯部28Aが形成されている。
【0037】
また、ヘッドユニット20には、Y方向に貫通し且つB方向に長い長孔27が形成されている。長孔27には、ピン28Pが挿通されている。これにより、ラック28は、支持フレーム22に対してB方向に相対移動が可能とされている。つまり、ラック28は、ピン28Pが長孔27内をB方向に移動可能な範囲でヘッドユニット20に対して相対移動可能である。本例では、ピン28Pと、ピン28Pが挿入される長孔27を含む部分とによりスライド機構31が構成される。スライド機構31によって、ラック28はヘッドユニット20に対してB方向に相対移動可能となっている。
【0038】
また、
図4、
図5に示されるように、ラック28とヘッドユニット20との間には、第2ばね29が介装されている。第2ばね29は、例えば、コイルばねよりなる圧縮ばねである。第2ばね29は、ラック28とヘッドユニット20とをB方向において離間させる向きに付勢している。このため、ヘッドユニット20がその下降方向であるB方向への移動が規制された状態の下で、ラック28をB方向へ移動させた場合、第2ばね29の圧縮変形を伴ってラック28はヘッドユニット20に対してヘッド20Hに近づく方向へ相対移動する。
図4、
図5において、ヘッドユニット20は自重および第2ばね29の付勢力によって、ラック28に対してB方向にスライドした状態にある。また、ヘッドユニット20の自重および第2ばね29は、ラック28とヘッドユニット20とをB方向において離間させる向きに付勢しているが、ピン28Pが長孔27の上端面に当接することにより、ヘッドユニット20がラック28に対してそれ以上の+B方向へのスライドが規制された状態となる。ヘッドユニット20がラック28に対して+B方向へ最もスライドした状態では、第2ばね29は自然長よりも若干圧縮した状態にある。なお、第2ばね29は、引張ばねまたはねじりコイルばねでもよい。また、第2ばね29は、ヘッドユニット20の重量で引っ張られる構成に限らず、ヘッドユニット20の重量で圧縮される構成で、ヘッドユニット20とラック28との間に介装されてもよい。
【0039】
図4~
図7に示されるように、第2ばね29は、その一端部が支持フレーム22に取り付けられ、その他端部がラック28に取り付けられている。詳しくは、
図7に示されるように、ラック28からは水平に第1掛止部28Bが延出し、支持フレーム22の内面からは水平に第2掛止部22Aが延出している。第1掛止部28Bと第2掛止部22AはB方向に間隔を空けて対向しており、第2ばね29は一端部が第1掛止部28Bに掛止され、他端部が第2掛止部22Aに掛止されている。第2ばね29は、ヘッドユニット20が退避位置にあるとき、ヘッドユニット20の自量によりスライド範囲において最も伸びた状態にある。なお、この最も伸びた第2ばね29は、自然長よりも若干引っ張られた状態であってもよい。
【0040】
ここで、
図3、
図5を参照して、昇降機構30およびヘッドユニット20が組み付けられる本体フレーム32の構成について説明する。
図3に示されるように、本体フレーム32は、サイドフレーム33、34と、複数の横フレーム35とを有する。サイドフレーム33、34は、それぞれA-B面に沿った側板として構成されており、Y方向に間隔をあけて対向配置されている。サイドフレーム33は、+Y方向に配置され、サイドフレーム34は、-Y方向に配置されている。サイドフレーム34には、不図示のワイパーユニットが移動するための貫通孔34Aが形成されている。
【0041】
複数の横フレーム35は、サイドフレーム33、34をY方向に繋いでいる。また、複数の横フレーム35によって囲まれた空間には、ヘッドユニット20が配置されている。
ガイド部材36は、サイドフレーム33、34にそれぞれ1つ設けられている。なお、2つのガイド部材36は、本体フレーム32におけるY方向の中央に対してほぼ対称に配置されている。このため、-Y方向のガイド部材36について説明し、+Y方向のガイド部材36の説明を省略する。
【0042】
図5に示されるように、ガイド部材36は、サイドフレーム34の+Y方向の側面に取り付けられている。ガイド部材36には、B方向に延びるガイドレール37と、ガイドレール37の途中の部位から分岐してZ方向に延びるガイドレール38とが形成されている。ガイドレール37、38は、いずれも+Y方向に開口する溝となっており、ヘッドユニット20のガイドローラー25(
図4参照)をB方向又はZ方向に案内する。
【0043】
なお、
図3に示されるように、ガイドレール37の-B方向の端部は、+Z方向に向けて屈曲されて短いガイドレール38が形成されてもよい(
図3参照)。また、-Y方向のガイド部材36のうち、貫通孔34AとY方向に重なる部分は取り除かれている。換言すると、ガイド部材36は、貫通孔34Aに対して+B方向にも設けられている。このため、-Y方向のガイドレール37は、貫通孔34Aと対応する部分の空間を挟んで2つに分断されている。
【0044】
図5に示されるように、1組のサイドフレーム33、34には、1組のガイドレール73が設けられている。1組のガイドレール73は、Y方向の内側へ向けて開口する溝状に形成されており、A方向に沿って延びている。また、1組のガイドレール73は、メンテナンス装置60の側面に設けられた複数のコロよりなるガイドローラー(図示略)をA方向に移動可能に支持している。つまり、ガイドレール73が複数のガイドローラーをA方向に案内することで、メンテナンス装置60(
図2参照)がA方向に移動可能とされている。
【0045】
図5に示されるように、駆動ユニット40は、モーター41と、不図示のギア部と、シャフト42と、ピニオン43(駆動歯車)とを含んで構成される。駆動ユニット40は、制御部26(
図1参照)によって駆動制御される。モーター41の動力で回転するシャフト42は、Y方向に延びた状態で、その両端部が1組のサイドフレーム33,34に回転可能に支持されている。ピニオン43は、シャフト42のY方向の両端部に取り付けられている。ピニオン43の外周部には、ラック28の歯部28Aと噛み合う歯部43Aが形成されている。
【0046】
モーター41は、不図示のギア部を介してシャフト42およびピニオン43を一方向又は逆方向に回転させる。このように、駆動ユニット40は、ピニオン43を回転駆動することで、ヘッドユニット20をB方向に往復移動させる。
【0047】
次に、
図9、
図10を参照して、昇降機構30により昇降されるヘッドユニット20の詳細な構成を説明する。プリンター1は、
図9に示されるように、ヘッド20Hとラック28とを昇降方向±Bに沿って互いにスライド可能に構成するスライド機構31を備える。スライド機構31は、昇降方向±Bに沿って互いにスライド可能な第1部材と第2部材とを有する。本実施形態では、スライド機構31は、昇降方向±Bに沿って互いにスライド可能な長孔27を有する壁部材22Bと、ピン28Pとを有する。本実施形態では、長孔27が形成された壁部材22Bが第1部材の一例に相当し、ピン28Pが第2部材の一例に相当する。
【0048】
また、昇降機構30は、ピニオン43とラック28とモーター41とにより構成される。本実施形態では、ヘッド20Hは、第1部材の一例である壁部材22Bと固定されている。本例の壁部材22Bは、支持フレーム22の一部により構成される。つまり、ヘッド20Hを支持する支持フレーム22における長孔27が形成された部分によって、壁部材22Bが構成される。第1部材の一例である壁部材22Bは、支持フレーム22と一体に形成されている。
【0049】
昇降機構30を構成するラック28は、第2部材の一例であるピン28Pと固定されている。本例では、ピン28Pは、ラック28と一体に形成されている。詳細には、ラック28とピン28Pは、プラスチック製で一体的に成形されている。
【0050】
ピン28Pが、壁部材22Bの長孔27に挿通されることによってスライド機構31が構成される。スライド機構31によって、支持フレーム22とラック28は、ピン28Pが長孔27内でB方向に移動できる範囲で昇降方向±Bにスライド可能となっている。
【0051】
図10に示されるように、本実施形態の長孔27は、壁部材22Bに形成された長方形の孔であり、その内周面を含む。このため、長孔27は、その内周面を構成する面として3つの壁面を有する。すなわち、長孔27は、昇降方向±Bに沿って延びる第1壁面271と、昇降方向±Bと交差(例えば直交)する方向に沿って延びる第2壁面の一例としての下端面272とを有する。また、長孔27は、下端面272と昇降方向±Bに対向する第3壁面の一例としての上端面273を有する。上端面273は、下端面272と対向するとともに、昇降方向±Bと交差(例えば直交)する面である。
【0052】
スライド機構31は、長孔27を構成する第1壁面271と、下端面272と、スライド部材の一例であるピン28Pと、当接面の一例としての第1当接面281とを有する。
スライド部材は、第1壁面271に接触しながら第1壁面271に対してスライドする。
当接面は、ピン28Pのスライドにより、下端面272との間の接触の有無を切り替える。第1当接面281は、ピン28Pの外周面のうち長孔27の下端面272と当接可能な面部により構成される。すなわち、第1当接面281は、ピン28Pの外周面のうち、長孔27の下端面272との間の接触の有無を切り替え可能なピン28Pの下面によって構成される。つまり、本例では、ピン28Pの下面よりなる第1当接面281が、当接面の一例に相当する。なお、第1当接面281を、ピン28Pの下面により構成せずに、ピン28P以外の部材により構成してもよく、その場合に第1当接面281との間で接触の有無を切り替え可能な第2壁面を、長孔27の下端面272により構成せずに、長孔27以外の部材により構成してもよい。
【0053】
さらに、スライド機構31は、ピン28Pと下端面272とが離間する向きに付勢する第2ばね29と、昇降方向±Bと交差する方向に沿って延びる第3壁面の一例としての上端面273とを備える。上端面273は、下端面272と反対側を向く面である。ピン28Pは、ピン28Pのスライドにより長孔27の上端面273との間の接触の有無を切り替え可能な第2当接面282を有する。第2当接面282は、ピン28Pの上面により構成される。なお、第2当接面282を、ピン28Pの上面により構成せずに、ピン28P以外の部材により構成してもよく、その場合に第2当接面282との間で接触の有無を切り替え可能な第3壁面を、長孔27の上端面273により構成せずに、長孔27以外の部材により構成してもよい。
【0054】
図10に示されるように、第2壁面の一例である下端面272は、ヘッド20Hが退避位置から記録位置に向かうB方向(第1方向)の端部に位置する壁面である。第3壁面の一例である上端面273は、ヘッド20Hが退避位置から記録位置に向かうB方向と反対の方向、すなわち、ヘッド20Hが記録位置から退避位置に向かう-B方向(第2方向)の端部に位置する壁面である。換言すれば、長孔27の内周面のうち昇降方向±Bと交差するA方向に沿って延びる2つの内壁面のうち、+B方向側(ヘッド下降方向側)の一方である下端面272が第2壁面の一例に相当する。そして、長孔27において下端面272と昇降方向±B方向に対向する面である上端面273が、第3壁面の一例に相当する。
【0055】
図9に示されるように、キャッピング過程では、ラック28は、ヘッド20Hがキャップ64から遠ざかる向きへのスライド機構31を介したスライドが生じない状態にて、ヘッド20Hをキャップ64側に向けて相対移動させる。つまり、ヘッドユニット20がキャップ64に当接した後、さらにラック28が+B方向に下降することでヘッド20Hはキャップ64側に移動する。このヘッド20Hの移動過程において、キャップ64に当接したヘッド20Hは+B方向への移動が抑制されるため、第2ばね29が圧縮変形する。
ラック28は、第2ばね29の圧縮変形を伴ってヘッドユニット20に対してスライド機構31を介して+B方向にスライドする。このとき、
図9、
図10に示されるように、ピン28Pは長孔27の上端面273に当接する実線で示される位置から、長孔27の下端面272に当接する二点鎖線で示される位置まで、長孔27に沿って移動する。この過程では、ヘッドユニット20は、ほぼ停止またはラック28の下降速度よりも低速で下降する。このとき、ヘッドユニット20は、ラック28に対して、-B方向へスライドする。
【0056】
そして、ピン28Pが長孔27の下端面272に当接した後は、ラック28とヘッドユニット20とのスライド機構31を介したそれ以上のスライドが規制される。ピン28Pの第1当接面281が長孔27の下端面272と接触することにより、ヘッド20Hを支持する支持フレーム22がピン28Pに規制されて上昇方向である-B方向へのスライドが規制される。このため、ピン28Pが長孔27の下端面272に当接した後は、ヘッド20Hがキャップ64から遠ざかる方向へのスライド機構31を介したスライドが生じない。ここで、「ヘッド20Hがキャップ64から遠ざかる向き」とは、昇降方向±Bのうちヘッド20Hのノズル面20Nが向く向きとは反対の向きである。
【0057】
図9に示されるように、ヘッドユニット20には、複数のヘッド20HをY方向に挟む両側の位置に、一対の位置決め用のピン20Gが突出している。一対のピン20Gは、ヘッド20Hのノズル面20Nよりも低い位置までB方向に突出している。
【0058】
ここで、
図8を参照して、キャップユニット62の構成について説明する。
プリンター1は、キャップユニット62を備える。キャップユニット62は、キャップ64と、キャップ64を保持するためのキャップホルダー66と、キャップ64とキャップホルダー66との間に設けられる第1ばね65とを備える。第1ばね65は、キャップ64を-B方向に付勢している。本実施形態では、ヘッド20Hは、
図7に示される複数の単位ヘッド20UがY方向に並んで構成される。
図8に示されるキャップユニット62は、複数の単位ヘッド20Uと対向する位置にY方向に並んで配置される複数のキャップ64を備える。キャップ64は、ヘッド20Hと対向する-B方向側が開口し、開口の周囲に設けられたゴム弾性を有する材質よりなるシール部64Sを有する。ヘッド20Hがキャップ64に圧接されたとき、シール部64Sは少なくともその一部が弾性圧縮される。第1ばね65の-B方向(上昇方向)への付勢力、第2ばね29の+B方向(下降方向)への付勢力、および弾性圧縮されたシール部64Sの復元力により、ヘッド20Hはキャップ64を所定のキャップ圧で押圧する。
【0059】
キャップ64の大きさ及び形状は、ヘッド20Hを構成する単位ヘッド20Uのノズル面20N(
図9参照)を覆う大きさおよび形状とされている。また、キャップ64は、ノズル面20NとB方向に対向して配置される。キャップ64は、ヘッド20Hのノズル面20Nに対して所定のキャップ圧で接触することで、ノズル面20Nに開口する複数のノズルNを覆う。キャップ64がノズル面20Nを覆うことで、ヘッド20Hの乾燥が抑制され、インク等の液体の粘性の増加が抑制される。なお、ヘッドユニット20が退避位置(
図12参照)から下降方向であるB方向へ所定のキャップ位置まで移動することで、ヘッド20Hがキャップ64に対してノズルNが覆われた状態に圧接され、キャッピング状態とされる。
【0060】
キャップ64は、キャップホルダー66に対してスライド部67を介して昇降方向±Bに相対移動可能な状態で取り付けられている。スライド部67は、
図17に示されるように、キャップホルダー66の上面から上昇方向である-B方向に延出する第1ガイド部66Aと、キャップ64の底面からヘッド20Hの下降方向である+B方向に延出する第2ガイド部64Aとが相対変位可能な状態に接続されることで構成される。そして、キャップ64の底面とキャップホルダー66の上面との間に第1ばね65が介装されている。第1ばね65は、例えば、圧縮ばねである。キャップ64は、第1ばね65の弾性力によりキャップホルダー66に対して上昇方向である-B方向に向かって付勢されている。なお、第1ばね65は、キャップ64を-B方向に向かって付勢できれば、引張ばねまたはねじりコイルばね等の弾性部材であってもよい。
【0061】
キャップホルダー66は、キャップユニット62の筐体62A上に支持されている。筐体62Aは、Y方向に長く且つA方向に短い箱状に形成されている(
図9も参照)。筐体62Aは、-B方向側が開口する四角箱状のケーシングよりなる。筐体62Aの開口から複数のキャップ64が露出している。
【0062】
プリンター1は、
図8に示されるキャップユニット62をA方向に移動させる移動機構70を備える。筐体62AのY方向両側の側面には、移動機構70を構成する一対のラック71が固定されている。一対のラック71の歯部71Aと対向する下方には、移動機構70を構成する一対のピニオン72が回転可能な状態で配置されている。ラック71の歯部71Aとピニオン72の歯部72Aは噛合している。一対のピニオン72は回転軸75を介して連結されている。また、キャップユニット62の+Y方向の両側の側壁には、Y方向を軸方向として回転可能とされた複数のコロよりなるガイドローラー(図示略)が設けられている。ガイドローラーは、ガイドレール73(
図5)に沿って案内される。
【0063】
キャップユニット62の駆動源であるモーター81(
図2)の動力によって回転軸75は回転すると、一対のピニオン72が回転する。モーター81が正転駆動されると、ピニオン72とラック71との噛合を介してキャップユニット62はA方向に移動する。一方、モーター81が逆転駆動されると、ピニオン72とラック71との噛合を介してキャップユニット62は-A方向に移動する。
【0064】
また、
図8に示されるように、キャップユニット62には、複数のキャップ64をY方向に挟む両側の位置に、位置決め用の一対の被係合部69が突出している。一対の被係合部69は、キャップ64の上面よりも-B方向に高い位置まで突出している。キャップユニット62が待機位置からキャッピング位置へ移動する過程で、被係合部69がピン20Gと係合することで、キャップユニット62がA方向においてキャッピング位置に位置決めされる。
【0065】
キャッピング過程では、ピン28Pの第1当接面281が長孔27の下端面272と接触する前から、ヘッド20Hがキャップ64を押し込むことにより、第1ばね65が圧縮されてもよい。本例では、ピン28Pの第1当接面281と下端面272とが接触したとき、既に第1ばね65は圧縮状態にある。ヘッド20Hがキャップ64に当接した以後、ラック28の下降によって第2ばね29の圧縮変形を伴うヘッド20HのB方向への下降過程においても、第1ばね65は圧縮変形する。このように、昇降機構30を構成するラック28は、ピン28Pの第1当接面281と下端面272とが当接した状態で(
図17参照)、ヘッド20Hをキャップ64に向けて移動させることにより、第1ばね65を圧縮させる(
図18、
図19参照)。
【0066】
さらに、
図9に示されるスライド機構31の第2ばね29は、ピン28Pの第1当接面281と長孔27の下端面272とが離間する向きに付勢する。つまり、第2ばね29は、長孔27を有する壁部材22Bよりなる第1部材と、ピン28Pよりなる第2部材とを離間する向きに付勢する。
【0067】
第2ばね29のばね定数は、第1ばね65のばね定数よりも小さい。つまり、第1ばね65のばね定数である第1ばね定数よりも、第2ばね29のばね定数である第2ばね定数の方が小さい。このため、ヘッド20Hがキャップ64に接触した位置からヘッド20Hがさらに下降する過程では、ヘッド20Hに押し込まれて下降するキャップ64の第1下降量よりも、ヘッド20Hに対してラック28がスライドして下降するラック28の第2下降量の方が大きい。このため、この過程で、ピン28Pはその第2当接面282が上端面273に当接する位置から、その第1当接面281が下端面272に当接する位置までの移動することが可能である。
【0068】
また、ピン28Pの第2当接面282が長孔27の上端面273に接触した状態における第2ばね29の長さは、ピン28Pの第1当接面281が長孔27の下端面272に接触した状態と、ピン28Pの第2当接面282が長孔27の上端面273に接触した状態との間の距離よりも、長い。
【0069】
第2ばね29の弾性変形可能な量(長さ)は、長孔27の下端面272と上端面273との間の距離よりも長い。第2ばね29の変形可能な量とは、ピン28Pの第2当接面282が長孔27の上端面273に当接したときの第2ばね29の長さから第2ばね29が最小長さになるまで最大に圧縮変形できる最大圧縮量に相当する。この最大圧縮量が、長孔27の下端面272と上端面273との間の距離よりも大きい。この設定により、ピン28Pは、長孔27内を上端面273と下端面272との間の範囲を移動可能となる。すなわち、本例では、第2ばね29の上記最大圧縮量が、下端面272と上端面273との間の距離よりも大きく設定されているので、ピン28Pは、上端面273に当接する位置と下端面272に当接する位置との間を移動可能である。このため、ヘッド20Hがキャップ64に接触した位置から、ヘッド20Hをさらに、ピン28Pが上端面273に当接する位置から下端面272に当接する位置まで下降させることが可能である。
【0070】
図6に示されるように、本体フレーム32には、調整ユニット46が設けられている。
調整ユニット46は、カム軸47、2つの偏心カム48、モーター49、ホルダー51、ブラケット52、調整ネジ53、被検知部材54および位置センサー55を有する。このように、調整ユニット46は、偏心カム48と、偏心カム48を回転させるための軸の一例としてのカム軸47とを備える。
【0071】
カム軸47は、Y方向に長い部材であり、サイドフレーム33からサイドフレーム34まで延びている。2つの偏心カム48は、カム軸47に取り付けられている。また、2つの偏心カム48の外周面は、カム面48A(
図7参照)となっている。
図6に示されるように、偏心カム48の外周面は、ヘッドユニット20の板部20Aの+B方向の部分に接触している。これにより、カム軸47の回動に伴って2つの偏心カム48が回動されることで、ヘッド20Hの位置がB方向に調整される。また、モーター49は、制御部26(
図1参照)により駆動制御されることで、カム軸47を一方向又は逆方向に回動させる。
【0072】
図7に示される偏心カム48は、ヘッド20Hのノズル面20Nが向く向きと反対の向きを向く面を規制面の一例とするカム面48Aを有する。すなわち、偏心カム48は、昇降方向±Bにおけるヘッドユニット20の移動によりヘッド20Hとの間の接触の有無を切り替えるカム面48Aを有する。サイドフレーム33に取り付けられたホルダー51の貫通孔に移動可能に挿入されたベアリング56には、カム軸47の一端部が挿入されている。
【0073】
図6に示されるように、調整ユニット46の+Y方向側の端部には、ブラケット52に支持された調整ネジ53の軸端部が、ホルダー51のネジ穴と係合している。調整ネジ53を回転操作してホルダー51を上下移動させることで、カム軸47のB方向の位置およびヘッドユニット20のB方向の位置が調整可能となっている。本例では、操作者による調整ネジ53の手動操作により、偏心カム48のB方向の位置調整が可能である。
【0074】
カム軸47の端部に取り付けられた被検知部材54は、カム軸47から径方向に張り出された扇状部を有する。ホルダー51に取り付けられた位置センサー55は、一例として、不図示の発光部及び受光部を備えた光学式センサーである。位置センサー55は、被検知部材54の扇状部による光の遮断の有無に基づいて、カム軸47の回動角度を検知する。制御部26は、位置センサー55が検知したカム軸47の回動角度に基づいてモーター49を駆動させることで、偏心カム48の回転角度を調整する。本実施形態では、ヘッド20Hの板部20Aが偏心カム48のカム面48Aに接触した状態で、ヘッドユニット20の下降を停止する。これにより、ヘッド20Hは、記録位置に配置される。
【0075】
図6、
図7に示されるヘッドユニット20の記録位置は、ヘッドユニット20と搬送ユニット10(
図1参照)とのB方向の間隔である必要なギャップに応じて決められる。記録位置は、媒体Pの種類である媒体種に応じて決められる。偏心カム48の回動後に、駆動ユニット40がヘッドユニット20をB方向に移動させることで、板部20Aが偏心カム48に接触される。このとき、第2ばね29の圧縮変形によって、ラック28の停止位置の誤差が吸収される。駆動ユニット40がヘッドユニット20をB方向に移動させて、板部20Aが偏心カム48に接触された後に、偏心カム48を回動させてヘッドユニット20を記録位置に位置決めしてもよい。
【0076】
本実施形態では、ヘッド20Hとカム面48Aとが接触した状態において、ピン28Pは長孔27の第1壁面271に沿ってスライドする。詳しくは、ヘッド20Hの板部20Aが偏心カム48のカム面48Aに接触する状態において、ピン28Pが長孔27の長手方向である+B方向に沿ってスライドする。このスライド過程で、第2ばね29が圧縮変形し、ピン28Pは、長孔27の上端面273から離間し、上端面273と下端面272との間に位置する。よって、記録位置にあるヘッドユニット20は、第2ばね29の付勢力によって、板部20Aが偏心カム48のカム面48Aに押し付けられた状態にある。
【0077】
本例では、偏心カム48のカム面48Aは、昇降方向±Bにおけるヘッド20Hの位置が第1記録位置となる第1規制面と、ヘッド20Hの位置が第2記録位置となる第2規制面とを含む。ここで、
図7において、ヘッド20Hの板部20Aが偏心カム48のカム面48Aに対して接触している面部が第1規制面に相当し、
図7の状態から偏心カム48が所定角度だけ回転した回転位置で、板部20Aが接触する面部が第2規制面の一例に相当する。
【0078】
例えば、
図16に示されるように、ヘッドユニット20は、板部20Aが偏心カム48のカム面48Aのうち第1規制面481に当接することで、第1記録位置に配置される。
また、
図16に示される例では、偏心カム48のカム面48Aは、第1規制面481の他、第2規制面482および第3規制面483を、周方向における異なる位置に有している。偏心カム48は回転することで、複数の規制面481~483のうちの1つを板部20Aと対向する向きに配置する。ヘッドユニット20は、板部20Aが偏心カム48の第2規制面482に当接することで、第2記録位置に配置される。また、ヘッドユニット20は、板部20Aが偏心カム48の第3規制面483に当接することで、第3記録位置に配置される。なお、偏心カム48の規制面は、複数あればよく、3つに限らず、2つでも4つ以上でもよい。
【0079】
このように、ヘッド20Hの昇降方向±Bにおける記録位置は、複数段階に切り替えられる。ヘッド20Hは、板部20Aが偏心カム48のカム面48Aに対して第1規制面481で接触することにより決まる第1記録位置と、板部20Aが偏心カム48のカム面48Aに対して、第1規制面481とは異なる第2規制面482で接触することにより決まる第2記録位置とを含む2つ以上の異なる記録位置に位置調整される。本実施形態では、ヘッド20Hの記録位置は、例えば、3~6段階の範囲内の所定段階に切り替え可能に構成される。
【0080】
また、記録位置にあるヘッド20Hは、ヘッド20Hと偏心カム48のカム面48Aとが接触した状態の下で、ヘッド20Hから液体を吐出する。ヘッド20Hは、そのときの偏心カム48の回転角度に応じた高さ位置である記録位置に配置される。ヘッド20Hは、カム面48Aに板部20Aが当接したときの高さ位置に応じて、ノズル面20Nと搬送ユニット10との対向する方向に間隔であるギャップが調整される。ヘッド20Hは適切なギャップが確保された状態の下で、搬送ユニット10により搬送される媒体Pに向かって液体を吐出する。
【0081】
なお、規制面の一例として、偏心カム48のカム面48Aに替え、階段状に高さの異なる複数の規制面としてもよい。例えば、階段状に高さの異なる複数の規制面を有するカム部材が、B方向と交差する例えばA方向に移動することで、板部20Aと対向する規制面を切り換える構成でもよい。この場合、制御部26が、モーターの動力でカム部材を移動させ、板部20Aが接触する規制面を切り換えることで、ヘッド20Hと、媒体Pを支持する支持部材の一例として搬送ユニット10との間のギャップを調整する構成でもよい。
【0082】
図9に示されるように、メンテナンス装置60は、ヘッド20Hを保管し且つヘッド20Hのメンテナンスを行う。また、
図11~
図13に示されるように、メンテナンス装置60は、不図示の駆動ユニットによって、A方向に移動可能に設けられている。具体的には、メンテナンス装置60は、ヘッド20Hを覆うキャップ64を有するキャップユニット62と、ヘッド20Hにおけるノズル面20Nを払拭することで清掃するワイパーユニット(図示略)とを有する。
【0083】
図2、
図11~
図13に示されるように、キャップユニット62は、キャップ64をA方向における所定位置に含んで構成されている。キャップユニット62は、A方向に移動することで、キャップ64がヘッド20Hと対向しない待機位置(
図2)と、キャップ64がヘッド20Hと対向するキャッピング位置(
図12、
図13)とに配置位置が切り換えられる。A方向における上流から下流へ向かう順に、待機位置とキャッピング位置とが位置する。キャップユニット62は、A方向におけるヘッドユニット20よりも上流の位置を待機位置とする。
【0084】
キャッピング位置は、キャップ64がヘッド20Hを覆うときのキャップユニット62の位置である。キャッピング位置にあるときにヘッド20HのノズルNからキャップ64に向かって液体を吐出するフラッシングが行われてもよい。ヘッド20Hにおいて、インク等の液体の粘性が増加した場合には、キャップ64に向けて液体を吐出するフラッシングを行うことで、液体の粘性が設定範囲内に維持される。これにより、ノズルNからのインク等の液体の吐出不良が抑制される。
【0085】
キャップユニット62は、モーター81(
図2)の動力でA方向に進出または退避する。具体的には、モーター81の動力で、ラック71の歯部71Aと噛み合う歯部72A(いずれも
図8参照)を有するピニオン72を回転させる。モーター81の駆動制御は、制御部26(
図1参照)によって行われる。
【0086】
制御部26は、ヘッドユニット20(
図1参照)が後述する退避位置に位置した場合に、ヘッドユニット20と搬送ユニット10(
図1参照)との間にメンテナンス装置60を進出させる。また、制御部26は、ヘッドユニット20が記録位置に位置する前に、ヘッドユニット20と搬送ユニット10との間からメンテナンス装置60を-A方向に退避させる。
【0087】
キャップユニット62は、キャップ64とは別に、ヘッド20HのノズルNから吐出される液体を受けるフラッシング部を設けてもよい。この場合、フラッシング部は、キャップユニット62とは別に独立に移動可能に設けられてもよい。フラッシング部は、-B方向に開口され且つフェルトなどの多孔質の繊維を有するフラッシングボックスとして構成されてもよい。
【0088】
メンテナンス装置60は、キャップユニット62の他に、ワイパーユニット(図示略)を備える。ワイパーユニットは、本体部と、清掃部の一例としてのブレード(いずれも図示略)とを含んで構成されている。例えば、矩形板状のゴムよりなるブレードは、ヘッド20H(
図1参照)のノズル面20Nを払拭する。ワイパーユニットは、例えば、モーター及びベルトを含んで構成されており、モーターの回転によってベルトが周回移動されることでY方向に移動する。なお、ワイパーユニットは、キャップユニット62がヘッド20Hを覆う場合およびヘッドユニット20が記録を行う場合には、サイドフレーム34(
図3参照)に対して-Y方向に退避している。
【0089】
次に、プリンター1の電気的構成について説明する。プリンター1は、例えば、ホスト装置(図示略)から記録データを受信する。記録データには、記録条件情報と記録内容を規定する例えばCMYK表色系の画像データとが含まれる。記録条件情報には、媒体サイズ、媒体種、両面記録の有無、記録色、および記録品質等の情報が含まれる。プリンター1内の制御部26は、ヘッド20H、搬送ローラー対11および搬送ベルト15等と電気的に接続されている。さらに、制御部26は、ヘッドユニット20を昇降方向±Bに移動させる駆動源であるモーター41、偏心カム48を回転させる駆動源であるモーター49、キャップユニット62を±A方向に移動させる駆動源であるモーター81、キャップ64と接続されたポンプの駆動源であるポンプモーター(図示略)と電気的に接続されている。
【0090】
制御部26は、ヘッド20H、搬送ローラー対11および搬送ベルト15等を制御する。また、制御部26は、モーター41を制御することで、ヘッドユニット20を昇降方向±Bに移動させる。制御部26は、ヘッドユニット20を、退避位置(
図11)、記録位置(
図2)、交換位置に移動させる。交換位置は、ヘッドユニット20が故障等して交換する場合に、作業者がプリンター1からヘッドユニット20を取り外す位置である。なお、±A方向は、昇降方向±Bと交差(例えば直交)する方向であり、キャップ64を有するキャップユニット62が移動する方向であるので、キャップ移動方向±Aともいう。
【0091】
次に、液体吐出装置の一例であるプリンター1の作用について説明する。
ユーザーが不図示のホスト装置のキーボード又はマウス等のポインティングデバイス(いずれも図示略)の操作で、記録対象の画像等を指定するとともに、記録条件情報を入力設定する。記録条件情報には、媒体サイズ、媒体種、記録色、記録枚数などが含まれる。
ホスト装置は、プリンター1へ記録条件情報および画像データを含む記録ジョブを送信する。
【0092】
プリンター1は、ホスト装置から記録ジョブを受信する。制御部26は、記録ジョブに含まれる記録条件情報に基づいて、ピックローラー6、ローラー対7,8,11および搬送ユニット10を駆動させる。この結果、プリンター1は、指定の媒体種および媒体サイズの媒体Pをカセット4から給送する。給送された媒体Pは、搬送経路Tを通って搬送ベルト15上に搬送される。また、制御部26は、記録ジョブに含まれる画像データに基づいてヘッド20Hを制御する。ヘッド20Hは、搬送ベルト15上を搬送される媒体Pに向かってインク等の液体を吐出する。記録された媒体Pは排出トレイ21へ排出される。
【0093】
制御部26は、ヘッドユニット20をキャップ位置から退避位置へ移動させる。次に、キャップユニット62をキャッピング位置から退避位置へ移動させる。制御部26は、記録を開始するのに先立ち、媒体種の情報に基づいてヘッド20Hと搬送ベルト15との間のギャップを調整する。制御部26は、モーター49を駆動させて媒体種から決まるギャップに応じた回転角度に偏心カム48を回転させる。
【0094】
図14に示されるように、ヘッドユニット20が退避位置にある通常時は、ヘッドユニット20の自重および第2ばね29の付勢によって、ヘッドユニット20はラック28に対して相対的に+B方向にスライドした位置にある。ピン20Pの第2当接面282(
図10参照)が、長孔27の上端面273である第3壁面に当接する状態にある。
【0095】
図15に示されるように、記録時には、ヘッドユニット20が退避位置から下降し、その板部20Aが偏心カム48に当接することで、ヘッド20Hが記録位置に位置決めされる。制御部26は、モーター41を正転駆動させ、ヘッドユニット20を退避位置から、
図15に示されるように板部20Aが偏心カム48のカム面48Aに当接するまで下降させる。制御部26は、モーター41をさらに正転駆動し、
図15に示される当接位置からラック28の高さ位置を更に下降させる。
【0096】
図16に示されるように、ヘッドユニット20は、板部20Aが偏心カム48に当接した位置で位置規制され、それ以上は下降しないが、ラック28は第2ばね29を圧縮変形させつつヘッドユニット20に対して相対的に下降する。この結果、ピン20Pは、長孔27内をその上端面273である第3壁面に当接する位置から下降する。このとき、第2ばね29は圧縮変形するので、第2ばね29が元に戻ろうとする復元力がヘッドユニット20を下降させるB方向に働く。このため、ヘッド20Hを目標の記録位置に位置決めする場合、その目標の記録位置よりも少しマージンを含む下方の位置を目標位置にするため、多少のばらつきがあっても、板部20Aが偏心カム48のカム面48A(外周面)に常に当接した状態で位置決めできる。このため、プリンター1の個体差によらず、ヘッド20Hを記録位置に配置するときの位置精度を向上できる。
【0097】
この記録位置でヘッド20Hは搬送ベルト15を搬送される媒体Pに向かってノズルNから液体を吐出する。このとき、ヘッド20Hと搬送ベルト15との間のギャップが適正な値に調整されているので、媒体Pに記録された記録品質が向上する。
【0098】
記録終了後、ヘッド20Hはキャッピングされる。まず、ヘッドユニット20が記録位置(
図2)から退避位置(
図11)へ退避する。この移動は、制御部26がモーター41を逆転駆動することにより行われる。次に、制御部26は、キャップユニット62を待機位置(
図11)からキャッピング位置(
図12)へ移動させる。この移動は、制御部26がモーター81を正転駆動することにより行われる。次に、制御部26は、ヘッドユニット20を退避位置(
図12)からキャップ位置(
図13)に移動させる。このキャッピング過程の移動は、制御部26がモーター41を正転駆動することにより行われる。
【0099】
図17に示されるように、キャッピング過程では、ヘッド20Hがキャップ64に接触する。さらにヘッド20Hが下降側である+B方向に押し込まれることにより、第2ばね29の圧縮変形を伴って、ピン20Pが長孔27の上端面273である第3壁面から離間し、第1壁面271に沿って移動し、長孔27の下端面272である第2壁面に当接する(
図18)。ピン28Pが長孔27の上端面273に当接する位置から下端面272に当接する位置まで下降する過程で、キャップ64は、ヘッド20Hから受ける+B方向の力によって、第1ばね65の圧縮変形を伴って少し下降する。
【0100】
ここで、第2ばね29のばね定数は、第1ばね65のばね定数よりも小さい。このため、ピン28Pが長孔27の上端面273に当接する位置から下端面272に当接する位置まで+B方向に移動する過程で、第2ばね29の圧縮量は、第1ばね65の圧縮量よりも大きい。よって、ヘッド20Hがキャップ64に接触した後、ピン28Pが長孔27に沿って+B方向に移動して下端面272に当接するまでの間で、キャップ64の下降量は比較的少ない。換言すれば、ヘッド20Hがキャップ64に接触した後、ラック28の比較的少ない下降量で、ピン28Pを長孔27に沿って+B方向に移動させ、長孔27の下端面272に当接させることができる。
【0101】
図18に示されるように、ピン20Pの第1当接面281が長孔27の下端面272に当接した後は、ラック28とヘッドユニット20との第2ばね29を圧縮させる方向へのそれ以上のスライドが不能になる。
図18から
図19の状態に至る過程で、ラック28とヘッドユニット20とが一体に+B方向に下降する。こうして
図18から
図19までの過程で、昇降機構30は、ヘッド20Hがラック28に対してキャップ64から遠ざかる向きへのスライドが生じない状態にて、ヘッド20Hをキャップ64側に向けて移動させる。この結果、ピン28Pの当接面281が長孔27の下端面272に接触した後、さらにヘッド20Hを+B方向に移動させる距離が短くても、必要なキャップ圧を得られやすい。この過程で、キャップ64は、ヘッド20Hから受ける+B方向の押圧力によって第1ばね65のさらなる圧縮変形を伴ってさらに少し下降する。
【0102】
そして、
図19に示されるように、ラック28がキャッピング時の目標位置まで下降し終わると、キャップ64がヘッド20Hのノズル面20Nに対して適切なキャップ圧で圧接する。適切なキャップ圧が得られるので、このキャッピング状態の下ではノズルN(
図9参照)内のインク等の液体の乾燥が効果的に抑制される。
【0103】
また、クリーニング時には、キャッピング状態においてノズル面20Nとキャップ64とで囲まれた閉空間が必要な負圧に減圧されるので、ノズルNから液体を強制的に排出するクリーニングが適切に行われる。なお、クリーニングは、キャップ64内を減圧する構成に限らず、ノズルNの上流側で、例えば液体収容部23(
図1参照)内の液体を加圧してノズルNから液体を強制的に排出して行う構成でもよい。
【0104】
また、制御部26は、記録中においてフラッシング時期を管理する。制御部26は、記録中にフラッシング時期に達すると、ヘッド20Hにフラッシングを行わせる。フラッシング時期に達したときに記録中であった媒体Pへの記録が終わると、後続の媒体Pの搬送を一時停止する。まず、ヘッドユニット20を、
図2に示される記録位置から
図11に示される退避位置に移動させる。次に、キャップユニット62が待機位置からキャッピング位置まで+A方向に移動させる(例えば
図12)。このキャッピング位置はフラッシング位置でもある。さらに、ヘッドユニット20を退避位置から少し下降させた位置をフラッシング位置としてもよい。そして、ヘッド20HのノズルNからキャップ64に向けて液体を吐出する。この結果、ノズルN内の増粘インクや気泡等がインク等の液体と一緒に排出され、ノズルNの目詰まりが解消または予防される。このため、フラッシング後の記録において、ヘッド20Hにより媒体Pに高い記録品質で記録される。
【0105】
また、記録が終わると、ヘッド20HはノズルNがキャップ64により覆われるキャッピング状態(
図9、
図13)とされる。キャッピング中は、ヘッドユニット20とラック28とがB方向にスライド可能な状態にある。昇降機構30が停止しているキャッピング中に、ヘッドユニット20が、例えば、紙ジャム等を原因とする外力を受けても、スライド機構31を介してヘッド20Hがラック28に対して第2ばね29の変形を伴ってB方向にスライドすることによって、紙ジャム発生時等の外力に起因する衝撃を吸収できる。
【0106】
以上、詳述したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)液体吐出装置の一例であるプリンター1は、昇降方向±Bに沿って互いにスライド可能な第1部材と第2部材とを有するスライド機構31を備える。本実施形態では、第1部材は、長孔27を有する壁部材22Bにより構成され、第2部材はピン28Pにより構成される。また、プリンター1は、長孔27を有する壁部材22B(第1部材の一例)と固定され、液体を吐出するノズルNを有するヘッド20Hと、ピン28P(第2部材の一例)と固定され、ヘッド20Hを昇降方向±Bに沿って昇降させる昇降機構30と、ノズルNを覆うキャップ64とを備える。昇降機構30は、ヘッド20Hがキャップ64から遠ざかる向きへのスライド機構31を介したスライドが生じない状態にて、ヘッド20Hをキャップ64側に向けて相対移動させる。よって、ヘッド20Hとキャップ64とが接触した位置からヘッド20Hを移動させる距離が短くても、必要なキャップ圧を得られやすい。例えば、ヘッドがキャップから遠ざかる向きへのスライド機構を介したスライドが可能な位置でヘッドを停止してキャッピングを終了する従来の構成では、キャップ圧にばらつきが発生しやすい。これに対して、本実施形態によれば、ノズルNを覆う状態にキャップ64がヘッド20Hに接触するときに、ラック28の下降量がプリンター1間でばらついても、各プリンター1において所望のキャップ圧を得られやすい。また、キャップ64がノズルNを覆うにキャッピング状態の下で昇降機構30が停止しているときに、例えば、媒体Pのジャム発生時の衝撃によってヘッド20Hが外力を受けても、ヘッド20Hとラック28とのスライド機構31を介した相対移動(振動)によって、ヘッド20Hの衝撃を吸収できる。例えば、ヘッド20Hが衝撃を受けたときにノズルN内の液体のメニスカスの破壊を抑制できる。この場合、メニスカスの破壊に起因する液体の吐出不良を抑制できる。
【0107】
(2)スライド機構31は、昇降方向±Bに沿って延びる第1壁面271と、昇降方向±Bと交差する方向に沿って延びる下端面272と、第1壁面271に接触しながら第1壁面271に対してスライドするピン28Pと、ピン28Pのスライドにより下端面272との間の接触の有無を切り替え可能な当接面281とを有する。当接面281と下端面272とが接触することにより、ヘッド20Hがキャップ64から遠ざかる向きへのスライドが生じない。よって、当接面281と下端面272との接触の有無により、スライドの有無が切り替えられるので、機構を簡素化できる。例えば、モーター等の駆動源の動力で、施錠と解錠とを切り替えるロック機構を用いる構成に比べ、モーター等の駆動源が不要なので、機構の構成が簡単で済む。
【0108】
(3)プリンター1は、昇降方向±Bに沿って互いにスライド可能な長孔27を有する壁部材22Bおよびピン28Pを有するスライド機構31を有する。さらに、プリンター1は、長孔27を有する壁部材22Bと固定され、液体を吐出するノズルNを有するヘッド20Hと、ピン28Pと固定され、ヘッド20Hを昇降方向±Bに沿って昇降させる昇降機構30とを備える。また、プリンター1は、ノズルNを覆うキャップ64を備える。
スライド機構31は、昇降方向±Bに沿って延びる第1壁面271と、昇降方向±Bと交差する方向に沿って延びる下端面272と、第1壁面271に接触しながら第1壁面271に対してスライドするピン28Pと、ピン28Pのスライドにより下端面272との間の接触の有無を切り替え可能な当接面281とを有する。昇降機構30は、当接面281と下端面272とが接触した状態にて、ヘッド20Hをキャップ64側に向けて相対移動させる。よって、ヘッド20Hがキャップ64に接触した後、昇降機構30は、ピン28Pと下端面272とが接触するまでの間の過程においては、ヘッド20Hがラック28に対してキャップ64から遠ざかる向きへのスライド機構31を介したスライドが生じる。
そして、ピン28Pと下端面272とが接触した後においては、ヘッド20Hがラック28に対してキャップ64から遠ざかる向きへのスライド機構31を介したスライドが生じない。したがって、上記(1)と(2)の両方の効果を得ることができる。すなわち、ピン28Pと下端面272とが接触した後は、昇降機構30は、ヘッド20Hがキャップ64から遠ざかる向きへのスライド機構31を介したスライドが生じない状態にて、ヘッド20Hをキャップ64側に向けて相対移動させる。よって、ヘッド20Hがキャップ64に接触してからヘッド20Hを移動させる距離が短くても、必要なキャップ圧を得られやすい。そのうえ、キャッピング状態の下で媒体Pのジャム発生時の衝撃によってヘッド20Hが外力を受けても、ヘッド20Hとラック28との相対移動によってその外力に起因する振動を抑制できる。
【0109】
(4)プリンター1は、キャップ64を保持するためのキャップホルダー66と、キャップ64とキャップホルダー66との間に固定された第1ばね65とをさらに備える。昇降機構30は、ピン28Pの当接面281と長孔27の下端面272とが接触した状態にて、ヘッド20Hをキャップ64に向けて移動させることにより、第1ばね65を圧縮させる。よって、第1ばね65によってキャップ64がノズル面20Nに倣って移動可能なので、キャップホルダー66の平面度に関わらず、キャップ64でノズルNを覆いやすい。また、ピン28Pの当接面281と長孔27の下端面272とが接触した後に、さらに第1ばね65を圧縮させるので、ヘッド20Hの移動距離が短くても必要なキャップ圧を得られやすい。
【0110】
(5)スライド機構31は、ピン20Pの当接面281と長孔27の下端面272とが離間する向きに付勢する第2ばね29と、昇降方向±Bに交差する方向に沿って延びる面であって、下端面272(第2壁面の一例)と反対側を向く面である上端面273(第3壁面の一例)とを備える。さらに、スライド機構31は、ピン28Pのスライドにより上端面273との間の接触の有無を切り替え可能な第2当接面282を備える。第2ばね29のばね定数は、第1ばね65のばね定数よりも小さい。よって、ヘッド20Hがキャップ64により覆われていない上昇した位置にあるとき、第2ばね29の付勢力によりピン28Pの第2当接面282が長孔27の上端面273と当接しているので、ヘッド20Hの姿勢が安定しやすい。このため、ヘッド20Hをキャップ位置または記録位置から上昇させたときの振動を抑制できる。よって、ヘッド20Hの振動に起因してノズルNのメニスカスが破壊されることを抑制できる。また、ヘッド20Hがキャップ64に接触した後、ラック28は第2ばね29を弾性変形させつつヘッド20Hに対してスライドする。
【0111】
また、第2ばね29のばね定数が第1ばね65のばね定数よりも小さいので、ヘッド20Hがキャップ64に接触した後、ピン28P(スライド部材の一例)が下端面272に当接するまでに必要なラック28の駆動量が相対的に少なく済む。このため、ヘッド20Hがキャップ64に接触した後、早々にヘッド20Hをキャップ64で覆うキャッピング動作を終えることができる。また、キャッピング状態からヘッド20Hがキャップ64から離れるまでに、ピン28Pが下端面272(第2壁面の一例)に当接する位置から上端面273(第3壁面の一例)に当接する位置までに必要なラック28の駆動量が相対的に少なく済む。このため、早々にヘッド20Hをキャップ64で覆うキャッピング動作を終えることができる。
【0112】
(6)ヘッド20HはノズルNが開口する面であるノズル面20Nを有する。ヘッド20Hのノズル面20Nが向く向きと反対の向きを向く規制面であって、昇降方向±Bにおけるヘッド20Hの移動によりヘッド20Hとの間の接触の有無を切り替える規制面を備える。スライド機構31の第1壁面271とピン28Pとは、ヘッド20Hと規制面とが接触した状態において、スライドする。よって、ヘッド20Hが規制面に接触することにより、ヘッド20Hの位置決めを行うことができる。また、ヘッド20Hが規制面に接触した状態でスライド機構31のピン28Pがスライドするので、昇降機構30の制御を簡素化できる。
【0113】
(7)プリンター1は、カム面48Aを有する偏心カム48と、偏心カム48を回転させるためのカム軸47とを備える。規制面は、偏心カム48のカム面48Aにより構成され、かつ、昇降方向±Bにおけるヘッド20Hの位置が第1位置となる第1規制面481と、ヘッド20Hの位置が第2位置となる第2規制面482とを含む。よって、偏心カム48の回転により、偏心カム48のカム面48A(規制面)と接触するヘッド20Hの昇降方向±Bにおける位置を変更できる。
【0114】
(8)ヘッド20Hは、ヘッド20Hの板部20Aと偏心カム48のカム面48A(規制面)とが接触した状態において、液体を吐出する。よって、印刷時のヘッド20Hを位置精度の高い記録位置に配置することができる。この結果、良好な印刷結果が得られる。
【0115】
(9)スライド機構31は、ピン28Pと下端面272とが離間する向きに付勢する第2ばね29と、昇降方向±Bと交差する方向に沿って延び、且つ下端面272と反対側を向く上端面273と、ピン28Pのスライドにより上端面273との間の接触の有無を切り替え可能な第2当接面282とを備える。よって、ヘッド20Hがキャッピングされていない状態、およびヘッド20Hが偏心カム48と接触していない状態において、ヘッド20Hの姿勢が安定しやすい。例えば、キャッピングするためにヘッド20Hを一時的に退避位置まで上昇させたときにヘッド20Hの姿勢が安定しやすい。
【0116】
(10)ピン28Pの第2当接面282が長孔27の上端面273に接触した状態における第2ばね29の長さは、第2当接面282が長孔27の上端面273(第3壁面)に接触する位置から、当接面281が長孔27の下端面272(第2壁面)に接触する位置までピン28P(スライド部材)が移動する移動量よりも、長い。よって、第2当接面282が長孔27の上端面273に接触する位置から、当接面281が長孔27の下端面272に接触する位置に向かって、ピン28Pが第2ばね29の弾性変形を伴って移動するとき、ピン28Pの当接面281と長孔27の下端面272とを接触させやすい。
【0117】
なお、上記実施形態は以下に示す変更例のような形態に変更することもできる。さらに、上記実施形態および以下に示す変更例を適宜組み合わせたものを更なる変更例とすることもできるし、以下に示す変更例同士を適宜組み合わせたものを更なる変更例とすることもできる。
【0118】
・ピンや長孔(開口)をヘッドユニット20に設けるのか、ラック28に設けるのかは自由に選択できる。第2壁面を有する部材は、第1部材であってもよいし、第2部材であってもよい。前記実施形態では、ラック28にピンを設けるとともにヘッドユニット20の壁部である支持フレーム22に長孔(開口)を設けたが、反対の構成でもよい。すなわち、
図20~
図22に示されるように、ラック28に長孔(開口)を設け、ヘッドユニット20の壁部である支持フレーム22にピン20Pを設けてもよい。
図20に示されるように、ラック28に形成された長孔27には、ヘッドユニット20の支持フレーム22の内面から突出するピン20Pが挿入されている。長孔27は、昇降方向±Bと平行な方向を長手方向とする長方形の孔である。長孔27の内周面は、昇降方向±Bに沿って延びる第1壁面271と、昇降方向±Bと交差する方向に延びる第2壁面の一例である上端面273と、上端面273と対向し昇降方向±Bと交差する方向に延びる第3壁面の一例である下端面272とを含む。この変更例では、ヘッドユニット20のピン20Pが、第1部材およびスライド部材の一例を構成する。ピン20Pは、ヘッドユニット20の壁部である支持フレーム22に一体に形成されてもよいし、支持フレーム22に対してねじ等の締結部材または接着剤を用いて固定されてもよい。ピン20Pは、ヘッド20Hに固定されてもよい。また、ラック28のうち長孔27が形成された部分である壁部材28Cが、第2部材の一例に相当する。壁部材28Cは、ラック28に一体に形成されてもよいし、ラック28に対してねじ等の締結部材または接着剤を用いて固定されてもよい。
【0119】
この変更例の構成であっても、
図20に示されるように、通常時は、ヘッドユニット20の自重および第2ばね29の付勢によって、ヘッドユニット20がラック28に対して相対的に下降した位置にある。ピン20Pが長孔27の下端面272である第3壁面に当接する状態にある。
【0120】
図21に示されるように、記録時には、板部20Aが偏心カム48に当接することで、ヘッド20Hが記録時の高さに位置決めされる。制御部26は、モーター41を正転駆動させ、ラック28の高さ位置を更に下降させる。ヘッドユニット20は板部20Aが偏心カム48に当接した位置で位置規制され、それ以上は下降しないが、ラック28は第2ばね29を圧縮させつつヘッドユニット20に対して相対的に下降する。この結果、ピン20Pは長孔27内をその下端面272である第3壁面に当接する位置から上昇する。このとき、第2ばね29は圧縮されるので、第2ばね29が元に戻ろうとする復元力がヘッドユニット20を下降させる方向に働く。このため、ヘッド20Hを目標の記録位置に位置決めする場合、その目標の記録位置よりも少しマージンを含む下方の位置を目標位置にすれば、多少のばらつきがあっても、板部20Aが偏心カム48のカム面48Aに常に当接した状態で位置決めできる。このため、プリンター1の個体差によらず、ヘッド20Hの記録時における位置精度を向上できる。
【0121】
また、
図22に示されるように、キャッピング時は、ヘッド20Hがキャップ64に接触する。さらにヘッド20Hが下降側であるB方向に押し込まれることにより、第2ばね29の圧縮変形を伴って、ピン20Pが、長孔27の下端面272である第3壁面から離間し、その上端面273である第2壁面に当接することで、ラック28とヘッドユニット20とのそれ以上のスライド機構31を介したスライドが不能になる。この過程で、キャップ64は、ヘッド20Hから受けるB方向の力によって、第1ばね65の圧縮変形を伴って少し下降する。
図22に示されるように、ピン20Pが長孔27の上端面273である第2壁面に当接した後は、ラック28とヘッドユニット20とが一体にB方向に下降する。この結果、キャップ64は、第1ばね65のさらなる圧縮変形を伴って下降する。そして、ラック28がキャッピング時の目標位置まで下降し終わると、キャップ64がヘッド20Hのノズル面20Nに対して適切なキャップ圧で圧接する。適切なキャップ圧が得られるので、このキャッピング状態の下ではノズルN(
図9参照)内のインクの乾燥が効果的に抑制され、また、クリーニング時にノズル面20Nとキャップ64とで囲まれた閉空間が必要な負圧に減圧されるので、ノズルNから液体を強制的に排出するクリーニングが適切に行われる。なお、クリーニングは、キャップ64内を減圧する構成に限らず、ノズルNの上流側で液体を加圧してノズルNから液体を強制的に排出する構成でもよい。
【0122】
・ピンの下面または上面よりなる当接面と、長孔27の下端面または上端面よりなる第2壁面とが当接する構成に限らず、スライド機構以外の別の場所の部材が当接することにより、ラック28とヘッドユニット20とのスライドが規制される構成でもよい。すなわち、当接面はスライド部材に設けられず、かつ第2壁面は長孔の内周面の一部ではなく当接面と接触可能な別の位置に配置されてもよい。例えば、
図23、
図24に示されるように、ヘッドユニット20は、その下部における側面(
図23では左側面)から上方へ延出する延出部20Eを有する。延出部20Eの-B方向側の端面である上端面20Fが第2壁面となっている。また、ラック28のB方向側の端部である下端部には、昇降方向±Bにおいて延出部20Eと対向する部分に当接面28Dが形成されている。このように、当接面28Dがラック28のピン28P以外の部分に形成され、第2壁面が長孔27の内周面以外の部分に形成されてもよい。
図23に示されるように、ヘッドユニット20が上昇位置にある状態から、ピニオン43が回転することで、ヘッドユニット20はB方向に下降し、ヘッド20Hがキャップ64に当接する。このとき、ピン28Pは長孔27の上端面273よりなる第3壁面に当接している。
【0123】
そして、
図24に示されるように、さらにピニオン43が正転方向(
図24における時計回り方向)に回転すると、ラック28およびヘッドユニット20が下降し、第2ばね29の圧縮変形を伴ってラック28がヘッドユニット20に対してB方向にスライドする。
このとき、ピン28Pは長孔27内を下降する。そして、ラック28の当接面28Dが延出部20Eの上端面20Fに当接することで、ラック28とヘッドユニット20とのそれ以上のスライドが規制される。さらに、ピニオン43が回転すると、ラック28とヘッドユニット20とが一体で下降し、ヘッド20Hがキャップ64をさらに押込むことで、第1ばね65が圧縮変形する。この結果、キャップ64をノズル面20Nに対して適切なキャップ圧で圧接させることができる。このように、スライド機構31以外の部分において、当接面28Dと上端面20Fとを設け、当接面28Dと上端面20Fとの当接を介してラック28とヘッドユニット20とのそれ以上のスライドが規制される構成でもよい。この構成によっても、昇降機構30は、ヘッド20Hがキャップ64から遠ざかる向きへのスライド機構31を介したスライドが生じない状態にて、ヘッド20Hをキャップ64側に向けて移動させることができる。
【0124】
・第2壁面は、長孔27の下端面272(
図10、
図19)、長孔27の上端面273(
図22)やラック28の下面である当接面28D(
図23、
図24)に限らず、長孔27やラック28とは別の場所の壁部の面でもよい。
【0125】
・第3壁面は、長孔27の下端面272(
図19)、長孔27の上端面273(
図22)、に限らず、長孔27とは別の場所の壁部の面でもよい。
・スライド部材のスライドの規制が、ピンと長孔との当接以外により行われてもよい。
つまり、当接面をスライド部材以外に設けてもよい。
【0126】
・第1部材は、支持フレーム22と一体に成形される構成に限らず、支持フレーム22に別部材として組み付けられてもよい。要するに、第1部材は、ヘッド20Hと直接固定されてもよいし、ヘッド20Hと間接的に固定されてもよいし、一体に成形されてもよい。
【0127】
・第2部材の一例であるピン28Pは、ラック28に固定された構成に限定されず、ラックに別部材として組み付けられた部材に固定されてもよい。要するに、第2部材は、昇降機構に対して、直接固定されてもよいし、間接的に固定されてもよいし、一体に成形されてもよい。
【0128】
・ヘッド20Hに固定される第1部材がピン28Pであり、昇降機構30を構成するラック28に固定される第2部材が長孔27を有する部材であってもよい。この場合、ピン28Pは支持フレーム22に固定されてもよいし、ヘッド20Hの両側面に直接固定されてもよい。
【0129】
・スライド機構31は、例えば、昇降方向±Bに沿って延びる第1部材の一例であるレールと、レールに嵌合される第2部材とを有する構成でもよい。この場合、レールとそれに嵌合する部材は、断面が凹凸で、凹部と凸部とが嵌合される構成でもよい。
【0130】
・昇降機構30は、ヘッド20Hがキャップ64に接触した後、ヘッド20Hがキャップ64から遠ざかる向きへのスライド機構31を介したスライドが生じない状態にて、ヘッド20Hをキャップ64側に向けて相対移動させたが、ヘッド20Hは、キャップ64から遠ざかる向きへのスライドがなければ、その途中で一時的に停止してもよい。例えば、第2ばね29のばね係数が第1ばね65のばね係数に比べ非常に小さく、スライド機構31によるスライドの過程もしくはそのスライド過程の一部の過程で、ヘッド20Hのキャップ64へ向かう方向の移動が一時停止されてもよい。
【0131】
・キャップ64が第1ばね65の付勢力によりヘッド20Hに近づく-B方向に付勢される構成に替え、第1ばね65をなくし、キャップ64がキャップホルダー66に固定された構成でもよい。この構成であっても、昇降機構30は、ヘッド20Hがキャップ64に接触した後、ヘッド20Hがキャップ64から遠ざかる向きへのスライド機構31を介したスライドが生じない状態にて、ヘッド20Hをキャップ64側に向けて相対移動させることはできる。
【0132】
・スライド機構31を、昇降方向±Bに位置の異なる2箇所に設けたが、1箇所でもよいし、3箇所以上の複数箇所でもよい。スライド機構31を介して、ヘッドユニット20とラック28とを昇降方向±Bにスライド可能に構成されればよい。
【0133】
・第2部材が固定される昇降機構は、ラック28に限定されない。例えば、ヘッド20Hを昇降させる機構を、ラックピニオン機構に替え、ベルト式動力伝達機構としてもよい。この例では、ベルト式動力伝達機構は昇降機構の構成部品として無端状のタイミングベルトを備える。第2部材が固定される昇降機構の固定箇所は、無端状のタイミングベルトであってもよい。そして、タイミングベルトに長孔を含む第2部材に固定され、ヘッドユニット20にピンが第1部材の一例として固定されてもよい。
【0134】
・長孔27を有する壁部材22Bよりなる第1部材とヘッド20Hとが一体成形された構成に限らず、第1部材とヘッド20Hとがねじ等の締結部材を介して固定されたり、接着剤または溶着により固定されたりしてもよい。また、第2部材の一例であるピン28Pと昇降機構の一例であるラック28とが一体的に成形された構成に限らず、ピン28Pとラック28とがねじ等の締結部材を介して固定されたり、接着剤または溶着により固定されたりしてもよい。
【0135】
・制御部26は、CPU等のコンピューターがプログラムを実行するソフトウェアの構成でもよいし、ASIC等の電子回路によるハードウェアの構成でもよい。また、制御部26は、ソフトウェアとハードウェアとの協働による構成でもよい。
【0136】
・媒体Pは、用紙に限定されず、合成樹脂製のフィルムや媒体、布、不織布、ラミネート媒体などでもよい。
・液体吐出装置は、インクジェット方式のプリンター1に限定されず、液体吐出装置は、インクジェット方式の捺染装置でもよい。また、液体吐出装置は、記録機能に加え、スキャナー機構及びコピー機能を有する複合機でもよい。
【0137】
・液体吐出装置は、インクジェット式のプリンター1に限定されず、インク以外の他の液体を吐出する装置でもよい。例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの機能材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を吐出する液体吐出装置でもよい。また、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を吐出する液体吐出装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を吐出する液体吐出装置であってもよい。さらに光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために熱硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に吐出する液体吐出装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を吐出する液体吐出装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を吐出する液体吐出装置でもよい。さらに、液体吐出装置は、インクジェット方式で光硬化性の樹脂液を吐出して立体物を形成する三次元造形用の3Dプリンターでもよい。
【0138】
以下、前記実施形態及び変更例から把握される技術思想を効果と共に記載する。
(A)液体吐出装置において、昇降方向に沿って互いにスライド可能な第1部材および第2部材を有するスライド機構と、前記第1部材と固定され、液体を吐出するノズルを有するヘッドと、前記第2部材と固定され、前記ヘッドを前記昇降方向に沿って昇降させる昇降機構と、前記ノズルを覆うキャップとを備え、前記昇降機構は、前記ヘッドが前記キャップから遠ざかる向きへの前記スライド機構を介したスライドが生じない状態にて、前記ヘッドを前記キャップ側に向けて相対移動させる。
【0139】
この構成によれば、昇降機構が、ヘッドがキャップから遠ざかる向きへのスライド機構を介したスライドが生じない状態にて、ヘッドをキャップに向けて移動させるので、ヘッドがキャップに接触した後、ヘッドを移動させる距離が短くても必要なキャップ圧を得られやすい。例えば、ヘッドがキャップから遠ざかる向きへのスライド機構を介したスライドが可能な位置でヘッドを停止してキャッピングを終了した場合、キャップ圧にばらつきが発生しやすい。これに対して、上記構成によれば、ノズルを覆う状態にキャップがヘッドに接触するときに所望のキャップ圧を得ることができる。
【0140】
(B)上記液体吐出装置において、前記スライド機構は、前記昇降方向に沿って延びる第1壁面と、前記昇降方向と交差する方向に沿って延びる第2壁面と、前記第1壁面に接触しながら当該第1壁面に対してスライドするスライド部材と、前記スライド部材のスライドにより前記第2壁面との間の接触の有無を切り替え可能な当接面とを有し、前記当接面と前記第2壁面とが接触することにより、前記ヘッドが前記キャップから遠ざかる向きへのスライドが生じなくてもよい。
【0141】
この構成によれば、当接面と第2壁面との間の接触の有無により、スライドの有無が切り替えられるので、機構を簡素化できる。
(C)上記液体吐出装置において、昇降方向に沿って互いにスライド可能な第1部材および第2部材を有するスライド機構と、前記第1部材と固定され、液体を吐出するノズルを有するヘッドと、前記第2部材と固定され、前記ヘッドを前記昇降方向に沿って昇降させる昇降機構と、前記ノズルを覆うキャップとを備え、前記スライド機構は、前記昇降方向に沿って延びる第1壁面と、前記昇降方向と交差する方向に沿って延びる第2壁面と、前記第1壁面に接触しながら前記第1壁面に対してスライドするスライド部材と、前記スライド部材のスライドにより前記第2壁面との間の接触の有無を切り替え可能な当接面と、を有し、前記昇降機構は、前記当接面と前記第2壁面とが接触した状態にて、前記ヘッドを前記キャップ側に向けて相対移動させてもよい。
【0142】
この構成によれば、昇降機構が、ヘッドがキャップから遠ざかる向きへのスライド機構を介したスライドが生じない状態にて、ヘッドをキャップに向けて移動させるので、ヘッドがキャップに接触した後、ヘッドを移動させる距離が短くても必要なキャップ圧を得られやすい。例えば、ヘッドがキャップから遠ざかる向きへのスライド機構を介したスライドが可能な位置でヘッドを停止してキャッピングを終了した場合、キャップ圧にばらつきが発生しやすい。これに対して、上記構成によれば、ノズルを覆う状態にキャップがヘッドに接触するときに所望のキャップ圧を得られやすい。
【0143】
(D)上記液体吐出装置において、前記キャップを保持するためのキャップホルダーと、前記キャップと前記キャップホルダーとの間に固定された第1ばねとをさらに備え、前記昇降機構は、前記当接面と前記第2壁面とが接触した状態にて、前記ヘッドを前記キャップに向けて移動させることにより、前記第1ばねを圧縮させてもよい。
【0144】
この構成によれば、第1ばねの弾性によってキャップがノズル面に倣って移動可能なので、キャップホルダーの平面度に関わらず、キャップでノズルを覆いやすい。また、当接面と第2壁面とが接触した後、さらに第1ばねを圧縮させるので、ヘッドの移動距離が短くても必要なキャップ圧を得られやすい。
【0145】
(E)上記液体吐出装置において、前記スライド機構は、前記当接面と前記第2壁面とが離間する向きに付勢する第2ばねと、前記昇降方向に交差する方向に沿って延びる面であって前記第2壁面と反対側を向く面である第3壁面と、前記スライド部材のスライドにより前記第3壁面との間の接触の有無を切り替え可能な第2当接面とをさらに備え、前記第2ばねのばね定数は、前記第1ばねのばね定数よりも小さくてもよい。
【0146】
この構成によれば、ヘッドがキャップにより覆われていない上昇した位置にあるとき、ヘッドと固定された部分およびヘッド自体の重量と、第2ばねの付勢力とによって、スライド部材の第2当接面が第3壁面と当接している。このため、ヘッドの姿勢が安定しやすい。また、ヘッドをキャップ位置または記録位置から上昇させたときに第2ばねの弾性変形によりヘッドの振動を吸収できる。よって、ヘッドの振動に起因してノズルの開口付近にノズル内の液体の表面張力により形成されるメニスカスの破壊等を抑制できる。メニスカスの破壊は、ノズルから液体を吐出するときの吐出方向や吐出量等の吐出性能に影響を及ぼすが、この影響が低減されるので、ヘッドのノズルから液体を正常に吐出できる。第2ばねのばね定数が第1ばねのばね定数よりも小さいので、ヘッドがキャップに接触した後、スライド部材が第2壁面に当接するまでに必要なラックの駆動量が相対的に少なく済む。このため、ヘッドがキャップに接触した後、早々にヘッドをキャップで覆うキャッピング動作を終えることができる。また、キャッピング状態からヘッドがキャップから離れるまでに、スライド部材が第2壁面に当接する位置から第3壁面に当接する位置までに必要なラックの駆動量が相対的に少なく済む。このため、早々にヘッドをキャップで覆うキャッピング動作を終えることができる。
【0147】
(F)上記液体吐出装置において、前記ヘッドは前記ノズルが開口する面であるノズル面を有し、前記ヘッドの前記ノズル面が向く向きと反対の向きを向く面であって前記昇降方向における前記ヘッドの移動により前記ヘッドとの間の接触の有無を切り替える当該面である規制面を備え、前記スライド機構の前記第1壁面と前記スライド部材とは、前記ヘッドと前記規制面とが接触した状態において、スライドしてもよい。
【0148】
この構成によれば、ヘッドが規制面に接触することにより、ヘッドの位置決めを行うことができる。また、ヘッドが規制面に接触した状態でスライド機構のスライド部材がスライドするので、昇降機構の制御を簡素化できる。
【0149】
(G)上記液体吐出装置において、カム面を有する偏心カムと、前記偏心カムを回転させるための軸とを備え、前記規制面は、前記偏心カムの前記カム面により構成され、かつ、前記昇降方向における前記ヘッドの位置が第1位置となる第1規制面と、前記ヘッドの位置が第2位置となる第2規制面とを含んでもよい。
【0150】
この構成によれば、偏心カムの回転により、偏心カムの規制面と接触するヘッドの昇降方向における位置を変更できる。
(H)上記液体吐出装置において、前記ヘッドは、当該ヘッドと前記規制面とが接触した状態において、液体を吐出してもよい。
【0151】
この構成によれば、印刷時のヘッドの位置を高精度にすることができる。印刷結果が良好になる。
(I)上記液体吐出装置において、前記スライド機構は、前記スライド部材と前記第2壁面とが離間する向きに付勢する第2ばねと、前記昇降方向と交差する方向に沿って延びる面であって前記第2壁面と反対側を向く当該面である第3壁面と、前記スライド部材のスライドにより前記第3壁面との間の接触の有無を切り替え可能な第2当接面とを備えてもよい。
【0152】
この構成によれば、第2ばねと第2壁面があるので、ヘッドがキャップされていない状態において、ヘッドの姿勢が安定しやすい。
(J)上記液体吐出装置において、前記スライド部材の前記第2当接面が前記第3壁面に接触した状態における前記第2ばねの長さは、前記第2当接面が前記第3壁面に接触する位置から、前記当接面が前記第2壁面に接触する位置まで前記スライド部材が移動する移動量よりも、長くてもよい。
【0153】
この構成によれば、第2当接面が第3壁面に接触する位置から、当接面が第2壁面に接触する位置に向かって、スライド部材が第2ばねの弾性変形を伴って移動するとき、スライド部材の当接面と第2壁面とを接触させやすい。
【符号の説明】
【0154】
1…液体吐出装置の一例としてのプリンター、2…筐体、3…排出部、4…カセット、6…ピックローラー、7…搬送ローラー対、8…搬送ローラー対、9…手差トレイ、10…搬送ユニット、11…搬送ローラー対、12…フラップ、13…媒体幅センサー、14…プーリー、15…搬送ベルト、16…廃液貯留部、20…ヘッドユニット、20H…ヘッドの一例としてのラインヘッド(ヘッド)、20A…板部、20U…単位ヘッド、20P…第1部材およびスライド部材の一例としてのピン、20N…ノズル面、20U…単位ヘッド、20F…第2壁面、21…排出トレイ、21A…載置面、22…支持フレーム、22A…第1掛止部、22B…第1部材の一例としての壁部材、23…液体収容部、24…支持ピン、25…コロ、26…制御部、27…第1部材の一例を構成する長孔、271…第1壁面、272…第2壁面の一例としての下端面、273…第3壁面の一例としての上端面、28…ラック、28A…歯部、28B…第1掛止部、28D…当接面、28P…第2部材およびスライド部材の一例としてのピン、281…当接面(第1当接面)、282…第2当接面、29…第2ばね、30…昇降機構、31…スライド機構、32…本体フレーム、33…サイドフレーム、34…サイドフレーム、34A…貫通孔、35…横フレーム、36…ガイド部材、37…ガイドレール、38…ガイドレール、39…ガイドレール、40…駆動ユニット、41…モーター、42…シャフト、43…ピニオン、43A…歯部、46…調整ユニット、47…軸の一例としてのカム軸、48…偏心カム、48A…規制面の一例としてのカム面、481…第1規制面、482…第2規制面、483…第3規制面、49…モーター、51…ホルダー、51A…貫通孔、52…ブラケット、52A…支持板、53…調整ネジ、54…被検知部材、55…位置センサー、56…ベアリング、60…メンテナンス装置、62…キャップユニット、62A…筐体、63…カバー本体、63A…側壁、64…キャップ、65…第1ばね、66…キャップホルダー、70…移動機構、71…ラック、72…ピニオン、73…ガイドレール、75…回転軸、81…モーター、N…ノズル、T…搬送経路、T1…搬送路、T2…搬送路、T3…搬送路、T4…搬送路、T5…反転路、θ1…所定角度、±B…昇降方向。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降方向に沿って互いにスライド可能な第1部材および第2部材を有するスライド機構
と、
前記第1部材と固定され、液体を吐出するノズルを有するヘッドと、
前記第2部材と固定され、前記ヘッドを前記昇降方向に沿って昇降させる昇降機構と、
前記ヘッドの移動により前記ヘッドとの間の接触の有無を切り換える規制面と、
を備え、
前記昇降機構は、前記ヘッドが前記規制面から遠ざかる向きへの前記スライド機構を介
したスライドが生じない状態にて、前記ヘッドを前記規制面に向けて相対移動させる、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記スライド機構は、
前記昇降方向に沿って延びる第1壁面と、
前記昇降方向と交差する方向に沿って延びる第2壁面と、
前記第1壁面に接触しながら前記第1壁面に対してスライドするスライド部材と、
前記スライド部材のスライドにより前記第2壁面との間の接触の有無を切り替え可能な
当接面と、
を有し、
前記当接面と前記第2壁面とが接触することにより、前記ヘッドが前記規制面から遠ざ
かる向きへのスライドが生じない、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
フレームと、
液体を吐出する吐出するヘッドを有するヘッドユニットと、
前記フレームに搭載されて、前記ヘッドユニットを昇降方向にスライド可能に支持する
案内部と、
第1位置と、前記第1位置より上方の第2位置と、の間で前記ヘッドユニットを昇降さ
せる昇降機構と、
前記ヘッドユニットが前記第1位置に位置している場合に、前記昇降機構に作用してい
る前記ヘッドユニットの自重を規制する規制部と、
を備えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
前記規制部によって前記自重を規制された状態で前記ヘッドの位置が調整されるように
前記昇降機構を制御する制御部をさらに備える、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1位置よりも下方の位置を目標位置とすることで、前記規制部に
よって前記自重を規制された状態で、前記ヘッドの位置を調整する、
ことを特徴とする請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記ヘッドユニットの前記昇降方向に沿って互いにスライド可能な第1部材および第2
部材を有するスライド機構をさらに備え、
前記ヘッドユニットは、前記第1部材と固定され、
前記昇降機構は、前記第2部材と固定され、
前記スライド機構は、
前記昇降方向に沿って延びる第1壁面と、
前記昇降方向と交差する方向に沿って延びる第2壁面と、
前記第1壁面に接触しながら前記第1壁面に対してスライドするスライド部材と、
前記スライド部材のスライドにより前記第2壁面との間の接触の有無を切り替え可能
な当接面と、
を有し、
前記制御部は、前記当接面と前記第2壁面とが接触した状態にて、前記ヘッドユニット
を前記規制部に向けて相対移動させる、
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記スライド機構は、
前記当接面と前記第2壁面とが離間する向きに付勢するばねと、
前記昇降方向に交差する方向に沿って延びる面であって、前記第2壁面と反対側を向
く面である第3壁面と、
前記スライド部材のスライドにより前記第3壁面との間の接触の有無を切り替え可能
な第2当接面と、を備える、
ことを特徴とする請求項6に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記スライド部材の前記第2当接面が前記第3壁面に接触した状態における前記ばねの
長さは、前記第2当接面が前記第3壁面に接触する位置から、前記当接面が前記第2壁面
に接触する位置まで前記スライド部材が移動する移動量よりも長い、
ことを特徴とする請求項7に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記規制部は、
前記フレームに配置され、
前記ヘッドユニットが前記第1位置に位置している場合に、前記ヘッドユニットと接
触する、
ことを特徴とする請求項3乃至請求項8のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記第1位置は、媒体に対する液体の吐出が行われる記録位置であり、
前記第2位置は、メンテナンスが行われるメンテナンス位置を含む、
ことを特徴とする請求項3乃至請求項9のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
前記ヘッドユニットは、前記ヘッドユニットと前記規制部とが接触した状態において、
液体を吐出する、
ことを特徴とする請求項10に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
前記ヘッドユニットが前記第2位置に位置している場合、前記規制部による前記自重の
規制は解除される、
ことを特徴とする請求項3乃至請求項11のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項13】
前記規制部は、カム面を有する偏心カムと、前記偏心カムを回転させるための軸とを備
える、
ことを特徴とする請求項3乃至請求項12のいずれか一項に記載の液体吐出装置。