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特開2024-87013エレクトリックギターのボディ構造体及びエレクトリックギター
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  • 特開-エレクトリックギターのボディ構造体及びエレクトリックギター 図1
  • 特開-エレクトリックギターのボディ構造体及びエレクトリックギター 図2
  • 特開-エレクトリックギターのボディ構造体及びエレクトリックギター 図3
  • 特開-エレクトリックギターのボディ構造体及びエレクトリックギター 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087013
(43)【公開日】2024-06-28
(54)【発明の名称】エレクトリックギターのボディ構造体及びエレクトリックギター
(51)【国際特許分類】
   G10D 1/08 20060101AFI20240621BHJP
   G10D 3/02 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
G10D1/08 100
G10D3/02
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024070002
(22)【出願日】2024-04-23
(62)【分割の表示】P 2019220464の分割
【原出願日】2019-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100206391
【弁理士】
【氏名又は名称】柏野 由布子
(72)【発明者】
【氏名】松田 秀人
(72)【発明者】
【氏名】石坂 健太
(57)【要約】
【課題】複数のチェンバーを有するエレクトリックギターのボディの音響現象を制御できるようにする。
【解決手段】互いに間隔をあけて形成された第一チェンバー24及び第二チェンバー24と、第一チェンバー24及び第二チェンバー24を接続するスリット25と、を有するボディ20を備え、スリット25に収納される吸音材を有するエレクトリックギターのボディ構造体2を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔をあけて形成された第一チェンバー及び第二チェンバーと、前記第一チェンバー及び前記第二チェンバーを接続するスリットと、を有するボディを備え、
前記スリットに収納される吸音材を有するエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項2】
互いに間隔をあけて形成された第一チェンバー及び第二チェンバーと、前記第一チェンバー及び前記第二チェンバーを接続するスリットと、を有するボディを備え、
前記第一チェンバー、前記第二チェンバー及び前記スリットは、前記ボディの外部に開口しない空洞であるエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項3】
前記第一チェンバー及び前記第二チェンバーの配列方向に直交する前記スリットの断面積は、前記配列方向に直交する前記第一チェンバー及び前記第二チェンバーの断面積よりも小さい請求項1又は請求項2に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項4】
前記第一チェンバーの容積に対する前記第二チェンバーの容積の比が、70%以上かつ130%以下である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項5】
前記ボディは、前記ボディの厚さ方向に重なり合うことで前記ボディを構成するトップ部材及びバック部材を有し、
前記バック部材の厚さ寸法は、前記トップ部材の厚さ寸法よりも大きい請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項6】
前記第一チェンバーは、前記トップ部材に対向する前記バック部材の前面から窪む第一凹部であり、
前記第二チェンバーは、前記トップ部材に対向する前記バック部材の前面から窪む第二凹部である請求項5に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項7】
前記スリットは、前記トップ部材に対向する前記バック部材の前面から窪む第三凹部である請求項6に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項8】
前記第三凹部の深さ寸法は、前記第一凹部の深さ寸法及び前記第二凹部の深さ寸法と同じである請求項7に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項9】
前記第三凹部の深さ寸法は、前記第一凹部の深さ寸法及び前記第二凹部の深さ寸法よりも小さい請求項7に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項10】
前記第一凹部と前記第二凹部との間には、前記バック部材の前面から窪まない非凹部分が設けられている請求項6から請求項9のいずれか一項に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項11】
前記スリットには、第一スリットと、前記第一スリットに対して間隔をあけて位置する第二スリットとがあり、
前記第一スリットと前記第二スリットとの間に前記非凹部分が配置される請求項10に記載のエレクトリックギターのボディ構造体。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のボディ構造体を備えるエレクトリックギター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトリックギターのボディ構造体及びエレクトリックギターに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アコースティックギターやバイオリンなどの弦楽器が有する中空のボディのうち胴板の内側に複数の溝を設けることで、美しく響きのある音を奏でることができる技術が開示されている。美しく響きのある音は、ボディの音響現象を適切に制御することで得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-154662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エレクトリックギターなどのボディには、その内部に軽量化用のチェンバー(空洞)を複数設けたものがある。しかしながら、この種のボディにおいてほぼ同じ容積のチェンバーが複数存在すると、複数のチェンバーの共鳴周波数がほぼ等しくなってしまうため、ボディの音響現象の制御が必要となる。なお、エレクトリックギターのボディのチェンバーの内面に、特許文献1のような複数の溝を設けても、ボディの音響現象を制御することは難しい。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、複数のチェンバーを有するボディの音響現象を制御できるエレクトリックギターのボディ構造体及びこれを備えるエレクトリックギターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様は、互いに間隔をあけて形成された第一チェンバー及び第二チェンバーと、前記第一チェンバー及び前記第二チェンバーを接続するスリットと、を有するボディを備え、前記スリットに収納される吸音材を有するエレクトリックギターのボディ構造体である。
【0007】
本発明の第二の態様は、互いに間隔をあけて形成された第一チェンバー及び第二チェンバーと、前記第一チェンバー及び前記第二チェンバーを接続するスリットと、を有するボディを備え、前記第一チェンバー及び前記第二チェンバー及び前記スリットは、前記ボディの外部に開口しない空洞であるエレクトリックギターのボディ構造体である。
【0008】
本発明の第三の態様は、前記ボディ構造体を備えるエレクトリックギターである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数のチェンバーを有するエレクトリックギターのボディの音響現象を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るエレクトリックギターをボディの前面側から見た平面図である。
図2図1のエレクトリックギターのボディを構成するバック部材をその前面側から見た平面図である。
図3図2のバック部材における2個のチェンバー及びスリットを示す拡大斜視図である。
図4】本発明の他の実施形態に係るエレクトリックギターのボディの要部を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1~3を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るエレクトリックギター1は、ボディ構造体2と、ネック3と、弦4と、を備える。
ネック3は、ボディ構造体2の端部に接続され、ボディ構造体2から離れる方向(図1において上方向)に延びる。ネック3の長手方向の先端部をなすヘッド5には、弦4の端部を巻き付けるペグ6が設けられている。弦4は、ネック3の長手方向に沿って張られる。
【0012】
ボディ構造体2は、ボディ20を備える。本実施形態では、ボディ20がボディ構造体2の全体を構成する。ボディ20には、ブリッジ7、電磁ピックアップ8、コントローラなどが取り付けられる。ブリッジ7、電磁ピックアップ8及びコントローラは、ボディ20の厚さ方向(図1において紙面に直交する方向)に向くボディ20の前側の面20a(以下、前面20aと呼ぶ。)に露出する。
ブリッジ7には、弦4の一端が留められる。電磁ピックアップ8は、ネック3の長手方向においてネック3とブリッジ7との間に位置する。電磁ピックアップ8は、ネック3の長手方向に複数(図示例では2個)並んでいる。コントローラは、電磁ピックアップ8から出力される音響信号のボリュームやトーン等を調整する。コントローラは、2個のボリュームスイッチ9や、有効化する電磁ピックアップ8を切り替えるピックアップセレクター10などを含む。
【0013】
本実施形態のボディ20は、厚さ寸法の小さいトップ部材21と、トップ部材21よりも厚さ寸法が大きいバック部材22(図2,3参照)と、を有する。トップ部材21及びバック部材22は、ボディ20の厚さ方向に重なり合うことでボディ20を構成する。ブリッジ7等が露出するボディ20の前面20aは、トップ部材21によって構成される。
【0014】
図2,3に示すように、ボディ20は、複数(図示例では19個)のチェンバー24と、スリット25と、を有する。
複数のチェンバー24は、ボディ20の軽量化のために形成された空洞である。複数のチェンバー24は、互いに間隔をあけて形成されている。具体的に、複数のチェンバー24は、ボディ20の厚さ方向に直交する方向に並んでいる。複数のチェンバー24は、ボディ20の厚さ方向から見て、ボディ20のうちネック3やブリッジ7、電磁ピックアップ8、コントローラ(図1参照)などが取り付けられる領域以外の領域に形成されている。図2には示していないが、ボディ20には、ブリッジ7、電磁ピックアップ8、コントローラを収容するための孔や凹部も形成される。
【0015】
本実施形態において、複数のチェンバー24は、それぞれトップ部材21に対向するバック部材22の前面22aから窪んで形成されている。複数のチェンバー24は、バック部材22の前面22aにトップ部材21を重ねることで、それぞれボディ20の外部に開口しない空洞となる。
【0016】
スリット25は、複数のチェンバー24のうち互いに隣り合う2個のチェンバー24(第一チェンバー24A及び第二チェンバー24B)を接続する。スリット25は、チェンバー24と同様にボディ20の外部に開口しない。
スリット25は、2個のチェンバー24の配列方向に延びる。スリット25が延びる方向は、2個のチェンバー24の配列方向に対して平行してもよいし、傾斜してもよい。
【0017】
2個のチェンバー24の配列方向に直交するスリット25の断面積は、2個のチェンバー24の配列方向に直交する2個のチェンバー24の各断面積よりも小さい。スリット25の断面積との比較に用いる各チェンバー24の断面積は、例えば2個のチェンバー24の配列方向において最大となるチェンバー24の断面積であってよい。
スリット25の容積は、2個のチェンバー24の各容積と比較して十分に小さい。
【0018】
2個のチェンバー24を接続するスリット25の数は、1個でもよいし2個以上(複数)でもよい。スリット25の数が複数である場合、複数のスリット25の合計の断面積は、2個のチェンバー24の各断面積よりも小さい。また、複数のスリット25の合計の容積は、2個のチェンバー24の各容積と比較して十分に小さい。
【0019】
本実施形態のスリット25は、チェンバー24と同様に、バック部材22の前面22aから窪んで形成されている。図3において、スリット25の深さ寸法は、チェンバー24の深さ寸法と同じとなっているが、例えばチェンバー24の深さ寸法よりも小さくてもよい。また、スリット25は、例えばバック部材22の前面22aに開口しないように形成されてもよい。
【0020】
スリット25によって互いに接続される2個のチェンバー24(第一チェンバー24及び第二チェンバー24)の容積は、例えばほぼ同じであってよい。2個のチェンバー24の容積がほぼ同じであることは、例えば第一チェンバー24に対する第二チェンバー24の容積の比が70%以上かつ130%以下であることを意味する。
【0021】
2個のチェンバー24がスリット25によって互いに接続されることで、これら2個のチェンバー24及びスリット25を含む新たなチェンバー26(以下、複合チェンバー26と呼ぶ。)が形成される。複合チェンバー26の容積は、2個のチェンバー24の各容積よりも大きい。
【0022】
上記したチェンバー24及びスリット25について、より具体的に説明する。
図2に示すように、19個のチェンバー24(24A~24S)は、前面22a側から見たバック部材22の縁に概ね沿うように並んでいる。以下の説明では、バック部材22(ボディ20)の右上に位置するチェンバー24Aから左上に位置するチェンバー24Sまで概ね時計回りに順番に、1番、2番、・・・18番、19番の番号をつける。
【0023】
図2においてバック部材22(ボディ20)の右上の部分に位置する1番及び2番のチェンバー24A,24Bは、図2,3に示すように、2個のスリット25Aa,25Abによって接続されている。これにより、1番及び2番のチェンバー24A,24B及び2個のスリット25Aa,25Abを含む複合チェンバー26Aが形成される。2個のスリット25Aa,25Abは、1番及び2番のチェンバー24A,24Bの配列方向及びバック部材22(ボディ20)の厚さ方向に直交する幅方向に配列されている。また、2個のスリット25Aa,25Abは、幅方向における1番及び2番のチェンバー24A,24Bの両端に位置する。
【0024】
図2に示すように、6番及び7番のチェンバー24F,24Gをスリット25Fで接続して複合チェンバー26Fとする態様、12番及び13番のチェンバー24L,24Mをスリット25Lで接続して複合チェンバー26Lとする態様、15番及び16番のチェンバー24O、24Pをスリット25Oで接続して複合チェンバー26Oとする態様、及び、18番及び19番のチェンバー24R,24Sをスリット25Rで接続して複合チェンバー26Rとする態様は、いずれも1番及び2番のチェンバー24A,24Bをスリット25Aa,25Abで接続して複合チェンバー26Aとする態様と同じである。
【0025】
3番及び4番のチェンバー24C,24Dは、1個のスリット25Cによって接続されている。これにより、3番及び4番のチェンバー24C,24D及び1個のスリット25Cを含む複合チェンバー26Cが形成される。1個のスリット25Cは、3番及び4番のチェンバー24C,24Dの配列方向及びバック部材22(ボディ20)の厚さ方向に直交する幅方向において3番及び4番のチェンバー24C,24Dの中間に位置する。なお、スリット25Cは、例えば幅方向における3番及び4番のチェンバー24C,24Dの端部に位置してもよい。
【0026】
10番のチェンバー24Jは、その両側に位置する9番のチェンバー24I及び11番のチェンバー24Kに対し、それぞれスリット25I,25Jによって接続されている。すなわち、9番~11番の3個のチェンバー24I~24Kがスリット25I,25Jによって接続されている。これにより、9番~11番のチェンバー24I~24K及びスリット25I,25Jを含む複合チェンバー26Iが形成される。9番及び10番のチェンバー24I,24Jをスリット25Iで接続する態様、及び、10番及び11番のチェンバー24J,24Kをスリット25Jで接続する態様は、いずれも1番及び2番のチェンバー24A,24Bをスリット25Aa,25Abで接続する態様と同じである。
【0027】
5番、8番、14番,17番のチェンバー24E,24H,24N,24Qは、他のチェンバー24と接続されない。
【0028】
以上説明したように、本実施形態のボディ構造体2及びこれを備えるエレクトリックギター1によれば、2個のチェンバー24をスリット25によってつなぐことで、2個のチェンバー24及びスリット25を含む複合チェンバー26の容積が、2個のチェンバー24の各容積よりも大きくなる。これに伴い、複合チェンバー26の共鳴周波数は、2個のチェンバー24の各共鳴周波数よりも下がる。すなわち、チェンバー24,26の容積をコントロールして、ボディ20に形成された複数のチェンバー24,26の共鳴周波数を互いに異ならせることができる。例えば、ほぼ同じ容積の2個のチェンバー24の共鳴周波数はほぼ等しいが、これら2個のチェンバー24をスリット25でつなぐことで、ほぼ等しい共鳴周波数を有するチェンバー24の数を減らすことができる。
これにより、ボディ20の音響現象を制御することができる。したがって、軽量化用のチェンバー24を複数有するエレクトリックギター1のボディ20であっても、美しく響きのある音を発生させることが可能となる。
【0029】
また、本実施形態のボディ構造体2では、2個のチェンバー24を接続するスリット25の断面積が、2個のチェンバー24の各断面積よりも小さい。これにより、ボディ20の剛性低下を抑えながら大きな容積のチェンバー(すなわち複合チェンバー26)を確保することができる。
【0030】
また、本実施形態のボディ構造体2では、2個のチェンバー24をつなげるスリット25の数を適宜変えることで、2個のチェンバー24及びスリット25を含む複合チェンバー26の共鳴周波数をコントロールすることができる。これにより、ボディ20の音響現象を制御することができる。
【0031】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0032】
本発明において、ボディ構造体2は、例えば図4に示すように、スリット25に収納される吸音材27を有してもよい。吸音材27は、例えばウレタンフォームなどのように音を吸収する部材である。このような構成では、2個のチェンバー24及びこれを接続するスリット25を含む複合チェンバー26の共鳴周波数を吸音材27によってコントロールすることができる。これにより、ボディ20の音響現象を制御することができる。
【0033】
本発明において、スリット25の断面積は、例えば2個のチェンバー24の各断面積と同じであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…エレクトリックギター、2…ボディ構造体、20…ボディ、24…チェンバー、25…スリット、27…吸音材
図1
図2
図3
図4