(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087124
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】超電導コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
H01F6/06 110
H01F6/06 ZAA
H01F6/06 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201729
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100118474
【弁理士】
【氏名又は名称】寺脇 秀▲徳▼
(74)【代理人】
【識別番号】100141911
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 譲
(72)【発明者】
【氏名】宇都 達郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(57)【要約】
【課題】超電導線材および補強材を共巻きし、絶縁樹脂層を含浸硬化で形成するとともに占積率を向上させる超電導コイルを提供することである。
【解決手段】実施形態の超電導コイルは、巻胴と、前記巻胴に超電導線材および補強材を巻回した巻線部と、前記巻線部を含浸硬化した絶縁樹脂層と、を備え、前記補強材の少なくとも一部は、前記巻胴に固定されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻胴と、
前記巻胴に超電導線材および補強材を巻回した巻線部と、
前記巻線部の少なくとも一部を含浸した絶縁樹脂層と、を備え、
前記補強材の少なくとも一部は、前記巻胴に固定されていることを特徴とする超電導コイル。
【請求項2】
前記補強部材の少なくとも一部は、前記巻胴の表面に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記補強部材の少なくとも一部は、前記巻胴の内部に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記補強部材の少なくとも一部は、固定部材により前記巻胴に固定されていることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の超電導コイル。
【請求項5】
前記固定部材は接着剤であることを特徴とする請求項4に記載の超電導コイル。
【請求項6】
前記固定部材は前記補強部材を貫通することを特徴とする請求項4に記載の超電導コイル。
【請求項7】
前記巻胴は、巻枠とコイル電極とを備え、
前記補強部材の少なくとも一部は、前記巻枠および前記コイル電極に挟まれて前記巻胴に固定されていることを特徴とする請求項3に記載の超電導コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
レアアースを含んだREBCO線材を代表とする高温超電導線材を用いた超電導コイルは、低温超電導線材を用いた超電導コイルと比較して小さい体積で強磁場を発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-168350号公報
【特許文献2】特開2014-22693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超電導コイルは、自己磁場または外部磁場によって超電導線材に電磁力が生じる。この電磁力により発生する、超電導線材の長手方向のフープ応力を分担させるため、超電導線材に補強材を共巻きすることがある。また、超電導線材のターン間における絶縁のために絶縁樹脂層を形成することがある。この絶縁樹脂層を含浸硬化によって形成する場合、絶縁樹脂層が厚く形成され、超電導コイルの占積率が低下する可能性がある。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、超電導線材および補強材を共巻きし、絶縁樹脂層を含浸硬化で形成するとともに占積率を向上させる超電導コイルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、実施形態の超電導コイルは、巻胴と、前記巻胴に超電導線材および補強材を巻回した巻線部と、前記巻線部を含浸硬化した絶縁樹脂層と、を備え、前記補強材の少なくとも一部は、前記巻胴に固定されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る超電導コイルの構成例を示す斜視図。
【
図2】第1実施形態に係る巻胴の構成例を示す平断面図。
【
図3】
図1のII-II線に沿うコイル径方向断面を示す断面図。
【
図5】第1実施形態に係る超電導線材の構成例を示す斜視図。
【
図6】第1実施形態に係る超電導コイルにおける巻線部の巻き始めについての断面図。
【
図7】第1実施形態に係る超電導コイルの製造方法を示す概略平断面図。
【
図8】第1実施形態の変形例に係る超電導コイルにおける巻線部の巻き始めについての断面図。
【
図9】第1実施形態の変形例に係る超電導コイルにおける巻線部の巻き始めについての断面図。
【
図10】第1実施形態の変形例に係る超電導コイルにおける巻線部の巻き始めについての断面図。
【
図11】第1実施形態の変形例に係る超電導コイルにおける巻線部の巻き始めについての断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明を実施するための実施形態について説明する。
(第1実施形態)
【0009】
第1実施形態について、
図1から
図7を参照して説明する。
図1は超電導コイル1の構成例を示す斜視図、
図2は巻胴10の構成例を示す平断面図、
図3は
図1のII-II線に沿うコイル径方向断面を示す断面図、
図4は
図3のA部についての断面図、
図5は超電導線材22の構成例を示す斜視図、
図6は超電導コイル1における巻線部20の巻き始めについての断面図、
図7は超電導コイル1の製造方法を示す概略平断面図である。なお、
図1から
図7において同一構成には同一符号を付してその構成の説明を一部省略する。
【0010】
図1に示すように、第1実施形態において超電導コイル1は、巻胴10と、巻線部20とを備え、巻線部20を巻胴10へ巻回することで巻回軸中心に空間を形成したパンケーキコイルである。超電導コイル1の巻回軸と平行な方向を巻回軸方向、巻線部20を巻回する方向を周方向、巻回により巻線部20が積層される方向を径方向と呼ぶ。なお、以下の説明においては超電導コイル1についてシングルパンケーキを例示して説明するが、その種類は限定されず例えばソレノイドコイルまたはダブルパンケーキコイル等でも良い。
【0011】
巻胴10は、
図2に示すように、巻枠12とコイル電極14とを備え、後述する巻線部20の内周側に設けられて巻線部20の形状を保持する。巻胴10は、
図2において円形の例を示しているが、例えば楕円形、長円形、または矩形等でも良く、形状は限定されない。
【0012】
巻枠12は、例えばガラス強化プラスチック、PTFE(プリテトラフルオロエチレン)、金属材料等で形成される。コイル電極14は、例えば銅または銀等の低電気抵抗の金属で形成され、超電導線材22と電気的に接続されることで、超電導コイル1に電流を流入させる。
【0013】
なお、巻胴10における巻枠12とコイル電極14との体積割合は任意に設定して良く、電極が不要の場合にはすべて巻枠12としても良く、コイル電極14の電気抵抗値を小さくしたい場合等にはすべてコイル電極14としても良い。また、巻枠12とコイル電極14とは例えば接着剤等により固定される。
【0014】
巻線部20は、
図3および4に示すように、超電導線材22と、補強材24と、ターン間絶縁材26と、絶縁樹脂層28と、側面絶縁材30とを備え、巻胴10の外周側に設けられる。巻線部20は、巻胴10の外周側に超電導線材22、補強材24、およびターン間絶縁材26を重ねて巻回することで形成される。巻線部20の形成についての詳細は後述する。
【0015】
超電導線材22は、
図5に示すように、基板32と、中間層34と、配向層33と、超電導層35と、保護層36と、安定化層31とを備える。超電導線材22の巻き始めは、
図6に示すように、コイル電極14にはんだ付け等で固定される。
【0016】
基板32は、例えばニッケル基合金、ステンレス、または銅等の高強度金属等の材質で形成される。
【0017】
中間層34は、拡散防止層であり、例えば参加セリウム、YSZ、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、バリウムジルコニア等の材質からなり、基板32上に形成される。
【0018】
配向層33は、基板32上に中間層34を配向させて形成する目的で設けられ、酸化マグネシウム等から形成される。なお、配向した基板32を用いる場合には配向層33はなくてもよい。
【0019】
超電導層35は、例えばRE123系の組成(RE1B2C3O7等)を有する超電導体薄膜からなる。なお、「RE1B2C3O7」の「RE」は希土類元素(例えばネオジウム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ホルミニウム(Ho)、サマリウム(Sm)等)およびイットリウム元素の少なくともいずれかを、「B」はバリウム(Ba)を、「C」は銅(Cu)を、Oは酸素(O)を意味している。
【0020】
保護層36は、超電導層35が空気中の水分に触れて劣化するのを防止する目的で設けられ、銀等から形成される。なお、保護層36は、超電導層35に過剰に電流が流れた場合に超電導層35が燃焼することを防止する役割も果たす。
【0021】
安定化層31は、超電導層35に過剰に電流が流れた場合に電流の迂回経路となって超電導層35が燃焼することを防止する目的で設けられ、例えば導電性の銅や銀等から形成される。
【0022】
このような多層からなる超電導線材22の幅wは例えば4~12mm、厚さtは例えば0.1~0.2mmとされる。
【0023】
なお、超電導線材22は、上記の構成に限定されず、各層の種類および数は必要に応じて変更しても良い。
【0024】
補強材24は、超電導線材22よりもヤング率や降伏応力が高い材料であることが好ましく、例えばステンレスやニッケル基合金等で形成される。補強材24は、コイルとして曲げ加工可能に形成され、その幅は例えば超電導線材22と同程度である。補強材24の厚さは、フープ応力によって超電導線材22に生じる応力が、超電導線材22の許容応力以下となるように設計され、例えば0.1~0.5mmである。補強材24は、複数重ねて配置しても良い。
【0025】
補強材24の巻き始めは、
図6に示すように、巻胴10の外径側の表面の一部に機械的に固定されている。補強材24を固定する位置は巻胴10のうち巻枠12でも良いし、コイル電極14でも良い。補強材24は、後述する絶縁樹脂層28とは別の固定部材40を用いて巻胴10に固定される。固定部材40は、例えば接着剤、粘着テープ、溶接、はんだ付け、またはロウ付けによって補強材24を巻胴10に固定しても良い。補強材24は、後述するフープ応力の一部を超電導線材22と分担することで、超電導線材22に作用するフープ応力を低減して超電導特性の劣化を防止する。
【0026】
ターン間絶縁材26は、例えばポリイミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミドアミド、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等の絶縁性のフィルム、またはガラス繊維強化プラスチック(Glass Fiber Reinforced Plastic、GFRP)、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic、CFRP)のような繊維強化プラスチック、または熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等)で含浸されたガラスクロス等により形成された絶縁性のテープである。ターン間絶縁材26は、超電導線材22のターン間に巻回されることで超電導線材22の隣接するターン間を絶縁する。
【0027】
絶縁樹脂層28は、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、またはメラミン樹脂等の粘着性を有する絶縁材料である。絶縁樹脂層28は、巻線部20のうち少なくとも一部を巻回する際に上記樹脂によって含浸硬化させることで超電導線材22のターン間を絶縁するだけでなく、巻線部20の各構成部材を固着するとともに、超電導コイル1を冷却する冷却パスとして利用される。
【0028】
側面絶縁材30は、例えばターン間絶縁材26と同材料で形成された絶縁性のシートである。側面絶縁材30は、超電導コイル1を巻回軸方向の上下から包むように設けられ、超電導コイル1を巻回軸方向に隣接する他のコイル等から絶縁する。
【0029】
次に、超電導コイル1の製造方法について
図7を参照して説明する。
【0030】
巻線部20は、超電導線材22、補強材24、およびターン間絶縁材26が例えばこの順で重ねられた状態で巻胴10に巻き始める。このとき、例えば巻線部20を巻回すると同時に絶縁樹脂層28の材料となる樹脂を塗布することにより樹脂で含浸する。
【0031】
巻線部20を巻回する際、超電導線材22、補強材24、およびターン間絶縁材26を
図7の引張荷重F1を印加しながら巻回する。このとき、引張荷重F1と釣り合う摩擦力による反力F2が作用することで超電導線材22、補強材24、およびターン間絶縁材26が変位せずに巻回される。この引張荷重F1によって発生する圧縮力により、絶縁樹脂層28を超電導線材22、補強材24、およびターン間絶縁材26の間から押し出すことで、絶縁樹脂層28の厚みを小さくして超電導コイル1の周方向に垂直な断面積に対する超電導線材22の断面積の割合である占積率を向上させる。
【0032】
なお、本実施形態では補強材24を巻線部20の全ターンにわたって共巻きした例を示したが、フープ応力の分布に応じて、超電導線材22の許容応力を超えないターンについては補強材24を共巻きしなくても良い。
【0033】
本実施形態によれば、補強材24の巻き始めが巻胴10に固定されているので、補強材24に作用する摩擦力F2が大きくなり、超電導線材22およびターン間絶縁材26とともに補強材24を変位させずに、巻き始めから強い引張荷重F1を印加することができる。これにより、巻線部20を巻回する際に超電導線材22、補強材24、およびターン間絶縁材26の間に大きな圧縮力を作用させることで絶縁樹脂層28を押し出してその厚みを小さくして、超電導コイル1の占積率を向上させることができる。つまり、超電導コイル1の体積当たりにおける磁場の強さを向上させて効率的に磁場を発生させることができる。
【0034】
また、上述したような超電導コイル1において、自己磁場または外部磁場中で超電導コイル1に電流を印加すると、超電導線材22には磁場と電流に比例した電磁力が作用する。磁場の巻回軸方向成分により生じる径方向の電磁力が径方向に作用するとき、超電導線材22にはこの電磁力と釣り合うように長手方向に張力が作用する。このように超電導線材22の内部に生じる引張方向の応力をフープ応力と呼ぶ。超電導線材22の長手方向の許容応力は例えば数百MPaであり、許容応力を超えるフープ応力が作用すると超電導線材22の超電導特性が劣化する。
【0035】
本実施形態においては、超電導線材22および補強材24を巻き始めから強い引張荷重F1で共巻きできるので、超電導コイル1の径方向に作用する電磁力によって巻線部20が径方向に広がる力をより抑え、超電導線材22の内部に生じるフープ応力をより分担することができる。したがって、超電導コイル1の超電導特性を保つためのフープ応力に対する許容応力を向上させて高強度の超電導コイル1を構成できる。
【0036】
本実施形態の変形例として、
図8に示すように、巻胴10に固定された固定部材50を備え、補強材24は巻胴10と固定部材50とによって挟むことで巻胴10の内部に固定しても良い。固定部材50の材料としては、例えば強化プラスチック等の絶縁材や銅、銀、アルミニウム、ステンレス等の金属を用いて良い。固定部材50の形状は、巻胴10に固定した際に外径側の表面が一定の曲率を持つ円筒になるような形状にすることが好ましい。この固定部材50は、例えば巻胴10から切り出して形成しても良い。巻胴10と固定部材50とは、例えば接着剤(図示省略)によって固定される。
【0037】
なお、
図9に示すように、固定部材50にめねじ部52を、巻胴10に貫通孔54を、補強材24に貫通孔56をそれぞれ設け、固定部材51(おねじ)により補強材24を巻胴10に固定しても良い。また、固定部材51は例えば釘またはビス等でも良く、補強材24を貫通して固定すれば良い。さらに、補強材24を固定する位置は巻胴10のうち巻枠12でも良いし、コイル電極14でも良い。
【0038】
本実施形態の別の変形例として、
図10および11に示すように、巻胴10における巻枠12とコイル電極14との接続部に補強材24を挟むことで補強材24を巻胴10の内部に固定しても良い。巻枠12、コイル電極14、および補強材24は例えば接着剤等で固定される。
【0039】
図10においては、補強材24が周方向に延びるように巻胴10に固定されている。一方で
図11においては、補強材24が周方向とは逆方向に延びるように巻胴10に固定され、固定部から補強材24を周方向に曲げるようにして巻回する。
【0040】
上述したような変形例においても、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0041】
なお、超電導線材22と補強材24との位置関係は上述した例に限定されず、超電導線材22がコイル電極14に接続されていれば良い。また、超電導線材22と補強材24との同ターンにおける位置関係は、超電導線材22が内周側であることが好ましいがそれに限定されない。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1…超電導コイル、10…巻胴、12…巻枠、14…コイル電極、20…巻線部、22…超電導線材、24…補強材、26…ターン間絶縁材、28…絶縁樹脂層、30…側面絶縁材、31…安定化層、32…基板、33…配向層、34…中間層、35…超電導層、36…保護層、40、50、51…固定部材、52…めねじ部、54、56…貫通孔。