(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087207
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】コンデンサ、およびコンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/042 20060101AFI20240624BHJP
H01G 9/048 20060101ALI20240624BHJP
H01G 9/012 20060101ALI20240624BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240624BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
H01G9/042 500
H01G9/048 G
H01G9/012 301
H01G9/00 290D
H01G9/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201870
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083725
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100140349
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 継立
(74)【代理人】
【識別番号】100153305
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 卓弥
(74)【代理人】
【識別番号】100206933
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 正樹
(72)【発明者】
【氏名】相良 光軌
(72)【発明者】
【氏名】ムハンマド レストゥ ズルヒザ
(72)【発明者】
【氏名】冨永 誠
(72)【発明者】
【氏名】新井 孝
(72)【発明者】
【氏名】関 駿斗
(72)【発明者】
【氏名】板垣 力
(57)【要約】
【課題】 本開示は、たとえば、押付け力の減少原因の一つである陰極箔の表面に形成されたカーボン層の移動を抑制して、接続性を高めることを目的とする。
【解決手段】 コンデンサ(2)は、基材箔(12)の表面に形成されたカーボン層(14)を含む陰極箔(6)と、前記陰極箔に圧接により接続された接続部(22)を有する引出し端子(4)とを備える。前記引出し端子は前記接続部に凹凸からなる滑り抑制面部(28)を有し、前記カーボン層が前記滑り抑制面部に食い込む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材箔の表面に形成されたカーボン層を含む陰極箔と、
前記陰極箔に圧接により接続された接続部を有する引出し端子と
を備え、
前記引出し端子は前記接続部に凹凸からなる滑り抑制面部を有し、前記カーボン層が前記滑り抑制面部に食い込むことを特徴とするコンデンサ。
【請求項2】
前記滑り抑制面部は、エッチング処理により形成されたエッチング部であることを特徴とする請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項3】
基材箔の表面に形成されたカーボン層を含む陰極箔を作製または準備する工程と、
前記カーボン層の滑りを抑制する凹凸からなる滑り抑制面部を有する引出し端子を作製または準備する工程と、
重ねられた前記陰極箔および前記引出し端子を圧接により接続し接続部を形成する工程と、
を備え、
前記引出し端子を作製または準備する工程において、前記滑り抑制面部は前記接続部に対応する位置に形成され、
前記陰極箔および前記引出し端子を接続する工程において、前記カーボン層が前記滑り抑制面部に食い込むことにより、前記接続部での前記カーボン層の滑りを抑制しつつ、前記陰極箔および前記引出し端子が接続される
ことを特徴とするコンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記滑り抑制面部は、エッチング処理により形成されることを特徴とする請求項3に記載のコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カーボン層を含む陰極箔を備えるコンデンサ、およびコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサは、陽極箔と、陰極箔と、陽極箔および陰極箔の間に配置されたセパレータとを含み、電気を蓄えることが可能である。このようなコンデンサに関し、アルミニウム箔のみからなる陰極箔を含む基本的なコンデンサが知られている。また、近年、カーボン層を含む陰極箔を備えるコンデンサが知られている(たとえば、特許文献1)。カーボン層は、たとえば陰極箔の静電容量を高める、コンデンサ内でのガスの発生を抑制する、という作用を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
陽極箔、陰極箔などの電極箔は、ステッチ接続、冷間圧接、超音波溶接などの接続手段で引出し端子に接続される。引出し端子の接続に使用される接続手段は、たとえば、接続のコスト、引出し端子の大きさ、または要求される接続強度などの接続要件を考慮して選択される。
【0005】
冷間圧接処理や超音波溶接では、たとえば、引出し端子に電極箔を重ね、電極箔側から接続金型が引出し端子および電極箔に押し付けられて、電極箔および引出し端子に圧力が加えられる。接続金型から圧力を受ける電極箔の受圧部分は、基本的に圧力の方向に沿って引出し端子に向けて移動し、電極箔の受圧部分と引出し端子が圧接されることで、電極箔が引出し端子に接続される。
【0006】
ところで、冷間圧接処理により電極箔および引出し端子に圧力が加えられると、受圧部分の一部は、接続金型の表面に沿って接続金型による加圧領域から加圧領域の外側に移動する。カーボン層を含む陰極箔では、受圧部分の一部は、カーボン層に含有されるバインダーにより、加圧領域から加圧領域の外側により移動しやすくなる。カーボン層が加圧領域から加圧領域の外側に移動するため、カーボン層の移動方向に引出し端子への陰極箔の押付け力が比較的分散し、引出し端子への陰極箔の押付け力が減少する。そのため、カーボン層を含む陰極箔が、アルミニウム箔のみからなる陰極箔に対する冷間圧接処理と同様の冷間圧接処理で引出し端子に接続されると、接続が不十分になる可能性があるという課題がある。
【0007】
また、引出し端子への陰極箔の押付け力を増加させるため、接続金型により加えられる圧力を増加させると、陰極箔に加わる圧力が増加して、陰極箔に悪影響を与える可能性がある。
【0008】
特許文献1には、斯かる課題の開示や示唆はなく、特許文献1に開示された構成では斯かる課題を解決することができない。
【0009】
そこで、本開示は、たとえば、押付け力の減少原因の一つである陰極箔の表面に形成されたカーボン層の移動を抑制して、接続性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本開示の第1の側面によれば、コンデンサは、基材箔の表面に形成されたカーボン層を含む陰極箔と、前記陰極箔に圧接により接続された接続部を有する引出し端子とを備える。前記引出し端子は前記接続部に凹凸からなる滑り抑制面部を有し、前記カーボン層が前記滑り抑制面部に食い込む。
【0011】
上記コンデンサにおいて、前記滑り抑制面部は、エッチング処理により形成されたエッチング部でもよい。
【0012】
上記目的を達成するため、本開示の第2の側面によれば、コンデンサの製造方法は、基材箔の表面に形成されたカーボン層を含む陰極箔を作製または準備する工程と、前記カーボン層の滑りを抑制する凹凸からなる滑り抑制面部を有する引出し端子を作製または準備する工程と、重ねられた前記陰極箔および前記引出し端子を圧接により接続し接続部を形成する工程とを備える。前記引出し端子を作製または準備する工程において、前記滑り抑制面部は前記接続部に対応する位置に形成される。前記陰極箔および前記引出し端子を接続する工程において、前記カーボン層が前記滑り抑制面部に食い込むことにより、前記接続部での前記カーボン層の滑りを抑制しつつ、前記陰極箔および前記引出し端子が接続される。
【0013】
コンデンサの製造方法において、前記滑り抑制面部は、エッチング処理により形成されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、たとえば次のいずれかの効果が得られる。
【0015】
(1) 引出し端子が接続部において滑り抑制面部を有するので、陰極箔と引出し端子との接続時に、引出し端子に対する陰極箔の滑りまたは相対移動が抑制される。引出し端子への陰極箔の押付け力の分散が抑制され、引出し端子と陰極箔の接続の容易性を高めることができる。
【0016】
(2) 陰極箔の性質に適した冷間圧接を実現できる。
【0017】
(3) カーボン層を含む陰極箔を備えるコンデンサの安定性または信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に係るコンデンサの陰極箔と引出し端子の端子接続部の一例を示す図である。
【
図2】引き剥がし後の端子部側接続部の外観の一例を示す図である。
【
図3】端子部側接続部に転着したカーボン層の量の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、実施の形態に係るコンデンサの陰極箔と引出し端子の端子接続部の一例を示している。
図1のAにおいて、陰極箔に隠れている引出し端子の縁部分が破線で示されている。
図1のBは、
図1のAのB-B線断面を示す図である。
図1に示す構成は一例であって、斯かる構成に本開示の技術が限定されるものではない。なお、本実施の形態において、端子接続部は、陰極箔6が引出し端子4に冷間圧接されている接続部22とその周囲部分を含むものとする。
【0020】
コンデンサ2は電子部品の一例であり、たとえば電解コンデンサである。コンデンサ2は、たとえば不図示のコンデンサ素子と、引出し端子4と、不図示の電解質と封口部材と外装ケースとを含む。
【0021】
コンデンサ素子は、陰極箔6と、陽極箔と、セパレータとを含む。セパレータが陰極箔6と陽極箔の間に配置されるように、陰極箔6、陽極箔およびセパレータは重ねられるとともに巻回されて、巻回素子が形成される。この巻回素子がコンデンサ素子を形成する。
【0022】
陰極箔6は、コンデンサ2の陰極を構成する。陰極箔6は、たとえば帯状の箔であって、基材箔12とカーボン層14とを含む。基材箔12は、たとえば、アルミニウム箔、タンタル箔、ニオブ箔、チタン箔、ハフニウム箔、ジルコニウム箔、亜鉛箔、タングステン箔、ビスマス箔、アンチモン箔などの弁作用金属箔である。基材箔12の表面は、たとえばエッチングにより形成された凹凸を有し、基材箔12の表面積が拡大されている。基材箔12の表面は、たとえばトンネル状または海綿状のエッチングピットを含んでもよく、このトンネル状または海綿状のエッチングピットが凹凸を形成してもよい。
【0023】
カーボン層14は、たとえば基材箔12の両面に配置されている。カーボン層14は、基材箔12の一面にのみ配置されてもよい。カーボン層14は、部分的に凹凸の内部に侵入し、そのため基材箔12の凹凸に密着かつ係合している。つまり、カーボン層14は凹凸に係合する表面形状を有する。カーボン層14は基材箔12の外側に配置され、陰極箔6は基材箔12およびカーボン層14による二層構造または基材箔12の両面にカーボン層14を配置した三層構造を有している。カーボン層14は、炭素材などの主材と、バインダーおよび分散剤などの添加剤を含む。
【0024】
炭素材は、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノホーン、無定形炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素、繊維状炭素などである。活性炭は、たとえば、やしがらなどの天然植物組織、フェノールなどの合成樹脂、石炭、コークスまたはピッチなどの化石燃料由来のものを原料として生成される。カーボンブラックは、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックまたはサーマルブラックなどである。繊維状炭素は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバなどである。カーボンナノチューブは、グラフェンシートが1層である単層カーボンナノチューブでも、2層以上のグラフェンシートが同軸状に丸まり、チューブ壁が多層をなす多層カーボンナノチューブ(MWCNT)でもよい。
【0025】
炭素材は、球状炭素であるカーボンブラックが好ましい。一次粒子径が平均100ナノメートル以下である球状のカーボンブラックにより、カーボン層14は密になる。また、エッチングにより形成された凹凸の開口径よりも小さな粒子径のカーボンブラックは凹凸の深部に入り込み易く、カーボン層14は陰極箔6の基材箔12と密着し、カーボン層14と基材箔12との界面抵抗は下がり易くなる。炭素材は、球状炭素と黒鉛とを含む混合物でも好ましい。黒鉛は、たとえば天然黒鉛、人造黒鉛、または黒鉛化ケッチェンブラックなどであり、鱗片状、鱗状、塊状、土状、球状または薄片状などの形状を有する。黒鉛は、鱗片状または薄片状であることが好ましく、黒鉛の短径と長径とのアスペクト比が1:5~1:100の範囲であることが好ましい。既述のアスペクト比を有する鱗片状または薄片状の黒鉛は、たとえばエッチングピットなどの凹凸に球状カーボンを押し込み、カーボン層14の一部がエッチングピットの内部にまで形成できる。そのため、アンカー効果により、カーボン層14が強固に基材箔12に密着できる。
【0026】
炭素材が黒鉛と球状炭素の混合物である場合において、黒鉛と球状炭素の併用による作用を得るため、黒鉛と球状炭素の混合物に対する黒鉛の質量比〔黒鉛の質量/(黒鉛の質量+球状炭素の質量)〕は、たとえば0%以上90%以下の範囲である。黒鉛の質量比は0%でもよい。つまり、黒鉛はカーボン層14に添加されていなくてもよい。
【0027】
バインダーは、たとえばスチレンブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデンまたはポリテトラフルオロエチレンなどの樹脂系バインダーであって、炭素材を結合させる。分散剤は、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウムである。カーボン層14は、たとえば球状炭素が分散された水溶液から作製される。分散剤は、炭素材を水溶液に分散させることができる。
【0028】
カーボン層14の表面の最大静止摩擦係数は、たとえば0.6以上になるように調整されてもよい。カーボン層14の表面の最大静止摩擦係数が0.6以上であると、冷間圧接処理に用いられる金型などの押圧部材に対するカーボン層14の滑りが抑制され、陰極箔6と引出し端子4との冷間圧接による接続性が改善される。カーボン層14の表面の最大静止摩擦係数は、たとえば高い滑り性能を有する黒鉛の含有量を調整することで調整することができる。黒鉛の質量比がたとえば0%以上、18%以下の範囲であると、カーボン層14の表面の最大静止摩擦係数がたとえば0.6以上になる。
【0029】
陽極箔は、コンデンサ2の陽極側の電極を構成する。陽極箔は、たとえば既述の弁作用金属箔であって、たとえば帯状の箔である。陽極箔の表面は、多孔質構造を有する拡面部を有する。多孔質構造は、たとえば、エッチングにより形成されたトンネル状のピット、海綿状のピット、または密集した紛体間の空隙を有する。拡面部の表面は、化成処理により形成された誘電体酸化皮膜を含んでいる。
【0030】
セパレータは、陽極箔と陰極箔6の間に配置され、陽極箔と陰極箔6の間の短絡を防止する。セパレータは、絶縁材料であって、たとえばクラフトを含み、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン、セルロース、これらの混合材などの他のセパレータ部材を含んでもよい。
【0031】
引出し端子4は、たとえばアルミニウムなどの導電性金属で形成されている。引出し端子4は、たとえばタブ端子やリード端子である。タブ端子は、たとえば、帯形状の薄い金属箔からなる平坦部20を含む。タブ端子の一端は、封口部材に取り付けられる外部端子に接続される。リード端子はリード線と端子部とを含む。リード線は、たとえばアーク溶接で端子部に接続されている。端子部は略円柱形状の丸棒部と、たとえばプレス加工により形成された平坦部20とを備える。丸棒部は、平坦部20の側に、平坦部20の厚みまで直線的に厚みが減少する傾斜部を有している。
【0032】
引出し端子4の平坦部20は、たとえば薄い金属板または金属タブなどであり、帯形状を有する。平坦部20は、陰極箔6に重ねられ、たとえば複数の接続部22で冷間圧接などの圧接により陰極箔6に接続される。つまり、接続部22は冷間圧接処理などの圧接処理により形成される。
【0033】
接続部22は、引出し端子4が陰極箔6に接続されている場所として定義されてもよく、当該場所に存在する引出し端子4および陰極箔6として定義されてもよい。引出し端子4が有する接続部22は陰極箔6側の接続部22に圧接により接続されている。接続部22は、
図1のBに示されている断面(
図1のAのB-B線に沿う断面)において、たとえば台形状の加圧痕を有し、
図1のAのB-B線に直交する断面においても、たとえば台形状の加圧痕を有する。そのため、接続部22には、底面部24および斜面部26が形成される。
【0034】
接続部22は、たとえば間隔Sで一列に配置されている。間隔Sは、互いに隣接する二つの接続部22の中心の間の距離として定義される。間隔Sは、接続部22の長さCLよりも長い。つまり、各接続部22は隣接する接続部22から離れている。引出し端子4の幅方向において、接続部22の幅CWは、引出し端子4の幅Wの0.5倍以上、0.8倍以下であることが好ましい。幅CWが幅Wの0.5倍以上であると、幅Wの方向において、重なり領域の半分以上を冷間圧接に利用することができ、そのため機械的な接続強度または電気的な接続面積を増加させることができる。幅CWが幅Wの0.8倍以下であると、冷間圧接処理による圧力の影響が引出し端子4の側端に及ぶことを抑制できる。
【0035】
接続部22の配置数は、たとえば、平坦部20が陰極箔6に重なっている重なり部の長さOLに応じて決定される。引出し端子4と陰極箔6の間の機械的および電気的な接続を安定させるため、接続部22の配置数は、三つ以上であることが好ましい。
【0036】
引出し端子4は、滑り抑制面部28を有する。滑り抑制面部28は、たとえば、少なくとも接続部22に形成されており、接続部22と接続部22以外の部分に形成されていてもよい。滑り抑制面部28は、たとえば、エッチング処理により形成されたエッチング部でありエッチング層を形成する。滑り抑制面部28は、たとえば、トンネル状または海綿状のエッチングピットなどの凹凸を含む。引出し端子4の接続時にカーボン層14および凹凸が互いに食い込むことにより、アンカー効果で接続部22における引出し端子4に対する陰極箔6の滑りまたは相対移動が抑制される。表現「カーボン層14および凹凸が互いに食い込む」は、カーボン層14が凹凸に食い込む場合を含み、凹凸がカーボン層14に食い込む場合を含むものと定義される。滑り抑制面部28の厚さは、たとえば5~20マイクロメートルである。滑り抑制面部28の厚さが5マイクロメートル以上であると、一定の食い込み効果が得られ、20マイクロメートル以下であると、滑り抑制面部28の形成処理の負担が抑制される。
【0037】
滑り抑制面部28は陰極箔6の滑りまたは相対移動を抑制する機能を有していればよく、エッチング部または凹凸に限定されるものではない。滑り抑制面部28は、たとえば、引出し端子4の基材に金属粒子などを蒸着もしくは焼結させることにより形成された粒子付着面部でもよく、摩擦係数を高めるように処理された高摩擦面部でもよく、導電性粘着剤を有する粘着部でもよい。
【0038】
陽極箔は不図示の他の引出し端子(以下、便宜上「引出し端子4」という)に冷間圧接または他の接続手段により接続されている。
【0039】
電解質は、電解液、ゲル電解質、導電性高分子を含む固体電解質などである。電解質が電解液またはゲル電解質と、固体電解質とを備えてもよく、所謂ハイブリッド型の電解コンデンサが形成されてもよい。
【0040】
電解液は、溶媒と、溶媒に溶解された溶質とを含み、添加剤をさらに含んでもよい。溶媒はプロトン性の極性溶媒または非プロトン性の極性溶媒の何れでもよい。プロトン性の極性溶媒は、たとえば、一価アルコール類、多価アルコール類、オキシアルコール化合物類、水などである。非プロトン性の極性溶媒は、たとえば、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、オキシド系などである。溶質は、アニオンおよびカチオンの成分を含み、典型的には、有機酸若しくはその塩、無機酸若しくはその塩、または有機酸と無機酸との複合化合物若しくはそのイオン解離性のある塩であり、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。アニオンとなる酸およびカチオンとなる塩基が溶質成分として別々に電解液に添加されてもよい。
【0041】
固体電解質は、たとえば、導電性ポリマーが含有される電解質層を有する。導電性ポリマーは共役系高分子またはドーピングされた共役系高分子である。共役系高分子は、たとえば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチオフェンビニレンなどの公知の共役系高分子であり、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などが好ましい。共役系高分子は、単独の共役系高分子でもよく、複合の共役系高分子でもよく、二種以上のモノマーの共重合体でもよい。
【0042】
封口部材は、引出し端子4としてタブ端子を用いる場合、たとえば外部端子を取り付けたフェノール積層板でもよい。フェノール積層板に取り付けられた外部端子は、コンデンサ素子から突出したタブ端子の一端に接続される。封口部材は、引出し端子4としてリード端子を用いる場合、たとえば絶縁性ゴムで形成されていてもよい。絶縁性ゴムで形成された封口部材はコンデンサ素子の一端面から突出しているリード端子に対応する位置に挿通孔を有し、リード端子の丸棒部と金属線が封口部材の挿通孔を貫通し、リード端子がコンデンサ2の外側に露出する。
【0043】
外装ケースは、たとえば、有底筒状のアルミニウムケースである。コンデンサ素子および引出し端子4の一部は、電解質とともに外装ケースの内部に挿入される。外装ケースの開口部に封口部材が設置されて、外装ケースの内部が密封される。つまり、コンデンサ素子および引出し端子4の一部は外装ケースの内部に密封される。
【0044】
コンデンサ2の製造工程は、本開示のコンデンサの製造方法の一例であって、たとえば陽極箔の作製工程、陰極箔6の作製工程、引出し端子4の作製工程、セパレータの作製工程、電極箔への引出し端子4の接続工程、コンデンサ素子の作製工程、コンデンサ素子の封入工程を含む。
【0045】
陽極箔の作製工程では、たとえば、既述の弁作用金属箔の表面に多孔質構造を有する拡面部を形成し、拡面部が形成された弁作用金属箔の表面に化成処理により誘電体酸化皮膜を形成する。拡面部は、たとえば、エッチング処理または粒子付着処理により形成される。エッチング処理は、直流エッチングでもよく、交流エッチングでもよい。直流エッチングまたは交流エッチングでは、典型的には、塩酸などのハロゲンイオンを含む酸性水溶液中に漬けられた弁作用金属箔に直流電流または交流電流が印加される。粒子付着処理では、弁作用金属箔に金属粒子などが蒸着もしくは焼結される。誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属箔を裁断して、陽極箔が作製される。
【0046】
陰極箔6の作製工程では、たとえば、エッチング処理または粒子付着処理により既述の弁作用金属箔の表面に凹凸を形成して、基材箔12が作製される。陰極箔6のエッチング処理または粒子付着処理は、陽極箔のエッチング処理または粒子付着処理と同じでもよく、異なっていてもよい。基材箔12にカーボン層14を形成し、カーボン層14が形成された基材箔12を裁断して、陰極箔6が作製される。
【0047】
カーボン層14は次のように作製される。既述の炭素材、バインダーおよび分散剤を希釈液に加え、ミキサー、ジェットミキシング(噴流衝合)、超遠心処理、超音波処理などの分散処理によりこれらを混合して、スラリーを形成する。希釈液は、たとえばアルコール、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、アミド系溶媒、水およびこれらの混合物などである。アルコールは、たとえばメタノール、エタノールまたは2-プロパノールである。アミド系溶媒は、たとえばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)またはN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)である。
【0048】
スラリーをエッチング処理後の弁作用金属箔、つまり基材箔12に塗布する。基材箔12には、凹凸が形成されているため、炭素材が凹凸に入り込み、密着性が向上する。スラリーを乾燥させて溶媒を揮発させてカーボン層14を形成した後、カーボン層14をプレスする。凹凸の形成に加えてプレス加工の工程も加えると、炭素材を凹凸の細孔にまで押し込むことができ、またカーボン層14の基材箔対向部分を基材箔12の凹凸の凹凸面に沿って変形させることができ、カーボン層14と基材箔12との密着性および定着性は一層向上する。炭素材が黒鉛を含む場合、プレスにより、黒鉛が整列されるとともに、黒鉛が基材箔12の凹凸に沿うように変形する。また、黒鉛が凹凸に圧接されるときに球状炭素が基材箔12の細孔などのくぼみの内部に押し込まれる。これにより、スラリーが基材箔12に密着し、基材箔12に密着するカーボン層14が得られる。
【0049】
引出し端子4の作製工程では、アルミニウムなどの導電性金属で形成された金属箔の表面に、滑り抑制面部28となる凹凸を形成する。凹凸は、たとえば、エッチング処理または粒子付着処理により形成される。エッチング処理は、直流エッチングでもよく、交流エッチングでもよい。直流エッチングまたは交流エッチングでは、典型的には、塩酸などのハロゲンイオンを含む酸性水溶液中に漬けられた金属箔に直流電流または交流電流が印加される。粒子付着処理では、金属箔に金属粒子などが蒸着もしくは焼結される。エッチング処理または粒子付着処理の処理条件、処理剤または原材料は、陽極箔のエッチング処理または粒子付着処理と同じでもよく、異なっていてもよい。表面に凹凸を形成した金属箔を所望の大きさに切断して、平坦部20を備える既述の端子部を作製する。
【0050】
滑り抑制面部28を部分的に形成する場合、たとえば、マスキングテープなどの遮蔽部材により金属箔を部分的に覆い、遮蔽部材により覆われていない場所に滑り抑制面部28を形成する。遮蔽部材は、たとえば、電極箔への引出し端子4の接続工程において特定される接続部22に相当する部分(以下、「接続部相当部分」という)を除いて、金属箔に貼り付けられる。また、既述の通り、金属箔に滑り抑制面部28を形成した後、金属箔を切断して引出し端子4を作製するが、金属箔に滑り抑制面部28を形成する前に引出し端子4に必要な大きさに金属箔を切断した後、少なくとも接続部相当部分に滑り抑制面部28を形成してもよい。また、リード端子の場合は、アルミニウムなどの導電性金属で形成された丸棒部の一部をプレスして、平坦部20を備える既述の端子部を作製する。既述の端子部にリード線を、たとえばアーク溶接で接続する。平坦部20の表面に滑り抑制面部28を形成して、引出し端子4が作製される。
【0051】
セパレータの作製工程では、既述のセパレータ部材を裁断して、セパレータが作製される。
【0052】
電極箔への引出し端子4の接続工程では、引出し端子4を陰極箔6および陽極箔にそれぞれ接続する。
【0053】
電極箔への引出し端子4の接続工程では、まず、引出し端子4を受圧板に載置し、次に、陰極箔6を引出し端子4に重ねる。互いに重ねられた陰極箔6および引出し端子4は、陰極箔6が押圧部材側に配置されるように、押圧部材と受圧板の間に配置される。
【0054】
引出し端子4はたとえば、冷間圧接処理により陰極箔6に冷間圧接される。冷間圧接処理では、非加熱状態で、押圧部材と受圧板の間の距離が狭められて、押圧部材が陰極箔6および引出し端子4をたとえば陰極箔6側から加圧する。押圧部材は陰極箔6と接触する部分(加圧部分)に少なくとも一つの突起を有する。押圧部材の加圧により突起が接続部22を生成し、引出し端子4が陰極箔6に接続部22で冷間圧接される。
【0055】
陽極箔への引出し端子4の接続工程は、陰極箔6への引出し端子4の接続工程と同じでもよく、異なっていてもよい。
【0056】
コンデンサ素子の作製工程では、セパレータを陽極箔および陰極箔6の間に配置する。陽極箔、陰極箔6、セパレータを巻回して、コンデンサ素子が作製される。
【0057】
コンデンサ素子の封入工程では、コンデンサ素子に電解液などの電解質を含浸し、その後、コンデンサ素子から導出した引出し端子4を封口部材に取付けられた外部端子に接続する。その後、コンデンサ素子が外装ケースの内部に挿入される。その後、外装ケースの開口部に配置された封口部材を加締めることでコンデンサ素子を封止し、コンデンサ2が作製される。
【0058】
滑り抑制面部28の効果を確認するための確認実験を行った。
【0059】
確認実験では、実施例に関する実験試料および比較例に関する比較試料が使用された。実験試料は、エッチング処理により滑り抑制面部28としてエッチング部を含む既述の端子部と、カーボン層14を有する既述の陰極箔6とを含み、端子部の平坦部20が陰極箔6に冷間圧接により接続されている。比較試料は、滑り抑制面部28を含まない通常の端子部と、カーボン層14を有する既述の陰極箔6とを含み、通常の端子部の平坦部120(
図2のB)が陰極箔6に冷間圧接により接続されている。
【0060】
確認実験では、陰極箔6を固定し、陰極箔6の端から突出している端子部の先端部を0.5センチメートル/秒の速度で、端子部が陰極箔6の表面から離れる方向に移動させ、端子部を陰極箔6から引き剥がした。引き剥がし後、端子部側の接続部22を以下の観点(1)および観点(2)で確認した。
【0061】
観点(1): 端子部側の接続部22の端子側底面部44および端子側斜面部46を外観観察して、カーボン層14の付着状態を確認した。端子側底面部44は底面部24に対応する面部であり、端子側斜面部46は斜面部26に対応する面部である。
図2のAに示されているように、実験試料では、カーボン層14が端子側底面部44および端子側斜面部46に跨って付着していた。比較試料では、
図2のBに示されているように、端子側底面部44にのみカーボン層14が付着している試料が確認された。つまり、実験試料におけるカーボン層14の付着量が比較試料におけるカーボン層14の付着量よりも多いことが確認された。エッチング処理された端子部は、通常の端子部よりも大面積でのカーボン層14の剥離を引き起こす。つまり、エッチング処理された端子部は、通常の端子部よりもカーボン層14に対する接続力が大きいことが確認された。
【0062】
観点(2): 端子部側の接続部22に転着したカーボン層14の量を測定および確認した。接続部22を測定対象として端子側底面部44および端子側斜面部46を真上から撮影し、端子側底面部44および端子側斜面部46に付着しているカーボンを表示するピクセル数をコンピュータ処理によりカウントし、撮影倍率からカーボンを表示するピクセルの面積(以下、「カーボン付着面積」という)を求めた。このカーボン層14の量の測定では、六個の実験試料および六個の比較試料が実験された。
【0063】
図3は、測定結果の一例である。
図3において、「付着率」は、カーボン付着面積を端子側底面部44の面積(以下、「接続部面積」という)で割ることにより得られる割合である。
【0064】
比較試料における付着率の平均値が79.7%であるのに対し、実験試料における付着率の平均値が243.3%であった。エッチング処理された端子部の付着率は通常の端子部の付着率の約3倍であった。つまり、エッチング処理された端子部は、通常の端子部よりもカーボン層14に対する接続力が大きいことが確認された。
【0065】
上記実施の形態によれば、たとえば以下の効果が得られる。
【0066】
(1) 接続部22において、引出し端子4の接続時の陰極箔6の滑りまたは相対移動が抑制される。滑りまたは相対移動の抑制により、押付け力の分散または減少が抑制され、引出し端子4と陰極箔6の接続の容易性が高められる。
【0067】
(2) 陰極箔6の性質に適した冷間圧接を実現できる。
【0068】
(3) カーボン層14を含む陰極箔6を備えるコンデンサ2の安定性または信頼性を高めることができる。
【0069】
以上説明した実施の形態について、その特徴事項や変形例を以下に列挙する。
【0070】
(1) 上記実施の形態では、コンデンサ素子は巻回素子である。しかしながら、コンデンサ素子は、たとえば平坦な複数の陽極箔、陰極箔6およびセパレータが積層された積層素子でもよい。
【0071】
(2) 陽極箔、陰極箔6、セパレータ、外装ケース、封口部材および電解質の素材は上記実施の形態で記述したものに限定されない。これらの素材は、アルミ電解コンデンサまたは類似のコンデンサで採用されている他の素材でもよい。
【0072】
(3) カーボン層14の素材は上記実施の形態で記述したものに限定されない。カーボン層14を形成する素材は、カーボンを含む任意の導電性部材でもよい。また、基材箔12に対するカーボン層14の密着または係合状態は、上記実施の形態で記述したものに限定されない。
【0073】
(4) 上記実施の形態では、接続部22が、
図1に示されているように矩形形状を有する。しかしながら、接続部22は矩形形状とは異なる形状、たとえば湾曲形状または蛇行形状でもよい。
【0074】
(5) 滑り抑制面部28は、接続部22の一部に形成されていてもよい。たとえば、滑り抑制面部28は、少なくとも接続部22の端子側底面部44または端子側斜面部46に形成されていてもよい。端子側底面部44に形成された滑り抑制面部28は、底面部24において、アンカー効果によりカーボン層14を保持して陰極箔6の滑りまたは相対移動を抑制できる。端子側斜面部46に形成された滑り抑制面部28は、斜面部26においてアンカー効果によりカーボン層14を保持して、斜面部26および斜面部26に囲われた底面部24において陰極箔6の滑りまたは相対移動を抑制できる。
【0075】
(6) 上記実施の形態の冷間圧接処理では、押圧部材が陰極箔6および引出し端子4に陰極箔6側から圧力を加える。しかしながら、押圧部材は引出し端子4側から圧力を加えてもよい。
【0076】
(7) 上記実施の形態では、陽極箔、陰極箔6、セパレータ、コンデンサ素子などの部品が作製された。しかしながら、これらの部品は調達により準備してもよい。
【0077】
(8) 上記実施の形態では、冷間圧接処理により引出し端子4と陰極箔6を接続したが、たとえば、摩擦圧接、拡散接合、または、超音波圧接、などの機械的圧力による接合で、引出し端子4と陰極箔6とを接合する接合法であれば、同様の効果を得ることができる。
【0078】
以上説明したように、本開示の最も好ましい実施の形態などについて説明したが、本開示は、上記記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載され、または明細書に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能であることは勿論であり、斯かる変形や変更が、本開示の範囲に含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示の技術は、カーボン層を含む陰極箔と引出し端子の接続およびこれらを含むコンデンサに用いることができ、有用である。
【符号の説明】
【0080】
2 コンデンサ
4 引出し端子
6 陰極箔
12 基材箔
14 カーボン層
20、120 平坦部
22 接続部
24 底面部
26 斜面部
28 滑り抑制面部
44 端子側底面部
46 端子側斜面部