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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024087226
(43)【公開日】2024-07-01
(54)【発明の名称】電子装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/398 20200101AFI20240624BHJP
   G06F 30/367 20200101ALI20240624BHJP
   G06F 119/10 20200101ALN20240624BHJP
【FI】
G06F30/398
G06F30/367
G06F119:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022201921
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】上村 篤
(72)【発明者】
【氏名】大峠 和夫
(72)【発明者】
【氏名】伊東 伸行
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA22
5B146GG24
5B146GL10
(57)【要約】
【課題】EMIシミュレーションの精度を向上する。
【解決手段】
電子装置の製造方法は、基板と前記基板に搭載される半導体装置とを含む電子装置の製造方法である。電子装置の製造方法は、(a)電子装置に含まれる電源経路のインピーダンス情報を含む電源モデルを作成する工程と、(b)電子装置を動作させた際の電源ノイズを測定する工程と、(c)電源ノイズおよび電源モデルに基づいて、半導体装置の内部の電源電流を計算する工程と、(d)電源電流および電源モデルに基づいてEMI(Electro Magnetic Interference)特性をシミュレーションする工程とを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と前記基板に搭載される半導体装置とを含む電子装置の製造方法であって
(a)前記電子装置に含まれる電源経路のインピーダンス情報を含む電源モデルを作成する工程と、
(b)前記電子装置を動作させた際の前記基板上の電源ノイズを測定する工程と、
(c)前記電源ノイズおよび前記電源モデルに基づいて、前記半導体装置の内部の電源電流を計算する工程と、
(d)前記電源電流および前記電源モデルに基づいてEMI(Electro Magnetic Interference)特性をシミュレーションする工程と
を含む、電子装置の製造方法。
【請求項2】
前記(a)工程は、
(e)前記半導体装置の内部の電源経路のインピーダンス情報を含む電源モデルを作成する工程と、
(f)前記基板上の電源経路のインピーダンス情報を含む電源モデルを作成する工程と、
を含む、請求項1に記載の電子装置の製造方法。
【請求項3】
前記(d)工程における前記EMI特性のシミュレーション結果に基づいて前記電子装置の設計を変更した後、前記(b)工程、前記(c)工程、および前記(d)工程を再実施する
請求項1に記載の電子装置の製造方法。
【請求項4】
(g)前記半導体装置に書き込まれるプログラムを変更することで、前記電子装置の設計を変更する工程
を含む、請求項3に記載の電子装置の製造方法。
【請求項5】
前記(d)工程における前記EMI特性のシミュレーション結果に基づいて前記電子装置の設計を変更した後、前記(a)工程および前記(d)工程を再実施する
請求項1に記載の電子装置の製造方法。
【請求項6】
(g)前記電子装置のレイアウトを変更することで、前記電子装置の設計を変更する工程
を含む、請求項5に記載の電子装置の製造方法。
【請求項7】
前記(d)工程における前記EMI特性のシミュレーション結果に基づいて前記電子装置の設計を変更した後、前記(a)工程、前記(b)工程、前記(c)工程、および前記(d)工程を再実施する
請求項1に記載の電子装置の製造方法。
【請求項8】
(g)前記半導体装置に書き込まれるプログラムと、前記電子装置のレイアウトとを変更することで、前記電子装置の設計を変更する工程
を含む、請求項7に記載の電子装置の製造方法。
【請求項9】
前記(b)工程における前記電源ノイズを測定する工程は、複数の電源の電源ノイズを同位相で測定する
請求項1に記載の電子装置の製造方法。
【請求項10】
前記(c)工程における前記半導体装置の内部の前記電源電流を計算する工程は、前記電源モデルに基づいて伝達パラメータを作成し、前記伝達パラメータに基づいて前記半導体装置の内部の前記電源電流を計算する
請求項1に記載の電子装置の製造方法。
【請求項11】
前記伝達パラメータは、周波数軸上の振幅データおよび位相データを含む
請求項10に記載の電子装置の製造方法。
【請求項12】
前記(c)工程における前記半導体装置の内部の前記電源電流を計算する工程は、前記伝達パラメータに基づいて前記半導体装置の内部の電源電圧を算出し、前記半導体装置の内部の電源電圧および前記電源モデルに基づいて前記半導体装置の内部の前記電源電流を計算する
請求項10に記載の電子装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、EMI(Electro Magnetic Interference)規制が厳しくなっている。EMI規制が厳しい場合、ICを使用した電子装置を製品化する際に多くの工数やコストが必要になる。特許文献1は、シミュレーションによりLSIの電源電流を解析し、EMIを最適化する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-026599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
EMIが発生するメカニズムを考慮してEMI対策を行うことが重要である。EMIでは、IC(Integrated Circuit)で電流が消費され、ICがノイズ源となる。ノイズは伝搬経路(例:パッケージ、プリント基板)を伝搬し、アンテナ(例:信号配線、電源/GNDパターン、ハーネス)から放射される。
【0005】
したがって、ICの内部の電源電流(IC内電源電流とも言う)を用いたEMIシミュレーションを行う必要がある。しかし、ICの高集積化に伴いシミュレーションにかかる時間は増大するほか、ICに搭載するプログラムを変更するたびにシミュレーションを再実施する必要がある。
【0006】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態によれば、電子装置の製造方法は、基板と前記基板に搭載される半導体装置とを含む電子装置の製造方法である。電子装置の製造方法は、(a)電子装置に含まれる電源経路のインピーダンス情報を含む電源モデルを作成する工程を含む。そして、(b)前記電子装置を動作させた際の前記基板上の電源ノイズを測定する工程を含む。そして、(c)前記電源ノイズおよび前記電源モデルに基づいて、半導体装置の内部の電源電流を計算する工程を含む。そして、(d)電源電流および電源モデルに基づいてEMI(Electro Magnetic Interference)特性をシミュレーションする工程を含む。
【発明の効果】
【0008】
前記一実施の形態によれば、EMIシミュレーションの精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来技術にかかる製造方法の流れを説明する図である。
図2】実施形態1にかかる製造方法の概要を説明する図である。
図3】実施形態1にかかる製造方法の流れを説明する図である。
図4】実施形態1にかかるIC電源モデルおよびPCB電源モデルを説明する図である。
図5】実施形態1にかかる伝達パラメータを説明する図である。
図6】実施形態1にかかるIC内電源電流を算出する方法の詳細を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、様々な処理を行う機能ブロックとして図面に記載される各要素は、ハードウェア的には、CPU、メモリ、その他の回路で構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。なお、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0011】
また、上述したプログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、実施形態で説明された1又はそれ以上の機能をコンピュータに行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。プログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されてもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、random-access memory(RAM)、read-only memory(ROM)、フラッシュメモリ、solid-state drive(SSD)又はその他のメモリ技術、CD-ROM、digital versatile disc(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されてもよい。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、またはその他の形式の伝搬信号を含む。
【0012】
(実施の形態に至る経緯)
まず、図1を参照して、発明者が新たに見出した課題について説明する。図1は、従来の電子装置の製造方法の流れを説明する図である。電子装置は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)である。電子装置は、PCB(Printed Circuit Board)と、PCBに搭載されるICとを含む。ICは、半導体装置とも言われる。ICは、プログラムが格納されるマイコンICである。ICは、半導体チップおよびパッケージを含む。PCBには、マイコンICに電源を供給する電源ICがさらに搭載されていてもよい。PCBは、基板とも言われる。
【0013】
PCBに搭載されるICの実装ガイドライン11と、電子装置の機能仕様書21とが、作成済みであるものとする。ICは、半導体チップが搭載されたパッケージを意味している。実装ガイドライン11はICを製造する事業者Xによって作成され、機能仕様書21は電子装置を製造する事業者Yによって作成されてもよい。
【0014】
ステップS11で、事業者Yが、実装ガイドライン11に基づいてPCBを設計する。これにより、PCBのCADデータ22が作成される。ステップS12で、事業者Yが、機能仕様書21に基づいてプログラム23を設計する。
【0015】
ステップS13で、事業者Yが、CADデータ22に基づいてPCB24を製造する。事業者Yは、PCB24に搭載されたICにプログラム23を書き込み、ステップS14でEMI認定試験を実施する。事業者Yは、ステップS15でEMI認定試験を通過したかを判定する。EMI認定試験を通過した場合、事業者Yは、ステップS16で電子装置を量産する。
【0016】
EMI認定試験を通過しなかった場合、事業者Yは、ステップS17でEMI対策を検討する。EMI対策は、PCB24のレイアウトを修正すること、PCB24にEMI対策部品(例:チップコンデンサ)を追加すること、およびプログラム23を修正することを含む。また、アンテナとなり得る部分(例:信号配線)をシールドすることが検討されてもよい。ステップS17における検討結果に応じて、事業者はステップS11またはステップS12を実施する。
【0017】
従来技術によるとIC内電源電流の見積もり精度が低く、したがってEMIシミュレーションの精度も低い。このため、図1に示す電子装置の製造方法は、EMIシミュレーションを行う工程を含んでいない。
【0018】
EMI認定試験を通過しなかった場合、PCBの試作とEMI認定試験を繰り返す必要がある。したがって、電子装置の開発期間を事前に予測することが難しく、電子装置を出荷するタイミングが遅れるリスクが高い。また、効果的なEMI対策部品の選定が難しいため、PCBに大量のEMI対策部品が実装される可能性がある。この場合、電子装置を製造するコストが増大する。
【0019】
本願の発明者は、以上の検討に基づき、実施形態に想到した。以下、実施形態を説明する。
【0020】
(実施形態1)
図2は、実施形態1にかかる電子装置の製造方法の概略を説明する図である。事業者Xは、IC、つまり半導体装置を製造する。事業者Yは、電子装置(例:ECU)を製造する。図2において事業者Xによって実施される工程の少なくとも一部が、事業者Yによって実施されてもよい。同様に、事業者Yによって実施される工程の少なくとも一部が、事業者Xによって実施されてもよい。また、事業者Xと事業者Yは、同一の事業者であってもよい。
【0021】
ステップS1は、図1の実装ガイドライン11を作成するステップである。ステップS3は、図1のステップS11に対応する。ステップS4は、図1のステップS12に対応する。ステップS10は、図1のステップS14に対応する。ステップS2、ステップS5、ステップS6、ステップS7、ステップS8、およびステップS9は、従来技術に追加した工程を表す。
【0022】
ステップS1で、事業者Xは、PCBに搭載されるICの実装ガイドラインを作成する。事業者Xは、実装ガイドラインを事業者Yに渡す。実装ガイドラインは、ステップS3で使用される。PCBには、複数のICが搭載されてもよい。
【0023】
ステップS2で、事業者Xは、ICの内部の電源経路の電源モデル(IC電源モデルと言われる)を作成する。IC電源モデルは、ICの内部の電源経路のインピーダンス情報を含む。事業者Xは、IC電源モデルを事業者Yに渡す。IC電源モデルは、ステップS7およびステップS8で使用される。なお、IC電源モデルの具体例は後述する。
【0024】
ステップS3で、事業者Yは、ステップS1で作成された実装ガイドラインに基づいてPCBを設計する。ステップS4で、事業者Yは、ICに書き込まれるプログラムを設計する。
【0025】
ステップS5で、事業者Yは、電子装置を動作させた際のPCB上の電源ノイズを測定する。事業者Yは、PCB上の電源ノイズの波形を事業者Xに渡す。PCB上の電源ノイズの波形は、PCB上電源電圧とも言われる。PCB上電源電圧は、ステップS7で使用される。
【0026】
ステップS6で、事業者Yは、PCBの設計データ(CADデータ)から、PCB上の電源経路をモデル化したPCB電源モデルを抽出する。PCB電源モデルは、PCB上の電源経路のインピーダンス情報を含む。事業者Yは、PCB電源モデルを事業者Xに渡す。PCB電源モデルは、ステップS7で使用される。
【0027】
ステップS7で、事業者Xは、PCB上電源電圧、IC電源モデル、およびPCB電源モデルから、ICの内部の電源電流(IC内電源電流)を算出する。事業者Xは、IC内電源電流を事業者Yに渡す。IC内電源電流は、ステップS8で用いられる。
【0028】
ステップS8で、事業者Yは、IC内電源電流、IC電源モデル、およびPCB電源モデルに基づいて、EMI認定試験を想定したEMI特性のシミュレーションを実施する。ステップS9で、事業者Yは、シミュレーション結果を判定する。
【0029】
シミュレーションの結果が規格を通過しない場合、事業者Yは、EMI対策を行うことを検討する。事業者Yは、検討結果に応じてステップS3のPCB設計またはステップS4のプログラム設計を実施する。
【0030】
一方、シミュレーションの結果が規格を通過した場合、事業者Yは、ステップS10でEMI認定試験を行う。EMI認定試験を通過した場合、事業者Yは、電子装置を量産する。EMI認定試験を通過しなかった場合、事業者Yは、EMI対策を行うことを検討し、検討結果に応じてステップS3のPCB設計またはステップS4のプログラム設計を実施する。
【0031】
図3は、実施形態1にかかる製造方法の流れを説明する図である。実装ガイドライン11、機能仕様書21、およびIC電源モデル12は作成済みとする。実装ガイドライン11は、図2のステップS1で作成される。IC電源モデル12は、図2のステップS2で作成される。
【0032】
ステップS101で、事業者Yが、実装ガイドライン11に基づいてPCBを設計する。これにより、PCBのCADデータ22が作成される。ステップS101は、図2のステップS3に対応する。また、ステップS102で、事業者Yが、機能仕様書21に基づいてプログラム23を設計する。ステップS102は、図2のステップS4に対応している。
【0033】
ステップS103で、事業者Yが、CADデータ22からPCB電源モデル25を抽出する。ステップS103は、図2のステップS6に対応する。
【0034】
ステップS104で、事業者Yは、PCBを製造済みであるかを判定する。PCBを製造済みである場合、事業者Yは、ステップS108を実施する。PCBを製造していない場合、事業者Yは、ステップS105でPCB24を製造する。
【0035】
ステップS106で、事業者Yは、PCB24に搭載されたICにプログラム23を書き込んで動作させ、PCB上電源ノイズ、つまりPCB上電源電圧26を測定する。ステップS106は、図2のステップS5に対応する。
【0036】
ステップS107で、事業者Xは、PCB電源モデル25、PCB上電源電圧26、およびIC電源モデル12に基づいて、IC内電源電流13を予測する。ステップS107は、図2のステップS7に対応している。ステップS107、すなわちステップS7の詳細は後述する。
【0037】
ステップS108で、事業者Yは、IC内電源電流13に基づいてEMI試験を想定したシミュレーションを実施する。ステップS108は、図2のステップS8に対応している。ステップS109で、事業者Yは、シミュレーションの結果がEMIの制約を通過したかを判定する。ステップS109は、図2のステップS9に対応している。シミュレーションの結果がEMIの制約を通過しなかった場合、事業者Yは、ステップS115でEMI対策を検討し、検討結果に応じてステップS101またはステップS102を実施する。そして、ステップS101とステップS102の両方またはステップS102のみ実施された場合は、ステップS106、ステップS107、およびステップS108が再び実施される。ステップS101のみ実施された場合は、ステップS108が再び実施される。
【0038】
シミュレーションの結果がEMIの制約を通過した場合、事業者Yは、ステップS110でPCB24の設計に変更があるかを判定する。PCB24の設計を変更した場合、事業者Yは、ステップS111で新たなPCB24aを製造する。そして、事業者Yは、ステップS112でPCB24aを用いたEMI認定試験を実施する。一方、PCB24の設計に変更がない場合、事業者Yは、ステップS112でPCB24を用いたEMI認定試験を実施する。
【0039】
ステップS113で、事業者Yは、EMI認定試験を通過したかを判定する。EMI認定試験を通過した場合、事業者Yは、ステップS114で電子装置を量産する。一方、EMI認定試験を通過しなかった場合、事業者Yは、ステップS115を実施する。
【0040】
従来技術にかかる製造方法では、PCB設計およびプログラム設計を行った後にEMI認定試験を行い、課題がある場合にEMI対策を行っていた。一方、実施形態1にかかる製造方法では、電子装置ごとに設計されるプログラムが動作したときのIC内電源電流を算出する。したがって、EMI認定試験を想定したシミュレーションを高精度に実施できるため、製造リソースやEMI認定試験のリソースを削減できる。
【0041】
次に、IC内電源電流を算出する方法を詳細に説明する。IC内電源電流は、第1のステップおよび第2のステップにより算出される。第1のステップは、IC内電源電圧を算出するステップである。第2のステップは、IC内電源電圧からIC内電源電流を算出するステップである。
【0042】
図4および図5を参照して、第1のステップについて説明する。図4は、IC電源モデルおよびPCB電源モデルを説明する図である。ICに3種類の電源が供給されるものとする。図2のステップS5では、複数のPCB上電源電圧が、同時刻つまり同位相で測定されるものとする。
【0043】
ノードN1、N2、およびN3は、IC内電源電圧が算出されるノードを表している。ノードN4、N5、およびN6は、PCB上で電源電圧を測定するノードを表している。
【0044】
ノードN1、N2、およびN3における電源電圧は、それぞれCIOVDD1、CIOVDD2、CVDDである。ノードN4、N5、およびN6における電源電圧は、それぞれPIOVDD1、PIOVDD2、PVDDである。符号I_CIOVDD1は、ノードN1からグランドGNDに流れる電流を表している。符号I_CIOVDD2は、ノードN2からグランドGNDに流れる電流を表している。符号I_CVDDは、ノードN3からグランドGNDに流れる電流を表している。
【0045】
IC内電源電圧CIOVDD1には、ノードN2およびN3から伝搬したノイズが含まれていないものとする。IC内電源電圧CIOVDD2には、ノードN1およびN3から伝搬したノイズが含まれていないものとする。IC内電源電圧CVDDには、ノードN1およびN2から伝搬したノイズが含まれていないものとする。
【0046】
IC電源モデル12は、インピーダンスZ1~Z5を含んでいる。PCB電源モデル25は、インピーダンスZ6~Z10を含んでいる。インピーダンスZ1とZ6は、ノードN1とノードN4の間に直列接続されている。インピーダンスZ3とZ8は、ノードN2とノードN5の間に直列接続されている。インピーダンスZ5とZ10は、ノードN3とノードN6の間に直列接続されている。インピーダンスZ2は、インピーダンスZ1およびZ3に接続されている。インピーダンスZ4は、インピーダンスZ3およびZ5に接続されている。インピーダンスZ7は、インピーダンスZ6およびZ8に接続されている。インピーダンスZ9は、インピーダンスZ8およびZ10に接続されている。なお、IC電源モデル12およびPCB電源モデル25の構成は、図4に示す構成には限定されない。
【0047】
IC内電源電圧CIOVDD1、CIOVDD2、およびCVDDは、伝達パラメータをもとに算出される。図5は、伝達パラメータを説明する図である。伝達パラメータA~Iは、IC内電源電圧CIOVDD1、CIOVDD2、およびCVDDと、PCB上電源電圧PIOVDD1、PIOVDD2、およびPVDDとの間の関係を表す。例えば、伝達パラメータAは、ノードN1に1Aの電流を印加したときの、IC内電源電圧CIOVDD1とPCB上電源電圧PIOVDD1の比を表す。したがって、伝達パラメータA~Iは、IC電源モデル12およびPCB電源モデル25から算出され得る。
【0048】
式(1)は、IC内電源電圧CIOVDD1、CIOVDD2、およびCVDDから、PCB上電源電圧PIOVDD1を計算する式を表している。
【数1】
【0049】
式(2)は、IC内電源電圧CIOVDD1、CIOVDD2、およびCVDDから、PCB上電源電圧PIOVDD2を算出する式を表している。
【数2】
【0050】
式(3)は、IC内電源電圧CIOVDD1、CIOVDD2、およびCVDDから、PCB上電源電圧PVDDを算出する式を表している。
【数3】
【0051】
式(1)~(3)は、式(4)のように行列を用いて表現される。したがって、式(5)に示すように逆行列を用いることで、IC内電源電圧CIOVDD1、CIOVDD2、およびCVDDを算出できる。
【0052】
【数4】
【0053】
【数5】
【0054】
次に、第2のステップについて説明する。第2のステップでは、IC内電源電圧CIOVDD1、CIOVDD2、およびCVDDをもとに、IC内電源電流を算出する。電子装置のEMI特性をシミュレーションするためには、IC内電源電流が必要になるからである。IC内電源電流を算出するには、IC内電源電圧と共にICの内部の入力インピーダンスが必要となる。ICの内部の入力インピーダンスは、IC内電源電圧と、IC内電源電流の比から算出される。また、伝達パラメータを算出する際に算出されていてもよい。入力インピーダンスは、振幅および位相で表現される。
【0055】
式(6)は、IC内電源電圧CIOVDD1から、IC内電源電流I_COVDD1を算出する式を表している。インピーダンスZ_CIOVDD1は、IC内電源電流I_CIOVDD1とIC内電源電圧CIOVDD1の比を表している。インピーダンスZ_CIOVDD1は、IC電源モデル12およびPCB電源モデル25から算出され得る。インピーダンスZ_CIOVDD1は、ノードN1に1Aを印加したときのIC内電源電圧CIOVDD1として算出されてもよい。
【数6】
【0056】
式(7)は、IC内電源電圧CIOVDD2から、IC内電源電流I_CIOVDD2を算出する式を表している。インピーダンスZ_CIOVDD2は、IC内電源電流I_CIOVDD2とIC内電源電圧CIOVDD2の比を表している。インピーダンスZ_CIOVDD2は、IC電源モデル12およびPCB電源モデル25から算出され得る。インピーダンスZ_CIOVDD2は、ノードN2に1Aを印加したときのIC内電源電圧CIOVDD2として算出されてもよい。
【数7】
【0057】
式(8)は、IC内電源電圧CVDDから、IC内電源電流I_CVDDを算出する式を表している。インピーダンスZ_CVDDは、IC内電源電流I_CVDDとIC内電源電圧CVDDの比を表している。インピーダンスZ_CVDDは、IC電源モデル12およびPCB電源モデル25から算出され得る。インピーダンスZ_CVDDは、ノードN3に1Aを印加したときのIC内電源電圧CVDDとして算出されてもよい。
【数8】
【0058】
次に、図6を参照して、IC内電源電流を算出する方法の流れの詳細を説明する。IC内電源電流は、ステップS71、ステップS72、およびステップS73によって算出される。ステップS71、S72、およびS73は、図2のステップS7、つまり図3のステップS107に含まれ得る。
【0059】
ステップS71は、ステップS711を含んでいる。PCB上電源電圧26が測定済みであるものとする。PCB上電源電圧26は、オシロスコープを用いてPCB上の電源端子をプロービングすることで測定されてもよい。複数のPCB上電源電圧26を測定する場合、オシロスコープのトリガー機能を用いて同一時刻で測定を行ってもよい。PCB上電源電圧26は、時間軸上の電圧データを表している。ステップS711では、PCB上電源電圧26に対してFFT(Fast Fourier Transform)が実施される。これにより、PCB上電源電圧27が作成される。PCB上電源電圧27は、周波数軸上の振幅データおよび位相データを含んでいる。
【0060】
次に、ステップS72について説明する。ステップS72は、ステップS721を含んでいる。IC電源モデル12およびPCB電源モデル25が作成済みであるものとする。ステップS721では、IC電源モデル12およびPCB電源モデル25をもとに、ICに含まれる半導体チップとPCBとの間の伝達パラメータ28を計算する。伝達パラメータ28は、IC内電源電圧とPCB上電源電圧の比を表す。したがって、伝達パラメータは、ICの内部のノードから、PCB上のノードへのノイズの伝搬率を表す。PCB上のノードとは、PCB上電源電圧を測定したノードである。伝達パラメータ28は、SPICEのAC解析により算出される。伝達パラメータ28は、周波数軸上の振幅データおよび位相データを含んでいる。
【0061】
次に、ステップS73について説明する。ステップS73は、ステップS731およびS732を含んでいる。ステップS731では、PCB上電源電圧27および伝達パラメータ28をもとに、IC内電源電流29を算出する。IC内電源電流29は、周波数軸上の振幅データおよび位相データを含んでいる。ステップS732では、IC内電源電流29に対してIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)が実施される。これにより、IC内電源電流13が算出される。IC内電源電流13は、時間軸上の電源電流データを表す。
【0062】
図6に示す処理は、プロセッサおよびメモリを含むコンピュータにより実行されてもよい。プロセッサは、例えば、マイクロプロセッサ、MPU(Micro Processing Unit)、またはCPUであってもよい。プロセッサは、複数のプロセッサを含んでもよい。メモリは、揮発性メモリおよび不揮発性メモリによって構成される。メモリは、物理的に独立した複数のメモリデバイスを含んでもよい。揮発性メモリは、例えば、SRAM(Static RAM)若しくはDRAM(Dynamic RAM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ、若しくはハードディスクドライブ、またはこれらの任意の組合せである。メモリは、プロセッサから離れて配置されたストレージを含んでもよい。メモリは、ステップS71、S72、およびS73による処理を行うための命令群およびデータを含む1またはそれ以上のソフトウェアモジュール(コンピュータプログラム)を格納してもよい。いくつかの実装において、プロセッサは、当該ソフトウェアモジュールをメモリから読み出して実行する。
【0063】
最後に、実施形態1が奏する効果について説明する。実施形態1では、PCB上で測定した電源ノイズからIC内電源電流を正確に算出する。そして、実施形態1では、正確な電源電流を用いたEMIシミュレーション解析を、ECU等の電子装置の開発フローに取り入れる。電子装置の無駄な試作を無くすことにより、電子装置の開発期間が短縮される。また、効果的なノイズ対策部品の選択を支援することで、電子装置の製造コストが削減される。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0065】
11 実装ガイドライン
12 IC電源モデル
13、29、I_CIOVDD1、I_CIOVDD2、I_CVDD IC内電源電流
21 機能仕様書
22 CADデータ
23 プログラム
24、24a PCB
25 PCB電源モデル
26、27、PIOVDD1、PIOVDD2、PVDD PCB上電源電圧
CIOVDD1、CIOVDD2、CVDD IC内電源電圧
I_CIOVDD1、I_CIOVDD2、I_CVDD IC内電源電流
N1、N2、N3、N4、N5、N6 ノード
Z1、Z2、Z3、Z4、Z5、Z6、Z7、Z8、Z9、Z10、Z_CIOVDD1、Z_CIOVDD2、Z_CVDD インピーダンス
A、B、C、D、E、F、G、28 伝達パラメータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6