(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008724
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】放電処理装置及びシート材処理システム
(51)【国際特許分類】
B01J 19/08 20060101AFI20240112BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20240112BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
B01J19/08 C
B05C5/00 101
H05H1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110830
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000109727
【氏名又は名称】株式会社デュプロ
(72)【発明者】
【氏名】山本 周平
【テーマコード(参考)】
2G084
4F041
4G075
【Fターム(参考)】
2G084AA07
2G084BB07
2G084BB25
2G084BB27
2G084BB33
2G084CC22
2G084CC34
2G084DD12
2G084DD22
2G084DD67
2G084FF19
4F041AA02
4F041AB01
4F041BA01
4F041BA10
4F041BA13
4G075AA29
4G075BA05
4G075CA18
4G075DA02
4G075EB31
4G075EC21
4G075ED01
4G075ED11
4G075FB02
4G075FB04
4G075FB12
4G075FC11
4G075FC15
(57)【要約】
【課題】メンテナンス性の向上を図りつつ、電極間上ガイド部材の上面でのトラッキング現象の発生を防止可能な放電処理装置を提供する。
【解決手段】搬送経路120の上方に配置された互いに電位差が生じる少なくとも一対の印加電極110と、搬送経路120の下方で印加電極110に対向する接地電極112と、を備え、印加電極110と接地電極112との間で放電させ、シート材に放電処理を行うコロナ処理装置26で、印加電極110のうちの上流側印加電極110aと下流側印加電極110bとの間に配置され、搬送経路120の上部を形成する上ガイドプレート109を備え、上ガイドプレート109の上面から上方に突き出し、上面を上流側印加電極110aの側の領域と下流側印加電極110bの側の領域とに仕切る絶縁性のガイド上面壁パーツ101を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材の搬送経路の上方に配置され、互いに電位差が生じる少なくとも一対の上電極と、
前記搬送経路の下方で前記上電極に対向して配置された下電極と、を備え、
前記上電極と前記下電極との間で放電を発生させ、前記シート材に対して放電処理を行う放電処理装置において、
前記上電極のうちの第一上電極と、前記第一上電極に対して前記シート材の搬送方向の下流側に配置された第二上電極との間に配置され、前記搬送経路の上部を形成する電極間上ガイド部材を備え、
前記電極間上ガイド部材の上面から上方に突き出し、前記上面を前記第一上電極の側の領域と前記第二上電極の側の領域とに仕切る絶縁性のガイド上面仕切り部材を備えることを特徴とする放電処理装置。
【請求項2】
請求項1の放電処理装置において、
前記ガイド上面仕切り部材における前記第一上電極の側の面と、前記第二上電極の側の面との少なくとも一方の面は鉛直方向に延在する平面であることを特徴とする放電処理装置。
【請求項3】
請求項1の放電処理装置において、
交流電源から供給される交流電力の電圧を変圧して前記上電極に交流電圧を印加する交流電圧印加手段を備え、
前記交流電圧印加手段から印加される前記交流電圧の位相が、前記第一上電極と前記第二上電極とで逆位相となることを特徴とする放電処理装置。
【請求項4】
請求項1の放電処理装置において、
前記上電極と前記下電極との距離が変更可能であることを特徴とする放電処理装置。
【請求項5】
枚葉シート材に放電処理を施す放電処理手段と、
前記放電処理手段に前記枚葉シート材を供給するシート材供給手段と、を備えるシート材処理システムにおいて、
前記放電処理手段として、請求項1乃至4の何れかに記載の放電処理装置を備えることを特徴とするシート材処理システム。
【請求項6】
請求項5のシート材処理システムにおいて、
前記放電処理手段から排出された前記枚葉シート材にエネルギー硬化性インクまたはエネルギー硬化性接着剤を塗布する塗布手段を備えることを特徴とするシート材処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電処理装置及びシート材処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シート材の搬送経路の上方に配置された上電極と、搬送経路の下方に配置された下電極とを備え、電圧が印加された上電極と接地された下電極との間で放電を発生させ、シート材に対して放電処理を行う放電処理装置が知られている。この種の放電処理装置として、シート材に印刷やコーティングする際の付着性、つまり濡れ性(親和性)を高めるために、シート材の表面をコロナ放電により改質するコロナ処理装置が提案されている(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の放電処理装置では、複数組の上電極と下電極とを備えた構成でメンテナンスを怠ると、二つの上電極同士の間で搬送経路の上部を形成する電極間上ガイド部材の上面に炭化導電路(トラック)と呼ばれる通電経路が形成されるトラッキング現象が生じることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、シート材の搬送経路の上方に配置された複数の上電極と、前記搬送経路の下方で前記上電極に対向して配置された複数の下電極と、を備え、前記上電極と前記下電極との間で放電を発生させ、前記シート材に対して放電処理を行う放電処理装置において、複数の前記上電極のうちの第一上電極と、前記第一上電極に対して前記シート材の搬送方向の下流側に配置された第二上電極との間に配置され、前記搬送経路の上部を形成する電極間上ガイド部材を備え、前記電極間上ガイド部材の上面から上方に突き出し、前記上面を前記第一上電極の側の領域と前記第二上電極の側の領域とに仕切る絶縁性のガイド上面仕切り部材を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、メンテナンス性の向上を図りつつ、電極間上ガイド部材の上面でのトラッキング現象の発生を防止可能な放電処理装置を提供できる、という優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】実施形態の吊下げブロック近傍の拡大上面斜視図。
【
図5】実施形態における上面に堆積物が形成された上ガイドプレート近傍の拡大説明図。
【
図6】印加電極に交流電圧を印加する電気回路の説明図。
【
図8】変形例の吊下げブロック近傍の拡大上面斜視図。
【
図9】実施形態の加飾印刷システムを模式的に示す側面図。
【
図10】実施形態の加飾印刷システムを模式的に示す平面図。
【
図13】比較例1の吊下げブロック近傍の拡大上面斜視図。
【
図14】比較例1における上面に堆積物が形成された上ガイドプレート近傍の拡大説明図。
【
図16】比較例2の吊下げブロック近傍の拡大上面斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0009】
以下、本発明に係る放電処理装置の一実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る放電処理装置であるコロナ処理装置26を模式的に示す断面図である。コロナ処理装置26は、下ガイドプレート108(108a、108b、108c)によって下面を支持され、搬送ローラ208によって搬送されるシート材が、内部の搬送経路120を通過している間に、コロナ放電によりその表面の改質を行う。
図1に示すように、コロナ処理装置26は、二つの放電部102(上流側放電部102a、下流側放電部102b)と、ハウジング104と、吸引装置106と、を備える。
【0011】
放電部102は、高電圧が印加される印加電極110(上流側印加電極110a、下流側印加電極110b)と、アースに接続された接地電極112(上流側接地電極112a、下流側接地電極112b)とを含む。印加電極110は、コロナ処理対象物であるシート材が通過する搬送経路120の上方に配置されている。接地電極112は、搬送経路120を挟んで印加電極110と対向するように、搬送経路120の下方に配置されている。
印加電極110及び接地電極112は、幅方向Xの長さが、コロナ処理の対象となるシート材の幅方向Xの最大長さ、すなわち、シート材の仕様上の最大幅よりも長い。
【0012】
印加電極110は、銅等の導電体からなる芯材部1101と、セラミック等の誘電体からなる表層部1102と、から成り、芯材部1101の幅方向Xの一端が不図示の交流電源に接続され、他端は絶縁体に覆われている。印加電極110としては、高電圧が印加されることで、接地された接地電極112との間でコロナ放電を行うことができるものであれば特に限定されない。
【0013】
接地電極112は、高電圧が印加された印加電極110との間でコロナ放電を行うことができるものであれば特に限定されない。
図1に示す本実施の形態の接地電極112は、幅方向Xに垂直な断面(Y-Z断面)での断面形状が円弧状の上面を有する。接地電極112は、幅方向Xに垂直な断面が円形で回転可能なローラ部材であってもよいし、回転しない円柱状の部材であってもよい。
【0014】
図2は、接地電極112としてローラ部材を用いた変形例のコロナ処理装置26を模式的に示す断面図である。
図2に示すコロナ処理装置26の接地電極112は、不図示の駆動源より駆動が伝達され駆動回転する駆動ローラである。駆動回転するローラ部材を用いることで、搬送ローラ208によって搬送されるシート材の下面に接触する接地電極112が、シート材ともに表面移動する。これにより、搬送経路120を通過するシート材が固定された接地電極112の表面に摺擦しながら移動する構成に比べて、シート材の搬送抵抗が小さくなり、シート材の搬送性の向上を図ることができる。また、接地電極112にローラ部材を用いる構成としては、回転駆動する駆動ローラに限らず、シート材の移動に応じて連れ回りする従動ローラを用いてもよい。
【0015】
図1に示す例では、コロナ処理装置26は、上流側放電部102a(上流側印加電極110aと上流側接地電極112aとを含む)と、下流側放電部102b(下流側印加電極110bと下流側接地電極112bとを含む)と、の二つ放電部102を備えるが、放電部102の数は特に限定されない。
【0016】
ハウジング104は、シート材の搬送経路120を挟んで上下に位置する、上ハウジング130と、下ハウジング140と、を備える。上ハウジング130は、上ハウジング固定部134と、上ハウジング固定部134に対して着脱可能な電極ユニット132と、を含む。上ハウジング固定部134は、電極ユニット132装着時に連通する開口部を有する。
図1に示す例では、上ハウジング固定部134は、下方に装着される電極ユニット132と連通する開口部を備える箱状であり、電極ユニット132は、装着時に上ハウジング固定部134と連通する上面側と、装着時に接地電極112と対向する下面側と、に開口部を備える箱状である。
【0017】
電極ユニット132は、各放電部102の印加電極110と、二つの印加電極110の間の搬送経路120の上面を形成する上ガイドプレート109と、を箱状の内部に収容して保持する。電極ユニット132の下面は、印加電極110及び上ガイドプレート109の下方が開口している。
電極ユニット132が取り付けられた状態において、電極ユニット132の内部空間(132s)と上ハウジング固定部134の内部空間(134s)とは、電極ユニット132の上面の開口部と上ハウジング固定部134の下面の開口部とを介して、連通する。
【0018】
下ハウジング140は、上面が開いた箱状で、各放電部102の接地電極112を収容する。下ハウジング140の上面の開口部には、下ガイドプレート108が設けられている。下ガイドプレート108は、コロナ処理装置26を通過するシート材の下面を支持する。
【0019】
下ガイドプレート108は、印加電極110と接地電極112とが対向する二箇所で開口している。この二箇所の開口によって、上流側の放電部前ガイド部108aと、真ん中の放電部内ガイド部108bと、下流側の放電部後ガイド部108cとの三箇所のガイド部でシート材を支持する形状となっている。
本実施形態のコロナ処理装置26の下ガイドプレート108は、放電部前ガイド部108aと放電部内ガイド部108bとは一つの部材であり、放電部後ガイド部108cは別部材であるが、接地電極112が露出する隙間(開口)があれば、一つの部材でもよい。
【0020】
放電部前ガイド部108aは、曲面状の上流側接地電極112aの最上部よりも上流側の表面を覆い、その下流側端部が上流側接地電極112aの最上部に近い表面と対向する形状である。この形状により、放電部前ガイド部108aの下流端まで到達したシート材が上流側接地電極112aとの隙間に入り込むことを防止し、支持しているシート材を上流側接地電極112a上に受け渡し易い形状となっている。
放電部内ガイド部108bは、その上流側端部が上流側接地電極112aの最上部よりも下流側の表面であって最上部から少し離れた表面と対向し、この上流側端部が放電部前ガイド部108aのした流側端部よりも低い位置となる形状である。この形状により、上流側接地電極112aの最上部を通過したシート材が上流側接地電極112aの表面に沿って移動し、放電部内ガイド部108bとの隙間に入り込むことを防止し、上流側接地電極112aからシート材を受け取り易い形状となっている。放電部内ガイド部108bの下流側端部は、放電部前ガイド部108aの下流側端部と同様に、下流側接地電極112bの最上部に近い表面と対向する形状となって、支持しているシート材を下流側接地電極112bに受け渡し易い形状となっている。放電部内ガイド部108bは、上流側端部が上流側接地電極112aの最上部から少し離れ、下流側端部が下流側接地電極112bの最上部に近づいた形状であるため、下流側が高くなるように傾斜した形状としてもよい。
放電部後ガイド部108cは、その上流側端部が、放電部内ガイド部108bの上流側端部と同様に、下流側接地電極112bの最上部から少し離れた表面と対向する形状となって、下流側接地電極112bからシート材を受け取り易い形状となっている。
【0021】
電極ユニット132と下ハウジング140との搬送方向上流側の隙間は、シート材をハウジング104内に搬入するための搬入口150を形成する。電極ユニット132と下ハウジング140との搬送方向下流側の隙間は、シート材をハウジング104外に搬出するための搬出口152を形成する。
【0022】
シート材は、下ガイドプレート108に支持されながら、搬送ローラ208に搬送されることで、搬入口150からハウジング104内に搬入される。そして、二つの放電部102の印加電極110と接地電極112との間を接地電極112に接触しながら通過して、搬出口152からハウジング104外に搬出される。下ガイドプレート108の上面は、シート材が搬送される搬送経路120の下面を構成する。
【0023】
印加電極110に高周波の交流電圧が印加されている状態で、シート材が放電部102の印加電極110と接地電極112との間を搬送されると、印加電極110に負極性の電圧が印加されるタイミングで印加電極110と接地電極112との間にコロナ放電が発生し、接地電極112の表面に沿って移動するシート材の表面(上面)にコロナ処理が施される。印加電極110及び接地電極112は、シート材以上の幅を有するため、コロナ処理はシート材の搬送にともなってシート材の上面の全域に対し施される。コロナ処理を行うと、ハウジング104内の空気中には、オゾン(O3)が発生する。
【0024】
図1中の破線の矢印はハウジング104内の空気の流れと、ハウジング104内に流入する空気の流れとを示す。
ハウジング104には、印加電極110側(すなわち搬送経路120よりも上方)となる上ハウジング130の上部に第一排気口160が形成されている。ハウジング104には、複数の第一排気口160が設けられてもよい。
【0025】
また、ハウジング104には、接地電極112側(すなわち搬送経路120よりも下方)となる下ハウジング140の下部に第二排気口162が形成されている。ハウジング104には、複数の第二排気口162が設けられてもよい。
【0026】
第一排気口160及び第二排気口162からは、吸引装置106によって、ハウジング104内のオゾンを含む気体が吸引され、排気される。ハウジング104内の気体の吸引及び排気は、放電部102を冷却する効果もある。
【0027】
本実施の形態では、吸引装置106によるハウジング104内からの気体の吸引量、すなわち第一排気口160及び第二排気口162からの排気量は、シート材がハウジング104内に搬入されていないとき(すなわち下ハウジング140の上面の開口が塞がれていないとき)において、印加電極110側(上側)の第一排気口160からの排気量よりも接地電極112側(下側)の第二排気口162からの排気量を多くする。
【0028】
印加電極110と接地電極112との間を通過するシート材が接地電極112から浮き上がると、たとえばシート材の裏面(下面)と接地電極112との間でコロナ放電が発生し、シート材の表面(上面)側でコロナ放電が発生しなくなることがある。このように、シート材が浮き上がると、シート材の表面(上面)側で安定したコロナ放電が得られなくなり、所望の表面改質の効果を得ることができなくなる。これに対し、上側の排気量よりも下側の排気量を多くすることにより、
図1中の破線矢印で示すように、下ガイドプレート108と接地電極112との隙間には下ハウジング140の内部空間である下部内部空間140sに向けて吸引する負圧が発生する。そして、搬送経路120を搬送されるシート材がこの負圧に吸引されることで、印加電極110と接地電極112との間を通過するシート材が接地電極112から浮き上がることを抑制でき、シート材の表面(上面)側で安定したコロナ放電を得ることができる。
【0029】
単一の吸引装置106によって第一排気口160及び第二排気口162から吸引する場合、あるいは同一の吸引量が設定された別々の吸引装置106によって第一排気口160及び第二排気口162から吸引する場合、排気経路を次のように設定する。すなわち、第二排気口162からの排気経路である第二排気経路168で断面積が最小になる部分を、第一排気口160からの排気経路である第一排気経路166で断面積が最小になる部分よりも断面積が大きくなるように設定する。これのより、上述の排気量の関係を満たすことができる。
【0030】
別々の吸引装置106によって第一排気口160及び第二排気口162から吸引する場合、第二排気口162から吸引する吸引装置106の吸引量の設定値を、第一排気口160から吸引する吸引装置106の吸引量の設定値よりも高くすることによって、上述の排気量の関係を満たすことができる。
【0031】
電極ユニット132は、上流側(
図1中の右側)側面の下端から搬送方向下流側に延在する入口側延在部136を有する。また、電極ユニット132は、下流側(
図1中の左側)側面の下端から搬送方向上流側に延在する出口側延在部138を有する。これらの延在部(136,138)は、ユーザが印加電極110に触れるのを防ぐとともに、コロナ放電によって発生する紫外線が使用者に向かうことを防止する。
【0032】
搬送経路120を通過するシート材の下面を支持する支持部材である下ガイドプレート108の材料としては、以下の理由により導電性がある材料を用いることが望ましい。
すなわち、紙や樹脂フィルム等の不導体のシート材にコロナ処理を施すと、シート材が帯電する。このとき、下ガイドプレート108も不導体であると、静電気によってシート材が下ガイドプレート108に貼りつき搬送不良となってしまう。本実施形態では、下ガイドプレート108に導電性の板金を用いており、さらに、接地している。これにより、コロナ処理によってシート材が帯電しても下面側は下ガイドプレート108を介して接地し、除電されるため、静電気によってシート材が下ガイドプレート108に貼り付くことを防止でき、静電気に起因する搬送不良を防止できる。このように下ガイドプレート108の材料としては導電性がある材料が望ましく、導電性材料としては、上述した板金のような金属に限らず、導電性樹脂や樹脂表面に導電性のメッキ処理を施したもの等、接地して除電できるものであればよい。
【0033】
なお、板金等の金属製の下ガイドプレート108上をシート材が摺擦しながら搬送されると、下ガイドプレート108のエッジ部等でシート材に摺擦傷ができてしまうおそれがある。この問題を解決する構成として、下ガイドプレート108の少なくとも一つの上面に導電性フィルムを貼り付けてもよい。この導電性フィルムは、下ガイドプレート108よりも剛性が低く、導電性を有するものが好ましい。
【0034】
金属製の下ガイドプレート108のエッジ部でのシート材の摺擦傷を防止するために、シート材接触部材としてマイラーシートと呼ばれることがある樹脂フィルムを下ガイドプレート108に貼り付けると、シート詰まりが発生することがあった。これは、樹脂フィルムが不導体であるため、帯電したシート材が接触することで樹脂フィルムが帯電し、数枚の通紙でシート材を停止させるほどに樹脂フィルムの表面の電位が上昇したためと考えられる。これに対して、導電性シートを下ガイドプレート108に貼り付けることで、摺擦傷を防止しつつ、摺擦を防止するシート材接触部材が帯電することに起因するシート詰まりの発生も防止することができる。
【0035】
下ガイドプレート108のエッジ部と重なるように、導電性フィルムを貼り付けることで、シート材に摺擦傷が付くことを防止できる。
さらに、エッジ部を保護するシート材接触部材が導電性を有することで、帯電したシート材の電位は、シート材接触部材である導電性フィルムを介して、接地された導電性材料の下ガイドプレート108に逃がすことができる。このため、通紙を繰り返すことでシート材接触部材の電位が上昇することに起因してシート材の詰まりが発生すること防止することができる。
【0036】
ここでは、導電性フィルムを貼り付ける下ガイドプレート108が導電性で接地されている構成について説明した。導電性フィルムトが接地された構成であれば、導電性フィルムが貼り付けられた下ガイドプレート108は接地されていなくてもよく、さらには、下ガイドプレート108が導電性でなくてもよい。
【0037】
コロナ処理装置26は、搬送ローラ208等の搬送機構によって所定の方向である搬送方向Yに搬送されるシート材が通過する搬送経路120の上方に設けられた放電電極である印加電極110から、シート材の下面に接触する接地側電極である接地電極112に対してコロナ放電を行うコロナ放電装置である。そして、上述したように、放電部102を通過して帯電したシート材の電荷を逃がすことができる。
【0038】
図3は、
図1中の紙面手前側に引き出した状態の電極ユニット132を手前側上方から見た斜視図である。
図1~
図3に示すように、吊下げブロック107は、その下面に上ガイドプレート109が固定されている。そして、
図3に示すように、二つの印加電極110は、電極保持ブロック207、吊下げブロック107、上ガイドプレート109、絶縁支持材209及びユニット内梁部材111を介して、電極ユニット132の筐体に固定されている。
【0039】
図4は、吊下げブロック107近傍における、二つの印加電極110と、上ガイドプレート109と、吊下げブロック107との拡大上面斜視図である。
図4に示すように、吊下げブロック107は、その長手方向中央部に上下貫通孔107jを備え、長手方向の両端の近傍にそれぞれ水平貫通孔107hを備える。
絶縁支持材209の下端固定部を、上下貫通孔107jを通して上ガイドプレート109の固定部に固定することで、絶縁支持材209に固定された上ガイドプレート109によって吊下げブロック107を保持することができる。
また、二つの印加電極110がそれぞれ固定された二つの電極保持ブロック207の取付け軸を吊下げブロック107の二つの水平貫通孔107hに通して、固定することで吊下げブロック107に対して印加電極110を固定することができる。
【0040】
次に、本実施形態のコロナ処理装置26の特徴部について説明する。
図1乃至
図4に示すように、コロナ処理装置26は、第一上電極である上流側印加電極110aと、この上流側印加電極110aに対してシート材の搬送方向の下流側に配置された第二上電極である下流側印加電極110bとを備える。
また、上流側印加電極110aと下流側印加電極110bとの間に配置され、搬送経路120の上部を形成する電極間上ガイド部材である上ガイドプレート109を備える。
さらに、上ガイドプレート109の上面から上方に突き出し、この上面を上流側印加電極110a側の領域と、下流側印加電極110b側の領域とに仕切る、ガイド上面仕切り部材であるガイド上面壁パーツ101を備える。
【0041】
図11~
図13は、ガイド上面壁パーツ101を備えない第一の比較例(以下、「比較例1」と呼ぶ)のコロナ処理装置26の説明図である。
図11は、比較例1のコロナ処理装置26を模式的に示す断面図である。
図12は、比較例1のコロナ処理装置26が備える電極ユニット132を
図11中の手前側上方から見た斜視図である。
図13は、比較例1のコロナ処理装置26が備える二つの印加電極110と、上ガイドプレート109と、吊下げブロック107との拡大上面斜視図である。
【0042】
図11~
図13に示すように、比較例1は、上ガイドプレート109の上面が、吊下げブロック107との接触部以外は一様な平面である点で、
図1~
図4で示す実施形態と異なる。
本出願人らが、比較例1のコロナ処理装置26を使用し続けたところ、使用環境によっては、樹脂等の絶縁体から形成された上ガイドプレート109の上面に炭化導電路(トラック)と呼ばれる電気の通り道が形成される、トラッキング現象が生じることが分かった。具体的には、
図13中の破線の楕円で囲った吊下げブロック107の側面の下端と上ガイドプレート109の上面とが接触する直線上の角部に、何等かの物質が炭化した炭化導電路が形成されることがあった。
【0043】
トラッキング現象は、次のように生じる。電位差のある電極間に空気中を浮遊していたホコリが堆積し、空気中の水分を取り込むと、微弱な電流が流れ得る状態となる。この微弱な電流が流れ得る部分は、電流が流れるとジュール熱が発生する抵抗体であり、このジュール熱によって樹脂やホコリが炭化し、この炭化した部分は吸湿性が上がる。この炭化した部分に空気中の水分(湿気)がさらに取り込まれることで、絶縁となるはずの電極間に電流の通り道となる炭化導電路が形成される。
【0044】
図14は、比較例1の上ガイドプレート109の上面にホコリと水分を含む堆積物Tが形成された状態を示す上ガイドプレート109近傍の拡大説明図である。
上ガイドプレート109の上面は、搬送経路120から上方に向かう気流が発生し、搬送経路120を通過するシート材からの紙粉等のホコリが舞い上がって来易く、形状的に空気が渦巻くためホコリが溜まり易い。
そして、比較例1のように、上ガイドプレート109の上面が、吊下げブロック107との接触部以外が一様な平面であって、上ガイドプレート109の上面の定期的な清掃を怠ると、
図14に示すように、上ガイドプレート109の上面の搬送方向上流端から搬送方向下流端に渡って連続的な堆積物Tが形成されることがある。特に、吊下げブロック107の側面と上ガイドプレート109の上面との境目の角部は、ホコリが溜まり易く、搬送方向に沿った直線上の堆積物Tが形成されやすい。
【0045】
図14に示すように、二つの印加電極110(110a、110b)は、堆積物Tに接触していないため、電流が流れる経路は形成されないようにも見える。しかし、搬送経路120を挟んで離間して配置された接地電極112(112a、112b)との間で放電が生じるほどの高電圧が印加されている。このため、印加電極110と堆積物Tとの間は、
図14中の破線矢印で示す空気中での放電によって、通電すると考えられる。そして、二つの印加電極110が堆積物Tを介して通電可能な状態となることで、上述した炭化導電路が形成されるトラッキング現象が生じる。
【0046】
上ガイドプレート109の上面に炭化導電路が形成されると、二つの印加電極110の間で電流が流れ、印加電極110と接地電極112との間の電位差が下がり、放電部102での放電の強度が低下し、放電処理の品質が低下する恐れがある。さらに、炭化導電路を形成する炭化したホコリや樹脂が上ガイドプレート109から落下すると、装置内汚染やシート材の汚れの原因となる。
さらに、炭化導電路が形成された状態で放置し続けると、ジュール熱によって炭化導電路近傍の部材が発火し、装置を損傷するおそれがある。
【0047】
これに対して、本実施形態は、上ガイドプレート109の上面にガイド上面壁パーツ101を備える。ガイド上面壁パーツ101は、樹脂等の絶縁体から形成されている。
図5は、実施形態の上ガイドプレート109の上面にホコリと水分を含む堆積物Tが形成された状態を示す上ガイドプレート109近傍の拡大説明図である。
図5に示すように、実施形態の上ガイドプレート109の上面は、ガイド上面壁パーツ101によって、上流側印加電極110a側の領域と、下流側印加電極110b側の領域とに仕切られている。これにより、上ガイドプレート109の上面の定期的な清掃を怠ったとしても、上ガイドプレート109の上面の搬送方向上流端から搬送方向下流端に渡って連続的な堆積物Tが形成されることを防止できる。
【0048】
特に、ガイド上面壁パーツ101の二つの壁側面101f(101fa、101fb)は、鉛直方向に延在する壁面状の平面である。このため、壁側面101fにはホコリ等は堆積できず、上ガイドプレート109の上面やガイド上面壁パーツ101の上面に堆積物Tが形成されたとしても、壁側面101fの部分で堆積物Tが途絶える。これにより、上ガイドプレート109の上面の搬送方向上流端から搬送方向下流端に渡って連続的な堆積物Tが形成されることをより確実に防止できる。なお、二つの壁側面101fのうちの一方が傾斜面であっても、他方を垂直な壁面にすることで、連続的な堆積物Tの形成を防止できる。
【0049】
このように、連続的な堆積物Tの形成を防止することで、二つの印加電極110が堆積物Tを介して通電可能な状態となることを防止し、上述したトラッキング現象の発生をより確実に防止することができる。
【0050】
なお、比較例1のような構成であっても、上ガイドプレート109の上面の清掃を適切に行うことで、トラッキング現象の発生を防止できる。しかし、本実施形態のように、ガイド上面壁パーツ101を備える構成であれば、上ガイドプレート109の上面の清掃の頻度を減らしても、トラッキング現象の発生を防止できるため、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0051】
上ガイドプレート109は、二つの印加電極110の間における搬送経路120の天井面を形成しており、二つの印加電極110の間で、シート材が搬送経路120とは異なる隙間に進入することを防止している。
シート材の搬送方向に沿う方向における印加電極110と上ガイドプレート109との距離を離すことで、上述したトラッキング現象の発生を抑制することができる。しかし、シート材が搬送経路120とは異なる隙間に進入することを防止するためには、印加電極110と上ガイドプレート109との距離を狭めることが望ましい。そして、本実施形態では、ガイド上面壁パーツ101を備えることで、印加電極110と上ガイドプレート109との距離を狭めて、シート材が搬送経路120とは異なる隙間に進入することを防止しつつ、トラッキング現象の発生も防止する構成を実現できる。
【0052】
図6は、印加電極110に交流電圧を印加する電気回路の説明図である。
図6(a)は、本実施形態の電気回路図であり、
図6(b)及び(c)は、参考例の電気回路図である。
交流電源200から供給される交流電力は、変圧手段であるトランス250によって変圧され、上流側印加電極110aと下流側印加電極110bとに交流電圧を印加する。
【0053】
図6中のトランス250を構成する各コイルの一端側に付された黒丸は極性が一致する部分を示している。
図6(a)のトランス250を構成する交流電源200側のコイルを挟んで黒丸が付された側がマイナス極性のときには、トランス250を構成する印加電極110側のコイルを挟んで黒丸が付された側がマイナス極性となる。このとき、
図6(a)中の下流側印加電極110bがマイナス電位(例えば、「-Vb」)となり、上流側印加電極110aはプラス電位(例えば、「+Va」)となる。そして、
図6(a)のトランス250を構成する交流電源200側のコイルを挟んで黒丸が付された側がプラス極性のときには、トランス250を構成する印加電極110側のコイルを挟んで黒丸が付された側もプラス極性となり、下流側印加電極110bがプラス電位(例えば、「+Vb」)となり、上流側印加電極110aはマイナス電位(例えば、「-Va」)となる。印加電極110がマイナス電位のときに放電が生じるため、
図6(a)中の交流電源200の上側がプラス極性のときには、上流側放電部102aで放電が生じ、
図6(a)中の交流電源200の上側がマイナス極性のときには、下流側放電部102bで放電が生じる。
【0054】
一方、
図6(b)に示す参考例の電気回路の構成では、
図6(b)中の交流電源200の上側がマイナス極性のときにのみ、放電部102で放電が生じる。
また、
図6(c)に示す参考例の電気回路の構成では、
図6(c)中の交流電源200の上側がマイナス極性のときにのみ、上流側放電部102a及び下流側放電部102bで放電が生じる。
【0055】
図6(b)及び(c)に示す参考例の電気回路では、交流電源200から交流電力が供給されることによってトランス250から正負の電圧が出力されるが、
図6(b)及び(c)中の交流電源200の上側がマイナス極性となる期間しか放電ができない。
これに対して、
図6(a)に示す本実施形態の電気回路では、
図6(a)中の交流電源200の上側がプラス極性となる期間とマイナス極性となる期間とのそれぞれの期間を、上流側放電部102aと下流側放電部102bとでそれぞれ放電するため、消費電力に対する放電効率は損失を無視した計算上は2倍となる。
【0056】
本実施形態では、上流側印加電極110aと下流側印加電極110bとは、接続された交流電源200によって印加電圧がプラスとマイナスとで同じ周波数で変化するが、上流側印加電極110aと下流側印加電極110bとで逆位相の交流電圧を印加している。具体的には、上流側印加電極110aに「+Va」の電圧が印加されるタイミングでは、下流側印加電極110bに「-Vb」の電圧が印加され、上流側印加電極110aに「-Va」の電圧が印加されるタイミングでは、下流側印加電極110bに「+Vb」の電圧が印加される構成となっている。
このため、上流側印加電極110aと下流側印加電極110bとの電位差は「|Va|+|Vb|」となり、上流側印加電極110aと接地電極112との電位差(|Va|)や下流側印加電極110bと接地電極112との電位差(|Vb|)よりも電位差が大きくなっている。このように二つの印加電極110の電位差が大きくなる条件は、比較例1のように、上ガイドプレート109の上面に連続的な堆積物Tが形成され得る構成では、トラッキング現象が発生する可能性を高める。しかし、本実施形態のように、ガイド上面壁パーツ101を備え、連続した堆積物Tが形成されない構成であれば、二つの印加電極110の電位差が大きくなる条件であっても、トラッキング現象の発生を防止できる。
【0057】
本実施形態のコロナ処理装置26は、上ハウジング130を上下方向に移動させることで、接地電極112に対する印加電極110の距離を変更する不図示の印加電極昇降機構を備える。
接地電極112と印加電極110との距離を変更可能とすることで、搬送するシート材の厚さに応じて、接地電極112と印加電極110との距離を変更し、シート材の厚さが変化しても適切な放電処理を行うことができる。
ここで、接地電極112と印加電極110との距離が離れると、接地電極112と印加電極110との間での放電開始電圧が高くなる。このとき、上ガイドプレート109の上面に連続した堆積物Tが形成されていると、より電位差が大きい印加電極110同士の間の堆積物Tに電荷が掛かり易くなり、その結果、微弱電流が流れてトラッキング現象が発生し易くなる。
これに対して、本実施形態では、ガイド上面壁パーツ101を備え、連続した堆積物Tが形成されない構成であるため、接地電極112と印加電極110との距離が離れた状態であっても、トラッキング現象の発生を防止できる。
【0058】
〔変形例〕
次に、電極保持ブロック207を備えない変形例のコロナ処理装置26について説明する。
図7は、変形例のコロナ処理装置26が備える電極ユニット132を手前側上方から見た斜視図であり、
図8は、変形例のコロナ処理装置26が備える二つの印加電極110と、上ガイドプレート109と、吊下げブロック107との拡大上面斜視図である。変形例のコロナ処理装置26は、電極保持ブロック207と電極保持ブロック207を取り付ける構成と以外は上述した実施形態のコロナ処理装置26と共通するため、共通する構成について説明を適宜省略する。また、
図7に示すように変形例の絶縁支持材209は、表面に凹凸のない柱状の部材となっている。
【0059】
上述した実施形態のコロナ処理装置26のように、電極保持ブロック207を介して、印加電極110を吊下げブロック107で保持する構成では、印加電極110が幅方向に長い場合に印加電極110が撓むことを抑制し、印加電極110の幅方向の中央部と端部とで接地電極112との距離にバラつきが生じることを防止できる。一方、印加電極110が幅方向に短い場合や印加電極110の剛性が高い場合等、印加電極110の撓みの問題が生じない場合は、変形例のように、電極保持ブロック207を備えない構成としてもよい。
図7及び
図8に示すように、変形例の電極ユニット132の吊下げブロック107は、用紙搬送方向(
図7中の左右方向)において印加電極110の上方まで延在しておらず、上ガイドプレート109の上面に接触し、上ガイドプレート109の上面の用紙搬送方向の全域に延在する形状となっている。上ガイドプレート109を支持する構成として、吊下げブロック107を配置せずに、用紙搬送方向の中央部を絶縁支持材209に支持する構成や絶縁支持材209の幅方向の両端部のみを支持する構成が考えられる。しかし、これらの構成では、板状の上ガイドプレート109にねじれが生じる恐れがある。これに対して、上ガイドプレート109の上面の用紙搬送方向の全域に延在して接触する吊下げブロック107を備えることで、上ガイドプレート109のねじれを抑制することができる。
【0060】
図15及び
図16は、変形例に対して、ガイド上面壁パーツ101を備えない第二の比較例(以下、「比較例2」と呼ぶ)のコロナ処理装置26に係る説明図である。
図15は、比較例2のコロナ処理装置26の電極ユニット132手前側上方から見た斜視図であり、
図16は、比較例2のコロナ処理装置26が備える二つの印加電極110と、上ガイドプレート109と、吊下げブロック107との拡大上面斜視図である。比較例2も比較例1と同様の理由により、
図16中の破線の楕円で囲った吊下げブロック107の側面の下端と上ガイドプレート109の上面とが接触する直線上の角部に、何等かの物質が炭化した炭化導電路が形成されるトラッキング現象が生じるおそれがある。
これに対して、変形例は、上ガイドプレート109の上面に、絶縁体からなるガイド上面壁パーツ101を備える。これにより、上ガイドプレート109の上面の搬送方向上流端から搬送方向下流端に渡って連続的な堆積物が形成されることを防止できる。
【0061】
図15及び
図16に示す比較例2では、上ガイドプレート109の上面の用紙搬送方向の全域に延在して接触する吊下げブロック107の側面に沿って堆積物が形成され易いが、このような吊下げブロック107やさらには絶縁支持材209を備えない構成であっても、上ガイドプレート109の上面に堆積物が溜まることで、トラッキング現象が生じる恐れがある。これに対して、
図7及び
図8に示す変形例のように、ガイド上面壁パーツ101を備える構成であれば、トラッキング現象の発生を防止することができる。
【0062】
次に、上述した本実施形態に係る放電処理装置であるコロナ処理装置26を適用可能な加飾印刷システムについて説明する。
図9及び
図10は、本実施形態に係る放電処理装置であるコロナ処理装置26を適用した加飾印刷システム10を模式的に示す図である。
図9は側面図であり、
図10は平面図である。加飾印刷システム10は、シート材を搬送しながらシート材に所定の加飾印刷を施す装置である。シート材の素材は、紙、布、樹脂、金属などさまざまである。以降、シート材が搬送される方向(
図9及び
図10において右から左に向かう方向)を搬送方向Y、搬送方向Yと直交する方向(
図9において紙面に直交する方向であって
図10の上下方向)を幅方向Xと呼ぶ。
【0063】
加飾印刷システム10は、給紙装置12と、ニス塗布装置14と、箔押し装置16と、スタッカ18と、制御装置20と、を備える。給紙装置12は、シート材を一枚ずつ給紙し、ニス塗布装置14は、一枚ずつ給紙されるシート材にニスを塗布する。箔押し装置16は、シート材上に塗布したニスのタック性を利用してシート材に箔を転写し、スタッカ18は、シート材を蓄積する。さらに、制御装置20は、加飾印刷システム10を統合的に制御する。給紙装置12、ニス塗布装置14、箔押し装置16、スタッカ18は、搬送方向Yに上流側(
図9及び
図10では右側)からこの順に一列に並ぶ。制御装置20は、給紙装置12、ニス塗布装置14、箔押し装置16及びスタッカ18とネットワーク2を介して接続される。
【0064】
図9及び
図10に示すように、給紙装置12は、フィーダ22と、コロナ処理装置26と、レジスト部24と、を備える。フィーダ22は、給紙テーブル28と、吸着ヘッド30と、を含む。昇降可能に構成された給紙テーブル28にはシート材が積載される。吸着ヘッド30は、給紙テーブル28に積載されたシート材を上から順に一枚ずつ送り出す。
【0065】
コロナ処理装置26は、フィーダ22が送り出したシート材に対して、コロナ放電によりその表面の改質を行う。このコロナ処理装置26として、
図1乃至
図5を用いて説明した実施形態に係るコロナ処理装置26を用いる。
【0066】
レジスト部24は、
図10中の矢印「α」で示すように、搬送方向に対して傾斜した搬送力をシート材に付与することで、シート材の幅方向の一方の端面(搬送方向に対して右側の端面)をレジスト基準ガイド32に突き当てながら搬送する。これにより、フィーダ22が送り出したシート材の幅方向Xの位置を揃える。
【0067】
ニス塗布装置14は、シート材センサ42と、一対のCCDセンサ44と、少なくとも一つのニス吐出部46と、半硬化用紫外線ランプ48と、本硬化用紫外線ランプ50と、を含む。シート材センサ42、一対のCCDセンサ44、ニス吐出部46、半硬化用紫外線ランプ48、本硬化用紫外線ランプ50は、この順に上流側から並ぶように配置される。図示の例では、ニス塗布装置14は三つのニス吐出部46を含んでいるが、これには限定されず、ニス塗布装置14は幅方向Xの全域にわたって延在する一つのニス吐出部46を含んでもよいし、二つまたは四つ以上のニス吐出部46を含んでもよい。半硬化用紫外線ランプ48及び本硬化用紫外線ランプ50には紫外線を照射するLEDを用いるが、紫外線を照射するものであれば、電球や蛍光灯などの他の光源であってもよい。光源は出力調整可能なものが望ましい。
【0068】
シート材センサ42は、給紙装置12から給紙され、レジスト部24から搬出されたシート材を検出する。
【0069】
ニス吐出部46は、特に限定しないが図示の例ではライン型のインクジェットヘッドである。ニス吐出部46は、シート材センサ42によるシート材の先端エッジの検出をトリガとして、ニス吐出データに従って紫外線硬化性ニスを吐出し、シート材に紫外線硬化性ニスを塗布する。ニス吐出データは、シート材のどこにニスを塗布するのかを示すデータである。
【0070】
給紙装置12が給紙するシート材には、予め、下地画像と、下地画像の位置を特定する基準となる複数のレジストレーションマークと、が印刷されていてもよい。ニス塗布装置14は、シート材におけるニスの塗布部分を規定するニス吐出データに従って、下地画像と所定の関係を有するようにニスを塗布するものであり、例えば下地画像に重なるように、ニスを塗布してもよい。
【0071】
ここで、シート材の下地画像がずれていたり歪んでいたりすることもあり得る。したがって、下地画像と所定の関係を有するようにニスを塗布する場合は、ずれや歪みを考慮してニス吐出データを補正しておく必要がある。例えば、CCDセンサ44が、シート材センサ42によるシート材の検出をトリガとしてシート材を撮像し、制御装置20がCCDセンサ44による撮像データを画像解析し、複数のレジストレーションマークの理論位置との相違により、レジストレーションマークに囲まれた領域のニス吐出データを補正してもよい。なお、当該補正には、本出願人が先に出願した特開2016-083898号公報に記載の方法を適用できる。
【0072】
半硬化用紫外線ランプ48は、シート材上のニスに出力の比較的弱い紫外線を照射し、ニスを半硬化させる。半硬化は、ニスの流動性を低下させつつも完全には硬化させない程度に軽く(例えばさらに硬化させることができる状態に)硬化させることをいう。ニスの少なくとも表面を半硬化することにより、ニスのタック性を維持しつつも、ニスがシート材上を流れるのを防止してニスのシート材上での位置を安定させることができる。半硬化状態のニスは、箔押し装置16において本硬化される。シート材に箔押ししない場合は、通常、半硬化用紫外線ランプ48をオフにするが、箔押ししない場合に半硬化用紫外線ランプ48を使用してもよい。例えば、シート材上に塗布したニスが滲みやすい場合、半硬化用紫外線ランプ48をオンにしてニスの少なくとも表面を半硬化させる。これにより、ニスの滲みを抑えることができる。
【0073】
本硬化用紫外線ランプ50は、シート材に塗布されたニスに紫外線を照射し、ニスを本硬化させる。シート材に箔押しする場合は、本硬化用紫外線ランプ50をオフにする。
【0074】
つまり、シート材に箔押しする場合は、半硬化用紫外線ランプ48によってニスを半硬化させ、箔押し装置16の箔押し用紫外線ランプ66によって半硬化状態のニスを本硬化させる。この場合、本硬化用紫外線ランプ50はオフにする。シート材に箔押ししない、すなわちシート材にニスを塗布するだけの場合は、本硬化用紫外線ランプ50でニスを本硬化させる。この場合、半硬化用紫外線ランプ48及び箔押し装置16の箔押し用紫外線ランプ66はオフにする。ただし、上述したように、半硬化用紫外線ランプ48は、箔押ししない場合でもオンにすることがある。また、箔押し用紫外線ランプ66の光源には紫外線を照射するLEDを用いるが、紫外線を照射するものであれば他の光源でもよい。
【0075】
箔押し装置16は、ウェブ52をロール・ツー・ロールで搬送する。ウェブ52は、フィルムに箔(例えば金属箔)が保持された箔保持フィルムである。箔押し装置16では、ウェブ52とシート材とを搬送しながら接触させる。シート材上の半硬化状態のニスには、そのタック性により、ウェブ52が保持する箔が接着する。この状態、すなわち箔がウェブ52に保持されつつも半硬化状態のニスに接着した状態で、箔押し用紫外線ランプ66が当該ニスに紫外線を照射し、ニスを本硬化させる。ニスが本硬化すると、ウェブ52が箔を保持する力よりも本硬化したニスが箔を接着する力の方が強い状態となる。この状態で、シート材を搬送してシート材とウェブ52とを分離させると、ウェブ52に保持されていた箔は、シート材上のニスが塗布された部分に転写される。
スタッカ18は、箔押し装置16から搬出されたシート材を蓄積する。
【0076】
制御装置20は、例えばPCなどの情報処理端末である。制御装置20は、加飾印刷ジョブの定義についての入力を受け付ける。制御装置20は、所定のジョブ管理画面を表示し、当該ジョブ管理画面を介して、ジョブの定義についての入力を受け付けてもよい。ジョブの定義には、例えば、加飾印刷を施すシート材の枚数(加飾印刷部数)、加飾印刷を施すシート材のシート材サイズ、ニス吐出データ、コロナ処理の有無、箔押しの有無、及びピニングの強度(半硬化の硬化度合い)の調節等、が含まれる。制御装置20は、ジョブの定義に基づいて、給紙装置12、ニス塗布装置14及び箔押し装置16を制御する。
【0077】
以上が加飾印刷システム10の基本構成である。
【0078】
加飾印刷システム10の他の構成例としては、給紙装置12に代えて、シート材に下地画像とレジストレーションマークとを印刷するプリンタを備え、プリンタから一枚ずつシート材を給紙してもよい。
【0079】
また、加飾印刷システム10は、箔押し装置16とスタッカ18との間に、シート材を切断したり綴じたりする後処理装置を備えてもよい。
【0080】
以上、本発明について、実施の形態に基づいて説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな構成例が可能なこと、またそうした構成例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0081】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
【0082】
〔態様1〕
シート材の搬送経路(搬送経路120等)の上方に配置され、互いに電位差が生じる少なくとも一対の印加電極110等の上電極と、搬送経路の下方で上電極に対向して配置された接地電極112等の下電極と、を備え、上電極と下電極との間で放電を発生させ、シート材に対して放電処理を行うコロナ処理装置26等の放電処理装置において、上電極のうちの上流側印加電極110a等の第一上電極と、第一上電極に対してシート材の搬送方向の下流側に配置された下流側印加電極110b等の第二上電極との間に配置され、搬送経路の上部を形成する上ガイドプレート109等の電極間上ガイド部材を備え、電極間上ガイド部材の上面から上方に突き出し、上面を第一上電極の側の領域と第二上電極の側の領域とに仕切る絶縁性のガイド上面壁パーツ101等のガイド上面仕切り部材を備えることを特徴とするものである。
これによれば、ガイド上面仕切り部材の上面に連続した堆積物が形成されることを防止でき、メンテナンス性の向上を図りつつ、トラッキング現象の発生を防止することができる。
実施形態の上ガイドプレート109の上面は平面状となっているが、電極間上ガイド部材としては上面が平面のものに限らず、堆積物が形成され得る形状の部材であれば、本発明に係るガイド上面仕切り部材を適用可能である。
【0083】
〔態様2〕
態様1に係る放電処理装置において、ガイド上面仕切り部材における第一上電極の側の面(101fa)と、第二上電極の側の面(101fb)との少なくとも一方の面は鉛直方向に延在する平面であることを特徴とするものである。
これによれば、電極間上ガイド部材やガイド上面仕切り部材の上面に堆積物が形成されても、鉛直方向に延在する平面には、堆積物が形成されず、連続した堆積物が形成されることをより確実に防止できる。
【0084】
〔態様3〕
態様1または2の何れかに係る放電処理装置において、交流電源200等の交流電源から供給される交流電力の電圧を変圧して上電極に交流電圧を印加するトランス250等の交流電圧印加手段を備え、交流電圧印加手段から印加される交流電圧の位相が、第一上電極と第二上電極とで逆位相となることを特徴とする。
これによれば、交流電圧印加手段での変圧の効率化を図ることができ、放電処理におけるエネルギー効率の向上を図ることができる。ここで、交流電圧の位相が、第一上電極と第二上電極とで逆位相であると、エネルギー効率の向上は図れるが、第一上電極と第二上電極との間での電位差が大きくなり、ガイド上面仕切り部材の上面でのトラッキング現象が生じ易くなる。しかし、ガイド上面仕切り部材を備えることで、トラッキング現象の発生を防止しつつ、放電処理におけるエネルギー効率の向上を図ることができる。
【0085】
〔態様4〕
態様1乃至3の何れかに係る放電処理装置において、上電極と下電極との距離は変更可能であることを特徴とするものである。
これによれば、シート材の厚さに応じて距離を変化させて、シート材の厚さに応じた適切な放電処理を行いつつ、距離が離れた状態であっても、トラッキング現象の発生を防止することができる。
【0086】
〔態様5〕
シート材等の枚葉シート材に放電処理を施すコロナ処理装置26等の放電処理手段と、放電処理手段に枚葉シート材を供給するフィーダ22等のシート材供給手段と、を備える加飾印刷システム10等のシート材処理システムにおいて、放電処理手段として、態様1乃至4の何れかの態様に係る放電処理装置を備えることを特徴とするものである。
これによれば、放電処理装置で、メンテナンス性の向上を図りつつ、トラッキング現象の発生を防止できるため、安定したシート材処理を行うことができる。
【0087】
〔態様6〕
態様5に係るシート材処理システムにおいて、放電処理手段から排出された枚葉シート材にニス等のエネルギー硬化性インクまたはエネルギー硬化性接着剤を塗布するニス塗布装置14等の塗布手段を備えることを特徴とするものである。
これによれば、放電手段によってシート材の濡れ性を向上することで、塗布手段でのニス塗布の品質を向上しつつ、放電処理手段でのトラッキング現象の発生を防止できる。
【符号の説明】
【0088】
10 :加飾印刷システム
26 :コロナ処理装置
101 :ガイド上面壁パーツ
102 :放電部
108 :下ガイドプレート
109 :上ガイドプレート
110 :印加電極
110a:上流側印加電極
110b:下流側印加電極
112 :接地電極
112a:上流側接地電極
112b:下流側接地電極
120 :搬送経路
132 :電極ユニット
208 :搬送ローラ
1101:芯材部
1102:表層部